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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成24ネ10011損害賠償請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 23年 (ネ) 10013号 特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/01/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年1月24日 判決言渡

平成23年(ネ)第10013号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地

裁平成21年(ワ)第25303号)

口頭弁論終結日 平成23年11月7日

判 決

控訴人(一審原告) X

訴訟代理人弁護士 西 田 研 志

同 神 保 宏 充

同 磯 野 清 華

訴訟復代理人弁理士 新 池 義 明

被控訴人(一審被告) 東日本旅客鉄道株式会社

訴訟代理人弁護士 久 保 利 英 明

同 上 山 浩

同 小 川 直 樹

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は,原判決別紙イ号物件目録記載のシステムを使用してはならな

い。

3 被控訴人は,控訴人に対し,2000万円及びこれに対する平成21年8

月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

5 第3項につき仮執行宣言




第2 事案の概要(略号は原判決の例による。)

1 一審原告である控訴人は名称を「座席管理システム」とする発明について下

記内容の特許権(本件特許権)の権利者であり,一方,一審被告である被控訴

人は,東日本を中心に新幹線及び在来線による旅客鉄道を運営していて,その

一環として,指定券を購入した乗客への車内改札を省略するためのシステム(原

判決イ号物件目録,被告システム)を運用している。 記

・特 許 番 号 特許第3995133号

・発明の名称 「座席管理システム」

・出 願 日 平成12年5月8日(特願2000−174476号)

