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関連審決 無効2004-80126
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ネ10083損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成21行ケ10272審決取消請求事件 判例 特許
平成19ネ10098特許権侵害差止等請求控訴事件 平成20ネ10005附帯控訴事件 判例 特許
平成17行ケ10771審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10507審決取消請求事件 平成17行ケ10652審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  分割出願 /  実質的に同一 /  出願経過 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  混同 /  請求の範囲 /  合理的な理由 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10271号 審決取消請求事件
原告 株式会社アトリエワールド
同訴訟代理人弁理士 足立勉
同 安藤博輝
被告 株式会社大廣製作所
同訴訟代理人弁護士 後藤秀継
同 布施裕
同 大野潤
同訴訟代理人弁理士 鮫島武信
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/02/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-80126号事件について平成17年2月9日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「頭髪処理促進装置」とする特許第3306047号の特許(平成8年10月11日にした特許出願(以下「原出願」という。)を分割して平成12年7月4日出願(以下「本件出願」という。),平成14年5月10日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は4である。)の特許権者である。
原告は,平成16年8月20日,本件特許の請求項1に係る発明の特許について無効審判を請求した(無効2004-80126号)ところ,特許庁は,平成17年2月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月19日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲 本件特許に係る明細書(甲13,以下「本件明細書」という。)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。
「被施術者の頭髪に赤外線または遠赤外線を照射して頭髪処理を促進する頭髪処理促進装置において, 半円形状を有し,赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置と, 該発熱装置を該発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として,往復回動させる駆動手段とを備えた,ことを特徴とする頭髪処理促進装置。」 3 本件審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,@本件発明は,実願平4-17927号(実開平5-63404号)のCD-ROM(甲1), 特公平7-28770号公報(甲2),実願平3-82076号(実開平5-35004号)のCD-ROM(甲3),特公平6-67326号公報(甲4),特開平8-56741号公報(甲5)及び実公平6-8803号公報(甲6)に記載された発明(以下,順に「甲1発明」ないし「甲6発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条2項の規定に違反して特許を受けたものとはいえず,Aまた,本件明細書の記載が特許法36条4項,同条6項2号に規定する要件を満たしていないとはいえず,Bさらに,本件出願が分割出願に関する特許法44条1項に違反してされたものとはいえない,というものである。
本件審決が認定した甲1発明ないし甲6発明の内容,本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(1) 甲1発明の内容 「被施術者の頭髪に遠赤外線を照射する回転式ヘア・ドライヤにおいて,略四半円形状を有し,遠赤外線を放射するヒーター17を有する送風管2と,送風管2を該送風管2の中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として,回動させる駆動手段を備えた回転式ヘア・ドライヤ。」 (2) 甲2発明の内容 「被施術者の頭髪に赤外線を照射して毛髪処理を促進する毛髪処理促進装置において,略四半円形状を有し,赤外線を放射するヒータ14を有する反射器15と,該反射器15を該反射器15の長手方向一方端近傍と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として,長手方向一方端近傍を頂部とする半球面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」 (3) 甲3発明の内容 「被施術者の頭髪に温風を吹き付ける毛髪処理促進装置において,直線形状のヒータ14を有する回転腕11と,該回転腕11を該回転腕11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として,該回転腕11の端部を頂部とする円錐の側面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」 (4) 甲4発明の内容 「被施術者の頭髪に温風を吹き付ける毛髪処理促進装置において,直線形状のヒータ14を有する腕部11と,該腕部11を該腕部11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として,該腕部11の端部を頂部とする円錐の側面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」 (5) 甲5発明の内容 「略L字形状のヒータ30を有するエアー噴出ダクト23と,該エアー噴出ダクト23の端部に設けられた回転軸3を回動の軸として,該エアー噴出ダクト23の端部近傍を頂部とする円錐台の上面及び側面に沿ってエアー噴出ダクト23を所定角度揺動させる駆動手段とを備えた頭髪乾燥機。」 (6) 甲6発明の内容 「ヒーター47を有するドライヤー部Uを備える支持腕12と,駆動軸38を軸心として該支持腕12を回転させる回転駆動部Tを備えるヘアードライヤー装置であって,揺動機構部Sを備えており,駆動軸38を揺動させるヘアードライヤー装置。」 (7) 本件発明と甲1発明との一致点及び相違点 (一致点) 「被施術者の頭髪に赤外線または遠赤外線を照射して頭髪処理を促進する頭髪処理促進装置において,赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置と,該発熱装置の駆動手段とを備えた,頭髪処理促進装置」である点 (相違点) 「発熱装置」の形状及び「駆動手段」に関し,本件発明が「発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として,往復回動させる」構成としているのに対し,甲1発明は,「送風管2(発熱装置)の中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として,回動させる」構成とされている点で相違する。 さらにいえば,本件発明が,発熱装置の両端部の2カ所を結ぶ「弦に相当する直線を回動の軸」とする回動方式(以下,この回動方式を「弦回動方式」という。)を採用しているため,半円形状の発熱装置の描く往復回動軌跡は,地球に例えれば2本の経線で囲まれる球面領域を呈するのに対し,甲1発明は,発熱装置の1カ所のみの部位である「中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸」とする回動方式(以下,この回動方式を「中心回動方式」という。)を採用しているため,略四半円形状の発熱装置の描く回動軌跡は,発熱装置と回動の軸との交点を頂部とする球状回転体の一部の表面領域,即ち,地球に例えれば1本の緯線で区切られる球面領域を呈する点で,赤外線(遠赤外線)を照射する領域の形状及び形成態様が両者の間で基本的に相違しているといえる。
