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関連審決 不服2010-1866
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成21行ケ10412審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 自然法則 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  公知技術 /  出願公開 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 22年 (行ケ ) 10273号 審決取消請求事件
原告 日本製箔株式会社
訴訟代理人弁理士 奥村茂樹
被告 特許庁長官
指定代理人 千馬隆之鈴木由紀夫 紀本 孝 田村正明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/03/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2010−1866号事件について平成22年7月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた判決主文同旨第2事案の概要本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,本願発明の進歩性の有無である。
1特許庁における手続の経緯原告は,平成15年10月31日,名称を「赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔」とする発明について,特許出願(特願2003-372727号,平成17年5月26日出願公開、特開2005-132462号) をしたが,平成21年10月23日付けで拒絶査定を受けたので,平成22年1月27日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2010-1866号事件として審理し,平成22年2月22日付けで拒絶の理由を通知し,これに対して,同年4月22日付けで手続補正がなされたが,同年7月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年7月21日原告に送達された。
2本願発明の要旨平成22年4月22日付けの手続補正書(甲5)により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明は,以下のとおりである。
【請求項1】「少なくとも下記手段及び装置を具えた外観検査装置を用いて,アルミニウム箔製包装体を製造する際に用いるアルミニウム箔であって,該アルミニウム箔は,その本体表面に,文字や図柄などの表示が印刷されてなり,該表示は,樹脂ワニスに顔料を添加してなる印刷インキを用いて印刷することによって形成されたものであり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されていることを特徴とする赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔。」3審決の理由の要点(1)本願発明は,引用例1(特開2003-215047号公報,甲1)に記載された発明(引用発明1)及び引用例2(特開平9-249821号公報,甲2)に記載された発明(引用発明2)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)引用発明1及び2の内容,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点並びに相違点についての判断は,次のとおりである。
【引用発明1】「外観検査装置を設けたPTP包装機で製造されるPTPシートであって,PTPシートは,錠剤を収容する複数のポケット部が形成された包装用フィルム3とアルミニウム製のカバーフィルム4とを有し,カバーフィルム4には,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて記号等からなる識別情報としての印刷部9が設けられており,外観検査装置は,赤外光を照射できる照明手段21,照明手段21から照射される赤外光の波長領域に感度を有する撮像手段22及び撮像手段22から出力される映像信号を処理する画像処理装置23を備え,PTPシートに赤外光を照射した際の反射光として撮像された画像に基づいて,カバーフィルム4及び印刷部9の明度よりも低く,かつ,異物の明度よりも高い閾値δ2を用い,カバーフィルム4上の異物を判定する,外観検査装置を設けたPTP包装機で製造されるPTPシート。」【引用発明2】「反応性水可溶樹脂で被覆した,分散性が良好な被覆顔料を樹脂ワニスに添加してなる油性塗料。」【引用発明1と本願発明との一致点】「少なくとも下記手段及び装置を具えた外観検査装置を用いて,アルミニウム箔製包装体を製造する際に用いるアルミニウム箔であって,該アルミニウム箔は,その本体表面に,文字や図柄などの表示が印刷されてなり,該表示は,印刷インキを用いて印刷することによって形成されたものであり,赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔。
