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関連審決 無効2003-35327
関連ワード 発明者 /  改良発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  上位概念 /  出願公開 /  技術常識 /  実質的に同一 /  参酌 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10207号 審決取消請求事件
原告 株式会社サムソン
同訴訟代理人弁理士 山内康伸
被告 三浦工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 福島三雄
同 小山方宜
同 向江正幸
同 面谷和範
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/02/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35327号事件について平成16年6月25日にした審決中,「特許第3031856号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「ボイラのインバータによる風量調整方法」とする発明につき,平成8年2月2日に出願し(以下「本件出願」という。),平成12年2月10日に設定登録された特許(特許第3031856号。以下「本件特許」といい,本件特許の明細書(甲第19号証)を「本件明細書」という。)の特許権者である。
被告は,平成15年8月7日,本件特許の請求項1ないし3項について無効とするとの審判を請求し,特許庁は,これを無効2003-35327号事件として審理した結果,平成16年6月25日,「特許第3031856号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特許第3031856号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月7日,その謄本が原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許の請求項1及び3に係る発明(以下「第1特許発明」及び「第3特許発明」という。)は,下記のとおりである。
記【請求項1】 高燃焼用周波数と低燃焼用周波数が設定されたインバータを送風機モータに接続しておき,インバータに対して周波数の指令を送ることで,インバータから送風機モータに出力される運転周波数を変更させ,送風機モータの回転速度を変更して風量調整を行っており,ボイラへの燃料供給量を制御することで,高燃焼・低燃焼・停止の3位置で燃焼制御が行われるボイラにおいて,インバータから送風機モータへ送る運転周波数を検出する周波数検出装置を設けておき,ボイラの燃焼量を高燃焼と低燃焼の間で切り替える場合には,まずインバータに対して運転周波数を変更するよう指令を送り,周波数検出装置にて検出された運転周波数が切替用設定値に達した時,ボイラへの燃料供給量を変更することを特徴とするボイラのインバータによる風量調整方法。
【請求項3】 高燃焼用周波数と低燃焼用周波数が設定されたインバータを送風機モータに接続しておき,インバータに対して周波数の指令を送ることで,インバータから送風機モータに出力される運転周波数を変更させ,送風機モータの回転速度を変更して風量調整を行っており,ボイラへの燃料供給量を制御することで,高燃焼・低燃焼・停止の3位置で燃焼制御が行われるボイラにおいて,経過時間を検出するタイマー装置,送風機とボイラの間に着火時には一部閉じることで送風機からの通風量を調整するダンパを設けておき,ダンパの一部を閉じた状態で着火を行ってから設定時間経過した時,インバータに対して運転周波数を低燃焼用周波数に変更するように指令を送り,インバータへの指令出力からの経過時間をタイマー装置にて検出し,検出された経過時間が遅延時間T1に達した時,ダンパの開度を開く指令を出力することを特徴とするボイラのインバータによる風量調整方法。
3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,第1特許発明は,本件出願の日前の出願であって,本件出願後に出願公開された特開平8-178271号公報(本訴甲第20号証,審判甲第1号証)に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書1」という。)に記載された発明(以下「第1先願発明」という。)と同一であり,第3特許発明は,本件出願の日前の出願であって,本件出願後に出願公開された特開平8-159459号公報(本訴甲第21号証,審判甲第3号証)に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書3」という。)に記載された発明(以下「第3先願発明」という。)と同一であり,しかも,本件出願に係る発明の発明者が上記各先願発明をした者と同一であるとも,また,本件出願時において,その出願人が上記各先願の出願人と同一であるとも認められないから,第1特許発明及び第3特許発明は,いずれも特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものである,とするものである。
審決は,上記の結論を導くに当たり,第1先願発明の内容並びに第1特許発明と第1先願発明との一致点及び相違点を次の(1)から(3)までのとおり認定し,第3先願発明の内容並びに第3特許発明と第3先願発明との一致点及び相違点を次の(4)から(6)までのとおり認定した。
