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関連審決 審判1999-35006
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11行ケ398特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成12行ケ310審決取消請求事件 判例 特許
平成12行ケ91取消決定取消請求事件 判例 特許
平成16行ケ165特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成11行ケ142審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  同一の発明 /  技術常識 /  実質的に同一 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の理由 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 53号 審決取消請求事件
原告 豊田合成株式会社
訴訟代理人弁護士 大場正成、尾崎英男、嶋末和秀、黒田健二、弁理士 平田忠 雄、松原等
被告 日亜化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士 品川澄雄、山上和則、吉利靖雄、野上邦五郎、杉本進介、冨 永博之、弁理士 豊栖康弘、青山葆、河宮治、石井久夫、北原康廣
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/10/02
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35006号事件について平成11年12月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」とする特許第2778405号発明(平成5年3月12日特許出願、平成10年5月8日設定登録。本件発明)の特許権者であるが、原告は、平成10年12月29日、本件発明について無効審判請求をし、平成11年審判35006号事件として審理されたが、平成11年12月6日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は平成12年1月27日原告に送達された。
2 本件発明の要旨【請求項1】 a:p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、
b:Mgがドープされたp型Ga1-xAl xN(但し、xは0 c:Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項2】 d:前記p型Ga1-xAl xNクラッド層の膜厚は10オングストローム以上、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1にの窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項3】 e:前記p型GaNコンタクト層の膜厚は10 オングストローム以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求頃1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項4】 f:n型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に、
g:n型Ga1-yAl yNクラッド層(但し、yは0 h:n型InzGa1-zN活性層(但し、zは0 i:そのn型InzGa 1-zN活性層の上に、前記p型Ga 1-xAl xNクラッド層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
(便宜、符号a〜iを付した。) 3 審決の理由の要点 (1) 無効審判請求の理由の概要 原告(請求人)は、証拠として審判甲第1〜11号証を提出し、本件発明1〜4は、特許法第36条第4〜6項の規定に違反して、特許法第29条第1項第3号に該当して、特許法第29条第2項又は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから、それらの特許は無効にされるべき旨主張している。
(2) 原告が提出した審判甲各号証について (2)-1 審判甲第1号証(特開平4-242985号公報)には、次の記載@〜Gがある。
@ 「禁制帯幅の比較的小さい、窒化ガリウム系化合物半導体((Al x'Ga 1-x') y'In 1-y'N;0≦x'≦1,0≦y'≦1,但しx'=y'=1は含まない)から成る層を、相互に禁制帯幅及び混晶組成が同一又は異なり、前記層に対して禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa 1-x)yIn 1-yN;0≦x≦1,0≦y≦1,x≠x'及び/又はy≠y')から成るp型導電性を示す層とn型導電性を示す層との2つの層で、両側から挟んだ構造の接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。」(第2頁左欄第24〜32行) A 「まず、同一組成同士の結晶によるpn接合構造を作製する場合につき述べる。・・・サファイア基板表面にAlN薄膜緩衝層を形成する。・・・n型(AlxGa 1-x)yIn 1-yN単結晶の成長を行う。・・・マグネシウム(Mg)…を含む化合物を成長炉に導入してアクセプタ不純物をドープした(AlxGa1-x)yIn 1-yN単結晶(p層)の成長を行う。・・・アクセプタドープ(AlxGa 1-x)yIn 1-yN層の電子線照射処理を行う。・・・金属を接触させ、p層に対するオーム性電極を形成する。」(第3頁左欄第44行〜右欄第39行) B 「単一のへテロ接合を形成する場合、同一混晶組成の結晶によるpn接合に加え、更にn層側に禁制帯幅が大きいn型の結晶を接合して少数キャリアである正孔の拡散阻止層とする。(AlxGa 1-x)yIn 1-yN系単結晶の禁制帯幅付近の発光はn層で特に強いため、活性層はn型単結晶を用いる必要がある。」(第4頁左欄第7〜13行) C 「二つのへテロ接合を形成する場合、禁制帯幅の比較的小さいn型の結晶の両側に各々禁制帯幅の大きいn型及びp型の結晶を接合し禁制帯幅の小さいn型の結晶を挟む構造とする。・・・(AlxGa1-x)yIn1-yN系単結晶の禁制帯幅付近での光の屈折率は禁制帯幅が小さいほど大きいため、他の(AlxGa 1-x)yIn1- yAs系単結晶や(Al xGa 1-x)yIn 1-yP系単結晶による半導体レーザダイオードと同様、禁制帯幅の大きい結晶で挟むへテロ構造は光の閉じ込め効果にも効果がある。」(第4頁左欄第20〜34行) D 「ヘテロ接合を利用する場合も、同一組成の結晶によるpn接合の場合と同様に、オーム性電極組成(「形成」の誤記と認められる。)を容易にするため電極と接触する部分付近のキャリア濃度は高濃度にしても良い。・・・又、特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合してもよい。」(第4頁左欄第35〜44行) E 「(1)サフフイア基板の場合 ・・・サフフイア基板1上に50nm程度の膜厚を持つAlN層2を形成する。・・・Siドープn型GaAlN層3(n層)を成長する。・・・厚さ0.5μmのGaN層4を成長させる。次に、TMA及びビスシクロペンタディエニルマグネシウム(Cp2Mg)を更に供給してドープGaAlN層5(p層)を0.5μm成長する。・・・ドープGaAlN層5(p層)に電子線照射処理を行う。・・・ドープGaAlN層5(p層)の窓8の部分と、Siドープn型GaAlN層3(n層)に、それぞれ、金属電極を形成する。」(第4頁右欄第2〜43行) F 「(3)6H-SiC基板の場合 ・・・n型GaN緩衝層17を0.5〜1μm程度形成する。・・・n型GaAN(GaAlNの誤記と認められる。)層18(n層)を成長する。・・・GaN層19を0.5μm、MgドープGaAlN層20(p層)を0.5μmの厚さに形成した。・・・MgドープGaAlN層20(p層)に電子線を照射した。・・・MgドープGaAlN層20(p層)に対する電極21Aを形成し…」(第5頁左欄第21〜43行) G 「上記のいづれの構造のレーザダイオードも、室温においてレーザ発振した。」(第5頁右欄第21〜22行) (2)-2 審判甲第2号証(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)第L8〜L11頁)について Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)第L8〜L11頁の中村修二らによる論文 「P-GaN/N-lnGaN/N-GaN Double - Heterostructure Blue - Light - Emitting Diodes」には、次の記載@Aがある。
@ 「ワイドバンドギャップのV-X化合物である(In,Ga,Al)N半導体が、松岡らにより提案された。この化合物では、2〜6.2eVのバンドギャップエネルギを選ぶことができる。高機能発光素子のためには、ダブルヘテロ構造(DH)が不可欠である。この材料によればDH構造ができる。」(第L8頁左欄第24〜29行) A 「510℃に下げて、GaNバッファ層を成長する。・・・次に、1020℃に上げて、GaN薄膜を成長する。・・・800℃に下げて、SiドープInGaN薄膜を成長する。・・・1020℃に上げて、Mgドープp型GaN薄膜を成長する。・・・成長後、より高いp型GaN層を得るために、低エネルギ電子線照射処理(LEEBI)を行う。・・・次に、p型GaN層の上にAuコンタクトを蒸着する。・・・図1は InGaN/GaN DH LEDの構造を示している。」(第L8頁右欄第29行〜第L9頁左欄第29行) (2)-3 審判甲第3号証(応用物理第60巻第2号(1991))について 応用物理第60巻第2号(1991)第163〜166頁の天野浩・赤崎勇による論文「GaN接合青色・紫外発光ダイオード」には、次の記載@Aがある。
@ 「最近、われわれはマグネシウム(Mg)ドープ高抵抗GaN(GaN:Mg)に電子線を照射すると電気的特性が変化し、比抵抗数十Ω・cm程度のp型結晶となることを見出した。さらにこれを利用して、3.pn接合の形成にも初めて成功した。」(第163頁右欄第8〜12行) A 「LEDの作製方法について示す。サファイア基板上にAlN緩衝層を堆積の後、n型GaNを約3μm育成して・・・GaN:Mgを約0.5μm育成したのち、表面から電子線照射処理する。・・・p層の電極は金(Au)によりオーム性接触を形成する。」(第165頁左欄第24行〜右欄第10行) (2)-4 審判甲第4号証(特開平2-229475号公報)について 特開平2-229475号公報には、次の記載@〜Dがある。
