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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ3485特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成19ネ10036特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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平成15ワ18472特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 改良発明 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  実施料相当額 /  対象製品 /  参酌 /  均等 /  均等侵害 /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  算定方法 /  逸失利益 /  販売数量(販売数) /  譲渡数量 /  単位数量 /  乗じた額 /  実施能力 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  合理的な理由 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10047号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(被告) ファミリー株式会社
訴訟代理人弁護士 三山峻司
補佐人弁理士 角田嘉宏,高石郷,西谷俊男,古川安航
被控訴人(原告) 東芝テック株式会社
訴訟代理人弁護士 大場正成,尾崎英男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決を以下のとおり変更する。
,, (1) 控訴人は 原判決別紙物件目録の(3)及び(4)の椅子式マッサージ機の製造販売,販売の申出をしてはならない。
(2) 控訴人は その占有する原判決別紙物件目録の(3)及び(4)の椅子式マッサー ,ジ機を廃棄せよ。
(3) 控訴人は,被控訴人に対し,1148万8500円及び内金293万0400円に対する平成13年3月6日から支払済みまで年5分の割合による,内金855万8100円に対する平成14年5月9日から年5分の割合による,各金員を支払え。
(4) 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを300分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。
3 この判決は,主文第1項(3)に限り,仮に執行することができる。
-2-
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人は 「(1)原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。(2)被控訴人の請求 ,をいずれも棄却する 」との判決を求めた。 。
2 被控訴人は 「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。なお,被控訴人の ,。
第1,2審における請求は,以下のとおりである。
(1) 控訴人は,原判決別紙物件目録の(1)ないし(4)の椅子式マッサージ機の製造,販売,販売の申出をしてはならない。
(2) 控訴人は,その占有する別紙物件目録(1)ないし(4)の椅子式マッサージ機を廃棄せよ。
(3) 控訴人は,被控訴人に対し,36億5669万7000円及び内金19億257万4000円に対する平成13年3月6日から,内金17億5412万3000円に対する平成14年5月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本判決においては,原判決と同様に又はこれに準じて 「本件特許1 「本件発明1 「本件明 ,」」細書1 「被控訴人製品 「控訴人製品 「フジ医療器 「松下電工」等の略称を用いる。 」」」」1 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,椅子式マッサージ機である控訴人製品1〜4(原判決別紙物件目録記載の(1)ないし(4))を製造,販売等する控訴人の行為が,被控訴人の有する本件特許権1〜5を侵害するとして,@控訴人各製品の製造,販売等の差止め,A同各製品の廃棄,B損害賠償等として36億5669万7000円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である(ただし,第1,2審とも,本件特許権2に基づく控訴人製品3及び本件特許権4に基づく控訴人製品2〜4の差止め等の請求は,本訴請求から除外されている 。。)2 原判決は,控訴人製品1は,本件発明1,3,4,5の,控訴人製品2は,本件発明1,3,5の,控訴人製品3は,本件発明1,5の,控訴人製品4は,本件発明1,5の各技術的範囲に属し,かつ本件特許権1,2,3,5について無効理由が存在することは明らかとはいえない(本件特許権4について明らかな無効理由が存在するとの主張はされていない )と認定判断し,さらに,控訴人製品1, 。
2は現時点では設計変更され生産もされていないことなどを考慮して,@控訴人製品3,4の製造,販売等の差止め,A控訴人製品3,4の廃棄,B損害賠償等として15億4744万3172円及び遅延損害金の支払いを認容した。
そこで,控訴人は,原判決を不服として,控訴した(なお,被控訴人は,以下に述べる経緯はあったものの,当審においても,原審におけると同じ上記請求を維持している 。。)3 本件特許1〜5に関する無効審判及び審決取消訴訟の経過及び結論は,以下のとおりである。
(1) 本件特許1(特許第3012127号)控訴人は,平成13年11月8日,本件特許1に関し,無効審判(無効2001-35499号)を請求し,特許庁は,平成14年7月31日,同特許を無効とする旨の審決をした。これに対し,被控訴人は,東京高等裁判所に審決取消訴訟(平成14年(行ケ)第427号事件)を提起したが,同裁判所は,平成16年3月23日,被控訴人の請求を棄却する旨の判決をし(乙146 ,同判決に対する上告 )受理申立て(平成16年(行ヒ)第189号)は受理されなかった(乙163 。)これにより,本件特許1を無効とすべき旨の審決は確定した。
(2) 本件特許2(特許第3014572号)控訴人は,平成13年12月5日,本件特許2に関し,無効審判(無効2001-35530号)を請求し,特許庁は,平成14年7月31日,訂正を認めた上,控訴人の審判請求は成り立たない旨の審決をした。これに対し,控訴人は,審決取消訴訟(平成14年(行ケ)第459号事件)を提起したところ,同裁判所は,平成16年3月23日,審決を取り消す旨の判決をし(乙147 ,同判決に対する)上告受理申立て(平成16年(行ノ)第63号)は却下された(乙158 。同判),, , , 決を受けて 特許庁は 平成17年2月7日 本件特許2について訂正を認めた上同特許を無効とする旨の審決をし(乙171 ,同審決は確定した。 )これにより,本件特許2を無効とすべき旨の審決は確定した。
(3) 本件特許3(特許第3012774号)控訴人は,平成13年12月4日,本件特許3に関し,無効審判(無効2001-35526号)を請求し,特許庁は,平成14年6月20日,同特許を無効とする旨の審決をした。これに対し,被控訴人は,東京高等裁判所に審決取消訴訟(平() ) , , , 成14年 行ケ 第341号 を提起したが 同裁判所は 平成16年3月23日被控訴人の請求を棄却する旨の判決をし(乙148 ,同判決に対する上告受理申 )立て(平成16年(行ヒ)第182号)は受理されなかった(乙164 。)これにより,本件特許3を無効とすべき旨の審決は確定した。
(4) 本件特許4(特許第3012780号)本件特許4は,特許第3012780号の請求項3に係る特許であるところ,控訴人は 平成13年11月16日 本件特許4の請求項1〜4に関し 無効審判 無 ,, ,(効2001-35508号)を請求し,特許庁は,平成14年7月31日,訂正を認めた上で,請求項1に係る特許を無効とし,請求項2〜4に係る特許についての審判請求は成り立たない旨の審決をした。
控訴人は,上記審決のうち,請求項2〜4に係る審判請求が成り立たないとした部分について,東京高等裁判所に審決取消訴訟(東京高裁平成14年(行ケ)第460号)を提起したところ,同裁判所は,平成16年3月23日,上記審決のうち請求項2〜4に係る発明について審判請求は成り立たないとした部分を取り消す旨の判決をし(乙149 ,同判決に対する被控訴人の上告受理申立て(平成16年 )(行ヒ)183号)は受理されなかった(乙165 。その後,被控訴人は,請求 ),( ) ,, 項3について 訂正審判 訂正2004-39172号 を請求したが 特許庁は平成17年4月26日,審判請求は成り立たない旨の審決をするとともに(乙172 平成17年8月2日 請求項2〜4に係る特許を無効とする旨の審決をし 乙 ),, (173 ,同審決は確定した。 )これにより,本件特許4を無効にする旨の審決は確定した。
(5) 本件特許5(特許第3121727号)控訴人は,平成13年12月11日,本件特許5について無効審判(無効2001-35537号)を請求し,特許庁は,平成14年6月20日,審判請求は成り立たない旨の審決(乙73)をした。これに対し,控訴人は,東京高等裁判所に審決取消訴訟(平成14年(行ケ)386号事件)を提起したが,平成15年9月29日,同裁判所は控訴人の請求を棄却する旨の判決をした(乙153 。)控訴人は,平成14年10月15日,2回目の無効審判(無効2002-35436号)の請求をし(乙96 ,特許庁は,平成15年4月2日,審判請求は成り )立たない旨の審判をした(甲56 。)さらに,控訴人は,本訴が当審に係属中の平成16年5月11日,3回目の無効審判(無効2004-80055号)を請求したが(乙156 ,特許庁は,平成)16年9月28日,審判請求は成り立たない旨の審決(乙166)をした。これに対し,控訴人は東京高等裁判所に審決取消訴訟(当庁平成17年(行ケ)10339号事件)を提起し(乙167 ,同事件は当裁判体に係属した。当裁判体は,平 )成17年12月1日,控訴人の請求を棄却する旨の判決をし(甲60 ,同判決に)対する上告受理申立て(平成18年(行ヒ)第53号)は受理されなかった(甲61。)(6) まとめ以上のとおり,本件特許1〜5のうち,1〜4については,これを無効とする旨の審決が確定したので,これらの特許権は初めから存在しなかったものとみなされ。, , 。 ることとなる したがって 当審においては 本件特許5の侵害のみが問題となる4 本訴において,当事者間に争いのない前提事実は,以下のとおりである。
(1) 本件発明5の構成要件(甲23)A1 圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用袋体が配設された座部,A2 及びこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部とを有する椅子本体と,A3 前記座部の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部と,A4 圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段と,A5 この圧搾空気供給手段からの圧搾空気を給排気管を介して前記各袋体に分配して供給する分配手段と,A6 前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードを含む複数の動作モードを入力する入力手段と,A7 この入力手段から前記動作モードの中から所望の動作モードが入力されたときこの動作モードに応じて前記袋体への給排気を行うように前記圧搾空気供給手段及び分配手段を制御する制御手段とを備え,B 前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨張することを特徴とするC 椅子式エアーマッサージ機。
(2) 控訴人の行為控訴人は,控訴人各製品を製造,販売した。なお,控訴人製品3及び4は,それぞれ控訴人製品1及び2の脚部の設計を変更した製品であり,控訴人が,本訴提起後に,製造,販売したものである。
(3) 本件発明5と控訴人各製品との対比控訴人製品1,2は,本件発明5の構成要件A2ないしA7,Cを充足する。控訴人製品3,4は,同発明の構成要件A2,A4ないしA7,Cを充足する(したがって,控訴人製品1,2については,構成要件A1,Bの,控訴人製品3,4については,構成要件A1,A3,Bの充足が問題となる 。。)
当事者の主張の要点
以上のとおり,本件特許1〜4の無効が確定したため,当審では本件特許5の侵害のみが問題となるところ,本件の主たる争点は,@控訴人各製品が本件特許5の構成要件を充足するかどうか,A同特許権の均等侵害の成否(予備的主張 ,B本)件特許5の有効性,C損害額である(なお,本件特許5の有効性についての当事者の主張は,後記「第4 当裁判所の判断 「3 本件特許5の有効性について」記 」載のとおり 。。)1 控訴人各製品についての構成要件充足性この点についての当事者の主張は,以下のとおり付加,補充するほかは,原判決の「第2 事案の概要 「2 争点及び当事者の主張 「(1) 控訴人各製品の構成」及 」」び同「(2) 本件各発明と控訴人各製品との対比 「オ 本件発明5について」記載の 」とおりであるから,これを引用する。
(1) 構成要件A1,Bの充足性ア 「押上げる (構成要件A1,B)の意義 」(被控訴人の主張)原判決は,本件特許5の請求項1の「押上げるように膨脹する」との意味について,尻部,腿部が持ち上げられて筋肉を伸ばし得る程度の押圧力を意味すると判示したが,正当である。
本件発明5は,尻部や大腿部を押圧する空気袋(座部用袋体)と脚部を挟み付ける空気袋(脚用袋体)とを組み合せた構成であり,袋体の膨張のタイミングを制御し,脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押上げるように膨張することにより,大腿部をストレッチ(引き伸ばし)する作用効果を奏する。
「ストレッチ」という用語は,特許請求の範囲に記載されている文言ではなく,本件明細書5(甲23)の発明の詳細な説明において,本件発明5の作用効果の記。,「 」 , 述として用いられているにすぎない 控訴人は この ストレッチ という用語を床の上で行うストレッチ体操の「ストレッチ」と同義であり,尻部,腿部が持ち上げられる程度では足りないと主張するが,本件発明5は椅子式エアーマッサージ機の発明であり,その座部用袋体は,着座した使用者の体重に抗して膨張するのであるから,使用者の身体自体を上方に持ち上げるようなものでないことは常識的に明らかである。
したがって,控訴人製品は,いずれも構成要件A1,Bの「押上げる」との構成を充足する。
(控訴人の主張)構成要件A1,Bの「押上げる」との用語の意義についての原判決の認定は誤りである。
本件発明5の出願当時の公知技術に照らすと,本件発明5は,脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージするという格別顕著な効果を奏するからこそ,特許性が認められたものである 「ストレッチ」との用語は,本件明細書5に定義がな 。
い以上,字義どおり,緊張が感じられる程度あるいは張りを感じる程度まで筋肉を伸展・伸張することを意味すると理解すべきである。原判決のいうような尻部,腿部が持ち上げられる程度では 「押上げる」ということはできない。 ,控訴人各製品が膨脹する座部用袋体を備えていることは事実であるが,フットレストの脚用袋体を膨脹させてから座部用袋体を膨脹させたときも,フットレストの脚用袋体を膨脹させないで座部用袋体だけを膨脹させたときも,腿部や尻部の筋肉に与える押圧力はほとんど違わない。
