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平成25行ケ10194審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 25年 (行ケ) 10178号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10178号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年2月19日

判 決



原 告 株式会社ケイツージャパン



訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋

同 伊 藤 雅 浩

同 和 田 祐 造

同 幸 谷 泰 造



被 告 株 式 会 社 カ ー メ イ ト



訴訟代理人弁理士 澤 木 誠 一

同 澤 木 紀 一

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2012−800137号事件について平成25年5月20日にし

た審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

(1) 被告は,平成16年1月29日,発明の名称を「スノーボード用ビンディン




グ」とする特許出願(特願2004−21212号)をし,平成19年11月30

日,設定の登録(特許第4048178号。請求項の数4)を受けた(甲1。以下,

この特許を「本件特許」という。)。これは,特願2001―179623号(出

願日:平成13年6月14日)を原出願とする分割出願である。

(2) 原告は,平成24年8月31日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明に

ついて,特許無効審判を請求し,無効2012−800137号事件として係属し

た(甲25)。

(3) 被告は,平成24年11月30日,訂正請求をした(甲27。以下「本件訂

正」といい,その訂正明細書(甲1,27)を「本件明細書」という。)。

(4) 特許庁は,平成25年5月20日,本件訂正を認めた上,「本件審判の請求

は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,

同月30日,原告に送達された。

(5) 原告は,平成25年6月27日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起

した。

2 特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載の発明は,次のとおりで

ある。以下,請求項1ないし4に係る発明を,請求項の番号に応じて「本件発明

1」ないし「本件発明4」といい,これらを併せて「本件発明」という。

【請求項1】ベースプレート1と,このベースプレート1の一側にその一端を取り

付けた一方のバンド9aと,上記ベースプレート1の他側にその一端を取り付けた

他方のバンド9bと,ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端

を締付ける部分とよりなるバンド15と,バックル16とより成り,上記バンド1

5の一端が上記一方及び他方のバンドの一方に固定され上記バンド15の他端が上

記バックルを介して上記一方及び他方のバンドの他方に固定されており,上記ブー

ツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできることを特徴とするスノー

ボード用ビンディング。




【請求項2】上記バンド15にパッドが固定されていることを特徴とする請求項1

記載のスノーボード用ビンディング。

【請求項3】上記バンド15に連結部材が固定されていることを特徴とする請求項

1記載のスノーボード用ビンディング。

【請求項4】上記パッドが上記ブーツの爪先の上部分を締付ける部分19とブーツ

の爪先の先端を締付ける部分20を有することを特徴とする請求項2記載のスノー

ボード用ビンディング。

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,@写真

撮影報告書(甲2。以下「甲2報告書」という。)に示されたスノーボード用ビン

ディング(商品名「DRAKE MATRIX」。以下「MTX」という。)に係

る発明(以下「甲2発明」という。)は,本件の原出願前に公然と知られた状態で

あったものとは認められない,A本件発明は,甲2発明であるとすることはできな

いから,特許法29条1項1号の規定により,無効とすることはできない,という

ものである。

(2) 本件審決が認定した甲2発明並びに本件発明1と甲2発明との一致点及び相

違点は,次のとおりである。

ア 甲2発明

「ベースプレートと,このベースプレートの一側にその一端を取り付けた第1のバ

ンドと,上記ベースプレートの他側にその一端を取り付けた第2のバンドと,ブー

ツの丸みをおびた部分の内の爪先の上部分側をとおる一方のバンドと爪先の先端側

をとおる他方のバンドとよりなる第3のバンドで,一方のバントと他方のバントと

は連結部材で連結されて固定されると共に,その裏面には,パッドが固定されてい

る第3のバンドと,バックルとより成り,上記第3のバンドの一端が上記第1のバ

ンドに固定され上記第3のバンドの他端が上記バックルを介して上記第2のバンド

に固定されているスノーボード用ビンディング。」




イ 一致点

「ベースプレート1と,このベースプレート1の一側にその一端を取り付けた一方

のバンド9aと,上記ベースプレート1の他側にその一端を取り付けた他方のバン

ド9bと,バンド15と,バックル16とより成り,上記バンド15の一端が上記

一方及び他方のバンドの一方に固定され上記バンド15の他端が上記バックルを介

して上記一方及び他方のバンドの他方に固定されているスノーボード用ビンディン

グ。」

ウ 相違点

バンド15に関して,本件発明1は,「ブーツの爪先の上部分を締付ける部分と

ブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなる」,及び「上記ブーツの爪先部分の

上部分及び先端部分を同時に締付けできる」のに対し,甲2発明は,「ブーツの丸

みをおびた部分の内の爪先の上部分側をとおる一方のバンドと爪先の先端側をとお

る他方のバンドとよりなる」が,第3のバンドが,ブーツの爪先の上部分を締付け

る部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなり,上記ブーツの爪先部分の

上部分及び先端部分を同時に締付けできるか否か明らかでない点。

4 取消事由

(1) 甲2発明の公知性の認定の誤り(取消事由1)

(2) 本件発明と甲2発明との同一性の判断の誤り(取消事由2)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(甲2発明の公知性の認定の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) MTXの公知性について

