運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ネ2147特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ3746特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ2296特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成11ネ855損害賠償請求控訴事件 平成11ネ4565附帯控訴事件 判例 特許
平成14ネ4293損害賠償請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  援用権(援用) /  対象製品 /  均等 /  均等論 /  置換 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  通常実施権 /  独占的通常実施権 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (ネ) 4333号 損害賠償請求控訴事件
控訴人(原告) 東成建設株式会社
訴訟代理人弁護士 斎藤 宏,彌冨悠子
補佐人弁理士 清水敬一
被控訴人(被告) 株式会社ライナックス
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男,吉田和彦,渡辺 光
補佐人弁理士 倉澤伊知郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/10/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
原判決を取り消す。
被控訴人は,控訴人に対し,金4000万円及びこれに対する平成12年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
仮執行宣言
事案の概要
本判決においても,原判決の用語例に従い,「本件特許権」,「本件発明1」,「本件発明2」,「本件明細書」,「接着剤塗布過程」,「接着過程」,「被告製品」などという。
1 本件訴訟の経緯 本件は,原審において,本件特許権(特許第1640200号)の独占的通常実施権者である控訴人が,被控訴人に対し,被告製品は,本件発明1の実施にのみ使用するもので,かつ,本件発明2の技術的範囲に属するから,被控訴人による被告製品の製造販売は,本件特許権の侵害であると主張して,不法行為に基づく損害賠償又は不当利得に基づく利得の返還を求めたものである。
原判決は,被告製品が本件発明1の実施のみに使用される製品であるとは認められないこと,被告製品が控訴人主張のような構成を有することを認めることはできないこと,仮に,被告製品が控訴人主張のような構造を有するとしても,被告製品は本件発明2の構成要件(ウ)「該チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらして配置された」を充足しないことを理由として,控訴人の請求を棄却した。そこで,控訴人が本件控訴の提起をするに至った。
控訴人は,当審において,後記のとおり,被告製品と同じモデル型式であるが一部構造の異なる「ウレタン表層切削機ライナックスU-650,No2」という切削装置(以下「被告製品2」という。)を被控訴人が製造販売することによる本件特許権侵害(不法行為に基づく損害賠償又は不当利得に基づく利得返還請求)の主張を選択的に追加し,いずれかの製品による本件特許権侵害を理由として,前記の4000万円に満つるまでの金員とこれに対する前記遅延損害金の支払いを求めたものであり,また,被告製品及び被告製品2に関して均等論の主張を追加したものである。
2 争いのない事実等 (1) 次のとおり付加するほかは,原判決2頁2行目ないし3頁18行目のとおりであるから,これを引用する(ただし,2頁2行目及び同11行目の「特許請求の範囲請求項1」を「特許請求の範囲第1項」と,同3行目の「同請求項2」を「同2項」と,同16行目の「特許請求の範囲請求項2」を「特許請求の範囲第2項」と訂正する。)。
(2) 原判決2頁9行目の「出願日 昭和60年5月27日」の次に,行を改めて,「訂正審判日 平成13年6月18日」を付加する。
原判決2頁12行目の「固い基礎床体上に」の前に,「移動する切削機の切削刃を回転させることにより」を付加する。
原判決2頁最終行の「固い基礎床体上に」の前に,「移動する切削機の切削刃を回転させることにより」を付加する。
原判決3頁17行目の「を製造販売している」の前に,「及び「ウレタン表層切削機ライナックスU-650,No2」という切削装置(以下「被告製品2」という。)」を付加する。
争点及び当事者の主張等
1 以下のとおり付加するほかは,原判決3頁末尾から2行目ないし9頁末尾から5行目までのとおりであるからこれを引用する(ただし,4頁1行目,5頁末尾から4行目,7頁6行目及び同頁末尾から3行目の「特許請求の範囲請求項1」を「特許請求の範囲第1項」と訂正する。)。
