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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10239審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10033審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  新規性 /  29条1項3号 /  相違点の認定 /  同一の発明 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10343号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/07/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文


平成22年7月28日判決言渡
平成21年(行ケ)第10343号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成22年7月21日
判決
原告 イ ー ワ ンモ リ エ ナ ジ ー
( カ ナ ダ ) リ ミ テ ッ ド

E - O n e M o l i E n e r g y
( C a n a d a ) L i m i t e d

訴訟 代理 人弁 理士 米澤明
同 阿部龍吉
同 蛭川昌信
同 内田亘彦
同 菅井英雄
同 青木健二
同 韮澤弘
同 飯高勉
同 片寄武彦
同 田中貞嗣
同 小山卓志
同 森川聡
同 南義明
被告 特許庁長官
指定代理人 吉水純子
同 志水裕司
同 北村明弘
同 田村正明



主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1請求
特許庁が不服2007?15346号事件について平成21年6月17日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告(旧々名称「モリ・エナジー(1990)リミテッド」,旧名称
「エヌイーシーモリエナジー(カナダ)リミテッド」)が,名称を「リチウム電
池用高電圧挿入化合物」とする発明につき特許出願(本願)をしたところ,特
請求の範囲変更等を内容とする補正(第1次補正)をするも拒絶査定を受
けたので,不服審判請求をし,その中でさらに特許請求の範囲変更を内容と
する補正(第2次補正)をしたが,特許庁が第2次補正を却下した上,請求不
成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,第2次補正後の本願発明が下記引用文献に記載された発明と同一で
あるか(特許法29条1項3号),である。

・JournaloftheElectrochemicalSoc
iety,vol.138,No.10(October1991)28
59頁?2864頁,“The Spinel Phase of LiMn



as a Cathode in Secondary Lithium Cell
s”(「リチウム二次電池における正極としてのLiMn



のスピネル相」。
以下「引用例」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。甲1)



第3当事者の主張
1請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,1995年(平成7年)9月13日の優先権(カナダ)を主張し
て,平成8年9月3日,名称を「リチウム電池用高電圧挿入化合物」とする
発明について特許出願(特願平8?232991号,請求項の数28。公開
公報は特開平9?147867号)をし,その後平成17年3月24日付け
で特許請求の範囲等を変更する手続補正(第1次補正,請求項の数30)を
したが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2007?15346号事件として審理し,そ
の中で原告は平成19年5月31日付けで再び特許請求の範囲変更を内容
とする手続補正(第2次補正,請求項の数10。以下「本件補正」という。)
をしたが,特許庁は平成21年6月17日,本件補正を却下した上,「本件審
判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成21年7月3日
原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件補正後の請求項は前記のとおり10から成るが,うち【請求項1】の
内容は次のとおりである。
・【請求項1】
一般式Li
x+y


Mn
2?y?z


で表されるリチウム挿入化合物におい
て,スピネル状結晶構造をもち,MがNiまたはCrであり,xが0また
は0よりも大きく1未満,yが0または0よりも大きく0.33未満であ
って,MがNiである場合には,zが0.05よりも大きく0.5未満の
数値であり,MがCrである場合には,zが0.5以上であって1未満の
数値であり,そして電位がLi/Li

に対して4.5ボルト以上である
ことを特徴とするリチウム挿入化合物。



(3) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写し記載のとおりである。その理由の要点は,本
件補正後の請求項1記載の発明(以下「補正発明」という。)は,前記引用例
に記載された発明(引用発明)と同一であって特許法29条1項3号に違反
し,独立して特許を受けることができるものに当たらないから本件補正は却
下すべきであるというものであり,本件補正前の請求項1の発明も引用発明
と同一で同法29条1項3号に違反する,というものである。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,本件補正を却下した審決には,以下のとおりの誤りがある
から,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明認定の誤り)
審決は補正発明の技術的意義の理解を誤り,その結果引用発明の内容の
認定を誤ったものである。すなわち,引用例(甲1)中には,以下に述べ
るとおり,4.5Vの電位を達成しているLi



Mn
2?y


で表され
るリチウム挿入化合物に係る発明は記載されていないから,上記化合物が
引用例中に記載されているとの審決の認定は誤りである。
(ア ) 二次電池においては,放電時の電圧が充電時の電圧よりも小さくな
る傾向がある。すなわち,電池の充電は電気分解と同様の現象であって,
充電時の電池の端子間電圧は平衡電位E

(可逆電位)に不 可 逆 電 位

ir
(過電圧等)及び電池又は電解槽内の抵抗に打ち勝って電流を流
すのに必要な電位E
ohm
を加えたものとなるが,電気分解と逆の反応で
ある,放電時の電池の端子間電圧は,平衡電位E

’(可逆電位)から
不可逆電位E
ir
’(過電圧等)及び電池又は電解槽内の抵抗に打ち勝っ
て電流を流すのに必要な電位E
ohm
’を減じたものとなるから,放電時
の端子間電圧E’は充電時の端子間電圧Eよりも小さくなり,放電時の
端子間電圧よりも高い電圧をかけて充電する必要がある。したがって,



測定した電圧の範囲の上限値よりも,実際の充放電サイクル曲線の電圧
の上端値は,若干小さい値に止まる。
(イ ) しかるに,引用例の図6には,Mをニッケル(Ni)とするLi



Mn
2?y


を正極材とするリチウム二次電池に初期充電した結果が
示されているが,同図で示されている初期充電の電圧は4.5Vまでで
あって,本願明細書(特許願〔甲8〕,公開公報〔甲3〕,第1次補正書
〔甲4〕)の実施例で採用されているような4.8?4.9Vのような
高電圧ではない。
したがって,Li



Mn
2?y


は実質的に改質されず,これを正
極材料とするリチウム二次電池は充放電サイクル試験において4.5V
以上の電位で有用量の可逆的リチウム容量を示すものではない。
(ウ ) 引用例の図7のうちの上の図(以下「引用例図7a」という。)には
リチウムが化学的手段(酸)で抽出されたLi



Mn
2?y


につい
て,初期充電後の二次サイクル試験(充放電サイクル試験)の結果が示
されているが,充電サイクル曲線の平坦部(プラトー)が3V未満の低
い電位において現れており,本願明細書の図3のサイクル曲線における
平坦部の電位とは異なるし,引用例図7aの充放電サイクル試験におけ
る充放電サイクル曲線と本願明細書の図3のサイクル曲線とは,その平
坦さが異なるものである。
また,引用例図7aの充放電サイクル試験において,端子間電圧の測
定電圧が4.5Vに達しているか否かも引用例図7aからは不明であり,
引用例図7aの充放電サイクル試験において,上限値である4.5Vで
充放電がされたとはいえない。
したがって,上記図中で示されている引用発明の正極材が4.5V以
上の電位で有用量の可逆的リチウム容量を示すリチウム挿入化合物で
あるとはいえない。



(エ ) 引用例の図7のうちの下の図(以下「引用例図7b」という。)に記
載された充放電サイクル試験におけるリチウム挿入化合物は酸による
リチウムの抽出を受けたものでも,前駆体リチウム化合物を高電圧で初
期充電することにより電気化学的にリチウムを抽出したものでもない。
また,上記試験の電圧に関する記載は,単に充放電サイクル試験の試験
電圧の幅を示すものにすぎない。横軸をリチウム挿入化合物のリチウム
の挿入・抽出量とするか,電池容量に対応する可逆的リチウム容量とす
るかによって,充放電サイクル曲線の形状は大きく異なるものではない
ところ,引用例図7bの充放電サイクル曲線の形状は本願明細書の図3
の充放電サイクル曲線の形状とは異なるから,引用例図7bの充放電サ
イクル曲線の形状は異質なものである。かつ,引用例図7bのリチウム
挿入化合物は低電圧での充放電を必要とするものであることに鑑みる
と,引用例図7bは出発材料のリチウム挿入化合物が改質されたことま
で示すものではない。
なお,引用例図7bにおいて,Liの数を示す横軸(x)が約0.3
から1.7の間で変動しているのは,充放電による正極と負極の間のL
iイオンの移動により,正極におけるLiの数が変動したという当然の
事柄によるものであり,グラフの一部を抜き出して,xの値が一定の範
囲のリチウム挿入化合物に係るデータが記載されているとか,電位がL
i/Li

