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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ネ6451各補償金請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10125補償金請求控訴事件 判例 特許
平成16ネ2790損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成16ネ35職務発明の対価請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10008職務発明対価支払等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 冒認出願(冒認) /  特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  考案者 /  職務発明 /  相当の対価(相当な対価) /  技術的思想 /  創作性(創作) /  新規性 /  共同発明 /  進歩性(29条2項) /  試行錯誤 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  着想 /  参酌 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  交換 /  実施料 /  共同発明者 /  設定登録 /  移転登録 /  対価 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (ネ) 10099号 特許権移転登録手続等請求控訴事件
控訴人X
訴訟代理人弁護 士冨宅恵
被控訴人株式会社岡田組
訴訟代理人弁護 士上原健嗣
同 上原理子
訴訟復代理人弁護 士阪上武仁
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/07/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決主文2 を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,3000万円及びこれに対する平成17年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
3 仮執行宣言
事案の概要
本件は,控訴人(1審原告。以下「原告」という。)が,被控訴人(1審被告。以下「被告」という。)に対し,原告が,被告の従業員として,杭の撤去・引き抜き装置の開発に従事していた際,原判決別紙特許目録記載1ないし3の各特許権(以下「本件特許権1」などといい,これらを総称して「本件各特許権」という。)に係る各発明(以下「本件特許発明1」などといい,これらを総称して「本件各特許発明」という。)を単独で発明したとして,原告が被告に対し,主位的に,本件各特許権の移転登録手続を求めるとともに,本件各特許発明実施したことによって得た不当利得金の返還請求の一部請求として7000万円の支払を求め,予備的に,特許法35条3項(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,本件各特許発明特許を受ける権利を使用者である被告に承継させたことに対する相当の対価の請求として,同額の支払を求め(一部請求),さらに,これらの金員に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
原判決は,?@原告は,本件特許発明1及び2の単独発明者とは認められないが,共同発明者の1人であり,これらの発明につき特許を受ける権利共有持分を被告に承継させた,?A原告は,本件特許発明3の発明者とは認められない,?B被告が本件特許発明1ないし3を実施することにより得た利益は,いずれも法律上の原因に基づくものであると認定判断し,主位的請求をいずれも棄却し,?C本件特許発明1を実施することにより得た利益が存在しないことは当事者間に争いがない,?D本件特許発明2に係る相当の対価の額は1万0382円と算定されると認定判断し,予備的請求を1万0382円及びこれに対する遅延損害金(ただし,起算日は,同請求をした訴え変更の申立書の送達の日の翌日である平成17年7月28日とした。)の限度で認容した。
原告は,本件控訴を提起し,原判決中の原告敗訴部分のうち,予備的請求中の本件特許発明2及び3に係る相当の対価の請求を棄却した部分につき,原告が,本件特許発明2及び3の発明者であり,これらの発明の特許を受ける権利を被告に承継させたことを前提として,原判決における?@本件特許発明2の発明者の認定,?A本件特許発明3の発明者の認定,?B本件特許発明2に係る相当の対価の算定に誤りがあると主張するとともに,?C本件特許発明3に係る相当の対価の算定をすべきであると主張して,前記第1の1のとおり,原判決主文2の変更を求めた。
したがって,原判決中,主位的請求を棄却した部分及び予備的請求中の本件特許発明1に係る相当の対価の請求を棄却した部分は,当審における審理の対象ではない。
争いのない事実等,争点及びこれに関する当事者の主張
以下のとおり訂正付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1から第3の4(原判決2頁22行目から35頁12行目)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,争点1〔原告は本件各特許発明発明者か。〕のうち本件特許発明1に関する部分,争点3〔原告は,被告に対し,被告が本件各特許発明実施したことにつき,不当利得返還請求をすることができるか。〕,争点4〔本件各特許発明特許を受ける権利が被告に承継されている場合,原告の被告に対する相当対価支払請求権の有無及び額〕のうち本件特許発明1に関する部分は,当審における審理の対象でない。)。
なお,原判決の略語表示は,改めて定義したものを除き,当審においてもそのまま用いる。