@ 「前記単結晶基板上に格子整合して成長したInxGa yA1 zN(x+y+z=1、かつ、0≦x,y,z≦1)薄膜の少なくとも1層が含まれてなることを特徴とする半導体発光素子」(第2頁左下欄第5〜8行) A 「第13図に(001)面上の格子定数とバンドギャップエネルギとの関係を示す。InN-GaN間及びInN-AlN間のボーイングパラメータは、それぞれ文献(2)及び(3)による。この図から判るように、InN,GaN及びAlNから成る二元、三元、或いは四元混晶等を用いることにより、基板に格子整合してバンドギャップエネルギの異なる材料の多層構造を形成することができる。」(第2頁左下欄第12〜19行) B 「第9図は本発明の第3の実施例を説明する図であり、素子の断面を示す。本素子はレーザである。基本的構造はダブルヘテロ構造を有する埋め込みレーザであり、Al2MgO 4基板17、膜厚5μmのSnドープn型InGaAlNクラッド層18、膜厚0.1μmのノンドープInGaN活性層19、膜厚2μmのZnドープp型InGaAlNクラッド層20、Znドープp型InGaAlN埋め込み層21、Snドープn型InGaAlN埋め込み層22、p型クラッド層のオーミック電極23、n型クラッド層のオーミック電極24から成る。・・・クラッド層及び埋め込み層と活性層とのバンドギャップエネルギ差が0.3eVとなるように、InGaAlNクラッド層の組成を第13図から選んだ」(第5頁右下欄第12行〜第6頁左上欄第7行) C 「また、p形電極のオーミック抵抗を下げるために、p形クラッド層と電極との間に低抵抗になり易いバンドギャップの狭いInGaAlN層のp形層をキャップ層として一層入れても良い。」(第6頁右上欄第15〜19行) D 第13図には、上記の記載Aのとおり、(001)面上のInN-GaN-AlN-InN間の格子定数とバンドギャップエネルギ-との関係が示されている。この第13図から、バンドギャップエネルギの高低に関して、次式(以下、バンドギャップエネルギ式という。)の関係が常に成立することが明らかである。
InN次の記載@〜Cがある。
@ 「311゚Kという高いヒートシンク温度で連続動作するダブルヘテロ構造注入レーザGaAs-ALxGa1-xAsを液相エピタキシーで作製した。」(第109頁要約欄) A 「GaAs-ALxGa1-xAsよりもダイオードのp側へのコンタクトを改善するために、GaAsをもう1層(層4)使用した点を除いて、このダイオードは参考文献2に図示されているものと類似した4層構造である。この層は、図1に示す装置でn型GaAsの研磨、エッチした(111)と(100)面上に成長した。・・・1〜3℃/分の冷却速度を確立した後、溶液を連続的にシードと接触させた。層1は840から830℃で成長させ、層2、3及び4は、溶液2、3及び4を冷却する間、各々15秒間シード上に留まらせて成長させた。典型的な実験例の溶液組成と層厚を表1に示した。」(第109頁右欄第1〜14行) B 表1は、GaAlAsよりなりドーパントがZnであるp層3(溶液3)と、GaAsよりなりドーバントがGeであるp層4(溶液4)とを含んでいる(第110頁左欄上部)。
C 「コンタクトは、p側にCrの次にAu、n側にSn-Pt-Snサンドイッチを、ウェハ上に気相で製膜した。」(第110頁左欄24〜26行) (2)-6 審判甲第6号証(H.C.Casey,Jr.他1名著「HETEROSTRUCTURE LASERS PART A」(1978)ACADEMIC PRESS第32〜35頁) H.C.Casey,Jr.他1名著「HETEROSTRUCTURE LASERS PART A」(1978)ACADEMIC PRESS第32〜35頁には、次の記載@Aがある。
@ 「DHレーザーの通常の層構成を図2.3-1に示す。多層のGaAs及びAl xGa 1-xAsのため、N又はPによってn型又はp型のAlxGa 1-xAs層を示すこと、また、n又はpによってn型又はp型のGaAs層を示すことが都合がよい。AlAsのモル分率はxとyによって示される。最上のp+-GaAs層はオーミックコンタクトを容易にする、・・・最適に設計されたDHレーザーは、p+-GaAsコンタクト層又はn+基板との界面がオプチカル領域に影響を与えないよう十分に大きい層厚dl及びd3の値を有する。」(第33頁第7行〜第34頁第3行) A 図2.3-1には、上記の記載@のとおり、下から上へ順に、n+-GaAs基板/N-AlxGa1-xAsクラッド層/n -OR p-GaAs活性層/p-Al yGa 1-yAsクラッド層/p+-GaAsコンタクト層/金属電極、と積層されてなるダブルヘテロ(DH)構造のヒ化ガリウム系化合物半導体レーザーが図示されている。
(2)-7 審判甲第7号証(特開昭51-25086号公報)には、次の記載@Aがある。
@ 「第1図はTJSレーザ装置として知られるダブルヘテロ接合を有する半導体レーザ装置の構成を示す一部破断斜視図で、(1)はGaAs基板、(2)は第1のGaAlAs層、(3)はn型のGaAs層、(4)は第2のGaAlAs層で、第1のGaAlAs層(2)、第2のGaAlAs層(4)はそれぞれGaAs層(3)よりも広い禁制帯巾を有し、GaAs基板(1)上に順次形成されたものである。更にこれらの三層は、図中破線で示すように亜鉛等のp型不純物が、左右二分する形で拡散され、それぞれp型の層(2p),(3p),(4p)を形成し、このうち(3p),(3n)のp-n接合面が発光部(5)を形成する。・・・(6a),(6b)は電極である。」(第1頁左下欄第18行〜右下欄第12行) A 「従来ダブルへテロ接合レーザで行なわれてきたようにオーム接触を良好とするために成長層表面に付加されていたGaAs層を必要としない点があげられる。このGaAs層は、第1図に示した従来例においては、説明の便宜上その記載を省略しているが、第2のGaAlAs層(4)と電極(6a)との接触抵抗を下げるために設けられるものであり、・・・しかるに、この発明により上記のオーミックコンタクトを取るためのGaAs層は不要となり、従って、第二のGaAlAs層(4)も1層構造とすることができるため、製造工程が簡単となる。」(第2頁左下欄第17行〜右下欄第12行) (2)-8 審判甲第8号証(特開昭52-28887号公報)には、次の記載@Aがある。
@ 「本発明に係る半導体発光装置を形成するにあたり、まず第1図の如きへテロ構造を形成する。・・・活性層となるP型のガリウム・アルミニウム・砒素(Ga1-yAlyAsただしy:0〜0.1)層2を液相成長させ」(第2頁左上欄第3〜10行) A 「続いてその上に光及びキャリアの閉じ込め層となるP型のガリウム・アルミニウム・砒素(Ga1-xAl xAs)層7を成長させる。・・・次にガリウム・アルミニウム・砒素層7の上に、P型のガリウム砒素(GaAs)層8を形成する。この層8はその表面全面に設ける電極9の金属とオーミックなコンタクトを形成するためのものである。電極9はP型ガリウム・砒素層8全面にコンタクトするので、そのコンタクト抵抗は十分低い。」(第2頁右上欄第9行〜左下欄第10行) (2)-9 審判甲第9号証(特開昭54-93380号公報)には、次の記載@Aがある。
@ 「本発明は、理込みへテロ構造の半導体レ一ザに於ける・・・第1図乃至第3図は、本発明一実施例を製造する場合の工程説明図である。」(第1頁右欄第4〜9行) A 「(3)多層液相エピタキシャル成長法を適用してn型GaAlAs結晶からなるクラッド層4、GaAs結晶からなる活性層5、p型GaAlAs結晶からなるクラッド層6、p型GaAs結晶からなる電極コンタクト層7を成長させる。」(第2頁左上欄第1〜5行) (2)-10 審判甲第10号証(特開平3-252177号公報)には、次の記載@〜Cがある。
@ 「本発明は、N型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlxGa 1-xN;x=0を含む)からなるN層と、P型不純物を添加したI型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlxGa 1-xN;x=0を含む)からなるI層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、N層をI層と接合する側から順に、低キャリア濃度N層と高キャリア濃度N+層との二重層構造とし、I層をN層と接合する側から順に、P型不純物が比較的低濃度の低不純物濃度IL層とP型不純物が比較的高濃度の高不純物濃度IH層との二重層構造としたことを特徴とする。」(第2頁左上欄第3〜13行) A 「又、上記低不純物濃度IL層の・・・膜厚は0.01〜1μmが望ましい。・・・膜厚が1μm以上となると発光ダイオードの直列抵抗が増大したり立上がり電圧が上昇するので望ましくなく、膜厚が0.01μm以下となると、従来構造と等しくなるので望ましくない。更に、高不純物濃度IH層の・・・膜厚は0.02〜0.3μmが望ましい。・・・膜厚が0.3μm以上となると高抵抗となるので望ましくなく、膜厚が0.02μm以下となるとI層が破壊されるので望ましくない。」(第2頁右上欄第12行〜左下欄第9行) B 「膜厚0.2μm、GaNから成るZn濃度5×1020/cm3の高不純物濃度I H層6を形成した。」(第8頁左下欄第9〜10行) C 「高不純物濃度IH層6の電極7を形成した。」(第4頁左上欄第3〜4行) (2)-11 審判甲第11号証(特願平4-45809号(特開平5-243614号)の明細書及び図面)には、次の記載@〜Bがある。
