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関連審決 訂正2008-390097
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10019審決取消請求事件 判例 特許
平成21ネ10023損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成21行ケ10266審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10188審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10031審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  遡及効 /  遡及 /  補正要件 /  当業者に自明な事項 /  明瞭でない記載 /  分割出願 /  原出願日 /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  誤記の訂正 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  要旨変更 /  補助参加 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10065号 審決取消請求事件
原告不 二製油株式会社
同訴訟代理人弁護士山上和則 藤川義人 杉本智則
同弁理士廣田雅紀 高津一也 大和信也
被告特許庁長官
同 指定代理 人上條肇鵜飼健 北村明弘 安達輝幸
被告補助参加 人花王株式会社
同訴訟代理人弁護士竹田稔 木村耕太郎
同弁理士花田吉秋 加藤実 伊藤健
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/04/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,補助参加により生じた費用を含め,原- 2 -告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が訂正2008-390097号事件について平成21年2月9日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に係る願書に添付した明細書を下記2ほかとする訂正審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続(1)原出願(甲44,乙11,丙2)発明の名称:「酵素によるエステル化方法」出願日:昭和55年3月14日(なお,原出願の願書に最初に添付した明細書(甲44)を「原出願明細書」といい,その特許請求の範囲に記載された発明を「原出願発明」という。)出願番号:特願昭55-32938号公開日:昭和57年1月18日(特開昭57-8787号,特公昭63-12599号)(2)本件出願(甲41,42)発明の名称:「酵素によるエステル化方法」出願日:昭和62年9月26日(なお,本件出願の願書に添付した明細書(甲41)を「本件出願明細書」という。)出願番号:特願昭62-241768号(特願昭55-32938号の分割)設定登録:平成10年4月17日(特許第2135885号)(3)審判手続及び本件審決訂正審判請求日:平成20年8月29日(訂正2008-390097号事件。
甲32,33。以下,本件訂正後の明細書(甲33)を「本件訂正明細書」という。)審決日:平成21年2月9日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年2月19日2本件訂正の内容本件訂正は,訂正事項1ないし11からなるが,本件訴訟で問題となっているのは,次の訂正事項1及び6である。なお,下線部が訂正部分である。
(1)訂正事項1(【特許請求の範囲】の【請求項1】の訂正)訂正前:水または水及び低級アルコールを排出する系においてアルコール及び脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを含有する基質にエステル交換活性を有する脂質分解酵素を作用させることを特徴とするアルコールのエステル化方法。
訂正後:水を減圧留去により排出する系において,グリセリン及び脂肪酸を含有する基質に,低水分系でエステル交換活性を有する,脂質分解酵素が担体に分散または吸着された酵素剤を40〜75℃で作用させることを特徴とするアルコールのエステル化方法。
(2)訂正事項6(【発明の詳細な説明】の訂正)訂正前:実施例1リゾープス・ニベウス起原の市販酵素60g(水分4%)を水250gに5℃前後で溶解し,これをゼオライト250gと混合し,次いで15mmHgで4日間乾燥して水分約1.4%として酵素剤を調製した(但しKa=28.5,Kr×10 =24.8)。
3訂正後:例1リゾープス・ニベウス起原の市販酵素60g(水分4%)を水250gに5℃前後で溶解し,これをセライト250gと混合し,次いで15mmHgで4日間乾燥して水分約1.4%として酵素剤を調製した(但しKa=28.5,Kr×10 =24.8)。
33本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,訂正事項1に係る訂正については,本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正後発明」という。)の構成に欠くことができない技術的事項(以下「本件訂正後事項」という。)が原出願明細書に記載した事項(以下「原出願事項」という。)の範囲内のものではなく,本件出願が平成6年法律第116号による改正前の特許法44条1項(以下「改正前44条1項」という。)に規定する適法な分割出願であるということはできず,したがって,本件出願の出願とみなす日は現実の出願日である昭和62年9月26日となるところ,本件訂正後発明は原出願発明及び現実の出願日前の技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その訂正は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項(以下「改正前126条3項」という。)の規定する独立特許要件を欠く,また,訂正事項6に係る訂正については,「明瞭でない記載釈明」及び「誤記の訂正」のいずれにも該当せず,かつ,原出願明細書に記載した事項の範囲内のものでもないから,その訂正は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項(以下「改正前126条1項」という。)の規定に適合しない,というものである。
(2)なお,本件審決が,分割出願の適否について説示するために挙示した原出願明細書及び本件訂正明細書の記載は,次のとおりである。
ア原出願明細書(甲44)の記載(原-ア)この発明で「エステル化」とは,アルコールと酸から脱水してエステルを生成する反応をいうだけでなく,広くエステルを生成する反応のすべてをいう。
すなわち,本発明の基質は酸とアルコールのみに限らず…多価アルコールの部分エステル,その他を包含する。…例えば基質がグリセリン…と,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールとのエステルとの混合物であるときは,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを過剰量存在させるようにするのがよい。
(原-イ)この発明で酵素を作用させる系は,可及的乾燥した系であり…乾燥した系で作用させることによって反応率を著しく高めることができ,また,多価アルコールのエステル化物を得るにあたって完全なエステル化物を高純度で得ることができるのである。この発明は,従って,エステル化度の完全なエステルと部分エステルの混融物に対して実施するとき特に有用である。