1 原判決の訂正 原判決3頁6行目から10行目を次のとおり改める。
「ア被告は,次のとおり,本件特許発明1につき,発明者を原告及びK(被告代表者。以下「K社長」という場合がある。)として,本件特許権1の設定登録を受けた(以下,本件特許発明1に係る特許を「本件特許1」といい,本件特許権1に係る明細書(出願公告時のもの)を「本件明細書1」といい,同特許権に係る特許出願を「本件出願1」という。)。」 原判決3頁24行目から4頁1行目を次のとおり改める。
「イ被告は,次のとおり,本件特許発明2につき,発明者を原告及びK社長として,本件特許権2の設定登録を受けた(以下,本件特許発明2に係る特許を「本件特許2」といい,本件特許権2に係る明細書(出願公告時のもの)を「本件明細書2」といい,同特許権に係る特許出願を「本件出願2」という。)。」 原判決4頁17行目から21行目を次のとおり改める。
「ウ被告は,次のとおり,本件特許発明3につき,発明者をK社長として,本件特許権3の設定登録を受けた(以下,本件特許発明3に係る特許を「本件特許3」といい,本件特許権3に係る明細書(登録時のもの)を「本件明細書3」といい,同特許権に係る特許出願を「本件出願3」という。)。」 原判決5頁17行目の「なお,本件出願3の出願当初の特許請求の範囲は以下のとおりであった。」を「なお,本件出願3の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書3」という。)の特許請求の範囲は,以下のとおりである。」と改める。
 原判決6頁19行目の「拒絶された出願に係る当初の特許請求の範囲は次のとおりである。」を「拒絶された出願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲は,次のとおりである。」と改める。
 原判決13頁15行目の「T字を連ねた切れ込みを10?p」を「T字を連ねた切れ込みの幅を10?p」と改める。
 原判決17頁13行目の「伴なって」を「伴って」と改める。
 原判決20頁1行目の「本件特許3の請求項」を「本件明細書3の特許請求の範囲」と改める。
 原判決20頁4行目の「である。」を「である(以下,上記?@,?Aの各要素を「「公知部」?@」などという。)。」 原判決20頁5行目から6行目を次のとおり改める。
「上記特許請求の範囲のうち,「特徴部」として挙げられているのは次の要素(以下,下記?@ないし?Dの各要素を「「特徴部」?@」などという。)である。」 原判決20頁16行目から17行目にかけての「本件出願3の願書添付の明細書(以下「本件明細書3」という。)記載の【特許請求の範囲】は」を「当初明細書3の特許請求の範囲の請求項1及び2の各内容は」と改める。
 原判決20頁20行目を削る。
 原判決20頁21行目から25行目にかけての「特許出願の過程で請求項1については拒絶理由通知が発せられているので,「特徴部」?@及び?Aには特許性が認められないことは明らかである。そして,請求項2については,特許査定されているため,「特徴部」?@,?Aに,?Bないし?Dが付加されることによりはじめて新規性あるいは進歩性が認められたことが分かる。」を「特許出願の過程で,当初明細書3の請求項1については拒絶理由通知が発せられているので,「特徴部」?@及び?Aには特許性が認められないが,同明細書の請求項2に相当する本件特許発明3は特許を付与すべきものとされたのであるから,本件特許発明3は,「特徴部」?@,?Aに,「特徴部」?Bないし?Dが付加されることによりはじめて新規性あるいは進歩性が認められたことが分かる。」と改める。
 原判決22頁20行目の「作成」を「製作」と改める。
 原判決24頁4行目の「作成」を「製作」と改める。
 原判決25頁14行目及び16行目の「作成」をいずれも「製作」と改める。
 原判決25頁20行目の「作成」を「製作」と改める。
 原判決29頁6行目から8行目にかけての「本件特許発明2の請求項にいう「コンクリート杭」の意義については,本件出願2の願書に添付された明細書(以下,「本件明細書2」という。)に」を「本件明細書2の特許請求の範囲にいう「コンクリート杭」の意義については,同明細書に」と改める。
 原判決30頁15行目の「本件特許発明」を「本件各特許発明」と改める。
 原判決34頁1行目の「本件特許発明」を「本件特許発明2」と改める。
 原判決34頁14行目の「本件特許装置2」を「本件特許発明2装置」と改める。
 原判決34頁19行目の「本件特許発明」を「本件特許発明2」と改める。
2 当審における原告の補足主張 本件特許発明2についてア 発明者の認定について以下のとおり,本件特許発明2における伸縮ケーシングと伸縮ロッドは,原告により,同一の目的のために,同時に発明されたものである。
 伸縮ケーシングと伸縮ロッドの関係について本件特許発明2は,下記a及びbの背景の下に,原告が発明したものであり,単に特許性具備のために,伸縮ケーシングと伸縮ロッドを組合せたというものではない。
a砂置換工法は,ヒルストーン工法以前の代表的な工法であるが(甲150),同工法で使用される装置には,ケーシングとオーガ軸が一体に取付けられており,硬質地盤では,オーガ軸を使用して掘削後,もう一度ケーシングを杭と共に埋設するため,埋設が二度必要であった。
これに対し,ヒルストーン工法は,ケーシングとオーガ軸が分離する装置を使用するため,埋設が一度で済むと共に,オーガ軸を先行させて掘削することが可能であり,本件特許発明2が発明される前である平成元年10月ころから存在したが(甲139),同工法に使用される装置は,複数の駆動手段が必要で,高価であった。被告は,平成14年ころ,同工法を推奨していた石岡建設株式会社(以下「石岡建設」という。)が大規模工事の減少に伴って事業規模を縮小した際に,同社から同装置を取得した。
b原告は,原審でも主張したように(原判決12頁11行目から23行目),平成2年4月ころ,東京新宿近辺にあるエスティックビルでの地下部分の壁・柱・耐圧板等の粉砕工事現場において,他者の使用していたヒルストーン工法に用いられる装置を目撃し,同装置において,2つの駆動装置によって生まれるのと同様の効果を,一つの駆動装置によって得られるような装置を開発しようとした。
