運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2009-800070
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10187審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10104審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10184審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10353審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10024審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  合理的な理由 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 22年 (行ケ) 10075号 審決取消請求事件

原告 日本ノンテックス株式会社
原告日本製箔株式会社
上記2名訴訟代理人弁理士 奥村茂樹
被告 東洋アルミエコープロダクツ株式会社
訴訟代理人弁理士藤井淳
同弁護士 平野和宏
同弁理士 山崎裕史
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2009−800070号事件について平成22年1月25日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯等原告らは,発明の名称を「換気扇フィルター及びその製造方法」とする特許第3561899号(平成12年7月10日出願,平成16年6月11日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成21年3月30日,本件特許の無効審判請求(無効2009-800070号事件)をし,特許庁は,同年11月17日の口頭審理を経て,平成22年1月25日,「本件特許の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をして,その謄本は,同年2月4日,原告らに送達された。
2特許請求の範囲本件特許の明細書(甲37。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,次のとおりである(以下,請求項1ないし4に係る各発明を,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,それらを総称して「本件各発明」ということがある。)。
【請求項1】 金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されていることを特徴とする換気扇フィルター。
【請求項2】 皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃〜+30℃である請求項1記載の換気扇フィルター。
【請求項3】 金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して換気扇フィルターを製造する方法において,該金属製フィルター枠に設けられた開口縁部及び/又は桟部の面に,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を塗布し,次いで該塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して,該不織布製フィルター材を該開口縁部及び/又は該桟部に接着することを特徴とする換気扇フィルターの製造方法
【請求項4】 皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃〜+30℃である請求項3記載の換気扇フィルターの製造方法
3審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,ア本件発明1は,甲1の1(実願昭58-136320号のマイクロフィルム)記載の発明(審決が認定した発明の内容は後記(2) の発明Aのとおりである。以下「発明A」という。),甲2(特開平7-188632号公報)の記載,並びに甲10(特開平11-129645号公報),11(特開昭51-48408号公報)及び24(特開2000-126523号公報)に記載された周知技術に基づいて容易になし得た,イ本件発明2は,発明A,甲2の記載,並びに甲4(特開平1-152056号公報),10,11及び24に記載された周知技術に基づいて容易になし得た,ウ本件発明3は,甲1の1記載の発明(審決が認定した発明の内容は後記(2) の発明Bのとおりである。以下「発明B」という。),甲2の記載,並びに甲10,11,16(特開平10-245537号公報),24及び29(「最新ラミネート加工便覧」1989年6月30日,加工技術研究会,75ないし92頁)に記載された周知技術に基づいて容易になし得た,エ本件発明4は,発明B,甲2の記載,並びに甲4,10,11,16,24,29に記載された周知技術に基づいて容易になし得た,として,本件特許は,特許法29条2項の要件に該当するから,特許法123条1項2号の規定により,無効とすべきものであると判断した。
(2)審決が認定した発明A,Bの内容は,以下のとおりである。
発明A 「金属箔をもって一体に形成された,レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部と,この鍔部の内周縁に立上り壁と,該立上り壁の下端に格子状部と,該格子状部に接着剤によって装着されている難燃性乃至不燃性の不織布フィルターと,前記鍔部に取付けたレンジフードへの吸着用マグネットからなるレンジフード用フィルターカバー。」 発明B 「レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部の内周縁に立上り壁をそなえ,該立上り壁の下端に格子状部を有するカバーを金属箔をもって,一体に形成するとともに前記鍔部にはレンジフードへの吸着用マグネットを取付けるレンジフード用フィルターカバーの製造方法において,該レンジフード用フィルターカバーに設けられた前記格子状部の内側に接着剤が塗られ,難燃性乃至不燃性の不織布フィルターを該格子状部に接着するレンジフード用フィルターカバーの製造方法。」(3)審決の認定した本件発明1と発明A,本件発明3と発明Bとの一致点,相違点は,以下のとおりである(本件発明2,本件発明4については,記載を省略する。)ア本件発明1と発明Aとの一致点金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,接着剤を用いて接着されている換気扇フィルター。
イ本件発明1と発明Aとの相違点(相違点A) 接着剤につき,本件発明1では,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いているのに対し,発明Aでは,かかる接着剤を用いていない点。