したがって,控訴人製品は,いずれも構成要件A1,Bの「押上げる」との構成を充足しない。
イ 「脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で」との要件(構成要件B)の充足性(被控訴人の主張)控訴人製品は 「脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で」との要件 ,(構成要件B)を充足する。控訴人は,控訴人製品のフットレストの空気袋が膨脹を開始した後に,座部の空気袋が膨脹すると,フットレストの空気袋の空気が座部の空気袋に逆流すると主張するが,仮にそのような事態が生じるとしても,控訴人製品のフットレストの空気袋の圧力が一時減少するにすぎず,その後は,フットレストの空気袋と座部の空気袋の圧力がいずれも増加していくのであるから,脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押し上げるように膨張することに変わりはない。
(控訴人の主張)弁護士C作成に係る意見書(乙133)には,控訴人製品には,座部の空気袋への空気の給排を制御する弁と,フットレストの空気袋への空気の給排を制御する弁とが共通の空気室に設けられており,フットレストの空気袋が膨脹を開始した後に座部の空気袋が膨脹を開始すると,座部の空気袋の膨脹開始時において,フットレ。, ストの空気袋の空気が座部の空気袋に逆流することが指摘されている したがって控訴人製品は,いずれも,使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨張するものとはいえず,構成要件Bの「脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で」との要件を充足しない。
(2) 構成要件A3の充足性(被控訴人の主張)原判決は,本件発明5の「脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部」は,左右の各脚部の各々の両側に脚用袋体が配置される構成には限定され,, , ないと認定し 控訴人製品3 4が本件発明5の技術的範囲に属すると判断したがこの認定判断は正当である。
構成要件A3は 「膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配 ,設された脚載置部」と規定しており 「左右の脚部のそれぞれをその両側から挟持 ,する脚用袋体」に限定されていない。
本件発明5における脚用袋体の特徴的機能は,膨張時に使用者の脚部を挟持して固定することにある。こうした本件発明5における脚用袋体の目的,機能に照らすと 「膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置 ,部」とは,控訴人製品3,4のように,両方の脚部の間にフットレストの中間壁や同壁に配設されたウレタンチップ等を介在させ,両方の脚部を一体のものとして両側から挟持する場合をも包含すると解すべきである。
したがって,控訴人製品3,4は,構成要件A3を充足する。
(控訴人の主張)構成要件A3の「使用者の脚部をその両側から挟持する」との文言についての原判決の解釈は誤りである。
本件発明5は,脚部を挟持し,その動きの自由を奪って拘束した状態で使用者を押し上げるものであり,特許請求の範囲にも「脚部をその両側から挟持する」と記載され,本件明細書5の実施例にも,左右の脚部のそれぞれをその両側から挟持する脚用袋体のみが開示されている。このような記載に照らすと,本件発明5は,左右の脚部の各々の両側に脚用袋体が配置されることを要し,両方の脚部の間に中間壁や同壁に配設されたウレタンチップが介在するにすぎない控訴人製品3,4は,本件発明5の技術的範囲には属さないと解釈することが,自然かつ合理的である。
2 均等侵害の成否被控訴人は,当審において,仮に,本件発明5の「脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部」が,左右の各脚部の両側に脚用袋体が配置される構成を意味するとしても,控訴人製品3,4は本件発明5の構成と均等なものとして,本件発明5の技術的範囲に属すると主張した。この点についての当事者の主張は,以下のとおりである。
(1) 本質的部分(第1要件)(被控訴人の主張)控訴人製品3,4は,本訴が提起されたために,控訴人がそれまで製造販売していた控訴人製品1,2を設計変更し,改めて製造,販売を始めた製品である。控訴,, , 人製品1 2においては その脚載置部の両方の側壁に空気袋が配置されていたが控訴人製品3では,その一方の空気袋がチップウレタン及びウレタンフォームに置換され,控訴人製品4では,一方の空気袋がチップウレタン及び低反発ウレタンに置換されている。
控訴人が置換した控訴人製品3,4の上記構成は,本件発明5の本質的部分ではない。
本件発明5の特徴的部分は,構成要件A3の「座部の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨脹し,膨脹時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部」との構成,本件発明5の各構成要件を備えた商業化可能な椅子式エアーマッサージ機としての全体的な構成,構成要件Bの脚用袋体と座部用袋体の膨脹のタイミングの構成にある。
各脚部を袋体によってその両側から挟み揉みすることは,ふくらはぎのマッサージの機械化という,公知技術に全く存在しなかった課題を解決する手段であり,そのために脚載置部に配設された袋体によって脚部を挟みつけるところに特徴がある。
控訴人製品3,4は,一方の袋体を側壁に設けたチップウレタン等で置換し,袋体の膨張によって生じる押圧力と,これによって生じる側壁からの反作用の力で脚部を両側から挟み付けるものである。側壁に設けたチップウレタン等は,袋体と同じマッサージ作用を行うものであり,袋体かチップウレタン等かの相違は,本件発明5の構成要件A3の本質的部分に関係するものではない。
(控訴人の主張)控訴人が置換した上記構成は,本件発明5の本質的部分である。
本件発明5の本質的部分は,脚載置部の凹状受部の相対向する側面に空気袋をそれぞれ配設した点にある。本件特許5の出願当時,脚受部に中間壁のある構造は公知であったのであるから,本件発明5の本質的要素は,使用者の脚を個別的にその両側からそれぞれ袋体で挟持する構成を採用した点にある。被控訴人も,本件特許5の拒絶理由通知に対する意見書(乙28)において,使用者の脚をその両側から挟持することを引用刊行物との相違点として強調しているのであるから,この点が本件発明5の特徴点であると考えていたことは明らかである。
そうすると,本件発明5と控訴人製品3,4の構成とは,本件発明5の本質的部分において異なることになる。
(2) 置換可能性(第2要件)(被控訴人の主張)控訴人製品3,4は,控訴人製品1,2の一方の空気袋をチップウレタン等で置換しただけの製品であり,それによって,本件発明5を実施する控訴人製品1,2と全く同じように,脚部(ふくらはぎ)を包み込むような挟み揉みマッサージ作用を行うものである。一方の空気袋がチップウレタン等で置換されていても,脚部の両側から空気袋で押圧されるのと実質的に同一であり,一方の空気袋の押圧力によって相対する面に設けられたチップウレタン等からも脚部に対して押圧力が生じ,両側からの挟み揉みによるマッサージ効果は生じる。実際に控訴人製品3,4,, を使って脚部のマッサージを行ってみると一般の使用者にはどちら側が空気袋でどちら側がウレタンか区別することはできない。
したがって,控訴人製品3,4は,一方の脚用袋体をチップウレタン等で置換しても,本件発明5の椅子式エアーマッサージ機と同一の目的を達し,同一の作用効果を奏するものである。
(控訴人の主張)控訴人製品3,4は,本件発明5の椅子式エアーマッサージ機と同一の目的を達し,同一の作用効果を奏するものではない。
本件発明5の空気袋は,能動的に人体を押圧する押圧部材であり,他方,控訴人製品3,4のチップウレタン等は,受動的に使用される緩衝材にすぎないのであるから,両者間には作用の点を含めて大きな差異がある。例えば,控訴人製品4において,フットレストの側壁に貼られたウレタンの厚さは約25mmであるのに対し,膨脹した空気袋の厚さは約130mmにも達する(乙135〜137 。チップウレ)タン等の側には,空気の給排による押圧作用も開放作用もなく,逆に,相対向する空気袋の押圧・開放動作を受け止め,脚部が袋体から受ける押圧を緩める働きをしている。空気袋の膨脹による押圧の押付力の反力としての緩衝材の押圧と空気袋による膨脹の押圧力は明らかに異なるのであり,控訴人製品3,4のチップウレタン等は,これまで一般に使用されてきた緩衝材以上の機能を果たすものではない。
したがって,控訴人製品3,4のチップウレタン等と空気袋の間に置換可能性があるとはいえない。
(3) 置換容易性(第3要件)(被控訴人の主張)椅子式マッサージ機の脚部が直接フットレストの側壁と接触することを緩和するためにチップウレタン等を採用することに何の困難もなく,本件発明5のマッサージ機の脚部をその両側から挟持する手段として,袋体に代えてチップウレタン等を採用することは容易である。控訴人は,脚載置部の側壁の一方を緩衝材のウレタンで置換したマッサージ機の構成について,特許権を取得したことを強調するが,発明の特許要件における容易想到性均等置換容易性とは,全く内容を異にする別の判断である。
(控訴人の主張),, 上記のとおり 空気袋とウレタンとの間には作用の点を含めて大きな差異があり置換が容易であるとはいえない。控訴人は,本件発明1を先行技術とした上で,脚載置部の側壁の一方を緩衝材のウレタンで置換したマッサージ機の構成につき,新規性,進歩性を有するものとして,特許権を取得しているのであり(乙97〜103,117 ,このことからも置換が容易ではないことは明らかである。 )(4) 控訴人製品の容易推考性(第4要件)(被控訴人の主張)本件発明5は,出願時における公知技術から当業者が容易に想到し得たものではないから,その脚載置部の側壁の一方を緩衝材のウレタンで置換したにすぎない控訴人製品3,4についても容易推考性は否定されるべきである。
(控訴人の主張),,,, 仮に 置換可能性及び置換容易性が認められるのであれば 控訴人製品3 4は本件発明5の特許出願時に,当時の公知技術から当事者が容易に推考できたものである。
(5) 意識的な除外(第5要件)(被控訴人の主張)控訴人は,本件特許5の出願人が,使用者の両脚部を全体としてその両側から袋体で挟持する構成を意識的に除外して出願したと主張するが,凹状の脚載置部に袋体を配置し,脚部(ふくらはぎ)を挟み揉みマッサージする公知技術は,本件特許,, 5の出願当時には全く存在しなかったのであるから 本件発明5の構成要件A3は,。, 新規かつ特徴的な構成であり 当業者が容易に想到し得たものとはいえない また本件特許5の出願手続において,被控訴人が控訴人製品3,4の上記構成を意識的に除外したことを示す事実もない。
(控訴人の主張)本件発明5の出願当時,脚載置部に中間壁を設けること,袋体によりマッサージを行うこと,マッサージ椅子にとどまらず身体の各部との接触を緩和する材料としてチップウレタン等を採用することは公知の技術であり,被控訴人はこれらの公知技術を前提として本件特許5の出願を行ったものである。そうすると,使用者の両脚部を全体としてその両側から袋体で挟持する構成は,被控訴人が構成に取り込もうとすればできたはずの構成である。しかるに,被控訴人は,側壁の一方が袋体ではない構成を選択せずに,袋体の両側配設の構成のみを選択したのであるから,脚部の一側方のみが袋体である構成は,その素材の種類にかかわらず,本件発明5から意識的に除外されたものと評価できる。
3損害額3-1 特許法102条1項に基づく請求(1) 控訴人製品の販売台数(被控訴人の主張)本件特許5が登録された平成12年10月20日から平成14年3月までの控訴人各製品の売上げは,合計7万4824台である。
(控訴人の主張)本件特許5が登録された平成12年10月20日から平成14年3月までの控訴人各製品の売上げは,控訴人製品1につき1876台(FHC-306につき330台 FHC-316につき1546台控訴人製品2につき2万1771台 F ,) ,(MC-100につき1万8177台,FMC-200につき3594台 ,控訴人)製品3(FHC-317)につき3384台,控訴人製品4につき4万1948台(FMC-100Nにつき2万4178台,FMC-200Nにつき2816台,FMC-300につき1万4954台)の合計6万8979台である(乙74 。)(2) 被控訴人製品の単位数量当りの利益の額(被控訴人の主張)原判決が認定しているように,被控訴人製品の単位数量当りの利益の額は1万6650円である。
(控訴人の主張)被控訴人の主張は争う。直接労務費と製造設備費は,少なくとも経費として利益計算の根拠から控除すべきである。
(3) 被控訴人の実施能力(被控訴人の主張)被控訴人は,平成9年度に被控訴人製品を10万5129台販売しており(甲36 ,平成12,13年度に控訴人製品の販売数量に相当する需要があれば,こ )れに応じる能力は十分あった。
(控訴人の主張)被控訴人製品は,全量が被控訴人の親会社である株式会社東芝に販売され,東芝がフジ医療器に販売し,フジ医療器が販売活動を行っていることは,被控訴人自身が認めている事実である。したがって,被控訴人自身は,本件発明5の実施能力を有しない。
(4) 侵害行為がなければ権利者が販売することができた物(被控訴人の主張)被控訴人製品は,本件特許5を実施していないとの控訴人の主張は争う。
(控訴人の主張)被控訴人製品の座部用空気袋は,脚部用空気袋が全く膨脹していない状態で膨脹を開始するか,もしくは,脚部用空気袋と同時に膨脹を開始するものであり,脚部用空気袋が膨脹してから,その後に座部用空気袋が膨脹を開始することはない(乙76 。したがって,被控訴人製品は構成要件Bの「脚用袋体が膨脹して使用者の )脚部を挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹」することはなく,同製品は本件特許権5の実施品とはいえない。被控訴人は,本件発明5を実施していないのであるから,特許法102条1項は適用されるべきではないにもかかわらず,原判決はこの点について何ら判断していない。
(5) 特許法102条1項ただし書に該当する事情(被控訴人の主張)ア 背中,肩,首などを機械式のもみ玉でマッサージする家庭用マッサージ椅子は1980年代末に松下電工から発売され,20万円以上の価格であるにもかかわらず多く売れ,家庭用マッサージ椅子が将来の有望な商品として注目されていた。
被控訴人は,ふくらはぎのマッサージができるという,これまでのマッサージ椅子には全くなかった機能を有する製品によって市場参入を図った。マッサージ椅子は被控訴人にとって全く新しい分野の商品で,独自の販売ルートを有していなかったことから,フジ医療器にマッサージ椅子の販売をすべて委ねたが,脚部,座部,背中部のマッサージをすべて空気袋(エアバッグ)で行う被控訴人製品(甲37)は,消費者に好評で,平成9年度には年間10万台以上という,この種の製品としては非常に多い販売数を記録した。