(原-ウ)実施例1リゾープス・ニベウス起原の市販酵素60g(水分4%)を水250gに5℃前後で溶解し,これをセライト250gと混合し,次いで15mmHgで4日間乾燥して水分約1.4%として酵素剤を調製した。パーム油を分別して得た中融点部(IV33.1,DG含量4.5%)100部及びステアリン酸メチルエステル(C16エステルを約1割含む)10部を混合して真空下に加熱乾燥して水分0.01%にして基質とした。該乾燥基質に対し,前述の酵素剤7部及び分子ふるい作用を呈するゼオライト(モレキュラーシーブ4Aタイプペレット状)10部を加え,40℃で5日間撹拌し,その後,メチルエステルを分離した。
比較として,加工酵素剤7部にかえて市販の酵素剤1.8部を用い同様に処理した。
酵素の交換活性,及びメチルエステル分離後のDG含量は表の通りであった。
(原-エ)実施例2リゾープスジャポニカス起源の市販酵素,及び担体としてパーライトを用いる他は実施例1と同様に酵素剤を調製した。市販酵素及び加工酵素剤の活性は下表の通り。…パーム油は精製(脱色・脱臭)後なおDG含量4.8%であった,該精製パーム油100部をオレイン酸10部,及び上記酵素剤5部または市販酵素のまま14部とともに,40℃で3日間撹拌しながら1乃至2mmHgの減圧下におき,しかる後油脂を回収しDG含量を測定した。比較として,水0.2部も加え常圧下に撹拌したもの,の結果も求めた。
(原-オ)実施例3キャンディダ・シリンドラシエから得た市販酵素を用い実施例1と同様に酵素剤を調製した(Ka:18)。この酵素剤を実施例1と同じ基質に作用させたところ,最終的なDG含量は,0.9%であった。
(原-カ)また多価アルコールのエステル化物を得るに際しては,エステル化度の相違する副生物が並存して共融混合物を形成し,目的物を分離し難い,という欠点がある。
イ本件訂正明細書(甲33)の記載(訂正-ア)例1リゾープス・ニベウス起原の市販酵素60g(水分4%)を水250gに5℃前後で溶解し,これをセライト250gと混合し,次いで15mmHgで4日間乾燥して水分約1.4%として酵素剤を調製した(但しKa=28.5,Kr×10 =24.8)。 そして,いずれも一級試薬であるグリセリン9部3及びオレイン酸91部を混合して,真空加熱乾燥し,これを基質とした。この基質100grを上記酵素剤5grとともに,40℃の常圧下において振盪し,毎日3grのゼオライト(モレキュラーシーブ4Aタイプペレット状)を添加して,13日間反応を行わせた。ゼオラセイトを全く添加しないで反応させることも行った。
エステル化の経時的変化は次の通りであった。
4取消事由(1)訂正事項1に係る認定判断の誤りア分割要件の有無(取消事由1)イ進歩性に関する認定判断の誤り(取消事由2)(2)訂正事項6に係る認定判断の誤り(取消事由3)第3当事者の主張1取消事由1(分割要件の有無)について〔原告の主張〕(1)本件訂正後事項が原出願事項の範囲外であるとした認定判断の誤りについてア本件審決は,本件訂正後発明の裏付けとなる具体的な反応条件やその定量的な反応結果を記載した摘記事項(訂正-ア)の追加により,その技術的事項がより具体的かつ定量的になり,これにより,本件訂正後発明の裏付けが増加あるいは強化され,このことは,その技術的事項が実質的に変化したことにほかならず,本件訂正後事項は原出願事項の範囲内のものではなくなったとした。
イしかしながら,本件審決は,本件訂正後発明の構成に欠くことができない技術的事項がより具体的かつ定量的になり,本件訂正後発明の裏付けが増加あるいは強化されたことを技術的事項が実質的に変化したことにほかならないとする点,また,仮に技術的事項がより具体的かつ定量的になり,本件訂正後発明の裏付けが増加あるいは強化されたとしても,そのことによって,原出願事項のいかなる部分が,どのように,どの程度変化したのか,そして,それによってどのような新たな効果が奏したことで,本件訂正後事項が実質的に変化したと認定した点について,その理由を説示していない。分割出願に係る発明が原出願の明細書に記載された事項の範囲内であるか否かは,技術的事項の裏付けが増加あるいは強化された程度の問題であるが,本件審決は,その程度(本件訂正後事項を実質的に変更する程度)について具体的に述べていない点において,違法である。
ウ本件訂正後発明は,基質割合や反応時間等の反応条件や反応結果の数値を構成要件とするものでなく,以下のとおり,(訂正-ア)により追加された反応条件は,原出願明細書に開示された本件訂正後発明の一実施態様にすぎない。
(訂正-ア)で用いられている「グリセリン」は,原出願明細書(原-ア)に「例えば基質がグリセリン…と,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールとのエステルとの混合物であるときは,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを過剰量存在させるようにするのがよい」と具体的に記載されており,また,(訂正-ア)において用いられている脂肪酸としての「オレイン酸」についても,摘記事項(原-エ)において具体的に記載されているとおり,グリセリン及びオレイン酸を基質として用いることは,原出願明細書に具体的に記載されているものであり,何ら新たな技術思想を取り込むものではなく,「グリセリン及びオレイン酸」にリパーゼを作用させる反応自体は,原出願前から知られた反応であって,格別の技術的事項ではない。基質の配合割合について,(訂正-ア)においては,グリセリンのエステル化すべき水酸基に対して1.1倍のオレイン酸を用いており,理論量(1倍)よりもわずかに多いオレイン酸を用いているだけで,格別に特殊な基質比を構成しているものではなく,オレイン酸量が多量になること自体は,原出願明細書に「除去しやすい方の基質を理論値より過剰量加えるのが好ましい。例えば基質がグリセリン…と,脂肪酸…とのエステルとの混合物であるときは,脂肪酸…を過剰量存在させるようにするのがよい。」と記載されており,(訂正-ア)の基質の配合量は,この記載と整合する。
エ原出願明細書の発明の詳細な説明には,「この発明で,『エステル化』とは,アルコールと酸から脱水してエステルを生成する反応をいうだけでなく,広くエステルを生成する反応のすべてをいう。すなわち,本発明の基質は酸とアルコールのみに限らず,エステル交換反応(アルコール交換反応)によって新たなエステルを生成する場合のエステルや,多価アルコールの部分エステル,その他を包含する。」と記載され,「エステル化」に用いる基質としては,アルコール及び多価アルコールの部分エステルを用い得ることが記載されている。特に,グリセリンに関しては,「例えば基質がグリセリンまたは部分グリセリドと,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールとのエステルとの混合物であるときは,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを過剰量存在させるようにするのがよい。」と記載され,グリセリンと部分グリセリドが同列に論じられており,基質としてグリセリンを用いる場合と部分グリセリドを用いる場合とが同等の反応であることを前提として記載されている。他方,原出願明細書の実施例2においては,1〜2mmHgの減圧下,「パーム油」から分別された成分である部分グリセリド(ジグリセリド)及び脂肪酸(オレイン酸)を含有する基質に,低水分系でエステル交換活性を有する脂質分解酵素が担体に分散又は吸着された酵素剤を40℃で作用させ,反応率あるいはエステル化度を高めた例(ジグリセリドをトリグリセリドにする例)が示されている。
以上のとおりの基質としてグリセリンを用いる場合及び部分グリセリドを用いる場合が同等の反応であることを前提として記載されている発明の詳細な説明の記載と,実施例2の結果とを併せみると,基質としてグリセリンを用いる本件訂正後発明が反応率あるいはエステル化度を高める効果を奏することは,容易に理解することができ,実際にも,当業者が予期できないようなものではない。