(1) 第1先願発明の内容高燃焼用周波数と低燃焼用周波数が設定された回転数制御装置15を送風機の駆動モータに接続しておき,回転数制御装置は制御部16の指令を受けて出力周波数を変更し送風機13の回転数を制御し風量を適切な量に調節し,ボイラーの燃焼制御として,燃料供給量を変えて,高燃焼,低燃焼,停止の3位置制御方法で行うボイラーにおいて,送風機の回転数を検出する検出装置を設けて空気量を検出し,低燃焼から高燃焼に移る場合は,制御部16から高燃焼信号cが出力されると回転数制御装置15は送風機13を加速し,時間t 経過後,送風機13の回転数から空気量が適切な量に増加したこと23を検知したら,高燃焼弁開信号dを出力し,高燃焼油電磁弁20を開け高燃焼に必要な燃料を供給し高燃焼運転を開始し,時間t (加速時間)後に空22気量は高燃焼に必要な空気量に達し,また,高燃焼から低燃焼に移る場合は,制御部16から低燃焼信号eが出力されると回転数制御装置15は送風機13を減速し,時間t 経過後,送風機13の回転数から空気量が適切な量に25減少したことを検知したら,高燃焼弁閉信号fを出力し,高燃焼油電磁弁20を閉じ,時間t (減速時間)後に空気量は低燃焼に必要な空気量になる24ボイラの空気量調整方法(2) 第1特許発明と第1先願発明との一致点「高燃焼用周波数と低燃焼用周波数が設定された回転数制御装置を送風機モータに接続しておき,回転数制御装置に対して周波数の指令を送ることで,回転数制御装置から送風機モータに出力される運転周波数を変更させ,送風機モータの回転速度を変更して風量調整を行っており,ボイラへの燃料供給量を制御することで,高燃焼・低燃焼・停止の3位置で燃焼制御が行われるボイラにおいて,送風機モータの回転数に関係する検知対象量を検出する検出装置を設けておき,ボイラの燃焼量を高燃焼と低燃焼の間で切り替える場合には,まず回転数制御装置に対して運転周波数を変更するよう指令を送り,前記検出装置にて検出された検知対象量が切替用設定値に達した時,ボイラへの燃料供給量を変更することを特徴とするボイラの回転数制御装置による風量調整方法」である点(3) 第1特許発明と第1先願発明との相違点@ 回転数制御装置が,第1特許発明は,インバータであるのに対し,先願明細書1には,インバータとは明記されていない点(以下,審決と同様に,「相違点イ」という。)A 送風機モータの回転数に関係する検知対象量を検出する検出装置が,第1特許発明は,インバータから送風機モータへ送られる運転周波数を検出する周波数検出装置であるのに対し,第1先願発明は,送風機モータの回転数を検出する装置である点(以下,審決と同様に,「相違点ロ」という。)(4) 第3先願発明の内容高燃焼用周波数と低燃焼用周波数が設定されたインバータを送風機モータに接続しておき,周波数の指令によりインバータでモータの回転速度が制御されるファンを使用した着火時の風量制御方法であって,燃料供給装置は,3位置制御方式のバーナに対応して,その供給量が停止,低燃焼用及び高燃焼用として制御されるようになっており,前記ファンの風量を高燃焼用風量位置と低燃焼用風量位置との2位置で制御するダンパを使用し,プレパージ開始時には,前記ファンの回転速度を高燃焼用風量よりも多いプレパージ用風量とすると共に,前記ダンパを高燃焼用風量位置に位置させ,プレパージに続く着火動作の間は,前記ダンパを低燃焼用風量位置に位置させ,着火動作終了後の最初の低燃焼の間は,前記ファンの回転速度を低燃焼用風量とすると共に,所定時間T1遅らせて前記ダンパを高燃焼用風量位置に位置させることを特徴とするボイラの着火時の風量制御方法(5) 第3特許発明と第3先願発明との一致点「高燃焼用周波数と低燃焼用周波数が設定されたインバータを送風機モータに接続しておき,インバータに対して周波数の指令を送ることで,インバータから送風機モータに出力される運転周波数を変更させ,送風機モータの回転速度を変更して風量調整を行っており,ボイラへの燃料供給量を制御することで,高燃焼・低燃焼・停止の3位置で燃焼制御が行われるボイラにおいて,送風機とボイラの間に着火時には一部閉じることで送風機からの通風量を調整するダンパを設けておき,ダンパの一部を閉じた状態で着火を行ってから,インバータに対して運転周波数を低燃焼用に変更するように指令を送り,インバータへの指令出力からの経過時間が遅延時間T1に達した時,ダンパの開度を開く指令を出力することを特徴とするボイラのインバータによる風量調整方法」である点(6) 第3特許発明と第3先願発明との相違点@ インバータへの指令出力からの経過時間である遅延時間T1を,第3特許発明は,経過時間を検出するタイマー装置を設けたのに対し,先願明細書3には,タイマー装置は明記されていない点(以下,審決と同様に,「相違点ヘ」という。)A 着火を行ってからインバータに対して低燃焼用に変更するように指令するのが,第3特許発明が,着火を行ってから設定時間経過した時であるのに対し,第3先願発明は燃料供給を開始し,着火が行われ,燃料供給を開始してから所定時間(着火トライ期間)経過後である点(以下,審決と同様に,「相違点ト」という。)
原告主張の取消事由の要点
第1特許発明について,審決は,第1先願発明の認定を誤った上,相違点イについての判断を誤り(取消事由1),相違点ロについての判断も誤った(取消事由2)ものであるから,取り消されるべきである。
第3特許発明について,審決は,第3先願発明の認定を誤った上,第3特許発明と第3先願発明との相違点を看過し(取消事由3),相違点へ及び相違点トについての判断を誤った(取消事由4及び5)ものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(第1先願発明の認定の誤り・相違点イについての判断の誤り)(1) 審決は,先願明細書1に記載された回転数制御装置が出力周波数で送風機の回転数を制御し,風量を調節するものであると認定しているが,次の理由により,この認定は誤っている。