ウ本件発明3と発明Bとの一致点 金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して換気扇フィルターを製造する方法において,該金属製フィルター枠に設けられた開口縁部及び/又は桟部の面に,接着剤を塗布し,該不織布製フィルター材を該開口縁部及び/又は該桟部に接着する換気扇フィルターの製造方法
エ本件発明3と発明Bとの相違点(相違点C)本件発明3は,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を塗布し,次いで該塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して,該不織布製フィルター材を接着するものであるのに対し,発明Bは,かかる接着剤を用いることや塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して,該不織布製フィルター材を接着することを有していない点。
第3当事者の主張1取消事由に係る原告らの主張審決には,本件各発明及び甲10,11,24記載の周知技術を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り(取消事由1),本件各発明及び周知技術の課題(甲18,19,32(審判乙2))を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り(取消事由2),甲2記載の周知技術を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り(取消事由3)がある。すなわち,(1)本件各発明及び甲10,11,24記載の周知技術を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り(取消事由1) 審決は,「アクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン型接着剤は周知の接着剤であって,この接着剤はその成分からみて,接着成分が水に溶ける水溶性接着剤である」,「甲第10,11及び24号証に記載されているように,アクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン型接着剤は,・・・『皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤』に他ならない。」(審決書22頁9ないし16行)と判断して,本件各発明に係る請求項に記載される「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」,並びに,甲10,11及び24記載の「水性エマルジョン型接着剤」が,いずれも「水溶性接着剤」であると認定した。
しかし,審決のした上記認定は誤りである。
すなわち,「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」はアクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン系接着剤であるが,水性エマルジョン系接着剤の接着剤成分はアクリル酸エステル系重合体等の重合体であり,使用前も使用後も水に溶けず,エマルジョン形態を維持している。そのため,アクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン系接着剤は水溶性接着剤ではなく,「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」も水溶性接着剤ではない。
被告は,本件各発明に係る請求項,並びに,甲10,11及び24記載の水性エマルジョン系接着剤の重合体が,甲2記載の水溶性の重合体と同様であると主張するが,本件各発明,並びに,甲10,11及び24記載の水性エマルジョン系接着剤の重合体は,(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主体として重合して得られたものであり,水中に投入してもイオン化せず,水に溶解しないのに対し,甲2記載の粘着剤は,末端OH基を有する(メタ)アクリレートをリン酸でエステル化したモノマーを重合して,アルカリ性中和剤によって中和した中和物であり,水に投入すると中和物がイオン化して水溶性となるから,両者は同様ではない。
したがって,審決は,本件各発明,並びに,甲10,11及び24記載の周知技術が「水溶性接着剤」の構成を含まないにもかかわらず,これを含むものと認定し,本件各発明を容易想到と判断した点に誤りがある。
(2)本件各発明及び周知技術の課題(甲18,19,32(審判乙2))を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り(取消事由2)審決は,本件各発明の課題について,「換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する」こととした上で,甲18,19及び32の記載から,「『換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する』ことを容易に行うことは,本件特許に係る出願前の周知の解決すべき技術課題であったといえる。」(審決書21頁28ないし31行)と認定し,甲2に接した当業者は,上記課題を解決するため,接着剤成分が溶解又は膨潤して剥離するものを選択する動機付けを得る,甲10,11及び24記載のように,アクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン型接着剤は,接着剤成分が溶解又は膨潤して剥離する,周知の接着剤であって,「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」にほかならない,などとして,廃棄時に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを容易に剥離するために,発明Aの接着剤に「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」を用いることは,当業者であれば困難なくなし得たとした上で,本件各発明は容易想到であると判断した。
しかし,審決の認定は誤りである。
本件明細書の段落【0006】には,「本発明者は,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを強固に接着せしめる一方,簡単に剥離しうる接着剤を捜し求めた。しかし,強固な接着と簡単な剥離という,二律背反的な性質を持つ接着剤は無いというのが技術的常識であった。ところが,本発明者が,・・・ある特定の接着剤を用いると,通常の状態では強固な接着が達成でき,水を付与すると,金属と不織布間との接着力が低下することを見出した。そして,このような接着剤を用いれば,使用後の換気扇フィルターを水に漬けただけで,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルターに分別しうると考え,本発明に到達した。」と記載されている。同記載によれば,本件各発明の解決課題は,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを強固に接着されている換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する」ことである。しかし,審決は,本件各発明について,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターという前提を捨象して,単に,「換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する」点のみを解決課題としている点において,誤りがある。
