運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 24年 (行コ) 10007号 特許料納付書却下処分取消請求控訴事件

控 訴人(第1 審原 告) 宇部興産株式会社
訴訟代理人弁護士 細谷義徳
同 鈴木健文
補佐人弁理士 柳橋泰雄
同 山村大介
同 伊藤 佐保子
被控訴人(第1審被告) 国代表者法務大臣 処分行政庁特許庁長官
指定代理人 二本松裕子
同 岡誠司
同 佐藤一行
同 上田智子
同 河原研治
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/02/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 特許番号第1821360号の特許権に係る第17年分特許料納付書について,特許庁長官がした平成22年8月2日付け手続却下処分を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人(第1審被告)の負担とする。
事案の概要
以下,控訴人(第1審原告)を「控訴人」,被控訴人(第1審被告)を「被控訴人」といい,原判決を引用する場合,原判決中に「原告」とあるのを「控訴人」と,「被告」とあるのを「被控訴人」とそれぞれ読み替える。また,略語は,原判決と同様のものを用いる。
1 概要及び経過本件は,控訴人が,本件特許権の第17年分特許料追納期間経過後に本件特許料等納付書を提出して特許料及び割増特許料(本件特許料等)の納付手続をしたのに対し,特許庁長官が同納付書を却下する処分(本件却下処分)をしたことについて,控訴人が,上記追納期間に本件特許料等を納付することができなかったことには控訴人の責めに帰することができない理由があると主張し,本件却下処分の取消しを求めた事案である。
原判決は,控訴人が追納期限である平成21年11月20日までに本件特許料等を納付しなかったことに関し,控訴人の責めに帰することができない理由があるとは認められない旨判断し,本件特許料等納付書を,特許法112条の2(平成23年法律第63号による改正前の特許法112条の2をいう。以下同様。)第1項所定の要件をみたす追納と認めることはできず,本件却下処分に取り消すべき違法はないとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これを不服として控訴し,控訴の趣旨記載の判決を求めた。
2 前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄第2の1ないし 2 3(原判決2頁10行目から16頁24行目)のとおりであるから,これを引用する。
原判決7頁4行目の「しかし,」から8行目の「仕組みとなっていた。」までを,「しかし,控訴人新システムにおいては,次のようなシステム上の瑕疵(仕様変更)があった。すなわち,控訴人旧システムでは,延長登録出願については,延長される元案件の特許を親案件とする子案件としてシステム上登録され,子案件に必要な情報が入力されれば,親案件の権利満了日に自動的に延長登録が反映され,正しく表示されるので,親案件の特許料の納付管理には,親案件に反映され表示される権利満了日を利用していたが,控訴人新システムへの移行後は,控訴人旧システムを利用していたときに子案件の延長期間の入力により親案件における権利満了日の表示が期間延長を反映していても,これとは別に親案件の「延長年月日」欄に延長期間のデータを入力しなければ,次回納付期限及びその有無は延長前のデータを用いて判定されることとなった。控訴人新システムでは,親案件の権利満了日欄は,単なる表示の意味しかなく,特許料納付を管理し,次回納付期限等の判定に用いられる権利満了日は,内部データとしてのみ存在し,MC5の権利満了日欄を含め一切表示されない上,権利満了日欄に表示されている権利満了日と,特許料納付管理に用いる権利満了日との間に齟齬があっても,何らの警告もされないのである。」と改める。
当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄第3の1ないし3(原判決16頁26行目から27頁4行目)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決19頁21行目から20頁2行目までを削り,行を改めて,次のとおり付加する。
「そして,控訴人主張の瑕疵(仕様変更)の内容は,次のようなものである。すなわち,控訴人旧システムでは,延長登録出願については,子案件に必要な情報が入 3 力されれば,親案件の権利満了日に自動的に延長登録が反映され,正しく表示されるので,親案件の特許料の納付管理には,親案件に反映され表示される権利満了日を利用していた。しかし,控訴人新システムでは,控訴人旧システムを利用していたときに子案件の延長期間の入力により親案件における権利満了日の表示が期間延長を反映していても,これとは別に親案件の「延長年月日」欄に延長期間のデータを入力しなければ,次回納付期限及びその有無は延長前のデータを用いて判定されることとなり,親案件の権利満了日欄は,単なる表示の意味しかなく,特許料納付を管理し,次回納付期限等の判定に用いられる権利満了日は,内部データとしてのみ存在し,MC5の権利満了日欄を含め一切表示されない上,権利満了日欄に表示されている権利満了日と,特許料納付管理に用いる権利満了日との間に齟齬があっても,何らの警告もされないというものである。」 (2) 原判決23頁24行目から24頁26行目までを削り,行を改めて,次のとおり付加する。