ア 審決は,先願明細書1の【0009】,図3,図5等にある従来技術の記載に基づいて上記の認定をしたものであるが,従来技術から出発したものであっても,必ず従来技術の一部を前提にするものと断定することはできないから,従来技術の説明のみに基づいて,先願明細書1記載の回転数制御装置が出力周波数を制御手段とするものと認定することは,早計である。
イ 先願明細書1において,第1先願発明の記述部分(従来技術の記載でない部分)には,出力周波数を制御要素とするものとは記載されていない。
ウ 第1先願発明では,送風機13とボイラ11との間に,風圧センサ14又は回転数センサを取り付けているので,出力周波数を検出することはできず,審決の認定は技術的に矛盾する。
(2) 審決は,先願明細書1に記載された回転数制御装置が出力周波数で送風機の回転数を制御し,風量を調節するものであることを前提にして,相違点イに関し,回転数制御装置としてのインバータは先願明細書1に記載されているに等しい事項であると判断しているが,その前提に誤りがあることは(1)のとおりである。また,審決の上記判断は,次の理由によっても,誤っている。
ア 明細書中に開示があるか否かを判断するに当たり,周知技術参酌されることは当然であるが,審決は,周知技術であることが直ちに開示があることにつながると判断した点で,判断手法が違法である。明細書の補正に関する審査基準では,ある技術が周知・慣用技術であるというだけでは,これを追加する補正は許されず,明細書等の記載から自明な事項といえる場合でなければならないから,先願の明細書中に開示があるか否かを判断するときも同様にすべきである。したがって,周知技術というだけで,インバータが先願明細書1に開示されているとした審決の判断は誤りである。
イ 「回転数制御装置」に含まれる具体的手段としては,インバータ,サイクロコンバータ,回転機電源方式,トランジスタモータなど多数存在するところ,先願明細書1に,上位概念としての「回転数制御装置」という記載しかない以上,審決のように,インバータが一般的であるとか,インバータかサイクロコンバータかの二者択一という手法によって,先願明細書1の「回転数制御装置」がインバータを意味すると判断することはできない。
ウ 明細書の解釈に当たっては,内部証拠(特許請求の範囲の用語そのもの,明細書その他包袋書類等)を外部証拠(内部証拠以外の発明者や専門家の証言,技術文献等)よりも重視すべきである。審決は,内部証拠には全く根拠がないにもかかわらず,外部証拠である技術文献だけで,インバータが先願明細書1に開示されていると判断しており,不当である。
エ 第1特許発明の「周波数センサ」は,設定された周波数を検知することができるので,誤差の原因である雑音が入らず,高精度な制御が可能であるという特徴がある。これに対し,第1先願発明では,風量という物理量を検出するものであり,雑音が多く,検出の段階で誤差が多く出るものである。また,第1特許発明では電気回路内の電気信号をそのまま検出しているのに対し,第1先願発明は空気量を風圧検出器などのセンサで検出し,その後,電気信号に換算しているものであるため,検出時と換算時それぞれで誤差が発生する。したがって,構成も効果も異なるのであるから,第1特許発明の「周波数センサ」と第1先願発明の「回転数センサ」とは,同一とはいえない。
2 取消事由2(相違点ロについての判断の誤り)審決の「第1特許発明が『周波数検出装置』を採用したことは,単なる周知技術の転換に該当し,相違点ロは課題解決のための具体化手段における微差である」との判断は,次のとおり誤りである。
(1) 取消事由1においても述べたとおり,先願明細書1に「インバータ」の記載があるとはいえないし,記載されているとの推測ができるか否かを問える程度にすぎないのに,審決は,第1先願発明がインバータ制御であることを前提にして判断しており,論理の飛躍がある。
モータは周波数に正比例した回転数で回転するから,インバータ制御を採用した第1特許発明においては,燃焼モード切換途中においても線形で変化するように正確な回転数制御を能動的にコントロールできるので,途中の空燃比制御を正確に行うことが可能である。このような高い制御精度は,制御手段が不明確なままの第1先願発明では達成されない。
(2) 第1特許発明の効果は,第1先願発明の効果と相違があり,「微差」ではない。第1特許発明の周波数検出装置と先願明細書1の回転数検出装置は,センサとしての検出対象と取付位置に相違があるが,それは単なる取付位置だけの相違ではなく,制御内容の質である技術レベル,ひいては設計思想の相違を根拠づけるものであるのに,審決は,これを無視している点で,誤りである。
すなわち,センサの取付位置をみると,第1先願発明では,送風機モータを越えて回転数制御装置の二次(最終)制御対象であるボイラの手前に取付けられているのに対し,第1特許発明の周波数センサは,インバータの一次制御対象である送風機モータの手前に取付けられている。この相違によって,第1特許発明では,設定された周波数を検知するので,誤差の原因である雑音が入らず,高精度な制御が可能であるという効果が達成されるが,第1先願発明で検出する風量は,直前の風量の変化具合とか,ファンの慣性や摩耗等に影響されて雑音が多く入り,検出の段階で誤差が多く出る。また,第1特許発明では電気回路内の電気信号をそのまま検出しているのに対し,第1先願発明は空気量を風圧検出器などのセンサで検出し,その後,電気信号に換算しているものであるため,検出時と換算時それぞれで誤差が発生し,正確な燃焼制御はなし難いという欠点がある。したがって,構成も効果も異なり,それが技術レベルの高低に結びついているのであるから,周波数検出装置が周知技術であったとしても,単純に転換が可能な関係にはない。
3 取消事由3(第3特許発明と第3先願発明との相違点の看過)審決は,従来技術の記載と周知技術という2つの理由で先願明細書3にインバータが記載されていると認定しているが,次のとおり,この認定は誤りであり,第3特許発明がインバータを用いるものであるのに対し,第3先願発明はインバータを用いていないという相違点を看過している。
