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事件 平成 3年 (ネ) 1627号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1994/02/03
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原判決を取り消す。
被控訴人は、控訴人に対し、金二二二四万円及びこれに対する昭和六三年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人(第一審原告)主文と同旨の判決及び仮執行宣言二 被控訴人(第一審被告)「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決
当事者の主張
一 控訴人の請求の原因1 控訴人は、発明の名称を「無限摺動用ボールスプライン軸受」とする特許第九九九一三九号特許権(昭和四六年四月二六日出願、同五三年七月七日出願公告、同五五年五月三〇日設定登録、以下「本件特許権」といい、これに係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
2 本件発明の構成要件は、以下のとおりである。
(一) 本件発明の特許出願に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の欄には、以下の記載がある。
「円筒内壁に断面U字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝と、該溝よりもやや深いトルク伝達用無負荷ボール案内溝を軸心方向に交互に形成し、その両端部に前記深溝と同一深さの円周方向溝を形成した外筒と、該外筒内壁の軸心方向に形成したトルク伝達用負荷ボール案内用溝(「トルク伝達用負荷ボール案内溝」の誤記である。)と該トルク伝達用無負荷ボール案内溝に一致して厚肉部と薄肉部(「薄肉部」と「厚肉部」の誤記である。)を形成し、さらに前記薄肉部と厚肉部との境界壁に形成した貫通孔と前記厚肉部に形成した無負荷ボール溝へボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成した保持器と、該保持器と前記外筒間に組み込まれたボールとによって形成される複数個の凹部間に一致すべく複数個の凸部を軸方向に形成したスプラインシャフトを嵌挿組立てて構成されることを特徴とする無限摺動用ボールスプライン軸受」(二) 本件発明の構成要件を分説すると、以下のとおりである。
(1) 円筒内壁に断面U字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝と、該溝よりもやや深いトルク伝達用無負荷ボール案内溝を軸方向に交互に形成し、その両端部に前記深溝と同一深さの円周方向溝を形成した外筒(以下「構成要件A」という。)(2) 外筒内壁の軸方向に形成したトルク伝達用負荷ボール案内溝とトルク伝達無負荷ボール案内溝に一致して薄肉部と厚肉部を形成し、さらに前記薄肉部と厚肉部との境界壁に形成した貫通孔と前記厚肉部に形成した無負荷ボール溝へボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成した保持器(以下「構成要件B」という。)(3) 該保持器と前記外筒間に組み込まれたボールとによって形成される複数個の凹部間に一致すべく複数個の凸部を軸方向に形成したスプラインシャフト(以下「構成要件C」という。)(4) 右の外筒と保持器とスプラインシャフトを嵌挿組み立てる(以下「構成要件D」という。)(5) 無限摺動用ボールスプライン軸受(以下「構成要件E」という。)3 被控訴人は、昭和五八年一月から同六三年一〇月まで、別紙物件目録記載の製品(以下「イ号製品」という。)を、業として、製造販売した。
なお、同目録のa項において、無負荷ボール案内溝5と円周方向部分7を「同一深さ」とした理由は、イ号製品には、右両部材間に約五〇ミクロンの段差があるが、右の段差は極めて僅かなものであり(したがって、別紙図面の第1図ないし第3図及び第6図には、右段差は現れない。)、その技術的意義がないため、前記のとおり「同一深さ」としたものである。
4 イ号製品は、本件発明の構成要件を全て充足する。イ号製品が構成要件C、D及びEを充足することは明らかであるから、同A及びBを充足する理由を詳述すると、以下のとおりである。
(一) 構成要件Aについて(1) イ号製品の対をなす「断面半円状」の溝は、本件発明の「断面U字状」の溝の要件を充足する。
本件発明の「断面U字状」との要件は、無限摺動用ボールスプライン軸受において、複列タイプのアンギュラコンタクト構造を採用するためには(複列タイプのアンギュラコンタクト構造を採用した本件発明の本質的特徴については、後記(二)(1)で詳述する。)、@2条で一組の負荷ボールを案内するためのボール転走面が形成できること、及び、A2条の負荷ボール間に保持器の薄肉部を配置し、かつ、シャフトの凸部を嵌入する必要があること(凹部形成機能)から採用されたものであり、「U字状」の形状それ自体に特別の技術上の理由があるためではない。
要するに、複列タイプのアンギュラコンタクト構造のボール配置における負荷ボール案内溝の形状を技術的に意味あるものとしてみると、2条で一組の負荷ボールを案内するためのボール転走面が存在すること(U字状の溝における円弧状の溝両隅部)が必要であり、かつ、シャフト凸部を嵌入するために二列の負荷ボール間に保持器の薄肉部を収納配置することが可能であること(溝中央部)が必要であることから、負荷ボール案内溝の形状として、断面U字状が採用されたものである。したがって、溝中央部は、保持器の薄肉部を収納配置することが可能であれば足りるのであって、それ以上にその形状に技術的意義があるものではない。なお、無負荷ボール案内溝の形状は、アンギュラコンタクト構造とは直接の関係を有するものではないが、本件発明では、ボールの円周方向循環を採用した関係上、両ボール案内溝の形状を比較的近い形とした方が設計上、工作上容易となるので、同一形状としたものである。
これに対し、イ号製品の溝は、「断面半円状」であるが、本件発明と同様に複列タイプのアンギュラコンタクト構造のボール配置を実現しているものであるから、
二列の負荷ボール案内溝を対をなすものとして捉える他ないのであって、このような技術上の観点からみると、イ号製品にも転走面を有する2条で一組の負荷ボールを収納できる溝を観念することが可能となることは明らかである。すなわち、両者は、共に、複列タイプのアンギュラコンタクト構造のボール配置構造を実現するために、転走面を有する2条で一組の負荷ボールを収納する溝である点において全く差異はないのであるから、イ号製品の対をなす「断面半円状」の溝を断面U字状の溝と観念することが可能となるのである。
もっとも、イ号製品には、断面半円状の負荷ボール案内溝の間に突堤25、27、29が設けられている点において、外観形状を一見異にするように見えるが、
かかる突堤の存在は断面U字状の負荷ボール案内溝を観念する障害となるものではない。すなわち、右突堤の付設は、元々、シャフト凸部と接触し、これを挟持することと無関係の遊んでいた断面U字状溝の中央部分に、保持器の薄肉部に相当する突堤上端の取付部材を設けたに過ぎないと観念することが可能であって、このような変更があったとしても、複列タイプのアンギュラコンタクト構造における負荷ボール案内溝(2条で一組の転走面を有する負荷ボールを収納する溝)としての視点においては、シャフト凸部を接触挟持する二列で一組の負荷ボールの転走面と何ら関係のない溝中央部における保持器の薄肉部の収納ないし取付に関する単なる設計変更に過ぎないか、あるいは、後述するとおり、本件発明の保持器薄肉部とイ号製品の前記突堤とは実質同一又は均等のものであるというべきであるから、断面半円状、すなわち、突堤を有するイ号製品においても断面U字状の負荷ボール案内溝を観念することの妨げとなるものではない。なお、イ号製品の無負荷ボール案内溝の間にも突堤26、28、30が存在しているが、本件発明と同様に単なる設計上、
工作上の観点から負荷ボール案内溝と同一形状が採用されたに過ぎないのである。
(2) イ号製品の「円周方向部分7」は、本件発明の「円周方向溝」の要件を充足する。
本件発明の円周方向溝の目的は、トルク伝達用負荷ボール案内溝及びトルク伝達用無負荷ボール案内溝によって形成された軸方向の分岐帯頂壁を外筒の両端部で円周方向に切り通すことにより、両溝間を平坦状に相互連絡し、ボールが負荷から無負荷側へ、あるいは無負荷から負荷側へ一八〇度スムーズに方向変換して循環するための場所を提供し、右循環を可能にした点にある。そして、特に、円周方向溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝との間のボールの移動に関しては、両溝を「同一の深さ」に形成することとしたものである(なお、円周方向溝の深さをトルク伝達用負荷ボール案内溝の深さと同一深さとすると、ボールがトルク伝達用負荷ボール案内溝の入口側及び出口側においてスプラインシャフトと干渉して方向変換に支障を生ずるため、トルク伝達用負荷ボール案内溝と同一深さとすることはあり得ず、
この点はイ号製品においても同様である。)。ところで、ボールスプライン軸受の外筒の加工に当たっては、まず、外筒の両端を旋削加工して円周方向溝を形成し、
その後、ブローチ加工して負荷ボール案内溝及び無負荷ボール案内溝を形成する。
