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関連審決 無効2000-35531
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 冒認出願(冒認) /  特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  物の発明 /  新規性 /  公然知られ(29条1項1号) /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  技術的範囲 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  登録実用新案 /  特許出願日 /  参酌 /  均等 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  独占排他権 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 252号 審決取消請求事件
原告 有限会社リタッグ
同訴訟代理人弁理士 前田勘次
被告 株式会社ウチコン
同訴訟代理人弁理士 小島清路
同 谷口直也
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2000−35531号事件について平成15年5月8日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,発明の名称を「側溝蓋及び側溝構造」(後記の訂正により「側溝構造」と改められた。)とする特許第2863151号(平成9年7月17日出願。平成10年12月11日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
なお,被告は,平成9年7月22日受付の手続補正書(乙7)により本件特許出願の願書に添付された当初明細書(甲2。以下「本件当初明細書」という。)の補正(以下「本件補正」という。)を行っている。
(2) 原告は,平成12年9月30日,被告を被請求人として,特許庁に対し,本件特許を無効とすることを求めて審判の請求をし,同請求は無効2000-35531号事件として特許庁に係属した。被告は,平成14年12月13日,同事件において,本件特許出願の願書に添付した明細書(甲1。本件特許査定登録時の明細書。以下「本件特許時明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した(乙6)。
特許庁は上記事件について審理を遂げ,平成15年5月8日,本件訂正請求を認めるとした上,「本件審判の請求は成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年5月20日に原告に送達された(弁論の全趣旨)。
2 本件訂正前の本件特許に係る発明の要旨は,本件特許時明細書の「特許請求の範囲」に記載された,次のとおりのものである(下線を施した部分は本件補正により補正された箇所である。)。
【請求項1】 蓋下部垂直面部を有する側溝蓋において,該側溝蓋の両側面 を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側構蓋の内側に向けて湾曲させること,及び該側溝蓋の底面 を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えることを特徴とする側溝蓋。
【請求項2】 上記蓋下部垂直面部に連続して上方に延設される蓋湾曲面部,及び該蓋湾曲面部に連続して上方に延設される蓋上部傾斜面部を備える請求項1記載の側溝蓋。
【請求項3】 上記蓋下部垂直面部に連続して上方に延設される蓋傾斜面部,及び該蓋傾斜面部に連続して上方に延設される蓋上部垂直面部を備える請求項1記載の側溝蓋。
【請求項4】上記湾曲は連続的であり且つ線対称を示す請求項1乃至3のいずれかに記載の側溝蓋。
【請求項5】対向する側溝壁内面に形成された上部傾斜面部,該上部傾斜面部に連続して下方に延設された湾曲面部及び該湾曲面部に連続して下方に延設された下部垂直面部を有する側溝躯体と,上記上部傾斜面部に対し微小間隙を介して対峠される蓋上部傾斜面部,該蓋上部傾斜面部に連続して下方に延設されて,上記湾曲面部に対し線接触しながら対峠される蓋湾曲面部及び該蓋湾曲面部に連続して下方に延設されて,上記下部垂直面部に微小間隙を介して対峠される蓋下部垂直面部を有する側溝蓋と,を備え,上記側溝蓋の両側面 を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること,及び該側溝蓋の底面 を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えることを特徴とする側溝構造。
【請求項6】 上記側溝蓋の上記湾曲は連続的であり且つ線対称を示す請求項5に記載の側溝構造。
【請求項7】 対向する側溝壁内面に形成された上部垂直面部,該上部垂直面部に連続して下方に延設された傾斜面部及び該傾斜面部に連続して下方に延設された下部垂直面部を有する側構躯体と,上記上部垂直面部に対し微小間隙を介して対峠される蓋上部垂直面部,該蓋上部垂直面部に連続して下方に延設されて,上記傾斜面部に対し線接触しながら対峠される蓋傾斜面部及び該蓋傾斜面部に連続して下方に延設されて,上記下部垂直面部に微小間隙を介して対峠される蓋下部垂直面部を有する側溝蓋と,を備え,上記側溝蓋の両側面 を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること,及び該側溝蓋の底面 を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えることを特徴とする側溝構造。
【請求項8】 上記側溝蓋の上記湾曲は連続的であり且つ線対称を示す請求項7に記載の側溝構造。」である。
3 本件訂正後の本件特許の発明の要旨は,本件訂正後の明細書(甲20。以下「本件訂正明細書」という。)の「特許請求の範囲」に記載された,次のとおりものである(以下,請求項1ないし4に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」といい,それらを併せて「本件訂正発明」という。) 【請求項1】 対向する側溝壁内面に形成された上部傾斜面部,該上部傾斜面部に連続して下方に延設された湾曲面部及び該湾曲面部に連続して下方に延設された下部垂直面部を有する側溝躯体と,上記上部傾斜面部に対し微小間隙を介して対峙される蓋上部傾斜面部,該蓋上部傾斜面部に連続して下方に延設されて,上記湾曲面部に対し線接触しながら対峙される蓋湾曲面部及び該蓋湾曲面部に連続して下方に延設されて,上記下部垂直面部に微小間隙を介して対峙される蓋下部垂直面部を有する側溝蓋と,を備え,上記側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させることを特徴とする側溝構造。 【請求項2】 上記側溝蓋の上記湾曲は連続的であり且つ線対称を示す請求項1記載の側溝構造。 【請求項3】対向する側溝壁内面に形成された上部垂直面部,該上部垂直面部に連続して下方に延設された傾斜面部及び該傾斜面部に連続して下方に延設された下部垂直面部を有する側溝駆体と,上記上部垂直面部に対し微小間隙を介して対峙される蓋上部垂直面部,該蓋上部垂直面部に連続して下方に延設されて,上記傾斜面部に対し線接触しながら対峙される蓋傾斜面部及び該蓋傾斜面部に連続して下方に延設されて,上記下部垂直面部に微小間隙を介して対峙される蓋下部垂直面部を有する側溝蓋と,を備え,上記側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させることを特徴とする側溝構造。 【請求項4】 上記側溝蓋の上記湾曲は連続的であり且つ線対称を示す請求項3記載の側溝構造。 4 本件審決の要旨 (1) 本件訂正請求の適否について 本件訂正のうち本件特許時明細書の「特許請求の範囲」の請求項1ないし4,5及び7についての訂正は,本件訂正前の請求項1ないし4を削除し,本件訂正前の請求項5,7を,請求項1,3に繰り上げるとともに,側溝蓋の構造に関して「側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備える」という,3通りの要件が記載されていたものから,「及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備える」を削除することにより,「側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させる」(以下「本件特徴要件1」という。)という1通りの要件に限定したものであり,これらの訂正は,いずれも,「特許請求の範囲」の減縮を目的とした訂正に該当する。また,本件訂正のうち本件特許時明細書「特許請求の範囲」の請求項6,8についての訂正は,本件訂正前の請求項6,8を,請求項2,4に繰り上げるとととに,上記新たな請求項1,3と整合させるため「請求項5」及び「請求項7」という記載を「請求項1」及び「請求項3」に変更したものであり,これらの訂正は,いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当する。 さらに,本件訂正のうち本件特許時明細書の「発明の詳細な説明」についての訂正は,その記載を,上記「特許請求の範囲」の訂正に対応させるものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当するものである。