に対して4.5V以上のリチウム挿入化合物が記載されてい
るとするのは誤りである。
そして,引用例図7b中のyが0.1の場合の放電開始時a等の各充
放電サイクル曲線の放電電圧はいずれも4.5Vに達していないから,
放電開始後の放電電圧が4.5Vに達することはない。
(オ ) 4.5Vと3.3Vの間の電圧で充放電のサイクル挙動を測定した
とされる引用例の図4に関しても,終止電圧が4.4Vであった旨が示



されているし,4.5Vと2Vの間の電圧で充放電の第2サイクル試験
を行ったとされる引用例の図8についても,ほとんどの試料の充電終了
電圧(終止電圧)は4.5V未満であったことが明らかである。
(カ ) 引用例の図7,図8に係る試験においても,本願発明における試験
と同様に,一定の電流密度で充放電を行い,電池電圧が所定の値以上に
変化するたびにデータを記録する方法を採用しているものと推定され
る。
そうすると,上記各図に係る試験においては,もはや電池電圧を上げ
ることができないか,4.5V未満の電圧で試験を終了せざるを得なく
なったために,充電終止電圧が4.5V未満となった多数の試料があっ
たものと推定できる。
上記各図における充放電サイクル曲線を綿密に観察すれば,充電終止
電圧が4.5V未満であったことは明らかである。
(キ ) 仮に引用例のリチウム挿入化合物において4.5Vの充電終了電圧
を達成したとしても,?一定の電流密度で充電を行う方法により充放電
サイクル試験を行った場合には,一定の電圧に達したときに直ちに充電
を終了し,当該終了電圧で可逆的なリチウム容量を測定することはでき
ないし,?放電開始電圧はオーム損等のために充電終了電圧よりも低く
なるから,充電終了電圧が4.5Vであれば放電開始電圧は4.5V未
満となり,4.5Vの可逆的リチウム容量を示すことはないはずである
し,?電池の正極側端子と正極材であるLi



Mn
2?y


との間に
はそれ自体が電気抵抗を有する導電手段が介在しており,上記導電手段
の電気抵抗による電圧降下が生じるため,充電終了電圧が4.5Vであ
る場合には,正極材であるLi



Mn
2?y


に加えられる電圧は上
記電圧降下分を減じた4.5V未満の値となるはずであるから,引用例
のリチウム挿入化合物の可逆的リチウム容量が4.5V以上のものとな



るものではない。
(ク ) 審決は,「置換元素MがNiであって,その置換率yが0.1,0.
3及び0.4であるLi



Mn
2?y


のうち,置換率yが0.3及
び0.4のものはxの値が0.4と0.8の間のいずれかの数値のとき
に4.5Vの電位を達成していることが窺え」,引用例には「大凡のもの
として」上記リチウム挿入化合物が記載されているとの曖昧な認定をし
ているが,これは引用例の図7中で4.5Vの充電終了電圧を達成して
いることが疑わしいことを示すものである。
イ取消事由2(引用発明と補正発明との対比の誤り)
前記アのとおり,審決は引用発明の内容の認定を誤っているから,上記
認定に基づいて行った補正発明との対比も誤りである。
本願発明の明細書中の記載に鑑みても,当業者の理解を基準にしても,
電位がLi/Li

に対して4.5V以上であるとは,リチウム挿入化合
物が4.5V以上の電位で有用量のリチウム容量を示すこと,したがって,
4.5V以上の作動電位が得られることを意味するから,この意味に従っ
て,補正発明と引用発明とを対比すべきである。
引用例中では,4.5V以上の電位で有用量のリチウム容量を示す,す
なわち電位がLi/Li

に対して4.5V以上であるリチウム挿入化合
物は開示されていない。したがって,引用発明と補正発明とが,一般式L

x+y


Mn
2?y?z


で表わされるリチウム挿入化合物において,スピ
ネル状結晶構造を持ち,MがNiであり,数値xが0.4から0.8まで
の間のいずれかの数値であり,数値yが0であり,数値zが0.3又は0.
4の数値であって,電位が4.5Vである,リチウム挿入化合物である点
で一致するとした審決の認定は誤りである。
また,電位がLi/Li

に対して4.5V以上であるリチウム挿入化
合物である点が補正発明と引用発明との相違点であるところ,審決は上記



相違点につき,補正発明においてはリチウム挿入化合物の電位が「Li/
Li

」に対する電位であるのに対し,引用発明においてはリチウム挿入
化合物の電位が「Li/Li

」に対する電位か不明であると認定してお
り,上記相違点の認定は誤りである。
2請求原因に対する認否
請求原因
(1) ないし (3) の事実は認めるが,同 (4) は争う。
3被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア「電位がLi/Li

に対して4.5ボルト以上である」リチウム挿入
化合物とは「電位が金属リチウムが示す電位Li/Li

に対して4.5
V以上である」リチウム挿入化合物を意味する。
ここで,本願明細書の記載によれば,「リチウム挿入化合物」とは,リチ
ウム(Li)をゲスト原子(ゲストイオン)として,これを可逆的に挿入
することができる固体ホストとして作用する化合物をいう。
また,上記にいう「電位」は,その物質が置かれた使用状態や使用条件
に即して様々に異なりうるものであるが,本件補正後の特許請求の範囲
では前記「電位」につき何ら定義されておらず,広範囲の電気的特性を包
含するものであるし,明細書の発明の詳細な説明中でも,使用状態や使用
条件について特定されているわけではないから,やはり前記「電位」の意
義が明らかにされていない。
そうすると,前記「電位がLi/Li

に対して4.5ボルト以上であ
る」にいう「電位」には,リチウム挿入化合物の本来的な電気化学的性質
である「平衡電位」や,リチウム挿入化合物が二次電池の電極として使用
される場合の「充電電圧」,「放電電圧」等が当てはまりうるのであって,
必ずしも「金属リチウムが示す電位であるLi/Li

に対して4.5V



以上の電位で有用量の可逆的リチウム容量を示すこと」をいうものと限定
的に解さなければならないわけではない。
イ補正発明(請求項1)には,前駆体リチウム挿入化合物から,高電圧で
初期充電をするという電気化学的手段によって,リチウムを抽出し,リチ
ウム挿入化合物を得ることや,同請求項のリチウム挿入化合物が高電圧で
使用可能な程度の有用量の可逆的リチウム容量を有することは記載されて
おらず,原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかない失当なものであ
る。
上記特許請求の範囲では,電気化学的手段による作製や改質がされたリ
チウム挿入化合物に限定されているわけではなく,「電位がLi/Li


対して4.5V以上である」リチウム挿入化合物をすべて含むものである。
なお,上記電気化学的手段によってリチウム挿入化合物を得ることは,
上記請求項のリチウム挿入化合物をリチウム二次電池の正極材に適用した
ときに必要な調製手段であって,「有用量の可逆的リチウム容量」という二
次電池の特性を実現するために必要なものにすぎない。
ウ引用例図7b中には,Li



