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関連審決 不服2007-28699
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 有用性 /  製造方法 /  頒布された刊行物 /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  課題の共通性 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  パリ条約 /  優先権 /  均等 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10431号 審決取消請求事件
原告ザットコーポレーション
訴訟代理人弁理 士岡部正夫
同 加藤伸晃
同 朝日伸光
同 三山勝巳
被告特許庁長官
指定代理人下中義之
同 飯野茂
同 岩崎伸二
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2007−28699号事件について平成20年7月10日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成8年10月2日,発明の名称を「AC電流センサ」とする発明について,特許出願(国際出願番号PCT/US96/15721,特願平9-514363号。パリ条約による優先権主張:優先権主張日1995年(平成7年)10月6日,優先権主張国米国。以下「本願」という。)をし,平成18年5月29日,明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の補正をしたが,平成19年7月24日に拒絶査定を受けたことから,同年10月22日,拒絶査定不服審判(不服2007-28699号事件)を請求した。
特許庁は,平成20年7月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(付加期間90日。以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年7月23日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許の補正後の明細書(以下,図面と併せ,「補正明細書」という。)の特許請求の範囲(請求項の数9)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「1.負荷インピーダンスに供給される信号に検知可能な影響を与えることなく電気回路の負荷インピーダンスに供給される電流を検出する電流センサであって,前記回路は電源と,当該電源および前記負荷インピーダンスの間において電流を流す電流経路とを備えるタイプのものであり,前記センサは:変圧回路の1次コイルとしての機能を果たす,前記電源を前記電気回路の前記負荷インピーダンスに接続させるとともに,前記電流経路の一部をなす少なくとも1つの導電性要素と;前記導電性要素に磁気的に密に結合されるように配置された,前記変圧回路の少なくとも1つの2次コイルと;前記負荷インピーダンスを経由する電流を表す出力信号を供給するとともに,前記2次コイルに結合された一対の出力端子とを備え;前記導電性要素は,前記センサによって前記電気回路に印加されるレジスタンスおよびインダクタンスが最小になるように構成されており,前記電源および前記負荷インピーダンスに直列に結合された,導電体の一部分であり,前記2次コイルおよび前記導電性要素は,前記2次コイルと前記導電性要素を規定する導電体を含む多層基板上に配置された電流センサ。」3 審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,パリ条約による優先権主張日である平成7年10月6日前に頒布された刊行物である特開平1-276611号公報(以下「引用刊行物」という。甲3)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開昭61-156802号公報(以下「周知例」という。甲4)に示されるような周知技術(以下「周知技術」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとするものである。
(2) 審決のした認定,判断の内容は,以下のとおりである。
ア 引用発明の内容「相互インダクタンス電流トランスジューサーであって,各トランスジューサー12,12aの環状コイル13,13aは対応する細長い円筒形スリーブ14,14aのほぼ中間点において該スリーブを囲んで同軸関係に取り付けられ,前記スリーブはそれぞれ対応の導電体18,18aを囲むように取り付けられており,導電体18,18aは直線状の大径導電材から成るものであり,それぞれ対応のメーター・ブレード端子20,21間及び20a,21a間に直列接続されており,線側ホット導線24,24aは端子20,20aをAC電源25に接続し,負荷側ホット導線26,26aは端子21,21aをAC負荷28に接続しており,環状コイル/2次巻線13,13aはいわゆる空心に巻着され,従って,空隙を介して,各環状コイルと同軸位置を占めるそれぞれの導電体18,18aと結合し,それぞれの導電体は単巻き1次巻線として作用するものであり,リード線22,23間及びリード線22a,23a間に,トランスジューサー12,12aのそれぞれの環状コイルが対応の電流差応答アナログ電圧信号出力e,eを発生させる相互インダクタンス電流トランスジi1i2ューサー。」