・登 録 日 平成19年8月10日

・特 許 権 者 X

・発 明 者 X

・請求項の数 2

2 本件訴訟は,上記特許権を有する控訴人が被告システムを運用する被控訴人

に対し,同システムは,本件特許権の請求項1及び2を侵害しているとして,

@ 特許法100条1項に基づく被告システムの使用の停止,A 特許権侵害

基づく損害賠償として本件特許公報発行日たる平成19年10月24日から訴

え提起日たる平成21年7月22日まで1年8月間の実施料相当額合計200

0万円(1か月100万円,特許法102条3項)とこれに対する訴状送達の

日の翌日たる平成21年8月6日から支払済みまで民法所定年5分の割合によ

る遅延損害金の支払,を各求めた事案である。

3 平成22年12月22日に言い渡された原判決は,被告システムは本件特許

発明1につき構成要件1−Cないし1−Hを,本件特許発明2につき構成要件

2−Cないし2−Hを,それぞれ充足するとはいえないとして,控訴人(一審

原告)の本訴請求を棄却したので,これに不服の控訴人が本件控訴を提起した。

第3 当事者の主張




当審における各当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決記載のとお

りであるから,これを引用する。

なお,新幹線に関する被告システムが本件各特許発明構成要件1−A@,1

−AA,1−AB,1−B,及び2−A@,2−AA,2−AB,2−B@を充

足することは,当事者間に争いがない。

1 当審における控訴人の主張

(1) 原判決における実施例限定解釈の誤り

原判決は,「他方で,本件明細書には,端末機において,座席表示情報と

それ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて

座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視することができる

ものとすることに関する記載はない。

以上のことからすれば,本件各特許発明における『座席表示情報』は,当

該情報を端末機に表示すれば,座席管理地の座席レイアウトに基づいて座席

の利用状況が表示されるものであって,各指定座席の利用状況を目視するこ

とができるものをいうと解される。」(原判決36頁2行〜9行)とする。

しかし,原判決の上記認定は,本件明細書には「端末機において,座席表

示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに

基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視すること

ができるものとすることに関する記載がない」ことから,「座席表示情報」

の意味合いを「各指定座席の利用状況を目視することができる情報」と認定

しているものであり,このような認定は,本件明細書の記載のみに基づき行

われているものであって,本件各特許発明の特許請求の範囲の記載に基づき

なされたものとはいえない。

したがって,原判決の上記認定は,本件各特許発明技術的範囲を本件明

細書の実施例に限定して誤って解釈するものであり,特許法70条1項に違

反する。




(2) 「座席表示情報」の解釈の誤り

ア 前記(1)のとおり,原判決は,「本件各特許発明の「『座席表示情報』

は,当該情報を端末機に表示すれば,座席管理地の座席レイアウトに基づ

いて座席の利用状況が表示されるものであって,各指定座席の利用状況を

目視することができるもの」(原判決36頁6行〜9行)と認定している。

すなわち,原判決の上記認定は,ホストコンピュータで作成された「座

席表示情報」をディスプレイ等に表示されるイメージ情報(表示イメージ

情報)として捉え,当該情報をイメージ情報として,座席管理地に備えら

れる端末機に伝送し,当該端末機が,これを入力して,表示手段であるデ

ィスプレイ等でそのまま表示するものと解釈するものである。

しかし,上記解釈は,以下のとおり,誤りである。

(ア) 「座席表示情報」は,出願時の技術常識及び本件明細書の記載からす

れば,上記「表示イメージ情報」自体ではなく,これを構成する個々の

情報であって,イメージ情報そのものではない情報(表示構成情報)を

いうものである。

すなわち,「座席表示情報」は具体的には使用席を意味する「1」又

は空席を意味する「0」という情報であり,これは通常バイナリ(二進

数)データであって,情報の最小単位を表すものであるし,本件各特許

発明において「座席表示情報」はホストコンピュータ1から端末機2へ

伝送されるものであるところ,「表示イメージ情報」は「表示構成情報」

と比べると桁違いに情報量が大きいので,「表示構成情報」を伝送する

ことが可能である場合には「表示構成情報」を伝送するものであって,

特別の事情がない限り,そのような場合にあえて「表示イメージ情報」

を伝送するということは技術的にみれば非常識な選択というべきであ

るから,「座席表示情報」は「表示構成情報」であると理解するのが自

然である。




(イ) また,本件明細書の段落【0007】及び【0020】の記載から明

らかなように,本件明細書では,「券情報」及び「発券情報」のことを

「表示情報」と表現し,また,「座席表示情報」のことをやはり1つの

「表示情報」と表現しているところ,原判決も認めているように,「券

情報」及び「発券情報」は「表示構成情報」である。そうすると,本件

明細書にいう「表示情報」は「表示構成情報」を意味するものといえる。

一方,「座席表示情報」も「表示情報」であることから「表示構成情報」

を意味することになる。したがって,本件明細書の段落【0007】及

び【0020】の記載からしても,「座席表示情報」が「表示構成情報」

を意味することは明らかである。

(ウ) この点に関し,原判決は,「『表示情報』という用語が一般的に『表

示構成情報』を意味すると認めるに足る証拠はない。」(原判決36頁

17行〜18行)とする。

しかし,特開平11−96113号公報(甲12。以下「甲12文献」

という。),特開平11−119147号公報(甲13。以下「甲13

文献」という。),特開平11−161458号公報(甲14。以下「甲

14文献」という。),特開平11−261625号公報(甲15。以

下「甲15文献」という。),特開平11−261724号公報(甲1

6。以下「甲16文献」という。)及び特開平11−275230号公

報(甲17。以下「甲17文献」という。)の各記載からすれば,「表

示情報」という用語には一般に「表示構成情報」との概念が含まれるも

のであることは明らかであり,さらに,上記各文献の公開日が本件特許

の出願日以前であることからすると,「表示情報」との用語が「表示構

成情報」として使用されていることは,本件特許の出願時において,少

なくとも技術常識であったというべきであるから,原判決の上記判断は

誤りである。




(エ) さらに,原判決が着目した「指定座席のレイアウトに基づいて,座席

表示情報を作成すること」の意味を説明すると,本件各特許発明では,

「券情報」及び「発券情報」に基づいて「座席表示情報」を作成してい

るが,多くの座席について「券情報」と「発券情報」がある中で,個々

の座席の「券情報」と「発券情報」を突き合わせてからその座席の「座

席表示情報」を作成する必要があることから,指定座席のレイアウトに

関する情報を手がかりとして「券情報」と「発券情報」を突き合わせる

ことを説明しているにすぎないものである。したがって,原判決の上記

判断は失当である。

イ 被控訴人は,「座席表示情報」は,「『券情報』と『発券情報』に『座

席レイアウト』を統合して作成されるものであることから,端末機におい

て,各指定座席の利用状況を目視することができるもの」をいうと主張す

る。

しかし,以下の理由により,本件各特許発明の「座席表示情報」は,「券

情報」と「発券情報」から作成されるものであり,「座席レイアウト」を

統合して作成されるものではないから,被控訴人の上記主張は失当であ

る。

(ア) 被控訴人は,本件各特許の特許請求の範囲の記載である「前記券情報

と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座

席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段」

構成要件1−C,2−C)をみれば,「座席表示情報」は「券情報」

と「発券情報」に「指定座席のレイアウト」を統合して作成されるもの

であることは明らかと主張する。

しかし,構成要件1−C及び2−Cの文言を素直に読めば,特許請求

の範囲の上記記載部分は,「座席表示情報が,『券情報』と『発券情報』

と『指定座席のレイアウト』に基づいて作成される」という意味ではな




く,「『券情報』と『発券情報』に基づいて,前記座席管理地に設置さ

れる指定座席のレイアウトに基づいて表示するための『座席表示情報』

を作成する作成手段」ということに他ならない。つまり,「前記座席管

理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する」との文脈

は,その後ろの「座席表示情報」を修飾しているのであって,「を作成

する作成手段」にかかるものではない。

この点に関し被控訴人は,「前記券情報と前記発券情報とに基づき」

と「前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて」が

「かつ」で結ばれるという,対称的構造になっていることを理由に控訴

人の解釈は不自然で作為的な解釈であると主張する。

しかし,仮に,被控訴人が主張するように,「前記券情報と前記発券

情報とに基づき」と「前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウ

トに基づいて」はともに等しくその後ろに係っているとするならば,

「・・・に基づき」及び「・・・に基づいて」は動詞である「表示する」