原告主張に係る本件審決の取消事由
本件審決は,@本件発明の進歩性についての判断を誤り(取消事由1〜4),A本件明細書の記載要件についての判断を誤り(取消事由5〜9),B本件出願に係る分割要件についての判断を誤った(取消事由10)ものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
なお,甲3発明ないし甲6発明の認定については,各発明に係る装置全体の構成としては認める。
1 取消事由1(甲1発明の認定の誤り) 本件審決は,甲1の図4に記載の「送風管2」の形状を「略四半円形状」と認定したが(審決書4〜5頁),誤りである。
甲1の段落【0004】において,送風管2の形状が「長手方向に略90度湾曲した」形状であることが記載されている。「半円形状」においては,円弧の中央部から円弧の両端に向けて延びる2本の線分のなす角度は「90度」であり,「四半円形状」においては,円弧の中央部分から円弧の両端に向けて延びる2本の線分のなす角度は「135度」であるから,「略90度湾曲した形状」は,「四半円形状」よりも「半円形状」に近似するものであり,送風管2は略四半円形状と認定できない。
したがって,甲1発明の「送風管2」は,その形状において,本件発明における発熱装置の「半円形状」と一致するものであり,本件審決は,この一致点を看過し,相違点の認定を誤ったものである。
2 取消事由2(甲2発明の認定の誤り) 本件審決は,甲2の第4図,第5図に記載の「反射器15」の形状を「略90度湾曲した略四半円形状」と認定したが(審決書6頁),誤りである。
甲2には,請求項1において,「半円形の形状等の曲線に形成され,赤外線を放射するヒータと,該ヒータを支持すると共に,ヒータから放射された赤外線を反射する反射器」という記載があり,また,6欄25行〜27行において,「第4図,第5図の他の実施例で,この実施例は前実施例のヒータ14,反射器15がリング状に形成されていたのを,半円形の形状としたもの」という記載があるから,反射器15の形状を「半円形状」と認定できることは明らかである。
したがって,甲2発明の「反射器15」は,その形状において,本件発明における発熱装置の「半円形状」と一致するものであり,本件審決には,この一致点を看過し,誤った相違点に基づいて本件発明の進歩性を判断した誤りがある。
3 取消事由3(本件発明と甲2発明との相違点についての判断の誤り) 本件審決は,「甲第2号証には,第4図,第5図の実施例に対する反射器15(発熱装置)の形状について『半円形の形状』とする記載がみられるが,仮に半円形状の発熱装置を用いたとしても,第4図,第5図の実施例のような『中心回動方式』で往復回動する限り,本件発明との相違は略四半円形状の発熱装置を用いた場合のものと同様である。」と判断したが(審決書13頁),誤りである。
照射領域の形状を半球状とするに当たり,「四半円形状の発熱装置」については360度回動する必要があるのに対して,「半円形状の発熱装置」については180度回動すればよいことから,同一形状領域(例えば,半球状領域)を照射するために必要な回動角度範囲は互いに異なる。つまり,両者は,発熱装置が移動することにより形成される照射領域の時々刻々の形状変化でみれば,照射態様に差異が生じていることは明らかであるから,両者の間で照射領域の形成態様が基本的に異なる。
@本件発明,A四半円形状の発熱装置を中心回動方式で回動する装置,B半円形状の発熱装置を中心回動方式で回動する装置の3つの装置は,「照射領域の形成態様」が異なることに起因して作用効果においても異なる。すなわち,頭部のうち同一箇所に対する再度の熱照射までの時間間隔は,加熱ムラを防止する観点からすれば短い時間であることが望ましいところ,回動軸の回動速度(角速度)が同一であると仮定すれば,Bの装置が最も短く,Aの装置が最も長くなる。本件発明においては,頭部のうち往復回動方向における中央位置が,Bの装置と同程度の時間間隔となり,頭部のうち往復回動方向の両端部に相当する箇所が,Aの装置と同程度の時間間隔となる。つまり,Bの装置が最も加熱ムラが少なく,Aの装置が最も加熱ムラが多くなり,本件発明は,両者の中間程度に加熱ムラが生じることになる。以上のことから,Bの装置は,本件発明よりも優れた作用効果を奏するものであるのに対して,Aの装置は,本件発明よりも作用効果において劣るものである。
4 取消事由4(各引用発明の認定の誤り,及び本件発明と各引用発明との相違点についての判断の誤り) 本件審決は,本件発明が甲1発明ないし甲6発明をいかに組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない旨判断するが(審決書14頁),この判断は,各引用発明について,「弦回動方式」あるいは「中心回動方式」のいずれに属するかという装置全体としての認定しかせず,その構成要素について認定しなかったことに基づく不十分な判断である。
甲1又は甲2の記載により「半円形状の発熱装置」が認定され,甲3ないし甲5のいずれかの記載により「発熱装置の端部に回動軸を設ける技術思想」が認定され,甲6の記載により「頭部における照射位置を適切な位置に設定するために,発熱装置の回動軸を移動させる技術思想」が認定され,甲3又は甲4のいずれかの記載により「発熱装置を往復回動させる技術思想」が認定されるのに,これらを組み合わせることで本件発明に想到できるか否かについて本件審決は何ら判断していない。
上記の技術思想を組み合わせるに当たり,甲2の第4図に記載のように,頭部に対する半円形状の発熱装置の相対位置を固定しておき,発熱装置の端部に回動軸を設けるに際して回動軸の位置を頭部の後方側に移動させることで,本件発明における「発熱装置及び回動軸の構成」(本件明細書の図2(a)(b)及び図3を参照)に想到することは,当業者にとって容易なことである。そして,このような「発熱装置及び回動軸の構成」に対して,「発熱装置を往復回動させる技術思想」を組み合わせることで,本件発明の構成に想到することは可能であると考えられる。そして,上記の技術思想を組み合わせることについては,何ら阻害要因は見当たらない。
5 取消事由5(記載不備(1)についての判断の誤り) 本件審決は,「発熱装置が半円形状であり,これを弦回動方式で回動することによって,赤外線(遠赤外線)を被施術者の頭髪に照射する頭髪処理促進装置であること」及び「半円形状を有し,赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置」との記載を根拠として,「ヒータは,…半円形状をなすものであると解される。」と判断するが(審決書17頁),誤りである。
上記記載からは,「発熱装置が半円形状であること」は把握できるものの,ヒータの形状については何ら記載されておらず,「ヒータが半円形状をなすもの」と判断できる根拠が充分には明らかにされていない。なお,発熱装置とヒータとが「不可分一体」であることは,特許請求の範囲には記載されていない。