他方,甲18記載のレンジフード用フィルターは,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが強固に接着されている換気扇フィルター」ではなく,甲19及び32(審判乙2)には,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターをいかにして分別廃棄するか」という課題は提示されていないにもかかわらず,審決は,上記の課題は,周知であると認定した点で誤りがある。
したがって,審決は,本件各発明の課題を誤って認定した上,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターをいかにして分別廃棄するか」という本件各発明の課題が,本件特許出願前に周知でないにもかかわらず,周知と認定して,容易想到性を判断した誤りがある。
(3)甲2記載の周知技術の認定を誤って,容易想到性を判断した誤り(取消事由3) 審決は,「甲第2号証には,水溶液によって成分が溶解または膨潤し剥離する粘着剤が記載されているといえる。粘着剤は複数の物質を接合する接合剤としてみれば接着剤と共通する」(審決書21頁37ないし39行)として,甲2に接した当業者は,水溶性接着剤を容易に想到することができると判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。
審決は,甲27の「接着剤・・・接着工程で分類すると・・・粘着性を利用した圧着・・・を利用したものなどがある。」との記載及び甲34(審判乙4)の「粘着剤は,物と物とを接合するという意味では接着剤の一種といってもよい」との記載から,甲2記載の粘着剤は接着剤と共通すると認定した。しかし,審決の上記認定は,誤りである。すなわち,甲27には,粘着剤と接着剤とが共通のものであるとの記載はなく,甲34には,粘着剤は接着剤の一種であるとの記載はあるが,液体で濡れて固体で接着するのが接着剤であり,貼り合わせるときもその後もゲル状の固体で状態の変化を起こさないのが粘着剤であって,粘着剤と接着剤とは作用原理が異なるものであること,粘着剤は接着剤のようにバルクでは販売されず,粘着テープ又は粘着シートとして販売され,接着剤のように相変化しないため,種々の利点があることが記載され,粘着剤と接着剤との相違が指摘されている。
また,仮に,「接着剤」に「粘着剤」が包含されるとしても,本件各発明を構成する「水性エマルジョン系接着剤」は,「粘着剤」に包含されない。
すなわち,本件明細書の段落【0011】には,「これらの重合体は,水を分散媒として乳化分散しており,水性エマルジョンの形態となっている。この水性エマルジョンから水を蒸発させると,乳化分散している重合体粒子群が凝集し,皮膜を形成する。そして,この皮膜を形成する際,重合体の粘着力によって,接着作用が発現し,接着剤として機能するのである。」と記載され,接着前は水性(液体の状態)であり,接着後は固体となることが示されており,接着時に相変化を起こすものは粘着剤に包含されないからである。
そうすると,水溶性粘着剤が記載されている甲2に接した当業者が,水溶性粘着剤と水溶性接着剤を同一視して,水溶性接着剤を容易に想到するということはできないし,甲2に基づいて,粘着剤や水溶性接着剤ではない「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」との本件各発明の構成を想到することは容易とはいえない。
したがって,審決の容易想到性の判断には誤りがある。
2被告の反論 以下のとおり,審決には,原告主張に係る認定及び判断の誤りはない。
(1)取消事由1(本件各発明及び甲10,11,24記載の周知技術を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り)に対し 原告らは,本件各発明に記載される「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」,並びに,甲10,11及び24記載の「水性エマルジョン型接着剤」が,いずれも「水溶性接着剤」であるとした審決の認定は誤りである,と主張する。
しかし,原告らの上記主張は,以下のとおり失当である。
審決は,「甲第10,11及び24号証に記載されているように,アクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン系接着剤は周知の接着剤であって,この接着剤はその成分からみて,接着剤成分が水に溶ける水溶性接着剤であるから,・・・接着剤成分が溶解または膨潤して剥離する接着剤であるといえる。」と記載し,甲10等に関して「アクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン系接着剤は・・・」と記載し,接着剤が水性エマルジョン型であるとしている。「水溶性接着剤」の語について,水性エマルジョン系接着剤であって,いったん固まった後でも接着剤成分が再び水で剥離する性質を有するものとして用いている。
すなわち,審決は,形成された接着剤層(又は粘着剤層)の性質(水溶液(水)で溶解又は膨潤して剥離することができる性質)という観点から,甲10,11,24の「アクリル酸エステル系重合体の水性エマルジョン型接着剤」を「水溶性接着剤」と便宜的,包括的に表現したが,水性エマルジョン中のアクリル酸エステル系重合体(粒子)が水に溶けると認定したものではない。「水性エマルジョン系接着剤」は,重合体粒子が水に溶けないため,乳化剤を使用することが技術常識として知られている。乳化剤は,通常,水に溶けるから,接着剤層を形成した場合,水が蒸発した後は接着剤層に重合体粒子と乳化剤が含まれた状態となり,接着剤層が水と接触した場合は乳化剤が水に溶け出し,接着剤層や被着体の剥離を生じる。このように,形成された接着剤層中の接着剤成分(重合体粒子,乳化剤等)のいずれかが水に溶解ないし膨潤して剥離するようなものを「水溶性接着剤」と呼称することに誤りはない。
また,本件各発明は,その作用効果との関係においても「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」という要件を満たせば,いかなる種類の接着剤でもよい。審決は,甲10等には,少なくとも当該要件を満たす接着剤が開示されており,甲10等に記載される接着剤も水で剥離し得るという意味で「水溶性接着剤」に当たると認定した。
したがって,審決の認定に誤りはなく,原告らの主張は失当である。
