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事件 |
平成
24年
(行ウ)
383号
特許分割出願却下処分取消請求事件
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2012/12/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平 成24年12月6日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成24年(行ウ)第383号 特許分割出願却下処分取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年10月16日 判 決 ドイツ連邦共和国<以下略> 原 告 アイピーコム ゲゼルシャ フト ミット ベシュレン クテル ハフツング ウン ト コンパニー コマンデ ィートゲゼルシャフト 同訴訟代理人弁護士 牧 山 嘉 道 同補佐人弁理士 アインゼル・フェリックス =ラインハルト 高 橋 佳 大 被 告 国 処 分 行 政 庁 特 許 庁 長 官 同 指 定 代 理 人 長 好 行 加 藤 誠 一 佐 藤 一 行 上 田 智 子 河 原 研 治 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 1 事実及び理由 第1 請求 特許庁長官が特願2011−027458号について平成23年6月2日付 け(発送日同月16日)でした出願却下の処分を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,原告が,特許査定の謄本の送達があった後に分割出願をしたところ, 特許庁長官から,平成18年法律第55号による改正前の特許法44条1項に 規定する期間の経過後にされた出願であるとして出願却下の処分(以下「本件 却下処分」という。)を受けたため,本件却下処分は違法であると主張して, 被告に対し,その取消しを求める事案である。 1 関係法令等(特許法改正の経緯やその内容等) (1) 特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号。以下「平成 14年改正法」という。関係部分につき平成15年7月1日施行。)により, 「明細書」から「特許請求の範囲」を分離して,「特許請求の範囲」を独立 した書類とすることとされ,特許法36条2項において,特許出願の願書に 添付すべき書類として,新たに「特許請求の範囲」が加えられた。これに伴 い,同法17条の2第1項及び44条1項において,従前は,「願書に添付 した明細書又は図面について」とされていたものが,後記(3)ア,イのとお り,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について」とそれぞ れ改められた。 (2) 平成14年改正法附則3条1項(経過措置) 「第2条の規定(特許法第101条の改正規定,同法第112条の3第2 項の改正規定及び同法第175条第2項の改正規定を除く。)による改正後 の特許法(以下この条において「新特許法」という。)の規定は,附則第1 条第2号に定める日(以下「施行日」という。)以後にする特許出願(施行 日以後にする特許出願であって,特許法第44条第2項(同法第46条第5 2 項 において準用する場合を含む。)の規定により施行日前にしたものとみな されるもの(以下この項において「施行日前の特許出願の分割等に係る特許 出願」という。)を含む。)について適用し,施行日前にした特許出願(施 行日前の特許出願の分割等に係る特許出願を除く。)については,なお従前 の例による。」 (3) 意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号。以下「平成 18年改正法」という。関係部分につき平成19年4月1日施行。)による 改正前の特許法 ア 17条の2第1項 「特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願 書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることが できる。ただし,第50条の規定による通知を受けた後は,次に掲げる場 合に限り,補正をすることができる。」(以下略) イ 44条1項(平成14年改正法による改正後のもの。以下「旧44条1 項という。) 「特許出願人は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面につ いて補正をすることができる期間内に限り,二以上の発明を包含する特許 出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」 ウ 同条2項 「前項の場合は,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものと みなす。」