そして,上記のいずれの訂正も本件特許時明細書又は本件特許の願書に添付した図面(以下「本件図面」という。)に記載した事項の範囲内であり,実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものではない。したがって,本件訂正は,特許法134条(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ)2項ただし書き,及び同条5項において準用する同法126条(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ)2,3項の規定に適合する。
(2) 本件訂正発明1ないし4に無効理由があるか否かについて ア 本件訂正明細書に記載不備があるとの主張について 本件訂正発明1ないし4については,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」に,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず,特許を受けようとする発明が「発明の詳細な説明」に記載されたものではなく,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許法36条(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ)4,6項の規定に違反している旨主張するが,本件訂正明細書に原告主張の記載不備があるとは認められない。
イ 本件訂正前の請求項1ないし8に係る特許は本件補正後の特許出願に対してなされたものであるところ,本件補正は特許法17条の2(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)第3項に規定する要件を満たさないものであるから,上記特許は無効であるとの主張について 原告は,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側及び上方側に向けて湾曲された部位が,本件当初明細書ではいずれも「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であったのに,本件補正によりこれが本件特許時明細書記載のように「側溝蓋の両側面」と「側溝蓋の底面」と変わった上,そもそも「側溝蓋の両側面」及び「側溝蓋の底面」の概念は本件当初明細書又は本件図面では不明確であるから,上記変更は,新規事項の追加に当たる旨主張する。
しかしながら,「側面」と「底面」は,乙5(広辞苑1303頁及び1518頁)によれば,それぞれ「正面に対して左右の面。前後または上下以外の面。」,「底の表面。立体を平面上に置くとき底部をなす面。」の意であることが一般常識といえる。そして,本件図面中には,図2に側溝蓋の正面図,図4,10,12にその模式的底面図,図5にその模式的側面図,図6にその湾曲状態を説明する説明図が記載されている。 これらの事実からみて,本件特許時明細書において「両側面」とされる部位が,本件訂正発明1,2においては,本件当初明細書に記載のある「蓋上部傾斜面部9a,9b」と「蓋湾曲面部10a,10b」と「蓋下部垂直面部11a,11b」との各3つの面部からなる面を意味し,本件訂正発明3,4においては,本件当初明細書に記載のある「蓋上部垂直面部9a’,9b’」と「蓋傾斜面部10a’,10b’」と「蓋下部垂直面部11a’,11b’」との各3つの面部からなる面を意味することが明らかである。 同じく本件特許時明細書において「底面」とされる部位が,本件訂正発明1,2においては,本件当初明細書に記載のある「蓋下部垂直面部11a,11b」の下縁間の面を意味し,本件訂正発明3,4においては,本件当初明細書に記載のある「蓋下部垂直面部11a’,11b’」の下縁間の面を意味することが明らかである。 したがって,本件特許時明細書の「側溝蓋の両側面」及び「側溝蓋の底面」という記載に,何ら不明確な点はなく,また,新規事項でもない。
ウ 本件訂正発明1,2は本件特許出願前に公然実施されたものであるとの主張について 原告は,本件訂正発明1,2は,本件特許出願前に公然実施されたものである旨主張し,その証拠として甲5ないし12,15を提出するが,これらの証拠からは,本件訂正発明1,2が本件特許出願前に公然実施されていたものとは認められない。
エ 本件訂正発明1ないし4が進歩性を欠くとの主張について 原告は,本件訂正発明1ないし4が,本件特許出願前に公然実施あるいは公知の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
(ア) 原告が提出した証拠のうち,甲5,8,11,12は,公然実施の証拠としては採用できないから,進歩性判断の証拠ともなり得ない。
(イ) 本件訂正発明1,2と登録実用新案第3031035号公報(甲3。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)とは,刊行物1発明が本件特徴要件1を備えていない点でのみ相違し,その他の点に実質的な差異はない。同様に,本件訂正発明3,4と登録実用新案第3026678号公報(甲4。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)とは,刊行物2発明が本件特徴要件1を備えていない点でのみ相違し,その他の点に実質的な差異はない。 (ウ) そこで,上記相違する点について検討する。
甲13は原告と被告らとの間の「リボーン側溝技術提供契約書」,甲14は「リボーン側溝」の広告等が掲載された「週間ブロック通信」という週刊誌であって,いずれにも,本件特徴要件1を示唆する記載は一切ない。
甲16は,平成11年4月16日に,株式会社コンテックが原告に宛てた「確認書」であり,その中には「リボーン側溝蓋」製作用型枠と思われる図面,「コンクリート製品へへこみを発生させるための型枠に於ける一般的方法の説明」と記載された手書きの説明図等が含まれており,甲18は,甲16が真正なものであることを証するために,株式会社コンテックが原告に宛てた書面である。また,甲17は,株式会社コンテックが作成した,甲16中の図面の説明である。そして原告は,「(甲16ないし18から明らかなように,本件特徴要件1のような)「むくり」を側溝蓋であるコンクリート製品に持たせる技術は,従来より業界内では一般的に知られている。」と主張する。
甲16に含まれる上記図面には,「名称リボーン側溝蓋・・・」,「株式会社コンテック」,及び「’96年8月10日」等の記載が認められることから,この図面が本件特許出願前に株式会社コンテックにより作成されたものであることは一応認められる。しかし,この図面は「名称リボーン側溝蓋・・・」という記載からみて,原告会社の製品である「リボーン側溝蓋」に関する図面であり,この図面自体,あるいはこの図面に記載された技術的事項が本件特許出願前公知であったことを示す証拠は一切ない。
さらに,仮に,この図面自体が公知であったとして,甲17,18を参酌してこの図面に記載された技術的事項を検討しても,これが本件特徴要件1に係る構成と実質的に同じであるとか,あるいは,本件特徴要件1を示唆するものともいえない。すなわち,甲17,18に記載された説明自体の真偽が不明である。 (エ) したがって,原告が提出した証拠からは,本件訂正発明1ないし4に進歩性がないということはできない。
オ 本件特許が冒認出願ついてされたものであるとの主張について 原告は,甲11ないし14を提示し,本件特許が,本件特許の発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利承継しない者の特許出願についてされたものである旨主張する。
しかし,原告は,具体的には甲11ないし14に記載された「各事実から,本件特許に係る発明の真正な発明者は,株式会社丸治コンクリート工業所,あるいは(有)リタッグ内部の者であることが容易に理解できる。」と主張するに止まり,本件特許に係る発明を発明するのに関与した者やその関与の程度等については,何ら説明していない。
したがって,原告が提出した証拠からは,原告の主張に理由があるとはいえない。 カ 以上のとおり,原告の主張及び証拠方法によっては,本件訂正発明1ないし4の特許を無効とすることはできない。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 1 取消事由1(本件訂正請求の違法の看過) (1) 特許法126条3項違反 ア 本件訂正は本件特許時明細書の「特許請求の範囲」に記載されている複数の要件の一部を削除するものであり,かかる訂正は「特許請求の範囲」を拡張するものであり,仮に拡張ではないとしても「特許請求の範囲」を変更するものであるから,特許法126条3項に違反し許されない。