そして、無負荷ボール案内溝をブローチ加工する際、加工誤差によって、円周方向溝の部分にブローチの跡が残り傷を生じた場合には、製品の外観品質の低下を来すのみならず、ボールのスムーズな循環に悪影響を及ぼすこともある。そこで、「同一深さ」に加工するに当たって、設計上、ブローチ加工時の跡が円周方向溝に残るのを避けるため、無負荷ボール案内溝より円周方向溝の方を「若干深く」加工しているのが一般的である。本件発明の前記の「同一深さ」も、当然のことながら、右に述べた溝加工の実際を踏まえているのであって、トルク伝達用無負荷ボール案内溝と円周方向溝との間に現実に存する「常識的な深さの差」(五〇ミクロン程度の差)を考慮しているのである。
イ号製品(SPG―三〇)における無負荷ボール案内溝と円周方向部分7との段差は約五〇ミクロンであり、前記の「常識的な深さの差」の範囲内にあり、本件発明の「同一深さ」の要件を充足する。
もっとも、被控訴人は、後記のように、本件発明の円周方向溝は、ボールの方向変換路の一部であるとした上で、これに対し、イ号製品は、保持器11(「プレート状部材11」と同一部材である。)の端部のボール変更溝とリターンキャップ31(「リング状部材31」と同一部材である。)のボール変更溝で方向変換路を構成し、円筒状部分7(「円周方向部分7」と同一部材である。)を方向変換路の構成要素としていない点において異なると主張する。しかし、円周方向溝は、ボールを外筒内で循環させるために備えなければならない条件(切り通し)であり、ボールの循環案内は保持器の「無限軌道溝」が行うのであるから、被控訴人主張の方向変換路は無限軌道溝(環状溝)の構成の問題に過ぎないのであり、無負荷ボール案内溝と円周方向溝の同一深さの問題とは無関係であり、被控訴人のこの点の主張は失当である。なお、被控訴人は、円周方向部分7を削り取った検乙第一、二号証を援用するが、現実のイ号製品とは異なる架空の議論であって、無意味である。
(二) 構成要件Bについて イ号製品の「三枚のプレート状部材11」、その両端に嵌着した一対の「リング状部材31」及び「突堤25、27、29」からなる保持器具は、構成要件Bを実質的に充足するか、あるいはそれと均等のものである。
(1) 本件発明の本質的特徴 本件発明は、ボールスプラインの従来技術であるラジアル形のボールスプライン軸受が、@ボールを半径方向へ循環させることの欠点、A溝形状をV字形(ゴシックアーク溝)にしたことの欠点、B保持器がないことの欠点を有したことに鑑み、
(a)大トルクの伝達を可能とすること、(b)許容伝達トルクを減少させることなく、(@)外筒外径を小さくすること、(A)保持器を装着して、シャフト引き抜き時のボールの脱落を防止すること及びボールを無限循環させること、(B)負荷ボールと無負荷ボールの遠心力差を無くし、スムーズな転がり運動を達成すること、(C)アンギュラ・ラッシュを零にするためのプリロードを付与しても、スムーズな転がり運動が可能であること、を達成課題としたものである。
本件発明の本質的特徴は、@複列タイプのアンギュラコンタクト構造(シャフトに凸部を設け、その両側に2条で一組のボールを挟み込む構造)を採用することにより、(a)ボールの接触角をトルク伝達方向に近づけて、トルク方向の荷重を確実に受けられる、(b)アンギュララッシュの解消のために、プリロードを付与しても、スムーズな転がり運動ができる、(c)外筒の外径を大きくしなくても保持器を装着することができ、ボールの脱落防止が可能となる、Aボールを円周方向へ循環させることにより、(a)遠心力の影響を排除して、スムーズな転がり運動が可能となる、(b)無負荷ボール案内溝を、ほぼ、円周方向に設けることができるので、外筒外径を小さくできる、点にあり、これを実現するために、前記2(一)の構成を採択したものである。
これに対し、イ号製品は、本件発明の本質的特徴である前記@、Aの両方をいずれも実現しており、かつ、これに基づく全ての効果を奏するものである。
(2) 置換可能性について 本件発明の前記課題に照らすと、保持器はスプラインシャフト引き抜き時における「ボール保持機能」及び「凹部形成機能」(薄肉部の内周面は厚肉部の内周面より外筒側に後退しており、シャフト凸部を収容するために、二列の負荷ボール間に凹部を形成する機能)を必要とする。
右の二つの機能を実現するために、本件発明の保持器は、厚肉部、薄肉部、貫通孔及び貫通孔と厚肉部に形成した無負荷ボール溝へボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝からなる。これに対し、イ号製品の保持器具は、三枚のプレート状部材11、その両端部に嵌着した一対のリング状部材31及び外筒に設けられた突堤25、27、29からなり、プレート状部材11と突堤25、27、29との間に長孔13を形成し、長孔13とプレート状部材11に形成した無負荷ボール溝へボールがスムーズに移動可能な無限軌道孔を形成している。そこで、本件発明の「U字溝と薄肉部」とイ号製品の「対をなす半円溝と両溝間の突堤」の機能を対比すると、薄肉部は、厚肉部との間で貫通孔を形成して、負荷ボールをシャフトの凸部に接触させるとともに、シャフト引き抜き時にボールが脱落するのを防止するボール保持機能を有し、また、薄肉部の内周面は、厚肉部の内周面より外筒側に後退しており、シャフト凸部を収容するために、二列の負荷ボール間に凹部を形成する凹部形成機能を有する。これに対して、イ号製品においては、突堤の上端部分はプレート状部材11との間で長孔13を形成して、負荷ボールをシャフトの凸部に接触させるとともに、シャフト引き抜き時にボールが脱落するのを防止するボール保持機能を有し、また、突堤の上端部分は、プレート状部材11の内周面より外筒側に後退しており、シャフトの凸部を収容するために、二列の負荷ボール間に凹部を形成する凹部形成機能を有する。
結局、本件発明とイ号製品は、@両者の負荷ボール案内溝については、溝の外側隅部とシャフトの凸部の間に、2条で一組の負荷ボールを挟み込み収容する機能を有し、溝中央部で「薄肉部」又は「薄肉部」に相当する「突堤の上端部分」を配置収容する機能を有する点において共通し、「薄肉部」と「薄肉部」に相当する「突堤の上端部分」とは、共に、「ボール保持機能」及び「凹部形成機能」を有する点において、実質的に同一の作用効果を奏するものである。したがって、イ号製品は、「対をなす断面半円状の負荷ボール案内溝間の突堤」との構成の採用にもかかわらず、本件発明の技術思想の範囲内にあることは明らかであるから、「薄肉部」と「突堤」は置換可能というべきである。
(3) 置換容易性について 両者において相違する点は、本件発明においては、U字溝中央部(溝底)と薄肉部との間の空間が格別の機能を果たしていないのに対して、イ号製品においては、
右空間部分に本件発明の薄肉部に相当する「突堤の上端部分」を外筒に取り付ける部材が存する点である。すなわち、イ号製品は、遊んでいたU字溝の中央部分に薄肉部に相当する突堤の上端部分の取付部材を設けたに過ぎないのであり、右の相違点は、薄肉部又は薄肉部相当部材の支持方法の違いに過ぎない。しかしながら、本件発明の出願時における先行技術、特に、米国特許第三三九八九九九号明細書(甲第一一号証)に記載の技術に照らせば、前記の相違する点に関する構成は、置換容易であるというべきである。すなわち、右明細書には、ボールスプラインにおいて、外筒の突堤をボールの保持に用いた構造のものが示されている。また、米国特許第三三六〇三〇八号明細書(甲第一三号証)には、ボールスプラインにおいて三個のプレート状部材と二個のリング状部材で構成される保持器が示されている。したがって、当業者であれば、本件発明における「断面U字状の負荷ボール案内溝に一致した保持器の薄肉部」の構成を、イ号製品における「対をなす断面半円状の負荷ボール案内溝の突堤」の構成に容易に置換することができるということができる。置換可能性及び置換容易性の判断時期を侵害時とした場合には、本件発明の実施品が広く販売されていたのであるから、置換は一層容易であったことは明らかである。
以上のように、本件発明の「U字溝と薄肉部」は、イ号製品の「対をなす半円溝と両溝間の突堤」と置換可能であり、かつ、置換容易であるから、イ号製品の保持器具は、本件発明の保持器と実質同一、あるいは均等と認められるべきである。
5 被控訴人は、昭和五八年一月一日から同六三年一〇月三一日までの間に、イ号製品を合計一億四八二九万六六六〇円相当額販売した。
この結果、控訴人は、イ号製品の販売によってそれだけ販路を失い、得べかりし利益を喪失した。控訴人が、右期間において本件発明の実施品の販売によって得ていた利益は、販売価格の一五パーセントを遥かに超えるものであるから、控訴人が喪失した得べかりし利益額は二二二四万四四九九円となる。したがって、控訴人は、被控訴人の故意、又は少なくとも過失に基づく不法行為によって控訴人が被った損害として、内金二二二四万円とこれに対する不法行為後の日である昭和六三年一二月七日付け「請求の趣旨並びに原因変更申立書」の送達の翌日である同月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
仮に、右得べかりし利益の喪失による損害賠償が認められないとしても、控訴人は、被控訴人に対し、実施料相当額の賠償を求めるところ、右実施料率は七パーセントが相当であるから、控訴人の損害額は一〇三八万七六六円となるところ、内金一〇三八万円とこれに対する前記の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
また、予備的に、被控訴人は、控訴人に対して実施料を支払うことなく、イ号製品を製造販売したことにより前記実施料相当額の利益を受けたものであり、これによって控訴人は同額の損害を受けたものであるから、前記実施料と同額の不当利得返還及び右金員に対する平成元年一月二五日付け準備書面送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する被控訴人の認否及び反論1 請求の原因に対する被控訴人の認否(一) 請求の原因1、2は認める。