(2)取消事由2(本件各発明及び周知技術(甲18,19及び32(審判乙2))の課題を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り)に対し原告らは,「本件各発明の課題は,『金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターをいかにして分別廃棄するか』ということにあるが,審決は,本件各発明について,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターという前提を捨象して,単に,『換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する』点のみを解決課題として認定した点に誤りがあり,また,甲18,19及び32(審判乙2)には『金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターをいかにして分別廃棄するか』という課題は記載されていないにもかかわらず,このような課題を周知技術の課題として認定した誤りがある。」と主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり失当である。
原告らは,本件各発明の課題について,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する」という解決課題に関する記載を,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で強固に接着されている換気扇フィルターをいかにして分別廃棄するか」という「解決手段」に置き換えて,本件各発明と甲18,19及び32について,「解決手段」の対比により,「課題」の有無を論じるものであり,失当である。
また,甲18の段落【0002】,【0003】等,甲19の段落【0004】等,甲32の段落【0003】,【0004】等においては,金属枠とフィルター材とを分別するという,本件明細書の段落【0005】等に記載された課題と実質的に同じ課題が,本件特許出願前に開示されており,上記各甲号証記載の発明及び本件各発明は,それぞれの課題を解決するために,それぞれの請求項に記載された発明を「解決手段」としている。
したがって,上記各甲号証記載の周知技術と本件各発明とは,解決手段が異なるとしても,金属枠とフィルター材とを分別という解決課題において共通するから,審決のした認定に誤りはない。
(3)取消事由3(甲2記載の周知技術の認定を誤って,容易想到性を判断した誤り)に対し 原告らは,「水溶性粘着剤が記載されている甲2に接した当業者が,水溶性粘着剤と水溶性接着剤を同一視して,水溶性接着剤を容易に想到するということはできないし,甲2に基づいて,水溶性接着剤ではない『皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤』との本件各構成を想到することは容易とはいえない。」と主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり失当である。
本件各発明の請求項で用いられている「接着剤」との語が,「粘着剤」も包含する意味で定義されることは学術的にも確立している(甲28の361頁の表1,甲34)。原告らは,本件各発明の「接着剤」は「粘着剤を除く接着剤」の意味である旨主張するが,本件各発明の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には「粘着剤」を除外する記載はないから,「接着剤」を原告らの主張のように限定して解釈することは許されない。
また,本件明細書には,「接着剤」が,「粘着剤」を用いた場合よりも優れた作用効果を発揮することは記載されておらず,実験データによる裏付けも存在しない。一方,甲2の粘着剤組成物は,いったん接着した後に水によって剥離できることが記載されており,本件各発明と同様の作用効果を達成している。そうすると,仮に,本件各発明における「接着剤」を「粘着剤を除く接着剤」と限定解釈するとしても,「粘着剤を除く接着剤」を採用することによる優位性は本件明細書に開示されていないから,本件各発明に粘着剤を適用することについて,阻害要因は存在しない。
さらに,本件各発明の接着剤で使用される重合体(本件明細書の段落【0011】の「アクリル酸エステル系重合体」,「メタアクリル酸エステル系重合体」など)は,甲2,5,14等に記載される重合体(例えば,甲2の「メタアクリル酸エステル系重合体」など)と変わらない。本件各発明の接着剤の主成分である重合体が,粘着剤の主成分として使用され得ることから,本件各発明の「接着剤」の意義について,粘着剤を包含すると解釈することができる。
したがって,審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断 当裁判所は,原告主張に係る取消事由2(本件各発明及び周知技術(甲18,19及び32)の課題を誤って認定し,容易想到性を判断した誤り)は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は,特許法29条2項に違反し,取り消されるべきものと判断する。
1はじめに(1) 容易想到性判断と発明における解決課題当該発明について,当業者が特許法29条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては,従来技術における当該発明に最も近似する発明(「主たる引用発明」)から出発して,これに,主たる引用発明以外の引用発明(「従たる引用発明」)及び技術常識等を総合的に考慮して,当業者において,当該発明における,主たる引用発明と相違する構成(当該発明の特徴的部分)に到達することが容易であったか否かによって判断するのが客観的かつ合理的な手法といえる。当該発明における,主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は,従来技術では解決できなかった課題を解決するために,新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから,容易想到性の有無の判断するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で,それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。上記のとおり,当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。ところで,「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は,着想それ自体の容易性が対象とされるため,事後的・主観的な判断が入りやすいことから,そのような判断を防止するためにも,証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となる。また,その前提として,当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは,当該発明の容易想到性の結論を導く上で,とりわけ重要であることはいうまでもない。
