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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  国際公開 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10354号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/08/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文


平成21年8月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(行ケ)第10354号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成21年6月10日
判決
原告ブリヂストンスポーツ株式会社
同訴訟代理人弁理士小島隆司
同 重松沙織
同 小林克成
同 石川武史
被告特許庁長官
同 指 定 代 理 人菅野芳男
同 紀本孝
同 長島和子
同 小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005?8270号事件について平成20年8月20日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が特許出願し拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求を
したが,請求不成立の審決をされたことから,その審決の取消を求める事案である。
1特許庁における手続の経緯



原告は,平成12年3月15日,名称を「ツーピースソリッドゴルフボール」と
する発明につき特許出願(特願2000?72898)し,平成16年11月11
日付けで手続補正をした(甲11)が,平成17年3月30日付けで拒絶査定を受
けたため,これを不服として同年5月6日付けで審判請求をするとともに,同年6
月3日付けで手続補正をした(甲12)。これに対し,特許庁は,平成20年5月
9日付けで上記平成17年6月3日付けの手続補正を補正却下するとともに(甲1
5),同日付けで拒絶の理由を通知した(甲14)ところ,原告は,平成20年7
月8日付けで手続補正書(甲13)及び意見書(甲16)を提出した。 特許庁は,
審理の結果,同年8月20日,本件審判請求は成り立たないとの審決をし,同年9
月3日,その謄本を原告に送達した。
2本願の特許請求の範囲
本願の請求項1に係る発明は,平成20年7月8日付けの手続補正書の請求項1
によれば,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。
「ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカバーとを具備すると共に,該カバ
ーの表面に多数のディンプルが形成されてなるツーピースソリッドゴルフボールに
おいて,上記ソリッドコアが,基材ゴム100質量部に対して不飽和脂肪酸の亜鉛
塩20?50質量部,有機過酸化物0.1?5質量部,ペンタクロロチオフェノー
ル亜鉛塩及び硫黄を必須成分として含むゴム組成物を加熱成形して得られたもので
あると共に,上記ソリッドコアのJIS?C硬度が中心と表面との硬度差(ソリッ
ドコア表面?ソリッドコア中心)で20以上あり,上記カバーが厚さ1.3?2m
m,ショアD硬度55以下であると共に,上記カバーの表面と上記ソリッドコア表
面とのJIS?C硬度差(カバー表面?ソリッドコア表面)が0以下であり,上記
ディンプル総数が360?492個であり,ゴルフボール表面にディンプルがない
と仮定した仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面下のディ
ンプル空間体積の全ディンプルの総和をVR(ディンプル体積占有率)とした場合,
0.74≦VR≦0.84(%)の関係を満たすことを特徴とするツーピースソリ



ッドゴルフボール。」
3審決の理由
審決は,本願発明は,特開平10?127823号公報(甲1。以下「引用例
1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。),特開平9?94
311号公報(甲2。以下「引用例2」という。)及び特開平8?322963号
公報(甲3。以下「引用例3」という。)の技術事項,並びに特開平4?1099
70号公報(甲5。以下「周知例1」という。),特開平2?297384号公報
(甲6。以下「周知例2」という。),特開平6?319831号公報(甲8。以
下「周知例3」という。),国際公開98/43709(甲9。以下「周知例4」
という。)に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができた
ものであり,本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものであるとして,
特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。
審決が認定した引用発明等の内容,一致点及び相違点並びに容易想到性の判断内
容は,次のとおりである。
(1) 引用発明の内容
引用例1には,次のような発明(引用発明)が記載されていると認める。
「コアと,該コアを被覆するカバーとを具備すると共に,該カバーの表面に多数のディンプル
が形成されてなるソリッドゴルフボールにおいて,上記コアが,基材ゴム100重量部に対し
て不飽和脂肪酸の亜鉛塩30?40重量部及び有機過酸化物0.1?5重量部を必須成分とし
て含むゴム組成物を加熱,加圧成形して得られたものであると共に,上記コアのJIS?C硬
度が中心と表面との硬度差(コア表面?コア中心)で15以上あり,上記カバーが厚さ1.0
?2.1mm,JIS?C硬度75?95を有し,上記コア表面と上記カバーとのJIS?C
硬度差が10以下であり,上記ディンプル数が330?450個であるソリッドゴルフボー
ル。」
(2) 引用発明と本願発明の一致点
「ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカバーとを具 本願発明と引用発明とは,



備すると共に,該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるツーピースソリッドゴル
フボールにおいて,上記ソリッドコアが,基材ゴム100質量部に対して不飽和脂肪酸の亜鉛
塩30?40質量部及び有機過酸化物0.1?5質量部を必須成分として含むゴム組成物を加
熱成形して得られたものであると共に,上記ソリッドコアのJIS?C硬度が中心と表面との
硬度差(ソリッドコア表面?ソリッドコア中心)で20以上あり,上記カバーが厚さ1.3?
2mmであると共に,上記ディンプル総数が360?450個であるツーピースソリッドゴル
である点で一致する。 フボール。」
(3) 引用発明と本願発明の相違点
ア相違点1
「本願発明ではソリッドコアを得るためのゴム組成物に関して『ペンタクロロチオフェノー
ル亜鉛塩及び硫黄を必須成分として含む』と特定されているのに対し,引用発明ではそのよう
な特定がなされていない点。」
イ相違点2
「本願発明では『カバーのショアD硬度が55以下であると共に,カバーの表面とソリッド
コア表面とのJIS?C硬度差(カバー表面?ソリッドコア表面)が0以下であり,』と特定
されているのに対し,引用発明ではそのような特定がなされていない点。」
ウ相違点3
「本願発明ではゴルフボール表面のディンプルに関して『ゴルフボール表面にディンプルが
ないと仮定した仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面下のディンプル
空間体積の全ディンプルの総和をVR(ディンプル体積占有率)とした場合,0.74≦VR≦
0.84(%)の関係を満たす。』と特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定
がなされていない点。」
(4) 相違点に関する容易想到性の判断
ア相違点1について
「本願の出願前に頒布された刊行物であって,当審の拒絶の理由に引用された特開平9?9
4311号公報(以下,「引用例2」という。)には,以下の〈キ〉乃至〈ク〉の記載がある。



〈キ〉「【請求項1】 コアとカバーを有するゴルフボールにおいて,上記コアがシス?1,
4結合を80モル%以上含むブタジエンゴムを80重量%以上含有する基材ゴム100重量部
に対して,炭酸カルシウム10?30重量部,アクリル酸亜鉛またはメタクリル酸亜鉛18?
35重量部および過酸化物0.5?2.5重量部を含有するゴム組成物の加硫成形体からなり,
上記カバーが曲げ剛性率1400?3800kgf/cm2 の樹脂組成物で形成され,かつカ
バーのディンプル総容積が250?400mm3 であることを特徴とするゴルフボール。」
(段落【請求項1】)
〈ク〉「【0013】加硫(架橋)剤としては,アクリル酸亜鉛またはメタクリル酸亜鉛を
基材ゴム100重量部に対して18?35重量部用いる。アクリル酸亜鉛またはメタクリル酸
亜鉛が基材ゴム100重量部に対して18重量部より少ない場合は,加硫不足になりやすく,
そのため,コアの硬度が低くなって飛距離が出ず,逆にアクリル酸亜鉛またはメタクリル酸亜
鉛が基材ゴム100重量部に対して35重量部より多い場合は,コアが硬くなりすぎて打球感
が著しく低下してしまう。これらのアクリル酸亜鉛やメタクリル酸亜鉛はいずれか一方を使用
してもよいし,また両者を併用してもよいが,アクリル酸亜鉛の方がより高い反発性能が得ら
れるので特に好ましい。また,必要に応じて,加硫調整のため,イオウ(硫黄)またはイオウ
系の加硫剤を基材ゴム100重量部に対して0.1?5重量部の間で配合してもよい。
【0014】加硫開始剤としては,たとえばジクミルパーオキサイド,t?ブチルクミル
パーオキサイド,2,5?ジメチル?2,5?ジ(t?ブチルパーオキシ)ヘキサン,1,1
?ビス(t?ブチルパーオキシ)3,3,5?トリメチルシクロヘキサンなどの過酸化物が用
いられ,特にジクミルパーオキサイドが好ましい。この過酸化物は基材ゴム100重量部に対
して0.5?2.5重量部用いる。過酸化物が基材ゴム100重量部に対して0.5重量部よ
り少ない場合は,加硫が遅かったり,未加硫になりやすく,そのため,コアの硬度が低くなっ
て飛距離が充分に出ず,過酸化物が基材ゴム100重量部に対して2.5重量部より多い場合
は,加硫速度が速すぎたり,加硫が安定せず,その結果,ボールが硬くなりすぎたり,劣化す
るおそれがある。
【0017】そして,コアは上記コア用ゴム組成物を金型で加硫(架橋)成形することに



