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事件 平成 24年 (行ケ) 10177号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年2月27日判決言渡

平成24年(行ケ)第10177号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年12月25日

判 決

原 告 アクゾノーベル株式会社

訴訟代理人弁理士 松 井 光 夫

同 村 上 博 司
同 加 藤 由 加 里

被 告 昭和電工株式会社

訴訟代理人弁護士 尾 崎 英 男

同 日 野 英 一 郎

同 江 黒 早 耶 香

主 文
1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が無効2011−800147号事件について平成24年4月12日にし

た審決を取り消す。
第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯等

被告は,発明の名称を「洗浄剤組成物」とする特許発明に係る特許権(特許第4

114820号。出願日 平成8年7月24日。登録日 平成20年4月25日。

優先権主張 平成7年12月11日,日本国。請求項の数2。以下「本件特許」と

いう。)を有している(甲17)。
本件特許については,本件に先立つ平成21年7月13日付けで,原告とは異な


1
る第三者(ただし,代理人は本件原告の訴訟代理人と同じである。)から,本件特

許の優先日前に頒布された刊行物である特開昭50−3979号公報(甲2。以下
「甲2文献」という。)を主引用例として,進歩性欠如を理由とする無効審判が請

求され(無効2009−800152号事件),被告は,同年10月5日付けで訂

正請求をし(甲18),特許庁は,平成22年3月2日,訂正を認めた上で,本件

特許を無効とする旨の審決をした。同審決につき,知的財産高等裁判所に審決取消

訴訟が提起され(平成22年(行ケ)第10104号事件),同年11月10日,
甲2文献記載の金属イオン封鎖剤組成物にグリコール酸ナトリウムを含んだまま水

酸化ナトリウムを加えることには阻害要因があるとして,審決取消しの判決がされ

た(甲32)。特許庁は,平成23年1月31日,「訂正を認める。本件審決の請

求は,成り立たない。」との審決をした。

その後,原告が,平成23年8月25日,本件特許につき無効審判を請求し(無

効2011−800147号事件),平成24年4月12日,請求不成立の審決が
され,その謄本は,同月20日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲の記載

平成21年10月5日付け訂正後の,本件特許に係る明細書(以下「本件明細

書」という。)の特許請求の範囲は,以下のとおりである(以下,請求項1に係る

発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」という。)(甲17,

18)。
「【請求項1】水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグル

タミン酸二酢酸塩類,及びグリコール酸ナトリウムを含有し,水酸化ナトリウムの

配合量が組成物の0.1〜40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。

【請求項2】水酸化ナトリウムを5〜30重量%,アスパラギン酸二酢酸塩類及

び/またはグルタミン酸二酢酸塩類を1〜20重量%,グリコール酸ナトリウムを

アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して
0.1〜0.3重量部含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。」


2
3 審決の理由の概要

審決の理由は,別紙審決書写に記載のとおりであり,そのうち,原告主張の取消
事由に係る部分の要旨は,以下のとおりである。

(1) 審決が認定 した引用発明の内容,本件発明1と引用発明との一致点及び相

違点は,以下のとおりである。

ア 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である英国特許第1439518号

公報(甲1の1。以下「甲1文献」という。)に記載された発明の内容
「モノクロル酢酸の溶液と苛性ソーダの溶液をグルタミン酸モノナトリウム塩の

水溶液に同時に添加することにより得られ,ここで(a)該アルカリは反応媒体の

pHが9.2〜9.5に維持される量で使用され;(b)反応は70〜75℃の範

囲の温度で行われ,かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.6モルのモノクロ

ル酢酸が使用される,反応によって得られた,N,N−ジカルボキシメチル−2−

アミノペンタン二酸のトリナトリウム塩60重量%を含み,さらに,該反応の二次
的反応によって生成した不純物であるグリコール酸ナトリウム12重量%及び全体

が100重量%となる量の塩化ナトリウムを含む,無毒性,非汚染性かつ生物学的

易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」(以下「引用発明1b」という。)

イ 本件発明1と引用発明1bとの一致点

「グルタミン酸二酢酸塩類及びグリコール酸ナトリウムを含有する組成物」であ

る点
ウ 本件発明1と引用発明1bとの相違点

(ア) 相違点1’

本 件発明1は「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタ ミン酸二酢酸塩

類」と選択的に規定するのに対し,引用発明1bは「グルタミン酸二酢酸塩類」に

ついてそのように選択的に規定していない点

(イ) 相違点2’
本件発明1は「洗浄剤組成物」を規定するのに対し,引用発明1bは「金属イオ


3
ン封鎖剤組成物」を規定する点

(ウ) 相違点3’
本件発明1は「水酸化ナトリウム」を含有し,その「配合量」は「組成物の0.

