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事件 平成 25年 (行ケ) 10125号 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/04/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年4月16日判決言渡

平成25年(行ケ)第10125号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年3月19日

判 決



原 告 株 式 会 社 林 原



訴 訟 代 理 人 弁 護 士 安 江 邦 治

安 江 裕 太

弁 理 士 須 磨 光 夫




被 告 日本食品化工株式会社



訴 訟 代 理 人 弁 護 士 宮 嶋 学

大 野 浩 之

高 田 泰 彦

柏 延 之

弁 理 士 勝 沼 宏 仁

横 田 修 孝

森 田 裕

主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。



事 実 及 び 理 由




第1 原告の求めた判決

特許庁が無効2012−800102号事件について平成25年3月25日にし

た審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,先願

発明との同一性の有無である。

1 特許庁における手続の経緯

被告は,発明の名称を「新規分岐グルカン並びにその製造方法および用途」とす

る発明について,平成21年4月15日,特許出願をし(特願2009−9911

7号。優先権主張日:平成20年9月18日,優先権主張番号:特願2008−2

39570号。請求項の数36。以下「本件出願」という。,平成21年10月3


0日,設定登録を受けた(特許4397965号,以下「本件特許」という。甲1

9)ものであるところ,原告は,平成24年6月15日,本件特許の請求項1〜3

6につき特許無効審判請求をした。被告は,同年9月3日付け訂正請求書(甲22)

により,特許請求の範囲減縮し,請求項1〜3,7,8,11〜36を削除し,

請求項4〜6,9,10を後記2のとおり訂正したところ,特許庁は,平成25年

3月25日,訂正を認めた上で,「本件請求は成り立たない。」との審決をし,同審

決は,同年4月5日,原告に送達された(なお,本件において審決が訂正を認めた

部分については争いがない。。




2 本件訂正発明の要旨

平成24年9月3日付け訂正請求書(甲22。以下,甲19の特許公報と併せて

「本件明細書」ともいう。)によれば,訂正後の本件特許の請求項4,5,6,9,

10に係る発明(以下,これらを合わせて「本件訂正発明」ということがある。)

は,以下のとおりである。




【請求項4】(本件訂正発明4)

シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素とを,デンプン原料に作

用させる工程を含んでなる,α−1,4−結合により構成された直鎖状グルカンと,

少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造

を有する,重合度11〜35のグルカンまたはその還元物であって,分岐構造がα

−1,4−結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個

以上のグルコース残基であるグルカンまたはその還元物を含有する液糖または粉糖

の製造法であって,糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus

niger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−グルコシダー

ゼである,製造法。

【請求項5】(本件訂正発明5)

シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素に加えて,枝切り酵素を

更に作用させる,請求項4に記載の製造法。

【請求項6】(本件訂正発明6)

シクロデキストリン生成酵素が,パエニバチルス エスピー (Paenibacillus sp.),バ

チルス コアギュランス (Bacillus coagulans),バチルス ステアロサーモフィルス

(Bacillus stearothermophilus),またはバチルス マゼランス (Bacillus macelans) 由来の

ものである,請求項4または5に記載の製造法。

【請求項9】(本件訂正発明9)

枝切り酵素が,イソアミラーゼ,プルラナーゼ,およびこれらの組み合わせから

なる群から選択される,請求項5に記載の製造法。

【請求項10】(本件訂正発明10)

枝切り酵素が,マイロイデス オドラータス (Myroides odoratus)由来イソアミラー

ゼ,シュードモナス アミロデラモサ (Pseudomonas amyloderamosa) 由来イソアミラ

ーゼ,およびクレブシエラ プネウモニアエ(Klebsiella pneumoniae)由来プルラナ

ーゼ,並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される,請求項5に記載の製




造法。



3 原告が主張する無効理由

本件訂正発明4〜6,9,10は,本件出願日前の2008年(平成20年)4

月23日に日本語でされた国際出願(PCT/JP2008/057879。日本

における出願番号:特願2009−512944号。優先権主張日:2007年(平

成19年)4月26日。優先権主張番号:特願2007−117369号)であって,

本件出願の優先日後の2008年(平成20年)11月13日に国際公開(再公表

公報WO2008/136331。甲10)がされたものの国際出願日における国

際出願に添付された明細書,請求の範囲又は図面(以下,これらを合わせて「先願

明細書」という。)に記載された発明(以下,後記4(1)記載の発明を含めて,
「先願

発明」ということがある。)と同一であるから,本件特許は,特許法184条の13

の規定により読み替えて適用される同法29条の2の規定に違反して特許されたも

のである。



4 審決の理由の要点

本件訂正発明4〜6,9,10は,先願発明と同一であるということはできない

から,無効理由には理由がない。

(1) 先願発明

ア 先願発明1

「バチルス・サーキュランスPP710由来α−グルコシル転移酵素及びバチル

ス・ステアロサーモフィラス(Bacillus thermophilus)由来のCGTaseとを,

澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α−グルカンを調製する方法。」

イ 先願発明2

「バチルス・サーキュランスPP710由来α−グルコシル転移酵素,バチルス・

ステアロサーモフィラス(Bacillus thermophilus)由来のCGTase及びイソア




ミラーゼを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐 α−グルカンを調製す

る方法。」

(2) 一致点及び相違点

ア 先願発明1と本件訂正発明4との一致点及び相違点

【一致点】

「シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素とを,デンプン原料に

作用させる工程を含んでなる,グルカンを含有する糖の製造法。」である点。

【相違点1】

本件訂正発明4が液糖又は粉糖の製造法であるのに対し,先願発明1ではこのよ

うな特定がなされていない点。

【相違点2】

本件訂正発明4で製造される糖が,α−1,4結合により構成された直鎖状グル

カンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とから

なる構造を有する,重合度11〜35のグルカンであって,分岐構造がα−1,4

結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個以上のグル

コース残基であるグルカンを含むものであるのに対し,先願発明1ではこのような

特定がなされていない点。

【相違点3】

本件訂正発明4において,糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー

(Aspergillus niger)又はアクレモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−グ

ルコシダーゼであるのに対し,先願発明1ではバチルス・サーキュランスPP71

0由来 α−グルコシル転移酵素が用いられる点。

イ 先願発明2と本件訂正発明5との一致点及び相違点

【一致点】

「シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素と枝切り酵素とを,デ

ンプン原料に作用させる工程を含んでなる,グルカンを含有する糖の製造法。 であ





る点。
(なお,審決において,本件訂正発明5と先願発明2との一致点に係る記載に

は,上記の「枝切り酵素」に関する記載が脱落しているが,審決は,
「本件訂正発明

5と先願発明2を対比すると,後者の『イソアミラーゼ』は前者の『枝切り酵素』

に相当する」との認定をしており,この点について当事者も争うものではないこと

から,裁判所において上記下線部を補い,上記のように摘示した。)

【相違点】

上記の相違点1〜3と同じ。

(3) 先願発明1と本件訂正発明4の相違点に対する判断

ア 相違点1について

実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について

先願発明1の糖も,グルコース重合度11〜35のグルカンを含むものであり,

「α−1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グル

カンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する」グルカンであっ

て,
「分岐構造がα−1,4結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端

に結合した1個以上のグルコース残基であるグルカンを含むもの」に該当すること

から,上記相違点は,実質的なものでない。

ウ 相違点3について

先願明細書には,アミラーゼで消化されない水溶性食物繊維について,「α−1,

6結合を多く含むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待でき」るところ,

水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法を提供するという課題を解決

するために,
「α−1,4グルカンを原料(基質)とし,分岐・・・(中略)
・・・を

比較的多く有する分岐α−グルカンを生成する酵素に期待を込め」たことが記載さ

れている。また,アスペルス・ニガー由来の α−グルコシダーゼは,本件出願前に

既に周知の酵素であり,澱粉分解物から,一定(α−1,6結合)の分岐 α−グル

カンを生成する酵素であることは当業者に周知である。




しかし,先願明細書のいう「分岐」とは,グルカンにおけるグルコースの結合様

式のうち,α−1,4結合以外のグルコースの結合様式を意味すると定義している

ように,分岐 α−グルカンの「分岐」を α−1,6結合に限定するものではない。

また,先願明細書には,分岐を比較的多く有する分岐 α−グルカンを生成する酵素

を探索した結果として見出した,PP710株及びPP349株が産生する新規な

α−グルコシル転移酵素が,α−1,4,α−1,6結合だけでなく,
「α−1,3

結合,α−1,4,6結合及び α−1,3,6結合をも有するグルカンを生成」す

ることが記載されていることから,当該「分岐」には α−1,3結合,α−1,4,

6結合及び α−1, 6結合による分岐も含むものとして解釈されるべきである。
3,

そして,α−グルカンにこれらの分岐が導入される点が,先願明細書に記載され

た「水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法」を提供するという課題

を解決するために必要であり,それが先願発明の技術的特徴の一部として認識され

ている。先願明細書には,具体的な構成としてはPP710株及びPP349株が

産生する α−グルコシル転移酵素を使用することしか開示されておらず,しかも,

当該酵素により導入される特定の分岐構造が先願発明1の技術的特徴の一部として

認識されており,そのようなものを得るために一般的な酵素ではなく,上記PP7

10株及びPP349株が産生する α−グルコシル転移酵素を探索して見出し,使

用したのであるから,当該酵素に代えて別の酵素を用いるといった技術的思想を,

先願明細書の記載から読み取ることはできない。

さらに,デンブン原料に,シクロテキストリン生成酵素とアスペルギルス・ニガ

ー由来の α−グルコシダーゼを作用させる,分岐 α−グルカン含有糖液の製造方法

(本件明細書に記載の製造例13)を再現した実験報告書 III 甲15)
( においても,

α−1,4,6結合が確認されたものの,α−1,3結合及び α−1,3,6結合

のいずれも検出されていない。

なお,アクレモニウム・エスピー由来の α−グルコシダーゼを用いた場合は,
「直

鎖状グルカンの内部にも α−1,3−結合を介した分岐構造が導入されることにな




る」と推測されるが,アクレモニウム・エスピー由来の α−グルコシダーゼは α−

1,3結合を介した分岐構造を導入するものであり,α−1,6結合を導入するも

のでないから,α−1,6結合,α−1,3,6結合及び α−1,4,6結合のい

ずれを介した分岐構造も導入されるとは予測できない。

このように,先願発明1の方法におけるバチルス・サーキュランスPP710由

来の α−グルコシダーゼを,アスペルギルス ニガー由来の α−グルコシダーゼ
・ (あ

るいはアクレモニウム・エスピー由来の α−グルコシダーゼ)に置換した場合には,

得られる分岐 α−グルカンの分岐の種類が限定され,分解酵素や他の物質との相互

作用といった性質が変化することは,その構造から明らかである。

したがって,分岐 α−グルカンを調製する方法についての上記置換は,得られる

分岐 α−グルカンの性質を変化させるものであり,新たな効果を奏するものといえ

る。

以上のことから,先願発明1におけるバチルス・サーキュランスPP710由来

の α−グルコシダーゼを,アスペルギルス・ニガー由来の α−グルコシダーゼに置

き換えることは,先願発明1の特徴部分又は課題解決のために必要な部分を除くも

のであって,単なる周知技術の付加,削除,転換等であるとはいえず,また,その

ことによって新たな効果を奏するものでないともいえないから,上記相違点3は課

題解決のための具体化手段における微差とはいえず,本件訂正発明4と先願発明1

が実質同一であるともいえない。

(4) 本件訂正発明5,6,9,10について

本件訂正発明5と先願発明2も,前記と同様の理由により,実質同一であるとは

いえない。そして,本件訂正発明6,9,10はいずれも本件訂正発明4又は5の

発明特定事項を限定して含むものであるから,同様の理由により,上記無効理由に

はいずれも理由がない。



第3 原告主張の審決取消事由




1 取消事由1(先願発明1の認定誤り)及び取消事由2(相違点3の認定の誤

り)