また,ケーシングとオーガ軸の一方のみに伸縮機構を設けると,伸ばしすぎによる破損の心配があり,現に,東京築地の聖路加病院の杭抜き工事の際,伸ばしすぎた伸縮ロッドが捻れて破損したことから(甲22〜33,乙40の59〜67),両方に伸縮機構を設けることにした。
c本件特許発明2における伸縮ロッドと伸縮ケーシングは,いずれも最初の図面が作成された平成2年10月の時点において,その技術的構成が確定しており(甲16,17),伸縮ロッドが伸縮ケーシングの内部に収まるように設計されている(乙15,17)から,両者は同時期に創作されたものといえる。その納品時期にずれが生じたのは,伸縮ロッドの構成が複雑であったからにすぎない。
d本件出願2の出願直前に作成された伸縮ケーシングと伸縮ロッドが一体化された図面(乙22,23の1・2)は,両者の寸法等の記載がなく,また,前者に後者が収まる点ではなく,オーガヘッドやセリ矢ロッド,拡大刃などの構造に注意が向けられているから,伸縮ロッドと伸縮ケーシングとの組合せを当然の前提として,他の部分の構造を示そうとしたものにすぎない。
e甲13は,本件出願2の出願にかかわったOが,原告との打ち合わせを求めたことを示すものであり,本件特許発明2が原告の発明であることを裏付けるものといえる。
 伸縮ケーシングについてa「ワンタッチ」と呼ばれる脱着型のケーシング(甲59〜64,89,90)は,ケーシングの交換作業を容易にするために,原告の発案により開発されたもので,被告は,平成2年8月当時既に,これを保有していた。また,ワンタッチの製造の依頼を受けて,Iが,目的もなく多段式の機構を発案することはあり得ない。
b砂置換工法は,平成5年にIが考案したものではなく,昭和63年には,既に実施されていた(甲139,150)。
c乙14は,甲59ないし64,89,90との対応から明らかなように,理解の便宜のために省略して描かれたものであること,原告の発案に不安を感じたYが,I宛に自己の提案を送ったものであることからすれば,乙14の記載をもって,原告の主張と矛盾するということはできない。
 伸縮ロッドについてa鉄筋等を除去する作業の写真(乙40の22〜26)は,平成元年3月に撮影されていること,同号証における除去の対象の鉄筋等はセリ矢ロッドに絡みついたものであるところ,セリ矢ロッドは,オーガヘッドの先端に接続し,ケーシングから露出しているものであること(乙22),伸縮ロッドが発明される時点では伸縮ケーシングが既に存在していたのであるから,これを利用して,絡みついた鉄筋等を除去するために,オーガヘッドをケーシングから露出できたこと,伸縮ロッドは構造が複雑で繊細な装置であること等の事情からすれば,複数の従業員から,ケーシングからヘッドが出るような装置の製作を要望する声があがった程度で,伸縮ロッドを発明しようとする動機にはなり得ない。
b伸縮ロッドの構造の概要は,K1が創作したものではなく,原告が創作したものである。このことは,K1が伸縮ロッドの構造を創作したことを示す客観的証拠が存在しないこと,Y2が,原告との打合せに基づき,伸縮ロッドの図面(乙17,18)を作成したと証言していることに照らし,明らかである。そして,Y2の供述は,伸縮するロッドそれ自体は従来から存在するという客観的事実(甲139)と符合しており,信用できるものである。
相当の対価の額について前記アの経緯によれば,被告が本件特許発明2装置を使用する目的は,掘削時にケーシングとオーガヘッドを自在に先行,後行させること以外にはなく,このことを前提として,超過売上高及び実施料率を認定すべきであり,また,上記経緯を斟酌して,寄与率を認定すべきである。
 本件特許発明3についてア 発明者の認定について 本件特許発明3の技術的思想について本件出願3に対する拒絶理由通知書(乙37)に引用された実願昭53-68931号(実開昭54-170603号)のマイクロフィルム(乙38)には,「爪に接続して前記ケーシングの上端に延出する作動部材」を有する発明が記載され,実施例として,作動部材が「コイルバネ(15)」のものが記載されているところ,本件特許発明3の「油圧シリンダは上記ケーシングの上部に取り付けられ」との構成は,上記マイクロフィルム記載の発明における「ケーシングの上端に延出する作動部材」(実施例では,コイルバネ)を,単に「油圧シリンダ」に置き換えたにすぎないものであり,本件出願2が出願された平成10年当時,油圧シリンダは周知の部材であったから,上記の置き換えは,当業者であれば容易に想到し得たものである。
したがって,本件特許発明3は,「油圧シリンダは上記ケーシングの上部に取り付けられ」ることによりチャック爪の突出状況が容易に確認できるという点ではなく,「固定ピンをカム溝に沿わせることでチャック爪をケーシング内部に突出させる」という点が,特徴的構成と認められて,特許を付与されたものというべきである。
 発明の過程についてa原告は,原審でも主張したように(原判決17頁9行目から18行目),ケーシングに係止を設け,これにより杭を掴み,ケーシングごと杭を引抜く方法について検討するに際し,斜め上部から斜め下部の方向に大きな力を加えて突き刺すようにして「係止」を稼動させる必要があると考えたが,そのようにすると,地中にケーシングを挿入することが困難になったり,係止に大きな負荷がかかったりすることから,係止を可動させる方法について試行錯誤を続けた。原告は,その過程において,H鋼クランプの刃の支点が,刃と共に,斜め下から斜め上部に向かってに弧を描くように稼働すること(甲73〜75参照)にヒントを得て,支点を固定させないことにより,係止に対する負荷が軽減できることに気付いた。また,原告は,青物魚の置物にヒントを得て,係止の形状として,魚体のような流線型とすることを考えた。原告は,上記の発想に基づいて,概念図を作成しながら,係止の動きを決定し,支点を移動させる効果を有するカム溝の形状を決定して,本件特許発明3のチャック爪を発明した。
なお,当時から,ケーシングに係止を設け,ケーシングごと杭を引抜く発想それ自体は存在しており,原告も,特公平3-57247号公報(乙29)や乙12の図6記載の装置の存在を認識していた。