ア MTXは,Northwave North America Inc(以

下「ノースウェーブ」という。)が「DRAKE」のブランド名で販売した製品で

ある。平成12年当時,DRAKEの製造マネジャーであったマルティノ・フマガ

リは,MTXの開発は平成12年7月に最終化され,試作製造は平成13年2月な




いし3月のトレードショーでの発表に向けて準備されていた旨の陳述書(甲35

(枝番を含む。以下同じ。)。以下「甲35陳述書」という。)を作成している。

また,甲2報告書の写真5(別紙参照)には,撮影されているMTX(以下,M

TXのうち,甲2報告書の写真の被写体であるMTXを,「甲2報告書のMTX」

という。)の裏側(底側)に,時計の文字盤のように1から12の数字が配列され,

その中心部分に数字の「00」が刻まれており,数字の「00」を挟むように下向

きの矢印が数字の「7」を指して刻まれている(以下「本件刻印」という。)。製

造物において製造年月等が記載されることは珍しくなく,1から12という数字が

「月」を,「00」という数字が西暦の下二桁を示すことは自然である。甲35陳

述書によれば,平成12年当時,MTXの製造元のマニュアルにおいて,本件刻印

でも同様の取扱いがされており,本件刻印は,甲2報告書のMTXが平成12年7

月に製造されたことを示しているということができる。

したがって,甲2報告書のMTXが平成12年7月に製造されたことは明らかで

ある。

イ カタログ(甲3。以下「甲3カタログ」という。)には,MTXが掲載され

ている。スノーボード用製品は,ファッションと同様に「シーズン」という考え方

があり,各シーズンにおいて,メーカーの製造・出荷業務を平準化するために定め

られたスケジュールに従って,新製品が供給される。平成13年12月頃から平成

14年3月頃に使用されることを目的とした新製品は,通常,@平成12年夏頃,

開発開始,A同年秋頃,カタログ制作,B同年12月頃,カタログ配布・商談開始,

C平成13年2,3月頃,大規模展示会,D平成13年2月頃,小売店からの発注,

E同月以降,製品出荷,F同年夏頃,店頭販売というスケジュールで販売計画が作

成される。そのため,小売店は,平成13年2月頃には,新製品の発注数量を判断

するために必要な情報を把握していた。この発注時期において重要な位置を占める

のが展示会であり,多くのメーカーが出展し,小売店に対して営業活動が行われる。

大規模展示会は,一般消費者を対象とするものではないが,展示会及びウインター




スポーツのシーズンが終了する頃には,一般消費者向け雑誌に翌期向け最新モデル

の広告が掲載されるようになる。

平成13年(2001年)2月4日ないし7日に開催された「スポーツの世界

ワールドスポーツトレードメッセ ispo2001冬季」及び同年3月9日ない

し13日に開催された「THE SIA SNOW SPORTS SHOW」

(以下,総称して,「本件展示会」という。)は,世界的な規模を有し,多数のウ

インタースポーツ用具メーカー等が参加する大規模な展示会であり,来場者が製品

の購入を検討するために,カタログ等の紙媒体の資料が提供される。平成13年6

月当時,ノースウェーブの北米営業マネジャーであった A は,平成13年3月の展

示会にMTXを展示し,甲3カタログを頒布したところ,MTXは好評であった旨

の陳述書(甲34。以下「甲34陳述書」という。)を作成している。

本件審決は,本件展示会が開催された事実及びノースウェーブが出展していた事

実を認定しながらも,甲3カタログが頒布された事実は認められないとしたが,こ

れは経験則の適用と証拠の評価を誤ったものである。スノーボード用製品に関する

上記商慣習に照らしても,遅くとも本件展示会が開催された平成13年2月4日な

いし同年3月9日までには,甲3カタログが多数の来場者に配布され,MTXが公

然知られていたことは明らかである。

ウ 本件審決は,平成13年2月27日,小売店であるバルサーフがMTXを発