記(1)アルミニウム箔に対して赤外線を含む光を照射する照明手段(2)赤外線に感度を有し,前記照明手段により照射された面を撮像する撮像手段(3)撮像手段から出力される映像信号を処理する画像処理装置」【本願発明と引用発明1との相違点】本願発明の印刷インキは,樹脂ワニスに顔料を添加してなり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されているのに対して,引用発明1のインクはそのようなものでない点。
【相違点についての判断】引用発明1では,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて印刷部9を設けることにより,印刷部9とカバーフィルム4自体との明度差を小さくしているが,赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値 δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。一方,引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。したがって,引用発明1のインクに代えて,引用発明2の塗料を用いること,すなわち上記相違点は,当業者が容易に想到し得たことである。
第3原告主張の審決取消事由1取消事由1(引用発明2を引用発明1に適用した誤り)審決は,引用発明2の構成を引用発明1の構成に適用し得ると認定しているが,そこに論理的合理性はなく,誤りである。
(1) 引用発明1の課題と引用発明2の課題とは,前者が外観検査装置の性能の向上を図る点にあり,後者が被覆顔料の性能の向上を図る点にあるから,共通性は全くなく,両者を組み合わせる動機がない。
すなわち,引用発明1の課題は,「本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,検査精度の向上及び光学系の設定の簡易化を図ることのできる外観検査装置及び外観検査装置を備えたPTP包装機を提供することを主たる目的としている。」(段落【0007】)と記載されているとおり,外観検査装置の検査精度の向上及び光学系の設定の簡易化を図ることにある。
一方,引用発明2の課題は,「本発明は,上記種々の欠点を改良し,インキ,塗料,熱可塑性樹脂等の着色に際して色相,着色力,分散性に優れた被覆顔料,該被覆顔料を含み,色相,着色力,分散性に優れた着色用顔料組成物ならびに被覆剤の提供を目的とする。」(段落【0006】)と記載されているとおり,被覆顔料の色相,着色力及び分散性を向上させることにある。
したがって,引用発明1の課題と引用発明2の課題には共通性がなく,両者を組み合わせる動機がない。
(2) また,引用発明1に印刷部を設けるには,段落【0038】に記載されているとおり,大日本インキ化学工業株式会社製のアルカラーVA(商品名)等のインクが用いられるところ,アルカラーVAが用いられているのは,これがアルミニウム箔用印刷インキだからである。
一方,引用発明2の被覆顔料を用いた塗料は,ブリキ板に塗布されているだけであって(段落【0050】及び【0062】),アルミニウム箔には用いられていない。
したがって,引用発明1で用いているアルミニウム箔用印刷インキであるアルカラーVA等に代えて,引用発明2で用いているブリキ板に塗布される塗料を採用し得ると認定することは,論理的合理性がない。
被告は,引用発明1では,赤外光に対し透過性を有するインクとして,アルミニウム箔用印刷インキであるアルカラーVAだけではなく,捺印部ではセラックをブタノール等のアルコール系有機溶媒に溶解したビヒクルに三二酸化鉄,酸化チタン,食用色素アルミニウムレーキ等の顔料を混合させたインク等が用いられているから,引用発明2のブリキ板に適用される被覆顔料を含有する油性塗料も,インクとしてアルミニウム箔用に用い得ると反論する。