特に,本件特許時明細書の【0023】の「即ち,実施例1の両方向(RとS)への湾曲の代わりに,その一方(内側方向R又は上方方向S)への湾曲とすることができるし,実施例2の内側方向Rのみの代わりに,上方側に向けての湾曲S及びその両方方向に向けての湾曲R,Sとすることもできる。図11及び図12に示す場合も同様に他態様とすることができる。」との記載を削除する訂正は,本件訂正前の請求項5,7に係る発明において極めて重要な特徴的要件である湾曲の方向を変更するものである。つまり,本件特許時明細書の【0023】の訂正によって,湾曲の方向が内側方向R及び上方方向Sであることが要件か,内側方向R又は上方方向Sであることが要件か,あるいは内側方向Rのみであることが要件であるのかの違いが生じる。こうした重要な特徴的要件に関する記載部分を本件特許時明細書中から削除する訂正は,「特許請求の範囲」の記載と明細書の「発明の詳細な説明」及び図面の記載とに矛盾を生じさせ,結果として実質上,本件特許時明細書の「特許請求の範囲」の変更につながるものである。
イ 本件訂正前の請求項5,7に係る発明には本件当初明細書中に記載されていない内容が本件補正によって加えられていることから,本件訂正は,本件当初明細書又は本件図面に記載した事項の範囲を超える内容を含む本件特許時明細書の「特許請求の範囲」を更に訂正するものとなっているが,かかる訂正は実質上,上記「特許請求の範囲」の変更につながるものである (2) 特許法126条2項違反 本件訂正により,本件特許時明細書の「特許請求の範囲」の請求項5,7の「,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」を削除することによって,「特許請求の範囲」が変更されることになるが,この変更の内容は本件特許時明細書の記載から直接的かつ一義的に導かれるものでない。その理由としては次の2つが挙げられる。
ア まず第1は,本件当初明細書についてされた本件補正が違法であることに起因する。すなわち,本件訂正前の請求項5,7には本件当初明細書中に記載されていない内容が本件補正によって加えられており,本件訂正は,本件当初明細書又は本件図面に記載した事項の範囲を超える内容を含む本件特許時明細書の「特許請求の範囲」を更に訂正するものとなっているが,こうした訂正は本件当初明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出せるものではない。違法な補正を基にしてさらに訂正を重ねても,かかる訂正が明細書の記載から直接的かつ一義的に導かれるものでないことは明らかである。
イ 第2には,上記「特許請求の範囲」の訂正に伴う本件特許時明細書の「発明の詳細な説明」の訂正が,本件特許時明細書の記載から直接的かつ一義的に導かれるものでないことによる。
すなわち,本件訂正により,本件特許時明細書の【0023】の「即ち,実施例1の両方向(RとS)への湾曲の代わりに,その一方向(内側方向R又は上方方向S)への湾曲とすることができるし,実施例2の内側方向Rのみの代わりに,上方側に向けての湾曲S及びその両方方向に向けての湾曲R,Sとすることもできる。図11及び図12に示す場合も同様に他態様とすることができる。」を削除する訂正がされたが,この訂正は,本件訂正前の請求項5,7に係る発明において極めて重要な要件である湾曲の方向を変更するものであり,本件特許時明細書の記載から直接的かつ一義的に導かれるものではない。
したがって,本件訂正は,特許法第126条2項の要件に反する。
(3) 特許法126条4項違反 本件訂正発明1ないし4は,独立特許要件を欠くものであり,したがって,本件訂正は,特許法126条4項に違反する。
2 取消事由2(明細書の記載不備の看過) 次に述べるとおり,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」には,本件訂正発明1ないし4について,この発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,また,特許を受けようとする発明が「発明の詳細な説明」に記載されたものではなく,特許を受けようとする発明が明確でないものであって,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」ないし「特許請求の範囲」の記載は,特許法36条4項及び6項に違反する。
(1) 本件訂正発明1ないし4においては,単に,側溝蓋の側面を側溝蓋の両端面から中央にかけて側溝蓋の内側に向けて湾曲させるだけでは,必ずしも本件訂正明細書に記載の作用効果を奏しない。
すなわち,側溝蓋の側面(範囲が不明)を側構蓋の両端面から中央にかけて側溝蓋の内側に向けて湾曲させたとしても,側構蓋と側溝躯体とが予め接触状態に無い側面の部位であっては,何の作用効果も奏しないことは明らかである。つまり,本件訂正発明においては側溝蓋の側面全体が等しく側溝躯体に当接状態にあるわけではないからである。
(2) また,本件訂正発明の側溝構造では,側溝蓋が側溝躯体に配設され,側溝躯体と一体となって作用効果を奏するものであり,側溝蓋の4隅が側溝躯体に当接するには,予め側溝蓋の4隅が側溝躯体に対して均等な配置にあることが前提となる。これに対し,例えば,側溝蓋の4隅が側溝躯体に対して不均等な配置にある場合には,たとえ側溝蓋の側面を側溝蓋の両端面から中央にかけて側溝蓋の内側に向けて湾曲させたとしても,側溝蓋の4隅全体が側溝躯体に当接しない状態となり,2点支持,3点支持のような不安定な状態になる。
かかる場合には,当然のことながら,本件訂正発明は本件訂正明細書に記載の作用効果を奏しない。こうした不安定な支持状態は,特に,コンクリート二次製品である側溝等の分野ではなりやすく,この結果,ガタツキ音が発生する。
(3) 本件訂正明細書中の【0012】及び【0019】の記載内容と本件図面(図2,図4〜図6,図10,図12)の記載内容からすれば,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させる部位は「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であり,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させる部位も「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であることは明らかであり,しかも,この2つの要件が重なって初めて本件訂正明細書に記載の作用効果を奏し得るものである。
つまり,どちらか一方の要件のみで本件訂正発明が成立するものではない。してみると,本件訂正明細書の「特許請求の範囲」の記載では,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」及び本件図面の記載と矛盾するばかりか,本件訂正明細書に記載の作用効果をも奏しないことになる。
3 取消事由3(本件補正の違法性の看過) 本件補正は,本件当初明細書及び本件図面に記載された事項の範囲内の補正でなく,違法なものであり,したがって,本件訂正前の請求項1ないし8に係る発明の特許は無効である。
(1) 本件訂正前の請求項1,5及び7に係る発明と本件補正前の請求項1,5及び7に係る発明とを対比すると,主な相違点は,下記のア及びイである。
ア 本件訂正前の請求項1,5及び7に係る発明は,「該側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること」を要件としているが,本件補正前の請求項1,5及び7に係る発明は,「該蓋下部垂直面部を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること」を要件としている。
イ 本件訂正前の請求項1,5及び7に係る発明は,「該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」を要件としているが,本件補正前の請求項1,5及び7に係る発明は,「上記蓋下部垂直面部を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」を要件としている。
(2) 上記のとおり,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させる部位が,本件補正前は「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であったのに対して,本件補正によって「側溝蓋の両側面」に変更されている。また,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させる部位が,本件補正前は「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であったのに対して,本件補正によって「側溝蓋の底面」に変更されている。しかし,「側溝蓋の両側面」及び「側溝蓋の底面」の概念は,本件当初明細書又は本件図面においては不明確であり,本件補正によって新たに追加された概念となっている。