@ 「[実施例2]本実施例2では、Ga1-xAlxN層(0≦x≦1)を気相成長させるために、MOMBE(有機金属分子線エピタキシー法)装置を使用し、Gaの材料ガスとしてTMGを、Alの材料ガスとしてTMAを、Nの材料としてNH3又はN 2を使用した。・・・次に、P型結晶を製造する場合について説明する。MOMBE装置内でGaAs基板上に、TMG、TMA及びNH3を供給してGa1-xAl xN層(x=0.30)を成長し、・・・この時さらに、アクセプター不純物としてZnをドーピングした。・・・また、アクセプター不純物としてZn以外に、Mg、Be等の他のU族元素を利用して、同様の条件でGa1-xAl xN層を成長させた場合も、P、As又はSbを添加することにより低抵抗のP型結晶が得られた。また、AlN層及びGaN層を同様の条件で成長させた場合も、アクセプター不純物、及びP、As又はSbの添加によって良好なP型結晶が得られた。」(第4頁右欄第24行〜第5頁右欄第15行) A 「[実施例3]実施例2によって得られる化合物半導体を利用して、図5(a)(b)に示す半導体レーザー素子を製造した。・・・N型GaNからなるバッファ層302をその厚さが0.2μmとなるように成長させる。・・・N型Ga1-xAl xN層(x=0.30)をその厚さが1μmとなるように成長させて、N型クラッド層303を形成する。・・・GaN層をその厚さが0.1μmとなるように成長させて、活性層304を形成する。・・・ここで該活性層304は、同時にTMAを供給して得られるGa1-xAlxN層であっても、SiH 4、DEZn等のドーパントを供給して得られる結晶であってもよい。・・・P型Ga1-xAl xN届(x=0.30)をその厚さが1μmとなるように成長させて、P型クラッド層305を形成する。・・・P型GaN層をその厚さが0.5μmとなるように成長させて、P型コンタクト層306を形成する。続いて、P型電極310及びN型電極311を積層させ、これにより図5(c)に示す半導体レーザ素子を作製する。」(第5頁右欄第36行〜第6頁左欄第19行) B 「また、Ga1-xAlxN層の成長時に同時にInの材料ガスを供給して、InxGayAl1-x-yN層(0≦x,y≦1)として成長させてもよい。」(第6頁左欄第29〜31行) (3)原告(請求人)の主張 原告は、本件発明1〜4を無効にすべき理由として、下記ア〜エを主張している。
ア.特許法第36条第4項、第5項及び第6項の規定の違反について 本件請求項1及び明細書段落【0007】において「電極」の材料が特定されておらず、不明瞭である。
p型GaNコンタクト層は、電極とのオーミック接触を得ることにより、順方向電圧Vfを低くするという作用効果を得るためのものである。そして、p型GaNコンタクト層と電極との間で起こるオーミック接触という作用効果は、本発明のポイントであると解される。
周知のとおり、フェルミ準位の異なる材料を接合すると、フニルミ準位が一致し、拡散電位で示すエネルギー障壁が電子や正孔に対して発生し、順方向と逆方向とで電気抵抗に差が生じて整流性接合になる。一方、フニルミ準位のほぼ等しい材料を選別して接合すると、エネルギー障壁が発生しないようになり、双方向でオームの法則に従う非整流性接合になる。これをオーミック接触といっている。そして、周知の事実として、材料ごとにフニルミ準位は異なる。
したがって、コンタクト層と電極とのオーミック接触を得るためには、フェルミ準位の観点から、コンタクト層と電極の双方の材料が具体的に特定されなければならない。
実際、本件明細書においては、段落【0016】〜【0028】の実施例1〜4において、p型コンタクト層7の材料はGaN、電極8の材料はAu、と双方の材料が特定されている。
そして、その組合せの場合に、順方向電圧Vfが4〜6Vで、オーミック接触が得られた旨が記載されている。
ところが、本件請求項1及び明細書段落【0007】においては、p型コンタクト層の方の材料はGaNと記載されているが、電極の方の材料は記載されていない。これが仮に電極の材料は限定されないという意味であるとすると、実施例1〜4のAu電極とは異なる材料の電極の場合にも、実施例1〜4と同様の作用効果が得られるとの根拠を見出すことはできないから、不明瞭である。
イ.特許法第29条の2の規定違反について @ 本件発明1は審判甲第11号証に記載された発明と同一である。
上記審判甲第11号証には、本件発明1の構成要件a+b+cが、すべて開示されている。
すなわち、審判甲第11号証の記載Aの半導体レーザー素子は、p-n接合を有しており、また、n型Ga1-xAl xNクラッド層303とp型Ga 1-xAl xNクラッド層305とでGaN活性層304(又はGa1-xAl xN層)が挟まれるように積層されているから、ダブルへテロ構造であり、構成要件aと同一である。
また、記載Aの半導体レーザー素子は、「実施例2によって得られる化合物半導体を利用して」製造したというのであるから、そのP型Ga1-xAl xN(x=0.30)クラッド層305は、記載@(実施例2)において、アクセプター不純物としてMgを利用しても低抵抗のP型結晶が得られた、と記載されているところのMgドープp型Ga1-xAl xN層(x=0.30)を指し含んでいるから、構成要件bと同一である。
同じく、記載AのP型GaNコンタクト層306は、記載@(実施例2)において、アクセプター不純物としてMgを利用しても低抵抗のP型結晶が得られた、またGaN層を同様の条件で成長させた場合も良好なP型結晶が得られた、と記載されているところのMgドープp型GaN層を指し含んでいる。また、このMgドープのP型GaNコンタクト層306は、その上にP型電極310が積層されているから、構成要件cと同一である。
したがって、本件発明1は、審判甲第11号証に記載された発明と同一である。
A 本件発明3は審判甲第11号証に記載された発明と同一である 審判甲第11号証の記載Aには、P型GaNコンタクト層306の厚さが0.5μmとなるように成長させると記載されているから、構成要件eと同一である。
したがって、本件請求項3に係る発明もまた、審判甲第11号証に記載された発明と同一である。
B 本件発明4は審判甲第11号証に記載された発明と同一である。
審判甲第11号証の記載AのN型GaNバッファ層302は、n型窒化ガリウム系化合物半導体層であるから、構成要件fと同一である。本件明細書の段落【0009】には、「n型室化ガリウム系化合物半導体層3の種類は特に限定するものなく、GaN・・・を用いることができる。」と記載されている。
また、記載AのN型Ga1-xAl xN(x=0.30)クラッド層303は、構成要件gと同一である。
また、記載Aの「Ga1-xAl xN層であってもよい」活性層304は、記載Bのとおり「Ga1-xAl xN層の成長時に同時にInの材料ガスを供給して、In xGa yAl 1-x-y N層く0≦x,y≦1)として成長させてもよい。」ものであり、InxGa yAl 1-x-y N層はx+y=1のときのIn xGa yNを含むから、構成要件hと同一である。
また、同活性層304の上に前記P型Ga1-xAl xNクラッド層305が積層されているから、
構成要件iと同一である。
したがって、本件発明4もまた、審判甲第11号証に記載された発明と同一である。
ウ.特許法第29条第1項第3号に該当するについて @ 本件発明1は審判甲第1号証に記載されたに等しい発明である。
上記審判甲第1号証には、本件発明1の構成要件a+b+cが、すべて開示されている。
すなわち、審判甲第1号証の窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードが、「p-n接合を有するダブルヘデロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」であることは、記載@CEFGから明らかであり、構成要件aと同一である。
また、記載@の「禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa 1-x)yIn 1-yN;0≦x≦1,0≦y≦1,但し、x≠x'及び/又はy≠y')から成るp型導電性を示す層」は、y=1のときのGa1-xAl xN(0≦x≦1)p型クラッド層を含んでいる。現に、記載EFの実施例では、p型クラッド層としてのGaAlN層5,20が記載されており、しかもMgドープである。また、Ga1-xAl xNの x 値は、記載@のとおり0≦x≦1であるから、本件発明における0構成要件bと同一である。
次に、記載Dの「ヘデロ接合を利用する場合も、同一組成の結晶によるpn接合の場合と同様に、オーム性電極組成を容易にするため電極と接触する部分付近のキャリア濃度は高濃度にしても良い。・・・又、特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合してもよい。」における「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」は、上記p型GaAlNクラッド層と電極との間に形成されるp型コンタクト層であって、
次の理由から、MgドープGaNを実質的に意味している、あるいは少なくとも含むから、構成要件cと実質的に同一である。すなわち、
(イ)バンドギャップエネルギの大きい化合物半導体よりも小さい化合物半導体の方が良い結晶性が得られやすいことは周知であり、そのバンドギャップエネルギに関して、次のバンドギャップエネルギ式の関係が常に成立することも、審判甲第4号証の記載AD(第13図)等から周知である。つまり、GaAlNよりバンドギャップエネルギの小さい窒化ガリウム系は、GaNとInGaNである。
InN1条件が、コンタクト層の良い結晶性にあることは周知であるから、コンタクト層の材料がGaAlNよりも良い結晶性が得られる二元系窒化ガリウム(GaN)となることは、技術的に当然のことである。
(ハ)p型GaAlNクラッド層がMgドープであるから、その上に接合する高キャリア濃度のコンタクト層がより高濃度のMgドープとなることも、技術的に当然のことである。
そうすると、記載Dの「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」は、Mgドープp型GaNコンタクト層を実質的に意味している、あるいは少なくとも含むということができる。
したがって、本件発明1は、審判甲第1号証に記載された発明と実質的に同一である。
A 本件発明4は審判甲第1号証に記載されたに等しい発明である。
上記審判甲第1号証には、本件請求項4の構成要件f+g+h+iが、すべて開示されている。
すなわち、審判甲第1号証の記載Fの「n型GaN緩衝層17」は、構成要件fに相当する。
また、記載@Cの「禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn 1-yN;0≦x≦1,0≦y≦1,但し、x≠x'及び/又はy≠y')から成るn型導電性を示す層」、及び、記載Fの「n型GaAlN層18 」は、構成要件gに相当する。
また、記載@Cの「禁制帯幅の比較的小さい、窒化ガリウム系化合物半導体((Alx'Ga 1-x' )y'In 1-y' N;0≦x'≦1,0≦y'≦1,但し、x'=y'=1は含まない。)から成る層」は、x'=0のときのGay'In 1-y' Nを含み、しかも記載Bには「活性層はn型単結晶を用いる必要がある。」の記載があるから、構成要件hに相当する。
また、その禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体の上に前記p型GaAlNクラッド層が積層されるから、構成要件iと同一である。
したがって、本件発明4もまた、審判甲第1号証に記載された発明と実質的に同一である。
エ.特許法第29条第2項の規定の違反について @ 本件発明1について 本件発明1は、審判甲第1号証の発明と同一であるが、少なくとも本件発明1は、審判甲第1号証から、あるいは審判甲第1号証に周知・慣用技術を適用することにより、容易に発明をすることができたものである。
