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事件 平成 22年 (行ケ) 10245号 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2011/10/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年10月24日判決言渡

平成22年(行ケ)第10245号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成23年9月14日

判 決




原 告 トール ゲゼルシャフト ミット

ベシュレンクテル ハフツング



訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二

訴訟代理人弁理士 松 任 谷 優 子




被 告 ローム アンド ハース カンパニー



訴訟代理人弁護士 片 山 英 二

同 本 多 広 和

訴訟代理人弁理士 加 藤 志 麻 子

同 田 村 恭 子

主 文

1 特許庁が無効2008−800291号事件について平成22年3月29日

にした審決のうち,「特許第3992433号の請求項1〜7,18に係る発

明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め

る。




事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨。

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,発明の名称を「相乗作用を有する生物致死性組成物」とする特許第39

92433号(出願日:平成10年8月20日,パリ条約による優先権主張国:欧

州特許庁,優先日:平成9年8月20日,登録日:平成19年8月3日)に係る特

許の特許権者である。

被告は,平成20年12月25日,上記特許の請求項1ないし18に係る発明の

特許(以下「本件特許」という。)について無効審判(無効2008−80029

1号事件)の請求をした。

特許庁は,平成22年3月29日,「特許第3992433号の請求項1〜7,

18に係る発明についての特許を無効とする。特許第3992433号の請求項8

〜17に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」

という。)をし,その謄本は,同年4月8日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲

本件特許の明細書(以下,図面と併せ,「本件明細書」という。)の特許請求の

範囲(請求項の数18)の請求項1ないし18の記載は,次のとおりである(以下,

請求項1に係る発明を「本件発明1」のようにいい,本件発明1ないし18をまと

めて「本件発明」という。)。

【請求項1】

少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オン(判決注:以下,明細書の記載を転記する場合も含めて,「M

IT」と表記することがある。)である,病原性微生物によって感染されるものに

付与される生物致死性組成物において,より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイ




ソチアゾリン−3−オン(以下,明細書の記載を転記する場合も含めて,「BIT」

と表記することがある。)を含み,5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−

オン(以下,明細書の記載を転記する場合も含めて,「CMIT」と表記すること

がある。)を含まないことを特徴とする生物致死性組成物。

【請求項2】

2−メチルイソチアゾリジン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−

オンとを,50〜1:1〜50の重量比で含むことを特徴とする請求項1記載の生

物致死性組成物。

【請求項3】

2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オ

ンとを,15〜1:1〜8の重量比で含むことを特徴とする請求項2記載の生物致

死性組成物。

【請求項4】

2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オ

ンとを,生物致死性組成物の合計量に対して1〜20重量%含むことを特徴とする

請求項1,2または3記載の生物致死性組成物。

【請求項5】

極性および/または非極性の液状媒体を含むことを特徴とする請求項1,2,3

または4記載の生物致死性組成物。

【請求項6】

極性の液状媒体として,水,炭素数1〜4の脂肪族アルコール,グリコール,グ

リコールエーテル,グリコールエステル,ポリエチレングリコール,ポリプロピレ

ングリコールおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれた1種ま

たは2種以上の混合物を含むことを特徴とする請求項5記載の生物致死性組成物。

【請求項7】

極性の液状媒体が水であり,組成物のpHが7〜9であることを特徴とする請求




項6記載の生物致死性組成物。

【請求項8】

非極性の液状媒体として,キシレンおよび/またはトルエンを含むことを特徴と

する請求項5記載の生物致死性組成物。

【請求項9】

活性殺菌剤として,3−ヨード−2−プロピニル−N−ブチルカルバメートを追

加的に含むことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7または8記載の生

物致死性組成物。

【請求項10】

2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オ

ンとの組み合わせと,3−ヨード−2−プロピニル−N−ブチルカルバメートとの

重量比が,1:10〜100:1であることを特徴とする請求項9記載の生物致死

性組成物。

【請求項11】

活性殺菌剤として,2−n−オクチルイソチアゾリン−3−オンを追加的に含む

ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9または10記載の生

物致死性組成物。

【請求項12】

2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オ

ンとの組み合わせと,2−n−オクチルイソチアゾリン−3−オンとの重量比が,

1:10〜100:1であることを特徴とする請求項11記載の生物致死性組成物。

【請求項13】

活性殺菌剤として,ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド源を追加的に含む

ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11または

12記載の生物致死性組成物。

【請求項14】




2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オ

ンとの組み合わせと,ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド源との重量比が,

1:100〜10:1であることを特徴とする請求項13項記載の生物致死性組成

物。

【請求項15】

活性殺菌剤として,2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールを追加

的に含むことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,1

1,12,13または14記載の生物致死性組成物。

【請求項16】

2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オ

ンとの組み合わせと,2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールとの重

量比が,1:10から10:1であることを特徴とする請求項15記載の生物致死

性組成物。

【請求項17】

2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オ

ンとの重量比が1:1であることを特徴とする請求項9,10,11,12,13,

14,15または16記載の生物致死性組成物。

【請求項18】

病原性微生物を制御するための,請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,

10,11,12,13,14,15,16または17記載の生物致死性組成物の

用途。

3 審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下のと

おりである。

(1) 本件発明1ないし3は,特開平6−138615号公報(甲1)記載の発明

であるから,特許法29条1項3号に該当する。本件発明4及び7は,甲1記載の




発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,同条2項に該

当する。本件発明5,6及び18は,甲1記載の発明であるか又は同発明に基づい

て当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同条1項3号又は同条

2項に該当する。以上により,本件発明1ないし7及び18は,無効とすべきであ

る。本件発明8ないし17に係る特許については,無効とすべき理由を認めること

はできない。

(2) 審決は,甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)の内容を以下

のとおり認定した。

ア 「少なくとも2つの活性な殺菌・殺カビ剤を含み,活性な殺菌・殺カビ剤の

ひとつが2−メチルイソチアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,

1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを含み,ゼラチン1kgあたり2−メチ

ルイソチアゾリン−3−オン及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを0.

5gずつ含有することを特徴とする生物致死性組成物。」(審決書13頁19行〜

24行)の発明(以下「甲1発明1」という。)

イ 「少なくとも2つの活性な殺菌・殺カビ剤を含み,活性な殺菌・殺カビ剤の

ひとつが2−メチルイソチアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,

1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを含み,ゼラチン1kgあたり2−メチ

ルイソチアゾリン−3−オン及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを0.