(審決書4頁5行〜23行)イ 一致点「電気回路の負荷インピーダンスに供給される電流を検出する電流センサであって,前記回路は電源と,当該電源および前記負荷インピーダンスの間において電流を流す電流経路とを備えるタイプのものであり,前記センサは:変圧回路の1次コイルとしての機能を果たす,前記電源を前記電気回路の前記負荷インピーダンスに接続させるとともに,前記電流経路の一部をなす少なくとも1つの導電性要素と;前記導電性要素に磁気的に密に結合されるように配置された,前記変圧回路の少なくとも1つの2次コイルと;前記負荷インピーダンスを経由する電流を表す出力信号を供給するとともに,前記2次コイルに結合された一対の出力端子とを備え;前記導電性要素は,前記電源および前記負荷インピーダンスに直列に結合された,導電体の一部分である電流センサ。」(審決書5頁20行〜32行)ウ 相違点(ア) 相違点1「本願発明では,電流センサが,負荷インピーダンスに供給される信号に検知可能な影響を与えることなく電流を検出するものであり,導電性要素が,前記センサによって電気回路に印加されるレジスタンスおよびインダクタンスが最小になるように構成されているのに対し,引用発明では,相互インダクタンス電流トランスジューサー,導電体18,18aがそれぞれそのようなものであるか否か明らかではない点。」(審決書5頁33行〜6頁1行)(イ) 相違点2「本願発明では,2次コイルおよび前記導電性要素は,前記2次コイルと前記導電性要素を規定する導電体を含む多層基板上に配置されるのに対し,引用発明はそのような構成のものではない点。」(審決書6頁2行〜4行)エ 相違点についての容易想到性の判断(ア) 相違点1についての判断「引用発明において,単巻き1次巻線として作用する導電体18,18aは直線状の大径導電材から成るものであり,環状コイル/2次巻線13,13aはいわゆる空心に巻着され,従って,空隙を介して,各環状コイルと同軸位置を占めるそれぞれの導電体18,18aと結合しているから,引用発明の相互インダクタンス電流トランスジューサーは磁性材のコアを用いるものではなく,導電体18,18a自体のレジスタンス及びインダクタンスも小さいものである。
したがって,引用発明の相互インダクタンス電流トランスジューサーはAC負荷28に供給される信号に実質的に検知可能な影響を与えることなく電流を検出することができるものであり,導電体18,18aは,相互インダクタンス電流トランスジューサーによって電気回路に印加されるレジスタンス及びインダクタンスが小さくなるように構成されているということができる。よって,上記相違点1は実質的な相違点ではない。」(審決書6頁8行ないし21行)(イ) 相違点2についての判断「1次コイル及び2次コイルを多層基板上に形成してトランスを構成することは,例えば,原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-156802号公報に示されるように周知であるから,該周知技術を引用発明に適用して上記相違点2に係る本願発明のように構成することは当業者が容易になし得たことである。そして,本願発明の奏する効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであり,格別のものではない。よって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書6頁23行〜31行)
当事者の主張
1 取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,相違点2に係る容易想到性の判断を誤った違法がある。
(1)一本の直線状の導電体をプリント基板上に形成することの周知性についての判断の誤り審決は,本願発明が,引用発明(甲3)の導電体18と環状コイル13の双方を,周知例(甲4)に示される多層基板上にプリントされたコイルに置換したものにすぎないと判断したものである。
しかし,引用発明の導電体は,単巻き1次巻線としての作用は有するが,コイルではなく,構造上一本の抵抗の小さい導電体である。このような一本の直線状の導電体をも多層基板上にプリント形成する点は本願前の刊行物には教示されていない。
審決は周知技術の評価を誤った結果,容易想到性の判断を誤ったものである。
(2)容易想到性の判断に当たり,引用発明と技術課題を共通にしない周知技術を適用した誤りア引用発明の環状コイル(2次コイル)は,非完全なシンメトリーの巻回による問題(外部的又は外因性の磁界が環状コイル結合する磁気干渉の問題)を解消するために,導電体の略中央部に導電体長の1/3より短い軸長のプラスチックコア(ボビン)を設け,これに巻かれたコイルである。
甲4の電力用トランスの周知のプリントコイルは,電力用トランス以外のどのような応用に格別適するとまでは示唆しているものではない。単に積層基板上に形成されたプリントコイルが周知だからといって,そのプリントコイルが,磁気干渉の問題を技術課題として意識し,それを解決した引用発明の特別な環状コイルセンサーを等価的に置換し得るということにはならない。
イ本願発明では,同じ積層基板の表面と裏面にそれぞれ導電体と2次コイルをプリントするものであるから,形状上精度良くできる点を利用して上記の技術課題を解決しており(出願当初の明細書の15頁下から9行〜16頁8行参照),上記の技術課題を意識していない周知のプリントコイルとは異なる。本願発明は引用発明と同様の技術課題を別異の方法で解決したものであり,解決原理が異なる。
ウ審決は,積層基板上に形成されたプリントコイルにより小型化されたことのみを考慮し,電流検知センサーに要求される外部磁界の影響の完全な除去のための形状の精密さを一切考慮することなく,容易想到であるとした点で,その判断には誤りがある。
2 被告の反論審決の容易想到性の判断に誤りはない。
(1) 一本の直線状の導電体をプリント基板上に形成することの周知性多層基板上にプリントされた平面状コイルという構造自体は甲4を待つまでもなく周知であり,また,このような多層基板上にプリントされた平面状コイルよりなる1次コイル及び2次コイルにより形成したトランスも甲4に示されるように周知である。