すなわち、本件発明1と審判甲第1号証の発明とは、構成要件aにおいては完全に一致する。構成要件b及びcにおいても実質的に一致するが、強いて相違点を挙げるならば、次の2点を挙げることはできる。しかし、この2点は実質的な相違とはいえない、あるいは、周知・慣用技術(審判甲第2〜10号証)の適用により容易に克服できた相違にすぎない。
[相違点1] 本件発明1の構成要件cは、「Mgがドープされたp型GaNコンタクト層」と記載されている。
これに対し、審判甲第1号証の発明では、コンタクト層について「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」と記載されていて、直接、Mgドープp型GaNコンタクト層とは記載されていない点で相違する。
しかし、この相違点1は、審判甲第1号証に周知・慣用技術(審判甲第2〜10号証)を適用することにより容易に克服できた相違にすぎない。その理由を次の3点から説明する。
第1点として、審判甲第1号証にMgドープp型GaNコンタクト層は示唆されている。
審判甲第1号証の記載Dの「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」は、p型GaAlNクラッド層と電極との間に形成されるp型コンタクト層であって、次の理由から、MgドープGaNを実質的に意味している、あるいは少なくとも強力に示唆している。すなわち、
(イ) バンドギャップエネルギの大きい化合物半導体よりも小さい化合物半導体の方が良い結晶性が得られやすいことは周知であり、周知のバンドギャップエネルギ式のとおり、GaAlNよりバンドギャップエネルギの小さい窒化ガリウム系は、GaNとInGaNである InN1条件が、コンタクト層の良い結晶性にあることは周知であるから、コンタクト層の材料がGaAlNよりも良い結晶性が得られる二元系窒化ガリウム(GaN)となることは、技術的に当然のことである。
(ハ) p型GaAlNクラッド層がMgドープであるから、その上に接合する高キャリア濃度のコンタクト層がより高濃度のMgドープとなることも、技術的に当然のことである。
そうすると、記載Dの「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」は、Mgドープp型GaNコンタクト層を実質的に意味している、あるいは少なくとも極めて有力な選択肢として強力に示唆しているということができる。
第2点として、電極とのオーミックコンタクトを得るために、Mgドープp型GaN層の上に電極を形成することは、例えば審判甲第2又は3号証のとおり、周知・慣用技術である。
すなわち、審判甲第2号証の記載Aには、「P型GaN層の上にAuコンタクトを蒸着する。」と明記されている。
また、審判甲第3号証の記載Aには、「GaN:Mgを約0.5μm育成したのち、表面から電子線照射処理する。・・・p層の電極は金(Au)によりオ一ム性接触を形成する。」と明記されており、GaNはMgドープであり、電極とオーミックコンタクトしている。
第3点として、当業者が熟知しているヒ化ガリウム系化合物半導体発光素子において、p型GaAlAsクラッド層と電極との間に接合するp型コンタクト層としてGaAsを用いることは、例えば審判甲第5、6、7、8又は9号証のとおり、周知・慣用技術であり、現実に広く実施されている技術である。このように、p型のGaAlAsクラッド層(三元系)に対してGaAsコンタクト層(二元系)を用いるロジックは、上記(1)第1点の(イ)(ロ)で述べたロジックと全く同じであり、技術常識となっている。
本件発明及び審判甲第1号証のような、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の開発に携わる当業者は、古くから実用に供されている同じV-X族のヒ化ガリウム系化合物半導体発光素子についても、当然に熟知している。窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の場合のバンドギャップ関係は、窒化ガリウム系の場合(GaN i) 審判甲第5号証の記載Aには「GaAs-AlxGa1-xAsよりもダイオードのp側へのコンタクトを改善するために、GaAsをもう1層(層4)使用した」、記載Cには「コンタクトは、p側にCrの次にAu」とあり、
ii) 審判甲第6号証の記載@には「最上のp+-GaAs層はオーミックコンタクトを容易にする」とあり、
iii) 審判甲第7号証の記載Aには「従来ダブルヘテロ接合レーザで行なわれてきたようにオーム接触を良好とするために成長表面に付加されていたGaAs層」とあり、
iv) 審判甲第8号証の記載Aには「ガリウム・アルミニウム・砒素層7の上に、P型のガリウム・砒素(GaAs)層8を形成する。この層8はその表面全面に設ける電極9の金属とオーミックなコンタクトを形成するためのものである。」とあり、
D) 審判甲第9号証の記載Aには、「p型GaAlAs結晶からなるクラッド層6、p型GaAs結晶からなる電極コンタクト層7を成長させる。」とある。
なお、ヒ化ガリウム系化合物半導体発光素子と窒化ガリウム系化合物半導体発光素子とを、無条件で同一視することはできないと思われるし、特に窒化ガリウム系は、長い間、基板との格子定数不整と、p型ドーパント添加:窒化ガリウム層の高抵抗、という大きな問題に突き当たって、ヒ化ガリウム系よりも大幅に開発が遅れていたという事情の差異はある。
しかしながら、本件発明の出願日である平成5年8月12日当時には、緩衝層の形成による窒化ガリウムと基板との格子定数不整の緩和(審判甲第3号証の記載Aを参照)と、電子線照射によるp型ドーパント添加:窒化ガリウム層の低抵抗化(同じく審判甲第3号証の記載@Aを参照)という2つのブレイクスルーによって、これらの大きな問題は既に乗り越えられていたため、その窒化ガリウム系にも、ヒ化ガリウム系をはじめとする半導体発光素子全般の技術を適用又は応用することが可能な状況となっていた。
しかも、本件発明は、「電極とのオーミックコンタクト」という、窒化ガリウム系であろうと、ヒ化ガリウム系であろうと、当業者にとっては同じロジックによる解決手段を取り得る部分をポイントとしている。
したがって、上記のとおりヒ化ガリウム系で周知・慣用技術となっていたp型のGaAlAsクラッド層(三元系)に対してGaAsコンタクト層(二元系)を用いるというロジックを、審判甲第1号証の窒化ガリウム系に適用するくらいのことは、当業者にとっては何の困難性もなく、容易に想起することができたというべきである。
そうすると、上記(1)のとおり、審判甲第1号証にはMgドープp型GaNコンタクト層が示唆されていたということができるから、審判甲第1号証の「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」として、上記(2)のとおり、審判甲第2、3号証等で周知・慣用技術である電極とのオーミックコンタクトを得ることができるMgドープp型GaN層を採用するくらいのことは、当業者であれば容易に推考できたことである。
また、審判甲第1号証のp型GaAlNクラッド層に対する「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」として、上記(3)のとおり、審判甲第5、6、7、8又は9号証等で周知・慣用技術である「p型GaAlAs」に対する「p型GaAs」のロジックにより、p型GaNを採用するくらいのことも、当業者であれば容易に推考できたことである。
そして、本件発明1のMgドープp型GaNコンタクト層による作用は、審判甲第1号証に審判甲第2〜9号証を組み合わせることにより容易に予測される作用にすぎない。
[相違点2] 本件発明1では、p型Ga1-xAl xNクラッド層のx値が0 しかし、既に述べているとおり、0≦x≦1は、0 また、クラッド層には活性層よりもバンドギャップエネルギの大きい組成が選ばれるのであるが、上記のとおり、バンドギャップエネルギに関しては次式の関係が常に成立するから、
InN そうすると、審判甲第1号証の記載EFのGaAlNクラッド層は、Alのx値をむやみに大きくする必要はないのであって、むしろ、その下のGaN活性層とのミスフィットを小さくする必要性からAlをGaより小さく選択する(x<0.5)くらいのことはあまりに当然のことである。
したがって、審判甲第1号証にはAlのx値について、広く0≦x≦1と記載されてはいるが、当業者がみれば、現実的に選択すべきx値は0.5より小さい側にあるということは容易に理解されるのであり、本件発明1におけるx値の限定(0 そして、この相違点2は実質的には相違点というべきではなく、上記包含の関係によって実質的には一致点というべきである。
そして、本件明細書の段落【0032】に記載された、本件発明1による次の効果、
「p型GaAlNクラッド層の上に、コンタクト層としてp型GaN層を具備しているため、Vfが低く発光効率に優れた素子とすることができる。しかもp型GaAlN層のAl混晶比を限定することにより結晶性に優れた前記p型クラッド層、前記p型コンタクト層を得ることができ、Vf低下に大きく寄与している。」についても、審判甲第1号証の記載D、審判甲第2号証の記載A、審判甲第8号証の記載A等と実質的に同一あるいは容易に予測できる程度のものにすぎない。
そうすると、本件発明1は、審判甲第1号証の発明により、あるいは少なくとも審判甲第1号証の発明と周知・慣用技術ないし審判甲第2〜9号証の発明とを適宜組み合わせることにより、当業者であれば容易に発明をすることができたものである。
A 本件発明2について 本件発明2の構成要件d「p型Ga1-xAl xNクラッド層の膜厚は10オングストローム以上、0.2μm以下であること」による作用効果は、「10Åより薄いと活性層と短絡しやすく、0.2μmより厚いとクラックが入りやすい。」というものである。
一方、審判甲第1号証の記載EFには、p型GaAlNクラッド層を膜厚0.5μmに成長した旨の記載があるが、この膜厚0.5μmは、本件発明2の「10Å〜0.2μm」とは相違している。
しかし、大きな範囲で特定された本件発明2の「10Å〜0.2μm」は、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子におけるp型GaAlN層の膜厚として、周知の常識的な範囲にすぎない。
例えば、審判甲第10号証の記載@Aには、P型不純物を添加したAlxGa 1-xN(x=0を含む)を、P型不純物について低濃度の層と高濃度の層との二重層構造とした窒化ガリウム系化合物半導体発光素子が開示されており、低濃度のAlxGa 1-xN層の膜厚は0.01〜1μmが望ましく、高濃度のAlxGa 1-xN層の膜厚は0.02〜0.3μmが望ましい旨が記載されている。この膜厚0.01〜1μm及び0.02〜0.3μmは、上記「10Å〜0.2μm」と大きい範囲で一致している。