Mn
2?y


を正極とする二次電池のセ
ルを用いた充放電サイクル試験による充放電サイクル曲線が示されており,
その2回目の充放電のサイクルで,200μA/cm

の電流密度で4.
5Vまで充電し,2Vまで放電し,充放電時に正極材中のリチウム量につ
きxの値が0ないし2となる範囲で変動したことが示されている。
したがって,充放電サイクルの充電が終了した時点において正極材であ
るLi



Mn
2?y


が4.5Vの電位を達成していることは明らかで
ある。
エ引用例図7bでは,縦軸の電圧の値が4.5Vに近付くにつれ,横軸の
(挿入)化合物中のリチウム量を示すxの数値が減少する様子が示されて
おり,4.5Vの電圧で充電されたLi



Mn
2?y


が開示されてい



るから,4.5Vで充電するという電気化学的手段によりLi



Mn

?y


からリチウムを抽出することが開示されていることは明らかである。
オ充電が終了する「終止電圧」は「電池の試験において充電を終了する限
度を示す電圧」を意味するところ,充電終止電圧が4.5Vであるという
ことは,基準となる電位に対して4.5Vの電位に達するまで当該電池を
充電することを意味する。
引用例図7bの試験では,4.5Vに達した時点で充電を終了している
ことが明らかであって,充電終了時点では4.5Vの電位に達した状態に
ある。そうすると,オーム損等の影響により放電開始時の電圧が若干低く
なったとしても,充電終了時に4.5Vの電位を達成していることには間
違いがないから,審決が同時点において4.5Vの電位を達成している正
極材のリチウム挿入化合物Li



Mn
2?y


との趣旨で,引用例中で
「4.5Vの電位を達成しているLi



Mn
2?y


で表わされるリチ
ウム挿入化合物」と認定したことに誤りはない。
カ審決が引用発明で開示されている事項につき「窺える」とか「大凡のも
のとして」という控え目の表現をしたのは,引用例の図7のxの値の目盛
りが大きな間隔で表記されているため,4.5Vの電位に達したときのx
の正確な値を読み取ることができないためのものにすぎない。
(2) 取消事由2に対し
前記
(1) のとおり,引用発明の内容についての審決の認定に誤りはないから,
これを前提とする審決の引用発明と補正発明との対比,すなわち両発明の一
致点及び相違点の認定に誤りはない。
補正発明にいう「電位がLi/Li

に対して4.5ボルト以上である」
ことを,リチウム挿入化合物が4.5V以上の電位で有用量のリチウム容量
を示すことを意味するものと必ずしも解さなければならないわけではなく,
上記理解を前提に引用発明と補正発明との相違点を導かなければならないも



のでもない。
第4当裁判所の判断
1請求原因
(1) (特許庁における手続の経緯)・ (2) (発明の内容)・ (3) (審決の
内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
新規性(特許法29条1項3号)の有無
審決は,補正発明は引用発明と同一であるから新規性がなく,特許法29条
1項3号に該当すると判断し,原告はこれを争うので,以下検討する。
(1) 補正発明の意義
ア本願明細書(公開公報〔甲3〕,第1次補正書〔甲4〕)には,次のとお
りの記載がある。
(ア ) 発明の属する技術分野
・「本発明はリチウム挿入化合物,およびリチウム電池にこれら化合物
を使用することに関する。特に,本発明はリチウム電池における高電
圧正極材料として特定のリチウム遷移金属酸化物を使用することに
関する。」(甲3段落【0001】)
(イ ) 従来の技術
・「挿入化合物とは,ゲスト原子を可逆的に挿入できる固体ホストとし
て作用する化合物のことである。・・・リチウム?イオン電池として
知られている新しい形式の再充電可能なリチウム電池は,最近になっ
て市販されるようになったリチウム挿入化合物に基づく製品であ
る。・・・リチウムイオン電池の動作電圧はほぼ3.5ボルトと十分
高く,多くの電子用途では,一つの電池で十分その役割を果たすこと
ができる。」(甲3段落【0002】)
・「リチウムイオン電池の場合,活性な正極および負極に対して2種類
の異なる挿入化合物を使用する。リチウムは挿入の可逆性が非常にす
ぐれているため,これら化合物は電池サイクルが数千回もある再充電



可能な電池用途ですぐれた性能を発揮する。リチウムイオン電池の場
合,負極材料からリチウムが抽出される。一方,電池放電時には,同
時に正極に挿入される。電池の再充電時には,逆の過程が生じる。リ
チウム原子は,非水系電解質に溶解したイオンとして一方の電極から
他方の電極に移動,すなわち『揺動』し,これに対応して電子が電池
に対して外部の回路を流れる。」(甲3段落【0003】)
・「特に魅力のある正極材料の候補はLiMn

O

である。というのは,
マンガンはコバルト及び/又はニッケルよりもかなり安価なためで
ある。LiMn

O

は,スピネル結晶組織をもつ化学量論的なリチウ
ムマンガン酸化物である。ところが,この化学量論的な化合物は,従
来構成のリチウムイオン電池の正極として使用した場合には,サイク
ル寿命が許容できないほど短くなることがわかった。これらサイクル
寿命に関する問題は,化学量論や合成方法を変えるとある程度は解決
することができる。」(甲3段落【0005】)
・「M.M.Thackeray等の発明者とする米国特許明細書第5,
316,877号には,上記化学量論的なスピネルLiMn

O

にさ
らにリチウムを配合すると,容量対サイクル寿命関係が改善すること
が開示されている。ここでは,化合物はLi


x/b
Mn
2?x

4+d
で示されている。ここで,DがLiで,dが0ならば,改良化合物L

1/x
Mn
2?x


(但し,0 ≦ x<0.33)が得られる。他の金
属Dを配合しても同様な望ましい結果が得られることが示唆されて
いるが,これら化合物がLi/Li

に対して約4.5ボルト以上の
電気化学的挙動を示すことについては何も記載されていない。実際,
電気化学的試験はLi/Li

に対して4.5V未満の電圧に限定さ
れている。」(甲3段落【0006】)
・「・・・J.M.Tarasconは,・・・,LiMn



にさら



にリチウムを配合することによる容量対サイクル寿命関係における
改善を確認した。また,ここで発表されたサイクリックボルタノグラ
ムから,LiMn



およびさらにリチウムを配合した化合物のい
ずれもが,Li/Li

に対して約4.5ボルトおよび約4.9ボル
トで小さな容量ピークを示すことがわかった。この低いほうの4.5
ボルト容量は,リチウム配合量が増えるにつれて,低下した。また,
高いほうの4.9ボルト容量は,リチウム配合量が増すにつれて,高
くなった。また,約4.5ボルト以上の電圧で若干の容量が認められ,
この容量はリチウム配合量が増すにつれて高くなったが,依然として
非常に低かった。上記化合物の有効容量が4.5ボルト未満の電圧で
得られ,これが電池試験を4.5ボルト未満の電圧で行なった理由と
考えられる。また,上記の発表では,ニッケル置換化合物やクロム置
換化合物については全く触れられていない。また,これら化合物にお
いて約4.5ボルト以上の電圧で相当高い容量が得られる可能性につ
いても何も言及がない。」(甲3段落【0007】)
・「・・・J.M.Tarasconなどが,J.Electroch
em.Soc.,138,10,(1991),2859に発表した別
な論文では,LiMn



およびこれの各種置換化合物の電気化学
的特性が検討されている。検討対象化合物には,化合物Li

Mn
2?