(1) 先願発明1の認定誤り

審決は,先願発明1について「バチルス・サーキュランスPP710由来 α−グ

ルコシル転移酵素及びバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus thermophilus)

由来のCGTaseとを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐 α−グル

カンを調製する方法。 を認定したが,
」 これらの酵素を審決のように特定の微生物由

来のものに限定して認定したのは,以下のとおり,誤りである。

ア 先願明細書の段落【0027】に「本発明でいうα−グルコシル転移酵

素とは,マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに

作用し,実質的に加水分解することなくα−グルコシル転移を触媒することにより,

本発明の分岐α−グルカンを生成する酵素を意味する。,段落【0031】に「本


発明のα−グルコシル転移酵素はその給源によって制限されないものの,好ましい

給源として微生物が挙げられ,とりわけ,本発明者らが土壌より単離した微生物P

P710株又はPP349株が好適に用いられる。 と記載されているとおり,
」 バチ

ルス・サーキュランスPP710由来α−グルコシル転移酵素及びバチルス・ステ

アロサーモフィラス(Bacillus thermophilus)由来のCGTaseは,それぞれ,糖

転移酵素及びシクロデキストリン生成酵素(CGTase)の好適な一例にすぎな

い。

イ また,先願明細書には,
「新規なα−グルコシル転移酵素を産生する微生

物を土壌から単離したという知見」
(以下「第1の知見」という。)のほか,段落【0

008】【0046】に記載されているように,
, 「α−グルコシル転移酵素とCGT

aseなどの加水分解作用を有する他のアミラーゼとを併用すると,α−グルコシ

ル転移酵素を単独で使用する場合に比べて,得られる分岐α−グルカンの粘度を低

減させ消化性の低減に寄与するα−1,3,α−1,6及びα−1,3,6結合の

割合を更に増加させることができるという知見」(以下「第2の知見」という。)が




示されている。この第2の知見からすれば,CGTaseと併用する場合,α−グ

ルコシル転移酵素はα−1,4グルカンの非還元末端グルコースにα−1,6グル

コシル転移する酵素作用及びα−1,3グルコシル転移する酵素作用を有しておれ

ばよく,特定の微生物由来のものに限られないことは,先願明細書の記載及び先願

発明の出願時の技術常識から明らかである。このことは,先願発明1の分割出願(特

願2013−151138号)が登録された事実によっても裏付けられることであ

る。

ウ 先願発明1は,正しくは,
「糖転移作用を有する酵素とシクロデキストリ

ン生成酵素(CGTase)とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,

分岐α−グルカンを含有する液糖又は粉糖の製造法。」と認定されるべきである。

(2) 相違点3の認定の誤り

そうすると,本件訂正発明4と先願発明1の相違点3は,
「本件訂正発明4におい

て,糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)又はアク

レモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−グルコシダーゼと特定されて

いるのに対し,先願発明1ではそのような特定がなされていない点。 と認定すべき


であり,これと異なる審決の認定は誤りである。

(3) 上記認定の誤りが結論に影響を及ぼすこと

審決の認定した相違点1及び2は実質的相違点でないとする判断については争い

がないから,本件訂正発明4と先願発明1とは,本件訂正発明4において,糖転移

作用を有する酵素が「アスペルギルス・ニガーまたはアクレモニウム・エスピー由

来のα−グルコシダーゼ」と特定されている点でのみ相違することになる。そして,

アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼがα−1,6グルコシル転移す

る酵素作用及びα−1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα−グルコシル転

移酵素であることは,先願発明の出願時の技術常識であり,先願発明の出願前から,

α−グルコシル転移酵素として,特に分岐を有するオリゴ糖(分岐α−グルカン)

の製造に汎用されていた周知の酵素である。これを考慮に入れると,アスペルギル




ス・ニガー由来のα−グルコシダーゼという酵素の名称が,文言上先願明細書に記

載されていないとしても,先願明細書の記載を目にした当業者には,
「α−1,4グ

ルカンの非還元末端にα−1,6グルコシル転移する酵素作用及びα−1,3グル

コシル転移する酵素作用を有するα−グルコシル転移酵素」として,アスペルギル

ス・ニガー由来のα−グルコシダーゼが直ちに想起されるのは明らかであり,アス

ペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼは先願明細書に記載されているに等

しく,本件訂正発明4と先願発明1とは同一である。

仮に,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼが記載されているに等

しいとまではいえないとしても,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダー

ゼの上記記載の酵素作用や周知性に照らすと,先願発明1の「α−1,4グルカン

の非還元末端にα−1,6グルコシル転移する酵素作用及びα−1,3グルコシル

転移する酵素作用を有するα−グルコシル転移酵素」として,アスペルギルス・ニ

ガー由来のα−グルコシダーゼを用いることは,明らかに周知技術の転換等に相当

し,何らの新たな効果を奏するものでもない。

したがって,アスペルギルス ニガー由来のα−グルコシダーゼを用いることは,


課題解決のための具体化手段における微差にすぎず,本件訂正発明4と先願発明1

とは実質的に同一である。

以上のとおり,取消事由1及び2についての認定誤りは,結論に影響を及ぼすも

のである。



2 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)

(1) 判断内容の誤り

審決は,
「先願発明1におけるバチルス・サーキュランスPP710由来のαグル

コシダーゼを,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼに置き換えるこ

とは,先願発明1の特徴部分又は課題解決のために必要な部分を除くものであって,

単なる周知技術の付加,削除,転換等であるとはいえず,また,そのことによって




新たな効果を奏するものでないともいえないから,相違点3は課題解決のための具

体化手段における微差とはいえず,本件訂正発明4と先願発明1が実質同一である

ともいえない」としたが,以下のとおり,誤りである。

ア 本件訂正発明4で用いられるα−グルコシダーゼと先願発明1で用いら

れるα−グルコシル転移酵素とは同一であること

(ア) 本件訂正発明4のα−グルコシダーゼについて

本件訂正発明4は,「糖転移作用を有する酵素」を「アスペルギルス・ニガー

(Aspergillus niger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−

グルコシダーゼ」に訂正されたものであるが,訂正の前後を通じて請求項4に係る

発明を実質的に変更したものではない。そして,本件明細書(段落【0047】【0


048】【0053】【0055】
, , )によれば,本件分岐グルカンは,糖転移作用を

有する酵素として,α−グルコシダーゼ,6−α−グルコシルトランスフェラーゼ,

デキストリンデキストラナーゼ,環状マルトシルマルトース生成酵素のいずれを使

用しても製造でき,この中からα−グルコシダーゼを選択した場合,そのα−グル

コシダーゼは,市販のものを用いても,微生物から単離したものを用いてもよく,

微生物起源は,特に限定されない。つまり,本件分岐α−グルカン(分岐メガロ糖)

