運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ12410損害賠償請求事件 判例 特許
平成15ワ4285損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ3012特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ12586特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ3381特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  抵触 /  権利の濫用(権利濫用) /  対象製品 /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  社会通念 /  間接侵害 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (ワ) 6570号 特許権侵害差止等請求事件
原告 日本繊食有限会社
原告A
原告両名訴訟代理人弁護士 小林淳郎
被告 オリヒロ株式会社
訴訟代理人弁護士 安田有三
同 伊藤治
同 西野宣幸
補佐人弁理士 伊藤克博
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/03/13
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙目皿目録記載の目皿の生産、譲渡及び譲渡の申し出をしてはならない。
2 被告は、別紙目皿目録記載の目皿を廃棄せよ。
3 被告は原告Aに対し、金6300円及びこれに対する平成12年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。
6 この判決の第1項ないし第3項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1、2 主文第1、2項と同じ。
3 被告は原告日本繊食有限会社に対し、金100万円及びこれに対する平成12年6月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は原告Aに対し、金100万円及びこれに対する平成12年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置」の特許発明の特許権者及びその専用実施権者である原告らが被告に対し、被告の製造販売するこんにゃく製造用目皿は、@主位的に同特許発明技術的範囲に属することを理由とし、A予備的に同特許発明実施にのみ用いられるものであることを理由として、同目皿の生産等の差止め等と、同特許権及び仮保護の権利の侵害に基づく損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告A(以下「原告A」という。)は、次の特許権を有し、平成8年3月6日に原告日本繊食有限会社(以下「原告日本繊食」という。)に対し専用実施権を設定し、同年4月22日にその旨の登録を経由した(以下、この特許権を「本件特許権」といい、特許請求の範囲請求項2の特許発明を「本件発明」、本件特許権に係る明細書を「本件明細書」という。)。なお、本件特許権は、Bにより出願されたものであるが、平成6年2月25日に、同出願人は原告Aに変更された。
ア 発明の名称 筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置 イ 登録番号 第1912343号 ウ 出願日 昭和61年3月1日(特願昭61-44489号) エ 公開日 昭和62年9月5日(特開昭62-201555号) オ 出願公告日 平成6年5月18日(特公平6-36727号) カ 登録日 平成7年3月9日 キ 特許請求の範囲は、別紙特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおりである。
(2) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
A ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置において、
B 前記ノズルを平行ノズルとしてその押出し孔間隙(a)を3o以下に小、又はノズル押出し直後の糸状こんにゃくのり間のすき間(c)が3o以下の小さい傾斜ノズルとし、
C 押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなることを D 特徴とする筋組織状こんにゃくの製造装置。
(3) 被告は、別紙目皿目録記載の目皿(以下「被告目皿」という。)を製造、
販売した。
2 争点 (1)ア 被告目皿は、「ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置」(構成要件A)及び「こんにゃくの製造装置」(構成要件D)に当たるか。
イ 仮に、被告目皿が、「ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置」(構成要件A)、「こんにゃくの製造装置」(構成要件D)に当たらない場合、被告目皿はこんにゃくの製造装置の生産にのみ使用されるものか。
(2) 被告目皿は、「押出し孔間隙」(構成要件B)の構成を備えているか。
(3) 被告目皿により製造されるこんにゃくは、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなる」(構成要件C)、「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)との構成を備えているか。
(4) 仮に被告目皿が上記構成を文言上備えていない場合に、均等として被告目皿は本件発明の技術的範囲に属するか否か。
(5) 本件特許の無効理由-発明未完成 (6) 本件特許の無効理由-本件特許出願経過における要旨変更の有無 (7) 損害の発生及び額
争点に関する当事者の主張
1(1) 争点(1)ア(被告目皿は押出装置ないし製造装置に当たるか)について 〔原告らの主張〕 「ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置において」(構成要件A)とは、本件発明がこのような押出装置に関するものであることを意味する。また、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明にいう「(こんにゃくの)製造装置」(構成要件D)とは、実質的には、糸状こんにゃくの押出装置に装着するノズルそのものを指すと解すべきであるから、ノズルである被告目皿は、「(こんにゃくの)製造装置」に当たる。
〔被告の主張〕 被告目皿は、それ自体には押出し能力がなく、押出装置、あるいはこんにゃくの製造装置の一個の部品であって、それらの装置そのものではないから、「押出装置において」(構成要件A)、「(こんにゃくの)製造装置」(構成要件D)との構成を備えていない。