一方,引用発明の導電体18及び環状コイル13については,審決に摘示されているとおり(審決書3頁下から5行〜下から2行,4頁第16行〜18行),引用刊行物(甲3)において,「電流センサー12,12aの環状コイル/2次巻線13,13aはいわゆる空心に巻着され,従って,空隙を介して,各環状コイルと同軸位置を占めるそれぞれの導電体18,18aと結合し,それぞれの導電体は単巻き1次巻線として作用する。」(甲3の12頁右上欄16行〜左下欄1行)と記載されているから,両者はそれぞれトランスを構成する1次コイル及び2次コイルに相当するものであることは明白である。
そうすると,引用発明のトランスを構成する導電体18及び環状コイル13を,上記周知のトランスの1次コイル及び2次コイルと同様に,それぞれ多層基板上にプリントされた平面状コイルにより構成することには格別の困難性はなく,その際に,引用発明の1次巻線として作用する導電体18は,審決に摘示されているとおり(審決書3頁最下行〜4頁1行,4頁第10行)直線状のものであるから,多層基板上にプリントされた1次巻線として作用する導電体も同様に直線状のものとすべきことは当業者にとって明らかなことである。
そして,このような導電体が直線状のままで1次巻線として機能(作用)することは,当業者ならば容易に首肯し得る技術事項である。
(2) 引用発明と周知技術の技術課題の共通性ア本発明の2次コイルセンサーが積層基板上に形状上精度良くプリントされたものであるというだけでは,外部的又は外因性の磁界(以下,単に「外部磁界」という。)はそれとは関わりなく2次コイルと結合することになり,その影響を排除することはできないから,原告の主張する外部磁界の磁気干渉の排除という技術課題が解決されることにならない。
補正明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面(図2〜図4)の記載によれば,外部磁界の影響を排除するためには,少なくとも外部磁界からのフラックスを同量感知する2つのコイル30a及び30d(又は30b及び30c)が必要であるところ,そのような構成要件については補正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載も示唆もないことから,原告の上記主張は補正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものではない。
このように,補正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,原告が主張するように外部磁界の影響を排除するという技術課題に対応するものとして特定されるものではなく,単に,導電性要素及び2次コイルを多層基板上に配置したという構成(構造)にとどまるものであるから,その効果も,補正明細書の「発明の目的」に関する欄に「発明の目的従って,本発明の目的は,電流経路のインピーダンスに重要な影響を与えることがなく,小型であり,邪魔にならず,高精度である,AC電流を検出するデバイスを提供することである。」(甲1の6頁下から5行〜下から2行),また,「発明の概要」に関する欄に「発明の概要一側面に従い,本発明は,負荷に相当の影響を与えることなく電気回路の負荷インピーダンスへ供給される電流を検出する小型の電流センサを提供する。」(甲1の7頁12〜14行)と記載されているように,このような配置により得られる小型化等の効果にとどまる。
イ原告は,本願発明は同じ積層基板の表面と裏面に導電体と2次コイルをプリントし,形状上精度良くできる点を利用して上記アの技術課題を解決していると主張するが,たとえ,同じ積層基板の表面と裏面に導電体と2次コイルをプリントし,形状上精度良くしたとしても,外部磁界は,その形状上の精度の良し悪しに関わりなく2次コイルと結合するものであり,その影響を排除することはできないから,このような要件のみでは外部磁界の磁気干渉の問題は解決されない。
ウ引用発明の導電体18及び環状コイル13を,甲4に示される周知の電力用のトランスの1次コイル及び2次コイルと同様に,それぞれ多層基板上にプリントされた平面状コイルにより構成することに格別の困難性はない。また,本願発明は外部磁界の磁気干渉排除という技術課題を有するものとはいえず,小型化等の効果にとどまるものであるから,引用発明及び周知技術から容易に想到し得るものとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 相違点2に係る容易想到性判断の誤りについて当裁判所は,審決が,本願発明の相違点2に係る構成について,引用発明及び周知技術から容易に想到できたとした点には,誤りがあると判断する。
その理由は,以下のとおりである。
本願発明の相違点2に係る構成を引用発明と周知技術から容易に想到することができたか否かを判断するに当たっては,引用発明に係る電流トランスデューサーにおいて,周知技術を適用するための共通の解決課題ないし動機付けが存在していたか否か,仮に存在していたとして,周知技術を適用するための阻害要因がなかったか否かを検討することが必要であるが,本件においては,引用発明には,そのような解決課題ないし動機付けが存在したとはいえないし,また,周知技術を適用することを阻害する要因があったというべきである。
(1) 本願発明についてア 補正明細書の記載補正明細書の「特許請求の範囲(請求項1)」の記載は,第2の2に記載のとおりである。
また,補正明細書の「発明の詳細な説明」(甲2,5)には,次の記載がある。