イ 他方,控訴人は,以前は機械式のマッサージ椅子を製造販売していたが,平成11年1月に控訴人製品1を発売したこの製品は 背中は機械式のもみ玉によっ 。,てマッサージを行い,座部と脚部(ふくらはぎ)は空気袋によるマッサージを行う製品であった。控訴人が続いて平成12年4月に発売した「i.1 (アイ ワン)」という商品名の製品(控訴人製品2)は非常に多く売れ,すぐに市場占有率が第1位の製品となった。控訴人の売上高は平成10年度までは年間70億円くらいであったが,上記2製品の発売以後,急激に売上高を伸ばし,平成14,15年度には160億円以上に達した この数値は会社全体の売上高で,控訴人の商品構成は (上記のマッサージ椅子が90%以上を占めている。 。)本件特許権5を侵害する控訴人製品1,2の発売によって,被控訴人の製品の販売数は急激に減少した。控訴人の製品が多く売れたのは,ふくらはぎのマッサージに空気袋を使用し,背中のマッサージにはもみ玉を使うという組合せが消費者に受け入れられたことが原因であると考えられるが,被控訴人は他社の特許の存在を考慮して,背中のマッサージにもみ玉を使う製品は製造しなかった。この結果,被控訴人の特許の存在を無視して商品開発を行った控訴人が,市場において有利な立場に立つことになった。
ウ 控訴人の市場占有率の拡大により,松下電工も危機感をもち,平成11年8月から 従来の背中部のもみ玉によるマッサージに加え ふくらはぎを空気袋でマッ ,,サージする製品を本格的に販売し始めた(乙61〜63 。また,被控訴人の製品 )を販売していたフジ医療器は,市場で急激にシェアを伸ばした控訴人製品2に対抗するために,平成12年ころから独自に,背中をもみ玉でマッサージし,ふくらはぎを空気袋でマッサージする自社製品を製造 販売し始めた 乙67 これによっ ,()。
て,被控訴人の製品の販売数の減少はさらに顕著なものとなり,平成14年には,被控訴人のマッサージ椅子の事業は全く成り立たない状態になった。
なお,控訴人が挙げる第三者の製品のうち,フランスベッドの「貴賓席(MFD-2) (乙64)やツカモト株式会社の「i-seat (乙65)は,脚部マッ 」」サージ用の脚載置台を有しているが,これらの脚マッサージは電動のバイブレータによるものであって,空気袋によるものではない。また,三洋電機株式会社の「家族の椅子 (乙66)は「ワイド4つ玉」と称する機械的なメカニズムによるもの 」で これも空気袋によるものではないオムロンの販売するフットマッサージャ 乙 ,。 (68)や座椅子式装置「楽椅子座 (乙62)は,被控訴人製品や控訴人製品とは 」価格帯や性能が異なり,消費者にとって控訴人製品の代替品とはなり得ない。
エ このように,本件特許5の成立時点では,他の競合メーカーも現れ,控訴人の侵害行為による被控訴人製品の販売数の減少は単純な関係ではなくなったのは事実である。控訴人の売上高が平成12〜14年度に顕著に増大しているのと同様,松下電工やフジ医療器も製品の売上げを大きく伸ばしている。被控訴人は,平成12年以降の販売数の急激な落ち込みについて,そのすべてを控訴人が侵害品を販売したことによるものとして損害額を算出すべきであると主張しているものではなく,競合品の存在について特許法102条1項ただし書を適用すること自体には異論はない。
しかしながら,過去に優れた販売実績を有していた被控訴人製品が,空気袋による脚部マッサージの機能を備える控訴人製品の市場参入によって大きな打撃を受けたことは事実である。原判決は,控訴人の製品販売量は平成11年12月10日から平成14年3月31日までの約2年4か月で合計9万6054台であると認定したが,もし,この期間の被控訴人製品の販売数量が,控訴人の市場参入以前と同様であれば,同製品の2年4か月間の販売量は20万台以上になったはずである。と, 。 ころが 実際には上記2年4か月の間の被控訴人製品の販売量は約5万台であったつまり,被控訴人製品の販売減少量は約15万台で,これは控訴人製品の販売量よりもはるかに多いのであり,もし控訴人の侵害行為がなければ,被控訴人が,上記2年4か月の間に,実際の販売量よりも7万4824台は多く販売できたと考えることに何の不合理もない。本件のように実際に目に見える形で顕著な逸失利益の損害が発生している事案においては,事案の実態に応じた妥当な損害額を算定すべきである。仮に,競合品の存在を考慮して特許法102条1項ただし書を適用したとしても,被控訴人が販売することができなかったとされるべき割合は多くて3分の2であり,その分については実施料相当額として販売額の5%が適用されるべきである。
オ 控訴人は,自らの営業努力や独自のデザイン等について強調するが,前記の, , とおり 控訴人の2年4か月の間の販売数量が9万6054台であるとするならば被控訴人の過去の実績に比べてはるかに少ないのであるから,控訴人の営業努力等は特許法102条1項ただし書の事情として考慮するほどのものではない。
(控訴人の主張)ア 原判決は,特許法102条1項ただし書につき 「被控訴人の事業規模,被 ,控訴人の過去における販売実績等を総合考慮すると,本件において法102条1項ただし書に該当する事情が存在すると認めることはできない」と認定判断した。
しかしながら,控訴人製品が他社製品にない独自の特徴を有していることや控訴人自身の独自の営業活動は,被控訴人の事業規模や被控訴人の過去における販売実績と無関係あるいは併存して存在し得る事情であり,1項ただし書の「販売することができない事情」には 「侵害者の営業努力,市場における代替品の存在等」も ,含まれるというのが立法趣旨である(平成10年改正工業所有権法の解説,特許庁総務部総務課・工業所有権制度改正審議室編19頁 。)イ 本件においては,被控訴人製品と同種の有力な競合代替品が市場に存在すること,控訴人は椅子式マッサージ機のメーカーとしては老舗であり,その営業努力が売上げに貢献していること,控訴人製品のセーリングポイントが本件発明5以外にあることが明瞭であることなどの事情があり,これらの事情は特許法102条1項ただし書の「販売することができない事情」として考慮すべきである。
(ア) 被控訴人は,平成10年度から平成12年度にかけて,販売台数が激減し。, , たと主張する しかしながら 被控訴人製品の市場占有率が低下した最大の原因は被控訴人が被控訴人製品の販売を全面的に依存しているフジ医療器が自社製品の販売を力を入れ出したこと,被控訴人製品が陳腐化したことにある。
すなわち,被控訴人は,独自の販売網を持たず,被控訴人製品の販売を全面的にフジ医療器に依拠していたため,被控訴人製品の売上げがフジ医療器の自社製品の販売の拡大によって影響を受けることは不可避であった。フジ医療機器は,被控訴人製品を販売する一方で,独自の自社製品として5機種を販売しており,被控訴人の販売数量が激減したと主張されている時期の平成12年4月には「エアーソリューション (乙67の2,3)を,平成13年8月には「サイバーリラックス」 」(乙67の5)を発売している。これらの製品は,脚受部の両側壁にそれぞれ空気袋を配置するなど,被控訴人製品とほとんど同一構成の製品である。
また,椅子式マッサージ機の市場占有率が第1位の松下電工の「もみ&エア ,」「モミモミ・リアルプロ」も,同時期に発売されており,これらの製品は,空気袋によりマッサージする椅子式マッサージ機であって,脚受部の両側壁にそれぞれ空気袋を配置するなど,被控訴人製品とほとんど同一構成の製品である。
フジ医療器及び松下電工の上記製品が,本件特許権5を侵害するとしても,特許法102条1項ただし書において考慮することが妨げられるものではなく,本件特,。 許権を侵害するものであれば かえって市場の競合製品であることは明らかである特許権者が権利を行使しないとの態度で接している侵害品についても,特許権者による市場機会の利用が不可能であるという点では侵害品ではない代替品と変わらないのであるから,同項ただし書の考慮の対象外とすべき理由はない。
(イ) 他方,控訴人製品の売上げが伸びたのは,控訴人製品特有のデザインや優れた機能,控訴人の営業努力やブランドイメージによるところが大きい。
,,,, , そもそも マッサージ製品は 機能デザイン 価格に販売のポイントが置かれ複数の工業所有権が集合的に利用されて製品が成り立っているのが一般である。控訴人製品は,市場に多くの競合品や代替品が出回っている中で,そのデザインが好まれて販売が増進したものであり このデザインについては意匠登録もしている 乙 ,(70の50,91 。)また,控訴人製品のセーリングポイントはセンサーにより治療ポイント(つぼ)を自動検索する機能であり,このもみ玉の可動範囲自動調整は高く評価され,新聞や雑誌にも取り上げられ,消費者にも支持されている(乙58,59,61 。こ)のようなセンサー機能は,被控訴人製品にはない。
さらに,控訴人は,最も歴史を有するマッサージ機の専業メーカーであり,そのブランドイメージとあいまって,上記の商品特性を消費者に効果的に広告宣伝したこと(乙60)が大きく売上げに貢献している。
(6) 寄与度(被控訴人の主張)ア 本件発明5の製品価値に対する寄与は,構成要件Bの作用効果のみによるのではなく,ふくらはぎのマッサージ効果や椅子式エアーマッサージ機の全体的構成も製品の価値に寄与するものであるから,本件特許1,3が無効とされても,本件特許5の価値は構成要件Bに限定されずに評価されるべきである。
本件発明1,3はエアーマッサージ機の基本的構成に関する発明であり,本件発明5は,本件発明1,3との関係では,脚用袋体と座部用袋体の膨張のタイミングに特徴を有する部分的な改良発明といえる。しかしながら,本件明細書5は,椅子式エアーマッサージ機の基本的構造である本件発明1,3に相当する内容を開示しているのであるから,本件特許1〜4の無効が確定することにより,本件特許5の位置付けは当然変わってくる。
本件発明5は,公知技術に対し,3つの特徴を有する。第1に,構成要件A3は脚部をその両側から狭持する脚用袋体が脚載置部に配設され,同脚載置部が座部の前部に設けられた新規な構成であり,この構成によってふくらはぎに対する有効なマッサージ作用が行われる。第2に,本件発明5は,座部,椅子本体,脚載置部,圧搾空気供給手段,分配手段,入力手段,制御手段を備えた椅子式マッサージ機であり,実際の製品に即した商品化可能な具体的な構成を有する椅子式エアーマッサージ機である。通常,特許侵害の損害賠償で寄与率が問題になるのは,特許発明が装置の部品を対象とする場合などであるが,本件発明5は,椅子式エアマッサージ機の全体にわたる具体的構成を開示している点で異なる。第3に,構成要件Bに規定された新規な構成によりストレッチ効果が得られる。
本件発明5のこれらの構成は,消費者が被控訴人製品を購入する上で特に重要な動機となる要素であり,製品の販売促進に大きく寄与した。
イ 仮に,本件特許5の価値が構成要件Bに依拠して評価されるとしても,構成要件Bの寄与度は大きい。
被控訴人製品では,被控訴人製品のパンフレット(例えば,甲37の1)に説明されているように,動作モードとして,コース選択スイッチ(全身コース,上半身コース,下半身コース)と,首・肩,背中,背筋,腰,尻,太もも,脚の7箇所のエアバッグを複合的に選択できるポイント複合選択スイッチがあり そのうちの 太,「もも」を含むコース又はポイントを選択した上で「脚部同時スイッチ」を押すと,本件発明5の構成要件Bに該当する動作となる。
控訴人は 「脚部使用状態 (水平状態)ではストレッチ作用は全く生じないと主 ,」張する。確かに,脚載置部を収納(垂直)状態にした方が使用者の膝が曲がった状態となるので,ストレッチ効果をより強く感じることができるが,水平状態であっても,脚用袋体の膨張によって脚部が固定され,座部用袋体が膨張したときに,脚部(膝部)が上方へ移動することを妨げるから,本件発明5のストレッチ効果が生じる。
,, 「」 , ウ 被控訴人製品において 脚部のマッサージのために 脚同時 のボタンともものマッサージを含むコース又は「もも」のポイント選択のボタンが押される確率は 被控訴人の計算では約56%でありまた 構成要件A3による脚部マッサー ,,,ジが消費者の重要な購入動機となることに鑑みれば,被控訴人製品に「脚部同時スイッチ」を押さない使用態様があることを考慮しても,本件発明5の被控訴人製品における寄与率は少なくとも50%を下らない。
実際のところ,原判決の認める被控訴人製品の単位数量当りの利益の額1万6650円に50%の寄与率を掛けて得られる8325円は,実施料相当額として考えられる金額と比べて決して高い金額ではない。
(控訴人の主張)ア 原判決は,本件発明1〜5の侵害を認めた上で,寄与度として5%のみを減額した。しかしながら,当審においては本件発明5のみの損害が問題となるのであるから,原判決の認容した損害額は大幅に減額されるべきである。
イ 控訴人は,本件発明5の製品価値に対する寄与度の認定に当たっては,構成要件Bの作用効果のみならず,ふくらはぎのマッサージ効果や椅子式エアーマッサージ機の全体的構成も考慮されるべきであると主張するが,本件発明5の構成要件A1〜7は,いずれも新規な構成といえるものではなく,発明の寄与は,これまでにない用途を見出した点に限定して考慮されるべきである。
ウ 本件発明5のストレッチ効果は,被控訴人製品のパンフレットにも全く触れられていない。被控訴人製品の製品である「ロイヤルチェア 「自悠席 「エアーリ 」」ラックス」の各パンフレット(甲37)を見ても 「脚用袋体が膨脹して使用者の ,脚部を挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押上げるように膨脹すること」には全く触れられていない。確かに,脚部と首,肩,背中,背筋,腰,尻,太ももを同時膨脹させる「脚部同時スイッチ」のことは記載されているが,太ももの袋体と脚用袋体が同時に膨脹することは商品購入の動機付けとなるものではない。
また,被控訴人製品の上記パンフレットは,脚載置部を座部と水平状態に突出された状態(本件特許5の特許公報の図2の状態)を「使用時」とし,垂直に下げた状態(同図1)を「収納時」と掲載している。これによれば,現実の商品の使用においては,脚載置部を突出させた状態で使用することが予定されているが,この状態ではストレッチ作用は生じない。
被控訴人製品では,設定されている種々の動作モードのうち,特定の動作モードが選択されたときにのみ,しかもその動作モードでの運転時間における一部の時間においてのみ,脚部空気袋と座部空気袋の膨脹開始順序がたまたま一致するにすぎない。すなわち,ロイヤルチェアMC-133(甲9,37の1)を例にすると,@ 脚部収納状態 と 脚部使用状態 のうち 脚部収納状態 とし Aマッサー 「」「」,「」,ジ動作として「コース選択 (各部位の袋体を順次膨脹させるにすぎない)と「ポ 」イント複合選択」のうち,後者を選択し,Bその中から「脚同時」ボタンを押し,Cポイント複合選択「肩・首 「背中 「背筋 「腰 「しり 「もも」のうち 「も 」」」」」 ,も」ボタンを押すことにより,初めて脚の袋体とももの袋体が同時に膨脹する構成。,,. として作動する このような動作が選択される確率は 控訴人の計算によると 21%である。
エ このように,本件特許5は,売上げには全く寄与していないのであるから,結局のところ,損害賠償は認められるべきではなく(最判平成9年3月11日民集51巻3号1055頁(小僧寿し事件)参照 ,認められるにしても大幅に減額さ )れるべきである。
3-2 特許法102条3項に基づく請求(予備的主張)(被控訴人の主張)特許侵害の損害賠償額はいかなる場合も特許法102条3項実施料相当額を下回ることがないことから,もし,被控訴人製品の単位数量当りの利益である1万6650円に寄与度を乗じた金額が,侵害品1個当たりの実施料相当額(控訴人製品の価格11万円×5%=5500円)を下回る場合は,被控訴人は同項の実施料相当額を損害として主張する。
また,仮に,競合品の存在を考慮して特許法102条1項ただし書を適用したとしても,被控訴人によって販売できないとされた分については,特許法102条3項実施料相当額として販売額の5%が損害として認められるべきである。
(控訴人の主張)被控訴人の主張は争う。
当裁判所の判断
1 控訴人各製品の構成要件充足性について(1) 構成要件A1,Bの充足性ア 「押し上げる」の意義控訴人は,構成要件A1及びBの「押し上げる」とは,尻部,腿部が持ち上げられて筋肉を伸ばし得る程度の押圧力では足りず,緊張が感じられる程度あるいは張りを感じる程度まで筋肉を伸展・伸張(ストレッチ)するに足るものであることを要し,控訴人各製品はこの構成要件を充足しないと主張する。
