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事件 平成 9年 (ワ) 11113号 差止請求権不存在確認等請求事件
平成 10年 (ワ) 404号 特許権侵害行為差止等請求事件
本訴原告(反訴被告) 恒和化学工業株式会社 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 上原洋允
同 小杉茂雄右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
本訴被告(反訴原告) 株式会社ハマキャスト 右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 白波瀬文夫右補佐人弁理士 【E】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1999/10/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)が別紙目録1ないし3記載の吹き付け塗装方法を実施することが、本訴被告(反訴原告)の有する特許第二一一九〇八七号の特許権を侵害する旨を、文書又は口頭により、第三者に対して告知し又は流布してはならない。
二 本訴原告(反訴被告)の本訴のうち、本訴原告(反訴被告)が前項記載の吹き付け塗装方法を実施することにつき、本訴被告(反訴原告)が前項記載の特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める訴えを却下する。
三 本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを一〇分し、その九を本訴被告(反訴原告)の負担とし、その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。
事実及び理由
全容
事実及び理由は、別紙「事実及び理由」のとおりであり、それによれば、@本訴原告(反訴被告)の本訴のうち、(ア)本訴原告(反訴被告)が別紙目録1ないし3記載の記載の吹き付け塗装方法を実施することにつき、本訴被告(反訴原告)が本訴被告(反訴原告)の有する特許第二一一九〇八七号の特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める訴えは確認の利益を欠く不適法は訴えであり、(イ)本訴原告(反訴被告)が(ア)記載の吹き付け塗装方法を実施することが(ア)記載の特許権を侵害する旨を、文書又は口頭により、第三者に対して告知し又は流布することの差止めを求める請求は理由があり、(ウ)不正競争防止法に基づく損害賠償を求める請求は理由がなく、A本訴被告(反訴原告)の反訴請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(平成一一年六月二五日口頭弁論終結)
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(別紙)事実及び理由以下、本訴原告(反訴被告)を「原告」と、本訴被告(反訴原告)を「被告」という。また、書証の掲記は「甲1」などと略称し、枝番のすべてを含むときには、
その記載を省略する。
第1請求(本訴)1被告は、原告に対し、原告が別紙目録1ないし3に記載の吹き付け塗装方法を実施することにつき、特許第2119087号に係る特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
2被告は、原告が前項の吹き付け塗装方法を実施することが前項の特許権を侵害する旨を、文書又は口頭により第三者に告知し、流布してはならない。
3被告は、原告に対し、金500万円及びこれに対する平成9年11月12日(本訴訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(反訴)1原告は、別紙目録1記載の方法を用いて混合材を塗布し又は第三者をして塗布させてはならない。
2原告は、別紙目録2記載の方法を用いて混合材を塗布し又は第三者をして塗布させてはならない。
3原告は、別紙目録3記載の方法を用いて混合材を塗布し又はこれによって得られる自然石材調外壁板を販売してはならない。
4原告は、別紙目録1ないし3記載の方法を宣伝、広告してはならない。
5原告は、被告に対し、金5000万円及びこれに対する平成10年1月22日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)(1)当事者原告及び被告は、それぞれ塗装材料の製造及び販売並びに塗装工事の請負を業とする会社である。
(2)被告の特許権被告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
ア発明の名称混合材の塗布方法イ出願日昭和58年5月11日(特願昭58ー83098号)ウ公告日平成5年2月5日(特公平5ー9587号)エ登録日平成8年12月6日オ特許番号第2119087号カ特許請求の範囲本件特許権の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報の該当欄記載のとおりである(以下、本件特許権に係る特許発明を「本件発明」という。)。
(3)本件発明の構成要件の分説本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。なお、本件特許権の請求項2及び3は、請求項1の実施態様項であるから、本件各請求の当否を判断するに当たっては、請求項1のみを検討すれば足りる。
A適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合材のB異なる色のもの複数種を1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意し、
C該複数種の混合材を複数の吹き付け口を有する多頭式スプレーガンの別個の吹き付け口からD同時に吹き付けることによって、
E非混合多色状に塗布することFを特徴とする混合材の塗布方法。
(4)原告の行為原告は、@別紙目録1記載の方法(以下「イ号方法」という。)を実施して壁面塗装工事を行い、それに使用する天然石調厚付け仕上塗材を「ダイヤアールストーン」の商品名で宣伝広告し、A同目録2記載の方法(以下「ロ号方法」という。)を実施して壁面塗装工事を行い、それによって得られる天然石調厚付け仕上塗材を「ダイヤアールストーンデラックス」の商品名で宣伝広告し、B同目録3記載の方法(以下「ハ号方法」という。)を実施して、これによって得られる天然石材調シートを「クリスタルアート」の商品名で宣伝、広告及び販売してきた(以下、これらの方法を併せて「原告方法」という。)。