b本件特許発明3のチャック爪をK社長らが発明したという被告の主張は,以下のとおり,信用できない。
まず,被告が,本件特許発明3に至ったとする発明の創作過程に関し,N,M,K社長の各供述は一致していない。また,被告主張に係る発明の創作過程は,装置の働きを決定した後に,最適な働きを実現する形状を検討するという方法とは異なるので,機械構造学の常識に沿わない。
また,特公平3-57247号公報(乙29)は,被告が,平成7年4月に,H特許事務所から入手したものであるが,同公報には,本件特許発明3のような「カム溝」の記載がない。K社長らが,上記公報から本件特許発明3を創作したのであれば,カム溝に想到した経緯が明らかにされるべきあるが,この点は不明であること,被告は,同年6月ころ,上記公報記載の発明と基本的な構成を共通にする装置(乙12の図6,乙40の70及び71)を製作していることからすれば,上記公報が本件特許発明3を発明する契機となったとすることは,不合理である。
 製作過程についてaT鋼板において最初のチャック爪が製造されたのが,平成10年6月5日より前であることは,以下の事情からも明らかである。
一般に,製造業においては,商品の納品を完了した後に請求書を作成するものであり,T鋼板も同様である。したがって,請求書と納品書が複写式で一体になったものであれば,実際の納品日より後の日付の納品書が作成されることになる。
この点について,Zは,納品から1日ないし3日程度経過した後,Zが単価計算を行い,事務員がZの計算書に基づき請求書を作成する旨証言しているが,同人の供述は,T鋼板においては,被告との取引に限らず,実際の納品日より後に,請求書,納品書及び納品書控えが複写式になったものが印字され,納品書控えに基づいて売掛帳が作成されている事実(甲143の1〜147の2)にも沿うものである。
このように,現実の納品は,請求書や納品書の日付より先行することに照らすならば,T鋼板において最初のチャック爪が製造されたのは,T鋼板の被告に対するチャック爪に関する請求書(乙32の3枚目)の日付であり,平成10年4月30日から同年11月20日のT鋼板の売掛金帳簿(甲122)に上記チャック爪が最初に記載された日である平成10年6月5日よりも前であることは明らかである。
b原告は,原審でも主張したとおり(原判決17頁20行目から19頁6行目),平成10年5月30日,T鋼板のZや被告の従業員であったS1,S2及びM1の協力を得て,最初のチャック爪を製作し,これを用いて挿入実験を行い(同日は,原告,S1,S2及びM1は,いずれも工事現場に出ていなかった〔乙33の2〕),同年6月4日・6日・13日・17日・18日・19日・27日などには(このうち5日間は被告も確認の上で〔乙34〕),大正倉庫又は美原倉庫において,本件特許発明3装置に使用する部材集めや同装置の製造を行い,また,本件特許発明3装置(直径600?oのケーシングに施されたもの)が神戸第七突堤に運び込まれた同月23日から同月26日にかけて,神戸第七突堤の工事現場に赴き(乙34),本件特許発明3装置の加工及びセッティング作業に立ち会い,杭が抜けるのを確認した後,担当していたB製鋼の現場に戻った。
原告が本件特許発明3の発明者でないとすれば,原告が平成10年6月23日ないし同月26日に,神戸第七突堤の工事現場で作業に従事したこと,同月4日・6日・13日・17日・18日・19日・27日のうち少なくとも5日間,大正倉庫又は美原倉庫において就業していたことについて,合理的な説明ができない。
cチャック爪に関し,原告は,平成10年5月29日に実験を行っているが,被告は同年7月以降に実験を行ったものである。
乙40の92及び93は,被告が,チャック爪を最初に製作し,実験したときの様子を撮影したものと思われるが,これらは,平成10年6月5日ではなく,同年7月7日以降に撮影されたものである。すなわち,乙40の92及び93は,その撮影対象から見て,乙40の91とは別の機会に撮影されたことが明らかであること,Nの供述によれば,被告は,試作品を製作した日に副資材も購入しているところ,被告がチャック爪と共に複数の副資材を発注した最初の日は,平成10年7月7日であること(甲122),乙12の図7(乙40の92の写真を図面化したもの。)において鋼管に立てかけられている爪の形状が,甲122の7月7日の欄(「65×110×480」との記載がある欄)の爪の形状と一致し,同図において地面に置いてある爪が,甲122の7月14日以降の欄に記載された爪の形状が一致することからすれば,乙40の92及び93は,平成10年6月5日ではなく,同年7月7日以降に撮影されたものといえる。
このことは,被告が,神戸第七突堤の工事現場において,本件特許発明3装置におけるケーシングの直径を,平成10年6月には600?o,同年7月には800?o,同年8月に700?oと変更したこととも符合する。
d被告が,神戸第七突堤の現場でケーシングの径を2度にわたって変更したのは,杭の径との関係で作業がうまく行かなかったためであり,本件特許発明3自体は,遅くても平成10年7月には完成していたものであって(乙40の3,40の94〜40の102,49の1〜6),原告が関与していない大阪府守口市内のNTTの現場で完成されたものではない。
e甲81の爪の長さが400?oであることは,関節部によって隠れている爪と溶接止めされた丸鋼との接点を想像することにより,容易に理解できる(甲93)。この点,原判決の認定に係る「600?o」は,甲81の爪の長さに,溶接止めされた丸鋼の直径及び関節部の長さが加っているから,原告の主張を否定する理由とはならない。
また,神戸第七突堤の工事では多数の杭を抜く工事を行ったから,チャック爪は次々交換して使用されており,原告が製作した爪もその中で改造して使用されたものである。
 その他の主張原告は,平成16年10月15日,特許出願をしたが(甲126。
以下「甲126の出願」という。),その当時,原告は,出願に必要な図面を作成する機器等を保有していなかったことから,取引があった被告に上記機器等を使用させてもらい,被告の従業員の助力を得て,図面を作成した。原告は,N,I,Aらから秘密保持に関する誓約書を取り付けたものの(甲129〜134),データの消去を失念したため,平成17年12月26日,被告は,原告が上記出願に用いた図面と同一の図面を用いて,K社長,N,I,Aを発明者とする特許出願をしたものである(甲128。以下「甲128の出願」という。)。