(2) 争点(1)イ(被告目皿は「こんにゃくの製造装置」の生産にのみ使用される物か)について 〔原告らの主張〕 被告目皿は、こんにゃく押出装置のみに装着されるものであり、社会通念上、それ以外には用途がない。
仮に被告目皿自体が「(こんにゃくの)製造装置」に当たらないとしても、被告目皿を装着したこんにゃく押出装置は、構成要件Dの「こんにゃくの製造装置」に該当する。
〔被告の主張〕 (1) 被告目皿がこんにゃく押出装置に装着されるものであることは認めるが、
原告らのその余の主張は争う。
(2) 被告目皿の製造、販売行為が本件特許権の間接侵害に当たるとするためには、被告目皿を装着した「こんにゃく製造装置」の製造条件の実用される範囲内での変動にかかわりなく、同こんにゃく製造装置が本件発明の技術的範囲に属することが必要であると解すべきである。しかるに、技術常識からみて、被告目皿を装着したこんにゃく製造装置は、このような製造条件の変動にかかわらず、本件発明の構成要件Cを満たすようなこんにゃくを製造できるとは到底考えられない。
また、被告目皿は、これを装着してノズル押出し直後に多数本の半ゲル化した糸状こんにゃくとするこんにゃく製造装置を生産することが可能であるところ、後記3の〔被告の主張〕のとおり、本件発明の「筋組織状こんにゃく」とは「多数本の糸状こんにゃくを集束一体化したこんにゃく」であり、本件発明は、こんにゃく押出装置から、多数本の半ゲル化した糸状こんにゃくを押し出すこんにゃく製造装置を含まないから、被告目皿には、本件発明以外のこんにゃく製造装置に用いることができる。
(3) したがって、被告目皿は、本件発明の筋組織状こんにゃくの製造装置の生産にのみ使用されるものではないから、被告目皿の製造、販売行為が本件特許権の間接侵害に当たるとの原告らの主張は理由がない。
2 争点(2)(「押出し孔間隙」(構成要件B)の充足性)について 〔原告らの主張〕 被告目皿は、主孔部分に加えて連通孔部分が設けられているが、被告目皿を用いてこんにゃくのりを押し出した場合、こんにゃくのりは、連通孔部分からほとんど吐出されず、単独孔目皿によって製造されたこんにゃく製品と外観、食感において同様の製品を製造することができるものであり、被告目皿には、主孔に連通孔を付加することによって生ずる新たな作用効果は全くない。そして、主孔の間隙は、構成要件Bの「3o以下に小」を満たしている。
したがって、被告目皿は、主孔部分に、付加的構成として連通孔を加えたにすぎないから、独立した「押出し孔」及び「押出し孔間隙」(構成要件B)との構成を備えているといえる。
〔被告の主張〕 (1) 「押出し孔」(構成要件B)とは、それぞれ独立した押出し孔であって、
他の独立した押出し孔との間に隙間が生じるものをいう。
被告目皿は、主孔と連通孔とからなる押出し孔を有するものであり、独立した押出し孔は存在しないし、「押出し孔間隙」も存在し得ない。
換言すれば、被告目皿の連通した一つの押出し孔は、本件公報第4図の一つのスリット状押出し孔13に相当するものであり、連通した押出し孔と隣接する押出し孔とは大きな隙間を設けて離れており、「押出し孔間隙(a)を3o以下」との要件も充足しない。
(2) したがって、被告目皿は、独立した「押出し孔」及び「押出し孔間隙」の構成を備えていないから、構成要件Bを充足しない。
3 争点(3)(構成要件C及び「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)の充足性)について 〔原告らの主張〕 (1) 構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」とは、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化」(構成要件C)した「多数本の糸状こんにゃくのり」を集束一体化し、これを加熱処理して製造されるこんにゃくをいう。
このことは、本件明細書の発明の詳細な説明の〈作用〉の項に「本発明の方法及び装置によると、多数本の糸状こんにゃくのり同志がノズル加圧押出し直後の圧力開放により膨張しゲル化前の短時間のうちに接して、何ら外力を加えなくとも互いに接着する作用をし、これを加熱処理するとゲル化し、一体化強度が大な筋組織状こんにゃく製品が得られる。」(本件公報4欄17〜22行)と記載されているとともに、特許請求の範囲にも明記されているところである。
被告は、構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」とは「多数本の糸状こんにゃくを集束一体化したこんにゃく」をいうと主張するが、そのように解すべき根拠はない。
(2) 被告目皿を用いたこんにゃく製造装置は、押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同士がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化したこんにゃくのりを、集束一体化し、これを加熱処理して筋組織状こんにゃくを製造するものであり、構成要件C及び「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)との構成を備えている。
〔被告の主張〕 (1) 「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化する」(構成要件C)、「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)とは、原料の状態変化でみると、@第1工程:こんにゃくのり、A第2工程:多数本の糸状こんにゃくのり、B第3工程:多数本の糸状こんにゃく、C第4工程:多数本の糸状こんにゃくを集束一体化(筋組織状こんにゃく)という各工程を経て製造されるこんにゃくを意味する。
構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」とは、「多数本の糸状こんにゃくを集束一体化したこんにゃく」をいい、上記第3工程を経ることなく「多数本の糸状こんにゃくのりを一体化したのり」を加熱処理して製造されたものではない。
原告らは、構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」とは「多数本の糸状こんにゃくのり」を集束一体化し、これを加熱処理して製造されるこんにゃくをいうと主張するが、多数本の各糸状こんにゃくのりは液状であり、仮に蜂の巣状に各巣穴から押し出された各糸状のり液が一体化したとき、一体化する部分の境界面(接触面)は消失するから、一体化したとき一本ののり液になることが当然に予測され、
この状態から製造されるものは単なる「こんにゃく」であって、「筋組織状こんにゃく」とはいえない。