2 争点の追加 原判決4頁3行目の「(4) 損害又は損失の発生及び額」の次に改行して,「(5) 争点(1)における均等論の要件の成否 (6) 被告製品2が,本件発明1の実施のみに使用する製品かどうか (7) 争点(6)における均等論の要件の成否 (8) 被告製品2が,本件発明2の構成要件(ウ)を充足するかどうか (9) 被告製品2が,本件特許請求の範囲第3項の要件を充足するかどうか」を付加する。
3 当審における控訴人の主張の要点 (1) 請求原因としての主張の追加,訂正 (1-1) 被告製品及び被告製品2に関する均等論について(争点(5)(7)) 被控訴人の主張する修理方法は,下記のとおり,均等要件からみても本件発明1を侵害するものである。
接着性のある可撓性層材を使用することにより,これを下部可撓性層に接着させて付着させる方法は,本件発明1と技術思想を共通にするものである。どのように接着させるかは,本件発明1の本質的部分ではない。
接着性のある可撓性層材を使用することにより接着剤を使用しないでその可撓性層材を下部可撓性層に接着させ,付着させても,本件発明1の目的を達することができ,同一の作用効果を奏することができる。
可撓性層材としてウレタン材を使用すること,ウレタン材に接着性があることは,周知の事柄である。接着剤を使用せずウレタン材を塗り重ねることによりこれを下部可撓性層に接着させ,付着させることは,当業者が容易に想到することができた。
被控訴人主張の修理方法は,本件特許出願時における公知技術と同一ではなく,また,当業者が出願時に容易に推考することができたものでもない。
新たに付着する可撓性層材として接着性があるものを使用することにより接着剤の塗布を省いてその可撓性層材を下部可撓性層に接着させる方法は,本件特許出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものではない。
(1-2) 被告製品2と本件発明1について(争点(6)) 被告製品に関する主張と同旨である(原判決4頁6行目ないし5頁14行目参照)。
(1-3) 被告製品2と本件発明2の構成要件(ウ)について(争点(8)) 被告製品2は,本判決末尾添付の図面aに示したような概略の構成を有しており,円形板32を横から見ると,隣接する円形板32のチップ33が重ならず,一定角度間隔ずれた状態で設置されている。各円形板32は,いずれも同一の形状に形成され,チップ33は,円形板32に等角度間隔で設けられているため,円形板32のチップ33は,隣接する円形板32のチップ33に対し,一定角度間隔ずらして配置されている。よって,被告製品2においては,「チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらして配置され」ており,本件発明2の構成要件(ウ)を充足する。
チップを一定間隔ずらすという意味は,隣接する円形板のチップ間をいうのであり,隣接しない円形板のチップ間は一定角度間隔ずらしてもずらさなくてもいいのである。また,円形板Aのチップとこれに隣接する円形板Bのチップが円周方向にずれる距離と,円形板Bのチップとこれに隣接する円形板Cのチップが円周方向にずれる距離とが等しい必要もない。以上の点は必須構成要件ではない。
(1-4) 被告製品2と本件特許請求の範囲第3項について(争点(9)) 被告製品2は,概ね本判決末尾添付の図面aのような構成を有しており,その使用する回転刃において,チップ33の幅は,円形板32の幅より明らかに大きい。
さらに,チップ33の各側面Pは,隣接する円形板32に固着されたチップ33の対応側面Qを含む面より外側に突出する。被告製品2では,実質的にチップ33の外周部で交互にオーバーラップした状態で配置されている。これを写真で説明すると,平成14年4月19日付け控訴人準備書面(6)に添付の写真@において,円形板に取り付けられたチップAの側面Pは,隣接する円形板に取り付けられたチップBの側面Qを含む面より外側に突出している。この突出は,チップ間の衝突による損傷を防ぐためであって,特許請求の範囲第3項と技術思想を一にする。したがって,被告製品2は,本件特許請求の範囲第3項の技術的範囲に包含される。
(1-5) 争点(4)「損害又は損失の発生及び額」の控訴人(原告)の主張につき,原判決9頁18行目の「被告製品」の次に「及び被告製品2」を,「販売額は」の次に「総額」をそれぞれ付加した上,原判決の摘示を引用する。
(2) 原判決に対する控訴理由の要点 (2-1) 争点(1)に関する原判決の認定判断に対して 原判決は,本件発明1が解決しようとした技術的課題が何であり,この課題をいかに解決したかの検討を欠き,本件発明1の発明の本質を理解しないものであって,失当である。
被控訴人の修理方法が本件発明1と異なる点は,新たに付着する可撓性層材に接着性があるため,接着剤の塗布を要しないという点だけであるが,この点について何ら独創性があるわけでもなく,技術思想は本件発明1と全く同じで,同じ作用効果を全て奏しており,解決原理も同一であることが明白である。
原判決の挙げる理由はいずれも理由にならないものであり,そもそも,接着性のある可撓性層材を使用することにより,接着させる方法でも,技術的にみれば「接着剤の塗布過程」は存在しており,本件発明1の技術的範囲に含まれることは明らかである。