審判甲第10号証の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子はホモ構造であるが、上記のとおり、本件発明2の「10Å〜0.2μm」による作用は、短絡しないように10Å以上にし、クラックが入らないように0.2μm以下にするという、GaAlNの物性のみにより決まる単純に物理的な作用であるから、ホモ構造におけるp型GaAlN層であろうと、ダブルヘテロ構造におけるp型GaAlN層であろうと、基本的には何ら異なるものではない。
一方、審判甲第1号証の記載EFにおける0.5μmの数値は、一つの実施例すなわち例示であると解され、これに限定されるべき旨の記載もないから、変更を規制していない。
そうすると、審判甲第1号証に例示されたp型GaAlNクラッド層の膜厚0.5μmに代えて、周知の膜厚範囲ないし審判甲第10号証に開示されたp型GaAlN層の膜厚0.01〜1μm及び0.02〜0.3μmを適用し、本件発明2に至るくらいのことは、単なる設計事項にすぎず、当業者であれば容易である。
B 本件発明3について 本件発明3の構成要件e「p型GaNコンタクト層の膜厚は10オングストローム以上、0.5μm以下であること」による作用効果は、「10Åより薄いとp型クラッド層と短絡しやすく、0.5μmより厚いとミスフィットが発生しやすい。」というものである。
一方、審判甲第1号証の記載Dには、上記相違点1で詳述したとおり、「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」と記載されているが、この結晶(p型コンタクト層)の膜厚については記載されていない。
しかしながら、大きな範囲で特定された本件要旨の「10Å〜0.5μm」は、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子におけるp型GaN層の膜厚として、周知の常識的な範囲にすぎない。
例えば、審判甲第3号証の記載Aには、電極が形成されるべきp型GaN層を膜厚0.5μmに成長する旨が記載されている。この膜厚0.5 μmは、上記における「10Å〜0.5μm」に含まれる。
また、審判甲第10号証の記載BCにも、電極が形成されるべきp型GaN層を膜厚0.2μmに成長する旨が記載されている。
そうすると、審判甲第1号証記載の「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」(コンタクト層)に、同様の課題を解決する審判甲第3号証に記載の「膜厚0.5μmのMgドープp型GaN層」を採用して、本件発明3に至ることは、
単なる設計事項にすぎず、当業者であれば容易である。
あるいは、審判甲第1号証記載の「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」(コンタクト層)に、同様の課題を解決する審判甲第2号証に記載の「Mgドープp型GaN層」を採用する際に、周知の膜厚範囲ないし審判甲第3号証に開示されたp型GaN層の膜厚0.5μm又は審判甲第10号証に開示されたp型GaN層を膜厚0.2μmを適用して、本件発明3に至ることも、単なる設計事項にすぎず、当業者であれば容易である。
C 本件発明4について 審判甲第1号証には、本件発明4の構成要件f+g+h+iがすべて開示されているから、
本件発明4は審判甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であるか、少なくとも審判甲第1号証に記載された発明から、あるいは上記と同様の審判甲各号証の組合せにより、当業者であれば容易に発明をすることができたものである。
(4) 審決の判断 (4)-1 特許法第36条第4〜6項の規定の違反について 原告は、「本件請求項1においては、その「電極」の材料が特定されていないから、不明瞭である」と主張している。
しかし、半導体発光素子は「電極」を具備することは、例示するまでもなく、当業者に周知又は自明のことであるから、半導体発光素子の発明である本件発明1〜4は「電極」を具備していることは明らかである。
そして、本件請求項1の「電極」の材料は、明細書の実施例では「Au」であるが、
本件発明1〜4の半導体発光素子の半導体とオーミック接触する材料であれば足りることは、明細書2頁3欄5〜8行において「本発明の第1の目的は、p型結晶とオーミック接触が得られる窒化ガリウム系化合物半導体の構造を提供することによりVf(順方向電圧)を低下させ、発光効率を向上させることにある」と記載し、そして、その「電極」の材料として「Au」を用いた実施例1〜4を記載していることからして、明らかである。
したがって、「本件発明1〜4は、その「電極」の材料が特定されていないから、
不明瞭である」とする原告の主張は当を得ないものである。
なお、原告は、上記弁駁書において、「本件明細書の実施例1〜4で実施されたp型GaNコンタクト層7とAu電極8との組合せ以外の組合せを実施したときに如何なる結果になるかは不明である」から、「「本発明の構成を有していれば、公知の電極材料でオーミックコンタクトを容易に得ることができる」というような安易なものではない」と主張している。
しかし、本件発明1〜4は「電極」の材料をAuとした場合に当業者が容易に実施できるのであるから、p型GaNコンタクト層とAu電極との組合せ以外の組合せの場合に本件発明1〜4を実施することが安易なものでないとしても、それをもって、本件発明1〜4を不明瞭とすることはできない。
したがって、原告の上記主張は当を得ないものである。
(4)-2 特許法第29条の2第1項の規定の違反について @ 本件発明1について 本件発明1と審判甲第11号証に記載された発明とを比較すると、両者は「p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、
不純物がドープされたp型Ga1-xAl xN(但し、xは0 不純物がドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とする室化ガリウム系化合物半導体発光素子。」であるという点で一致し、本件発明1のp型Ga1-xAl xNクラッド層及びp型GaNコンタクト層のドープされた不純物は共にMgであるのに対して、審判甲第11号証にはp型Ga1-xAl xNクラッド層及びp型GaNコンタクト層のドープする不純物としてMgを利用してもよいという記載があるという点で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。
審判甲第11号証には、その5頁右欄段落【0046】に「アクセプター不純物としてZn以外にMg、Be等のU族元素を利用して、同様の条件でGa1-xAl xN層を成長させた場合も、P、As又はSbを添加することにより低抵抗のP型結晶が得られた。」と記載され、更に、同頁同欄段落【0047】に「また、AlN層及びGaN層を同様の条件で成長させた場合も、アクセプター不純物、及びP、As又はSbの添加によって良好なP型結晶が得られた。」と記載されている。
してみると、上記記載からは、審判甲第11号証には「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子のGa1-xAl x層にMgをドープしてP型結晶を得ること、又は、そのGaN層にMgをドープしてP型結晶を得ること」が記載されているとすることはできるが、本件発明1〜4の「MgがドープされたP型Ga1-xAl xNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、MgがドープされたP型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」が記載されているとすることはできない。
そしてまた、本件発明1の「MgがドープされたP型Ga1-xAlxNクラッド層とMgがドープされたP型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」は当業者に周知又は自明のものでもない。
したがって、本件発明1は、審判甲第11号証に記載された発明と同一であるとすることができない。
A 本件発明3及び4について 本件発明3及び4は、本件発明1を限定的に減縮したものであるから、上記「(1)本件発明1について」で述べたと同様の理由により、審判甲第11号証に記載された発明と同一であるとすることができない。
(4)-3 特許法第29条第1項第3号に該当するか否かについて @ 本件発明1について 本件発明1の「Mgがドープされたp型GaNコンタクト層」を具備することは、審判甲第1号証に記載されておらず、また、当業者に周知又は自明のことでもない。
そして、審判甲第1号証の4頁5欄42〜44行の「特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合しても良い。」との記載はあるが、その「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」を、本件発明1の「Mgがドープされたp型GaNコンタクト層」に特定することは当業者が適宜になし得ることではない。
したがって、本件発明1は審判甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。
A 本件発明4について 本件発明4は、本件発明1を限定的に減縮したものであるから、上記「(1)本件発明1について」で述べたと同様の理由により、審判甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。
(4)-4 特許法第29条第2項の規定の違反について @ 本件発明1について 本件発明1の「MgがドープされたP型Ga1-xAlxNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、MgがドープされたP型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」は、審判甲第1〜10号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、「MgがドープされたP型Ga1-xAlxNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」であることにより、Vf(順方向電圧)が低く発光効率に優れた素子とすることができるという明細書に記載の作用効果を呈すものである。
なお、審判甲第2及び3号証に記載された「Mgがドープされたp型GaN層」は、n型InGaN活性層の上に設けられたクラッド層であって、本件発明1のp型コンタクト層ではないから、審判甲第1号証に記載された「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」として適用できないことは明らかである。
