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関連審決 不服2000-13961
関連ワード 物の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 180号 審決取消請求事件
原告 株式会社新素材総合研究所
同訴訟代理人弁理士 伊藤克博
同 宮崎昭夫
同 生沼徳二
被告 特許庁長官小川洋
同指定代理人 一色貞好
同 田中秀夫
同 高木進
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/08/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第2 事案の概要 1 争いのない事実 (1) 原告は、昭和61年7月10日の特許出願(特願昭61-162222号)からの分割出願として、平成9年8月7日、発明の名称を「医療用容器」とする発明について、特許出願をした(平成9年特許願第213162号、以下「本願」という。)が、平成12年7月21日付けで拒絶査定を受けたので、同年9月1日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を不服2000-13961号事件として審理した上、
平成15年3月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月2日、原告に送達された。
(2) 平成14年11月19日付補正書に基づく補正による本願の請求項1記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨は、本件審決に記載された、以下のとおりである。
【請求項1】複数の室を有し、少なくとも一種は液体である複数の薬剤をそれぞれの室に隔離して封入した容器であって、内層と少なくとも1層の外層を有する合成樹脂製多層シートで構成され、該内層の引張強度は、該内層に隣接する外層よりも小さく、該多層シートは共押出成形により形成され、前記複数の室は、該多層シートの一部において剥離可能な接着部により仕切られ、該接着部は、内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され、使用時には該接着部を剥離して前記薬剤の容器内混合が可能な高圧蒸気滅菌された医療用容器。
(3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願発明が、実公昭59-42370号公報(甲3、以下「引用例1」という。)、米国特許第3749620号明細書(甲4、以下「引用例2」という。)及び米国特許第3256981号明細書(甲5、以下「引用例3」という。)に記載された各発明(以下「引用発明1」ないし「引用発明3」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
2 原告主張の本件審決の取消事由の要点 本件審決は、本願発明と引用発明1との相違点1ないし3についての判断を誤る(取消事由1〜3)とともに、各引用例の組合せに基づく進歩性判断を誤った(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 相違点1についての判断誤り(取消事由1) ア 本願発明と引用発明1との相違点1が、本件審決認定のとおり、「合成樹脂製多層シートに関し、本願発明においては、内層の引張強度は該内層に隣接する外層より小さく、かつ多層シートが共押出しにより成形されているのに対し、引用発明(注、引用発明1)では、内層と外層の引張り強度の関係が明らかでなく、
また成形手段も明らかでない点」(7頁)であることは認める。
しかし、本件審決が、相違点1の検討において、「多層シートを用いた容器において、外層の引張強度を内層より高くする点は、上記刊行物5(注、引用例3)に記載されており、また、上記記載1-4(注、引用例1)の実施例においても、外層の引張強度が内層より高くなると認められる。したがって、多層シートを用いた容器において外層の引張強度を内層より高くすることは広く採用されていることというべきであり、このことを引用発明に適用することに格別困難な事情があるとはいえない。また、共押出し成形により多層シートを得ることは、周知技術であって、引用発明の多層シートを得る手段を共押出し成形とすることにも格別の困難性はない」(同頁)と判断したことは、以下のとおり、誤りである(ただし、
引用例3に、外層の引張強度を内層の引張強度より高くする点が記載されていることは認める。)。
イ まず、本件審決は、内層の引張強度が隣接外層よりも小さいこと(以下「要件B」という。)と多層シートが共押出成形により形成されたこと(以下「要件C」という。)をそれぞれ別々に判断しており、本願発明のように、要件Bと要件Cの両方の要件を備える多層シートを用いて弱シールを形成したものと引用例との比較を怠っている。