すなわち,本件補正により,本件補正前の請求項1,5及び7のうち発明の最も特徴的な重要な部分が変更されたが,その変更部分は本件当初明細書及び本件図面に記載されていないものであり,したがって,上記変更は新規な事項の追加に該当する。
(3) したがって,本件訂正前の請求項1,5及び7に係る発明の特許は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであることから,特許法123条1項1号の規定により,無効とされるべきである。
また,本件訂正前の請求項2ないし4に係る発明は,いずれも本件訂正前の請求項1の発明を前提とし,本件訂正前の請求項6に係る発明は,本件訂正前の請求項5の発明を前提とするものであり,本件訂正前の請求項8に係る発明は,本件訂正前の請求項7に係る発明を前提とするものである。したがって,本件訂正前の請求項2ないし4,6及び8に係る発明の特許も,同じく同法123条1項1号の規定により,無効とされるべきである。
4 取消事由4(本件訂正発明1,2の公然実施の有無) 本件訂正発明1,2は,本件特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明であり,特許法29条(平成11年法律第41号による改正前のもの)1項2号の規定により特許を受けることができないものである。
(1) 原告と被告との間で岐阜地方裁判所で争われた平成9年(ワ)第85号不当利得返還請求事件,平成9年(ワ)第348号特許権侵害差止等請求事件,平成10年(ワ)第62号不当利得返還請求事件(併合審理)の訴訟(以下「別件訴訟」という。)において,被告は実際に製造販売している現行製品(本件訂正発明1,2に係る製品)は平成8年3月から採用している旨を明言した。そして,本件訂正発明1,2の実施時期については,上記事件の判決(甲21)は「原告は,以後,この型を原型として,蓋にしぼりを入れる方法を3か月かけて考案し,ようやく,平成8年3月,現行製品の試作品を完成させ,実際に敷設したものである。」と認定している。しかも,その製品の実際の敷設工事は屋外の公道で行われるので,これを秘密裡に行うことはできないことから,公然と実施されたことも明らかである。
したがって,本件特許出願日の平成9年7月17日よりもかなり前である平成8年3月ごろから,本件訂正発明1,2に係る製品が実際に敷設されていたことになる。つまり,本件特許出願前に本件訂正発明1,2を既に実施していたことを被告自らが述べているのである。
(2) 埼玉県北本市において,工期を平成8年9月2日〜平成9年1月10日として市道2435号線道路補修工事が施工された。その工事現場の写真における蓋湾曲部の長手方向中央付近の隙間は本件特徴要件1により形成されたものであり,同工事において本件特徴要件1を備えた本件訂正発明1,2に係る被告製品が敷設されたことは明らかである。
(3) 岐阜県美濃加茂市において平成8年12月25日契約,平成9年2月ころ完成の側溝施工工事がされた。その側溝施工現場写真では,蓋湾曲部の長手方向中央付近に若干の隙間の存在が認められるのであって,そうである以上,少なくとも,この側溝蓋が本件特徴要件1を備えたものであることに疑いはなく,同工事において本件特徴要件1を備えた本件訂正発明1,2に係る側溝構造と同一の構造を有する製品(株式会社丸治コンクリート工業所製造のもの)が敷設されたことは明らかである。
(4) 埼玉県南埼玉郡(以下省略)のあやめ会館前で,工期を平成8年1月12日〜同年3月31日として側溝施工工事が行われ,同工事において,本件訂正発明1,2に係る側溝構造と同一の構造を有する被告製品が敷設された。
(5) 埼玉県幸手市において,工期を平成8年5月7日〜同年6月14日として市道1108号線道路改良工事が行われ,同工事において,本件訂正発明に係る側溝構造と同一の構造を有する被告製品が敷設された。
(6) 本件訂正発明1,2に係る製品の実施状況は上記のとおりであり,道路補修工事は秘密裡に行うことはできないことから,本件訂正発明1,2に係る製品は本件特許出願日である平成9年7月17日より前に公然実施されたものと認められるべきである。
5 取消事由5(本件訂正発明1ないし4の進歩性に関する判断誤り) (1) 本件審決は,甲5,8,11,12は本件訂正発明の公然実施の証拠としては採用できないとして,本件訂正発明の進歩性に関する判断の基礎となる引用例として採用できないと判断した。上記各証拠は公然実施の証拠としては採用できないものではないことから,これを引用例から排除すべきではない。また,新規性(公知公用)に関する判断と,進歩性の有無についての判断は異なる基準でされるべきものであることから,上記各証拠を進歩性に関する判断の基礎となる引用例から排除する必要はない。
(2) 本件審決は,本件訂正発明1,2と刊行物1発明とは,刊行物1発明が「本件特徴要件1」を備えていない点でのみ相違し,同様に,本件訂正発明3,4と刊行物2発明とは,刊行物2発明が「本件特徴要件1」を備えていない点でのみ相違するとしつつ,当業者において甲13,16ないし18から本件訂正発明の上記相違点に係る構成を想到することが容易であるとはいえない旨判断した。
しかしながら,本件特徴要件1は「側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること」である。かかる要件は,型枠で側溝蓋等のコンクリート二次製品を製造する場合,型枠に「むくり」を施すことによって,従来より業界内では一般的に実施されていた。特に,側溝蓋においては,型枠に「むくり」を施さないと,型枠に生コンクリートを流し込んだ場合に側溝蓋の長手方向中央付近が膨らみ,かかる側溝蓋を側溝に載置した場合には,この膨らんだ部位が支点となって側溝との当接部位でガタツキ音が発生する。そのため,多かれ少なかれ型枠に「むくり」を施していた。その結果,「むくり」を施した型枠で製造した側溝蓋は「側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲」させた側溝蓋となるのである。この「むくり」により側溝蓋に形成される湾曲が,まさに本件訂正発明の本件特徴要件1そのものである。
型枠に「むくり」を施す技術は,刊行物1発明を実施する場合にも,当然採用される技術である。また,こうした技術は先達の経験から案出された技術であり,当業者であれば当然知得している周知慣用技術として,本件特許出願よりも遥か以前より知られ実施されているものであり,このことは甲16ないし18,22,23等により明白である。
したがって,本件訂正発明1ないし4の本件相違点に係る構成を想到することは容易であるというべきである。
6 取消事由6(本件特許が冒認出願ついてされたものであるか否か) 本件特許は,本件特許に係る本件訂正発明1ないし4の発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利承継しないものの特許出願についてされたものであり,無効である。
(被告の反論) 1 取消事由1(本件訂正請求の違法の看過)について (1) 特許法126条3項について ア 原告は,特許請求の範囲に記載された複数の要件のうちのいくつかを削除する訂正は特許請求の範囲減縮ではなく,通常は特許請求の範囲拡張になるものであるところ,本件訂正は,本件訂正前の請求項5,7について,「,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」の記載を削除するものであるから,本件訂正は実質上特許請求の範囲拡張するものである旨主張する。
しかし,原告の上記主張が正しいといえるのは,複数の要件のすべてを具備することが必須である発明のうちのいくつかの要件を削除する場合(例えば,「A及びB」を「A」に訂正する場合)であり,選択的に記載されている複数の要件の一部の削除(例えば,「A又はB」を「A」に訂正する場合)が,特許請求の範囲拡張,変更するものでないことは明らかである。
かかる観点から本件訂正を検討すると,本件訂正前の請求項5,7は,本件特徴要件1(上記側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること)と「該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させること」(以下「本件特徴要件2」という。)の少なくとも一つを備える側溝蓋を有する側溝構造であることは明らかである。したがって,本件訂正は,本件特許時明細書の「特許請求の範囲」において選択的に記載されている複数の要件の一部を削除するものであるから,上記「特許請求の範囲」を拡張,変更するものではない。
イ 原告は,本件訂正により,本件特許時明細書の【0023】の「即ち,実施例1の両方向(RとS)への湾曲の代わりに,その一方向(内側方向R又は上方方向S)への湾曲とすることができるし,実施例2の内側方向Rのみの代わりに,上方側に向けての湾曲S及びその両方方向に向けての湾曲R,Sとすることもできる。図11及び図12に示す場合も同様に他態様とすることができる。」が削除されたことについて,かかる訂正は,本件訂正前の請求項5,7に係る発明の重要な特徴的要件である湾曲の方向を変更するものであることから,実質上,本件特許時明細書の「特許請求の範囲」の変更につながる旨を主張している。