このような冒認出願を行う被告の体質からすれば,本件特許発明3について,原告を発明者から除外し,冒認出願をすることも,十分考えられるというべきである。
特許を受ける権利承継及び相当の対価の額について原告は,前記アのとおり,本件特許発明3の発明者であって,同発明の特許を受ける権利を被告に承継させたものであるから,同発明に係る相当の対価の額を算定すべきである。
3 当審における被告の反論 本件特許発明2についてア 発明者の認定について 伸縮ケーシングと伸縮ロッドの関係についてaヒルストーン工法は,優れた工法の一つではあるが,さほど画期的なものではないし,本件特許発明2とは関係がない。なお,被告は,平成12年11月,ヒルストーン協会に関西地区の代表として入会し(甲139),平成13年からヒルストーン工法を施工するに至ったが,平成14年4月,石岡建設株式会社が破産したため,同年9月,破産管財人から入札によって一部の機械・機材を購入することとなった。
置換工法は,各種杭や鋼矢板を打設するために障害となる地中の礫・コンクリートガラなどの地中障害物を事前に撤去し,そこに良質の土砂を挿入し,障害物を土砂に置き換える工法であり,平成5年より前から行われていた。なお,被告は,同年7月ころ,顧客から砂置換工事の依頼を受け,本件特許発明2における「ワンタッチ」を利用した砂置換工法(以下「岡田式砂置換工法」という。)を実施したことがある(乙13,I陳述)。そして,Iは「ワンタッチ」に更なる改良を加えた「改良型砂置換装置」を完成させた(乙5,K陳述)。
b原告は,ヒルストーン工法に用いられる装置の能力が高かったと主張するが,単にオーガマシンの能力に差があっただけで,装置の能力に差があったわけではない。
c伸縮ケーシングの製作が計画されたのは,平成2年8月下旬ころ(乙14),伸縮ロッドの製作が計画されたのは,同年10月ころである(乙17)。そして,K社長,被告の従業員,Oなどが参加した打ち合わせが行われ,本件出願2についての原案ができたのは,平成3年2月下旬ころ(甲13,乙41),(株)Dが最終図面を作成したのは,同年5月8日(乙22),上記最終図面を一部修正して本件出願2をしたのは,同年7月29日である(甲3)。なお,伸縮ロッドが壊れたのは,その製作が計画された後の平成3年4月である(甲34)。
d被告は,通常のサイズの伸縮ロッドと伸縮ケーシングを製作したから,ケーシングがロッドを格納できることは当然のことである。
 伸縮ケーシングについて原告は,ロックオーガー機にケーシングを簡単に取付ける装置を製作することを被告に要望し,強度が確保できるかとの質問に対し,同業者も使用しているから大丈夫である旨回答した(乙13)。
また,原告の主張に係る「ワンタッチ」(甲59〜64,89,90)は,出力が比較的小さいロックオーガ機用であるのに対し,本件特許発明2装置に使用するものは,高出力のロックオーガ機用である。なお,小出力用のワンタッチは,昭和60年以前から既に基礎工事に使われていたものであって(乙9),原告の発案によるものではない。
 伸縮ロッドについてa原告は,高所作業は危険であり,作業員に危険な作業を強いるという不都合があったため,これを回避するためにワンタッチを製作した旨陳述する(甲7)。しかし,ワンタッチは,上記の問題を回避することや,オーガヘッドに絡みつく鉄筋等を容易に除去することなどを目的として,被告がワンタッチや伸縮ロッドを考案し,製作したものである。
b伸縮ロッドの具体的な構成の検討は,K1及びY2が行ったものである。原告は,K1及びY2に対し,被告の従業員として,被告の指示に従い,伸縮ロッドの概要説明を行ったものにすぎず,本件特許発明2を独自に発明したものではない。
相当の対価の額について原告の主張はいずれも失当である。
 本件特許発明3についてア 発明者の認定について 本件特許発明3の技術的思想について争う。原告の主張は,失当である。
 発明の過程についてa否認する。
b原告の主張は,本件特許発明3の技術的構成を理解しないもので,失当である。
 製作過程についてすべて否認する。甲143の1〜147の2は,原判決において,納品書と請求書の関係について指摘した後に,原告から提出されたものであって,信用性に欠ける。また,神戸第七突堤の現場で,杭をケーシングと共に引き抜く工法は,ほとんど実施せず,ケーシングで周縁を切った後,ワイヤーロープで引き抜く従来の工法を実施した。
 その他の主張について甲126の出願は,本件とは無関係である。なお,原告は,被告が受注した工事において被告が実施した工法に関して作成した図面を,被告に無断で使用して,甲126の出願をしたのであり,同出願は,原告による冒認出願である。また,N,I,Aらの誓約書(甲129〜138)は,原告が不当な圧力をかけて作成させたものである。
特許を受ける権利承継及び相当の対価の額について原告は本件特許発明3について何ら関与していない。被告が原告に対して,同発明についての相当の対価を支払う義務はない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原判決と同様,?@本件特許発明2について,原告は,共同発明者の1人であること,同発明に係る特許を受ける権利共有持分を被告に承継させたこと,原告が被告から受けるべき承継による相当の対価の額は1万0382円であること,?A本件特許発明3について,原告は発明者ではないことを認定するのが相当であると判断する。
その理由は,以下のとおり訂正付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第4の1ないし第4の3(ただし,第4の1の「 本件特許発明1について」〔原判決35頁26行目から43頁15行目〕,第4の2の最終段落〔原判決65頁21行目から22行目〕及び第4の3の の第2段落ないし第3段落〔原判決66頁3行目から7行目〕を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正(当審における原告の補足主張に対する判断を含む。) 原判決35頁20行目から22行目の「そして,その判断に当たっては,願書に添付した特許請求の範囲の記載を基準とし,明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載をも参酌しながら,」を「そして,その判断に当たっては,特許請求の範囲の記載を基準とし,発明の詳細な説明及び図面の記載をも参酌しながら,」と改める。