「発明の背景電気回路の負荷インピーダンスを流れる交流電流の大きさ(振幅)が決定できることが好ましい場合がある。」(甲5の1頁6行〜8行)「このような電流検出器の感度を,1回又はそれ以上密接して巻かれたコイルを導体の一部として形成することによって増加することができる(巻く回数は,磁場を検知するのに用いるセンサの所望の感度に依存する。)。周知の如く,より多くの巻き数は任意の電流に対してより大きな磁場を生成する。電流が巻かれたコイルを流れるので,前述したように,検知することができる磁場が生成される。測定される磁場を生成すべく測定されるべき電流をコイルへ運ぶ導体の部分を形成することの欠点は,コイルが,測定される電流の経路に更なるインピーダンスを追加し,これにより電流の値と同様に電流の位相に影響を与えることである。多くの場合において,電流に相当の影響を与えることなく負荷に流れる電流を測定することが好ましく,センサのインピーダンスは非常に小さくすることが要求される。」(甲5の1頁18行〜2頁4行)「発明の目的従って,本発明の目的は,電流経路のインピーダンスに重要な影響を与えることがなく,小型であり,邪魔にならず,高精度である,AC電流を検出するデバイスを提供することである。本発明の他の目的は,プリント回路基板のような,経済的な方法で作成可能な電流センサを提供することである。」(甲5の3頁2行〜7行)「発明の概要一側面に従い,本発明は,負荷に相当の影響を与えることなく電気回路の負荷インピーダンスへ供給される電流を検出する小型の電流センサを提供する。回路は,電源と,電源と負荷インピーダンスの間で電流を導通させる電流経路とを含む。センサは,好ましくは,電気回路の負荷インピーダンスをセンサへ結合して,変圧回路の1次コイル(原文は「一次」「二次」との表記と「1次」「2次」との表記が混在するため,本判決では「1次」「2次」と表記する。)を形成するとともに,電流経路の一部を形成する少なくとも1つの電流要素と,該電流経路要素の近くで該1次コイルと磁気的に密結合するように配置された,該変圧回路の少なくとも1つの2次コイルと,電流経路要素を介して流れる電流に応じて,該負荷インピーダンスを介して流れる電流を表す出力信号を提供する,該2次コイルに結合された一対の出力端子を含み,該電流経路は,該センサによって該電気回路に負荷されたレジスタンスとインダクタンスを最小化するように構成されており,電源と負荷インピーダンスとに直列に結合された導電体の一部である。本発明の他の側面によれば,センサの構成要素の部分は多層基板上で生成される。」(甲2の(1)のとおり補正された甲5の3頁18行ないし4頁8行。別紙「補正明細書【図4】参照)「第2A図-第2D図及び第3図(別紙「補正明細書【図2A】ないし【図2D】参照)は本発明に係る少なくとも1つの電流センサ24を採用する多層ボード22の好ましい実施態様を示す。第2A図及び第2B図は,各々,多層ボードの導電材料の1次層26a,26bの上面図を示す。これらの1次層は各々,センサの構成品及びワイヤ接続を含み,変圧器の1次コイルの電流経路要素20A,20Bを形成しかつ,例えば,導電層をエッチング及び/又はメッキすることによって形成され得る。第2C図及び第2D図は対照的に,多層ボードの導電材料の2次層28a,28bを示し,それらの各々は,変圧器の1以上の2次側の電流センサコイル30を含み,そして例えば,導電材料の層をエッチング及び/又はメッキすることにより形成することもできる。第3図(別紙「補正明細書【図3】参照)は多層コネクタボード22の好ましい実施態様の側面図を示す。」(甲5の7頁5行ないし15行)「上記のごときデバイスは,電流路のインピーダンスに顕著に影響を与えることなく,コンパクトで,侵入的でなく,電流検出のための高精度センサであって,センサを通る電流の低インピーダンス路を保証する。センサは信号エネルギー,好ましくは,オーディオ周波数レンジを有する電流の検出に特に有用性を有する。」(甲5の15頁6行ないし10行)イ 本願発明の特徴上記記載によれば,本願発明は,電流経路のインピーダンスに重要な影響を与えることのない小型で高精度のAC電流検出器を提供することを目的とするものであり,そのために,電流経路の一部分を形成する1次コイルと1次コイルと磁気的に密結合するように配置された2次コイルからなる変圧回路を形成するとともに,測定の対象となる電流経路は,負荷されたレジスタンスとインピーダンスが最小になるように構成され,センサの構成要素の部分が多層基板上に生成されたものである。本願発明は,オーディオ周波数レンジを有する電流の検出に特に有用性を有する。
別紙補正明細書【図2A】ないし【図2D】及び【図3】に示されるとおり,導電性要素32aないし32d(【図2A】【図2B】)は,平面上に形成され,その周囲に磁界を発生させ,その磁界は,30aないし30dの2次コイル(センサコイル。【図2C】【図2D】)と錯交し,これによって2次コイル(センサコイル)に電流が発生し,電流が検知される。そして,上記実施例の図面においては,2次コイル(センサコイル)は平面上に渦巻状に構成されている。
(2) 引用発明についてア 引用刊行物の記載引用刊行物(甲3)には,次の記載がある。
「2 特許請求の範囲(1)AC電力線配線系によって供給される電流量の大きさ及び変化率に呼応し,かつこれと正比例してレベルが変化するアナログ電圧出力信号を形成する相互インダクタンス差動電流トランスジューサーであって,第1,第2端と,その間にあって所定の長さを有し,中心軸線を画定するほぼ直線的な軸方向成分を有する細長い導電体と;前記所定の長さとほぼ同じ長さを有し,細長い導電体の直線的な軸方向部分の周りに同軸関係に嵌合され,かつこれから電気的に絶縁される導電材から成るほぼ円筒形のスリーブと;中心軸を画定し,前記ほぼ円筒形のスリーブの長さの約1/3よりも短い軸長を有し,内径が円筒形スリーブの外径にほぼ等しく,円筒形スリーブの周りに同軸関係に嵌合するに充分であり,前記円筒形スリーブの全長のほぼ中央部の周りに同軸関係に位置ぎめされる環状センサー・コイルを含み,環状コイルがコイルの中心軸線を含み,かつこの中心軸線から半径方向に広がる平面内に矩形断面を有し,コイルの軸長に対応する各長辺が導電体の中心軸線と平行であり,各短辺が中心軸線と交差し,コイルの内径に対してコイルの外径を画定し,前記環状コイルが電磁結合されていて導電体を流れるAC電流によって発生する磁束変化に呼応して,少なくとも400:1の電流変化率で導電体を流れる電流の時間導関数とほぼ正比例するアナログ電圧信号出力を形成し,前記環状コイルが所定の電圧範囲内のレベルでほぼ正比例的に呼応するアナログ電圧信号出力を形成するように認定された巻き数を有し,これらのターンが整数層として形成され,各層が共通の巻き数から成り,各層のターンが環状コイルの周長に沿ってほぼ均等に配分されていることと:環状コイルがターンのそれぞれの層ごとに補償ターンを含み,それぞれの補償ターンがコイルの内径(即ち,40a)と外径(即ち,40b)の中間位置においてコイルの全周長に亘って巻着されていることを特徴とする相互インダクタンス差動電流トランスジューサー。」