5gずつ含有することを特徴とする生物致死性組成物の用途。」(審決書13頁2

7行〜32行)の発明(以下「甲1発明2」という。)

ウ 「少なくとも2つの活性な活性な殺菌・殺カビ剤を含み,活性な殺菌・殺カ

ビ剤のひとつが2−メチルイソチアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物に

おいて,1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを含み,水又は例えばアルコー

ル類(メタノール,エタノール,イソプロパノール等),ケトン類(アセトン等),

グリコール類(エチレングリコール,プロピレングリコール等),エステル類(酢

酸エチル等)等の有機溶媒のうち写真性能に悪影響をおよぼさない溶媒に溶解した




ことを特徴とする生物致死性組成物。」(審決書14頁8行〜14行)の発明(以

下「甲1発明3」という。)

(3) 本件発明1と甲1発明1との対比判断

ア 一致点

少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,2−べンゾイソチ

アゾリン−3−オンを含むことを特徴とする生物致死性組成物(審決書14頁28

行〜31行)

イ 一応の相違点

(ア) 生物致死性組成物について,前者では「病原性微生物によって感染され

るものに付与される」と特定されているのに対し,後者では,そのような特定がな

されていない点

(イ) 前者では「より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3

−オンを含」むと特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされてい

ない点

(ウ) 前者では「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まな

い」と特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていない点(審

決書14頁32行〜15頁3行)

ウ 特許法29条1項3号該当性の判断

(ア) 相違点(ア)について

甲1発明1の生物致死性組成物は,病原性微生物によって感染されるものに付与

される生物致死性組成物であるといえるから,上記相違点(ア)は実質的な相違で

はない。

(イ) 相違点(イ)について

甲1発明1においても,生物致死性組成物に2−メチルイソチアゾリン−3−オ

ンと1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンとの両者が含まれているから,相違




点(イ)は実質的な相違ではない。

(ウ) 相違点(ウ)について

甲1発明1は,「少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつ

が2−メチルイソチアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,

2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを含むことを特徴とする生物致死性組成物。」

であって,甲1発明1には,5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを

含有させるとの記載はない。また,甲1には,2−メチルイソチアゾリン−3−オ

ンと5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンである5−クロロ−2−メ

チル−4−イソチアゾリン−3−オンとは別の化合物として記載されており,実施

例においても2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−べンゾイソチアゾリ

ン−3−オンとを含む例は記載されているが,この例において,5−クロロ−2−

メチルイソチアゾリン−3−オンを含ませるとの記載はない。よって,本件明細書

参酌しても,形式的には,相違点(ウ)についての相違はない。

さらに,本件発明1において「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オ

ンを含まない」ことの実質的な意味を検討するに,本件明細書(段落【0021】,

【0034】)及び引用に係る米国特許第5466818号の明細書の記載によれ

ば,2−メチルイソチアゾリン−3−オンは,5−クロロ−2−メチルイソチアゾ

リン−3−オンの塩酸塩と2−メチルイソチアゾリン−3−オンの塩酸塩との混合

物を分離することにより得られるものであって,2−メチルイソチアゾリン−3−

オンには,5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンが含有されているも

のと認められる。そして,2−メチルイソチアゾリン−3−オンには,5−クロロ

−2−メチルイソチアゾリン−3−オンが0.4/98=1/245未満含まれて

いるものは,実質的に純粋な2−メチルイソチアゾリン−3−オンであるとしてい

る。

本件明細書には,「この方法で得た反応生成物を,たとえばカラムクロマトグラ

フィーで精製してもよい。」と記載されているが,カラムクロマトグラフィーによ




る精製でも特定の物質を完全に除去することはできないことは当業者の常識である

から,本件発明において,「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを

含まない」とは,実質的に5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含

まないを意味するものと認められる。

そうすると,甲1発明1において2−メチルイソチアゾリン−3−オンに不純物

として5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンが仮にわずかに含まれて

いるとしても,本件発明においても2−メチルイソチアゾリン−3−オンに5−ク

ロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンは実質的に含有しない,言い換えれば,

2−メチルイソチアゾリン−3−オンに5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−

3−オンをわずかな量含有することを許容するものであるから,2−メチルイソチ

アゾリン−3−オンに含まれる5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オン

につき,両者の含有量の差違が明らかにされなければ,本件発明の2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンと甲1発明1の2−メチルイソチアゾリン−3−オンとに差

違があるものとすることはできず,相違点(ウ)については,実質的に相違しない

ものである。

そうしてみると,本件発明1と甲1発明1とは,「少なくとも2つの活性な殺菌

剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソチアゾリン−3−オンである,

病原性微生物によって感染されるものに付与される生物致死性組成物において,よ

り活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを含み,5−クロ

ロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まないことを特徴とする生物致死性

組成物。」で一致し,異なるところがない。・・・以上のとおり,本件発明1は,

その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において頒布された甲1記載の発明で

あるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

(審決書17頁22行〜18頁19行)。

(4) 本件発明2及び3と甲1発明1との対比判断

ア 一致点




少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,2−べンゾイソチ

アゾリン−3−オンを含み,2−メチルイソチアゾリジン−3−オンと1,2−べ

ンゾイソチアゾリン−3−オンとを,1:1の重量比で含むことを特徴とする生物

致死性組成物。(審決書18頁下から6行〜2行)

イ 一応の相違点

(エ)生物致死性組成物について,前者では「病原性微生物によって感染される

ものに付与される」と特定されているのに対し,後者では,そのような特定がなさ

れていない点

(オ)前者では「より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3−

オンを含」むと特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていな

い点

(カ)前者では「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まない」

と特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていない点(審決書

19頁1行〜9行)

ウ 特許法29条1項3号該当性の判断

上記相違点(エ)ないし(カ)については,上記(3)ウで検討した理由と同様の理

由により,実質的に異なるものではない。よって,本件発明2及び3は,その出願

前(優先日前)に日本国内又は外国において頒布された甲1記載の発明であるから,

特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。

(5) 本件発明4と甲1発明1との対比判断

ア 一致点

少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,2−べンゾイソチ

アゾリン−3−オンを含むことを特徴とする生物致死性組成物。(審決書19頁2

4行〜27行)




イ 一応の相違点

(キ) 生物致死性組成物について,前者では「病原性微生物によって感染され

るものに付与される」と特定されているのに対し,後者では,そのような特定がな

されていない点

(ク)前者では「より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3−

オンを含」むと特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていな

い点

(ケ) 前者では「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まな

い」と特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていない点

(コ) 前者では,「2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイ

ソチアゾリン−3−オンとを,生物致死性組成物の合計量に対して1〜20重量%

含む」のに対して,後者では,「ゼラチン1kgあたり2−メチルイソチアゾリン

−3−オン及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを0.5gずつ含有する」

点(審決書19頁29行〜20頁7行)

ウ 特許法29条2項該当性の判断

上記相違点(キ)ないし(ケ)については,上記(3)ウで検討した理由と同様の理

由により,実質的に異なるものではない。

上記相違点(コ)について 甲第1号証には,一般式(1)〜(3)の化合物を

親水性コロイド1kg 当り0.05g〜50g添加すること(摘記(1e))が記載され

ており,2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−

3−オンを親水性コロイドは,一般式(2)及び(3)に該当するものである。ま

た,添加量は,親水性コロイドに対して0.005〜5%に相当する。ゼラチンは

親水性コロイドであって,ゼラチンが生物致死性組成物としての直接ポジカラー感

光材料のほぼ全重量を占めるものである。そして,ゼラチンに対して2−メチルイ

ソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを1〜5%含

有させた場合に,生物致死性組成物に含まれる両者の割合は,約1〜約5%になり,




本件発明4に一致する。

この添加量は,防菌,防ばい効果を目的として添加するものであるから,甲1発

明1において,2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾ

リン−3−オンをゼラチンに対して1〜5%,すなわち,生物致死性組成物に対し

て,約1〜約5%添加することは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

そして,本件発明4において,「2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2

−ベンゾイソチアゾリン−3−オンとを,生物致死性組成物の合計量に対して1〜

20重量%含むこと」による格別の作用効果も見いだせず,本件発明4の効果が甲

1発明1に記載された事項から予測されるところを超えて優れているとはいえな

い。

したがって,本件発明4は,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容

易に発明をすることができたものである。・・・以上のとおり,本件発明4は,そ

の出願前(優先日前)に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載さ

れた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許

第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。(審決書20頁1

1行〜21頁1行)

