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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成29ネ10072 損害賠償請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 29年 (ワ) 393号 損害賠償請求事件
5原告 株式会社アロマスペース
同訴訟代理人弁護士 桑原勇太
被告桐灰化学株式会社 10
同訴訟代理人弁護士 深井俊至 末吉剛
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2017/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
15 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成29年2月6日か ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
20 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「衣服の汚れ防止シート」とする特許発明について特 許出願をし,特許権を有する原告が,被告による別紙被告製品目録記載の製品 (以下「被告製品」という。)の製造及び販売を@上記特許出願に係る出願公25 開及び被告に対する警告の後に行った,A特許登録後に行ったことが上記特許 権を侵害すると主張して,被告に対し,@特許法65条1項に基づき補償金5 63万1080円,A民法709条,特許法102条2項に基づく損害賠償金 の一部2436万8920円及び上記各金員に対する@につき請求の日であり Aにつき不法行為の日の後である平成29年2月6日(訴状送達の日)から支 5 払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ る。
2 前提事実 以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内の証拠及び弁論の全趣旨に よれば容易に認められる。
10 ? 当事者 原告はアロマオイル等の商品の企画販売,雑貨の販売等を業とする株式会 社であり,被告は家庭日用品の製造販売等を業とする株式会社である。
? 原告の特許権 ア 原告は,次の特許権(以下,「本件特許権」といい,その特許出願の願15 書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)に係る特許出 願をし,特許査定を受けて本件特許権を有している(甲2)。
特許番号 第5450943号 発明の名称 衣服の汚れ防止シート 出願日 平成19年8月29日(特願2007-221918)20 出願公開日 平成21年3月12日 登録日 平成26年1月10日 イ 本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである (以下,この発明を「本件発明」といい,その特許を「本件特許」とい う。。
)25 「不織布シートに10〜100個/cm 2 という多数の微小孔を形成して メッシュ状に成形すると共に,その表面に吸着・乾燥剤を付着させた保護 シートと,この保護シートの裏面に形成した粘着剤層と,この粘着剤層に 付着させた剥離シートと,から構成される衣服の汚れ防止シート。」 ウ 本件発明は,次の構成要件(以下,個別の構成要件をそれぞれの符号に 従い「構成要件A」などという。)に分説される。
5 A 不織布シートに10〜100個/cm 2 という多数の微小孔を形成し てメッシュ状に成形すると共に,その表面に吸着・乾燥剤を付着させた 保護シートと, B この保護シートの裏面に形成した粘着剤層と, C この粘着剤層に付着させた剥離シートと,10 D から構成される衣服の汚れ防止シート ? 被告製品の構成 被告製品は,表面にエンボス加工された不織布があり,その裏面にPET フィルム層及びアクリル系粘着剤層が形成されており,上記粘着剤層の裏面 に剥離紙が貼付されている。
15 ? 被告の行為 被告は,平成24年4月から,被告製品の製造,販売を行い,後記?の警 告書の受領後現在までにこれを取りやめた(弁論の全趣旨)。
? 原告による警告 原告は,被告に対し,平成24年6月13日,特許法65条1項所定の警20 告を記載した警告書を送付した。
3 争点 ? 被告製品の構成要件充足性 なお,被告は,後記ア〜ウ以外の構成要件の充足性について争っていない。