よって作製される。その時の加硫条件としては,通常,加圧下で145℃?180℃で10?
40分間加熱することが採用される。」(段落【0013】乃至【0014】,【001
7】)
上記摘記事項〈キ〉には,ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカバーとを具備す
るツーピースソリッドゴルフボールにおいて,上記ソリッドコアが,基材ゴムに対して不飽和
脂肪酸の亜鉛塩及び有機過酸化物を必須成分として含むゴム組成物を加硫成形して得られたも
のであることが,加えて同〈ク〉には,当該ゴム組成物にさらに硫黄を配合して加硫成形する
ことが記載されている。
また,ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカバーとを具備するツーピースソリッ
ドゴルフボールにおいて,上記ソリッドコアが,基材ゴムに対して不飽和脂肪酸の亜鉛塩,有
機過酸化物及びペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を必須成分として含むゴム組成物を加硫成
形して得られたものは,本願の出願前に頒布された刊行物であって当審の拒絶の理由に引用さ
れた特開平4?109970号公報実施例1乃至2,本願の出願前に頒布された刊行物であっ
て当審の拒絶の理由に引用された特開平2?297384号公報実施例,並びに本願の出願前
頒布された刊行物である特開平6?319831号公報【0008】及び【0027】【表
6】「本発明コア1乃至5」に記載されている如く,周知の技術事項である。
してみれば,ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカバーとを具備するツーピース
ソリッドゴルフボールにおいて,上記ソリッドコアが,基材ゴムに対して不飽和脂肪酸の亜鉛
塩及び有機過酸化物を含むゴム組成物に硫黄を配合して加硫成形することが引用例2には記載
されていること,及び上記周知の技術事項から,引用発明においてソリッドコアに係るゴム組
成物にペンタクロロチオフェノール亜鉛塩及び硫黄を配合して用いるようになすことは,当業
者が容易に想到し得ることである。
したがって,相違点1に係る本願発明の特定事項は,引用発明並びに引用例2の技術事項
及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に想到し得ることである。」
イ相違点2について
引用例1には,以下の記載がある。



「〈エ〉「【0013】本発明では,コアの硬度が,実質的に中心から表面にかけて直線的
に増加し,中心と表面の硬度差がJIS?C硬度で15以上あることが望ましい。15より小さい
と,打球感が硬くなり過ぎ,またドライバーやロングアイアンでのショット時に吹き上がる弾
道となり飛距離が低下する。コアの表面硬度はJIS?C硬度で,好ましくは75?95,より好
ましくは80?92である。
【0015】次いで,上記コア上には,コアの表面硬度との硬度差がJIS?C硬度で10
以下となるような硬度を有するカバー層を被覆する。10より小さいとコアとカバーの硬度差が
少ないため,ボール打撃時に適度な変形が得られ,打球感が良くなり,適度な打出角(11.3?1
2.8°),スピン(2,200?2,900rpm)が得られる。カバーはソリッドゴルフボールのカバー材と
して通常使用されるアイオノマー樹脂で形成することができ,また少量の他の樹脂を加えても
よい。
【0018】本発明では,カバー厚さ1.0?2.1mm,好ましくは1.2?1.9mmを有し,JIS
?C硬度75?95,好ましくは80?92を有することが望ましい。カバーの厚さが1.0より小さい
とカバーの効果が薄れてしまい,2.1mmを越えるとコアの効果が現れない。JIS?C硬度75
より小さいと軟らか過ぎて反発が悪く飛距離が低下し,95を越えると硬くなり過ぎてコントロ
ール性または打球感が悪くなる。また,カバーの曲げ剛性率が,800?1,800kgf/cm2であるこ
とが望ましい。800kgf/cm2より小さいと,軟らかくなり過ぎて飛距離が低下し打球感が悪くな
る。1,800kgf/cm2を越えると,コントロール性が悪くなり,打球感が硬くなり過ぎる。
【0019】本発明のゴルフボールのカバーのJIS?C硬度75?95は,従来のアイオノ
マー樹脂カバーのJIS?C硬度約100に比べて小さい。カバーが軟らかいと反発が低下する
ため,カバー厚を1.0?2.1mm(従来約2.0?2.3mm)と薄くすることにより,反発の低下を抑え,
フィーリングを向上する。また,このカバー硬度とコア表面硬度との差は,従来は15以上(コ
ア表面硬度70?85)であった。本発明において,コアの表面硬度を上げ,カバーを薄く軟らか
くして,上記硬度差を10以下と小さくすることにより,フィーリングが良好となり,フライト
初期条件が改善されて高い飛行性能を有する。」(段落【0013】,【0015】,【00
18】及び【0019】)



〈オ〉【表1】及び【表2】より,【表3】に記載の実施例1及び実施例3において,カバ
ーとコア表面とのJIS?C硬度差(カバー?コア表面)が?5及び?3(いずれも0以下)
であることが記載されている。」
「引用発明の『カバーのJIS?C硬度75?95』のうち,引用例1【0026】【表
2】のカバーA欄のJIS?C硬度83がショアーD硬度56に等しく,さらに同カバーB欄
のJIS?C硬度87がショアーD硬度59に等しいことを参照するに,引用発明の『少なく
ともカバーのJIS?C硬度75』は,本願発明における『カバーのショアD硬度が55以
下』を満たす蓋然性が高く,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6?319831
号公報【0020】【0024】【表5】記載のカバー材3乃至カバー材6に対応するボール
特性欄のそれぞれの表面硬度(ショアー)D硬度は55以下であることから,前記カバー材3
乃至カバー材6のショアD硬度はいずれも55以下である蓋然性が高い。加えて,国際公開
8?43709号の30頁12乃至14行には「The outer cover layer , such as layer 16,
16 has a shore D hardness of 55 or less ,and more preferably 50 or less .」と,外側
カバーのショアD硬度が55以下であるゴルフボールが記載されている。
以上のことから,ゴルフボールのカバーのショアD硬度を55以下とすることは,周知の
技術事項であるといえる。
また,上記摘記事項〈エ〉には,従来のものより,コアの表面硬度を上げるとともにカバ
ーを軟らかくすること,及び上記摘記事項〈オ〉には,カバーの表面とソリッドコア表面との
JIS?C硬度差(カバー表面?ソリッドコア表面)が?5及び?3(いずれも0以下)であ
ることが記載されている。
してみれば,コアの表面硬度を上げ,カバーを軟らかくして,カバーの表面とソリッドコ
ア表面とのJIS?C硬度差(カバー表面?ソリッドコア表面)が0以下となすことが引用例
1には記載されていること,及び上記周知の技術事項により,引用発明において,カバーのシ
ョアD硬度が55以下であると共に,カバーの表面とソリッドコア表面とのJIS?C硬度差
(カバー表面?ソリッドコア表面)が0以下の関係を満たす構成となすことは,当業者が容易
に想到し得ることである。



したがって,相違点2に係る本願発明の特定事項は,引用発明並びに引用例1の技術事項
及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。」
ウ相違点3について
「本願の出願前に頒布された刊行物であって,当審の拒絶の理由に引用された特開平8?3
22963号公報(以下,「引用例3」という。)には,以下〈ケ〉の記載がある。
〈ケ〉「【請求項1】 球形のソリッドセンターに糸ゴムを巻き付けた糸ゴム球をカバーで
被覆してなる糸巻きゴルフボールにおいて,ソリッドセンターの外径が27?38mm,30
kg荷重時の変形量が1.5?3.5mm,120cmの高さから落下させたときのリバウン
ドが96cm以上であるとともに,ディンプル個数が350?500個,ディンプル体積率が
0.76?0.9%であることを特徴とする糸巻きゴルフボール。」(段落【請求項1】)
上記摘記事項〈ケ〉には,ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカバーとを具備す
ると共に,該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるゴルフボールにおいて,上記
ディンプル総数が350?500個であり,ゴルフボール表面にディンプルがないと仮定した
仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積の全デ
ィンプルの総和をVR(ディンプル体積占有率)とした場合,0.76≦VR≦0.90(%)
の関係を満たすゴルフボールが記載されている。
してみれば,ディンプル総数が350?500個であり,ゴルフボール表面にディンプル
がないと仮定した仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面下のディンプ
ル空間体積の全ディンプルの総和をVR(ディンプル体積占有率)とした場合,0.76≦VR
≦0.90(%)の関係を満たすゴルフボールが引用例3には記載されていることから,これ
を引用発明に適用し,ディンプル総数が360?492個であり,ゴルフボール表面にディン
プルがないと仮定した仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面下のディ
ンプル空間体積の全ディンプルの総和をVR(ディンプル体積占有率)とした場合,0.74
≦VR≦0.84(%)の関係を満たす構成となすことは,当業者が容易に想到し得ることで
ある。
したがって,相違点3に係る本願発明の特定事項は,引用発明及び引用例3の技術事項に