すなわち、本願発明の弱シールされた部分の断面は、「隣接外層-界面(移行層)-内層-(接着)-内層-界面(移行層)-隣接外層」という構造を有する。そして、本願発明では、「共押出成形により形成された」こと(要件C)により、内層と隣接外層との界面が移行層(十分な溶着状態で接合されている。)となるので、界面での剥離が起きず、また、内層の引張強度を内層に隣接する外層よりも小さくすること(要件B)で、弱シールの剥離時に外層内での破壊を生じさせることなく、[内層-(接着)-内層]の範囲での破壊を確実に行わせるのである。
この結果、本願発明では、使用時の内層-隣接外層間の剥離防止、及び高圧蒸気滅菌時の内層-隣接外層間の剥離防止という効果を奏するのであり、使用時の弱シール剥離の際にも、接着剤や異物等の汚染が生じないので、医療用製品として安定かつ安全である。これが、本願発明が成功している1つの理由である。
ウ これに対し、引用例1及び3には、要件Bと要件Cを備えた多層シートを、高圧蒸気滅菌される医療用容器に使用することの記載も示唆もなく、それによる上記効果も予想されないものであるから、引用発明1に、要件Bと要件Cを備えたシートを適用することは、当業者といえども容易ではない。
まず、引用発明3の層構成において、アクラ(Aclar)7はフッ化炭素ポリマーであり、ポリエチレン6とアクラ(Aclar)7を共押出で成形することはできない。また、ポリエチレン8とアルミニウム箔14とを共押出成形することもできない。そして、同発明では、封鎖が積層薄材の隣接する内層を完全に融着して形成されており、剥離時には内層と外層の界面で剥離が生じているから、
本願発明が目的とする剥離の態様とは明らかに異なる。そして、引用例3には明確には記載されていないが、内層と外層の積層を接着剤を用いて行っているのであれば、医療用容器に用いたときには、開封の際に内容物が接着剤に触れて汚染されることになる。
また、引用発明1においては、外層(ポリエステルフィルム)の強度は内層(ポリエチレン)の強度より大きいが、内層と外層の間に接着阻害剤を施して、内層と外層の間で剥離が生ずるように構成されている。つまり、内層の引張強度が隣接外層の引張強度より小さいことは、引用発明3と同様に、内層同士での剥離を生じさせずに内層と外層の間で剥離を起こすための構成であり、本願発明と目的が異なる。さらに、共押出成形により多層シートを得ることが周知技術であることは認めるが、内層と外層の間で剥離を起こす引用発明1に、共押出成形を適用して多層シートにしたのでは、同発明の作用効果を達成できないのである。
以上のとおり、外層の引張強度を内層より高くする点が引用発明1及び3に記載されていたとしても、外層の引張強度を内層より高くする目的が本願発明とは異なるのであるから、外層の引張強度を内層より高くすることを「引用発明(注、引用発明1)に適用することに格別困難な事情があるとはいえない」との前記判断は誤りである。
(2) 相違点2についての判断誤り(取消事由2) ア 本願発明と引用発明1との相違点2が、本件審決認定のとおり、「本願発明においては、高温蒸気滅菌された医療用容器であるのに対し、引用発明においては、液体接着剤容器である点」(7頁)であることは認める(なお、本願発明は、複数の「液体である薬剤」に関するものであるのに対し、引用発明1の「二種の液体」は、二液反応型接着剤であり、一方は樹脂で、他方は硬化促進剤からなるものであるから、この点でも相違する。)。
しかし、本件審決が、相違点2の検討において、「上記刊行物2(注、
引用例2)には、引用発明(注、引用発明1)と同様形状の容器が、医療用容器として用いられること、及び、容器をシールする際に殺菌されることが記載されているし、引用発明において用いられる素材が高圧蒸気滅菌に耐えるものであることは明らかであるから、引用発明を高圧蒸気滅菌される医療用容器に転用することは、
上記刊行物2における示唆から当業者が容易になし得ることである」(同頁)と判断したことは、以下のとおり、誤りである。
イ 確かに、引用例2(甲4)には、「詰め物形成及びシールの際に殺菌法が用いられる」と記載されているが、どのような殺菌法が使用されるかは全く記載されていない。殺菌・滅菌法としては、第14改正日本薬局方に記載のとおり(甲10、1244頁左欄〜1245頁左欄)、消毒法に属する化学消毒法、物理消毒法としての流通蒸気法、煮沸法、間けつ法及び紫外線法、滅菌法に属する加熱法としての高圧蒸気法及び乾燥法、照射法としての放射線法及び高周波法、ガス法並びにろ過法というように、種々の方法が知られている。
したがって、引用例2の「殺菌法が用いられる」という記載から、高圧蒸気滅菌される医療容器が示唆されているとするのは、極めて飛躍した論理である。
ウ また、引用発明2における超音波シール部がどのような構造になっているのかは明確ではないが、シール面の間で剥離が起こる弱シールであれば、シール温度が一定しないために、高圧蒸気滅菌の際にシール強度が変化して不安定な弱シールしか得られないし、仮に完全融着が起きているのであれば、剥離はシール面で起こるのではなく、内層と外層の界面で起こることになり、高圧蒸気滅菌の際の界面剥離の問題、又は使用時に内容物が汚染される問題が生じることになる。
さらに、超音波シール方法は、異物混入が問題となるような医療用容器には適さないことは明らかである。この点について、引用例2には、ペニシリンと水とが別々の区画に保存され、使用時に破裂可能なシールを通して、ペニシリンを溶解させることが記載されているが、現在の医療の技術常識からすると考えられないことである。