(以下略) (4) 平成18年改正法による改正後の特許法 ア 17条の2第1項 前記(3)アと同じ(改正なし)。 イ 44条1項(以下「新44条1項」という。) 「特許出願人は,次に掲げる場合に限り,二以上の発明を包含する特許 3 出 願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。 一 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をする ことができる期間内にするとき。 二 特許をすべき旨の査定(第163条第3項において準用する第51条 の規定による特許をすべき旨の査定及び第160条第1項に規定する審 査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄 本の送達があつた日から三十日以内にするとき。 三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三十日以内 にするとき。」 ウ 同条2項 前記(3)ウと同じ(ただし,前記(3)ウの略部分に一部改正あり。)。 (5) 平成18年改正法附則3条1項(経過措置) 「第2条の規定による改正後の特許法(以下「新特許法」という。)第1 7条の2,第17条の3,第36条の2,第41条,第44条,第46条の 2,第49条から第50条の2まで,第53条,第159条及び第163条 の規定は,この法律の施行後にする特許出願について適用し,この法律の施 行前にした特許出願については,なお従前の例による。」 2 前提事実(争いがないか,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定する ことができる事実) (1) 原告は,平成12年2月15日,ドイツ特許庁を受理官庁として国際出 願(以下「本件国際出願」という。)をした。 (2) 本件国際出願は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特 許協力条約4条(1)(ii)の指定国に日本国を含むものであるから,特許 法184条の3第1項により,本件国際出願日にされた特許出願(特願20 00−604634号。以下「本件原々出願」という)とみなされる。 (3) 特許庁長官は,平成22年1月8日,原告に対し,本件原々出願につい 4 て ,拒絶理由を通知した。 (4) 原告は,同年6月8日,本件原々出願の一部を新たな特許出願(特願2 010−130883号。以下「本件原出願」という)とした。 (5) 特許庁長官は,平成23年1月28日,本件原出願について特許査定を した。上記査定の謄本の送達は,工業所有権に関する手続等の特例に関する 法律5条1項本文,同法施行規則23条の4第10号により電子情報処理組 織を使用して行われ,同日,原告の特許出願代理人の使用に係る電子計算機 に備えられたファイルに記録がされた(乙4。同法5条3項,4項により, 同日に,上記謄本が原告に送達されたものとみなされる。)。 (6) 原告は,同年2月10日,本件原出願の一部を新たな特許出願(特願2 011−027458号。以下「本件出願」という。)とした。 (7) 特許庁長官は,同月28日付けで,原告に対し,本件出願が旧44条1 項に規定する期間の経過後にされた出願であることを理由に,出願却下とな る旨を通知した(却下理由通知書発送日平成23年3月2日)。 (8) 原告は,同年4月1日,弁明書を提出した。 (9) 特許庁長官は,同年6月2日付けで,原告に対し,上記弁明書の弁明の 内容を考慮しても本件出願は不適法であり,上記(7)の却下理由を覆す根拠 は見いだせないとして,出願却下処分(本件却下処分)をした(発送日同月 16日)。 (10) 原告は,本件却下処分を不服として,同年8月12日付けで,行政不服 審査法に基づく異議申立てをしたが,特許庁長官は,同年12月26日付け で同申立てを棄却する決定をし,同決定は同月28日に原告の特許出願代理 人に送達された(乙1)。 3 争点 本件出願が本件原出願からの分割出願をすることができる期間内にされたも のであるか否か。 5 4 争 点に関する当事者の主張 (原告) (1) 経過規定において「なお従前の例による」とある場合,関係する規定の 実施の際有効であった法令の状態のまま凍結された内容において,その例に よることとなる。この場合,改正前の法令自体は既に完全に失効していて, 「従前の例による」という規定のみが適用根拠となるものであるから,平成 18年改正法附則3条1項に定める「なお従前の例による」とは,新44条 1項の適用時期については,平成18年改正法以前の法令による適用時期に 従うということを意味する。