(2-2) 争点(3)に関する原判決の認定判断に対して (2-2-1) 原判決は,本件発明2の「一定角度間隔ずらして配置された」とは,オーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けるために,円周方向において,上記チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔ずらすことを意味するものと認められる旨説示しているが,オーバーラップは本件特許請求の範囲第3項に関することであって,本件発明2はオーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けることを構成要件としていない。特許請求の範囲第3項の限定事項を本件発明2に含めて本件発明2の技術的範囲を決定することはできない。
(2-2-2) 「一定角度間隔ずらして配置」する理由は,次のとおりである。
隣接する円形板のチップの角度間隔のずれがなく,直線上に配置された場合,一直線上に配置されたチップが一度に可撓性層に当接するので切削抵抗が大きく,大きな駆動力が必要になると同時に切削面が大きく変形するという欠点がある。これに対し,本件発明2のように,隣接する円形板のチップを一定角度間隔ずらして配置すると,チップは一度に可撓性層に当接せず,順次チップが可撓性層に当接して切削を行うので切削抵抗が小さく,大きな駆動力を必要とせず,可撓性層に大きな変形が発生せず円滑に可撓性層を切削することができる。また,本件発明2では,先行するチップによる可撓性層の弾性変形が弾性変形前の初期の状態に復帰する前に,後続するチップが可撓性層の表面に継続的に当接するように,隣接する円形板のチップに対し,一定角度チップをずらして配置すれば,可撓性層の弾性変形及び弾性形状復帰現象が発生せずに,可撓性層を均一平面に切削することができる。
このように,「一定角度間隔ずらして配置」することにより,可撓性表面部を正確かつ平坦に切削することを可能とするものである。
なお,本件明細書では,実施例の項において,「上記可撓性層20は,ゴム等比較的軟質の材料で作られるため,従来の切削機では,その表面部のみを正確な寸法で除去することは困難である。これは,切削時に切削刃チップによって加えられた力でゴム表面が変形するため,ゴムを均一平面に切削できないためである。」という記載がある。
(2-2-3) 被控訴人は,チップのオーバーラップを構成上の要件としなければ,本件発明2は効果を達成できない旨主張するが,本件特許請求の範囲第2項は,必要かつ十分な構成を記載している。隣接する円形板のチップ間の距離をチップ相互が接するほどに小さくすれば,虎刈りをほとんど防止することができる。
可撓性層の全体でも部分的でも平坦に切削できる「可能性」があれば本件発明の目的を達成し得るものと解すべきである。
4 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 請求原因の主張の追加に対する反論 (1-1) 被告製品,被告製品2に関する均等論について(争点(5)(7)) 均等論は,特許発明のある構成の代わりに別の構成を対象製品等が有している場合に,対象製品等が特許発明技術的範囲に含まれるかどうかという問題であるから,本件のように,対象となる被控訴人の方法が本件発明1の「接着剤塗布過程」という要件を全く欠いている場合には,そもそも均等論の適用があり得ない。
接着剤塗布過程を本件発明1の本質的部分ではないとして,発明の要件の一つを無視することは均等論としても許されない。本件発明1と被控訴人の方法とは,技術的思想を異にするものであり,また,同じ作用効果を有するものではない。被控訴人の方法は,本件発明の出願前から実施されており,この方法に関し,均等論が成立する余地はない。
(1-2) 被告製品2と本件発明1について(争点(6)) 被告製品2も本件発明1記載の修理方法のみに使用されるものではない。その理由は,被告製品に関して主張したところと同旨である(原判決5頁15行目ないし7頁1行目参照)。
(1-3) 被告製品2と本件発明2の構成要件(ウ)について(争点(8)) 被告製品であるライナックスU-650には,被告製品2のような構成のものも存在するが,違いは,従前の被告製品が,チップと支持軸用穴との位置関係を特定させたためにチップが一列に整列しているのに対し,被告製品2が,これを不特定にしたためにチップが一列に整列していないかの違いであり,構成は基本的に同一であり,いずれも本件発明2の技術的範囲に含まれない。
被告製品は,被控訴人の有する特許第2929346号の実施品であり,回転体(本件発明2における円形板に相当)を回転軸(同じくシャフトに相当)に対して傾斜させて配設すべく所定の傾斜角度を有する支持部材を設けたものであるから,可撓性層材の表面部を正確な寸法で平坦面に切削し,かつ虎刈りを防止するためであっても,チップの幅を円形板の幅よりも大きくする必要はないので,チップ間の衝突という事態もなく,したがって,「隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらす」必要もないのである。被告製品2は,チップと支持軸用穴の位置関係を不特定とし,組み付けもランダムにしているので,チップが一定角度間隔ずらして配置されることはあり得ず,チップが「一定」してずれているように見える部分があったとしても偶発的であり,ずれていないものもある。よって,被告製品2も構成要件(ウ)を充足しない。