 原判決44頁11行目の「T字型の切れ込みを30?p間隔で複数段入れ」を「T字型の切れ込みをピッチ30?pで複数段入れ」と改める。
 原判決53頁19行目の後に改行して次のとおり加える。
「まず,原告は,「ワンタッチ」と呼ばれる脱着型のケーシングは,平成2年8月当時,被告が既に保有していたのであるから,ワンタッチの製造の依頼を受けた際に,Iが目的もなく多段式の機構を発案することは,不自然であると主張する。しかし,ワンタッチそれ自体は従来から存在していたものであるとしても,出力の大小などさまざまな種類があることからすれば,平成2年8月ころ,高出力のロックオーガ機に関し,ワンタッチの製造の要望が出され,Iが,これを製作する過程で,多段式のものとすることを提案したことが不自然とはいえない。」 原判決53頁20行目の「まず,」を「また,」と改める。
 原判決53頁26行目から54頁1行目にかけての「Iが考案した砂置換工法」を「Iが考案した岡田式砂置換工法」と改める。
 原判決54頁2行目から8行目にかけての「しかし,証拠(乙13,21,40の50ないし54)によれば,砂置換工法は,被告が平成5年7月に砂置き換え工事を受注した際にIが考案したものと認められる。このように,砂置換工法に本件特許発明2装置を使用するようになったのは,本件出願2の後のことであるから,砂置換工法で使用することを考えて伸縮ケーシングの構造をF字型ではなくT字型にする本件特許発明2を想到したことはあり得ない。」を「そして,証拠(乙13,21,40の50ないし54)によれば,岡田式砂置換工法は,被告が平成5年7月に砂置き換え工事を受注した際にIが考案したものであり,被告が砂置換工法に本件特許発明2装置を使用するようになったのは,本件出願2の後のことであると認められる。なお,原告は,砂置換工法それ自体は,昭和63年には既に実施されており,Iが創作したものではないと主張するが,砂置換工法が平成5年以前から実施されていたことは,Iが岡田式砂置換工法を考案したとの認定を何ら左右するものではないから原告の上記主張は採用の限りでない。」と改める。
 原判決54頁8行目の「採用できない。」の後を改行し,「また,」を削る。
 原判決54頁11行目の「本件明細書のうちの」を「本件明細書2のうちの」と改める。
 原判決55頁4行目の後に改行し次のとおり加える。
「この点に関し,原告は,伸縮ロッドと伸縮ケーシングは,いずれも最初の図面が作成された平成2年10月の時点において,その技術的構成が確定しており,伸縮ロッドが伸縮ケーシングの内部に収まるように設計されているから,両者は同時期に創作されたものであり,納品時期にずれが生じたのは,伸縮ロッドの構成が複雑であったという製作上の問題に起因すると主張する。しかし,証拠(乙14,甲17)によれば,伸縮ケーシングの製作が開始されたのは平成2年8月ころであるのに対し,伸縮ロッドの製作が開始されたのは同年10月ころであること,伸縮ロッドが伸縮ケーシングの内部に収まるのは,通常用いられるサイズのケーシングとオーガ軸に伸縮機構を設けようとしたことによるものと考えられることからすれば,伸縮ロッドと伸縮ケーシングが同時期に創作されたと認定することはできない。この点に関し,原告は,東京築地の聖路加病院の杭抜き工事における伸縮ロッドの破損が契機となって,ケーシングとオーガ軸の両方に伸縮機構を設けることを着想したと主張する。しかし,証拠(甲34)によれば,上記破損事故が発生したのは,伸縮ケーシング及び伸縮ロッドの創作が開始された時期より後の平成3年4月であるから,原告の上記主張は採用できず,したがって,伸縮ロッドと伸縮ケーシングは,同一の目的のために,原告が同時に発明したとする原告の主張も,客観的事実に沿わないものとして,採用できない。」を加える。
 原判決55頁5行目から10行目を次のとおり改める。
「なお,原告は,C熔工の担当者に対して伸縮ケーシングの機構の説明をする際に,三重構造にすること,また,下部ケーシングの引っ掛け(ヨーカン)は左右対称に1か所ずつ設けるよう説明したと主張する。しかし,乙14の記載内容に照らすならば,当初の段階から,三重構造にするとの説明がされていたか否かは明らかでなく,また,下部ケーシングのヨーカンについて,左右対称に1か所ずつではなく,3か所に設けることが説明されていたことが推認される。この点に関し,原告は,乙14は,説明を受けたすべてがメモとして残されたわけではなく,省略された部分もあり,原告の提案に不安を感じたYの提案も記載されているから,乙14に記載がないからといって,原告が説明をしなかったと断定することは相当でないと主張する。しかし,Yが,原告の説明を受け,問題点を把握して,乙14号証を作成したことは原告も認めるところであり,同号証には,原告が説明した事項の重要な部分は,その性質上漏らさず記載されているはずであるから,そのような点に鑑みると,原告の上記主張は採用の限りでない。」 原判決55頁14行目の「また,」を「さらに,」と改める。
 原判決56頁10行目の後に改行し,次のとおり加える。
「なお,原告は,被告の従業員からケーシングからヘッドが出るような装置の製作を要望する声があがったということは,伸縮ロッドを発明する動機としては,非常に弱い,K1が伸縮ロッドの構造を創作したことを示す客観的証拠がない,Y2が原告との打合せに基づき伸縮ロッドの図面を作成したと供述している,Oが原告と打合せをするよう求めたことは,本件特許発明2が原告の発明であることを裏付けるものである,などとも主張するが,いずれも上記認定に照らし,採用することができない。」 原判決56頁15行目から16行目にかけての「38,39」を「37ないし39」と改める。