(二) 請求の原因3のうち、被控訴人が、原告主張の期間ボールスプラインを製造販売した事実は認める。ただし、被控訴人の製造販売に係るボールスプラインにおいては、控訴人主張の「円周方向部分7」、「プレート状部材11」、「リング状部材31」は、それぞれ「同筒状部分7」、「保持器11」、「リターンキャップ31」の名称を持つ部材である。また、無負荷ボール案内溝と円筒状部分7の間には約五〇ミクロンの段差が後述するような技術的意義を持って存在するから、右の段差の存在を認めながらその技術的意義を否定し、これを「同一深さ」とする控訴人の主張は誤りである(したがって、別紙図面の第1図ないし第3図及び第6図で右段差が無視されているのは相当ではない。)し、控訴人の技術的評価に基づく「保持器具」等の記載部分も争う。さらに、第1図で、円筒状部分7にあるべき保持器(プレート状部材)の端部を無視している点及び第4図の(その1)、(その4)に表されたリターンキャップ31の溝部分の形状は正確ではない。
(三) 同4のうち、構成要件A及びBに関する主張は争う。
(四) 同5のうち、被控訴人が控訴人主張の期間にその主張する金額のイ号製品を製造販売した事実は認めるが、その余は争う。
2 反論(一) 構成要件Aについて(1) イ号製品の対をなす「断面半円状」の溝は、本件発明の「断面U字状」の溝の要件を充足しない。
控訴人は、本件発明の出願過程において、対をなす「断面半円状」のボール溝を開示している米国特許第三四九四一四八号明細書を引用した異議申立てに対する答弁書において、「本願発明の無限摺動用ボールスプライン軸受は断面U字状のトルク伝達用負荷ボール溝を形成した外筒と該外筒内壁の定位置にセットされる保持器と、該保持器に形成される長孔はスプラインシャフトの凸部と前記外筒の負荷ボール案内溝との関係がすべてアンギュラコンタクトタイプの軸受となるように形成されていることが必須の要件である。」と述べているのである。すなわち、控訴人は、対をなす「断面半円状」の溝形状が従来公知であることを認識した上で、本件発明においては、「断面U字状」が必須要件であることを認めているのであり、これを受けて、異議決定において、「断面U字状」が本件発明の重要な特徴であることを認定しているのである。したがって、以上の出願経過からすると、控訴人の前記主張は、禁反言の原則に反するものであって、失当である。
また、イ号製品における断面半円状のボール案内溝は、本件発明の断面U字状のボール案内溝が有する削り取るべき材料、エネルギーの無駄という問題点に鑑みて採用されたものであり、しかも、断面半円状の負荷ボール溝間の突堤はボールの保持機能に、無負荷ボール溝間の突堤は保持器11の位置決め機能に積極的に用いられており、断面U字状の溝形状ではこのようなことは不可能であるから、両者は実質的にも異なるものである。
(2) イ号製品の円筒状部分7(「円周方向部分7」)は、本件発明の「円周方向溝」の要件を充足しない。
(a) 本来「溝」とは、「細長い凹み」であり、「凹み」とは、文字どおり、両側に側壁を有する構造である。そして、本件発明においては、少なくとも負荷ボール案内溝に対応する部分をみる限り、「溝」と呼ぶに相応しい円周方向の細長い凹みが形成されていることは明らかである。しかし、イ号製品の外筒には、一側に段差を有する円筒状部分が形成されているのであり、これは「溝」ではないから、本件発明「円周方向溝」の要件を充足しない。
(b) 本件発明においては、無負荷ボール案内溝と円周方向溝とは「同一深さ」であることが要件とされている。そして、本件発明において右の両者が「同一深さ」に設定されているのは、とりもなおさず、この円周方向溝がボールの方向変換路(なお、ここでいう方向変換路とは、ボールの方向変換を案内する機能とともに、方向変換中のボールの脱落を防止する機能を有するもので、ボールスプラインに関する発明が成立する当然の要件である。)の一部としても用いられているからに他ならず、この方向変換路の構成要素としての円周方向溝と無負荷ボール案内溝との間においてボールが円滑に移動できるように両者間の段差をなくしたものである。この結果、本件発明においては、円周方向溝がないとボールが方向変換することができず、脱落してしまう(本件明細書においては、本件発明における保持器の環状溝としてボールの中心からみると一八〇度以上が開放しているものしか開示されていない。)し、また、外筒が負荷ボールを円周方向溝に導くための逃げ部(曲面加工)を必要とすることとなるのである。以上のことは、本件明細書の記載から明らかであり、かかる構成と異なる構成については何ら開示されていないのである。控訴人は、トルク伝達用無負荷ボール案内溝と円周方向溝との関係を同一深さでなくてもよいなどと主張するが、本件発明の特許請求の範囲において「同一深さ」と記載した以上、後になって、実は「同一深さ」でなくてもよい、などと主張すること自体許されないことであり、同一深さでないものは、本件発明の実施品ではない。
これに対して、イ号製品においては、無負荷ボール案内溝と円筒状部分との間に段差のないものはない。これは、イ号製品においては、保持器11の端部のボール変向溝とリターンキャップ31のボール変向溝とで方向変換路を形成しているのであるから、円筒状部分7はリターンキャップ31を固定する機能を果たしているに過ぎず、ボールの方向変換とは全く関係がないのであって、この点において両者が異なる技術思想に基づくことは明らかである。なお、イ号製品のSPG―三〇型においては、円筒状部分7と無負荷ボール案内溝の段差は、専ら適切な「嵌め合い」の見地から約五〇ミクロンになっているが、イ号製品においては、この段差が如何に大きくてもボールスプラインとしての機能上何ら支障がないことは検乙第一、二号証から明らかであり、この点においてイ号製品は本件発明とは根本的に異なるのである。
(二) 構成要件Bについて(1) イ号製品の「三枚のプレート状部材11」、その両端に嵌着した一対の「リング状部材31」及び「突堤25、27、29」は、構成要件Bを実質的に充足しない。
控訴人は、イ号製品は、本件発明の保持器の薄肉部を外筒側の突堤上端部に置換しただけのものであり、右置換は単なる設計変更ないし実質同一であると主張するが、右主張は前述した方向変換路の構成における根本的相違を全く無視したものであって、到底首肯し得るものではない。
(2) イ号製品の「三枚のプレート状部材11」、その両端に嵌着した一対の「リング状部材31」及び「突堤25、27、29」は、構成要件Bと均等ではない。
まず、控訴人は、イ号製品は本件発明の最も重要な本質的特徴部分であるアンギュラコンタクト構造をそのまま利用しているなどと主張するが、要するに、本件発明のアンギュラコンタクト構造、ボールの円周方向循環、保持器の装着、プリロードの付与等はいずれもボールスプラインとボールブッシュにおける従来周知の技術であり、本件発明はこれらの周知の技術の寄せ集めに過ぎないものであるから、アンギュラコンタクト構造等を用いている限り、本件発明の侵害であるということはあり得ないことである。本件発明は、本件明細書の特許請求の範囲に記載されている特定の構成の外筒と保持器が一体不可分に結合されて初めて一定の意味を持つボールスプラインとなるのであるから、実質的にアンギュラコンタクト構造自体に特許が付与されているかの如き控訴人の主張は到底容認されるべきものではない。
(a) 控訴人は、置換可能性について種々論じているが、ボールスプラインにおける「ボールの保持機能」という機能面に着目して考察した場合、両者が置換可能であることはむしろ自明のことであり、この点はさほど意味がなく、最も問題となる点は置換容易性ないし自明性であるから、以下、本件において置換容易性又は自明性がないことを詳述する。
(b) 均等の要件としての置換容易性ないし自明性は、特許要件としての進歩性と異なり、「当該他の特許発明をみれば特段の実験追試を試みるまでもなく当業者であれば当然に推測できる程度の推考容易性がなければならないと解するのが相当である。」(大阪地裁昭和五五年一〇月三一日判決・無体集一二巻二号六三二頁)とあるように極めて限られた要件の下でしか認められないのである。このような観点からみると、本件においては、控訴人が援用する甲第一一、第一二号証(いずもボールスプラインに関する技術ではないし、そこに開示されている技術を組み合わせてもイ号製品を得ることはできない。)及び同第一四、第一五号証(いずれも負荷ボール列と無負荷ボール列をしゅん別するタイプのものではなく、ボールスプラインとしての基本原理を異にするし、そこに開示されている技術を組み合わせてもイ号製品の保持器を得ることはできない。)をみても、置換容易性ないし自明性を証明することはできない。また、イ号製品における保持器11とリターンキャップ31からなる方向変換路の構成は特許権を付与されているのであり、このことからしても置換容易性ないし自明性がないことは明らかである。
(c) イ号製品における保持器11とリターンキャップ31の組合せは、断面半円状の溝と両端の円筒状部分を具えた外筒と相まって、本件発明よりもボールスプラインの製造組立を容易にしたものであり、このような作用効果の相違からみて、
本件発明の保持器と均等なものではない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因1、2及び同3のうち、被控訴人が、控訴人主張の期間にわたり、
無負荷ボール案内溝5と円周方向部分7(円筒状部分)との間に約五〇ミクロンの段差のあるイ号製品を製造販売した事実は当事者間に争いがない。なお、イ号製品における部材名につき、控訴人主張の「円周方向部分7」、「プレート状部材11」、「リング状部材31」はそれぞれ被控訴人主張の「円筒状部分7」、「保持器11」、「リターンキャップ31」と同一部材であることは当事者双方の主張自体から明らかであるから、以下においては、本件発明との混同を防止する観点から、「円筒状部分7」、「プレート状部材11」、「リターンキャップ31」の用語を使用することとする。