上記の観点から,以下,本件各発明の容易想到性の有無に関してした審決の判断の当否を検討する。
(2) 審決の理由の内容について本件各発明が容易想到であると判断した審決の論理は,以下のとおりである。すなわち,ア本件発明1及び2本件発明1と発明Aの一致点を「金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,接着剤を用いて接着されている換気扇フィルターである点」と認定し,また,相違点を「接着剤につき,本件発明1では,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いているのに対し,発明Aでは,かかる接着剤を用いていない点」と認定した。
次に,上記相違点に係る構成に至ることが容易想到であるとする論理を次のように述べた。?本件発明1の課題は,本件明細書の段落【0003】ないし【0006】の記載から,「換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄すること(を容易にすること)」であるとした上,「換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄すること(を容易にすること)」は,周知の技術的課題であるとし(甲18,19及び32),?甲2には,水溶液によって成分が溶解または膨潤し剥離する粘着剤が記載され,粘着剤は複数の物質を接合する接合剤としてみれば接着剤と共通するとし(甲27,甲34),?甲2に接した当業者は,上記課題を解決するため,接着剤成分が溶解又は膨潤して剥離するものを選択する動機付けを得るものといえる,などと判断した。
そして,上記課題を解決すべく,廃棄時に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを容易に剥離するために,発明Aの接着剤に「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」を用いることは,当業者であれば困難なくなし得たとの結論を導いた。
本件発明2については,本件発明1に「皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃〜+30℃である」との特定事項が付加されたものであり,同様に判断できるとした。
イ本件発明3及び4本件発明3については,発明Bとの一致点を「金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して換気扇フィルターを製造する方法において,該金属製フィルター枠に設けられた開口縁部及び/又は桟部の面に,接着剤を塗布し,該不織布製フィルター材を該開口縁部及び/又は該桟部に接着する換気扇フィルターの製造方法である点」,相違点を「本件発明3は,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を塗布し,次いで該塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して,該不織布製フィルター材を接着するものであるのに対し,発明Bは,かかる接着剤を用いることや塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して,該不織布製フィルター材を接着することを有していない点」であると認定した。そして,次に,上記相違点が容易想到であるとする論理を次のように述べた。相違点について,上記アと同様に,「換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する」ことを容易に行うという周知の課題を解決するため,廃棄時に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを容易に剥離するための接着剤に「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」を用いることは,当業者であれば困難なくなし得たと判断した。また,かかる接着剤を塗布し,塗布面に該不織布フィルター材を押圧すると共に加熱して接着することも,当業者であれば困難なくなし得たとした上で,本件発明3は,発明B,甲2の記載,並びに甲10,11,16,24及び29記載の周知技術に基づいて容易になし得ると判断した。
本件発明4については,本件発明3に「皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃〜+30℃である」との特定事項が付加されたものであり,同様に判断できるとした。
2審決の適否について審決には,本件各発明の解決課題を正確に認定していない点で誤りがあり,また,誤った解決課題を前提とした上で本件各発明が容易想到であるとした点において誤りがある。その理由は,以下のとおりである。すなわち,(1) 事実認定ア本件明細書の記載本件明細書には,以下の記載がある。
【従来の技術】【0003】換気扇フィルターには,フィルター材を着脱自在にフィルター枠に係止するタイプのものと,フィルター材をフィルター枠に接着したタイプのものが知られている。前者は,フィルター材が汚れたら,フィルター材のみを交換するものである。後者は,フィルター材が汚れたら,フィルター枠共に廃棄し,新しい換気扇フィルターと交換するものである。後者は,フィルター材を係止する煩わしさがなく,手軽に交換しうるため,重宝されている。
【0004】従来,後者のタイプの換気扇フィルターは,以下のようにして製造されている。まず,金属製フィルター枠の一般的な素材であるアルミニウム箔片面全面に,有機溶剤を溶媒とする感熱性接着剤溶液を塗布して,感熱性接着剤皮膜を設ける。そして,このアルミニウム箔に,張出成形や膨出成形等の成形を施すと共に,打抜加工して開口を設けて金属製フィルター枠とする。この金属製フィルター枠の開口を覆うようにして不織布製フィルター材を張り,押圧加熱し,感熱性接着剤を溶融固化させて,不織布製フィルター材を金属製フィルター枠に接着するという方法が採用されている。
【0005】しかし,この方法で得られた換気扇フィルターは,使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する際,両者の接着箇所で剥離しにくいということがあった。具体的には,不織布製フィルターを金属製フィルター枠から剥離しようとすると,両者の接着が強固であるため,不織布製フィルターが破れてしまい,両者を分別することができなかったのである。近年,省資源上或いは環境上の問題から,家庭ゴミにおいても,素材毎に分別して廃棄することが推奨されており,このような欠点は看過することのできないものとなっている。
