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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 23年 (行ケ) 10445号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/12/05
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年12月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年(行ケ)第10445号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年11月21日

判 決

原 告 サ ン ド 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 松 葉 栄 治

被 告 ワーナー−ランバート

カンパニー リミテッド

ライアビリティ カンパニー

同訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫

橋 口 尚 幸

齋 藤 誠 二 郎

主 文

1 特許庁が無効2010−800235号事件につい

て平成23年11月22日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのため

の付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1 請求

主文1項と同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係

る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな

いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,

後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。




1 特許庁における手続の経緯

被告は,平成8年7月8日,発明の名称を「結晶性の〔R−(R*,R*)〕
(1)

−2−(4−フルオロフェニル)−β,δ−ジヒドロキシ−5−(1−メチルエチ

ル)−3−フェニル−4−〔(フェニルアミノ)カルボニル〕−1H−ピロール−

1−ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(アトルバスタチン)」とする特許出願(特願平

9−506710号。パリ条約による優先日:平成7年7月17日(米国))をし,

平成14年4月12日,設定の登録(特許第3296564号。請求項の数6)を

受けた。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲41)

を,図面を含め,「本件明細書」という。

(2) 原告は,平成22年12月17日,本件特許の請求項1及び2に係る発明に

について,特許無効審判を請求し,無効2010−800235号事件として係属

した。

(3) 特許庁は,平成23年11月22日,「本件審判の請求は,成り立たな

い。」旨の本件審決をし,同年12月1日,その謄本が原告に送達された。

2 特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の発明(以下,それぞれ「本

件発明1」「本件発明2」といい,また,これらを総称して,「本件発明」とい

う。)は,別紙特許請求の範囲の記載のとおりである。

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,要するに,@本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,

いわゆる実施可能要件(平成8年6月12日法律第68号による改正前の特許法3

6条4項)に違反するものではなく,A本件発明は,後記の引用例に記載された発

明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというこ

とはできない,というものである。

引用例:特開平3−58967号公報(甲1)

(2) 本件審決が認定した引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)




並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

引用発明:〔R−(R*,R*)〕−2−(4−フルオロフェニル)−β,δ


−ジヒドロキシ−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−〔(フェニルア

ミノ)カルボニル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸のヘミカルシウム塩化合物

イ 一致点:本件発明及び引用発明がアトルバスタチンである点

ウ 相違点:本件発明は,それぞれ,結晶形態を特定するためのX−線粉末回折

パターン(本件発明1)や13C核磁気共鳴スペクトル(本件発明2)で特定される

結晶性形態Tのアトルバスタチン水和物であるのに対し,引用発明のアトルバスタ

チンはそのような特定がない点

4 取消事由

(1) 実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由1)

(2) 本件発明の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)

引用発明の認定の誤り

イ 相違点に係る判断の誤り

第3 当事者の主張

1 取消事由1(実施可能要件に係る判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 方法2の開示内容について

本件審決は,本件明細書に開示されている方法1ないし3のうち,少なくとも方

法2によって結晶性形態Tのアトルバスタチン(以下「結晶性形態T」という。)