注した事実を認定するものの,実際にカタログや製品を見た上で発注したかは明ら

かではないとするが,バルサーフは,MTXの実物ないしカタログを確認してMT

Xを評価し,ノースウェーブとの個別の打合せを経た上で注文しているから,本件

展示会の時点においてMTXは公然知られていたということができる。

エ MTXの取扱店が製品出荷の際に作成した,梱包された内容物の一覧表(甲

36。以下「甲36一覧表」という。)には,MTX720足がパレット01ない

し06に格納されていたことが記載されているから,遅くとも甲36一覧表の作成

日である平成13年5月30日には,MTXの出荷準備(パレットへの梱包)が行




われていたことは明らかである。この種の製品は,通常,出荷準備の2,3日後に

は出荷されるし,前記イのスケジュールサイクルに鑑みれば,MTXの開発から出

荷前の発注までが完了し,カタログ配布・展示会での実物展示によって,MTXが

本件の原出願前に公然知られた状態であったことが強く裏付けられる。

オ 「TRANSWORLD SNOWBOARDING BUSINESS」

(甲63。以下「甲63雑誌」という。)は,遅くとも平成13年1月には刊行さ

れていた雑誌であるところ,MTXがノースウェーブの主力商品として写真付きで

紹介されている。

ノースウェーブがMTXを主力製品として位置付けており,甲63雑誌にも掲載

されていたこと,実際に小売店から注文を受けていたことにかんがみれば,本件展

示会やその他の展示会等でもその現物が展示され,多くの来場者が目にし,手に取

ってMTXの担当者と商談を行ったことを疑う余地はない。

(2) 小括

以上によれば,甲2発明は本件の原出願前に公然知られた発明ではないとした本

件審決の認定は誤りである。

〔被告の主張〕

(1) MTXの公知性について

ア 甲2報告書には,本件刻印に示された数字等の意味や定義を示す記載や示唆

はなく,また,これらの数字等の意味や定義を裏付ける他の証拠もないから,これ

らの数字等の意味や定義は明らかであるということはできない。

したがって,本件刻印に示された数字等を根拠として,MTXの製造日や頒布日

を認定することはできない。

イ 甲3カタログにMTXが掲載されているとしても,甲3カタログには,発行

日や頒布日を示す記載や示唆はないから,MTXの製造日や頒布日は不明である。

本件展示会において,甲3カタログが頒布されたことや,小売店等がMTXをみ

て発注したことを示す証拠や示唆はないし,これらの事実を裏付ける他の証拠もな




い。しかも,甲2報告書のMTXと,甲3カタログに掲載された製品との同一性は

不明である。

また,原告は,スノーボード用製品の販売サイクルについて主張するが,本件展

示会は,アメリカ及びドイツで開催された展示会であって,日本国内の業界商慣習

がそのまま妥当するものではない。

なお,甲34陳述書の作成者である A は,当時の役職からすると,本件について

利害関係を有していると推測されるから,その陳述は信用することができない。ま

た,同人は,甲3カタログの作成者ではないから,その頒布時期について説明する

ことができる立場にはないし,小売店がMTXの現物等を確認した上で発注した旨

の記載は,同人の推測に基づくものにすぎない。

したがって,甲34陳述書の記載をもって,MTXの公知性を認定することはで

きない。

ウ 甲36一覧表に記載された「DRAKE F60 L MTX」という製品

が,平成13年5月30日にパレットに格納され,2,3日後に出荷されていたと

しても,直ちに甲2報告書のMTXが本件の原出願前に公然知られる状態になって

いたということはできない。

(2) 小括

以上によれば,甲2発明は本件の原出願前に公然知られた発明ではないとした本

件審決の認定に誤りはない。

2 取消事由2(本件発明と甲2発明との同一性の判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 「同時に締付け」ることについて