(Li

Ni

Mn
2?z


とも表記されている)(ただし,y
は0.4以下の数値である)が含まれていた。ところが,Li/Li

に対して約4.5ボルト以上の電圧では電気化学的試験を行なって
いない。・・・」(甲3段落【0008】)
・「リチウム電池への適用を目的として,多くの置換LiMn



スピ
ネル挿入化合物が報告されている。また,ニッケル及び/又はクロム
置換LiMn



スピネル挿入化合物について多くのことがいわれ



ている。・・・しかし,ここでも同様に,電気化学的試験電圧は4.
5ボルト未満に制限されている。・・・さらに,米国特許明細書第5,
084,366号において,Y.Toyoguchiは適正なクロム
置換によってサイクル特性が向上することを証明しているが,ここで
も同様に,電気化学的試験電圧は,Li/Li

に対して4.5ボル
ト以下にのみ行っている。」(甲3段落【0009】)
・「置換LiMn



スピネル化合物の大半について,現在までに電気
化学的特性が広範に研究されているにもかかわらず,リチウムに対し
て4.5ボルト以上では依然として解明されていないように考えられ
る。実際,これら化合物を,このような高い電圧範囲で動作するリチ
ウム電池に使用することは表面上は考えられていない。歴史的にみて,
安定な高電圧電解質が存在しないことを要因とする問題,あるいはよ
り低い電圧において現在認められる否定的な容量を要因とする問題
が,4.5ボルト以上の電圧は実施不可能であるという傾向に拍車を
かけている。」(甲3段落【0012】)
(ウ ) 発明が解決しようとする課題
・「従来のリチウム電池(に)比べて,リチウムに対して高電圧が得ら
れる正極用活物質として使用するリチウムの挿入化合物,およびそれ
を用いた再充電可能なリチウム電池を提供することを課題とするも
のである。」(甲3段落【0013】)
(エ ) 課題を解決するための手段
・「予期しなかったことだが,本発明者はLi/Li

に対して4.5
ボルト以上においても,ある種の遷移金属置換LiMn



スピネ
ル挿入化合物が実質的に使用できる可逆的リチウム容量をもつこと
ができることを発見した。例えば,本発明者は,Ni含有量が増加し
ても,Li

Ni

Mn
2?z


のリチウム容量が見掛け上は低下しな



いかわりに,広く使用されている材料であるLi

Mn



よりも高
い電圧(Li/Li

に対して4.5ボルト以上の電圧)で実現でき
ることを見いだした。すなわち,エネルギー密度の点からみた場合,
電池材料としてはそれほど好ましくはないが,Li

Ni

Mn
2?z


はより高い電圧の電池を提供できる可能性があるため,実際には
好ましい電池材料である。」(甲3段落【0014】)
・「このように,本発明の第1の実施態様は,Li/Li

に対して4.
5ボルト以上の電圧で使用可能な可逆的リチウム容量をもつ遷移金
置換LiMn



スピネル形リチウム挿入化合物に関する。これ
らリチウム挿入化合物はLi
x+y


Mn
2?y?z


と表記できる。こ
こで,Mは置換遷移金属を表し,そしてzは0よりも大きく1未満の
数値である。また,yはマンガンの相対的な『不足量』を表し,これ
に対応してリチウムの『過剰量』を表す数値で,0または0より大き
く0.33未満である。そして,xは0または0より大きく1未満で
ある。このリチウム挿入化合物の電位はLi/Li

に対して約4.
5ボルト以上である。従って,Li/Li

に対して約4.5ボルト
以上の電位でリチウムを可逆的に挿入できる。遷移金属置換及び/又
は低リチウム含有量の結果として,リチウム挿入化合物は必ずしも理
想的なスピネル結晶構造をもつ必要はない。とはいっても,リチウム
挿入化合物の結晶構造はスピネルに類似した構造,すなわち,スピネ
ル状か,変形スピネル構造である。とくに,Mは,zの値が約0.5
に対してニッケルが使用できる。Mがニッケルの場合,zの値が約0.
3よりも大きいならば,4.5ボルト以上の電圧で相当量のリチウム
を可逆的に挿入できる。あるいは,Mとして,クロムを使用してもよ
い。この場合,zの値が約0.5よりも大きいならば,同様にかなり
の量のリチウムを挿入できる。電池のサイクル寿命を改善するために



は,『過剰量』のリチウムを含有する本発明による挿入化合物を使用
することが有利である。リチウムの『過剰』量とは,yの値は約0.
1とすることができる。」(甲3段落【0015】)
・「本発明の他の実施態様は,本発明の挿入化合物を製造する方法に関
する。この方法では,一般式Li
1+y


Mn
2?y?z


で示され,か
つスピネル結晶構造をもつ前駆体挿入化合物からリチウムを抽出す
ることからなる。抽出操作は電気化学的に実施できる。・・・」(甲3
段落【0016】)
・「本発明の他の実施態様はリチウム電池に関する。一般的にいって,
リチウム電池はリチウム化合物負極,溶剤およびリチウム塩からなる
電解質,および本発明の挿入化合物からなる正極で構成する。言い換
えれば,本発明は,Li/Li

に対して約4.5ボルト以上の正極
電位で電池容量の一部を得るリチウム電池の正極として上記挿入化
合物を使用することに関する。・・・リチウム電池の正極を簡単に生
成するには,まず,一般式 Li
1+y


Mn
2?y?z


で示され,か
つスピネル結晶構造をもつ前駆体リチウム挿入化合物からなる前駆
体正極で電池を構成してから,前駆体正極からリチウムを電気化学的
に抽出することによって,高電圧挿入化合物正極を形成する。」(甲3
段落【0017】)
(オ ) 発明の実施の形態
・「LiMn



は,空間群Fd3mが8a位置にLi原子,16d位
置にMn原子,そして32e位置に酸素原子をもつ理想的なスピネル
構造をもつ・・・。本発明のLi
x+y


Mn
2?y?z


化合物は,結
晶構造を実質的に変えずにLiMn



から誘導できる。・・・」(甲
3段落【0018】)
・「本発明の一つの実施態様は,Li/Li

に対して4.5ボルト以



上の電位で有用量の可逆的リチウム容量を示す挿入化合物に関する。
クロムやニッケルなどの遷移金属で置換すると,好適な挿入化合物を
得ることができる。許容できる置換遷移金属量(z)は,選択する遷
移金属に応じて変化するものである。・・・ニッケルの場合には,そ
の値は0.5までとなる。一般的にいって,zの値が大きくなる程,
4.5ボルト以上で可逆的なリチウム容量が大きくなる。Mがニッケ
ルで,zの値が約0.3よりも大きい場合,4.5ボルト以上で実現
される容量は相当な量になる。同様に,Mがクロムで,zの値が約0.
5よりも大きい場合にも,4.5ボルトよりも高い電圧で実現される
容量は相当な量になる。」(甲4段落【0019】)
・「これら挿入化合物は,スピネル結晶構造をもつ好適な前駆体挿入化
合物Li
1+y


Mn
2?y?z


から誘導できる。これら前駆体挿入化
合物は,Li/Li

に対して4.5ボルト未満の電圧でリチウムを
可逆的に挿入できることが知られている。前駆体挿入化合物からLi
を抽出すると,組成がx<1としてLi
x+y


Mn
2?y?z


になり,
4.5ボルト以上でリチウムを可逆的に挿入できる。xの最大値は選
択する遷移金属Mや置換量(z)に応じて変化する。」(甲3段落【0
021】)
・「・・・前駆体挿入化合物からのリチウムの抽出は,化学的手段か電
気化学的手段によって実現できる。リチウムイオン電池の場合には,
後者の方法が好ましく,またその場で実施できる。」(甲3段落【00
22】)
・「上記のようにして構成した電池は完全な放電状態にある。充電する
と,リチウムが正極から抽出され,負極に挿入される。このように,
初期充電により,その場で,高電圧挿入化合物を生成できる。」(甲3
段落【0027】)