(5)被告による書面の送付被告は、平成8年12月20日、訴外東急建設株式会社に対し、「『特許』のお知らせとお願いについて」と題する書面(甲7)を送付した。
(6)別紙目録1及び2の方法はいずれも本件発明の構成要件B、C、D及びFを充足し、同目録3の方法は本件発明の構成要件C、D及びFを充足する。
2本件各事件における請求の内容(1)本訴本訴事件は、原告が、被告に対し、@原告方法はいずれも本件発明の技術的範囲に属しないとして、原告が原告方法を実施することに対して本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに、A被告による書面の送付(前記1(5))が不正競争防止法2条1項11号の不正競争行為に該当するとして、(ア)同法3条に基づき、原告方法の実施が本件特許権を侵害する旨を第三者に告知等することの差止めを求め、(イ)同法4条に基づき、被告の同行為によって被った損害の賠償を請求した事案である。
(2)反訴反訴事件は、被告が、原告に対し、原告方法はいずれも本件発明の技術的範囲に属するから、それらの実施は本件特許権を侵害するとして、@本件特許権に基づき、原告方法の実施、原告方法によって製造された外壁板の販売及び原告方法の宣伝広告の差止めを求めるとともに、A本件特許権及び本件特許権の出願公告による仮保護の権利の侵害に基づき、平成5年2月6日から同10年1月6日までの間の原告方法の実施による実施料相当額の支払(不法行為又は不当利得に基づく)を各請求した事案である。
3争点(本訴・反訴共通)(1)原告方法は、本件発明の技術的範囲に属するか。
ア原告方法は、本件発明の構成要件Aの「自然石」の要件を充足する方法又は同要件と均等の方法か。
イハ号方法は、本件発明の構成要件Bの「1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意」の要件を充足するか。
ウ原告方法は、本件発明の構成要件Eの「非混合多色状」の要件を充足するか。
(本訴関係)(2)被告による書面の送付(前記1(5))が不正競争防止法2条1項11号の営業誹謗行為に該当するか。
(3)原告が被告に請求し得る損害額
(反訴関係)(4)被告が原告に請求し得る損害額
第3争点に関する当事者の主張1争点(1)ア(「自然石」の要件の充足・均等)について【被告の主張】ア本件発明の特許請求の範囲には、「自然石」と記載されており、その概念は明確であって、これを特別の限定された意味に解する理由はないところ、原告方法では寒水砂と珪砂が骨材として使用されており、これらは自然石であるから、原告方法で用いられている骨材は「自然石」である。原告方法では、これらの自然石に顔料で着色しているが、顔料で着色してみてもそれらが人造石になるわけではなく、
「自然石」である点に変わりはない。仮に着色に意味があるとすれば、せいぜい自然石に顔料を加えた点で本件発明の利用ないし付加に該当するにすぎない。
原告は、本件明細書中の発明の詳細な説明を指摘して、「自然石」とは、粉砕以外の人工的な加工を排除した意味での自然石のことであると解すべきであると主張するが、原告指摘の本件明細書中の記載はいずれも本件発明の典型例についての説明にすぎず、自然石に加工を加えることを積極的に排除する趣旨ではないから、原告主張のような限定解釈は不当である。
イ仮に原告方法の「顔料で着色した着色砂」が本件発明の「自然石」の要件を満たさないとしても、次のとおり、均等の範囲に属する。
本件発明は、多頭式スプレーガンを用いて、別個の吹き付け口から骨材を含む塗料(混合材)を同時に吹き付けることにより自然石調の塗装壁面を形成することに特徴があるものである。したがって、次のとおり、仮に自然石をセラミックスに置き換えても均等の範囲に属し、まして自然石に顔料で着色したものが均等の範囲に属するのは明らかである。
(ア)混合材の成分が自然石かセラミックスかは、本件発明の本質的部分ではなく、顔料による着色の有無も同様である。
(イ)自然石をセラミックスに置き換えても、本件発明の目的たる「自然石と同様の美観を呈し、安価で簡単に製造できる建築用仕上材」を得ることを達成でき、同一の作用効果を奏する。また、顔料による着色があっても同様であり、現に原告方法による塗装面は、本件発明と同様の「天然石調」である。
(ウ)自然石をセラミックスに置き換えることは、本件明細書に記載されており、
また、別件特許出願に対する特許庁審判官の拒絶理由通知(甲6添付)からしても、当業者であれば、原告方法の実施の時点において容易に想到することができたものである。また、顔料による着色についても同様である。
(エ)多頭式スプレーガンを用いて、別個の吹き付け口から、骨材としてセラミックスを含む塗料(混合材)を同時に吹き付けることにより、自然石調の塗装壁面を形成する方法が、本件発明の特許出願時における公知技術と同一又はこれから容易に推考できたものではなく、本件発明の特許出願の手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの事情もない。そして、この点は顔料による着色についても同様である。
【原告の主張】ア本件発明の構成要件Aの「自然石」の意義を、本件明細書中の発明の詳細な説明を斟酌して解釈するに、@「課題を解決するための手段」の欄には、「本発明でいう骨材の製造法としては、自然石を粉砕するだけでよい。」とあり、A「実施例」の欄には、「自然石を粉砕して使用するため、人工的に顔料を加えたもの等に比較して、粒度が大きめの方がよい。これは、色が出にくいことと、自然石が持つ縞模様、点々模様等をなるべく有効に活かすためである。」とされ、B「発明の効果」の欄には、骨材として自然石を使用したことの効果として、焼成したセラミックスのような単一色の骨材を使用する場合に比べて、「粒子自体が自然の模様、色の微妙な差を有しており、出来上がったものは、より自然石に近いものとなる。」とあり、また、「自然石の色そのままであるため、色合い等は当然自然石と変わら」ないと記載されている。また、@の記載は、平成元年9月25日付けの手続補正書によって、それまで項分け記載がなされていなかった本件明細書の発明の詳細な説明の欄に項分けを施した際に、「課題を解決するための手段」の欄に項分けされたものである。
これらの本件明細書の記載及び補正の経過からすれば、本件発明の構成要件Aの「自然石」とは、塗布結果物としての建築物がより自然の石(例えば御影石)に近い外表面となるような、粉砕以外の人工的な加工を排除した意味での自然石のことであると解すべきである。
