運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ワ7621侵害差止等請求事件 判例 特許
平成13ワ12933損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ11470特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ11471特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的特徴 /  分割出願 /  実施料相当額 /  権利の濫用(権利濫用) /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  信義則 /  禁反言 /  実施 /  権原 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  実施料 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (ワ) 19360号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ヒラカワガイダム
訴訟代理人弁護士 安田有三
同 小南明也
補佐人弁理士 本田紘一
同 豊田正雄
被告 三浦工業株式会社
訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 室谷和彦
補佐人弁理士 福島三雄
同 野中誠一
同 小山方宜
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/02/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の水管ボイラを製造し,販売し,若しくは販売の申し出をしてはならない。
2 被告は,その占有に係る前項記載の水管ボイラを廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金5億円及びこれに対する平成12年9月26日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,後記の特許権を有する原告が,別紙物件目録記載の水管ボイラ(以下「被告物件」という。)を製造,販売している被告の行為が上記特許権を侵害するとして,被告に対し,被告物件の製造,販売等の差止め,廃棄及び損害賠償を求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠等を示した事実を除き,当事者間に争いがない。) (1) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有している。
ア 発明の名称 水管式ボイラ イ 出願日 昭和63年9月10日 ウ 登録日 平成9年1月13日 エ 特許番号 第2125515号 オ 特許請求の範囲 別紙「特許公報」(公告後補正の後のもの)写しの該当欄記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A 水管式ボイラにおいて,ガス燃料の燃焼を行う燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下「収熱水管内挿型燃焼室」という)として, B 該収熱水管内挿型燃焼室を単段に設け, C バーナを単数個又は複数個配設し, D 収熱水管内挿型燃焼室内の燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し, E 収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を 1.1≦P/D≦2.0となし, F かつ収熱水管の間隙を1o以上,数10o以下となるように水管群を配設した G ことを特徴とする水管式ボイラ。
(3) 被告の行為 被告は,平成2年ころから,被告物件を製造,販売している(弁論の全趣旨)。
被告物件の構成については争いがあり,原告は別紙「被告物件説明(原告主張)」第1,第2のとおりであると主張し,被告は別紙「被告物件説明(被告主張)」第1,第2のとおりであると主張する(以下,第1,第2の被告物件を,順に「被告物件1」及び「被告物件2」という。)。
2 争点 (1) 構成要件の充足性 ア 構成要件Aの充足性 (原告の主張) (ア) 構成要件Aの「燃焼反応部(燃焼火炎部)」の意義 本件明細書の記載(第1図)によれば,構成要件Aにおける「燃焼室」は,「燃焼反応部(燃焼火炎部)」及び「燃焼後の燃焼ガス部を水壁管(水冷壁)で覆っている開放空間としての領域」からなり,燃焼室内の燃焼反応部には多数の熱吸収水管(5b)が密に配設挿入されている。
被告は,本件発明の「燃焼反応部」を「バーナヘッドから全てのCOが消滅するまでの領域」と解すべきであると主張するが,以下のとおり失当である。すなわち,本件明細書における「収熱水管はむしろ燃焼を促進し,バーナヘッドからCOの消滅する迄の距離(火炎の長さ)は収熱水管がある場合の方がずっと短くなる。」との記載(本件明細書2頁左欄,数式の下14ないし16行)は,従来型の燃焼室に比較して本件発明の燃焼室では火炎の長さが短くなること及び燃焼反応部ではCOがCO2に変化する現象が起こることを述べたものにすぎないので,同記載から「燃焼反応部」を限定することはできない。
また,被告は「燃焼反応部(燃焼火炎部)」の意義につき,バーナの燃焼形式によって異なると主張する。しかし,本件発明は,「収熱水管内挿型燃焼室」内の「燃焼反応部の全空間」に収熱水管を配設したボイラであることに技術的意義があるので,「燃焼反応部」の意義とバーナの燃焼形式とは関係がない。なお,本件発明において,「燃焼反応部」は,多数の収熱水管を配設する大きさであることを要するところ,完全予混合(燃焼用空気が理論空気量より多く,バーナで燃焼前に燃焼用空気とガスを均一な混合気とした)燃焼の場合,極めて短い時間に狭い火炎層の中で燃焼が完了するので,「収熱水管内挿型燃焼室」を採用することが不可能であることは,認める。