基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
上記のように,相違点1乃至相違点3に係る本願発明の発明特定事項は,それぞれ引用発明
並びに引用例1乃至3の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であ
り,これらの発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る
程度のものである。」
第3原告主張の取消事由
審決における引用発明の認定並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点の
認定については争わないが,審決は,相違点の判断を誤っており,取り消されるべ
きである。
1相違点1の判断の誤り(取消事由1)
審決は,相違点1について,引用例2並びに周知例1ないし3を含む周知技術
項によれば,引用発明においてソリッドコアに係るゴム組成物にペンタクロロチオ
フェノール亜鉛塩及び硫黄を配合して用いるようにすることは当業者が容易に想到
し得た旨判断しているが,次のとおり,誤りである。
(1) 本願発明は,コアの外表面から中心まで加硫が進行するスピードを遅らせる
ように調整するため,硫黄を配合するものである。すなわち,コアの中心付近の硬
度を低めに抑えることを目的として硫黄を配合する。
(2) また,本願発明では,相違点2のとおり,カバーをショアD硬度55以下と
通常のカバーよりも軟らかく設定するので,これもボールの反発性を低下させる方
向にある。
(3) このように,硫黄を単に添加すること及びカバーを低硬度にすることはボー
ルの初速を低下させる方向にあることから,本願発明は,ボールの初速をゴルフ規
則の初速ルールの制限ぎりぎりまで上げるのに必要な高反発なコアを得るためにペ
ンタクロロチオフェノール亜鉛塩をゴム配合に添加したものである。つまり,本願
発明のコア配合は,硫黄が必須成分として必要であると共に,硫黄の配合によるコ
アの低反発化を抑止するため,またはコア反発を高めるために「ペンタクロロチオ



フェノール亜鉛塩」を配合するものである。
(4) そして,この硫黄とペンタクロロチオフェノール亜鉛塩との配合の意義は,
本願当初明細書(甲10)の表1及び表2の記載(別表1の表1及び表2。ただし,
いずれも平成16年11月11日の手続補正書(甲11)により補正されたもの)
及び平成20年7月8日付けの意見書(甲16)3頁の表?Tの記載(別表2の表
?T)から認められるものである。
(5) これに対し,引用例1は有機過酸化物を単独で用い,引用例2も有機過酸化
物と硫黄を用いて,それぞれ架橋したコアの反発性の点で問題があったため,カバ
ーとして「硬いカバー」を用いることで飛距離を確保しているのであって,カバー
が軟らかい本願発明とは異なる。
(6) また,引用発明にはコア配合として硫黄を配合することについては何らの示
唆もない。
(7) さらに,引用例2(5頁,表1,2の実施例)は,コア用ゴム組成物配合に
おいて,加硫調製剤として商品名「ノクラックスNS?6」(大内新興化学工業株
式会社製)を使用しているが,これは,ゴルフボール用ゴム組成物中に老化防止剤
として汎用されているものであり,本願発明に使用される硫黄とは全く異なる物質
である。したがって,「ノクラックスNS?6」を単独で使用しても本願発明の目
的とするスピン性能と高反発性とを両立させたコアを得ることはできない。
(8) そして,周知例1ないし3には,コアの反発性を上げるためにペンタクロロ
チオフェノール亜鉛塩を用いることが示されているが,本願発明は,上記のとおり,
カバー自体が比較的軟らかく設定され,そのカバーに対応するコアを設計するため
に,そのゴム組成物として「硫黄」と「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」とを
併用しているものである。したがって,その前提となるコア配合に硫黄を配合する
ことを引用発明が示唆していない以上,周知例1ないし3の技術事項を踏まえても,
引用発明記載のゴム組成物に「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」を配合して本
願発明のような反発性等を有するコアを構成することは当業者であっても予測し難



いというべきである。
(9) 特に,ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩は,有機硫黄化合物に含まれるも
のである(周知例1,2)から,このようなペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を
わざわざ硫黄に併用するようなことは,通常,当業者において考えられることでは
ない。
(10)以上のとおり,コア配合中に「硫黄」と「ペンタクロロチオフェノール亜
鉛塩」とを併用する必要性について,引用例2と周知例1ないし3とを併せても本
願発明のコアの構成に想到することは困難である。
2相違点2の判断の誤り(取消事由2)
審決は,引用発明並びに周知例3及び4に記載された周知の技術事項により,引
用発明において,カバーのショアD硬度が55以下であるとともに,カバーの表面
とソリッドコア表面とのJIS?C硬度差(カバー表面?ソリッドコア表面)が0
以下の関係を満たす構成とすることは当業者が容易に想到し得る旨判断するが,次
のとおり,誤りである。
(1) 証拠(甲17ないし31)に示されるように,カバー硬度としては,本願発
明のショアD硬度55以下よりも大幅に高いショアD硬度60以上のものが用いら
れていたことがよく知られていた。すなわち,ツーピースソリッドゴルフボールの
発明に関する多数の先行技術には,カバー硬度が少なくともショアD硬度で60を
有する比較的硬いアイオノマー製のカバーが用いられていた。これは,コアと1層
カバーとが密接不可分であるツーピースソリッドゴルフボールでは,従来技術の多
数が,通常のコア配合によりコアを作製し,カバーを硬く設計したものであり,こ
のボール構造によりボール全体の反発性を高めようしたものである。つまり,カバ
ーを硬くしなければ,ボール反発性が高まらないことが従来からの技術常識であり,
上述した多数の先行技術実施例に示されたツーピースソリッドゴルフボールは,
本願発明のように,「上記カバーの表面と上記ソリッドコア表面とのJIS?C硬
度差(カバー表面?ソリッドコア表面)が0以下であり,上記カバーのショアD硬



度55以下である」とする軟らかいカバーを具備することにより,ボールスピンを
重視しながら十分な飛距離を与えるいわゆるスピンタイプのツーピースソリッドゴ
ルフボールを付与することを設計の基礎としていないのである。
(2) 引用例1のカバーについては,カバーのショアD硬度が56又は59であり,
本願発明のようにカバー自体の硬度がショアD硬度で55以下に設定されていない。
また,引用例1では,硬いカバーを用い,その硬いカバーに対応したコアを作製す
るために,従来汎用されている通常のコア配合を構成するものであるが,上記のと
おり,本願発明で用いられるカバーは,カバー自体が従来の周知技術よりも十分に
軟らかく,かつ,コア表面よりも軟らかく設定されるものであり,そのカバーに対
応した特異なコア及びコア配合により調製されるものである。
(3) 引用例1では,カバー硬度はJIS?C硬度で83以下(ショアD硬度で5
6以下。甲33)にすることが許容されているが,カバー硬度をJIS?C硬度で
75(ショアD硬度で49)にすることは,カバー硬度が引用例1の実施例1にあ
るカバー硬度よりかなり小さくなり,カバー硬度?コア表面硬度の値がより小さく
なることから,飛距離がかなり低下し,比較例レベルの飛距離になるものとさえ予
測される。
(4) 引用例1の実施例の記載からすれば,当業者にとって,カバー硬度をJIS
?C硬度で83(ショアD硬度で56)より小さくすることは採用し難いと考えら
れ,いずれにしても,引用例1においては,その請求項で規定された以上に,カバ
ー低硬度のゴルフボールの飛距離を増大させる手段を教示することはないというべ
きである。
3相違点3の判断の誤り(取消事由3)
審決は,引用例3を引用発明に適用すれば,相違点3に記載されている関係を満
たすディンプルの構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである旨判断
するが,次のとおり,誤りである。
(1) 引用例3記載のゴルフボールは糸巻きゴルフボールに関する発明であり,本



願発明のようなコア及びカバーを有するツーピースソリッドゴルフボールとはボー
ル構造が本質的に相違し,その結果,その弾道も相違するものである。したがって,
糸巻きゴルフボールとは弾道が相違するツーピースソリッドゴルフボールに,引用
例3のディンプル要件が適用されたとしても,これによって同様の飛距離増大効果
が当然に達成されるとはいえない。すなわち,引用例3に記載された所定範囲のデ
ィンプル個数及びディンプル空間体積を糸巻きゴルフボールの構成から切り離し,
これを,引用例1の実施例等に記載されたツーピースソリッドゴルフボールのカバ
ー表面に適用したとしても優れた飛距離が得られるという効果は予測し難いもので
ある。
(2) 本願発明のコア及びカバー要件を備えたカバー低硬度のゴルフボールにおい
て,本願発明のディンプル要件を満たすことにより,飛距離増大を果たすという本
願発明の技術的思想は,引用例1及び2に記載はなく,また自明でもない。引用例
3にはディンプル個数及びディンプル体積率が規定されているが,その実施例1,
6及び7はいずれもカバー硬度がショアD硬度64のものであって低硬度カバーを
用いるものではなく,実施例2,3及び5は二層カバーであって,内層カバーの硬
度はショアD硬度47と低いものであるが,外層カバーの硬度はショアD硬度64
であるからこれも低硬度カバーを用いるものではない。実施例4は,外層カバーと
してショアD硬度が51という低硬度のものを用いているが,かなり反発性の高い
ものを使用しており,これにより飛び性能を維持しているものと認められる。
これに対し,本願発明は,カバー硬度低下による飛距離の低下を,ペンタクロロ
チオフェノール亜鉛塩を用いて形成したコアを用いるとともに,ディンプルに関す
る特定により,飛距離を増大する効果を与えたものであって,かかる本願発明の効
果は引用例3からは予測し難いものである。また,本願発明において,ディンプル
個数の要件及びディンプル体積占有率VRの要件の一方のみが満たされているだけ
では十分な飛距離の確保を図ることはできず,その両要件を兼ね備えていることが
必要であるところ,引用例3の上記技術事項を引用発明のツーピースソリッドゴル