に係っていると解するのが自然であるから,被控訴人の上記主張は失当

である。

(イ) 本件明細書の段落【0007】及び【0020】にはそれぞれ「券情

報と上記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる座席表示

情報」との記載があり,「座席表示情報」が「券情報」と「発券情報」

から作成されるものであることが説明されている。

(ウ) 本件明細書の段落【0013】には,「CPU11は表示情報入力1

0から入力された前記座席表示情報を受けて・・・さらにディスプレイ

12はCPU11に記憶された前記座席表示情報を受けて,当該座席管

理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて各指定座席の利用

状況を表示する。」との記載がある。そのため,かかる本件明細書の記

載に照らせば,「座席表示情報」とは,最終的に端末機2のディスプレ




イ12に,当該座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づい

て表示されるものといえる。

(エ) さらに,上記のとおり,「座席表示情報」は「券情報」と「発券情報」

により作成されるところ,かかる「券情報」と「発券情報」は指定乗車

券であることから,そもそも「指定座席のレイアウト情報」(イメージ

ではない。)を前提に作成されているものである。そのため,「座席表

示情報」 「指定座席のレイアウト情報」
は, を前提に作成された情報 「券


情報」と「発券情報」)より作成されているのであるから,「座席表示

情報」も,結果として,「指定座席のレイアウト情報」を前提に作成さ

れるものと同視することができる。とすれば,「座席表示情報」は,既

に「券情報」と「発券情報」より「指定座席のレイアウト情報」を得て

いるのであるから,このような「座席表示情報」に,被控訴人のいう「座

席レイアウト情報」を統合するということは,これと同種の情報を「座

席表示情報」に二重に組み込むものであり,このような情報を端末機に

伝送するということは,通信回線に大きな負荷をかけることを意味し,

本件各特許の目的に反する結果となるものである。

よって,本件各特許の目的に照らしても,「座席表示情報」は,「券

情報」と「発券情報」から作成されるものであり,「座席レイアウト」

を統合して作成されるものとはいえない。

(3) 被告システムの構成と構成要件の充足

ア 被告システムにおいては,センターサーバー(ホストコンピュータ)が,

少なくとも「通過情報」と「発売情報」が一定の条件を満たす場合には,

「通過情報」と「発売情報」に基づいて表示する「座席・乗車券情報」(本

件各特許発明の「座席表示情報」に該当する。)を「通過情報」と「発売

情報」から作成し,その情報を記憶し,端末機に送信している。

また,被告システムにおいては,ホストコンピュータにて作成された「座




席・乗車券情報」が車掌用携帯情報端末に送信され,指定座席のレイアウ

トに基づいて表示されている。

そうすると,被告システムにおいては,「通過情報」と「発売情報」に

基づき,かつ各列車とその号車の座席レイアウトに基づいて表示するもの

として,ホストコンピュータにおいて作成された「座席・乗車券情報」は

車掌用携帯情報端末に伝送されているので(構成要件1−I,2−I),

ホストコンピュータにおいて「座席表示情報」を作成・記憶・伝送するも

の(構成要件1−Cないし1−E,2−Cないし2−E)であり,また,

車掌用携帯情報端末が伝送された「座席表示情報」を入力・記憶・表示す

るもの(構成要件1−Fないし1−H,2−Fないし2−H)であるとい

える。

したがって,被告システムは,本件各特許発明のすべての構成要件を充

足することは明らかである。

そして,効果に関し,被告システムにおいては,「座席・乗車券情報」

は,自動改札機を通過した駅が座席指定席券に記載された乗車駅と同じで

あれば,「通過情報」と「発売情報」の日付,列車番号,号車番号,座席

番号,乗車区間等の重複部分を統合し,「通過情報」のみが(そのステー

タスと共に)「座席・乗車券情報」として伝送されるということであるか

ら,元の「通過情報」・「発売情報」とは異なる新たな情報が「座席・乗

車券情報」としてセンターサーバーで作成されている。

この場合,センターサーバーから車掌用携帯端末に伝送される「通過情

報」と「発売情報」に係る情報量は両情報が別々に伝送される場合に比べ

て実質的に2分の1に減ることになり,情報を伝送する通信回線及び情報

を処理する車掌用携帯端末等の負担が半減されるから,結局,被告システ

ムは本件各特許発明の作用効果を奏しているといえる。

イ この点に関し被控訴人は,自動改札機を通過した駅が座席指定席券に記




載された乗車駅と異なる場合は,「通過情報」及び「発売情報」の両方が

「座席・乗車券情報」として伝送されるというが,そのような場合は本件

特許発明においても必然的にそのようになるばかりか,極めて稀なケー

スでもあるから,被告システムが本件各特許発明の効果を奏していると認

定することの妨げとなるものではない。

ウ 被控訴人は,被告システムにおいては,「座席・乗車券情報」と「編成

パターン情報」を別々に車掌用携帯情報端末に送り,同携帯情報端末にお

いて,「編成パターン情報」と「座席・乗車券情報」を統合して,車掌が

各指定座席の利用状況を目視できる情報を作成し,車掌用携帯情報端末の

画面に表示するようになっているから,被告システムは本件各特許発明

技術的範囲に属さないと主張する。

しかし,本件各特許発明では,「編成パターン情報」は構成要件ではな

く,さらに「編成パターン情報」の格納場所(ホストコンピュータか端末

機か)や伝送のタイミングについて何ら限定を加えていないのであって,

ホストコンピュータから端末機への伝送について,「編成パターン情報」

は必要な時に伝送すればよいのであるから,被控訴人の上記主張は失当で

ある。

また,被告システムにおける「編成パターン情報」とは,列車番号と号

車番号を意味するところ,乗客に発売される座席指定乗車券には列車番号

と号車番号が記載され,記録されているから,上記座席指定乗車券には「編

成パターン情報」が記録されていることになるのであって,そうすると,

「通過情報」と「発売情報」には列車番号や号車番号の「編成パターン情

報」が含まれているということになる。したがって,その情報を「編成パ

ターン情報」として使うことができるので,その場合,「通過情報」と「発

売情報」とは別に「編成パターン情報」を送らなくてもよいということに

なるから,「通過情報」と「発売情報」に座席指定情報は含まれているが




「編成パターン情報」(「座席レイアウト情報」)は含まれていないとの

被控訴人の主張には理由がない。

エ 被控訴人は,本件各特許発明の「座席表示情報」は,「1座席当たりの

データ長×座席数」からなる固定長データであるのに対し,被告システム

における「座席・乗車券情報」は,実際に自動改札機を通過した座席の分

のみの「通過情報」又は実際に発売された座席の分のみの「発売情報」で

あって,可変長データであることを理由に,被告システムは本件各特許発

明の技術的範囲に属しないと主張する。

しかし,本件各特許発明の「座席表示情報」は,固定長に限定されるも

のではなく,可変長をも含む広い概念であるから,被控訴人の上記主張は

失当である。

2 当審における被控訴人の主張

(1) 「原判決における実施例限定解釈の誤り」に対し

控訴人は,原判決の「他方で,本件明細書には,端末機において,座席表

示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに

基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視すること

ができるものとすることに関する記載はない」と記載されていることを根拠

に,原判決の「座席表示情報」の解釈が実施例限定解釈であると主張する。

しかし,原判決の当該部分は,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳

細な説明欄の記載によれば,本件各特許発明の「座席表示情報」は「ホスト

コンピュータ」において作成されるものであることが明らかであり,これに

反する記載すなわち「端末機」において「座席表示情報」が作成されること

に関する記載はないことを確認的に述べたものであって,実施例限定解釈で

ないことは明らかである。

したがって,控訴人の主張は理由がない。

(2) 「『座席表示情報』の解釈の誤り」に対し




ア 控訴人は,「座席表示情報」は「表示イメージ情報」ではなく「表示構

成情報」である旨主張する。

しかし,そもそも原判決は,「座席表示情報」を,ホストコンピュータ

で作成される情報であって座席レイアウトに基づいて座席の利用状況を

表示して各指定座席の利用状況を目視することができるものと解釈して

いるのであって,「表示イメージ情報」と解釈しているわけではない。

イ また,控訴人は,本件各特許発明の「座席表示情報」は,「券情報」と

「発券情報」から作成されるものであり,「座席レイアウト」を統合して

作成されるものではないと主張する。

しかし,本件各特許発明では「券情報」,「発券情報」及び「座席レイ

アウト」を統合して「座席表示情報」を作成することで,初めて各指定座

席の利用状況を目視することができる情報が得られるものである。

すなわち,本件各特許発明においては,各指定座席の利用状況を目視で

きる情報を得るためには,「券情報」と「発券情報」に加えて「座席レイ

アウト」を用いて情報を作成する必要がある。「券情報」と「発券情報」

だけでは,各指定座席の利用状況を目視できる情報を作成することはでき

ない。つまり,「座席レイアウト」を加えて各指定座席の利用状況を目視

できるように加工した情報が,本件各特許発明における「座席表示情報」

なのであって,これは控訴人の主張する「表示イメージ情報」以前の段階