が種晶なしに製造できるものといえるから,方法1及び3に関する記載を検討する

までもなく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を充足するも

のであるとする。

しかしながら,一般に,結晶化に影響を及ぼす因子(実験条件)は複数知られて

おり,結晶化の手法を開示する際には,諸因子(溶媒の組成,極性,スラリー濃度,

過飽和の程度,冷却速度,冷却プロフィールを含む温度,添加物,種晶の存在の有




無,pH,撹拌等)を具体的に特定しなければ,再現性のある実験は不可能である。

本件明細書は,方法2について,溶媒の種類以外の条件については何ら記載して

おらず,当業者といえども過度な負担なしに具体的な実験条件を決定することはで

きない。

(2) 追試実験について

ア 本件審決は,被告が提出した「形態Tのアトルバスタチンカルシウムの合

成」と題する実験報告書(甲16)に記載された実験C(以下「本件実験」とい

う。)は,本件明細書の方法2に関する記載から理解される結晶化方法に対応する

方法といえるものであり,現実に結晶性形態Tが得られたことが示されているとし

て,本件実験に依拠して本件発明が実施可能であるとする。

しかしながら,スラリー濃度は結晶化の重要な因子であり,最も基礎的な実験条

件であるというべきところ,方法2には当該条件について全く指針が示されていな

い。本件審決も,方法2に関する記載から,本件実験の設定(試料約10g,溶媒

56m? )をどのようにして導き出すことができるのかについて,全く説明してい

ない。

イ 方法2では,補助溶剤の使用が推奨されているにもかかわらず,本件実験で

は,補助溶剤が使用されていない。当業者であれば,好ましいと明示されている範

囲から外れる条件を設定することは,何らかの特別な理由がない限り行わないから,

本件実験の条件は,当業者が方法2から通常選択できる条件ということはできない。

ウ 本件審決は,方法2における撹拌する際の温度について,温度条件が特定さ

れていないから,当然に室温又はその前後の温度で行うものと理解されるとする。

しかしながら,方法2の温度が「室温又はその前後の温度」であるとの認定自体

に合理性がないのみならず,本件実験が採用した温度(約40℃)は,「室温又は

その前後の温度」であるということもできない。温度の指定を欠く方法2は,当業

者にとって全く内容のないものである。

エ 本件明細書は,方法2の撹拌時間について,「必要な形態への変換が完了す




るまで」と記載するが,これは結晶化において当然のことを述べているにすぎない

ところ,本件実験では,3日間撹拌するものである。本件審決は,種晶を使用しな

い場合の結晶化時間について本件明細書は明示していないものの,種晶を使用する

場合には撹拌を17時間行った旨が記載されており,種晶を使用しない場合,使用

する場合よりも総じて結晶化に長期間を要することが技術常識であることを踏まえ

ると,方法2において種晶を使用しない場合,少なくとも本件実験程度以上の時間

を要することは,当業者ならば容易に推認できるものであるとする。

しかしながら,種晶は,生成される結晶形や粒度分布をコントロールする目的で

広く用いられるものであり,本件明細書の実施例1でも,様々な結晶形の中から,

特に結晶性形態Tを得るために種晶を用いていると理解するのが通常である。

仮に,種晶を用いない場合,種晶を用いた実施例1よりも長時間の撹拌が必要で

あるとしても,当業者には,具体的にどの程度撹拌すればよいのか不明である。特

に,本件発明の場合,結晶性形態Tが生成されたか否かはX線解析のような手間の

かかる作業を行う必要があり,それをどのような頻度で行えばよいのかも分からな

いのでは,当業者に過度な負担を強いることになる。

また,原告が本件実験と同条件で追試を行ったところ,機械的撹拌機を回すのが

困難なほどに試料が粘着性を有するようになったから,本件実験は,方法2の追試

としては不適当である。本件審決は,撹拌手段や方法,不純物の種類やその含有量

など,物理的又は化学的な要因に起因して,溶液の粘稠さや起泡性などの性状が大

きく影響を受けることがあり得るところ,原告による追試の条件,状況が明らかに

されていないなどとするが,原告による追試は本件実験と同じ条件で行ったことが

明示されているのであるから,本件審決の判断はその前提自体が誤りである。仮に,

本件審決が指摘するとおり,物理的又は化学的な要因に起因して,溶液の粘稠さや

起泡性などの性状が大きく影響を受けることがあり得るのであるならば,方法2に

おいても,撹拌条件を記載する必要があるものというほかない。

(3) 方法2の実施可能性について




ア 原告は,本件実験と同様の条件のほか,方法2に含まれるそのほかの条件で

も追試を行ったが,種晶を用いない限り,結晶性形態Tを得ることはできなかった。

イ 本件特許の対応米国特許に開示されている方法において,種晶なしでは結晶

性形態XWが得られるが,結晶性形態Tは得られないとする文献(甲56)や,水

とエタノールを用いた撹拌によると,結晶性形態Vが得られるが,結晶性形態Tは

得られないと記載する文献もある(甲102)。

ウ したがって,方法2の条件下で実験を行っても,実際に結晶性形態Tを得る

ことは困難であるから,方法2に基づいて結晶性形態Tを得ることは,当業者にと

って過度な負担を強いるものというべきである。

(4) 小括

以上によると,本件発明について,本件明細書の記載が実施可能要件を充足する

ものであるとした本件審決の判断は誤りである。

〔被告の主張〕

(1) 方法2の開示内容について

本件明細書には,方法2として,水系の媒体中(約40v/v%まで,例えば約

0〜20v/v%,特に好ましくは約5〜15v/v%の補助溶剤,例えばメタノ

ール・・・を含有する水中)で無定形を懸濁することにより,結晶性形態Tが得られる

ことを明示しているのであるから,この条件に沿って実験を行うことは容易である。

そして,結晶性形態Tであることを確認するためのX線回折データ及び13C固体核

磁気共鳴データも本件明細書に記載されているのであるから,結晶性形態Tが得ら

れたか否かを確認することも,当業者にとって何ら困難ではない。

(2) 追試実験について

ア 本件発明において,極めて狭い濃度範囲でしか結晶性形態Tが得られないと

いうわけではなく,当業者であれば,撹拌により懸濁状態を維持するのに適した程

度のスラリー濃度を採用することに何ら困難はない。

本件実験における懸濁物中の約15%の試料量は,常識的な選択であって,その




結果,結晶性形態Tが現に得られているものである。

イ 方法2は,補助溶剤の使用を推奨しているものの,補助溶剤を使用しないこ

と自体は,本件明細書に記載された範囲内である。また,本件明細書の好ましい条

件であるメタノール濃度(5〜15%)において,より短時間で確実に結晶性形態

Tが得られることも,確認されている。

ウ 方法2において,撹拌温度は明示的に特定されていないが,化学方法で温度

の規定がなければ,室温付近で行うのが技術常識である。

エ 本件明細書の実施例において,種晶を加えても17時間の撹拌が必要であっ

たから,種晶を加えない場合,その数倍程度の時間が必要であると予測することは

合理的であり,3日間という常識的な期間で現に結晶化が進行した以上,当業者の

予測する範囲内で,本件明細書の記載の正確さが確認されたものというべきである。

また,種晶を加えなければ17時間よりは長時間を要することが予想されるので

あるから,当業者の常識として,X線回折を1日1回あるいは2,3日に 1 回程度

測定することが選択されるものと解される。

(3) 方法2の実施可能性について

ア 結晶性形態Tについて初めて開示した本件明細書には,結晶性形態Tを特定

し,確認するのに十分なX線回折データと13C固体核磁気共鳴データとが明記され,

それを取得する手段が「方法1〜3」として記載されているのみならず,実際に取

得できることも確認されている。これらの方法のうち,方法2が最も簡便に説明で

きるものであるが,方法1及び3でも,種晶なしで結晶性形態Tが得られることは

確認されているから,原告が行った特定の条件での実験において結晶性形態Tを得

難い場合があったとしても,そのことをもって実施可能要件に違反するものという

ことはできない。

イ 原告が主張の根拠とする実験報告等は,いずれも出発物質である無定形の由

来と純度等が明らかにされていない。出発物質の履歴や純度は,特定の結晶性形態

に変換するか否かの実験において極めて重要な要素であり,不純物が多ければ結晶




になりにくくなるから,それらが明らかにされる必要がある。当業者が通常採用し

ないような特殊な条件で行った実験で結晶性形態Tが得られないことがあったとし

ても,本件発明の実施可能性が否定されるものではない。

(4) 小括

以上によると,本件審決の実施可能要件に係る判断に誤りはない。

2 取消事由2(本件発明の容易想到性に係る判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 引用発明の認定の誤りについて