(イ) 充足性 被告物件は,甲5ないし7に「水管群空間で燃焼反応と伝熱作用が同時に進行し」と記載されているように,燃焼反応部に水管群が多数かつ密に配設挿入され,また,燃焼反応部が水管群に触れて接触伝熱作用が生じる構造を採用している。そして,被告物件説明の図3の1Aの領域には,燃焼反応部があり,かつ同領域に多数の水管群2Bが密に配設され,最外列の水管壁2Aによって燃焼室が構成されている。したがって,被告物件は,「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の収熱水管を密に配設挿入した構造であり,構成要件Aを充足する。
なお,本件発明の構成要件Aが完全予混合形式を想定していないとしても,被告物件は,以下のとおり,完全予混合形式ではないので,被告物件が同Aを充足しない理由にはならない。すなわち,被告物件では,ガス燃料及び空気が混合されてバーナ4の後端に供給され(予混合),バーナヘッド5から,燃焼室1内に不均一混合のガスが送られる。そして,燃焼室1内を下流側に流れながら,ガス燃料と空気は相互に拡散により均一になり,燃焼を継続して燃焼火炎部が形成される。このように,被告物件では,バーナヘッドから均一に混合したガスは,燃焼室に吐出されない(甲5ないし13)。
(被告の反論) (ア) 構成要件Aの「燃焼反応部(燃焼火炎部)」の意義 構成要件Aの「燃焼反応部(燃焼火炎部)」は,「バーナヘッドからCOが消滅するまでの領域」と解すべきである。すなわち,「燃焼反応部(燃焼火炎部)」は,出願当初明細書には記載がなく,出願当初明細書及び本件明細書の「火炎」に相当すると考えられるところ,「火炎」は「バーナヘッドからCOの消滅する迄」と定義付けられているので,構成要件Aの「燃焼反応部(燃焼火炎部)」も同義と解すべきである。
(イ) 充足性 被告物件には,そもそも「燃焼反応部(燃焼火炎部)」が存在しない。
また,被告物件では,破損防止のために,予混合バーナの前面の1本分を省いており,バーナヘッドからCOが消滅するまでの領域である燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の収熱水管を「密に」配設したとはいえないので,構成要件Aを充足していない。
さらに,被告物件は,燃焼方式として完全予混合形式を採用したものである(被告物件は,「完全予混合形」の燃焼形式を採用したボイラとして,東京都の審査を受けた上,認定されている。乙13ないし15)。
したがって,被告物件は本件発明の構成要件Aを充足しない。
構成要件Dの充足性 (原告の主張) (ア) 構成要件Dの「バーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた」の意義 被告の主張は失当である。
(イ) 充足性 被告物件は,構成要件Dを充足する。
また,被告物件2については,@被告物件のパンフレット(甲5ないし7)中において,「水管群空間で燃焼反応と伝熱作用が同時に進行し,火炎の低温(度)下を実現」と明記していること,A学会誌(甲13)に,「始めの数列まで燃焼反応を継続させ」と説明していること,B「伝熱研究」(甲9)に,「燃焼しながら伝熱するボイラ」を紹介し,始めの数列まで燃焼反応が継続する火炎が発せられる構造のボイラを示していること,C被告が開設したホームページ(甲12)において,「水管群空間で燃焼反応と伝熱作用を同時進行させる〜」と説明し,始めの数列まで燃焼反応が継続する火炎が発せられる構造のコルゲートバーナの火炎の写真を掲載していること,D大阪ガス主催の’98工業フェアーにおける公開実演において,同様のコルゲートバーナの火炎の写真と実際の燃焼状況を公開している(甲10,11)ことが明らかである。
「始めの数列」とは,「バーナ出口からみて,3,4本までの水管列」であって,被告物件説明(原告主張)添付の被告物件2の図3の1Aの領域と同じである。同領域(燃焼反応部)に収熱水管が配設されているのであるから,被告物件2は構成要件Dの「一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設した」を充足する。その先の抜き管部の存在は,構成要件Dの充足性に消長を来さない。
(被告の反論) (ア) 構成要件Dの「バーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた」の意義 本件明細書に,「バーナの特性によっては,燃焼をより円滑に行わせるために,バーナヘッド近傍での収熱水管を一部分省いて空間を作るようにして,空気過剰燃焼である希薄燃焼や燃料過剰の還元燃焼を同一燃焼室断面内でローカルに生ぜしめてもよい。」と記載されているように,バーナヘッド近傍で収熱水管を省いて混合空間を作り,そこで燃料と空気を混合し,あるエリアでは空気過剰の希薄燃焼を実現し,別のエリアでは燃料過剰の還元燃焼を実現するようにし,燃焼の円滑化を図るものである。そうすると,「バーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた」空間は,燃料と空気を混合し,希薄燃焼及び還元燃焼をする空間でなければならず,単に形式的にバーナ前面の水管が一部除去されているだけでは足りない。例えば,予混合バーナでは,バーナヘッドから燃料ガスが噴出される際には,既に空気との混合を完了しているのであるから,単数個のバーナではバーナ前面の空間の有無にかかわらず,混合空間を確保することはできないのであり,空気混合比を異ならせた複数個の予混合バーナを用いるか,燃料と空気を別々に噴出して互いに混合させつつ燃焼させる先混合バーナを用いる必要がある。
(イ) 充足性 被告物件は,燃焼反応部(燃焼火炎部)の「全空間」に収熱水管を配設したものでないこと,単数の予混合バーナを使用しているため,空気過剰燃焼や燃料過剰燃焼を同一燃焼室内でローカルに生じさせるものでないことから,構成要件Dの「バーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設した」を充足しない。