(ア) そこで,検討するに,本件発明5の特許請求の範囲及び本件明細書5(甲23)には,以下の記載が存在する。
(a) 「圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨脹時に使用者を押上げる座部用袋体が配設された座部 「前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気 」を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨脹する (特許請求の範囲) 」(b) 「 0002 【従来の技術】従来,椅子の座部および背もたれ部の身体を支持する部 【】位に気密性を有するとともに膨縮可能な複数の袋体を配置し,これら各袋体に所定の順序で圧搾空気を供給することにより身体を押圧してマッサージをする椅子式エアーマッサージ機は広く知られている。しかし,この種従来の椅子式エアーマッサージ機においては,マッサージをしようとする場合は座部に腰掛けるとともに背中を前記背もたれ部に当て,そして各袋体にエアーつまり圧搾空気の給排気に伴う各袋体の膨縮により身体の被施療部を押圧してマッサージを行うものである。そして,マッサージ中は身体は何ら椅子等に固定されていないために,身体は袋体の膨縮にしたがって移動するようになっている。
【0003 【発明が解決しようとする課題】上記のように,従来のものにおいては,マッ 】サージ中は身体は自由状態となっているため,圧搾空気の給排気に伴う座部の袋体の膨縮にしたがって身体も上下動することになり,腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをすることができず,より効果的なマッサージをするという面では満足のいくものではないという問題があった。
【0005 【作用】この発明は,上記のように構成したので,座部に配設された座部用袋 】体への圧搾空気の給排気動作に同期させて脚載置部に配設された脚用袋体への給排気を行う動作モードを選択したときは,座部用袋体への圧搾空気の供給に同期して脚用袋体にも圧搾空気が供給される。そのため,座部用袋体が膨脹して身体が上方に持ち上げられるとき,膨脹した脚用袋体によって脚部はその両側から挟持されているので,腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり,ストレッチされつつマッサージがされる 」。
(c) 「 0026】そして,脚同時モードと前記腿用袋体4および尻用袋体5に給排気がさ 【れる内容を含む動作モードが同時に実行されるように選択されたときは,上記各動作モードにおける腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の給排気のタイミングと前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の給排気のタイミングとは同期するように,前記分配切換器21と電磁弁22とが制御装置30によって制御されるようになっている。つまり,制御装置30は腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の供給とを同期させて同時に開始するように,そしてまた排気も同期させ同時に行うように前記分配切換器21と電磁弁22の制御をするようになっている。…【0027】このように腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の供給が同時になされることにより,腿用袋体4および尻用袋体5が膨脹し腿部あるいは尻部を押圧しながら身体を上方に押し上げるが,このとき脚用袋体15aないし16bも同時に膨脹し脚用袋体15aないし16bの間に位置する脚部は膨脹した脚用袋体15aないし16bによって両側から包み込まれるようにして挾持され押さえられるために腿部あるいは尻部の上方への押上げに伴って脚部ないし腿部等の筋肉は引き伸ばされ,つまりストレッチされるので効果的な筋肉疲労の解消が図れるのである。…【0029】…そして,前記脚同時モードと腿用袋体4および尻用袋体5に給排気がされる内容を含む動作モードが同時に実行されるように選択されたときは,上記各動作モードにおける腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の給排気のタイミングと前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の給排気のタイミングとは同期するように,前記分配切換器21と電磁弁22とが制御装置30によって制御され,腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の給排気が同時になされる。そして,脚用袋体15aないし16bの膨脹によりこれら脚用袋体15aないし16bの間に位置する脚部は挾持され押さえられた状態で腿部あるいは尻部は上方への押上げられるため,この押上にともなって脚部,腿部および腿部等の筋肉は引き伸ばされ,つまりストレッチされつつマッサージされるので効果的な筋肉疲労の解消を図ることができる 」。
(イ) 上記記載によれば,本件発明5は,椅子式マッサージ機の座部に使用者が座った状態において,脚部袋体への圧搾空気の供給と座部用袋体への圧搾空気の供給を同期させ,脚用袋体が脚部を挟持した状態で,座部用袋体が使用者を上方に押し上げることにより,腿部及び尻部の筋肉を引き伸ばすとの作用効果を奏するものであると認められる。本件発明5のこのような構成,作用効果に照らすと,本件発明5の「押上げる」とは,椅子式マッサージ機の座部に設けられた袋体に空気を供給することにより加えることのできる程度の押圧力を意味し,脚部を固定することとあいまって,脚部や尻部の筋肉を伸ばし得る程度の力で下から力を加えることを意味するにすぎないというべきである。
したがって 「押上げる」との構成要件を充足するためには,体操の場合なども ,含めた本来の字義通りの「ストレッチ」効果が生ずる程度の押圧力を加えることを要するとの控訴人の主張は採用することができない。
イ 各控訴人製品についての検討そして,控訴人各製品は,以下のとおり,構成要件A1,Bの構成要件を充足するものと認められる。
(ア) 控訴人製品1においては,座部にも空気袋g,hが配置されており(原判決別紙被告製品1構造の説明G ,これらの空気袋は,いずれも座部のフットレス ),,, ト側半面に 使用者の腿部にまたがるようにして配置され 空気給排気装置により膨張収縮するものである。これによれば,座部用空気袋が膨張した際には,使用者の身体が持ち上げられ,筋肉を伸ばし得る程度の押圧力が作用すると認められるから,控訴人製品1は,構成要件A1を充足する。
また 控訴人製品1においては 控訴人製品1の下半身用操作盤・リモコンによっ ,,て使用者は「下半身コース「脚モード 「座モード」を選択して動作モードを 」,」,入力することができるところ,この「下半身コース」の「コースU」を選択したときの各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(原判決別紙被告製品1構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしf)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋g,hも膨張する。したがって,控訴人製品1は,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張するものということができ,構成要件Bを充足する。
(イ) 控訴人製品2においては,座部に4つの空気袋m,n,o,pが配置されており このうち空気袋oは 座部を構成するウレタンボード10の上 座部のフッ ,, ,トレスト側半面に,使用者の腿部にまたがるようにして配置され(原判決別紙被告製品2説明書構造の説明G ,空気袋給排気装置により膨張収縮する(同A 。以上 ))によれば,座部用空気袋oは,大腿部に対して下方から上方へ向けて,使用者の身体が持ち上げられ,筋肉を伸ばし得る程度の押圧力が作用すると認められるから,控訴人製品2は,構成要件A1を充足する。
また,控訴人製品2においては,使用者は自動コース(メディカルコース,快適コース)や自由選択コースが選択でき,自由選択コースでは 「脚 「座 「脚& ,」,」,座」の動作モードを選択して,入力することができる。このうち 「脚&座」の動,作モードを選択した際の,各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(原判決別紙被告製品2説明書構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしh)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋oも膨張する。したがって,控訴人製品2は,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張するものということができ,構成要件Bを充足する。
(ウ) 控訴人製品3においては座部に空気袋i,jが配置されており(原判決別紙被告製品3構造の説明G ,これらの空気袋は,いずれも座部のフットレスト側 )半面に,使用者の腿部にまたがるようにして配置され,空気給排気装置により,膨張収縮する(同A 。以上によれば,座部用空気袋oが膨張した際には,使用者の ),, 身体が持ち上げられ 筋肉を伸ばし得る程度の押圧力が作用すると認められるから控訴人製品3は,構成要件A1を充足する。
また,控訴人製品3においては,使用者は「脚&座モード」と「脚モード」を選択して動作モードを入力することができるが 「脚&座モードU」を選択したとき ,の各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(原判決別紙被告製品3説明書構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしf)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋i,jも膨張する。したがって,控訴人製品3は,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張するものということができ,構成要件Bを充足する。
(エ) 控訴人製品4においては,座部に4つの空気袋m,n,o,pが配置されており このうち空気袋oは 座部を構成するウレタンボード10の上 座部のフッ ,, ,トレスト側半面に,使用者の腿部にまたがるようにして配置され(原判決別紙被告製品4説明書構造の説明G ,空気給排気装置により膨張収縮する(同A 。以上に ))よれば,座部用空気袋が膨張した際には,使用者の身体が持ち上げられるものと認められる。よって,構成要件A1を充足する。
また,控訴人製品4においては,使用者は自動コース(メディカルコース,快適コース)や自由選択コースが選択でき,自由選択コースでは 「脚 「座 「脚& ,」,」,座」の動作モードを選択して,入力することができるが 「脚&座」の動作モード ,を選択したときの各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(原判決別紙被告製品4説明書構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしf)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋oも膨張する。したがって,控訴人製品4は,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張するものということができ,構成要件Bを充足する。
(オ) なお,控訴人は,乙133の意見書に依拠し,控訴人製品には,座部の空気袋への空気の給排を制御する弁と,フットレストの空気袋への空気の給排を制御する弁とが共通の空気室に設けられており,フットレストの空気袋が膨脹を開始した後に座部の空気袋が膨脹を開始すると座部の空気袋の膨脹開始時において フッ ,,トレストの空気袋の空気が座部の空気袋に逆流するので,控訴人製品はいずれも構成要件Bを充足しないと主張する。
,,, しかしながら 控訴人の主張を肯認するに足る的確な資料等の証拠はなく またフットレストの空気袋の圧力が一時的に減少することがあっても,その後は,空気袋の膨脹状態が保たれ,フットレストの空気袋と座部の空気袋の圧力が増加するのであるから,控訴人が指摘する点は,控訴人各製品が構成要件Bを充足するとの結論を左右するものではない。
ウ 以上のとおり,控訴人製品1〜4は,本件発明5の構成要件A1,Bを充足する。前記のとおり,控訴人製品1,2が構成要件A1,B以外の構成要件を充足することに争いはないので,控訴人1,2は,本件発明5の技術的範囲に属することになる。控訴人製品3,4については,構成要件A3の充足性について争いがあるので,進んで,検討する。
(2) 構成要件A3の充足性について控訴人は 「使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置 ,部」との構成要件は,左右脚部それぞれの両側に脚用袋体が配設されていることを要するものであり,脚部の片側にチップウレタン等が配設されているにすぎない控訴人製品3,4は,この構成要件を充足しないと主張する。
ア 発明5の特許請求の範囲の文言は,上記のとおり 「使用者の脚部をその両 ,側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部」というものであり,単に「使用者の脚部」としか記載していないので 「使用者の脚部」が,左右の脚部それぞれを ,意味するのか,それとも左右一体としての脚部を含むのかは明らかではない。特許請求の範囲の他の部分を参照しても,上記いずれかは明らかではない。
イ この点に関し,本件明細書5には,上記(1)アの記載に加え,以下の記載が存在する。
(ア) 「圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨脹時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部 (特許請求の範囲) 」(イ) 「 0011】そして,前記脚載置部12の両側には側壁12a,12bが設けられて 【おり,この両側壁12a,12bの中間部には中間壁12cが設けられている。そして,前記側壁12aと中間壁12cおよび側壁12bと中間壁12cとの間にはこれら各側壁12a〜12cにより略U字状の溝12d,12eが形成され,この溝12d,12eは脚のふくらはぎの部分を支持するようになっている。
【0012】前記側壁12aと中間壁12cの互いに対向する側壁および側壁12bと中間壁12cの互いに対向する側壁には,それぞれ前記溝12d,12eに載せられた脚のふくらはぎの部分をマッサージするための上記した各袋体と同様の材質からなる脚用袋体15a,15bおよび16a,16bが配設されている。そして,これら脚用袋体15a,15bおよび16a,16bは,圧搾空気が供給され膨脹したとき脚部のふくらはぎ部分を両側から包み込むような大きさとした偏平形状に形成されている。
【0013】前記各袋体4ないし9はあらかじめ配置位置が決められた図示しない内袋に収納しこの内袋を前記椅子本体1の座部2と背もたれ部3に配置し,この内袋は布カバー10で覆われ内袋および各袋体4ないし9は外部からは見えないようになっている。また,前記脚用,,, 袋体15aないし16bも図示しない内袋に収納され この内袋を前記両側壁12a 12b中間壁12cに配置し,この内袋は布カバー10aで覆っている。
【0014】そして,前記各袋体4ないし16bには図1,図2においてはいずれも図示していないが,圧搾空気を給排気するための給排気口が設けられており,この給排気口には給排気管が接続されている 」。