(6) 本件発明5及び6と甲1発明3との対比判断

ア 本件発明5と甲1発明3との一致点

少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,2−べンゾイソチ

アゾリン−3−オンを含み,極性の液状媒体を含むことを特徴とする生物致死性組

成物。(審決書21頁23行〜26行)

イ 本件発明6と甲1発明3との一致点

少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,2−べンゾイソチ

アゾリン−3−オンを含み,極性の液状媒体として水を含むことを特徴とする生物




致死性組成物。(審決書21頁27行〜30行)

ウ 一応の相違点

(サ)生物致死性組成物について,前者では「病原性微生物によって感染される

ものに付与される」と特定されているのに対し,後者では,そのような特定がなさ

れていない点

(シ)前者では「より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3−

オンを含」むと特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていな

い点

(ス)前者では「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まない」

と特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていない点

(セ)前者では,「2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソ

チアゾリン−3−オンとを,生物致死性組成物の合計量に対して1〜20重量%含

む」のに対して,後者では,「ゼラチン1kgあたり2−メチルイソチアゾリン−

3−オン及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを0.5gずつ含有する」

点(審決書21頁下から6行〜22頁10行)

エ 特許法29条2項該当性の判断

上記相違点(サ)ないし(ス)については,上記(3)ウで検討した理由と同様の理

由により,実質的に異なるものではない。

上記相違点(セ)については,上記(5)ウで検討した理由と同様の理由により,甲

1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。

よって,本件発明5及び6は,その出願前(優先日前)に日本国内又は外国にお

いて頒布された甲1記載の発明であるから特許法29条1項3号に該当し,又は,

同じく甲1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ

るから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。(審決書

22頁12行〜22行)

(7) 本件発明7と甲1発明3との対比判断




ア 一致点

少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,2−べンゾイソチ

アゾリン−3−オンを含み,極性の液状媒体として水を含むことを特徴とする生物

致死性組成物。(審決書23頁1行〜5行)

イ 相違点

(ソ)生物致死性組成物について,前者では「病原性微生物によって感染される

ものに付与される」と特定されているのに対し,後者では,そのような特定がなさ

れていない点

(タ)前者では「より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3−

オンを含」むと特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていな

い点

(チ)前者では「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まない」

と特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていない点

(ツ)前者では,「組成物のpHが7〜9である」と特定されているのに対して,

後者ではそのような特定がなされていない点

(テ)前者では,「2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソ

チアゾリン−3−オンとを,生物致死性組成物の合計量に対して1〜20重量%含

む」のに対して,後者では,「ゼラチン1kgあたり2−メチルイソチアゾリン−

3−オン及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを0.5gずつ含有する」

点(審決書23頁8行〜25行)

ウ 特許法29条2項該当性判断

上記相違点(ソ)ないし(チ)については,上記(3)ウで検討した理由と同様の理

由により,実質的に異なるものではない。

上記相違点(ツ)について 直接ポジカラー感光材料は,強酸性又は強アルカリ

性の状態で保管又は使用するものではなく,2−メチルイソチアゾリン−3−オン




及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを水又は有機溶媒に溶解する際にも,

強酸性又は強アルカリ性の溶解状態とすることはない。そうすると,2−メチルイ

ソチアゾリン−3−オン及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを水に溶解

させた溶液の組成物において,生物致死性を保持させるために組成物のpHを中性

付近の7〜9とすることは,当業者が適宜なし得ることである。上記相違点(テ)

については,上記「オ」の「オ−2」(判決注:前記(5)ウ)で検討した理由と同様

の理由により,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をする

ことができたものである。そして,本件発明7において,「組成物のpHが7〜9

であること」による格別の作用効果も見いだせず,本件発明7の効果が甲1発明3

に記載された事項から予測されるところを超えて優れているとはいえない。

したがって,本件発明7は,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容

易に発明をすることができたものである。・・・以上のとおり,本件発明7は,そ

の出願前(優先日前)に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載さ

れた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許

第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。(審決書23頁2

7行〜24頁12行)

(8) 本件発明18と甲1発明2との対比判断

ア 一致点

少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンである,生物致死性組成物において,1,2−べンゾイソチ

アゾリン−3−オンを含み,2−メチルイソチアゾリジン−3−オンと1,2−べ

ンゾイソチアゾリン−3−オンとを,1:1の重量比で含むことを特徴とする生物

致死性組成物の用途。(審決書24頁25行〜29行)

イ 相違点

(ト)前者では生物致死性組成物の用途が「病原性微生物を制御するための」と

特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていない点




(ナ)生物致死性組成物について,前者では「病原性微生物によって感染される

ものに付与される」と特定されているのに対し,後者では,そのような特定がなさ

れていない点

(ニ)前者では「より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3−

オンを含」むと特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていな

い点

(ヌ)前者では「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まない」

と特定されているのに対し,後者ではそのような特定がなされていない点

(ネ)前者では,「2−メチルイソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソ

チアゾリン−3−オンとを,生物致死性組成物の合計量に対して1〜20重量%含

む」のに対して,後者では,「ゼラチン1kgあたり2−メチルイソチアゾリン−

3−オン及び1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オンを0.5gずつ含有する」



(ノ)前者では,「組成物のpHが7〜9である」と特定されているのに対して,

後者ではそのような特定がなされていない点(審決書24頁下から4行〜25頁1

8行)

ウ 特許法29条2項該当性の判断

相違点(ト)(審決25頁20行,21行の「相違点(テ)」及び同26行,2

7行の「相違点(ツ)」は,いずれも「相違点(ト)」の誤記と認める。)につい

ては,甲1発明1の生物致死性組成物は,病原性微生物によって感染されるものに

付与される生物致死性組成物であるといえ,生物致死性とは,微生物を死に至らし

めること,すなわち,その存在量を制御するためのものといえる。そうすると,甲

1発明2における生物致死性組成物は,「病原性微生物を制御するための」ものと

いえるから,相違点(ト)は実質的な相違ではない。

相違点(ナ)ないし(ヌ)については(審決中,25頁28行の「上記相違点(ト)

〜(ニ)」とあるのは「上記相違点(ナ)〜(ヌ)」の誤記と認める。),前記(3)




ウで検討した理由と同様の理由により,実質的に異なるものではない。

上記相違点(ネ)については,前記(5)ウで検討した理由と同様の理由により,甲

1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

上記相違点(ノ)については,上記(7)ウで検討した理由と同様の理由により,甲

1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって,本件発明18は,その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において

頒布された甲1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの

であるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。(審

決書25頁20行〜26頁4行)

第3 当事者の主張

1 取消事由に係る原告の主張

審決は,本件発明1の「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含

まないことを特徴とする」という構成の技術的意義を誤り,これに対応する甲1発

明の構成を看過した結果,甲1発明と本件発明1の相違点(ウ),本件発明2及び

3との相違点(カ),本件発明4との相違点(ケ),本件発明5及び6との相違点

(ス),本件発明7との相違点(チ)及び本件発明18との相違点(ヌ)について

の認定を誤り,新規性の判断を誤った。

(1) 取消事由1(相違点(ウ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明1に関して,相違点(ウ)「5−クロロ−2−メチルイソチア