ア 本件審決は,引用例の実施例10において,「・・・再結晶を行うことができ

る。」と記載されている点について,本来「再沈殿」又は「再析出」と記載すべき

ところ,当該分野でしばしば行われるように,「再結晶」と誤って記載したにすぎ

ないとして,引用例には,何らかのアトルバスタチンの結晶体が得られることが開

示されていないとするが,引用例の「再結晶」との文言は,誤用ではなく,本来の

意味どおりに解釈し,引用発明におけるアトルバスタチンカルシウム塩は結晶性物

質であると認定すべきである。

イ 本件審決は,結晶が得られた場合,少なくとも結晶の形状や色,スペクトル

データなどが示されることが通常であるところ,引用例にはそのような記載がない

ことを,引用例の記載が誤用であることの根拠の1つとする。

しかしながら,本件発明の化合物に近いスタチンの結晶を開示している文献(甲

43〜45)に限っても,スペクトルデータなどに言及しない例は複数存在する。

したがって,本件審決の上記根拠は,技術常識に反するというべきである。

ウ 本件審決は,本件発明の技術分野における特許文献や技術文献などにおいて,

無定形の固体状物質を一度溶媒に溶かした後,冷却等により再度沈殿又は析出させ

ることにより精製する場合,正確には「再沈殿」又は「再析出」などと記載すべき

ところ,「再結晶」と記載してしまうことがしばしば見受けられることも,引用例

の記載が誤用であることの根拠の1つとする。




しかしながら,「再結晶」は,物質の精製などのための基本的な手法として古く

から慣用されており,不純物を含んだ結晶性物質を適当な溶媒に溶かし,他の溶媒

の添加や共通イオン効果などを利用して,不純物が析出しないように再び結晶させ

て,結晶の純度を上げたり,結晶形をそろえる操作のことを意味することは,当業

者にとって明確である。そのような用語について,しばしば誤用されるという異例

の認定をするのであれば,それを裏付ける明確な証拠を示す必要があるところ,本

件審決が根拠として挙げるのは特表2003−512354号公報(甲23。以下

「甲23文献」という。)のみである。

しかも,同文献における「再結晶」は,本件審決が説明する,無定形の固体状物

質を一度溶媒に溶かした後,冷却等により再度沈殿又は析出させることにより精製

する場合には該当しない。確かに,同文献には,「再結晶」という用語が3回使用

されており,「再結晶」後の物質が非晶質とされているという意味では誤用である

ということができるが,「再結晶」される対象(出発物質)が無定形であるという

本件審決の認定に沿う記載はない。対象(出発物質)が無定形(非晶質)であると

は認められない以上,無定形の固体状物質を一度溶媒に溶かした後,冷却等により

再度沈殿又は析出させることにより精製する場合について誤用したものということ

はできないから,同文献をもって,誤用の証拠ということはできない。

エ 本件審決は,引用例が記載するとおりの操作により結晶体が得られることが

その後の追試などにより示されているものでもないし,甲23文献等には,引用例

に対応する米国特許の方法で得られるのは無定形である旨記載されていることも,

引用例の記載が誤用であることの根拠の1つとする。

しかしながら,引用例の実施例10を追試した結果,V型結晶に非常に近い結晶

形が得られることが確認されている(甲50,51)。

また,甲23文献では,引用例に対応する米国特許の方法で得られる「粗製のア

トルバスタチンカルシウム」が無定形ではないことが開示されている。

したがって,甲23文献等は,むしろ引用例に記載された発明により得られるア




トルバスタチンが結晶性物質であることを示唆しているというべきである。

オ 引用例の対応米国特許では「結晶化」という用語が使用されており,当業者

は,引用例における「結晶化」という用語を誤用であると認識することはない。

カ 以上によれば,引用例に記載された発明には,アトルバスタチンの「再結

晶」について明記されているというべきであるから,本件審決の引用発明の認定は,

誤りである。

(2) 相違点に係る判断の誤りについて

ア 結晶を得ることの動機付けについて

引用例にアトルバスタチンの「再結晶」について明記されている以上,引用例に

接した当業者は,アトルバスタチンを結晶化することを想到するものというべきで

ある。

また,本件発明の属する医薬品の分野において,医薬化合物について結晶を得よ

うとすることには極めて強い動機付けが存在し,当業者にとって自明の課題である

のみならず,薬剤の性質管理のために結晶の多形について調べることも,当業者の

通常の業務であるというべきである。

したがって,引用例に接した当業者にとって,アトルバスタチンを結晶化する動

機付けがないなどということはあり得ない。

イ 水を含む系による再結晶化の示唆について

引用例には,アトルバスタチンの「再結晶」について開示されているところ,一

般に再結晶の溶媒として水は極めて広く用いられるものである上,医薬品に限って

も,水を用いた結晶化は周知であり,水を溶媒として生成される水和物の検討も当

業者の通常の業務にすぎない。本件発明における方法2のような手法も,既に周知

である。当業者にとって,水を用いた結晶化は極めて周知の手法である以上,引用

例に基づいて水の共存する系において再結晶を行うことも,当業者にとっては容易

であるというべきである。

また,結晶化を行う際,当該物質を得る際の最後の結晶化で用いられた溶媒を用




いることが周知であるところ,引用例の実施例10では,再結晶の対象となるアト

ルバスタチンカルシウム塩を製造する際の溶媒は水とメタノールの混合物であるか

ら,引用例は,水を含む溶媒を用いることを強く示唆しているということができる。

ウ 本件発明の効果について

(ア) 濾過性及び乾燥性について

本件審決は,本件明細書には,結晶性形態Tが濾過性,粒子径及び乾燥特性の点

で無定形よりも優れることが開示されているとするが,当該記載は,スラリーの量

以外の具体的な条件を開示しておらず,どのような条件で濾過した際の数値である

のか不明である。スラリーの濾過時間は,スラリー濃度や液温等の条件によって全

く異なることが技術常識であるから,それらが特定されていなければ,当業者には

記載内容の確認すらできないのであって,無定形と結晶性形態Tとの濾過特性の相

違を認定することはできない。一般に,結晶が無定形よりも濾過性及び乾燥性に優

れることは周知であって,本件発明の効果は,他の結晶と同程度のものにすぎず,

当業者の予想を超えるものではない。

(イ) 安定性について

一般に,結晶が無定形よりも安定であることは技術常識であるから,本件発明の

安定性は,結晶として普通に見られる程度にすぎず,当業者が通常予期する範囲内

のものである。

エ 以上によれば,本件審決の相違点に係る判断は誤りである。