エ しかも、引用発明1は、シール温度を低くしてシール強度を弱くする方法の問題点を指摘し、引用発明2は、予測可能で制御可能な破裂特性を有するシールとして超音波シールを採用し、包装の線のシールを強くする部分は熱シールを採用することを開示している。
したがって、引用発明1及び2を当業者が客観的に判断すれば、破裂可能なシールを有する医療用容器を作成するに当たり、引用発明2の超音波シールに代えて、引用発明1が指摘する問題点を有するシール温度を低くした弱シールを採用することは、両発明の技術的意義に反するものである。
オ さらに、引用発明2は、弱シールの形成に熱シールを使用せずに超音波シールを用い、シールを形成する薄片間に何も介在させないことにより、破裂特性を有する確実な耐薬品性シールを得るものであるから、引用発明1のように、熱シールにより、しかも、積層間に接着阻害部を使用して弱シールが得られる容器を、
医療用容器に転用することの動機付けはないというべきである。
(3) 相違点3についての判断誤り(取消事由3) ア 本願発明と引用発明1との相違点3が、本件審決認定のとおり、「剥離可能な接着部について、本願発明では、「完全に熱溶着しないように」されているのに対し、引用発明では、「シール強度を弱くされて熱接着され」ている点」(7頁)であることは認める。
しかし、本件審決が、相違点3の検討において、「引用発明(注、引用発明1)における「シール強度を弱くした熱接着」であっても、接着はしているのであるから、弱く熱溶着しているということができ、表現を変えると「完全に熱溶着しないように」されているといえるから、この相違点は 、表現上の相違でしかなく、実質的な相違点ではない 」(8頁)と判断したことは、以下のとおり、誤りである。
イ まず、引用発明1が「完全に熱溶着しないように」されている点は、争わない。
しかし、弱シールの形成温度の選択により、高圧蒸気滅菌の際に剥離したり、シールの強度・均一性に変化が生じたりするものであるところ、本願発明では、剥離可能な接着部が、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」という構成を有することにより、
引用発明1との間で弱シール部の構造に明確な相違をもたらしているのである。
すなわち、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度(範囲)」のみを満足する条件(以下「温度条件A」という。)で形成された弱シールは、その後に、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」の条件(以下「温度条件B」という。)による熱履歴を受けることにより、弱シール部の剥離強度が所定の値から外れていたり、シール幅が所定の幅から変化していたり、製品ごとにこれらの値がばらついていたりするものである。これに対して、本願発明の医療用容器では、弱シールが、
内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度であり、かつ、高圧蒸気滅菌可能な温度で形成されているので、その後に高圧蒸気滅菌の際の熱履歴を受けても、弱シール部の剥離強度の変化が少なく、シール幅の変化や製品ごとのばらつきも少ない。
つまり、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」を満たした条件(以下「温度条件C」という。)で接着した場合と、
温度条件Aを満たした条件で接着した場合とでは、剥離可能な接着部の構造に違いが生じるのである。
したがって、本願発明が、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」という構成を有することにより、引用発明1とは実質的に相違するのである。
(4) 各引用例の組合せに基づく進歩性判断の誤り(取消事由4) いずれの引用例にも、熱シールによって形成した弱シールが優れているとの記載はなく、弱シールを高圧蒸気滅菌に曝すという発想もない。したがって、
熱シールで形成した弱シールを高圧蒸気滅菌に曝した後の容器の剥離モードを最適なものとするために、本願発明の各構成要素を組み合わせて採用することは、決して容易とはいえない。
また仮に、個々の構成を取り上げれば、容易に見えたとしても、各引用例をすべて参照しても、どのようにして均一で安定した「高圧蒸気滅菌された弱シール部」とするのかが不明であって、本願発明の各要件を採用して組み合わせる示唆が全くない以上、本願発明に至るのは、当業者であっても容易ではない。
3 被告の反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は、いずれも理由がない。
(1) 取消事由1について 本願発明の、「内層と少なくとも1層の外層を有する合成樹脂製多層シートで構成され、該内層の引張強度は、該内層に隣接する外層よりも小さく」という事項と、「該多層シートは共押出成形により形成され」という事項は、別個の技術事項として捉えられるものであるから、これらをそれぞれ相違点として挙げて判断した点に違法はない。