しかし,特許発明技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきところ,本件訂正後の「特許請求の範囲」の記載によれば,本件訂正発明が本件特徴要件1(湾曲R)を備える側溝蓋を有する側溝構造であることは明確であり,本件訂正により,本件特許時明細書の【0023】の上記記載を削除したとしても,本件訂正発明の上記内容が変更されるものではない。
しかして,本件特徴要件1(湾曲R)を備える側溝蓋を有する側溝構造は本件訂正前の請求項5,請求項7に含まれていた発明であって,本件特許時明細書の【0023】の上記記載を削除する本件訂正は,何ら本件特許時明細書の「特許請求の範囲」を変更するものではない。
ウ 原告は,本件訂正前の請求項5,請求項7に係る発明には本件当初明細書中に記載されていない内容が本件補正によって加えられていることから,本件訂正は,本件当初明細書又は本件図面に記載した事項の範囲を超える内容を含む本件特許時明細書の「特許請求の範囲」を更に訂正するものとなっているが,かかる訂正は実質上「特許請求の範囲」の変更につながる旨主張する。
しかし,本件訂正が本件特許時明細書の「特許請求の範囲」の拡張,変更に該当するか否かは,本件特許時明細書の記載と本件訂正明細書の記載とを対比して判断すべきであり,本件当初明細書と対比して判断すべきものでない。本件当初明細書の記載と比較して,本件訂正は,本件特許時明細書の「特許請求の範囲」の拡張,変更に該当する旨の原告の上記主張は,その内容について論じるまでもなく失当である。
(2) 特許法126条2項について ア 原告は,本件訂正により,(ア)本件特許時明細書の請求項5,7の「,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」を削除すること,及び(イ)本件特許時明細書の【0023】の「即ち,実施例1の両方向(RとS)への湾曲の代わりに,その一方向(内側方向R又は上方方向S)への湾曲とすることができるし,実施例2の内側方向Rのみの代わりに,上方側に向けての湾曲S及びその両方方向に向けての湾曲R,Sとすることもできる。図11及び図12に示す場合も同様に他態様とすることができる。」を削除することは,本件特許時明細書の記載から直接的かつ一義的に導かれるものでないことから,本件訂正は,特許法126条2項の要件に反する旨主張する。
しかし,前記のように,本件訂正発明1及び3には,上記(ア)の訂正により,本件特徴要件1を備える側溝蓋を有する側溝構造,本件特徴要件1及び2の両方を備える側溝蓋を有する側溝構造が含まれることになるが,これらの側溝構造は,本件特許時明細書の【0012】(図4及び6参照),【0019】(図10参照)及び【0023】等に記載されている。また,上記(イ)の訂正によっても,本件訂正発明1及び3に上記2つの形態の側溝構造が含まれることに変わりはなく,これら2つの形態の側溝構造が本件特許時明細書に記載されていることは上記のとおりである。
したがって,上記(ア)の訂正及び(イ)の訂正は,本件特許時明細書から直接 的かつ一義的に導き出すことができる事項であることから,本件訂正は,本件特許時明細書に記載された事項の範囲内での訂正であり,特許法第126条2項の要件を満たすことは明らかである。
イ 原告は,本件訂正前の請求項5,7には本件当初明細書中に記載されていない内容が本件補正によって加えられており,本件訂正は,本件当初明細書又は本件図面に記載した事項の範囲を超える内容を含む本件特許時明細書の「特許請求の範囲」を更に訂正するものとなっているが,こうした訂正は本件当初明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出せるものではない旨を主張している。
しかし,本件訂正は,特許請求の範囲減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。したがって,本件訂正の基準となるのは,本件特許時明細書又は本件図面であって,本件当初明細書又は本件図面ではない。すなわち,訂正が明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるか否かは,本件特許時明細書又は本件図面と,本件訂正明細書又は本件図面とを対比して判断すべきものであり,本件当初明細書又は本件図面と対比して判断するものではない。仮に本件補正が違法であるとしても,それは本件訂正発明の無効理由として論じるべき問題であり,本件訂正の可否に何ら影響を与えるものではない。
ウ 原告は,上記ア(イ)の訂正により,本件訂正前の請求項5,7に係る発明の重要な特徴的要件である湾曲の方向が変更されることとなることから,当該訂正は,本件特許時明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出せるものではない旨を主張する。
しかし,この点は既に述べたとおり,かかる訂正によって何ら湾曲の方向自体は変更されるものでなく,また,上記のように,本件訂正発明は本件特許時明細書に記載されていることから,当該訂正は,本件特許時明細書の記載から直接的且つ一義的に導き出せる事項である。
(3) 特許法126条4項違反について 原告は,本件訂正発明1ないし4が独立特許要件を満たしていないことを根拠として,本件訂正請求を認容した本件審決の認定判断が違法である旨を主張する。
しかし,本件審判の請求は平成12年9月30日にされたものであり,本件訂正請求には特許法134条5項が適用される。そして,本件訂正後の請求項1ないし4は,本件審判で原告により無効審判の申立てがなされた請求項5ないし8を訂正した請求項である。
したがって,本件訂正の要件として,本件訂正発明1ないし4について,独立特許要件は不要であり,本件訂正発明1ないし4の独立特許要件の有無は,本件訂正の可否とは何の関係もない事項である。
2 取消事由2(明細書の記載不備の看過)について (1) 原告は,本件訂正発明1ないし4において,側溝蓋の側面を側溝蓋の両端面から中央にかけて側溝蓋の内側に向けて湾曲させたとしても,本件訂正発明においては,側溝蓋の側面全体が等しく側溝躯体に当接する状態にあるわけではないことから,側溝蓋と側溝躯体とが予め接触状態にない側面の部位にあっては,何の作用効果も奏しないことが明らかであり,本件訂正明細書記載の作用効果を奏することはないから,本件訂正明細書の記載は,特許法36条4項及び6項の要件を満たしていない旨主張する。
しかし,本件訂正明細書の【0014】,【0017】,【0025】の記載によれば,本件訂正発明は,側溝蓋に荷重が負荷される前には,隅部分でしかも4点(線接触部)での支持のため,側溝蓋がガタガタすることがない。この場合の接触部は線接触を示すので,クサビ効果に優れるものである。よって,側溝蓋と側溝躯体とが予め接触状態にない側面の部位に何の作用効果もなくても,隅部分でしかも4点(線接触部)での支持のため,側溝蓋がガタガタすることがなく,しかも,この場合の接触部は線接触を示すので,クサビ効果に優れるという本件訂正発明の作用効果自体には何らも影響はない。
また,本件訂正発明は,上記のように,側溝蓋に荷重が加わる前は,その側溝蓋の四隅の線接触部分が確実に接触するので,クサビ効果を有するとともに4点支持のため,側溝蓋がガタガタすることがなく,側溝蓋に荷重が負荷されると,すべての接触予定線部分で線接触となるので,同様にクサビ効果により,がたつき音を発生しない側溝構造である(以下,この作用効果を「2段階線接触によるクサビ効果」ということがある。)。すなわち,本件訂正発明は,荷重を加える前に,側溝蓋の側面全体が等しく側溝躯体に当接する状態にすることにより作用効果を奏することを目的とする発明ではない。
(2) 原告は,本件訂正発明1ないし4において,側溝蓋の4隅が側溝躯体に対して不均等な配置にある場合には,2点支持,3点支持のような不安定な状態になることから,単に本件特徴要件1を備えるのみでは,本件訂正明細書記載の作用効果を奏するものでなく,本件訂正明細書の記載は,特許法36条4項及び6項の要件を満たしていない旨主張する。
しかし,特許法36条4項の趣旨は,発明に対して一定期間独占排他権を付与する代償として,発明の内容を開示して公衆に知らしめ,利用させることを可能とすることにある。そして,明細書の記載は,特許出願時の当業者の知識を基準として作成されることから,当業者が容易に理解ないし推測して実施できる範囲内であれば,それ以上の説明を明細書中で省略しても,当業者は依然として特許発明実施できる以上,特許法36条4項の趣旨に反することはない。
かかる点から本件訂正明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識を検討すれば,本件特許出願時,側溝蓋の四隅が側溝躯体に対して均等な配置,すなわち,隅部分での4点支持で接触する側溝構造を製造することが技術的に不可能であったという事情は存在しない。また,本件訂正発明は,側溝蓋の4隅が側溝躯体に対して均等な配置とするために,精度を高めることを目的とした発明ではない。