(3) 小括

本件審決は,以上のとおり,引用例に記載された発明の認定を誤り,相違点に係

る判断を誤ったものといわざるを得ず,したがって,本件発明は,引用発明及び技

術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

〔被告の主張〕

(1) 引用発明の認定の誤りについて

ア 結晶を得たことに係る発明について特許出願する際,「結晶」と記載したと




しても,その裏付けとなるデータが存在しなければ,客観的に見て結晶の開示があ

るということはできない。そのような特許文献を追試して無定形しか得られなけれ

ば,当該文献には結晶が開示されているということはできない。

また,結晶を特定するための全てのデータを記載していない特許文献においても,

結晶を得たと通常判断するに足りる程度の記載が存在することもある。引用例にも,

結晶であるとしながらもスペクトルデータ等が記載されていない実施例があるが,

同文献を全体的に考察すると,反応の目的物が真に結晶であるか,どのような結晶

形であるかについて,特に留意しなかった文献であるということができる。

したがって,引用例において,結晶のスペクトルデータ等が示されていないこと

は,裏付けなしに「再結晶」という用語が使用されたものと理解すべきである。

イ 「再結晶」とは,結晶を再度結晶させることを意味するのではなく,固体物

質を溶解して再度,結晶又は無定形の固体として析出させることを意味するのが普

通である。

甲23文献は,「再結晶」という用語を,無定形を得る場合について使用してい

ることは明らかであるし,出発物質として非晶質を用いていることは,その実施

1及び2の記載により明らかであるから,本件審決が同文献を誤用の例として用い

たことに誤りはない。

ウ 原告は,引用例の実施例10の追試により,V型結晶に非常に近い結晶形が

得られることが確認されたと主張するが,当該追試(甲50)における生成物の回

折図はピーク強度が著しく弱く,かつブロードであって,結晶と評価することはで

きない。また,甲51のV型結晶という用語は,当該文献における独自の用語であ

って,結晶ではなく無定形であるというべきであるし,被告が前提とする結晶Vと

はその形態が異なるものである。

しかも,通常,無定形と呼ばれている状態が,部分的に結晶様の構造を含んでい

ても,本件発明との関係においては,端的に無定形として扱えば足りるものである。

エ 原告は,引用例の対応米国特許では,「結晶化」という用語が使用されてい




るなどと主張するが,これは,当該対応米国特許について,「結晶化」という用語

が用いられていることを前提とした文献(甲51)の記載が誤りであることを意味

するにすぎず,「再結晶」の用語に係る当業者の認識を示すものではない。

オ 以上のとおり,引用例は「再結晶」の用語を誤用したものであり,当業者の

認識からしても,本件審決の引用発明の認定に誤りはない。

(2) 相違点に係る判断の誤りについて

ア 結晶を得ることの動機付けについて

結晶を取得しようとする一般的な意味での動機付けは,具体的な結晶多形に係る

発明に想到するための動機付けとは異なるのであって,医薬として優れた結晶多形

を得たいという願望だけでは,特定の結晶多形を得ることはできない。特定の結晶

多形に係る発明は,当該特定の結晶形に到達することの困難性と,当該結晶形の作

用効果の顕著性によって評価されるべきである。およそ医薬において結晶の使用が

好ましいことに基づいて動機付けを判断すると,結晶多形に係る特許は成立する余

地はない。

イ 水を含む系による再結晶化の示唆について

水を含む系による再結晶化の事例が存在するとしても,本件発明の特定の結晶形

態を取得することが直ちに容易になるわけではない。

また,原告は,本件明細書に開示された結晶性形態Tの取得方法(方法2)が周

知であるなどと主張するが,本件発明を前提として,その手段自体について公知技

術が存在するなどと主張することは,典型的な後知恵である。

水溶性の物質であれば,水を溶媒とすることは普通の手段の1つとなるが,アト

ルバスタチンは水に対する溶解度が極めて低く,溶解しないといってもよいから,

水溶液や水/有機溶媒の溶液から結晶化するという先行技術は,アトルバスタチン

に係る発明の参考とはならない。そもそも,個別具体的な化合物について,同様の

手段によって結晶が得られるかどうかは,通常,予測困難である。

ウ 本件発明の効果について




(ア) 濾過性及び乾燥性について

従来技術であるアトルバスタチンカルシウム塩の無定形は,商業的な製造におい

て多大な不利益をもたらしたものであるところ,本件発明の結晶性形態Tは,製造

上の困難性を大幅に改善したのみならず,無定形では困難な程度の高純度製品を得

ることを可能としたものである。

原告は,本件明細書には,濾過の条件について記載がないと主張するが,結晶性

形態Tと無定形とについて同様の条件が適用されたことが明記されていなくても,

当業者は同様の条件が適用されものと理解することが可能である。結晶性形態Tと

無定形との相対比較が重要である以上,結晶性形態Tの方が顕著に優れていること

は,当業者が本件明細書を参照し,適宜条件を設定することにより確認可能である。

また,結晶性形態Tは,粒径のそろった小さな結晶粒として得られるという特徴

から,当業者はバイオアベイラビリティに優れるであろうことを理解することが可

能である。

(イ) 安定性について

本件明細書には,結晶性形態Tが安定性に優れていることについて明確に記載さ

れているし,医薬化合物の安定性の評価方法は技術常識に属するから,当業者が具

体的な安定性の程度を知ることは容易である。

また,本件発明は,アトルバスタチンにおいて,従来の無定形では製品化に困難

を生ずる程度に安定性の問題があったのに対して,特定の結晶形が得られることを

見いだしたことにより,当該問題を完全に解決したものであるから,結晶が安定性

において優れているという一般的な知見をもって,特許性を否定することはできな

い。

さらに,高い安定性を有する結晶形が他の医薬化合物として存在していたとして

も,そのことをもって,別の医薬化合物において新たな結晶形により高い安定性を

得たことの価値を否定することもできない。

エ 以上によれば,本件審決の相違点に係る判断に誤りはない。




(3) 小括

本件審決の引用発明の認定及び相違点に係る判断には,以上のとおり,誤りはな

く,したがって,本件発明は,引用発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に

発明をすることができたものということはできない。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明について