また,被告物件2では,バーナヘッド近傍のほかに,抜き管部12(上流で発生したCOをCO2に酸化させるための滞留時間を確保する空間)が存在する。したがって,被告物件2は,この点でも「一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設した」を充足しない。
構成要件Eの充足性 (原告の主張) (ア) 構成要件Eの「ピッチ(P)」の意義 構成要件Eの「ピッチ(P)」の意義は,以下のとおりの理由から,隣り合う水管と水管との中心間距離をいうと解すべきである。水管が千鳥配列で配置された場合,1つの管と斜め後方に位置する管については,「それぞれの水管と水管の中心間距離」を指すのであって,「1つの水管と斜め後方に位置する水管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」を指すものではない。
すなわち,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,@本件発明は,燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の収熱水管を密に配設挿入した収熱水管内挿型燃焼室としたので,水管群中で燃焼がされ,したがって,燃焼している状態すなわち燃焼火炎と多数の収熱水管とを接触させ,その密に配設挿入した収熱水管群により接触伝熱効果を高め,火炎の温度を抑制(低下)するものであるとされ(本件明細書2頁右欄5ないし18行),この接触伝熱効果は燃焼反応部における収熱水管群中の水管の密度に左右され,この密度は隣り合う水管と水管との中心間距離及び水管の直径によって定まること,A本件発明の作用について,収熱水管と収熱水管との隙間(水管壁と水管壁の隙間)間の距離を適当な値である数10oにすること,また火炎の流れが水管後流部に乱れた部分があることにより説明されており(同明細書2頁左下欄の式以下2ないし18行),収熱水管と収熱水管との間の距離及びそれぞれの収熱水管の後流部が本件発明の作用に関係するとされていること,B「収熱水管内挿型燃焼室における収熱水管の配列としては接触伝熱効果を上げるために,収熱水管群中では火炎又は燃焼ガスをある程度早い流速にする必要があり,或はバーナの燃焼断面熱負荷特性から,収熱水管群間では流速を或程度低下させる必要があるため,水管のピッチ(P)と水管直径(D)の比(P/D)を1.1〜2.0にすることが望ましい。」とされていること(同明細書2頁右下欄の式以下8ないし14行),これらの記載によれば,収熱水管群中での火炎又は燃焼ガスの流速は,隣り合う水管と水管との中心間距離及び水管の直径に左右されることが明らかである。したがって,構成要件Eの「ピッチ(P)」は隣り合う水管と水管との中心間距離をいうと解するのが相当である。
なお,本件特許に係る無効審判手続中で原告が提出した上申書(乙36)において,原告は,本件発明の収熱水管の間の「ピッチP」と収熱水管の直径Dの関係について,「P=D+S」と明示しており,「ピッチP」とは,「直径Dと間隙Sの和」すなわち,「1本の管の直径の2分の1+隣の管との間隙S+隣の管の直径の2分の1」であり,「隣合う収熱水管と収熱水管との中心間距離」であることを明確にしている。同上申書は,原告の上記主張と何らの矛盾もない。
(イ) 充足性 被告物件における「ピッチ(P)」は,「被告物件説明(原告主張)図4(図4については「被告物件説明(被告主張)」も同じである(以下,単に「被告物件説明の図4」という。)のとおりL1(80.0o)又はL2(72.9o)であり,直径D(60.3o)で割ると,1.21ないし1.33となり,本件発明の構成要件Eを充足する。
なお,被告物件におけるL1(80.0o),L2(72.9o)の平均値は,76.5oであるところ,これを前提とすると,P/Dは1.268であり,構成要件Eを充足する。
(被告の反論) (ア) 構成要件Eの「ピッチ(P)」の意義 構成用件Eの「ピッチ(P)」は,本件特許の出願当初の明細書に記載されているが,その定義は設けられていないので,出願当時の技術常識に基づいて理解すべきである。
出願当時の技術常識を検討すると,乙26ないし乙32に示されるように,水管を千鳥配列した場合において,「流れ方向のピッチ」とは,原告の主張するような「水管と水管との中心間距離」(被告物件説明図4記載のL1)ではなく,「1つの水管と斜め後方に位置する水管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」(同図4記載のL4)であるといえる。
本件特許の出願過程において,第4図が追加補正され,水管の直径Dとともに「ピッチP」が示されているけれども,同補正の記載は,原告の本訴における主張の根拠にはならない。
さらに,原告は,無効審判手続で提出した上申書(乙36)において,文献(乙33及び34)を添付した上で,水管の直径Dと水管の間隙Sの関係について説明し,その結果,本件特許が維持されたという経緯がある。そして,乙33及び34には,千鳥配列の場合の「流れ方向のピッチ」について,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」であることが,図面上明記されている。さらに,本件出願の日から約3か月後に出願された原告の別件特許出願の公開公報(乙37)には,原告の主張を示唆する記載は存在せず,かえって,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」Lがピッチであることが図面とともに記載されている(第1図D)。
原告のピッチに関する主張は,このように本件特許の出願当初明細書の記載,本件特許の成立に至る経緯,本件特許を維持するための主張や陳述,他の出願から理解される発明者の意図のすべてに矛盾するもので,信義則,禁反言に照らし許されない。
(イ) 充足性 被告物件における「ピッチP」は,流れの直交方向で,P1(L6)=122o,流れ方向でP2(L4)=40oであり,D=60.3oであるから,P1/D=2.02322,P2/D=0.66となり,いずれも構成要件Eを充足しない。