また,(訂正-ア)に示される反応結果は,原出願明細書に記載されていた「本発明者は,脂質分解酵素の従来の使用形態の概念を越えた低水分の系において使用することの重要性と同時にそれによる反応速度の低下をカバーする方途の研究が必要であることとの認識から,脂質分解酵素の低水分の系における機能を研究して来た。その中で,ある種の菌体内酵素のように弱いエステル交換活性を示すものが一部あるものの,他の脂質分解酵素は単独ではほとんどエステル交換活性を示さないこと,一般に脂質分解活性と低水分におけるエステル交換活性とは相応しないこと等の現象を見出し,遂には既存の酵素には認められないような低水分でのエステル交換高活性の製剤を調製できることを見出した(特願昭 55 -号)。分解活性と不相応の現象がある中でのエステル交換高活性は,とりもなおさず,低水分におけるエステル化反応の高活性を示すものと思料される。この発明はこのような知見に基づいて完成されたものである」との課題解決の効果である「酵素を基質に作用させつつ,反応生成物の一を系外に排出することは,上述の反応性を高め,或いはエステル化度を高める効果を増大させる」ことを具体的に示したものにすぎず,技術的事項は実質的に変化していない。
オ被告は,本件出願に際し,原出願明細書からの削除・追加によって,「水または低級アルコールを系外へ排出する方法としては,減圧留去…を用いて行う」ことの目的を,酸とアルコールの反応によって生成した「反応生成物」たる「水」を排出するためだけでなく,「水」をもともと多量に含み得る基質そのものを乾燥させるために用いることを追加したものであって,その目的を拡張変更するものであると主張する。
しかしながら,この点については,本件審決では問題とされていない事項に関する新たな主張であり,本件訴訟において審理の対象とはならないものである。
その上,原出願明細書における「可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させる」という意義には,以下の(ア)及び(イ)のとおり,?反応開始時の基質や酵素の乾燥によって,「可及的乾燥した系」を実現するということの状態のほかに,?(例えば減圧留去を用いた)酵素反応時の系外への水の排出によって,「可及的乾燥した系」を実現することの状態が含まれるものと解される。
(ア)原出願明細書には,「この発明は可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させることを骨子とするエステル化方法である。」と記載されているところ,「乾燥した系において」における「おいて」とは,反応が起こる「場」を表すという解釈が可能であり,「この発明は基質にエステル交換活性を有する酵素を可及的乾燥した系で作用させることを骨子とするエステル化方法である。」と言い換えることも可能であって,「乾燥した系において作用させる」や「乾燥した系で作用させる」は,作用させる「場」が乾燥していると解することができる。
また,原出願明細書には,「この発明で酵素を作用させる系は,可及的乾燥した系であり,エステル交換活性を有する酵素を選択することと相俟って本発明の骨子を形成する。」と記載され,「酵素を作用させる系」と「可及的乾燥した系」とが同列に論じられているという文章の構造からして,酵素を作用させる反応系が可及的乾燥した系であると解することが可能といえる。
そして,上記の「この発明で酵素を作用させる系は,可及的乾燥した系であり,エステル交換活性を有する酵素を選択することと相俟って本発明の骨子を形成する。」に続く記載である「すなわち基質及び酵素は可及的水分を低下したものを用い,従来のように酵素を水とともに加えるようなことはしない。」という記載からすると,「可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させる」方法の1つとして,具体的に,反応開始前(反応開始時)における乾燥を問題とした,可及的水分を低下させた基質及び酵素を用いる方法が記載されているといえ,この方法は,「可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させる」ことに貢献する方法の1つの手段であるということができる。
(イ)原出願明細書における「可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させる」ということについて,(例えば,減圧留去を用いた)酵素反応時の系外への水の排出によって,「可及的乾燥した系」を実現するという意味にも解釈が可能である。
すなわち,<ア>上記のとおり「可及的乾燥した系において」が「(酵素を)作用させる」を文言上修飾していること,<イ>「酵素を作用させる系」が「可及的乾燥した系」であるとの記載が存すること,<ウ>「この発明で酵素を作用させる系は,可及的乾燥した系であり,エステル交換活性を有する酵素を選択することと相俟って本発明の骨子を形成する。」との記載における「エステル交換活性」について,「この発明で,エステル交換活性は,低水分系におけるエステルに結合する脂肪酸を交換する活性をいう」と記載されていること,<エ>「本発明者は,脂質分解酵素の従来の使用形態の概念を越えた低水分の系において使用することの重要性と同時にそれによる反応速度の低下をカバーする方途の研究が必要であることとの認識から,脂質分解酵素の低水分の系における機能を研究して来た。…遂には既存の酵素には認められないような低水分でのエステル交換高活性の製剤を調製できることを見出した…この発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。」と記載され,反応中の系中水分を問題として研究されてきたこととの事情からすると,「可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させる」のに貢献する方法の1つとして,具体的に,酵素反応時における系中水分を問題として,可及的水分を低下させた状態で(状態を維持しながら)酵素を作用させる方法が例示されている。そして,この方法としては,「水または低級アルコールを系外に排出する方法としては,減圧留去または吸着剤を用いて行うのがよい。」と記載され,実施例2は,反応中に減圧留去を用いて水を排出していることからも明らかなように,例えば減圧留去を用いて水を排出する方法である。
カ本件審決は,原告が,当時のプラクティスに基づき,具体的な反応の結果が新たに加われば要旨変更となるというのでは,いかなる実施例の追加も要旨変更とされることとなり,これは審査のプラクティスから外れた判断であるなどと主張したことに対して,「当時の審査プラクティス」として本件の状況に対応する審査基準,運用等の明文化された規定はなく,原告の主張によっても,本件のような場合に分割要件を満たすとした「当時の審査プラクティス」があったということはできず,また,たとえ原告が主張するようなプラクティスがあったとしても,それが正しいということにはならないとした。
しかしながら,原告は,法律やその法律の解釈に基づく審査プラクティスを基に明細書を作成し,補正・分割を行っているのであるから,その当時の審査プラクティスに基づいて認定判断されるべきであり,特に,本件についていえば,出願から20年も経過しているのであるから,原告が当時の審査プラクティスを示す判例等を提出して反論したにもかかわらず,それに対して,何ら具体的に根拠も示さず,本件のような場合に分割要件を満たすとした「当時の審査プラクティス」があったということはできず,また,たとえあったとしても,それが正しいということにはならないとすることは,正当な認定判断の姿勢とはいえない。
本件審決は,具体的な反応条件や反応結果の追加によって技術的事項についての裏付けが増加あるいは強化されたことをもって,技術的事項が実質的に変化したことに外ならないとし,具体的反応条件及び反応結果を記載した実施例追加のすべてが本件訂正後事項を実質的に変化させることになるかのような認定判断をしているが,このような認定判断が当時のプラクティスと異なることは,特許の実例,判決例,審査基準等から明らかである。