したがって,本件特許出願時の技術常識に基づいて,側溝蓋の4隅が側溝躯体に対して均等な配置にある側溝構造,すなわち,隅部分での4点支持で接触する側溝構造を製造することは可能であり,特にその点について本件訂正明細書に記載がなくとも,当業者であれば容易に理解し,製造することができることは明らかである。
原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,本件訂正明細書中の【0012】及び【0019】,並びに本件図面(図2,図4〜6,図10及び図12)の記載内容からすれば,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させる部位は,「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であり,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させる部位も,「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であることが明らかであり,しかも,この両方の要件が重なって初めて本件発明の作用効果を奏し得るものであり,どちらか一方の要件のみで本件訂正発明が成立するものではないことから,本件訂正明細書の「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」及び本件図面の記載とは矛盾し,また,本件訂正発明の作用効果をも奏しない旨を主張する。
しかし,本件訂正明細書の【0012】の記載に鑑みれば,本件訂正発明にお いて,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させる部位は,「側溝蓋の両側面」であることは明らかであり,原告の上記主張には理由がないことは明らかである。
また,「この両方の要件が重なって初めて本件発明の作用効果を奏し得る」という原告の上記主張は,いかなる根拠に基づくものであるかが全く不明である。
本件訂正明細書の【0017】の記載に鑑みれば,@側溝躯体の蓋受部と接す るのは側溝蓋の両側面部であり,A「側溝蓋の両側面」を側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させれば,側溝蓋の隅部分でしかも4点(線接触部)での支持となり,荷重が加わって側溝蓋が沈下すれば,この荷重により4隅のみならず全ての接触予定線で接触するようになることは明らかである。すなわち,本件訂正発明は,本件特徴要件1(「側溝蓋の両側面」を側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させる)を備えていれば,上記の作用効果を奏することは,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」の記載から,当業者が容易に理解し得る事項であり,この点について本件訂正明細書の「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」の記載との間には何らも矛盾がないことは明らかである。
原告の上記主張には理由がない。
(4) 以上のとおり,原告の上記主張には理由がなく,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」の記載は,当業者が本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるように記載されていることは明らかである。
3 取消事由3(本件補正の違法の看過)について (1) 原告は,本件補正により追加された「側溝蓋の両側面」及び「側溝蓋の底面」の概念は,出願当初明細書及び図面において不明確であり,補正によって新たに追加された概念となっていることから,本件補正は違法な補正である旨主張する。
しかし,本件補正が新規事項の追加を含むか否かは,本件補正に係る事項が本件当初明細書又は本件図面に記載されているとみることができるか否かにかかることになる。
本件補正についてみると,「側面」というのは,「正面に対して左右の面」という意味であり,「底面」とは,「立体を平面上に置くとき底部をなす面」という意味であることは一般常識である(乙5)。また,本件図面のうち図2及び図5には,各々,側溝蓋の正面図及び側面図が記載されており,図4,10及び12には側溝蓋の模式的底面図が記載されている。したがって,「側溝蓋の両側面」とは,9a〜11aで示される部分(左側面),9b〜11bで示される部分(右側面)を意味し,「底面」とは,11aと11bの最下端を結ぶ面を意味することは,本件当初明細書及び本件図面の記載から当業者が常識的に理解できる事項である。
また,後記(2)のとおり,本件当初明細書には,本件特徴要件1(「該側溝蓋の側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させることを備える」)及び本件特徴要件2(「該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたこと」),並びにこれらの構成による作用効果が記載されていることから,本件補正によって,本件当初明細書又は本件図面に記載されているとはみることができない技術的事項が付加されたことにならないことは明らかである。
(2) 原告は,@本件当初明細書及び本件図面では,側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させる部位は,明らかに「側溝蓋の蓋下部垂直面部」であり,また,A側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させる部位も「側溝蓋の蓋下部垂直面部」である(このことは,本件特許時明細書及び本件図面,本件訂正明細書及び本件図面でも同じである。)のに,本件補正は,上記@の部位を「側溝蓋の両側面」に,上記Aの部位を「側溝蓋の底面」に変更したものであり,新規事項を追加する違法な補正である旨主張する。
しかし,上記のように,「底面」とは,11aと11bの最下端を結ぶ面を意味し,「側溝蓋の両側面」とは,9a〜11aで示される部分(左側面)と,9b〜11bで示される部分(右側面)を意味することは,本件当初明細書及び本件図面の記載から当業者が常識的に理解できる事項であり,また,本件図面のうち図4及び図6には,側溝蓋の「9a〜11aで示される部分」及び「9b〜11bで示される部分」が中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲(R)しており,出願当初明細書の図5及び図6より,「11aと11bの最下端を結ぶ面」,すなわち「底面」が「S」の分だけ上方側に湾曲していることは明らかである。このこと及び本件当初明細書の【0018】,【0023】の記載によれば,本件当初明細書に,本件特徴要件1及び本件特徴要件2が記載されていることは明らかである。
したがって,本件補正により,本件当初明細の記載内容を上記のとおり補正することは,本件当初明細書に記載された事項の範囲内の補正であることは明らかである。
(3) 以上のとおり,本件補正は,本件当初明細書及び本件図面に記載した事項の範囲内の補正であり,何ら新規事項を追加する違法な補正でないことは明らかである。
4 取消事由4(本件訂正発明1,2の公然実施の有無) 本件訂正発明1,2が本件特許出願前に公然実施されたものであるとの原告の主張はすべて争う。
5 取消事由5(本件訂正発明1ないし4の進歩性に関する判断誤り) (1) 特許法29条2項による進歩性判断の際,基礎となる公知発明の認定は,同条1項1号ないし3号に掲げる発明に該当するか否かの点から行うものである以上,それは新規性の判断,すなわち,ある発明が特許法29条1項1号ないし3号に掲げる発明に該当するか否かという判断と何ら変わるものではない。
そして,甲5,8,11及び12が,本件訂正発明の公然実施の証拠として採用できないものであることは本件審決の判断するとおりであるから,これらを進歩性の有無の判断の基礎となる引用例から排除することは至極当然のことである。
(2) 原告は,本件特徴要件1については,型枠で側溝蓋等のコンクリート二次製品を製造する場合,型枠に「むくり」を施すことによって,従来より業界内では一般的に実施されていた旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,何ら根拠のないものであり,単なる空論に過ぎない。