さらに 【図1】及び【図2】においては,脚載置部12の両側に,ふくらはぎ ,部を支持するための側壁12a,12bが設けられ,この両側壁12a,12bの中間部には中間壁12cが設けられ,側壁12aと中間壁12cの互いに対向する側壁及び側壁12bと中間壁12cの互いに対向する側壁に,脚用袋体15a,15b及び16a,16bが配設されていることが図示されている。
ウ 上記のとおり,本件明細書5には,脚部の片側のみに袋体が配設され,両脚部を一体として挟持することや,そのための具体的な構成についての何ら示唆はなく,実施例及びその図面においても,左右の脚部それぞれの両側に脚用袋体が配設されている構成のみが記載ないし図示されている。このような明細書の記載及び図面に加え,中間壁など脚載置部の詳細な構造が特許請求の範囲には含まれていない本件発明5において,空気袋によって脚部を確実に挟持するという本件発明5の目的を達成するには,左右それぞれの足を両側から袋体で挟持する構成とする方が適しており,空気で膨脹した袋体で両脚を一体的に挟持するのはいかにも不安定であることなども考え併せると 「使用者の脚部」との用語は 「左右それぞれの脚部」 ,,を意味すると解することが合理的である。
エ 控訴人製品1,2においては,その脚載置部の両方の側壁に空気袋が配置されているのに対し,控訴人製品3においては,脚載置部の両方の側壁の一方にチップウレタン及びウレタンフォームが配設され,控訴人製品4においては,脚載置部の両方の側壁の一方にチップウレタン及び低反発ウレタンが配設されていることは,当事者間に争いがない。したがって,控訴人製品3,4は,本件発明5の構成要件A3を充足しない。
2 均等侵害の成否についてそこで,控訴人製品3,4が構成要件A3を充足しないとしても,同各製品の構成が本件発明5と均等なものとして,本件発明5の技術的範囲に属するといえるかどうかについて,さらに検討する。
(1) 均等侵害の要件の充足性についてア 本質的部分(第1要件)本件発明5の本質的部分について,控訴人は,その脚載置部の相対向する側面に空気袋をそれぞれ配設した点にあると主張する。
前記判示のとおり,本件発明5は 「従来のものにおいては,マッサージ中は身 ,体は自由状態となっているため,圧搾空気の給排気に伴う座部の袋体の膨縮にしたがって身体も上下動することになり,腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをすることができず,より効果的なマッサージをするという面では。」(【 】), 満足のいくものではないという問題があった 段落 0003 ことを踏まえこの技術課題を解決するために,座部用袋体と脚用袋体への圧搾空気の供給を同期させ,膨脹した脚用袋体によって両側から脚部を挟持しつつ,座部用袋体を膨脹させて使用者の身体を押し上げることにより,腿部及び尻部をストレッチ及びマッサージするものであると認められる。
本件発明5の上述した課題,構成,作用効果に照らすと,本件発明5の本質的部分は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することにより,脚用袋体によって脚部を両側から挟持した状態で,座部用袋体を膨脹させ,脚部及び尻部のストレッチ及びマッサージを可能にした点にあるというべきであり,そのために必要な構成要素として,空気袋を膨脹させて使用者の各脚を両側から挟持するとい,, う構成には特徴が認められるとしても 使用者の各脚を挟持するための手段として脚載置部の側壁の両側に空気袋を配設するのか,片側のみに空気袋を配設し,他方にはチップウレタン等の緩衝材を配設するのかという点は,発明を特徴付ける本質的部分ではないというべきである。
置換可能性(第2要件)控訴人は,控訴人製品3,4のチップウレタン等と本件発明5の空気袋の間に置換可能性があるとはいえないと主張する。
しかしながら,脚載置部の側壁の一方の空気袋を,緩衝材として用いられるチップウレタン等に置換した場合であっても,一方の空気袋の押圧力により,相対する面に設けられたチップウレタン等に脚部が押しつけられた場合には,当該チップウレタン等から脚部に対して押圧力が生じ,脚部は両側から柔らかく包まれるような形で空気袋とチップウレタン等との間に挟持され,押圧されることになるのであるから,脚載置部の側壁の一方の空気袋をチップウレタン等に置換しても,その目的や作用効果に格別の差異はないものと認められる。したがって,控訴人製品3,4は 一方の空気袋をチップウレタン等で置換しても 本件発明5の椅子式エアーマッ ,,サージ機の目的を達し,同様の作用効果を奏するものということができる。
これに対し,控訴人は,控訴人製品3,4のチップウレタン等は,膨脹した空気袋に比べてその厚さがはるかに小さく,相対向する空気袋の押圧・開放動作を受動,, 的に受け止め 脚部が袋体から受ける押圧を緩める働きをしているにすぎないので本件発明5の空気袋とは作用が大きく異なると主張する。
しかしながら,チップウレタン等が空気袋のように能動的に人体を押圧するものではないとしても,脚載置部の側壁の一方に配設された空気袋が膨脹し,対向する側壁に配設されたチップウレタン等に脚部を押し付けることにより,チップウレタン等から脚部に対して押圧力が生じ,両側から脚部を挟持するとの作用効果を奏することは前記判示のとおりであるから,チップウレタン等が能動的に脚部を押圧する機能を有するかどうかは,置換可能性についての判断を左右するものではない。
置換容易性(第3要件)控訴人は,脚載置部の側壁の一方を緩衝材のウレタンで置換したマッサージ機の構成について特許権を取得したことなどを理由として,本件発明5の脚載置部の側壁の一方に配設された空気袋をチップウレタン等で置換することは容易ではないと主張する。
しかしながら,控訴人は,脚載置部の側壁の両側に空気袋を配設した控訴人製品1,2を当初製造,販売し,その後,側壁の一方に配設された空気袋を緩衝材であるチップウレタン等に置換した控訴人製品3 4を製造 販売しているところ チッ ,, ,プウレタン等には柔軟性があることは公知であるから,当業者であれば,控訴人製品3 4の製造等の時点において 脚載置部の側壁の一方に配設された空気袋をチッ ,,プウレタン等に置換しても空気袋を両側に配設した場合と同様の作用効果を奏することは,容易に推考し得たというべきである。
控訴人は,脚載置部の側壁の一方を緩衝材のウレタンで置換したマッサージ機の構成について特許権を取得したことを強調するが,特許庁における発明自体の容易想到性の判断と,当該発明の一部の構成を置換することについての容易推考性の判断は,その判断の内容及び基準時点が全く異なるものである。控訴人が脚載置部の側壁の一方を緩衝材のウレタンで置換したマッサージ機の構成について特許権を取得したことは,脚載置部の側壁の一方を緩衝材のウレタンで置換することの容易性を否定する理由とはならない。
エ 控訴人製品の容易推考性(第4要件)控訴人は,置換可能性及び置換容易性が認められるのであれば,控訴人製品3,4は,本件発明5の特許出願時に,当時の公知技術から当事者が容易に推考できたものであると主張する。しかしながら,後に判示するとおり,本件発明5は,その出願時における公知技術から当業者が容易に想到し得たものではないから,その脚載置部の側壁の一方をチップウレタン等で置換したにすぎない控訴人製品3,4についても,当業者が容易に推考できたものということはできない。
オ 意識的な除外(第5要件)控訴人は,本件特許5の出願当時,マッサージ機の脚受部に中間壁を設けることや,身体の各部との接触を緩和する材料としてチップウレタン等を採用することが公知の技術であったにもかかわらず,被控訴人は,袋体が各脚部の両側に配設される構成のみを選択したのであるから,脚部の一側方のみが袋体である構成を本件発明5から意識的に除外したものと評価できると主張する。
しかしながら,特許侵害を主張されている対象製品に係る構成が,特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたというには,特許権者が,出願手,, 続において 当該対象製品に係る構成が特許請求の範囲に含まれないことを自認しあるいは補正や訂正により当該構成を特許請求の範囲から除外するなど,当該対象製品に係る構成を明確に認識し,これを特許請求の範囲から除外したと外形的に評価し得る行動がとられていることを要すると解すべきであり,特許出願当時の公知技術等に照らし,当該対象製品に係る構成を容易に想到し得たにもかかわらず,そのような構成を特許請求の範囲に含めなかったというだけでは,当該対象製品に係る構成を特許請求の範囲から意識的に除外したということはできないというべきである。
そうすると,控訴人の主張するように,本件特許5の出願当時,マッサージ機の脚受部に中間壁を設けることや,身体の各部との接触を緩和する材料としてチップウレタン等を採用することが公知の技術であり,被控訴人が,その特許出願手続において,脚載置部の側壁の一方に空気袋を配設し,他方にチップウレタン等を配設する構成を特許請求の範囲に含めることが可能であったとしても,そのことから直ちに,そのような構成が本件発明5に係る特許請求の範囲から意識的に除外されたということはできない。
本件においては,本件特許5の特許権者である被控訴人が,特許出願手続において,脚載置部の側壁の一方のみに空気袋を配設し,他方にチップウレタン等を配設する構成を採用しても本件発明5の目的や効果を達成できることを明確に認識し,これをことさらに除外したと評価し得る行動をとったと認めるに足る証拠はない。
したがって,控訴人の主張は採用できない。
(2) 均等侵害についての結論以上によれば,控訴人製品3,4の脚載置部の一方の側壁の空気袋をチップウレタン等に置換したとしても,同各製品の構成は本件発明5と均等なものとして,本件発明5の技術的範囲に属するということができる。
3 本件特許5の有効性について本件特許1〜5のうち,1〜4については,前記判示のとおり,特許を無効とする旨の審決が確定したので,これらの特許権は初めから存在しなかったものとみなされ,本件特許1〜4に基づく被控訴人の請求は理由がないことになる。
本件特許5について,控訴人は,本訴が当審に係属中に無効審判(無効2004-80055号)を請求し,その無効不成立審決に対して審決取消訴訟(当庁平成17年(行ケ)10339号事件)を提起するとともに,本訴においても,同審決の判断を踏まえ,同特許が無効とされるべき事由として,同審決取消訴訟における審決取消事由と同様の主張をした。上記審決の概要,当審における控訴人及び被控訴人の主張,当裁判所の判断は,それぞれ上記審決取消訴訟の判決の「第2 事案の概要 「3 審決(甲1の1)の要旨 「第3 原告の主張の要点 「第4 被 」」 ,」 ,告の主張の要点 「第5 当裁判所の判断」記載のとおりであるから,その該当部 」,(, 「」「」「」 分を別紙として添付する なお 同判決の引用部分中の 原告 被告 本件発明は,本訴に合わせて「控訴人 「被控訴人「本件発明5」などと変更し,証拠番号 」」も本訴の証拠番号に変更した 。。)さらに,原審において控訴人が主張した本件特許5の無効事由は,原判決の「第2 事案の概要 「2 争点及び当事者の主張 「(4) 本件各特許の明らかな無効理由 」」の存否 「エ 本件発明5について」記載のとおりであるところ,これに対する判断 」は原判決の「第3 争点に対する判断「5 本件発明5と控訴人製品との対比につ 」」「」, いて (5) 本件発明5の明白な無効理由の存否 に記載されたとおりであるからこれを引用する。
4 損害額について上記のとおり,控訴人各製品は,いずれも,本件特許権5を侵害するものと認められるので,以下,損害額について検討する。
4-1 特許法102条1項に基づく請求(主位的請求)について(1) 控訴人製品の販売台数について乙74によれば,本件特許5が登録された平成12年10月20日から平成14年3月までの控訴人各製品の売上げは,控訴人製品1につき1876台(FHC-306につき330台,FHC-316につき1546台 ,控訴人製品2につき )2万1771台(FMC-100につき1万8177台,FMC-200につき3594台 ,控訴人製品3(FHC-317)につき3384台,控訴人製品4に )つき4万1948台(FMC-100Nにつき2万4178台,FMC-200Nにつき2816台,FMC-300につき1万4954台)の合計6万8979台であると認められる。
(2) 被控訴人製品の単位数量当りの利益の額について被控訴人は,被控訴人製品の単位数量当りの利益の額は,原判決の認定した1万6650円とすべきと主張する。当裁判所も,被控訴人製品の単位数量当りの利益の額は1万6650円であると認定するところ,その理由は,原判決の「第3 争点に対する判断 「7 争点5(損害額及び補償金額 「(1) 損害額(法102 」) 」条1項)について 「ウ 原告製品についての単位数量当たりの利益の額」記載の 」とおりであるから,これを引用する。
(3) 被控訴人の実施能力について甲36によれば,被控訴人は,平成9年度に被控訴人製品を10万台以上販売しており,平成12,13年度に控訴人製品の販売数量に相当する需要があれば,これに応じる能力は十分あったものと認められる。
(4) 侵害行為がなければ権利者が販売することができた物について控訴人は,乙76などに依拠して,被控訴人製品は本件発明5の実施品ではないから特許法102条1項の適用はないなどと主張する。しかしながら,乙76によれば,被控訴人製品3機種について 「太もも」空気袋と「脚」空気袋 「お尻」空 ,,気袋と「脚」空気袋が,それぞれ同時に膨脹するとの結果を得ているというのであり,その場合には,使用者の脚部を挟持した状態で座部用袋体は膨脹するものと考えられるのであるから,被控訴人製品は本件発明5の実施品ということができる。
したがって,被控訴人製品が,特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当することは明らかである。
(5) 特許法102条1項ただし書に該当する事情についてア 特許法102条1項ただし書は 「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量 ,を特許権者…が販売することができないとする事情があるときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする」と規定する。特許法102条1項本 。
文は,民法709条に基づき逸失利益の損害賠償を求める際の損害額算定方法について定めた規定であり,侵害者の譲渡した製品の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定することとした規定であると解すべきである。そして,同項ただし書は,侵害者が同項本文による推定を覆す事情を証明した場合には,その限度で損害額を減額することができることを規定したものであり,このような「販売することができないとする事情」としては,特許権者等が販売することができた物に固有な事情に限られず,市場における当該製品の競合品・代替品の存在,侵害者自身の営業努力,ブランド及び販売力,需要者の購買の動機付けとなるような侵害品の他の特徴(デザイン,機能等 ,侵害品の価格などの事 )情をも考慮することができるというべきである。
イ 後掲証拠によれば,損害額算定の基礎となる事情に関し,以下の事実を認めることができる(当事者間に争いのない事実も含む 。。)(ア) 椅子式マッサージ市場の状況椅子式マッサージ機の市場は,平成10,11年ころには販売台数約42万台,販売金額約500億円であったが,平成12年に入って低価格機種が登場したことにより,販売台数が増加に転じて約45万台となり,平成13年度には,販売台数にして約46万台,売上高にして約530億円を超える市場となった。同年度における台数ベースの市場占有率は,松下電工が約26%,控訴人が約17%,フジ医療器(被控訴人製品を含む )が約13%であり,金額ベースの市場占有率は,松 。