・「J.M.TarasconなどがJ.Electrochem.S
oc.に発表した前記論文では,ニッケル含有量が増えるにしたがっ
て,Li

Ni

Mn
2?z


の可逆的リチウム容量が低下すると考え
られていた。ところが,後述の実施例に示すように,ニッケル含有量
が増加するのにしたがって,このリチウム容量は『失われる』のでは
なく,利用できなくなると考えられる。しかし,このリチウム容量は,
予期しなかったことだが,いくぶん電圧が高くなると発現する。現時
点では,リチウム容量の一部がなぜ表面的な電圧『シフト』として発
現するのかに関する物理的な原因は明らかではない。・・・」(甲3段
落【0029】)
(カ ) 実施
・「以下,実施例によって本発明のいくつかの側面を説明する・・・。
これら実施例では,実験室規模のコイン形電池を使用して,リチウム
金属負極に対する高電圧挿入化合物の電気化学的特性を調べた。これ
らコイン形電池は,乾燥室内で従来の2350部品を使用する以外は,
J.R.DahnなどがElectrochimicaActa,
38,1179(1993)に記載したようにして組み立てた。ステ
ンレス鋼キャップおよび特別な耐酸化性容器で電池缶を構成するが,
これらは,それぞれ,負端子および正端子として作用する。・・・リ
チウム負極としては,厚さが125μmの金属箔を使用した。・・・
特に断らないかぎり,電解質として,エチレンカーボネート(EC)
/ジエチルカーボネート(DEC)容量比が30/70のEC/DE
C溶剤混合物に溶解した1.5MのLiBF

塩の溶液を使用した。」
(甲3段落【0030】)
・「厚さが20μmのアルミニウム箔に,挿入化合物粉末,導電性希釈
剤としてのSuper S(Ensagri社)カーボンブラック,



およびエチレンプロピレンジエン単量体(EPDM)結合剤を含有す
る配合物を均一に塗布することによって正極を作製した。・・・試験
する前に,電池を21±1℃にサーモスタットで温度調節してから,
電流安定度が±1%の定電流サイクル試験機を使用して,充放電した。
特に断らない限り,電流密度をC/40率と等価になるように設定し
た。電池電圧が0.001ボルト以上変化するたびにデータを記録し
た。」(甲3段落【0031】)
実施例1 「EMD(三井製MnO

?TAD等級1),(NiNO

)・
6H

OおよびLiOHからなる混合物を使用して,zの値がそれぞ
れ0.05,0.1,0.2,0.3および0.5である一連の前駆
体挿入化合物Li

Ni

Mn
2?z


を合成した。・・・」(甲3段落
【0032】)
・「正極としてこれら前駆体挿入化合物を使用して,既に説明したよう
にして,一連の実験室規模のコイン形電池を構成した。次に,各電池
を4.9ボルトまで充電し,これによって正極からリチウムを抽出し,
このサイクルを数回繰返した。・・・」(甲3段落【0033】)
・「zの値が0.05と低くても,平均電圧4.7ボルトで概ね安定と
なる。約4.5ボルトと約4.9ボルトと間で有意味な可逆的リチウ
ム容量が認められる。zの値が大きくなると,高電圧での可逆的リチ
ウム容量が大きくなる。zの値が0.3以上になると,この容量は相
当高くなり,4.5ボルト未満では可逆的容量を越えることになる。
しかし,いずれの場合も,出発組成と4.9ボルトにおける組成との
間では全体的な可逆的容量はほぼ同じで,約125mAh/gである。
また,この容量はLiMn



スピネルについての可逆的な抽出可
能なリチウム容量とほぼ同じである。このように,置換ニッケルの存
在が,4.5ボルト以上では電圧曲線の一部を『シフト』するものと



考えられる。」(甲3段落【0034】)
・「また,同様にしてLi

Ni
0.4
Mn
1.6


からなる正極を使用し
て,さらに別な電池を作成し,3.0ボルトと4.9ボルトとの間で
21
℃ においてC/10率の充電と1C率放電とを繰り返すサイク
ル試験を行なった。・・・50サイクル以上でも容量損失はほとんど
みられない。」(甲3段落【0036】)
実施例2 「次のようにして,前駆体挿入化合物Li
1.1
No
0.5


1.4


を合成した。・・・正極としてこの前駆体挿入化合物を使用
して,既に述べたようにして実験室規模のコイン形電池を構成した。
次に,4.8ボルトに電池を充電し,これによって正極からリチウム
を抽出し,これを数回繰り返した。・・・」(甲4段落【0037】)
実施例3「EMD,Cr



およびLiOH粉末からなる混合物
を使用して,前駆体挿入化合物LiCr
0.5
Mn
1.5


を合成し
た。・・・正極としてこの前駆体挿入化合物を使用して,既に述べた
ようにして,実験室規模のコイン形電池を構成した。次に,電池を充
電し,これによって正極からリチウムを抽出してから,このサイクル
を数回繰り返した。・・・実質的な可逆的リチウム容量は約4.8ボ
ルトと約5.2ボルトの範囲にあるが,サイクル毎の電圧曲線の有意
なシフトは認められない。これは,おそらく,これら高電圧では電解
質の分解が激しいことを示していると思われる。以上の本発明実施
は,Mがニッケルかクロムの場合には,Li
x+y


Mn
2?y?z


化合物はリチウムに対して実質的に有意な可逆的リチウム容量を示
すことを明らかにしている。さらに,y>0の場合には,サイクル特
性が向上する。」(甲3段落【0039】)
イ上記記載によれば,補正発明は,リチウム二次電池の正極材に用いられ
る,一般式Li
x+y


Mn
2?y?z


(なお,引用例に現れるLi
x+y





2?y?z




も同義である。)で表されるリチウム挿入化合物に関する
発明であって,その特許請求の範囲を,スピネル状結晶構造を有すること,
元素Mの種類,数値x,y,zの範囲,Li/Li

に対する電位の範囲
をもって特定するものであるところ,本願明細書の発明の詳細な説明中の
記載によれば,放電時にリチウムイオン(Li

)が挿入され,充電時に
リチウムイオンが抽出される上記リチウム挿入化合物につき,従来はLi
/Li

に対して4.5V(ボルト)以上の電圧(電位)で使用する可能
性が解明されていなかったが,補正発明の発明者が上記リチウム挿入化合
物を正極材に使用して電池を組み立て,充放電を繰り返すサイクル試験を
行ったところ,Li/Li

に対して約4.5Vから約4.9Vの間で,
可逆的にリチウムイオンを挿入・抽出できる容量を得たというものであっ
た(実施例1)。
そうすると,補正発明を初めとする本願明細書で開示された発明は,上
記のとおり,補正発明に係るリチウム挿入化合物を正極材に用いたリチウ
ム二次電池において,従前とは異なる高電圧である,Li/Li

に対し
て4.5V(ボルト)以上の電圧を達成した点にその技術的意義があるも
のと解される。
しかしながら,前記のとおり,補正発明はリチウム二次電池の正極材に
使用されるリチウム挿入化合物に係る発明であって,リチウム二次電池そ
れ自体や上記リチウム挿入化合物を使用して特定のリチウム二次電池を製
造する方法に係る発明ではなく,補正発明の新規性の判断に当たっても,
この観点から本願明細書の発明の詳細な説明を考慮しなければならない。
また,本願明細書においては,上記電位の意義につき,Li/Li


対する正極の電位であるとするのみであり(甲3段落【0017】等),ま
た当該リチウム挿入化合物を用いた充放電試験において測定された正極な
いし当該リチウム挿入化合物の電位であることが窺われる種々の記載があ