6 取消事由6(本件特許が冒認出願によるものか否か) 原告は,本件特許は,本件訂正発明の発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利承継しない者の特許出願について特許されたものである旨主張するが,すべて争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正請求の違法の看過)について (1) 特許法126条3項違反について 本件訂正は,@本件訂正前の請求項1ないし4を削除し,A本件訂正前の請求項5を請求項1に繰り上げるとともに,「,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」の記載を削除し,B本件訂正前の請求項7を請求項3に繰り上げるとともに,「,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけ該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」の記載を削除するとの訂正をするものであるところ,原告は,上記A及びBに係る訂正,すなわち,「上記側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備える」を,「上記側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること」に変更する訂正が「特許請求の範囲」を拡張または変更するものである旨主張する。
しかしながら,上記A及びBの訂正は,「A構成及びB構成の少なくとも一方を備える」という構成要件,すなわち,「A構成を備えるか,B構成を備えるか,あるいは,A構成とB構成の両方を備える」との3態様のいずれかを選択できるとの構成要件の記載を,「A構成を備える」との1態様の構成要件のみに限定する趣旨のものであり,かかる訂正が「特許請求の範囲」の減縮に該当することは明らかである。
原告の上記主張は,本件特許時明細書の「特許請求の範囲」の記載について誤った理解を前提とするものであり,失当である。
(2) 特許法126条2項違反について ア 原告は,本件訂正前の請求項5,7には本件当初明細書中に記載されていない内容が本件補正によって加えられており,本件訂正は,本件当初明細書又は本件図面に記載した事項の範囲を超える内容を含む本件特許時明細書の「特許請求の範囲」を更に訂正するものとなっているが,こうした訂正は本件当初明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出せるものではない旨を主張している。
しかし,本件訂正が許されるか否かは,本件訂正が本件特許時明細書又は本件図面に記載した事項の範囲内であるか否かで判断すべきものあり,それが本件当初明細書又は本件図面に記載された事項の範囲内であるか否かにより判断すべきものではない。したがって,仮に本件補正が違法であるとしても,それは本件訂正発明の無効理由になることはあっても,本件訂正の可否には何ら影響を与えるものではない。
イ 原告は,本件特許時明細書の【0023】の「即ち,実施例1の両方向(RとS)への湾曲の代わりに,その一方(内側方向R又は上方方向S)への湾曲とすることができるし,実施例2の内側方向Rのみの代わりに,上方側に向けての湾曲S及びその両方方向に向けての湾曲R,Sとすることもできる。図11及び図12に示す場合も同様に他態様とすることができる。」の記載を削除する訂正は,本件訂正前の請求項5,7に係る発明の重要な特徴的要件である湾曲の方向を変更するものであると主張する。
しかしながら,本件訂正のうち,本件訂正前の請求項5を請求項1に繰り上げるとともに,「,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」の記載を削除し,本件訂正前の請求項7を請求項3に繰り上げるとともに,「,及び該側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけ該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させたことの少なくとも一方を備えること」の記載を削除する訂正が,「特許請求の範囲」を拡張ないし変更するものでないことは前記(1)に説示したとおりであり,本件特許時明細書の【0023】の訂正は,同明細書の「発明の詳細な説明」の記載を,上記「特許請求の範囲」の訂正に対応させたものにすぎない。本件訂正では,上記段落【0023】の記載のみならず,段落【0004】〜【0009】等においても,一貫して「上方方向Sへの湾曲」の態様は削除され,「内側方向Rへの湾曲」のみに限定されており,本件訂正後の請求項1,請求3の限定事項と矛盾のない内容となっている。本件訂正は,「上方方向Sへの湾曲」の態様を削除するという意味で一貫しており,原告の主張するような誤りは認められない。
ウ 原告の上記主張はいずれも失当である。
(3) 特許法126条4項違反について 原告は,本件訂正発明1ないし4が特許法126条4項の規定する独立特許要件を欠くとして,本件訂正請求を認容した本件審決の認定判断は違法である旨を主張する。
しかし,本件審判の請求は平成12年9月30日にされたものであるから,本件訂正請求には特許法134条5項,126条4項が適用されるところ,本件訂正後の請求項1ないし4は,本件審判で原告により無効審判の申立てがなされた請求項5ないし8を本件訂正により訂正した請求項である。したがって,本件訂正請求において,本件訂正発明1ないし4が独立特許要件を満たすことは訂正の要件とされていないというべきである。
この点に関する原告の主張は,本件訂正の要件について誤った解釈に基づくものであり,失当である。
2 取消事由4(本件訂正発明1,2の公然実施の有無)について 原告は,本件訂正発明1,2は,本件特許出願前に公然実施された発明であり,特許法29条1項2号の規定により特許を受けることができないものである旨主張するので,以下検討する。
(1) 岐阜地方裁判所平成9年(ヨ)第108号不正競争行為差止等仮処分申請事件(以下「別件仮処分申請事件」という。)において,債務者である被告が提出した平成9年7月18日付け準備書面(甲5)には,被告が現在,製造・販売している商品は同準備書面別紙イ号物件目録記載の物件であること,同物件は本件特徴要件1(側溝蓋の両側面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の内側に向けて湾曲させること)及び本件特徴要件2(上記側溝蓋の底面を該側溝蓋の両端面から中央にかけて該側溝蓋の上方側に向けて湾曲させること)を備えているが,それらは,被告のノウハウに係る所であり,そのため今まで公表しなかったものである旨,別紙イ号物件目録記載の物件は本件訂正発明1,2と同じ作用効果を有する旨の主張が記載され,また,別紙イ号物件目録には本件訂正発明1,2と同じ構成を有する物件が記載されている。
甲5で引用されている乙13(本訴甲6)の4の写真GないしOは上記の別紙イ号物件目録記載の物件の写真であり,甲7によれば,それは被告会社の社員が平成9年6月30日に撮影したものであると認められる。
(2) 別件仮処分申請事件において,債務者である被告が提出した平成10年3月2日付け準備書面(甲8)には,@「債務者(注:被告)及びその契約社製造にかかる商品は乙53(本訴甲9)の写真記載のとおりであり,いずれも債権者(注:原告)の主張するように約26・6ミリにわたる幅広い部分で接触するものではなく,側溝蓋は側溝本体の角部で約3〜5ミリ以下の範囲で線接触している。」,A「債務者(注:被告)商品に存在する側溝蓋全体のしぼり構造(内側方向並びに上方向への湾曲)も荷重がかからない初期においては,側溝蓋の各側面の4点が確実に支持され,この4点でクサビ効果が得られ,荷重がかかった後においては,全体の線接触部分でのクサビ効果が得られるという消音性,安全性によりすぐれた効果を有するものとして,意識的に採用したもので,債権者(注:原告)主張のように許容される誤差の範囲内のものとは到底いえない。」との主張が記載されている。上記Aの記載は,被告において,被告の製造販売に係る商品が本件訂正発明1,2と同様に本件特徴要件1及び本件特徴要件2を備えるものであること,それが本件訂正発明1,2と同じ作用,効果を有することを自認したものにほかならない。
そして,甲8が引用する乙53(本訴甲9)には,埼玉県北本市の現場2における被告の製造販売に係る側溝を撮影した写真が掲載されており,これと甲15とを併せてみれば,上記写真の側溝は,埼玉県北本市において,工期を平成8年9月2日〜平成9年1月10日として施工された市道2435号線道路補修工事の側溝施工現場のものであると認められる。
上記乙53(本訴甲9)の現場写真についてみると,現場写真No.2@〜Bによれば,同現場写真にある側溝が,本件訂正後の請求項1の構成要件のうち,「対向する側溝壁内面に形成された上部傾斜面部,該上部傾斜面部に連続して下方に延設された湾曲面部及び該湾曲面部に連続して下方に延設された下部垂直面部を有する側溝躯体と,上記上部傾斜面部に対し微小間隙を介して対峙される蓋上部傾斜面部,該蓋上部傾斜面部に連続して下方に延設されて,上記湾曲面部に対し線接触しながら対峙される蓋湾曲面部及び該蓋湾曲面部に連続して下方に延設されて,上記下部垂直面部に微小間隙を介して対峙される蓋下部垂直面部を有する側溝蓋」に相当する構成を備えていることを看取でき,同現場写真No.2Eには,側溝蓋の蓋湾曲面部に対し該側溝蓋の延長方向(両端面を結ぶ方向)に沿って側溝蓋の両端面において接触するように鋼尺をあてがった状態,及び側溝蓋の中央で蓋湾曲面部と該鋼尺との間に隙間ゲージが差し込まれている状態が撮影されており,このことことから,同写真にある側溝蓋においては,その側面が側溝蓋の両端面から中央にかけて側溝蓋の内側に向けて湾曲していることが理解される。したがって,上記現場写真2にある側溝は,甲8に記載のとおり,本件特徴要件1を備えた本件訂正発明1の構成を有するものであるということができる。