二 請求の原因4のうち、イ号製品が構成要件C、D及びEを充足することは被控訴人において明らかに争わないところであるから、以下、イ号製品が構成要件A及びBを充足するか否かについて、検討する。
1 構成要件Aについて 当事者間に争いのない構成要件Aによれば、同構成要件は本件発明の外筒の構成を規定したものであることは明らかである。そこで、本件明細書に即して、構成要件Aの技術的意義について検討するに、成立に争いのない甲第一号証(本件発明の出願公告公報)によれば、以下の事実を認めることができる。すなわち、本件発明は、軸方向の運動を支持するのみならず、トルク伝達の回転運動を単独又は軸方向の運動と複合して使用することのできる無限摺動用ボールスプライン軸受に関する発明である(一頁一欄下から七行ないし四行)。無限摺動用ボールスプライン軸受に関する従来技術は、トルク伝達用無負荷ボールを外筒の外側方向(半径方向)に循環させるとともに、負荷ボールが接触走行する溝の形状が、スプラインシャフト及び外筒共、V字形状とする構造であったため、トルク伝達に必要な軸径に比し、
軸受外径が著しく大きくならざるを得ないこと、大トルクを伝達するためにはスプラインシャフトの外径が必然的に大きくなること、無負荷ボールが半径方向に循環するため、ボールスプライン軸受を高速回転させながらボールを軸方向に移動させる場合、ボールに遠心力差が生ずるため、スムーズな循環運動が阻害され、円滑な直線運動を得ることができないなどの欠点を有していた(前記一欄下から三行ないし二欄二〇行)。本件発明は、以上のような欠点の解消を課題とし、許容伝達トルクを減少することなく、軸径寸法に比し、軸受外径寸法を極端に小さくすることを可能にするとともに、スプラインシャフトを引き抜いた場合でも、ボールの脱落を防止することを可能としたものである(前記二欄二一行ないし二七行)。そして、
本件明細書には、実施例における外筒に関して、「鋼管あるいは鋼材より旋削した外筒1の内壁に、旋削、研磨工程により断面U字状で幅が比較的広く、かつ内径からの深さが深いトルク伝達用無負荷ボール案内溝5と、該トルク伝達用無負荷ボール案内溝5よりはやや浅いトルク伝達用負荷ボール案内溝6を軸心方向に交互に形成することによって複数個の分岐帯頂壁16、17、18、19、20、21が形成され、そしてこれら分岐帯頂壁16〜21のトルク伝達用負荷ボール案内溝16(6の誤記と認められる。)側にはボールの曲率を有するボール転走面22、22……が形成される。」(一頁二欄三〇行ないし二頁三欄三行)、「前記外筒1のトルク伝達用無負荷ボール案内溝5と、トルク伝達用負荷ボール案内溝6と一致するように嵌挿する保持器の隔壁を介して複数個形成したトルク伝達用無負荷ボール溝とトルク伝達用負荷ボール溝間に多数のボールを充填し、嵌めこむことによってトルク伝達用負荷ボール溝の2列のボール間の台形状の凹部に一致する突出部10、
10、10を軸方(「軸方向」の誤記である。)に形成したスプラインシャフト9を嵌め込み、ストップリング17、17によって外筒1から保持器2の逸出を完全に防止することができる。」(同三欄二二行ないし三二行)、「本発明の無限摺動用ボールスプラインは以上のように構成されているので、スプラインシャフト10(9の誤記と認められる。)あるいは外筒1が軸方向に回転しつつ移動すると、外筒と保持器内のボール即ちトルク伝達用負荷ボールは前記保持器2の長孔13より露出し、スプラインシャフトの台形凸部10の斜面部14と外筒1のU字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝16(6の誤記と認められる。)との間に完全なころがり接触をしつつ走行し、その接触角はトルクの伝達方向に近く、そしてアンギュラコンタクトタイプの軸受がスラスト荷重を受けられるのと同様にトルク方向の荷重を確実に受け、しかも、トルク伝達用負荷ボールがスプラインシャフト9の突出部10、10、10をそれぞれ左右から狭み(「挟み」の誤記と認められる。)込むように配設されているため、アンギュララッシュを零にすることができ、また、プリロードをかけることもできるので、ボールスプラインの寿命を増大することができ、かつ、スプラインシャフトの回転方向において3ケ所が有効に働き、ボールの負荷能力を最大限生かせることのできる特徴を有する。また、トルク伝達用無負荷ボール案内溝はトルク伝達用負荷ボール案内溝よりもわずか深めのU字溝を必要とするのみであるから、軸径に対する軸受外径は極端に小さくできる特徴を有する。」(同三欄三三行ないし第四欄一三行)との各記載があることが認められる。
以上によれば、本件発明を外筒の構成、とりわけトルク伝達用負荷ボール案内溝及びトルク伝達用無負荷ボール案内溝の構成の技術的意義という観点からみると、
本件発明は、スプラインシャフトと負荷ボールの接触形式にアンギュラコンタクト構造を採用することにより、トルク方向の荷重を確実に受けることを可能にするとともに、右接触構造を2条の負荷ボールがスプラインシャフトの凸部を左右から挟持する複列タイプとすることにより、アンギュララッシュを零にするとともにプリロードを効果的にかけることを可能とし、また、無負荷ボールの循環を円周方向に設けたトルク伝達用無負荷ボール案内溝とする構成を採用することにより、スプラインシャフトの軸受外径を極端に小さくして、ボールスプライン軸受を小型、軽量化すると同時に、循環ボールに加わる遠心力差をなくすことを可能とすることによってボールの循環運動をスムーズならしめ、円滑な直線運動を実現したボールスプライン軸受であると認められる。
また、いずれも成立に争いのない甲第二五号証(昭和五九年一〇月三一日財団法人日本規格協会発行、【A】編集「日本工業規格 ラジアル形ボールスプライン」)、同第二六号証(控訴人作成の「発明大賞に輝くTHKボールスプラインの特性」と題するパンフレット)及び甲第三九号証(控訴人代表者の陳述書)によれば、本件明細書が指摘したボールスプライン軸受に関する前記の従来技術とは、ラジアルタイプのボールスプライン軸受であり、この種の軸受においては、ボールとボールが接触する軌道面(溝)にゴシックアークの接触形式(V式形溝形状)が採用されていたことから、プリロードをかけると差動すべり量が大きくなり、ころがり接触がすべり接触に変化するため、プリロードをかけることができないという欠点を有していたところ、アンギュラコンタクトの接触形式の場合には、プリロードをかけた場合にも、差動すべり量が大きくならず、良好なころがり運動が可能になるとの事実を認めることができる。
以上の認定を基礎として、本件発明が採用した複列タイプのアンギュラコンタクトの接触形式の観点から外筒の断面U字状の溝形状の技術的意義をみると、負荷ボールとアンギュラコンタクト接触するのは、断面U字状をしたトルク伝達用負荷ボール案内溝の両隅部(前記実施例ではボールの曲率に形成されたトルク伝達用負荷ボール案内溝の転走面22がこれに当たる。)とスプラインシャフトの凸部(前記実施例では台形突部10の斜面部14がこれに当たる。)であり、前者が二列で一組となって右凸部を左右から挟持する構造であることが明らかである。そして、トルク伝達用負荷ボール案内溝の溝底中央部は、前記凸部を案内して収容することが可能であれば足り、それ以上に負荷ボールとの接触等の役割を有するものではない。これに対し、トルク伝達用無負荷ボール案内溝は、無負荷ボールの円周方向循環を可能ならしめるに過ぎないものであるから、軸受外径を可能な限り小さくすることが可能であれば足り、その溝形状が特定の形状でなければならないとの技術的要請を見いだすことはできず、この意味で、前記の小型、軽量化の要請を満たす限り、専ら、製造上の便宜等に基づいて適宜決定しても差し支えがないということができる。
本件発明が採用した外筒の構成の有する以上の技術的意義は、本件明細書における前記の開示事項に照らせば、本件明細書に接した当業者であれば、十分に読み取ることが可能というべきであるから、以下、これを踏まえて、イ号製品の構成要件Aの充足の有無について具体的に検討する。
(一) イ号製品の対をなす「断面半円状」の溝が本件発明の「断面U字状」の溝の要件を充足するか否かについて検討する。
当事者間に争いのないイ号製品の前記構造に照らすと、イ号製品も本件発明と同様にスプラインシャフトの凸部をトルク伝達用負荷ボール案内溝の負荷ボールが左右から挟み込む複列タイプのアンギュラコンタクト構造のボールスプライン軸受であることは明らかである。そして、かかる接触構造からすると、負荷、負荷、無負荷、無負荷と連続する断面半円状のボール案内溝は、隣接する二列の負荷ボール案内溝が一組となり、右各案内溝の両隅部と前記凸部との間で負荷ボールを挟持するものであることは明らかである。ところで、イ号製品の外筒の負荷ボール案内溝の間には突堤25、27、29が設けられてはいるが、右突堤は、その上方にスプラインシャフトの凸部を収容する場所的空間が確保されているというに止まり、それ以上に負荷ボールとスプラインシャフト凸部との前記の接触に直接の関係を有するものでないことは、前記の接触構造自体から明らかである(もっとも、右突堤がプレート状部材11の側部と共働して負荷ボールの脱落を防止する機能を有し、また、この結果、右突堤とその左右に保持された二列の負荷ボールによってスプラインシャフトの凸部を案内する凹部形成機能を有することはいずれもイ号製品であることに争いのない検甲第五、第六号証及び乙第一、第二号証をみれば明らかであるが、この点は本件発明の保持器の機能と対比すべきものであるから、後に論及することとする。)。また、イ号製品の断面半円状の無負荷ボール案内溝は、負荷ボールを円周方向へ循環させるためのものであってアンギュラコンタクト接触とは何ら関係を持たない点において本件発明と同様であることは、イ号製品の構造自体から明らかである。