は,どんな微生物由来のα−グルコシダーゼを用いても,製造することができる。

しかも,本件訂正発明4で用いるアスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダー

ゼは,先願発明1の出願前から,α−1,6及びα−1,3グルコシル転移する酵

素として,また,アクレモニウム・エスピー由来の α−グルコシダーゼは,α−1,

3及びα−1,4グルコシル転移する酵素として周知であり,いずれも市販され,

工業的に使用されていたものである。

したがって,本件訂正発明4において,糖転移作用を有する酵素として,アスペ

ルギルス・ニガー又はアクレモニウム・エスピー由来の α−グルコシダーゼに限定

することに格別の技術的意義はない。

(イ) 先願発明1で用いられる α−グルコシル転移酵素について




先願明細書(段落【0027】【0031】
, )によれば,先願明細書でいうα−グ

ルコシル転移酵素は,α−1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解をすること

なくα−グルコシル転移を触媒することにより分岐グルカンを生成する酵素で,そ

の給源は制限されない。そして,前記のとおり,先願発明1のバチルス・サーキュ

ランスPP710由来のα−グルコシル転移酵素は,アルスロバクター・グロビホ

ルミスPP349由来のものとともに挙げられた,好ましい例にすぎない。

したがって,α−1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解をすることなく α

−グルコシル転移を触媒することにより,分岐 α−グルカンを生成する酵素であれ

ば,先願発明1の製造法において使用できることは,先願明細書の記載からみて当

業者には明らかである。

(ウ) このように,本件訂正発明4で用いられる α−グルコシダーゼは,

α−グルコシル基を他の糖質へ転移する酵素作用からみて,先願発明1でいう α−

グルコシル転移酵素と異なる酵素ではない。

イ 本件訂正発明4と先願発明1とで得られる分岐構造が同じであること

(ア) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアスペルギル

ス・ニガー(Aspergillus niger)由来の α−グルコシダーゼの場合

審決は,実験報告書 III(甲15)のみに基づいて,本件訂正発明4において糖転

移作用を有する酵素としてアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来 α−グル

コシダーゼを用いた場合に得られる分岐グルカンには,α−1,3結合及び α−1,

3,6結合のいずれも含まれない旨認定したが,以下のとおり,誤りである。

α−1,6結合のみならず,α−1,3結合をも分岐中に含むことについては,

本件明細書の段落【0055】に,アスペルギルス・ニガー由来の α−グルコシダ

ーゼを用いた場合はごく微量ではあるが α−1,2結合や α−1,3結合が分岐構

造中に含まれることがあることが記載されているほか,農学博士A作成の見解書(甲

31・以下「A見解書」という。,理学博士B作成の見解書(甲37・以下「B見


解書」という。,工学博士C作成の見解書(甲40・以下「C見解書」という。
) )等




にも示されている。

そして,α−1,3,6結合を形成することについて,C見解書において,α−

1,6グルコシル転移及びα−1,3グルコシル転移の両方のα−グルコシル転移

作用を有する酵素であれば,その頻度は別にして,当然に生じ得るものであるとさ

れる。すなわち,その反応機序について,α−グルコシル転移酵素が,非還元末端

グルコースに対してまずα−1,6グルコシル転移を行い,α−1,6結合を介し

た分岐構造が生成し,分岐したグルコース残基に更にα−1,3グルコシル転移が

起こり,結果としてα−1,3,6結合が形成される,ということが合理的である

とされており,A見解書及びB見解書においても同様の見解が示され,受託研究報

告書(甲35)による実験結果の裏付けもある。したがって,α−1,6グルコシ

ル転移及びα−1,3グルコシル転移の両方のα−グルコシル転移作用を有する酵

素であれば,その頻度は別にして,当然にα−1,3,6結合が生じ得るというの

が,酵素反応メカニズムから合理的かつ科学的に導かれる先願発明の出願時の技術

常識である。

したがって,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼを用いた場合,

α−1,6結合のみならず,α−1,3結合,α−1,3,6結合が形成されるこ

とになる。

(イ) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアクレモニウ

ム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−グルコシダーゼの場合

審決は,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素としてアクレモニウ

ム・エスピー(Acremonium sp.)由来 α−グルコシダーゼを用いた場合に得られる

分岐グルカンには,α−1,6結合,α−1,3,6結合及び α−1,4,6結合

のいずれもが含まれるとは予測できないとしたが,以下のとおり,誤りである。

A見解書において述べられているように,一般にα−グルコシダーゼは,特定の

分岐を形成させる主反応に加えて,他の分岐を形成させる副反応をも触媒し,いく

つかの異なる結合様式で分岐構造を形成することがあり,アクレモニウム・エスピ




ー由来のα−グルコシダーゼもその例外ではなく,α−1,6結合,α−1,3,

6結合及びα−1,4,6結合のいずれも形成しないとはいえない。

(ウ) そうすると,先願明細書でいうα−グルコシル転移酵素と,アス

ペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼ及びアクレモニウム・エスピー由来

のα−グルコシダーゼとは,共に,α−1,4グルカンを基質とした場合,加水分

解活性が弱く,糖転移活性が強い酵素であり,実質的に加水分解をすることなくα

−グルコシル転移を触媒することにより,α−1,6結合だけでなくα−1,3結

合やα−1,3,6結合を有する分岐α−グルカンを生成する酵素という点で,性

質を全く同じくする酵素なのである。

ウ 効果について

本件明細書の段落【0013】には,非還元末端に分岐構造を有する重合度が1

1〜35程度のグルカンであれば,高い耐老化性を有するとともに,風味改善や食

感の改善等に極めて有効であることが記載されているのだから,α−グルコシダー

ゼを置換することで非還元末端以外の分岐構造に変化が生じたとしても,本件明細

書に記載された効果において差異がもたらされるはずがない。

また,実験報告書 II(甲11),受託研究報告書(甲33),農学博士D作成の見

解書(甲39・以下「D見解書」という。)によれば,先願発明1において,バチル

ス・サーキュランスPP710由来の α−グルコシダーゼをアスペルギルス・ニガ

ー由来の α−グルコシダーゼに置換しても,耐老化性や保存安定性において新たな

効果が奏されることはないことを示している。

被告は,先願発明1のバチルス・サーキュランスPP710由来のα−グルコシ

ダーゼをアスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼに置換すると,水溶性

食物繊維含量が57.5%から20%台まで有意に低下するという新たな効果が奏

されると主張するが,これは,本件訂正発明4によって得られる液糖が先願発明1

によって得られるものと比較して水溶性食物繊維含量において劣っていることを示

すにすぎない。また,被告の従業員が,甲58(「独立行政法人農畜産業振興機構」




のウエブページ「コーンスターチの特性と新加工・利用技術」)において,約20%

の食物繊維を含有するハイアミロースコーンスターチについて,難消化性でん粉(レ

ジスタントスターチ)とも呼ばれている旨述べており,被告において,食物繊維含

有量が約20%程度でも難消化性であるとの認識を有していることが窺われるとこ

ろ,本件訂正発明4の水溶性食物繊維含有量は上記のとおりであるから,難消化性

の観点からも先願発明1と技術的意義において何らの差異もない。

エ 以上のとおり,相違点3は課題解決のための具体化手段における微差で

あって,本件訂正発明4と先願発明1とは実質同一であると判断されるべきである。

(2) 相違点2についての認定判断との矛盾

審決は,相違点3の判断に当たり,α−グルコシル転移酵素としてバチルス・サ

ーキュランスPP710由来のものを用いた先願発明1では,α−1,6結合,α

−1,3結合,α−1,3,6結合,及び α−1,4,6結合の分岐構造が導入さ

れるのに対して,本件訂正発明4のアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来

の場合は,α−1,3結合及び α-1,3,6結合の分岐構造が導入されず,アク

レモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の場合は,α−1,6結合,α−1,

3,6結合,及びα−1,4,6結合の分岐構造が導入されないことから,先願発

明1と本件訂正発明4とでは,得られる分岐構造が異なる旨認定した。

その一方,相違点2に関する判断において,審決は,本件訂正発明4も,先願発

明1も,α−1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖

状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有し,分岐構造が

α−1,4以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個以上

のグルコース残基であるグルカンを製造するという点で一致する旨判断した。

このように,審決は,本件訂正発明4により製造される分岐グルカンと先願発明

1により製造される分岐グルカンの同一性について,矛盾した判断をしている。

(3) 特許請求の範囲に基づかない判断

審決は,相違点3の判断に当たり,本件訂正発明4において糖転移作用を有する




酵素である α−グルコシダーゼがアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来の

場合及びアクレモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の場合に得られる分岐

構造について,前記のとおり認定したが,訂正請求項4には,製造される分岐グル

カンがこれら特定の分岐構造を有さないことは記載されていない。

したがって,審決は,特許請求の範囲に記載されていない事項に基づいて本件訂

正発明4の内容を認定,解釈したものであって,失当である。

(4) 無効審判の経緯

無効審判において,被告が,本件訂正発明4により得られる分岐グルカンは非還

元末端のみに分岐構造を有するのに対して,先願発明1により得られる分岐グルカ

ンは非還元末端以外の部分にも分岐構造を有する旨主張したため,原告は,実験報

告書 III(甲15)を提出し,本件明細書の製造例13及び製造例9を再現して得た

分岐グルカンが非還元末端以外の内部グルコースにも分岐構造を有することを実験

的に示した。

それにもかかわらず,審決は,本件訂正発明4及び先願発明1により得られる分

岐グルカンの分岐構造が非還元末端のみに存在するか否かについては何ら判断を示

さず,実験報告書 III の結果に基づいて,本件訂正発明4により製造される分岐グル

カンが特定の分岐結合を有さないものであるとの認定をした。審決のこの認定は,

無効審判における被告主張と乖離した独断であり,失当である。



3 本件訂正発明5,6,9,10について

審決は,本件訂正発明4と同様の理由により,本件訂正発明5,6,9,10は

先願発明1に記載された発明とはいえないとする。しかし,先願発明1の認定に誤

りがあるのと同様に,先願発明2について,バチルス・サーキュランスPP710

由来のα−グルコシル転移酵素に限定解釈した認定は,誤りである。

仮に,この点が誤りでないとしても,審決の認定した相違点1〜3は,本件訂正

発明5との相違点でもあるから,同様に,先願明細書に記載された発明とはいえな




いとする審決の判断は誤りである。そして,本件訂正発明5,6,9,10におけ

るCGTaseないし枝切り酵素と先願発明におけるそれとは差異はないから,本

件訂正発明5,6,9,10は,先願発明1又は2と同一であるといえる。



第4 被告の反論

1 取消事由1(先願発明1の認定誤り)及び取消事由2(相違点3の認定の誤

り)に対し

(1) 原告主張1(1),(2)に対し

審決が,先願発明1で用いられる酵素を特定の微生物株由来のものに限定して認

定したことに誤りはなく,相違点2の認定にも誤りはない。

ア 先願発明1におけるα−グルコシル転移酵素は,段落【0013】に規

定された「本発明の分岐α−グルカン」を生成し,かつ,「加水分解活性が弱い点,

低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点,

及び,α−1,3及びα−1,3,6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来

α−グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素」

(段落【0027】)である点に特徴がある発明であるところ,先願明細書に記載さ

れた α−グルコシル転移酵素は,実質的にバチルス・サーキュランスPP710由

来のものとアルスロバクター・グロビホルミスPP349由来のものの二つのみで

ある。そうすると,先願明細書には,特定の菌株由来の酵素が記載されていると判

断するのが妥当であり,そのような限定のない「α−グルコシル転移酵素」を上位

概念として認定するのは不可能である。

また,同段落に,先願明細書に開示されたα−グルコシル転移酵素が公知の真菌

由来のα−グルコシダーゼとは異なることが記載されているとおり,先願明細書に

おいて,本件訂正発明のアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)又はアクレモニ

ウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−グルコシダーゼは除外されているの

だから,これを含む形で,抽象的なα−グルコシル転移酵素を認定することはでき




ない。

イ また,原告がいうところの「第2の知見」は,先願明細書には何ら記載

されておらず,
「第2の知見」に基づく原告の主張は先願明細書の記載に基づかない

独自の見解にすぎず,失当というほかない。

すなわち,原告が根拠として指摘する段落【0046】には,
「本発明のα−グル

コシル転移酵素」をCGTaseと併用することが記載されており,原告の主張す

るような,菌株限定のないα−グルコシル転移酵素をCGTaseと併用する技術

思想が記載されているとはいえない。また,原告が根拠とする段落【0008】に

ついても,そもそも「CGTase」という記載自体がなく,菌株限定のないα−

グルコシル転移酵素をCGTaseと組み合わせて用いることは何ら記載されてい

ない。同段落に記載された方法で得られた分岐α−グルカンは,血糖上昇抑制作用

や生体内脂質低減作用をも有する顕著に難消化性の水溶性食物繊維であり,先願明

細書で提供された特殊なα−グルコシル転移酵素を使用しなければ生産物はこのよ

うな効果を奏さないから,同段落の「α−グルコシル転移酵素」は,先願明細書で

提供された特殊なα−グルコシル転移酵素を意味すると解するほかない。

したがって,審決における先願発明1の認定に誤りはなく,それに基づく相違点

3の認定にも誤りはない。

(2) 原告主張1(3)に対し

ア 先願明細書において「本発明のα−グルコシル転移酵素」として規定さ

れているのは,上記のとおりの特殊な酵素であり,「α−1,4グルカンの非還元

末端にα−1,6グルコシル転移する酵素作用及びα−1,3グルコシル転移する

酵素作用を有するα−グルコシル転移酵素」としてアスペルギルス・ニガー由来の

α−グルコシダーゼが直ちに想起されるか否かは,同酵素が先願明細書に規定され

た「本発明のα−グルコシル転移酵素」に当たるか否かの判断とは無関係である。

また,そもそも特許法29条の2の同一性の判断はあくまで引用文献に当該発明

が記載されているか,記載されていると等しいといえるか否かを判断基準とするの




であるから,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼが想起される旨の

原告主張は,進歩性の判断であればともかく,本件のような先願発明の同一性の議

論としては主張自体失当である。

イ アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,「α−1,4グル

カンの非還元末端にα−1,6グルコシル転移する酵素作用及びα−1,3グルコ

シル転移する酵素作用を有するα−グルコシル転移酵素」に該当するか否かは,
「本

発明のα−グルコシル転移酵素」に該当するか否かの判断とは関係がないので,糖

転移作用を有する酵素としてアスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼを

用いることは周知技術の転換等に相当するといえる根拠はそもそも存在しない。

また,先願明細書の段落【0046】にあるα−グルコシル転移酵素とCGTa

seとの併用は,あくまでも,「本発明のα−グルコシル転移酵素」とともにCG

Taseを用いた場合についてのものであり,
「本発明のα−グルコシル転移酵素」

に該当しないα−グルコシダーゼを用いることを想定したものではなく,その場合

にどの分岐がどの程度増えて結果的にどのような分岐α−グルカンが生成される

かについて,先願明細書から予想し得るものでもない。そのため,アスペルギルス・

ニガー由来のα−グルコシダーゼをCGTaseと併用した場合に,段落【001

3】で規定されている「本発明の分岐α−グルカン」を生成すると予想することは

全く不可能であるし,先願発明1の特徴である「本発明のα−グルコシル転移酵素」

を,原告自らが段落【0027】の記載でその作用効果を否定しているアスペルギ

ルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼに置き換えることは,先願発明1の技術思

想に明らかに反するものであり,「周知技術の転換等に相当する」といえるもので

ない。



2 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)に対して

(1) 原告主張2(1)に対して

以下のとおり,糖転移作用を有する酵素の相違は,課題解決のための具体化手段




の微差ではないから,実質的同一性を否定した審決の判断に誤りはない。

ア 糖転移作用を有する酵素の相違について

先願発明1は,水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法等を提供す

ることを課題としており(段落【0006】 ,その解決手段としてα−グルコシル


転移酵素を用いているものであるが,段落【0027】において「本発明のα−グ

ルコシル転移酵素は,加水分解活性が弱い点,低濃度から高濃度まで基質溶液の濃

度に依存せず効率の良い転移活性を有する点,及び,α−1,3及びα−1,3,

6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来α−グルコシダーゼや酢酸菌由来デ

キストリンデキストラナーゼとは異なる酵素である」と記載されていることからも

明らかなとおり,先願発明1においては従来公知の真菌由来α−グルコシダーゼや

酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素を用いて,低濃度から高

濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有し,かつ,α−1,6

結合に加えてα−1,3及びα−1,3,6結合をも生成させることを特徴とする

ものである。したがって,α−グルコシル基を他の糖質へ転移する酵素作用の点の

みから,本件訂正発明4のα−グルコシダーゼと先願発明1のα−グルコシル転移

酵素とが,異なる酵素ではないとすることはできない。

また,先願明細書の実験4−3(段落【0080】)には,アスペルギルス・ニガ

ー由来のα−グルコシダーゼを加水分解酵素として用いたことが記載されており,

これは,アスペルギルス・ニガー由来α−グルコシダーゼが,強い加水分解活性を

有することを示しており,実質的に加水分解をすることなくα−グルコシル転移を

触媒するものであると原告が主張する先願発明1のα−グルコシル転移酵素には該

当しないことを示している。しかも,原告作成の論文(乙21)では,アスペルギ

ルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼでは,バチルス・サーキュランスPP71

0による生成される高分岐α−グルカンの形成を説明することはできないと結論付

けられていることから,原告自身も,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシ

ダーゼが先願発明のα−グルコシル転移酵素とは異なると認めているものといえる。




さらに,被告は,実験により,本件訂正発明4で用いるアスペルギルス・ニガー

由来のα−グルコシダーゼが,バチルス・サーキュランスPP710由来α−グル

コシル転移酵素と酵素活性の点で異なり,先願発明のα−グルコシル転移酵素に該

当しないことを確認した。すなわち,実験報告書A(乙17)により,低基質濃度

での加水分解活性及び糖転移活性が異なること,実験報告書B(乙18)により,

高基質濃度での加水分解活性及び糖転移活性が異なること,実験報告書C(乙19)