本件発明2の構成は,ある円形板上のすべてのチップが隣接する円形板(両端を除き隣接する円形板はそれぞれ両側に2つある。)のすべてのチップと一定の間隔でずれていなければならないはずである。
(1-4) 被告製品2と本件特許請求の範囲第3項について(争点(9)) 控訴人の主張する被告製品2の図面(本判決末尾添付の図面a)は,極めて不正確である。被告製品2の各チップの側面は,基本的に円形板と平行であり,その結果,隣接する円形板に固着されたチップの対応側面より外側に突出することはない。しかも,控訴人主張にかかる上記図面aでは,チップ同士ははるかに離れ,およそ衝突するおそれがないのであって,侵害が成立するはずがない。
被告製品2の円形板の回転面を考えれば,あるチップと隣接する円形板上のチップは,オーバーラップしていない。特許請求の範囲第3項のオーバーラップは,衝突を防止する必要のあるオーバーラップであり,「交互に」オーバーラップしている構成でなければならないから,被告製品2が特許請求の範囲第3項を侵害していることにはならない。
(2) 控訴理由に対する反論 (2-1) 争点(1)に関する原判決の認定判断について 被控訴人の方法と本件発明1の技術的思想が全く同一であるとする控訴人の主張は誤っている。また,両者が同じ作用効果を全て奏しているとの主張も,少なくとも,「安価な接着剤の使用により修理コストを最小限度に低下することができる」という本件発明1の作用効果を被控訴人の方法が奏していない。そして,原判決が挙げる理由はいずれも相当であり,控訴人の主張は理由がない。
控訴人は,本件特許の無効審判事件において,本件発明1が接着剤を必要とする層の修復であることを主張し,これが認められて特許が維持されたものであるから,本件侵害訴訟になって,接着剤を必要としない層を修復する被控訴人の方法を技術的範囲に含まれるものと主張することは,禁反言の原則に照らし許されない。
(2-2) 争点(3)に関する原判決の認定判断について (2-2-1) 本件明細書においては,「チップ間の衝突による損傷を防止する」ことの関係で「一定角度間隔」ずらすことが記載されているのであり,本件明細書の記載を前提にすれば,原判決のような解釈しかあり得ず,その解釈には合理性がある。
本件発明2(特許請求の範囲第2項)でも,オーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けることを構成上の要件としなければ,控訴人の主張する発明の効果を達成することができない。本件明細書の「発明の効果」欄では,「この発明の前記切削装置を使用することにより,正確かつ平坦な切削面を形成することができる。これは,隣接する円形板のチップが交互にオーバーラップした状態で配置される新しい構成によって達成することができる。」とのみ記載されている。この記載からすれば,「隣接する円形板のチップが交互にオーバーラップした状態で配置される新しい構成」であるからこそ,「正確かつ平坦な切削面を形成することができる」としか読みようがない。特許請求の範囲第2項に関する解釈は,同3項の構成を含むもので,やや異例ではあるが,上記に照らし,本件発明2の解釈としては,この解釈しかあり得ない。
仮に,「隣接する円形板に固着されたチップの対応側面を含む面より外側に各チップの各側面を突出させない場合」,削り残しができ,いわゆる虎刈りが生じて,「正確かつ平坦な切削面を形成する」という,本件発明2の効果を達成することができないのである。特許請求の範囲第2項を文言どおりに解釈すると,虎刈りが生じ,上記効果を達成することができないのであり,本件発明2の解釈にチップの幅に関する上記要件を読み込むことは不可避である。
控訴人は,隣接する円形板のチップ間の距離をチップ相互が接するほどに小さくすれば,虎刈りを「ほとんど」防止できると主張する。しかし,虎刈りを完全に防止されず削り残しがあれば,「正確かつ平坦な切削面を形成する」ことはできないのであり,本件発明2の目的を達し得ない。
本件明細書における「平坦面に切削できる」との記載の「平坦面」とは,切削後の表面がレベル(高さ)において均一であること,本件でいえば虎刈りによる削り残しのないことを意味すると解される。なぜなら,本件発明においては,「可撓性材料の表面部」の上に新たな可撓性層が付着されるのであるから,「表面部」は,表面の粗さが全くないものである必要はないからである。
(2-2-2) 控訴人は,一定角度間隔ずらすのは,チップを一列に配置すると,チップがウレタン層に同時に当接して切削抵抗が増加して,円滑に切削ができないことを防止することを目的とすると主張するが,この主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出であって許されない上,そもそも,本件明細書には,そのような記載は一切ない。