ア 本件発明1は,「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けで

きること」を特徴とするが,特許請求の範囲の記載において,「同時に締付け」る

ことについて,締付け力の大小,方向等を限定する旨の記載はない。

「締付ける」とは,「強く締める。固く結びつける。」ことを意味することは明




らかであるから,当該語句の解釈の際に,一義的に明確に理解することができない

場合や誤記等であるとして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなけれ

ばならない特段の事情はない。それにもかかわらず,本件審決は,本件明細書の段

落【0013】の記載(爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボ

ード用ビンディングに固定できる)を参酌し,本件発明において,「ブーツの爪先

部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」とは,実際にスノーボードを使

用した際に,ブーツからバンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生

ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付

け力で,バンド15によりブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付け

ることと解されるとするのであるから,発明の要旨認定に関する法令の解釈適用を

誤った違法があるというべきである。しかも,本件明細書の発明の詳細な説明には,

ブーツの爪先の上部分を締付けるベルトと,先端を締付けるベルトからなるバンド

を具備することで,いかにして,実際にスノーボードを使用した際に,爪先方向に

遊びを生じないようにするのかについての記載は,一切存在しない。

したがって,本件発明1の「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締

付けできる」とは,「実際にスノーボードを使用した際に」同時に締付けできるも

のに限定されると認定した本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の具体的な

記載に基づかないものというほかなく,この点においても誤りである。

イ 本件発明における「上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締

付けできる」とは,その字義通り,ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時

に締付けできることを意味すると解すべきであって,実際にスノーボードを使用し

た際に,爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実に固定できるものに限定し

て認定することはできない。

ウ 仮に,本件審決のように「実際にスノーボードを使用した際に,ブーツから

バンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確

実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で,バンド15によ




りブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けること」を意味するとし

ても,MTXは,実際にスノーボードを使用した際でも,確実にブーツをスノーボ

ード用ビンディングに固定できるような締付け力で,第3のバンドによりブーツの

爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けることができるものであることは,

原告が行った追加実験からも明らかである(甲39〜47。以下,総称して,「本

件追加実験」という。)。

エ MTXの第3のベルトは,「実際にスノーボードを使用した際に,ブーツか

らバンド15に対してかかる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを

確実にスノーボード用ビンディングに固定できるような締付け力で,バンド15に

よりブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付ける」ことができ,「ブ

ーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」ものであるから,本

件発明1と甲2発明との相違点は存在しない。

(2) 小括

以上のとおりであるから,本件発明1が甲2発明であるとすることはできないと

した本件審決の判断は誤りである。

〔被告の主張〕

(1) 「同時に締付け」ることについて

ア 本件発明1の「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けでき