構成要件A「微小孔」の充足性25 イ 構成要件A「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」の充足性 ウ 構成要件B「保護シートの裏面に形成した粘着剤層」及び構成要件D 「衣服の汚れ防止シート」の各充足性 ? 効果不奏功の抗弁の成否 ? 本件特許の無効理由(サポート要件違反,実施可能要件違反)の有無 ? 補償金及び損害の額 5 4 争点についての当事者の主張 ? 争点?(被告製品の構成要件充足性)について ア 争点?ア(構成要件A「微小孔」の充足性)について (原告の主張) 被告製品の不織布層は,エンボス加工が施され,これによりおおむね110 6〜25個/cm 2 の多数の微小孔が形成されているとともに表面に凹凸 が設けられ,メッシュ状となっているから,構成要件Aの「微小孔」を充 足する。
(被告の主張) 本件発明の微小孔は,ほこりや汗が衣類に直接付着することを防止する15 という従来技術の利点を損なうことなく衣服の汚れ防止シート全体に対し て通気性を付与するものであるから,「微小」は,ほこりや汗のしずくの 侵入を防ぐ程度に小さいことを意味している。ところが,被告製品は略正 方形の形状を有する孔の一辺は約1.5mmであり,ほこりや汗が容易に 貫通するから,構成要件Aの「微小孔」を充足しない。
20 イ 争点?イ(構成要件A「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」の充足性) について (原告の主張) 被告製品は,不織布の表面上に乾燥剤として用いられているシリカが付 着している。また,不織布又はこれを加工したものに何らかの物を添加し25 なければ,被告製品の包装紙の表面に表示されている「汗を素早く吸収」, 「サラサラ快適に」との効果は奏し得ない。したがって,被告製品は構成 要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」を充足する。
(被告の主張) 被告製品の製造工程には不織布の「表面に吸着・乾燥剤を付着させ」る 工程はないし,被告製品の不織布層表面に観察された物体はインク顔料を 5 含んだ剥離紙の一部であり,吸着・乾燥剤に該当し得る物体は全く観察さ れなかった。シリカが含まれるとする原告の分析結果(甲5,6)は,不 織布以外の部分も試料にしたものであるし,仮に一定量(1.1μg/c m 2)のシリカが検出されたとしても,それが吸着・乾燥剤として機能す る構造を有するものとは限らないし,上記の量では吸着・乾燥剤といえな10 い。したがって,被告製品は構成要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着さ せた」を充足しない。
原告は,被告製品の包装紙の表面の表示を指摘するが,不織布には吸水 性があり,これに基づく作用効果を記載したにすぎない。
ウ 争点?ウ(構成要件B「保護シートの裏面に形成した粘着剤層」及び構15 成要件D「衣服の汚れ防止シート」の各充足性)について (原告の主張) 被告製品のPETフィルム層及びアクリル系粘着剤層は,本件明細書の 記載(段落【0026】)に照らし,構成要件Bの「保護シートの裏面に 形成した粘着剤層」を充足する。前記ア及びイの各(原告の主張)のとお20 り構成要件Aを充足し,同Cの充足は争いがないから,被告製品は同Dも 充足する。
被告は,本件発明における通気性を粘着剤層も有していなければならな いと主張するが,本件発明における通気性とは,保護シートの不織布をメ ッシュ状に形成してその表面に凹凸を作ることによってその表面上に空気25 の流れが生じる余地をつくり,熱がこもらないようにするというものであ る(本件明細書の段落【0007】〜【0012】【0032】参照)か , ら,本件発明における通気性が垂直方向に限るとは解されないし,通気性 が確保される必要があるのは保護シートであって衣服の汚れ防止シート全 体ではない。また,被告製品の粘着剤層は0.05mmと非常に薄いもの であり,保護シート及びシャツの台襟の表面部とほとんど一体化するから, 5 保護シートと台襟の表面部とが接触状態となる。その結果,保護シートの 表面部に沿って空気が流通して水平方向の通気性が生じ,その空気が保護 シートの微小孔を通って台襟の表面部に流入し,又はPETフィルムに穴 が空く若しくはこれが破壊されるなどして,垂直方向の通気性が生じる。
したがって,被告の上記主張は失当である。