(2-2-3) 控訴人は,「先行するチップによる可撓性層の弾性変形が弾性変形前の初期の状態に復帰する前に,後続するチップが可撓性層の表面に継続的に当接するように,隣接する円形板のチップに対し,一定角度チップをずらして配置すれば,可撓性層の弾性変形及び弾性形状復帰現象が発生せずに,可撓性層を均一平面に切削することができる。」などとも主張するが,そのような説明は,本件明細書に記載がないから,そのような説明を前提とした特許請求の範囲の解釈は許されない。本件明細書には,可撓性層の表面の変形について問題点が記載されているが,明細書の記載からすれば,一定角度間隔のずれがこの解決手段であるとみることには無理がある。
当裁判所の判断
1 争点(1)「被告製品が,本件発明1の実施のみに使用する製品かどうか」について 当裁判所も,被告製品は,本件発明1の実施のみに使用する製品であるとは認められないものと判断する。その理由は,原判決9頁末尾から3行目ないし13頁8行目に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,12頁末尾から5行目の「特許請求の範囲請求項1」を「特許請求の範囲第1項」と訂正する。)。
控訴人は,前記第3,3,(2-1)のとおり,主張する。しかし,前記引用にかかる原判決の認定判断は,本件明細書等の証拠に基づき,適切に本件発明1の技術的範囲を認定した上で,前記のとおり判断したものであり,その過程を含め,相当として是認し得るものである。控訴人の主張は,いずれも採用することができない。
2 争点(6)「被告製品2が,本件発明1の実施のみに使用する製品かどうか」(当審で追加された主張)について 控訴人,被控訴人ともに,被告製品に関する主張を援用しつつ争うところである。
そこで,検討するに,被告製品2についても,本件発明1の実施のみに使用する製品であるとは認められない。その理由は,原判決引用部分も含め,被告製品に関する前記1において説示したところと同様である。
3 争点(5)「争点(1)における均等論の要件の成否」及び争点(7)「争点(6)における均等論の要件の成否」(いずれも当審で追加された主張)について 前記1,2で判示した事実(原判決引用部分)によれば,被控訴人主張のとおり,可撓性床体の修理方法においては,既設舗装面の表面を切削した後,接着剤を塗布することなく,ウレタン材を塗り重ねる施工方法があり,この切削に被告製品及び被告製品2を用いることができること,この施工方法では,本件発明1における接着剤塗布過程及び接着過程が存在しないことが認められる。
そこで,控訴人は,前記第3,3,(1-1)のとおり,均等論が適用されるべきものと主張するが,採用することができない。
すなわち,前記1,2で判示した事実(原判決引用部分)によれば,上記の被控訴人主張の施工方法は,遅くとも,本件特許出願時(昭和60年5月27日)よりも前である昭和59年1月までには公然と実施されていたものと認められる上,接着剤を塗布して可撓性層を固着するか,接着剤を使用せずウレタン材を塗り重ねるかでは,明らかに異なる方法であり,置換が容易であったことの証明はないといわざるを得ず,いずれにしても,被告製品及び被告製品2に関して,均等論により,本件発明1の特許権を侵害したものと認めることはできない。
4 争点(3)「被告製品が,本件発明2の構成要件(ウ)を充足するかどうか」について (1) 当裁判所も,被告製品は,本件発明2の構成要件(ウ)「該チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらして配置された」を充足するものとは認められないものと判断する。その理由は,以下に付加するほか,原判決13頁9行目ないし15頁5行目までのとおりであるから,これを引用する。
(2) 控訴人は,被告製品が原判決別紙第1図Aのとおりであると主張するが,本件全証拠によっても,被告製品が控訴人の上記主張のような構成を有するものである事実を認めるに足りない。これと同旨の原判決の認定は相当であり,被告製品が本件発明2の構成要件(ウ)を充足する旨の控訴人の主張に理由があるものとはいえない。
(3) しかし,原判決は,被告製品が控訴人主張のような構造を有するとした場合を仮定して検討し,その結果,本件発明2の構成要件(ウ)を充足しないと認定しており,これに対して,控訴人が控訴理由を主張しているので,以下に検討しておく。
(3-1) 本件特許は,昭和60年5月27日に出願されたものであり,本件明細書の特許請求の範囲第1項及び同第2項が必須要件項であり,同第3項は実施態様項であると認められる(昭和62年法律第27号による請求項制度が採用される前でいわゆる昭和50年法による出願である。)。したがって,本件特許にかかる発明は,上記必須要件項として記載された本件発明1と本件発明2である(なお,乙21参照)。