ゾリン−3−オンを含まない」について,本件発明は「2−メチルイソチアゾリン

−3−オンに5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンをわずかな量含有

することを許容するものである」と認定した上で,「2−メチルイソチアゾリン−

3−オンに含まれる5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンにつき,両

者の含有量の差違が明らかにされなければ,本件発明の2−メチルイソチアゾリン

−3−オンと甲1発明1の2−メチルイソチアゾリン−3−オンとに差違があるも

のとすることはできず,相違点(ウ)については,実質的に相違しないものである。」




と判断した(審決書17頁30行〜18頁8行)。

しかし,審決の判断には誤りがある。

すなわち,新規性とは,引用例に本件発明が開示されているか否か,換言すれば,

本件発明と引用発明が区別できるか否かという問題であるから「両者の含有量の差

違」が具体的数値として明らかにされなくても,両発明を区別できれば,新規性

否定されない。

2−メチルイソチアゾリン−3−オン(MIT)と5−クロロ−2−メチルイソ

チアゾリン−3−オン(CMIT)は,いずれも古くから用いられているイソチア

ゾロン系の抗微生物剤で,両者の構造的な相違は5位の塩素の有無のみである。M

ITはバクテリアに対しては良好な活性を示すが,Aspergillus niger などの真菌

類(カビ)に対する活性は小さく,そのMICはバクテリアに対するMICの50

〜100倍程度になる。一方,CMITは非常に広いスペクトルをもち,バクテリ

アから真菌類(カビ),そして藻類に対しても高い抗微生物活性を有する。一般的

に,CMITの抗微生物活性はMITに比較して400−500倍とされている。

CMITほど広いスペクトル(広範囲の微生物に対する効果)を有する抗微生物剤

はなく,それゆえCMITは何年もの間,多くの物質,とくに塗料に加工される高

分子エマルジョンに使用される保存剤として標準的なものであった。

通常の工業的生産過程においては,まず,CMIT:MIT=3:1の混合物が

得られる。しかし,MITがアレルギーや過敏性等の問題が極めて低い安全な殺菌

剤であるのに対し,CMITは塩素を含み,アレルギー反応や過敏反応を引き起こ

す。また,多くの国々では,産業排水中のAOX値(有機塩素の濃度等)に法的な

規制を設けており,CMITを含む製品は特定の表示が求められている。CMIT

は優れた抗微生物剤であるが,こうした問題のため,その含有量を減らすことが望

まれ,MITを主成分としてわずかなCMITを含む製品である「Kordek(コ

ーデック)」が開発された(47重量%のMITと0.37重量%のCMITを含

む)。Kordekは,多くの場合良好な結果を示したが,その抗菌効果の大半は




CMITによるものであった。CMITは,MITに比較して格段に高い抗菌活性

を有し,わずか1.2%存在する(MIT98.8%中)だけでも高い相乗的効果

を発揮するからである。CMITは,安全性や環境面から減量が望まれるものの,

その広範なスペクトルと強力な抗微生物活性から,生物致死性組成物にとって必要

な存在であった。

本件発明は,単独での抗微生物活性はあまり高くないMITと1,2−べンゾイ

ソチアゾリン−3−オン(BIT)を組み合わせることで,その相乗効果により,

広い抗菌スペクトルと高い抗菌活性を達成した点に第一の特徴がある。MITは真

菌類(カビ)に対する効果は小さく,BITも,ある種のものを除いて,真菌類に

対する効果は小さい。しかし,MITとBITを同時に使用すると,それぞれ単独

では効果のない真菌類(カビ)に対しても良好な抗微生物効果を示し,CMITに

匹敵する高い抗微生物活性と広いスペクトル(広範囲の微生物に対する効果)を有

するようになる。MITとBITの相乗効果によって,当時一般的であった“CM

ITを含むMIT”から,その抗微生物活性を維持したままCMITを除去するこ

とが可能になった。本件発明は,CMITを含まないことにより,CMITに起因

する人体や環境に対する悪影響を排除した。

本件優先日当時,“CMITを含まないMIT”やその製造方法は公知であった

が,製品としての“5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オン(CMIT)

を含まない2−メチルイソチアゾリン−3−オン(MIT)”は市販されておらず,

単にMITと言えば,それは通常“CMITを含むMIT”を意味するものであっ

た。「5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを含まない」との要件は,

こうした本件優先日当時一般に用いられていた“CMITを含むMIT”と区別す

るために加えられた記載である。それゆえ,単にMITとしか記載されていない甲

1発明は,「CMITを含まない」という要件によって,本件発明と形式的に区別

される。

また,「CMITを含まない」とは,「実質的にCMITを含まない」ことであ




り,それは「微生物学的に活性な量のCMITを含まない」ことを意味する。そし

て,この要件によって,本件発明と甲1発明は実質的にも区別される。すなわち,

甲1発明のMITは,CMITの存在を裏付ける防カビ効果(Aspergillus niger

に対する効果)によって本件発明と明確に区別される。

したがって,不可避的に存在するCMITの「含有量」を具体的に明らかにしな

くても,本件発明と甲1発明を区別することは可能であり,本件発明の新規性を否

定することはできないから,本件発明の新規性を否定した審決の判断には誤りがあ

る。

(2) 取消事由2(相違点(カ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明2及び3に関して,相違点(エ)〜(カ)を認定した上で,「相

違点(エ)〜(カ)については,上記(ウ)の「ウ−2」で検討した理由と同様の

理由により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書19頁11,

12行)。

しかし,相違点(カ)は,取消事由1で述べた相違点(ウ)に相当するものであ

り,すべて取消事由1で主張したことが妥当する。したがって,審決は,相違点(カ)

の認定を誤り,その判断を誤ったものである。

(3) 取消事由3(相違点(ケ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明4に関して,相違点(キ)〜(コ)を認定した上で,「相違点

(キ)〜(ケ)については,上記(ウ)の「ウ−2」で検討した理由と同様の理由

により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書20頁9,10

行)。

しかし,相違点(ケ)は,取消事由1で述べた相違点(ウ)に相当するものであ

り,すべて取消事由1で主張したことが妥当する。したがって,審決は,相違点(ケ)

の認定を誤り,その判断を誤ったものである。

(4) 取消事由4(相違点(ス)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明5及び6に関して,相違点(サ)〜(セ)を認定した上で,「相




違点(サ)〜(ス)については,上記(ウ)の「ウ−2」で検討した理由と同様の

理由により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書22頁12,

13行)。

しかし,相違点(ス)は,取消事由1で述べた相違点(ウ)に相当するものであ

り,すべて取消事由1で主張したことが妥当する。したがって,審決は,相違点(ス)

の認定を誤り,その判断を誤ったものである。

(5) 取消事由5(相違点(チ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明7に関して,相違点(ソ)〜(テ)を認定した上で,「相違点

(ソ)〜(チ)については,上記(ウ)の「ウ−2」で検討した理由と同様の理由

により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書23頁27,2

8行)。

しかし,相違点(チ)は,取消事由1で述べた相違点(ウ)に相当するものであ

り,すべて取消事由1で主張したことが妥当する。したがって,審決は,相違点(チ)

の認定を誤り,その判断を誤ったものである。

(6) 取消事由6(相違点(ヌ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明18に関して,相違点(ト)〜(ノ)を認定した上で,「相違