る」とは,実際にスノーボードを使用した際に,ブーツからバンド15に対してか

かる力に抗して爪先方向に遊びを生ずることなくブーツを確実にスノーボード用ビ

ンディングに固定できるような締付け力で,バンド15によりブーツの爪先部分の

上部分及び先端部分を同時に締付けることと解されるとした本件審決の認定に誤り

はない。

イ 原告が本件の審判手続においてした実験(甲21〜23。以下「本件実験」

という。)は,実際にスノーボードを使用した際に,滑降中のプレーヤーの体の動

き等によって生じるブーツから第3のバンドにかかる大きな力が付与されていない




ことから,実際にスノーボードを使用した際に,爪先方向に遊びを生ずることなく

ブーツを確実にスノーボード用ビンディングに固定できる,つまりブーツの爪先部

分の上部分及び先端部分を締付けできることを証明するものではない。また,同実

験に用いられた付箋が,第3のバンド,連結部材,及びパッドによりなるもののど

の位置で固定されているのかも明らかではない。

したがって,同実験において,いずれの付箋も第3のバンドから抜けることがな

かったことをもって,第3のバンドがブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を

(同時に)締付けできるとまで認定することはできない。

ウ MTXの第3のバンドの前縁部分と後縁部分とは,互いにバンドの前後方向

に離間しているが,両者は2本の斜めの連絡杆によって互いに連結されている。ま

た,両者の左右も端部のみではなく広い範囲で連結している。

MTXの使用説明書には,第3のバンドの後縁部分がブーツの爪先の上部分を,

前縁部分がブーツの爪先の先端を締付ける使用方法の記載はなく,また,後縁部分

と,前縁部分と,両部分の夫々中間部を互いに連絡する2本の斜めの連絡杆,及び

左右の連結部は,夫々が同一の材料によって一体成型され,厚みにおいても夫々が

同等の厚さで形成され,同等の剛性を有するように構成されているため,第3のバ

ンドは1枚の板状となっている。

したがって,MTXの第3のバンドの前縁部分は本来「ブーツの爪先の先端を締

付ける部分」ではないという意味で,原告の主張は失当であるが,上記第3のバン

ドによってブーツを締付ける際,この前縁部分をブーツの爪先の先端に当接してブ

ーツを締付けたときは,後縁部分はブーツの爪先の上部分から上方に離れて浮いた

状態になり,ブーツの上部分を締付けることはできない。逆に,第3のバンドの後

縁部分をブーツの爪先の上部分に当接して上記ブーツを締付けたときは,前縁部分

はブーツの爪先先端から水平方向に離れてブーツの爪先の先端から浮いた状態にな

り,ブーツの爪先の先端を締付けることはできない。さらに,第3のバンドの前後

方向の中間部分を,ブーツの爪先の先端と爪先の上部分の間の丸みをおびた部分に




当接してブーツを締付けたときには,2本の斜めの連絡杆及び左右の連結部がブー

ツの爪先の丸みをおびた部分と当接し,後縁及び前縁部分は夫々爪先の上部分と爪

先の先端部分から共に離れてしまうから,第3のバンドによってブーツの爪先の先

端と上部分を同時に締付けることはできない。

エ したがって,MTXは,「ブーツの爪先の上部分を締付ける部分」と「ブー

ツの爪先の先端を締付ける部分」とよりなるものではなく,本件発明1とはその基

本的構成が異なるものである。

(2) 小括

以上のとおりであるから,本件発明1が甲2発明であるとすることはできないと

した本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

取消事由1(甲2発明の公知性の認定の誤り)について

1 MTXの公知性について

(1) 認定事実

証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

ア 甲2報告書(甲2)の写真5によれば,別紙のとおり,甲2報告書のMTX

の裏側(底側)には,時計の文字盤のように1から12の数字が配列され,その中

心部分に数字の「00」が刻まれており,数字の「00」を挟むように下向きの矢

印が数字の「7」を指して刻まれている(本件刻印)。

イ 甲3カタログ(甲3)は,「DRAKE」ブランドの平成13年(2001

年)ないし平成14年(2002年)シーズンのカタログであるが,甲3カタログ

にはMTXが掲載されている。

ウ 平成13年2月4日ないし7日,ドイツのミュンヘンにおいて,「スポーツ

の世界 ワールドスポーツトレードメッセ ispo2001冬季」が,同年3月

9日ないし13日,アメリカ合衆国のラスベガスにおいて,「THE SIA S

NOW SPORTS SHOW」が,それぞれ開催された(本件展示会)。ノー




スウェーブは,本件展示会に出展し,MTXを展示した(甲5〜8)。

エ スポーツ用品店であるバルサーフは,平成13年2月27日,ノースウェー

ブに対し,MTX(Lサイズ及びMサイズ合計20個)を注文した(甲9,10)。