下電工が約34%,控訴人が約22%,フジ医療器(被控訴人製品を含む )が約。
17%であった。椅子式マッサージ機の市場は,その当時,@富裕層,中高年齢層などをターゲットとした高機能,高価格機種,A若年層などをターゲットとした低価格でコンパクトな機種に大別され 両者が棲み分けをしている状況にあった 乙 ,。 (35,58〜62,86)(イ) 被控訴人製品の販売及び売上高の推移被控訴人は 平成7年5月 脚部 座部 背中部等を空気袋 エアバッグ によっ , ,,, ( )てマッサージする椅子式マッサージ機を販売し,それ以来,エアバッグによるマッサージを主とする椅子式マッサージ機を販売してきた(甲9,10,37の1〜10 。被控訴人にとって,椅子式マッサージ機は新たな市場分野であり,独自の販 )売ルートを有していなかったことから,その販売はフジ医療器にすべて委ね,フジ医療器を通じて行った。被控訴人製品の販売台数は,平成9年には10万台を超えたが,その後は,平成10年には約9万台,平成11年には約7万台,本件特許5が登録された平成12年には約3万台と減少し,平成13年には約1万台にまで落ち込んだ(甲36 。)(ウ) 被控訴人製品の内容及びそのパンフレットの記載被控訴人製品のうち,例えば 「ロイヤルチェア(MC-133 」については, ,)そのパンフレット(甲37の1,2)において,7種類のエアーバッグを用いて,,,, ,, , , 背中 首 肩 背筋 尻 太もも 脚などの全身をマッサージすることが紹介され脚部については,ふくらはぎを両側から包み込むように力強くサポートすること,尻部については臀部と股関節を押し上げるようなソフトな面刺激をすることなどが謳われているが,同パンフレットには,脚を挟持して座部を押し上げることによるストレッチ効果についての記載はない。
また 「自悠席(AM-226 」についても,そのパンフレット(甲37の4, ,)5)には 「エアーの優しい刺激」や「疲れに合わせて選べる多彩なマッサージ」 ,が強調され,脚部についてはふくらはぎが力強く包まれるような感覚,尻部については「ぐいと押し上げられるような体感」がアピールされているが,脚を挟持して座部を押し上げることによるストレッチ効果についての記載はない。
その他の被控訴人製品のうち,平成13年8月以降に発売したと考えられる製品のパンフレット(甲37の9,10)には,もみ玉とエアーの併用や,肩位置についてのオートセンサーの搭載などの紹介が見られるが,脚を挟持して座部を押し上げることによるストレッチ効果についての記載はない。
(エ) 控訴人製品の販売及び売上高の推移控訴人は,平成11年1月に控訴人製品1(ハイブリッドファミリーチェア)を,(.() )。, 販売し 平成12年4月に控訴人製品2 i 1 アイワン を発売した また控訴人は,平成12年11月に控訴人製品1を同製品3に設計変更し,平成13年5月に控訴人製品2を同製品4に設計変更した。この間の,控訴人の売上高(その大半を椅子式マッサージ機が占める )は,平成10年には年間約70億円であっ 。
たものが,平成11年には約84億円,平成12年には約120億円,平成13年には約139億円,平成14年には約160億円へと伸びている(甲47,48,55の1,2 。)(オ) 控訴人製品の内容及びそのパンフレットの記載控訴人製品1は,背もたれ部,座部,フットレストを有し,背もたれ部の部分ではもみ玉によるマッサージを行い,座部及びフットレストの部分では空気袋によるマッサージを行うものである。同製品のパンフレット(甲11)には,上半身の4つ玉もみによるマッサージと下半身のエアマッサージの組合せが製品の魅力としてアピールされており,下半身のマッサージについては 「ふとももとおしりは,掌 ,で押すようなエアバッグによる圧刺激でストレッチ感覚を体感できます。ふくらはぎは両側,後ろからの3Dアクションでもみほぐし血行を促します 」と記載され。
ている。
控訴人製品2は,同製品1と同様の構造及びマッサージ方法を備えたものであるが,光センサーにより指圧ポイントを自動検索するという機能を備えた点に特徴がある。同製品2のパンフレット(甲12)には,光センサーによる指圧ポイントを自動検索するという業界初の試みにより,体型に合わせた最適のマッサージを実現できることが強調されている。座部については,尻部の形状に合わせてエアバッグを配したこと,脚部については,6つのエアバッグによりエアマッサージを行うことがその魅力として記載されている。
,。 控訴人製品3は 同製品1と同様の構造及びマッサージ方法を備えたものであるそのパンフレット( ハイブリッドファミリーチェア(FHC-317(C)/(H) , 「」乙11)には,4個のもみ玉,エア,バイブを使い分け,身体の部位ごとに効果的なマッサージを行う機能を有することが紹介され,脚部及び尻部については,部位に応じてマッサージし,ふくらはぎは3方向から包み込むようにもみほぐし,さらに新搭載のバイブレータで新感覚のマッサージを実現したと記載されている。
,, 控訴人製品4は 同製品1と同様の構造及びマッサージ方法を備えたものであり同製品4と同様に光センサーによる指圧ポイントの自動検索機能が備えられてい。( 「. る 同製品4のパンフレット FAMILY MEDICAL CHAIR i1 ,乙12)には,控訴人製品2と同様に,光センサーによる指圧ポイントを自 」動検索することが謳われ,座部については尻部の形状に合わせてエアーバッグを2つにしたこと,脚部についてはエアバックと低反発ウレタンにより包み込むようにしっかりマッサージすることが記載されている。
(カ) 控訴人製品についての紹介記事等控訴人製品1〜4のうち,控訴人製品2は市場で第1位の市場占有率を占める人気商品となり,販売が好調であった(甲51 。同製品は 「業界で初めて赤外線セ ),,」(,) , ンサーにより マッサージを行う 2000年3月22日付け電波新聞 乙58「センサー機能に先鞭をつけた (平成13年11月17日付け日経流通新聞,乙 」62 「センサーで利用者の肩の高さを測り,もみ玉の動く範囲を自動で調節する ),機能が人気を集めた。これまでにない機能,と新鮮に受け止められました (日経。」トレンディ2002年5月号,乙61)などと評され,指圧ポイント自動検索システムは控訴人製品の基本機能と認識されている(乙86 。控訴人の同製品の紹介 )記事や広告においても,光センサーによる指圧ポイントの自動検索機能が強調されている(乙58〜61 。)また,控訴人製品2から設計変更された同製品4(FMC-300等)については,前記乙62において「FMC-300では高級感のある合成皮革とヒーターを採用して快適さを向上させ,両商品(判決注:FMC-100とFMC-300)で最高月7000台を販売する同社最大のヒットシリーズとなった 」と評されて。
いる。
(キ) 競合製品の状況松下電工は 平成11年8月に もみ&エアー を発売し 平成13年8月に モ ,「」,「ミモミ・リアルプロ」を発売した 「もみ&エア」のパンフレット(乙63の3) 。
には,脚部の上下2つのエアーバッグが足首からふくらはぎの順に絞り上げるよう,「」(,) にもみほぐすことが モミモミ・リアルプロ のパンフレット 乙63の1 2には,脚部,尻部をエアーでマッサージすることやセンサー機能が搭載されていることが記載されている。
また,フジ医療器は,平成12年4月に「エアーソリューション」を発売し,平成13年8月に「サイバーリラックス」を発売した。フジ医療器の「エアソリューション」のパンフレット(乙67の2,3)には,エアーバッグによる脚部のマッサージともみ玉による背中や腰のマッサージが組み合わされていることが 「サイ,」(),「」 バーリラックス のパンフレット 乙67の5 には 3Dポイントナビセンサーが搭載されることにより使用者の体型を3次元で感知し,体型に合わせたマッサージを行うことが謳われている。
前記平成13年11月17日付け日経流通新聞の記事(乙62)には,同月当時のマッサージ椅子の売れ筋商品として モミモミ・リアルプロ サイバーリラッ ,「」,「クス 控訴人製品4が上位1〜3位に挙げられ センサー付き 市場席けん 体 」,, 「,」「の特徴を計測するセンサー付きという新機能が支持されている 「相次ぐ各社のセ。」ンサー付き商品」などの記載がされている。
ウ 上記認定事実に基づいて,控訴人各製品の譲渡数量の全部又は一部を特許権者である被控訴人が販売することができないとする事情が認められるかどうかについて,検討する。
(ア) 前記判示のとおり,本件特許1〜5のうち,1〜4については無効審決が確定し,本件では本件特許5の侵害だけが問題とされている。本件特許1は,空気袋を膨脹,収縮させてマッサージを行うことを作用効果とするものであり,本件特許3は脚載置部を回動させて脚部への押圧力を可変にするものであるところ,本件特許5は,これらの特許発明の部分的な改良発明というべきものであり,座部用袋体及び脚用袋体への空気の供給のタイミングを工夫することにより,脚部を固定した状態で座部を押し上げ,腿部及び尻部の筋肉をストレッチないしマッサージしようとするものである。
被控訴人は,本件発明5が本件発明1,3を部分的に改良した発明であることは認めつつも,本件特許1,3が無効になった以上,現時点での本件発明5の位置付けは変わっており,その特徴は,脚用袋体と座部用袋体の膨張のタイミングの工夫のほかに,@脚部の両側に設けられた脚用袋体によるふくらはぎに対する有効なマッサージ作用,A座部,椅子本体,脚載置部,圧搾空気供給手段,分配手段,入力手段,制御手段等の全体的構成を備えた点にあると主張する。
しかしながら,上記@は,本件発明1に係る特徴であり,本件発明5の明細書にはそのようなマッサージ効果についての記載がない上,本件特許1については無効審決が確定し,何人もその構成を使用することができるのであるから,上記@の点が本件発明5の特徴であるということはできない。また,上記Aについても,確かに本件発明5は,座部,背もたれ部,脚載置部などを備えた椅子式マッサージ機自体についての発明ではあるが,このようなマッサージ椅子の基本的な構成は周知であり,この点に本件発明5の本質的な特徴があるとはいえない。
このように,本件発明5の本質的な特徴は,座部用袋体及び脚用袋体に空気を同期して供給することにより,膨脹した脚用袋体によって脚部をその両側から挟持された状態で,座部用袋体が膨脹して身体を上方に押し上げるようにする点にあり,特許法102条1項ただし書に該当する事情の有無についての判断は,このような本件発明5の本質に即してなされるべきである。
,, (イ) 本件発明5は 座部と脚部の空気袋を組み合わせて膨脹させることにより初めてその作用効果を奏するものであるところ,前記判示のとおり(1(1)イ ,控)訴人各製品において,本件発明5に係る上記作用効果を奏するのは,下半身に関する一定の動作モードを選択した場合のみである。例えば,控訴人製品1において,本件発明5の効果が発現するのは,下半身用操作盤・リモコンによって 「下半身,コースI〜III 「脚モードI〜III 「座モードI〜III」のうち「下半身コースII」 」」を選択した場合であり(原判決別紙被告製品1説明書HI参照 ,このような動作)モードは,肩,背,腰,脚の基本的な叩き揉みと異なり,使用者がそれほど頻繁に利用するものとはいえない。
また,消費者が椅子式マッサージ機を購入する動機は様々であり,当該消費者がマッサージを求める身体の部位にも個人差があると考えられるが,消費者は,椅子式マッサージ機を購入する際に,その健康効果に着目するとともに,人間の手で押したり,揉んだり,叩いたりする場合に近い感覚(揉み心地のよさ)を求めるのが一般である。本件発明5に係る作用は,脚部から尻部にかけての筋肉が引き伸ばされることによるストレッチ又はマッサージ効果であるが,この効果は,指圧を主とする椅子式マッサージ機の作用としては,付随的な効果といわざるを得ず,座部袋体が膨脹することにより筋肉が引き伸ばされる程度も,例えば,床上でストレッチ体操をする場合などと比較すれば小さいことも明らかである。
このように,本件発明5に係る作用効果は,椅子式マッサージの作用としては付随的であり,その効果も限られたものであることや,同作用効果が発現するのは,多様な動作モードの一部を選択した場合に限られることに照らすと,消費者が控訴人各製品を購入するに当たり,本件発明5に係る作用効果がその動機付けとなることはあってもごくわずかであるといわざるを得ない。
(ウ) 本件発明5の係るストレッチ又はマッサージ効果は,控訴人製品及び被控訴人製品のパンフレットにも記載されていない。
控訴人各製品のパンフレットのうち,控訴人製品1及び3のパンフレットにおいて強調されているのは,上半身をもみ玉とローラーでマッサージし,下半身をエアバッグでマッサージすることであり,控訴人製品2及び4のパンフレットにおいて強調されているのは,光センサーにより指圧ポイントを自動検索する機能を備えたことである。わずかに,控訴人製品1のパンフレットには「ふとももとおしりは,掌で押すようなエアバッグによる圧刺激でストレッチ感覚を体感できます 」との。
記載が存在するが,その他の控訴人製品のパンフレットには,本件発明5に係るストレッチ又はマッサージ作用についての記載はない。
また,被控訴人各製品のパンフレットにも,ふくらはぎを両側から包み込むようにマッサージすることや,尻部を押し上げるようにマッサージすることは紹介されているものの,脚部と尻部のエアーバッグの膨脹を同期させてストレッチ効果を奏することへの言及はなされていない。
このように,本件発明5に係るストレッチあるいはマッサージ効果は,控訴人製品及び被控訴人製品のいずれのパンフレットにおいても,消費者にアピールすべき特徴としては掲げられておらず,この点からも,消費者が控訴人製品又は被控訴人製品を購入する際に,本件発明5が重要な動機付けになったとは考えられない。
(エ) 椅子式マッサージ機市場の状況については,前記認定のとおり,平成13年度の台数ベースの市場占有率は,概ね,松下電工が26%,控訴人が17%,フジ医療器 被控訴人製品を含む が13%であると認められるところ 椅子式マッ (。),サージ機の市場における販売台数の状況と被控訴人製品の販売台数を比較すると,被控訴人製品の実質的な市場占有率は,本件特許5が設定登録された平成12年には台数ベースで6〜7%程度であり,平成13年にはさらにその割合が低下しているものと推認される。
松下電工及びフジ医療器の上記製品は,いずれも実勢価格が20万円以上(乙62)で多機能・高価格を特徴とする椅子式マッサージ機であり,上半身のもみ玉によるマッサージと下半身のエアーバッグによるマッサージを併用し,脚部も含め機能の多彩な組合せを備えたものであるから,被控訴人製品と競合する製品ということができる 松下電工の モミモミ・リアルプロ やフジ医療器の サイバーリラッ 。「 」 「クス」が売れ筋商品として消費者の人気が高かったことは,前記認定のとおりであり,その構成や機能に照らすと,代替性という意味では,エアーバッグによるマッサージを中心とする被控訴人製品よりも高かったというべきである。
このように,本件特許5の設定登録時点において,被控訴人製品の帰属する市場において,エアーバッグによるマッサージを特徴とする被控訴人製品が有する市場占有率は低落傾向にあり,市場には有力な競合製品が存在したものということができる。
(オ) 前記認定事実によれば,平成10年から平成12年にかけての時期には,もみ玉による上半身のマッサージとエアーバッグによる下半身のマッサージを組み合わせたものが製品の主流であり,マッサージする部位に応じてマッサージ方法を使い分けることが消費者に重視されていたものと考えられる。
ところが,平成12年4月に光センサーによる指圧ポイントの自動検索機能を業界で初めて備えた控訴人製品2が発売され,消費者の人気を博すると,その後に発「」(),「」 売された サイバーリラックス 平成13年8月発売 モミモミ・リアルプロ(同月発売)のパンフレットの記載や前記新聞記事(乙62)からもうかがわれるように,センサー機能を備え,使用者の体型の差に応じてマッサージを行う機能が消費者に重視されるようになったものと認められる。