したがって、自然石を顔料で着色したものを骨材として用いる原告方法は、いずれも本件発明の構成要件Aの「自然石」の要件を満たさない。
イ被告は、均等の主張をするが、「自然石」を「顔料で着色した着色砂」に置換した場合には、アで指摘した本件発明の効果を奏することがないため、置換可能性の要件を充足しない上、裸の自然石以外のものは明細書で明確に除外されているから、意識的除外等に該当しないことという要件も充足しない。
2争点(1)イ(「1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意」)について【原告の主張】本件発明の構成要件Bは、混合材の異なる色のもの複数種を「1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意」することとされているが、ハ号方法では、
「3機のスプレーガンの各タンクにそれぞれ用意」するものであるから、ハ号方法は同構成要件を充足しない。
【被告の主張】別紙目録3の添付第1図によれば、混合材を塗布する際に吐出圧を付与するコンプレッサー8は、吹き付けノズル5A、5B、5Cを一括して制御しているはずである。したがって、ハ号方法のスプレーガンは、6A、6B、6Cの材料タンクが形式上分離されているとしても、「1機のスプレーガン」に該当するから、ハ号方法は構成要件Bを充足する。
3争点(1)ウ(「非混合多色状」)について【原告の主張】ア「非混合多色状」の語は、吹き付け塗装の分野において一般的に用いられている用語ではないので、本件明細書中の発明の詳細な説明及び図面を斟酌して解釈する必要があるところ、本件明細書中の「課題を解決するための手段」の欄に、「非混合多色状とは、それぞれ色の異なった混合材を、互いに色が混ざらないように、
塗布するということである。」との記載がある。しかし、この記載では、どの程度に色が混ざらない状態であれば本件発明の目的である自然石調の外観が達成されるのかについては定かでないので、本件明細書の第1図及び第2図に関する説明部分(本件公報5欄19〜35行目)をも参酌すると、本件発明による塗布結果物が自然石と同様の外観を呈するのは、各着色部がその原料骨材である黒色微粒、灰色微粒及び白色微粒そのままの色として一体に認識されるためであると解され、そのためには、各微粒同士が互いに混在せずに存在する必要があり、このことは第2図に描かれた状態とも合致する。
したがって、「非混合多色状」とは、各着色部がその原料骨材である微粒そのままの色として一体に認識されるように、その各微粒同士が混在して中間色の部分が発生しないように色分けされていることと解すべきである。
これに対して、原告方法では、別紙目録1の第3図、同目録2の第4図、同目録3の第2図にあるとおり、各微粒同士が混在して中間色の部分が塗布後の表面の至る所に発生しているので、構成要件Eの「非混合多色状」の要件を充足しない。
イ仮に被告が主張するとおり、各混合材の色が混ざった混合色部分が発生するものも「非混合多色状」であるとすれば、本件発明の先願発明(特願昭57ー1138号〔甲12〕)と同一発明となる。だからこそ、その点が問題となった本件発明の特許異議申立てに対する決定においても、「各混合材の吹き付け最小単位は自然石の微粒であるため、相互の微粒が混ざりあって色がそれらの中間色になることがなく…」等と認定され、前記先願発明との相違が認められて、異議申立てが排斥されたのである。
また、仮に各混合材の色が混ざった混合色部分が発生するものも「非混合多色状」であるとすれば、本件発明の特許出願前に訴外鈴鹿塗料株式会社が販売していた「ラフトンふぶき」「ラフトンさざなみ」という塗材(甲14)によって全部公知の発明となる。
【被告の主張】ア本件明細書の記載のうち、原告の指摘する部分に加え、「本発明塗布方法によれば、吹き付け単位が別個であるため混合したものとならず、比較的大きな同一色部分ができ、自然石とほとんど同様の外観を呈することができる。」(本件公報6欄19〜23行目)との記載を併せ考慮すると、「非混合」とは、「異なる色の混合材が、スプレーガンの別個の吹き付け口から同時に飛び出し、同色の複数の骨材同士が集合した状態で、外壁等に貼着すること」を意味し、「多色状」とは、「複数種の自然石の骨材色そのものがランダムに複数種存在し、その外観が自然石とほとんど同様な状態であること」と理解できる。
したがって、「非混合多色状」とは、「異なる色の混合材が、同色の複数の骨材同士が集合した状態で外壁等に貼着する結果、複数種の自然石の骨材色そのものの色がランダムに複数種存在し、その外観が自然石の外観と同様な状態」と解するのが相当であり、よりわかりやすくいえば、「その外観が自然石の外観と同様な状態」をいう。
原告方法によって得られた製品は、いすれも着色材料の輪郭が比較的明瞭に表れた部分が存在し、その外観が自然石の外観と同様な状態であるから、いずれも構成要件Eの「非混合多色状」の要件を充足する。
イ原告は、「非混合多色状」には各混合材の色が混ざった混合色部分が発生するものは含まれないと主張するが、本件発明で用いる塗材は、粘度は比較的高いものの、液体であるから、塗布面においては別個の吹き付け単位が多少は混合したり、
境界面が多少は混合する場合があることは当業者の常識である。このような混合部分が存在したとしても、本件発明は、従来技術と比較すると、「非混合多色状」の部分が相対的に多く存在するので、「その外観が自然石の外観と同様な状態」に観察されるのである。
また、原告は、甲12の先願発明及び甲14の公知技術を指摘するが、いずれも構成要件Bのみが示されているだけであって、「非混合多色状」を原告主張のように解さなければ本件発明が同先願発明及び公知技術と同一又は全部公知になるわけではない。また、甲14の公知技術による塗装面は、自然石調からはほど遠いものである。
4争点(2)(営業誹謗行為の有無)について【原告の主張】被告は、原告の取引先である訴外東急建設株式会社に「『特許』のお知らせとお願いについて」と題する文書(甲7)を送付したが、そこでは、原告の商品そのものは明記されていないものの、原告が実施しているような、異なる色の混合材を多頭式スプレーガンで同時に吹き付けて自然石調に塗装する方法は、塗装用骨材の材質を問わず、すべて本件特許権を侵害すると読み取れる内容が記載されており、そのため、前記東急建設株式会社は、原告方法が本件特許権を侵害するのではないかと疑念を抱き、何度も問い合わせをしてきた。
しかるに、争点(1)に関する原告の主張のとおり、原告方法は本件特許権を侵害しないから、前記文書の内容は虚偽であり、しかも原告の営業上の信用を害するものである。
したがって、被告による前記文書の送付は、不正競争防止法2条1項11号の不正競争行為に該当する。