構成要件F(水管間隙が1o以上,数10o以下)の充足性 (原告の主張) 構成要件Fの「収熱水管の間隙」とは,隣接する水管と水管との各管壁外周面間の寸法を指す。他方,被告物件においては,図4のとおり,L3(12.6o)及びL5(19.7o)であるから,本件発明の構成要件Fを充足する。
(被告の反論) 本件明細書には,「収熱水管の壁面から1o以内のごく薄い部分では確かに火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃焼部分が存在するが,収熱水管と収熱水管との間に上記に記載した1oを超過した適当な例えば数10o程度の隙間を設けることによって,その空間において残存するCOや未燃焼部分が燃焼して消滅することが判明した。」と記載されており,この記載からすると,収熱水管の間隙について「数10o程度の隙間」又は「数10o程度を越える隙間」を設けなければならないことになるが,本件発明の構成要件Fでは,1o以上数10o以下とされ,技術的に矛盾しているとともに,不明瞭である。しかも,構成要件Fに含まれる水管の間隙が1oの場合は,水管の壁面からは,0.5oの空間しかとれず,火炎のクエンチング現象によるCOの発生や未燃焼部分が存在することになり発明性がない。
被告物件について,不明瞭な構成要件Fの充足性を論ずることは無意味である。
(2) 明らかな無効理由1(特許法29条の2) (被告の主張) 本件発明に対して先願の関係に立つ実願昭63-107336号の出願明細書(乙2と同一)には,本件発明と同じ,水管群に燃焼火炎をぶつける領域を持つ考案(以下「被告考案」という。)が記載されている。すなわち,同明細書には,「角型多管式貫流式ボイラー」として,一側端に予混合バーナを設け,他端側を燃焼ガス出口としたガス通路内のほぼ全域にわたって多数の水管を設けるという構成が記載されている。
本件発明の構成要件A,B,C,D及びGは,被告考案と同一である(本件発明の構成要件A,C,D及びGが被告考案と同一であることは,本件特許の無効審判請求に対する審決も肯定している。また,本件発明の構成要件Bも乙2に記載されている。)。本件発明の構成要件Eは,ボイラにおける常套手段にすぎず,何らの技術的特徴も認められない(乙8ないし11)し,ピッチ及び収熱水管の直径の比に関する数値限定には,臨界的な意義がなく,普通に採用されている数値を記載したにすぎない。本件発明の構成要件Fについても,周知慣用の数値範囲を含んだもので臨界的な意義がない上,技術的に不合理で矛盾したものである(乙8ないし11)。
なお,本件発明では「燃焼火炎」の語が使用されているのに対し,乙2では,「燃焼ガス」の語が使用されているが,「燃焼ガス」は,火炎を含むものと理解されるので(乙3ないし5),上記用語の相違によって被告考案と本件発明の同一性が左右されるものではない。
したがって,本件発明は,先願である乙2の被告考案と同一であり,特許法29条の2による明白な無効理由を有している。
(原告の反論) 乙2には,本件発明の構成要件Aにおける「ガス燃料の燃焼を行う燃焼反応部に多数の熱吸収水管を配設挿入した燃焼室」を設けるとの技術思想は一切記載されていない。「燃焼ガス」には火炎を含むとした東京高裁の判決(乙5)は,乙4を補正した明細書に基づくもので,乙2に関する判断ではないので,本件発明には妥当しない。
(3) 明らかな無効理由2(特許法36条,29条柱書違反) (被告の主張) 前記(1)エ記載のとおり,構成要件Fにおける,収熱水管の間隙を1o以上数10o以下とする数値限定は,本件明細書全体の記載に照らして,矛盾した記載である。また本件発明には発明性がない。本件特許は特許法36条及び29条柱書に違反する明らかな無効理由を有する。
(原告の反論) 被告の主張は争う。
(4) 権利濫用 (被告の主張) 被告物件が,原告の権利行使する発明に対して先願の関係に立つ被告の有する発明の実施に当たる場合には,原告の有する特許権に基づく請求は許されないと解すべきである。
ア 被告特許第2824619号(乙3,以下「被告特許」といい,その発明を「被告発明」という。)は,本件特許に対して先願の関係に立つ。
イ 被告物件は,以下のとおり,被告発明の実施品である(なお,その分割出願に係る特許第3180938号〔乙25〕の実施品にも該当する。)。
すなわち,被告発明は,A「一端側に予混合バーナを設け,他端側を燃焼ガス出口としたガス通路を備えること」,B「前記ガス通路内に,予混合バーナからの燃焼ガスの流通を許容する間隔をもって,当該ガス通路のほぼ全域に亘って多数の水管を設けていること」,C「前記多数の水管は,伝熱面密度の異なった複数群の水管群に構成されていること」,D「これら複数群の水管群は,前記ガス通路内における燃焼ガスの上流側から下流側に向けて,伝熱面密度の小なるものから大なるものの順に配置されていること」E「角型多管式貫流式ボイラであること」を構成要件としている。
他方,被告物件は,a「一対の水管壁1,1の長手方向一端側に予混合バーナ5を設け,他端側を燃焼ガス出口8とした燃焼ガス通路が設けられていること」,b「燃焼ガス通路9のほぼ全域には,予混合バーナ5からの燃焼ガスの流通を許容する間隔をもって,多数の垂直水管2a,3a,4aが挿設されていること」,c「燃焼ガス通路9には,伝熱面密度の小なるものから大なるものの順に,第1水管群2,第2水管群3,第3水管群4が配置されていること」,d「燃焼ガス通路9には,予混合バーナ5から燃焼ガス出口8に向けて,伝熱面密度の小なるものから大なるものの順に,裸管2a,裸管及びヒレ付管3a,裸管及びエロフィン管4aのように配置されていること」,e「角型多管式貫流式ボイラであること」から,被告発明の構成要件のすべてを充足する。
よって,被告物件は,被告発明の実施の一態様にほかならない。
(原告の反論) 被告物件が,乙3記載の発明の実施品であるとしたとしても,本件特許権に基づく権利行使が許されなくなる理由はない。
また,仮に,被告の主張に成立の余地があるとしても,被告発明に係る明細書の特許請求の範囲には,「燃焼ガスの流れ方向上流側から下流側に向けて,伝熱面密度の異なった2つ以上の水管群を同密度の小さいものから大きいものの順に配置する角形多管式貫流ボイラー」が記載され,本件発明とは相違する。