10 (被告の主張) 本件発明は,従来の汚れ防止のための不織布シートは高温多湿時に汗を 十分に吸収できず保護シートの表面に付着した汗が首筋,手首に接触し, 保護シートに熱がこもると共に汗臭くなって着用者が暑苦しさや不快感を 覚えることが多かったという課題(本件明細書の段落【0007】 【00 ,15 08】)を解決するためのものであり,不織布シートに10〜100個/ cm2という多数の微小孔を形成してメッシュ状に保護シートを成形した ことにより通気性がよく,高温高湿時にあっても保護シートに熱がこもる ことはなく,暑苦しさ,不快感を覚えることがないとされている(段落 【0012】【0017】【0032】 。こうした効果を奏するには,本 , , )20 件発明のシートは,保護シートのみならずその裏面に形成される粘着剤層 も通気性を有する必要がある。したがって,構成要件Bの「保護シートの 裏面に形成した粘着剤層」は,通気性を有することを要する。
ところが,被告製品は,不織布層の裏面にPETフィルム層が形成され, 更にその裏面にアクリル系粘着剤層が形成されており,これらはいずれも25 通気性を有さないし,穴が空くこともないので,構成要件Bの「保護シー トの裏面に形成した粘着剤層」を充足しない。
加えて,上記の本件発明の目的及び効果からすれば,本件発明の「衣服 の汚れ防止シート」は通気性を有しない層を含んではならないと解される。
ところが,被告製品は通気性を有しない層を含んでいるから,構成要件D の「衣服の汚れ防止シート」も充足しない。
5 ? 争点?(効果不奏功の抗弁の成否)について (被告の主張) 前記?ウ(被告の主張)のとおり,被告製品には通気性を有しないPET フィルム及びアクリル系粘着剤層が存在するから通気性はない。そうすると, 被告製品は本件発明の作用効果を生じないから,その技術的範囲に属しない。
10 (原告の主張) 前記?ウ(原告の主張)のとおり,被告製品は垂直方向の通気性があるか ら,本件発明の作用効果を奏している。
? 争点?(本件特許の無効理由(サポート要件違反,実施可能要件違反)の 有無)について15 (被告の主張) ア 仮に通気性のない被告製品も本件発明の技術的範囲に属するとすれば, 本件発明はその作用効果を奏さない範囲,すなわち従来技術の課題を解決 できると当業者が認識できる範囲を超える範囲を特許請求の範囲に含むこ とになるから,サポート要件(特許法36条6項1号)に反する。
20 イ 本件発明には「不織布シート・・・の表面に吸着・乾燥剤を付着させた 保護シート」との構成(構成要件A)があるところ,本件明細書には,吸 着・乾燥剤として二酸化ケイ素(SiO 2 )等の吸水性,吸着性を有する 無機粉体を採用すること,不織布シートの表面に均一に付着させることし か記載がなく(段落【0012】【0019】【0020】【0031】, , , , )25 例えば,二酸化ケイ素を材料とした吸着・乾燥剤を使用する場合に,そう した吸着・乾燥剤として具体的にいかなる物を用い,いかなる量を,本件 発明に係る衣服の汚れ防止シートのどの製造過程において,どのようにシ ートの表面に均一に付着させるのかにつき何らの示唆もないから,これら の点につき当業者は理解できない。したがって,本件発明の詳細な説明は 当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したもの(特許 5 法36条4項1号)でない。
(原告の主張) ア 前記?ウ(原告の主張)のとおり,被告製品は垂直方向の通気性があり 本件発明の作用効果を奏しているから,被告の主張は前提を欠く。
イ 二酸化ケイ素として用いるべきものは二酸化ケイ素の粉体であり(本件10 明細書の段落【0020】,吸着・乾燥作用を保有させるために不織布等 ) に二酸化ケイ素を添加することは周知であるから,その量も当業者は容易 に理解可能であり,その製造工程も周知技術にすぎない。したがって,本 件発明の詳細な説明は当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分 に記載したものである。
15 ? 争点?(補償金及び損害の額)について (原告の主張) ア 補償金 前記の警告書を発送した平成24年6月から本件特許の登録日である平 成26年1月10日までにおける被告製品の販売個数は14万0777個20 であり,1個あたりの実施料は販売価格399円の約10%の40円であ るから,これらを乗じた563万1080円が原告の受けるべき補償金額 である。
イ 特許法102条2項に基づく損害 本件特許の登録日から3年間における被告製品の販売個数は25万3325 98個であり,1個当たりの利益は販売価格399円の約30%の120 円であるから,これらを乗じた3040万7760円が原告の損害である。
(被告の主張) 否認し,争う。
当裁判所の判断
1 争点?イ(構成要件A「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」の充足性)につ 5 いて 事案に鑑み,争点?イから判断する。