また,本件発明の属する技術分野においては,発熱装置とヒータとが異なる形状である構成を採り得るものであり(甲4,6),同一形状に限定されることはない。
さらに,本件出願が分割された原出願における特許請求の範囲には,「半円形状を有し赤外線を放射するヒータ」との記載があり(甲14),これとの対比からも,本件発明のヒータは任意の形態を採り得るものと解すべきである。
6 取消事由6(記載不備(3)についての判断の誤り) 本件審決は,記載不備(1)について検討したことを前提として,「本件発明におけるヒータの形状及び赤外線(遠赤外線)の照射方向については,…不明確であるとはいえず,発明の効果との関係も明確である。」と判断するが(審決書18頁),取消事由5で主張したように,そもそも記載不備(1)についての判断に誤りがあるから,これを前提とした上記判断も誤りである。
7 取消事由7(記載不備(4)及び(6)についての判断の誤り) 本件審決は,「本件発明における発熱装置については,『往復回動』し得ることが重要な構成であり,『往復回動範囲』は使用に際し任意に選定し得るものと解される。そして,半円形状の発熱装置による往復回動軌跡は,2本の経線で囲まれる球面領域として明確に把握できるものである。したがって,『往復回動範囲』までを特定しなければならないとする合理的な理由は認めることができない。」と判断した(審決書18頁)。
しかし,このようにして把握される往復回動軌跡は,往復回動範囲が変化することによってその形状が異なるところ,「往復回動範囲が特定されない場合」には,出願経過の中で特許権者(被告)により主張された次の4つの作用効果,すなわち,@発熱装置部分の動作軌道範囲を半球状の小さなものとできるので,施術者の作業性が向上する,A発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭部に均等にムラなく,頭髪処理の促進を効率良く行う,B発熱装置が被施術者の視界に入らないので,発熱装置(ヒータ等)が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくす,C被施術者の頭部全体をカバーすることができ,被施術者の頭部を照射する頻度が高く,頭部に均等にムラなく,効率の良い熱照射を行う,という作用効果をどのようにして奏するのかを理解することができない。したがって,上記判断は誤りである。
なお,特許請求の範囲には,被告が主張するような「往復回動範囲は,被施術者の頭髪に赤外線または遠赤外線を照射することができる範囲であること」という構成要件は記載されていない。
8 取消事由8(記載不備(5)についての判断の誤り) 本件審決は,記載不備(4)及び(6)についての判断を前提として,「本件発明の構成と効果との関係も不明確ではない。」と判断したが(審決書18頁),取消事由7で主張したように,そもそも記載不備(4)及び(6)についての判断に誤りがあるから,これを前提とする上記判断も誤りである。
9 取消事由9(記載不備(7)ないし(11)についての判断の誤り) 本件審決は,「『発熱装置が被施術者の視界に入らない』という効果は,本件請求項2及び請求項3に係る発明の効果であり…,本件発明に対するものとはなっていない」と判断したが(審決書18頁),誤りである。
本件明細書の段落【0005】には,「この発明は,上記のような問題点を解消するためになされたもので,被施術者の頭髪を均一にムラなく加熱でき,かつ動作時の必要空間が小さく,施術者の作業性を向上できるとともに,ヒータ等が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことのできる頭髪処理促進装置を提供することを目的とする。」と記載されている。このように,上記の3つの課題が「かつ」「とともに」という語で接続されて記載されていることからすれば,本件発明の目的(解決しようとする課題)を,「上記3つの課題を同時に達成すること」と理解することしかできないから,本件発明(請求項1)の目的(解決しようとする課題)には,「ヒータ等が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすこと」が含まれており,本件発明は,「発熱装置が被施術者の視界に入らない」という効果を奏することが必要である。被告自身,出願経過において,そのような主張をしている(甲8)。
10 取消事由10(分割要件違反についての判断の誤り) 本件審決は,「『発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線』は『ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線』と実質的に同等のものとして,原出願の明細書に記載されていたというべきであるから,…本件出願が出願の分割要件を充たしていないとすることはできない。」と判断したが(審決書19頁),誤りである。
原出願の明細書においては,段落【0010】,【0011】,【0013】のみならず明細書全体において,「発熱装置3が半円形状である」ことは全く記載されていないため,「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線」を認定することはできない。
なお,原出願の明細書では,「直線10」は「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線10」として記載されているのであって(段落【0010】など),「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線10」という記載は存在せず,「直線10」を「発熱装置3の半円形状の弦に相当する直線」として理解することは不可能であるし,被告が指摘する「発熱装置(ヒータ等)」という記載(段落【0010】)から,「発熱装置」と「ヒータ」とが実質的に同一であると解することは不可能である。
また,本件発明が正常な回動運動を実現できるためには,「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線」と「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線」とが,実質的に同等のものというだけでは足りず,完全に同一位置に存在することが必要であるが,原出願の明細書には,そのことが記載されていない。
被告の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由には理由がない。
1 取消事由1(甲1発明の認定の誤り)について 本件発明と甲1発明及び甲2発明との本質的な差異は,発熱装置(甲1の送風管2及び甲2の反射器15)の形状の差異にあるのではなく,弦回動方式と中心回動方式の駆動方式の差異にある。甲1及び甲2で示された発熱装置が,半円形状であると仮定しても,取消事由3及び4に対する被告の後記反論から明らかなように,中心回動方式を開示するにすぎない甲1及び甲2によっては,本件発明の進歩性を否定することはできないものであり,本件審決の判断に,結論に影響を及ぼす誤りはない。
2 取消事由2(甲2発明の認定の誤り)について 取消事由1について主張したとおりである。
3 取消事由3(本件発明と甲2発明との相違点についての判断の誤り)について 四半円形状の発熱装置を中心回動方式で回動させた場合と,半円形状の発熱装置を中心回動方式で回動させた場合とは,本質的に同一である。つまり,中心回動方式において,半円形状の発熱装置は,四半円形状の発熱装置を2本用いたものと実質的に同じであり,両者の相違は量的な相違に止まり,本質的な相違はない。