(2) 原告らは、構成要件C及び「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)との構成について誤った解釈をしているから、被告目皿が「筋組織状こんにゃく」の製造装置に用いられることの主張がないといわざるを得ない。
4 争点(4)(均等の成否)について 〔原告らの主張〕 仮に被告目皿が連通孔を有することから、文言上本件発明の「押出し孔間隙」(構成要件B)の構成を備えていないとしても、被告目皿は、次のとおり、本件発明の構成と均等であり、その技術的範囲に属するものというべきである。
(1) 非本質的部分について 本件発明の特徴的部分は、@ノズル押出直後の多数本の糸状こんにゃくのり同士が押出圧力の開放により膨張しゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接する点、Aそのために押出し孔の間隙を3o以下とした点にある。
被告目皿は、隣接する主孔と主孔の間に連通孔部分があるが、塑性流動体の特性上、細い連通孔部分からは、粘性のあるこんにゃくのりはほとんど流出しないし、主孔から押し出されたこんにゃくのりは流速が速いから、連通孔部分のそれより大きく膨張して拡がる。そして、被告目皿の主孔の間隙は3o以下であって、
主孔から押し出されたこんにゃくのりは、吐出膨張のみによって接触一体化する。
したがって、被告目皿は、上記の本件発明の特徴的部分を有しており、被告目皿に連通孔部分があることは、筋組織状こんにゃくを製造するためには意味のないものである。両者において異なる部分である目皿の連通孔の有無は、本件発明の本質的部分ではない。
(2) 置換可能性について 上記のとおり、単独孔目皿を連通孔付目皿に置き換えても、同一の作用効果を奏するものであり、置換可能性がある。
(3) 置換容易性について 被告及びハタノヤ株式会社(以下「ハタノヤ」という。)が被告目皿の製造販売を開始した時点以前の、昭和62年に本件発明は公開されていた。被告及びハタノヤは平成3年ころから平成6年6月ころまで単独孔目皿を製造していたが、
本件特許権に抵触するおそれがあると考えて、単独孔目皿の製造を中止し、時期を置かずして平成6年6月ころから連通孔の被告目皿の製造販売を早速開始した。
ハタノヤは、平成7年3月7日に「多条蒟蒻」の実用新案登録を出願し(実願平7-2628号)、同年6月28日に登録となったが、特許庁審査官は同考案に対して「進歩性を欠如されるものと判断されるおそれがある」と技術評価している。
以上の事情からすると、目皿の主孔の間に連通孔を設けることは、被告が連通孔付目皿の製造販売を開始した時点において、当業者が容易に想到することができたといえる。
(4) 公知技術との関係について 連通孔付目皿は、本件発明の特許出願がなされた昭和61年当時における公知技術と同一ということもできないし、当業者が右出願時に公知技術から容易に推考することができたものであるということもできない。
(5) 意識的除外について 本件において、連通孔付目皿が、本件特許出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
〔被告の主張〕 原告らの均等の主張は争う。
5 争点(5)(本件特許の無効理由-発明未完成)について 〔被告の主張〕 (1) 本件発明の「(ノズル)押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化する」(構成要件C)との構成における「一体化」とは、本件明細書第1表「一体化可否」の欄に記載されている「可」、「弱いが可」、「部分的に可」、「*(場合により部分的に接着一体化)」が含まれていると解される。
(2) そして、「可」とは、他の凡例とは異なるより完全な一体化、すなわち「弱くない一体化」、「全体的に一体化」あるいは「全体的な接着一体化」をいうと解されるから、多数本の糸状こんにゃくのりの一体化可否が「可」の場合には、
得られるのはいずれも「こんにゃく」であって、「筋組織状こんにゃく」ではない。
(3) 一方、「部分的に可」(部分的に一体化)あるいは「部分的な接着一体化」の場合は、多数本の糸状こんにゃくのりが「部分的に接着」し、一体化後も多数本の糸状こんにゃくのり同士が部分的に接着しており、さらにその後のゲル化により「多数本の糸状こんにゃくが接触する部分でのみ接着させて集束一体化」した「筋組織状こんにゃく」が得られるかもしれない。
(4) しかしながら、本件明細書には、上記(2)の「こんにゃく」が得られる場合と、上記(3)の「筋組織状こんにゃく」が得られるかもしれない場合とを区別し、
後者のみを選択する技術手段が開示されていない。
すなわち、本件明細書には、ノズル押出し直後に「(糸状こんにゃくのりを)一体化したこんにゃくのり」を得るための中間工程が記載されているが、その後いかなる技術手段を採用すれば「筋組織状こんにゃく」が得られるのかは開示されていない。
したがって、本件発明は発明未完成であり、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づいて権利行使することは権利の濫用に当たる。
〔原告らの主張〕 (1) 被告は、本件明細書の実施例1の第1表記載の「一体化可否」について述べ、表中の「可」とは「弱くない一体化」、「全体的に一体化」あるいは「全体的な接着一体化」をいい、その場合に得られるものはいずれも「こんにゃく」であって「筋組織状こんにゃく」ではないと主張し、したがって、本件明細書には「(筋組織状ではない)こんにゃく」と「筋組織状こんにゃく」とを区別し、後者のみを選択する技術手段が開示されていないと主張する。
(2) しかし、本件発明は、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなること」(構成要件C)を構成要素とするが、
「一体化」の程度を特定するものではない。
本件明細書には「押出孔は丸孔に限らず角孔等の異形のものも含まれる。
さらにスリット状の並行な押出し孔も同様に含まれる」と記載されているから、糸状こんにゃくのりの断面形状や大きさによって一体化の態様に差が生じるのは当然である。
したがって、本件発明が未完成であるとする被告の主張は理由がない。
6 争点(6)(本件特許の無効理由-要旨変更)について 〔被告の主張〕 (1) 本件特許出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)には、ノズル押出し後の状態で多数本の半ゲル化した「糸状こんにゃく」を得て、これを接着させて一体化(ゲル化完了)し、筋組織状こんにゃくを製造する方法が記載されていた。この製法では、「一体化可否」の程度が「可」(「全体的に一体化」、「全体的な接着一体化」)の場合に、全体的に均一な筋組織状こんにゃくとなる。
(2) 本件特許の出願人は特許庁から受けた拒絶理由を回避するため、平成5年11月12日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という。)により、当初明細書記載事項の製法を排除し、ノズル押出し後の状態で多数本の「糸状こんにゃくのり」を一体化する製法に補正した。すなわち、筋組織状こんにゃくを得るために、