1〜40重量%」と規定するのに対し,引用発明1bは水酸化ナトリウムの含有を

規定していない点

(エ) 相違点4’

本件発明1は「グリコール酸ナトリウム」の含有の位置づけを規定していないの
に対し,引用発明1bは「グリコール酸ナトリウム」を「二次的反応によって生成

した不純物」として含有するものと規定する点

エ 甲2文献に記載された発明の内容

「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒

体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメ

チル基を結合させて得られる,グルタミン酸二酢酸ナトリウム塩60重量%を含み,
さらに,該反応の二次的反応によって生成した副生物であるグリコール酸ナトリウ

ム12重量%及び全体が100重量%となる量の塩を含む,無毒性,非汚染性かつ

生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物」(以下「引用発明2b」という。)

オ 本件発明1と引用発明2bとの一致点及び相違点5’ないし相違点8’は本

件発明1と引用発明1bの一致点及び相違点1’ないし相違点4’と同じ(ただし,

相違点8’は相違点4’の「不純物」を「副生物」としたものである。)。
(2) 無効理由1(甲1文献を主引用例としたもの)について

本件発明1の容易想到性について


本件発明1の相違点4’に係る構成は,引用発明1b及び甲2文献等に基づいて,

当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

仮に,本件発明1の相違点4’が実質的な相違ではないという前提に立ったとし

ても,本件発明1の効果は,甲1文献,甲2文献等の記載より予測できる範囲を超
えたものである。したがって,本件発明1は,引用発明1b,甲2文献等から,当


4
業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2の容易想到性について
本件発明2は,本件発明1の洗浄剤組成物において,その成分の含有量をさらに

規定するものであり,本件発明1を前提とするものであるから,引用発明1b及び

甲2文献等に基づき,当業者が容易に発明することができたものであるとはいえな

い。

(3) 無効理由2(甲2文献を主引用例としたもの)について
本件発明1の容易想到性について


本件発明1の相違点8’に係る構成は,引用発明2b及び甲1文献等に基づいて,

当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

仮に,本件発明1の相違点8’が実質的な相違でないという前提に立ったとして

も,本件発明1の効果は,甲1文献,甲2文献等の記載より予測できる範囲を超え

たものである。したがって,本件発明1は,引用発明2b,甲1文献等から,当業
者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2の容易想到性について

本件発明2も,引用発明2b及び甲1文献等に基づき,当業者が容易に発明する

ことができたものであるとはいえない。

取消事由に関する当事者の主張
第3

1 原告の主張
審決の本件発明1及び2の容易想到性の判断には誤りがある。その理由は,以下

のとおりである。

(1) 無効理由1に係る本件発明1の相違点 4’の容易想到性判断の誤り(取消

事由1)

審決は,相違点4’の容易想到性につき,「何らの記載も示唆もない状態で,二

次的反応によって生成した不純物として含有されている成分を,洗浄性能を発揮す
るための主成分の一つとして含有するものとすることは,当業者にとって考えがた


5
いことである。」と判断した。しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。

甲1文献には金属イオン封鎖剤組成物(OS1)に関する発明が記載されており,
OS 1 は,グルタ ミ ン酸二酢酸塩 6 0 重量% 及びグリコール酸ナトリウム12 重

量%を含有する金属イオン封鎖剤組成物である。このように,OS1はもともとグ

リコール酸ナトリウムを本件発明1と同様に含有する。

甲1文献には,反応で得た反応混合物を精製することなく「直接に使用すること

が可能である」と記載された上で,「精製してもよく」と記載されている。そして,
実施例3ないし6では,精製していないOS1をそのまま使用している。

本件明細書の段落【0008】及び実施例1ないし4には,精製なしに反応混合

物をそのまま洗浄剤に使用することが記載されており,これは,甲1文献の実施

2で,グリコール酸ナトリウムの生成量を調整してOS1Lを得,それを乾燥して

OS1を得たことと何ら変わりがない。

OS1 は本件特許出願の20年前から知られていたのであり,甲1文献に OS1
中のグリコール酸ナトリウムの効果が記載されていなくとも,本件発明1における

OS1の使用形態,用途は甲1文献におけるものと同じである。なお,本件発明1

と引用発明1bとが,水酸化ナトリウムの点で相違しているとしても,第3級アミ

ン誘導体(本件発明におけるアスパラギン酸二酢酸塩類及びグルタミン酸二酢酸塩

類はその下位概念に属するものである。)を洗浄剤組成物に使用する際に,アルカ

リ剤として水酸化ナトリウムを本件発明1で規定の量で含有させることは,周知で

あるといえる。

さらに,本件発明1では,グリコール酸ナトリウムの位置づけを規定していない

のであるから,引用発明1bを包含しているというべきである。

以上のとおり,相違点4’が容易想到ではないとした審決の判断には誤りがあり,

相違点4’の構成は,容易想到であったというべきである。

(2) 無 効理由1に係る本件発明1の 容易想到 性判 断 の 誤 り−−− 格別 の効 果
(取消事由2)