また、本件審決は、引用発明1において弱シール部がどの層に形成されるのかについて言及していないが、弱シール部を内層の対向する面に形成することは、周知慣用の技術手段であり(乙1〜3)、設計事項にすぎないとの認識があったからである。
そして、弱シール部を内層の対向する面に形成して、該シール部が剥離するようにすれば、内層と外層を、接着剤で接着しても共押出成形により形成しても、その作用効果に相違を生じるものではないから、要件B及びCが一体不可分で、個々の構成要素によっては奏することのない作用効果を生じるとはいえない。
(2) 取消事由2について 引用例1には、「二成分混合用包装袋」を医療用薬剤を入れる容器に用いることは記載されていないが、このような「二成分混合用包装袋」が種々の用途に用いられることが記載されている。また、使用直前に混合するようにした、引用発明1と同様の技術課題をもつもので、医療用薬剤に用いたものは、引用例2等により周知であるから、引用発明1を医療用容器に転用することは容易である。
そして、容器をシールする際に薬剤を殺菌することは、引用例2にも記載されているように普通に行われていることであり、殺菌の方法として、高圧蒸気滅菌もごく普通に用いられている手段であるから、引用発明1を医療用薬剤の容器に転用し、高圧蒸気滅菌を施すことは容易である。
(3) 取消事由3について ア 本件審決は、本願発明の要旨のうち、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」との記載部分は、物の製造方法の特許性を検討するに際して必要のない部分と解したものである(2〜4頁)が、仮に、本願発明を、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認定した場合であっても、以下のとおり、本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
イ まず、本願発明において、「完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」た「剥離可能な接着部」が、物の発明としてどのようにとらえることができるか検討するに、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度(範囲)」(温度条件A)と、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」(温度条件B)との関係については、本願に係る明細書(以下「本願明細書」という。)及び図面に、温度条件A及び温度条件Bが、具体的に何度以上何度以下なのかの開示は見当たらない。上記請求項1の記載に従えば、剥離可能な接着部は、温度条件A及び温度条件Bの両方の条件を満たす温度範囲(温度条件C)の中の特定の温度で接着されることが条件になるはずであるが、この温度条件Cについても、
具体的に何度以上何度以下であるかは開示されていない。
このように、本願発明においては、本願明細書及び図面に、具体的な温度条件が例示すらなされておらず、しかも、温度条件Cを満たした条件で接着した場合と、温度条件Aを満たした条件で接着した場合とで、「剥離可能な接着部」の構成が異なるとの記載もないのであるから、技術常識からみて、接着部の構成は、
いずれの温度条件においても、「剥離可能な接着部」以上の何ものでもなく、その間に構成上の相違が生じる余地はない。
そうすると、上記請求項1における「完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」という技術事項を、物の発明としてとらえた場合には、結局、「完全に熱溶着しない温度範囲で互いに接着され」という意味以上のものはもち得ないことになる。
ウ ところで、引用発明1は、「シール強度を弱くされて熱接着され」たものであるが、これは、接着はしているのであって、弱く熱溶着しているということができるので、表現を変えれば、「完全に熱溶着しない温度範囲で互いに接着され」ているということができる。
そうすると、本願発明の剥離可能な接着部について、「完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」たものであると認定したとしても、引用発明1との相違点は、単なる表現上の相違でしかなく、本件審決における相違点3の判断と同様に、実質的な相違点となるものでないことが明らかである。
(4) 取消事由4について 原告のいう、要件B及びCと、温度条件A及びBの組合せは、熱シールによる弱シールの形成と、容器を高圧蒸気滅菌すること、多層シートを共押出成形することの組合せに帰着し、膨大な組合せのうちの1つであるとはいえない。
そして、多層シートを共押出成形することは、周知の技術手段であり、熱シールによる弱シールの形成と、容器を高圧蒸気滅菌することの組合せは、前記のとおり容易であるから、上記各要件の組合せは、容易に想到し得るものである。