本件発明における断面U字状の溝形状及びイ号製品における断面半円状の溝形状の技術的意義は前述したとおりであり、以上の溝形状を対比すると、確かに、本件発明が「断面U字状」と規定するのに対し、イ号製品は「断面半円状」であるから、その形状が一見相違するかのようであるが、これを両者が採用しているところの複列タイプのアンギュラコンタクト構造の接触という技術的観点からみた場合、
スプラインシャフトの凸部を案内する場所的空間を確保するという点において本件発明の「断面U字状」溝の溝中央部と共通の技術的意義を有しているが、それ以上に突堤それ自体の技術的意義を見いだすことはできず、また、スプラインシャフトの凸部案内のための場所的空間の確保という点に限ってもイ号製品の突堤が特に優れた効果をもたらしているものと認めるに足りる証拠もない。この意味において、
イ号製品の「断面半円状」の負荷ボール案内溝を複列タイプのアンギュラコンタクト構造という観点から技術的に意義のある2条で一組の溝として捉えた場合、そこに「断面U字状」の溝を観念することが可能というべきで、右の技術的観点からみる限り、イ号製品の2条で一組をなす「断面半円状」の負荷ボール案内溝は、本件発明の「断面U字状」の負荷ボール案内溝の底面に技術的には意義を認め難い突堤を設けたに過ぎないものということができるから、両者の溝形状は実質的に同一と認めて差し支えないものというべきである。そうであればこれと格別区別して扱う技術的理由がない無負荷ボール案内溝についても同様に考えて差し支えないものというべきである。
被控訴人は、控訴人のこの点に関する主張は本件発明の出願過程において「断面U字状」の溝形状が必須の要件であると述べていることからすると、禁反言の原則に反し許されないと主張するので、この点を検討するに、いずれも成立に争いのない甲第三〇号証(本件発明に関する昭和五四年五月一日付け特許異議答弁書)によれば、控訴人は、右答弁書に被控訴人が主張するとおりの記載をしている事実を認めることができる。そこで更に右答弁書の記載を検討するに、右甲号証によれば、
右答弁書は異議申立人が公知技術として特公昭四四―二三六一号公報(甲第一〇号証)、ドイツ連邦共和国特許第一四五〇〇六〇号公報(乙第二号証)及び米国特許第三四九四一四八号明細書(乙第一〇号証)を援用して推考容易を主張したことに対する反論を記載したものと認められるところ、右答弁書中には、一般的な記載として「断面U字状」の溝が必須要件である旨の記載は被控訴人も援用するように認められるところであるが、前記の各公知技術との関係において「断面U字状」に限定し、この形状こそが本件発明の特徴であるとして、「断面半円状」の溝形状を意識的に排除したとまで認めるに足りる記載を見いだすことは困難であり、このことは、前記申立てに対する異議決定である成立に争いのない乙第一号証を精査しても同様であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、前記程度の記載をもって、控訴人の前記主張が禁反言の原則に反し許されないとまでいうことはできないから、被控訴人のこの点に関する主張は採用できない。
また、被控訴人は、イ号製品の「断面半円状」の溝形状は本件発明の「断面U字状」の溝形状が有する製造上の無駄の解消を目的として採用したものであると主張するところ、本件全証拠を検討しても「断面U字状」の溝形成に製造上の無駄が存在することを認めるに足りる的確な証拠はない。
そうすると、イ号製品は、本件発明の「断面U字状」の溝形状の要件を充足するというべきである。
(二) イ号製品の「円筒状部分7」は、本件発明の「円周方向溝」の要件を充足するか否かについて検討する。
本件発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明においては、外筒内において無限軌道溝を形成し、ボールが一八〇度の方向変換を行う構造であることは明らかである。ところで、前項に認定したように、本件発明の外筒にトルク伝達用負荷ボール案内溝及びトルク伝達用無負荷ボール案内溝を軸方向に交互に設けた場合、
その溝間に分岐帯頂壁が残存するため、前記のように外筒内でトルク伝達用負荷ボール案内溝からトルク伝達用無負荷ボール案内溝へと方向変換を行うためには、障害となる分岐帯頂壁を除去し、方向変換を可能とする空間の必要が生ずることは明らかなところである。このように外筒の端部において、ボールの一八〇度方向変換の障害となる分岐帯頂壁を除去し、方向変換を可能とする空間を提供するために円周方向溝を設ける必要があることはボールの方向変換の構造上明らかなところというべきである。そして、この場合、円周方向溝の深さの設定に当たり、これをトルク伝達用負荷ボール案内溝の深さと同一にした場合には、ボールが方向変換の出入口においてシャフトと干渉するであろうことは容易に推認できる反面、可能な限り小型化を図る観点からトルク伝達用無負荷ボール案内溝と同一の深さとすることは極めて合理的な選択であり、本件発明においてもかかる観点から同一深さを選択したものと推測されるところである。
次に、イ号製品についてみると、同製品においても、外筒内でボールの一八〇度の方向変換を行うものであり、かつ、断面半円状の溝を形成している以上、ボールの方向変換のために残存する壁を除去して、方向変換のための空間を提供するという技術的要請が欠かせないものであることは当然のことであり、イ号製品の円筒状部分7が少なくともかかる技術的要請を充足するものであることは明らかというべきであって、このように外筒内におけるボールの方向変換を図るために必要な技術的要請を充足する点でイ号製品の円筒状部分7と本件発明の円周方向溝は変わるところがない。
これに対し被控訴人は、本件発明における円周方向溝は文字どおり溝、すなわち側壁を有する構造であるのに対し、イ号製品は円筒状であるに過ぎないからこの点において構成を異にすると主張するので検討するに、確かに、一般に「溝」とは、
国語的意義においては、左右に側壁を有する構造を意味するものであり、本件明細書によれば、本件発明の実施例では、分岐帯頂壁の円周方向溝を挟んだ外筒端部側に側壁があり、これが溝構造を形成していることが認められるところであり、これに対し、イ号製品の円筒状部分7にはかかる溝が形成されていないことは前掲検甲第五、第六号証及び乙第一、第二号証から明らかである。そこで、本件発明における前記側壁の技術的意義についてみるに、本件明細書によれば、右側壁は外筒に断面U字状の溝と円周方向溝を形成した際の不要部分として残存した部位であることが推認されるに止まり、本件発明の奏する効果と関連した何らかの技術的意義を有するものと認めるに足りる記載を見いだすことはできない。そして、このことは、
右側壁が前記のとおり分岐帯頂壁の円周方向溝を挟んだ外筒端部側に不連続状に存在していて完全な溝形状を構成していないことからも窺われるところである。そうすると、この点に関する差異は、技術的な意義を有する差異とは認め難いから、この点において構成が異なるとすることはできず、被控訴人の主張は採用できない。
次に、イ号製品における円筒状部分7と無負荷ボール案内溝との間に約五〇ミクロンの段差があることは当事者間に争いがなく、本件発明の円周方向溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝とが前記のとおり同一深さと規定していることからすると、両者はこの点において構成を異にするものといえなくもないところである。しかも、被控訴人は、右の差異は方向変換路の構成に関する技術思想の相違に基づくものであると主張する。すなわち、被控訴人は、本件発明においては、円周方向溝は方向変換路の構成要素であるのに対し、イ号製品においては、ボールの方向変換路はプレート状部材11の端部のボール変更溝とリターンキャップ31のボール変更溝で行うように構成されているから、円筒状部分7はボールの方向変換とは無関係であり、この意味で、円筒状部分7が存在しなくても差し支えなく、前記の段差は、リターンキャップ31との嵌め合いの役割を果たしていると主張する。
そこで、まず、前記の約五〇ミクロンの技術的意義について検討するに、成立に争いのない甲第四一号証によれば、控訴人は、本件発明の実施としてボールスプライン軸受を製造するに当たり、円周方向溝がトルク伝達用無負荷ボール案内溝より五〇ミクロン深く切削されることを加工許容差として容認していること、また、完成品について右加工許容差を実測したところ、平均で約四六ミクロンの段差を生じていた事実を認めることができ、他にこれを左右する証拠はない。そうすると、右事実によれば、本件発明に係る無限摺動用ボールスプライン軸受の円周方向溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝との間に五〇ミクロン程度の加工誤差に起因する段差を生じても、無限摺動用ボールスプライン軸受の機能の発揮に何ら影響するものではないものと推認することができる。そして、成立に争いのない甲第四三号証一ないし三(一九九二年七月三〇日、日刊工業新聞社発行、【B】編、実際の設計研究会著「続・実際の設計」)には、「寸法には必ず上限値と下限値があり、ある幅をもっている。したがって、機械部品の寸法は図5・1に示すように基準寸法(=呼び寸法)およびそれに対する許容差(=公差)で指示される。」(七六頁下から四行ないし一行)、「寸法は必ず加工誤差と測定誤差を含む」(七八頁四行)、