6
審決は,「グリコール酸ナトリウムを洗浄剤組成物に含有させることによる本件

発明1における洗浄性向上の効果が予測可能であったということはできない。そう
すると,本件発明1の効果は,甲1ないし甲6の記載より予測できる範囲を超えた

ものであって,格別のものである。」として,本件発明1が容易想到ではないと判

断した。しかし,審決の判断には,以下のとおり,誤りがある。

一つの公知文献に記載されている一つの組成物が,構成要件Xと構成要件Yを同

時に含有している場合に,構成要件Xと構成要件Yを組み合わせることによる効果
の予測性から容易想到性の有無を推定するという判断方法は誤りである。上記組成

物は,構成要件Xと構成要件Yの両者を含んでいるのであるから,その組合せによ

る効果は,上記組成物が既に発揮できるものである。

本件では,グルタ ミ ン酸二酢酸塩 60 重量% とグリコール酸ナトリウム12重

量%とを含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1を含む洗浄剤組成物は既に知られ

ており,グルタミン酸二酢酸塩にグリコール酸ナトリウムを組み合わせると洗浄効
果が上がることを後に確認しても,構成上の差異がないばかりでなく,その効果は,

公知の洗浄剤組成物において既に内在されているのであり,効果の点から本件発明

1の進歩性を認めるのは,誤りである。

(3) 無効理由1に係る本件発明2の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)

前記のとおり,本件発明1は容易想到であるから,本件発明2についても容易想

到であるというべきであり,審決の判断は誤りである。

(4) 無効理由2に係る本件発明1及び2の 容易想到性の判断 の誤り(取消事由

4)

甲2文献には,甲1文献に開示されているグルタミン酸二酢酸塩のみでなく,ア

スパラギン酸二酢酸塩も開示されている。したがって,甲1文献を主引用例とした

場合(無効理由1)と同様に,甲2文献を主引用例とした場合(無効理由2)も,

本件発明1及び2は,いずれも容易想到である。
2 被告の反論


7
(1) 無効理由1に係る本件発明1の相違点 4’の容易想到性判断の誤り(取消

事由1)に対して
ア 本件発明1の洗浄剤組成物は,主成分を水酸化ナトリウム,アスパラギン酸

二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムと

することを特徴とする。本件発明1の洗浄剤組成物は,アスパラギン酸二酢酸塩類

及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類にグリコール酸ナトリウムを添加することによ

り,その洗浄能力を,従来技術であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩類を
主成分とする洗浄剤と同等とし,同時に,生分解性に優れるという,顕著な作用効