フボールに適用し,ディンプル個数を本願発明の数値範囲内に絞り,さらに加えて,
ディンプル体積率を「0.76?0.9%」から本願発明の範囲「0.74≦VR
≦0.84」に選択したとすることにより,優れた飛距離が得られるという効果は
予測し難いものである。
第4被告の反論
審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1相違点1の判断の誤り(取消事由1)に対して
(1) 本願明細書の記載からは,基材ゴムに対して不飽和脂肪酸の亜鉛塩及び有機
過酸化物からなるコア配合に「硫黄」及び「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」
を配合した本願発明が,該コア配合に「硫黄」のみ配合したもの又は該コア配合に
「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」のみ配合したものに比べ,格別顕著な効果
を奏することは明らかでない。
この点,原告は,ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩と硫黄とを併用することの
技術的意義実施例と比較例との対比をもって理解できると主張するが,別表1及
び2記載の実施例3ないし5と比較例3,比較例aないしdとを対比してみるに,
比較例aないしd,比較例3と実施例3ないし5とは,ペンタクロロチオフェノー
ル亜鉛塩及び硫黄を配合するかどうか以外の部分で同1条件により製造されたもの
でないから,両者を対比することはできないというべきであり,原告の主張は前提
において失当である。
また,原告は,別表1及び2記載の比較例cと実施例5との対比から,硫黄にペ
ンタクロロチオフェノール亜鉛塩を配合する効果が明らかとなると主張するが,同
様に,原告の主張は失当である。
してみれば,引用発明のゴム組成において,コア反発を高めるために「ペンタク
ロロチオフェノール亜鉛塩」を配合することは周知例1及び2の記載により当業者
が容易に予測できた程度のことであり,その前提となるコア配合に硫黄を配合する
ことを引用発明が全く示唆していなくとも,引用例2の技術事項並びに周知例1な



いし3の周知技術をもってすれば,本願発明のコアの配合は,当業者が容易に行う
ことができるものである。
(2) また,引用例2には,ソリッドコアが,基材ゴムに対して不飽和脂肪酸の亜
鉛塩,有機過酸化物及び硫黄を必須成分として含むゴム組成物を加硫成形して得ら
れたものであることが記載されている(前記第2の3(4) ア記載の審決摘記事項<
キ>,<ク>)。実施例の記載のみをもって,引用例2には硫黄を併用することが記
載されていないとはいえない。
(3) 前記第3の1(5) において原告が主張する「硬いカバー」の定義は不明であ
るが,「硬いカバー」とはカバーのショアD硬度が55を超えるカバーと,また
「軟らかいカバー」とはカバーのショアD硬度が55以下のカバーを意味するもの
と善解しても,特開平11?151320号公報(乙3。以下「周知例5」とい
う。)の段落【0044】表3比較例1には,JIS?C硬度75がショアD硬度
45に相当する旨の記載があるから,引用発明の「カバーのJIS?C硬度75?
95」のうち「カバーのJIS?C硬度75」の部分は,本願発明における「カバ
ーのショアD硬度45」に相当する。してみれば,引用発明には,軟らかいカバー
を具備したツーピースソリッドゴルフボールと硬いカバーを具備したツーピースソ
リッドゴルフボールの両方が含まれることは明らかである。また,特開平1?30
8577号公報(乙4)の8頁第1表によれば,「サーリンAD8265」及び
「サーリンAD8269」はそれぞれショアD硬度39及びショアD硬度25であ
るから,引用例2には,ショアD硬度55以下の軟らかいカバーが含まれることに
なる。そうすると,引用例2は,カバーとして硬いカバー及び軟らかいカバーが含
まれることになることも明らかであるから,原告の主張は失当である。
(4) 周知例1及び2は,カバーの硬度についての記載がないことから,カバーと
して硬いカバー及び軟らかいカバーを用いるものといえ,また周知例3は,カバー
として硬いカバー及び軟らかいカバーを用いるものといえる。周知例1ないし3は,
カバーとして硬いカバー及び軟らかいカバーを用いる点で共通する。すると,引用



発明と周知例1ないし3とは,「ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆する硬い
カバー及び軟らかいカバーとを具備するツーピースソリッドゴルフボールにおいて,
上記ソリッドコアが,基材ゴムに対して不飽和脂肪酸の亜鉛塩及び有機過酸化物を
必須成分として含むゴム組成物を加硫成形して得られたものである」点で一致する
から,周知例1ないし3の記載に基づく周知技術を引用発明に適用し容易想到とし
た審決の判断に誤りはない。
(5) 以上要するに,引用発明並びに引用例2及び周知例1ないし3とは,「ソリ
ッドコアと,該ソリッドコアを被覆する硬いカバー及び軟らかいカバーとを具備す
るツーピースソリッドゴルフボールにおいて,上記ソリッドコアが,基材ゴムに対
して不飽和脂肪酸の亜鉛塩及び有機過酸化物を必須成分として含むゴム組成物を加
硫成形して得られたものである」点で一致するところ,引用発明の実施例1及び3
には,「カバーの表面とソリッドコア表面とのJIS?C硬度差(カバー表面?ソ
リッドコア表面)が0以下」の関係を満たすものが記載されており,加えて,「カ
バーのショアD硬度が55以下」の軟らかいカバーも記載されている。したがって,
原告の主張は失当である。
2相違点2の判断の誤り(取消事由2)に対して
 甲17ないし31の各刊行物は,周知例2に係る特許出願の出願当時におけ
る文献であって,引用例1ないし3並びに周知例1ないし3に直接記載されている
文献ではなく,それらの刊行物とは全く無関係の周知例2の出願当時における従来
例及び従来技術に相当する文献である。したがって,甲17ないし31をもってし
ても,出願当時,カバー硬度としては,本願発明のショアD硬度55以下よりも大
幅に高いショアD硬度60以上のものが用いられていたことがよく知られていたと
いう原告の主張には根拠がない。
 前記1(3) のとおり,引用発明には,ショアD硬度が55以下を満たす軟ら
かいカバーを具備したツーピースソリッドゴルフボールが含まれる。引用発明には
カバーのショアD硬度が55以下についての記載はないとする原告の主張,及び引



用例1も従来技術と同様,比較的硬いカバーをコアに被覆することにより,ボール
反発性を高め,飛距離を増大させるものであるとの主張,引用例1では硬いカバー
を用いるため,その硬いカバーに対応したコアを作成するために従来汎用されてい
る通常のコア配合を構成するものであるとの原告の主張は,いずれも失当である。
3相違点3の判断の誤り(取消事由3)に対して
(1) 引用例3に記載された糸巻きゴルフボールは,その請求項1並びに段落【0
020】ないし【0021】及び【0035】実施例4をそれぞれ参酌するに,ソ
リッドセンターに糸ゴムを巻き付けたコアをディンプルが形成されたカバーで被覆
したものであるのに対し,本願発明のツーピースソリッドゴルフボールは,ソリッ
ドコアをディンプルが形成されたカバーで被覆したものである。してみれば,糸巻
きゴルフボールとツーピースソリッドゴルフボールとはコアをディンプルが形成さ
れたカバーで被覆した点で一致し,この限りにおいて,両者のゴルフボール構造に
本質的な相違はない。
(2) また,引用例3に記載された糸巻きゴルフボールと引用例1に記載された引
用発明はいずれもスピンタイプのゴルフボールであって,飛距離が低下する問題点
を有する点で共通するところ,引用例3に記載された糸巻きゴルフボールは,「デ
ィンプル総数が350?500個であり,ゴルフボール表面にディンプルがないと
仮定した仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面下のディン
プル空間体積の全ディンプルの総和をVR(ディンプル体積占有率)とした場合,
0.76≦VR≦0.90(%)の関係を満たす」構成を有するし,引用発明には
「軟らかいカバー」を具備したツーピースソリッドゴルフボールが含まれている。
したがって,飛距離の増大を図るべく,引用例3に記載の構成を適用するに際し,
予め弾道実験等を行うことにより,ディンプル個数を本願の数値範囲に絞り,ディ
ンプル総数を360ないし492個に,さらに加えて,0.74≦VR≦0.84
(%)の関係を満たす構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
第5当裁判所の判断



1相違点1の判断の誤り(取消事由1)について
(1) 本願発明の内容
証拠(甲10,13)によれば,本願明細書の記載の概要は次のとおりである。
なお,段落【0008】及び【0013】については,平成20年7月8日付け手
続補正書(甲13)の記載によるものである。
「【発明の属する技術分野】本発明は,ソリッドコアにカバーを被覆形成してな
るツーピースソリッドゴルフボールに関し,更に詳述すると,アプローチショット
及びショートアイアン打撃時におけるスピン量が多くコントロール性に優れ,ドラ
イバー打撃による飛距離の向上を図ることができ,ドライバー,アプローチ,アイ
アン,パターのいずれのショット時の打感も良好で,特に,上級者が求める優れた
コントロール性が付与されたツーピースソリッドゴルフボールに関する。」(段落
【0001】)
「【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来より,ツーピースソリッ
ドゴルフボールに対しては,様々な改良が行なれている。ボールに対するプレイヤ
ーの要求としては,優れた飛距離性能,コントロール性,打感等が挙げられ,一般
に飛距離性能が重視されているが,上級者においては,飛距離よりもコントロール
性を重視する傾向がある。」(段落【0002】)
「一方,ゴルフボールに対して,飛距離性能,コントロール性の改良に関する数
多くの提案が行われており,例えば,特開平10?127823号公報には,カバ
ーの厚さ及びJIS?C硬度と,ソリッドコア材を特定すると共に,ソリッドコア
とカバーとの硬度差を少なくし,飛行特性,コントロール性,打球感の向上を図る
提案,特開平11?290479号公報には,コアの硬度分布及びたわみ量(変形
量),カバーのゲージに着目し,飛び,打感,コントロール性の改良に取り組んだ
提案がそれぞれ開示されている。」(段落【0003】)
「しかしながら,これら提案は,いずれも飛距離の増大化を最重視しているため,
カバーが硬めで,上級者が使用する際,アプローチショット等でのスピンがかかり