一方,本件発明を,中心回動方式である甲2発明と対比すると,両者には,駆動範囲と非加熱領域について本質的な差異があり,加熱ムラの利用に関しても,本件発明は,中心回動方式による甲2発明に比して優れた作用効果を発揮する。このように,本件発明と中心回動方式である甲2発明とは,本質的な相違があり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(各引用発明の認定の誤り,及び本件発明と各引用発明との相違点についての判断の誤り)について 甲1発明ないし甲6発明のいずれにおいても,回動軸の相対位置を頭部後方側や側頭部側に設定することを開示,示唆するものは存在しない。
なお,甲6の装置にあっては,複数の発熱装置を頭部上方側に位置する回動軸によって回転させるものでしかない。甲6において,首振り運動を行うことや,回動駆動部が揺動することが記載されていたとしても,回動軸が頭部上方側に位置する状態を維持したまま,わずかに揺動するにすぎない。
したがって,甲1発明ないし甲6発明をどのように組み合わせても,本件発明を想到することはできない。
5 取消事由5(記載不備(1)についての判断の誤り)について 本件発明は,「ヒータ」の形状を直接的に記載しなくとも,技術的な矛盾や欠陥はなく,技術的意味や関連性も十分に理解され得るように特定されているものと認められるものである。本件明細書に「発熱装置(ヒータ等)」との記載があるように(段落【0004】,【0010】,【0015】),本件発明にあっては,発熱装置とヒータとは不可分一体のものと理解されるから,頭髪の加熱を行うために発熱する発熱装置が半円形状であれば,発熱装置における赤外線(遠赤外線)の放射源であるヒータは,発熱装置と一体不可分なものとして,当然に半円形状であるものと解されるものである。
なお,原告の指摘する甲4及び甲6のものは,「温熱風の発生送風装置」「温熱風によるヘヤードライヤー」であり,「発熱装置」ではない。
6 取消事由6(記載不備(3)についての判断の誤り)について 取消事由5について主張したとおり,ヒータの形状に関する本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
7 取消事由7(記載不備(4)及び(6)についての判断の誤り)について 本件発明においては,赤外線又は遠赤外線の照射対象が「頭髪」であることが特定されている。また,頭髪処理促進装置による頭髪処理は,パーマネントの薬液が塗布されるなどした処理対象物である「頭髪」に対してなされるべきものであることは,同装置の技術分野における技術常識である。したがって,本件発明で特定された,赤外線又は遠赤外線の照射対象が,パーマネントの薬液が塗布されるなどした処理対象物である「頭髪」であることは明らかである。
そして,発熱装置は,「半円形状を有し,赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置」であり,駆動手段によって,「該発熱装置を該発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として,往復回動させる」ものである。
したがって,駆動手段による発熱装置の往復駆動範囲は,被施術者の「頭髪」に赤外線又は遠赤外線を照射することができる範囲であることは明らかである。
8 取消事由8(記載不備(5)についての判断の誤り)について 取消事由7について主張したとおり,発熱装置の往復駆動範囲に関する本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
9 取消事由9(記載不備(7)ないし(11)についての判断の誤り)について 原告の指摘する「発熱装置が被施術者の視界に入らない」という効果は,請求項2及び請求項3に係る発明の効果であり(本件明細書の段落【0015】),これに対応する構成として,請求項2には,「上記駆動手段により,被施術者の頭部の回りの,前頭部から後頭部までの所定の駆動角度範囲を往復回動する,」との特定が,請求項3には,「上記駆動手段により,被施術者の頭部の回りの,右頭部から左頭部までの所定の駆動角度範囲を往復回動する,」との特定がそれぞれなされている。したがって,上記効果は,本件発明の効果ではない。
10 取消事由10(分割要件違反についての判断の誤り)について 原出願の明細書の段落【0010】,【0011】,【0013】の記載によれば,「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線10」は,「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線」と実質的に同等のものとして原出願の明細書に記載した範囲に含まれている。なお,原出願においても,本件出願と同様に,半円形状の発熱装置を弦回動方式にて回動させるという発明の本質は変わらないものであり,原出願にあっても,発熱装置とヒータとは一体不可分な同等の関係にあると解されるものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(甲1発明の認定の誤り)について 原告は,甲1の図4に記載の「送風管2」の形状は,「略四半円形状」よりも「半円形状」に近いから,本件審決がこれを「略四半円形状」と認定したのは誤りである旨主張する。
しかしながら,甲1(実願平4-17927号(実開平5-63404号)のCD-ROM)の段落【0004】には,「長手方向にわたって略90度湾曲した送風管(2)」との記載があり,この記載は,図4とともに見れば,送風管(2)の全長が湾曲しているものであるところ,湾曲した送風管(2)を含む円(360度)を仮想したとき,全長が当該円の略90度分,すなわち四半円形状であることを表現したものであると認められる。したがって,本件審決が「送風管2」の形状を「略四半円形状」と認定した上で,甲1発明を「被施術者の頭髪に遠赤外線を照射する回転式ヘア・ドライヤにおいて,略四半円形状を有し,遠赤外線を放射するヒーター17を有する送風管2と,送風管2を該送風管2の中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として,回動させる駆動手段を備えた回転式ヘア・ドライヤ。」と認定したことに誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(甲2発明の認定の誤り)について 原告は,甲2には第4図,第5図に記載の「反射器15」の形状が「半円形の形状」であるとの記載があるから,本件審決が同形状を「略90度湾曲した略四半円形状」と認定したのは誤りである旨主張する。
(1) 確かに,甲2(特公平7-28770号公報)には,請求項1において,「リング状,或いは半円形の形状等の曲線に形成され,赤外線を放射するヒータと,該ヒータを支持すると共に,ヒータから放射された赤外線を反射する反射器」という記載があり,また,6欄25行〜27行に「第4図,第5図の他の実施例で,この実施例は前実施例のヒータ14,反射器15がリング状に形成されていたのを,半円形の形状としたもの」との記載がある。
(2) しかしながら,甲2の上記第4図,第5図においては,反射器15が湾曲した形状をとっていることが実線(第4図),二点鎖線(第5図)で図示されており,反射器15の一端が回転ブラケット12に取り付けられ,当該回転ブラケット12を中心として回転したときの回転軌跡が二点鎖線で図示されているところ,第4図の実線図示によれば,「反射器15」は,その湾曲した形状を含む円(360度)を仮想したとき,全長が当該円の略90度分,すなわち四半円形状であることが示されていると認められるのであり,甲2には,「略90度湾曲した略四半円形状の反射器15」が開示されているということができる。したがって,本件審決が「反射器15」の形状を「略四半円形状」と認定した上で,甲2発明を「被施術者の頭髪に赤外線を照射して毛髪処理を促進する毛髪処理促進装置において,略四半円形状を有し,赤外線を放射するヒータ14を有する反射器15と,該反射器15を該反射器15の長手方向一方端近傍と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として,長手方向一方端近傍を頂部とする半球面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」と認定したことを誤りであるとはいえない。