るのみであって,本願明細書においては,その明確な定義もされておらず,
測定方法の詳細も,基準となる電位の詳細も明らかにされていない。
ここで,「電位」は,物質の有する電気的性質を表す物理量の1つである
ところ,物質の電位は,通常,標準物質の電位との電位差でもって測定さ
れるから,その数値を表記する場合には,基準となる物質の電位と対比し
て示される。そして,「電位」は,その物質が置かれた使用状態に即して,
様々に測定されうるものであって,二次電池において「電位」という場合
でも,使用状況や使用状態に応じて,種々の意義を有する「電位」が存在
しうるものである(乙3ないし5〔化学大辞典等〕,弁論の全趣旨)。本願
明細書にいう「Li/Li

に対する」「電位」も,リチウム挿入化合物が
有する本来的な電気化学的性質である「平衡電位」や,リチウム挿入化合
物が電池電極として使用される状態での「放電電圧」や「充電電圧」など,
複数の電位(電圧)が包含されうるものであって,必ずしも一義的でない
ものといわなければならない。
そうすると,本願明細書で開示された発明の技術的意義は前記のとおり
であるものの,その要点の1つである「Li/Li

に対して4.5V以
上の電圧(電位)を達成した点」の正確な定義ないし測定法の詳細は,本
願明細書の記載によっても明らかでないものといわざるをえない。
(2) 引用発明の意義
ア引用例(甲1)には,次のとおりの記載がある。
(ア ) 標題
「リチウム二次電池における正極としてのLiMn



のスピネル
相」(訳文1頁1行)
(イ ) アブストラクト(要約)
・「LiMn



及びLiM

Mn
2?y


(M=Ti,Ge,Fe,Z
n,又はNi)の試料の調製条件およびカチオン置換(y)の程度を



変えて,電気化学的特性を研究した。電圧3.5?4.5Vの範囲で,
スピネルLiMn



又はλ?MnO

(LiMn



からLiを浸
出させ生成)の電池は,いずれもMn当たり0.4Liを可逆的に平
均電圧4.1Vで挿入し,正極のエネルギー密度は480Wh/kg
に達する。」(訳文1頁10行?14行)
(ウ ) 4相LiMn
2?x




の研究(M=Ti,Ni,Zn,Ge,F
e)
・「・・・図6は,M=Ti,Ni(・・・)の3d金属置換Li



2?y




の正極で構成された電池の第1回再充電を示してい
る。・・・」(訳文12頁下5行?13頁上2行)
・「図7a,bは,異なるNi含有量の電池,酸浸出(7a),非酸浸出
(7b)材料の第2サイクルの比較である。・・・実際には,Niあ
るいはTi含有量が増えると電池容量は減少するが,良好な可逆性に
影響はなかった。
与えられたNi含有量に対する曲線は,酸浸出,非酸浸出材料の使
用に関係は見られないが,・・・。・・・
Ni試料の場合,データは酸浸出,非酸浸出材料のものと同じであ
る。しかしTi置換材料とは対照的に,Ni置換材料には3V未満
で2つの電圧プラトーがある。・・・」(訳文15頁1行?21行)
・図7
「LiMn
2?y




を正極とするセルの第2サイクル電流密
度:200μA/cm

(x=116時間後)電圧:4.5V
?2V,M=Ni
(a) Li酸浸出材料 (b) 非Li酸浸出材料」(訳文14頁)



(引用例図7a)
(引用例図7b)
イ上記アの記載によれば,引用発明も,リチウム二次電池の正極材に用い
るスピネル結晶状のリチウム挿入化合物についての発明を開示するもので



あって,置換元素(種々の金属元素で置き換えることができることが予定
されている。)Mをニッケル(Ni)とするリチウム挿入化合物Li

Mn
2?y




については,引用例の図7の2つの図で,2Vから4.5Vの
範囲で,一定の電流密度(200μA/cm

)で充放電サイクル試験を
行った結果が示されているものである。
そして,引用例の図7のうち下の図である引用例図7bは,リチウム(L
i)を酸で抽出する工程を経ていないリチウム挿入化合物Li



Mn

?y


を正極材に用いた電池で充放電サイクル試験を行った結果を示すも
のであるが(図7のタイトル中にいう
(b) の試験〔非Li酸浸出材料〕),上
記化学式にいう数値yを0.1,0.3,0.4とした場合に,概ね2V
から4.5Vまで充電されるのに伴って,リチウム挿入化合物に挿入され
ているリチウムの割合ないし量を示す上記化学式にいうxの数値が減少し,
逆に概ね4.5Vから概ね2Vまで放電するのに伴って,上記のxの数値
が増加する様子が曲線で示されていることが認められる(ただし,上記の
yの数値に従って,曲線はそれぞれ異なるものになっている。)。
ところで,引用例図7bの縦の目盛りは1Vごとに刻まれているから,
引用例図7bの曲線自体からは,試験に供された電池において厳密に4.
5Vまで充電され,放電が開始されたか必ずしも明らかでないといわざる
をえないが,引用例の図7のタイトルには,前記のとおり,2Vから4.
5Vの範囲で充放電サイクル試験が行われた旨が明記されているから(英
文では「
The second cycle collected ・・・ between 4.5 and 2V for cells with
cathodes of LiMn
2-y
M
y
O
4
」),このタイトルの試験条件に係る記載を合せて読
めば,充放電サイクル試験の第2サイクルで,試験に供された電池が4.
5Vまで充電されたことが明らかである。
なお,引用例図7bに記載された各充放電サイクル曲線においては,充
電が完了した時点の上記化学式中のxの数値が,0.4弱から0.8程度



になっていることが認められる。
そうすると,審決の引用発明の内容に係る認定「スピネル結晶構造のL




Mn
2?y


で表されるリチウム挿入化合物であって,置換元素M
がNi,置換率yが0.3及び0.4,xの値が0.4と0.8の間のい
ずれかの数値であり,4.5Vの電位を達成しているLi



Mn
2?y


で表されるリチウム挿入化合物」(6頁9行?12行)に誤りがあるとは
いえないというべきである。
(3) 原告主張の取消事由に対する判断
ア取消事由1(引用発明認定の誤り)について
(ア ) 審決の引用発明認定に誤りがないことは,前記 (2) 記載のとおりであ
る。
(イ ) これに対し原告は,二次電池においては,放電時の電圧が充電時の
電圧よりも小さくなる傾向があるところ,引用例の図6の置換元素Mを
ニッケル(Ni)とする正極材Li



Mn
2?y


を用いたリチウム
二次電池においては,初期充電の電圧は4.5Vまでであって,本願発
明の明細書の実施例で採用されているような4.8?4.9Vのような
高電圧ではなく,Li



Mn
2?y


は実質的に改質されず,これを
正極材とするリチウム二次電池は充放電サイクル試験において4.5V
以上の電位で有用量の可逆的リチウム容量を示すものではない旨等主
張する。
しかし前記のとおり,補正発明の特許発明の範囲中には,「電位がL
i/Li

に対して4.5ボルト以上である」と記載されているのみで,
4.5V以上の電位(電圧)で当該リチウム挿入化合物が有用量の可逆
的リチウム容量を示すことまでは要件となっていない。そうすると,本
願明細書の実施例で,4.8?4.9Vのような高い電圧で充放電した
ことが開示されているとしても,補正発明の特許請求の範囲の文言に照



らせば,補正発明の内容を,4.5V以上の電位(電圧)で当該リチウ
ム挿入化合物が有用量の可逆的リチウム容量を示すことをその構成要
件とするものということはできない。
また,本願明細書中には,実施態様の1つの説明として,得るべきリ
チウム挿入化合物の前身となるスピネル結晶構造の前駆体リチウム挿
入化合物Li
1+y