審決の上記認定は,取消事由1で論じたのと同様に,@改良発明であっても従来技術の一部を継承するものではないことを無視している,A周知技術であることのみに基づいて飛躍した判断をしている,B結果として,内部証拠(明細書)より外部証拠(周知技術文献)を優先させた判断手法の誤りも犯した,という3点で誤りである。
4 取消事由4(相違点へについての判断の誤り)審決は,「先願明細書3には,タイマー装置が明記されていないが,……先願明細書3に記載された遅延時間T1は,時間計測手段として周知,慣用手段であるところのタイマー装置で制御するものと認められる。」と判断するが,次のとおり誤りである。
(1) 審決は,第3先願発明が特開平8-303759号公報(本訴乙第27号証,審判甲第2号証。以下「先願明細書2」という。)に記載されたような風量又は風圧を検出するセンサをあえて有するものではないことを根拠にして,上記の判断をしているが,先願明細書3の記載事項は,先願明細書3自体の記載内容から判断すべきであるのに,別の出願の明細書である先願明細書2の記述を根拠とするのは,尋常でない判断手法であって,その判断手法そのものが違法である。
(2) 先願明細書3には,所定時間T1に関して「着火動作終了後,ファンの回転速度を低燃焼用風量とし,ダンパを所定時間T1遅らせて高燃焼用風量位置に位置させる。」(【0013】)と記載されている。@先願明細書3の所定時間T1の起算点は「着火終了」の時点であるが,この起算点は第3特許発明と異なっている。第3特許発明では,「(a)着火を行ってから,(b)設定時間経過した時」であり,(a)着火終了より,更に時間が経過した(b)の時点であるのに対し,第3先願発明は(a)の時点であるから,明らかに異なっている。A先願明細書3の「遅らせて」という記述は,状態の説明とも解される。遅らせる時間が一定に固定化されているなら,タイマー装置を用いなくても,既存の技術(例えば,動作の順序を決めておくシーケンス制御等)で達成することができるのであるから,先願明細書3の記述は,動作の説明でなく,状態の説明と読む方が自然である。
以上の2点を考慮すれば,先願明細書3には,タイマー装置を示唆する記載はないと判断され,「タイマー」の開示があるとの判断はできない。
5 取消事由5(相違点トについての判断の誤り)審決が,本件明細書に「着火」の定義等の記載がないとして,第3特許発明の「着火を行ってから」について「着火の可能性が生じる燃料供給開始時点を設定時間の開始とすることも包含されるものである。」とした上で,先願明細書3には,第3特許発明の「構成要件『着火を行ってから設定時間経過した時』にインバータに対して低燃焼用に変更するように指令することが記載されているものと認められる。」と判断したことは,誤りである。
(1) 第3特許発明は,ボイラ運転中の大まかな制御を対象としており,着火動作のみに限った制御を内容とするものではないため,「着火」といえば,着火動作(つまり着火初めから着火終了まで)を指すものとして理解した方が自然な解釈である。また,本件明細書(甲第19号証)における「点火トランス(点火トラストを訂正)に電圧をかけて火花を発生させ,第1電磁弁を開いて低燃焼で着火を行う。」(【0007】)との記載において,「着火」は「点火トランスで火花を発生させた」後に「電磁弁(燃料弁)を開いて低燃焼させる」ことまでの状況説明を受けて置かれた文言であり,「着火」は,火花を発生させる瞬間や燃料が燃え始める瞬間のこと(狭義の点火)ではなく,火花は発生しているが燃料は燃えていない状態から火花の発生を受けて燃料が燃え出し,火花が無くても燃焼を維持できるようになって火花の発生を停止させるまでの継続的な時間,すなわち着火動作の始めから終わりまでを一括して表現していると読むのが自然である。さらに,点火トランスの動作については,「火花を発生させる」という文言を用い,「着火」とは異なる用語を用いて説明をしており,第3特許発明でいう着火(最終的に着火され,かつ着火が安定する)とは区別して説明されている。このような用語の使い分けも,明確な定義とはいえないまでも,時間的に継続する着火動作の始めから終わりまでを指す概念と解釈できる根拠といえる。
(2) 甲第12号証から第18号証にあるとおり,ボイラの着火動作は一定時間(数秒〜10秒位の時間)継続して行うものであることは技術常識であるから,明細書自体の解釈も,着火動作の始めから終わりまでを一括して表現していると読むのが自然である。そうすると,第3特許発明の「着火」とは,着火完了あるいは着火終了を意味するものであり,点火トランスの通電停止の時点が設定時間の開始であるとして,理解すべきものである。したがって,先願明細書3には,第3特許発明の「着火を行ってから設定時間経過した時」にインバータに対して低燃焼用に変更するように指令するとの構成要件は,記載されていない。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(第1先願発明の認定の誤り・相違点イについての判断の誤り)について(1) 先願明細書1においては,【従来技術】欄のみならず,それ以外の欄でも「回転数制御装置」の用語が統一して使用されており,【従来技術】欄の「回転数制御装置」は,「出力周波数で制御するもの」を指すと記載されている。【従来技術】欄以外において,「出力周波数で制御する回転数制御装置」とは別の構成があると解釈すべき根拠となる記載もないから,先願明細書1における「回転数制御装置」は,すべて「出力周波数で制御するもの」と解釈するのが合理的かつ自然である。