【被告の主張】まず、甲7の文書は、特定の事業者を指して特許権侵害と呼んで営業上の信用に関わる事実を記載しているものではないから、原告の営業上の信用を害するものではない。
また、甲7の文書が原告の営業上の信用を害するものだとしても、争点(1)に関する被告の主張のとおり、原告方法は本件特許権を侵害しているから、その内容は虚偽ではない。
5争点(3)(本訴請求の損害額)について【原告の主張】被告の不正競争行為は、少なくとも過失に基づくものであるところ、原告は、被告による不正競争行為のために、原告方法が本件特許権を侵害するか否かの調査を弁理士に依頼し、動揺する取引先に説明に赴き、さらには本件訴訟を提起することも余儀なくされた。これらに要した費用に加え、原告の取引の減少、信用の毀損を併せた損害額は、合計500万円を下らない。
【被告の主張】原告の主張は争う。
6争点(4)(反訴請求の損害額)について【被告の主張】本件特許権の出願公告がなされた平成5年2月6日から本件反訴提起前の平成10年1月6日までの間に、原告方法の実施によって原告が得た売上高は、@イ号方法の実施による分については金9億8000万円を下らず、Aロ号方法の実施による分については同額を下らず、Bハ号方法の実施による分については14億7000万円(合計34億3000万円)を下らないところ、本件特許権の実施料率は6%が相当を下らないから、実施料相当損害金の額は、2億0580万円を下らない。
本件反訴では、そのうち金5000万円の請求をする。
【原告の主張】被告の主張は争う。
第4争点に対する当裁判所の判断1争点1(「自然石」の要件の充足・均等)について(1)本件発明は、「混合材の塗布方法」に関する発明であるが、その塗材となる「混合材」についての特許請求の範囲の記載は、「適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合材」とのみあり、骨材としては「適度に粉砕した自然石」との記載があるものの、これが自然石に対する人工的な着色を含む趣旨か否かは、その記載だけでは両様に解する余地がある。
(2)そこで、本件発明の構成要件Aの「自然石」の意義について、本件明細書の記載を参酌して検討する。
ア甲2によれば、本件明細書に次の記載があることが認められる。
(ア)「従来の技術」欄「建築物の外壁の仕上げとして、従来から、その美観と耐候性から、天然の石がよく用いられていた。…しかしながら、自然石は近時非常に少なく、その多くを輸入に頼っており、運搬費等から高価なものとなっている。…そこで、これに代わるものとして種々建築物の外壁、床面、柱、内壁等の仕上材が発明され、使用されている。建築物仕上材を外壁等に塗布する方法としては、従来からコテ塗り法、ローラー法、吹き付け法等がある。…これら種々の方法においても、やはり自然石のもつ美観が優れているため、それに近い外観を現出するように工夫されている。」(本件公報1欄22行目〜2欄23行目)(イ)「発明が解決しようとする課題」欄「しかしながら、上記従来の方法では、次のような欠点があった。…結局、従来の仕上材を用いる方法では、自然石の外観を現出することはできなかった。従って、建築業界等においては、永年自然石と同様の美観を呈し、安価で簡単に製造できる建築物仕上材が切望されていた。」(本件公報3欄1〜31行目)(ウ)「課題を解決するための手段」欄(a)「混合材は、自然石を適度の粒度分布を示すよう粉砕するか、種々粉砕したものを適度の粒度分布を示すよう混合するかしたものを骨材とし、これを合成樹脂に混入したものである。」(本件公報4欄5〜8行目)(b)「本発明でいう骨材の製造方法としては、自然石を粉砕するだけでよい。」(同14〜15行目)(c)「これが、本発明方法に使用する混合材の要旨であるが、これには、作業性をよくするための増粘剤、貯蔵時の容器の保護(防錆)のためのpH調整剤、消泡剤、等を加えてもよい。」(同16〜19行目)(エ)「実施例」欄実施例では、「粉砕した自然石」を骨材とする例が示された上で、「骨材の粒度分布であるが、その模様の表現によって自由に選択できるが、その強度や美観から本実施例では次のような粒度分布のものを採用した。…自然石を粉砕して使用するため、人工的に顔料を加えたもの等に比較して、粒度が大きめの方がよい。これは、色が出にくいことと、自然石が持つ縞模様、点々模様等をなるべく有効に活かすためである。」(本件公報5欄1〜6行目)(オ)「発明の効果」欄(a)「従来の予め1つのタンク内で複数色の材料を混合する方法では、吹き付け単位(吹付口から噴出された1かたまり)自体が混ざったものとなるが本発明塗布方法によれば、吹き付け単位が別個であるため混合したものとならず、比較的大きな同一色部分ができ、自然石とほとんど同様の外観を呈することができる。このことが、本発明の最も大きな特徴であり、これはタンク内で異色の材料を混合しないという方法でのみ成しえるものである。」(本件公報6欄16〜25行目)(b)「また、自然石と合成樹脂であるため、少し厚く塗布し、表面をグラインダー等で平に研磨することもできる。」(同6欄36〜38行目)(c)「また、発明者が既に発明し、特許出願もした顔料とともに焼成したセラミックスを骨材として、合成樹脂中に混合したものを、非混合多色状に塗布した建築物では、その構成部分はそれぞれ、単一の色であるが、本発明は自然石を使用しているため、その粒子自体が自然の模様、色の微妙な差を有しており、出来上がったものは、より自然石に近いものとなる。」(同6欄41行目〜7欄4行目)(d)「本発明に使用する仕上材の骨材として自然石を粉砕したものを使用しているため、耐候性が優れ、従来の自然石と比較しても遜色がない。また、その美観については、建築物の外観の非常に重要な要素を占めるものであるが、本発明においては、自然石の色そのままであるため、色合い等は当然自然石と変わらず、また逆に、その混合によっては自然石とはまったく異なった人工の模様等も表現できる。」(同7欄5〜13行目)イこれらの明細書の記載からすれば、本件発明は、自然石と同様の外観を有する塗布面を得るために、まず、異なる色の混合材を1機のスプレーガンの別個のタンクに用意し、それらを多頭式スプレーガンの別個の吹き付け口から同時に吹き付けることによって、非混合多色状の塗布面を得た点に第1の特色があるが(前記ア(オ)(a))、前記ア(ウ)(b)、(エ)及び(オ)(c)(d)の本件明細書の記載からすれば、本件発明は、それに加えて、混合材の骨材として粉砕した自然石を使用したため、塗布面の外観に自然石の色合いがそのまま表れることから、塗布面がより自然石らしくなるという点にも特色があり、両者が相俟って、自然石とほとんど同様の外観を有する塗布面を得ることができるものであると解するのが素直である。