(2)本件出願の出願とみなされる日の判断の誤りについてア本件出願に係る発明の構成に欠くことができない技術的事項が原出願事項に含まれるものではないとされ,本件出願前に行われた原出願における実施例を追加する昭和56年6月8日の補正(甲45)の適法性を判断し,仮に要旨変更があるとされる場合であっても,分割出願について原出願に記載の発明と同等の保護を与えようとするものであるとの特許法44条2項の趣旨を考慮すると,要旨変更になるような補正はすべて無効であるというような解釈を採ると特許権者にとっては余りにも苛酷にすぎることから,出願公告決定謄本送達前の手続補正が要旨変更であると認められずに設定登録され,その後に特許無効審判等の手続内で要旨変更と認められた場合には,権利者保護のために手続補正書を提出した時に特許出願があったものとみなす平成5年法律第26号による改正前の特許法40条(以下「改正前40条」という。)の規定が分割出願においても適用されるべきであって,本件出願の出願日は,この手続補正がされた昭和56年6月8日とみなされるべきである。
なお,本件出願と同時に行った原出願についての追加した実施例を削除した補正は,分割出願に伴って必要となる補正を行ったものであって,原出願に対しては影響があるものの,本件出願に対しては何ら影響を与えるものではない。他方,分割出願前の実施例を追加する原出願の昭和56年6月8日の補正は,分割出願前に既に原出願に対して行われていたものであるから,本件出願に対してはその事実がなくなるものではない。
〔被告の主張〕(1)本件訂正後事項が原出願事項の範囲外であるとした認定判断の誤りについてア本件のような化学分野では,ある材料や条件を選択した場合にどのような結果が得られたかという具体例は極めて重要な情報であり,そのような情報が追加されることよって,結果として,特許請求の範囲の技術的解釈,紛争における当業者の攻撃防御,発明の特許性の判断,他者の技術開発動向に大きな影響を与えるものであるから,このような実施例の追加は,原出願明細書に記載されている事項を技術的に変更するものであり,新たな技術的事項を導入するものであって,原出願明細書に記載した事項の範囲内のものということができない。
イ原告は,本件審決について,原出願事項のいかなる部分が,どのように,どの程度変化したのか,そしてそれによってどのような新たな効果が奏したことで本件訂正後事項が実質的に変化したと認定したのかを説示していない点において違法であると主張する。
しかしながら,本件審決は,本件訂正後事項の「水を排出する系において,グリセリンをエステル化」することの部分が,「具体的な配合割合等の反応条件,その反応結果等,原出願明細書の記載及び原出願時の技術常識からでは当業者に自明でない」ものであったところ,「具体的な反応条件やその定量的な反応結果までをも当業者は把握できる」ようになり,「定量的な予測が本件訂正明細書の記載からは可能となった」と理由を述べた上で,本件訂正後発明の裏付けが増加あるいは強化され,実質的に変化したとして,本件訂正後事項は,原出願事項の範囲内のものではなくなったと結論付けているものであって,原告の主張は理由がない。
ウ原告は,(訂正-ア)により追加された反応条件や反応結果の数値は,一実施態様にすぎないと主張する。
しかしながら,一実施態様であれば,特許請求の範囲に記載した技術的事項を変更しないものであるという原告主張は誤りであり,飽くまでも,原出願明細書の記載及び原出願時の技術常識からでは当業者に自明でない事項が含まれているといえる一実施態様の追加により,本件訂正後発明の裏付けが増加あるいは強化され,その技術的事項が変化したか否かが問題となる。
本件訂正明細書実施例に基質として記載された「グリセリン」と原出願明細書の実施例に基質として記載された「ジグリセリド」とは,著しく性質を異にする化学物質である。温度25℃における「ジグリセリドに対する水の溶解度」は,0.91%とされるように,もともとグリセリンに比べて低いものであり,この点で本件訂正後発明に係るグリセリンと著しく性質を異にし,その相違はエステル化反応の成否に影響を与えるのである。
また,グリセリンは吸湿性が高く,含まれる水分は反応に影響を及ぼすものであって,基質における脂肪酸の添加量を減少させることは,相対的にグリセリンの割合,そして含まれる水分の量を増加させることによりエステル化反応に阻害的影響を及ぼすことになるから,基質の配分割合について,エステル化すべき水酸基に対してオレイン酸が理論量(1倍)よりもわずかに多いにすぎないとして,原出願明細書の記載及び原出願時の技術常識から当業者に自明な事項ということはできない。
また,リパーゼによる加水分解の逆反応によって,脂肪(グリセライド)又はエステルが生成されるところ,グリセリンを含む基質中に水分が存在するので当該生成が阻害されること,基質自体が高い吸湿性を示すため,逆反応である基質からの水の排出が極めて困難であることから,グリセリンにおいても効果が奏されるか否かは実際にその反応を行ってみなければ全く不明であって,ジグリセリドの場合の作用効果が,含水率を何ら限定されていないグリセリンを基質とした場合においても同様に奏せられると直ちには認められない。
エ原告は,基質としてグリセリンを用いる場合及び部分グリセリドを用いる場合が同等の反応であることを前提として記載されている発明の詳細な説明の記載と,実施例2の結果とを併せみると,基質としてグリセリンを用いる本件訂正後発明が反応率あるいはエステル化度を高める効果を奏することは容易に理解することができ,実際,当業者が予期できないようなものではないと主張する。
しかしながら,原出願明細書の発明の詳細な説明は,「例えば基質がグリセリンまたは部分グリセリドと,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールとのエステルとの混合物であるときは,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを過剰量存在させるようにするのがよい。」と記載するものでしかなく,「同等の反応であることを前提として記載されている」ということはできない。
また,原出願明細書には,「基質としてグリセリンを用いる場合」には,実施例2に記載された手法を採用すればよいことを示唆する記載はない。原出願明細書に記載された技術的課題は,「この発明は,可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させることを骨子とするエステル化方法である。」というものであって,原出願明細書の特許請求の範囲についても同旨である。可及的乾燥した系の条件設定,基質の選択,酵素の選択,反応条件の設定など,技術的課題の解決手段の選択に当たっては,それぞれの項目ごとに種々の構成が考えられるところ,化学分野においては,対象又は手段の採用に伴って必然的に別の新たな技術的課題が生じることが常であり,その新たな技術的課題の解決を多々ある選択肢の中から適した手段を採用することによって解決することは,それが潜在的なものであれ,顕在的なものであれ,実質的に技術的課題を変更することにほかならない。
したがって,原出願明細書の発明の詳細な説明において,原出願明細書の「基質としてグリセリンを用いる場合」の記載と,原出願明細書の基質としてグリセリンを用いない実施例2において反応生成物を系外に排出するために「減圧留去」を用いることが記載されているとしても,それらの手段の組合せが原出願明細書において何ら示唆されておらず,また原出願当時に自明でもないのであるから,原出願事項の範囲内であるということはできない。
そもそも,本件訂正明細書に記載された技術的思想についてみるに,基質としてグリセリンが挙げられている原出願明細書の(原-ア)の記載は,「すなわち,本発明の基質は酸とアルコールのみに限らず,エステル交換反応(アルコール交換反応)によって新たなエステルを生成する場合のエステルや,多価アルコールの部分エステル,その他を包含する。」との基質の種類を非限定的に列挙した記載に続くものであり,(原-ア)の記載を根拠に,原出願明細書に技術的思想が具体的に記載されていたということができるものではなく,まして,本件訂正明細書の請求項1記載のように,「水を減圧留去により排出する系において」実施し,脂質分解酵素は「低水分系でエステル交換活性を有する」ものであって,かつ,「担体に分散または吸着された」ものであり,「40〜75℃で作用させる」場合において行うことは,原出願明細書に具体的に記載されているものではない。