により,澱粉部分分解物に対する加水分解活性及び糖転移活性が異なること,実験

報告書D(乙20)により,マルトペンタオースに対する加水分解活性及び糖転移

活性が異なることが,それぞれ明らかである。

加えて,農学博士E作成の見解書(乙24・以下「E見解書」という。 において,


同博士は,先願明細書に記載されたα−グルコシル転移酵素と分岐α−グルカンの

定義に基づいて検討したが,アスペルギルス・ニガー由来α−グルコシダーゼは先

願明細書に記載された条件を満たすα−グルコシル糖転移酵素であるとはいえない,

両者は同じ性質を有する糖転移酵素であるとはいえないとの見解を述べている。

イ 得られるグルカンの分岐構造について

本件訂正発明4は,物を生産する方法の発明であるから,新規性の判断において,

生産された物の新規性が要求されることはないし,先願発明1と生産された物同士

が同一であったとしても,方法が異なれば,本件訂正発明4と先願発明1とは別発

明である。念のため,原告の主張に対して,以下に反論する。

(ア) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアスペルギル

ス・ニガー(Aspergillus niger)由来 α−グルコシダーゼの場合

原告は,審決が,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアスペルギ

ルス・ニガー(Aspergillus niger)由来 α−グルコシダーゼの場合には,α−1,3結

合及び α−1,3,6結合が形成されないと認定したのは誤りである旨主張する。

しかし,実験報告書 III(甲15)では,α−1,3結合及び α−1,3,6結合

が検出されていないのであるから,α−1,3結合及び α−1,3,6結合が形成




されていないというべきである。同報告書では,実験目的ではなかったため,α−

1,3結合及び α−1,3,6結合の同定及び定量を行わなかった旨の陳述書(甲

38)があるが,これと同時期に提出され,比較された実験報告書 II(甲11)で

は α−1,3結合及び α−1,3,6結合のピークが記載されていることに照らす

と,上記陳述書は信用性がない。

また,原告が上記主張の根拠とする岡山県工業技術センターに依頼して作成した

受託研究報告書(甲35)についても,サンプルの調製を原告が行い,分析条件も

原告が決定したものであるから,原告自身により作成された実験報告書 III 甲15)


と比較して信用できるものではない。

さらに,E見解書において,E博士は,2009年に発表されたOtaらの報告

及びShimbaらの報告では,アスペルギルス・ニガー由来α−グルコシダーゼ

の糖転移反応が詳細に調べられているが,α−1,6結合での転移の報告に限られ,

α−1,2結合やα−1,3結合すら言及されていないから,2008年の先願発

明の出願時点ではα−1, 6結合の形成は確認できていなかったといえること,
3,

自分の経験からもα−1,3,6結合の報告を目にしたことはないこと,及び,α

−グルコシダーゼの転移反応は一般に非還元末端に対して行われると認識されてお

り,それ以外の残基に転移する必要があるα−1,3,6結合の形成は,あったと

しても非常に微弱で,それに着目して研究を行わない限り明らかにはならないと考

えられることを述べている。

そうすると,仮に,受託研究報告書 III(甲35)のデータどおりの事実が認めら

れるとしても,アスペルギルス ニガー由来α−グルコシダーゼを用いた場合でも,


ある特定の条件においてα−1,3結合及びα−1,3,6結合が形成されること

があるという,先願発明の出願時には知られていなかった新たな知見を示すもので

あって,先願発明の出願当時の技術常識を構成するものではない。

(イ) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアクレモニウ

ム・エスピー(Acremonium sp.)由来 α−グルコシダーゼの場合




原告は,審決が,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアクレモニ

ウム・エスピー(Acremonium sp.)由来 α−グルコシダーゼの場合には,α−1,

6結合,α−1,3,6結合及び α−1,4,6結合のいずれも形成されるとは予

測できないと認定したのは誤りである旨主張する。

しかし,先願明細書(段落【0084】)には,α−1,6結合の割合が極めて高

く,α−1,4,6結合に加えてα−1,3結合及びα−1,3,6結合をも有す

るグルカンはそれまで全く知られていないことが記載されているのだから,審決の

上記認定は,当業者の技術認識に反していない。原告が上記主張の根拠として提出

したA見解書(甲31)は,α−グルコシダーゼを作用させると特定の分岐を形成

させる主反応に加えて他の分岐を形成させる副反応をも触媒するという抽象的な可

能性が述べられているだけで,アクレモニウム・エスピー由来 α−グルコシダーゼ

を作用させた場合にどのような作用機序が予想されるかについて何ら見解が示され

ていないのだから,原告の上記主張は失当である。

ウ α−グルコシダーゼの置換による新たな効果について

以下のとおり,先願発明1のバチルス・サーキュランスPP710由来α−グル

コシル転移酵素をアスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼに置換するこ

とで,得られる分岐α−グルカンの構造と性質は変化する。

すなわち,実験報告書 III(甲15)のとおり,先願発明1で用いる α−グルコシ

ダーゼをアスペルギルス・ニガー(あるいは,アクレモニウム・エスピー)由来の

α−グルコシダーゼに置換すると,得られるグルカンの分岐構造の種類が限定され

たものになる。分岐構造の種類が限定されるとアミラーゼなどの分解酵素で消化さ

れやすくなるから,糖転移作用を有する酵素を置換することにより,水溶性食物繊

維含量が少なく,消化性が高くなるように性質が変化する。実際,原告が提出した

受託研究報告書(甲33)には,本件の製造例を再現した試料の水溶性食物繊維含

量が最低でも57.5%であるのに,先願明細書の実験18−3を再現した試料で

は20%台であることが示されている。




また,被告が作成した実験報告書E(乙22)のとおり,澱粉部分分解物を基質

として,シクロデキストリン生成酵素とイソアミラーゼを併用して,アスペルギル

ス・ニガー由来α−グルコシダーゼを作用させるか,バチルス・サーキュランスP

P710由来α−グルコシル転移酵素を作用させるかで,得られる反応生成物は,

平均分子量に5倍以上の差があり,イソマルトース生成量においても差が見られ,

水溶性食物繊維含量にも大きな差が見られた。

さらに,実験報告書F(乙28)にも示されるとおり,本件訂正発明4の製造方

法により製造された液糖は,消化性で血糖値を上昇させインスリン分泌を刺激する

ものであり,先願発明とは技術的意義が異なる。

(2) 原告主張2(2)に対し

審決は,相違点2についての判断では,先願発明1で得られる分岐グルカンは,

本件訂正発明4の「α−1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくと

もその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有す

る」という抽象的な範囲の限度で本件訂正発明4で得られるグルカンと共通するこ

とを認定したにすぎず,両者が別組成物であるという相違点3についての認定判断

とは矛盾しない。

(3) 原告の主張2(3)に対し

先願明細書に,先願明細書のα−グルコシル転移酵素は,α−1,3結合及びα

−1,3,6結合をも生成する点で従来公知の真菌由来α−グルコシダーゼ等と異

なること(段落【0027】)や,先願明細書のα−グルコシル転移酵素を用いて得

られたグルカンはα−1,4結合,α−1,6結合,α−1,4,6結合,α−1,

3及びα−1,3,6結合を有する,これまで全く知られていない分岐グルカンで

あること(段落【0084】)が記載されているから,先願発明1においてこのよう

な分岐構造が相当数導入されるのは,特殊な酵素を用いているからにほかならず,

本件訂正発明4と先願発明1とでは,α−グルコシダーゼの機能が異なると考える

のが合理的である。審決の認定判断は,先願明細書に記載された技術的事項を踏ま




え,本件訂正発明4の「アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)またはアクレモ

ニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−グルコシダーゼ」という構成に基

づく合理的な推論であり,特許請求の範囲に基づかない認定であるとの原告の主張

は失当である。

(4) 原告の主張2(4)に対し

無効審判における審判官の判断は,当事者の主張や証拠の立証趣旨に拘束される

ものではないから,原告の主張は失当である。



3 原告の主張3に対し

前記のとおり,取消事由1〜3にはいずれも誤りはないから,本件訂正発明5,

6,9,10についての審決の認定判断の誤りをいう原告の主張はいずれも理由が

ない。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(先願発明1の認定誤り)について

(1) 先願明細書の記載事項について

先願明細書(甲10)には,以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲

【請求項1】

グルコースを構成糖とするα−グルカンであって,メチル化分析において,下記

の特徴を有する分岐α−グルカン:

(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,

4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:

4の範囲にある;

(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,

4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化




グルシトールアセテートの60%以上を占める;

(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メ

チル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び

(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メ

チル化グルシトールアセテートの0.5%以上である。

・・・

【請求項4】

高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含

量が40質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の分

岐α−グルカン。

【請求項5】

マルトース及びグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し,α−

グルコシル転移することによって,請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α−グ

ルカンを生成する作用を有するα−グルコシル転移酵素。

・・・

【請求項7】

バチルス属又はアルスロバクター属に属する微生物に由来する請求項5又は6記

載のα−グルコシル転移酵素。

【請求項8】

バチルス属微生物が,バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)PP710

(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター,寄託番号FERM B

P−10771)又はその変異株である請求項7記載のα−グルコシル転移酵素。

【請求項9】

アルスロバクター属微生物が,アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter

globiformis)PP349(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター,

寄託番号FERM BP−10770)又はその変異株である請求項7記載のα−グ




ルコシル転移酵素。

【請求項10】

請求項5乃至9のいずれかに記載のα−グルコシル転移酵素の産生能を有する微

生物を培養して得られる培養物からα−グルコシル転移酵素を採取することを特徴

とするα−グルコシル転移酵素の製造方法

【請求項11】

バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)PP710(独立行政法人産業技

術総合研究所 特許生物寄託センター,寄託番号FERM BP−10771) アル


スロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)PP349(独立行政法

人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター,寄託番号FERM BP−1077

0)又はこれらの変異株である請求項5乃至9のいずれかに記載のα−グルコシル


転移酵素産生能を有する微生物。

【請求項12】

マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに,請求

項5乃至9のいずれかに記載のα−グルコシル転移酵素を作用させて,請求項1乃

至4のいずれかに記載のグルカンを生成せしめる工程と,これを採取する工程とを

含んでなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α−グルカン

製造方法

・・・

【請求項15】

アミラーゼが,バチルス属に属する微生物に由来する請求項13又は14記載の

分岐α−グルカンの製造方法

【請求項16】

バチルス属微生物がバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)PP710(独

立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター,寄託番号FERM BP−

10771)又はその変異株である請求項15記載の分岐α−グルカンの製造方法




・・・

【請求項18】

請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α−グルカンを含有する組成物。

【請求項19】

飲食物,化粧品,医薬品,医薬部外品又は工業原料である請求項18記載の組成

物。

【請求項20】

請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α−グルカンを有効成分として含んでな

る血糖上昇抑制剤。

【請求項21】

請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α−グルカンを有効成分として含んでな

る生体内脂質低減剤。

【請求項22】

請求項5乃至9のいずれかに記載のα−グルコシル転移酵素を有効成分とするマ

ルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンのための品質改

良剤。

【請求項23】

請求項5乃至9のいずれかに記載のα−グルコシル転移酵素を作用させることを

特徴とするマルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンの

改質方法。

【請求項24】

マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンに,請求項

5乃至9のいずれかに記載のα−グルコシル転移酵素とともにイソマルトデキスト

ラナーゼを作用させてイソマルトースを生成させる工程と,得られるイソマルトー

ス又はこれを含む糖質を回収する工程とを含んでなる,イソマルトース又はこれを

含む糖質の製造方法。」




「【発明の詳細な説明

【技術分野】

【0001】

本発明は,分岐α−グルカン及びこれを生成するα−グルコシル転移酵素とそれ

らの製造方法並びに用途に関し,詳細には,グルコースを構成糖とするα−グルカ

ンであって,メチル化分析において,

(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,

4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:

4の範囲にある;

(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,

4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化

グルシトールアセテートの60%以上を占める;

(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メ

チル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び

(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メ

チル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;

ことを特徴とする分岐α−グルカン,及び,マルトース及びグルコース重合度が3

以上のα−1,4グルカンに作用し,α−グルコシル転移することによって,当該

分岐α−グルカンを生成する作用を有するα−グルコシル転移酵素とそれらの製造

方法,並びに当該分岐α−グルカンを含んでなる組成物とその用途に関する。」

「【0004】

グルカンにおけるグルコースの結合様式であるグルコシド結合(以下,本明細書

では「グルコシド結合」を単に「結合」と略称する。)の内,α−1,6結合はα−

1,4結合に比べてアミラーゼで分解され難いことから,α−1,6結合を多く含

むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待できる。例えば,乳酸菌に属す

るロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来のデキス




トランスクラーゼ(EC 2.4.1.5)によりスクロースを原料として製造され

るデキストランは,グルコースが主に α−1,6結合で重合したグルカンであって,

α−1,2結合及びα−1,3結合の分岐を有する場合もある。ロイコノストック・

メセンテロイデス B−512F株由来のデキストランスクラーゼを用いた場合,得

られるデキストランにおける結合の α−1,6結合の含量は90%以上にもなり,

難消化性であることが期待される。しかしながら,デキストランは,スクロースか

らの収率が低く,また,粘性が高いため精製操作が煩雑で,コスト高になることか

ら,水溶性食物繊維として利用しようとする試みはほとんど行われていない。

【0005】

また,安価な澱粉にアミラーゼを作用させ,主としてα−1,4結合を分解する

ことによりα−1,6結合の含量を高めて水溶性食物繊維を調製しようとする試み

も為されている。特開2001−11101号公報には,澱粉液化液に,α−アミ

ラーゼとβ−アミラーゼの混合物を作用させた後,残存するデキストリン部を回収

することにより,α−1,4結合に対するα−1,6結合の割合を10〜20%に

高めた分岐デキストリンを調製する方法が提案されている。しかしながら,この分

岐デキストリンは,澱粉が本来持つ分岐(α−1,6結合)を保持しつつ,グルコ

ースがα−1,4結合で連なった直鎖部分を取り除くことでα−1,6結合の割合

を高めるという方法で製造されるため,原料澱粉からの収率が低く,また,大幅な

消化性の低減が期待できないなどの課題がある。また,澱粉部分分解物(デキスト

リン)に作用しα−1,6結合を導入する酵素として,デキストリンデキストラナ

ーゼ(EC 2.1.1.2)が知られている(例えば,山本一也ら,「バイオサイ

エンス・バイオテクノロジー・バイオケミストリー」,第56巻,(1992年),第

169頁乃至173頁を参照) デキストリンデキストラナーゼは,
。 澱粉部分分解物

に作用し,主としてα−1,6グルコシル転移反応を触媒することにより,デキス

トラン構造(グルコースがα−1,6結合で連なった構造)を生成する酵素である

ものの,従来から知られている,酢酸菌に属するアセトバクター・カプスラタム




(Acetobacter capsulatum)由来のデキストリンデキストラナーゼは,α−1,6結合

の導入割合が少ない(例えば,Fら,
「ジャーナル・オブ・アプライド・グリコサイ

エンス(Journal of Applied Glycoscience),第48巻,第2号,第143頁乃至151


頁(2001年)などを参照)こと,また,酵素自体の安定性が低いことなどの問

題点があり,現実に使用されるに至っていない。このような状況下,水溶性食物繊

維の選択肢を広げる意味でも,新たな難消化性グルカン及びそれを製造する手段の

提供が強く望まれる。

【発明の開示】

【0006】

本発明は,水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法並びにその用途

を提供することを課題とする。

【0007】

上記課題を解決するために,本発明者らはマルトース及び/又はグルコース重合

度3以上のα−1,4グルカンを原料(基質)とし,分岐(本明細書において,
「分

岐」とは,グルカンにおけるグルコースの結合様式の内,α−1,4結合以外のグ

ルコースの結合様式を意味する)を比較的多く有する分岐α−グルカンを生成する

酵素に期待を込めて,このような酵素を産生する微生物を広く探索した。その結果,

土壌から単離した微生物,PP710株及びPP349株が,マルトース及び/又

はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンに作用し,α−1,4,α−1,

6,α−1,3,α−1,4,6及びα−1,3,6結合を有する分岐α−グルカ

ンを生成する新規なα−グルコシル転移酵素を菌体外に産生することを見出した。」

「【0013】

本発明で言うグルカンとは,グルコースを構成糖とするグルコース重合度3以上

のオリゴ糖ないしは多糖を意味する。本発明の分岐α−グルカンは,グルコースを

構成糖とするα−グルカンであって,メチル化分析において,

(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,




4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:

4の範囲にある;

(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,

4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化

グルシトールアセテートの60%以上を占める;

(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メ

チル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び

(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メ

チル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;

ことを特徴とする。

【0014】

本発明でいうメチル化分析とは,多糖又はオリゴ糖においてこれを構成する単糖

の結合様式を決定する方法として一般的に知られている方法である。・・・

【0015】

上述した(1)における,2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチル

グルシトール(以下,
「2,3,6−トリメチル化物」と略称する)とはC−4位が

1,4結合にあずかるグルコース残基を意味し,2,3,4−トリメチル−1,5,

6−トリアセチルグルシトール(以下,
「2,3,4−トリメチル化物」と略称する)

はC−6位が1,6結合にあずかるグルコース残基を意味する。そして,「2,3,

6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の比が1:0.6乃至1:4の

範囲にある」とは,すなわちメチル化分析における部分メチル化グルシトールアセ

テートのガスクロマトグラムにおいて,本発明の分岐α−グルカンは,C−1位以

外にC−4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC−1位以外にC−6位のみ

が結合にあずかるグルコース残基の合計に対するC−1位以外にC−6位のみが結

合にあずかるグルコース残基の割合が37.5乃至80.0%の範囲を示すことを

意味する。




【0016】

上述した(2)における,
「2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチ

ル化物との合計が部分メチル化物の60%以上を占める」とは,本発明の分岐α−

グルカンは,C−1位以外にC−4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC−

1位以外にC−6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計がグルカンを構成

する全グルコース残基の60%以上を占めることを意味する。

【0017】

同様に,上述した(3)における,
「2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリ

アセチルグルシトール」
(以下,
「2,4,6−トリメチル化物」と略称する)とは,

C−3位が1,3結合にあずかるグルコース残基を意味し,
「2,4,6−トリメチ

ル化物が部分メチル化物の0.5%以上10%未満である」とは,本発明の分岐α

−グルカンは,C−1位以外にC−3位のみが結合にあずかるグルコース残基がグ

ルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上10%未満存在することを意味

する。

【0018】

さらに同様に,上述した(4)における「2,4−ジメチル−1,3,5,6−

テトラアセチルグルシトール」(以下,「2,4−ジメチル化物と略称する」)とは,

C−3位及びC−6位の両方がそれぞれ1,3結合と1,6結合にあずかるグルコ

ース残基を意味し,
「2,4−ジメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上である」

とは,本発明の分岐α−グルカンは,C−1位以外にC−3位とC−6位が結合に

あずかるグルコース残基がグルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上存

在することを意味する。

【0019】

上記の(1)乃至(4)の条件を全て充足する本発明の分岐α−グルカンは,こ

れまで知られていない新規なグルカンである。本発明の分岐α−グルカンは,メチ

ル化分析において,上記(1)乃至(4)の条件を充足する限り,グルコース残基




の結合順序は特に限定されない。

【0020】

本発明の分岐α−グルカンは,通常,グルコース重合度が10以上の様々なグル

コース重合度を有する分岐α−グルカンの混合物の形態にある。また,本発明の分

岐α−グルカンにおいて,その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で

除した値(Mw/Mn)は,通常,20未満である。」

「【0027】

本発明でいうα−グルコシル転移酵素とは,マルトース及び/又はグルコース重

合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解することなくα−

グルコシル転移を触媒することにより,本発明の分岐α−グルカンを生成する酵素

を意味する。本発明のα−グルコシル転移酵素は,加水分解活性が弱い点,低濃度

から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点,及び,

α−1,3及びα−1,3,6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来α−グ

ルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素である。」

「【0031】

本発明のα−グルコシル転移酵素はその給源によって制限されないものの,好ま

しい給源として微生物が挙げられ,とりわけ,本発明者らが土壌より単離した微生

物PP710株又はPP349株が好適に用いられる。・・・」

「【0042】

例えば,澱粉又はその部分分解物やアミロースの水溶液に,本発明のα−グルコ

シル転移酵素を作用させた場合の分岐α−グルカンの生成メカニズムは,以下のよ

うに推察される。

1)本酵素は,基質としてマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−

1,4グルカンに作用し,非還元末端グルコース残基を他のα−1,4グルカンの

非還元末端グルコース残基に主としてα−1,4又はα−1,6グルコシル転移す

ることにより,非還元末端グルコース残基の4位又は6位水酸基にグルコースがα




−結合したα−1,4グルカン(グルコース重合度が1増加したα−グルカン)と,

グルコース重合度が1減じたα−1,4グルカンを生成する。

2)本酵素はさらに,1)で生じたグルコース重合度が1減じたα−1,4グルカ

ンに作用し,1)で生じたグルコース重合度が1増加したα−グルカンに対して,

1)と同様に分子間α−1,4又はα−1,6グルコシル転移することにより,1)