本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件

明細書(甲41)には,おおむね次の記載がある。

(1) 発明の背景

本件発明は,医薬として有用である新規な結晶性形態の化学名〔R−(R *,R

)〕−2−(4−フルオロフェニル)−β,δ−ジヒドロキシ−5−(1−メチ

ルエチル)−3−フェニル−4−〔(フェニルアミノ)カルボニル〕−1H−ピロ

ール−1−ヘプタン酸ヘミカルシウム塩によって知られているアトルバスタチンに

関する発明である。

アトルバスタチンは,血中脂質性低下剤及び血中コレステロール低下剤として有

用である。

アトルバスタチンは,例えば経口的投与のための錠剤,カプセル,ロゼンジ,粉

末などに有利に処方することを可能とするため,そのカルシウム塩として製造され

る。厳密な製剤上の必要条件及び規格を満足する処方を可能とするためには,純粋

かつ結晶性の形態のアトルバスタチンを製造することが必要であるところ,その製

造方法は,大規模な生産に耐えられる方法であることが求められる。さらに,生成

物は,容易に濾過,乾燥することができる形態にあり,経済的な観点からすると,

特別な貯蔵条件を必要とすることなしに長期間安定であることが望ましい。

従来,大規模な生産には適さない濾過及び乾燥特性を有し,熱,光,酸素及び湿

気から保護しなければならない無定形のアトルバスタチンが存在していた。

本件発明は,結晶性の形態で製造することができるアトルバスタチン,すなわち,




結晶性形態T,U及びWと称される新規な結晶性形態のアトルバスタチンを提供す

るものである。結晶性形態Tは,従来の無定形の生成物よりも小さい粒子及びより

一様な大きさの分布からなり,より有利な濾過及び乾燥特性を示すのみならず,無

定形の生成物よりも純粋で,より安定性を有するものである。

(2) 発明の要約

ア 本件発明1は,CuKα放射線を使用して2分の粉砕後に測定した,2θ,

d−面間隔,及び>20%の強度の相対強度によって表示された特定のX−線粉末

回折パターンを特徴とする結晶性形態Tのアトルバスタチン水和物に関する発明で

ある。

イ 本件発明2は,化学シフトを100万部当たりの部数で表示した特定の固体

状態の13C核磁気共鳴スペクトルを特徴とする結晶性形態Tのアトルバスタチン水

和物に関する発明である。

(3) 発明の詳細な説明

ア 本件発明の結晶性形態Tは,無水の形態及び水和形態で存在することができ

る。一般に,水和形態は,非水和形態と均等であり,本件発明の技術的範囲に含ま

れる。結晶性形態Tは,水約1ないし8モルを含有するが,水3モルを含有するの

が好ましい。

本件発明は,結晶性形態Tを溶剤中の溶液から結晶化させることからなる製法を

提供する。結晶性形態Tが形成される正確な条件は,経験的に決定することができ

るところ,実施可能な多数の方法が存在する。例えば,以下の(ア)ないし(ウ)の方

法1ないし3がある。

(ア) 方法1

結晶性形態Tを製造するための出発物質がナトリウム塩の溶液である場合,1つ

の好ましい製法は,約5v/v%以上のメタノール(好ましくは約5〜33v/v

%,特に好ましくは約10〜15v/v%)を含有する水中のナトリウム塩の溶液

を,約70℃までの高い温度(例えば約45〜60℃,特に好ましくは約47〜5




2℃)で,酢酸カルシウムの水溶液で処理する方法である。

一般に,アトルバスタチンのナトリウム塩2モルに対して酢酸カルシウム1モル

を使用することが好ましい。これらの条件下において,カルシウム塩形成及び結晶

化は,上記の高い温度の範囲内で実施しなければならない。出発溶液に,少量(約

7w/w%)のメチル第3ブチルエーテルを含有させるとよい。結晶性形態Tを一

貫して製造するために,結晶性形態Tの「種子(seeds)」を結晶化溶液に加えるの

が望ましい。

(イ) 方法2

出発物質が無定形のアトルバスタチン又は無定形及び結晶性形態Tの組合せであ

る場合,結晶性形態Tは,必要な形態への変換が完了するまで,約40v/v%ま

で(例えば約0〜20v/v%,特に好ましくは約5〜15v/v%)の補助溶剤

(メタノール等)を含有する水中に固体を懸濁し,濾過することにより製造する。

結晶性形態Tへの完全な変換を確保するために,結晶性形態Tの種子を懸濁液に添

加することが望ましい。

(ウ) 方法3

方法2の代わりに,主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキを,

有意な量の結晶性形態Tが存在するまで,高い温度(約75℃まで。特に好ましく

は約65〜70℃の温度)で加熱し,それによって無定形/懸濁液形態Iの混合物

をスラリー化することができる。

イ 結晶性形態Tは,無定形のアトルバスタチンよりも著しく容易に単離し,冷

却後,結晶化媒質から濾過し,洗浄し,乾燥することができる。例えば,結晶性形

態Tのスラリー50m? の濾過は,10秒以内に完了した。無定形のアトルバスタ

チンでは,濾過するのに1時間以上を必要とした。

ウ 本件発明の化合物は,広範囲の種々な経口的及び非経口的投与形態で製剤化

し,投与することができる。

実施例1




(ア) 方法A

(2R−トランス)−5−(4−フルオロフェニル)−2−(1−メチルエチ

ル)−N,4−ジフェニル−1−〔2−(テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オ

キソ−2H−ピラン−2−イル)エチル〕−1H−ピロール−3−カルボキサミド

(アトルバスタチンラクトン)75kg,メチル第3ブチルエーテル308kg,

メタノール190? の混合物を,48ないし58℃で水酸化ナトリウムの水溶液

(950? 中5.72kg)と40ないし60分反応させて開環したナトリウム塩

を形成させる。25ないし35℃に冷却後,有機層を捨て,水性層を再びメチル第

3ブチルエーテル230kgで抽出する。有機層を捨てた後,ナトリウム塩のメチ

ル第3ブチルエーテル飽和水溶液を,47ないし52℃に加熱する。この溶液に,

水410? に溶解した酢酸カルシウム半水和物の溶液11.94kgを,少なくと

も30分にわたって加える。酢酸カルシウム溶液の添加直後,結晶性形態Iのスラ

リー(水11? 及びメタノール5? 中1.1kg)を種子として混合物に加える。

混合物を少なくとも10分,51ないし57℃に加熱した後,15ないし40℃に

冷却する。混合物を濾過し,水300? 及びメタノール150? の溶液で洗浄し,

さらに水450? で洗浄する。固体を,真空下60ないし70℃で3ないし4日間

乾燥して,72.2kgの結晶性形態Iを得た。

(イ) 方法B

無定形のアトルバスタチン9g及び結晶性形態I1gを,水170m? 及びメタ

ノール30m? の混合物中において約40℃で17時間撹拌する。混合物を濾過し,

水ですすぎ,減圧下70℃で乾燥し,9.7gの結晶性形態Iを得た。

2 取消事由1(実施可能要件に係る判断の誤り)について

(1) 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施

につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内

容を一般に開示する内容を記載しなければならない。平成8年6月12日法律第6

8号による改正前の特許法36条4項実施可能要件を定める趣旨は,明細書の発




明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記

載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特