(3)次に、本件発明の特許出願当時における本件技術分野の状況を踏まえて、上記明細書の記載を検討する。
ア後掲各証拠によれば、本件発明の特許出願当時、本件技術分野の状況は次のようなものであったと認められる。
(ア)自然石を使用せずに、仕上材や塗装方法を工夫することによって、自然石と同様の塗布面を得ることが建築業界等における技術的な課題とされていたことは、
本件明細書の記載(前記(2)ア(ア))のとおりである。
(イ)骨材をアクリルエマルジョン中に混合させた混合材を、スプレーガンを用いて塗布するいわゆる骨材吹きの塗装方法は、本件発明の特許出願当時から知られており、骨材吹きに使用する骨材としては、大理石粉、御影石粉、着色珪砂、有色陶磁器粉、セラミックス粉等が知られていた(弁論の全趣旨、甲11)。
(ウ)甲12(特開昭58ー119376号公開特許公報。出願:昭和57年1月6日、公開:昭和58年7月15日)には、特許請求の範囲の記載を「被塗装面に色調および/または透明度の異なる少なくとも2種の塗料を塗装するに際し、各塗料を吹き付け過程あるいは塗布した被塗装面において不均一状に混合させることを特徴とした釉薬調および/またはみかげ調塗装面の形成方法。」とする発明が記載されており、発明の詳細な説明の欄(甲12の3頁右上欄)には、無色透明、無色半透明、着色透明、着色半透明の塗料のうち、透明度や色調の異なる2種以上の塗料を多頭式スプレーガンを用いて塗布し、釉薬調又はみかげ調の風合いを有する塗装面を得ることが記載されている。
(エ)甲14は、鈴鹿塗料株式会社の発行に係る「ラフトンふぶき」、「ラフトンさざなみ」という商品名のエマルション系多彩仕上塗料についてのパンフレットであり、甲14、15によれば、同パンフレットは昭和48年3月の発行に係るものであると認められるところ、そこには、「二色の塗料を“ラフトン多彩用ガン”の双胴に別々に入れて同時吹付けいたしますと、吹付けされた二色の塗料は互いに交錯して塗付され、立体感を持ったソフトで優雅な多彩仕上げが得られます。」とあり、2色の異なる塗料を多頭式スプレーガンを使って塗装し、多彩仕上げの塗装面を得ることが記載されている。
(オ)その他、甲11(本件発明に対する特許異議申立てに対する決定の10頁)では、「白色セメント100重量部に対して粒度1oないし3oのトラバーチン細粒、80ないし400重量部及び千枝岩粒8ないし40重量部を混合した組成物に加水混合してスラリー状とすることを特徴とする建築用表面塗装用吹付材。」を特許請求の範囲とする発明(特公昭55ー36616号)に言及されている。もっとも、この発明は、いわゆる1頭式ガンを使用して塗装するものである。
(カ)また、甲11(12頁)では、「建築物の壁面に、アクリル樹脂エマルションと大理石粉、御影石粉、着色珪砂、有色陶磁器粉などからなる2色以上の骨材を混合してなる高粘度の吹付け材を吹付けて段差の大きい凹凸模様を形成し、乾燥後凸部の頂部を平坦にカットしてカット面に着色骨材断面を露出させ、次いで全面を透明なアクリル系ないしアクリル-ウレタン系樹脂でコーティングして仕上げることを特徴とする天然石模様を表現した装飾壁面仕上法。」を特許請求の範囲とする発明(特開昭57ー27177号)に言及されている。もっとも、この発明は、いわゆる1頭式ガンを使用して塗装するものである。
イ以上のとおり、本件発明の特許出願当時においては、自然石調の塗装面を得るべく種々の技術開発が行われており、その中には、塗装材に工夫をしたもの(前記ア(オ))、塗装方法に工夫をしたもの(前記ア(エ)(カ))、塗装材と塗装方法の両者に工夫をしたもの(前記ア(ウ))が存在したものと認められる。このような技術状況からすれば、本件発明は、第1に、塗装材として複数の色の異なる適度に粉砕された自然石を骨材とする混合材を使うという公知技術(ア(カ))と、塗装方法として多頭式スプレーガンを使って別個の吹き付け口から別個の色の塗料を吹き付けるという公知技術(ア(エ))を組み合わせて、非混合多色状の塗装面を得ることとした点に特色があるといえ、これは、前記の明細書の記載に基づく検討とも符合するところである。
しかしながら、本件発明の特許出願当時、混合材の骨材として、単なる自然石のほか、着色珪砂、有色陶磁器粉、セラミックス粉等種々のものが知られていたことは、前記ア(イ)のとおりであるところ、このような状況の中で、本件明細書において前記(2)ア(ウ)(b)、(エ)及び(オ)(c)(d)のような記載がなされ、特に(オ)(c)(d)の記載のように、自然石そのままの色が表面に表れる点でより自然石に近い塗面となることが明確に指摘されている。また、本件発明の特許出願当時、同じ塗装方法でも仕上材に工夫をすることによって、より自然石らしい塗面を得るべく技術開発の努力が行われていたことは、前記のとおりである。これらからすれば、本件発明は、第2に、混合材の骨材として粉砕した自然石を使用したため、塗布面の外観に自然石の色合いがそのまま表れることから、塗布面がより自然石らしくなるという点にも特色があり、これら2つの特色が相まって、自然石とほとんど同様の外観を有する塗布面を得ることができるものであると解される。
(4)以上によれば、本件発明の構成要件Aにおける「自然石」とは、自然石そのままの色が塗装面に表れるものをいい、顔料等で人工的に着色を加えたものは含まれないと解するのが相当である。
(5)これに対し、被告は、次のとおり主張するが、いずれも採用できない。
アまず被告は、本件発明の特許請求の範囲における「自然石」との語は意味の明確な語であって、着色された自然石もこれに含まれることは明白であると主張する。
しかし、「自然石」という語が、非人造石という意味で一般的には語義の明確な語であるとしても、本件発明におけるその性質としては「適度に粉砕された」とのみ記載があり、人工着色等の他の工程を加えられたものまで含まれるのか否か(逆にいえば、それらの工程を排除する趣旨か否か)は一義的には明らかでないというべきである。
イまた被告は、本件明細書における記載について、@前記(2)ア(ウ)(b)の記載は単に骨材の製造方法として自然石を粉砕するだけで足りることを述べているにすぎない上、同記載は本件発明の典型的な実施例に関する記載であり、他に着色等の工程を加えることについては何ら排除していないし、ア(ウ)(c)の記載はその証左である、A前記(2)ア(エ)の記載は実施例の記載にすぎない、B前記(2)ア(オ)(c)(d)の記載は、典型的な実施例についての記載であるから、いずれも構成要件Aの「自然石」を限定的に解釈する根拠にはならないと主張する。