「同じ寸法で加工したつもりでも実寸法は厳密には同じにならない。同様に測定の結果が同じでも測定誤差以下の寸法精度は保証できないため、実寸法は同じとはいえない。公差はこのような加工誤差や測定精度を、機能上さしつかえない範囲で許容するものである。」(同頁五行ないし八行)、「通常の切削加工には±〇・〇二mm以上の精度を期待してはいけない。」(八七頁一行)等の各記載があることが認められるところ、右各記載内容によれば、通常の切削加工においては、±二〇ミクロン程度の誤差は不可避的に生ずるものであるとの事実が認められる。そうすると、前記の本件発明の実施品にみられる約五〇ミクロンの加工誤差を右の通常の切削加工において不可避的に生ずる誤差(これを円周方向溝と無負荷ボール案内溝の各切削工程についてみると、それぞれについて±二〇ミクロン程度の加工誤差が許容される関係上、右両溝間に合わせて四〇ミクロン程度の段差が許容されることになる。)と対比すると、おおむね同程度の誤差といって差し支えなく、このことからすると、本件発明の実施品やイ号製品の製造に当たっても、±二〇ミクロン程度の加工誤差が不可避的に生ずるところの通常の切削加工が行われているものと推認されるところである。そこで、このような通常の切削加工の実際を踏まえ、イ号製品に存在する前記の約五〇ミクロンの段差をみると、それが技術思想を異にする結果であるというのであるならば、前記のような不可避的に生ずる加工上の誤差と区別が困難な程度の段差に止めるということは疑問であり、技術思想の差を説明する根拠の数値としては余りにも僅少であるといわざるを得ない。この点に関し、被控訴人は右段差約五〇ミクロンは専ら適切な「嵌め合い」の見地によるものである旨主張するに止まり、それ以上に右数値を選択したことについて具体的な技術的根拠を説明していない。
次に、ボールスプラインに関する発明が成立するためにはボールの方向変換を案内する機能と方向変換中のボールの脱落を防止する機能を有する方向変換路が不可欠であるところ、本件発明においては、円周方向溝が右変換路の一部を構成するのに対し、イ号製品の円筒状部分7は右変換路の構成要素ではないから、この点において構成を異にする旨の被控訴人主張について検討する。
本件発明の保持器の構成を規定する構成要件Bによれば、本件発明においてボールの無限循環を案内するのは、薄肉部と厚肉部の境界壁に形成した貫通孔(実施例では環状孔)及び厚肉部に形成した無負荷ボール案内溝でボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成するものであることは、右構成要件自体から明らかである。そして、同構成要件によれば、無限軌道溝のうち、ボールが一八〇度方向変換する部分の具体的な構成について、これを特定の形状に限定する記載は存しないが、いずれにしても、前記の貫通孔と無負荷ボール案内溝からなる無限軌道溝によって、ボールの無限循環案内が実施されるものであり、本件発明の特許請求の範囲の記載をみても、この無限循環案内に円周方向溝が関与していること、換言すれば、被控訴人主張のように円周方向溝が方向変換路の構成要素であることを窺わせる記載はない。そうすると、ボールの無限循環案内の機能について、円周方向溝と円筒状部分7との間に差異はないというべきである(なお、円筒状部分7がボールの無限循環案内に関与していないことは被控訴人の自認するところである。)。
また、前記のボールの脱落防止の機能についてみるに、前述のように、本件発明の無限軌道溝のうち、ボールが一八〇度方向変換する部分の構成に何らの規定がないことからすると、右部分の構成が実施例に示されたものに限定されると解するのは相当ではないが、この点は一応置くとして、本件明細書によれば、本件発明の実施例として示されたものにおいては、円周方向溝がボールの外筒外方向への脱落を防止する機能を果たしているものと認めることができる。そこで、イ号製品についてみると、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第二四号証によれば、イ号製品においても方向変換するボールは円筒状部分7と接触している事実が認められ、他にこれを左右する証拠がなく、この事実に照らすと、本件発明の実施例と同様にイ号製品でも円筒状部分7はリターンキャップ31内を方向変換するボールの落下防止のための機能を果たしていることは明らかである。ボール方向変換は同部分が存在しなくても差し支えないとする被控訴人の前記主張は採用し難い。
以上によれば、被控訴人主張の方向変換路なる観点から検討しても、本件発明の円周方向溝とイ号製品の円筒状部分7との間に機能上の差異はないというべきであるから、この点において構成を異にするとの被控訴人の前記主張は採用できない。
このように、前記のイ号製品における円筒状部分7の僅か約五〇ミクロンの段差が異なる技術思想に基づくものであるとする被控訴人主張は疑問とせざるを得ないのであり、そうであれば、右数値に特段の技術的意義を見いだすことはできない。
反面、本件発明においても、前記のように円周方向溝が方向変換路の構成要素とされていないこと(なお、イ号製品の円筒状部分7も本件発明の実施例における円周方向溝もボールの落下防止に実質的に寄与している。)ことに鑑みれば、イ号製品における円筒状部分7は本件発明の円周方向溝と技術的意義において、実質的に同一と認めて差し支えがないから、イ号製品は本件発明の「円周方向溝」の要件を充足するというべきである。さらに、被控訴人は、本件発明の特許請求の範囲において、トルク伝達用無負荷ボール案内溝と円周方向溝を同一深さと規定したのは、とりもなおさず、円周方向溝を方向変換路の一部としたことに他ならないと主張するが、既に説示したように、ボールの無限循環案内は保持器の無限軌道溝が果たしていることは本件発明の特許請求の範囲の記載から明らかであるから、円周方向溝が方向変換路として右無限循環案内の機能を果しているというのであれば、被控訴人の前記主張は失当であるし、また、イ号製品の円筒状部分7は無限循環案内及びボールの落下防止機能のいずれにも関与していないとするならば、前記認定のように、同部分がボール落下防止機能を果たしている事実に照らして採用し難く、いずれにしても、この点に関する被控訴人の主張は採用できない。この点に関連して、
被控訴人は、円筒状部分7を切り取ったイ号製品であることに争いのない検乙第一、二号証を援用するが、これらは約五〇ミクロンの段差しか有さない現実のイ号製品とは異なるものであるから、これをもって、被控訴人の前記主張の裏付けとすることは相当ではないというべきである。
2 構成要件Bについて(一) 本件発明の前記特許請求の範囲の記載によれば、構成要件Bは、本件発明の保持器の構成を規定したものであることは明らかである。そして、右特許請求の範囲の記載によれば、保持器は、無負荷ボール溝を形成した厚肉部、薄肉部、厚肉部と薄肉部の境界壁に形成した貫通孔、及び、厚肉部の無負荷ボール溝と貫通孔との間でボールがスムーズに移動可能とする無限軌道溝を具備した一体構成からなり、厚肉部は外筒のトルク伝達用無負荷ボール案内溝と、薄肉部はトルク伝達用負荷ボール案内溝とそれぞれ一致して外筒に嵌挿されるものであると解することができる。そこで、さらに本件明細書に即して、構成要件Bの技術的意義について検討するに、前掲甲第一号証によれば、従来のボールスプライン軸受においては、外筒とスプラインシャフトとの間に保持器等を介在させる余裕がないため、スプラインシャフトを取り除いたとき、ボールが脱落する恐れが十分にあった事実を認めることができる。そして、本件明細書には、本件発明の実施品に関して、「トルク伝達用無負荷ボールとトルク伝達用負荷ボールを案内する保持器は中空筒体にして、前記外筒内壁に形成したトルク伝達用無負荷ボール案内溝5とトルク伝達用負荷ボール案内溝6に一致するように厚肉部11と薄肉部12を形成すると共に該厚肉部11に複数のトルク伝達用無負荷ボール溝15、15を形成し、該厚肉部11と薄肉部12との両境界部のトルク伝達用負荷ボール溝(「トルク伝達用負荷ボール溝6」は誤記である。)にはそれぞれトルク伝達用負荷ボールが脱落しない程度の即ちボール径寸法よりもやや幅の狭い長孔13を貫通せしめて形成し、さらに厚肉部11と薄肉部12との境界部から厚肉部11へボールの移動可能ならしむるべく環状溝(「環状溝16」は誤記である。)を形成し、保持器に複数個の無限軌道溝を形成することになる。次に、前記外筒1のトルク伝達用無負荷ボール案内溝5と、
トルク伝達用負荷ボール案内溝6と一致するように嵌挿する保持器の隔壁を介して複数個形成したトルク伝達用無負荷ボール溝とトルク伝達用負荷ボール溝間に多数のボールを充填し、嵌め込むことによってトルク伝達用負荷ボール溝の2列のボール間の台形状の凹部に一致する突出部10、10、10を軸方に形成したスプラインシャフト9を嵌め込み、ストップリング17、17によって外筒1から保持器2の逸出を完全に防止することができる。」(二頁三欄七行ないし三二行)との記載が認められる。
以上によれば、本件発明における保持器は、厚肉部の無負荷ボール溝、長孔13及び環状溝によってボールの無限循環を案内し、長孔13によって、スプラインシャフトを引き抜いた時の負荷ボールの脱落を防止し、また、二列の長孔13によって保持された二列の負荷ボールによって凹部を形成し、この凹部にスプラインシャフトの凸部を案内する機能を有する中空筒体の一体構造のものであると認めることができる。
これに対し、当事者間に争いのないイ号製品の前記構造に照らすと、イ号製品は、二列の負荷ボール案内溝間の突堤上端部とその左右に位置するプレート状部材11の側壁によって形成される長孔、同プレート状部材に形成した無負荷ボール溝及びリターンキャップ31に形成した環状溝によってボールの無限循環を案内し、
前記長孔によってスプラインシャフト引き抜き時の負荷ボールの脱落を防止するとともに、二列の長孔内にある負荷ボールによって凹部を形成し、右凹部にスプラインシャフトの凸部を案内する構造であるということができる。
