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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成5ワ14631特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 公知技術 /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 312号 特許権侵害差止等請求事件
原告 ニッタ株式会社
同代表者代表取締役 【A】
同訴訟代理人弁護士 深井潔
同補佐人弁理士 辻本一義
同 吉田哲
被告 北辰工業株式会社
同代表者代表取締役 【B】
同訴訟代理人弁護士 野村晋右
同 高橋利昌
同補佐人弁理士 栗原浩之
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/01/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙原告主張物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、金3000万円及びこれに対する平成12年1月22日から支払済みまで年5分の割合のよる金員を支払え。
事案の概要
本件は、「紙葉類搬送用無端ベルト」の特許発明の特許権者である原告が被告に対し、被告が製造、販売する無端ベルトは同発明の技術的範囲に属すると主張して、その差止め等と損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告及び被告は、いずれも、紙葉類搬送用のベルト等の製造・販売を業とする株式会社である。
(2) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の特許発明を「本件発明」という。)を有している。
ア 発明の名称 紙葉類搬送用無端ベルト イ 登録番号 第2651910号 ウ 出 願 日 昭和62年3月27日(特願昭62-75291号) エ 公 開 日 昭和63年10月7日(特開昭63-242848号) オ 登 録 日 平成9年5月23日 カ 特許請求の範囲は、別添特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおり。
(3) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。
A 紙葉類をベルト間の挟み力により搬送するベルトにおいて、
B ベルトの心体に編物を使用し、
C 心体の表裏に被覆層を形成し、被覆層の搬送面となる側に上記編物の凹凸を維持する程度に約0.03mm以下の薄いゴム層を形成し、
D 前記編物の厚みは繊維径の約2倍とすると共に、
E 前記編物の伸長率は約100〜300%としたこと F を特徴とする紙葉類搬送用無端ベルト。
(4) 被告は、心体に編物を使用し、その搬送面上に周長方向に伸びた波型形状の凸部を金型により形成した紙葉類搬送用無端ベルト(以下「被告製品」という。)を製造、販売しており、被告製品は、構成要件A、B、Fを充足する。
被告製品の構成について、原告は別紙原告主張物件目録記載のとおりであると主張し、被告は、原告の主張のうち、ベルトの搬送面の幅方向に峰30が存在すること、搬送面に形成されるゴム層が心体の凹凸を維持する程度の約0.01mmの薄いものであること、編物の厚みTが繊維径の約2倍であること、伸長率が約250%であることについて争っている。
2 争点 (1) 被告製品は構成要件Cを備えているか。
(2) 被告製品は構成要件Dを備えているか。
(3) 被告製品は構成要件Eを備えているか。
(4) 損害の発生及び額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成要件Cの充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 本件発明は、搬送面の凹凸の製法に特徴があるわけではないから、どのような製法によりベルトの搬送面に凹凸を付けたとしても、その凹凸が心体の編物の凹凸を維持する程度のものであれば、構成要件Cを充足することになる。