「e この点,控訴人は,本件特許の第17年分特許料納付期限が設定されなかった理由について,次のように主張する。すなわち,控訴人旧システムを利用していたときに子案件への延長期間の入力により,親案件における権利満了日の表示が期間延長を反映していたとしても,控訴人新システムへの移行後は,別途,親案件の「延長年月日」欄に延長期間を入力しない限り,次回納付期限及びその有無は延長前のデータを用いて判定され,親案件の権利満了日欄は見かけ上,延長後の権利満了日が表示されるものの,特許料納付を管理し,次回納付期限等の判定に用いられる権利満了日はMC5の権利満了日欄を含め一切表示されない上,権利満了日欄に表示されている権利満了日と特許料納付管理に用いる権利満了日との間に齟齬があっても,何らの警告もされないという控訴人新システムの瑕疵(仕様変更)が存在した。しかも,控訴人は,日立から,延長登録されている特許については親案件の「延長年月日」欄に別途データを入力しなければ延長登録が反映されない旨の説明を受けなかったことから,MC5への以降作業だけでは延長登録されている特許の 4 特許料納付管理上,延長期間が反映されないことを知ることができず,本件移行後に,別途,親案件の「延長年月日」欄にデータを入力しなかったため,本件特許が,MC5の特許料納付管理上は延長登録のないものとして取り扱われてしまったというのである。
しかし,控訴人の主張によれば,控訴人旧システムでは,延長登録出願については,子案件に必要な情報が入力されれば,親案件の権利満了日に自動的に延長登録が反映され,正しく表示されるので,親案件の特許料の納付管理には,親案件に反映され表示される権利満了日を利用していたというのであるから,控訴人旧システムにおいて,子案件に必要な情報が入力されれば,自動的に親案件の「期間延長期間」のデータに反映されることが推認される。そして,控訴人の主張によれば,本件特許に関しては,控訴人旧システムにおいて本件特許の子案件に延長期間が入力され,親案件及び子案件ともに本件特許の満了日は平成25年7月15日と表示されていたというのであり,また,本件移行作業に当たり,控訴人旧システムの「期間延長期間」のデータは,控訴人新システムの「延長年月日」欄に移行されることが予定されていた(甲12の添付資料1「移行対応表」8頁の項番号25)のであるから,控訴人旧システムにおいて子案件への入力を反映した本件特許の親案件の「期間延長期間」データも,控訴人新システムにおける本件特許の親案件の「延長年月日」欄に移行されることが予定されていたことも推認できる。そうすると,本来の控訴人旧システム及び控訴人新システムの仕組みと本件移行作業の予定に基づくならば,控訴人新システムへの移行後,別途,親案件の「延長年月日」欄に延長期間を入力しなくとも,本件特許は,MC5の特許料納付管理上は延長登録があるものとして取り扱われ,次回納付期限及びその有無は延長後のデータを用いて判定されることになると考えられる。
(エ) したがって,控訴人新システムに控訴人主張の仕様変更があったとしても,それが瑕疵に当たるということはできず,当該仕様変更に起因して,本件特許につき,第16年分特許料納付により特許料を完納した旨のコードが設定され,次回納 5 付期限日(第17年分特許料納付期限)が設定されないとの事態が発生したとも認められない。そして,このほかに,控訴人新システムにおける特許料完納の判定方法や,延長期間の入力方法等に関し,証拠(甲7ないし10,12,14)上,システム上の瑕疵又は不具合を認定することはできない。」 2 小括 以上(原判決引用部分を含む。)によれば,要するに,控訴人新システムに,システム上の瑕疵又は不具合は認められず,また,本件において,本件特許の第16年分特許料の納付により,完納コードが「完納」に設定され,第17年分の特許料納付期限が設定されなかった原因を明確に特定するに足りる立証はなく,上記原因が特定されない以上,控訴人が,上記原因に関し,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしたこと及び上記原因が上記注意にもかかわらず避けることができないものと認められる事由に当たることを認めるに足りる主張及び立証もないものといわざるを得ない。そして,控訴人は,自己の自由な判断に基づいて本件移行作業を第三者に委託し,受託した日立情報システムズは,控訴人に対し,作業の各段階において文書で作業内容を報告していたというのであるから,仮に,受託者の過失に起因して本件移行作業に問題が生じ,控訴人が追納期間に本件特許料等を納付することができなかったとしても,当該過失は控訴人側で生じたものというべきであり,いずれにしても,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとはいえない。
したがって,控訴人の請求は理由がなく,その請求を棄却した原判決は正当である。控訴人は,他にも縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
結論
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。