(訂正-ア)に記載のエステル化の効率についても,モノグリセリドやジグリセリドという不完全エステル化物の生成量を抑制し,3段階の反応がいずれも完全に進行した完全なエステル化物であるトリグリセリドを高い純度で得ることができるという発明の効果が奏されることを裏付けようとするものであって,ジグリセリドを基質としてトリグリセリドへと1段階の反応を進行させることを目的とし,それをジグリセリドの量で測定している原出願明細書の実施例1の具体的な記載においては裏付けられていたということができず,(訂正-ア)の記載は,結果として発明に記載された技術的事項を効果や作用の点を含めて実質的に変更するものであるから,水分除去の具体的条件は初めて認識されたものである。
オ原出願明細書においては,「本発明の骨子」として「可及的乾燥した系」を用いるものであり,それは「すなわち基質及び酵素は可及的水分を低下させたものを用い」るものであって,「減圧留去」は,それとは別に,「酵素を基質に作用させつつ,反応生成物の一を系外に排出」するために行っていた,すなわち酸とアルコールの反応によって生成した「反応生成物」たる「水」を排出するために行っていた。
これに対し,本件出願においては,「本発明の骨子を形成する。すなわち基質及び酵素は可及的水分を低下させたものを用い,」「酵素を基質に作用させつつ,反応生成物の一を系外に排出することは,…水は,酸とアルコールの反応によって生成し,低級アルコールは,エステル交換(アルコール交換)の反応によって生成しうる。」を削除し,「系を可及的乾燥した状態にするのに,基質及び酵素は可及的水分を低下させるが,後述のように酵素を基質に作用させつつ水を系外に排出することも,系を乾燥させる。」を追加した。
このような削除・追加は,「水または低級アルコールを系外へ排出する方法としては,減圧留去…を用いて行なう」ことの目的を,酸とアルコールの反応によって生成した「反応生成物」たる「水」を排出するためだけでなく,「水」をもともと多量に含み得る基質そのものを乾燥させるために用いることを追加するものであって,その目的を拡張変更するものである。
したがって,少なくとも,可及的乾燥したものではなく水を多量に包含する態様を含む「グリセリン」に対して「減圧留去」する本件訂正後発明においては,その「減圧留去」の目的及び効果に関する技術的事項が原出願明細書の記載から変更されているということができる。
カ原告は,本件審決の認定判断は当時のプラクティスにおけるものと全く異なると主張する。
しかしながら,本件審決は具体的な数値を記載した実施例追加のすべてが技術的事項を実質的に変化させることになって要旨変更であると認定しているわけでないから,原告の主張はその前提において誤っている。
そして,出願公告決定における判断は,審判手続における補正の当否の判断を拘束するものではなく,出願公告決定とは異なる判断の下に補正が却下されることがあり得ることは,むしろ特許法の予定しているところであって,原告が挙げた特許公報の存在は審判手続における要旨変更の判断を左右するものではなく,何ら本件審決の違法性を基礎付けるものではないから,原告の主張は失当である。
(2)本件出願の出願とみなされる日の判断の誤りについてア改正前40条が適用されるのは,法文上,「願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の設定の登録があった後に認められたとき」であって,補正の効果は遡及されるところ,原出願においては,昭和56年6月8日の補正書(甲45)で追加された実施例4に係る記載事項は,その後の補正により削除されて(乙10の1,2),出願公告に至っているから,原出願の特許明細書は,実施例4の追加という要旨変更を含む補正がされたものではなくなる。したがって,原出願に同法40条を適用する余地はなく,その出願日は,昭和55年3月14日である。
そして,原出願から適法に分割出願がされた場合の効果は,「新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなす」(平成5年法律第26号による改正前の44条2項(以下「改正前44条2項」という。))ものであるから,本件出願の分割が適法であれば,本件出願の出願日は,原出願の出願日の昭和55年3月14日に遡及し,他方,その分割が不適法であれば,同法44条2項の出願時の遡及効を享受できないから,分割出願の現実の出願日である昭和62年9月26日となり,それ以外の解釈はあり得ない。
イ改正前44条1項及び改正前44条2項の規定は,原出願の願書に添付した明細書又は図面に2以上の発明が包含されている場合について,特許制度の趣旨にかんがみて,1出願により2以上の発明につき特許出願した出願人に対し,同出願を分割するという方法により分割した発明につきもとの出願の時に遡って出願したものとみなして特許を受ける途を開いたものであり,出願後に付加された発明をも分割の対象として予定した規定とは解されないから,原出願の後に補正によつて付加された発明について分割出願を認めることはできず,特許法が予定したそれぞれの手続面をみても,原出願からの分割出願としてその出願日をもとの出願日に遡及させる制度と補正却下の決定に基づく補正内容についての取扱いとを同一視することはできず,特許法には,原告主張の見解を根拠付けるに足りる規定はみいだせない。
補助参加人の主張〕(1)本件訂正後事項が原出願事項の範囲外であるとした認定判断の誤りについてア分割出願に係る発明が原出願の願書に最初に添付された明細書・図面に記載された発明でなければならないという要件は,分割出願の効果が原出願の出願時に遡及するという改正前44条2項の解釈によって導かれる要件であって,補正要件である「明細書の要旨変更」とは異なるものである。特許法44条2項は,「明細書の要旨変更」との概念が消滅した平成5年法律第26号による改正の前後を通じて,基本的に変わっていないのであるから,仮に改正前44条2項において,分割要件の判断と要旨変更の判断とを同様のものと考えるプラクティスが存在したとしても,現時点において,裁判所がそのことに拘束されるものではない。
イもっとも,分割出願に係る発明が原出願の願書に最初に添付された明細書との関係で補正すらできないような範囲のものであるならば,分割出願は不適法となるところ,原出願における実施例4の追加は,「単に不明りょう,不完全な点を補充訂正して完全なものとしたり」するものでも,「発明の内容の理解に資するために実施例を新たに付加する」ものでもなく,原出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明である「可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させることを特徴とするエステル化方法」を裏付ける重要な実施例の追加であり,明細書の要旨変更に該当するものである。
また,本件訂正後発明である「水を減圧留去により排出する系において,グリセリン及び脂肪酸を含有する基質に,低水分系でエステル交換活性を有する,脂質分解酵素が担体に分散または吸着された酵素剤を40〜75℃で作用させることを特徴とするアルコールのエステル化方法」との関係において,実施例4が追加されたことがそもそも問題となる。
ウ(原-エ)の記載(原出願明細書における実施例2)は,「パーム油」中のジグリセリドと脂肪酸である「オレイン酸」とを反応させているにすぎず,グリセリン及び脂肪酸を基質として脂質分解酵素を作用させるエステル化の例は,原出願の公開前の補正によって初めて導入されたものである。(原-ア)と(原-エ)とを組み合わせて読んだとしても,グリセリン及びオレイン酸を基質として脂質分解酵素を作用させるエステル化の例が記載されているということはできず,その反応結果を当業者が当然に予測できたとも,反応条件は当業者が適宜設定すべき事項にすぎないということもできないものであるなど,本件出願においては,原出願明細書における技術的事項についての裏付けが増加あるいは強化されたことによって技術的事項が実質的に変化したものであって,そのように認定した本件審決には誤りはない。