平成18年改正法による改正前に特許法44条 に関する改正をした直近の法律は,平成14年改正法であり,同法附則3条 1項により,旧44条の規定は,同条2項の規定により施行日前にしたもの とみなされるものについても適用されるから,平成18年改正法附則3条1 項の「なお従前の例による」との規定により,新44条1項は,同条2項の 規定により施行日前にしたものとみなされるものについても適用されると解 釈することができる。 また,旧44条1項は,原出願の時にしたものとみなされる特許出願に適 用しても,特許出願人に特段の負担を与えるものではなく,むしろ適用した 方がシステム整備の観点からも好ましいことから,同条2項の規定により施 行日前にしたものとみなされる特許出願についても適用されることとしたの であるが,新44条1項を,同条2項の規定により施行日前にしたものとみ なされる特許出願について適用した場合も,特許出願人に特段の負担を与え ることなく手続の無駄を解消することができ,また,特許庁にとっても負担 が軽減され,国際的な運用にもより整合することになるから,平成14年改 正法による改正後の特許法44条1項の適用時期に関する例を踏襲すべきで ある。 さらに,新44条1項を,同条2項の規定により施行日前にしたものとみ 6 な される特許出願にも適用した方が,特許出願の明細書等に含まれる発明の 多面的かつ網羅的な保護を図ることを可能にするという新44条1項改正の 趣旨に合致する。 したがって,平成18年改正法附則3条1項の「なお従前の例による」と は,平成14年改正法における改正特許法44条1項の適用時期に関する例 (平成14年改正法附則3条1項により,改正後の特許法44条1項を,同 条2項の規定により施行日前にしたものとみなされるものについても適用す るという従前の取扱い)を踏襲すべきことを意味すると解釈すべきであり, 本件出願をすることができる時期については,新44条1項2号の規定が適 用される。 (2) そして,本件原出願は,平成18年改正法の施行後にされたものであり, 原告は,平成23年1月28日付けでその特許査定の謄本の送達を受け,同 年2月10日に本件出願をしたのであるから,本件出願は,新44条1項2 号の要件を充足し,分割出願をすることができる期間内にされた適法な特許 出願である。 (被告) (1) 改正附則において経過規定を定める場合,新旧いずれの法令が適用され るのかが文理上明確にされる必要があり,その文理に即して経過規定を判断 すべきである。特許法等の法律を改正する法律の附則に経過規定を定めるこ との趣旨,目的は,法改正前の法秩序から,法改正によって新しく設定する 法秩序に円滑に移行することにあるから,平成14年改正法及び平成18年 改正法の各附則に設けられた経過規定は,これらの改正法の施行前後におけ る特許出願人の手続負担のバランスや特許出願人がした特許出願の法的効果 の安定性等を総合的に勘案して,合理的に定められている。平成18年改正 法による分割出願の時期的制限の緩和については,分割出願制度の濫用防止 の仕組みと合わせて適用することが適切であるところ,分割出願の出願日の 7 遡 及効果(特許法44条2項)によって平成18年改正法の施行日前にされ たものとみなされる特許出願についてまで,新44条1項の規定を適用して 分割出願をすることができる時期を緩和することは,分割出願制度の濫用が 助長されるおそれがあるため,たとえ特許出願人の手続負担等にはならない ものであったとしても適当ではない。このような観点から,平成14年改正 法附則3条1項が「施行日…以後にする特許出願」の後に特許法44条2項 の規定により施行日前にしたものとみなされる出願を含める旨の括弧書きを 置いたのに対し,平成18年改正法附則3条1項において,新44条1項の 規定の適用については,平成14年改正法附則3条1項のような括弧書きを 設けることなく,平成18年改正法の施行日以後にする特許出願について適 用することとし,平成18年改正法の施行日前にされた特許出願については, 「なお従前の例による」として,旧44条1項の規定を適用することとした のである。 (2) 本件原出願は,平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)前に された本件原々出願からの分割出願であるから,特許法44条2項により本 件原々出願の時にしたものとみなされる。そして,平成18年改正法附則3 条1項の規定により,本件原出願からの分割出願の時期に関しては,新44 条1項の規定は適用されず,旧44条1項の規定が適用される。 本件原出願については,拒絶理由の通知(特許法50条)がされることな く特許されたのであるから,本件出願をすることができるのは,補正をする ことができる期間の終期である本件原出願の特許をすべき旨の査定の謄本の 送達前に限られる。