ノズル押出し後の多数本の糸状こんにゃくのりの一体化を、部分的に接触させるなど何らかの特殊な手段(本件明細書には記載されていない手段)を採用した製法及び装置にした。
しかしながら、この補正後の特殊な製法ないし装置は当初明細書に記載された事項の範囲内ではないから、上記補正は要旨の変更に当たり、本件特許の出願日は平成5年11月12日となる。
(3) 当初明細書は、上記出願日前に特開昭62-201555号公開特許公報により公開されており、同公報に記載された筋組織状こんにゃく製造装置のノズル(第2図ないし第4図)は公知である。
したがって、同ノズルと被告目皿との同一性を論じ、間接侵害であるという原告らの主張は許されない。
〔原告らの主張〕 (1) 被告は、出願当初明細書に、「ノズル押出し後の状態で多数本の半ゲル化した「糸状こんにゃく」を得て、これを接着させて一体化(ゲル化完了)し、筋組織状こんにゃくを製造する方法」が記載されていたと主張するが、出願当初明細書には「ノズル押出し後に半ゲル化した糸状こんにゃくを得ること」などの記載はないし、また、「接着させて一体化(ゲル化完了)」するという趣旨が、接着させて一体化する工程とゲル化が完了する工程が同一であることを意味するのであれば、
このことも出願当初明細書に記載されていない。
(2) したがって、本件手続補正が要旨変更に当たるとの被告の主張は理由がない。
6 争点(6)(損害の発生及び額)について 〔原告らの主張〕 (1) 原告日本繊食は、被告による被告目皿の製造販売によって、次の損害を被った(特許法102条3項)。
ア 平均販売単価 9万円 イ 平均年間販売数 65個 ウ 侵害期間 4年1か月(平成8年4月22日から平成12年5月21日まで) エ 実施料率 10% オ 損害額 238万円(9万円×65個×(4+1/12)年×0.1) (2) 原告Aは、被告による被告目皿の製造販売によって、次の損害を被った(特許法102条3項)。
ア 平均販売単価 9万円 イ 平均年間販売数 65個 ウ 侵害期間 1年11か月(平成6年5月18日から平成8年4月21日まで) エ 実施料率 10% オ 損害額 112万円(9万円×65個×(1+11/12)年×0.1) (3) 原告らは、被告に対し、それぞれ上記各損害のうち金100万円ずつを請求する。
〔被告の主張〕 被告が被告目皿を2個製造し、これらをやまと食品工業株式会社(以下「やまと食品」という。)に販売したことは認めるが、その余の原告ら主張の事実は否認し、原告らが主張する実施料率(10%)の相当性については争う。
争点に対する判断
1(1) 争点(1)ア(構成要件A及び「製造装置」(構成要件D)の充足性)について 本件発明は、特許請求の範囲の記載によれば、「ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置」において、ノズルを構成要件Bの構成のものとし、構成要件Cに規定するような機構で糸状こんにゃくのりを一体化することを特徴とする「筋組織状こんにゃくの製造装置」(構成要件D)の発明であるから、本件発明の対象が「こんにゃくの製造装置」全体であることは明らかであり、ノズルは本件発明の構成の一部をなすものということができる。そして、本件明細書及び図面(甲1)の記載と弁論の全趣旨によれば、被告目皿のような「目皿」は、こんにゃくの製造装置における押出装置(ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押し出す装置)の先端に設置され、そこからこんにゃくのりが押し出されるものであるから、本件発明(構成要件A、B)にいう「ノズル」に相当するものというべきである。
原告らは、本件発明の「(こんにゃくの)製造装置」は実質的にはノズルそのものを指すと解すべきであると主張するが、本件明細書中に、そのような解釈を根拠付ける記載はない。
(2) 争点(1)イ(被告目皿は「こんにゃくの製造装置」の生産にのみ使用される物か)について ア 被告目皿がこんにゃくの製造装置に使用されるものであることは当事者間に争いがなく、こんにゃく製造装置においては、目皿を押出装置(ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押し出す装置)に装着することによって、こんにゃくを製造することが可能になるものである。しかるところ、被告目皿がこんにゃくの製造装置以外の他の実用的な用途に用いられることを認めるに足りる証拠はないから、被告目皿はこんにゃく製造装置の生産にのみ使用されるものと認められる。
イ そうすると、被告目皿をこんにゃくのりの押出装置(ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押し出す装置)に装着したこんにゃく製造装置が本件発明の技術的範囲に属すると判断されれば、被告目皿の製造、販売行為は、間接侵害(特許法101条1号)に該当することになるというべきである(以下、被告目皿を装着したこんにゃくの製造装置を「被告製造装置」という。)。
そして、被告目皿が装着された被告製造装置は、「ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置において」(構成要件A)及び「(こんにゃくの)製造装置」(構成要件D)との構成を充足する(なお、被告は、構成要件Aの「多孔のノズル」の構成に関しては争っていない。)。
ウ 被告は、被告目皿の製造、販売行為が本件特許権の間接侵害に当たるとするためには、被告目皿を装着した「こんにゃく製造装置」の製造条件の実用される範囲内での変動にかかわりなく、同こんにゃく製造装置が本件発明の技術的範囲に属することが必要であると主張する。
しかし、後記3で判断するとおり、被告目皿を使用して製造されるこんにゃくは、本件発明の構成要件Dにいう「筋組織状こんにゃく」に該当し、被告目皿を使用したこんにゃく製造装置は本件発明の技術的範囲に属するものであり、被告目皿を使用したこんにゃく製造装置に本件発明の筋組織状こんにゃくとは別個のこんにゃくを製造する実用的な用途が存在することを認めるに足りる証拠はない。
2 争点(2)(「押出し孔間隙」(構成要件B)の充足性)について (1) 構成要件Bでは、「押出し孔間隙(a)を3o以下に小、又はノズル押出し直後の糸状こんにゃくのり間のすき間(c)が3o以下の小さい傾斜ノズルとし」と規定されているから、「押出し孔」とは、糸状こんにゃくのりが吐出されるもの、すなわち隣接する孔同士が繋がっていない独立した孔を意味し、「押出し孔間隙」とはそのような独立した孔同士の間隙を意味するものと解される。
(2) 被告目皿は、別紙目皿目録記載のとおり、主孔の直径が1.2o、隣接する主孔中心間の距離が1.72o、主孔間の間隙は0.52o(1.72o-1.2o)であり、当該ノズル孔は平行に設置されているから、「ノズルを平行ノズルとしてその主孔間の間隙を3o以下に小」さくするという構成を備えている。