(明細書1頁左下欄4行〜2頁左上欄6行。別紙「引用例【図1】」参照)「(発明の分野)本発明は相互インダクタンス電流トランスジューサー,その製造方法及びこれを組み込んだAC電力量メーターに関わり,特にサイズが小さく,構造が著しく簡単で,製造コストが低く,空心式方式における容量性シールドの必要性を著しく軽減すると共に磁気シールドを全く必要とせず,電力量メーターに組み込めばメーター集合体の単純化に寄与すると共に,メーターの小型化,軽量化及びコスト削減にも寄与する相互インダクタンス電流感知トランスジューサーに係わる。」(明細書4頁右上欄14行〜左下欄4行)「(公知技術)本発明の改良型相互インダクタンス電流感知トランスジューサー及びこれを組み込んだ電力量メーターは本願の譲受人でもあるWestinghouse Electric Corp.に譲渡され,その開示内容を本願明細書にも引用したMiller米国特許第4,413,230号の主題に係わり,その改良に相当する。」(明細書4頁左下欄5行〜11行)「電圧及び電流トランスジューサーが,前記メーターを通って需要家の場所における負荷に供給される電力の電圧及び電流成分の大きさを感知し,消費電力の測定のため処理される前記感知成分を表わす対応の信号を出力する。電力の電圧成分はほぼ一定のままであるが,2本の導線を流れ,双方一緒で被測定電力量の電流成分を決定する電流は負荷の変化に呼応して著しく変化する。一般に,電流成分のレベルは少なくとも1/2アンペア乃至200アンペアの範囲を上下する。即ち,少なくとも約400:1の電流変化率となる。変動範囲または電流レベル変化率がこのように比較的大きいから,料金請求のためメーターが電力消費を正確に測定するには電流センサーがほぼ正比例的に応答しなければならない。従って,標準的な変圧器構成が実用的な電圧感知トランスジューサーとして作用できる。しかし,400:1というような広い範囲で変動する電流に対して正比例的に応答し,低電圧レベル信号出力を形成することができる変流器は大型化し,大きいコストを必要とする場合が多い。公知のように,正確な変流トランスジューサーにあっては,1次側と2次側のアンペア回数が等しくなければならず,電流レベルは1次側400アンペア回数を発生させる可能性があるから,正比例する低電圧レベル信号出力を形成するためには2次巻線が大型化する。その結果,これらの条件を従来の変流器で満たすとすれば,必然的に大型化し,比較的コスト高となる。上記特許第4,413,230号に開示されているように,極めて信頼性が高く,正確で,測定すべき電力を供給する導線,例えば,住宅設備の引き込み線に標準的な態様で接続でき,サイズがコンパクトで,低コストで量産できるAC電力量測定電子回路用電流感知トランスジューサーの実現が望まれて久しい。」(明細書4頁右下欄11行〜5頁右上欄6行)「特許第4,413,230号は上記条件を満たすように設計された積算電力計回路の種々の実施例を開示している。一般的には,これらの実施例はいずれも1次巻線手段と電磁結合し,被測定電力の電流成分を搬送する導電体を含む2次巻線手段を有する相互インダクタンス電流感知トランスジューサーを含む。」(明細書5頁右上欄10行〜16行)「1次巻線に電流が流れると磁場が発生してこれがセンサーの2次巻線に結合され,2次巻線は1次巻線と充分に密接な誘導関係にあって誘導電圧e =Mdi/dtを発生させる。」(明細書5頁左下欄3行〜6行)i「2次巻線の誘導アナログ電圧信号e は電流応答アナログ入力信号とし iてAC電力量測定電子回路に供給される。メーターは導電体に接続され,これも測定回路に印加される電圧応答アナログ信号e を出力する電圧セ vンサーをも含む。測定回路は信号e 及びe を処理することによりAC電 i v力消費量を表わす信号を形成する。」(明細書5頁左下欄12行〜19行)「特許第4,413,230号に開示されている相互インダクタンス電流感知トランスジューサーの好ましい実施例の1つは対応の空隙を介してそれぞれと連携の大径導電体と電磁結合する1対の環状2次巻線を含み,それぞれの導電体は単巻き1次巻線を形成する。空隙結合は環状2次巻線のコアがプラスチックなどのような非透磁性材から成り,トランスジューサーに絶対線形応答特性を与えるという利点があることを意味する。」(明細書5頁右下欄8行〜16行)「特許第4,413,230号に開示されているような電流感知トランスジューサー及びこれを組み込んだメーターは広く実用に供せられているが,それでもなお,例えば環状センサーのサイズ及びコストの軽減,究極的にはこれを組み込んだメーターのコスト軽減及び製造の単純化を達成すべく改良の努力が続けられている。開発の努力は特に上記有益な特性にかんがみ,環状空心2次巻線の利点をそのまま維持することに向けられている。」(明細書6頁左上欄16行〜右上欄4行。)「実際問題として,完全なシンメトリーが達成されるように環状感知コイルの巻着に際して正確な制御を維持することにより,外部的または外因性の磁場が環状コイルと結合することに起因する磁場干渉の自己相殺が達成されることが判明した。