しかし、前記(2)ア(ウ)(c)の記載は、作業性をよくするため、又は貯蔵時の容器を保護するための添加物について言及されているところ、自然石に着色をするのは、作業性をよくするため、又は貯蔵時の容器を保護するためとは認められないから、前記記載により、自然石に着色することが含まれるとは解されない。
また、前記(2)ア(オ)(c)(d)の記載は、本件明細書中の「発明の効果」の欄に記載されているところ、特許法施行規則(平成2年通商産業省令第41号による改正前のもの)24条、様式第16の備考14には、「『発明の詳細な説明』の欄には、特許法第36条第3項に規定するところに従い、次の要領で記載する。」とした上で、ハとして、「『発明の効果』には、当該発明によって生じた特有の効果をなるべく具体的に記載する。この場合において、当該記載事項の前には、原則として『発明の効果』の見出しを付す。」とされているから、特段の記載のない限り、
同欄に記載されている効果は、実施例の効果ではなく、当該発明自体の効果と解すべきである。確かに、明細書の「発明の効果」の欄において、実施例についての効果を記載すること自体は違法ではないが、前記のような特許法施行規則がある以上、明細書を読む第三者は「発明の効果」の欄に記載された内容を実施例の効果としてではなく、当該発明自体の効果として理解するのが通常であるから、そこに何らの特段の記載がないにもかかわらず、そこに記載された内容を実施例の効果にすぎないと解することは、第三者の予測可能性を著しく害するものであって、相当でないといわねばならない。そして、本件明細書中には、前記記載が実施例に関するものであることを示唆する特段の記載は認められない。したがって、前記記載は、本件発明自体の効果を記載したものと解するのが相当である。
そして、このように、前記(2)ア(オ)(c)(d)の記載が、本件発明自体の効果として記載されていると解される以上、前記(2)ア(ウ)(c)及び(エ)の記載をも併せ考慮すれば、構成要件Aの「自然石」の意義は、前記のとおり解するのが相当である。
(6)本件発明の構成要件Aにおける「自然石」の意義は上記のように解されるところ、原告方法における混合材の骨材は、別紙目録1ないし3のとおり、いずれも寒水砂や珪砂等の石を粉砕したものにチタンペーストその他の顔料をまぶして表面に顔料を焼結させて得た着色砂を使用しているから、原告方法は、いずれも本件発明の技術的範囲に属しない。
もっとも、原告方法において骨材に着色した寒水砂や珪砂を使用していても、塗布面を研磨した場合には表面には骨材原料である寒水砂や珪砂そのものの色が表れることも考えられる。しかし、別紙目録1ないし3によれば、原告方法には研磨過程がない。また、本件発明の特許請求の範囲の記載にも研磨の過程は記載されていないから、本件発明の効果は、少なくとも混合材を塗布しただけの状態での塗装面が前記のようなものであることを指すものと解するのが相当である。本件明細書には、前記(2)ア(オ)(b)の記載があるが、これは塗装面を研磨することもできるという趣旨を述べたにとどまり、混合材を塗布しただけの状態での塗装面が前記のようなものであることを否定するものとは解されない。したがって、研磨の過程を考慮して、原告方法が構成要件Aを充足するとすることもできない。
(7)次に被告は、構成要件Aの「自然石」の要件に関し、原告方法は、本件発明の均等方法であると主張する。
アいわゆる均等論が成立するためには、対象製品等に特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が存する場合であっても、その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであること(いわゆる置換可能性)が要件の1つとされている(最高裁判所平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁)。しかし、前記((2)イ)のとおり、本件発明の作用効果は、異なる色の混合材を1機のスプレーガンの別個のタンクに用意し、それらを多頭式スプレーガンの別個のタンクから同時に吹き付けることによって、非混合多色状の塗布面を得ることに加え、混合材の骨材として粉砕した自然石を使用したため、塗布面の外観に自然石の色合いがそのまま表れることから、塗布面がより自然石らしくなるという点にも特色があり、両者が相まって、自然石とほとんど同様の外観を有する塗布面を得ることができるものであると解されるから、被告方法における骨材は、顔料等によって寒水砂や珪砂に人工着色を施したものである以上、塗布面の外観に自然石の色合いがそのまま表れることはない。
したがって、原告方法が本件発明と同一の作用効果を奏するとはいえない。
この点について、被告は、本件発明も原告方法も共に天然石調の塗装面を得ることができる点で同一の作用効果を有すると主張するが、本件発明の作用効果は前記のとおり解するのが相当であり、それを単に「天然石調の塗装面が得られる」と一括りに把握することはできない。
イまた、被告は、特許庁の審判官も、本件発明の「自然石」を「セラミックス」に置換することは均等方法であるとしているから、まして着色自然石との間には均等が成立すると主張する。
この主張についての事実関係を見るに、甲6の添付資料、甲10及び弁論の全趣旨によれば、@被告は、本件発明の特許出願と同日の昭和58年5月11日、特許請求の範囲を「A顔料とともに焼成し、且つ適度に粉砕したセラミックスを、合成樹脂中に混入してなる混合材のB異なる色のもの複数種を1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意し、C該複数種の混合材を複数の吹き付け口を有する多頭式スプレーガンの別個の吹き付け口からD同時に吹き付けることによって、E非混合多色状に塗布するFことを特徴とする混合材の塗布方法。」(請求項1。なお欧文字の符号は当裁判所が付した。)とする発明を特許出願したこと(特願昭58ー83097、以下「別件発明」という。)、Aこの出願に対しては、拒絶査定を経た後、不服審判が申し立てられ、その最中の平成8年6月11日に、特許庁審判官から拒絶理由通知が出されたこと、Bこの拒絶理由通知の趣旨は、別件発明は本件発明と同一であるという点にあり、その理由としては、別件発明の構成要件Aの「顔料とともに焼成し、且つ適度に粉砕したセラミックス」と本件発明の構成要件Aの「適度に粉砕した自然石」とは、いずれも塗装用骨材として、別件発明の特許出願前に周知のものであり、両者は均等物と認められ、本件発明と別件発明との構成上の相違は単なる均等物の置換にすぎないとの点が挙げられたこと、Cその後、被告は別件発明の特許出願を取り下げたことが認められる。
しかしながら、出願当時の技術状況を踏まえて本件明細書の記載を見れば、本件発明の作用効果は前記のように解されるのであって、このような事実経過があるとしても、前記認定を左右するものではない。