点(ト)〜(ノ)については,上記(ウ)の「ウ−2」で検討した理由と同様の理

由により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書25頁28,

29行)。

しかし,相違点(ヌ)は,取消事由1で述べた相違点(ウ)に相当するものであ

り,すべて取消事由1で主張したことが妥当する。したがって,審決は,相違点(ヌ)

の認定を誤り,その判断を誤ったものである。

2 被告の反論

(1) 取消事由1に対し

本件明細書には,「実質的にCMITを含まない」とはどの程度のCMIT量を

含まないことを意味するのか,あるいは,「実質的にCMITを含まないMIT」




をどのように得るかについて記載がなく,かつ,本件発明1に対応した実施例は,

単なるMITとBITの組み合わせを開示するにすぎない。

本件発明1に対応するMITとBITからなる実施例は,優先基礎明細書の時点

から記載されてはいるが,当該優先基礎明細書には,「CMITを含まない」との

技術的構成についての記載はなく,CMITを含ないとの点は,発明の解決すべき

課題ではなかった。

甲1にもMITとBITの組み合わせからなる組成物が記載されており,甲1発

明を解釈するに当たり,本件発明1と同様,優先日時点における当業者の技術常識

参酌されるべきであるから,本件発明1と甲1発明とを区別するべき根拠はない。

(2) 取消事由2ないし6に対し

原告は,本件発明2ないし7,18に関して,取消事由2ないし6を主張するが,

その内容は,すべて,取消事由1と同様である。そうすると,取消事由1に理由が

ないことは,上記(1)で述べたとおりであるから,取消事由2〜6も同様の理由

により理由がない。

(3) 以上によれば,審決を取り消すべき理由はない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「CMIT(5−

クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オン)を含まない」との技術的構成によ

り限定される旨の記載がされているのに対し,甲1には,CMITが含有されたこ

とによる問題点(解決課題)及び解決手段等の言及は一切なく,したがって「CM

ITを含まない」との技術的構成によって限定するという技術思想に関する記載又

は示唆は何らされていないにもかかわらず,審決が,本件発明1は甲1発明1であ

るとして,特許法29条1項3号に該当する(新規性を欠く)とした判断には,少

なくとも,新規性を欠くとした判断の論理及び結論に誤りがあると解する。

その理由は,以下のとおりである。

特許法29条1項は,特許出願前に,公知の発明,公然実施された発明,刊行物




に記載された発明を除いて,特許を受けることができる旨を規定する。出願に係る

発明(当該発明)は,出願前に,公知,公然実施,刊行物に記載された発明である

ことが認められない限り(立証されない限り),特許されるべきであるとするのが

同項の趣旨である。

当該発明と出願前に公知の発明等(以下「公知発明」という場合がある。)を対

比して,公知発明が,当該発明の特許請求の範囲に記載された構成要件のすべてを

充足する発明である場合には,当該発明は特許を受けることができないのはいうま

でもない(当該発明は新規性を有しない。)。これに対して,公知発明が,当該発

明の特許請求の範囲に記載された構成要件の一部しか充足しない発明である場合に

は,当該発明は特許を受けることができる(当該発明は新規性を有する。)。ただ

し,後者の場合には,公知発明が,「一部の構成要件」のみを充足し,「その他の

構成要件」について何らの言及もされていないときは,広範な技術的範囲を包含す

ることになるため,論理的には,当該発明を排除していないことになる。したがっ

て,例えば,公知発明の内容を説明する刊行物の記載について,推測ないし類推す

ることによって,「その他の構成要件についても限定された範囲の発明が記載され

ているとした上で,当該発明の構成要件のすべてを充足する」との結論を導く余地

がないわけではない。しかし,刊行物の記載ないし説明部分に,当該発明の構成要

件のすべてが示されていない場合に,そのような推測,類推をすることによっては

じめて,構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条

1項所定の文献に記載された発明ということはできない。仮に,そのような場合に

ついて,同法29条1項に該当するとするならば,発明を適切に保護することが著

しく困難となり,特許法が設けられた趣旨に反する結果を招くことになるからであ

る。上記の場合は,進歩性その他の特許要件の充足性の有無により特許されるべき

か否かが検討されるべきである。

上記の観点から,新規性を否定した審決の当否を検討する。

1 事実認定




(1)本件明細書の記載等

ア 特許請求の範囲の記載

本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「少なくとも2つの活性な

殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつが2−メチルイソチアゾリン−3−オン(M

IT)である,病原性微生物によって感染されるものに付与される生物致死性組成

物において,より活性な殺菌剤として1,2−べンゾイソチアゾリン−3−オン(B

IT)を含み,5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オン(CMIT)を

含まないことを特徴とする生物致死性組成物。」である。

発明の詳細な説明の記載

本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(甲45)。

発明の詳細な説明】【0001】本発明は,有害な微生物に影響を与えられる

ものへの付加剤としての生物致死性組成物に関するものである。より詳細には,本

発明は,相乗的に相互作用する少なくとも2つの活性な殺生物性物質を有する生物

致死性組成物に関するものであり,該活性な物質のうちの1つが2−メチルイソチ

アゾリン−3−オンであることを特徴とするものである。

【0002】生物致死性剤は多くの分野で用いられており,たとえば,有害なバク

テリア,真菌類,または藻類を抑制するために使用される。そのような組成物中に

おける4−イソチアゾリン−3−オン類(3−イソチアゾロン類と呼ばれることも

ある)の使用は,これらの物質が非常に効果的な生物致死性合物を含んでいるため,

かなり以前から知られている。

【0003】これらの化合物のうちの1つが5−クロロ−2−メチルイソチアゾリ

ン−3−オンである。この化合物は確かに優れた殺菌活性を示すが,その一方で,

この化合物を実際に取り扱う際には様々な欠点を抱えている。たとえば,この化合

物は,使用者にアレルギーを引き起こすことが多い。また,多くの国々では,産業

排水中のAOX値に法的な規制を設けており,そこでは,活性炭素に吸着され得る

有機性の塩素,臭素,およびヨウ素化合物が水中に特定濃度以上に存在していては




ならない。この規制が,5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンの広範

な使用を妨げている。さらに,この化合物は,特定の状況下,たとえば,pH値が

高かったり,求核試薬または還元剤の存在下において,充分な安定性をもっていな

い。

【0004】殺菌活性を有する別な既知のイソチアゾリン−3−オンは,2−メチ

ルイソチアゾリン−3−オンである。この化合物を代替的に使用することにより,

5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンの様々な欠点,たとえばアレル

ギーのハイリスクを回避できるのは事実であるが,この化合物の殺菌活性はかなり

低い。したがって,5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンを単に2−

メチルイソチアゾリン−3−オンで置換するのは不可能である。

【0009】本発明の目的は,その成分が相乗的に相互作用し,これにより,同時

に使用すると,成分を個々に使用した場合に必要な濃度に比べ,それよりも低い濃

度で使用することができる点において改善がされた生物致死性組成物を提供するこ

とである。したがって,ヒトおよび環境が被曝して汚染される程度が減少し,また,

有害な微生物を抑制するのに必要な経費も削減される。

【0010】この目的は,少なくとも2つの活性な殺生物性物質を有し,そのうち

の1つが2−メチルイソチアゾリン−3−オンである本発明の生物致死性組成物に

より達成される。本組成物は,より活性な殺生物性物質として1,2−ベンズイソ

チアゾリン−3−オンを含み,5−クロロ−2−メチル−イソチアゾリン−3−オ

ンを含有する生物致死性組成物を除外している点に特徴を有するものである。

【0011】本発明の生物致死性組成物は,たとえば5−クロロ−2−メチルイソ

チアゾリン−3−オンのように,これまで実際に用いられているが,健康や環境に

関して不利益を被る活性な物質に取って代わることができるという利点を有してい

る。さらに,本発明の生物致死性組成物は,必要な場合,好ましい媒体として水に

より生成することができる。したがって,乳化剤,有機溶媒,および/または安定

剤の付加を必要としない。そのうえ,本発明によれば,たとえば,殺生物活性の増




強,微生物で汚染される物質の長期保護能力の改善,保護すべき物質との適合性の

改善,または毒性学的あるいは生態毒性学的ふるまいの改善などの観点から,より

活性物質を付加することにより,本組成物を特定の目標に合わせることもできる。

【0021】2−メチルイソチアゾリン−3−オンおよび1,2−ベンズイソチア

ゾリン−3−オンは既知の物質である。2−メチルイソチアゾリン−3−オンは,

たとえば,米国特許第5466818号にしたがって作製することができる。この

方法で得た反応生成物を,たとえばカラムクロマトグラフィーで精製してもよい。

【0095】実施例11

微生物,Aspergillus niger に対する,2つの活性物質,MITとBITの相乗作

用が実施例1と同様に示されている。

【0097】以下の表XIII は,試験した生物致死性組成物のMIC値を示してい

る。MITを単独で使用した場合のMIC値は750ppmであり,BITを単独

で使用した場合のMIC値は100ppmであった。

(2)甲1の記載等

甲1発明に係る明細書(甲1)には,以下の記載がある。

【0001】【産業上の利用分野】本発明は,予めかぶらされていない内部潜像型

ハロゲン化銀乳剤を利用して直接にポジカラー画像を得るハロゲン化銀直接ポジカ

ラー感光材料の処理方法に関する。・・・

【0002】【従来の技術】反転処理工程やネガフィルムを用いず,直接にポジカ

ラー画像を得る写真法として,予めかぶらされていない内部潜像型ハロゲン化銀乳

剤を有するハロゲン化銀直接ポジカラー感光材料を,像様露光後,カブリ処理を施

したか,又はカブリ処理を施しながら,表面現像を行なう方法が知られている。こ

の予めかぶらされていない内部潜像型ハロゲン化銀乳剤とは,ハロゲン化銀粒子の

主として内部に感光核を有し,露光によって粒子内部に主として潜像が形成される

タイプのものである。

【0003】このような内部潜像型ハロゲン化銀乳剤を有するハロゲン化銀直接ポ




ジカラー感光材料(以下,単に感光材料と言うことあり。)は,近年にその処理工

程の簡便さが受け入れられ,コピー用途やカラープルーフ用途等に利用されている。

・・・

【0004】一般に,ハロゲン化銀写真感光材料は支持体上に,1ないしそれ以上

の感光性乳剤層を塗布し,必要に応じ,下引層,中間層,フィルター層,アンチハ

レーション層,保護層などの層を塗布してなるものである。これらの写真層のバイ

ンダーとして用いられる親水性コロイドとしては,ゼラチン,アルブミン,カゼイ

ン等の蛋白質,カルボキシメチルセルローズ,ヒドロキシエチルセルローズ等のセ

ルローズ誘導体,寒天,アルギン酸ソーダ,でん粉誘導体などの糖誘導体,合成親

水性コロイド,例えば,ポリビニルアルコール,ポリ−N−ビニルピロリドン,ポ

リアクリル酸共重合体,ポリアクリルアミドまたはその誘導体などが知られている。

・・・

【0005】一方,ハロゲン化銀写真材料に用いられるこれらの親水性コロイドは,

細菌,カビ,酵母などの作用を受けて腐敗または分解することも知られている。た

とえば,写真材料の製造に際して,これらの親水性コロイドが腐敗または分解する

と塗布液の粘度や塗布された膠の物理的強度が低下したりするほか,局部的にこれ

らの親水性コロイドが分解される結果として塗布膜の均一性が保たれなくなった

り,親水性コロイドの分解生成物が写真的な悪影響をもたらす場合もある。写真材

料に用いられる親水性コロイドの細菌,カビ,酵母などによるこのような腐敗,分

解作用を防止するために,いわゆる防腐剤や防ばい剤を,写真材料の製造工程のい

ずれかの段階で,前述のごとき親水性コロイドを含む液に添加することが行なわれ

てきた。

【0006】一般にこのような目的のため防腐,防ばい剤として,最もしばしば使

用されるのがフェノールである。しかし,フェノールは,少量の添加では防腐,防

ばい効果が十分ではなく,さらに生体に対する毒性が強いということもあって最適

な防菌,防ばい剤ではない。一方,特開昭54−27424号,同59−1425




43号及び同59−228247号において本発明の防菌剤,防ばい剤をハロゲン

化銀カラー写真感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイドに使用する

ことが開示されている。これらの防菌剤,防ばい剤は,防菌,防ばい効果は優れて

いるが予めかぶらされていない内部潜像型ハロゲン化銀乳剤を有するハロゲン化銀

直接ポジカラー感光材料に使用し,カラー現像液で連続処理(ランニング処理)し

た場合,最大濃度(Dmax)の低下及び最小濃度(Dmin)の上昇を生じ,画像性能が

著しく低下してしまうことが判明した。

【0007】【発明が解決しようとする課題】したがって,本発明の目的は,直接

ポジカラー感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイドを十分に防菌,

防ばいしつつ,かつ補充量が少なかったり,閑散処理であったりする状態の時にお

いても,最大濃度の低下及び最小濃度の上昇が少ない,安定してカラー画像を得る

ハロゲン化銀直接ポジカラー感光材料の処理方法を提供することにある。

【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討の結果,本発明

の目的は,以下の方法により達成されることを見いだした。支持体上に,少なくと

も1層の予めかぶらされていない内部潜像型ハロゲン化銀粒子を含有するハロゲン

化銀乳剤と色素形成カプラーを含む感光層が設けられてなる直接ポジカラー写真感

光材料を発色現像液で処理する方法において,該感光材料の支持体上の少なくとも

一層に下記一般式(判決注:一般式は省略。以下同じ)(1),(2)又は(3)