(5) 損害額 (原告の主張) ア 被告の得た利益(特許法102条2項) 被告は,平成2年ころから,被告物件を製造販売している。他方,原告は,平成4年以降,JPシリーズ,JMシリーズ(商品名「JAFIボイラ」)を製造販売している。被告物件とJAFIボイラは市場において競合したため,原告は被告物件の販売により,JAFIボイラを販売する機会を奪われ,得べかりし利益を喪失した。
また,ボイラメーカーは,その販売したボイラにつき,通常,その顧客との間でボイラ保守管理業務契約(メンテナンス契約)を締結し,同契約に基づいて,その販売先に対して,保守管理を行い,その対価として保守管理料(メンテナンス料)を得る。そのため,上記メンテナンス契約締結後,被告が被告物件を供給した顧客からその保守管理の対価として得られるメンテナンス料相当額についても,原告は利益を喪失した。
(ア) 被告物件販売による被告の利益 被告による被告物件の販売数量は,本件特許権の公告日(平成4年11月11日)以降,平成13年10月末日までで,少なくとも合計5750台である。そして,その販売単価は,SQ-800が460万円,SQ-1000が577万円,SQ-1200が630万円,SQ-2000が1040万円であるから,被告物件1台当たりの平均販売単価は680万円である。そうすると,公告日から平成13年10月末日に至るまでの被告物件の売上高は391億円となる。
5750台×680万円=391億円 そして,被告は被告物件販売により少なくとも1台当たり40%の利益を得ていると考えられる。
したがって,本件特許権の公告日以降平成13年10月末日までの間に,被告が被告物件の製造,販売により得た利益額は,金156億4000万円である。
391億円×0.4=156億4000万円 (イ) メンテナンス料による被告の利益 被告物件1台当たりのメンテナンス料(1年間)は,平均で35万円程度と推定される。メンテナンス料の年間売上高は,各年度において供給した販売台数(累計)に,1台当たりのメンテナンス料(1年間)金35万円を乗ずることによって計算される。これによると,90年度ないし2001年度(10月まで)までの被告物件の販売累計台数は6600台であり,92年度ないし2001年度までの各年度ごとのメンテナンス料売上高は,順に,3億4650万円(92年度),5億0400万円(93年度),6億7900万円(94年度),8億5400万円(95年度),10億6400万円(96年度),13億0900万円(97年度),15億8900万円(98年度),18億6900万円(99年度),21億4900万円(00年度),23億1000万円(01年度)であり,合計126億7350万円となり,本件特許の公告日から現在に至るまでのメンテナンス料の総額は,上記同額となる。そして,被告のメンテナンス事業における被告の利益率(粗利)は87.56%であるところ,メンテナンスに要する経費(人件費など)を考慮すれば,メンテナンスの利益率は少なく見積もっても70%である。
そうすると,本件特許権の公告日以降平成13年10月末日までの間に,被告がメンテナンス契約により得た利益額は,88億7145万円である。
126億7350万円×0.7=88億7145万円 (ウ) よって,被告は,被告物件の製造,販売,メンテナンス等によって合計245億1145万円の利益を受けているため,特許法102条2項により,その被告の得た利益額は,原告が受けた損害額と推定される。
実施料相当額(特許法102条3項) 特許法102条3項に基づく実施料相当額は,被告物件販売による売上高391億円に,メンテナンス契約による売上高126億7350万円を加算した合計517億7350万円の少なくとも実施料率10%の金51億7735万円である。
ウ よって,原告は内金として金5億円を請求する。
(被告の反論) 原告の主張はいずれも争う。
争点に対する判断
1 争点(1)ウ(構成要件Eの充足性)について (1) 構成要件Eの「ピッチ(P)」の意義 ア 本件明細書の記載 構成要件Eの「ピッチ(P)」について,本件明細書の「特許請求の範囲」には,直接の定義はされていない。また「発明の詳細な説明」の〔課題を解決するための手段〕の欄には,「収熱水管内挿型燃焼室における収熱水管の配列としては接触伝熱効果を上げるために,収熱水管群中では火炎又は燃焼ガスをある程度早い流速にする必要があり,或はバーナの燃焼断面熱負荷特性から,収熱水管群間では流速を或程度低下させる必要があるため,水管のピッチ(P)と水管直径(D)の比(P/D)を1.1〜2.0にすることが望ましい。P/Dが1.1未満では,水管まわりのガス流速が早くなりすぎて圧力損失が大きくなることや,燃焼に必要な流れ方向に直角な断面積がとれなくなり,燃焼上問題があり,また,P/Dが2.0を超過すると,ガス流速が遅くなり,収熱水管の伝熱性能が悪化し,結局燃焼室の小型化ができないということになる。」と記載され(2頁右下欄の式以下8ないし20行),同明細書添付の図面第4図Bに,水管式ボイラの収熱水管を千鳥目に配列した実施例において,火炎又は燃焼ガスの流れ方向に直行する「ピッチ(P)」については,流れに直交方向に並んだ収熱水管同士の中心を結んだ距離を図示している。
以上のとおり,本件明細書の記載によっては,「ピッチ(P)」の意義は必ずしも明らかとはいえない。そこで,「ピッチ」に関する出願当時の技術常識,本件特許出願過程等における原告の陳述内容を参酌して,その意義を確定する。
イ ピッチに関する出願当時の技術常識 流体流れ中に「千鳥配列」で配設された管への熱伝達に関する以下の文献が存する(乙9,26ないし34)。
(ア) 乙26(昭和21年版)(乙9と同一)の312頁の第183図には,流体流れ中の千鳥目配管において,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」(Sq)及び「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」(Sl)と「管の直径」(d)との比(Sq/d,Sl/d)が熱伝達率比と圧力損失比に影響を与える旨が記載されている。