しかし,錠剤の捺印部に用いられるインクは,食しても害の無い顔料を用いたインクが用いられており,どのようなインクでも採用し得るものではない。例えば,アルカラーVAは,決して捺印部のインクとして用いられない。つまり,印刷インキは,被印刷物に美麗に印刷しようとすると,被印刷物の素材によってその内容を変更しなければならないのであって,印刷インキであればどのようなものでも,被印刷物に美麗に印刷し得るものではない。
したがって,引用発明1のアルミニウム箔用印刷インキであるアルカラーVAに代えて,引用発明2のブリキ板用塗料を印刷インキとして用いようとする動機付けはない。
(3)引用発明1及び2を論理的に組み合わせることができない理由として,引用発明1で用いている生顔料(樹脂被覆されていない顔料のこと。)と引用発明2で用いている被覆顔料では,後者の方が高価であることも指摘できる。具体的には,被覆顔料は生顔料に対して,その価格が3〜6割高いのである。
このように引用発明2で用いている高価な被覆顔料を,何の課題や目的意識もなく,引用発明1で用いられているアルミニウム箔用印刷インキとして汎用のアルカラーVAに代えて採用することは,論理的ではない。
2取消事由2(本願発明の顕著な作用効果の誤認)審決は,原告が意見書(甲6)において述べた本願発明の作用効果の原理の説明に基づいて,本願発明が格別顕著な作用効果を奏しないと認定しており,引用発明1及び2に基づかずに本願発明が格別顕著な作用効果を奏しないと認定しているのであって,誤りである。
(1) 審決は,「赤外光に対し透過性が低い顔料であっても,その表面を合成樹脂膜によって被覆すれば,顔料含有量が少ない分だけ赤外光を透過しやすくなるのは当然のことであり,本願発明の顔料が赤外線を透過しやすいというのは,その意味において合理的に理解されるに過ぎないものである。そうであるならば,顔料に含まれる顔料本体の割合が特定されていない本願発明の印刷が格別に赤外線透過性に優れているとはいえない。」(8頁5行〜10行)と認定している。
すなわち,原告が,被覆顔料を含む印刷インキを用いて印刷されてなる表示が,赤外光を透過しやすくなる原理を説明したところ,審決は,この原理が当然のことであるとして,本願発明の作用効果が格別顕著ではないと認定したのである。
しかし,作用効果が格別顕著であるか否かを判断するに当たって,このような認定方法は誤りである。作用効果が格別顕著であるか否かは,引用発明1及び2の作用効果(又は引用例1及び2の記載事項)に基づいて判断されるべきであって,原告の原理の説明に基づいて行うべきものではない。
(2) そもそも,発明とは自然法則を利用した技術的思想創作であるから,その原理(自然法則)をひもとけば,当然のことを利用しているにすぎないのである。本願発明では,被覆顔料を用いれば,顔料の量を少なくしても生顔料と同程度の高い着色力が得られ,しかも,赤外光を透過しやすくなるという作用効果を奏するものであるが,審決は顔料の量が少なければ赤外光が透過しやすくなるのは当然であると認定した。しかし,顔料の量が少なければ赤外光が透過しやすくなるが,着色力が低下し印刷インキとして不適当なものになってしまう。そこで,被覆顔料を採用すると,着色力の低下をもたらさずに赤外光が透過しやすくしたのが本願発明なのである。
着色力を低下させずに赤外光を透過しやすくするのにどのような解決手段を採用するかは,引用発明1及び2には何らの記載も示唆もない。すなわち,引用発明1及び2に基づけば,被覆顔料を用いた印刷インキを用いてアルミニウム箔に印刷した表示が,着色力を低下させずに赤外光を透過しやすくなるという作用効果を奏することは,当業者において容易に導き出せない格別顕著な作用効果なのである。
第4 被告の反論1取消事由1に対し(1) 引用発明2は,塗料に関するものであるが,審決において,「そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く」(7頁21行〜24行)と判断しているように,塗料とインクは技術的に同等なものといえるから,引用発明2は引用発明1と技術的に共通する。まずはこの点で,引用発明1と引用発明2を組み合わせる動機が存在する。
(2) 審決が認定した引用発明1のインクは,「赤外光に対し透過性を有するインク」であって,アルカラーVAに限定されたインクではない。引用例1にも,「本実施の形態において,前記捺印部8には,セラックをブタノール等のアルコール系有機溶媒に溶解したビヒクルに三二酸化鉄,酸化チタン,食用色素アルミニウムレーキ等の顔料を混合させたインク等が用いられる。また,印刷部9を構成する素材としては,大日本インキ化学工業株式会社製のアルカラーVA(商品名)等のインクが用いられる。これらの各インクは,赤外光に対し透過性を有している。」(段落【0038】)と記載されるように,捺印部8や印刷部9に用いられる赤外光に対し透過性を有するインクは,アルカラーVAに限定されていない。