果を持つ。

当業者はグリコール酸を通常,酸洗浄剤と考え,特別な意図がない限り強アルカ

リ条件下で用いる洗浄剤組成物の成分とは考えない。なお,グリコール酸自体も弱

いキレート作用を有するが,そのキレート力はグルタミン酸二酢酸塩類と比べても

非常に小さい。したがって,本件発明1のように,グルタミン酸二酢酸塩類を主成
分とする洗浄剤組成物において,その洗浄性をさらに向上させるため,グリコール

酸(ナトリウム)を,強アルカリ条件下で,同洗浄剤組成物に意図的に添加すると

いう発想は生じない。

本件発明1は,このような本件特許の優先日当時の当業者の技術常識と相反する

3成分の組合せによって,EDTA塩類を主成分とする洗浄剤組成物と同程度に洗

浄能力が向上するという顕著な作用効果を見いだしたものである。
イ 審決が,相違点4’に関し,グリコール酸ナトリウムを「含有するものとす

る」ことが当業者にとって考え難いとした判断に誤りはない。

すなわち,OS1がグリコール酸ナトリウムを不純物として含有しているとの事

実があったからといって,当業者においてグリコール酸ナトリウムを有効成分とし

て含有するとの発明(技術思想)を着想することが常に容易であるとはいえない。

本件発明1では,グリコール酸ナトリウムを含む3成分が洗浄剤の主成分であり,
グリコール酸ナトリウムは洗浄剤組成物の有効成分であるのに対し,引用発明1b


8
において,グリコール酸ナトリウムは不純物である。そして,本件発明1の容易想

到性の有無を判断するに当たり,引用発明1bでグリコール酸ナトリウムの作用効
果が認識されているかどうかは,重要なことであり,そのような認識の相違に係る

相違点4’の構成を容易想到でなかったとの判断の根拠とすることに誤りはない。

(2) 無 効理由1に係る本件発明1の 容易想到 性判 断 の 誤 り−−− 格別 の効 果

(取消事由2)に対して

本件発明1の効果は,格別のものであるとした審決の判断に誤りはない。

前記のとおり,本件発明1の洗浄剤組成物は,主成分を水酸化ナトリウム,アス

パラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナ

トリウムの3成分とすることによって,洗浄能力を従来技術であるEDTA塩類を

主成分とする洗浄剤と同等とし,同時に,生分解性に優れるという,顕著な作用効

果を持つ。

本件明細書には,本件発明1の洗浄剤組成物が,それぞれの相乗効果により優れ
た洗浄能力を有し,また,生分解性に優れていること,及び,上記3成分がどのよ

うな作用をして相乗効果を奏するのかについての記載がある。また,表1に示され

た比較試験結果には,上記3成分を組み合せることによって,生分解性に優れたア

スパラギン酸二酢酸塩類やグルタミン酸二酢酸塩類を用いながら,EDTA塩類を

用いた洗浄剤組成物と同等の洗浄力を有するという顕著な効果を得ることができる

ことが示されている。
また,実験報告書(甲16)記載の実験結果から,グリコール酸ナトリウム自体

にはキレート能力がないが,グルタミン酸二酢酸塩類とグリコール酸ナトリウムの

混合物のキレート錯体の形成能力(C.V.値)は約180で,グルタミン酸二酢

酸塩類のみの場合のC.V.値である約160より増大しており,C.V.値につ

いて相乗効果があることが確認できる。これは,本件明細書の段落【0008】に

記載されている,グリコール酸ナトリウムの「補助的な効果」を示している。また,
上記実験報告書記載の実験結果によると,グルタミン酸二酢酸塩類とグリコール酸


9
ナトリウムの混合物のC.V.値が約180で,EDTAのC.V.値が約260

であるが,上記のとおり,本件発明における洗浄剤組成物がEDTAと同等の洗浄
能力を有することからすると,グリコール酸ナトリウムにはC.V.値に反映され

ない洗浄能力があり,それは触媒的能力(硬表面の付着物からアルカリ土類金属を

洗浄液中に溶解しやすくする能力)であると推測される。

イ 原告は,グルタミン酸二酢酸塩とグリコール酸ナトリウムとを含有するOS

を含む洗浄剤組成物は既に知られており,本件発明1と構成上の差異がないばか



りでなく,その効果は,公知の洗浄剤組成物が既に有している効果であるから,効

果の点から本件発明1の進歩性を認めることはできないと主張する。

しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。

本件発明1と引用発明1bの組成は同一ではない。引用発明1bには,水酸化ナ

トリウムが主成分として含まれておらず,グリコール酸ナトリウムも不純物にすぎ

ない。
(3) 無効理由1に係る本件発明2の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に

対して

前記のとおり,本件発明1が容易想到ではない以上,本件発明2も容易想到では

ない。

(4) 無効理由2に係る本件発明1及び2の 容易想到性の判断 の誤り(取消事由

4)に対して
無効理由1について本件発明1及び2が容易想到ではない以上,無効理由2につ

いても,容易想到ではない。

当裁判所の判断
第4

当裁判所は,本件発明1及び2は,いずれも容易想到ではないと判断する。その

理由は,以下のとおりである。

1 事実認定
(1) 本件明細書の記載


10
本件発明1及び2に係る特許請求の範囲は,第2,2に記載のとおりであるとこ

ろ,本件明細書には,以下の記載がある。また,本件明細書中の表1は別紙「本件
表1」のとおりである。(甲18)
明細書

「【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,洗浄剤に関し,特に食品工業をはじめとす

る各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤に関する。」

「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】食品工業及び水を使用する各種

工業においては流体中に含有するカルシウムイオン,マグネシウムイオンをはじめ

とするアルカリ土類金属塩及び有機質分のプロセスへの堆積及びスケール成長によ

る汚れが発生し,運転上及び工程品質上の大きな問題となっている。

【0003】従来はこれらの硬表面の汚れ除去のためキレート剤であるEDTA

塩類を主成分とする洗浄剤が広く用いられている。しかし,EDTA塩類は非常に
高いキレート能を有し洗浄剤としてはすぐれているが処理排水中に含まれるEDT

A塩類及びそのキレート錯体化合物が微生物により分解され難いものであるため処

理水をそのまま河川及び海に廃棄することは環境保全の面から重大な問題となって

きている。このため,上記目的で使用するEDTAの代替キレート剤が各種検討さ

れている。・・・

【0004】このようにグルタミン酸二酢酸塩類はキレート能に優れかつ生分解
性良好な物質であることが記載されている。しかし,洗浄剤として使用する場合は