(2)本件出願の出願とみなされる日の判断の誤りについてア分割出願と補正とは,特許法上,全く別個の制度であり,目的も効果も異なるものである以上,明文の準用規定がないにもかかわらず,補正に関する規定を分割出願に適用又は類推適用することは許されない。
分割出願要件の判断基準となる明細書・図面は,原出願の補正が適法にされたか否かにかかわらず,原出願の願書に最初に添付された明細書・図面であって,補正後の明細書・図面ではない。
本件において分割出願の適法性を検討するに際しては,原出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明であるかを検討することが必要であり,かつ,それで足りる。
したがって,本件出願においては,分割が適法であれば原出願の出願日である昭和55年3月14日が出願とみなされる日となり,分割が不適法であれば現実の出願日である昭和62年9月26日が出願日となるにすぎない。
イ加えて,本件においては,分割前の昭和56年6月8日の原出願の補正によって追加された実施例4は,分割出願と同日の昭和62年9月26日の補正により削除されている(乙10の1,2)。そして,補正の効果は,出願日に遡及するのであるから,分割前の原出願の補正によって追加された実施例4は,上記の昭和62年9月26日の補正によって,原出願の出願当初から存在しなかったことになる。
したがって,仮に要旨変更の有無についてみるとしても,上記昭和56年6月8日の補正が要旨変更に該当するか否かを確定することは無意味である。
2取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,本件出願の出願日をその現実の出願日である昭和62年9月26日とする誤った認定をしたことから,本件出願の出願とみなされる日(昭和55年3月14日又は昭和56年6月8日)前に頒布されていない昭和57年1月18日公開の原出願公報(丙2)を引用例としたものであって,進歩性に関する本件審決の認定判断は不当である。
〔被告の主張〕原告が主張する本件の出願日は,現実の出願日である昭和62年9月26日ではなく,原出願において補正をした昭和56年6月8日となるとの前提が誤りであるから,これに基づく原告の主張は失当である。
3取消事由3(訂正事項6に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕ア本件審決は,訂正事項6は,改正前126条1項ただし書各号のいずれにも該当せず,かつ,同条1項ただし書の規定にも適合しないから,本件訂正は認められないとした。
イしかしながら,訂正事項6に係る本件出願に係る訂正前の特許公報(特公平7-57195号公報)に記載された「ゼオライト」は,特許公報掲載時の誤植によるものであって,実際は,「セライト」であった。
したがって,訂正事項6は,実質的には,「実施例1」を「例1」に訂正することを求めるものであり,この訂正は,水の排出方法を減圧留去に限定する特許請求の範囲の訂正(訂正事項1)に対応するもので,明瞭でない記載釈明に該当するものであり,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であって,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものでなく,本件審決の認定判断は誤っている。
〔被告の主張〕本件出願に係る特許公報(特公平7-57195号公報)に記載された「ゼオライト」は,願書に添附した明細書の「セライト」の誤植によるものであった。
しかしながら,改正前126条1項は「特許権者は,次に掲げる事項を目的とする場合に限り,願書に添附した明細書又は図面の訂正をすることについて審判を請求することができる。」と定めており,訂正の目的となるものは,「願書に添附した明細書又は図面」であって,「特許公報」ではない。
したがって,原告が訂正事項6についてした訂正審判の請求は,願書に添附した明細書又は図面の訂正をすることについて審判を請求することを規定した同項には規定されていない内容を請求するものであって認められない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(分割要件の有無)について(1)分割出願の適否の判断基準本件審決は,本件訂正の適否について判断するに当たり,本件訂正は本件訂正前発明を本件訂正後発明に訂正するものであるが,本件訂正前発明が原出願発明の分割出願に係る発明であるため,本件訂正後発明における技術的事項,すなわち,本件訂正後事項と原出願事項とを比較検討して,本件訂正後事項が原出願事項の範囲内のものではないとし,その結果,本件出願は分割出願として適法なものではないから,本件出願の出願日が原出願日に遡ることはなく,本件出願の現実の出願日を基準にすると,本件訂正後発明は進歩性がなく,本件訂正は独立特許要件を欠くとしたが,本件審決のその判断を前提に,原告は,本件訂正後事項は原出願事項の範囲内であるとし,他方,被告は,その範囲外であるとして,本件審決の判断の当否を争っている。
しかしながら,本件訂正の適否について本件訂正後発明が独立特許要件を具備するか否かを判断する必要がある場合には,その進歩性の判断の基準時として,本件出願の出願日を確定する必要があるところ,本件出願は分割出願であるから,本件出願が適法な分割出願であれば,原出願の出願日である昭和55年3月14日に遡って出願したとみなされる(改正前44条2項)ので,原出願日が基準時となるのに対し,適法な分割出願でなければ,本件出願の現実の出願日が基準時となるのであって,その基準時を確定するためには,まずもって本件出願が分割出願として適法なものであったか否かを検討する必要がある。
しかるところ,本件出願が適法な分割出願であったというためには,分割出願の発明の構成に欠くことができない技術的事項,すなわち,本件訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件訂正前発明」という。)の構成に欠くことができない技術的事項(以下「本件訂正前事項」という。)が原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項であること,すなわち,原出願事項の範囲内であることが必要であって,原出願事項の範囲内であるか否かを検討する対象となるのは,本件訂正後事項ではなく,本件訂正前事項でなくてはならない。けだし,本件訂正後発明の進歩性について判断するのは,本件訂正の適否を検討するためであるところ,原出願日を基準にその判断をすることが可能であるのは,本件出願が適法な分割出願であった場合であることを前提とするが,本件においては,その分割出願の適否もまた問題となっているからである。
そこで,以下,本件訂正後事項を専ら対象として本件審決の判断の当否に言及する原・被告の主張もその見地から善解し得るものは善解して,本件訂正前事項が原出願事項の範囲内であるか否かについて検討することとする。
(2)本件訂正前事項まず,本件訂正前事項についてみると,本件訂正前発明は,「水または水及び低級アルコールを排出する系においてアルコール及び脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを含有する基質にエステル交換活性を有する脂質分解酵素を作用させることを特徴とするアルコールのエステル化方法」というものであって,この内容が本件訂正前事項である。
また,本件出願明細書には,請求項1の記載のほか,発明の詳細な説明として,次の記載がある。なお,以下の(記載-?)〜(記載-?)は,説明のために付加するものである。