(2) 先願明細書1に記載された回転数制御装置が出力周波数で送風機の回転数を制御し,風量を調節するものであることは前記(1)のとおりであり,更に技術常識を考慮すれば,先願明細書1に接した当業者は,一般的なインバータを把握するというべきであり,結局,回転数制御装置としてのインバータは先願明細書1に記載されているに等しい事項であると認められるとの判断は妥当である。また,このような審決の判断は,本件出願に適用されるべき審査基準第U部第3章「2.3 他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案」(乙第1号証)に沿うものであって,誤りはない。
2 取消事由2(相違点ロについての判断の誤り)について前記1のとおり,回転数制御装置としてのインバータは先願明細書1に記載されているに等しい事項であるから,相違点ロの前提となる審決の判断に誤りはない。送風機モータの回転数の制御に関係する検知対象として,「送風機モータの回転数」を検出する(第1先願発明)ことに代えて,「インバータから送風機モータへ送られる運転周波数」を検出する(第1特許発明)ことは,「周知技術の転換」にすぎない。この点に関する審決の判断は,審査基準第U部「4.4 請求項に係る発明が引用発明と同一か否かの判断」(乙第1号証)の「両者に構成の相違点がある場合であっても,それが課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)である場合(実質同一)は同一とする。」との基準に沿っている。したがって,相違点ロは周知技術の転換にあたる設計上の微差にすぎず,第1特許発明と第1先願発明は実質的に同一発明であるから,審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(第3特許発明と第3先願発明との相違点の看過)についてインバータはボイラにおける送風機の回転数制御装置として一般的に使用されている周知技術であって,先願明細書3の【従来技術】欄に「インバータ」と記載されている上,第3先願発明が周知技術である「インバータ」を含まないと解釈すべき根拠となる記載がない。したがって,技術常識に基づいて当業者が先願明細書3に接した場合には,「インバータでファンの回転速度を制御し風量を調節することを前提としているもの」と解するのは当然である。したがって,先願明細書3において,「インバータ」は記載されているに等しい事項であり,原告が主張するような相違点は存在せず,審決に誤りはない。
4 取消事由4(相違点へについての判断の誤り)についてタイマー装置は,時間計測手段として周知,慣用手段であることは技術常識であり,これを前提として先願明細書3の記載事項を解釈すれば,「タイマー装置で制御するものと認められる」との審決の判断に誤りはない。
なお,審決が先願明細書2に言及しているのは,先願明細書3において,「タイマー装置で制御するものと認められる」との解釈を妨げる記載が存在しないことを示すためであり,何ら誤りではない。
5 取消事由5(相違点トについての判断の誤り)について本件明細書には,「着火」の定義が記載されていないから,「着火」は「燃焼反応が開始し,持続するようになると火炎が発生する。この過程を,着火(ignition),発火または点火という。」(「機械工学便覧」,乙第18号証)という通常の意味に解釈しなければならない。すなわち,「着火」は,燃焼現象の一過程を意味するのが通常であり,本件明細書中において特別な定義が記載されていない以上,原告が主張するような本件明細書に特有な意味と解釈することは許されない。
したがって,審決の判断は妥当であり,「第3先願発明には,第3特許発明構成要件『着火を行ってから設定時間経過した時』にインバータに対して低燃焼用に変更するように指令することが記載されているものと認められる。」との結論にも誤りはない。
仮に,第3特許発明の「着火」が原告の主張する意味であるとしても,「着火動作が終了してから所定時間経過してから風量の変更を行う」という構成は周知技術にすぎないものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(第1先願発明の認定の誤り・相違点イについての判断の誤り)について(1) 先願明細書1には,次の事項が記載されている(甲第20号証)。
ア 「そこで3位置制御のボイラ-に送風機の回転数を制御する回転数制御装置を設け,送風機の回転数を制御することにより,必要な空気量を送る制御方法が試みられている。しかしながら,燃料供給を制御する電磁弁は瞬時に作動するのに対して,前記回転数制御装置による風量の制御は送風機の加減速特性が図3に示すように応答に遅れがある。即ち,加速時は送風機の実際の加速時間t =回転数制御装置の加速時間t+送風機の応答遅れ時間t31 32となり,また減速時は実際の減速時間t=回転数制御装置の減速時間t 33 34+送風機の応答遅れ時間t となり,所定の空気量になるまでの時間は約 35 3610秒程度となる。」(【0004】)イ 「その結果,低燃焼から高燃焼に移る燃料の増加時には燃料過多となり黒煙が発生し,また,逆に燃料の減少時には空気量過多となり吹き消えが発生することがある。なお,図3において,実線は回転数制御装置の出力周波数,破線は送風機の出力周波数を示す。」(【0005】)ウ 「この対策として,特開昭61-276623号公報に開示されるように送風機の回転数制御とダンパによる風量制御とを併用する方法がある。図5はこのボイラー燃焼炉の制御装置の構成例を示す図である。・・・送風機54は回転数制御装置57の出力周波数で回転数が制御され風量を調節する。」(【0008】,【0009】)エ 「【作用】本発明のボイラ-燃焼制御方法では,低燃焼から高燃焼に移る際は,まず回転数制御装置15で送風機13の回転数を上げ,空気量が適切な量に達した時に燃料供給手段により高燃焼の燃料を供給するので,従来のように燃焼用空気の不足により,黒煙を発生することは無い。また,高燃焼から低燃焼に移る際は,回転数制御装置15で送風機13の回転数を下げ,空気量が低燃焼に適切な量になった時に,燃料供給手段により高燃焼の燃料を停止するので,従来のように空気量過剰による吹き消えが発生することは無くなる。」(【0013】)(2) 上記記載からすると,先願明細書1の請求項1に係る発明は,前記(1)イの課題を解決するために,「前記低燃焼から高燃焼へ移る際は前記制御手段の制御により,前記回転数制御装置を介して送風機の回転数を上げ,前記送風機からの空気量を検出し高燃焼に適切な空気量になったら,前記燃料供給手段により高燃焼の燃料を供給し,前記高燃焼から低燃焼へ移る際は前記回転数制御装置を介して送風機の回転数を下げ,前記送風機からの空気量を検出し低燃焼に適切な空気量になったら,前記燃料供給手段により低燃焼の燃料を供給することを特徴とする」(【請求項1】)ものということができる。