このような高価格・高機能の椅子式マッサージ機の市場の動向によれば,本件特許5が設定登録された平成12年10月当時は,もみ玉とエアーバッグを併用することを前提としつつ,使用者の体型差に合わせたマッサージをできるような機能が重視されるようになった時期であるということができる。
そうすると,消費者が控訴人製品1,3を購入する上で重視したのは,マッサージ部位に応じてもみ玉とエアーバッグを使い分けるという機能であり,控訴人製品2,4を購入する上で主として重視したのは,使用者の体型に応じたマッサージを可能にするための指圧ポイントの自動検索機能にあったと認められる。
以上によれば,控訴人各製品は,いずれも本件発明5の構成とは異なる特徴的な構成を有するものであり,消費者が同製品を購入する際の重要な動機付けとなった,,。 のは 同製品が備えるこれらの特徴的な機能 構成であったものというべきである(カ) 被控訴人は,被控訴人製品の販売額が激減したのは,控訴人が本件特許を侵害したからであると主張する。
しかしながら,前記判示のとおり,控訴人の売上高が伸びたのは,控訴人製品1がもみ玉による上半身マッサージとエアーバッグによる下半身マッサージを取り入れ,さらに控訴人製品2がセンサーによるツボの自動検索機能を備えるなど,消費者のニーズに対応する製品を発売してきたからであると考えられる。
他方,被控訴人製品の売上高が減少したのは,被控訴人が,エアーバッグともみ玉の併用が市場の主流になる中でエアーバッグによる椅子式マッサージ機を中心とした販売を維持しており(甲37の1〜10 ,とりわけ平成12年以降は,消費 )者の関心を引くような新機能を搭載した機種を販売することができなかったことや,被控訴人が独自の販売網を持たず,被控訴人製品の販売をすべて委ねていたフジ医療器が被控訴人製品と競合する独自の製品 エアーソリューション サイバー (「」 「リラックス を相次いで販売し その売上げが伸びたことなどが主たる原因であっ 」),たと考えざるを得ない。
そうすると,被控訴人製品の販売額減少の主たる原因が本件特許権5の侵害にあるということはできないのであって,むしろ本件被控訴人の市場競争力や製品販売力が限定的であったことを,特許法102条1項ただし書にいう「販売することができない事情」として考慮すべきである。
(キ) 以上のとおり,本件発明5の本質的な特徴は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することによるストレッチ又はマッサージ効果にあるところ,本件では,@本件発明5の機能は,控訴人各製品の一部の動作モードを選択した場合に初めて発現するものであること,A本件発明5に係る作用効果は,椅子式マッサージの作用としては付随的であり,その効果も限られたものであること,B控訴人製品のパンフレットや被控訴人製品のパンフレットにおいても,本件発明5に係る作用は,ほとんど紹介されていないこと,C本件特許5の設定登録当時,被控訴人の市場占有率は数%にすぎず,椅子式マッサージ機の市場には有力な競業者が存在したこと D控訴人製品は もみ玉によるマッサージとエアバッグによるマッ ,,サージを併用する機能や,光センサーによりツボを自動検索する機能など,本件発明5とは異なる特徴的な機能を備えており,これらの機能を重視して消費者は控訴人製品を選択したと考えられること,E被控訴人製品はエアーバッグによるマッサージ方式であり,その市場競争力は必ずしも強いものではなく,被控訴人の製品販売力も限定的であったなどの事情が認められる。
これらの事情を総合考慮すれば,控訴人各製品の譲渡数量のうち,被控訴人が販売することができなかったと認められる数量を控除した数量は,いずれの控訴人製品についても,上記譲渡数量の1%と認めるのが相当である。
(6) 損害額ア 控訴人製品1,2(平成12年10月20日〜平成13年3月5日)譲渡数量 1万7598台販売し得た数量(1%) 176台単位数量当りの利益の額 1万6650円金額 293万0400円イ 控訴人製品1〜4(平成13年3月6日〜平成14年3月31日)譲渡数量 5万1381台販売し得た数量(1%) 514台単位数量当りの利益の額 1万6650円金額 855万8100円ウ 合計 1148万8500円4-2 特許法102条3項に基づく主張(1) 被控訴人は,予備的に,特許法102条3項実施料相当額(製品当たり5%)を損害として主張するが,前記のとおり,本件発明5は,椅子式マッサージ機の一部の動作モードが選択された場合に初めてその作用が発現し,効果自体も付随的なものにとどまることや,本件発明5の機能を備えていないとしても,脚部や尻部のマッサージ自体は行うことができ,控訴人製品の販売への影響は少ないと考えられること,さらには前記判示の事情を総合すると,実施料相当額が特許法102条1項に基づいて認められる上記損害額を超えると認めることはできない。
(2) 被控訴人は,仮に,競合品の存在を考慮して特許法102条1項ただし書を適用したとしても,被控訴人によって販売できないとされた分(99%)については,特許法102条3項実施料相当額として販売額の5%が損害として認められるべきであると主張する。
しかしながら,特許法102条1項は,特許侵害に当たる実施行為がなかったことを前提に逸失利益を算定するのに対し,特許法102条3項は当該特許発明実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるから,それぞれが前提を異にする別個の損害算定方法というべきであり,また,特許権者によって販売できないとされた分についてまで,実施料相当額を請求し得ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として本来請求しうる逸失利益の範囲を超えて,損害の填補を受けることを容認することになるが,このように特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認めるべき合理的な理由は見出し難い。
したがって,被控訴人の主張は採用できない。
4-3 その他の主張についてなお,被控訴人は,特許法102条2項に基づく予備的主張を行っているが,同条1項に基づいて認定した損害額を超えると認めるに足る証拠はない。また,差止請求については,控訴人製品3,4についての差止めの必要はなお失われていないと認められる。
結論
以上のとおりであるから,被控訴人の請求は,控訴人製品3,4の製造,販売等の差止め,同製品の廃棄,損害賠償として1148万8500円及び内金293万0400円に対する平成13年3月6日から支払済みまで年5分の割合による,内金855万8100円に対する平成14年5月9日から年5分の割合による,各遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
別紙1「第2事案の概要「3審決(甲1の1)の要旨」」「(1)請求人(控訴人)の主張ア引用文献@審判甲2(特公昭44-13638号公報,本訴乙80)A審判甲3(意匠登録第296760号公報,本訴乙4)B審判甲5(ナショナルエアーマッサーあしラーク」のパンフレット,本訴乙15「1)イ無効理由本件発明5は,(a)乙80,(b)乙80及び4,(c)乙80及び151,(d)乙80,4及び151に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(以下,上記符号に応じて「無効理由a」などという。。)(2)引用刊行物に記載された発明審決は,各引用刊行物に記載された発明について,以下のとおり認定した。
@乙80に記載された発明(以下「乙80発明」という)。
「上端に指圧頭部29が取り付けられ,圧縮空気が送り込まれる複数の蛇腹状伸縮筒27を有する指圧装置であって,該蛇腹状伸縮筒27が配設された腰掛部3,腰掛部3の前部に配置され肘掛部4の内壁面に該蛇腹状伸縮筒27が配設された脚載置部,及び腰掛部3の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背凭れ部2とを有する安楽椅子1と,圧縮空気を送り込む空気圧縮機7と,この空気圧縮機7からの圧縮空気を接続ホース26を介して前記各蛇腹状伸縮筒27に逐次分配して送り込む分給回転バルブ19と,蛇腹状伸縮筒27内の圧力と伸縮回数を調節する手段とを備える指圧装置」。
A乙4に記載された発明(以下「乙4発明」という)。
「座部及びこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部を有する椅子本体と,前記座部の前部に設けられかつ使用者の左右の脚部をそれぞれその両側及び後側から包囲する凹状の脚載置部と,指圧子と,を備えた指圧椅子」B乙151に記載された発明(以下「乙151発明」という)。
「着脱式の複数の空気袋体からなり,ふくらはぎ部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されてふくらはぎを圧迫した後に,太もも部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されて太ももを圧迫するエアーマッサージ機」(3)判断ア無効理由dについて「本件発明5と乙80発明とを比較すると,乙80発明は,少なくとも本件発明5の「座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」態様構成を備えておらず,また,乙80には,上記態様構成を示唆す。,,。る記載もないさらに上記態様構成は乙4及び乙151にも開示されていないものであるそして,本件発明5は,かかる態様構成により「腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされる,ことになり,ストレッチされつつ同時にマッサージがなされる」という明細書に記載の効果を奏するものである。
確かに,乙80発明は「上端に指圧頭部29が取り付けられ,圧縮空気が送り込まれる複,数の蛇腹状伸縮筒27「該蛇腹状伸縮筒27が配設された腰掛部3」及び「肘掛部4の内壁」,面に該蛇腹状伸縮筒27が配設された脚載置部」を備えており,一方,マッサージ装置において,指圧頭部付きの蛇腹状伸縮筒を用いたタイプと袋体を用いたタイプの双方共に周知のものであるから「蛇腹状伸縮筒」と「袋体」の一方を他方で置換すること自体は当業者が必要に,応じて適宜なし得ることと認められるが,仮に,乙80発明において,肘掛部4の内壁面に配設された「蛇腹状伸縮筒27」を「袋体」で置換したとしても,該置換した袋体は,単に,右脚の右外側部分と,左脚の左外側部分とに配設されているだけのものとなり,本件発明5の実施例における中間壁もないから「袋体の膨脹により使用者の脚部を両側から挟持した状態」,になり得ないものである。
また,乙80発明は,複数の蛇腹状伸縮筒27に圧縮空気を逐次分配するようにしたものであるが,該蛇腹状伸縮筒27により,乙80の第8図の如く大腿部から脚にかけてa〜fの符号で示された指圧の急所を,当該符号の順に逐次押圧する実施例のみならず押圧順を適宜変更したものを考慮しても,各指圧の急所が異なるタイミングで押圧されるにとどまり,腿部又は尻部の筋肉が引き伸ばされることにならないのは明らかである。
したがって,乙80発明は,ストレッチ効果を奏するための上記態様構成を開示するものとは到底いえない。
つぎに,乙4には,使用者の左右の脚部をそれぞれその両側及び後側から包囲する凹状の脚載置部を有する指圧椅子が記載されており,仮に,この脚載置部の両側内面に袋体を配設するように改変した場合には「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態」になり得ると,解されるものの,このものは,座部用袋体を備えておらず,したがって,ストレッチ効果を奏するための上記態様構成が全く考慮されていないことは明らかである。
さらに,乙151には,ふくらはぎ部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されてふくらはぎを圧迫した後に,太もも部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されて太ももを圧迫するエアーマッサージ機が記載されてはいるが,このものは,単に,空気袋体の膨脹により,ふくらはぎ部から太もも部へ順次加圧を行うだけのものであり,ストレッチ効果を奏するための上記態様構成とは全く無関係のものである。
本件発明5は「腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをする」こと,を課題として「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用,者を押し上げるように膨脹する」構成要件を採用することにより「座部用袋体が膨脹して身,体が上方に持ち上げられるとき,膨脹した脚用袋体によって使用者の脚部はその両側から挟持されているので,腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり,ストレッチされつつ同時にマッサージがなされるという効果を奏する」ものであり,このような課題や作用効果について開示のない乙80,乙4に基いて,当業者といえども「脚用袋体が膨脹して使用者の脚,部を挟持した状態」とする構成を想到することは困難であり,まして「脚用袋体が膨脹して,使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」構成を想到することはさらに困難である。
また,単に装着式の複数の袋体からなるマッサージ機を開示する乙151をあわせて検討しても,前記構成を想到することが困難であることに変わりはない。
なお,請求人が提出した他の証拠を参酌しても,上記態様構成が周知技術であると解するに足る証拠は見出せない。
そうすると,本件発明5が,乙80,乙4,乙151に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって,無効理由dには理由がない」。
イ無効理由aないしcについて「本件発明5が,乙80,乙4,乙151に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上,本件発明5が,乙80に記載の発明及び周知技術に基いて,あるいは,乙80,乙4記載の発明及び周知技術に基いて,さらには,乙80,乙151に記載の発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないのは明らかである。
したがって,無効理由aないしcにも理由がない」。
(4)結論「以上のとおりであるから,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発」明5についての特許を無効にすることはできない。」2「第3原告の主張の要点」「上記無効理由b,dについての審決の判断は誤りである。
1無効理由bについて「」,(1)請求項1の脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態との構成に関し,,審決は乙4の指圧椅子の脚載置部の両側内面に袋体を配設するように改変した場合には「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態」になり得ることは認めつつも,乙80,4に基づいてこのような構成に想到することは困難であると判断した。
しかしながら,下腿部の押圧は,マッサージ装置における最も一般的な課題の一つであるから,下腿部の押圧を目的として乙4の指圧椅子の一対の脚載置部の両側壁に乙80の指圧装置と同様の蛇腹状伸縮筒を設けることは,当業者が容易に推考し得ることである。