で生成したグルコース重合度が1増加したα−グルカンの非還元末端グルコース残

基の4又は6位水酸基にグルコースをさらに転移し,鎖長を伸長する。

3)上記1)及び2)の反応を繰り返すことにより,マルトース及び/又はグルコ

ース重合度3以上のα−1,4グルカンからα−1,4及びα−1,6結合を有す

るグルカンを生成する。

4)本酵素は,さらに,頻度は低いながらも,α−1,3グルコシル転移やグルカ

ンの内部にあるα−1,6結合したグルコース残基に対するα−1,4又はα−1,

3グルコシル転移を触媒することにより,α−1,3結合,α−1,4,6結合及

びα−1,3,6結合をも有するグルカンを生成する。

5)上記1)乃至4)の反応が繰り返される結果として,グルコースが主としてα

−1,4結合及びα−1,6結合で結合し,僅かながらα−1,3結合,α−1,

4,6結合及びα−1, 6結合を有する本発明の分岐α−グルカンを生成する。
3, 」

「【0051】

また,本発明の分岐α−グルカンは,浸透圧調節性,賦形性,照り付与性,保湿

性,粘度付与性,接着性,他の糖の結晶防止性,難発酵性などの性質を具備してい

る。従って,本発明の分岐α−グルカン又はこれを含む糖質は,水溶性食物繊維,

品質改良剤,安定剤,賦形剤などとして,飲食物,嗜好物,飼料,餌料,化粧品,

医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。」

「【0139】

<実験17:α−グルコシル転移酵素とアミラーゼを併用した分岐α−グルカンの

調製>




実験6の方法で得たバチルス・サーキュランスPP710由来α−グルコシル転

移酵素精製標品と実験15−2の方法で得たアミラーゼ精製標品を用いて,実験1

4に記載したバチルス・サーキュランスPP710由来α−グルコシル転移酵素の

粗酵素を用いたグルカンCの調製が再現できるか否かを検討した。・・・」

「【0144】

<実験18−1:α−グルコシル転移酵素とイソアミラーゼを併用した分岐α−グ

ルカンの調製と得られた分岐α−グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>

バチルス・サーキュランスPP710由来アミラーゼに変えて,シュードモナス・

アミロデラモサ(Pseudomonas amyloderamosa)由来のイソアミラーゼ(株式会社林原

生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり0,50,200,500又は1,0

00単位加えた以外は実験17と同様に反応させた。・・・」

「【0152】

<実験18−3:α−グルコシル転移酵素とCGTaseを併用した分岐α−グル

カンの調製と得られた分岐α−グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>

シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼに変えてバチルス・ステ

アロサーモフィラス(Bacillus thermophilusBacillus thermophilus)由来のCGTas

e(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり0,0.1,0.2,

0.5又は1.0単位加えた以外は実験18−1と同様に反応させた。・・・」

「【0155】

この結果から,本発明の α−グルコシル転移酵素にCGTaseを併用して澱粉

部分分解物に作用させることで,分子量が低下し,水溶性食物繊維含量が顕著に増

加した分岐 α−グルカンが調製できることが判明した。CGTaseは α−1,4

結合の加水分解作用と共に転移作用をも有していることから,α−アミラーゼと比

較して極端に分子量を低下させることなく,非還元末端グルコシル残基を生成する

ため,α−グルコシル転移酵素の作用頻度が高くなり,α−アミラーゼ添加よりも

水溶性食物繊維含量が増加した分岐 α−グルカンが得られたものと推察される。」




(2) 先願発明1の認定について

ア 上記(1)の記載によれば,先願発明について,以下のことが認められる。

先願発明は,水溶性食物繊維として有用なグルカン及びその製造方法並びにその

用途を提供することを課題とするものである(段落【0006】。


グルカンにおけるグルコースの結合様式であるグルコシド結合のうち,α−1,

6結合はα−1,4結合に比べてアミラーゼで分解され難く,α−1,6結合を多

く含むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待できることから(段落【0

004】,主にα−1,6結合で重合したグルカンであって,α−1,2結合及び


α−1,3結合の分岐を有するものや,主としてα−1,4結合を分解することに

よりα−1,6結合の含量を高めて水溶性食物繊維を調製しようとする試みがなさ

れるなどしたが,様々な問題があって現実に使用されるに至っていなかった(段落

【0005】。


このような状況下,水溶性食物繊維の選択肢を広げる意味でも,新たな難消化性

グルカン及びそれを製造する手段の提供が強く望まれており(段落【0005】,


発明者らは,マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカン

を原料(基質)とし,分岐(グルカンにおけるグルコースの結合様式のうち,α−

1,4結合以外のグルコースの結合様式を意味する。 を比較的多く有する分岐α−


グルカンを生成する酵素に期待を込めて,このような酵素を産生する微生物を広く

探索した。その結果,土壌から単離した微生物,PP710株及びPP349株が,

マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンに作用し,α

−1,4,α−1,6,α−1,3,α−1,4,6及びα−1,3,6結合を有

する分岐α−グルカンを生成する新規なα−グルコシル転移酵素を菌体外に産生す

ることを見出した(段落【0007】。そして,この新規酵素は,澱粉部分分解物


などのα−1,4グルカンから,グルコースを構成糖とするα−グルカンを生成す

るものであり,このグルカンは,これまでに知られていない,新規な,分岐構造に

富む分岐α−グルカンである(段落【0019】。
) すなわち,このα−グルカンは,




メチル化分析において,全グルコース残基に占める割合が,C−1位以外にC−6

位のみが結合するグルコース残基について,最低でも22.5%(計算式:37.

5%×0.6)
(段落【0015】【0016】,C−1位以外にC−3位のみが結
, )

合にするグルコース残基について,0.5〜10%,C−1位以外にC−3位とC

−6位が結合にするグルコース残基について,0.5%以上(段落【0018】)を

含むことを特徴とする。

また,PP710株を培養して得たα−グルコシル転移酵素の粗酵素液には,澱

粉を分解するアミラーゼが混在しており,この粗酵素液を用いるか,又は単離した

当該アミラーゼをα−グルコシル転移酵素と併用することにより,α−グルコシル

転移酵素を単独で用いた場合よりも水溶性食物繊維含量を高めた分岐α−グルカン

が製造できること,これらの方法によって得られる分岐α−グルカンは,原料α−

1,4グルカンに比べα−1,6結合の割合が大幅に増加しており,かつ,α−1,

3及びα−1,3,6結合を有し,顕著な難消化性を示すことから水溶性食物繊維

として有用であり,血糖上昇抑制作用や生体内脂質低減作用をも有することを見出

して,本発明を完成した(段落【0008】 。


上記の新規α−グルカンを生成する上記の微生物PP710株及びPP349株

を菌学的性質に基づいて同定した結果,微生物PP710株は,バチルス・サーキ

ュランス(Bacillus circulans)に属する微生物であり,微生物PP349株は,アル

スロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)に属する微生物であり,

いずれも新規微生物であることが判明した(段落【0034】。


イ 先願明細書には,上記のようにして発見されたバチルス・サーキュラン

スPP710とアルスロバクター・グロビホルミスPP349以外の微生物から由

来したα−グルコシル転移酵素についての記載は一切ない。また,先願明細書には,

上記以外にも,これらの微生物由来の酵素及びその酵素により生成されるα−グル

カンが新規である旨が記載されている(段落【0007】【0009】【0034】
, ,

など)。




ウ 上記ア及びイを踏まえると,先願明細書には,特定の菌株由来の新規な

酵素を用いた発明(先願発明1)が開示されているのであって,「α-グルコシル転

移酵素」について,上記のバチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバク

ター・グロビホルミスPP349との特定の微生物由来の酵素以外のα−グルコシ

ル転移酵素について開示があると認めることはできない。

そして,実験18−3には,バチルス・サーキュランスPP710由来α−グル

コシル転移酵素とバチルス・ステアロサーモフィラス由来シクロデキストリン生成

酵素とをデンプン部分分解物に作用させて分岐α−グルカンを得たことが記載され

ているのであるから(段落【0152】〜【0155】,先願明細書の記載から,


先願発明1を「バチルス・サーキュランスPP710由来α−グルコシル転移酵素

及びバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus thermophilus)由来のCGTa

seとを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α−グルカンを調製する

方法。」と認定した審決の判断に誤りはない。なお,先願明細書には,α−グルコシ

ル転移酵素として,バチルス・サーキュランスPP710由来のほかに,アルスロ

バクター・グロビホルミスPP349由来のものが記載されており,CGTase

として,バチルス・ステアロサーモフィラス由来以外のものが記載されているとし

ても,それらを認定しなかった場合に新たな別個の相違点を生じさせるものではな

いから,上記の実験に示されたものを特定して認定することに問題はない。

(3) 原告の主張について

ア 原告は,審決が認定した先願発明1は,先願明細書の実験18−3に記

載された具体的な製造法に限定したものであるから合理性を欠く,正しくは,
「糖転

移作用を有する酵素とシクロデキストリン生成酵素とを,デンプン原料に作用させ

る工程を含んでなる,分岐α−グルカンを含有する液糖又は粉糖の製造法。 と認定


すべきである旨主張する。

しかし,微生物の株により産生される酵素が異なり,それにより酵素活性・作用

も異なることはよく知られているところ,前記のとおり,先願明細書は,新たな難




消化性グルカン及びそれを製造する手段の提供を目指して,一定の条件を満たす酵

素を探索した結果得られた,新規微生物である上記二つの微生物が産生する新規な

α−グルコシル転移酵素に特徴を有する発明を開示するものである。この点に関し,

原告の指摘するように,段落【0031】には,先願発明1のα−グルコシダーゼ

は給源によって制限されず,本発明者らが土壌より単離した微生物PP710株又


はPP349株が好適に用いられる。 旨の記載があるが,
」 微生物の株により産生さ

れる酵素は異なり,一般に,所望の活性を有する酵素を産生する微生物を単離する

には相当の試行錯誤が必要であるにもかかわらず,先願明細書には,バチルス・サ

ーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349と同様

の他の微生物等からα−グルコシル転移酵素を得るための手段についての開示がな

いことに照らすと,この一文をもって,上記二つの微生物以外の微生物由来の糖転

移作用を有するα−グルコシル転移酵素一般,あるいは,α−1,4グルカンの非

還元末端にα−1,6グルコシル転移する酵素作用及びα−1,3グルコシル転移

する酵素作用を有するα−グルコシル転移酵素一般が開示されているものと認める

ことはできない。

また,段落【0027】には,
「本発明でいうα−グルコシル転移酵素とは,マル

トース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し,実質

的に加水分解することなくα−グルコシル転移を触媒することにより,本発明の分

岐α−グルカンを生成する酵素を意味する。」旨の記載があるが,当該記載は,「本

発明でいう」α−グルコシル転移酵素との記載であって,α−グルコシル転移酵素

一般を示す記載となっているわけではないこと,また,
「本発明でいうα−グルコシ

ル転移酵素」は,
「本発明の分岐α−グルカン」を生成する酵素をいうものであると

ころ,
「本発明の分岐α−グルカン」は,段落【0015】〜【0021】に示され

るような上記一定の条件を充足する新規なα−グルカンであること(段落【001

9】)からすれば,段落【0027】にいう「α-グルコシル転移酵素」が,α−1,

4グルカンに作用し,実質的に加水分解することなくα−グルコシル転移を触媒す




る作用を有するα−グルコシダーゼ一般を指すものと解することはできず,原告の

上記主張は採用できない。

イ また,原告は,先願明細書に第2の知見が開示されていることを前提と

して,CGTaseと併用する場合,α−グルコシル転移酵素はα−1,4グルカ

ンの非還元末端グルコースにα−1,6グルコシル転移する酵素作用及びα−1,

3グルコシル転移する酵素作用を有しておればよく,特定の微生物由来のものに限

られないことは,先願明細書の記載及び先願発明の出願時の技術常識から明らかで

ある旨主張する。

しかし,原告が第2の知見が先願明細書に開示されている根拠として指摘する段

落【0008】は,バチルス・サーキュランスPP710を培養して得たα−グル

コシル転移酵素と,その粗酵素液又はそこから単離した当該アミラーゼ,公知のα

−アミラーゼ,澱粉枝切酵素などとを併用することについての記載であり, 【0
段落

046】についても,「本発明の」との特定がなされた「α−グルコシル転移酵素」

と,α−アミラーゼやCGTaseなどを併用することについて記載されたもので

ある。そうすると,いずれについても,先願発明において開示された特定の菌株由

来のα−グルコシル転移酵素との併用について述べられたものにすぎず,原告主張

のような一定の酵素作用を有するα−グルコシダーゼ一般が開示されたものという

ことはできず,第2の知見が開示されているということはできない。

したがって,先願明細書には,CGTaseと併用する場合であっても,バチル

ス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349

由来の酵素を離れて,一定の酵素作用を持つα−グルコシル転移酵素一般について

の開示があると認めることはできない。



2 取消事由2(相違点3の認定誤り)について

上記のとおり,審決の先願発明1の認定には誤りがなく,原告が主張する発明を

先願明細書から認定することはできないので,原告が主張する取消事由2は,その




前提を欠き,理由がない。



3 取消事由3(相違点3の判断の誤り)について

(1) 本件訂正発明について

ア 本件訂正発明は,上記第1のとおりであるところ,本件明細書(甲19)