【0006】【発明が解決しようとする課題】このため,本発明者は,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを強固に接着せしめる一方,簡単に剥離しうる接着剤を捜し求めた。しかし,強固な接着と簡単な剥離という,二律背反的な性質を持つ接着剤は無いというのが技術常識であった。ところが,本発明者が種々の接着剤を用いて実験を行っていたところ,ある特定の接着剤を用いると,通常の状態では強固な接着が達成でき,水を付与すると,金属と不織布間との接着力が低下することを見出した。そして,このような接着剤を用いれば,使用後の換気扇フィルターを水に漬けただけで,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とに分別しうると考え,本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】【0011】本発明の特徴は,この接着箇所における接着が,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いてなされている点にある。皮膜形成性重合体としては,アクリル酸エステル系重合体,メタアクリル酸エステル系重合体,酢酸ビニル系重合体,エチレン-酢酸ビニル系共重合体等が用いられる。ここで,アクリル酸エステル系重合体の如く「系」が用いられているのは,アクリル酸エステル重合体だけではなく,アクリル酸エステルを単量体として含み,ポリビニルアルコール,スチレン,ポリブタジエン等の他の単量体との共重合体をも含み意味(判決注含む意味の誤記と認める。)である。そして,これらの重合体は,水を分散媒として乳化分散しており,水性エマルジョンの形態となっている。この水性エマルジョンから水を蒸発させると,乳化分散している重合体粒子群が凝集し,皮膜を形成する。そして,この皮膜を形成する際,重合体の粘着力によって,接着作用が発現し,接着剤として機能するのである。
【0016】【作用】本発明に係る換気扇フィルターは,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが,水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されてなるものである。即ち,水性エマルジョン系接着剤から水が蒸発し,皮膜形成された重合体によって接着されてなるものである。このようにして皮膜形成された重合体は,水を付与すると,金属と不織布間の接着力を低下させるという作用を奏する。
【0017】【発明の効果】従って,本発明に係る換気扇フィルターを使用した後,廃棄する際に,この換気扇フィルターを水に浸漬すれば,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを手指で容易に剥離することができる。従って,金属と不織布とを分別廃棄することができるという効果を奏する。依って,金属は再利用することも可能であるし,金属は金属のみで廃棄処理し,不織布は不織布のみで廃棄処理することができ,省資源上或いは環境上,有益なものである。
イ主たる引用例(甲1の1)の記載甲1の1には,以下の記載がある。
「2.実用新案登録請求の範囲レンジフードの開口部周縁への取付座となるフイルターカバーの顎部の内周縁に立上り壁をそなえるとともに,該立上り壁の下端に格子状部を有するカバーを金属箔をもつて,一体に形成し,該格子状部には難燃性乃至不燃性のフイルターを装着するとともに顎部にはレンジフードへの吸着用マグネットを取付けたことを特徴とするレンジフード用カバー。
3.考案の詳細な説明・・・格子状枠4はフイルター5を装着するもので,フイルター5は接着剤を使用して格子枠の内面側に接着される。フイルター5は防火上難燃性または不燃性の不織布で形成される。例えば石綿などの不織布を使用したものである。
・・・しかも顎部に吸着用マグネツトを設けるので,フードへの着脱もいたつて容易であるとともに薄肉なアルミ箔をもつて形成でき,安価に提供できるので使い捨て方式のフイルターカバーとして有効なものである。」ウ審決が共通の解決課題の存在を認定した文献の記載(ア)甲18の記載甲18には,以下の記載がある。
【0002】【従来の技術】従来,レンジフード換気扇等に取り付けるフイルターは・・・金網に取り付けるための引掛け部12を有して構成されているが,通常,フイルター部分11は繊維不織布により形成されているのに対し前記引掛け部12はアルミ箔を折り曲げた構造となっていて,実際の取り付け時には,そのアルミ箔よりなる折り曲げ部分を手で開いて金網等に引掛けていた。
【0003】【考案が解決しようとする課題】ところが上述のようなフイルターは取り付け時に折り曲げられたアルミ箔を手で開かなければならない煩わしさのみならず,更にフイルターを使用後廃棄する場合にはアルミ箔を汚れた不織布部分と分離し,わざわざこれを金属ゴミとして分別処分しなければならない難点を有していた。
【0004】本考案は上述の如き事実に対処し,金属箔を成形可能な繊維不織布に代えることにより金網フイルターへの取り付けを簡略化すると共に使用後の廃棄に際し,分別することなく全体を容易に家庭ゴミとして処分せしめることを目的とするのである。
【0005】【課題を解決するための手段】即ち,上記目的に適合するため本考案はフイルター全体を一般廃棄可能な繊維集積体よりなる不織布で構成し,そのフイルター部分上部を所要長さに折り曲げ成形して金網等に取り付ける開口を形成し保形せしめている。
(イ) 甲19の記載【発明が解決しようとする課題】【0004】ところで,昨今,廃棄物の再資源化が大きく唱えられている。このような観点から,家庭から出される廃棄物も分別が求められている。・・・今後,この分別の度合いは益々厳しくなるものと思われる。このような点からすると,使用済みの前記換気扇カバーは,ゴミとして家庭から出されるに際して,不織布製のフィルター部分と金属製の換気扇カバー枠体とに分離することが求められるであろう。
【0005】しかし,このような分離作業は,フィルターが油煙で汚れていることを考えると,厄介なものと予想される。又,不織布(フィルター)は接着剤により金属箔製の枠体に取り付けられている。しかし,接着剤による不織布の取付作業性は良くない。
【0006】従って,本発明が解決しようとする第1の課題は,油煙などが付着した使用済みの換気扇カバーをゴミとして出すに際して,フィルター部分と換気扇カバー枠体とを分離する必要度が低く,そのまま一体物として出しても問題が起き難く,ゴミとして出す場合の作業性に優れ,かつ,再資源化が容易な換気扇カバーを提供することである。
【0007】本発明が解決しようとする第2の課題は,フィルターの枠体への取付作業性に優れ,製造コストが低廉な換気扇カバーを提供することである。
本発明が解決しようとする第3の課題は,フィルターに穴が開き難く,取扱性に優れた換気扇カバーを提供することである。本発明が解決しようとする第4の課題は,燃え難く,安全性が高い換気扇カバーを提供することである。
【0008】【課題を解決するための手段】前記第1ないし第4の課題は,金属箔製の換気扇カバー枠体と,この換気扇カバー枠体に取り付けられたフィルターとを具備してなる換気扇カバーであって,前記フィルターは,金属繊維を用いて構成されたものであって,前記金属繊維間の隙間が小さな薄肉部と,前記薄肉部よりその厚さが厚く,金属繊維間の隙間が大きな厚肉部とを具備したものであることを特徴とする換気扇カバーによって解決される。
(ウ) 甲32の記載【0003】【考案が解決しようとする課題】上記従来技術のものは,フィルター膜を強固に取り付けることができるものの,加工成形状フィルター膜を接着する枠体の開口周縁部以外のアルミ箔の部分,例えば枠体周面やプレス成形加工時に枠体から切り落とされる不要部分,にも樹脂コーティングを施さねばならず,製造コストがある程度高くならざるを得なかった。