また、審判甲第4号証には、「単結晶基板上に格子整合して成長したInxGayA1zN(x+y+z=1、かつ、0≦x,y,z≦1)薄膜の少なくとも一層が含まれてなることを特徴とする半導体発光素子」(第2頁左下欄第5〜8行)が記載され、また、「p形電極のオーミック抵抗を下げるために、p形クラッド層と電極との間に低抵抗になり易いバンドギャップの狭いInGaAlN層のp形層をキャップ層として一層入れても良い。」(第6頁右上欄第15〜19行)ということが記載されているから、本件発明1の「Mgがドープされたp型Ga1-xAl xNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」を(x、y、z)値の組合せの1つとして含むものであるが、本件発明1の特定の組合せ(p型クラッド層では(x=0、y+z=1)値で、かつ、p型コンタクト層では(x=0、y=1、z=0)値である。)を選択することは当業者といえども容易になし得ることではない。
そしてまた、審判甲第5〜9号証に記載されたGaAs系半導体発光素子におけるGaAs系半導体の物理的性質及び特性は、本件発明1のGaN系半導体発光素子におけるGaN系半導体の物理的性質及び特性と部分的に類似しており、そして、GaAs系半導体の物理的性質及び特性からGaN系半導体の物理的性質及び特性を、また逆に、GaN系半導体の物理的性質及び特性からGaAs系半導体の物理的性質及び特性を互いに部分的に類推できるとしても、審判甲第5〜9号証に記載されたGaAs系半導体発光素子におけるGaAs系半導体の物理的性質及び特性から、本件発明1のGaN系半導体発光素子におけるGaN系半導体の物理的性質及び特性を全体としては予測することはできない。
したがって、審判甲第1号証に記載されたGaN系半導体発光素子に関する発明と審判甲第5〜9号証に記載されたGaAs系半導体発光素子に関する発明とを組み合わせることは、当業者といえども容易になし得ることではない。
更にまた、審判甲第10号証に記載されたものは、Znを添加した高抵抗I型GaAlN(MIS構造窒化ガリウム系化合物半導体)に関するもので、審判甲第1号証に記載されたpn接合型ダブルヘテロ構造窒化ガリウム系化合物半導体とは、その半導体の物理的性質及び特性が全く異なるものであるから、審判甲第1号証に記載された発明と審判甲第10号証に記載された発明とを組み合わせることは、当業者といえども容易になし得ることではない。
A 本件発明2〜4について 本件発明2〜4は、本件発明1を限定的に減縮したものであるから、上記「(1)本件発明1について」で述べたと同様の理由により、審判甲第1〜10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることができない。
(5)審決のむすび 以上のとおり、特許無効審判の請求の理由及び証拠によっては、本件発明1〜4についての特許を無効にすることができない。
また、他に本件発明1〜4についての特許を無効にすべき理由を発見しない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(審判甲第11号証との対比における判断の誤り) 審決は、審判甲第11号証に関する認定を誤り、本件発明1〜4が特許法第29条の2第1項に該当するとした無効審判請求を排斥したが、誤りである。
(1) 審決が審判甲第11号証には「Mgがドープされたp型Ga1-X Al XNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」が記載されていないと認定したのは誤りである。
すなわち、
審判甲第11号証の【実施例3】においては、n型クラッド層303、活性層304、
p型クラッド層305のダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体素子において、p型クラッド層305はp型Ga1-X Al XN(X=0.30)で、その上にはp型電極310が積層されている。
p型クラッド層305及びp型電極310にはZnがドープされており、本件発明1でドープされるMgと相違する。しかしながら、【実施例2】には、【0046】にアクセプター不純物に関して「Zn以外にMg、Be等他のU族元素を利用して・・・」と記載され、さらにGa1-X Al XN層の成長、GaN層の成長についてアクセプター不純物が添加されることが述べられているから、Znの代わりにMgが添加し得ることが示唆されている。
しかも、【実施例2】は【実施例3】の発光素子の各層の半導体層を製造する工程についてより詳細に述べたものに相当するから、審判甲第11号証には、実質上【実施例3】のp型クラッド層及びp型コンタクト層にドープするアクセプター不純物として、Zn以外にMgをドープすることも記載されているといえる。
したがって、審判甲第11号証には、本件発明1と同一の発明が記載されている。
(2) 被告は、本件発明1におけるクラッド層、コンタクト層は、審判甲第11号証と異なりP、As等のD族元素を含まない組成であり、審判甲第11号証に記載のクラッド層、コンタクト層とは、その組成において全く異なる旨主張する。
しかしながら、本件発明1のクラッド層の構成は、「p型Ga1-xAl xN(但し、xは0 このことはコンタクト層についても同様である。
2 取消事由2(審判甲第1号証との対比における判断の誤り) (1) 審判甲第1号証に記載の発明の認定の誤り 審決は、審判甲第1号証に記載の発明の認定を誤り、本件発明1〜4が特許法第29条第1項第3号に該当するとし、さらに同条第2項に該当するとした無効審判請求を排斥したが、誤りである。
(1)-1 審判甲第1号証には、@p型コンタクト層として「MgがドープされたGaN」が明記されていない以外は本件発明1の構成が記載され、しかも、Ap型コンタクト層として「MgがドープされたGaN」を用いることが示唆されているから、本件発明1の「Mgがドープされたp型Ga1-X Al XNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」が審判甲第1号証には記載も示唆もされていないと審決が認定したのは誤りである。
すなわち、
@ 審判甲第1号証には、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子が開示されており、そのp型クラッド層(図面符号5,13,22,27)は「MgドープAlGaN層(p層)」であることが記載されている。
さらに、【0039】には、「特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用にさらに接合してもよい」ことが記載されている。
してみると、
審判甲第1号証には、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、n型クラッド層とp型クラッド層をおのおの電極に接続する際に、各クラッド層と各電極との電気伝導性を良好にするために金属電極とクラッド層の間に、コンタクト層を設けること、及び当該コンタクト層としては、高キャリア濃度実現が容易な結晶であることが開示されていることとなる。
したがって、本件発明1と審判甲第1号証記載の発明とは、p型コンタクト層の具体的組成として「MgがドープされたGaN」であると限定されているか否かのみで相違するものである。
ところが、
A 「MgがドープされたGaN」をp型コンタクト層として選択することは、以下に述べるように容易である。
半導体の高キャリア濃度の実現を容易とするためには、(ア)その半導体の結晶性が良いこと、(イ)バンドギャップが小さいことが大きく寄与することはよく知られていることである。以下、(ア)、(イ)について述べる。
(ア)結晶性の観点について 窒化ガリウム系化合物半導体は一般に(AlXGa 1-X )yIn 1-Y N:0≦X≦1、0≦y≦1と表されるが、実際にはその名称が示すようにGaNが基本であり、
GaNの結晶の中のGa原子を一部AlやInで置換することができるので、Al原子又はIn原子で一部のGaを置換した3元系混晶やAl及びInで一部のGaを置換した4元系混晶も存在する。
しかしながら、結晶中に異種の原子が混入すれば結晶成長がより困難となることは自明であるから、良好な結晶性の視点からは、2元系のGaNが3元系混晶や4元系混晶よりも優れていることは明らかである。
してみると、GaAlNはGaNの結晶の中の一部のGa原子がAl原子で置換されたものであり、Al原子は、Ga原子とN原子によって形成されているGaN結晶の規則性を乱す異物となるから、GaNとGaAlNではGaNの方が結晶性が優れていることは当業者にとって自明である。
(イ)バンドギャップの観点について 一般に、半導体のバンドギャップが小さいほど、電気伝導を担うために必要とされる活性化エネルギーが小さく、そのため、同一温度条件ではより多くのキャリアが電気伝導を担うようになるので、電気伝導度が上がる。
また、バンドギャップの大きな半導体を金属(電極)と接合すると、境界面に生じるエネルギー障壁により金属(電極)から半導体への電流の注入が困難であることが知られており、その対策として、バンドギャップのより小さな半導体の層をコンタクト層として金属との間に導入することによって金属から半導体へ電流が流れやすくすることができる。
さらに、GaNとGaAlNではGaNの方がバンドギャップエネルギーが小さく、
GaNに対してAl組成比の増加と共にバンドギャップエネルギーが急激に増大することは、審判甲第4号証の第13図に示されるように周知の事項である。
したがって、窒化ガリウム系化合物半導体のp型コンタクト層として、電極金属との接触によるエネルギー障壁を低くし、電気伝導性の良好な組成を選択するならば、結晶性及びバンドエネルギーからGaNが当然選択されるもので、これは全く意外性のない選択である。
(1)-2 被告の準備書面中には、「バンドギャップエネルギーに関し、格子整合というのは、エピタキシャル成長をする場合、良質の結晶を得るためには必須の条件であり、結晶間のミスフィットによる転移をなくするために下層に格子整合する半導体を用いることは、審判甲第4号証の記載を挙げるまでもなく技術常識である。してみると、審判甲第1号証にいう「高キャリア濃度実現が容易な結晶」の形成が示唆されている層の下層はGaAlN層であり、前記技術常識に照らしてみれば、当該「高キャリア濃度実現が容易な結晶」は、3元系GaAlN層または4元系のInAlGaN層であると考える方が技術合理性にかなうものである」旨の主張がある。
しかしながら、審判甲第4号証の第13図に示されるように、GaNとGaAlNではAlの組成比が増えても格子定数はそれほど変化しないから、GaAlN層とGaN層の格子整合性はほとんど問題にならない。