一方,引用発明2の油性塗料の用途に関して,引用例2には,「これをブリキ板にスプレーコーターで塗布し」(段落【0050】)とあるように,ブリキ板に塗布する記述がなされているだけであるが,これは用途の一例が示されているにすぎない。引用発明2の油性塗料は,ブリキ板専用の塗料ではなく,ブリキ板に適用できるのであれば,アルミニウム箔にも適用できるとみるのが相当である。
以上のとおり,アルカラーVAがアルミニウム箔用印刷インキであるとしても,引用発明1のインクはアルカラーVAに限定されるものではなく,また,引用発明2の油性塗料はアルミニウム箔にも適用できると考えられるから,引用発明1のインクに引用発明2の油性塗料を適用することに何ら支障はない。
しかも,引用例2に「本発明は,上記種々の欠点を改良し,インキ,塗料,熱可塑性樹脂等の着色に際して色相,着色力,分散性に優れた被覆顔料,該被覆顔料を含み,色相,着色力,分散性に優れた着色用顔料組成物ならびに被覆剤の提供を目的とする。」(段落【0006】)と記載されるように,色相,着色力及び分散性に優れているのが好ましいことは,インキや塗料の顔料について一般的にいえることであり,引用発明1のインクについてもあてはまることである。したがって,引用発明1のインクとして引用発明2の油性塗料を適用してみようという程度のことは,当業者が容易に考えつくことである。
(3)引用発明1で用いているインク(生顔料)より引用発明2で用いている油性塗料(被覆顔料)の方が高価であることは認めるが,引用発明1のインクに引用発明2の油性塗料を適用することに支障がないことは,前述したとおりである。
2取消事由2に対し(1) 引用発明との対比・判断において本願発明の作用効果を考慮する場合,本願発明の原理を参酌するのは当然のことである。そして,本願発明の原理は,本願明細書中に合理的に説明されているとはいえないから,審決では,意見書における主張を参酌したにすぎない。
(2) 仮に,原告が主張するように,「顔料の量が少なくなれば赤外光が透過しやすくなるが,着色力が低下し印刷インキとして不適当なものになってしまう。そこで,被覆顔料を採用することにより,着色力の低下をもたらさずに赤外光を透過しやすくした」のが本願発明であるとしても,引用発明2の油性塗料は,本願発明の印刷インキと同じ構成を有するから,着色力及び赤外光透過性に関して,本願発明と同じ性質を有するといえる。そして,顔料自体が赤外光を透過しにくい性質である場合,その量が少なければ赤外光を透過しやすいのは,当然のことである。
したがって,作用効果を参酌したとしても,本願発明は,引用発明1及び引用発明2からは予測できない作用効果を奏するものではない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用発明2を引用発明1に適用した誤り)について (1) 本願発明と引用発明1との相違点は,前記第2の3 (3) のとおり,「本願発明の印刷インキは,樹脂ワニスに顔料を添加してなり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されているのに対して,引用発明1のインクはそのようなものでない点」であるところ,審決は,この相違点に関して,「引用発明1では,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて印刷部9を設けることにより,印刷部9とカバーフィルム4自体との明度差を小さくしているが,赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値 δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。一方,引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。したがって,引用発明1のインクに代えて,引用発明2の塗料を用いること,すなわち上記相違点は,当業者が容易に想到し得たことである。」(7頁16行〜28行)と判断して,本願発明の進歩性を否定した。
しかし,審決の上記判断には,以下に説示するとおり,引用発明1に対して,引用発明2の構成,すなわち,「反応性水可溶樹脂で被覆した,分散性が良好な被覆顔料を樹脂ワニスに添加してなる油性塗料」を適用し得るための動機付けが示されておらず,当業者が,引用発明2を引用発明1に適用し得るとすることは,誤りといわなければならない。
(2) まず,引用発明1は,前記第2の3 (2) の【引用発明1】,【引用発明1と本願発明との一致点】及び引用例(甲1)の記載によれば,以下のとおりと認められる。