(記載-?)この発明は,水または水及び低級アルコールを排出する系においてアルコール及び脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを含有する基質にエステル交換活性を有する脂質分解酵素を作用させることを骨子とするアルコールのエステル化方法である。
(記載-?)この発明で脂質分解酵素を作用させる系は,水または水及び低級アルコールを排出する系であり,そのような乾燥系で酵素がエステル交換活性を示すことが必要である。
(記載-?)系を可及的乾燥した状態にするのに,基質及び酵素は可及的水分を低下させるが,後述のように酵素を基質に作用させつつ水を系外に排出することも,系を乾燥させる。
(3)原出願事項次に,原出願事項についてみると,本件審決が挙示したとおり,原出願明細書には,第2の3(2)アのとおりの記載がある。
また,原出願明細書には,次の記載もある。
【特許請求の範囲】?可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させることを特徴とするエステル化方法。
?生成エステルが脂肪酸エステルである?記載の方法。
?反応生成物の一を系外に排出する?記載の方法。
?反応生成物が水又は低級アルコールである?記載の方法。
?系外への排出を減圧留去により行う?及び?記載の方法。
?系外への排出を吸収剤を用いて行う?及び?記載の方法。
発明の詳細な説明】なお,以下の(原-?)〜(原-?)は,説明のために付加するものである。
(原-?)この発明は可及的乾燥した系において基質にエステル高(交)換活性を有する酵素を作用させることを骨子とするエステル化方法である。
(原-?)この発明で酵素を作用させる系は,可及的乾燥した系であり,エステル交換活性を有する酵素を選択することと相俟って本発明の骨子を形成する。すなわち基質及び酵素は可及的水分を低下させたものを用い,従来のような酵素を水とともに加えるようなことはしない。
(原-?)酵素を基質に作用させつつ,反応生成物の一を系外に排出することは,上述の反応率を高め,或いはエステル化度を高める効果を増大させる。排出物は,目的とするエステル化物であっても,他の副生する反応物であってもよい。…反応生成物が水または低級アルコールであるとき温度を低下させることなく系外へ排出することが容易である。水は,酸とアルコールの反応によって生成し,低級アルコールは,エステル交換の反応によって生成し得る。
(4)本件訂正前技術事項と原出願事項との関係アまず,本件審決の摘示する原出願明細書の記載についてみると,以下のとおりいうことができる。
(ア)(原-ア)の「本発明の基質は酸とアルコールのみに限らず,エステル交換反応(アルコール交換反応)によって新たなエステルを生成する場合のエステルや,多価アルコールの部分エステル,その他を包含する。…例えば基質がグリセリンまたは部分グリセリドと,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールとのエステルとの混合物であるときは,脂肪酸または脂肪酸の低級アルコールエステルを過剰量存在させるようにするのがよい。」 との記載によると,原出願明細書には,脂肪酸のようなカルボン酸とアルコールとのエステル化反応を対象とする発明が,そして,このエステル化反応には,脱水してエステルを生成する反応だけでなく,エステル交換反応も含まれること,エステル化反応の基質として「アルコール」,「酸」,「エステル」があること,基質としてのアルコールに該当するものとして「多価アルコールの部分エステル」,「グリセリン」及び「部分グリセリド」が記載されていること,グリセリンに対して脂肪酸を過剰量使用することも記載されているということができる。
(イ)(原-イ)及びそれに続く「酵素を基質に作用させつつ,反応生成物の一を系外に排出することは,上述の反応率高め,或いはエステル化度を高める効果を増大させる。排出物は,目的とするエステル化物であっても,他の副生する反応物であってもよい。…水は,酸とアルコールの反応によって生成し,低級アルコールは,エステル交換(アルコール交換)の反応によって生成し得る。水または低級アルコールを系外へ排出する方法としては,減圧留去または吸収剤を用いて行うのがよい。」との記載によると,「水を減圧留去により排出する系」において,エステル化を行うことが記載されているということができる。
(ウ)「分解活性と不相応の現象がある中でのエステル交換高活性は,とりもなおさず,低水分におけるエステル化反応の高活性を示すものと思料される。」及び「前述特願昭55-号に開示した,一旦水素下で担体に分散または吸着させたものを緩慢に減圧乾燥する方法は高活性酵素剤を得る有用な方法であり,且つ繰返し使用によく耐える酵素が得られるが,低水分系において一定のエステル交換活性を有するものであれば,その調整方法はもとより限定されるものでない。」との記載によると,酵素として,「低水分系でエステル交換活性を有する脂質分解酵素が担体に分散又は吸着された酵素剤」を使用することが記載されているということができる。
(エ)「反応温度は,20〜75℃にあり,この中でも酵素が可及的持久的に活性を呈し得る可及的高温が好ましい。」及び実施例1及び2において,40℃で反応が行われているとの記載によると,「40〜75℃で作用させること」が記載されているということができる。
イまた,エステル化とエステル加水分解との反応が平衡反応であることからすると,エステル交換活性を有する酵素を触媒として,脂肪酸とアルコールとからエステルを生成することができることは,当業者において自明の事項であるということができる。
そして,原出願明細書の実施例1及び2において,脂肪酸とアルコールからエステルが生成することが示されていることからすると,基質,使用する酵素,反応条件の選択等によって,反応性の大小,生成物の収率等に差異があるにしても,原出願明細書に記載の「エステル化方法」を実施することによってエステルが生成されるものと解することができる。
さらに,(原-ア)には,グリセリンに対して脂肪酸を過剰量使用することも記載されているところ,その割合は,当業者であれば,排水のための条件,使用する酵素の種類及び量,反応温度等を考慮する中で,過剰量の範囲内で適宜決定し得る事項であるということができる。
さらにまた,水を系外に排出するための条件としての吸収剤の使用や減圧留去の条件についても,当業者が適宜決定し得る事項であるということができる。
ウ以上によると,上記アのとおり,本件訂正前事項は,文言上,原出願明細書に記載されていることに加え,上記イのとおり,脂肪酸とアルコールからエステルを生成することができること,グリセリンに対する脂肪酸の過剰量使用の割合も,当業者が排水のための条件,使用する酵素の種類や量,反応時間等を考慮して適宜決定し得る事項であって,原出願明細書の記載から自明なものということができることなどを考慮すると,本件訂正前事項については,当業者において,「エステル化方法」に関する技術として正確に理解した上で,容易に実施することができる程度に原出願明細書に記載されているものと認めることができる。
エしかしながら,本件訂正前事項が原出願事項の範囲内であるか否かを検討するに,以上の検討のほか,さらに,本件訂正前発明に係る特許請求の範囲と原出願明細書とを比較検討してみると,次のとおりいうことができる。
(ア)本件訂正前発明及び原出願発明の各特許請求の範囲をみると,原出願明細書では「可及的乾燥した系において」基質に酵素を作用させることが特定されているのに対して,本件訂正前発明では「水または水及び低級アルコールを排出する系において」酵素を作用させることが特定されている点において,相違する。
(イ)また,原出願明細書と本件出願明細書の各発明の詳細な説明をみると,本件出願明細書においては,原出願明細書の発明の詳細な説明の(原-?)〜(原-?)は削除され,(記載-?)〜(記載-?)が追加されており,原出願明細書では,酵素反応が,可及的水分を低下させた基質及び酵素を用いて行われるものと限定されており,「可及的乾燥した系において」行われることが必須の事項であるのに対し,本件出願明細書では,(記載-?)のように,系を乾燥させるにおいて,「基質及び酵素は可及的水分を低下させる」場合と「酵素を基質に作用させつつ水を系外に排出する」場合とが記載されている。