(1)-3 被告の準備書面中には、GaNの格子定数とAlNの格子定数では2.4%の相違があるが、格子不整合を実質上0.1%程度に抑えるのが出願当時の当業者の認識であったとの主張がある。
しかしながら、実施例1の場合X=0.14を当該相違2.4%で比例案分するならば,2.4×0.14=0.336%となる。
また、本件発明1では、Xが0 (1)-4 被告の準備書面中には、本件発明1は、p型コンタクト層にはバンドギャップの観点からはInGaNよりも劣るGaNを組成的観点から選択し、p型クラッド層にはp型GaNコンタクト層との格子整合性の観点からはInGaAlNより劣るGaAlNを組成的な観点から選択し、それらを組み合わせることにより完成されたのである旨の主張がある。
しかしながら、本件発明1をいかに完成したかの説明と、本件発明1が審判甲第1号証から容易に推考されるか否かの問題とは無関係である。
すなわち、審判甲第1号証【0039】の記載に基づいてコンタクト層の組成としてGaNを選択することが容易か否かの問題である。
(2) 効果に関する認定の誤り (2)-1 審決は、「Vf(順方向電圧)が低く発光効率に優れた素子とすることができるという明細書に記載の作用効果を呈するものである。」と認定したが、
誤りである。
本件明細書【0029】〜【0031】に、実施例1と比較例1-3の比較が記載されているが、比較例1はGaAlNのAlの組成比Xを実施例1のX=0.14に対し0.50としたもので、比較例2はp型コンタクト層を全く有しないもので、比較例3はp型クラッド層の組成原子にInが加わったIn0.01 Al 0.14 Ga 0.84 Nである。実施例2はコンタクト層を全く有しない例であるから、実施例1と比較例2の差はGaNの選択の効果を示すものではない。
また、GaAlNのAl組成比を大きくすればp型クラッド層の結晶性が悪化するのは当然のことであることから、比較例1が実施例1と比較して発光効率が悪いのは当然のことである。
しかも、実施例1の発光素子の発光効率のデータをもって優れた特性の発光ダイオードとしているが、発光素子を構成する半導体の種類や組成は、n型クラッド層や活性層の組成も関係しているにもかかわらず、p型クラッド層とp型コンタクト層の部分のみを取り出して比較例と比較しても、その効果は不明である。
(2)-2 被告の準備書面中には、p型クラッド層の組成によってp型GaNコンタクト層と金属電極の接触の良否が異なるとの主張がある。
しかしながら、審判甲第1号証のp型クラッド層もMgをドープしたp型GaAlNで本件発明のp型クラッド層の構成と同じである。
本件発明は、GaAlNのAlの組成Xを0置換したものがGa1-X Al XNであるから、Xを0
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して (1) 原告は審判甲第11号証記載の発明を誤って把握している。
すなわち、審判甲第11号証には、Ga1-X Al XN層に、原子半径がNよりも大きいP、As等のD族元素が添加されてなる構成のP系クラッド層が記載され(【0046】、【0054】参照)、このことは、前記Nを置換したP、As等のD元素の要素が必ず入っていることを表しているから、コンタクト層についても同様に、GaN層に原子半径がNよりも大きいP、As等のD族元素が添加されてなる構成のコンタクト層が記載されている。
してみると、本件発明1におけるクラッド層、コンタクト層は、審判甲第11号証と異なりP、As等のD族元素を含まない組成であり、審判甲第11号証に記載のクラッド層、コンタクト層とは、その組成において全く異なる。
このことを審決では「審判甲第11号証には、その5頁右欄段落【0046】に『アクセプター不純物としてZn以外にMg、Be等のU元素を利用して、同様の条件でGa1-X Al XN層を成長させた場合も、P、As又はSbを添加することにより低抵抗のP型結晶が得られた。』と記載し、さらに、同頁同欄段落【0047】に『また、AlN層及びGaN層を同様の条件で成長させた場合も、アクセプター不純物、及びP、As又はSbの添加によって良好なP型結晶が得られた』と記載されている。」と認定しているのであるから、当該認定に基づいて、審判甲第11号証には「MgがドープされたP型Ga1-X Al XNクラッド層の上に電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」が記載されていないとした判断に誤りはない。
(2) 原告は、審判甲第11号証のクラッド層にP、As等のD族元素が入っていても本件発明の上記「クラッド層」に含まれることは、Mg以外の不純物の存在を除外していないことから明らかである旨主張する。
しかしながら、審判甲第11号証の【0046】、【0047】に、P、As又はSbを添加することにより低抵抗のP型結晶が得られた旨が記載されているように、P、As等のD族元素の添加は、審判甲第11号証の発明が成立する必須の要件である。
一方、本件発明のクラッド層の構成は、MgがドープされたP型Ga1-X Al XNクラッド層であって、P、As又はSbは必須成分として含まれていない。
このように、本件発明と審判甲第11号証に記載の発明とは全く構成が異なる。
2 取消事由2に対して (1) 結晶性は、構成元素の組成、格子整合性、結晶成長方法等々のいろいろな要素が関連して現出してくることはよく知られており、組成のみで簡単に適切な材料が自明当然のように得られるわけではなく、形成されるべき下層との結晶間のマッチング(格子整合性)を考慮に入れた場合には、良好な結晶性の観点から3元混晶や4元混晶を使用することの方が2元系のGaNを使用する場合より好ましいと技術的に理解される場合があることは、例えば、審判甲第4号証に「格子整合というのは、エピタキシャル成長をする場合、良質の結晶を得るためには必須の条件である。」(第2頁右下欄第14〜16行)と記載されるように、結晶間のミスフィットによる転位をなくするために下層に格子整合する半導体を用いることは技術常識である。
しかも、GaAlN層の上に形成される層は、全く組成の異なるGaN層を形成するよりも、同じ3元系のAlを含む格子定数の近いGaAlN層で形成する方が格子整合性が良く、格子欠陥が生じにくく結晶性の点からは有利であることもよく知られている。
してみると、一般には、GaAlN層の上にマッチング性も良くなく欠陥の生じやすく結晶性の点からは不利なものとして認識されている2元系のGaNの選択に至ることは、たとえ、審判甲第1号証に「高キャリア濃度実現が容易な結晶」という記載があっても容易なことでも自明のことでもない。
(2) 結晶性の観点についていうと、GaNとGaAlNでは、GaNの方が結晶性に優れていることは当業者とって自明であるとする原告の主張は、審判甲第1号証の段落【0039】における「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」がGaAlNとGaNとのみを意味することを前提として、GaAlNとGaNとの組成のみを比較しているから成り立つのであり、当該結晶が本件発明に規定する「Mgがドープされたp型GaNコンタクト層」を実質的に意味するか否かの問題に対する回答になっていない。
(3) バンドギャップの観点についての「窒化ガリウム系化合物半導体のp型コンタクト層として、電極金属との接触によるエネルギー障壁を低くし、電気伝導性の良好な組成を選択するならば、結晶性及びバンドエネルギーからGaNが当然選択される」との原告の主張は、審判甲第1号証の段落【0039】「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」がGaAlNとGaNとのみを意味することを前提とした主張である。しかしながら、審判甲第1号証には窒化ガリウム系化合物半導体として(AlXGa 1-X )yIn 1-Y N:0≦X≦1、0≦y≦1が示されているから、InN、GaN、AlN、AlGaN、AlGaInN、InGaN、AlInNなどが含まれ、Alが1〜0までの化合物、Inが1〜0までの化合物を含むから、審判甲第4号証第13図で示される、InN、GaN、AlNで囲まれた範囲内に存在する極めて多数の窒化ガリウム系化合物を包含するから、当該前提は誤っている。
(4) 本件出願当時、窒化ガリウム系化合物半導体において、結晶は格子整合では決まらず、組成的な観点のみで決まると考えられていた根拠はなく、バンドギャップ、格子整合性、組成的な観点のいずれが優先するかについて定説はなかった。
すなわち、本件発明は、p型クラッド層「Mgがドープされたp型Ga1-X Al XN(但し、Xは0A0.5より小さくすることにより格子欠陥の小さく結晶性のよいp型クラッド層が得られ、0.5以上であると、p型クラッド層の上に積層するp型コンタクト層の結晶性が悪くなりコンタクト層と電極とのオーミック接触が得られない点が記載され、また、【0013】には、Bインジュウム、アルミニュウムを含有させることにより電極とオーミック接触が得られにくくなる点が記載され、そして、p型クラッド層のアルミの組成を0.5に設定すると、比較例1のようにp型コンタクト層と電極金属とはオーミック接触が得られないことが前記効果A、Bの実証である。
要するに、本件発明は、【0012】に記載されるとおり、p型コンタクト層と電極金属の接触が良好であるか否か、また、オーミック接触が得られるか否かは、p型GaNコンタクト層の下に存在するp型GaAlNクラッド層のAlの組成比に大きく依存するとの要件を見いだすことによって解決したのである。
当裁判所の判断
取消事由2について判断する。取消事由2は、本件発明と審判甲第1号証との対比の誤りをいうものであるが、審判甲第1号証との対比において本件発明の進歩性がないとはいえないとした審決の判断を誤りとする主張を含むものである。
1 甲第3号証によれば、審判甲第1号証には、@.【要約】の【構成】欄に「n型導電性を示す窒化ガリウム系化合物半導体・・・から成るn層3と、p型導電性を示す窒化ガリウム系化合物半導体((AlX′ Ga 1-X′ ) Y′ In 1-Y′ N:0≦X′≦1、0≦y′≦1)からなるp層5とが接合された少なくとも1つのpn接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。・・・ホモ接合・ヘテロ接合のpn接合型の半導体レーザが実現できた」、A【符号の説明】欄に「3,11,18,25-n型AlGaN層(n層)、4,12,19,26-GaN層、5,13,20,27-MgドープAlGaN層(p層)」、B【0039】欄に「特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度が実現容易な結晶を金属との接触用に更に接合してもよい」と記載されていることが認められる。