 原判決56頁24行目の「作成」を「製作」と改める。
 原判決57頁5行目の「特許公報」の後に「(特公平3-57247号公報)」を加える。
 原判決57頁13行目の「作成」を「製作」と改める。
 原判決57頁25行目の「作成」を「製作」と改める。
 原判決58頁17行目から19行目にかけての「実願昭53-68931号(出願日昭和53年5月22日,考案者及び実用新案登録出願人S3)のマイクロフィルム」を「実願昭53-68931号(実開昭54-170603号〔出願日昭和53年5月22日,考案者及び実用新案登録出願人S3〕)のマイクロフィルム」と改める。
 原判決58頁20行目から21行目にかけての「拒絶理由通知が発せられた。」を「拒絶理由通知が発せられた(乙37)。」と改める。
 原判決58頁22行目から24行目を次のとおり改める。
「被告は,拒絶理由通知に引用された実願昭53-68931号(実開昭54-170603号)のマイクロフィルムの写し(乙38)を取り寄せ,内容を確認した結果,特許請求の範囲を限縮する手続補正をすることとし,請求項を当初明細書3における三つから本件明細書3における一つに減らした結果,特許査定を受けることができ,平成7年10月17日特許登録された。」 原判決59頁1行目から4行目にかけての「平成14年4月,本件特許3装置を用いた工法について,本件特許3の特許登録番号及び同装置の図面を付して,「OK工法」と銘打って,雑誌「基礎工」2002年4月号にその広告を掲載した。」を「平成14年4月,本件特許発明3装置を用いた工法について,本件特許3の特許登録番号及び同装置の図面を付して,「OK工法」と銘打って,雑誌「基礎工」2002年4月号にその広告を掲載した(乙39)。」と改める。
 原判決61頁14行目の後に改行して次のとおり加える。
「また,証拠(乙38)によれば,実願昭53-68931号(実開昭54-170603号)のマイクロフィルムには,「土中に挿入および引抜きができるとともに既設杭を囲包するケーシングと,そのケーシングの下端部内方に起伏自在に設ける爪と,その爪に接続して前記ケーシングの上端に延出する作動部材と,前記ケーシングの下端部と前記爪の上方とに噴出口を設けて前記ケーシングの上端に延出する送水管と,その送水管に接続される圧送機からなる既設杭の除去装置。」が記載されるとともに,その実施例として,「爪に接続して前記ケーシングの上端に延出する作動部材」を「コイルバネ(15)」とするものが記載されている。」 原判決61頁15行目から62頁13行目を次のとおり改める。
「 以上の事実及び前記ア  で認定した本件出願3の審査経緯によれば,従来の既設杭の引き抜き方法では係止突起の突出操作をする油圧シリンダが係止突起と同じケーシングの下端部に装着されており,係止突起をケーシング内に向けて突出させる際にその突出状態を地上で確認することができないため,係止突起が既設杭の下端に達しないまま,あるいは既設杭の下端に当接しないまま既設杭が引き抜かれることがあり,既設杭の全部を引き抜くという所期の目的を達成できない場合が生じるという技術的課題があったところ,本件特許発明3は,その課題解決手段として,油圧シリンダをケーシングの上部に取り付け,この油圧シリンダのロッド端部とチャック爪とを連結ロッドで連結し,チャック爪に設けた円弧状のカム溝をケーシング下部に固定した軸に挿通し,油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出するという構成を採用し,ケーシングの打込み時に油圧シリンダが土砂の抵抗を受けることがなくその保護を図れるとともに,チャック爪がケーシング内に突出していることを容易に確認することができるという効果を奏するとされるものであり,上記構成のうち,油圧シリンダのロッド端部とチャック爪とを連結ロッドで連結し,チャック爪に設けた円弧状のカム溝をケーシング下部に固定した軸に挿通し,油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出するようにした点が,従来技術には見られない課題解決のための特徴的構成であって,本件特許発明3の技術的思想の中核的部分は,この点にあると認めることができ,これらの構成があることによって,同発明が特許登録されるに至ったものと認めることができる。
ウ 原告の発明者性についてそこで,原告が,本件特許発明3の上記技術的思想創作行為に具体的に貢献し,加担したかどうかについて検討するに,前記アの認定事実によれば,本件特許発明3の上記技術的思想の中核的部分を構成するチャック爪に関する技術的思想創作に関与したのは,K社長,M,N,K2,M2,Iらであり,原告がこれに関与したとは認められない。そして,その余の技術的思想創作にも原告が関与したと認めることはできない。したがって,原告が本件特許発明3の発明者であるということはできない。
なお,原告は,本件特許発明3の創作過程に関するN,M,K社長の各供述が一致していない,被告主張に係る発明の創作過程は,装置の働きを決定した後にかかる働きを実現するに最適な装置の形状を検討するという過程を経たものではなく,機械構造学の常識にも沿わない,K社長らが参考にしたとする特公平3-57247号公報(乙29)には,カム溝の記載がない,などと主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。すなわち,K社長らの各供述は,K社長,M,N,K2,M2,Iらによる話合いの過程で,チャック爪に関する発想に至ったという点においてほぼ一致していること,機械装置に関する発明は,必ずしも装置の働きを決定した後にかかる働きを実現するに最適な装置の形状を検討するという過程以外から生じないというものではなく,まず,着想があって,これに基づいて実際に機械を製作し,実験等を行う過程で,完成に至るということも少なくないことに照らせば,K社長らの説明が不合理であるとはいえないこと,K社長は,幼いころから「デッコカン」と呼ばれるカム溝のついた爪を知っていたことなどを説明しており(乙5),本件特許発明3について専ら特公平3-57247号公報から着想を得たものではないことを総合すれば,本件特許発明3の技術的思想の中核的部分を構成するチャック爪に関する技術的思想創作に関与したのがK社長らであるとの認定が左右されるものではなく,原告の前記主張は採用できない。」 原判決63頁8行目の「約600」を「約400」と改める。