の問題である。

ウ 控訴人は,本件特許の特許請求の範囲の記載の「前記券情報と前記発券

情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウ

トに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段」とは,「『券情

報』と『発券情報』に基づいて,前記座席管理地に設置される指定座席の

レイアウトに基づいて表示するための『座席表示情報』を作成する。」と

いう意味であって,「前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウト




に基づいて表示する」の文脈は,その後ろの「座席表示情報」を修飾して

いるのであって,該座席表示情報の後ろの「を作成する作成手段」に係る

ものではないと主張する。

しかし,上記特許請求の範囲の記載は「・・・手段によって入力された

前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置され

る指定座席のレイアウトに基づいて」であり,「前記券情報と前記発券情

報」と「前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウト」の後ろに同

様に「基づ(く)」という文言が続き,しかも「前記券情報と前記発券情

報とに基づき」と「前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに

基づいて」が「かつ」で結ばれるという,対称的構造になっている。この

対称的構造に照らせば,「前記券情報と前記発券情報とに基づき」と「前

記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて」は,ともに

等しくその後ろの「座席表示情報を作成する手段」に係っていると解さざ

るを得ない。「基づ(く)」という同じ文言が用いられ,しかも「かつ」

で対等に結ばれているという対称的構造にも関わらず,控訴人が主張する

ように,前者は「作成する手段」に係るが,後者は「座席表示情報」に係

ると解することは,不自然かつ作為的な解釈であって,失当である。

エ 控訴人は,「座席表示情報」が「券情報」と「発券情報」から作成され

るものであり,「座席レイアウト」を統合して作成されるものではないこ

とは,本件明細書の段落【0007】及び【0020】にそれぞれ「券情

報と上記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる座席表示情

報」との記載がされていることからも明らかであると主張する。

しかし,当該各記載は,単に指定座席のレイアウトに関する情報に関す

る記載を省略しているにすぎないと解されるから,控訴人の上記主張は失

当である。

オ 控訴人は,本件明細書の段落【0013】の記載が控訴人のクレーム




釈に沿うものである旨主張する。

しかし,控訴人の援用する「ディスプレイ12はCPU11に記憶され

た前記座席表示情報を受けて,当該座席管理地に設置される指定座席のレ

イアウトに基づいて各指定座席の利用状況を表示する」との記載は,ディ

スプレイ12はCPU11から構成される端末機2が,ホストコンピュー

タが座席のレイアウト情報に基づいて作成した各指定座席の利用状況を

目視できる情報である「座席表示情報」を表示するということを述べてい

るにすぎず,これは「各指定座席の利用状況を目視できる情報である『座

席表示情報』は,『端末機』ではなく,『ホストコンピュータ』で作成さ

れる」という被控訴人の主張及び原判決の認定と整合するものである。

したがって,段落【0013】の記載は,控訴人の解釈の妥当性の根拠

となるものとはいえず,控訴人の上記主張には理由がない。

カ 控訴人は,「券情報」と「発券情報」は指定乗車券の情報であることか

ら,そもそも「券情報」と「発券情報」自体が「指定座席のレイアウト情

報」を前提に作成されているものであると主張する。

しかし,控訴人の主張によっても,「券情報」と「発券情報」に基づい

て作成される「座席表示情報」は,「座席レイアウト」の情報を用いて作

成されているということになり,端末機は,ホストコンピュータから伝送

された上記「座席表示情報」を用いて(端末機のディスプレイに)各指定

座席の利用状況を目視することができる情報を表示することができるの

であって,端末機において,「座席表示情報」とそれ以外の他の情報とを

処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示

して,各指定座席の利用状況を目視することができるものとする処理は行

われていないことになる。

これに対して,被告システムでは,前記のとおり,車掌用携帯情報端末

において,「編成パターン情報」と「座席・乗車券情報」(「通過情報」




及び/又は「発売情報」)を統合して,車掌が各指定座席の利用状況を目

視できる情報を作成し,車掌用携帯情報端末の画面に表示するようになっ

ている。すなわち,被告システムにおいては,座席のレイアウトに関する

情報は,「編成パターン情報」に含まれているのであり,編成パターンは,

車掌が車掌用携帯情報端末を操作して指定するようになっている。他方,

被告システムの「座席・乗車券情報」は座席のレイアウト情報を含んでい

ない。言い換えれば,「座席・乗車券情報」は,座席のレイアウト情報を

前提に作成されていない。

したがって,控訴人の上記解釈を前提としても,被告システムは本件各

特許発明技術的範囲に属さないことは明らかである。

キ また,本件各特許発明は,自動改札機を通過しておらず又は発売されて

いない座席についても,列車に存在するすべての座席の「券情報」及び「発

券情報」をホストコンピュータから端末機に送信することを前提とするも

のであるから,本件各特許発明の「座席表示情報」は「1座席当たりのデ

ータ長×座席数」からなる固定長データであることを意味する。

これに対して,被告システムの「座席・乗車券情報」は,実際に自動改

札機を通過した座席の分のみの「通過情報」又は実際に発売された座席の

分のみの「発売情報」がセンターサーバから車掌用携帯情報端末に送信さ

れるものであり,「座席・乗車券情報」(「通過情報」及び/又は「発売

情報」)は可変長データである。すなわち,被告システムにおいては,こ

のように実際に通過又は発売された乗車券の情報のみを「座席・乗車券情

報」としてセンターサーバから車掌用携帯情報端末に送信しているため

に,控訴人の主張するような固定長データの方式の場合と異なり,「座席

・乗車券情報」だけでは座席レイアウトは不明なのである。

この点からも,被告システムが本件各特許発明技術的範囲に属してい

ないことは明らかである。




(3) 「被告システムの構成と構成要件の充足」に対し

ア 被告システムにおいては,各指定座席の利用状況を目視することができ

る情報は,控訴人が本件各特許発明の「端末機」に相当すると主張する「車

掌用携帯端末」において,「通過情報」及び「発売情報」と「編成パター

ン情報」を統合する処理を行うことにより作成されており,控訴人が本件

特許発明の「ホストコンピュータ」に相当すると主張する「センターサ

ーバー」では作成されていない。

つまり,被告システムにおいては,「通過情報」と「発売情報」をセン

ターサーバーから車掌用携帯端末に伝送するだけでは,車掌用携帯端末に

おいて各指定座席の利用状況を目視できる情報を表示することはできず,

そのような情報を表示するためには,最新の座席のレイアウトに関する情

報である「編成パターン情報」が必要不可欠なのである。

したがって,被告システムの「座席・乗車券情報」は,本件各特許発明

の「座席表示情報」には該当しないから,この点に関する控訴人の主張は

失当である。

イ 固定長データと可変長データの相違

前記(2)キで述べたとおり,本件各特許発明の「座席表示情報」は,「1

座席当たりのデータ長×座席数」からなる固定長データであると解すべき

である。このような場合であって初めて,通信回線の負担を軽減するとと

もに端末機の記憶容量と処理速度を従来よりも「半減」させるという作用

効果を奏するものとなるからである。これに対して,被告システムにおい

ては,ある座席について送信される「座席・乗車券情報」は,「通過情報」

又は「発売情報」のどちらか一方のみの場合もあれば,「通過情報」と「発

売情報」の両方の場合もあり,更にはいずれの情報もなければ,送信され

ない。すなわち,被告システムの「座席・乗車券情報」は,実際に自動改

札機を通過した座席の分のみの「通過情報」又は実際に発売された座席の




分のみの「発売情報」であって,車掌が車掌用携帯端末を操作して「座席

・乗車券情報」をセンターサーバーから取得したタイミングにおいて,前

回の操作の後に新たに発生した情報を含めて(第1回目の操作の際はその

時点で発生済みの情報),センターサーバーから車掌用携帯端末に送信さ

れるのであり,「座席・乗車券情報」(「通過情報」及び/又は「発売情

報」)は可変長データである。

したがって,この点においても,被告システムの「座席・乗車券情報」

は,本件各特許発明の「座席表示情報」には該当しない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所も,原判決と同じく,被告システムは本件各特許発明技術的範囲

に含まれないものと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。

1 本件各特許発明の意義

(1) 本件明細書(特許公報,甲2)には次の記載がある(ただし,「発明の詳

細な説明」の段落【0010】は,平成22年3月24日付け訂正認容審決

後のもの〔甲10,11〕)。

ア 特許請求の範囲(下記請求項1〔本件特許発明1〕及び請求項2〔本件

特許発明2〕を構成要件ごとに分説した内容は,原判決4頁8行〜6頁1

0行のとおり。)