以上によれば、本件発明の保持器は一体構造であり、保持器自体によってボールの無限循環案内、スプラインシャフト引き抜き時のボール保持機能及びシャフト凸部を案内するための凹部形成機能を有するのに対し、イ号製品は、外筒の負荷ボール案内溝間にある突堤上端部とプレート状部材11及びリターンキャップ31の三つの部材の協働によって本件発明の保持器の前記各機能を実現しているものであるから、両者がその構成を異にすることは明らかというべきである。
(二) ところで、特許発明技術的範囲に属するか否かは、法的安定性の見地から、原則として、発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載された特許請求の範囲に記載された構成により決めるべきものであって、例えば物に係る特許発明侵害を主張される物品がその一部の構成を異にする場合においては、当該物品は当該発明の技術的範囲に属さないものというべきである。しかし、その場合であっても、解決すべき技術的課題及びその基礎となる技術的思想特許発明侵害を主張される物品において変わるところがなく、したがって、侵害を主張される物品が特許発明の奏する中核的な作用効果を全て奏することとなる反面、これに関連する一部の異なる構成について、これに基づいて顕著な効果を奏する等の格別の技術的意義が認められず、かつ、当該特許発明の出願当時の技術水準に基づくとき、右一部の異なる構成に置換することが可能であるとともに、容易に右置換が可能である場合には、例外として、侵害を主張される物品は特許発明技術的範囲に属するものとして侵害を構成するものと解するのが相当というべきである。けだし、このように解さないと、新たな技術を社会に開示した代償として特許権を付与されたことを容易に無意味ならしめることに帰し、特許制度の趣旨にもとる結果を招来するからである。もとより、特許権の保護と同時に第三者に対する法的安定性の要請も十分に考慮することが必要であることはいうまでもないことであるが、前述した要件のもとに技術的範囲に属するか否かを判断する場合には、法的安定性の要請も十分に図られるものということができる。そこで、以上の観点から、以下、検討することとする。
(1) まず、本件発明の技術課題についてみるに、既に認定したように、本件発明は、従来の無限摺動用ボールスプライン軸受が有した、@負荷ボールとスプラインシャフト及び外筒に設けられた溝との接触がゴシックアーク形式であるためトルク伝達力が弱く、アンギュララッシュが生じ、プリロードをかけることができない欠点、Aボールの循環が半径方向であるため、必然的に軸受外径が大きくなるざるを得ず、かつ、ボールが遠心力の影響を避けられず、円滑なボール循環ができない欠点、Bスプラインシャフト引き抜き時におけるボールの脱落が防止できない欠点の解決を主要な解決課題としたものである。そして、右欠点を一挙に解決するべく、前記特許請求の範囲記載の構成を採択したものであり、その中心的構成が構成要件AないしC(外筒、保持器、スプラインシャフト)の組合せにあることは、前記課題と本件発明の構成を対比すれば明らかなところである。本件発明は、無限摺動用ボールスプラインにおける主要な部材である外筒、スプラインシャフト及び保持器を右各構成要件のように構成して、組み合わせることにより、確実なトルク伝達力の確保及び円滑なボール循環並びに小型、軽量化を同時に実現した点にその技術的思想が存するものといえる(なお、この点について、被控訴人は、本件発明は、アンギュラコンタクト接触構造、円周方向変換及び保持器という従来周知の技術の寄せ集めに過ぎないと主張するが、本件全証拠をみても、本件発明が出願されるまでに、単一の無限摺動用ボールスプライン軸受において、右の各技術を有機的に統合し、本件発明が奏する前記の各種効果を一挙に実現したボールスプライン軸受が存在したことを認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用でない。)。そして、本件発明は、この結果、許容伝達トルクを減少することなく、軸径寸法に比し、軸受外径寸法を極端に小さくすることができ(アンギュラコンタクトの接触構造及びボールの円周方向変換の採用)、アンギュララッシュを零にすることが可能であるとともにプリロードをかけることができ(複列タイプのアンギュラコンタクトの接触構造の採用)、スプラインシャフトの引き抜き時に、ボールの脱落を防止できる(保持器の採用)との効果を得て、前記の全ての課題を一挙に解決したものと認めることができ、右効果こそ本件発明の中核的な作用効果であるということができる。
これに対し、イ号製品が保持器以外の構成において本件発明と同一の構成を具備し、かつ、本件発明の奏する前記の中核的な作用効果の全てを奏することはこれまで述べてきたイ号製品の構造に照らして明らかである。
そこで、イ号製品のプレート状部材11、リターンキャップ31及び突堤25、
27、29の奏する作用効果についてみると、被控訴人は、イ号製品は本件発明に比して製造、組立が容易であるという効果を奏すると主張するので検討するに、イ号製品は本件発明が保持器を一体構造のものとするのに比し、同様の効果を三枚のプレート状部材11、二個のリターンキャップ31と部材点数において相当増加することからすると、直ちに、イ号製品の方が製造、組立上、容易であるといえるかについては疑問とせざるを得ないし、他にこれを認めるに足りる的確な証拠もない。なお、イ号製品の無負荷ボール案内溝間にある突堤26、28、30はプレート状部材11の位置決め機能を果たしていることが認められるが、元来、かかる位置決め機能は本件発明の薄肉部を外筒の突堤に置換した結果、分割構成を採用せざるを得なくなったために生じたものであるから、これを新たな作用効果と評価することはできないものというべきである。
そうすると、イ号製品は本件発明の中核的な作用効果を全て奏するというべきであり、このことからすると、その基本とする技術的課題及びその基礎となる技術的思想において本件発明と変わるところはないものということができる。
(2) そこで、以下、本件発明の構成要件Bである保持器とイ号製品の3枚のプレート状部材11、二個のリターンキャップ31及び負荷ボール案内溝間の突堤25、27、29との置換容易性について検討する(なお、両者間の置換可能性は被控訴人も自認するところである。) 両者を対比すると、イ号製品は本件発明の保持器における薄肉部を外筒の突堤に置換することにより、本件発明と同一のボールの無限循環案内、ボールの脱落防止及びスプラインシャフトの凸部の案内の各機能を果たしているものと認めることができる。そして、イ号製品は本件発明の保持器における薄肉部を外筒の突堤に置換した結果、本件発明のような一体構造の保持器の採用が困難となり、必然的に、三枚のプレート状部材11及び二個のリターンキャップ31の構成を採用せざるを得なかったものと認められるから、結局、前記のような機能を有する薄肉部を外筒の突堤に置換することが容易であるか否かを検討すれば足りるものというべきである。
いずれも成立に争いのない甲第一一号証(米国特許第三三九八九九九号明細書、
昭和四三年一二月一七日特許庁図書館受入)及同第四二号証(弁理士【C】作成の見解書)によれば、右明細書の第7、第8図にはボールスプラインが記載されており、右ボールスプラインにおいては、ボールが通過する軌道22、24の間にある外筒に設けられた突出部84とボール保持手段である80、82の縁部でボールを保持している構成が開示されている事実を認めることができ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
そうすると、右軌道22、24が負荷ボール案内溝に、また、突出部84が突堤に相当することは明らかであるから、右開示事項に基づいて当業者が本件発明の保持器の薄肉部を外筒の突堤に置換することは極めて容易というべきであり、他にこれを困難ならしめる証拠はない。
更に念のため、プレート状部材11とリターンキャップ31についてその置換容易性を検討すると、成立に争いのない甲第一三号証(米国特許第三三六〇三〇八号明細書、昭和四三年三月一日特許庁資料館受入)には、無限摺動用ボールスプライン軸受において、スプラインシャフト引き抜き時にボールの保持機能を有する保持器に関して、スロット40を有する一体構造の円筒状ボール保持スリーブ38、一体構造の終端キャップ22及び三分割された終端キャップ20からなる保持器が構成される例(実施例第1図ないし第4図)、三分割された円筒状ボール保持スリーブ46(その端面であるエッジ64、68によりスロット67を形成する。)、一体構造の終端キャップ72、73からなる保持器が構成される例がそれぞれ開示されている事実が認められ、他にこれを左右する証拠はない。そうすると、右の円筒状ボール保持スリーブがイ号製品のプレート状部材11に、終端キャップがリターンキャップ31に相当することは、当業者がみればその機能からみて明らかなところであるから、右に開示されたボールスプライン軸受の保持器の構成に基づいて、
本件発明の保持器の構成をイ号製品のプレート状部材11とリターンキャップ31の構成に置換することは容易というべきであり、他にこれを困難ならしめる証拠はない。なお、右明細書に開示されたボールスプライン軸受は、複列タイプのアンギュラコンタクト構造を採用していない等の点において、本件発明やイ号製品と基本的なボールの接触構造を異にするが、既に述べてきたところから明らかなように、
保持器の構成は、ボールの接触構造によって根本的に異なるものとは認められないから、これらの差異が前記の置換の障害となるものではないというべきである。