で表される化合物の少なくとも1種を含有し,該発色現像液が下記一般式(4),

(5)又は(6)で表される化合物の少なくとも一種と亜硫酸化合物を0.05モ

ル/リットル含有することを特徴とする直接ポジカラー写真感光材料の処理方法。

【0025】・・・一般式(1)で示される化合物の具体例としては,下記の例示

化合物が挙げられる。

【0029】上記一般式(1)で示される化合物は,一部市販されているものもあ

り,容易に入手することができる。上記例示化合物のうち好ましい化合物としては,

(1−1),(1−2),(1−3),(1−4)及び(1−5)である。前記一




般式(2)及び(3)で示される化合物の具体例を以下に示すがこれらに限定され

ない。

【0030】(2−1)2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン

(2−2)5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン

(2−3)2−メチル−5−フェニル−4−イソチアゾリン−3−オン

(2−4)4−ブロモ−5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン

(2−5)2−ヒドロキシメチル−4−イソチアゾリン−3−オン

(2−6)2−(2−エトキシエチル)−4−イソチアゾリン−3−オン

(2−7)2−(N−メチル−カルバモイル)−4−イソチアゾリン−3−オン

(2−8)5−ブロモメチル−2−(N−ジクロロフェニル−カルバモイル)−4

−イソチアゾリン−3−オン

(2−9)5−クロロ−2−(2−フェニルエチル)−4−イソチアゾリン−3−

オン

(2−10)4−メチル−2−(3,4−ジクロロフェニル)−4−イソチアゾリ

ン−3−オン

【0031】(3−1)1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン

(3−2)2−(2−ブロモエチル)−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン

(3−3)2−メチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン

(3−4)2−エチル−5−ニトロ−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン

(3−5)2−ベンジル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン

(3−6)2−クロロ−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン

【0032】これらの例示化合物は,米国特許第2,767,172号,米国特許

第2,767,173号,米国特許第2,767,174号,米国特許第2,87

0,015号,英国特許第348,130号,フランス国特許第1,555,41

6号等に合成方法及び他の分野への適応例が記載されている。上記本発明に用いら

れる一般式(1),(2)及び(3)の化合物は,本発明のハロゲン化銀カラー写




真感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイド1kg 当り0.05g〜5

0g使用することが好ましく,特に好ましくは0.1g〜10gである。(判決注

:(2−1)はMIT,(2−2)はCMIT,(3−1)はBIT)

【0097】本発明においては,カブリ防止剤として,一般式(4)〜(6)の本

発明の化合物を使用するが,本発明の効果を阻害しない範囲においては,その他の

公知のカブリ防止剤(または現像抑制剤)を添加しても差し支えない。・・・

【0131】【表1】

試料 No. ゼラチンへの添加物及び添加量(ゼラチン1Kg あたり)

101 フェノール 0.5g

102 1−1 0.5g

103 2−1 0.5g

104 2−1 1.0g

105 3−1 0.5g

106 3−1 1.0g

107 2−1 0.5g

3−1 0.5g

【0132】【表2】

No. 試料 亜硫酸ナトリウム 添加剤(4−1)△Dmax △Dmin カビの発生

No. タンク液 補充液 タンク液 補充液

1 101 0.03 0.04 0 0 -0.17 +0.07 わずかに有 比較例

2 102 〃 〃 〃 〃 -0.30 +0.05 無 〃

3 103 〃 〃 〃 〃 -0.31 +0.05 〃 〃

4 104 〃 〃 〃 〃 -0.35 +0.05 〃 〃

5 105 〃 〃 〃 〃 -0.33 +0.05 〃 〃

6 106 〃 〃 〃 〃 -0.37 +0.05 〃 〃

7 107 〃 〃 〃 〃 -0.36 +0.05 〃 〃




8 101 0.06 0.08 〃 〃 -0.13 +0.06 わずかに有 〃

9 102 〃 〃 〃 〃 -0.17 +0.04 無 〃

10 103 〃 〃 〃 〃 -0.18 +0.04 〃 〃

11 104 〃 〃 〃 〃 -0.20 +0.04 〃 〃

12 105 〃 〃 〃 〃 -0.19 +0.04 〃 〃

13 106 〃 〃 〃 〃 -0.21 +0.04 〃 〃

14 107 〃 〃 〃 〃 -0.20 +0.04 〃 〃

15 101 0.03 0.04 0.005 0.007 -0.19 +0.06 わずかに有 〃

16 102 〃 〃 〃 〃 -0.33 +0.04 無 〃

17 103 〃 〃 〃 〃 -0.35 +0.04 〃 〃

18 104 〃 〃 〃 〃 -0.37 +0.04 〃 〃

19 105 〃 〃 〃 〃 -0.35 +0.04 〃 〃

20 106 〃 〃 〃 〃 -0.39 +0.04 〃 〃

21 107 〃 〃 〃 〃 -0.38 +0.04 〃 〃

22 101 0.06 0.08 〃 〃 -0.10 +0.05 わずかに有 〃

23 102 〃 〃 〃 〃 -0.05 +0.02 無 本発明

24 103 〃 〃 〃 〃 -0.05 +0.02 〃 〃

25 104 〃 〃 〃 〃 -0.05 +0.02 〃 〃

26 105 〃 〃 〃 〃 -0.05 +0.02 〃 〃

27 106 〃 〃 〃 〃 -0.05 +0.02 〃 〃

28 107 〃 〃 〃 〃 -0.05 +0.02 〃 〃

2 判断

(1) 本件発明1の「CMITを含まない」との構成要件により,技術的範囲

限定したことの意義について

本件発明1に係る特許請求の範囲の記載によれば,本件発明1は,概要,@「M

IT,BITを含む」,A「CMITを含まない」,B「病原性微生物によって感




染されるものに付与される生物致死性組成物」との各構成要件によって限定された

技術的範囲からなる発明である。

そして,「CMITを含まない」との構成要件によって,その技術的範囲に限定

を加えた趣旨については,発明の詳細な説明欄の記載によれば,CMITは,バク

テリア,真菌類(カビ)及び藻類に対して,高い抗微生物活性を有するという利点

があるが,他方,アレルギー反応等人体に悪影響を引き起こし,産業排水中のAO

X値(有機塩素等の濃度)を高めるため,産業排水規制の観点から,その使用が望

まれない等の欠点があったため,そのような課題に対する解決方法として,MIT

とBITを同時に使用して,各成分を個々に使用した場合に必要な濃度に比べ,低

い濃度で使用しても抗微生物効果を発揮させることができるようにし,かつ「CM

ITを含まない」との限定をすることにより,課題解決に至った趣旨の説明がされ

ている。

上記のとおりであるから,「CMITを含まない」との構成要件を付加すること

により,その技術的範囲を限定した趣旨は明確であり,また,特許請求の範囲に記

載された「CMITを含まない」との文言の意義も不明瞭な点はない。

(2)甲1発明の内容について

ア これに対して,甲1には,以下の技術が記載されている。すなわち,@直接

ポジカラー写真を得る方法において,感光材料中に,公知の防腐剤・防黴剤を配合

し,現像液の成分を工夫することにより,感光材料の防菌・防黴対策と,写真の性

能低下防止を達成することを解決課題としていること,Aその課題解決手段として,

カラー写真感光材料を発色現像液で処理する方法において,一般式(1)ないし(3)

で表される防菌剤,防黴剤の少なくとも1種を感光材料の支持体上の少なくとも一

層に包含させること(判決注:防菌・防黴効果を有するものとして例が示された化

合物の組み合わせは,1400種類を超える。),該発色現像液が一般式(4)な

いし(6)で表される化合物の少なくとも一種,及び亜硫酸化合物を含有すること

を特徴とする直接ポジカラー写真感光材料が示されていること,B組合せの対象と




される化合物群(2)中には,MIT(2−1)のみならずCMIT(2−2)も

挙げられており,また,化合物群(3)中にはBIT(3−1)が挙げられている

こと,C実施例1には,MITとBITを組み合わせた例が示され,【表1】に記

載された No.107の試料は,ゼラチンを親水性コロイドの成分として含有する写

真感光材料であって,ゼラチン1kg当たり,MITを0.5g及びBITを0.