ウしたがって、原告方法が本件発明の均等方法であるとも認められない。
2争点(1)イ(別紙目録3の方法と「1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意」の要件の充足)について)及びウ(「非混合多色状」)について(1)甲2によれば、本件明細書には次の記載があることが認められる。
ア「発明が解決しようとする課題」の欄(ア)「従来の吹き付け方法では、スプレーガンの唯一のタンクに仕上材(材料)を入れ、それを吹き付けていたので、混合材を種々の色に調整しても混合された一色になり、自然石のような色合にすることは難しい。」(本件公報3欄4〜8行目)(イ)「1色を吹き付けた後、別の色で再度その上に部分的に吹き付ける2度吹き等は、その部分については仕上材が重なり最後に塗布したものの色だけが表れるため、部分的にはほぼ1色になってしまう。」(本件公報3欄22〜26行目)イ「課題を解決するための手段」の欄「非混合多色状とは、それぞれ色の異なった混合材を、互いに色が混ざらないように、塗布するということである。」(本件公報4欄20〜22行目)ウ「実施例」の欄(ア)第1図(本件発明の方法によって混合材が塗布された建築物の表面の平面図)について、「特にこの例では、まったくランダムに塗布されている。このように、規則的でなくランダムに塗布しているため、その外観は、いわゆる黒御影とほとんど変わらず、非常に美しいものである。」(本件公報5欄25〜28行目)(イ)第2図(第1図の部分拡大図)について、「仕上材の黒色部1a、灰色部1b、白色部1cはそれぞれ黒色微粒2a、灰色微粒2b、白色微粒2cによって構成されている。しかし、人間の目には、おのおのの微粒はほとんど意識されず、着色部1a、1b、1cが1体として認識されるため、自然石と同様の外観を呈する。」(本件公報5欄29〜35行目)(ウ)「このようにすれば、タンク内で混合され一色になることはなく、多色のまま塗布されることとなる。」(本件公報5欄38〜40行目)(エ)第3図(本件発明に使用するスプレーガンの実施例を示す斜視図)について、「タンク3a、3b、3cにそれぞれ材料A4a、材料B4b、材料C4cを入れる。それらの材料は、圧縮エアーに同伴され噴射ノズル5a、5b、5cより噴射される。」(本件公報5欄41行目〜6欄1行目)(オ)「この場合、各々の噴射ノズルはほぼ一点に集中するよう、その角度を調整されている。しかし、実際にぴったり一点に集中すると、3色の材料が混合、もしくは積層され一色になるため、効果がうすれる。そこで、それぞれの噴射ノズルの焦点をわずかにずらして設置されている。しかし、現実的には、焦点がぴったり一致していても、人がスプレーガンを手によってスプレーするため、壁等との距離や角度がずれるため、あまり問題にはならない。」(本件公報6欄2〜11行目)エ「発明の効果」の欄「従来の予め1つのタンク内で複数色の材料を混合する方法では、吹き付け単位(吹付口から噴出された1かたまり)自体が混ざったものとなるが本発明塗布方法によれば、吹き付け単位が別個であるため混合したものとならず、比較的大きな同一色部分ができ、自然石とほとんど同様の外観を呈することができる。このことが、本発明の最も大きな特徴であり、これはタンク内で異色の材料を混合しないという方法でのみ成しえるものである。」(本件公報6欄16〜25行目)(2)上記明細書の各記載に基づいて、「非混合多色状」の意義について検討する。
アまず、「非混合」とは、これを文字どおりに見れば、「各塗料が混合しない」ということであるが(前記(1)イ参照)、前記(1)ア(ア)、ウ(イ)(ウ)及びエの各記載からすれば、これは、スプレーガン内で各塗料が混合されることがなく、吹き付け単位が別個のものとなること、また各色の塗料の吹き付け対象位置が厳密に一致することがないため、塗装面においても混合されることがないことから、塗装面において比較的大きな同一色部分ができることに基づくものと解される。
また、「多色状」とは、これを文字どおりに見れば、「単色状でなく、複数の色が併存すること」ということであるが、これは、前記のような混合が生じないことに基づくとともに、前記(1)ア(イ)及びウ(ア)の記載からすれば、各色の部分が同一平面上に自然石らしくランダムに表れることに基づくものであると解される。
以上よりすれば、「非混合多色状」とは、塗装面において各骨材色の比較的大きな同一部分ができ、それらの部分が同一平面状に自然石らしいランダムな模様を形成している状態と解するのが相当である。
イこの点について原告は、「非混合多色状」といえるためには、各骨材微粒同士が混在して中間色が生じている部分があってはならないと主張する。しかし、本件発明における混合材は、適度に粉砕した自然石を合成樹脂中に混合してなるものであり、相当程度の流動性を有するものであるから、たとえ各混合材を吹き付け単位を別にして吹き付けたとしても、塗装面において各骨材微粒の集合部分の境に若干の混合が生じることがあるのは明らかである。この趣旨は、本件明細書においても、「比較的大きな」同一色部分が形成されるとして示唆されているところであり(前記(1)エ)、このような若干の混合が生じても、前記のような非混合多色状の原理及び意義に反するわけではない。
また原告は、その主張のように解しなければ、本件発明は先願発明(甲12)や公知技術(甲14)と同一となると主張する。しかし、甲12の先願発明は前記1(3)ア(ウ)のような発明であるところ、そこには、複数色の塗料を多頭式スプレーガンを使って塗布することについては記載があっても、適度に粉砕した自然石を骨材とする混合材を塗料として使用する点については記載がない(原告は、同文献には顔料として自然石を使用する例が記載されていると主張するが、混合材の骨材として自然石を使用することとはその技術的意義を異にするというべきである。)。また、
甲14についても同様である(前記1(3)ア(エ)参照)。
したがって、原告の主張は採用できない。
ウそして、甲17、検乙1ないし3によれば、原告方法を使用した塗装面には、細かく見れば所々に各色が混合した部分があるものの、その程度からして、なお「非混合多色状」というに妨げないものであると認められる。
(3)次に、前記明細書の記載に基づいて、「(複数種の混合材を)1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意し」の意義について検討するに、(2)での「非混合多色状」についての検討を踏まえれば、複数種の混合材を、吹き付け前に混合することなく、異なる吹き付け口から同時に吹き付けることができる状態としていれば、右要件を充足すると解するのが相当である。そして、別紙目録3の第1図によれば、同目録の方法に使用する装置は、吹き付けノズル5A、5B、5Cが1つの吹き付けヘッドに連結され、コンプレッサー8によって塗料を同時に吹き付ける構造となっているから、全体として1機のスプレーガンというに妨げなく、その別個のタンク6A、6B、6Cに異なる色の混合材を別個に充填するのであるから、