【0004】また,アルミ箔製の枠体は,換気扇用フィルターとして使用した後に再生利用することが可能であるが,上記従来技術のものは,フィルター膜の接着が強固になされていることから,フィルター使用後,油や塵を多量に含んだフィルター膜を枠体から取り除き難く,即ち分別廃棄がし難く,再生利用が難しかった。さらに,枠体から切り落とされる不要部分も再生利用のため樹脂コーティングの除去処理が必要となり,加工コストがかかり,再生効率が悪いという問題があった。
【0005】本考案は,従来の換気扇用フィルターの有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,フィルター膜の取り付け及び取り除きを容易且つ確実に行うことのできる簡便な構成であって,製造コストを削減し得,再生効率を高め得る換気扇用フィルターを提供することにある。
【0006】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,本考案の換気扇用フィルターは,金属箔枠体のフィルター膜接合面に折曲可能な爪片を形成し,接合したフィルター膜に上記爪片を貫通させてフィルター膜を止着させるようにしたことを特徴としてなるものである。
エ審決が本件各発明の解決手段の適用が容易である根拠とした文献(甲2)の記載【特許請求の範囲】【請求項1】末端OH基を有する(メタ)アクリレートをリン酸でエステル化したモノマーを必須のモノマー成分とすた(判決注成分としたの誤記と認める。)ポリマーを含む粘着剤組成物であって,上記ポリマーがアルカリ性中和剤によって中和されていることを特徴とする水溶性粘着剤組成物。
【請求項3】末端OH基を有する(メタ)アクリレートをリン酸でエステル化したモノマーを含む重合性組成物をアルカリ性中和剤に溶解もしくは懸濁し,反応性界面活性剤及び熱反応性ラジカル発生剤の存在下で水に分散させて加熱して重合することを特徴とする水溶性粘着剤組成物の製造方法
【0001】【産業上の利用分野】本発明は,水溶液によって粘着剤が溶解または膨潤して剥離することができるマスキングテープ及びラベル等の粘着剤として用いることのできる水溶性粘着剤組成物及びその製造方法に関するものである。
【0005】【発明が解決しようとする課題】他方,電子材料の分野では,プリント基板や半導体等の保護のため,しばしば保護テープが貼付されており,組立前に該保護テープを剥離し,残存した保護テープ用粘着成分残渣をフロン等の溶剤で洗浄することにより除去していた。しかしながら,近年,地球環境保護のために,フロンに代えて,水による洗浄が要求されており,従って保護テープ用粘着剤としてもその粘着成分残渣が水洗浄可能なものであることが求められている。また,セラミックスチップを機械研磨するときのチップ固定用の粘着テープにも同様に水洗浄可能な粘着剤を使用することが求められている。
【0006】これらの粘着テープには,高い再剥離性と容易に剥がれない接着性とが要求される。再剥離性が低いと,剥離したときにチップに粘着剤成分が残ってしまうことになり,また,粘着剤の凝集力及び基材とのアンカー力と被着体との接着力については,後者の被着体との接着力の方が高いと,凝集破壊やアンカー破壊を生じ,剥離したとき糊残りし易く,これに触れたものを次々に汚染することになるからである。
【0007】前記した従来の水溶性粘着剤は,水溶性可塑剤が多量に配合されているため,粘着剤の凝集力が低く,剥離したとき糊残りし易いという問題があった。・・・さらに,可塑剤自体が接着界面にプリードアウトすることによって,時間が経過するにしたがって界面接着力が著しく低下するという問題もあった。
【0008】本発明の目的は,上述した従来の水溶性粘着剤の欠点を解消し,水溶性あるいは水洗浄性であって,被着体に糊残りのしない水溶性粘着剤組成物,その製造方法,並びに粘着テープの製造方法提供することにある。
【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記の点に鑑み鋭意検討した結果,末端OH基を有する(メタ)アクリレートをリン酸でエステル化したモノマーを必須のモノマー成分として用いたポリマーの酸をアルカリ性中和剤で中和することにより,上記課題を解決できることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち,本発明の水溶性粘着剤組成物は,末端OH基を有する(メタ)アクリレートをリン酸でエステルしたモノマーを必須のモノマー成分とするポリマーを含む粘着剤組成物であって,上記ポリマーがアルカリ性中和剤によって中和されていることを特徴としている。
【0062】【発明の効果】本発明の粘着剤組成物は,・・・酸・中和性水のいずれの液性の水にも溶解し,水によって洗浄され得るので,水溶液によって粘着剤が溶解または膨潤して剥離することができるマスキングテープ及びラベル等の粘着剤として好適に用いることができる。
(2) 判断ア本件発明1は,前記認定のとおり,従来の換気扇フィルターでは,アルミニウム箔片面全面に,感熱性接着剤皮膜を設け,これに,張出成形や膨出成形等の成形を施すと共に,打抜加工して開口を設けて金属製フィルター枠とし,この金属製フィルター枠の開口を覆うようにして不織布製フィルター材を張り,押圧加熱し,感熱性接着剤を溶融固化させて,不織布製フィルター材を金属製フィルター枠に接着するという方法で製造されていたので,使用後に,不織布製フィルターを金属製フィルター枠から剥離しようとすると,両者の接着が強固であるため,不織布製フィルターが破れてしまい,両者を分別することができないという欠点があったため,本件各発明は,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを接着する際,通常の状態では強固な接着が達成でき,水を付与すると,金属と不織布間との接着力が低下する性質を持つ接着剤を用い,使用後の換気扇フィルターを水に浸漬することにより,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とに分別し得るようにすることを発明の目的としたものである。
そうすると,本件発明1は,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」を解決課題とし,「(換気扇フィルターにおいて),通常の状態では強固に接着させるが,水に浸漬すれば接着力が低下し,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別し得る皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いること」を解決手段とした発明である。