許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。

そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為を

いうから(特許法2条3項1号),物の発明について上記の実施可能要件を充足す

るためには,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要である

が,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識

基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件

満たすということができる。

(2) 本件審決は,本件明細書の方法2の実施可能性についてのみ検討した上で,

本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を充足するものとする。

そこで検討するに,方法2は,前記1(3)ア(イ)のとおり,補助溶剤を含む水中に

アトルバスタチンを懸濁するというごく一般的な結晶化方法であるものの,補助溶

剤としてメタノール等を例示し,その含有率が特に好ましくは約5ないし15v/

v%であることを特定するのみであり,結晶化に対して一般的に影響を及ぼすpH,

スラリー濃度,温度,その他の添加物などの諸因子について具体的な特定を欠くも

のであるから,これらの諸因子の設定状況によっては,本件明細書において概括的

に記載されている方法2に含まれる方法であっても,結晶性形態Tが得られない場

合があるものと解される。

そうだとすると,結晶化に対して特に強く影響を及ぼすpHやスラリー濃度を含

め,温度,その他の添加物などの諸因子が一切特定されていない方法2の記載をも

ってしては,本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を併せ考慮して

も,当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し,結晶性形態Tを得ることが

できるものということはできない。

(3) この点に関し,被告は,@当業者であれば,撹拌により懸濁状態を維持する

のに適した程度のスラリー濃度を採用することに何ら困難はなく,本件実験におけ




る懸濁物中の約15%の試料量も常識的な選択である,A方法2において,補助溶

剤を使用しないこと自体は,本件明細書に記載された範囲内であるし,好ましい条

件であるメタノール濃度(5〜15%)において,より短時間で確実に結晶性形態

Tが得られることも確認されている,B方法2において,撹拌温度は明示的に特定

されていないが,温度の規定がなければ,室温付近で行うのが技術常識である,C

本件明細書の実施例では,種晶を加えても17時間の撹拌が必要であったから,種

晶を加えない場合,その数倍程度の時間が必要であると予測することは合理的であ

るなどと主張する。

しかしながら,スラリー濃度は,結晶化の実現に関する重要な因子である以上,

物の発明において,当該物の製造方法を開示するに当たり,具体的に記載される必

要がある事項というべきところ,方法2については,補助溶剤の種類と好ましい濃

度程度しか記載されていないのであるから,当該記載から,結晶性形態Tが得られ

るスラリー濃度(例えば,本件実験の設定である試料約10g,溶媒56m? )を

当業者が見いだすことは困難であるというほかない。

しかも,方法2において具体的な条件として記載されている補助溶剤の種類と好

ましい濃度についても,被告の依頼により行われた本件実験(甲16)においては,

補助溶剤を用いずに実験が行われているものである。確かに,方法2において,補

助溶剤を用いなくてもよいとされていることは,被告が主張するとおりであるが,

好ましい条件であるメタノール濃度において,より短時間で確実に結晶性形態Tが

得られることが確認されているのであれば,方法2が具体的に開示した好ましい条

件に基づくことなく,本件実験が行われたことは不合理であるというほかない。

さらに,本件審決は,方法2に対応する前記1(3)エ(イ)の方法Bにおいて,撹拌

温度が約40℃とされていることから,方法2においても,室温又はその前後にお

いて行われたものと理解されるとするが,約40℃という温度について,これを

「室温又はその前後」と理解することは困難である。本件実験においても,室温と

のみ記載され,具体的な撹拌温度が明示されていないから,当業者が,撹拌の要否




すら特定していない本件明細書の方法2に係る記載をもって,そのほかの諸因子と

の相関関係において決定されるべき最適な撹拌温度を過度の負担なしに設定するこ

とができるものということはできない。

加えて,結晶化に要する撹拌時間は,pH,スラリー濃度,温度,その他の添加

物などの諸因子によって異なるものであるから,本件明細書に特定の条件下におけ

る撹拌時間が開示されていたとしても,当業者が方法2における撹拌時間を合理的

に予測することができるとまでいうことはできない。

したがって,被告の主張はいずれも採用できない。

(4) 以上のとおり,本件明細書における方法2に係る記載は,結晶性形態Tを得

るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであっ

て,実施可能要件を満たすものということはできない。

もっとも,本件明細書には,本件審決が判断した方法2のほかにも,方法1及び

3として,結晶性形態Iの具体的製造方法が開示されているところ,本件審決は,

本件明細書の方法2について検討するのみで,本件明細書のその余の記載により実

施可能要件を充足するか否かについて審理を尽くしていないものというほかない。

よって,実施可能要件について更に審理を尽くさせるために,本件審決を取り消

すのが相当である。

3 取消事由2(本件発明の容易想到性に係る判断の誤り)について

(1) 引用発明の認定の誤りについて

ア 引用例の記載

引用例(甲1)には,おおむね次の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

a 請求項1

〔R−(R*,R*)〕−2−(4−フルオロフェニル)−β,δ−ジヒドロキシ

−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−〔(フェニルアミノ)カルボニ

ル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸又は(2R−トランス)−5−(4−フル




オ ロフェニル)−2−(1−メチルエチル)−N,4−ジフェニル−1−〔2−

(テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル)エチ

ル〕−1H−ピロール−3−カルボキサミドおよびその薬学的に許容し得る塩

b 請求項2

〔R−(R*,R*)〕−2−(4−フルオロフェニル)−β,δ−ジヒドロキシ

−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−〔(フェニルアミノ)カルボニ

ル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸である請求項1記載の化合物

c 請求項6

請求項2記載の化合物のヘミカルシウム塩

(イ) 発明の詳細な説明

a コレステロール生合成の抑制剤として,トランス−(±)−5−(4−フル

オロフェニル)−2−(1−メチルエチル)−N,4−ジフェニル−1−〔2−

(テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル)エチ

ル〕−1H−ピロール−3−カルボキサミドがある。