EDTA塩類含有洗浄剤並の洗浄能力を確保するため各種の様々な成分を混合配合

した組成物として使用されることが一般的である。

各種廃水や硬表面の洗浄性能に優れ,総合的に生分解性を有し,工業的に使用で

きる配合処方のグルタミン二酢酸塩類を含有する洗浄剤の開発が課題である。

【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究し


11
た結果,主成分にアルカリ金属水酸化物とアミノジカルボン酸二酢酸塩類及びグリ

コール酸塩類を混合した洗浄剤が課題を解決できることを見出し,本発明を完成す
るに至った。

この三成分を主成分とする洗浄剤の洗浄性能はそれぞれの相乗効果によりその単

独でのものより優れた効果を現し,その効果は従来より広く使用されているEDT

A塩類を主成分とする洗浄剤と同等の洗浄性を示すことを見出した。また,その洗

浄剤組成物は 生分解 性に優れ, 微 生 物で 容易 に 分解 でき 環境 の 保 全 に有効であ
る。」

「【0008】・・・ここでグリコール酸塩類の配合はアミノジカルボン酸二酢

酸合成時に副生するグリコール酸塩の生成量制御によりその反応液中のアミノジカ

ルボン酸二酢酸塩に対するグリコール酸塩量を調整しその反応液を直接洗浄剤に配

合することで容易に可能である。このため,本発明の組成物はアミノジカルボン酸

二酢酸塩の固形を取り出すことなく使用でき工業上,極めて有利である。また,必
要ならば別途用意したグリコール酸あるいはその塩を添加配合しても良い。この反

応液中には副生するアミノジカルボン酸モノ酢酸塩類あるいはニトリロトリ酢酸塩

類が含有する可能性があるがこれは洗浄性及び生分解性に特に問題を与えるもので

はない。・・・

【0009】このように上記の三成分を主成分として特定の配合量で混合した洗

浄剤組成物は食品工業をはじめ各種工業プロセスの硬表面洗浄に有効である。」
表1は,実施例1〜7と比較例1〜4の洗浄性能を評価したものである。

(2) 甲1文献の記載

甲1文献には,以下の記載があり(訳文を記載する。),図1及び2は別紙「甲

1文献」の「Fig1」及び「Fig2」のとおりである(甲1)。

「本発明は,無毒性,非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物,

その製造方法およびその使用法に関する。
トリポリホスフェート,エチレンジアミン四酢酸等のごとき多数の金属イオン封


12
鎖剤が知られている。しかしながら,これらの化合物の多くは生物により分解され

ずかつ河川に排出されたときにそれを汚染する。更に,リンの化合物は,これらが
非常に顕著な還元性を有するため,河川の酸素を固定し,これが生物についてよく

知られている極めて有害な結果を生ぜしめている。」(公報1頁14行目ないし2

7行目)

「本発明に従い,無毒性,非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組

成物が提供され,該組成物はN,N−ジカ ル ボキシメチル−2−アミ ノ-ペンタン
二酸又はその塩を含有し,該酸はモノクロル酢酸の溶液とアルカリの溶液をグルタ

ミン酸またはグルタミン酸モノまたはジナトリウム塩の水溶液に同時に添加するこ

とにより得られ,ここで(a)該アル カリは反応媒体のpHが8〜10に維持される

量で使用され;(b)反応は50 〜100℃の範囲の温度で行わ れ,かつ;(c)グルタ

ミン酸のモルあたり2.4〜2.7モルのモノクロル酢酸が使用される。

本発明はまた,本発明の金属イオン封鎖剤組成物を含有する洗浄剤組成物を提供
する。

本発明の無毒性かつ非汚染性の生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物は,

高い効果を有しかつ85〜90%まで生物学的に容易に分解し得る天然産物の誘導

体を含有するという利点を有する。しかも,本発明の金属イオン封鎖剤組成物の有

効成分は炭素,酸素および窒素のみを含有し,リンを含有していない故に,それは

河川の生物に対し有害な影響をおよぼすことはない。最後に,本発明の金属イオン
封鎖剤組成物の必須の有効成分が天然産物を原料とする故に,それらが毒性を持た

ないように処方され得る。」(公報1頁56行目ないし2頁3行目)

「本発明に従い起きる反応は,水性媒体中かつアルカリの存在下で起きる置換

応であり,次の図式で表わされる。




13
グルタミン酸のα-アミノ基 の2個の水素原 子が,モノクロル酢酸から生ずる2個

のカルボキシメチル基により置換される。
置換誘導体を高収率で得ることが困難である主原因の一つは,モノクロル酢酸

が加水分解することであり;この二次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成

する〔下記の反応式(2)参照〕。この欠点を防止するためには,上記(1)式の

反応に有利なようにかつ,下記(2)式の反応に不利なように,遊離のモノクロル

酢酸の存在下で反応を行いかつアルカリを徐々にのみ添加することが必要である。

実際に,この二つの反応の相対的な反応速度は,遊離のOH基の濃度により影響さ
れる。




前記反応を弱アルカリ性pH値で行うことにより,(2)式の加水分解反応を最

少に減少させ得ることが今見出された。したがって前記したことを考慮して,pH

8〜10好ましくは9〜9.7の範囲で反応を行うことが必要である。これらの条

件下において得られる収率は,使用したモノクロル酢酸に対して理論値の75%よ

り良く,グルタミン酸塩に関しては100%に近い。」(公報2頁19行目ないし

55行目)

「反応生成物を含有する溶液を金属イオン封鎖剤組成物として直接に使用するこ

とが可能である。あるいは,該溶液を噴霧乾燥して,不純なN,N−ジカルボキシ

メチル−2−アミノ-ペンタン二酸又はその塩を得てもよい。この粗 生成物を慣用
の手段で精製してもよく,好ましくは,したがってそれは少なくとも95%純度で


14
ある。50%に近い乾燥物含有量を有するこの溶液を熱空気流中に噴霧し白色粉末

を得ることができる。」(公報3頁7行目ないし18行目)
「洗浄剤組成物の約5%が該金属イオン封鎖剤組成物“OS1”(下記の実施

2で製造された生成物“OS1L”から得られる乾燥された固体)であ

り,・・・。」(公報4頁67行目ないし79行目)

「全ての試験において,モノクロル酢酸とグルタミン酸ナトリウム塩とを水性媒

体中でかつアルカリの存在下でかつ前記したごとき条件下で反応させて得られた組
成物が使用される。

かく得られた,表でOS1と呼ばれる組成物は,次の成分を含む。

N,N−ジカルボキシメチル−2−アミノ-ペンタン二酸,ナトリウム塩として

60重量%


グリコール酸ナトリウム 12

全体が100重量%となる量

それは,見掛密度0.56の白色粉末の形である。」(公報4頁102行目ない

し116行目)