・【請求項1】

カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発

券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられ

るホストコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれ

て,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機とから成

る,指定座席を管理する座席管理システムであって,

前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する

入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報




とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウト

に基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,該作成手段に

よって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段

によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,

前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された前記座席表示情報を

入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記座席表示情報

を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表示情

報を表示する表示手段と,

を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。

・【請求項2】

カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発

券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられ

るホストコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれ

て,複数の座席管理地に備えられる端末機とから成る,指定座席を管理

する座席管理システムであって,

前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する

入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報

とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理地識別

情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって

集計された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理

地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情

報を作成する作成手段と,該作成手段によって作成された前記座席表示

情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表

示情報を伝送する伝送手段と,

前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された当該座席管理地識別

情報又は端末機識別情報の前記座席表示情報を入力する入力手段と,該




入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,

該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表示手段

と,

を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。

発明の詳細な説明

・「【従来の技術】従来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,

カードリーダで読取られた座席指定券の券情報及び券売機等で発券さ

れた座席指定券の発券(座席予約)情報等を,例えば列車車内において,

端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,指定座席の利用状況

を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定席利用

状況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。」(段

落【0002】)

・「図2は,前記座席指定席利用状況監視装置に備えられる端末機の概略

図を示すもので,券情報入力15で受けたカードリーダで読取られた座

席指定券の券情報と,発券情報入力16で受けた券売機等で発券された

座席指定券の発券情報等の情報をCPU17に記憶して情報処理して,

各指定座席の使用及び空席等の利用状況をディスプレイ18に表示し

て,該表示を車掌が目視できるようにして,車内検札を自動化した座席

管理装置である。」(段落【0003】)

・【図2】(従来の座席管理システムである座席指定席利用状況監視装置

に備えられる端末機の概略図)





・「このように,前記座席指定席利用状況監視装置は,共に指定座席の使

用及び空席等の利用状況を表示する座席表示情報となり,かつ,車内検

札を自動化するのに絶対不可欠な前記券情報或いは前記発券情報を用

いて,列車車内において各指定座席の利用状況を表示するようにした

(中略)例えばこれ等の両情報を地上の管理センターから受ける場合,

伝送される情報は2種になるために通信回線の負担を1種の場合に比

べて2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度とをともに2倍

にするなどの問題がある。」(段落【0004】)

・「【発明が解決しようとする課題】

本発明が解決しようとする課題は,上記発明の座席指定席利用状況監

視装置は上記券情報と上記発券情報とに基づいて各座席指定席の利用

状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理センターから受ける

場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通信回

線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度とをとも

に2倍にするなどの点にある。」(段落【0005】)

・「【課題を解決するための手段】

上記問題を解決するために,本発明は,上記管理センターに備えられ

るホストコンピュータが,カードリーダで読取られた座席指定券の券情

報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力して,これ等

の両情報に基づいて表示する座席表示情報を作成して,作成された前記

座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定

座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末

機が,前記座席表示情報を入力して表示してするように構成したことを

主要な特徴とする。」(段落【0006】)

・「【作用】

本発明は,これ等の構成によって,上記ホストコンピュータから上記




端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情

報から1つの表示情報となる上記座席表示情報にすることで半減され,

これによって通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減

する。」(段落【0007】)

・「【実施例】

図1 は本発明の座席管理システムのブロック図であって,ホストコ

ンピュータ1 は,カードリーダ( 改札機等) で読取られた座席指定

券の券情報或いは券売機等で発券された座席指定券の発券情報等を管

理する管理センターに備えられて,端末機2 は,ホストコンピュータ

1 と通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備え

られる。」(段落【0008】)

・【図1】(本発明の座席管理システムのブロック図)




・「ホストコンピュータ1において,券情報入力3は前記券情報を受けて

これをCPU6へ入力して,さらに発券情報入力4は前記発券情報を受

けてこれをCPU6へ入力して,制御情報入力5は端末機2から情報の




伝送を指令する伝送指令情報或いは前記座席管理地において発券され

た座席指定席の発券情報等を受けてこれ等の情報をCPU6へ入力す

る。」(段落【0009】)

・「CPU6は,券情報入力3から入力された前記券情報及び発券情報入

力4から入力された前記発券情報それに制御情報入力5から入力され

た前記発券情報等を記憶するとともに,これ等の情報に基づき,かつ,

前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて,例えば

前記券情報及び前記発券情報の両情報又は前記券情報若しくは前記発

券情報が存在するときは「1」(使用席)とし,両情報が存在しないと

きは「0」(空席)として,各指定座席の利用状況を表示する座席表示

情報を作成して,これを記憶するとともに,該座席表示情報を,制御情

報入力5から前記伝送指令情報が入力されたとき表示情報出力8へ出

力する。」(段落【0010】,前記訂正後のもの)

・「ディスプレイ7はCPU6に記憶された前記座席表示情報を受けて表

示し,さらに表示情報出力8は,制御情報入力5が前記伝送指令情報を

受けてCPU6に入力したときCPU6から出力された前記座席表示

情報を通信回線に乗せて端末機2へ伝送する。また操作部9は,CPU

6のプログラムのシーケンスを制御して,前記した各種情報の入力の受

付や,前記座席表示情報を受けて表示されるディスプレイ7の画像をス

クロールする等の操作をする。」(段落【0011】)

・「次に,端末機2において,表示情報入力10は,ホストコンピュータ

1と通信回線で結ばれて,伝送された前記座席表示情報を受けてこれを

CPU11へ入力する。」(段落【0012】)

・「CPU11は表示情報入力10から入力された前記座席表示情報を受

けてこれを記憶するとともに,ホストコンピュータ1へ情報の伝送を指

令する伝送指令情報を記憶する。さらにディスプレイ12はCPU11




に記憶された前記座席表示情報を受けて,当該座席管理地に設置される

指定座席のレイアウトに基づいて各指定座席の利用状況を表示する。」

(段落【0013】)

・「これ等のことから,本発明の座席管理システムは,カードリーダ(改

札機等)で読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券された

座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホスト

コンピュータ1が,前記券情報と前記発券情報,それに,ホストコンピ

ュータ1と通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に

備えられる端末機2からの,当該座席管理地で発券された座席指定券の

発券情報等を受けて,これ等の情報に基づいて,かつ,前記座席管理地

に設置される指定座席のレイアウトに基づいて座席表示情報を作成し

て,これを表示するとともに,作成された座席表示情報を,端末機2か

らの前記座席表示情報の伝送を指令する伝送指令情報を受けて伝送し

て,さらに,端末機2が,ホストコンピュータ1から伝送された前記座

席表示情報を受けてこれを表示するとともに,(略)座席管理者が各指

定座席の利用状況を目視できるようにしている。」(段落【0016】)

・「さらに,端末機2でする前記座席表示情報の表示は,当該座席管理地

に設置される指定座席の各座席ごとの着席されているか否かに係る着

席情報を入力して,該着席情報と前記座席表示情報とに基づいて新たな

座席表示情報を作成して表示して,各指定座席の利用状況の表示をより

正確にする・・・とよい。」(段落【0018】)