(3) 証拠(甲35ないし38)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告を相手方として,本件特許出願日(平成9年7月17日)の前である同年6月17日,被告の製造販売に係る側溝が原告の特許権を侵害するなどとして,岐阜地方裁判所に特許権侵害差止等請求事件(平成9年(ワ)第348号。別件訴訟の一部として併合審理された。)を提起し,その訴状において被告の製造販売に係る側溝を同訴状添付イ号物件目録に特定して記載したところ,被告は同年8月4日付けの答弁書において,被告が側溝を製造・販売してきたことは認めるが,被告の製造販売に係る商品が訴状添付イ号物件目録記載のものであることは否認するとした上,被告の製造販売に係る側溝の構成要件,作用,効果について主張をし,その後に提出した準備書面においても同趣旨の主張をしていること,その構成,作用,効果は,まさに本件訂正発明1,2の構成,作用,効果と同一であることが認められる。
(4) 証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,別件訴訟において,本件特許権に関して,「被告は,平成6年後半,試行錯誤の末,くさび効果により騒音を発生させない側溝を考案し,試作,実験を繰り返した結果,平成7年秋に製品を完成させ,工業所有権出願の準備にかかった。くさび効果とは,側溝躯体と側溝蓋が線接触し,側溝躯体の角部で側溝蓋を支えることによって,蓋の垂直加重の力線が分散されることなく,側溝躯体の角部上の線接触部でしっかり固定されるとともに,側溝蓋が側溝躯体の角部において下方側に若干沈下して,しっかりと食い込むという効果であり,これにより,騒音防止を図るものである。ところで,くさび形の場合,蓋と本体の接触部において最も荷重がかかるため,強度上,鉄筋を接触部の接点より外側に配筋する必要があったが,当初作成した傾斜面型は,側溝蓋と本体の接触部の接点により内側に鉄筋が配置されるため,強度の点で弱点があり,蓋と本体の傾斜面部を外側にふくらませる必要があった。そこで,被告は,平成7年11月16日と17日に,傾斜面を連続した角の折り曲げでふくらませる図面を作成し,同月28日と30日に,被告が開発当初より型枠製作を依頼していた青影製作所にファクス送信したところ,同社はパイプを用いて鉄板を折り曲げることを提案し,同年12月16日付けで,蓋と本体の接触面部を曲面にした図面を持参した。被告は,以後,この型を原型として,蓋にしぼり(注:内側方向並びに上方向への湾曲)を入れる方法を3か月かけて考案し,ようやく,平成8年3月,現行の試作品を完成させ,実際に敷設したものである。」との主張をしたことが認められる。このことは,平成8年3月ころに本件訂正発明1,2の構成を有する試作品(側溝)が完成したことを意味するものと解される。
そして,証拠(甲29ないし34)によれば,被告代表者のAは,同訴訟における本人尋問(甲29)において,埼玉県南埼玉郡(以下省略)のあやめ会館前で,工期を平成8年1月12日〜同年3月31日として行われた側溝施工工事及び埼玉県幸手市(以下省略)において,工期を平成8年5月7日〜同年6月14日として行われた市道1108号線道路改良工事において,被告が製造販売した上記試作品(側溝)が敷設されたことを認めている。
(5) 特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは,その発明の内容を不特定の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうものであり,同法2条3項1号によれば,この場合の「実施」とは,物の発明にあっては,その物を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸し渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をする行為をいうものとされているところ,前記(1)ないし(4)の認定の事実によれば,被告は,本件特許出願前に本件訂正発明1,2の構成を有する側溝を製造して,これを側溝工事用として工事業者に販売譲渡し,それが現に上記各工事現場で敷設されたことが明らかである。
本件のような物の発明の場合には,購入者が販売者からその発明の内容に関しその分析等の試験を行うことを禁じられているなど特段の事情がない限り,購入者は製品を自由に分解・分析してその発明の内容を知ることができるし,また,本件訂正発明1,2に係る側溝は屋外の公道で敷設されるものであるから,該側溝の工事業者等への販売,工事業者による該側溝の敷設により,本件訂正発明1,2は不特定の者が知り得る状況におかれたことになるというべきである。
したがって,本件訂正発明1,2は,特許法29条1項2号にいう「特許出願前に日本国内において公然実施された発明」に該当するというべきである(なお,仮に本件訂正発明2が本件特許出願前に日本国内において公然実施されたと認められないとしても,本件訂正発明2は,本件訂正発明1を引用し,これを「湾曲は連続的であり且つ線対称を示す」との構成により限定するものであるが,後記3(2)アに認定のとおり,この限定事項によっても発明が奏する作用,効果に変化はなく,その内容に照らしても,それは当業者が適宜選択できる単なる設計事項にすぎないと解されるから,本件訂正発明2に進歩性を認めることはできない。)。
(6) 以上によれば,本件審決には本件訂正発明1,2の新規性に関する判断を誤った違法があり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。したがって,取消事由4は理由がある。
3 取消事由5(本件訂正発明1ないし4の進歩性に関する判断誤り)について (1) 本件訂正発明1,2が特許法29条1項2号にいう「特許出願前に日本国内において公然実施された発明」に該当するというべきことは,前記2で説示したとおりである。
(2) そこで,進んで,本件訂正発明3,4が進歩性を有するか否かについて検討する。
ア 本件訂正発明1と本件訂正発明3とは,本件訂正発明1では,側溝躯体において,対向する側溝壁内面の上部に形成されるのが「上部傾斜面部」で,これに連続して下方に延設されるのが「湾曲面部」であり,また,側溝蓋において,上記「上部傾斜面部」に対し微小間隙を介して対峙されるのが「蓋上部傾斜面部」で,これに連続して下方に延設されて,上記「湾曲面部」に対し線接触しながら対峙されるのが「蓋湾曲面部」であるのに対し,本件訂正発明3では,側溝躯体において,対向する側溝壁内面の上部に形成されるのが「上部垂直面部」で,これに連続して下方に延設されるのが「傾斜面部」であり,また,側溝蓋において,上記「上部垂直面部」に対し微小間隙を介して対峙されるのが「蓋上部垂直面部」で,これに連続して下方に延設され,上記「傾斜面部」に対し線接触しながら対峙されるのが「蓋傾斜面部」である点において相違するだけであり,他の構成要件は一致している。
しかして,本件訂正発明3の上記相違点に係る構成は,刊行物2(甲4)に記載されているとおり,公知の技術事項であり,本件訂正発明1の「上部傾斜部」ないし「蓋上部傾斜部」や「湾曲面部」ないし「蓋湾曲面部」に代えて,「上部垂直面部」ないし「蓋上部垂直面部」や「傾斜面部」ないし「蓋傾斜面部」の構成を採用することは,当業者が必要に応じて適宜選択することができる程度のことであり,当業者において本件訂正発明3の上記相違点に係る構成を想到することは容易であると認められる。
また,本件訂正明細書(甲20)には,本件訂正発明の効果として,「本第1乃至第4発明(注:本件訂正発明1ないし4)の各側溝構造によれば,まず,側溝蓋の4隅の線接触部分が確実に接触するので,クサビ効果を有するとともに4点支持のため,側溝蓋がガタガタすることがない。更に,側溝蓋に荷重が負荷されると,全ての接触予定線部分で線接触となるので,同様にクサビ効果により,がたつき音を発生しない。・・・」(段落【0025】)と記載されており,本件訂正発明1と本件訂正発明3とで作用,効果には差異がないとされている。
したがって,本件訂正発明3に進歩性を認めることはできない。
イ 本件訂正発明4は,本件訂正発明3を引用し,これを「湾曲は連続的であり且つ線対称を示す」との構成により限定するものであるが,上記ア認定の本件訂正明細書の段落【0025】の記載のとおり,この限定事項の付加によっても発明が奏する作用,効果に変化はなく,その内容に照らしても,それは当業者が適宜選択できる単なる設計事項にすぎないと解される。したがって,本件訂正発明4にも進歩性を認めることはできない。
ウ したがって,本件訂正発明3,4に進歩性は認められない。
(3) 以上によれば,本件審決には本件訂正発明3,4の進歩性に関する判断を誤った違法があり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。したがって,取消事由5は理由がある。
4 以上の次第で,原告主張の取消事由4,5はいずれも理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人