には,次の事項が記載されている。

「【0001】

発明の分野

本発明は,少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカンおよびその製造方

法に関する。本発明はまた,前記分岐グルカンの用途並びにそれを含有する食品お

よび医薬品に関する。」

「【発明の概要

【0013】

発明者らは,糖転移作用を有する酵素をシクロデキストリン生成酵素と共にデ

ンプン液化液に作用させると,シクロデキストリンをほとんど生成させずに,非還

元末端に分岐構造を有する重合度11〜35程度のグルカンを製造できることを見

出した。本発明者らは,また,非還元末端に分岐構造を有する重合度11〜35程

度のグルカンが,直鎖状マルトデキストリンと比べて極めて高い耐老化性を有する

とともに,風味改善や食感の改善等に極めて有効であることを見出した。本発明は

これらの知見に基づくものである。」

「【0015】

本発明による分岐メガロ糖は,優れた耐老化性を有するとともに,保存安定性や

操作性にも優れている。本発明による分岐メガロ糖は,また,不快な味をマスキン

グするなど風味改善作用を有する。本発明による分岐メガロ糖は更に,糖類などの

混合成分を含有する水に添加した場合に氷の均一性を向上・促進させる作用を有す

る。本発明による分岐メガロ糖はまた,食品の照りやつやを向上させる作用を有す




る。本発明による分岐メガロ糖は,更にまた,低甘味であるとともに,食品に添加

しても食品本来の風味に影響を与えない。本発明による分岐メガロ糖は,また,乳

タンパク質の凝集や沈殿を防止し,乳タンパク質を安定して存在させることができ

る。従って,本発明による分岐メガロ糖およびその還元物並びにそれを含有する液

糖および粉糖は,食品添加物や製剤用添加剤として幅広く実用可能である。」

「【0018】

分岐メガロ糖およびその製造

本発明による分岐メガロ糖は,直鎖状グルカンと分岐構造とからなる重合度11
〜35のグルカンであって,少なくとも直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造が

導入されたグルカンである。ここで,
「直鎖状グルカン」とは,単一のグルコシド結

合によりグルコース分子が結合して構成された直鎖状のグルカンを意味する。」

「【0020】

本発明において「分岐構造」とは,α−1,4−グルコシド結合以外のグルコシ

ド結合により直鎖状グルカンに結合した1個以上のグルコース残基からなるグルカ

ン残基を意味する。α−1,4−グルコシド結合以外のグルコシド結合としては,

α−1,6−グルコシド結合,α−1,3−グルコシド結合,α−1,2−グルコ

シド結合が挙げられる。

【0021】

後述するように,本発明による製造方法で使用される糖転移作用を有する酵素を

選択することによって,非還元末端に導入される分岐構造を変化させることができ

る。・・・」

「【0034】

以下に拘束される訳ではないが,分岐メガロ糖の生成機構は次のようなものであ

ると考えられる。すなわち,デンプン原料に含まれるデキストリンの非還元末端,

あるいはシクロデキストリン生成酵素の加水分解,カップリング,不均化反応のい

ずれかにおいて低分子化されたデキストリンの非還元性末端にα−グルコシダーゼ




が作用してα−1,4−結合を切断し,グルコシル基を他のあるいは同一の非還元

性末端のグルコシル基にα−1,6−結合,α−1,2−結合,あるいはα−1,

3−結合で付加する。これにより非還元性末端に分岐構造を有するメガロ糖が生じ

る。反応初期はこのような分岐メガロ糖が反応系内に存在しないため,シクロデキ

ストリン生成酵素は反応初期にはシクロデキストリンを生じる。しかし,反応後期

では大半のマルトデキストリンの非還元性末端に分岐鎖が付加されるため,このよ

うな分岐構造を有する糖質はシクロデキストリン生成酵素の環状化反応の基質とは

ならない。このため,シクロデキストリン生成酵素によるシクロデキストリン生成

反応は反応初期にしか起こらず,また,シクロデキストリン生成酵素のカップリン

グ反応により生じたシクロデキストリンが開環され,α−グルコシダーゼによる糖

転移反応の基質として供給される。その結果,反応初期に生じたシクロデキストリ

ンは反応後期にはほぼ完全に分解し,反応後期にはシクロデキストリンはほとんど

残存しない。枝切り酵素を反応液中に共存させた場合には,デンプン分岐鎖を切断

し,直鎖状のデキストリンを供給するため,シクロデキストリン生成酵素によるデ

ンプンの低分子化を促進する他,このような直鎖状のデキストリンはカップリング

反応における受容体分子としても働くため,反応を効率的に進めることが可能とな

ると考えられる。」

「【0046】

本発明による製造方法に用いる「シクロデキストリン生成酵素」は,市販のもの

を用いても,微生物から単離したものを用いてもよい。単離源となる微生物は,天

然由来の微生物に加えて,シクロデキストリン生成酵素産生能を有する組換え微生

物や,天然由来の微生物を変異させた変異株であってもよい。
「シクロデキストリン

生成酵素」の微生物起源は特に限定されないが,例えば,パエニバチルス エスピー

(Paenibacillus sp.),バチルス コアギュランス (Bacillus coagulans),バチルス ステア

ロ サ ー モ フ ィ ル ス (Bacillus stearothermophilus) , お よ び バ チ ル ス マ ゼ ラ ン ス

(Bacillus macelans) 由来のものを用いることができる。」




「【0048】

α-グルコシダーゼは,市販のものを用いても,微生物から単離したものを用いて

もよい。単離源となる微生物は,天然由来の微生物に加えて,α−グルコシダーゼ

生成酵素産生能を有する組換え微生物や,天然由来の微生物を変異させた変異株で

あってもよい。α−グルコシダーゼの微生物起源は特に限定されないが,例えば,

アス ペル ギル ス・ ニガ ー (Aspergillus niger) およ び アク レモ ニウ ム・ エス ピー

(Acremonium sp.) 由来のものを用いることができる。」

「【0053】

本発明による製造方法では,糖転移酵素としてアクレモニウム・エスピー由来の

α−グルコシダーゼを使用すると,グルコース残基がα−1,3−グルコシド結合

により非還元末端に結合した分岐メガロ糖を製造することができる。この場合,分

岐メガロ糖が有する分岐構造は,グルコースがα−1,3−結合により分岐した構

造,マルトースがα−1,3−結合により分岐した構造,ニゲロースがα−1,3

−結合により分岐した構造,マルトトリオースがα−1,3−結合により分岐した

構造,マルトシル−α−1,3−グルコースがα−1,3−結合により分岐した構

造,ニゲロシル−α−1,4−グルコースがα−1,3−結合により分岐した構造,

ニゲロトリオースがα−1,3−結合により分岐した構造が挙げられる。4糖以上

の分岐構造が結合する場合には,その分岐構造は,基質の直鎖状グルカンの非還元

末端にα−1,3−結合により結合するグルカンであって,分岐構造を構成するグ

ルコシド結合がα−1,4−結合および/またはα−1,3−結合からなるグルカ

ンであってもよい。

【0054】

本発明による製造方法においてアクレモニウム・エスピー由来のα−グルコシダ

ーゼを使用した場合には,本発明による分岐メガロ糖を高収率で製造することがで

き,特に,重合度15〜35の比較的重合度が高い分岐メガロ糖を高効率で製造す

ることができる。




【0055】

本発明による製造方法では,また,糖転移酵素としてアスペルギルス・ニガー由

来のα−グルコシダーゼを使用すると,グルコース残基がα−1,6−グルコシド

結合により非還元末端に結合した分岐メガロ糖を製造することができる。この場合,

分岐メガロ糖が有する分岐構造は,グルコースがα−1,6−結合により分岐した

構造,マルトースがα−1,6−結合により分岐した構造,イソマルトースがα−

1,6−結合により分岐した構造,マルトトリオースがα−1,6−結合により分

岐した構造,イソパノースがα−1,6−結合により分岐した構造,パノースがα

−1,6−結合により分岐した構造,イソマルトトリオースがα−1,6−結合に

より分岐した構造が挙げられる。4糖以上の分岐構造が結合する場合には,その分

岐構造は,基質の直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,6−結合により結合する

グルカンであって,分岐構造を構成するグルコシド結合がα−1,4−結合および

/またはα−1,6−結合からなるグルカンであってもよい。なお,アスペルギル

ス・ニガー由来のα−グルコシダーゼを用いた場合はごく微量ではあるがα−1,

2−結合やα−1,3−結合が分岐構造中に含まれることがある。」

「【0108】

試験例1:糖化酵素の活性測定

・・・

【0109】

1−2:α−グルコシダーゼの活性測定

糖化反応に使用したα−グルコシダーゼを以下に示す。

・アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼ:アマノエンザイム社製トラ

ンスグルコシダーゼアマノ

・アクレモニウム・エスピー由来のα−グルコシダーゼ:キリンフードテック社製

テイスターゼ・・・」

「【0150】




製造例13:分岐メガロ糖の製造(13)

30%(w/w)DE6.5コーンスターチ液化液を温度53℃,pH6.0に調

整し,これにパエニバシルス エスピーのシクロデキストリン生成酵素を対固形分1

g当たり1単位,アスペルギルス・ニガーのα−グルコシダーゼを対固形分1g当

たり3.75単位添加して60時間糖化した。以後の操作を製造例1と同様に行い,

固形分75%の分岐メガロ糖含有シラップを対固形分当たり約90%の収率で得た。

なお,本品はメガロ糖を対固形分当たり17.3%含有しており,分岐メガロ糖を

対固形分当たり17.0%含有していた。

【0151】

製造例14:分岐メガロ糖の製造(14)

30%(w/w)DE6.5コーンスターチ液化液を温度53℃,pH6.0に調

整し,これにパエニバシルス エスピーのシクロデキストリン生成酵素を対固形分1

g当たり1単位,アクレモニウム・エスピーのα−グルコシダーゼを対固形分1g

当たり0.65単位添加して60時間糖化した。以後の操作を製造例1と同様に行

い,固形分75%の分岐メガロ糖含有シラップを対固形分当たり約90%の収率で

得た。なお,本品はメガロ糖を対固形分当たり32.6%含有しており,分岐メガ

ロ糖を対固形分当たり29.2%含有していた。」

イ 以上によれば,本件訂正発明について,以下のとおり認められる。

本件訂正発明は,少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカン及びその製

造方法に関するものである(段落【0001】。


本件訂正発明のように,糖転移作用を有する酵素をシクロデキストリン生成酵素

とともにデンプン液化液に作用させると,シクロデキストリンをほとんど生成させ

ずに,非還元末端に分岐構造を有する重合度11〜35程度のグルカン(分岐メガ

ロ糖)を製造でき,また,非還元末端に分岐構造を有する重合度11〜35程度の

グルカンは,直鎖状マルトデキストリンと比べて極めて高い耐老化性を有するとと

もに,風味改善や食感の改善等に極めて有効である(段落【0013】。本件訂正





発明によって作成される分岐メガロ糖は,デンプン原料に含まれるデキストリンの

非還元末端等にα−グルコシダーゼが作用してα−1,4結合を切断し,グルコシ

ル基を他の,あるいは,同一の非還元性末端のグルコシル基にα−1,6結合,α

−1,2結合,あるいは,α−1,3結合で付加することにより生じるものであり

(段落【0034】,本件訂正発明による製造方法で使用される糖転移作用を有す


る酵素を選択することによって,非還元末端に導入される分岐構造を変化させるこ

とができる。そこで用いられるα-グルコシダーゼは,市販のものを用いても,微生

物から単離したものを用いてもよく,単離源となる微生物に限定がない(段落【0

048】。


本件訂正発明4は,糖転移作用を有する酵素として,アスペルギルス・ニガー

(Aspergillus niger)又はアクレモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α−グ