すなわち,ボイラを高燃焼から低燃焼へ又は低燃焼から高燃焼へ切り換える際に,空気量過多又は燃料過多の状態になるのを防ぐために,高燃焼又は低燃焼に適切な空気量となる時期と高燃焼又は低燃焼用の燃料の供給時期とを同期させたことに特徴があるのであって,送風機の回転数の制御を出力周波数によって行うか,他の要素によって行うかは,先願明細書1の請求項1に係る発明の特徴とは関係がない。したがって,「送風機の回転数を制御する回転数制御装置」との事項を理解するに当たり,回転数制御装置の出力周波数により回転数を制御する点について,ことさら先願明細書1に挙げられた従来技術(【0009】,図3)と異なると理解する理由はなく,この点について従来技術の構成を前提にして理解することが相当である。
そうすると,審決が,先願明細書1の「回転数制御装置15は制御部16の指令を受けて送風機13の回転数を制御し,風量を適切な量に調節する」ときの回転数の「制御」の方法としては,先願明細書1の従来技術に挙げられた回転数制御装置の「出力周波数」が用いられると解したことに誤りはなく,また,これに基づいて,「先願明細書1には周波数を変更するための指令が実質的に記載されているものと認められる」と認定したことにも,誤りはない。
原告は,従来技術の説明のみに基づいて先願明細書1記載の回転数制御装置が出力周波数を制御手段とするものと認定することは早計であると主張するが,従来技術の説明のみに基づいてそのように認定したのでないことは前記のとおりであり,原告の主張は当たらない。
また,原告は,先願明細書1の第1先願発明の記述部分(従来技術の記載でない部分)には,出力周波数を制御要素とするものとは記載されていないことを理由に,審決の認定を非難するが,第1先願発明の発明内容を認定するに当たっては,従来技術の説明を含めて明細書全体からその発明内容を認定すべきであるから,原告の非難は当たらない。
なお,原告は,第1先願発明では,送風機13とボイラ11との間に,風圧センサ14又は回転数センサを取り付けているので,出力周波数を検出することはできず,審決の認定は技術的に矛盾すると主張する。しかし,審決の前記認定は,回転数制御装置から送風機モータに対して出される回転数変更の指令がどのように行われるかという点についてのものであり,送風機モータの回転数に関係する検知対象量を検出する方法(この点は相違点ロとして認定されている。)とは別の問題であるから,原告の主張する点は,回転数の制御の方法についての審決の認定判断の当否とは関係がない。
(3) 前記(2)のとおり,第1先願発明は回転数制御装置の出力周波数で送風機モータの回転数を制御するものであるが,先願明細書1には,「インバータ」そのものを表現する明示的記載はない。
ア しかし,先願明細書1に従来技術として記載された特開昭61-276623号公報(乙第8号証)には,「インバータの周波数を変えて送風誘導電動機の回転数を微調整できるようにしたボイラ燃焼炉の空気量制御装置」(特許請求の範囲第1項)との記載がある。また,ボイラ等における送風機の回転数制御装置としてインバータを用いることは周知技術であることは,原告も積極的に争っていないし,乙第15号証(「機械工学便覧」社団法人日本機械学会編・1987年4月15日新版発行)によれば,第1先願発明の出願当時(平成6年12月20日),「インバータ」は可変電圧可変周波数の電力変換器として一般的なものであることが当業者の技術常識であったことが認められる。
そうすると,先願明細書1に接した当業者であれば,第1先願発明における回転数制御装置の出力周波数で送風機モータの回転数を制御するものについて,明示的記載がなくても,少なくとも「インバータ」を用いるものをその具体的手段として理解することができるというべきである。
イ 原告は,周知技術であることが直ちに開示があることにつながるとした審決の判断は違法であり,明細書中に開示があるか否かを判断するときには,明細書の補正に関する審査基準と同様にすべきであると主張する。
しかし,原告が指摘する審査基準は,明細書等の補正に関する運用上の考え方を示したものであって,第1先願発明の技術内容をどのように理解するかということとは直接関係しない。また,審決は,単に周知技術であることが直ちに先願明細書1にインバータの開示があることにつながると判断したものでないことは,その説示に照らし明らかであり,第1先願発明の「回転数制御装置」の技術内容を理解するに当たって,先願明細書1の記載事項とともに周知技術参酌した審決の判断手法に違法な点はない。
ウ 原告は,「回転数制御装置」に含まれる具体的手段が複数あるから,「回転数制御装置」という記載しかない以上,一般的であるとか,二者択一という手法によって,「回転数制御装置」がインバータを意味すると判断することはできないと主張する。
しかし,審決は,第1先願発明の「回転数制御装置」がインバータのみであると限定したものではなく,当業者が第1先願発明の「回転数制御装置」の一つとしてインバータを想起すると認定したものであり,原告の主張は失当である。