第3 当裁判所の判断 1 取消事由1(相違点1についての判断誤り)について (1) 本願発明と引用発明1との相違点1が、本件審決認定のとおり、「合成樹脂製多層シートに関し、本願発明においては、内層の引張強度は該内層に隣接する外層より小さく、かつ多層シートが共押出しにより成形されているのに対し、引用発明(注、引用発明1)では、内層と外層の引張り強度の関係が明らかでなく、また成形手段も明らかでない点」(7頁)であることは、当事者間に争いがない。
(2) まず、原告は、本件審決が、上記相違点1の検討において、内層の引張強度が隣接外層よりも小さいこと(要件B)と多層シートが共押出成形により形成されたこと(要件C)をそれぞれ別々に判断した(7頁)ことが誤りであり、本願発明は、要件Bと要件Cの両方の要件を備えることにより、弱シールされた部分の断面が、「隣接外層-界面(移行層)-内層-(接着)-内層-界面(移行層)-隣接外層」という構造を有し、内層と隣接外層との界面が移行層(十分な溶着状態で接合されている。)となるので、界面での剥離が起きず、また、内層の引張強度を内層に隣接する外層よりも小さくすること(要件B)で、弱シールの剥離時に外層内での破壊を生じさせることなく、[内層-(接着)-内層]の範囲での破壊を確実に行わせると主張する。
しかしながら、本願明細書において、「剥離」に関しては、【課題を解決するための手段】の欄に、「多層シートで複数の室を有する容器を構成し、該多層シートの内層面を完全に熱溶着させずに接着状態とすることにより、薬剤を保持するには充分な強度を有するが外層を破壊することなく剥離できる程度に内層面を接着し複数の室に仕切ることができる」(甲2の4【0006】)、【発明の実施の形態】の欄に、「容器を多層シートで構成することにより、この接着部に剥離させる方向に力を加えると、外層を破壊することなく接着している内層を破壊(以下、
外層を破壊しないで剥離が可能な接着を「接着」、外層を破壊しないと剥離できない接着を「溶着」という)して各室を連通させることができることを見出した」(甲2の1【0009】)、【発明の効果】の欄に、「容器部の内層は、その外層より引張強度が小さいので、容器部を破壊することなく接着部を剥離できる」(甲2の1【0032】)などと記載されているのみであり、また、共押出成形については、実施例1において「共押出成形によるインフレーションチューブを作製した。」(甲2の1【0024】)などと記載されているのみであって、原告が主張するような、内層と隣接外層との界面が移行層(十分な溶着状態で接合されている。)となること及び界面での剥離が生じないことに関する記載は認められない。
したがって、原告の上記主張は、本願明細書に基づかないものといわなければならない。
しかも、原告が主張するように、弱シールの剥離時に外層内での破壊を生じさせることなく、[内層-(接着)-内層]の範囲での破壊を確実に行わせること(この点は、本願明細書に基づく主張と認められる。)は、専ら、内層の引張強度を該内層に隣接する外層よりも小さくしたこと(要件B)に依拠するものであり、共押出成形により形成されたこと(要件C)を不可欠の要件とするものでないことは明らかである。
そうすると、原告の上記主張は、採用することができず、本件審決が、相違点1の検討において、要件B及びCを個別に判断したことも正当ということができる。
(3) また、原告は、引用発明3について、その具体的な層構成において、共押出成形することができないし、封鎖が隣接する内層を完全に融着して形成されており、剥離時には内層と外層の界面で剥離が生じているから、本願発明が目的とする剥離の態様とは明らかに異なる上、内層と外層の積層を接着剤を用いて行っているとすると、医療用容器に用いたときには、開封の際に内容物が接着剤に触れて汚染されると主張する。
しかしながら、本件審決は、相違点1の検討において、多層シートを用いた容器において外層の引張強度を内層より高くするという技術事項が、引用発明3に開示されていることを認定するものであり(7頁)、この技術事項が引用発明3に開示されていることは、原告も認めるところである。そして、この技術事項を認定する上で、引用発明3自体が、その具体的層構成において共押出成形することができるか否か、あるいは、医療用容器に用いた場合の開封の際に内容物が接着剤に触れるか否かは、全く問題とならないことが明らかであるから、この点に関する原告の上記主張は、本件審決の説示を正解せずに論難するものである。また、引用発明3の外層の引張強度が内層より高い以上、その開封時には、本願発明と同様に、
引張強度の低い内層が破壊されることは当然といえる。
したがって、原告の上記主張は、到底採用することができない。
(4) さらに、原告は、引用発明1について、外層の強度は内層の強度より大きいが、内層と外層の間に接着阻害剤を施して、内層と外層の間で剥離が生ずるように構成されており、内層の引張強度が隣接外層の引張強度より小さいことは、内層同士での剥離を生じさせずに内層と外層の間で剥離を起こすための構成であり、本願発明と目的が異なると主張する。