(3) また,本件審決は,甲2に,反射器15の形状について「半円形の形状」とする記載があることを踏まえて,「仮に半円形状の発熱装置を用いたとしても,・・・本件発明との相違は略四半円形状の発熱装置を用いた場合のものと同様である」と判断しているのであり,この判断は,後記3のとおり,是認し得るものであるから,結局,甲2発明の「反射器15」の形状の認定如何は,本件審決の結論に何ら影響を及ぼすものではない。
(4) 以上によれば,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 取消事由3(本件発明と甲2発明との相違点についての判断の誤り)について 原告は,甲2発明において,「四半円形状の発熱装置」を用いた場合と「半円形状の発熱装置」を用いた場合とは,照射領域の形成態様が基本的に異なり,作用効果も異なるから,本件審決が「仮に半円形状の発熱装置を用いたとしても,第4図,第5図の実施例のような『中心回動方式』で往復回動する限り,本件発明との相違は略四半円形状の発熱装置を用いた場合のものと同様である。」と判断したのは誤りである旨主張する。
(1) 前記2のとおり,甲2発明では,略四半円形状の反射器15(発熱装置)の長手方向一方端近傍と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として回動させているため,略四半円形状の発熱装置の描く往復回動軌跡は,発熱装置と回動の軸との交点を頂部とする半球状回転体の表面領域の一部となる。
一方,本件発明は,「発熱装置」の形状及び「駆動手段」に関し,「発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として,往復回動させる」という構成であるため,半円形状の発熱装置の描く往復回動軌跡は,発熱装置と回動の軸との交点を底部とする半球状回転体の表面領域の一部となる。
したがって,両者は,赤外線を照射する領域の形状及び形成態様が根本的に相違するものというべきである。
そして,仮に,原告主張のとおり,甲2発明の「反射器15」が「半円形の形状」のものであるとした場合でも,その描く往復回動軌跡が,発熱装置と回動の軸との交点を頂部とする半球状回転体の表面領域の一部となることは同じであり,本件発明と甲2発明における赤外線を照射する領域の形状及び形成態様が上記と同様に根本的に相違することに変わりがないことは明らかである。したがって,本件審決が「仮に半円形状の発熱装置を用いたとしても,第4図,第5図の実施例のような『中心回動方式』で往復回動する限り,本件発明との相違は略四半円形状の発熱装置を用いた場合のものと同様である。」と判断したのは,これと同旨をいうものであって相当である。
(2) 確かに,「中心回動方式」において照射領域の形状をたとえば半球状とするためには,「四半円形状の発熱装置」では360度回動する必要があるのに対して,「半円形状の発熱装置」では180度回動すればよいことから明らかなように,両者においては,同一形状領域(例えば,半球状領域)を照射するために必要な回動角度範囲が互いに異なることは,原告の主張するとおりであり,それに伴い作用上の差異も存するということはできる。
しかしながら,いずれの形状であるにしても,本件発明とは,赤外線を照射する領域の形状及び形成態様が根本的に相違することに何ら変わりがないのであるから,原告の上記主張は,本件審決の上記判断を非難する理由となるものではない。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由3の主張も理由がない。
4 取消事由4(各引用発明の認定の誤り,及び本件発明と各引用発明との相違点についての判断の誤り)について 原告は,本件審決が,甲1発明ないし甲6発明について「弦回動方式」あるいは「中心回動方式」のいずれに属するかという装置全体としての認定しかせず,その構成要素について認定しなかったため,本件発明の容易想到性について不十分な判断をしたものであり,上記各発明を組み合わせて本件発明の構成を想到することは,当業者にとって容易である旨主張する。
(1) そこで検討すると,甲1発明及び甲2発明の構成は,前記1,2のとおりである。
また,甲3発明ないし甲6発明に係る各装置全体の構成として,甲3発明が「被施術者の頭髪に温風を吹き付ける毛髪処理促進装置において,直線形状のヒータ14を有する回転腕11と,該回転腕11を該回転腕11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として,該回転腕11の端部を頂部とする円錐の側面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」であり,甲4発明が「被施術者の頭髪に温風を吹き付ける毛髪処理促進装置において,直線形状のヒータ14を有する腕部11と,該腕部11を該腕部11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として,該腕部11の端部を頂部とする円錐の側面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」であり,甲5発明が「略L字形状のヒータ30を有するエアー噴出ダクト23と,該エアー噴出ダクト23の端部に設けられた回転軸3を回動の軸として,該エアー噴出ダクト23の端部近傍を頂部とする円錐台の上面及び側面に沿ってエアー噴出ダクト23を所定角度揺動させる駆動手段とを備えた頭髪乾燥機。」であり,甲6発明が「ヒーター47を有するドライヤー部Uを備える支持腕12と,駆動軸38を軸心として該支持腕12を回転させる回転駆動部Tを備えるヘアードライヤー装置であって,揺動機構部Sを備えており,駆動軸38を揺動させるヘアードライヤー装置。」であることは,当事者間に争いがない。
そうすると,甲1発明は,略四半円形状の送風管2(発熱装置)の中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸とする回動方式を採用し,甲2発明は,略四半円形状の反射器15(発熱装置)の長手方向一方端近傍と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として回動させる回動方式を採用し,甲3発明及び甲4発明は,直線状の回転腕11又は腕部11(発熱装置)をそれらの端部の一方に設けられた回転軸7を回動の軸として回動させる回動方式を採用し,甲5発明は,略L字状のエアー噴出ダクト23(発熱装置)の端部の一方に設けられた回転軸3を回動の軸として回動させる回動方式を採用しているということができる。したがって,上記甲1発明ないし甲5発明は,いずれも,発熱装置の中央位置ないし端部という1カ所のみを通る直線を回動の軸とし,回動の軸上に位置しない自由端を有する回動方式を採用している点で共通するということができる。
また,甲6発明も,単にドライヤー部U(発熱装置)を回転及び揺動させる構成を開示するにすぎないものであるということができる。
(2) 一方,本件発明は,発熱装置の半円形状の弦に相当する直線,すなわち,両端部の2カ所を結ぶ直線を回動の軸とする回動方式を採用しているということができる。