しかし、被告目皿は、主孔部分と連通孔部分とから成る連通孔付目皿であり、独立した押出し孔を有さず、したがって「押出し孔間隙」も存在しないから、
「押出し孔間隙」(構成要件B)との構成を文言上備えているとはいえない。
3 争点(3)(構成要件C及び「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)の充足性)について (1) 構成要件C及び「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)の解釈について ア 本件発明の特許請求の範囲には、「ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置において」(構成要件A)、「前記ノズルを平行ノズルとしてその押出し孔間隙(a)を3o以下に小、又はノズル押出し直後の糸状こんにゃくのり間のすき間(c)が3o以下の小さい傾斜ノズルとし」(構成要件B)、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなることを特徴とする」(構成要件C)と記載されているから、本件発明にいう「筋組織状こんにゃく」の製造とは、「糸状こんにゃくのり」を集束一体化し、これをゲル化してこんにゃくを製造することを意味し、そうした工程によって得られたこんにゃくが「筋組織状こんにゃく」であると解することができる。
イ 次に、本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載を検討する(甲1)。
〈産業上の利用分野〉の項には、「本発明はこんにゃく粉を原料として得られる食品、詳しくは筋組織状こんにゃくの新規な製造方法及びそのための装置を提供するものである。」(2欄7行〜9行)と記載されている。
〈従来の技術〉の項には、「こんにゃくは今日まで、板こんにゃく、糸こんにゃく等として長年に亘って食されてきた。…こんにゃくは我国独特の食品であり、低カロリー食品として注目を集めているものの、その食感に難があり、普及が停滞しているようである。」(2欄11行〜3欄2行)、「これに対しこれまでに、
こんにゃく食品業界において種々の改良が行われてきた。…こんにゃくの風味、歯切れ等を改良する試みは更になされ、糸状こんにゃくを集束することにより、従来得られなかった製品を得る方法が提案されている」(3欄3行〜14行)と記載されている。
〈発明が解決しようとする課題〉の項では、「糸状こんにゃくを集束することにより従来にないこんにゃく製品を得る試みは…集束された多数本の糸状こんにゃくの全てが部分的に結着されているものとか、端部又は中間部のみが結着されているものなどである。また、…多数本の糸状こんにゃくで被覆して集束一体化したものも提案されている。このような糸状こんにゃくの集束一体化のうちでも、
各糸状こんにゃくを接触する部分でのみ接着させて一体化させたもの及びその製法は、…歯切れ等を良くする一手段として次第に評価されつつある」(3欄18行〜29行)、「しかし前記例示した従来技術はいずれも製法及びそのための装置が複雑であった」(3欄30行〜31行)、「(従来技術の一例では)ノズルの一般的な構造は孔径1〜3oφ、孔間隔10o程度である」(3欄39行〜40行)と記載されている。
〈課題を解決するための手段〉の項には、「本発明者は、従来の糸状こんにゃくの集束化が加熱ゲル化後に行われることにより…複雑な工程及び装置となっており、このような複雑な工程及び装置によらずとも糸状こんにゃくを一体化可能な方法及び装置について検討し、ここに本発明の完成をみたのである。その特徴とする点は、ノズル押出し直後の多数本の糸状こんにゃくのり同志が押出し圧力の開放により膨張しゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接するように、
ノズルの押出し孔間隙を小、又はノズル押出し直後の成形体間のすき間を小さくしたことにある。ノズルが平行ノズルの場合は押出し孔の間隙は3o以下がよく、
又、傾斜ノズルの場合にはノズル押出し直後の成形体間のすき間が3o以下となるように出口押出し孔間隙(a)を設けるとよい」(3欄47行〜4欄11行)と記載されている。
〈作用〉の項には、「本発明の方法及び装置によると、多数本の糸状こんにゃくのり同志がノズル加圧押出し直後の圧力開放により膨張しゲル化前の短時間のうちに接して、何ら外力を加えなくとも互いに接着する作用をし、これを加熱処理するとゲル化し、一体化強度が大な筋組織状こんにゃく製品が得られる。また、従来のように糸状こんにゃく表面の水を取る工程も必要としないので、工程及び装置の簡略化が可能となる」(4欄17行〜24行)と記載されている。
〈発明の効果〉の項には、「本発明の筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置は以上の通りであるから、従来の複雑な工程及び装置を一挙に簡略化でき、低コストでこんにゃく製品の多様化を達成できた。このことにより、製品からのスライスにも分離する等の難点のない、しかも、歯切れのよい製品が提供できることとなった」(7欄17行〜8欄4行)と記載されている。
上記記載からすれば、本件発明は、多数本の糸状こんにゃくを各糸状こんにゃくが接触する部分でのみ接着させて集束一体化することにより、風味、歯切れ等が改良された筋組織状こんにゃくを得る製造装置につき、従来技術では装置が複雑であったのを改良して簡略化することを課題とし、従来の加熱ゲル化後に糸状こんにゃくを押圧して一体化する装置では、ノズルの孔間隔が10o程度であったのを、平行ノズルの押出し孔間隙又は傾斜ノズルの押出し直後の成形体間のすき間を3o以下と小さくする構成を採用したことにより、多数本の糸状こんにゃくのり同士がノズル加圧押出し直後の圧力開放により膨張し、ゲル化前の短時間のうちに接して何ら外力を加えなくとも互いに接着するようにし、その後の加熱処理によりゲル化させるという簡略な装置によって、一体化強度が大きい筋組織状こんにゃく製品が得られるとの作用効果を奏するものであることが認められる。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載と、前記認定の本件発明の作用効果に鑑みれば、構成要件Dにいう「筋組織状こんにゃく」とは、多数本の糸状こんにゃくのりを接触する部分で接着させて集束一体化した構造のこんにゃくをいうものと解するのが相当である。