(3-2) 控訴人は,原判決が,「本件発明2の『一定角度間隔ずらして配置された』とは,オーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けるために,円周方向において,上記チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔ずらすことを意味するものと認められる」と説示していることに対して,まず,オーバーラップは本件特許請求の範囲第3項に関することであって,本件発明2はオーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けることを構成要件としていないので,特許請求の範囲第3項の限定事項を含めて本件発明2の技術的範囲を決定するのは誤りである旨を主張する。
(3-2-1) 検討するに,本件明細書の特許請求の範囲第2項におけるチップに関する記載は,「各円形板の外周部に固着されたチップ」との記載と,「該チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらして配置された」との記載があるのみである。他方,同第3項においては,「上記チップの幅は,円形板の幅より大きく,各チップの各側面は,隣接する円形板に固着されたチップの対応側面を含む面より外側に突出する」との記載があり,本件明細書では,この構成をオーバーラップといっている(本判決においても,この意味において「オーバーラップ」という言葉を用いることとする。)。そして,原判決は,上記(3-2)冒頭のように説示しているところ,本件特許請求の範囲第2項(本件発明2)のうちの「一定角度間隔ずらして配置された」との構成要件を解釈するに当たり,オーバーラップの点を考慮したものであると解される。
(3-2-2) そこで,本件明細書をみるに,「発明の詳細な説明」の「発明の効果」欄の第2段落に,「この発明の前記切削装置を使用することにより,正確かつ平坦な切削面を形成することができる。これは,隣接する円形板のチップが交互にオーバーラップした状態で配置される新しい構成によって達成することができる。」との記載がある。
前記のとおり,切削装置としての発明は本件発明2であるから,上記の「この発明の前記切削装置」とは,「本件発明2の切削装置」と解する以外にあり得ない(特許請求の範囲第3項は実施態様項にすぎない。)。そして,本件発明2の効果とは,「正確かつ平坦な切削面を形成すること」であり,「これは,隣接する円形板のチップが交互にオーバーラップした状態で配置される新しい構成によって達成することができる。」というのであるから,本件発明2において,「チップの交互オーバーラップ」という構成があることが前提とされているか,少なくとも,「オーバーラップ」が考慮されているものと解釈するほかのない記載となっている。
ちなみに,本件明細書中には,オーバーラップを前提としない本件発明2についての説明は,全く見当たらない。
(3-2-3) 本件発明2の効果を現実的に検討しても,「オーバーラップ」を有しないとした場合の本件発明2の構成では,「正確かつ平坦な切削面を形成すること」という発明の効果を達成し得ないことが認められる。すなわち,本件発明2の円形板は,装置の進行方向に向かって整列しており(この点は控訴人も認めている。当審第5回弁論準備手続調書),各円形板の間にはスペーサが配置されることが必須の要素とされているので,各円形板の外周部に固着されたチップと隣接する円形板のチップとの間には,必然的にスペーサの厚み分だけ隙間が存在することになって,削り残しが生じ,いわゆる虎刈り状態となることが避けられない。本件明細書には,これを回避する手段としては「オーバーラップ」しか開示されておらず,控訴人も「虎刈りを完全に防止することはできないことは認める。」,「虎刈りを完全に防止する手段としては,チップのオーバーラップしかなく,それ以外は想定されていない。」と陳述するところである(当審第5回弁論準備手続調書)。
(3-2-4) なお,控訴人は,「隣接する円形板のチップ間の距離をチップ相互が接するほどに小さくすれば,虎刈りをほとんど防止することができる。」とした上,可撓性層の全体でも部分的でも平坦に切削し得る「可能性」があれば本件発明の目的を達成し得るものと解すべきであると主張する。しかし,削り残しが生じ虎刈り状態となることが完全には防止できない以上,およそ「正確かつ平坦な切削面を形成する」とはいい得ないのであって,控訴人の主張は採用の限りではない。
(3-2-5) 以上によれば,本件明細書において,「特許請求の範囲第2項」と「発明の効果」との記載が一見矛盾するかのような様相を呈するのであるが,後者を無視して前者の形式的文理を優先させると,「発明の効果」を達成することができないのであり,かえって,本件発明2の効力自体に問題を生じかねないことになる。特許請求の範囲第2項は,抽象的かつ広範に過ぎるものというほかなく,これを合理的に解釈すれば,本件発明2において,チップのオーバーラップということも考慮に入れて理解するのが相当である。