また、構成要件Cにおいて、ゴム層の厚みに「約0.03mm以下」との制限が設けられているのは、搬送面に編物の凹凸を維持させ、それによって搬送状態を安定化させるためであるから、ベルトの搬送面全体がほぼこの厚み以下のゴム層であることを意味し、一部においてこの厚みを超える部分があったとしても、それをもって同構成要件の充足性が否定されるものではない。
(2) 被告製品において、搬送面上の周長方向に伸びた波型形状の凸部10は金型により形成されたものであることは認めるが、一方、幅方向には筋状に盛り上がった峰30(原告主張物件目録の第2図参照)が存在し、その位置は心体である編物の緯糸が連なった部分に一致する。したがって、峰30は編物の緯糸部によって形成されたものである。また、紙葉類搬送用無端ベルトは、3〜15%程度引き伸ばされて使用されるが、峰30はその引き伸ばされた状態においてより明確に現れる。
そして、峰30の部分(心体の編物の緯糸が連なった部分)におけるゴム層の厚みは約0.03mm以下である。
(3) また、被告製品は、約20時間の走行試験を経ると、金型で形成された波型形状の凸部10は摩耗により消滅してしまい、搬送面には心体である編物の繊維による凹凸が現れる。同編物はゴムを含浸しているから、編物の繊維が現れた状態においても、繊維の周りには約0.03mm以下の薄いゴム層が形成されている。
(4) したがって、被告製品は、走行試験を経る前、及び走行試験を経た後のいずれの状態においても、搬送面に編物の凹凸を維持する程度の約0.03mm以下の薄いゴム層が形成されているから、構成要件Cを充足する。
〔被告の主張〕 (1) 構成要件Cの解釈について ア 本件発明の先行技術が記載された刊行物として、@実開昭58-144511号公開実用新案公報(考案の名称:「複写機用原稿自動送り用伸縮性ベルト」、乙1)、A実開昭56-934号公開実用新案公報(考案の名称:「無端Vベルト」、乙2)、B特開昭57-81041号公開特許公報(発明の名称:「紙葉類搬送用無端ベルト」、乙3)がある。特にBの先行技術は、心体に織布を用い、その心体に0.08mm以下の薄いゴム層が形成され、搬送面の凹凸が織布心体の緯糸及び経糸の織目により形成されたものであり、これと比較すると、本件発明は、
心体に織布ではなく編物を用いている点、その心体に約0.03mm以下の薄いゴム層が形成され、搬送面の凹凸が編物の凹凸により緩やかに形成されている点以外は、Bの先行技術と同一である。
イ 原告は、本件発明の特許出願の経過において、上記先行技術の存在を前提にした拒絶理由通知及び拒絶査定を受け、本件発明が、織物による凹凸ではなく、編物の凹凸により搬送面に凹凸を形成したものであるという違いを強調し、明細書の一部をその趣旨に沿って補正(本件公報5欄27〜38行)して、ようやく特許登録が認められたものである。
ウ さらに、本件公報の実施例を示した第3図、第4図においても、編物の表面に約0.03mm以下の薄い被覆層を形成することにより、被覆層の表面に編物の凹凸による凹凸が維持され形成されていることが示されている。
エ したがって、仮に本件発明に特許性があると仮定しても、構成要件Cは、搬送面上に編物の凹凸が維持され、かかる編物の凹凸により搬送面が形成されていることを指すことが明らかである。
(2) 被告製品の搬送面上の凹凸は、放電加工により金型に形成した畝状の溝模様を無端ベルトの被覆層の搬送面となるゴム層表面により転写することにより形成された周長方向に伸びた波型形状の凸部によるものであって、心体の編物の凹凸とは関係がない。
そして、この方法により搬送面上の凹凸を形成することで、高いグリップ力が得られ、かつ紙紛や埃が付着してもグリップ力が維持されて、紙葉類を長期にわたって安定して搬送することができるという独自の作用・効果を有するものである。
また、搬送面側のゴム層の厚さは、約0.01mmの部分もあるが、0.03mmを超える部分もある。
したがって、被告製品は構成要件Cを充足しない。
(3) 原告の上記(2)の主張は否認する。