また,特許第4,413,230号に開示されているような単相200アンペア3線式メーターに組み込む場合,メーター内の2本の導電体を反対方向に電流が流れると,各電流センサーの環状コイルと結合する外因性磁場によって起こる磁気干渉が前記センサーの出力を直列加算接続することで相殺されることも判明した。従って,理想的な場合には,用途によっては磁気シールディングの必要を回避できる。しかし,現実には磁気シールディングが必要な場合が多かった。」(明細書6頁右上欄5行〜19行)「実際にはメーター設置場所における磁気干渉発生源を無くすることは不可能であるから,環状2次巻線またはコイルを正確に巻いて完全に近いシンメトリーを維持することにより上記自己相殺効果を達成し,カップ状シールドによって磁気シールディングと容量性シールディングを兼ねるというのが必須条件であった。環状コイルに作用する外因性磁場の悪影響を効果的に排除し,製造コストを軽減する簡単な方法を見出すべく種々の努力がなされたが,成功していない。例えば,ほぼ完全なシンメトリーが維持されるように単一ターン層の形で環状コイルの正確な巻着を達成する技術が追求された。その他の点ではこの環状コイルは上述の,また,特許第4,413,230号に開示されている住宅用200アンペア・サービス用メーターに使用される従来タイプのものと同じである。この技術は各環状コイルによる外因性または外部磁場の相互相殺を,ほぼ完全なシンメトリーということで最適化しようとするものであった。しかし,装置交差などの要因にかんがみ,このためには通常の製造作業では達成不可能な極度に精密な制御が必要になる。」(明細書6頁左下欄11行〜右下欄12行)「従って,製造コストが低く,しかも必要な線形応答及び広ダイナミック・レンジを可能にすると共に,既存の処理回路と併用できるように必要レベルの出力電圧を形成し,しかも外因性の磁場や静電界にほとんど影響されず,磁気及び静電シールド構造の必要を極力小さくするかまたは完全になくする差動電流センサーの環状2次巻線の実現が依然として切望されている。」(明細書7頁左上欄4行〜11行)「(要約)本発明では上記電力量メーターに組み込まれる相互インダクタンス電流感知トランスジューサーの2次巻線として使用でき,所要の構造的及び電気的特性を有する環状コイルをいとも容易に実現できることが発見された。このような結果はいくつかの要因が協働することで達成された。」(明細書7頁左上欄18行〜右上欄4行)「過去の経験に照らして,それぞれが複数ターンから成る複数の層で環状コイルを形成するとなれば単一層においてさえコイル巻き欠陥は不可避であるために,複雑な多重層環状コイルではシンメトリーを維持するという問題は一段と困難になる。」(明細書8頁右下欄15行〜20行)「上述したような避け難い支障があるにもかかわらず,多重層の形で所要の巻き数を有する環状コイルを巻き,その応答特性を評価することにした。いずれの層も環状コイルの約360°,即ち,全周長にまたがり,いずれの層も同数のターンを有する整数個の層として所要総数のターンが形成されるように先ず設計パラメーターを設定する。このような設計の達成を容易にするため,コイル巻き作業中にコアが360°回転するごとにこれを容易にモニターし,所要数の層のそれぞれに所要数のターンが確実に形成されるようにプラスチック・コアに突出マーカーを形成する。また,各ターン層ごとに環状コアの扁平端面の1つに沿って円周方向に補償ターンを形成する。この補償ターン形成は本発明の好ましい実施例の場合,コアへの第1ターン巻着に使用した線の残り部分を,コアを回転させながらコアの一方の環状端面上の円形経路に沿って単一のループまたはターンとして巻着し,ボビンを移動させてコアに巻着したそれぞれのターンの下に固定することによって行なう。このようにして形成されたコイルは必然的な結果として各ターン層ごとに必要な補償ターンを具える。」(明細書9頁左上欄14行〜右上欄16行)「本発明の環状コイルは極めて有益かつ驚くべき成果または発見であると考えられる。理論的には,市販の巻線機の操作に伴なって生ずるコイル巻き欠陥が,多重層構造のためコイル全体に均等に配分され,その結果として,コイル巻き欠陥に起因するコイルの電磁感能応答の異常が自己相殺される。従って,本発明の環状コイルは準完全シンメトリーを有することが特徴であるということができる。
本発明の環状センサー・コイル/2次巻線は簡単な構造,小さいサイズ,製造の容易さ,製造コストの低さにおいて公知のものよりも著しくすぐれている。その電気特性がほぼ完全にシンメトリックであり,導電体/1次巻線を流れる電流の時間導関数を測定する電力量計中の環状センサー・コイル/2次巻線として使用する場合,このような用途において課せられるきびしい条件や,要求される正確な線形応答及び広ダイナミック・レンジ特性にもかかわらず,外部的な,即ち,外側を囲む容量性または磁気的干渉シールド構造を必要としないことも特徴である。」(明細書9頁右下欄8行〜10頁左上欄8行。)イ 引用発明の特徴引用発明は,電流感知トランスジューサーに関する従来技術における課題を解決したものである。引用刊行物によれば,従来技術は,?@ほぼ直線的な軸方向部分を有する細長い導電体と,?A導電体に同軸関係に嵌合される円筒形のスリーブと,?B円筒形スリーブの全長のほぼ中央部の周りに同軸関係に位置決めされる環状センサー・コイルを設けることによって,?C環状コイルが電磁結合されて,アナログ電圧信号出力を形成するものであると記載されている。
引用発明は,従来技術において,環状コイルをシンメトリーとするために,通常の製造作業では達成不可能な極度に精密なコイル巻き制御を必要とするいう課題があったが,この点を解決するため,?D環状コイルを多重層構造とし,いずれの層も同数のターンを有するものとし,また,各ターン層ごとに環状コアの扁平側面の1つに沿って補償ターンを形成することにより準完全シンメトリー構造とした。