5gの割合で含有するものが示されている(段落【0001】ないし【0008】,

【0029】ないし【0031】,【0131】)。

しかし,甲1及びその引用文献には,防菌・防黴剤の組成物として用いられるM

ITについて,「CMITを含まない」ことについては言及がなく,CMITが含

まれたことによって生じる欠点に関する指摘もない。したがって,甲1において,

CMITが含まれることによる欠点を回避するという技術思想は示されていない。

甲1に接した当業者は,「CMITを含まない」との構成要件によって限定された

範囲の発明が記載されていると認識することはなく,甲1には,「CMITを含む

発明」との包括的な概念を有する発明が記載されていると認識するものと解される。

イ もっとも,甲1には,MIT及びBITからなる実施例(試料 No.107を

用いる例)が示されている。そこで,この点について検討する。

甲1には,甲1に係る発明において用いるMIT等について,「これらの例示化

合物は,米国特許第2,767,172号,米国特許第2,767,173号,米

国特許第2,767,174号,米国特許第2,870,015号,英国特許第3

48,130号,フランス国特許第1,555,416号等に合成方法及び他の分

野への適応例が記載されている。」と記載されているが,その他製造方法等を限定

するような記載はない。また,米国特許第5,466,818号(甲40)に記載

の方法によれば,「MITにCMITが0.4/98=1/245未満含まれてい

る」こと,及び「実質的に純粋なMIT」を得ることは不可能でないことが示され,

さらに,甲1が引用するフランス国特許第1,555,416号(甲20)におい

て,引用された甲24には,MITの製造方法が記載されており,同方法によれば,




CMITを生成しない方法が存在することも認められる。

しかし,甲1に上記の記載があったとしても,上記アで認定したとおり,甲1に

接した当業者は,「CMITを含まない」との構成によって限定された範囲の発明

が記載されていると認識することはないというべきである。

すなわち,@甲1発明には,上記のとおり,CMITが含まれたことによって生

じる問題点に関する指摘は,全くされていないこと,Aのみならず,甲1発明では,

CMITが一般式(2)で示される化合物の具体例(2−2)として記載されてい

ること,B本件優先日において,当業者が利用可能なMITとしては,CMITと

の混合物しか市販されていなかったこと(甲7,甲34ないし39,乙6),C甲

1の表2に示される実施例として用いられたMITにCMITが含まれるか否か

を,原告において追試により確認した結果によれば,実施例は,純粋なMITから

なるものではなく,むしろMITにCMITが含まれたものであると推測されるこ

と(甲25,28,42,43),D甲1の出願人と同一の出願人の特許出願に係

る明細書において,「MITの合成法では,CMITの生成が避けられず,仕方な

くこれまで両者の混合物を使用してきた」,「MITを単一に得ることは難しく,

製造コストの点からわざわざ分離してまで使用することはしなかったからである。」

(甲46,平成16年3月出願)などの記述があり,本件発明の出願日(優先日

当時においても,一般に,上記明細書に記述されていたとおりの認識がされていた

と推認されること等の諸事実を総合すれば,当業者であれば,甲1発明において使

用されるMITは,当然にCMITを含有するものであり,製造コストをかけて,

CMITを除去するような化合物を使用することはないと認識していたものと解す

るのが合理的である。

そうすると,甲1には,MIT及びBITからなる実施例が示されていたとして

もなお,同実施例の記載から直ちに,「CMITを含まない」との構成要件を充足

する発明が記載,開示されていると認定することはできない。

ウ なお,審決は,本件明細書において,@MITを作成することができるとし




て引用された米国特許第5,466,818号明細書(甲40)によれば,MIT

は,CMITとMITとの混合物を分離することによって得られるものであって,

MIT中のCMITが1/245未満含まれているものは,実質的に純粋なMIT

であるとしていること,A本件明細書に「この方法で得た反応生成物を,たとえば

カラムクロマトグラフィーで精製してもよい。」【0021】との記載を指摘して,

カラムクロマトグラフィーによる精製でも特定の物質を完全に除去することはでき

ないことは当業者の常識であるから,本件発明において,「CMITを含まない」

とは「CMITが僅かな量を含んだものを許容する」趣旨であると解釈した上,本

件発明におけるCMITの含有量と甲1発明におけるCMITの含有量の差異が明

らかにされなければ,相違点ウは,実質的に相違しないと判断している。

しかし,「両者の含有量の差違が明らかにされなければ」差違があるものとする

ことはできないとの点につき,本件発明1が甲1発明であること(すなわち,本件

発明1が新規性を有しないこと)を根拠付ける事実は,審判請求人(被告)におい

て,その事実が存在することの主張,立証を負担すべきであるから,審決の判断は,

その点において失当である。

3 小括

(1) 取消事由1について

以上のとおり,甲1には,CMITが含有されたことによる問題点(解決課題)

及び解決手段等の言及は一切なく,したがって「CMITを含まない」との技術的

構成によって限定するという技術思想に関する記載又は示唆は何らされていないか

ら,審決が,本件発明1は,甲1発明1であるとして,特許法29条1項3号に該

当する(新規性を欠く)と判断した点は,その限りにおいて誤りがある。

(2) 取消事由2ないし6について

ア 取消事由2(相違点(カ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明2及び3に関して,相違点(エ)〜(カ)を認定した上で,「相

違点(エ)〜(カ)については,上記(ウ)の『ウ−2』で検討した理由と同様の




理由により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書19頁11,

12行)。しかし,相違点(カ)は,相違点(ウ)に相当するものであり,上記2

と同様の理由により,審決の判断には誤りがある。

イ 取消事由3(相違点(ケ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明4に関して,相違点(キ)〜(コ)を認定した上で,「相違点

(キ)〜(ケ)については,上記(ウ)の『ウ−2』で検討した理由と同様の理由

により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書20頁9,10

行)。しかし,相違点(ケ)は,相違点(ウ)に相当するものであり,上記2と同

様の理由により,審決の判断には誤りがある。

ウ 取消事由4(相違点(ス)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明5及び6に関して,相違点(サ)〜(セ)を認定した上で,「相

違点(サ)〜(ス)については,上記(ウ)の『ウ−2』で検討した理由と同様の

理由により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書22頁12,

13行)。しかし,相違点(ス)は,相違点(ウ)に相当するものであり,上記2

と同様の理由により,審決の判断には誤りがある。

エ 取消事由5(相違点(チ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明7に関して,相違点(ソ)〜(テ)を認定した上で,「相違点

(ソ)〜(チ)については,上記(ウ)の『ウ−2』で検討した理由と同様の理由

により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書23頁27,2

8行)。しかし,相違点(チ)は,相違点(ウ)に相当するものであり,上記2と

同様の理由により,審決の判断には誤りがある。

オ 取消事由6(相違点(ヌ)に係る新規性判断の誤り)

審決は,本件発明18に関して,相違点(ト)〜(ノ)を認定した上で,「相違

点(ト)〜(ノ)については,上記(ウ)の『ウ−2』で検討した理由と同様の理

由により,実質的に異なるものではない」と認定,判断した(審決書25頁28,

29行)。しかし,相違点(ヌ)は,相違点(ウ)に相当するものであり,上記2




と同様の理由により,審決の判断には誤りがある。

4 結論

以上によれば,原告の主張は理由があり,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官
飯 村 敏 明




裁判官
池 下 朗




裁判官
武 宮 英 子