被告製品の搬送面には、原告が主張するような峰30は存在しない。
なお、心体の編物面には峰30に相当する峰形状は存在しないから、仮に被告製品に峰30が存在するとしても、それは、編物の凹凸を維持する程度の薄いゴム層を形成したことによるものではない。
また、被告製品の高いグリップ力は、通常の使用時の引き延ばされた状態においても、搬送面の周長方向に伸びた波型形状の凸部から生じているものであり、原告が存在すると主張する峰30から生じるものではない。
(4) 原告の上記(3)の主張は否認する。
被告製品は、原告主張のような走行試験や実際の使用状態で容易に摩耗するものではない。
仮に被告製品の搬送面が摩耗するとしても、原告が存在すると主張する峰30がより早い段階で消失するであろうし、摩耗により編物の繊維が現れた状態は、
編物の表面に薄いゴム層が形成された状態でないことは明らかである。
2 争点(2)(構成要件Dの充足性)について 〔原告の主張〕 構成要件Dにおいて、「編物の厚みは繊維径の約2倍とする」としているのは、心体に用いる編物の厚みを薄くすることにより、周長差を小さくしてベルト相互間のたわみの発生や無用な摩耗を防止できるという効果を奏するためである。したがって、同構成要件における「編物の厚み」とは、ベルトの心体として用いられている状態の編物の厚みをいう。
被告製品の心体として用いられている状態の編物は、繊維径dの約2倍の厚さを有するから、構成要件Dを充足する。
被告は、少なくとも全体として編物の厚みは繊維径の約2倍となっているわけではないと主張するが、本件発明における編物の厚みとは、編み糸が重なっている部分の厚みを意味するものであり、被告の同反論は技術的意義を誤ったものである。
〔被告の主張〕 原材料としての状態では、被告製品の編物の厚さを自然な状態で計測すると約0.6mmであり、繊維径約0.15mmの4倍である。
製造後の状態では、編物の厚さは約0.1mmであり、つぶれて伸びた繊維径約0.1mmの等倍であって、ごく部分的には約2倍の部分もあるかも知れないが、少なくとも全体として、「編物の厚みは繊維径の約2倍」となっているわけではない。
3 争点(3)(構成要件Eの充足性)について 〔原告の主張〕 構成要件Eの「伸長率」とは、編物の切断伸び率(切断されるときの伸び率)のことを意味し、被告製品の切断伸び率は約250%であるから、被告製品は構成要件Eを充足する。
〔被告の主張〕 原告の主張は争う。
「伸長率」は様々な意味にとり得るものであり、構成要件Eにいう「伸長率」が原告が述べる意味であると特定する根拠はない。仮に編物の伸長特性として「切断伸び率」が当業者によく知られているのであれば、構成要件Eにおいてもかかる用語を用いたはずであり、「切断」の語句も付されていない「伸長率」はむしろ別の意味と考えるべきである。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 被告は、平成10年6月以降、被告製品を製造販売し、その総売上高は3億円以上であり、少なくともその10%の3000万円の利益を得ているから、原告が、被告の被告製品の製造・販売行為により被った損害は、3000万円と推定される。
〔被告の主張〕 原告の主張事実は否認する。
争点に対する判断
1 争点(1)について (1) 本件発明の構成要件Cは、「(ベルトの)心体の表面に被覆層を形成し、
被覆層の搬送面となる側に上記編物の凹凸を維持する程度に約0.03o以下の薄いゴム層を形成する」というものである。
(2) 上記の「被覆層の搬送面となる側に編物の凹凸を維持する程度に……ゴム層を形成する」ことの意義について検討するに、本件明細書の発明の詳細な説明には次のような内容の記載があることが認められる(甲1)。
ア 本件発明は、紙幣等の紙葉類をベルト間の挟み力により多方向に搬送する無端ベルトに関するものであるが、この種の無端ベルトでは、紙葉類を挟むベルト間の周長差及び周速差が生じ、ベルトにたるみができて、ベルトの走行が不安定になるなどの不都合が生じていた。このような不都合を解消するために、従来技術として、織布心体に被覆層を形成した無端ベルトにおいて、被覆層の搬送面となる側を薄く形成して織布の凹凸が表われるようにしたものが開発されており、この無端ベルトは、搬送面に凹凸を形成することによって動摩擦係数を減少させて周速差の発生を防止ないし抑制することと、搬送面となる側の被覆層を薄くして巻き付け長さの差を小さくすることによって周長差の発生を防止ないし抑制することを意図したものであった。