(イ) 乙27(1950(昭和20)年版)の図40には,流体流れ中の千鳥目配管において,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」(Y)及び「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」(X)が示され,これらの数値により単位断面領域当たりの伝熱量及び圧損が影響を受ける旨が記載されている。
(ウ) 乙28(昭和45年版)の103頁の第19図には,流体流れ中の千鳥配列の管群において,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」(Sq)及び「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」(Sl)と管の直径(d)の比(Sq/d,Sl/d)が熱伝達率に影響を与える旨が記載されている。
(エ) 乙29(昭和37年版)の109頁の第6・13図には,流体流れ中の円管群の千鳥配列において,流体が管群に直角に流れる場合に,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」をS2,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」をS1,管の直径をdとし,熱伝達率がこの配列の仕方,S1/d,S 2/dによっても異なる旨が記載されている。
(オ) 乙30(1975〔昭和50〕年版)の40頁第1図及び乙34(1966〔昭和44〕年版)の42頁第1図には,流体流れ中の円管群を千鳥状に配管した方式において,流体が管群に直角に流れる場合に,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」をS1,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」をS2,管の直径をd(円管の外径)とし,伝熱及び圧力損失がS1/d(σ 1)及びS 2/d(σ 2)によって影響を受ける旨が記載されている。
(カ) 乙31(昭和50年版)の159頁の8・8図には,流体流れの中に,流れに直角に,かつ千鳥状に配列した円管群において,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」をY,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」をX,管の直径をdとし,Y/d及びX/dが熱伝達率に影響を与える旨が記載されている。
(キ) 乙32(昭和60年版)の122頁の図146には,流体流れ中に管群を千鳥状に配列した形式のものにおいて,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」をY,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」をX,管の直径をdとする旨が記載されている。
(ク) 乙33(昭和49年版)の30頁の図2.6には,流体流れの中に,流れに直角に,かつ千鳥状に配列した円管群において,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」をピッチS2,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」をピッチS1,管の直径をdとし,管の配列の仕方及びピッチS1,S 2の数値に,燃焼ガスから管の外面へ熱が伝わるときの熱伝達率が影響を受けることが記載されている。
以上によれば,流体流れ中に「千鳥配列」で管を配設した場合の熱伝達という技術分野において,ピッチは,特段の説明がない限り,「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」及び「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」を指すとするのが,本件特許出願当時(昭和63年9月10日)の当業者における技術常識であったということができる。
ウ 本件特許の無効審判手続における原告の陳述等 原告は,本件特許権に対する無効審判手続で提出した上申書(乙36)において,前記乙33及び34を提出した上で,水管の直径D,水管の間隙Sの関係について以下のとおりの説明をしている。
すなわち,原告は,同上申書(乙36)において,乙33及び34の記載(「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」及び「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」を「ピッチ」として,これを前提にした記載がされている。)を引用しながら,本件発明の収熱水管の間のピッチPと収熱水管の直径Dの関係について,「比P/Dは,P=D+S(S:間隙)であるから,P/D=(D+S)/D=1+S/D よって1.1≦1+S/D≦2.0 0.1≦S/D≦1.0 従って,S/D比でも表されるものであり等価であって,この比は間隙比でもあることから,上下限の限定は当初の明細書から充分に記載されているものであり,一方は寸法で,他は比で表したものでありますので,この点からも要旨を変更したものではないと確信致します。」と陳述している。
(なお,原告が出願した本件特許と同一分野における別件特許明細書(乙37参照)には,ボイラの水管を千鳥目に配列した場合の図面が記載され,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」をL(o),「水管群のガス流れに直角方向の距離」をH(o)とし(第1図D),水管の外径をD(o)とした場合のL/D及びH/Dの数値のボイラにおける伝熱性能及び圧損の増大に対する影響を論じた記載がある。) エ 小括 以上のピッチに関する出願当時の技術常識,本件特許出願過程等における原告の陳述内容を総合考慮すれば,本件発明の構成要件Eにおける「ピッチ(P)」とは,水管式ボイラにおいて,水管が千鳥配列で配置された場合,1つの管と斜め後方に位置する管においては,「それぞれの水管と水管の中心間距離」を指すのではなく,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」を指すことが明らかである(なお,流れの直交方向に並んだ管においては,「管同士の中心を結んだ距離」を指すことは,本件明細書添付の図面第4図Bから明らかである。)。