(3) 本件審決は,本件発明における回動方式を「弦回動方式」と表現し,甲1発明ないし甲5発明における回動方式を「中心回動方式」と表現しているが,これは,上記のとおりの,本件発明と甲1発明ないし甲5発明との回動方式の相違を端的に表現したものということができ,このことに何ら誤りはない。そして,甲1ないし甲6には,本件発明が採用する弦回動方式を示唆するような記載もないし,また,弦回動方式が,頭髪処理促進装置の分野において周知技術であると認めるに足りる証拠もないから,当業者であっても,甲1発明ないし甲6発明に基づいて,弦回動方式を採用する本件発明の構成を容易に想到することはできないというべきである。
(4) 原告は,甲1又は甲2に「半円形状の発熱装置」が,甲3ないし甲5に「発熱装置の端部に回動軸を設ける技術思想」が,甲6に「頭部における照射位置を適切な位置に設定するために,発熱装置の回動軸を移動させる技術思想」が,甲3又は甲4に「発熱装置を往復回動させる技術思想」が示され,これらを組み合わせることで本件発明に容易に想到することができる旨主張する。しかしながら,原告のいう組み合わせは,甲1ないし甲6の装置の具体的な構成から離れた極めて抽象的,断片的なアイディアを何段階にもわたって重畳的に適用するというものであって,このような組み合わせにより当業者が本件発明を容易に想到することができるとは到底いうことができない。
(5) 以上のとおり,甲1発明ないし甲6発明を組み合わせても本件発明を容易に想到し得ないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由4の主張も理由がない。
5 取消事由5(記載不備(1)についての判断の誤り)について 原告は,本件明細書の記載からは,「発熱装置が半円形状であること」は把握できるものの,ヒータの形状については何ら記載されていないから,本件審決がヒータを半円形状のものと判断したことは誤りである旨主張する。
(1) 本件発明に係る請求項1は,発熱装置及びヒータの形状に関し,「半円形状を有し,赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置」,「該発熱装置を該発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として,往復回動させる」と規定しており,上記「該発熱装置の半円形状の弦」との記載からすれば,発熱装置の形状が半円形状であることは明らかであるが,上記「半円形状を有し,赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置」における「半円形状を有し,」が「ヒータ」にかかるのか否かについては一義的に明確ではないというべきである。
(2) そこで,本件明細書(甲13)の発明の詳細な説明を参照すると,そこには次の記載がある(下線は,判決において付したものである。)。
「【発明が解決しようとする課題】従来の複数の直管ヒータ を用いた頭髪処理促進装置では,複数のヒータを使用しているため,スペースをとり,狭い理美容室での施術者の作業性を煩わすという問題があった。また,直管ヒータ ,リング状ヒータ を回転させるものでは,ヒータ が頭髪 に対し直線状態 になっており ,曲面になっている頭髪に対し温度分布にムラが生じ,頭髪全体を均等に温度照射できないという問題があり,また,被施術者の頭部を均等に照射するために頭部を囲うような状態の軌跡を描くので,比較的大きなスペースを要することになり,狭い理美容室での作業性が悪くなるという問題があった。…この発明は,上記のような問題点を解消するためになされたもので,被施術者の頭髪を均一にムラなく加熱でき,かつ動作時の必要空間が小さく,施術者の作業性を向上できるとともに,ヒータ等が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことのできる頭髪処理促進装置を提供することを目的とする。」(【0004】【0005】) 「【発明の実施の形態】実施の形態1.図1は本発明の実施の形態1による頭髪処理装置の構成を示す図であり,…4は半円形状 を有し,赤外線 ,あるいは遠赤外線 を放射 する ヒータ ,5はヒータ4の放射する赤外線をヒータ4の半円形状の半円の中心に向けて放射する反射板である。3はヒータ4,および反射板5を有する発熱装置であり,この発熱装置3は本体支持枠2に回動可能に軸支される。」(【0007】) 「図2(a)…に示すように,発熱装置3の両端部には,ヒータ4の半円形状 の弦に相当する直線10の延長線上に延びる支持軸6a,6bが設けられている。」(【0008】) 「発熱装置3は,…前頭部から後頭部までの間をヒータ4の半円形状 の弦に相当する直線(発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線10)を回動の軸として,往復回動する。」(【0009】) 「実施の形態2.図3は本発明の実施の形態2による頭髪処理促進装置の構成を示す図であり,…上記実施の形態1による頭髪処理促進装置では,半円形状のヒータ を備えた発熱装置の両端に支持軸を設け,…発熱装置が半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として回動可能な状態に支持…したが,本実施の形態2による頭髪処理促進装置は,半円形状のヒータ 4を備えた発熱装置3の一方の端部に支持軸6を設け,……ヒータ4の半円形状 の弦に相当する直線(発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線)を回動の軸として往復回動させる構成としている。」(【0012】) 「【発明の効果】以上のように,本発明(請求項1)によれば,被施術者の頭髪に赤外線または遠赤外線を照射して頭髪処理を促進する頭髪処理促進装置において,半円形状を有し,赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置と,該発熱装置を該発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として,往復回動させる駆動手段とを備えた構成としたから,発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき,施術者の作業性の向上を図ることができる効果があり,また,上記発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭髪処理の促進を効率良く行うことができる。…」(【0015】) (3) また,本件特許に係る図2(a)(b)及び図3を参照しても,「発熱装置3」及び「ヒータ4」のいずれもが半円形状をなしているものと認められる(甲13)。
(4) 以上の本件明細書及び図面の記載によれば,本件発明における「ヒータ」は半円形状を有するものであって,そうでなければ,「発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき,施術者の作業性の向上を図ることができる」,「上記発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭髪処理の促進を効率良く行うことができる」という作用効果を奏することができなくなることは明らかであるから,本件発明に係る請求項1の記載における「半円形状を有し,」は「ヒータ」にかかるものであると認められる。
したがって,本件発明におけるヒータを半円形状のものとした本件審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由5の主張も理由がない。
6 取消事由6(記載不備(3)についての判断の誤り)について 原告は,取消事由5で主張したように,本件審決の記載不備(1)についての判断には誤りがあるから,これを前提とした「ヒータの形状及び赤外線(遠赤外線)の照射方向が不明確であるとはいえず,発明の効果との関係も明確である」旨の判断も誤りである旨主張する。