しかしながら、本件審決は、引用発明1が、「多層シートの一部において剥離可能な接着部により仕切られ、使用時には該接着部を剥離して前記薬剤の容器内混合が可能な容器」という点において、本願発明と一致する(この点は、原告も争わない。)ことを前提とし、内層と外層の引張強度の関係が明らかでないことを相違点1として認定した上、この点について、「多層シートを用いた容器において外層の引張強度を内層より高くする」という周知の技術を適用することに困難性はないと説示するものであり(7頁)、内層と外層の間の接着阻害剤により層間で剥離を生じさせるものとして引用発明1を認定するものではない。原告の上記主張は、本件審決の上記説示を正解せずに論難するものであって、これを採用する余地はなく、本件審決の上記説示は、正当なものといわなければならない。
また、原告は、共押出成形により多層シートを得ることが周知技術であることは認めるものの、内層と外層の間で剥離を起こす引用発明1に共押出成形を適用して多層シートにしたのでは、同発明の作用効果を達成できないと主張する。
しかしながら、本件審決が、引用発明1を内層と外層の間で剥離を起こすものとして引用したわけではないことは、前示のとおりであり、原告の上記主張は、その前提において誤りといわなければならない。そして、引用発明1に対して、共押出成形により多層シートを得るという周知技術を適用することが困難となるべき事由は認められない。
2 取消事由2(相違点2についての判断誤り)について (1) 本願発明と引用発明1との相違点2が、本件審決認定のとおり、「本願発明においては、高温蒸気滅菌された医療用容器であるのに対し、引用発明においては、液体接着剤容器である点」(7頁)であることは、当事者間に争いがない。
原告は、本件審決が、相違点2の検討において、「上記刊行物2(注、引用例2)には、引用発明(注、引用発明1)と同様形状の容器が、医療用容器として用いられること、及び、容器をシールする際に殺菌されることが記載されているし、引用発明において用いられる素材が高圧蒸気滅菌に耐えるものであることは明らかであるから、引用発明を高圧蒸気滅菌される医療用容器に転用することは、上記刊行物2における示唆から当業者が容易になし得ることである」(同頁)と判断したことが誤りであると主張するので、以下検討する。
(2) まず、原告は、殺菌・滅菌法として、消毒法に属する化学消毒法、物理消毒法としての流通蒸気法、煮沸法、間けつ法及び紫外線法、滅菌法に属する加熱法としての高圧蒸気法及び乾燥法、照射法としての放射線法及び高周波法、ガス法並びにろ過法というように、種々の方法が知られている(甲10)から、引用例2の「殺菌法が用いられる」という記載から、高圧蒸気滅菌される医療容器が示唆されているとするのは、極めて飛躍した論理であると主張する。
しかしながら、当業者が、引用発明1と同様形状の容器を医療用容器として用い、容器をシールする際に殺菌することを開示する引用発明2に接した場合、
より具体的に、高圧蒸気滅菌法を含めた周知の滅菌法により殺菌された医療用容器を想起するのは、自然なことであって、引用発明2から、このような高圧蒸気滅菌された医療容器の示唆を受けることを否定する合理的根拠はなく、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) また、原告は、引用発明2の超音波シール部について、シール面の間で剥離が起こる弱シールであれば、シール温度が一定しないために、高圧蒸気滅菌の際にシール強度が変化して不安定な弱シールしか得られないし、仮に完全融着が起きているのであれば、剥離は内層と外層の界面で起こることになり、高圧蒸気滅菌の際の界面剥離の問題、又は使用時に内容物が汚染される問題が生じると主張する。
しかしながら、本件審決は、前記相違点2を検討するに当たって、引用発明2に、引用発明1と同様形状の容器を医療用容器として用い、容器をシールする際に殺菌することが開示されていると説示するものであり、この説示が正当であることは、本件審決が摘示する引用例2に関する記載事項(6頁)から見て明らかである。そして、このような医療用容器への転用の示唆や当該容器をシールする際に殺菌を施すことは、具体的なシールの方法と関わりなく認定できることであり、また、本件審決も、シールの形成に超音波シール方法を採用していることを前提として引用例2の技術事項を引用するものでもないから、原告の上記主張は、本件審決の上記説示を正解せずに論難するものであって、これを採用する余地はない。
したがって、引用発明2における超音波シール方法が、異物混入が問題となるような医療用容器には適さないとする原告の主張が、正当なものとはいえずこれを採用できないことは、上記説示に照らして明らかである。
(4) さらに、原告は、引用発明1及び2を客観的に判断すれば、破裂可能なシールを有する医療用容器を作成するに当たり、引用発明2の超音波シールに代えて、引用発明1が指摘する問題点を有するシール温度を低くした弱シールを採用することは、両発明の技術的意義に反すると主張するが、前示のとおり、本願発明は、引用発明2の超音波シールに代えて引用発明1が開示する弱シールを採用するものではないから、この点に関する原告の主張も、本件審決の上記説示を正解せずに論難するものであって、到底これを採用することはできない。
また、原告は、引用発明2が、弱シールの形成に熱シールを使用せずに超音波シールを用い、シールを形成する薄片間に何も介在させないことにより、破裂特性を有する確実な耐薬品性シールを得るものであるから、引用発明1のように、