実施例1

N,N−ジカルボキシメチル−2−アミノ−ペンタン二酸の製造

・・・

この溶液を噴霧処理することにより,N,N−ジカルボキシメチル−2−アミノ
−ペンタン二酸のナトリウム塩(47%酸型)を60重量%含有し,・・・金属イ

オン封鎖力が6.9%の白色粉末を得た。この組成物は,14重量%の塩化ナトリ

ウムと12重量%のグリコール酸ナトリウムをも含有していた。」(公報5頁37

行目ないし72行目)

実施例2

68kg(364モ ル)のグルタミン酸 モノナトリウムと74? の水を, ジャケ
ット付タンクに装入した。ジャケットにより温度を50℃にし,ついで50.2%


15
苛性ソーダ溶液4?を添 加してpHを9. 12に調節した。ついで モノクロ ル酢酸

の溶液と50.2%苛性ソーダ溶液とを,つぎの2つのパラメーター:9.2〜9.
5のpHと70〜75 ℃の温度 ,に注意しながら同時に 添加開始 した。78?のモ

ノクロル酢酸溶液と93?の 苛性ソーダ溶液 を添加する14時間操作 の後に,得ら

れた溶液をタンクに保持して30分間撹拌し,ついで測定を行った。測定の結果,

N-カルボキシメチル-LまたはDL-グルタ ミン酸の16%,即ち58モルが存在

することが判 った。5 kgのモ ノクロル酢酸を4?の水に溶解した 溶液を調製し,
ついでこの溶液を55〜60℃で前記反応混合物に添加し,かつ前記のpH値を保

持するために50.2 %苛性ソ ーダ溶液4 ? を同時に添加した。得 られた溶液を2

と1/2時間60℃で撹拌し,ついで以後の濃縮工程に移した。

この操作でつぎの量の原料が使用された:68kg(364モル)のグルタミン

酸モノナトリウム,90kg(953モル)のモノクロル酢酸,97?+4?の苛性

ソーダ溶液,154kgの50.2%苛性ソーダ,すなわち77.4kgの純苛性
ソーダ(1930モル),グルタミン酸モノナトリウムとモノクロル酢酸により提

供された水を含めた水 175.6?。

真空下で濃縮を行い,ついで濃縮物を遠心分離して,N,N−ジカルボキシメチ

ル−2−アミノ-ペンタン二酸のトリナトリウム塩を46.2重量% の濃度で含有

する本発明の液状組成物204kgを得た。

・・・」(公報5頁73行目ないし6頁19行目)
実施例3

実施例1および2に従う製造物の金属イオンの封鎖力に関する有効性を,石鹸水

式硬度測定法・・・によって測定した。それは,金属イオン封鎖剤の添加量の関数

としてハイドロチメーター硬度・・・の進行曲線を作ることよりなる。液体状又は

固体状の本発明の組成物による水の軟化力を,種々の金属イオン封鎖剤,すなわち

E.D.T.A(エチレンジアミン四酢酸),N.T.A.(ニトリロ酢酸),及
びT.P.P.(トリポリホスフェート)の水の軟化力と比較した。それは,硬度


16
25(フランス標準硬度)の天然硬水を使用して,硬度を,pH10でアンモニア

性緩衝液(25ml/? )中の金属イオン封鎖剤の添加量 に対する 関数として測定
することにより求めた。

第1図は, 液体状組成物での 測定結果を 示す。横軸に1?当りの金属イオン封鎖

剤の添加量(g)をプロットし,縦軸に石灰硬度・・・の度Th(フランス標準硬

度)をプロットする。曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液,曲線

(2)は, N.T.A.三 Na 塩, 曲線(3)は液体状 の本発明の組成物, 曲線
(4)はT.P.P.に対応する。

第2図は,固体状の本発明の組成物で得られた結果を示す。横軸に金属イオン封

鎖剤の添加量( g/?), 縦軸に石灰硬度の 度Thをプロッ トする。第1図と同 様,

曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液,曲線(2)はN.T.A.

三 Na塩, 曲線 (3)は固 体状 の 該 組成物, 曲線(4)は T. P .P . に 対応す

る。」(公報6頁20行目ないし58行目)
「特許請求の範囲

1.N,N−ジカルボキシメチル−2−アミノ−ペンタン二酸又はその塩を含有

する,無毒性,非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物であって,

該酸又はその塩はモノクロル酢酸の溶液とアルカリの溶液をグルタミン酸またはグ

ルタミン酸モノまたはジナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ,

ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが8〜10に維持される量で使用され;(b)
反応は50〜100℃の範囲の温度で行われ,かつ;(c)グルタミン酸のモルあたり

2 . 4〜 2 . 7 モ ルの モノク ロ ル酢酸が使 用される,上記金属イオン封鎖剤組成

物。」(公報9頁11行目ないし27行目)