ウ 被告は、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化する」(構成要件C)、「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)とは、原料の状態変化でみると、@第1工程:こんにゃくのり、A第2工程:多数本の糸状こんにゃくのり、B第3工程:多数本の糸状こんにゃく、C第4工程:多数本の糸状こんにゃくを集束一体化(筋組織状こんにゃく)という各工程を経て製造されるこんにゃくを意味し、上記第3工程を経ることなく「多数本の糸状こんにゃくのりを一体化したのり」を加熱処理して製造されたものではないと主張し、その理由として、多数本の各糸状こんにゃくのりは液状であり、これらが一体化したときに一体化する部分の境界面(接触面)は消失するから、「筋組織状こんにゃく」にはならず、単なる「こんにゃく」になってしまうと主張する。
しかし、本件明細書の上記記載からすれば、本件発明は、ノズルから押し出されたゲル化前の隣接する糸状こんにゃくのり(この時点のこんにゃくのりの断面は、ノズルの孔形状を保っている。)が接触し、一体化前の糸状こんにゃくのりの形状を維持しながら接触部分のみが一体化し、これをゲル化して、複数の糸状こんにゃくが一部分で一体化した筋組織状こんにゃくができるという技術であるものと理解できる。このことは、本件明細書の実施例2に記載されているような複数のスリット状の押出し孔からこんにゃくのりが吐出される場合においても、それらのこんにゃくのり同士が一体化すると、完全に一体となった板状のこんにゃくのりになるのではなく、スリット状こんにゃくのりの一部が接触して一体化するものであると理解されるのと同様である。
そして本件明細書には、被告が主張するような解釈を基礎付けるような記載は見当たらないから、被告の主張は理由がない。
(2) 被告目皿の構成要件C及び「筋組織状こんにゃく」(構成要件D)との構成の充足性について ア 被告目皿から吐出されるこんにゃくのりの挙動について検討する。
(ア) 甲32〜56によれば、次の事実が認められる(以下、これらの書証に示される実験を「原告実験@」という。)。
a 実験結果 直径1.2oの主孔の中心間の距離を1.72o及び1.81o、連通孔幅を0.3o及び0.5oに設定した6個の単独孔目皿と連通孔付目皿を用いて、
こんにゃくのりを吐出させ、それぞれ吐出後のこんにゃくのりの平均径を求めた結果は、下記表1のとおりである(なお、被告目皿は、別紙目皿目録記載のとおり、
主孔の直径は1.2o、主孔中心間の距離は1.72o、連通孔幅が0.23〜0.26oであるから、下記@の目皿とほぼ同様の機能を有するものと推認できる。)。
(表1:主孔の直径はいずれも1.2o) b これによれば、単独孔目皿の方が吐出膨張率が大きいものの、単独孔目皿及び連通孔付目皿のいずれの目皿においても、主孔部分から吐出されたこんにゃくのりは、隣接する主孔部分から吐出されたこんにゃくのりと接する程度に膨張することが認められる。
(イ) また、甲17添付の技術検討書2によれば、次の事実が認められる(以下、ここに示された実験を「原告実験A」という。)。
a 直径1.2oの主孔を、その中心間の距離を1.8o〜2.5oまで0.1o刻みに設定した8種類(それぞれ9個の主孔をジグザグではなく横一列に並べたもの)の単独孔ノズル部分を有する目皿を用いて、こんにゃくを製造したところ、主孔中心間の距離が2.2o以下であれば隣接する糸状こんにゃくのりが接して一体化し帯状となり、同距離が2.3o以上であれば、隣接する部分によっては糸状こんにゃくのりが離れたままとなり、ばらけて一体化が不完全となった。
b これによれば、直径1.2oの単独孔目皿から吐出されるこんにゃくのりは、糸状こんにゃくのりが完全に一体化する主孔中心間の最大間隔2.2o(主孔間隙1o)まで膨張するということができる。
イ(ア) 原告実験@によれば、直径1.2oの主孔中心間の距離が1.72o及び1.81oの連通孔付目皿においては、いずれも隣接する主孔部分から吐出されたこんにゃくのり同士が接する程度に膨張することが示されている。また、原告実験Aによっても、直径1.2oの単独孔目皿から吐出されるこんにゃくのりは、被告目皿のように主孔間隙が1o以内であれば、吐出後の膨張により隣接する糸状こんにゃくのり同士が外力を加えることなく接して一体化することが示されている。これらによれば、被告目皿を使用した場合においても、押出し直後の圧力開放により、主孔部分から吐出されたこんにゃくのりが直ちに膨張することによって、短時間のうちに外力を加えることなく接合するという一体化の機構を有しているということができる。
(イ) 被告目皿は、主孔部分と連通孔部分とから成る連通孔付目皿であって、前記2記載のとおり、独立した押出し孔を有さず、したがって「押出し孔間隙」も存在しないから、「押出し孔間隙」(構成要件B)との構成を文言上備えているとはいえないものであり、被告目皿がこうした差異部分を有することにより、
被告目皿を用いたこんにゃく製造装置のノズルから吐出された糸状こんにゃくのりは当初から分離しているものではなく、吐出時において、主孔部分から吐出される糸状こんにゃくのりを幅方向で結ぶ薄肉こんにゃくを形成する程度のこんにゃくのりは連通孔部分からも吐出されることが推認される。したがって、被告目皿を備えた被告製造装置は、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなる」(構成要件C)との構成を備えているとはいえない。
なお、上記のとおり被告製造装置は、主孔部分に加えて連通孔部分からこんにゃくのりが吐出されるものであるが、主孔部分から吐出される糸状こんにゃくのりは吐出後の膨張により接して一体化するものであり、甲11、12、14、15、18、19によれば、連通孔付目皿によって製造されたこんにゃく製品の外観は、筋組織状となっていることが認められるから、被告製造装置は、「筋組織状こんにゃくの製造装置」(構成要件D)に当たる。
4 争点(4)(均等の成否)について (1) 以上によれば、被告製造装置は、「ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押出装置において」(構成要件A)、「前記ノズルを平行ノズルとしてその主孔間隙(a)を3o以下に小(さくする)」(構成要件Bの「押出し孔」を「主孔」と読み替えたもの)、「筋組織状こんにゃくの製造装置」(構成要件D)の各構成を備えているが、被告目皿が主孔部分に加えて連通孔部分を有することに伴い、「(独立した)押出し孔間隙」(構成要件B)、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなる」(構成要件C)との構成を文言上備えていないという、本件発明の構成との差異部分がある。
(2) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、@同部分が特許発明の本質的部分ではなく、A同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、B上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、C対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。以下、上記要件に従って、順に検討する。