以上によると,本件出願明細書には,酵素反応の場が,可及的水分を低下させた基質及び酵素を用いて行われる「可及的乾燥」した系において水を系外に排出する方法だけでなく,基質に酵素を反応させる場が,このような「可及的乾燥」状態でなく,可及的水分を低下させたものではない基質を用い,エステル化が行われる系全体のどこかにおいて水を系外に排出し,そのことで系が乾燥する方法が包含されると解されるが,このうち,後者の方法については原出願明細書に記載されていないものである。
(ウ)また,原出願明細書では,「乾燥した系で作用させることによって反応率を著しく高めることができ,また多価アルコールのエステル化物を得るにあたって完全なエステル化物を高純度で得ることができるのである。」を受ける形で,(原-?)において,反応生成物を系外に取り除くことによって,反応率を高め,エステル化度を高める効果が増大することが記載されている。これは,エステル化反応についてみるに,「エステル化とエステル加水分解」との平衡状態から更にエステル化を進めるためには,酸とアルコールのエステル化による反応生成物である「水」や「エステル」を反応系から取り除くことが有効であるとするものであり,また,エステル交換反応においても,酸の低級アルコールエステルとアルコール成分が使用され,反応生成物として「低級アルコール」と「エステル」が生成するから,エステル生成の方向に反応を進めるためには,反応生成物である「低級アルコール」や「エステル」を反応系から取り除くことが有効であるとするものであって,これは,当業者の技術常識にも合致するものということができる。
そして,例えば,これらのうちエステル化反応についてみると,原出願明細書の技術事項としては,「水」を排出することによって,エステル化の方向に反応が進み,反応率やエステル化度という効果を高めようとするものであるが,この効果を得るためには,酵素反応の場が「可及的乾燥」していることが必要である。けだし,酵素反応の場が「可及的乾燥」しておらず,エステル化の反応生成物以外の水が相当量存在している場合には,エステル化による反応生成物である「水」を系外に排出したとしても,平衡状態にある「エステル化とエステル加水分解」との状態から更にエステル化が進む状態になるとは考え難いからである。
他方,本件出願明細書では,(記載-?)において「基質及び酵素は可及的水分を低下させる」場合のほかに,「水を系外に排出すること」も「系を乾燥させる」と記載した上で,続けて,原出願明細書における上記記載と同様の「乾燥した系で作用させることによって反応率を著しく高めることができ,また多価アルコールのエステル価(化)物を得るにあたって完全なエステル化物を高純度で得ることができるのである。」との効果の記載があるが,このような効果は,酵素反応の場が「可及的乾燥」していない場合についてもいうことになったものであるから,上記の原出願明細書におけるようなエステル化反応の平衡状態から更にエステル化を進めるという技術的事項とは異なるものであって,このような本件出願明細書における技術的事項については原出願明細書が記載しないものであり,また,このようなことが原出願明細書の記載から自明であるということもできない。
(エ)原告は,原出願明細書における「可及的乾燥した系において基質にエステル交換活性を有する酵素を作用させる」という意義には,?反応開始時の基質や酵素の乾燥によって,「可及的乾燥した系」を実現するということの状態のほかに,?(例えば減圧留去を用いた)酵素反応時の系外への水の排出によって,「可及的乾燥した系」を実現することの状態が含まれるものと解されると主張する。
しかしながら,本件出願明細書は,(原-2)の「この発明で酵素を作用させる系は,可及的乾燥した系であり,エステル交換活性を有する酵素を選択することと相俟って本発明の骨子を形成する。」との記載を削除し,(記載-?)の「系を可及的乾燥した状態にするのに,基質及び酵素は可及的水分を低下させるが,後述のように酵素を基質に作用させつつ水を系外に排出することも,系を乾燥させる。」との記載を加えたものであって,原出願明細書は,可及的水分を低下させた基質及び酵素を用いて行われる「可及的乾燥」した系において水を系外に排出する方法のみを記載するものであったということができ,また,(原-?)の「この発明で酵素を作用させる系は,可及的乾燥した系であり,エステル交換活性を有する酵素を選択することと相俟って本発明の骨子を形成する。」との記載は,「可及的乾燥した系」において酵素を作用させることを記載しているものであって,「酵素を作用させる系」と「可及的乾燥した系」とが同列に論じられているということができるものでもなく,原出願明細書の記載は,酵素反応の場において「可及的乾燥」しており,基質について可及的水分を低下させたものを用いることに限定することを記載するものであって,他方,本件訂正前事項は,酵素反応の場が「可及的乾燥」しておらず,可及的水分を低下させたものではない基質を用いる場合についても含むものであるから,原告の主張は採用することができない。
なお,原告は,本件出願が原出願明細書における技術的事項に含まれるものでないとしても,本件出願の出願とみなされる日について,原出願について手続補正(甲45)がされた昭和56年6月8日とみなされるべきであると主張するが,その主張は,本件出願明細書の技術的事項が原出願事項に含まれないとしても,原出願は上記補正がされているところ,本件出願明細書の技術的事項は当該補正に係る明細書に記載されているので,本件出願は分割出願として適法であって,したがって,本件出願は原出願の日ではなく,当該補正の日に出願されたものとみなされるべきであるという趣旨に解される。
しかしながら,そもそも,原出願につき,上記補正によって「実施例4」を追加したからといって,当該補正は原出願に係る発明の技術的事項として「可及的乾燥した系において」基質に酵素を作用させることまで変更するものではなく,「可及的乾燥した系において」基質に酵素を作用させること自体は当該補正の前後を通じて同じであるから,前記説示したところと同様に,原告の主張は採用し得ない。
オ以上の検討結果によると,本件訂正前事項は,グリセリンを用いてエステルを生成するという点においては,原出願事項の範囲に含まれるとはいうことができるものの,酵素反応の場については,「可及的乾燥」を要件とせず,したがってまた,グリセリンを含め,基質についても,原出願発明では可及的水分を低下させたものとして予定されているのに対し,可及的水分を低下させたものではない基質を用いることを含むものであって,これらは原出願事項の範囲内のものということはできず,本件出願は,改正前44条1項に規定する適法な分割出願であるということができない。
本件審決は,本件訂正後事項を専ら判断の対象として,原出願事項の範囲内に含まれないとしたが,本件訂正後事項についても,本件訂正前事項についてと同様に,原出願明細書に記載のない酵素反応の場について「可及的乾燥」を要件とせず,可及的水分を低下させたものではない基質を用いることを含むものであって,原出願明細書に記載されたものということができないものである。
したがって,本件審決の判断も,その結論においては,これを是認することができるというべきものである。
2取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について前記1によると,本件出願の出願日をその現実の出願日である昭和62年9月26日とした本件審決に誤りはないから,昭和57年1月18日公開の原出願公報(丙2)を引用例として進歩性に関する判断をした本件審決にも誤りはない。
3結論以上の次第であるから,取消事由3(訂正事項6に係る認定判断の誤り)について判断するまでもなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