なお、被控訴人はイ号製品におけるプレート状部材11とリターンキャップ31からなる方向変換路の構成は特許を付与されていることからしても置換容易性ないし自明性がないことは明らかであると主張するので、検討するに、いずれも成立に争いのない乙第一二、第一三号証によれば、被控訴人は発明の名称をボールスプラインとし、その特許請求の範囲には「円筒内壁に略半円形の断面を有する負荷溝と無負荷溝を形成したアウターレースと、両端部に前記負荷溝と無負荷溝間のボール変向を行わせる軸方向外向きボール変向溝を有するリテーナを有し、前記アウターレースの両端部に嵌合せしめられるリターンキャップに設けた軸方向内向きボール変向溝が前記リテーナの軸方向外向きボール変向溝と相俟ってボールの方向変換路を形成することを特徴とする、ボールスプライン」との記載がある発明について特許査定を受けたことが認められる。しかしながら、右特許請求の範囲の記載によれば、右発明はリテーナとリターンキャップによるボール方向変換路に関する発明であり、前記の置換容易性において問題となる外筒における突堤の問題ではないから、被控訴人の右特許が前記置換容易性の判断を左右するものではないというべきであり、被控訴人の右主張は採用できない。
3 以上に説示したように、解決すべき技術的課題、その基礎となる技術的思想及びこれに基づく各構成により奏せられる効果が、本件発明においてもイ号製品においても変わるところがなく、構成要件Bについて、これとイ号製品との間に置換可能性及び置換容易性が認められ、他方、一見相違するがごとき他の構成、すなわち構成要件Aについて断面U字状の溝と断面半円状の溝(突堤の有無)、円周方向溝と円筒状部分7に関する各構成も、イ号製品について特段の技術的意義も見いだし難い以上、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属すると認めるのが相当である。
三 損害について検討する。
被控訴人が昭和五八年一月一日から同六三年一〇月三一日までの間に、イ号製品を合計一億四八二九万六六六〇円相当額販売した事実は当事者間に争いがない。
そこで、控訴人主張の得べかりし利益について検討するに、いずれも成立に争いのない甲第四五、第四六号証、第四七号証の一ないし四、第四八号証及び第五〇号証並びに控訴人代表者の尋問の結果によれば、控訴人の昭和五九年四月から翌年一〇月期までの自社製品であるボールスプライン、LMガイド及び他社からの仕入れ商品を販売して得た税引き前純利益率はいずれも売上高の一五パーセントを越えていた事実を認めることができ、他にこれを左右する証拠はない。また、昭和五七年六月から翌年三月期までの前記各商品を包含した税引き前の純利益率は九・五九パーセントであり、昭和五八年四月から翌年三月期までの前記各商品を包含した税引き前の純利益率は一〇・五八パーセントであると認めることができる。ところで、
昭和六一年四月から翌年三月期までの自社製品(ボールスプライン、LMガイド等)の粗利益率は三一・六六パーセント(同時期の他社仕入れ製品の粗利益率は一三・二一パーセント)、昭和六二年四月から翌年三月期までの自社製品の粗利益率は四〇・四〇パーセント(他社仕入れ製品は七・四一パーセント)、昭和六三年四月から翌年三月期までの自社製品の粗利益率は四〇・三七パーセント(他社仕入れ製品は六・一六パーセント)であると認められ、この事実によれば、自社製品の粗利益率は極めて高率であり、前記三事業年度の状況からみると自社製品と他社仕入れ製品の区別をしていない他の事業年度においても、自社製品の粗利益率は販売価格の少なくとも三〇パーセント程度を下回らないものと推認することが可能というべきであり、他にこの推認を左右する証拠はない。そして、粗利益率と税引き前純利益率の関係を前記の全事業年度の平均でみると、後者は前者の約七〇パーセントを下回らないことが認められるから、これを基に前記の昭和五七年六月期から同五九年三月期までの自社製品の税引き前の純利益率を推計すると一五パーセントを上回ることは明らかというべきである。以上によれば、控訴人のボールスプラインの純利益率は販売額の一五パーセントを下回らないものと認めるのが相当である。
被控訴人は、本件発明の実施品と代替可能なボールスプラインを日本トムソン株式会社及び日本ベアリング株式会社においても販売していたから、直ちに、控訴人が被控訴人が販売した分の販路を失ったことにはならないとして成立に争いのない乙第一四ないし第一六号証を援用するので検討する。まず、右第一四号証によれば、日本トムソン株式会社は昭和六二年頃から、アンギュラ形ボールスプラインを製造販売していた事実が、また、右第一五、第一六号証及び成立に争いのない同第一七号証によれば、
日本ベアリング株式会社は昭和六一年八月頃からNBボールスプラインと称する製品を製造販売していた事実がそれぞれ認められるが、右以前において、これらの製品が販売されていた事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、右販売時期以前においては、代替品が販売されていた事実を認めるに足る証拠はないから、右各時期以降、控訴人において損害賠償を求める昭和六三年一〇月末日までの間についての代替可能性について検討することとする。最初に、NBボールスプラインについてみるに、前掲甲第二六号証及び成立に争いのない甲第四九号証並びに前記控訴人代表者の尋問の結果によれば、右ボールスプラインにおけるボールの接触構造はゴシックアーク溝であることが認められるところ、既に説示したように、本件発明の実施品の代替品となり得るとするには疑問があるといわざるを得ない。また、日本トムソン株式会社の製品についてみると、同製品は前記のとおり昭和六二年頃から販売されていたものであるが、前掲甲第四九号証及び前記尋問の結果によれば、
ボールスプラインは工業用ロボットや工作機械等に使用されるものであり、これらの機械の主要な性能に影響を及ぼし、その性能を左右する機能部品であるため、相当年数をかけた試用期間を経て始めて採用の可否が決定されるとの事実を認めることができるから、この事実に照らすと、単に、前記の各カタログ上の数値をもって、本件実施品の代替品となり得るものと認めることは困難といわざるを得ないというべきであり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、本件発明の実施品に代替し得る製品が本件係争期間中に、市場に存在したとの被控訴人の主張は、未だこれを認めるに足りる証拠はなく、採用することができない。
以上の次第であって、他に本件全証拠を検討しても、控訴人の前記利益率を左右するに足りる証拠はない。
そうすると、被控訴人のイ号製品の製造販売行為には少なくとも過失があることは明らかであるというべきであり、そして、
不法行為後の日であることが明らかな昭和六三年一二月七日付け「請求の趣旨並びに原因変更申立書」の送達の翌日が同月八日であることは記録上明らかであるから、控訴人の主位的請求は全て理由があるというべきである。
四 以上の次第であって、本訴請求は理由があるから認容すべきであり、これと異なる原判決は相当ではないから取り消すこととし、仮執行の宣言は相当ではないからこれを付さないこととし、訴訟費用の負担について民事訴訟法96条89条を適用して主文のとおり判決する。
追加
別紙物件目録次のような無限摺動用ボールスプライン軸受a円筒内壁に断面半円状のトルク伝達用負荷ボール案内溝6と、該溝よりもやや深い無負荷ボール案内溝5を負荷、負荷、無負荷、無負荷、負荷、負荷……の配列で軸方向に形成し、その両端部に前記無負荷ボール案内溝と同一深さの円周方向部分7を形成した外筒1b外筒内壁の軸方向に形成したトルク伝達用無負荷ボール案内溝5に一致した三枚のプレート状部材11とトルク伝達用負荷ボール案内溝6に一致した突堤25、
27、29を備え、右プレート状部材11の両端縁に一対のリング状部材31を嵌着し、さらに前記プレート状部材11と突堤25・27・29との間に形成した長孔13と前記プレート状部材11に形成した無負荷ボール溝15へボール3がスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成した保持器具2(プレート状部材、リング状部材及び突堤より成る保持器具)c保持器具2と外筒1に組み込まれたボール3によって形成される三個の凹部間に一致すべく三個の凸部10を軸方向に形成したスプラインシャフト9d右の外筒1と保持器具2とスプラインシャフト9を嵌挿組立てる(図面の説明)第1図無限摺動用ボールスプライン軸受けの縦断面図(第2図のI―I線の縦断面図)第2図右の横断面図第3図外筒の横断面図第4図(その1)突堤25・27・29を除いた状態の保持器具の横断面図(その2)右の正面図(その3)右の側面図(その4)リング状部材を取り除いた状態の右の側面図(その5)組み立てられた保持器具の横断面図第5図スプラインシャフトの横断面図第6図外筒の一部破断透視図(符号の説明)1外筒2保持器具3ボール5トルク伝達用無負荷ボール案内溝6トルク伝達用負荷ボール案内溝7円周方向部分9スプラインシャフト10スプラインシャフトの凸部11プレート状部材13長孔14スプラインシャフトの凸部の斜面部15無負荷ボール溝16、17、18、19、20、21分岐帯頂壁22ボール転走面23環状溝24ストップリング25、26、27、28、29、30突堤31リング状部材32プレート状部材の湾曲面33外筒の突堤の湾曲面第1図〈27047-001〉第2図〈27047-002〉第3図〈27047-003〉第4図(その1)〈27047-004〉第4図(その2)〈27047-005〉第4図(その3)〈27047-006〉第4図(その4)〈27047-007〉第4図(その5)〈27047-008〉第5図〈27047-009〉第6図〈27047-010〉
裁判官 松野嘉貞
裁判官 濱崎浩一
裁判官 田中信義