(3) 非本質的部分(均等要件@)について ア 均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが、ここにいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じさせる特徴的な部分、言い換えれば、その部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。
イ 本件発明は、上記3(1)記載のとおり、多数本の糸状こんにゃくをそれぞれが互いに接触する部分でのみ接着させて集束一体化することにより、風味、歯切れ等が改良された筋組織状こんにゃくを得る製造装置につき、本件発明の構成を採ることにより、簡略な装置によってその製造を実現したものであり、本件発明の本質的部分は、目皿から吐出された糸状こんにゃくのりが、圧力開放により膨張して、糸状こんにゃくのり同士が外力を加えることなく接して一体化するようにするために、こんにゃくのりの押出し孔間隙を3o以下の、又は押出し直後の糸状こんにゃくのり間のすき間を3o以下の小さい傾斜ノズルとした多孔のノズルを押出装置に設けたことにあるというべきである(ただし、前記3(2)ア(イ)で認定したように、本件証拠として提出された実験結果からすると、押出し孔(主孔)の直径が1.2oで、押出し孔(主孔)間隙が1oを超える場合には、糸状こんにゃくのりの一体化が不完全にしか生じないから、押出し孔の直径が1.2o程度の場合において、
本件発明特有の課題解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じさせるというためには、押出し孔間隙を1o以下に限定してとらえる必要がある。)。
ウ そうすると、前記3(2)記載のとおり、被告製造装置においては、押出し孔(主孔)間隙を1o以下とし、押出直後の圧力開放により主孔部分から吐出されたこんにゃくのりが直ちに膨張することによって、短時間のうちに外力を加えることなく接合するという一体化の機構を有しているのであるから、本件発明の上記本質的部分を備えているというべきであり、本件発明と被告製造装置との間で異なる構成部分、すなわち、構成要件Aが「多孔のノズル」と規定するのに対し、被告目皿は、主孔部分と連通孔部分とから成る連通孔付目皿であること、構成要件Cが「(当初は分離した状態の)糸状こんにゃく同士が…外力を加えることなく接して一体化する」と規定するのに対し、被告製造装置は、連通孔部分から吐出されたスリット状のこんにゃくのりによってつながった状態で吐出されるとの差異部分は、
本件発明の本質的部分には当たらないものというべきである。
(4) 置換可能性(均等要件A)について 上記3(2)記載のとおり、被告製造装置は、主孔部分から吐出されたこんにゃくのりは、連通孔部分から吐出されたスリット状のこんにゃくのりによってつながった状態で吐出されるものの、押出し直後の圧力開放により主孔部分から吐出されたこんにゃくのりが膨張して、主孔部分から吐出されたこんにゃくのり同士がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するものであり、「孔間を0.23〜0.26o幅のスリットで連結した多孔のノズル」の構成は特段の作用効果を奏するものではなく、特段の技術的意義を見い出すことができない。
そうであれば、本件発明における「(独立した)押出し孔間隙」及び「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなる」との構成を、被告製造装置の上記構成に置換したとしても、本件発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏することは明らかである。
(5) 容易想到性(均等要件B)について 本件発明の各構成は、本件特許出願に係る特開昭62-201555号公開特許公報(公開日:昭和62年9月5日)に掲載されたものである(なお、弁論の全趣旨によれば、公開特許公報の内容は、本件特許出願時の明細書(乙1)と同一の内容であることが認められる。)。なお、本件発明に対応する同公開特許公報の特許請求の範囲第3ないし5項においては、構成要件Cにおける「圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して」との構成はなく、構成要件Cにおける「外力を加えることなく接して一体化する」との構成は「接する」と記載されていたものであるが、上記構成は、同公開特許公報の〈問題点を解決するための手段〉の項、
〈作用〉の項に記載されていた。
さらに、甲16、23、27によれば、こんにゃく製造機械等の製造販売を業とするハタノヤは平成4年5月から平成7年2月ころまで単独孔目皿を製造、
販売していたが、本件特許の出願公告を知り、時期を置かずして同年3月ころから連通孔付目皿に切り換えていることが認められること、上記のとおり、被告製造装置の「主孔間を0.23〜0.26o幅のスリットで連結した多孔のノズル」の構成が特段の作用効果を奏するものではないことを併せ考えれば、被告が後記のとおり被告目皿を製造販売した平成7年3月9日当時、被告目皿を使用して、本件発明の「(孔間にスリットのない)多孔のノズル」を、被告製造装置の上記構成に置換することは、当業者が容易に想到することのできたものと認めるのが相当である。
(6) 容易推考性(均等要件C)について 被告製造装置が、本件発明の特許出願時である昭和61年3月1日当時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に想到することができたものであると認めるに足りる証拠はない。
(7) 意識的除外(均等要件D)について 被告製造装置における「孔間を0.23〜0.26o幅のスリットで連結した多孔のノズル」との構成が、本件発明に係る特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
(8) したがって、被告製造装置は、本件発明の構成と均等なものであって、その技術的範囲に属するものというべきである。
5 争点(5)(本件特許の無効理由-発明未完成)について (1) 被告は、構成要件Cにおいて規定する「一体化」とは、本件明細書第1表「一体化可否」の欄に記載されている「可」、「弱いが可」、「部分的に可」、
「*(場合により部分的に接着一体化)」が含まれており、「可」の場合に得られるのは「こんにゃく」であり「筋組織状こんにゃく」ではなく、上記のうち「可」以外の場合には「筋組織状こんにゃく」が得られるかも知れないが、これらを区別し後者のみを選択する技術手段が開示されていないと主張するので検討する。
(2) 本件明細書の第1表は、発明の詳細な説明実施例1により調整したこんにゃくのりを、第2図のノズルの孔間隙等を適宜変えたものを装着した押出し装置から押出した結果を示したものであるが、同表の「一体化可否」の欄には「可」、