そして,審決もいうとおり,この蛇腹状伸縮筒を袋体に置換することは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることにすぎない。このようにして,乙4の指圧椅子の一対の脚載置部の両側壁に蛇腹状伸縮筒を設けた上で,当該伸縮筒を袋体に置換した場合,凹所に配され,。た押圧部材が押圧作用を奏することにより必然的に使用者の脚部を挟持した状態となるしたがって「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態」との構成は,乙80,,4に基づき容易に想到することができる。
(2)座部に袋体が配設された構成は,腿部や尻部に押圧を与えることを目的とするものであり,マッサージ装置においては周知の構成である。また,座部に配設された袋体が膨脹して腿部や尻部が押圧されれば使用者が押し上げられることは自明であるから,請求項1の「前記座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」との構成は周知である。
仮に,かかる構成が周知ではないとしても,乙80発明及び周知技術に基づき,当業者であれば容易に推考し得る。
(3)請求項1の「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」との構成も,乙80,4に記載された発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到し得るものである。
乙80の指圧装置において,a〜f(第8図)の順に蛇腹状伸縮筒が膨脹するようにしたのは,身体の各所に異なるタイミングで蛇腹状伸縮筒からの押圧の刺激を与えるようにすることが目的であり,その押圧順序を変更することを阻害する格別の要因はない。膨脹順序は,脚載置部の蛇腹状伸縮筒を膨脹させてから座部の蛇腹状伸縮筒を膨脹させるという順序に変更してもよいし,脚載置部の蛇腹状伸縮筒と座部の蛇腹状伸縮筒とを同時に膨脹させるように変更してもよいのであってその場合に手軽に筋肉を伸ばす程度の効果本,(件発明5の「ストレッチ効果)が生じることは当業者であれば容易に想到し得る。この」ように「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者,を押し上げるように膨脹する」構成は「ストレッチしつつマッサージをする」という課,題や効果を意図せずとも,下腿部や尻部等を押圧するというマッサージ装置の最も一般的な課題に着目することにより,容易に想到し得るものである。審決は,乙80,4に本件発明5と同様の課題や効果が記載されていないことのみを理由として本件発明5の容易想到性を否定したものであって,その判断は誤りである。
(4)以上のとおり,本件発明5は,乙80,4に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
2無効理由dについて乙151発明には,複数の空気袋体により足先,足首,ふくらはぎ,ふとももの順に圧迫を施すという構成が記載されており,これが「求心法」という施療を意図したものであろうことは,当業者であれば容易に推測することができる。乙151発明に接した当業者であれば,乙80の指圧装置について,その脚載置部の蛇腹状伸縮筒を膨脹させてから座部の蛇腹状伸縮筒を膨脹させるという順序に変更することは容易に想到し得ることである。このような乙151発明も併せて考慮すれば,本件発明5は,乙80,4,151に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり,無効理由dを否定した審決の判断は誤りである」。
3「第4被告の主張の要点」「無効理由b及びdについての審決の判断には誤りはない。
1無効理由bに対して(1)本件発明5の椅子式エアーマッサージ機は,圧搾空気の給排気によって膨縮する袋体によって使用者の身体のマッサージを行うものであるが,特に,使用者の大腿部や尻部を押し上げるように膨脹する座部用袋体と,使用者の脚部(ふくらはぎ)をその両側から挟持するように膨脹する脚用袋体が設けられており「前記脚用袋体が膨脹して使用者,,」,の脚部を挟持した状態で前記座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹するようにこれら2種類の袋体の膨脹のタイミングを制御することを特徴的構成としている。これにより,本件発明5においては,脚部に対する挟み揉みマッサージ作用だけでなく,大腿部の筋肉に対する引き伸ばし作用(ストレッチ)が生じることになる。
(2)乙80,4,151には,指圧などの押圧効果で各部をマッサージする機構が開示されているにすぎずストレッチを意図した構成は全く見当たらないまして押圧マッ,。,サージ機用の袋体を空気圧で膨脹させることにより脚部を脚載置部に挟持し,その状態のまま座部用袋体で使用者を押し上げて腿部を含む脚部をストレッチしながらマッサージするなどという効果は全く想定されていない。押圧マッサージでは使用者の脚部を挟持した状態にして動かさないようにする必要はなく,脚部を挟持した状態で座部が腿や尻部を押し上げるのは,本件発明5のような課題,作用効果があって初めて可能となるのである。
(3)乙80発明の指圧装置は,椅子に着座又は寝台に臥床した人体の指圧のつぼに当たる位置に蛇腹状伸縮筒を配置し,その伸縮により指圧マッサージを行うものである。乙80発明の指圧装置には,使用者の脚部を挟持して動かないようにする構成は含まれておらず,したがって,脚部を挟持した状態で座部で使用者の腿部や尻部を押し上げる構成も存在しない。乙80の指圧装置の脚部や座部に配置した蛇腹状伸縮筒を同期させて膨らませたとしても,それぞれ各所のつぼで指圧的効果を生ずるだけで,脚を動かさないようにすることも,その状態で座部で腿や尻部を押し上げることもない。そもそも,乙80発明は,腿部及び尻部のストレッチなど想定していない。
審決は,乙80発明の蛇腹状伸縮筒を袋体と置換することは,当業者が必要に応じて適宜なし得るとしている。しかしながら,蛇腹状伸縮筒と袋体とは押圧によるマッサージ機能としては共通性があるとしても,本件発明5の課題,効果を達成するために蛇腹状伸縮筒を利用することは考えられないのであるから,両者が置換可能とはいえず,仮に,乙80の指圧装置の蛇腹状伸縮筒を袋体に置換したとしても,乙80の脚載置部には脚部を挟持するための中間壁がないから,脚部を挟持することはできない。
(4)乙4発明は指圧椅子と題する意匠で外観だけを示しているが,指圧のための部材を配設するときは,乙80発明と同様の蛇腹状伸縮筒と同様のものを選択するのが自然である。また,この指圧椅子には,凹部の脚載置部はあるが,その両側壁に袋体を配置したとしても,押圧によるマッサージの範囲以外のことは考えないのが自然である。本件発明5の課題や効果を意図しない限り「使用者の脚部を挟持した状態」は想到し得ない。,(5)以上によれば,本件発明5は,乙80,4に記載された発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到し得たものとはいえないとした審決の認定に誤りはない。
2無効理由dに対して乙151発明は,ふくらはぎや大腿の圧迫によるマッサージを行うもので,作動中に脚は自由に動き,座部用袋体もないから,ストレッチ効果はない。したがって,乙80,4に記載された発明に加えて,乙151発明を考慮しても,本件発明5は当業者が容易に発明することができたものとはいえない」。
4「第5当裁判所の判断」「控訴人は,無効理由b及びdについての審決の判断の誤りを主張するところ,まず,無効理由dについて検討する。
1無効理由dについて(1)本件特許請求の範囲及び発明の詳細な説明(甲23)によれば,本件発明5に係る椅子式エアーマッサージ機は「腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサー,ジをする(段落【0003)ことを課題とし「座部用袋体への圧搾空気の給排気動作」】,に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨脹し,」て使用者の脚部を挟持した状態で前記座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する(請求項1)との構成をとることにより「座部用袋体が膨脹して身体が上方に持ち上げ,られるとき,膨脹した脚用袋体によって脚部はその両側から挟持されているので,腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり,ストレッチされつつマッサージがされる」(段落【0005)との作用を有するものであると認められる。】(2)乙80,4,151に記載された発明に関する審決の認定については,当事者間に争いはない。乙80には,指圧頭部付きの蛇腹状伸縮筒を指圧手段として用い,内壁面に蛇腹状伸縮筒が配された脚載置部を備え,座部にも蛇腹状伸縮筒が配された指圧装置が開示されている。また,乙4(意匠公報)には,使用者の左右の脚部をそれぞれその両側及び後側から包囲する凹状の脚載置部を備えた指圧椅子が開示され,乙151には,空気袋体に圧搾空気が供給されて,足先,足首,ふくらはぎ,ふとももの順に圧迫するエアーマッサージ機が開示されている。
(3)審決は,本件発明5と乙80発明とは,本件発明5のエアーマッサージ機は「座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」との構成を備えているのに対し,乙80の指圧装置はそのような構成を備えていない点で相違すると認定した。この点についても当事者間に争いはない。
(4)そこで,上記相違点に関する審決の判断について検討する。
,,ア本件発明5と乙80発明とはその押圧手段が本件発明5では袋体であるのに対し乙80発明では蛇腹状伸縮筒である点で相違するが審決も指摘しているとおりマッサー,,ジ装置として蛇腹状伸縮筒を用いたものと袋体を用いたものは,いずれも周知である。したがって,乙80の指圧装置の蛇腹状伸縮筒を袋体に置換することは,当業者が必要に応じ適宜なし得るということができる。
イ乙4には,使用者の左右の脚部をそれぞれその両側及び後側から包囲する凹状の脚載置部を備えた指圧椅子が開示されていることは,前記判示のとおりである。乙80と乙4はいずれも指圧装置という同一分野に関する発明であるから,乙80の指圧装置の押圧手段を袋体に置換し,乙4に記載された脚載置部の構成を乙80発明に適用することについて,阻害要因は認められない。乙80の指圧装置に乙4の脚載置部を適用した場合,乙151発明にも示されているとおり,ふくらはぎ部を包み込むようにして押圧することは周知のマッサージ方法であるから,脚載置部の左右各脚の後部及び両側壁に袋体を配することは当業者であれば適宜なし得る事項であり,脚載置部をこのように構成した上で,同部分の袋体に圧搾空気を送り込んだ場合「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部が挟持した,状態」となることは明らかである。したがって,本件発明5の「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部が挟持した状態」との構成は,当業者が,乙80,4,151記載の発明及び周知技術に基づき,容易に想到し得たものというべきである。
ウ同様に,乙80の指圧装置の座部には蛇腹状伸縮筒が配設されていると認められるが,この蛇腹状伸縮筒を袋体に置換した上で,その数や配置を適宜変更し,圧搾空気を送り込んだ場合に「座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」ことも明らかであ,る。したがって「座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」との構成について,も,当業者であれば容易に想到することができるというべきである。
エしかしながら「座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体,への給排気を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨脹して使用者の脚部が挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」との構成が,乙80,4,151に記載された発明及び周知技術に基づき,当業者であれば容易に想到し得るものであるということはできない。
この点,控訴人は,乙80,4,151には,本件発明5と同様の課題,効果が記載されていないことは認めつつも,乙80の指圧装置において蛇腹状伸縮筒が膨脹する順序を変更することは,当業者が適宜なし得ることであるから,脚載置部の伸縮筒と座部の伸縮筒とを同時に膨脹させるなどして,本件発明5の「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部が挟,」,持した状態で座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹するとの構成にすることは当業者であれば容易に想到し得ることであり,課題や効果の記載がないことを理由にして本件発明5の容易想到性を否定した審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,乙80の指圧装置において蛇腹状伸縮筒が膨脹する順序を変更すること,,,,,,,は当業者が適宜なし得ることであるとしても乙80には首筋背部腕部大腿部脚部等を順次繰り返して指圧することが開示されているにすぎないのであるから,乙80の指圧装置の蛇腹状伸縮筒の膨脹順序を変更したとしても,マッサージの対象となる部位が異なるタイミングで押圧されるにとどまり,本件発明5と同様のストレッチ効果を奏するものではないことは明らかである。
また,仮に,指圧装置において複数の押圧部位を同時に膨脹させることが当業者にとっ,,て容易に想到し得るものであるとの控訴人の見解を採用したとしても本件発明5が課題効果としているストレッチは,袋体や蛇腹状伸縮筒により身体の各部位を押圧するマッサージとはその作用が明らかに異なり,しかもマッサージ効果に加えてストレッチ効果を奏するには単に複数の押圧部位を同時に押圧するだけでは足りず,複数の押圧部位が協働して作動することが必要となるのであるから,乙80の伸縮筒の膨脹順序として考え得る多数の組合せの中から本件発明5と同様の作用効果を奏する構成を採用することが当業者にとって容易であるというには,本件発明5と同様の課題や効果が乙80,4,151に開示ないし示唆されていることを要するというべきである。本件発明5と同様の課題,効果についての開示ないし示唆は,乙80,4,151の記載からは認められず,そのような課題,効果が周知の事項であると認めるに足る的確な証拠もない。
なお,控訴人は,本件発明5における「ストレッチ」との用語は「手軽に筋肉を伸ばす程度」との意味に理解すべきであると主張するが,本件発明5は脚部を挟持した状態で座部を押し上げるものであるから,その筋肉を引き伸ばす程度は,たとえば脚部の自重により脚部や腿部の筋肉が引き伸ばされる場合とは異なるというべきであり,また,仮に控訴人のような意味に理解し得ると仮定しても,乙80,4,151にその開示ないし示唆がないことに変わりはないのであるから,進歩性についての上記結論を左右するものではない。
以上によれば,本件発明5の「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部が挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押し上げるように膨脹する」との構成が,乙80,4,151に記載された発明及び周知技術に基づき容易に想到し得たものであるということはできない。
2無効理由bについて乙80,4,151に記載された発明及び周知技術に基づく無効理由dについての控訴人主張に理由がない以上,乙80,4に記載の発明及び周知技術のみに基づく無効理由bについての控訴人主張に理由がないことは明らかである」。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文