本発明は,トランス−5−(4−フルオロフェニル)−2−(1−メチルエチ

ル)−N,4−ジフェニル−1−〔2−(テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オ

キソ−2H−ピラン−2−イル)エチル〕−1H−ピロール−3−カルボキサミド

の開環した酸のR型の対掌体,すなわち,〔R−(R*,R*)〕−2−(4−フル

オロフェニル)−β,δ−ジヒドロキシ−5−(1−メチルエチル)−3−フェニ

ル−4−〔(フェニルアミノ)カルボニル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸が

コレステロール生合成について驚くべき抑制をもたらすことを見いだしたものであ

る。

本発明の最も好ましい態様は,〔R−(R*,R*)〕−2−(4−フルオロフェ

ニル)−β,δ−ジヒドロキシ−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−

〔(フェニルアミノ)カルボニル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸,ヘミカル

シウム塩である。




実施例10 ナトリウム塩及び(又は)ラクトンからのカルシウム塩

ラクトン1モル(540.6g)をメタノール5? 中に溶解した後,水1? を加

える。撹拌下に1当量の水酸化ナトリウムを加え,高速液体クロマトグラフィー

(HPLC)により追跡すると,ラクトン及びジオール酸のメチルエステル2%以

下が残留している。

加水分解の完了と同時に水10? を加え,酢酸エチル/ヘキサンの1:1混合物

で少なくとも2回洗浄する。各洗浄液はそれぞれ酢酸エチル/ヘキサン10? を含

有すべきである。ナトリウム塩が純粋である場合,メタノール15? を加える。不

純であるか,又は着色物を含有する場合,G−60木炭(100g)を加え,2時

間撹拌し,スーパーセル上でろ過後,メタノール15? で洗浄する。反応混合物に

ついて重量/容量%をHPLCにより算定して溶液中における塩の正確な量を測定

する。

1当量又は僅かに過剰の塩化カルシウムを水20? 中に溶解する。反応混合物及

び塩化カルシウム溶液の両方を60℃に加熱する。激しい振とう下に塩化カルシウ

ム溶液を徐々に加える。添加終了後,徐々に15℃に冷却し,ろ過する。フィルタ

ーケークを水5? で洗浄し,真空オーブン中50℃で乾燥する。さらに,酢酸エチ

ル4? 中に溶解(50℃)し,スーパーセル上でろ過後,酢酸エチル1? で洗浄し,

50℃rxn溶液にヘキサン3? を仕込むことにより,再結晶を行うことができる。

イ 本件審決の引用発明の認定の当否

本件審決における引用発明の認定のうち,本件審決が,引用例の実施例10にお

ける「再結晶」の用語は「再沈殿」又は「再析出」の誤用であり,引用例に記載さ

れた発明において,アトルバスタチンの結晶が得られていないと認定した点を除く

その余の認定については,当事者間に争いがない。

引用例(甲1)は,〔R−(R * ,R * )〕−2−(4−フルオロフェニ
(ア)

ル)−β,δ−ジヒドロキシ−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−

〔(フェニルアミノ)カルボニル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸,そのラク




トン体及びその塩に関する公開特許公報であって,上記各物質のラセミ体分割によ

る製造,キラル合成による製造及びラクトン体の加水分解などについて,実施例1

ないし11として,具体的な実験手順及びデータ等を開示するものである。引用例

において,最も望ましい態様のヘミカルシウム塩として,アトルバスタチンが指摘

されており,その製造方法実施例10に記載されている。

前記ア(イ)bの実施例10の記載において,ラクトンを用いて種々の作業工程を

経た後に得られた反応混合物及び塩化カルシウム溶液について,さらに複数の作業

工程を加え,50℃rxn溶液にヘキサンを仕込むことにより,「再結晶」を行う

ことができるとされているが,実施例10の各作業工程及び各工程により得られた

産物によれば,実施例10における「再結晶」とは,化学用語に関する辞典(甲4

8)に記載されている通常の語義である「不純物を含んだ結晶性物質を適当な溶媒

に溶かし,他の溶媒の添加や共通イオン効果などを利用して,不純物が析出しない

ように再び結晶させて,結晶の純度を上げたり,結晶形をそろえる操作」を意味す

るものと解され,特段それを疑うべき事情は見当たらない。

すなわち,引用例の他の実施例でも,具体的な実験手順が記載されており,固体

物質を意味する技術用語として,「結晶」「結晶性生成物」「粗製物質」「残留

物」「反応混合物」「粗製生成物」「泡状物」「純粋物質」「白色固形物」等の用

語が用いられている。このうち,実施例1において,「再結晶」という用語が用い

られているが,同実施例では,初期反応で得られた物質を「反応混合物」,粗製の

段階の生成物を「淡茶色の結晶性生成物」と記載し,それを「再結晶」して生成物

1Bを,さらに「再結晶」して生成物1Cを得た上で,生成物1Bと1Cとを合一

した後,「再結晶」して生成物1Fを得るものとされているが,生成物1Fの融点

が狭い温度範囲(229〜230℃)であると記載されていることからすると,生

成物1Fは,「結晶」であるということができる。

したがって,実施例1においても,「再結晶」という用語は技術的に正確に用い

られているものというべきである。その他の実施例についても同様である。




(イ) この点について,被告は,@結晶を得たことに係る発明について特許出願

する際,「結晶」と記載したとしても,その裏付けとなるデータが存在しなければ,

客観的に見て結晶の開示があるということはできない,A本件審決が指摘した甲2

3文献と同様に,引用例における「再結晶」とは,「再沈殿」又は「再析出」の誤

用である,B原告による引用例の実施例10の追試によっては,結晶が得られたも

のと評価することはできないなどと主張する。

しかしながら,前記のとおり,引用例における「再結晶」を含め,技術用語の誤

用を認めることができない以上,各種文献において,結晶に関するデータが記載さ

れることがあったり,「再結晶」の用語について誤用する例が見られたとしても,

前記認定を妨げるものではないというべきである。

また,引用例の実施例10における「再結晶」の用語が誤用であると認めること

ができない以上,引用例に記載された発明において結晶が生じていることを認定す

るに当たり,追試が必要となるものでもない。

したがって,被告の主張はいずれも採用できない。

(ウ) 以上によれば,引用例における「再結晶」の用語が,「再沈殿」又は「再

析出」の誤用であると認めることはできず,引用例に記載された発明において得ら

れたアトルバスタチンが結晶形態であると認定しなかった本件審決の認定は誤りで

ある。

ウ 一致点及び相違点について

前記イのとおり,引用例に記載された発明は結晶形態のアトルバスタチンである

というべきであるから,本件発明と引用例に記載された発明の一致点及び相違点は,

以下のとおりとなる。

(ア) 一致点:本件発明及び引用例に記載された発明が結晶形態のアトルバスタ

チンである点

(イ) 相違点:本件発明は,それぞれ,結晶形態を特定するためのX−線粉末回

折パターン(本件発明1)や13C核磁気共鳴スペクトル(本件発明2)で特定され




る結晶性形態Tのアトルバスタチン水和物であるのに対し,引用例に記載された発

明のアトルバスタチンは,結晶形態を有するものの,そのような特定がない点(以

下「本件相違点」という。)