なお,原告は,本件発明の作用が,収熱水管と収熱水管との隙間(水管壁と水管壁の隙間)間の距離を適当な値である数10oにすること及び収熱水管後流部に乱れた部分が存在することに関係しているとの本件明細書の記載(2頁左下欄2ないし18行)を根拠にしているが,同記載は,構成要件Eの「ピッチP」に関するものではなく,構成要件Fの水管間隙に関する説明であって,前記の認定判断を左右するものとはいえない。
(2) 充足性 被告物件目録の図4によれば(ピッチに関する寸法は当事者間に争いがない。),「流れの直交方向に並んだ管同士の中心を結んだ距離」は,同図面におけるL6(122.0o)であり,「1つの管と斜め後方に位置する管のそれぞれ中心位置の流れ方向に測定した距離」は,同図面におけるL4(40.0o)である これらを,それぞれ水管の直径60.3oで除すると,それぞれ,2.02322及び0.66となる。
そうすると,被告物件では,収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比は,0.66及び2.02322であり,本件発明の構成要件E(1.1≦P/D≦2.0)を充足しない(なお,2.02322は,有効数字で算定した場合に,2.0をほぼ充足すると解することもできなくないが,0.66が明らかに充足していない以上,上記結論を左右するものではない。)。
2 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。
追加
物件目録SQ型貫流式水管ボイラ被告物件説明(原告主張)第1被告物件1下記説明,構成及び作用を有する貫流式水管ボイラ1説明(1)図面の説明ア図1被告物件1本体の側面図バーナ4(図左側)と収熱水管内挿型燃焼室1(図中央)の位置関係を示す。
なお,図中矢印は,ガスの流れる方向を示す(以下「上流」「下流」とは,このガスの流れる方向を基準とする。)。
イ図2収熱水管内挿型燃焼室1の側面図ウ図3収熱水管内挿型燃焼室1の平面図(図1のAA断面)収熱水管内挿型燃焼室1を上部から見た水管群の詳細エ図4水管群の千鳥配列を示す図面(2)符号の説明1収熱水管内挿型燃焼室1A燃焼反応部2収熱水管2A外側に配列される水管(外列水管)2B内側に配列される水管(内列水管)2Ba横ヒレ付き水管2Bbスパイラル状ヒレ付き水管3ファン4バーナ5バーナヘッドP収熱水管のピッチD収熱水管の直径2構成及び作用(1)バーナ4被告物件1の図1左側にはバーナ4が設けられる。バーナ4においては,ファン3から取り込まれた空気に燃料ガスを予め混合し,該混合ガスに点火して,バーナヘッド5から,収熱水管内挿型燃焼室1に向けてバーナー火炎を噴射する。
(2)収熱水管内挿型燃焼室1ア収熱水管内挿型燃焼室1においては,同室1の外側に配列される外列水管2A,内側に配列され全周が伝熱面積となる内列水管2Bとから構成される。
収熱水管2は,図3のように千鳥目状に配列される。
上記配列において,バーナヘッド5近傍には収熱水管2が除かれた空間が形成されている。
イ収熱水管2の直径Dは,60.3oであり,収熱水管2のピッチP(水管と隣り合う水管の中心間の距離)は80oである。
ウ収熱水管内挿型燃焼室1の内,バーナヘッド5から噴射されるバーナー火炎によって形成される燃焼火炎が届く範囲(燃焼反応部1A)よりも下流側(図3右方向)にある内列水管2Bの一部には,横ヒレが形成された水管2Ba,スパイラル状ヒレが形成された水管2Bbが配列される。
(3)作用バーナヘッド5から,収熱水管内挿型燃焼室1に向けて噴射されたバーナー火炎は,収熱水管内装型燃焼室1内の水管群に直接ぶっつけられる。それによって,燃焼反応部1Aに存在する水管群の水管壁面周辺の空間において燃焼火炎が形成される。
以上図1図2図3水管郡の千鳥配列第2被告物件2下記説明,構成及び作用を有する貫流式水管ボイラ1説明(1)図面の説明ア図1被告物件2本体の側面図バーナ4(図左側)と収熱水管内挿型燃焼室1(図中央)の位置関係を示す。
なお,図中矢印は,ガスの流れる方向を示す(以下「上流」「下流」とは,このガスの流れる方向を基準とする。)。
イ図2収熱水管内挿型燃焼室1の側面図ウ図3収熱水管内挿型燃焼室1の平面図(図1のAA断面)収熱水管内挿型燃焼室1を上部から見た水管群の詳細エ図4水管群の千鳥配列を示す図面(2)符号の説明1収熱水管内挿型燃焼室1A燃焼反応部2収熱水管2A外側に配列される水管(外列水管)2B内側に配列される水管(内列水管)2Ba横ヒレ付き水管2Bbスパイラル状ヒレ付き水管3ファン4バーナ5バーナヘッドP収熱水管のピッチD収熱水管の直径2構成及び作用(1)バーナ4被告物件2の図1左側にはバーナ4が設けられる。バーナ4においては,ファン3から取り込まれた空気に燃料ガスを予め混合し,該混合ガスに点火して,バーナヘッド5から,収熱水管内挿型燃焼室1に向けてバーナー火炎を噴射する。
(2)収熱水管内挿型燃焼室1ア収熱水管内挿型燃焼室1においては,同室1の外側に配列される外列水管2Aと,内側に配列され全周が伝熱面積となる内列水管2Bとから構成される。
収熱水管2は,図3のように千鳥目状に配列される。
上記配列において,バーナヘッド5近傍には収熱水管2が除かれた空間が形成されている。
また,燃焼反応部1Aの下流側(図3右方向)の内列水管2Bが一部除去されている。
イ収熱水管2の直径Dは,60.3oであり,収熱水管2のピッチP(水管と隣り合う水管の中心間の距離)は80oである。
ウ収熱水管内挿型燃焼室1の内,バーナヘッド5から噴射されるバーナー火炎によって形成される燃焼火炎が届く範囲(燃焼反応部1A)よりも下流側(図3右方向)にある内列水管2Bの一部には,横ヒレが形成された水管2Ba,スパイラル状ヒレが形成された水管2Bbが配列される。
(3)作用バーナヘッド5から,収熱水管内挿型燃焼室1に向けて噴射されたバーナー火炎は,収熱水管内挿型燃焼室1内の水管群に直接ぶっつけられる。それによって,燃焼反応部1Aに存在する水管群の水管壁面周辺の空間において燃焼火炎が形成される。