にくく,コントロール性に改良の余地を残すものである。」(段落【0004】)
「本発明は上記事情に鑑みなされたもので,アプローチショット及びショートアイ
アン打撃時におけるスピン量が多くコントロール性に優れ,ドライバー打撃による
飛距離の向上を図ることができ,ドライバー,アプローチ,アイアン,パターのい
ずれのショット時の打感も良好で,特に,上級者が求めるコントロール性が付与さ
れたツーピースソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。」(段落【0
005】)
「【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者は,上記目的を達
成するため鋭意検討を行ない,ソリッドコアとカバーとを被覆してなるゴルフボー
ルについて,特に上級者がコントロール性を満足できるスピン性能を有するゴルフ
ボールを得るべく,更に検討を行なった。」(段落【0006】)
「その結果,上記ソリッドコアのJIS?C硬度について,中心と表面とのJIS
?C硬度差(ソリッドコア表面?ソリッドコア中心)を20以上とし,上記カバー
の厚さを1.3?2mm,ショアD硬度を55以下にすると共に,該カバーの表面
JIS?C硬度と上記ソリッドコアの表面JIS?C硬度との差(カバー表面?ソ
リッドコア表面)を0以下とし,かつ,上記ディンプル総数を360?492個,
ゴルフボール表面にディンプルがないと仮定した仮想球の体積に対する各ディンプ
ル縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積の全ディンプルの総和をVR
(ディンプル体積占有率)とした場合,0.74≦VR≦0.84(%)の関係を
満たすツーピースソリッドゴルフボールを得たところ,意外にもソリッドコア,カ
バーの各構造のみならず,ボール全体の硬度バランスが適正化され,アプローチシ
ョット及びショートアイアン打撃時におけるスピン量が多くコントロール性に優れ,
ドライバー打撃時にドロップ気味になったり,吹け上がったりすることのない確か
な弾道と飛距離の向上を図ることができ,ドライバー,アプローチ,アイアン,パ
ターのいずれのショット時の打感も良好な優れた性質を有するソリッドゴルフボー
ルであることを知見すると共に,特にコントロール性を重視する上級者用として好



適に使用できることを知見し,本発明をなすに至ったものである。」(段落【00
07】)
「従って,本発明は下記のゴルフボールを提供する。
〔請求項1〕ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカバーとを具備すると
共に,該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるツーピースソリッドゴ
ルフボールにおいて,上記ソリッドコアが,基材ゴム100質量部に対して不飽和
脂肪酸の亜鉛塩20?50質量部,有機過酸化物0.1?5質量部,ペンタクロロ
チオフェノール亜鉛塩及び硫黄を必須成分として含むゴム組成物を加熱成形して得
られたものであると共に,上記ソリッドコアのJIS?C硬度が中心と表面との硬
度差(ソリッドコア表面?ソリッドコア中心)で20以上あり,上記カバーが厚さ
1.3?2mm,ショアD硬度55以下であると共に,上記カバーの表面と上記ソ
リッドコア表面とのJIS?C硬度差(カバー表面?ソリッドコア表面)が0以下
であり,上記ディンプル総数が360?492個であり,ゴルフボール表面にディ
ンプルがないと仮定した仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる
平面下のディンプル空間体積の全ディンプルの総和をVR(ディンプル体積占有
率)とした場合,0.74≦VR≦0.84(%)の関係を満たすことを特徴とす
るツーピースソリッドゴルフボール。
〔請求項2〕ソリッドコアの中心JIS?C硬度が65以下である請求項1記載の
ツーピースソリッドゴルフボール。
〔請求項3〕上記カバーの表面とソリッドコア表面とのJIS?C硬度差が?7.
9??17の範囲である請求項1又は2記載のツーピースソリッドゴルフボー
ル。」(段落【0008】)
「以下,本発明について更に詳しく説明すると,本発明のツーピースソリッドゴル
フボールは,例えば,図1に示されるように,ソリッドコア1とカバー2とを具備
してなるツーピースソリッドゴルフボール3である。」(段落【0009】)
「ここで,本発明のソリッドコア1は,公知のゴム組成物を使用して形成するこ



とができる。この場合,組成物中の基材ゴムとしては,ポリブタジエンが好ましく,
特に,シス構造を少なくとも40%以上有する1,4?シスポリブタジエンの使用
が推奨される。なお,この基材ゴム中には,更に天然ゴム,ポリイソプレンゴム,
スチレンブタジエンゴムなどを併用配合することもできる。」(段落【001
0】)
「上記ゴム組成物中には,架橋剤としてメタクリル酸亜鉛,アクリル酸亜鉛等の
不飽和脂肪酸の亜鉛塩,マグネシウム塩やトリメチロールプロパントリメタクリレ
ート等のエステル化合物を配合し得るが,特に反発性の高さからアクリル酸亜鉛を
好適に使用し得る。これら架橋剤の配合量は,上記基材ゴム100質量部に対し2
0質量部以上50質量部以下とすることができる。」(段落【0011】)
「上記ゴム組成物中には,有機過酸化物を配合することができ,例えば,1,1?
ビス?t?ブチルパーオキシ?3,3,5?トリメチルシクロヘキサン,ジクミル
パーオキサイド,ジ(t?ブチルパーオキシ)?メタ?ジイソプロピルベンゼン,
2,5?ジメチル?2,5?ジ?t?ブチルパーオキシヘキサン等が挙げられる。
このような市販品としては,パークミルD(日本油脂製),トリゴノックス29?
40(化薬アクゾ(株)製)等を挙げることができる。これら,有機過酸化物の配
合量は,基材ゴム100質量部に対し,通常0.1質量部以上,特に0.5質量部
以上,上限として5質量部以下,特に2質量部以下とすることができる。」(段落
【0012】)
「上記組成物中には硫黄及びペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を配合し,必要
に応じて各種添加剤を配合することができ,例えば,老化防止剤,酸化亜鉛,硫酸
バリウム,ステアリン酸亜鉛等を配合することができる。これら添加剤の配合量は,
特に制限されるものではない。」(段落【0013】)
「本発明において,ソリッドコアの中心と表面とのJIS?C硬度差(ソリッド
コア表面?ソリッドコア中心)は,20以上,特に22以上であることが必要であ
る。JIS?C硬度差が少ないと,スピン量が多くなりすぎて飛距離性能を低下さ



せてしまう。なお,JIS?C硬度差は上限として30以下,特に26以下とする
ことが好ましい。JIS?C硬度差が大きすぎると,コア(ボール)の反発性が低
下する傾向があると共に,繰り返し打撃耐久性が悪くなる場合がある。」(段落
【0018】)
「本発明において,上記カバーは,厚さが1.3mm以上,特に1.5mm以上,
上限として2mm以下,特に1.9mm以下であることが必要で,カバーが薄いと,
ドライバー打撃時にスピン量が多くなりすぎて,飛距離が低下する傾向にあり,厚
いとボールとしての反発性が悪くなってしまう。」(段落【0023】)
「また,本発明のカバーは,ショアD硬度が55以下,特に53以下であること
が必要で,高いと打感が硬く感じられると共に,アプローチショットやショートア
イアン打撃時のスピン量が不足する。また,カバーのショアD硬度の下限としては
40以上,特に45以上であることが推奨され,ショアD硬度が低いと,反発性が
低下すると共にドライバー打撃時のスピン量が増えすぎて,飛距離が低下する場合
がある。」(段落【0024】)
「本発明において,上記カバーのJIS?C硬度は,ソリッドコアのJIS?C
硬度との硬度差(カバー表面硬度?ソリッドコア表面硬度)が0以下,特に?5以
下になるように調整されることが必要で,硬度差が0を超えると,ドライバー打撃
時のスピン量が少なくなり,ドロップ気味の弾道となり,飛距離(特にキャリー)
が低下する。なお,下限として?17以上,特に?12以上にすることがドライバ
ー打撃時のスピン量が増えすぎて吹け上がって飛ばなくなることを抑える点から好
ましい。」(段落【0025】)
「本発明のツーピースソリッドゴルフボールは,カバー表面に多数のディンプル
を具備してなるものであるが,本発明においてこれらディンプルは,総数とディン
プル体積占有率VRとが適正化される必要がある。」(段落【0027】)
「ここで,本発明のディンプル総数は,通常360個以上,好ましくは370個
以上,更に好ましくは392個以上,上限として492個以下,好ましくは452