イ 上記のような従来技術においては、強度上あるいは心体保護上ベルトに必須である被覆層が存在する以上は、被覆層の改良によって周長差、周速差を解消するには限界があるので、本件発明は、心体を改良することによって、周長差、周速差の発生を防止ないし抑制しようとするものである。
ウ 本件発明は、織布心体のベルトに比べて伸縮性の大きい編物を心体に用いることによりベルト間の張力を小さくして、張力によって生じる周長差の発生を防止ないし抑制するとともに(ただし、乙1によれば、適正な伸縮度を得るために、紙葉類搬送用無端ベルトの心体に編物を用いること自体は、本件発明の出願前の公知技術として存在していたことが認められる。)、編物を用いたことにより、
織布を心体に使用した前記従来技術に比して薄くできるので、被覆層の搬送面となる側のゴム層の厚さを約0.03o以下に薄く形成したことと合わせて、心体の中心から搬送面までの距離を短縮することができ、その結果、周長差を小さくすることができる。
エ さらに、前記従来技術では、「ゴム層の搬送面となる側の凹凸は織布心体の緯糸及び経糸の編目によって形成されており、編目によって形成された搬送面の凹凸は緯糸の小きざみな起伏に維持されているので、挟み込み搬送時には、摩擦係数の高い凸部と摩擦係数の低い凹部とが搬送面相互間においてランダムに接することとなるため、動摩擦係数が小きざみに変動することとなり、搬送状態が不安定になる。」(本件公報5欄28〜34行)という欠点があったが、本件発明は、「編物心体のベルトは搬送面の凹凸が緩やかであるので、搬送面は紙葉類に対して比較的に連続的に接することとなり、搬送中の動摩擦係数が安定する。」(同5欄35〜38行) (3) 本件明細書の上記のような記載からすれば、本件発明は、従来技術として摘示された、織布心体に被覆層を形成した無端ベルトでは、ゴム層の搬送面となる側の凹凸が織布の織目によって形成され、小きざみな起伏が維持されているので、
動摩擦係数が小きざみに変動し、搬送状態が不安定になるという問題点があったことから、このような問題点を解決するために、心体に編物を用い、その編物の編組織による緩やかな凹凸が被覆層(ゴム層)の搬送面となる側に維持され表われるように形成することにより、搬送面が紙葉類に対して比較的連続的に接し、無端ベルトの搬送面の動摩擦係数を安定させるという効果を得たことに本質的な特徴の一つがあるというべきである。
上記事実によれば、構成要件Cにいう「被覆層の搬送面となる側に編物の凹凸を維持する程度に……ゴム層を形成する」ことの意義は、被覆層の搬送面となる側に形成される凹凸が、心体の編物の編組織の凹凸によるもの(少なくとも関連を有するもの)であり、編物の凹凸形状と同様の緩やかな凹凸形状が被覆層表面に表われることを意味し、しかも、この被覆層の凹凸形状は、搬送面の動摩擦係数の安定化に効果的な役割を果たす程度のものであることを要すると解するのが相当である。
(4) 前記第2、1、(4)記載のとおり、被告製品の搬送面には、金型により形成された周長方向に伸びた波型形状の凸部が存在する(この事実は、当事者間に争いがない。)。
原告は、被告製品には幅方向に筋状に盛り上がった峰30が存在すると主張するが、被告製品の搬送面の拡大写真(甲9、13)によれば、被告製品の幅方向に極めてわずかな筋状の凸部(原告のいう峰30)が存在し、この凸部の高さ等の具体的な状況は判別できないものの、周長方向に伸びた波型形状の凸部に比してその高さはかなり小さいものであること、被告製品を伸び率3%、5%、7%、10%、15%に伸ばすと、同凸部は伸び率が大きくなるにつれて多少顕著になるものの極めてわずかな存在であることに変わりはないこと、同凸部以外の搬送面の形状は金型により形成された波型形状の凸部及び凹部により形成されていること、同凸部が心体の編物の凸部に対応する位置に存するとしても、同編物の凸部のわずかな部分が反映されているのみで同編物のほとんどの凹凸形状は搬送面に反映されていないことが認められる。