熱シールにより積層間に接着阻害部を使用して弱シールが得られる容器を、医療用容器に転用することの動機付けはないと主張するが、前示のとおり、医療用容器への転用の示唆や当該容器をシールする際に殺菌を施すことは、引用発明2の具体的なシールの方法と関わりなく認定できることであり、また、本件審決も、シールの形成に超音波シール方法を採用していることを前提として引用例2の技術事項を引用するものでもないから、この主張も採用の余地はない。
(5) 以上のとおり、引用発明2の示唆に基づいて、引用発明1の多層シートからなる容器を高圧蒸気滅菌される医療用容器に転用することは、当業者にとって容易になし得ることであるから、原告が主張するように、本願発明が複数の「液体である薬剤」に関するものであるのに対し、引用発明1の「二種の液体」が、具体的には、二液反応型接着剤であり、樹脂と硬化促進剤からなるものであるとしても、
このような相違は、引用発明1に基づく容易想到性の判断に影響を及ぼすものでないことが明らかである。
3 取消事由3(相違点3についての判断誤り)について (1) 本願発明と引用発明1との相違点3が、本件審決認定のとおり、「剥離可能な接着部について、本願発明では、「完全に熱溶着しないように」されているのに対し、引用発明1では、「シール強度を弱くされて熱接着され」ている点」(7頁)であることは、当事者間に争いがない。
本件審決は、相違点3の検討において、「引用発明(注、引用発明1)における「シール強度を弱くした熱接着」であっても、接着はしているのであるから、弱く熱溶着しているということができ、表現を変えると「完全に熱溶着しないように」されているといえるから、この相違点は 、表現上の相違でしかなく、実質的な相違点ではない 」(8頁)と判断したものであるところ、原告は、引用発明1が「完全に熱溶着しないように」されている点は争わないのであるから、上記の判断に誤りがないことは明らかである。
(2) 原告は、本願発明では、剥離可能な接着部が、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」という構成を有することにより、引用発明1との間で弱シール部の構造に明確な相違をもたらしていると主張する。
しかしながら、本願発明が、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」という構成要件を有することにより、この要件を欠く場合と比較して、具体的にどのような構造上の差異が生じるのかについては明確な主張がなく、特許請求の範囲の記載においても、そのために格別の構成を採用したと解される点は見当たらない。
また、本願明細書(甲2の1〜4)の発明の詳細な説明の記載を検討しても、「薬液入り容器を挟持体で保持したまま、110℃で60分間高圧蒸気滅菌した」(【0026】)実施例は記載されているが、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」と「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度」との関係を技術的に明確にした記載は皆無であり、本願発明に係る「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」を、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度」以外の温度と解すべき記載は見当たらず、しかも、これらに関する具体的な温度の設定条件等は開示されていない。
そもそも、本願発明は、製造方法ではなく物の発明であるから、剥離可能な接着部が「完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲で互いに接着され」という、接着部を接着する温度範囲を規定した製法的要件についても、本願発明の対象である「医療容器」という物の構成を特定した要件としての意義が明確にされなければならない。この観点から検討すると、本願発明の多層シートにおける内層の接着部は、完全に熱溶着してしまうと「剥離可能」なものではなくなるから、「剥離可能な接着部」とは、結局、「完全に熱溶着しない温度」でなければならないことは明らかである。そして、この接着温度について、更に高圧蒸気滅菌可能な温度範囲に限定しても、「剥離可能な接着部」という構成を前提とする限り、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」は、「完全に熱溶着しない温度」の範囲内のものでなければならないことは当然である。
したがって、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」という製法的要件を考慮して本願発明を解釈したとしても、その弱シール部の構造に特段の差異を生じるものではなく、原告の上記主張は、採用することはできない。