個以下,更に好ましくは432個以下にすることが推奨され,ディンプル総数が少
ないと,最適な揚力が得られず飛ばなくなり,またディンプル総数が多いと,弾道
が低すぎて十分な飛距離を出せない。」(段落【0028】)
「また,本発明のディンプルの体積占有率VRは,ゴルフボール表面にディンプ
ルがないと仮定した仮想球の体積に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面
下のディンプル空間体積Vpの全ディンプルの総和VR(%)を意味する。本発明の
ゴルフボールは,上記ディンプル総数と併せたVRの適正化による相乗効果で優れ
た飛距離性能を付与できる。」(段落【0029】)
「本発明のディンプルの体積占有率VRは,通常0.74(%)以上,特に0.
75(%)以上,上限として0.84(%)以下,特に0.83(%)以下にする。
VRが少ないと,ボールがふけて飛ばなくなり,VRが多いと,弾道が低すぎてキャ
リーが落ちる。」(段落【0035】)
「本発明のゴルフボールは,ディンプル総数と体積占有率VR(%)とを適正化
することによる相乗効果により,確実な飛距離性能が付与されるものであるが,こ
の場合,ディンプルをより最適化するために,ディンプル表面占有率SR(ディン
プルがないと仮定したときのボール球面積に対するディンプル部分の総和面積の割
合を%で示したもの)を68%以上,好ましくは70%以上,更に好ましくは72
%以上,上限として82%以下,好ましくは80%以下,更に好ましくは79%以
下とすることにより,更に適正な揚抗力のバランスを得ることができる。」(段落
【0036】)
「【発明の効果】本発明のツーピースソリッドゴルフボールは,ゴルフ競技にお
けるあらゆるシーンに好適に対応し得,ドライバーショットにおいては,ドロップ
気味になったり,吹け上がったりすることのない確かな弾道を得ることができ,飛
距離の増大化を図ることができ,また,アプローチショット及びショートアイアン
ショットにおいては,スピン量が増大し,優れたコントロール性が発揮され,ドラ
イバー,アプローチ,アイアン,パターショットのいずれにおいても良好な打感を



得ることができ,特に上級者が満足するスピン量を得ることができるものであ
る。」(段落【0040】)
「[実施例I,比較例I]表1に示した組成のコア配合のゴム組成物をそれぞれ専
用の金型内に導入し,同表に示す加硫条件を採用してソリッドコアを製造した。得
られたソリッドコアの中心及び表面JIS?C硬度を測定した。結果を表1(別表
1の表1。ただし,平成16年11月11日の手続補正書により補正されたもの)
に併記する。」(段落【0042】)
「得られたゴルフボールに対して,諸特性を評価した。結果を表1,表2(別表1
の表2。ただし,平成16年11月11日の手続補正書により補正されたもの)に
併記する。」(段落【0045】)
「[実施例II,比較例II]ディンプルについて,総数とディンプル体積占有
率VRを代えた以外には,実施例3のゴルフボールのコア組成物及びカバー材料と
同様の材料を使用し,実施例3とディンプル以外は同一構造のツーピースソリッド
ゴルフボールを製造した。」(段落【0050】)
「得られたゴルフボールに対し,上記実施例Iと比較例Iと同様のスイングロボ
ットを用い,ドライバー(W#1)でヘッドスピード45m/sで打撃し,キャリ
ー及びトータル飛距離を測定した。結果を表3(別表1の表3)に併記する。」
(段落【0051】)
(2) 引用例2及び周知例1ないし3の記載内容
ア証拠(甲2)によれば,引用例2には,前記第2の3(4) ア記載のとおりの
記載があり,その請求項1,段落【0013】,【0014】及び【0017】の
各記載からすれば,引用例2には,ソリッドコアと,該ソリッドコアを被覆するカ
バーとを具備し,上記ソリッドコアが,基材ゴムに対して不飽和脂肪酸の亜鉛塩及
び有機過酸化物を必須成分として含むゴム組成物を加硫成形して得られたツーピー
スソリッドゴルフボールにおいて,加硫調整のため,イオウ(硫黄)またはイオウ
系の加硫剤を基材ゴムに対して配合することが記載されていると認められる。



イ証拠(甲5)によれば,周知例1には,次のような記載がある。
「ツーピースゴルフボールは,打撃時のフィーリングが糸捲きゴルフボールに比べ
て著しく硬いという欠点を持っている。この欠点は,一部非力の人や女性に打ち難
いという印象を与えるため,その改良が望まれていた。
打撃時のフィーリングを良くするためには,コアの硬度を低く,柔らかくするこ
とが考えられるが,上述した従来の基材ゴム/不飽和カルボン酸金属塩/過酸化物
系のコア組成物では,硬度を低くすると,ボール打撃時の反発性又は初速が低下し,
フィーリングは改良されるものの,飛距離が十分得られないという問題があり,十
分な反発性又は初速を維持しながら,コア硬度,ひいてはボール硬度を低下させて,
良好な打撃フィーリングを与えるツーピースゴルフボールを得ることは困難であっ
た。
本発明は,上記事情に鑑みなされたもので,十分なボール反発性及び飛び性能を
維持しながら,打撃フィーリングを改良した多層ソリッドゴルフボールを提供する
ことを目的とする。」(2頁左上欄1行ないし同欄末行)
「課題を解決するための手段及び作用
発明者は,ポリブタジエンゴム等の基材ゴムに共架橋剤として不飽和カルボン
酸の金属塩を配合したゴム組成物に対し,有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機
硫黄化合物を添加することにより,これを加硫して得られるゴム弾性体の反発弾性
が向上すること,またこのゴム組成物を用いて多層構造ソリッドゴルフボールの芯
球を形成することにより,ボール打撃時の初速度が向上し,優れた飛び性能を示
す」(2頁右上欄1行ないし同欄10行)
「上記不飽和カルボン酸の金属塩は共架橋剤として配合されるもので,その具体
例としては,アクリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,フマル酸等の炭素原子数3
?8の不飽和脂肪酸の亜鉛塩やマグネシウム塩などが例示されているが,特にアク
リル酸又はメタクリル酸の亜鉛塩が好適に使用される。」(2頁右下欄下から7行
ないし最下行)



「本発明のソリッドゴルフボールの製造に用いられるゴム組成物は,上記基材ゴ
ム,共架橋剤に加えて有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物を配合し
たものである。ここで,有機硫黄化合物としては,ペンタクロロチオフェノール,
4?t?ブチルチオフェノール,2?ペンズアミドチオフェノール等のチオフェノ
ール類,チオ安息香酸等のチオカルボン酸類,ジキシリルジスルフィド,ジ(o?
ベンズアミドフェニル)ジスルフィド,アルキル化フェノールスルフィド等のスル
フィド類などが好適に用いられ,また金属含有有機硫黄化合物としては,上記チオ
フェノール類,チオカルボン酸類の亜鉛塩などが好ましく使用される。これらは1
種を単独で使用しても,2種以上を組み合わせて使用してもよい。」(3頁左上欄
下から5行ないし同右上欄10行)
「上記ゴム組成物には,共架橋開始剤を配合することができる。この場合,共架
橋開始剤としては,過酸化物系のもの,例えばジクミルパーオキサイドや1,1?
ビス(t?ブチルパーオキシ)?3,3,5?トリメチルシクロヘキサン等の有機
過酸化物が好適に使用されるが,中でもジクミルパーオキサイドが特に好ましく用
いられる。」(3頁右上欄下から7行ないし最下行)
「更に,このゴム組成物中には,酸化亜鉛,老化防止剤,重量調整剤としての硫
酸バリウム,その他多層構造ソリッドゴルフボールの芯球の製造に通常使用しうる
成分を必要により適宜配合することができる。」(3頁左下欄3行ないし7行)
「発明の効果
本発明の多層ソリッドゴルフボールは,上述した配合組成で形成したコアを用い,
且つこのコアの撓み量を特定範囲に規制したことにより,低硬度化し,打撃フィー
リングを向上させることができる。一方,このような低硬度化に伴う反発係数の低
下が有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物の配合によって抑制される
ので,低硬度でありながら良好な反発性及び飛び性能を維持するものである。」
(3頁右下欄10行ないし同欄下から2行)
以上の記載によれば,周知例1には,ツーピースゴルフボールを含む多層ソリッ



ドゴルフボールにおいて,十分なボール反発性及び飛び性能を維持しながら打撃フ
ィーリングを改良するために,コアを一定範囲に低硬度化することによって打撃フ
ィーリングを向上させる一方,ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を好適とする金
属含有有機硫黄化合物等を配合することによって,上記のような低硬度化に伴う反
発係数の低下を抑制し,その結果,低硬度でありながら良好な反発性及び飛び性能
を維持したゴルフボールに関する発明が記載されていると認められる。
ウ証拠(甲6)によれば,周知例2には,次のような記載がある。
「ワンピースゴルフボール又はカバー材で直接もしくは中間層を介して被覆した
多層構造ゴルフボールの芯球を,基材ゴムと,不飽和カルボン酸の金属塩と,有機
硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物とを含有するゴム組成物で形成した
ことを特徴とするソリッドゴルフボール」(請求項1)
「ゴルフプレーヤーのゴルフボールの飛び性能に対する要求は非常に強く,従っ
て飛び性能の更なる向上が望まれている。
本発明は,上記事情にかんがみなされたもので,更に飛び性能の向上したソリッ
ドゴルフボールを提供することを目的とする。」(2頁左上欄2行ないし7行)
「課題を解決するための手段及び作用
発明者は,上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果,ポリブタジエンゴ
ム等の基材ゴムに共架橋剤として不飽和カルボン酸の金属塩を配合したゴム組成物
に対し,有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物を添加することにより,
これを加硫して得られるゴム弾性体の反発弾性が向上すること,またこのゴム組成
物を用いてワンピースゴルフボール又は多層構造ソリッドゴルフボールの芯球を形
成することにより,ボール打撃時の初速度が向上し,優れた飛び性能を示すソリッ
ドゴルフボールが得られることを見い出し,本発明を完成したものである。」(2
頁左上欄8行ないし最下行)
「上記不飽和カルボン酸の金属塩は共架橋剤として配合されたもので,その具体
例としては,アクリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,フマル酸等の炭素原子数3