2 無効理由1に係る本件発明1の容易想到性判断の誤り(取消事由1,2)に

ついて

以下,取消事由1(相違点4’の容易想到性判断の誤り)及び取消事由2(格別
の効果)を併せて判断する。


17
(1) 本件発明1について

本件発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載によると,本件発明1は,
従来品であるEDTA塩類含有洗浄剤と同等の洗浄能力を有し,かつ,総合的に生

分解性を有し,工業的に使用できる配合処方のグルタミン二酢酸塩類を含有する洗

浄剤の開発を解決課題とし,主成分として,アルカリ金属水酸化物である水酸化ナ

トリウム,アミノジカルボン酸二酢酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/

又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した
洗浄剤組成物が,それぞれの相乗効果により優れた洗浄性能を有し,また,生分解

性にも優れているという特性により,上記課題を解決する発明である。

本件明細書の実施例6の洗浄剤は,水酸化ナトリウムを5重量%,グルタミン酸

二酢酸四ナトリウム2.5重量%を含有し,グリコール酸ナトリウム/グルタミン

酸二酢酸四ナトリウムの重量比は0.3である。他方,比較例3は,実施例6と同

量の水酸化ナトリウム及びグルタミン酸二酢酸四ナトリウムを含むが,グリコール
酸ナトリウムを含有しない点で,実施例6と異なる。そして,本件明細書の表1に

よると,実施例6の洗浄剤の洗浄効率が,光沢度評価において91%(ガラス板)

及び93%(SUS(ステンレス鋼)板),目視評価においていずれも4であるの

に対し,比較例3の洗浄剤の洗浄効率は,光沢度評価において71%(ガラス板)

及び73%(SUS板),目視評価においていずれも3であり,両者は,洗浄効率

において相違がある。
また,本件明細書の実施例1ないし7の洗浄剤は,その洗浄効率が,光沢度評価

において91〜95%(ガラス板)及び93〜97%(SUS板),目視評価にお

いていずれも4〜5であるが,水酸化ナトリウムを5重量%,EDTA四ナトリウ

ムを5重量%含有する洗浄剤(比較例1)が,光沢度評価において95%(ガラス

板)及び97%(SUS板),目視評価においていずれも5であることから,両者

の洗浄効果はほぼ同等であると認められる。
上記実施例と比較例の対比によれば,本件発明1の洗浄剤組成物である各実施


18
の洗浄剤において,グリコール酸ナトリウムの配合が,その洗浄効果を有意に高め

るものであって,そのような効果を奏するに当たり,グリコール酸ナトリウムの配
合が寄与していること,本件発明1の洗浄剤組成物は,従来品であるEDTAを含

有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏することが認められる。

(2) 甲1文献に記載された発明について

甲1文献の実施例2で得られた液体状の金属イオン封鎖剤組成物であるOS1L

を乾燥させて得られる固体状の金属イオン封鎖剤組成物OS1は,N,N−ジカル
ボキシメチル−2−アミノ−ペンタン二酸(グルタミン酸二酢酸)のナトリウム塩

を60重量%,グリコール酸ナトリウム12重量%及び全体が100重量%となる

量の塩を含むものであり,甲1文献に第2,3(1)ア記載の引用発明1bの発明が

開示されている。

そして,甲1文献には,トリポリホスフェート(TPP),EDTA等の金属イ

オン封鎖剤が知られているところ,これらの化合物は生物により分解されず,河川
を汚染し,また,リンの化合物は,生物に極めて有害な結果を生ぜしめていること

に係る解決課題があったこと,これに対し,無毒性,非汚染性かつ生物学的易分解

性の金属イオン封鎖剤組成物としてグルタミン酸二酢酸又はその塩を含有する金属

イオン封鎖剤組成物を用いることにより課題を解決することができる旨の記載があ

る。

甲1文献の実施例3におけるpH10の硬水の軟化力を比較したFig1及び2
によると,実施例1及び2の製造物である液体状及び固体状の金属イオン封鎖剤組

成物の金属イオン封鎖力は,TPPよりは優れているものの,EDTA四ナトリウ

ム塩よりは劣る。

ところで,甲1文献には,反応 式(1)の生成物であるグルタミ ン酸二酢酸のナト

リウム塩を高収率で得 ることを困難としている原因の1つは,反応 式(2)に係る二

次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成されてしまうこと,そのためには,
(1)の反応は行われるが,(2)の反応は起こらないようにすることが必要であること


19
が記載されている。上記記載によれば,引用発明1bの金属イオン封鎖剤組成物に

おいて,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を製造する際に副生するグリコール酸
ナトリウムは,当該金属イオン封鎖剤の封鎖力を高めるとの観点からは,不要な成

分であると認識されていたと解される。

(3) 容易想到性の判断

ア 本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩

類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分か
ら構成され,かつ,グリコール酸ナトリウムは主成分である3成分の一つである。