本要件を充足するものと認められる。
3以上よりすれば、原告方法は、本件発明の構成要件Aの「自然石」の要件を充足せず、均等でもないから、被告の反訴請求は理由がない。
そして、原告の本訴請求のうち、本件特許権に基づく原告方法の実施差止請求権の不存在を求める部分(本訴請求の趣旨第1項)は、本件特許権に基づく原告方法の差止めを求める反訴請求の趣旨1ないし3と同一の訴訟物に関するものであり、裁判所が反訴請求について本案判決をすることにより確認の利益を失うことになる。
4争点(2)(営業誹謗行為の成否)及び争点(3)(損害額)について(1)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア被告は、原告に対し、平成8年4月8日、原告のロ号方法に係る商品が本件特許権(出願公告中のため厳密には仮保護の権利)を侵害するとして、その販売活動を停止するよう求める「通知書」を発した(甲3)。
イ被告は、同年12月20日、東急建設株式会社社長【E】宛に、「『特許』のお知らせとお願いについて」と題する書面を送付した(甲7)。そこには、「弊社は自然石調吹付け人造石(主として建築物外壁)に関する”塗布方法”の発明によって、別紙添付の通り特許を取得し、その権利を所有するに至りました。ところで、建築現場にあっては、弊社の警告にも拘わらず従来より侵害行為が頻発している状況にあります。ご高承の通り、登録特許の所有権者への許諾なしに、無断での特許工法の使用、またはその行為を容認することは、故意と否とに拘わらず特許権を侵害するものとなります。弊社は、顧客へ多大なご迷惑が及ぶことを顧みない斯かる行為に対して、特許権が正式に確立された今日以降は、企業防衛の立場からも法的手段に訴え、断固たる措置で臨む所存です。元請各社には、日頃何かとご指導ご支援を頂いておりますが、なにとぞ本主旨につき、ご理解を賜り、ご協力のほど衷心よりお願い申し上げます。」と記載されており、資料として、特許審決通達書の一部、本件公報全文及び「特許内容の要約」が添付されていた。
そして、上記「特許内容の要約」の資料には、「特許の内容(要約)」として、
「異なる色の混合材を(混合材…塗装用骨材を合成樹脂中に混入してなる材料)」「多頭式スプレーガンを用いて」「同時に非混合多色状に吹付ける」「塗布方法の発明」と説明されていた。
ウ東急建設株式会社は原告の取引先であったところ、同社は原告に対して、甲7の文書に基づき、原告方法が本件特許権を侵害しているのではないかとの問い合わせをした(弁論の全趣旨)。また、甲7の内容及び書式からすれば、甲7の文書は、他の建築元請会社等にも配布されたものと推認される。
エ被告は、アの警告書に対する返答がなかったことから、原告に対し、平成9年3月25日、再度同趣旨の警告書を送付した(甲4)。
オ乙6(月刊「建築仕上技術」平成5年4月号)には、「石材調仕上塗材データシート商品一覧」として、原告の「ダイヤアールストーン」ほか7社のデータシートが掲載されている。また、乙7(「建材レポート」平成6年2月号)の10頁には、石材調シート内外装仕上塗装材の各社別販売実績推定として、原告の「クリスタルアート」のほか5社の製品が掲載されている。
(2)(1)で認定した事実によれば、確かに甲7には原告及び別紙各目録記載の原告の商品の名前が直接に明記されているわけではない。しかし、被告は原告に対して甲7の配布以前から警告書を送付しており、甲7の文書にも、「建築現場にあっては、弊社の警告にも拘わらず従来より侵害行為が頻発している状況にあります」とあることから、被告の意図として、原告又は別紙各目録の原告の商品が甲7による警告の標的として含まれていたことは明らかである。また、前記(1)ウないしオで認定したところからすれば、取引関係にある第三者から見ても、甲7の文書は、原告又は別紙目録の原告の商品のことを指していると認識させる内容であったというべきであり、また、同時に原告の営業上の信用を害するものであったと認められる。
また、甲7の文書に添付された特許内容を要約した資料によれば、塗装用骨材を合成樹脂中に混入してなる混合材を用いたものはすべて本件特許権を侵害するとの趣旨を告知するものとなっており、原告方法に関する限り、骨材の内容を問わないものとなっている点でこれが虚偽であることについては争点1(1)について判示した内容から認められる。もっとも、甲7の文書には、本件公報の写しや特許審決通達書の一部も添付されているが、通常の取引人にとってはそれらの文書よりも、添付の特許内容の要約書によって内容を理解するものであるから、要約書の内容が虚偽であれば、甲7の文書全体が虚偽の事実を告知するものであるというべきである。
以上よりすれば、甲7の文書の送付は、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し又は流布したものとして、不正競争防止法2条1項11号にいう不正競争行為に該当するというべきである。
そして、本件訴訟における被告の主張内容からすれば、被告は今後も同様の行為を行うおそれがあるものと認められる。
(3)以上よりすれば、原告の本訴請求のうち不正競争防止法に基づく差止請求(本訴請求の趣旨第2項)は理由がある。
(4)次に、損害賠償請求(本訴請求の趣旨第3項)について検討するに、前記1ないし3で認定したとおり、原告方法が本件発明の技術的範囲に属さず、本件特許権を侵害するものではないと判断されるのは、原告方法が「着色珪砂」を使用している点において、本件発明の構成要件中の「自然石」の要件を充足しないということにあり、その余の原告方法の構成は本件発明と異なるところがないのであり、この「着色珪砂」と「自然石」との相違については、前記1(7)イで認定した事実関係に照らすと、被告において、両者は均等であり、原告方法が本件発明に技術的範囲に属すると判断するのも、当業者として無理からぬところがあるというべきである。
そうすると、被告が甲7の通知を行うにつき過失があったとはいい難く、他に被告の過失を認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告の本訴請求のうち不正競争防止法に基づく損害賠償請求は理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 安永武央