?8の不飽和脂肪酸の亜鉛塩やマグネシウム塩などが例示されているが,特にアク
リル酸又はメタクリル酸の亜鉛塩が好適に使用される。」(2頁左下欄10行ない
し16行)
「本発明のソリッドゴルフボールの製造に用いられるゴム組成物は上記基材ゴム,
共架橋剤に加えて有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物を配合したも
のである。ここで,有機硫黄化合物としては,ペンタクロロチオフェノール,4?
t?ブチル?o?チオフェノール,4?t?ブチルチオフェノール,2?ペンズア
ミドチオフェノール等のチオフェノール類,チオ安息香酸等のチオカルボン酸類,
ジキシリルジスルフィド,ジ(o?ベンズアミドフェニル)ジスルフィド,アルキ
ル化フェノールスルフィド等のスルフィド類などが好適に用いられ,また金属含有
有機硫黄化合物としては,上記チオフェノール類,チオカルボン酸類の亜鉛塩など
が好ましく使用される。」(2頁右下欄4行から17行)
「上記ゴム組成物には,共架橋開始剤を配合することができる。この場合,共架
橋開始剤としては,過酸化物系のもの,例えばジクミルパーオキサイドやt?ブチ
ルパーオキシベンゾエート,ジ?t?ブチルパーオキサイド,1,1?ビス(t?
ブチルパーオキシ)3,3,5?トリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物が好
適に使用されるが,中でもジクミルパーオキサイドが特に好ましく用いられる。」
(3頁左上欄3行ないし11行)
「第1表に示した結果より,ゴム組成物中に有機硫黄化合物の金属塩であるペン
タクロロチオフェノールの亜鉛塩を配合することにより,コア性能(打撃初速度)
が向上することが確認された。」(4頁左上欄1行ないし4行)
以上の記載によれば,周知例2には,ツーピースゴルフボールを含むソリッドゴ
ルフボールにおいて,飛び性能を向上させるために,ボリブタジエン等の基材ゴム
に共架橋剤として不飽和カルボン酸の金属塩を配合したゴム組成物に対し,ペンタ
クロロチオフェノール亜鉛塩を好適とする金属含有有機硫黄化合物等を配合するこ
とによって飛び性能のさらなる向上を達成した発明が記載されていると認められる。



エ証拠(甲8)によれば,周知例3には,次のような記載がある。
「【産業上の利用分野】本発明は,コントロール性に優れ,スピンがかかり易い
上,耐久性,反発特性に優れ,十分な飛び性能を有するソリッドゴルフボールに関
する。」(段落【0001】)
「【課題を解決するための手段及び作用】…ところが,ペンタクロロチオフェノ
ールもしくはその金属塩を配合したコアを用いることにより,そのコアが高反発化
し,ゴルフボールとして十分なレベルの反発が得られ,上記カバーと組み合わせる
ことにより,上述した要望を効果的に達成し得ることを知見し,本発明を完成した
ものである。」(段落【0008】)
「…ペンタクロロチオフェノールもしくはその金属塩については,この配合系で
明確な高反発化を実現するために基材ゴム100重量部に対し0.2?1.5重量
部配合することが好ましく,それ以上配合すると本発明コア組成物の架橋反応を阻
害する場合が生じる。なお,ペンタクロロチオフェノールの金属塩としては,亜鉛
塩が好ましく用いられる。」(段落【0015】)
「【表6】(レナシットTVはペンタクロロチオフェノール亜鉛塩であるとの記
載がある。)」(段落【0027】)
以上の記載によれば,周知例3には,カバーとソリッドコアとからなるゴルフボ
ールにおいて,コントロール性に優れ,スピンがかかりやすい上,耐久性,反発性
に優れ,十分な飛び性能を得る目的で,まず,フィーリング性及びスピン性能を良
好にするためにカバーを軟らかくする一方,カバーが軟らかいために反発が低くな
った点を補うために,ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩等を配合したコアを用い
ることによりコアを高反発化することによってゴルフボールとしての十分なレベル
の反発が得られた発明が記載されていると認められる。
(3) 以上によれば,前記(1) 記載の本願発明の目的を達成するために,本願発明
と前記第2の3(2) に記載されたような一致点を有する引用発明に対し,引用例2
及び周知例1ないし3を組み合わせることによって,ソリッドコアに係るゴム組成



物に硫黄を配合して加硫形成し,かつペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を配合す
ることは,当業者が容易に想到し得るものであると認められる。したがって,相違
点1に関する審決の判断は相当である。
(4) この点について,原告は,前記第3の1(1) のとおり,本願発明における硫
黄配合の技術的意義を強調するが,前記(1)認定の 段落【0013】のとおり,本
願明細書には,硫黄の配合に関し,「上記組成物中には硫黄及びペンタクロロチオ
フェノール亜鉛塩を配合し,必要に応じて各種添加剤を配合することができ,例え
ば,老化防止剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,ステアリン酸亜鉛等を配合することが
できる。これら添加剤の配合量は,特に制限されるものではない。」との記載があ
り,また硫黄が配合される例として別表1の表1及び表2のとおり,実施例1ない
し5及び比較例5があるのみであって,上記原告の主張する硫黄配合の技術的意義
については,本願明細書には記載がない。また,硫黄の配合とコアのJIS?C硬
度との関係について着目して別表1の表1及び表2を検討すると,硫黄が配合され
ていない比較例1ないし4及び6は,硫黄が配合されている実施例1ないし5及び
比較例5に比べて表面JIS?C硬度が低くなる傾向がうかがえるにとどまり,
「中心JIS?C硬度」については相関性を認めることができない。しかも,本願
発明は,ソリッドコアのJIS?C硬度について「中心と表面との硬度差(ソリッ
ドコア表面?ソリッドコア中心)で20以上」と特定するものであるが,別表1の
表1及び表2のとおり,上記硬度差の範囲を満たさないのは比較例3のみであり,
比較例1,2,4及び6は硫黄を配合していないにもかかわらず,上記硬度差の条
件を満足しているのであるから,原告が主張するような「硬度差」と硫黄配合の有
無との間に相関性を認めることはできない。
以上によれば,コアの中心付近の硬度を低めに抑えるといった有利な効果は,本
願明細書からは推断できないのであるから,原告の上記主張は本願明細書の記載に
基づかない主張であり,採用することができない。
(5) また,原告は,前記第3の1(1)ないし(4) のとおり,ペンタクロロチオフ



ェノール亜鉛塩を配合することの技術的意義を強調するが,上記のとおり,コアの
低反発化を抑止するため又はコアの反発を高めるためにペンタクロロチオフェノー
ル亜鉛塩を配合することは,前記(2) のとおり,周知例1ないし3から出願当時の
周知技術であると認められる。また,原告の主張が硫黄の配合による低反発化を抑
止することに特化してペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を配合することを強調し
たものだとしても,そもそも,本願明細書には硫黄を配合しつつペンタクロロチオ
フェノール亜鉛塩を配合しない場合の例の記載がないため,本願明細書の記載から
は硫黄の配合に対するペンタクロロチオフェノール亜鉛塩の配合の効果の比較がで
きないし,逆に,ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩及び硫黄をともに配合しない
例として,別表1の表1及び表2記載の比較例1があるが,この比較例1を例えば
実施例5と対比してみると,ドライバーの打撃評価において,キャリー,トータル,
スピン及び飛びの総合評価並びにフィーリングともに実施例5に対して遜色のない
効果が得られていることが認められる。確かに,9番アイアンのスピン評価及びパ
ターのフィーリングで劣るものであることが記載されているが,このような効果は
コア反発を高めてボールの初速を上げることとは無関係である。
したがって,本願明細書の記載からは,ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を配
合することの技術的意義は理解できないといわざるを得ず,しかも,原告の上記主
張は本願明細書の記載に基づかない主張であって,採用することができない。
なお,原告は,前記第3の1(4) のとおり,意見書(甲16)に基づいて,硫黄
が配合されているがペンタクロロチオフェノール亜鉛塩が配合されていない比較例
を開示し,硫黄及びペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を配合することによって得
られる効果,すなわち,本願発明が従来技術と対比して有する有利な効果を根拠に
して,その技術的意義を主張しているが,意見書(甲16)に記載された実験結果
については,上述のとおり本願明細書に何ら記載がなく,かつ,明細書及び図面の
記載の全体を総合しても予想することができないものであって,参酌すべきではな
いから,この点に関する原告の主張は採用するに由ない。