・「【発明の効果】

以上説明したように本発明の座席管理システムは,上記管理センター

に備えられるホストコンピュータが,カードリーダ(改札機等)で読取

られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券

情報とを入力して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表示情報を




作成して,作成された前記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと

通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる

端末機へ伝送して,該端末機が前記座席表示情報を入力して表示してす

るようにしたことで,該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前

記券情報と前記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる前

記座席表示情報で実現できるようになり,これによって前記ホストコン

ピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担

と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコスト

ダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。 (段落
」 【0

020】)

(2) 上記記載によれば,本件各特許発明は,「券情報」と「発券情報」という

2種類の情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報が2種

になるために通信回線の負担が1種の場合に比べて2倍になってしまうと

ともに端末機の記憶容量と処理速度も2倍になってしまうという従来技術

の問題点を課題として,これを解決すべく,管理センターに備えられるホス

トコンピュータにおいて,「券情報」及び「発券情報」に基づき,かつ,「座

席管理地の座席レイアウト」に基づいて,1つの表示情報である「座席表示

情報」を作成し,これをホストコンピュータから座席管理地に備えられる端

末機に伝送し,当該端末機が,これを入力して,その表示手段(ディスプレ

イ等)において表示するという構成を採用することによって,前記ホストコ

ンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と

端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウン

が図られ,本発明のシステムの構築を容易にするという効果を達成した発明

であると認めることができる。

したがって,本件各特許発明の「座席表示情報」とは,ホストコンピュー

ターにおいて,「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」と




いった個々の情報を1つの情報に統合することによって,これを端末機に送

信すれば,端末機において他の情報と照合する等の格別の処理を要すること

なく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報と認めるのが相当

である。

2 被告システムの構成

(1) 証拠(甲3,甲4,甲6の1ないし3,甲7,乙6ないし8)及び弁論

の全趣旨によれば,被告システムの構成は次のとおりであることが認められ

る。

ア 被告システムは,自動改札機で読み取られた座席指定券の通過情報と券

売機等で発券された座席指定券の発売情報とを管理するセンターサーバ

ーを管理センターに備え,該センターサーバーと通信回線で結ばれている

車掌用携帯情報端末機とを備える車内改札システムであり,上記センター

サーバーが,前記通過情報と前記発売情報とを入力する入力手段を有して

いる。

イ 被告システムにおいては,「編成パターン情報」(車両及び座席の編成

に関する情報であり,車掌が乗務している列車内で同じ座席配置を有する

車両のパターン数,パターンごとの車両数,各パターンに該当する車両の

号車番号,普通車/グリーン車の別,ABCDE等横列順その他の座席配

置に関するデータ)と「座席・乗車券情報」(号車数,号車内座席数,各

座席番号に対応する乗車券数,当該乗車券に記載された乗車駅等のデータ

であって,「通過情報」〔自動改札機で読み取った座席指定券の乗車日,

列車番号,座席番号,乗降車駅等の情報〕又は「発売情報」〔券売機等で

発券された座席指定券の乗車日,列車番号,座席番号,乗降車駅等の情報〕

のどちらか一方のみからなる場合と,両方の情報を含む場合があるが,そ

れ自体としては,座席のレイアウトに基づき各指定席の利用状況を表示す

るものではない。)という情報があり,それらの情報が別々にセンターサ




ーバーから車掌用携帯情報端末に送信され,座席管理地(列車)の座席レ

イアウトに基づいて座席の利用状況が表示されるものであって,各指定席

の利用状況を目視することができる情報は,車掌用携帯情報端末において

作成されている。

ウ 被告システムにおいて,ある座席について送信される「座席・乗車券情

報」は,「通過情報」又は「発売情報」のどちらか一方のみの場合もあれ

ば,「通過情報」と「発売情報」の両方の場合もあり,更にはいずれの情

報もなければ送信されないものであり,車掌が「座席・乗車券情報」をセ

ンターサーバーから取得したタイミングが,乗客が新幹線自動改札機を通

過した後であり,かつ,当該新幹線自動改札機を通過した駅が座席指定席

券に記載された乗車駅と同じであれば,「通過情報」のみが「座席・乗車

券情報」として車掌用携帯端末に伝送され,さらに,乗客が新幹線自動改

札機を通過済みだが,当該自動改札機を通過した駅が座席指定席券に記載

された乗車駅と異なる場合は,「通過情報」及び「発売情報」の両方が「座

席・乗車券情報」として車掌用携帯端末に伝送されるものである。

(2) 被告システムが本件各特許発明技術的範囲に含まれるか

ア 要件充足につき当事者間に争いのない部分

前記第3,冒頭末尾記載のとおり,被告システムの以下の部分の要件充

足については,当事者間に争いがない。

(ア) 上記(1)アの被告システムの「自動改札機で読み取られた座席指定券

の通過情報」は本件各特許発明の「カードリーダで読取られた座席指定

券の券情報」に,「券売機等で発券された座席指定券の発売情報」は本

件各特許発明の「券売機等で発券された座席指定券の発券情報」 「セ
に,

ンターサーバー」は本件各特許発明の「ホストコンピュータ」に,それ

ぞれ該当する。したがって,被告システムは,構成要件1−A@及び2

−A@を充足する。




(イ) 「指定座席を設置管理する(複数の)特急列車内」は本件特許発明

の「指定座席を設置管理する座席管理地」及び本件特許発明2の「複数

の座席管理地」に,「車掌用携帯情報端末機」は本件各特許発明の「該

ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,・・・端末機」に,それぞ

れ該当する。したがって,被告システムは,構成要件1−AA及び2−

AAを充足する。

(ウ) 被告システムは,前記(ア)及び(イ)の構成から成る車内改札システムで

あり,「指定座席を管理する座席管理システム」である。したがって,

被告システムは,構成要件1−AB及び2−ABを充足する。

(エ) 被告システムは,前記(ア)のセンターサーバーが,前記通過情報と前

記発売情報とを入力する入力手段を有しており,「ホストコンピュータ

が,券情報と発券情報とを入力する入力手段」を有している。したがっ

て,被告システムは,構成要件1−B及び2−B@を充足する。

構成要件1−Cないし1−H及び2−Cないし2−Hの充足性の有無

前記認定のとおり,本件各特許発明の「座席表示情報」とは,ホストコ

ンピューターにおいて,「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイ

アウト」といった個々の情報を1つの情報に統合することによって,これ

を端末機に送信すれば,端末機において他の情報と照合する等の格別の処

理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報

と認められるところ,前記(1)イで認定した被告システムの構成からすれ