ここで、@のy′=1の場合のp層、Bの「特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度が実現容易な結晶」が、それぞれ本件発明の「Mgがドープされたp型Ga1-X Al XNクラッド層」、「コンタクト層」に対応することは明らかであるから、審判甲第1号証には、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、n型クラッド層とp型クラッド層をおのおの電極に接続する手段として、金属電極とクラッド層の間にコンタクト層を設けることが開示されていることとなる。
してみると、本件発明1と審判甲第1号証記載の発明とは、(1)p型Ga1-X AlXNクラッド層において、前者はAlの比率Xを0 2 そこで、これらの相違点(1)、(2)について検討する。
(1) まず相違点(2)についてみるに、クラッド層の上に形成するコンタクト層の選定に際しては、@結晶性の良いこと、及び4元系混晶より3元系混晶のように混晶要素が少ない方が結晶性が良いこと、Aバンドギャップが狭いこと、Bクラッド層との格子整合性の良いことの各観点が、その優先順位はおいておくとしても、検討対象である点は自明のことであり、この点に関しては当事者双方とも争うところではない。
そこで、p型Ga1ーX Al XNクラッド層の上に形成されるコンタクト層の選択について、Ga、Al、N、及びInの構成比と、格子定数、バンドギャップエネルギの関係が示されている審判甲第4号証の第13図(下記)に基づいて検討するならば、
上記@の観点からは、GaN、AlNが選択候補であり、
上記Aの観点からは、InNが選択候補であり、
上記Bの観点からは、X値に応じてGaN〜AlNが選択候補となる、
ことが明らかである。
第13図 してみると、p型Ga1ーXAlXNクラッド層上に形成するコンタクト層として、
GaNを選択肢として挙げることは当業者にとっては容易に想到し得るものというべきである。そして、p型GaNのドーパントとしてMgを用いる点は、当事者双方の主張からしても自明のことである。
そうすると、コンタクト層の具体的組成として、「MgがドープされたGaN」とすることは当業者が容易に想到し得ることであると認めることができる。
(2) 次に相違点(1)についてみるに、甲第2号証によれば、本件発明においてp型Ga1-X Al XNクラッド層のAlの比率Xを0 【0012】欄に、「p型Ga1-X Al XNクラッド層6のX値は0 【0015】【作用】欄に「p-n接合を用いたダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgドープp型Ga1-X Al XNクラッド層6の上にMgドープp型GaNコンタクト層7を形成し、そのGaNコンタクト層の上に電極8を形成することによりオーミック接触が得られ、発光効率が向上する。詳しい原理は不明であるが、我々がそれらの層のホールキャリア濃度を測定した結果p型Ga1-XAl XN層は、およそ1016/cm3であり、p型GaN層はおよそ1017/cm3と一桁高かった。つまりホールキャリア濃度の大きい層の方に電極を形成する方がオーミック接触が得られやすいのではないかと推察する。
また、p型GaAlNクラッド層6の上に組成の異なるp型GaNコンタクト層7を形成することによりp型GaN層にミスフィットによる格子欠陥が生じやすくなり、結晶性が低下する。ミスフィットを少なくするにはp型GaAlNクラッド層6のAl混晶比は少ない方がよい。従って、p型GaNコンタクト層7の結晶性がよく、電極8とオーミックコンタクトが得られる限界値、すなわち、X値0.5未満を限定値とした」との記載。
以上の記載からすると、p型Ga1ーXAlXNクラッド層6におけるX値を0.5未満とした理由は、0.5以上であると、@p型クラッド層6の上に積層するp型GaNコンタクト層7と電極8とのオーミック接触が得られないこと(【0012】の記載)と、Aクラッド層の組成Ga1ーX Al XNが、当該クラッド層6の上に形成するコンタクト層7の組成 GaNと相違することにより、p型GaNコンタクト層7にミスフィットによる格子欠陥が生じやすくなり、結晶性が低下するものである点(【0015】の記載)にあることが明らかである。
上記@、Aについて検討するに、ミスフィットについて、甲第14号証の添付資料2(北田正弘他2名編著「薄膜材料工学」1989年11月 海文堂出版株式会社発行)に「fcc金属薄膜に比較して、SiあるいはGeなどの半導体中の積層欠陥は形成形態などがかなり特殊である。清浄な下地結晶の上にエピタキシャル成長(epitaxial growth)させる際に、薄膜と下地とのミスフィットが原因である場合には、ミスフィットを小さくするように下地結晶を選択するような工夫あるいは転位や積層欠陥が入らないような超薄膜にするなどの薄膜形成技術が開発されている。」(第135頁1〜6行)、「ここでエピタキシャル成長におけるミスフィット転位の発生原因と界面エネルギなどについて説明しよう。既に述べたように下地結晶上にエピタキシャル成長させた場合、その界面にミスフィット転位が発生することが多い。このミスフィット転位と結晶内の普通の転位の間には基本的には相違はない。すべりによって転位が発生する場合、いずれの転位の発生原因も広い意味での格子のミスマッチ(格子間隔の差、格子面のねじれや傾き)である。ただ、格子のミスマッチはミスフィット転位の場合には、エピタキシャル成長や拡散によって人工的に作られるのに対し、普通の転位の場合には、結晶成長中や冷却中に熱応力や不純物の不均一性のために、自然発生的に作られる。この結果、ミスフィット転位が規則正しく配列するのに、普通の転位は不規則な配列であったり、孤立して存在する場合が多い。ミスフィット転位が発生する条件は、ミスマッチの大きさと薄膜結晶の厚さに依存するが、これについては、van der MerweやJesser&Kuhlmann-Wilsdolfによって理論的に検討されている。」(第138頁8〜21行)と記載されていることが認められる。
さらに、甲第6号証によれば、審判甲第4号証には、「この格子整合というのはエピタキシャル成長をする場合、良質の結晶を得るためには必須の条件である。」(第2頁右下欄14〜16行)「基板とエピタキシャル膜との格子不整合が大きいため、伝導性を制御できず、発光効率の高い発光素子を形成できないという欠点を有していた。」(第2頁右上欄6〜9行)、「第8図は本発明の第2の実施例を説明する図であり、・・・基本的構造はダブルヘテロ構造であり・・・ここに示した全てのInGaN及び InGaAlN層は、基板に格子整合してエピタキシャル成長した半導体結晶である。」(第5頁左下欄下から8行〜右下欄3行)と記載されていることが認められる。
すなわち、ミスフィットは広い意味での格子ミスマッチ(格子間隔の差、格子面のねじれや傾き)であり、格子整合は良質の結晶を得るための必須の条件であり、
格子整合は基板上にエピタキシャル成長されるすべての層の問題であること、及びミスフィットは薄膜結晶の厚さに依存することが、上記記載から明らかである。
コンタクト層としてGaNを選択することは当業者にとって容易であることは前示のとおりであるから、当該GaNをコンタクト層とし、p型Ga1ーX Al XNクラッド層との、ミスフィットを回避するための格子整合性の点から、審判甲第4号証の前記第13図を検討すれば、p型Ga1ーX Al XNクラッド層のXの値は小さい方が良いことは明白であって、少なくともXが半分未満とすることは、当業者ならば容易に想到し得ることであると認めることができる。
3 効果について判断する。
まず、甲第2号証に基づき、本件明細書に記載された実施例、比較例の態様を概括すると、@サファイア基板1上、A200ÅのGaNバッファ層2、B4μm厚さのSiドープn型GaN層3、及びD100Å厚さのSiドープIn0.01 Ga 0.99 N活性層5は、
すべての実施例・比較例に共通する構成である。そして、C0.15μm厚さのSiドープn型Ga0.86Al0.14Nクラッド層4は、実施例4のみ非作成であるほかは共通構成であり、E0.15μm厚さのMgドープp型GaAlNクラッド層6は、比較例3のみがInを含み、他はGa、Al、Nの含有量において相違するもののInを含まないものであり、Fクラッド層Mgドープp型GaNコンタクト層7は、層の厚みが実施例2のみが0.1μmで、他はすべて0.4μmであることが認められる。
ここで、実施例・比較例の結果に影響を与える要素として、前記「ミスフィット転位が発生する条件は、ミスマッチの大きさと薄膜結晶の厚さに依存する」点、
「この格子整合というのはエピタキシャル成長をする場合、良質の結晶を得るための必須の条件で」あり、「ここに示した全てのInGaN及び InGaAlN層は、基板に格子整合してエピタキシャル成長した半導体結晶である。」点等を考慮すると、p型Ga1ーX Al XNクラッド層におけるX=0.5の影響のみを比較検討できる実施例・比較例は、実施例1、3と比較例1のみとなる。
甲第2号証によれば、本件明細書には、実施例1、3と比較例1におけるp型クラッド層6のAlの割合Xを「0.14」、「0.45」、「0.5」としたときの、Vf(順方向電圧)は、「5V」、「6V」、「30V」、発光効率がおのおの「0.70%」、「0.20%」、「非発光」と記載されていることが認められるが、このように上記割合Xを「0.14」、「0.45」、「0.5」としたときのVf(順方向電圧)がそれぞれ「5V」、「6V」、「30V」となり、発光効率はおのおの「0.70%」から「0.20%」、「非発光」と悪化するということは、p型クラッド層6のAl含有率と、GaNからなるコンタクト層との格子整合性、及びInGaNからなる活性層5との格子整合性の観点から予測の範囲内であるというべきである。
さらに、p型コンタクト層7の膜厚のみが異なり(0.4μmと0.1μm)他の構成はすべて共通している(xはいずれも0.14)実施例1、2において、p型コンタクト層7の膜厚の相違により発光効率が「0.70%」から「0.88%」、Vfが「5V」から「4V」に変化していることからも推測されるように、発光効率、Vfがp型クラッド層6のAl割合Xのみによって定まるものであると認めるのは困難であることからすると、Alの割合xを0.5未満とすることが格別の意義ないし困難性を有するものということはできず、この点は単なる設計的事項にすぎないと認めるほかない。
4 したがって、審決は、本件発明1ないし4の進歩性判断において審判甲第1号証との対比判断を誤ったものであり、この誤りは、本件無効審判請求を成り立たないものとした審決の結論に影響を与えることは明らかである。
結論
以上のとおり、取消事由2は理由があり、原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく、原告の請求は認容されるべきである。
(平成13年9月18日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実