図1図2図3図4被告物件説明(被告主張)第1被告物件11被告物件1の図面の説明(1)図1は,被告の製品である角型多管式貫流式ボイラー(被告物件1)の概略側面図である。図中の矢印は燃焼ガスの流通方向を示している。
(2)図2は,被告物件1において,燃焼ガス通路中の垂直水管を示す側面図である。図2の左側が燃焼ガス通路の上流側,右側が下流側である。
(3)図3は,被告物件1において,燃焼ガス通路中の水管配列を示す平面図である。
(4)図4は,水管群の千鳥配列を示す図面である。
(5)符号の説明1水管壁1a水管壁を構成する垂直水管2第1水管群3第2水管群4第3水管群2a(B)第1水管群の垂直水管(裸管)3a(H)第2水管群の垂直水管(ヒレ付管)3a(B)第2水管群の垂直水管(裸管)4a(E)第3水管群の垂直水管(エロフィン管)4a(B)第3水管群の垂直水管(裸管)5予混合バーナ6フィン状部材8燃焼ガス出口9燃焼ガス通路10上ヘッダ11下ヘッダP1燃焼ガスの流れに直交する方向のピッチP2燃焼ガスの流れ方向のピッチ2被告物件1の構成(1)ボイラー角型缶体の外郭を形成する水管壁1,1約80o間隔で配置した12本の垂直水管1a・・・1aは,隣り合う垂直水管1a同士をフィン状部材6で連結して矩形状の一対の水管壁1,1を構成し,この一対の水管壁1,1をほぼ平行に配置してボイラー角型缶体の外郭を形成している。
(2)上下のヘッダー10,11一対の水管壁1,1を構成する垂直水管1aの上下端は,上下のヘッダ10,11に連結されている。
(3)予混合バーナ5一対の水管壁1,1の長手方向一端側には,予混合バーナ5が設けられ,他端側には燃焼ガス出口8が設けられている。
(4)燃焼ガス通路9一対の水管壁1,1と上下のヘッダ10,11とにより画成され,予混合バーナ5から燃焼ガス出口まで,燃焼ガスが実質上直線的に通過する燃焼ガス通路9が形成されている。
(5)燃焼ガス通路9に挿設された多数の垂直水管2a,3a,4a燃焼ガス通路9のほぼ全域には,予混合バーナ5からの燃焼ガスの流通を許容する間隔をもって,多数の垂直水管2a,3a,4aが挿設され,各垂直水管2a,3a,4aの上下端は,上下のヘッダ10,11に連結されている。
(6)水管群2,3,4の伝熱面密度燃焼ガス通路9には,予混合バーナ5から燃焼ガス出口8に向けて,伝熱面密度の小なるものから大なるものの順に,第1水管群2,第2水管群3,第3水管群4が配置され,第1水管群は21本の裸管2a(B),第2水管群は6本のヒレ付管3a(H)及び3本の裸管3a(B),第3水管群は2本のエロフィン管4a(E)及び1本の裸管4a(B)で構成されている。
(7)垂直水管2a,3a,4aの千鳥配列各垂直水管2a,3a,4aの直径は,60.3oであり,垂直水管同士のピッチは,燃焼ガスの流れに直交する方向においてP1=122o,燃焼ガスの流れ方向においてP2=40oであり,各垂直水管2a,3a,4aは千鳥状に配列されている。
以上図1図2図3図4第2被告物件21被告物件2の図面の説明(1)図1は,被告の製品である角型多管式貫流式ボイラー(被告物件2)の概略側面図である。図中の矢印は燃焼ガスの流通方向を示している。
(2)図2は,被告物件2において,燃焼ガス通路中の垂直水管を示す側面図である。図2の左側が燃焼ガス通路の上流側,右側が下流側である。
(3)図3は,被告物件2において,燃焼ガス通路中の水管配列を示す平面図である。
(4)図4は,水管群の千鳥配列を示す図面である。
(5)符号の説明1水管壁1a水管壁を構成する垂直水管2第1水管群3第2水管群4第3水管群2a(B)第1水管群の垂直水管(裸管)3a(H)第2水管群の垂直水管(ヒレ付管)3a(B)第2水管群の垂直水管(裸管)4a(E)第3水管群の垂直水管(エロフィン管)4a(B)第3水管群の垂直水管(裸管)5予混合バーナ6フィン状部材8燃焼ガス出口9燃焼ガス通路10上ヘッダ11下ヘッダ12抜管部P1燃焼ガスの流れに直交する方向のピッチP2燃焼ガスの流れ方向のピッチ2被告物件2の構成(1)ボイラー角型缶体の外郭を形成する水管壁1,1約80o間隔で配置した12本の垂直水管1a・・・1aは,隣り合う垂直水管1a同士をフィン状部材6で連結して矩形状の一対の水管壁1,1を構成し,この一対の水管壁1,1をほぼ平行に配置してボイラー角型缶体の外郭を形成している。
(2)上下のヘッダ10,11一対の水管壁1,1を構成する垂直水管1aの上下端は,上下のヘッダ10,11に連結されている。
(3)予混合バーナ5一対の水管壁1,1の長手方向一端側には,予混合バーナ5が設けられ,他端側には燃焼ガス出口8が設けられている。
(4)燃焼ガス通路9一対の水管壁1,1と上下のヘッダ10,11とにより画成され,予混合バーナ5から燃焼ガス出口まで,燃焼ガスが実質上直線的に通過する燃焼ガス通路9が形成されている。
(5)燃焼ガス通路9に挿設された多数の垂直水管2a,3a,4a燃焼ガス通路9のほぼ全域には,予混合バーナ5からの燃焼ガスの流通を許容する間隔をもって,多数の垂直水管2a,3a,4aが挿設され,各垂直水管2a,3a,4aの上下端は,上下のヘッダ10,11に連結されている。
(6)水管群2,3,4の伝熱面密度燃焼ガス通路9には,予混合バーナ5から燃焼ガス出口8に向けて,伝熱面密度の小なるものから大なるものの順に,第1水管群2,第2水管群3,第3水管群4が配置され,第1水管群は17本の裸管2a(B),第2水管群は6本のヒレ付管3a(H)及び3本の裸管3a(B),第3水管群は2本のエロフィン管4a(E)及び1本の裸管4a(B)で構成されている。
(7)抜管部12第一水管群2では,裸管2aを4本分除去して抜管部12を形成している。
(8)垂直水管2a,3a,4aの千鳥配列各垂直水管2a,3a,4aの直径は,60.3oであり,垂直水管同士のピッチは,燃焼ガスの流れに直交する方向においてP1=122o,燃焼ガスの流れ方向においてP2=40oであり,各垂直水管2a,3a,4aは,抜管部12を除いて千鳥状に配列されている。
以上図1図2図3図4
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村智