ば,被告システムにおいては,センターサーバーから車掌用携帯情報端末

に送信される情報は,「編成パターン情報」と「座席・乗車券情報」とい

う別々の情報であって,本件各特許発明における「座席表示情報」に相当

する情報,すなわち,「端末機において他の情報と照合する等の格別の処

理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情

報」は,上記「編成パターン情報」と「座席・乗車券情報」を統合処理す




ることによって車掌用携帯情報端末において作成されているから,被告シ

ステムはホストコンピュータにおいて本件各特許発明にいう「座席表示情

報」を作成・記憶・伝送するものでなく,かつ,車掌用携帯情報端末は伝

送された上記「座席表示情報」を入力・記憶・表示するものではないと認

められる。

したがって,被告システムは,本件各特許発明構成要件1−Cないし

1−H,2−Cないし2−Hを充足しない。

ウ 控訴人の主張に対する判断

(ア) 原審における控訴人(一審原告)の主張に対する判断は,原判決(3

9頁17行〜41頁下6行)のとおりであるから,これを引用する。

(イ) 当審における控訴人の主張(1)(原判決における実施例限定解釈の誤

り)について

控訴人は,原判決が「他方で,本件明細書には,端末機において,座

席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイ

アウトに基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を

目視することができるものとすることに関する記載はない」と説示され

ていることを理由として,このような認定は,本件明細書の記載のみに

基づき行われているものであって,本件各特許発明の特許請求の範囲

記載に基づかない実施例限定解釈であって不当である旨主張する。

しかし,本件各特許発明の1−B及び1−C並びに2−B@及び2−

Cには,それぞれ「該ホストコンピューターが・・・」「・・・前記券

情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指

定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する・・・」

と記載されているのであって,その文言解釈上,「座席表示情報」は,

端末機に送信される以前に,ホストコンピューターにおいて「券情報」,

「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」に基づいて表示される1つ




の情報として統合処理される情報であると解釈するのが相当であるか

ら,本件各特許発明が「端末機において,座席表示情報とそれ以外の他

の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利

用状況を表示」するものでないことは,特許請求の範囲の文言上明らか

である。

したがって,原判決の上記説示は,特許請求の範囲及び発明の詳細な

説明の各記載によれば,本件各特許発明の「座席表示情報」は「ホスト

コンピュータ」において1つの情報として作成されるものであることが

明らかであり,これに反する記載,すなわち端末機上で1つの表示情報

に統合処理することに関する記載は本件明細書上には存在しない旨を

補足的に述べているにすぎないものというべきであるから,原判決の認

定は本件明細書の記載のみに基づき行われているものであって実施

限定解釈であるとする控訴人の上記主張は,原判決を正解しないもので

あり採用することができない。

(ウ) 当審における控訴人の主張(2)ア(原判決が「座席表示情報」を「表

示イメージ情報」と解釈していることの不当性)について

a 控訴人は,原判決の「『座席表示情報』は,当該情報を端末機に表

示すれば,座席管理地の座席レイアウトに基づいて座席の利用状況が

表示されるものであって,各指定座席の利用状況を目視することがで

きるもの」(原判決36頁6行〜9行)との説示は,ホストコンピュ

ータで作成された「座席表示情報」をディスプレイ等に表示されるイ

メージ情報(表示イメージ情報)として解釈しているが,同解釈は不

当である旨主張する。

しかし,原判決は,「座席表示情報」を,「券情報」及び「発券情

報」に基づき,かつ,「座席レイアウト」に基づいて表示するものと

して作成されたものと認定し,それを端末機に送信後,端末機の表示




手段において表示した際には,座席の利用状況を表示し,各指定座席

の利用状況を目視することができるものと認定しているのであって,

ホストコンピューターから端末機に送信される「座席表示情報」その

ものが目視できる情報(控訴人の主張する「表示イメージ情報」)と

説示しているわけではない。すなわち,「座席表示情報」とは,座席

レイアウトに基づいて座席の利用状況を表示するための情報(被告シ

ステムの「編成パターン情報」に相当する)を含んではいるが,座席

レイアウトのイメージそのものではなく,このことは,原判決が,「座

席表示情報」は,「当該情報を端末機に表示すれば,・・・各指定座

席の利用状況を目視することができるもの」と述べていることからも

明らかである。

したがって,原判決は,「座席表示情報」を控訴人の主張する「表

示イメージ情報」そのものであると認定しているわけではないから,

控訴人の上記主張は前提において誤りであり,採用することができな

い。

b 控訴人は,「座席表示情報」とは具体的にはバイナリ(二進数)デ

ータであると主張するが,本件明細書に記載されたその旨の記載(段

落【0010】)は本件各特許発明の一実施例にすぎず,特許請求の

範囲の文言解釈からすれば,「座席表示情報」をバイナリデータと限

定して解釈する理由は見いだし得ず,したがって,控訴人の上記主張

は,特許請求の範囲発明の詳細な説明に記載された実施例に限定解

釈するものであって,採用することができない。

c 控訴人は,本件明細書の段落【0007】及び【0020】の記載

からしても,「座席表示情報」が「表示構成情報」を意味することは

明らかであると主張する。

しかし,「表示情報」という文言は一義的な概念ではなく,同文言




それ自体からすれば,それは,控訴人が主張するところの「表示イメ

ージ情報」を意味するとも,また,「表示構成情報」を意味するとも,

あるいはその両方を意味するとも解し得る概念であるところ,本件明

細書には「表示情報」に関する定義付けはなく,また,「表示構成情

報」という記載もなく,さらには「表示情報」が「表示構成情報」で

あることを示唆する記載もない。

したがって,本件明細書の段落【0007】の「上記券情報と上記

発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる上記座席表示情

報にする」との記載及び段落【0020】の「前記券情報と前記発券

情報との両表示情報から1つの表示情報となる前記座席表示情報で

実現できるようになり」との記載は,「表示情報」を「表示イメージ

情報」や「表示構成情報」等の意味を含むいわば上位概念として使用

しているものと解することも可能であるから,上記各段落の記載を根

拠に,「座席表示情報」は「表示構成情報」を意味すると結論付ける

控訴人の主張は理由がなく,採用することができない。

d 控訴人は,甲12〜17文献の各記載からすれば,「表示情報」と

の用語が「表示構成情報」として使用されていることは,本件特許の

出願時において,少なくとも技術常識であったから,原判決が「『表

示情報』という用語が一般的に『表示構成情報』を意味すると認める

に足る証拠はない。」と認定したことは誤りである旨主張する。

しかし,前記認定のとおり,本件各特許発明の「座席表示情報」は,

「券情報」,「発券情報」及び「座席レイアウト」に基づいて表示さ

れるものとして作成される情報であるから,これを「券情報」や「発

券情報」と同じレベルの意味で「表示構成情報」ということはできず,

そのように解することは,本件各特許の特許請求の範囲の記載に反す

るから,仮に「表示情報」という用語が一般的に「表示構成情報」を




意味するとしても,そのことと,本件各特許発明における「座席表示

情報」を「券情報」や「発券情報」と同じレベルの意味で「表示構成

情報」と解すべき理由とはならないというべきである。

したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