すなわち,引用発明1は,PTPシートの製造に際して,赤外光を照射することにより,アルミニウム製のカバーフィルムの印刷部上にある異物をも判別できることを技術課題の1つとして,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて記号等からなる識別情報としての印刷部を設け,赤外光を照射した際の反射光において,印刷部とカバーフィルム自体との明度差を極めて小さくし,さらに,第2の閾値δ2をカバーフィルムの明度より若干低い値に設定するという構成を採用することにより,印刷部の存在の有無に関係なく,印刷部のみが無視されてカバーフィルム上の異物が判定できるという作用効果を達成したものと認められる。
これに対し,審決は,上記のとおり,「赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値 δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。」と述べるところ,赤外光に対し透過性を有するインクを用いない場合には,印刷部の明度が一定程度低下し,印刷部上に印刷部と同程度の明度を有する異物が存するときには,当該異物が判定できないこととなる(異物の明度が既に判明している場合には,その明度より高く,かつ,印刷部の明度より低く閾値 δ2を設定すれば異物が判定できるが,そのような場合が一般的であると解することはできない。)。したがって,審決の上記説示は,引用発明1の技術課題が解決できない従来技術を示したものにすぎず,引用発明1に対して引用発明2の構成を適用することについての動機付け等を明らかにするものではない。
(3) また,審決は,上記のとおり,「引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。」と述べるところ,この説示は,「塗料」と「インク」とが厳密に区別されるものではなく,本質的な相違がない旨を述べるだけであり,仮に,「塗料」と「インク」が区別されず,また,引用発明2の塗料がアルミニウム箔の表面の印刷に使用できるとしても,それはただ単に,引用例2がアルミニウム箔に使用できる可能性のあるインクを開示しているにすぎない。引用例2には,当該塗料が赤外光に対する透過性に優れることは記載されておらず,引用発明2の「塗料」を引用発明1の「インク」として使用することが示唆されているということにはならない。
そもそも,「塗料」又は「インク」に関する公知技術は,世上数限りなく存在するのであり,その中から特定の技術思想を発明として選択し,他の発明と組み合わせて進歩性を否定するには,その組合せについての示唆ないし動機付けが明らかとされなければならないところ,審決では,当業者が,引用発明1に対してどのような技術的観点から被覆顔料を使用する引用発明2の構成が適用できるのか,その動機付けが示されていない(当該技術が,当業者にとっての慣用技術等にすぎないような場合は,必ずしも動機付け等が示されることは要しないが,引用発明2の構成を慣用技術と認めることはできないし,被告もその主張をしていない。)。
(4)この点について,被告は,引用例2の段落【0006】の記載を根拠に,色相,着色力及び分散性に優れているのが好ましいことは,インキや塗料の顔料について一般的にいえることであり,引用発明1のインクについてもあてはまることであるから,引用発明1のインクとして引用発明2の油性塗料を適用してみようという程度のことは,当業者が容易に考えつくことであると主張する。
確かに,インクや塗料において,色相,着色力及び分散性に優れているのが一般的に好ましいと解されるところ,それに応じて,色相,着色力,分散性などのいずれかに優れていることをその特性として開示するインクや塗料も,多数存在すると認められるのであり,その中から,上記の一般論のみを根拠として引用発明2を選択することは,当業者が容易に想到できるものではない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
2以上のとおり,相違点についての審決の判断は誤りであるから,この判断を前提とし,引用発明1に対して引用発明2の構成を適用して本願発明の進歩性を否定した審決の判断は,誤りというべきである。
なお,相違点に関する本願発明の構成の容易想到性についての審決の判断が誤りである以上,この構成が容易想到であることを前提にし,構成から来る原理のみに依拠した作用効果についての審決の判断(前記原告主張の取消事由2の(1) 参照)も誤りである。被告の準備書面中には,拒絶理由通知で示したところに基づく明細書の記載不備を主張する部分があるが,審決で判断していない理由であって本件訴訟でこれを主張することは許されないから,採用することができない。
第6結論よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 清水節
裁判官 古谷健二郎