Mn
2?y?z


を用いて正極を作成し,いったんこ
の正極で電池を構成してから,電気化学的に上記正極からリチウムイオ
ンを電気化学的に抽出して,リチウム挿入化合物を得る旨記載されてい
るが(甲3段落【0017】),補正発明の特許請求の範囲には,リチウ
ム挿入化合物の化学式及び「電位がLi/Li

に対して4.5ボルト
以上である」との要件が記載されているものの,当該リチウム挿入化合
物が電気化学的方法ないし原告の主張する「改質」によって得られるも
のであることは何ら記載されていない。そうすると,補正発明と引用発
明との対比に当たり,補正発明にいうリチウム挿入化合物が電気化学的
方法等により「改質」されたものであることを考慮しなければならない
ものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ ) 次に原告は,引用例図7aにはリチウムが化学的手段(酸)で抽出
されたLi



Mn
2?y


について,二次サイクル試験(充放電サイ
クル試験)の結果が示されているが,充電サイクル曲線の平坦部(プラ
トー)が3V未満の低い電位において現れており,本願明細書の図3の
サイクル曲線における平坦部の電位とは異なるし,引用例図7aの充放
電サイクル試験における充放電サイクル曲線と本願明細書の図3のサ
イクル曲線とは,その平坦さが異なる上,端子間電圧の測定電圧が4.
5Vに達しているか否かも引用例図7aからは不明であるから,上記充
放電サイクル試験において,上限値である4.5Vで充放電がされたと



はいえない等と主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用例の図7のタイトル中の電位(電
圧)に係る記載が,充放電サイクル試験における充電の範囲を示すもの
で,引用例図7aにおける試験に用いられた電池が4.5Vまで充電さ
れたことは明らかであるし,引用例図7aの充放電サイクル曲線の形状
が本願明細書の図3の充放電サイクル曲線の形状と異なるといっても,
引用例図7aにおける充放電サイクル試験の実施条件や測定方法に疑
問があることを窺わせるに足りる証拠はなく,引用例図7aの充放電サ
イクル試験において,電池が4.5Vまで充電されなかったことを裏付
けることまではできない。
そして,補正発明と引用発明との対比に当たり,補正発明にいうリチ
ウム挿入化合物が4.5V以上の電位で有用量の可逆的リチウム容量を
示すことを考慮しなければならないものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(エ ) 次に原告は,引用例図7bに記載された充放電サイクル試験におけ
るリチウム挿入化合物は酸によるリチウムの抽出を受けたものでも,前
駆体リチウム化合物を高電圧で初期充電することにより電気化学的に
リチウムを抽出したものでもないから,出発材料のリチウム挿入化合物
が改質されたことまで示すものではない等と主張する。
確かに,引用例図7bは,酸によるリチウムイオンの抽出を経ていな
いリチウム挿入化合物を正極材に用いた場合の充放電サイクル曲線を
示したものであるが,前記のとおり,補正発明の特許請求の範囲には,
リチウム挿入化合物が電気化学的方法ないし原告の主張する「改質」に
よって得られるものであることは何ら記載されていないし,酸によるリ
チウムイオンの抽出の工程が必要であることも何ら記載されていない。
そうすると,補正発明と引用発明との対比に当たり,補正発明にいう



リチウム挿入化合物が電気化学的方法や酸の使用等により「改質」され
たものであることを考慮しなければならないものではない。
また,前記のとおり,引用例の図7のタイトル中の電位(電圧)に係
る記載が,充放電サイクル試験における充電の範囲を示すもので,引用
例図7bにおける試験に用いられた電池が4.5Vまで充電されたこと
は明らかであるし,引用例図7bの充放電サイクル曲線の形状が本願明
細書の図3等の充放電サイクル曲線の形状と異なるといっても,引用例
図7bにおける充放電サイクル試験の実施条件や測定方法に疑問があ
ることを窺わせるに足りる証拠はなく,引用例図7bの充放電サイクル
試験において,電池が4.5Vまで充電されなかったことを裏付けるこ
とまではできない。
なお,原告が提出する日本化学会編「季刊化学総説No.49,2
001新型電池の材料化学」(2001年12月31日,甲7)の図
4は,リチウム挿入化合物のうち,マンガン(Mn)ではなくコバルト
(Co)を構成元素とする化合物Li
1.1
(Ni
0.8
Co
0.2
)O

を各
種の温度で合成した場合の放電サイクル試験に係るものであって,補正
発明及び引用発明に係るリチウム挿入化合物Li
x+y


Mn
2?y?z


の充放電サイクル試験に関するものではないから,上記文献中の放電
サイクル曲線の形状をもって,直ちに引用例図7bの充放電サイクル試
験の結果に疑問がある等ということはできない。
また,原告は,引用例図7bにおいて,リチウムの数を示す横軸(x)
が約0.3から1.7の間で変動しているのは,充放電による正極と負
極の間のリチウムイオンの移動により,正極におけるリチウムの数が変
動したという当然の事柄によるものであり,グラフの一部を抜き出して,
xの値が一定の範囲のリチウム挿入化合物に係るデータが記載されて
いる等ということは誤りである等と主張する。



しかし,引用例図7bにおいては,充電が終了した時点(充放電サイ
クル曲線の左上の端点)で,補正発明の数値x,y,zを充足し,電位
が4.5Vであるリチウム挿入化合物が開示されていることは明らかで
あり,原告の上記主張は理由がないというべきである。
よって,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
(オ ) 次に原告は,引用例の図4でも終止電圧(充電終了電圧)が4.4
Vであった旨が示されているし,引用例の図8でもほとんどの試料の終
止電圧が4.5V未満であったことが明らかである等と主張する。
しかし,引用例の図4のタイトルには上の図
(a) に係る充放電サイク
ル試験が3.3Vから4.5Vの範囲で行われたことが明記されている
し,上記図
(a) の充放電サイクル曲線の左端部分(数値xが0となる直
前から立ち上がっていることが明らかである。)は図(グラフ)の縦軸
と重なって,充電終了点が判別しにくくなっているものであって,上記
図の充放電サイクル試験において,電池の電位(電圧)が4.4
Vに達
した時点でサイクル試験を終えたものであるということはできない。
引用例の図8の充放電サイクル試験も,ニッケルやクロムではなく,
チタン(Ti)を置換元素Mに選択したリチウム挿入化合物Li



Mn
2?y


に係るものであって,引用例図7bの充放電サイクル試験
とは全く別個のものである上,上記図8のタイトル中には,引用例の図
7と同様に,4.5Vまで充電を行った旨の記載があり,4.5V未満
までしか電池が充電されなかったとはいえないものである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(カ ) 次に原告は,引用例の図7,図8に係る試験においても,本願発明
における試験と同様に,一定の電流密度で充放電を行い,電池電圧が所
定の値以上に変化するたびにデータを記録する方法を採用しているも
のと推定され,上記各試験においては,もはや電池電圧を上げることが



できないか,4.5V未満の電圧で試験を終了せざるを得なくなったた
めに,充電終止電圧が4.5V未満となった多数の試料があったものと
推定できる等と主張する。
この点,引用例(甲1)中には,「・・・リチウムは,スエージロッ
ク試験電池内で電気化学的に挿入された(11)。ヘリウムグローブボ
ックスに組み込まれた電池は,正極としてスピネル型二酸化マンガンL
iMn