ルコシダーゼを選択したものである。糖転移酵素として,アクレモニウム・エスピ

ー由来の α−グルコシダーゼを使用すると,α−1,4,α−1,3結合による分

岐構造ができ,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼを使用すると,

グルコース残基がα−1,6グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐メガ

ロ糖を製造することができ,ごく微量ではあるがα−1,2結合やα−1,3結合

が分岐構造中に含まれることがある(段落【0055】。


(2) 本件訂正発明4と先願発明1の同一性について

上記に述べたとおり,本件訂正発明4で用いる糖転移作用を有する酵素の選択肢

の一つは,アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来の α−グルコシダーゼで

ある。これは,遅くとも1970年代には,主として α−1,6結合形成を触媒し,

わずかに α−1,3結合や α−1,2結合の形成をも触媒するものであることが知

られ,1980年代には,糖転移用酵素剤として事業化され,長年にわたって市販

されてきたものである(甲14,19,31,37,40)。また,本件訂正発明4

で用いる糖転移作用を有する酵素のもう一つの選択肢は,アクレモニウム・エスピ

ー(Acremonium sp.)由来の α−グルコシダーゼであって,少なくとも先願発明の




出願前から α−1,3結合形成を触媒する酵素として知られ,市販されてきたもの

である(甲14,38の7頁20,甲19の段落【0053】【0109】。
, )

これに対して,前記認定のとおり,先願明細書は,水溶性食物繊維として有用な

グルカンを製造することを課題として,分岐構造を比較的多く有する分岐α−グル

カンを生成する酵素を産生する微生物を広く探索して,土壌からバチルス・サーキ

ュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349を見出した

ことに基づいて,それらが産生する,主として α−1,4結合又は α−1,6結合,

頻度は低いながらも α−1,3結合,α−1,4,6結合及び α−1,3,6結合の

分岐結合を導入する新規な α−グルコシル糖転移酵素に特徴を有する発明を開示す

るものである。そして,先願明細書において開示されているのは,バチルス・サー

キュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349に由来の

α−グルコシル転移酵素のみであることは前記のとおりであり,これらは,それま

で知られていなかった新規分岐グルカンを生成するもので,α−1,4結合,α−

1,4,6結合及びα−1,3,6結合を一定割合,導入できる点や,先願明細書

等にα−1,2結合導入について記載されていない点からみて,本件訂正発明4で

用いる,従来から広く知られていたアスペルギルス・ニガー及びアクレモニウム・

エスピー由来のα―グルコシダーゼとは一線を画するものである。

したがって,先願明細書には,α−グルコシル転移酵素として,アスペルギルス・

ニガー及びアクレモニウム・エスピー由来のα―グルコシダーゼを用いる本件訂正

発明4が開示されている,あるいは,開示されているに等しいと認めることはでき

ず,相違点3は実質的な相違点であるとした審決の判断に誤りはない。

(3) 原告の主張について

ア 原告は,本件訂正発明4について,糖転移作用を有するα−グルコシダ

ーゼであれば,微生物起源を限定することに意味がないとし,先願発明1について

も,α−1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解をすることなくα−グルコシ

ル転移を触媒することにより,分岐α−グルカンを生成するという糖転移作用を有




する酵素であればよいのであるから,糖転移作用から見て,両発明が異なる酵素を

開示するとはいえないと主張する。

しかし,そもそも,前記のとおり,先願発明1には,所望の酵素として,もっぱ

らバチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスP

P349由来のα−グルコシル転移酵素が開示されているのであり,それらは「従

来公知の真菌由来α−グルコシダーゼ・・・とは異なる酵素である。(段落【00


27】 と明記されており,
) 単に糖転移作用を有する酵素であれば用いられるという

ものではない。したがって,従来から広く知られ,市販されてきた真菌由来α−グ

ルコシダーゼであるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来 α−グルコ

シダーゼが,先願明細書に開示された新規なα−グルコシル転移酵素と同等である

と解釈する余地はない。

この点,原告は,上記の段落【0027】において,先願発明のα−グルコシル

転移酵素は,加水分解活性が弱く,糖転移活性が強く,α−1,3及びα−1,3,

6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来のα−グルコシダーゼとは異なって

いるとの見解が表明されているだけのことであり,本発明のα−グルコシル転移酵


素」が「アスペルギルス・ニガーまたはアクレモニウム・エスピー由来のα−グル

コシダーゼ」と異なる酵素であるとは一言も述べられていないし,従来公知の真菌

由来のα−グルコシダーゼであっても,加水分解活性が弱く,かつ,目的とする分

岐α−グルカンを生成するに足る糖転移活性を備えたα−グルコシダーゼについて

まで,単にその由来のみをもって,α−グルコシル転移酵素としての使用を排除す

ることを述べたものでもなく,アスペルギルス・ニガー由来の酵素は「従来公知の

真菌由来α−グルコシダーゼ」とは異なる旨主張する。

しかし,先願発明は,同段落に記載の特徴を有する酵素を探索して新規微生物の

酵素として特定したものであり,その点において従来公知の酵素と異なるものであ

り,
「α−1,4結合に対するα−1,6結合の割合が極めて高く,α−1,4,6

結合に加えて,α−1,3結合及びα−1,3,6結合を分岐するα−グルカンは




これまで全く知られていない」(段落【0084】)とされているのであるから,先

願発明の出願当時において,周知の酵素であったアスペルギルス・ニガー由来のα

−グルコシダーゼが,
「従来公知の真菌由来のα−グルコシダーゼ」に含まれると解

されるのが当然であり,原告の上記主張は採用できない。

イ 原告は,先願発明1のα−グルコシル転移酵素と,本件訂正発明4のア

スペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼとは,共に,α−1,4グルカン

を基質とした場合,加水分解活性が弱く,糖転移活性が強い酵素であり,実質的に

加水分解をすることなくα−グルコシル転移を触媒することにより,α−1,6結

合だけでなくα−1,3結合やα−1,3,6結合を有する分岐α−グルカンを生

成する酵素という点で,性質を全く同じくする酵素であるから,異なる酵素である

とはいえないと主張する。

しかし,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼは,前記のとおり,

α−1,6,α−1,3結合を形成する触媒であることは知られており,糖転移酵

素として市販されていたとしても,α−1,3,6結合が導入される酵素であるこ

とが,先願発明の出願当時の技術常識であったと認めることはできない。この点に

関し,原告は,複数の専門家の見解書(甲31,37,40)や受託研究報告書(甲

35)により,上記主張が裏付けられると述べるが,アスペルギルス・ニガー由来

のα−グルコシダーゼが,α−1,3結合及びα−1,6結合のみならず,α−1,

3,6結合を導入することが,理論的にあり得ると考えたとしても,あるいは,現

実にそのような結合が生じているとしても,先願発明の出願時において,アスペル

ギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼが,「α−1,3,α−1,6,α−1,

3,6結合を導入する酵素」であることが技術常識であったと認めるに足りる的確

な証拠がない以上は,先願発明の出願当時において,バチルス・サーキュランスP

P710由来のα−グルコシル転移酵素とアスペルギルス・ニガー由来のα−グル

コシダーゼとが導入する分岐構造の点において,実質的に同一であるとみなされて

いたということはできず,上記主張は採用できない。




ウ 原告は,本件訂正発明4のアスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシ

ダーゼを用いた場合と,先願発明1のバチルス・サーキュランスPP710を用い

た場合とで,得られるα−グルカンに差異はなく,また,本件明細書の段落【00

13】には,非還元末端に分岐構造を有する重合度が11〜35程度のグルカンで

あれば,高い耐老化性を有するとともに,風味改善や食感の改善等に極めて有効で

あることが記載されているのだから,α−グルコシダーゼを置換することで非還元

末端以外の分岐構造に変化が生じたとしても,本件明細書に記載された効果におい

ても差異がないなどと主張する。

しかし,本件訂正発明4と先願発明1はともに物を製造する方法の発明であるか

ら,両者の同一性を判断するには,当該方法の技術的内容の異同を判断しなければ

ならず,また,これをもって足りるというべきである。上記に述べてきたとおり,

本件訂正発明4と先願発明1とで用いる糖転移作用を有する酵素の相違は,課題解

決のための具体化手段の微差ではなく,両発明は別異の方法と認められるから,製

造された物の異同は,この認定を左右するものでなく,原告の上記主張は採用でき

ない。また,同様に,先願発明1の構成を本件訂正発明4の構成に置換した場合の

効果の差の有無を論じることに意味はなく,上記主張は採用できない。

エ 原告は,審決には,相違点2についての認定判断と相違点3についての

認定判断とで,得られるグルカンの構造の認定に関する矛盾がある旨主張する。

しかし,審決は,相違点3についての認定判断では,周知技術,本件明細書及び

先願明細書の記載に基づいて,本件訂正発明4と先願発明1とでは得られるグルカ

ンの分岐構造の種類が異なることを認定したのに対して,相違点2についての認定

判断では,両発明で得られるグルカンは,本件訂正発明4の発明特定事項である「α

−1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカン

の非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する」の限りでは一致する

と認定したものにすぎないから,両判断に矛盾があるとはいえず,上記主張には理

由がない。




オ 原告は,審決が,相違点3の判断において,本件訂正発明4で得られる

グルカンの分岐構造の種類を考慮して判断したのは,特許請求の範囲に基づかない

判断である旨主張する。

しかし,審決は,アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼについては,

先願明細書に明示的な記載がなく,原告がその酵素作用から先願発明1と本件訂正

発明4との同一性を主張したことから,原告の主張に沿ってその酵素作用について

検討したものにすぎない。そして,審決は,訂正後の特許請求の範囲の請求項4の

「糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)またはアク

レモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来のα−グルコシダーゼである」の記

載に基づいて,周知技術及び本件明細書に記載されたこれらの α−グルコシダーゼ

の分岐導入作用から,本件訂正発明4の製造法により得られるグルカンの分岐構造

の種類を認定したものであり,その判断手法及び判断内容に問題があるとはいえな

い。

カ 原告は,審決が,実験報告書 III(甲15)のデータを無効審判における

被告の主張や立証趣旨とは無関係な判断に用いたのは独断である旨主張するが,審

判合議体の判断は,当事者の主張や提出された証拠の立証趣旨に拘束されるもので

はないから,原告の上記主張は失当である。



4 本件訂正発明5,6,9,10について

以上のとおり,原告主張の取消事由1〜3にはいずれも理由がないから,先願発

明2の認定及び本件訂正発明5と先願発明2との相違点3に関する判断にも同様に

誤りがない。これらに誤りがあることを前提とする本件訂正発明5,6,9,10

に係る審決の判断に関する取消事由も成り立たない。



第6 結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。




よって,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部



裁判長裁判官
清 水 節




裁判官

中 村 恭




裁判官
中 武 由 紀






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