しかしながら,上記5で説示したとおり,記載不備(1)に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由6の主張は,その前提を欠き,理由がない。
7 取消事由7(記載不備(4)及び(6)についての判断の誤り)について 原告は,本件発明においては,発熱装置の往復回動範囲を特定しなければ,出願経過の中で特許権者(被告)により主張された作用効果をどのようにして奏するのかを理解できないから,本件審決が「往復回動範囲まで特定する必要はない」旨判断したのは誤りである旨主張する。
(1) 本件明細書(甲13)には,本件発明の作用効果に関して,次の記載がある(下線は,判決において付したものである。)。
「【従来の技術】従来,理美容室における,頭髪の染色,頭髪のパーマネント,頭髪のウェーブ化等の頭髪処理を促進する装置としては,赤外線を放射する直管ヒータを複数本,被施術者の頭部を取り囲むように配置し,この複数の直管ヒータから被施術者の頭髪に赤外線を照射して頭髪を加熱するようにしたものがある。また,直管ヒータを複数本用いるかわりに,直管ヒータを回転体に傾斜を付けて取り付け,その放射面が円錐面軌跡を描くように移動させる構成とし,ヒータが円錐面軌跡の内側に位置する被施術者の頭部に沿って移動しながら熱を照射するようにしたものもある。
また,特公平4-645号公報には,リング状のヒータを回転体に取り付け,被施術者の頭部の周りで該リング状ヒータの放射面が円錐面軌跡を描くようにヒータを移動させるようにしたものが記載されている。同じく,特公平4-645号公報には,他の頭髪処理促進装置として,1/4弧状のヒータの一端を回転体に接続して,1/4弧状のヒータを,被施術者の頭部の周りで該1/4弧状のヒータの放射面が半球面軌跡を描くようにヒータを移動させるようにしたものが記載されている。」(【0002】【0003】) 「【発明が解決しようとする課題】従来の複数の直管ヒータを用いた頭髪処理促進装置では,複数のヒータを使用しているため,スペースをとり,狭い理美容室での施術者の作業性を煩わすという問題があった。また,直管ヒータ,リング状ヒータを回転させるものでは,ヒータが頭髪に対し直線状態になっており,曲面になっている頭髪に対し温度分布にムラが生じ,頭髪全体を均等に温度照射できないという問題があり,また,被施術者の頭部を均等に照射するために頭部を囲うような状態の軌跡を描くので,比較的大きなスペースを要することになり,狭い理美容室での作業性が悪くなるという問題があった。また,直管ヒータ,リング状ヒータ,あるいは1/4弧状ヒータを被施術者の頭部の周囲を取り囲むように回転させるものにおいては,これらの発熱装置(ヒータ等)が被施術者の視界に入り恐怖感を伴うという問題があった。
この発明 は,上記のような問題点を解消するためになされたもので,被施術者の頭髪を均一にムラなく加熱でき,かつ動作時の必要空間が小さく,施術者の作業性を向上できるとともに,ヒータ等が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことのできる頭髪処理促進装置を提供することを目的とする。」(【0004】【0005】) 「【発明の効果】以上のように,本発明(請求項 1)によれば,…構成としたから,発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき,施術者の作業性の向上を図ることができる効果があり,また,上記発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭髪処理の促進を効率良く行うことができる。また,本発明(請求項 2)によれば,請求項1に記載の頭髪処理促進装置において,…ものとしたので,上記の効果に加え,さらに発熱装置が被施術者の視界に入らないようにして,該発熱装置(ヒータ等)が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことができる効果がある。また,本発明(請求項 3)によれば,請求項1に記載の頭髪処理促進装置において,…ものとしたので,上記の効果に加え,さらに上記発熱装置が被施術者の視界に入らないようにして,該発熱装置(ヒータ等)が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことができる効果がある。また,本発明(請求項 4)によれば,請求項2に記載の頭髪処理促進装置において,…ものとしたので,被施術者の頭髪をより均一に加熱することができる効果がある。」(【0015】) (2) 以上の記載によれば,@従来の頭髪処理促進装置には,複数の直管ヒータを用いたものや直管ヒータ,リング状ヒータを回転させるもの等があったこと,A複数の直管ヒータを用いた頭髪処理促進装置では,複数のヒータを使用しているため,スペースをとり,狭い理美容室での施術者の作業性を煩わすという問題があったこと,B直管ヒータ,リング状ヒータを回転させるものでは,ヒータが頭髪に対し直線状態になっており,曲面になっている頭髪に対し温度分布にムラが生じ,頭髪全体を均等に温度照射できないという問題があり,また,被施術者の頭部を均等に照射するために頭部を囲うような状態の軌跡を描くので,比較的大きなスペースを要することになり,狭い理美容室での作業性が悪くなるという問題があったこと,Cこれらの問題を解決するためになされた,請求項1に係る本件発明の構成によれば,発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき,施術者の作業性の向上を図ることができ,また,上記発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭髪処理の促進を効率良く行うことができるという効果を奏すること,以上の事実が認められる。
換言すれば,本件発明が,半円形状を有し,赤外線又は遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置と,該発熱装置を該発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として,往復回動させる駆動手段とを備えた構成を採用することにより,発熱装置の往復回動範囲まで特定しなくても,従来の複数の直管ヒータを用いたものや直管ヒータ,リング状ヒータを回転させるものに比べて,「発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき,施術者の作業性の向上を図ることができるという効果」や「発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭髪処理の促進を効率良く行うことができるという効果」を奏するものであることは,当業者であれば,本件明細書の上記記載から理解することができることは明らかである。したがって,往復回動範囲まで特定する必要はない旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3) この点に関し,原告は,本件発明について,@発熱装置部分の動作軌道範囲を半球状の小さなものとできるので,施術者の作業性が向上する,A発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭部に均等にムラなく,頭髪処理の促進を効率良く行う,B発熱装置が被施術者の視界に入らないので,発熱装置が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくす,C被施術者の頭部全体をカバーすることができ,被施術者の頭部を照射する頻度が高く,頭部に均等にムラなく,効率の良い熱照射を行う,という4つの作用効果を奏することを前提として,発熱装置の往復回動範囲を特定する必要がある旨主張する。