そして,引用発明は,環状コイルによって構成される電流感知トランスジューサーにおいて,環状コイルは,環状コアの外壁,内壁を順次巡るように形成され(別紙「引用例【図4】」参照),導電体と同軸関係に配置されることによって,細長いほぼ直線状の導電体から生じる磁界により,環状コイルに電流が発生するという構造が採用されている。すなわち,この配置によって,1次コイルであるほぼ直線状の導電体と2次コイルである環状コイルとが電磁結合され,トランスの原理により,前記導電体に流れる電流による誘導起電力が環状コイルに生じることになる。
このように,引用発明は,細長いほぼ直線状の導電体と環状コイルとの関係が,平面的に対向する関係ではなく,ほぼ直線状の導電体の周囲を環状コイルが取り囲むような関係として構成された電流感知トランスジューサーを前提としている。
(3) 周知例(甲4)ア 周知例(甲4)の記載周知例には,次の記載がある(別紙「周知例【図1】参照)。
「〔産業上の利用分野〕本発明は,小型トランス,特に絶縁基板に形成した渦巻コイルを使用する超薄型トランスに関するものである。」(明細書1頁左下欄13行〜16行)「〔従来の技術〕トランスは,電気及び電子回路において電圧の変換又は絶縁された回路間の信号伝達に広く使用されている。代表的なトランスは,磁気コアに巻回された1個の1次コイルと1個又はそれ以上の2次コイルとから成る。
1次コイルを流れる電流は磁気コア内に磁界を生じ,これにより2次コイル内に対応する電流が誘導される。2次コイルに誘導される電圧は,1次コイルの巻数と2次コイルの巻数の比の関数である。
トランスを製造する1つの方法は,E字型磁気コア中央脚部の回りに1次と2次コイルを形成する巻線を巻く方法である。このトランス製造法は,かなり労働集約的な方法であるため,製造されたトランスの動作特性が広い範囲にばらつく欠点があった。したがつて,例えば,同一設計の製品前のプロトタイプ(原型)トランスの性能から製品トランスの性能を予測することは,困難であった。更に,工賃が高いので,このようなトランスは高価であった。
絶縁トランスの分野では,共面螺旋(渦巻)コイルは電気絶縁特性を向上させるために使用されてきた。このようなトランスは,アナログ・デバイス(社)のD及びW両氏による「厚膜トランスによるハイブリッド絶縁増幅器の進歩」の題名の論文に記載され,そして雑誌「エレクトロニクス」の1981年8月25日号誌上に公開された。このボーキル型トランスは,厚膜基板上に形成した偏平渦巻コイルと,その偏平渦巻コイルを取り囲むE字型磁気コアとから成る。そのコイル間の磁気結合の大部分は,コア中央の脚部を通して起きる。」(明細書1頁左下欄17行〜2頁左上欄8行)「〔発明が解決しようとする問題点〕このようなトランスは,信号絶縁への応用分野においては十分であるが,1次コイル及び2次コイルの結合が不十分であるので,電力変換トランスへの応用分野には適さない。したがって,製造が容易で,しかも1次側と2次側の結合が密なトランスを開発する必要があった。」(2頁左上欄9行〜15行)「〔発明の概要〕好適な実施例においては,本発明トランスは偏平渦巻コイルと磁気コアを有する。1次コイルは,透孔がある第1のプレートの表面に第1の導体をその透孔を中心に一般的な渦巻状に配置したものである。2次コイルは,第1導体と絶縁され同じく透孔がある第2のプレートの表面に第2の導体をその透孔を中心に一般的な渦巻状に配置したものである。各プレートは,共に絶縁体で構成され,渦巻中心の透孔を合わせ隣接して配置される。その磁気コアは,1次コイル及び2次コイルを取り囲み磁気的に結合される。この磁気コアは,第1プレート及び第2プレートに平行でコイルの横方向の外周より更に横方向に伸び,1次コイル及び2次コイルを両方から挾む上部プレート及び下部プレートから成る。これらの上部及び下部プレートは,中心部では柱状部が第1及び第2プレートの透孔を通って結合し,両端部では第1及び第2プレートの対向する脚部が結合する。一方のコイルに流れる電流はその磁気コア中に磁界を生じ,他方のコイルにこれに対応する電流を誘導する。
この磁気コアは,コイル間を効率よく結合させる形状をしている。その上部及び下部プレートは,コイルの外周よりも横に伸びているので,上述のボーキル型トランスに比べて格段に良好な結合が得られる。磁気結合は,上部プレートと下部プレートの中央柱状部及び脚部を通して行なわれる。
好適な実施例においては,本発明のコイルは,両面がエツチング或いは印刷された回路絶縁基板(以下「プリント板」という。)の両面に連続した渦巻状のパターンに導体が配置されている。2次コイルを形成したプリント板を1枚以上追加すれば,更に2次側に出力電圧が得られる。コイルに接続したり又は他の電子回路を取付けて相互接続したりできるスペースを作るため,プリント板の1枚以上をコイル域を超えて伸ばしてもよい。
他の実施例として,多層プリント板の複数の層にコイルを形成することもできる。
本発明は,性能が安定で予知可能であり,且つ製造費用の安価なトランスを提供する。かようなトランスは,1次及び2次コイルの磁気結合が高度であるため,電力トランスとして使用するのに適する。」(2頁左上欄16行〜左下欄18行)「〔発明の効果〕本発明の小型トランスは,1次コイル及び2次コイルを絶縁基板上に形成するので,特性が安定し且つ製造が容易であり,また,1次コイル及び2次コイルの磁気結合が十分であるから,電力用トランスとして好適である。更に本発明の小型トランスは,1次及び2次コイルが形成される絶縁基板を上下から磁気コアで挟むだけであるから,このトランスを超薄形にすることが可能になり,且つ絶縁基板上の他の電気及び電子部品と同等の部品として取り扱うことができる。」(4頁左下欄3行〜13行)イ 周知例記載の技術の内容上記記載によれば,周知例に開示されたトランスは,絶縁基板上に渦巻状に形成された平面状コイルを積層し,これを上下から磁気コアで挟んだものであって,絶縁体で構成された第1のプレートの表面に第1の導体(1次コイル)を絶縁体の透孔を中心に渦巻状に配置し,絶縁体で構成された第2のプレートの表面に第2の導体(2次コイル)をその透孔を中心に渦巻状に配置し,これを中央柱状部及び脚部を有する磁気コアで挟んで閉磁路を形成したものである。