原判決の前記説示も同様の趣旨であるものと解され,オーバーラップの点を考慮したことは是認し得る。よって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3-3) 控訴人は,(3-2)に記載の原判決の説示に対して,さらに,次のように主張する。すなわち,本件発明2が「一定角度間隔ずらして配置」する理由は,一直線上に配置されたチップが一度に可撓性層に当接するのではなく,順次チップが当接して切削を行うことになるので切削抵抗が小さく,大きな駆動力を必要とせず,可撓性層に大きな変形が発生せず円滑に可撓性層を切削することができることにあり,また,一定角度チップをずらして配置することで,先行するチップによる可撓性層の弾性変形が弾性変形前の初期の状態に復帰する前に,後続するチップが可撓性層の表面に継続的に当接するので,可撓性層の弾性変形及び弾性形状復帰現象が発生せずに可撓性層を均一平面に切削することができることにあり,このように「一定角度間隔ずらして配置」することで,可撓性表面部を正確かつ平坦に切削することを可能とするものである,との趣旨を主張するものである(この主張は,オーバーラップがなくても,チップを一定角度間隔ずらして配置することで,発明の効果を達成することができるとの主張と軌を一にするものと解される。)。
(3-3-1) そこで,検討するに,前記(3-2)で判示したとおり,「オーバーラップ」の構成によって本件発明の効果が達成し得るものと認められるのであり,本件明細書の「発明の効果」欄には,「オーバーラップ」の構成で達成し得ると書かれており,「一定角度間隔ずらして配置」すること自体によって,正確かつ平坦な切削面を形成するという効果を達成することができる旨の記載はない。
また,本件明細書中の「発明の詳細な説明」の「実施例」欄において,「上記可撓性層20は,ゴム等比較的軟質の材料で作られるため,従来の切削機では,その表面部のみを正確な寸法で除去することは困難である。これは,切削時に切削刃チップによって加えられた力でゴム表面が変形するため,ゴムを均一平面に切削できないためである。」という程度の記載があるものの,控訴人主張のような内容が開示されているものと認めることは困難である。
そして,本件明細書の「発明の詳細な説明」の「実施例」欄の第4段落において,「第7図に示される通り,チップ33は,隣接する円形板のチップ33に対し一定角度間隔ずらして配置され,この間隔はlで示される。」と記載され,これに続いて,「チップのオーバーラップ」の構成が示された上,「上記構成は,チップ間の衝突による損傷を防止すると共に,可撓性材料の表面部を正確な寸法で平坦面に切削できるカッター部となる。」と記載されている。この記載から,「一定角度間隔ずらして配置」することは,少なくとも,「チップのオーバーラップ」による「チップ間の衝突による損傷を防止する」ことを目的として有しているものといえる。しかし,「可撓性材料の表面部を正確な寸法で平坦面に切削できる」という効果が,「一定角度間隔ずらして配置」すること自体によって得られるとの趣旨であると理解することはできない。
(3-3-2) 以上に加え,原判決に摘示の事情を総合すれば,「本件発明2の『一定角度間隔ずらして配置された』とは,オーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けるために,円周方向において,上記チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔ずらすことを意味するものと認められる」との原判決の説示は,相当であると認められ,是認し得るものである。原判決の上記認定判断を誤りであるとする控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3-4) 以上の検討結果に基づいて,被告製品について,本件発明2の構成要件(ウ)の充足性をみると,被告製品が控訴人主張のとおり原判決別紙図面第1図Aの構成を有しているとしても,チップは隣接する円形板のチップに対して円周方向にずらして配置されていないことは明らかであるから,これと同旨の説示をして上記構成要件を充足しないとした原判決の認定判断は相当である。なお,同図面第1図Bの構成について原判決が認定するところも,是認し得るものである。
5 争点(8)「被告製品2が,本件発明2の構成要件(ウ)を充足するかどうか」(当審で追加された主張)について (1) 本件発明2の構成要件の解釈などについては,前記4で判示したとおりである。
(2) 控訴人は,被告製品2の構成の概略を本判決末尾添付の図面aのとおりであると主張し,被控訴人は,チップの配置方向と円形板との関係が異なるなどと反論するところ(弁論の全趣旨によれば,被控訴人としては,チップの配置方向は本判決末尾添付の図面aではなく,図面bの方が事実に近いとするようである。),本件全証拠によっても控訴人主張の構成である事実を認めるに足りない。よって,被告製品2が本件発明2の構成要件(ウ)を充足する旨の控訴人の主張に理由があるものということはできない。
(3) 仮に,被告製品2の構成が控訴人主張のようなものであったとしても以下のとおり,本件発明2の構成要件(ウ)を充たすものとは認めるに足りない。
被告製品2の写真として,(a)控訴人の平成13年9月26日付け控訴準備書面に添付の写真2ないし8,(b)控訴人の平成14年3月19日付け準備書面(5)に添付の写真1,2,4ないし7,(c)控訴人の平成14年4月19日付け準備書面(6)に添付の写真@ないしC,(d)乙第22号証の写真3のものが存在する。