しかしながら,本件明細書の上記段落【0015】の記載によれば,請求項1に係る本件発明の奏する効果は,発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき,施術者の作業性の向上を図ることができ,また,上記発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭髪処理の促進を効率良く行うことができるという効果であることは明らかであり,原告の上記主張は,明細書の記載に基づかない部分を含むもので失当である。
なお,本件明細書の段落【0005】には「この発明」の課題が3つ記載されているが,段落【0015】の記載と照合すると,段落【0005】の「この発明」は,段落【0015】の「本発明」と同義のものであって,各請求項の総体である発明を指すものと認められるから,段落【0005】には,上記総体としての発明の3つの課題が記載されているにすぎないと解される。
また,被告(特許権者)は,本件特許の出願手続における平成14年1月28日付け手続補正書(甲8)において,「本願の請求項1に係る発明は,…発熱装置部分の動作軌道範囲を半球状の小さなものとでき,施術者の作業性の向上を図ることができるものであります。また,発熱装置を,被施術者の頭部の回りの,右頭部から左頭部までの所定の駆動角度範囲,あるいは前頭部から後頭部までの所定の駆動角度範囲で往復運動させることにより,発熱装置は被施術者の視界に入らないので,発熱装置(ヒータ等)が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことができるものであります。さらに,本願発明は,…被施術者の頭部を照射する頻度が高く,頭部に均等に,効率の良い熱照射を行うことができるものであります。」と主張している。この主張内容には,本件発明の効果と本件特許の請求項2,3に係る発明の効果とを混同し,本件明細書の上記記載に基づかない部分も含まれていると解されるが,このような主張を被告(特許権者)が本件特許の出願手続においてしたからといって,本件発明の作用効果についての上記認定が左右されることになるものではない。
(4) 以上のとおり,原告の取消事由7の主張も理由がない。
8 取消事由8(記載不備(5)についての判断の誤り)について 原告は,取消事由7で主張したように,本件審決の記載不備(4)及び(6)についての判断に誤りがあるから,これを前提とした「本件発明の構成と効果との関係も不明確ではない」との判断も誤りである旨主張する。
しかしながら,上記7で説示したとおり,記載不備(4)及び(6)に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由8の主張は,その前提を欠き,理由がない。
9 取消事由9(記載不備(7)ないし(11)についての判断の誤り)について 原告は,本件明細書の段落【0005】の記載等によれば,本件発明の目的には,ヒータ等が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことが含まれているから,本件審決が「『発熱装置が被施術者の視界に入らない』という効果は,本件請求項2及び請求項3に係る発明の効果であり…,本件発明に対するものとはなっていない」と判断したのは誤りである旨主張する。
しかしながら,前記7で説示したとおり,本件明細書の記載によれば,請求項1に係る本件発明の奏する効果は,発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき,施術者の作業性の向上を図ることができ,また,上記発熱装置からの熱を,無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて,頭髪処理の促進を効率良く行うことができるという効果であることは明らかであるから,本件審決の上記判断は相当であり,原告の上記主張は,明細書の記載に基づかないもので失当である。したがって,原告の取消事由9の主張も理由がない。
10 取消事由10(分割要件違反についての判断の誤り)について 原告は,原出願の明細書においては,「発熱装置3が半円形状である」ことは全く記載されていないし,「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線」と「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線」が完全に同一位置に存在していることも記載されていないから,本件審決が,「両直線が実質的に同等のものとして,原出願の明細書に記載されていたというべきであるから,本件出願が分割要件を満たしていないとはいえない」旨判断したのは誤りである旨主張する。
(1) 原出願に係る明細書(甲7)には,次の記載がある。
「4は半円形状を有し,赤外線,あるいは遠赤外線を放射するヒータ,5はヒータ4の放射する赤外線をヒータ4の半円形状の半円の中心に向けて反射する反射板である。3はヒータ4,および反射板5を有する発熱装置であり,この発熱装置3は本体支持枠2に回動可能に軸支される。」(【0007】) 「発熱装置3の両端部には,ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線10の延長線上に延びる支持軸6a,6bが設けられている。」(【0008】) 「発熱装置3は,図1に矢印で示すように,被施術者の頭部に沿って,前頭部から後頭部までの間をヒータ4の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として往復回動する。」(【0009】) 「発熱装置3を半円形状の弦に相当する直線10を回動の軸として回動させると,…」(【0011】) 「上記実施の形態1による頭髪処理促進装置では,半円形状のヒータを備えた発熱装置の両端に支持軸を設け,…発熱装置が半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として回動可能な状態に支持…したが,本実施の形態2による頭髪処理促進装置は,半円形状のヒータ4を備えた発熱装置3の一方の端部に支持軸6を設け,…ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として往復回動させる構成としている。」(【0013】) 「10 半円形の弦に相当する直線」(【符号の説明】) (2) また,原出願に係る図2(a)(b)を参照すると,「発熱装置3」は「ヒータ4」と同様に半円形状をなしており,「発熱装置3」及び「ヒータ4」のそれぞれの端部は「半円形の弦に相当する直線10」上に位置しているものと認められる(甲7)。
(3) 以上の原出願に係る明細書及び図2(a)(b)の記載によれば,@「ヒータ4」の半円形状の弦に相当する直線,A「発熱装置3」の半円形状の弦に相当する直線,B「発熱装置3」の半円形状の両端部を結ぶ直線は,いずれも「半円形の弦に相当する直線10」と一致するから,「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線」が「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線」と一致することは,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。したがって,原告の取消事由10の主張も理由がない。
11 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 嶋末和秀
裁判官 沖中康人
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