オ 甲36一覧表には,平成13年5月30日,MTX720足が出荷のために

梱包されていたことが記載されている(甲36)。

カ 遅くとも平成13年1月頃までには刊行されていた甲63雑誌には,MTX

が写真付きで紹介されている(甲63)。

(2) 検討

ア MTXについて

(ア) 別紙の本件刻印の態様によれば,「00」は西暦の下2桁を,「7」は月

を意味する表示であって,甲2報告書のMTXが,平成12年(2000年)7月

頃に製造された可能性は否定できない。

もっとも,当時,ノースウェーブの担当者であった者が作成した甲34陳述書

(甲34)及び甲35陳述書(甲35)には,いずれも平成12年夏頃に製造され

たMTXは販売用のサンプルであった旨の記載があり,原告も,甲2報告書のMT

Xは試作製造段階のものであること,スノーボード用製品製造の一般的サイクルと

して,平成13年(2001年)ないし平成14年(2002年)シーズン用の新

製品は,平成12年(2000年)夏頃から開発に着手するのが一般的である旨主

張しているが,これらによって上記甲2報告書のMTXの製造日を裏付けることは

困難である。

(イ) 甲3カタログには,MTXの写真が掲載されているものの,当該写真から

はMTXの形状の詳細は明らかではなく,また,MTXの形状に関する具体的な記

載もない。したがって,甲2報告書のMTXと,甲3カタログに掲載されているM

TXとが同一の構造を有していると認めることはできない。

また,新製品の展示会において,来場者に製品カタログが配布されることは一般

的な取扱であり,本件展示会において,DRAKEの製品カタログも配布された可




能性は高いものの,甲3カタログが本件展示会において配布されたことを認めるに

足りる的確な証拠はない(甲34陳述書には,甲3カタログが本件展示会で配布さ

れた旨の記載があるが,甲34陳述書は,本件展示会から約12年経過後の平成2

5年(2013年)6月10日付けで作成されていること,作成者である A の勤務

先であるスノーボード関連製品会社が本件特許の有効性に関し,利害関係を有して

いる可能性も否定できないことなどからすると,甲34陳述書の当該記載は採用す

ることができない。)。

(ウ) バルサーフの発注書(甲10)は,MTXの型番が記載されているにすぎ

ないから,バルサーフが発注したMTXが,どのような形状を有していたかは不明

であるというほかなく,甲2報告書のMTXとバルサーフが発注したMTXとが同

一の構造を有していると認めることはできない。

(エ) 甲36一覧表には,MTXの商品名及び型番が記載されているにすぎない

から,当該MTXがどのような形状を有していたかは不明であるというほかなく,

甲2報告書のMTXと甲36一覧表に記載されたMTXとが同一の構造を有してい

ると認めることはできない。

(オ) 甲63雑誌に掲載されたMTXの写真は,後側方から撮影された比較的小

さな写真1枚にすぎず,その具体的構成は当該写真及び紹介記事の内容からは不明

であるから,甲63雑誌に掲載された写真のMTXと甲2報告書のMTXとが同一

の構造を有していると認めることはできない。

イ 甲2発明の公知性について

前記アによれば,本件の原出願(平成13年6月14日)前において,MTXが

掲載されたカタログが配布されていた事実,MTXの試作品が業者向けの展示会に

おいて展示され,あるいは完成品が一般に市販されていた事実を推認することは可

能である。

しかしながら,甲2報告書のMTXが平成12年7月頃に試作されたことを認め

るに足りる的確な証拠はない。また,本件展示会において展示されたり,甲3カタ




ログに掲載されたMTXや一般に市販されたMTXが,具体的にどのような形状を

有していたかについては,本件全証拠をもってしても不明である。さらに,上記各

MTXと,甲2報告書のMTXとが同一の構成を有していることを認めるに足りる

証拠もないから,甲2報告書のMTXが公然知られた状態に至った時期も,不明で

ある。

したがって,本件展示会(平成13年2月4日ないし7日,同年3月9日ないし

13日)時点において,公知となっていたMTXの具体的形状が不明である以上,

その当時,甲2発明が公然知られていたということはできない。

2 小括

以上のとおり,本件展示会の時点において甲2報告書のMTXが公然知られてい

たことに関する原告の主張はいずれも採用することができない。

したがって,甲2発明は本件の原出願前に公然知られた発明ではないとした本件

審決の認定に誤りはない。

第5 結論

以上の次第であるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審

決は相当であって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文

のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 田 中 芳 樹




裁判官 荒 井 章 光




(別紙)