(6) 原告は,前記第3の1(5) のとおり,引用発明及び引用例2はカバーとして
「硬いカバー」を用いているから,カバーが軟らかい本願発明とは異なっている旨
主張するが,そもそも原告の主張する「硬いカバー」の意義は明確であるとは言い
難く,仮に「硬いカバー」とは,本願発明における「カバーのショアD硬度が5
5」以上のカバーを意味していると善解しても,後述のとおり,引用発明のカバー
の「JIS?C硬度75」が本願発明のカバーの「ショアD硬度55以下」を満た
していることは明らかであるから,引用発明は原告の主張する「硬いカバー」のボ
ールであるとは限らず,また,引用例2は,加硫調整のために硫黄を配合するとい
う点に引用例としての意味があるのであるから,引用例2のカバーが「硬いカバ
ー」であるか否かは,相違点1の判断に何ら影響を与えないというべきであって,
この点に関する原告の主張は採用することができない。
(7) 原告は,前記第3の1(7) のとおり,引用例2において加硫調製剤として配
合されている商品名「ノクラックスNS?6」は本願発明に使用される硫黄とは全
く異なる物質である旨主張するが,上記商品の使用は実施例の記載にすぎず,実施
例の記載のみをもって引用例2には硫黄を併用することが記載されていないという
ことはできないばかりか,前記第2の3(4) アのとおり,引用例2の段落【001
3】には,加硫調整のため硫黄を配合してもよい旨明記されているから,原告の上
記主張は採用することができない。
2相違点2の判断の誤り(取消事由2)について
(1) 前記第2の3(1) のとおり,引用例1には,「カバーが厚さ1.0?2.1
mm,JIS?C硬度75?95を有し」と記載され,また,前記第2の3(4) イ
のとおり,段落【0013】には「コアの表面硬度はJIS?C硬度で,好ましく
は75?95,」と記載されているところ,証拠(甲33,乙3)によれば,周知例5
の段落【0044】表3比較例1にはJIS?C硬度75がショアD硬度45に相
当する旨の記載があること,DUPON社発行の「JIS-C and Shore D/Shore A Ha
rdness Values」(甲33)には,「JIS C値は回帰分析を伴うShore Dおよびshor



e A値に“変換”可能である。‥‥。このプロットを伴う直線式は,JIS C値がど
のような値であっても相当するShore DあるいはShore A値を計算するために使用
することができる。例えば,等式Shore D=(0.76×JIS C)?8を用いて,JIS C
が75とすると,Shore D値は(0.76×75)-8=49となる」との記載がある。以上に
よれば,「JIS?C硬度75」は,ショアD硬度に換算すると45若しくは49
であることが認められ,少なくとも55以下であることは明らかである。
(2) この点について,原告は,前記第3の2(2) 記載のとおり,引用発明のカバ
ーのショアD硬度は「56」又は「59」であり,本願発明のように55以下に設
定されていない旨主張するが,同主張は,引用発明の実施例1ないし4がカバー配
合として「A」または「B」を使用するものであり(引用例1の表3),カバー配
合「A」及び「B」のショアD硬度が「56」及び「59」であること(引用例1
の表2)に基づくものであると認められるところ,これらは単なる実施例の記載に
すぎず,上記引用発明の認定はこれら実施例の記載に何ら左右されるものではない
というべきであるから,原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,前記第3の2(1) のとおり,甲17ないし31の刊行物を示して,
本願の出願当時,カバー硬度として本願発明のショアD硬度55以下よりも大幅に
高いショアD硬度60以上のものがよく知られていたとも主張するが,引用発明に
ショアD硬度55以下である「JIS?C硬度75」が明記されている以上,これ
ら刊行物の記載も上記引用発明の認定には何ら影響しないというべきであるから,
この点に関する原告の主張も失当である。
3相違点3の判断の誤り(取消事由3)について
(1) 本願発明が「ゴルフボール表面にディンプルがないと仮定した仮想球の体積
に対する各ディンプル縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積の全ディ
ンプルの総和をVR(ディンプル体積占有率)とした場合,0.74≦VR≦0.8
4(%)の関係」(以下,「ディンプル体積占有率の要件」という。)を有するこ
との技術的意義については,前記1(1) 段落【0035】に「本発明のディンプル



の体積占有率VRは,通常0.74(%)以上,特に0.75(%)以上,上限と
して0.84(%)以下,特に0.83(%)以下にする。VRが少ないと,ボー
ルがふけて飛ばなくなり,VRが多いと,弾道が低すぎてキャリーが落ちる。」と
の記載がある。
他方,証拠(甲3)によれば,引用例3において,ディンプル体積占有率を0.
76≦VR≦0.90(%)の構成とすることの技術的意義については,引用例3
の【0014】に「ディンプル体積率が0.76%より小さいと高弾道となりすぎ
て飛距離が低下し,0.9%より大きいと低弾道となってやはり飛距離が低下する。
…」との記載があるところ,引用例3におけるこのような技術的意義は本願発明の
それと何ら変わるところがない。したがって,引用発明において,ゴルフボール表
面に形成されるディンプルの構成を設定するにあたり,公知である引用例3記載の
上記技術内容を適用することで,ボールがふけて飛ばなくなったり弾道が低くなっ
てキャリーが低下することを防止するといった課題解決を図ることは,当業者が容
易に想到しうる事項にすぎないというべきである。
(2) この点について,原告は,前記第3の3(1) のとおり,引用例3のゴルフボ
ールのような糸巻きゴルフボールは本願発明であるツーピースゴルフボールとはボ
ール構造が本質的に異なる結果,弾道にも相違があることを理由として,ツーピー
スゴルフボールに引用例3を適用することは困難であり,また,本願発明のディン
プル要件をツーピースゴルフボールのカバー表面に適用した際の効果を予測できな
い旨主張する。
確かに,証拠(甲32)によれば,糸巻きゴルフボールとツーピースゴルフボー
ルとの相違について,「糸巻きは打ち出し角が小さくて,バックスピンが大きいか
ら,当然揚力が大きい。ツーピースは打ち出し角が大きいが,バックスピンが少な
いから揚力もそう大きくはない。両者の弾道の特徴は構造上やむをえないもので,
このことをひと言でいえば,ツーピースの弾道はどうしても低くなりやすく,糸巻
きは高くなりやすい。」とか,「糸巻きボールの弾道が高い,ということはゴルフ



ァーならすでにご存じだろう。低く打ち出されるが,揚力があるので最高点も高い。
ただ落ちるとき,落下角度が鈍角になるのでラン(転がり)は少ない。その点,ツ
ーピースボールは,糸巻きほど高くは上がらず落ちるのが手前であっても,落下角
度が多少ゆるやかで,しかも勢いがついているからよく転がってトータル距離とし
てはよく出る。ツーピースボールがよく飛ぶ理由は,その独特の弾道にある。糸巻
きより確かに最高点は低いが,キャリーでもよく飛ぶ弾道である。しかも,打った
ときの飛び出し速度は,糸巻きに比べても大きな差はなく,よく転がる。」との記
載があるから,糸巻きボールとツーピースゴルフボールとは,その構造の違いに由
来して弾道に相違があることが窺われる。
しかしながら,引用例3記載の発明は「球形のソリッドセンターに糸ゴムを巻き
付けた糸ゴム球をカバーで被覆してなる糸巻きゴルフボール」(請求項1)であり,
上記カバーにディンプルが形成されてなるものであるところ,引用例3と本願発明
は,ゴルフボールのコアが糸ゴムを巻き付けた糸ゴム球であるかそれともソリッド
コアであるかの差があるものの,両者ともコアをディンプルが形成されたカバーで
被覆する点で一致しており,しかも,両者にそのような差異があることは周知性が
高い事実なのであるから,引用発明のコアを被覆するカバーに形成されているディ
ンプルについて引用例3に記載されている技術を適用することに格別な障害となり
得るものとは認められない。
むしろ,構造に上記のような差異が存在していても,ゴルフボールという技術的
範疇において,ボールがふけて飛ばなくなったり弾道が低くなってキャリーが低下
することを防止するといった周知の課題解決手段を適用しようとすることは,特段
の事情がない限り,当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきところ,
本件のように,糸巻きゴルフボールとツーピースゴルフボールとでは弾道が相違す
るということは,上記特段の事情には当たらないというべきである。
(3) また,原告は,前記第3の3(2) のとおり,本願発明は,ディンプル個数の
要件及びディンプル体積占有率の要件の両方を備えることが必要であり,引用発明



に引用例3を適用しても,本願発明の優れた飛距離を得られるという効果は予測し
がたい旨主張する。しかしながら,原告主張のような構成の開示も示唆も本願明細
書の発明の詳細な説明にはないし,前記1(1) 段落【0051】及び別表1の表3
実施例・比較例の対比からも推認することができない。原告の主張は本願明細書
の記載に基づかないものであって,採用することはできない。
さらに,原告は,本願発明はその特許請求の範囲に記載された要件であるソリッ
ドコアとカバーについての要件に加えてディンプルについての要件をすべて満たす
ことで従来技術にない有利な効果を奏するとも主張するが,原告の主張の根拠とな
る開示や示唆を本願明細書中に認めることはできず,原告の主張は採用の限りでは
ない。
(4) したがって,原告の主張はいずれも採用することができず,相違点3につい
ての審決の判断に誤りはない。
4結論
以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がない。原告の請求
は理由がなく,棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東 海 林保



裁判官
矢口俊哉