エ 原告は,明細書の解釈に当たっては,内部証拠を外部証拠よりも重視すべきであるのに,審決が,内部証拠には全く根拠がないにもかかわらず,外部証拠である技術文献だけで,インバータが先願明細書1に開示されていると判断したことが不当であると主張する。
原告の主張する内部証拠,外部証拠の考え方の是非はともかく,審決は,第1先願発明の「回転数制御装置」の技術内容を理解するに当たって,先願明細書1の記載事項とともに周知技術参酌しているにすぎないものであるから,その判断手法に何ら違法,不当な点はない。
オ なお,原告は,第1特許発明の「周波数センサ」と第1先願発明の「回転数センサ」とでは,構成も効果も異なり,同一とはいえないと主張するが,相違点イは,送風機モータの回転数制御装置としての「インバータ」が第1先願発明にも実質的に記載されているか否かの問題であって,原告の主張は,相違点イについての審決の認定判断の当否とは関係がない。
(4) 以上によれば,審決の「回転数制御装置としてのインバータは先願明細書1に記載されているに等しい事項であると認められる」との判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点ロについての判断の誤り)について(1) 取消事由1についての判断において述べたとおり,「回転数制御装置としてのインバータ」は先願明細書1に記載されているに等しいといえる(したがって,第1先願発明がインバータ制御であるといえないことを前提に,審決を論難する原告の主張は,その前提を欠き,失当である。)。そして,特開平7-119684号公報(乙第26号証)には,「回転数検出装置(回転数検出器7)及び周波数検出装置(周波数検出器37)の両方が示され,どちらの検出装置も必要に応じて選択し得ること」が記載されているから,乙第26号証によれば,「流体機械駆動用モータのインバータ制御において,回転数検出装置や周波数検出装置が用いられることは周知技術であ」ることが認められる。上記認定したところによれば,回転数制御のために,回転数検出装置に代えて,周波数検出装置を用いることは,単なる周知技術の転換であって,新たな効果を奏するものともいえない。
(2) 原告は,第1特許発明の周波数検出装置と先願明細書1の回転数検出装置は,センサとしての検出対象と取付位置に相違があることから,誤差の発生の点で違いがあり,高い制御精度の実現という効果が異なる旨主張する。
しかし,第1特許発明,第1先願発明のいずれも,回転数を制御するのは,適切な空燃比をもたらすための風量調整を目的とするものと認められ(本件明細書(甲第19号証)【0004】,先願明細書1(甲第20号証)【0013】),目的とする制御対象は「風量」であるところ,「周波数検出装置」が検出する「周波数」,「回転数検出装置」が検出する「回転数」のいずれも,「風量」そのものではなく,「風量」に対応するものであって,間接的に「風量」を制御するものである。この点を考慮すれば,両者とも風量を直接に制御するものではないから,風量に対する検出誤差を論じることなく,単に検出過程における誤差の相違を論じても必ずしも意味があるとはいえないし,原告が主張する誤差の相違について,それが実施上格別影響のある差異であると認めるべき具体的な根拠もない。仮に,第1特許発明において「周波数検出装置」を用いたことによる効果があるとしても,周知技術である「周波数検出装置を用いること」自体から当然奏される効果にとどまるものであって,新たな効果を奏するものとはいえない。
(3) 以上によれば,「周波数検出装置」と「回転数検出装置」とは,いずれも当業者が同一技術を具体的に実施するに当たり,その手段として適宜選択し得る周知の技術であって,第1特許発明が「周波数検出装置」を採用したことは,単なる周知技術の転換に該当し,相違点ロは課題解決のための具体化手段における微差であるものと認められる。したがって,相違点ロは,実質的な相違点ということはできず,この点に関する審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(第3特許発明と第3先願発明との相違点の看過)について原告は,第3特許発明がインバータを用いるものであるのに対し,第3先願発明はインバータを用いていないという相違点があるのに,審決はこれを看過していると主張する。
(1) 先願明細書3(甲第21号証)には,従来の技術として,「現在インバータ等を利用して,ファンの回転速度を制御することにより風量を調節する方法が提案されている。この方法によれば,ファンの電力削減,騒音低減等の効果はあるが,低燃焼用の風量で着火(低燃着火)しようとするとダンパによる風量調節方法と比較して,振動燃焼,黒煙発生等と云う点において新たな問題が発生する。」(【0002】)との記載がある。また,先願明細書3には,発明の効果として,「回転速度即ち風量が制御されるファンの電力削減,騒音低減等の特徴を効果的に発揮することができ,この種のファンによる風量調節の実用化が可能である。」(【0024】)との記載があり,ここでいう「回転速度即ち風量が制御されるファンの電力削減,騒音低減等の特徴」とは,従来の技術とされる「インバータ等を利用して,ファンの回転速度を制御することにより風量を調節する方法」による効果に当たることは明らかである。
これらの記載をみると,先願明細書3の「従来の技術」を説明する箇所以外には「インバータを利用する」との記載はないものの,先願明細書3の請求項1及び2に係る発明は,従来の技術と同様に,「インバータ等を利用して,ファンの回転速度を制御することにより風量を調節する」ものであることは,明らかである。したがって,先願明細書3には,「インバータを利用してファンの回転速度が制御される」との事項が実質的に記載されているというべきであるから,審決が「先願明細書3にはインバータによる送風機モータの回転数制御が実質的に記載されている」と認定したことに誤りはなく,原告の主張する相違点は存在しない。