? 被告製品の不織布が構成要件Aの「不織布シート」に当たることは当事者 間に争いがないところ,原告は,その表面にシリカ(SiO 2 )が付着して いるから,構成要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」を充足すると10 主張する。
? 本件発明の特許請求の範囲にはいかなる物が「吸着・乾燥剤」に当たるか は記載されていないが,本件明細書(甲2)には,「吸着・乾燥剤としては, 二酸化珪素(SiO 2 )等の吸水性,吸着性を有する無機粉体を採用するの が好ましい。」と記載されている(段落【0020】)から,吸水性,吸着性15 を有するシリカ(SiO 2 。証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば, 「シリカ」は二酸化ケイ素の通称であると認められる。)の無機粉体は「吸 着・乾燥剤」に当たり得ると解される。
?ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
被告製品の剥離紙をはがしたシートを分析試料とし,約3gを計量後20 に硫酸30mlを加えて加熱分解し,硝酸を滴下し,再度加熱して硫酸 白煙を発生させ,放冷後にイオン交換水,塩酸を順次加えて撹拌しなが ら加熱して可溶性塩類を溶解し,放冷後に濾紙を用いて濾過するなどし て得たものを計量して試料中の二酸化ケイ素又はケイ素含有量を算出し たところ,1cm四方中に1.1μg/cm 2 ,相対比率0.019%25 のシリカが検出された(甲5,6)。
被告製品の剥離紙をはぎ取り,エチルアルコールに漬けて粘着剤及び 粘着剤のついたフィルムを除去し,乾燥してから試料として計量したと ころ,試験結果は「0.010%未満」とされた。この点について,エ チルアルコール処理により不織布からシリカが脱落したことも考えられ るとの上記計量試験実施者による考察が付された。(甲7) 5 被告製品を顕微鏡で観察したところ,不織布の表面に粒状の物が付着 していることが確認された。当該物等を赤外分光光度計により分析して スペクトルを得たところ,当該物と被告製品中の上質紙に印刷されてい るインクとでスペクトルがほぼ一致した。(乙8) イ 上記ア の認定事実によれば,剥離紙を除く被告製品に一定量のシリカ10 が含まれているということができる。
しかし,前記前提事実?のとおり,剥離紙を除く被告製品には不織布以 外の層があるところ,上記ア の計量においては,剥離紙を除く被告製品 全体を試料としているから,不織布の表面以外の部分に含まれるシリカが 検出された可能性を否定することができない。加えて,同 の試験におい15 ては,被告製品から剥離紙,粘着剤及び粘着剤のついたフィルムを除いた 試料からシリカが検出されることはなかったこと,同 のとおり被告製品 の不織布層の表面において乾燥剤に該当し得ない物体以外のものが検出さ れなかったことにも鑑みると,被告製品の不織布の表面にシリカが付着し ていると認めることはできない。また,被告製品に一定量のシリカ(Si20 O 2)が含まれているとしても,それが吸収性,吸着性を有するものとし て被告製品に存在することを認めるに足りる証拠もない。
? 原告は,不織布のみでは汗の吸収等の効果を奏し得ないことを前提に,被 告製品の包装の表示(「汗を素早く吸収」「サラサラ快適に」 , )に照らせば, 被告製品に何らかの吸着・乾燥剤が含まれていると主張する。しかし,不織25 布のみでは汗の吸収等の効果を奏しないことを認めるに足りる証拠はない。
むしろ,本件明細書(甲2)によれば,多数の微小孔を形成してメッシュ状 に成形した不織布シート及び吸着・乾燥剤はいずれもが表面に付着したほこ り,汗等を吸収,吸着するものとされていること(段落【0017】【00 , 18】 【0020】 , )からすれば,上記の不織布シートのみでも一定程度の 汗の吸収,吸着等の効果を奏することがうかがわれ,上記の包装の表示から 5 被告製品の不織布層の表面に何らかの吸着・乾燥剤が含まれていると認める ことはできない。また,原告は,前記?ア の結果について,同試験のエチ ルアルコール処理により不織布からシリカが脱落した旨主張するが,仮に脱 落の可能性があるとしても,同試験において脱落した事実を認めるに足りる 証拠はない。
10 原告の主張はいずれも採用し難い。
? したがって,被告製品は構成要件Aの「表面に吸着・乾燥剤を付着させた」 を充足しない。
2 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず15 れも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 柴田義明
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