e 控訴人は,「指定座席のレイアウトに基づいて,座席表示情報を作

成すること」との記載の意味は,多くの座席について「券情報」と「発

券情報」がある中で,個々の座席の「券情報」と「発券情報」に突き

合わせることを説明しているにすぎないと主張する。

しかし,前記のとおり,「座席表示情報」とは,「座席レイアウト」

に基づいて「表示する」ものであって,単に個々の表示構成情報を個

々の座席ごとに突き合わせただけのものでないことは,特許請求の範

囲の文言上明らかであるから,控訴人の上記主張は採用することがで

きない。

(エ) 当審における控訴人の主張(2)イ(「座席表示情報」は,「券情報」

と「発券情報」から作成されるものであること)について

a 控訴人は,本件各特許発明の「座席表示情報」は「券情報」と「発

券情報」から作成されるものであり,「座席レイアウト」を統合して

作成されるものではなく,構成要件1−C及び2−Cの記載を素直に

読めば,「前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管

理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表

示情報を作成する作成手段」とは,「『券情報』と『発券情報』に基

づいて,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づい

て表示するための『座席表示情報』を作成する」ことを意味し,「前

記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示す

る」との文脈はその後ろの「座席表示情報」を修飾しているのであっ

て,該座席表示情報の後ろの「を作成する作成手段」に係るものでは




ないと主張する。

しかし,「前記券情報と前記発券情報とに基づき」と「前記座席管

理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて」とは「かつ」で

接続されていて並列的記載になっていることは文言上明らかである

から,もし本件各特許の特許請求の範囲の記載文言を控訴人が主張す

るように解釈するのであれば,同記載中の「かつ」は不要である。「か

つ」が入っている以上,上記記載は,「・・・に基づき,かつ,・・

・に基づいて・・・を作成する」と解釈するのが素直な文言解釈とい

うべきであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。

そして,この点は,本件明細書の段落【0016】に「・・・ホス

トコンピュータ1が,前記券情報と前記発券情報,それに,・・・端

末機2からの,・・・発券情報等を受けて,これ等の情報に基づいて,

かつ,・・・指定座席のレイアウトに基づいて座席表示情報を作成し

て,これを表示するとともに,作成された座席表示情報を,・・・伝

送して,」と記載されていることによっても裏付けられているという

べきである。

なお,この点は,控訴人が主張するように,「前記券情報と前記発

券情報とに基づき」と「前記座席管理地に設置される指定座席のレイ

アウトに基づいて」の記載がともにその後ろの「表示する」に係ると

解釈した場合も同様である。すなわち,この場合,「券情報」,「発

券情報」,「座席レイアウト」に基づいて表示する情報がホストコン

ピューターにおいて作成されることを意味するが,「券情報」,「発

券情報」,「座席レイアウト」に基づいて「表示する」情報とは,結

局は,「券情報」,「発券情報」,「座席レイアウト」という個々の

情報を統合処理することによって表示される情報に他ならないとい

うべきだからである。




この点について控訴人はさらに,「指定座席のレイアウトに基づい

て」が「表示する」に係る以上,それは「座席表示情報」に「座席の

レイアウトを含む」ということを意味しない旨主張する。

しかし,仮にそうだとすれば,「指定座席のレイアウトに基づいて」

と並列的記載である「前記券情報と前記発券情報とに基づき」も同様

に「座席表示情報」に含まれないことになり,その結果,「座席表示

情報」は何を構成要素として作成されるのか不明になるから,構成要

件1−C及び2−Cは意味をなさなくなる。したがって,控訴人の上

記主張は採用することができない。

そして,上記の文言解釈からすれば,本件各特許発明の「座席表示

情報」は,ホストコンピューターにおいて,「券情報」と「発券情報」

に「指定座席のレイアウト」を統合して作成されるものであることは

疑う余地がないというべきである。

b 控訴人は,本件明細書の段落【0007】及び【0020】には「座

席表示情報」が「券情報」と「発券情報」とから作成されるものであ

ることが説明されていると主張する。

確かに,本件明細書の段落【0007】及び【0020】にはそれ

ぞれ「券情報と発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる座

席表示情報」と記載されている。

しかし,前記aで認定したとおり,本件各特許発明の「座席表示情

報」は,ホストコンピューターにおいて,「券情報」と「発券情報」

に「指定座席のレイアウト」を統合して作成されるものであることは

文言上明らかであるから,当該各記載は,単に指定座席のレイアウト

に関する情報に関する記載を省略しているにすぎないと解すべきで

ある。

したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。




c 控訴人は,本件明細書の段落【0013】の記載に照らせば,「座

席表示情報」とは,最終的に端末機2のディスプレイ12に,当該座

席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示される

ものといえると主張する。

しかし,控訴人の指摘する段落【0013】の記載は,「端末機2」

は,「ホストコンピュータ1」で作成された「座席表示情報」を「受

けて」,その情報すなわち「指定座席のレイアウトに基づいて各指定

座席の利用状況」を「ディスプレイ12」に「表示する」ということ

を意味するにすぎず,端末機において「座席表示情報」とこれとは別

の指定座席のレイアウトに関する何らかの情報とを統合処理してデ

ィスプレイに表示することを意味するものではないから,控訴人の上

記主張は採用することができない。

d 控訴人は,「券情報」と「発券情報」は指定乗車券の情報であるこ

とから,そもそも「券情報」と「発券情報」自体が「指定座席のレイ

アウト情報」を前提に作成されているものであって,このような「座

席表示情報」に,「座席レイアウト情報」を統合するということは,

これと同種の情報を「座席表示情報」に二重に組み込むものであり,

このような情報を端末機に伝送するということは,通信回線に大きな

負荷をかけることを意味し,本件各特許の目的に反する結果となると

主張する。

しかし,「券情報」と「発券情報」自体が「指定座席のレイアウト

情報」を前提に作成されているものであるとの控訴人の上記主張は,

結局のところ,「座席表示情報」はホストコンピューターにおいて「券

情報」と「発券情報」に加えて「座席レイアウト」の情報を統合処理

して作成されていると述べているのと同じであって,単に「券情報」

及び「発券情報」に「座席レイアウト」を統合処理する順序が異なっ




ているにすぎないものである。つまり,控訴人の上記主張は,本件各

特許発明の「座席表示情報」は,ホストコンピューターにおいて,「券

情報」と「発券情報」に「指定座席のレイアウト」を統合して作成さ

れるものであるとの認定を否定する根拠とはならないというべきで

ある。

したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

エ 小括

以上の検討によれば,被告システムは本件各特許発明技術的範囲には

含まれない,ということになる。

3 結論

そうすると,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に

対する本訴請求は理由がないことになるから,これと結論を同じくする原判決

は相当である。

よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部



裁判長裁判官 中 野 哲 弘




裁判官 東 海 林 保




裁判官 矢 口 俊 哉