これに対し,引用発明1bの金属イオン封鎖剤組成物は,上記3成分の一つである

水酸化ナトリウムを含まない点で,その構成成分が異なるのみならず,グリコール

酸ナトリウムはグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を得る際に,二次的反応により

生成される不純物であり,金属イオン封鎖剤の封鎖力を高める効果を奏しない不要

な成分であると解されていた点で,その技術的意義において,相違する。
また,本件発明1は,前記のとおり,3成分を主成分とした洗浄剤組成物で


ある。そして,本件明細書の表1によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,従来品

であるEDTAを含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏すること,グリコール酸ナ

トリウムの配合によりその洗浄効果が高まっていることが認められる。これに対し,

引用発明1bにおける金属イオン封鎖剤組成物は,グルタミン酸二酢酸塩類とグリ

コール酸ナトリウムを含み,水酸化ナトリウムを含まないものであるが,甲1文献
のFig1及び2によると,この金属イオン封鎖剤組成物の金属イオン封鎖力はT

PPよりは優れているものの,EDTA四ナトリウム塩よりは劣る。

以上によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン

酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウム

の3成分を主成分とすることにより,その相乗効果によって,EDTAを含有した

洗浄剤と同等の洗浄効果を奏するといえる。
以上によれば,主成分として,水酸化ナトリウム,アミノジカルボン酸二酢



20
酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並び

にグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した洗浄剤組成物は,それぞれの相乗効
果により優れた洗浄性能を有するところ,甲1文献にはこの点について,何らの示

唆もない。また,甲2ないし6にも,この点について何の示唆もない。したがって,

洗浄剤組成物が上記3成分を主成分とし,それによって,洗浄効果を高める効果が

ある点では,当業者が予測し得ない効果であると認められ,本件発明1は,甲1文

献や甲2ないし6から,当業者が容易に想到し得ないものといえる。
のみならず,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムについて,グルタミン酸二

酢酸のナトリウム塩を高収率で得ることを阻害する二次的反応によって生成された

不純物と理解され,金属イオン封鎖剤の金属イオン封鎖力を高める観点からは不要

ないし好ましくない成分である旨記載されていた。そうすると,甲1文献に接した

当業者は,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩の収率を高めることを目的として,

グリコール酸ナトリウムの生成を抑制しようとする動機付けはあっても,グリコー
ル酸ナトリウムを洗浄剤組成物の必須要素として活用することに想到することはな

いということができる。

エ この点に対し,原告は,グルタミン酸二酢酸塩とグリコール酸ナトリウムを

含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1を含む洗浄剤組成物は既に知られており,

グルタミン酸二酢酸塩にグリコール酸ナトリウムを組み合わせると洗浄効果が上が

ることを後に確認しても,その効果は,公知の洗浄剤組成物において既に内在して
いるものであることから,効果の点から本件発明1の進歩性を認めるのは不合理で

あると主張する。

しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。

甲1文献には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩60重量%,グリコール酸ナ

トリウム12重量%を含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1は開示されているが,

OS1を含む洗浄剤組成物に水酸化ナトリウムが含まれることは開示されていない。
本件発明1(水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミ


21
ン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を主成分とする洗浄剤組

成物)は,本件特許の優先日前に公知ではなく,本件発明1における前記効果が甲
1文献等公知の洗浄剤組成物から予測できたものとすることはできない点は,前記

のとおりである。

以上のとおり,本件発明1の洗浄剤組成物は,引用発明1bの金属イオン封鎖剤

組成物と異なる成分により構成されるものであるが,加えて,本件は,当業者の間

では,従来,グリコール酸ナトリウムは,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を高
収率で得ることを阻害する二次的反応によって生成された不純物であると認識され

ていたことに対して,本件発明1では,逆に,グリコール酸ナトリウムを組み合わ

せることが,洗浄効果を上げるに当たって有益である旨を確認して,必須の構成と

したものであり,その点は,本件発明1の進歩性を認める上で,参酌されるべき一

つの要素となり得るといえる。

したがって,原告の主張は採用の限りでない。
(4) 小括

以上のとおりであるから,本件発明1の効果は格別のものであり,本件発明1は

当業者が容易に発明をすることができたものではないなどとして,本件発明1の容

易想到性を否定した審決の判断に,誤りはない。

3 無効理由1に係る本件発明2の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)につ

いて
前記のとおり,本件発明1は容易想到ではないと認められることから,本件発明

1における成分の含有量をさらに規定した発明である本件発明2も,甲1文献及び

甲2ないし6から,当業者が容易に想到し得ないものである。

したがって,この点に関する審決の判断に誤りはない。

無効理由2に係る本件発明1及び2の 容易想到 性の判 断 の 誤 り(取消事由


4)
原告は,甲2文献には,甲1文献に開示されているグルタミン酸二酢酸塩のみで


22
なく,アスパラギン酸二酢酸塩も開示されており,甲1文献を主引用例とした場合

(無効理由1)と同様に,甲2文献を主引用例とした場合(無効理由2)も,本件
発明1及び2は,いずれも容易想到であると主張する。しかし,前記のとおり,甲

1文献を主引用例とした場合,本件発明1及び2は容易想到ではなく,原告の主張

は前提において誤りがあり,採用の限りでない。

5 結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決にはこれを取り
消すべき違法はない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よ

って,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部




裁判長裁判官

飯 敏
村 明




裁判官

八 木 貴 美 子




裁判官

小 田 真 治




23
別紙 表1
本件明細書




24
別紙 甲1文献




25