又は脱リチウム化λ?MnO

(電気化学的セルで正極とし
て用いられるときは,分かりやすくλ?Li

Mn



と表わされる)
を10質量%のカーボンブラックと混合したもの,負極として金属リチ
ウムで構成されている。・・・電池は電圧監視下で一定の電流値で充放
電される。・・・」(訳文2頁下2行?3頁上9行)との記載があるから,
引用例の図7等におけるサイクル試験は,電池に流入・流出する単位面
積当たりの電流の値,したがって電流密度の値を一定に保って,電池の
端子間電圧(電位)を監視しながら充放電する方法で行ったものである
ことが明らかであるが,原告が主張するように,引用例図7bの充放電
サイクル試験において,これ以上端子間電圧を上げることができないた
めに,4.5V未満の電圧で試験を終了せざるを得なくなったこと等を
認めるに足りる証拠はなく,原告の上記主張は憶測の域を出るものでは
ない。
そうすると,原告の上記主張は採用することができない。
(キ ) 次に原告は,仮に引用例のリチウム挿入化合物において4.5Vの
充電終了電圧を達成したとしても,?一定の電流密度で充電を行なう方
法により充放電サイクル試験を行った場合には,一定の電圧に達したと
きに直ちに充電を終了し,当該終了電圧で可逆的なリチウム容量を測定
することはできないし,?放電開始電圧はオーム損等のために充電終了
電圧よりも低くなるから,充電終了電圧が4.5Vであれば放電開始電



圧は4.5V未満となり,4.5Vの可逆的リチウム容量を示すことは
ないはずであるし,?電池の正極側端子と正極材であるLi



Mn

?y


との間にはそれ自体が電気抵抗を有する導電手段が介在してお
り,上記導電手段の電気抵抗による電圧降下が生じるから,充電終了電
圧が4.5Vである場合には,正極材であるLi



Mn
2?y


に加
えられる電圧は上記電圧降下分を減じた4.5V未満の値となるはずで
あるから,引用例のリチウム挿入化合物の可逆的リチウム容量が4.5
V以上のものとなるものではないと主張する。
確かに,試験した電池の端子間電圧が4.5Vに達した瞬間に充電を
終了したとすれば,正極材等の電気抵抗による電圧低下等のために,4.
5V未満の電圧で放電が開始されることが考えられるが,前記のとおり,
補正発明の特許発明の範囲においては,「電位がLi/Li

に対して
4.5ボルト以上である」とされているのみで,4.5V以上の電位(電
圧)で当該リチウム挿入化合物が有用量の可逆的リチウム容量を示すこ
と,さらには,当該リチウム挿入化合物を正極材に使用した電池が4.
5V以上の電圧で電流を供給できること(放電)までは要件として記載
されていない。そうすると,4.5Vの可逆的リチウム容量をいう原告
の上記主張はその前提を欠くものであるし,補正発明と引用発明との対
比に当たって,上記電圧低下等を考慮してもなお4.5V以上の電圧を
達成しうるかを考慮する必要はないというべきである。
また,確かに,引用例図7bの充放電サイクル試験は,リチウム挿入
化合物を正極材に用いる電池を試験的に組み立てて行われたものであ
るから,電池の正極側端子と正極材であるリチウム挿入化合物Li



Mn
2?y


との間にはそれ自体が電気抵抗を有する導電手段が介在
しており,上記導電手段の電気抵抗による電圧降下が生じることが明ら
かであるが,上記導電手段に電気抵抗が大きい物体を使用することは通



常想定しがたく,上記電圧降下は極めて小さいものと考えられるし,本
願明細書に,上記導電手段の電気抵抗による電圧低下まで考慮して正極
材の電圧(電位)を測定したことを窺わせるような記載は存しない。そ
して,前記のとおり,補正発明の特許発明の範囲中には,4.5V以上
の電位(電圧)で当該リチウム挿入化合物が有用量の可逆的リチウム容
量を示すことや,当該リチウム挿入化合物を正極材に使用した電池が4.
5V以上の電圧で電流を供給できること(放電)までは記載されていな
いから,補正発明と引用発明との対比に当たって,上記電圧低下等を考
慮してもなお4.5V以上の電圧を達成しうるかを考慮する必要はない
というべきである。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
(ク ) そして,審決が前記のとおり引用発明の内容の認定につき控え目な
表現を用いたのは,引用例図7bにおける,xの値の目盛りが大きな間
隔で表記されているため,4.5Vの電位に達したときのxの正確な値
を読み取ることが困難であることに基づくものと推認できるから,審決
の上記認定をもって曖昧な認定であるとか,信憑性が疑わしいものであ
る等ということはできない。
(ケ ) 結局,審決が補正発明の技術的意義の理解を誤った結果,引用発明
の内容の認定を誤ったということはできず,審決の引用発明の内容の認
定に誤りはない。
イ取消事由2について
(ア ) 補正発明と引用発明との対比
前記アのとおり,審決の引用発明の内容の認定に誤りはなく,同認定
に基づくことの一事をもって補正発明と引用発明との対比に誤りがあ
るとはいえない。
そして,補正発明と引用発明は,審決が認定するとおり,リチウム電



池の正極材に用いられる「一般式Li
x+y


Mn
2?y?z


で表わされ
るリチウム挿入化合物において,スピネル状結晶構造を持ち,(置換
素)MがNi(ニッケル)であり,(数値)xが0.4と0.8の間の
いずれかの数値,(数値)yが0であって,(置換元素)MがNi(ニッ
ケル)である場合には,(数値)zが0.3又は0.4であり,そして
(当該化合物の)電位が4.5Vである,リチウム挿入化合物」である
点で一致するが,補正発明においては,リチウム挿入化合物の電位が「L
i/Li

」に対する電位であるのに対し,引用発明においては,リチ
ウム挿入化合物の電位が「Li/Li

」に対する電位であるか不明で
ある点で相違するということができるが(発明の新規性の観点による対
比),前記のとおり,補正発明にいう「電位がLi/Li

に対して4.
5ボルト」の正確な定義ないし測定法の詳細は,本願明細書の記載によ
っても明らかでないものである。
(イ ) 相違点につき
審決が指摘するとおり,リチウム二次電池の正極材に用いるリチウム
挿入化合物の電位は,通常,Li/Li

を基準として測定されるもの
である上(弁論の全趣旨),引用例中の各充放電サイクル試験の図のう
ち,リチウムの組成割合のみが変化するスピネル結晶状のリチウム挿入
化合物Li

Mn



に係る図1と,数値yを0とする(したがって置
換元素Mを含まない)スピネル結晶状のリチウム挿入化合物Li



Mn
2?y


に係る図7の上の図(引用例図7a)とでは,充放電サイ
クル曲線の平坦部が概ね一致すること,図7の上の図(引用例図7a)
と下の図(引用例図7b)は,酸によるリチウムイオンの抽出(浸出)
工程を経たリチウム挿入化合物(上の図)と上記工程を経ないリチウム
挿入化合物(下の図,引用例図7)との間で,充放電サイクル試験の結
果を比較するための図であること(甲1)であることに鑑みれば,縦軸



である電位の基準は通常同一であることにも照らすと,引用例図7bの
縦軸の電位は「Li/Li

」に対するものであると認められる。
そうすると,上記
(ア )の相違点は,実質的には存在しないということ
ができ,結局,補正発明と本願の出願前に刊行物に記載された発明であ
る引用発明とは実質的に同一の物質に係る同一の発明であって,補正発
明は新規性を欠き,独立して特許を受けることができない発明であると
いうべきである。
したがって,上記と同旨の審決の認定判断に誤りはない。
(ウ ) なお原告は,電位がLi/Li

に対して4.5V以上であるリチウ
ム挿入化合物である点が補正発明と引用発明との相違点であって,審決
の相違点に係る認定は誤りである旨主張するが,前記のとおり,補正発
明は4.5V以上の電位で有用量のリチウム容量を示すことを要件とす
るものである等ということはできないから,原告の上記主張は採用する
ことができない。
3結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 真辺朋子



裁判官 田邉 実