(3) この点について原告は、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度(範囲)」のみを満足する条件(温度条件A)で形成された弱シールは、その後に、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」の条件(温度条件B)による熱履歴を受けることにより、弱シール部の剥離強度が所定の値から外れていたり、シール幅が所定の幅から変化していたり、製品ごとにこれらの値がばらついていたりするのに対して、本願発明の医療用容器では、弱シールが、内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度であり、かつ、高圧蒸気滅菌可能な温度で形成されているので、その後に高圧蒸気滅菌の際の熱履歴を受けても、弱シール部の剥離強度の変化が少なく、シール幅の変化や製品ごとのばらつきも少ないから、「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度で、且つ高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」を満たした条件(温度条件C)で接着した場合と、温度条件Aで接着した場合とでは、剥離可能な接着部の構造に違いが生じると主張する。
しかしながら、本願発明は、「複数の室を有し、少なくとも一種は液体である複数の薬剤をそれぞれの室に隔離して封入した容器であって・・・高圧蒸気滅菌された医療用容器」であるから、「複数の室を有し、少なくとも一種は液体である複数の薬剤をそれぞれの室に隔離して封入した容器」に対し、いずれかの段階で高圧蒸気滅菌が施されていることが必須の要件であり、「容器」が、「複数の室を有し、少なくとも一種は液体である複数の薬剤をそれぞれの室に隔離して封入した」状態(段階)で高圧蒸気滅菌されるものと限定的に解すべき理由はない。つまり、本願発明は、「医療用容器」という物に係る発明であるから、本願発明に係る構成要件は、薬剤と容器が別々に高圧蒸気滅菌された後、該薬剤を容器に封入して「剥離可能な接着部」を形成する場合を排除するものではない。
したがって、本願発明が、弱シール形成(接着)後、高圧蒸気滅菌の際の熱履歴を受けることを前提とした原告の主張は、その前提において理由を欠くものである。
また、仮に、原告が主張するように、本願発明が、弱シール形成(接着)後、高圧蒸気滅菌を行うものであるとしても、当業者にとって、「剥離可能な接着部」の構造を変化させることのないように、すなわち、完全に熱融着しないように高圧蒸気滅菌を行うことは、極めて当然の技術常識であるから、本願発明の「剥離可能な接着部」という構成を前提とする以上、「高圧蒸気滅菌可能な温度範囲」は、接着部が剥離可能な特性を維持できる「内層の対向する面が完全に熱溶着しない温度」の範囲内のものと解すべきであり、温度条件Cで接着した場合と、温度条件Aで接着した場合とでは、剥離可能な接着部の構造に違いが生じるものではない。
したがって、いずれにしても原告の上記主張を採用することはできない。
4 取消事由4(各引用例の組合せに基づく進歩性判断の誤り)について (1) 原告は、いずれの引用例にも、熱シールによって形成した弱シールが優れているとの記載はなく、弱シールを高圧蒸気滅菌に曝すという発想もないから、熱シールで形成した弱シールを高圧蒸気滅菌に曝した後の容器の剥離モードを最適なものとするために、本願発明の各構成要素を組み合わせて採用することは容易でないと主張する。
しかしながら、本願発明に係る「容器」が、「複数の薬剤をそれぞれの室に隔離して封入した」状態で高圧蒸気滅菌されるものと限定的に解すべき理由はなく、薬剤と容器とが別々に高圧蒸気滅菌された後、「剥離可能な接着部」を形成して薬剤が容器の室に封入される場合を排除するものではないことは、前示のとおりである。また、仮に、本願発明が、弱シール形成後、高圧蒸気滅菌を行うものであるとしても、当該高圧蒸気滅菌が弱シールの構造に影響を与えない温度の範囲内で行われることは、当業者にとって当然の技術常識であることも、前示のとおりである。
そうすると、本願発明が弱シール形成後に高圧蒸気滅菌を行うものであることを理由として、その進歩性を肯定することができないことは明らかであり、原告の上記主張を採用する余地はない。
(2) また、原告は、仮に個々の構成を取り上げれば容易に見えたとしても、各引用例をすべて参照しても、どのようにして均一で安定した「高圧蒸気滅菌された弱シール部」とするのかが不明であって、本願発明の各要件を採用して組み合わせる示唆がない以上、本願発明に至るのは当業者であっても容易でないと主張する。
しかしながら、前示のとおり、引用発明2の示唆に基づいて、多層シートを用いた引用発明1を高温蒸気滅菌された医療用容器に転用し、その際、引用発明3及び周知技術に開示された構成を採用することは、当業者にとって容易に想到できることと認められる。しかも、本願発明自体が、「高圧蒸気滅菌された弱シール部」を形成するために、格別の構成ないし温度条件を採用するものでないことも、
前示のとおりである。
したがって、原告の上記主張は、到底採用することができない。
5 結論 そうすると、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件審決には誤りがなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 青柳馨
裁判官 清水節
裁判官 上田卓哉