原告は,本件原出願の特許査定の謄本の送達を受けた後 に本件出願をしたのであるから,本件出願は,分割出願をすることができる 期間の経過後にされた不適法な特許出願である。 第3 当裁判所の判断 1 旧44条1項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について 8 補 正をすることができる期間内,すなわち,特許をすべき旨の査定の謄本の送 達前(特許法17条の2第1項)に限って分割出願をすることができるとして いたが,新44条1項は,これに加え,特許をすべき旨の査定の謄本の送達が あった日から30日以内であれば分割出願をすることができることとした。そ して,平成18年改正法附則3条1項は,同法による改正に伴う経過措置とし て,「改正後の特許法…第44条…の規定は,この法律の施行後にする特許出 願について適用し,この法律の施行前にした特許出願については,なお従前の 例による」と規定し,前段で改正法が適用される場合を特定し,後段でそれ以 外の場合(すなわち,改正法が適用されない場合)を定めている。 本件出願は,平成22年6月8日にした本件原出願からの分割出願であり, 本件原出願は,平成12年2月15日にした本件原々出願からの分割出願であ るところ,本件原出願は,新44条2項により,平成18年改正法の施行日 (平成19年4月1日)前である平成12年2月15日にしたものとみなされ るから,本件出願は,同法附則3条1項前段の「この法律の施行後にする特許 出願」には該当せず,後段の「この法律の施行前にした特許出願」に該当する ものとして,「なお従前の例による」ことになる。そこで,「従前の例」,す なわち,従前の特許法44条1項の適用関係につきみるに,平成18年改正法 による改正前に特許法44条1項に関する改正をした直近の法律は,平成14 年改正法であるが,同法附則3条1項は,施行日(平成15年7月1日)以後 にする特許出願であって,特許法44条2項の規定により施行日前にしたもの とみなされるものについては,同改正法による改正後の特許法の規定(44条 1項に関しては,旧44条1項がこれに当たる。)が適用されると規定してい たから,本件出願には旧44条1項が適用される。そうすると,本件原出願か ら分割出願(本件出願)をすることができるのは,本件原出願についての特許 をすべき旨の査定の謄本の送達前に限られる。 しかるに,原告が本件出願をしたのは,本件原出願についての特許査定の送 9 達 がされた平成23年1月28日より後の同年2月10日であるから,本件出 願は,旧44条1項の定める出願期間経過後にされたもので,不適法である。 2 原告は,平成18年改正法附則3条1項の「なお従前の例による」を,平成 14年改正法における改正特許法44条1項の適用時期に関する例を踏襲すべ きことを意味すると解すべきである旨主張する。この原告の主張は,特許法4 4条2項の規定により施行前にしたとみなされる分割出願が,平成18年改正 法附則3条1項後段の「この法律の施行前にした特許出願」に含まれることを 前提としながら,あたかも平成14年改正法附則3条1項によって,「改正法 による改正後の特許法44条1項を,同条2項の規定により施行日前にしたも のとみなされるものについても適用する」という適用時期に関する一般的な準 則ないしは規範が定立されたかのように理解し,これを「従前の例」として, 「この法律の施行前にした特許出願」に適用すべきであるというものである。 しかしながら,平成14年改正法附則3条1項は,同改正法の適用関係につ いて定めるもので,原告が主張するような適用時期に関する一般的な準則等を 定めるものではないし,他にそのような準則等が定立されたと解すべき根拠は ない。また,平成18年改正法は,実効的な権利取得の支援や手続の無駄の解 消の観点から,補正をすることができる期間内に加え,特許査定及び最初の拒 絶査定の謄本送達後の一定期間内にも分割出願を認めることとして,新44条 1項により分割出願をすることができる時期の緩和を図る一方,分割出願制度 の濫用を抑止する制度を設ける必要から,特許法17条の2,50条の2,5 3条等の改正も合わせて行っているところ,平成18年改正法附則3条1項は, その前段により,これらの規定を同時に適用しようとするものであるが,原告 の主張は,そのような法律の趣旨に反するものである。 したがって,原告の主張は,独自の見解であるというほかなく,到底採用す ることができない。 3 以上のとおりであって,特許庁長官がした本件却下処分に違法はない。 10 4 よ って,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとして,主文の とおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高 野 輝 久 裁判官 三 井 大 有 裁判官 志 賀 勝 11 |