 原判決63頁11行目の「爪の長さ及び」を削る。
 原判決63頁13行目の「しかも,」の次から14行目の「原告が被告」の前までを削る。
 原判決63頁18行目の後に次のとおり加える。
「この点に関し,原告は,神戸第七突堤の工事では多数の杭を抜く工事を行ったから,チャック爪は次々交換して使用されており,原告が製作した爪もその中で改造して使用された旨主張する。しかし,仮に原告が主張するように多数の杭を抜く工事が行われたのであれば,交換用の爪も多数製造されたはずであり,わざわざ原告が最初に製作したはずの平成10年5月30日製作の爪を改造することは,およそ考えられない。原告の主張は,採用できない。」 原判決64頁8行目の後に次のとおり加える。
「なお,当審で原告が提出したT鋼板の取引に係る注文書控え(甲143の1,144の1,145の1,146の1及び2,147の1)には,対応する請求書,納品書及び納品書控えの日付よりも早い日に納品されたことを意味するかのような書き込みがあるが,請求書や納品書の日付と実際の納品日が相違するものであるか否かは原審における重要な争点の一つであったこと,原告は,原審においても,T鋼板のZの協力を得られる状況にあったこと,同注文書控えを除けば,T鋼板の取引に係る注文書控えはほとんど現存しないことを原告も認めていること,注文書控えに後から書き込みをすることが格別困難とは認められないことからすれば,甲143の1〜147の2は,上記認定を左右するものとはいえない(仮に原告が主張するとおり,T鋼板において,請求書・納品書や帳簿に記載された日付よりも早い日に納品することがあり得るとしても,平成10年5月30日(土曜日)に納品された商品に対応する請求書・納品書の作成が,翌週の週末である同年6月5日(金曜日)まで遅延したと直ちに認めることは,困難である。)。
 原判決64頁13行目の「いなかったのである。」を「いなかったのである(なお,原告は,同月1日から3日も,同じ理由で大正倉庫にはいなかったこと,また,同月4日は,原告がチャック爪を製作し,挿入実験を行うにつき,原告に協力したとされるS1,S2及びM1が大正倉庫にはいなかったことが認められる。)。」と改める。
 原判決64頁16行目の後に次のとおり加える。
「以上のほか,原告は,?@仮に,原告が,本件特許発明3の発明に関与しなかったとすれば,原告が平成10年6月23日ないし同月26日に,神戸第七突堤の工事現場で作業に従事したこと,同月4日・6日・13日・17日・18日・19日・27日のうち少なくとも5日間,大正倉庫又は美原倉庫において就業したことについて合理的な説明ができない,?ANの供述によれば,被告は,試作品を製作した日に副資材も購入しているところ,被告がチャック爪と共に複数の副資材を発注した最初の日は,平成10年7月7日であること,?B被告が,神戸第七突堤の現場でケーシングの径を2度にわたって変更したのは,杭の径との関係で作業がうまく行かなかったためであり,本件特許発明3自体は,遅くても平成10年7月には完成していたこと等の事実によれば,本件特許発明3の発明者は原告であることが明らかであるなどと主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。まず,前記アで認定したとおり,本件特許発明3に関する被告社内で話合いが行われた際,原告は,その場に居合わせたことはあったが,具体的な構造に関する提案をしたことはなかったこと,原告は,平成10年6月23日,神戸第七突提を下見したことはあったが,同月24日から26日に,同現場で杭の引き抜き作業に従事した事実は認められないことからすれば,原告が,本件特許発明3の発明者とは認められないという前記ウの認定が左右されるものではない。また,証拠(甲122,乙32)によれば,被告は,同年7月7日以前にも副資材を発注したことがうかがわれる。そして,前記アで認定したとおり,被告は,同年8月,神戸第七突提の現場で,初めて杭の引き抜き作業に成功したことからすれば,本件特許発明3が同年7月まで完成していたという原告の主張もにわかに採用することができない。」 原判決64頁23行目の後に次のとおり加える。
「なお,原告は,甲126の出願に用いた図面と同一の図面を用いて,被告が,K社長らを発明者とする甲128の出願をしたことを指摘するが,仮にそのような事実があったとしても,原告が本件特許発明3の発明者ということはできないとの前記認定が左右されるものではない。」 原判決71頁10行目の「甲3の2(本件特許発明2の特許公報)」を「本件明細書2(甲3の2)」と改める。
 原判決76頁5行目の「T字型の切れ込みを30?p間隔で」を「T字型の切れ込みをピッチ30?pで」と改める。
 原判決76頁9行目の「T字型の切れ込みを20?p間隔に」を「T字型の切れ込みをピッチ20?pに」と改める。
 原判決76頁12行目から19行目を次のとおり改める。
「このように,実際に製品化するに当たっては,C熔工によって改良が加えられたが,本件明細書2や本件出願2の願書に添付した図面(出願公告時のもの)には,ケーシング部分を三重構造とすることやT字型の切れ込みを何段にするかなどは記載,示唆されておらず,結局,強度面に関するC熔工の工夫は,原告及びIの共同発明者としての寄与率を減殺する理由にはならない。」2 結論原告はその他縷々主張するが,いずれも上記認定判断を覆すほどのものとはいえない。
以上によれば,原告の請求(予備的請求のうち本件特許発明2及び3に係る部分)は,職務発明である本件特許発明2の特許を受ける権利(持分)を被告に承継させた相当対価額1万0382円及びこれに対する平成17年7月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり,その余は理由がないというべきであって,これと同旨の原判決は相当である。
よって,原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