(2) 原告は,審決の上記認定は,@改良発明であっても従来技術の一部を継承するものではないことを無視している,A周知技術であることのみに基づいて飛躍した判断をしている,B結果として,内部証拠(明細書)より外部証拠(周知技術文献)を優先させた判断手法の誤りも犯した,という3点で誤りであると主張する。
しかし,先願明細書3の記載事項から,第3先願発明がインバータを利用してファンの回転速度を制御するものであると認定できることは,前記のとおりであり,審決の判断手法に違法,不当の点がないことは,その説示に照らして明らかであって,原告の主張は失当である。
4 取消事由4(相違点へについての判断の誤り)について原告は,審決が先願明細書3の「遅延時間T1」はタイマー装置によって制御されると認定したことは誤りであると主張する。
(1) 先願明細書3(甲第21号証)には,タイマー装置との明示はないが,「ダンパを所定時間T1遅らせて高燃焼用風量位置に位置させる」(【0013】)との記載があり,これを行うためには,時間の経過を把握する必要があることが認められる。タイマー装置は,時間を計測する周知,慣用の手段であるから,タイマー装置を用いて時間を計測することは,先願明細書3に明示がなくとも,当業者が自然に理解することのできる事項である。
(2) 原告は,審決が,第3先願発明が先願明細書2に記載されたような風量又は風圧を検出するセンサをあえて有するものではないことを根拠にして判断をしていることは,判断手法として違法である旨主張する。
しかし,審決は,先願明細書2の記載を根拠としてタイマー装置による制御を認定したものではなく,タイマー装置が時間計測手段として周知・慣用手段であることから認定したものであることは,その説示に照らし明らかである。審決が先願明細書2に言及したのは,先願明細書3において「タイマー装置で制御する」との解釈を妨げる記載が存在しないことを示すためであると解され,何ら誤りではない。原告の主張は,審決を正解しないで非難するものであり,失当である。
(3) 原告は,先願明細書3の「遅らせて」という記述は,状態の説明とも解され,遅らせる時間が一定に固定化されているなら,タイマー装置を用いなくても,シーケンス制御等の既存の技術で達成できるから,先願明細書3に「タイマー」の開示があるとはいえない旨主張する。
しかし,先願明細書3には,シーケンス制御などタイマー装置を用いない技術によるものであると解すべき記載はなく,「遅らせて」を状態の説明と解すべき記載もないのであって,原告の主張は失当である。
なお,原告は,「所定時間T1」の起算点についても主張しているが,その起算点とタイマー装置の有無とは関係がないことは明らかである。
(4) 以上に述べたとおり,審決が「先願明細書3に記載された遅延時間T1は,時間計測手段として周知,慣用手段であるところのタイマー装置で制御するものと認められる。」と判断したことに,誤りはない。
5 取消事由5(相違点トについての判断の誤り)について原告は,第3特許発明の「着火」とは,着火完了あるいは着火終了を意味するものであり,点火トランスの通電停止の時点が設定時間の開始であるとして,理解すべきであり,先願明細書3には,第3特許発明の「着火を行ってから設定時間経過した時」にインバータに対して低燃焼用に変更するように指令するとの構成要件は記載されていないから,相違点トについての審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,本件明細書(甲第19号証)には,「着火」自体を具体的に説明する記載はなく,設定時間についても,「着火より設定時間(例えば10秒)経過すると,インバータ8に低燃焼用周波数(例えば23Hz)の指令を入力し」(6欄6〜8行。なお,7欄2〜4行)との記載があるのみで,第3特許発明において,「着火を行ってから設定時間経過した時,インバータに対して運転周波数を低燃焼用周波数に変更するように指令を送り」とすることの技術的意義を説明するような記載もない。
したがって,本件明細書の記載からは,原告が主張するように,第3特許発明の「着火」が着火完了又は着火終了を意味するものと解した上で,着火動作の完了した時点から設定時間経過後運転周波数を変更することに何らかの技術的意義があると理解することは困難である。
甲第13号証によれば,ボイラの運転開始は複数の過程を経て行われるものであり,点火装置の作動(点火トランスの作動によるスパーク発生)に限ったとしても,一定時間継続して行われるものであることが認められ,「ポストイグニッション」(バーナ着火確認後も10〜20秒間点火トランスの作動によるスパークを継続させる)という動作も含まれることが認められ,原告の主張するように,このことは技術常識であると認められる。これをもとに,第3特許発明をみれば,「設定時間」が例えば10秒とされるのであるから,「着火より設定時間」がポストイグニッションの時間であると解すれば,「設定時間」の技術的意義を理解することができる。また,先願明細書3の記載からは,第3先願発明における「所定時間(着火トライ期間)」がポストイグニッションの時間に相当するものと認められる。したがって,第3特許発明における「設定時間」と第3先願発明の「所定時間」との間に何ら差異がない。
以上のとおり,審決が,第3特許発明の「着火を行ってから」について,「着火の可能性が生じる燃料供給開始時点を設定時間の開始とすることも包含される」として,第3先願発明には,第3特許発明構成要件「着火を行ってから設定時間経過した時」にインバータに対して低燃焼用に変更するように指令することが記載されていると判断したことに,誤りはない。
6結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
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