これに対して,前記認定のとおり,審決が文献から引用した発明Aは,「金属箔をもって一体に形成された,レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部と,この鍔部の内周縁に立上り壁と,該立上り壁の下端に格子状部と,該格子状部に接着剤によって装着されている難燃性乃至不燃性の不織布フィルターと,前記鍔部に取付けたレンジフードへの吸着用マグネットからなるレンジフード用フィルターカバー。」であって,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」を解決課題として,これに対する解決課題を示した本件発明1とは異なる。甲1には,本件発明1が目的としている解決課題及び解決手段に関連した記載又は開示等はないのみならず,逆に,フィルターをフィルターカバーから剥離せずに廃棄することを前提とした発明であることが示されている。
イこの点について,審決は,前記甲18,19及び32の例から,「換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄すること(を容易にすること)」は,周知の技術的課題であることから,当業者は,甲2に接すれば,上記の課題を解決するため,接着剤成分が溶解または膨潤するものを選択することが容易であると判断している。
しかし,審決は,上記課題が周知であるとすると,なにゆえ本件発明1の引用発明(発明A)との相違点に係る構成が容易に想到できることになるのかに関する論理について,合理的な理由を示していない点において,妥当を欠く。
のみならず,甲18,19及び32の記載を子細に検討してみても,本件発明1が解決課題としている「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」と同様の解決課題を示唆するものはない。
すなわち,?甲18,19及び32は,換気扇フィルターの使用後に金属製フィルター枠及びフィルター材の廃棄を容易にするものではあるものの,いずれも,金属製フィルター枠とフィルター材とが「接着剤で接着されている」ことを前提とした発明とは異なる技術を示すものである。また,?甲18記載のレンジフード用フィルターは,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材が「強固に接着されている換気扇フィルター」ではなく,「金属箔を成形可能な繊維不織布に代えることにより金網フイルターへの取り付けを簡略化すると共に使用後の廃棄に際し,分別することなく全体を容易に家庭ゴミとして処分せしめることを目的とする」ものであり,本件発明1とは,解決課題及び解決手段において異なる。さらに,?甲19も,金属箔製の換気扇カバー枠体と金属繊維を用いたフィルターから構成され,フィルター部分と換気扇カバー枠体とを分離する必要性を解消させて,そのまま一体物として出しても問題が起き難く,ゴミとして出す場合の作業性に優れ,かつ,再資源化が容易な換気扇カバーを提供することを目的としており,本件発明1とは解決手段において異なる。すなわち,本件発明1は,フィルター枠とフィルターとの剥離を容易にしようとすることを目的とするのに対し,甲18,19は,一体物としてゴミ出しをしても問題が生じることがないようにして,作業を高めるものであって,本件発明1における,解決課題の設定及び解決手段は,全く逆であって,本件発明1の異なる構成に想到することを容易とする技術が示唆されているものとはいえない。
ウ以上のとおり,甲18,19及び32において,本件発明1と発明Aとの相違点(相違点A)に係る構成,すなわち,「接着剤につき,本件発明1では,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いているのに対し,発明Aでは,かかる接着剤を用いていない点。」に関する解決課題及び解決手段についての示唆はない。
したがって,審決において,本件発明1における「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得ることを容易化すること」という解決課題設定及び解決手段の達成が容易に想到できたとの点について,証拠を基礎とした客観的合理的な論理に基づいた説明が示されていると判断することはできない。
甲2には,前記のとおり,?水溶液によって粘着剤が溶解又は膨潤して剥離することができるマスキングテープ及びラベル等の粘着剤として用いることのできる水溶性粘着剤組成物及びその製造方法に関するものであること,?電子材料の分野で使用される保護テープ,セラミックスチップを機械研磨するときのチップ固定用の粘着テープなどでは,地球環境保護のため,粘着成分残渣が水洗浄可能なものであることが求められ,高い再剥離性と容易に剥がれない接着性とが要求されるという課題があること,?末端OH基を有する(メタ)アクリレートをリン酸でエステル化したモノマーを必須のモノマー成分とするポリマーを含み,上記ポリマーがアルカリ性中和剤で中和されていることを特徴とする水溶性粘着剤組成物により上記課題を解決する発明が記載されている。
しかし,前記のとおり,甲18,19及び32等の例によっても,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得ることを容易化すること」との解決課題を設けることが示されていない以上,当業者において,発明Aに,甲2記載の発明を適用することによって,本件発明1における発明Aとの異なる構成に想到することが容易であったとすることもできない。すなわち,発明Aから,本件発明1の特徴点(「(通常の状態では強固に接着させるが,水に浸漬すれば接着力が低下し,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別し得る)皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いること」)に到達することの示唆が,甲2の記載に存在するとはいえないから,結局,発明Aに甲2記載の発明を適用することが,容易とはいえない。
したがって,甲2に接した当業者が,換気扇フィルターの廃棄時に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを容易に剥離するために,発明Aに「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」を用いることは困難なくなし得たとした審決の判断は誤りであり(この点は,甲2記載の粘着剤,並びに甲10,11及び24記載の接着剤が「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」に相当するか否かに左右されるものではない。),これを前提とした本件発明1に関する容易想到性の判断にも誤りがあるというべきである。
上記述べた理由は,本件発明2ないし4についても,同様に妥当する。
(3)以上のとおり,審決には,本件各発明の解決課題を正確に認定していない点で誤りがあり,また,誤った解決課題を前提とした上で本件各発明が容易想到であるとした点において誤りがあるから,取り消されるべきである。
3小括以上のとおり,原告らの主張する取消事由2には理由があるから,その余の争点について判断するまでもなく,本件各発明についての特許を無効とした審決は,違法として取り消されるべきである。
第5結論 よって,原告らの主張は理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子