そうすると、被告製品の搬送面の凹凸は、金型により形成された周長方向に伸びた波型形状の凸部によりそのほとんどが形成されており、紙葉類との動摩擦係数を決定する搬送面の形状的因子は、そのほとんどが搬送面の同波型形状の凸部により決定され、心体の編物の凸部が反映した原告の主張する峰30の部分は、動摩擦係数の安定化に何ら効果的な役割を果たしていないものというべきである。
したがって、被告製品の搬送面の峰30の存在をもって、構成要件Cの編物の凹凸を維持する程度に薄いゴム層を形成するとの要件を充足しているとの原告の主張は理由がない。
(5) また、原告は、被告製品は、約20時間の走行試験を経ると、金型で形成された波型形状の凸部は摩耗してしまい、心体である編物の繊維による凹凸が現れ、同編物はゴムを含浸しているから、編物の繊維が現れた状態においても、繊維の周りには約0.03mm以下の薄いゴム層が形成されている旨主張する。
そして、甲14(実験報告書)には、被告製品を、ベルト周速度1.8m/sで27秒走行し、5秒停止するというサイクルを繰り返すという走行実験を行った結果、
5〜18時間の走行実験によりベルト中央付近における波型形状の凸部は不鮮明となり、約20時間の走行実験により、ベルト中央付近では、その表面ゴム層の摩耗が進行し、縦方向及び横方向の糸の編み組織が搬送面にかなり鮮明に現れるとの実験結果が記載されていることが認められる。
被告製品の実際の使用状況、あるいは使用前のならし運転が、上記実験報告書記載の実験で行われた条件と同一ないし近似するものであることを認めるに足りる証拠はないが、仮に、被告製品の搬送面の状況が、約20時間の上記走行実験の後の状態、すなわち、ベルト中央付近では、その表面ゴム層の摩耗が進行し、縦方向及び横方向の糸の編み組織が搬送面にかなり鮮明に現れた状態であったとしても、そうした状態は、心体の編物の凸部において繊維が露出した状態であり、同凸部においては薄いゴム層が何ら存在しない状態であることが推認できる。
この点について、原告は、心体の編物はゴムを含浸しているから、編物の繊維が現れた状態においても、繊維の周りには約0.03mm以下の薄いゴム層が形成されている旨主張するが、甲14によれば、約20時間の走行実験の後のベルトは、
心体の編物の繊維が露出した状態であり、もはや被覆層の搬送面となる側に薄いゴム層が形成されているとは認められないし、その他、原告の同主張を認めるに足りる証拠はない。
したがって、走行試験後の摩耗した状態をもって、構成要件Cの編物の凹凸を維持する程度に薄いゴム層を形成するとの要件を充足しているとの原告の主張は理由がない。
2 以上によれば、被告製品は、構成要件Cを充足しないから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属さないものというべきである。
よって、 原告の本訴請求は理由がない。
追加
別紙原告主張物件目録1名称紙葉類搬送用無端ベルト2構成このベルトは、紙葉類をベルト間の挟み力により搬送するものであり、その心体11は、編物である。前記心体11の表裏には被覆層が形成されており、この被覆層の搬送面となる側には、周長方向に伸びた波型形状の凸部10と、幅方向に峰30を写真(第2図)のような形態で有している。
そして、搬送面には、心体の凹凸を維持する程度の約0.01oの薄いゴム層12が形成されている。前記編物の厚みTは繊維径dの約2倍であり、かつ、その伸長率は約250%である。
3図面番号及び図面の説明(1)第1図は、被告製品の全体図である。第1図におけるベルトの外側が紙葉の搬送面である。
(2)第2図は、前記無端ベルトの搬送面の拡大写真である。
(3)第3図は、ベルト幅方向の断面拡大写真である。
(4)第4図は、心体である編物の縦の糸と横の糸が重なった部分の断面拡大図である。
第1図・第2図第3図第4図
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