周知例記載の技術は,従来の厚膜基板上に形成した偏平渦巻コイルと,その偏平渦巻コイルを取り囲むE字型磁気コアとから成るボーキル型トランスにおいて,1次コイルと2次コイルの結合が不十分で,電力変換トランスの応用分野に適さなかったという従来技術の課題を解決する目的で,コイルを配置する第1と第2のプレートに透孔を設け,さらに,上部プレート及び下部プレートから成る磁気コアがコイルの横方向の外周から更に横方向へ伸び,1次コイル及び2次コイルを両方から挟むように構成し,これによって,1次コイルと2次コイルの磁気的結合を密にしたものである。
(4) 容易想到性の判断以上を前提として,引用発明に周知例に示される周知技術を適用することによって,当業者が本願発明の相違点2に係る構成を想到することが容易であったか否かについて判断する。
ア引用刊行物には,上記(2)のとおり,その従来技術として,1次コイルを流れる電流によって磁界が発生し,これにより1次コイルと磁気結合された2次コイルに誘導起電力が生じるという原理を用いてAC電流を検知する,相互インダクタンス電流トランスジューサーがあったこと,相互インダクタンス電流トランスジューサーは,1対の環状コイルを有し,各環状コイルは,単巻1次巻線を形成する2本の導電体にそれぞれ空隙を介して同軸関係に取り付けられること,導電体に電流が流れると,2つの環状コイルの電流が発生し,その出力は,直列加算されて,導電体における別々に感知された線電流の和を表わす電流信号となり,処理回路に供給されること,直列加算により,外部磁界による磁気干渉により誘導される電流が相殺される効果があるが,これを達成するためには,1対の環状コイルをシンメトリーとせざるを得ないという課題があったこと,この課題を解決するため,環状コイルを所定の構造としたことが記載されている。
このように,引用刊行物に記載された技術的事項は,2次コイルとして,環状コイルを用いることを前提としたものであって,引用刊行物には,相互インダクタンス電流トランスジューサーの2次コイルを環状コイル以外のものとする可能性を示唆する記載はない。
引用発明は,電流感知トランスジューサーの従来技術を前提としながら,環状コイルにおけるシンメトリー構造の実現という課題を,環状コイルを多重層構造とすることによって解決しようとしたものである。引用発明と本願発明は,課題解決の前提が異なるから,引用発明の解決課題からは,コイルを多層基板上に形成するための動機付けは生じないものといえる。
なお,引用刊行物には,相互インダクタンス電流トランスジューサーを小型化するという課題も記載されているが,環状コイルを前提としたものであって,本願発明における小型化とは,その解決課題において共通するものではない。
以上のとおり,引用発明には,環状コイルに代えて,多層基板上に形成されたプリントコイルによりトランスを構成する前記周知技術を適用する解決課題や動機は存在しないというべきであり,したがって,当業者が本願発明の相違点2に係る構成を想到することが容易であったとはいえない。
イまた,引用発明に周知例の技術を適用するに当たっては,以下のとおり,その適用を阻害する要因が存在するともいえる。
すなわち,引用発明においては,細長いほぼ直線状の導電体の周囲に同軸的に円筒形のスリーブを配置し,その円筒形スリーブと嵌合するように環状コイルが配置され,環状コイルがほぼ直線状の導電体の周囲を取り囲むという構成を採用しているのに対し,周知例の技術では1次コイルと2次コイルが平面的に対向するように配置されており,引用発明と周知例の技術は,構造を異にしている。
そして,導電体と環状コイルとからなる,引用発明のトランスの構成に,上記周知例に記載されたトランスの構成を適用する場合,2次コイルである環状コイルは,直線状の導電体に直交する仮想的な平面上に,前記導電体を囲むように配置されることが必要となる。しかし,周知例に記載されたトランスは,平面状コイルを形成した絶縁基板を積層するものであり,平面上の1次コイルと2次コイルは,互いに平行な基板面上に形成され,引用発明の導電体と環状コイルの配置関係と,周知例に記載されたトランスにおける1次コイルと2次コイルの配置は,構造上の相違が存することから,引用発明に周知例の構成を適用することには,困難性があるというべきである。
また,引用発明に周知例に記載された技術を適用することを想定した場合,まず,引用発明においてはほぼ直線状の導電体とすることにより導電体によるインピーダンスの発生が抑制されているのに対し,引用発明の導電体に対応する周知例の1次コイルは渦巻状であって導体長が長く,それ自体がインピーダンスとして働く余地があり,この点でも引用発明に周知例の技術を適用しようとするに当たっての阻害要因となる。
さらに,引用発明においては,電力メーター用電流感知トランスジューサーとして,需要家に供給される電力の正確な測定ということが技術的課題とされ,そのために,環状コイルに作用する外因性磁場による悪影響の排除という課題が存在するのに対して,周知例の技術においては,専ら1次コイルと2次コイルの磁気結合の強化ということが技術的課題とされていて,外部磁界による磁気干渉は,格別考慮する必要がない点において,引用発明に周知例の技術を適用しようとするに当たっての阻害要因となり得る。
以上のとおり,引用発明に周知例の技術を適用することには,課題の共通性や動機付けがなく,また,その適用には阻害要因があるというべきであるから,当業者が引用発明に周知例の技術を適用して本願発明に至ることが容易であったということはできない。
2 結論本件審判の請求は成り立たないとした審決の判断は違法であるから,これを取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