上記各写真により,被告製品2のチップの配置関係をみると,アトランダムに不規則な配置のされ方となっており,あるチップに隣接する円形板のチップに対して円周方向にずれた位置にあるものもある一方で,前記(a)の写真6(前記(b)の写真6,(c)の写真@も同じ写真)における右から5番目と6番目,9番目と10番目,28番目と29番目の円形板に配置された各チップのように,互いにずれることなく並列状態となっており,仮に,チップのオーバーラップがあれば,チップ同士が衝突するものと認められるほどに角度間隔のないものも存在することが認められる(なお,乙22の写真3では,このようなチップの数は更に多い。)。すなわち,「あるチップと隣接するチップ間の衝突を避けるために,円周方向において,上記チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔ずらすために配置されている」とは認められない。
以上により,被告製品2が本件発明2の構成要件(ウ)を充足するものとは認めるに足りない(「一定」の意味するところについては争いがあるが,その点について判断するまでもない。)。
6 争点(9)「被告製品2が,本件特許請求の範囲第3項の要件を充足するかどうか」(当審で追加された主張)について (1) そもそも,本件特許請求の範囲第3項は,実施態様項であるし,上記主張は,チップが円形板に本判決末尾添付の図面aのような配置方向ないし形状で配置されていることを前提とする主張であって,その前提自体が事実であることを認めるに足りる証拠がない。
(2) 上記の点をおくとしても,以下に検討するとおり,被告製品2は,本件特許請求の範囲第3項のオーバラップの構成を有しないことが明らかである。
被告製品2におけるチップの幅が,若干ではあるが円形板の厚みよりも大きく,円形板の側面から少しはみ出しているとの限度では,被控訴人も争わない趣旨であると解される(当審第5回弁論準備手続調書)が,被告製品2のチップがオーバーラップしているか否かについては争いがある。
まず,本件特許請求の範囲第3項における「オーバーラップ」がどのようなものまで含むかについて争いがあるので検討するに,本件明細書の実施例に関する記載や第5図,第7図等に照らせば,ある円形板に設置されたチップを順次α1,α2,α3などとし,この円形板に隣接する円形板に設置されたチップを順次β1,β2,β3などとした場合において,α1が可撓性層に当接した後,これにβ1がオーバーラップする状態で当接し,以下同様に,α2,β2,α3,β3というように,直近のチップ同士が順次,交互にオーバーラップしながら当接するように,各チップが,本件明細書に記載されているように「交互にオーバーラップ」した状態で配置される構成であるものと認められる。そうであるからこそ,正確かつ平坦な切削の実現という効果も確実に生じ得るものと認められるし,チップの衝突の回避という課題が生じるものといえる。
そこで,控訴人の主張をみると,前記第3,3,(1-4)のとおりであるが,被告製品2がオーバーラップの要件を備えている具体的な根拠は,平成14年4月19日付け控訴人準備書面(6)に添付の写真@において,右から8番目の円形板にあるチップAの左側面Pの延長線が,隣接する右から9番目の円形板上にあるチップBの右側面Qの線よりも左側にあることをもって,実質的にオーバーラップがあるというものである(右から24番目と25番目の円形板のチップでも同様の説明をしている。)。
しかし,上記写真におけるチップAとチップBをみると,互いに隣接する円形板上にはあるものの,チップA,B同士は,遠く離れており,回転方向でみれば,チップBはAの次に可撓性層に当接するのではなく,チップ12個(又は7個)分後方にずれていることが認められ,到底,交互にオーバーラップする構成にはなっていない。そして,チップAとBの幅及びそれぞれの円形板の間隔などに照らせば,チップAとチップBをいくら近づけても,チップ同士が衝突するおそれがあるようには認められない。これらの事情に照らすと,被告製品2は,本件特許請求の範囲第3項のオーバーラップの構成を有するものとは認めるには足りない(被告製品2の構成の概略が本判決末尾添付の図面a,図面bのいずれであろうと結論は変わらない。なお,本件証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2は,チップ付きの円形板をシャフトに対して傾斜させて配設することで,チップのオーバーラップの構成を要しない構造になっているものと認められる。)。
7 結論 以上検討した控訴人の主張(当審での新たな主張を含む)は,いずれも採用することができず,その余の点につき判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がない。よって,控訴人の請求を棄却すべきものとした原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,当審で被告製品2による侵害が主張されているが,これは従来からの被告製品の規格の変更にすぎないものと認められ,控訴人の請求に変更はないものとして,控訴棄却の主文にとどめた。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利