「弱いが可」、「部分的に可」、「*(場合により部分的に接着一体化)」、「不可」と区分した記載があり、構成要件Cにおいて規定する「一体化」とは、上記のうち「不可」を除いた「可」、「弱いが可」、「部分的に可」、「*(場合により部分的に接着一体化)」の4種類の記載が含まれると解される。
そして、本件明細書の記載からすれば、本件発明は、ノズルから押し出されたゲル化前の隣接する糸状こんにゃくのりが接触し、一体化前の糸状こんにゃくのりの形状を維持しながら接触部分のみが一体化し、これをゲル化して、複数の糸状こんにゃくが一部分で一体化した筋組織状こんにゃくができるという技術であると理解できることは前記3(1)ウ記載のとおりであって、上記の「弱いが可」という記載は、一体化の強度が弱いけれども一体化していること、「部分的に可」という記載は、隣接する糸状こんにゃくのり同士が一体化する箇所が部分的であって、一部において一体化していない箇所があること、「*(場合により部分的に接着一体化)」という記載は、条件によっては部分的に接着一体化する場合と、一体化が起こらない場合とがあること、をそれぞれ示しているものと解される。したがって、
「可」と記載されているものは、一体化の強度が弱くない程度であり、隣接する糸状こんにゃく同士が一体化せず離れてしまう箇所がほとんどないことを示しているものと解される。
被告は、「可」と記載されているものは、「完全に一体化」すなわち「こんにゃくのり同志」が隙間なく一体化するものであり、「筋組織状こんにゃく」ではないと主張するが、本件明細書中にそのように解すべき根拠はない。
したがって、本件明細書において「可」と記載されているものが本件発明に該当しないものであることを前提として、本件発明が未完成であるとする被告の主張は理由がない。
6 争点(6)(本件特許の無効理由-要旨変更)について (1) 被告は、当初明細書には、ノズル押出し後の状態で多数本の半ゲル化した「糸状こんにゃく」を得て、これを接着させて一体化(ゲル化完了)し、筋組織状こんにゃくを製造する方法が記載されており、この製法では、「一体化可否」の程度が「可」(「全体的に一体化」、「全体的な接着一体化」)の場合に、全体的に均一な筋組織状こんにゃくとなるものであったが、本件手続補正により、当初明細書記載事項の製法を排除し、ノズル押出し後の状態で多数本の「糸状こんにゃくのり」を一体化する製法、すなわち、筋組織状こんにゃくを得るために、ノズル押出し後の多数本の糸状こんにゃくのりの一体化を、部分的に接触させるなど何らかの特殊な手段(本件明細書には記載されていない手段)を採用した製法及び装置に補正したと主張する。
(2) しかしながら、本件手続補正後の本件明細書に開示されている技術は、前記のとおり、多数本の糸状こんにゃくのりを一体化(一体化の領域が全体的あるいは部分的なもの、一体化の強さに強弱があるものを含む。)した「筋組織状こんにゃく」を形成するものであり、これと異なる解釈を前提とする被告の主張は理由がない。
なお、本件発明に対応する同公開特許公報の特許請求の範囲第3ないし5項においては、構成要件Cにおける「圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して」との構成はなく、構成要件Cにおける「外力を加えることなく接して一体化する」との構成は「接する」と記載されていたものであり、本件手続補正の際に本件発明の構成要件Cのとおり補正されたものであるが(乙2)、上記構成は、当初明細書と同内容の同公開特許公報の〈問題点を解決するための手段〉の項、〈作用〉の項に記載されていたものであることは、上記4(5)で述べたとおりである。
また、本件手続補正において、〈問題を解決するための手段〉の項の「ノズル押出し直後の多数本の糸状こんにゃく同志が……外力を加えることなく接する」との記載を、「ノズル押出し直後の多数本の糸状こんにゃくのり同志が……外力を加えることなく接する」と、〈作用〉の項の「多数本の糸状こんにゃく同志が……ゲル化前の短時間のうちに接して」との記載を「多数本の糸状こんにゃくのり同志が……ゲル化前の短時間のうちに接して」と、〈実施例〉の項の第1表の「項目」欄の「押出し時の糸状こんにゃく間のすき間」との記載を「押出し時の糸状こんにゃくのり間のすき間」と、〈実施例〉の項の「個々のこんにゃく条」を「個々の糸状こんにゃくのり 」と、「従来の糸状こんにゃく」を「従来の糸状こんにゃくのり」と、それぞれ補正しているが(乙2)、これらはいずれもノズルから押し出された直後の一体化する前のこんにゃく原料の状態を「こんにゃく」と記載していたものを、より正確に表現する趣旨で「こんにゃくのり」との記載に変更したものであって、これらの記載の補正によって当該記載部分が示す技術内容が変わるものではないと解される。
したがって、本件手続補正が要旨変更に当たるとの被告の主張は理由がない。
7 以上によれば、原告らが本件特許権ないしその専用実施権に基づいて被告に対し、被告目皿の生産、譲渡等の差止め及びその廃棄を求める請求は理由がある。
なお、後記のとおり、被告が被告目皿を製造販売した行為として認定できるのは、
平成7年3月9日にやまと食品に販売した2個のみであるが、本件証拠によってうかがわれる被告目皿製造の容易性や本訴における被告の応訴態度等に照らすと、被告が将来も被告目皿を製造販売するおそれのあることが認められる。
8 争点(7)(損害の発生及び額)について (1) 以上によれば、被告による被告目皿の製造販売行為は、本件特許権(仮保護の権利を含む。)及び専用実施権間接侵害(特許法101条1号)に該当するところ、被告は侵害行為について過失があったものと推定される(同法103条)から、被告は、原告らが同侵害行為により被った損害を賠償すべき責任を負う。
(2) 甲57によれば、被告は、平成7年3月9日(原告Aが原告日本繊食に対して専用実施権を設定する以前)に、やまと食品に対し、被告が製造した被告目皿2個を、合計12万6000円で販売したことが認められる(被告が被告目皿2個を製造してやまと食品に販売したことは、被告の自認するところである。)。上記2個の目皿以外に、被告が平成6年5月18日(本件特許の出願公告日)以降、被告目皿を製造、販売した事実を認めるに足りる証拠はない。
また、本件発明の実施に対し受けるべき実施料の率は、本件発明の内容、
発明品の種類、用途等を考慮すると、5%が相当であると認める。したがって、被告目皿の製造販売行為によって原告Aが被った損害は、6300円となる(特許法102条3項)。
(3) そうすると、原告Aが被告に対して損害賠償を求める請求については、原告Aが被告に対し金6300円及びこれに対する不法行為の後で本件訴状送達の日の翌日である平成12年6月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
原告日本繊食が被告に対して損害賠償を求める請求は理由がない。
9 よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