(2) 相違点に係る判断の誤りについて

ア 結晶を得ることの動機付けについて

(ア) 特開平6−192228号公報(甲6)は,結晶性(R)−(−)−2−

シクロヘプチル−N−メチルスルフオニル−[4−(2−キノリニルメトキシ)−

フェニル]−アセトアミドに係る文献であるところ,同文献には,非結晶状態のア

セトアミドは,固形製薬の製造において重大な欠点を有しており,結晶性のアセト

アミドは,非結晶状態のアセトアミドと比較して,物理的安定性に優れている旨が

記載されている。

(イ) 特開平7−53581号公報(甲7。平成7年2月28日公開)は,結晶

質L−アスコルビン酸−2−燐酸エステルマグネシウム塩の製造法に係る文献であ

るところ,同文献には,非晶質のL−アスコルビン酸−2−燐酸エステルマグネシ

ウム塩は,保存時において吸湿しやすく,実用面で支障が生じやすいため,安定な

結晶質のL−アスコルビン酸−2−燐酸エステルマグネシウム塩が望ましい旨が記

載されている。

(ウ) 特開昭57−91983号公報(甲8)は,ラニチジン,その製造方法

びそれを含む医薬組成物に係る文献であるところ,同文献には,製薬上の要件や規

格に合致するために,できる限り純粋かつ高度に結晶性の状態でラニチジンを製造

する必要がある旨が記載されている。

(エ) 医薬に関するそのほかの文献(甲9〜11,79,92〜95)において

も,結晶性の形態が安定性に優れている旨が記載されている。

(オ) 以上によると,本件優先日当時,一般に,医薬化合物については,安定性,

純度,扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから,非結晶性

の物質を結晶化することについては強い動機付けがあり,結晶化条件を検討したり,




結晶多形を調べることは,当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。

そして,前記(1)のとおり,引用例には,アトルバスタチンを結晶化したことが記

載されているから,引用例に開示されたアトルバスタチンの結晶について,当業者

が結晶化条件を検討したり,得られた結晶について分析することには,十分な動機

付けを認めることができる。

この点について,被告は,結晶を取得しようとする一般的な意味での動機付けは,

具体的な結晶多形に係る発明に想到するための動機付けとは異なるのであって,お

よそ医薬において結晶の使用が好ましいことに基づいて動機付けを判断すると,結

晶多形に係る特許は成立する余地はないと主張する。

しかしながら,結晶を取得しようとする動機付けに基づいて結晶化条件を検討し,

結晶多形を調査することにより,具体的な結晶多形に想到し得るものであるから,

具体的な結晶多形を想定した動機付けまでもが常に必要となるものではない。

したがって,被告の主張は採用できない。

イ 水を含む系による再結晶化の示唆について

(ア) 医薬品固体を得るための手法に係る総説的な文献(甲65。なお,同文献

は,本件優先日(平成7年7月17日)と同月に発行された刊行物であるが,医薬

品に関する総説的な文献であり,本件優先日当時の技術常識を把握する証拠として,

採用することができるものというべきである。)には,医薬品製造の各段階又は原

薬や製剤の貯蔵の際,原薬の多形及び水和物が用いられる可能性があるから,これ

らの形態の存在について,原薬を調べるのが得策であること,水和物形成の機会を

最大化するために溶媒−水混合物を含むべきであること,ごく少数の例外はあるが,

市販された結晶性薬物製品に含有される構造的溶媒は水であることが記載されてい

る。

(イ) 医薬化合物の水和物に関する総説的な文献(甲76。平成7年1月発行)

には,製造開発の間に,物理的,化学的な安定性,バイオアベイラビリティ及び加

工に影響する相転移の問題を回避できるように,医薬水和物を特徴づけることの重




要性が強調されており,その結果,剤形の開発の間において,検討中の固体が水和

物を形成するか否かを調べ,もしそうであれば,薬物の異なる疑似多形が熱力学的

に安定である温度及び水分活性の条件を決定することが必須であること,種々の極

性を持つ溶媒から結晶化することにより,物質が溶媒和物として存在するか否かを

検証することができること,溶媒の極性を変化させる代わりに,水と適当な有機溶

媒との混合物を用いて,溶媒媒体の水分活性を変化させることができることが記載

されている。

(ウ) 医薬に関するそのほかの文献(甲77〜86)においても,水に溶解し難

い物質を含む種々の医薬化合物が水を含む溶媒への懸濁等を経て水和物として結晶

化されたことが記載されている。

(エ) 以上によると,本件優先日前から,医薬化合物の結晶として水和物結晶が

望まれており,非結晶の物質について,水を含む系から水和物として結晶させるこ

とを試みることは,当業者にとって通常なし得ることであったというべきである。

したがって,引用例に開示されたアトルバスタチンの結晶について,水を含む溶

媒を用いた水和物として結晶を得ることを試みることは,当業者がごく普通に行う

ことであるというべきである。

また,結晶性形態Iを得るために本件明細書が開示した方法(前記1(3)ア)は,

水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するというものであって,当業者が

通常採用しないような手法を用いているものではなく,特殊な条件設定が必要であ

るというものでもないから,本件発明に係る結晶性形態Iは,当業者が通常なし得

る範囲の試行錯誤で得られた結果物である水和物結晶にすぎないものというべきで

ある。

この点について,被告は,水を含む系による再結晶化の事例が存在するとしても,

本件発明の特定の結晶形態を取得することが直ちに容易になるわけではないなどと

主張する。

しかしながら,本件明細書が開示した方法は,実施可能要件を充足するか否かは




ともかくとして,特殊な手法であるとはいえない以上,当業者が通常なし得る範囲

試行錯誤内において当該方法と同様の方法を試み,結晶性形態Tを得ることがで

きるものというべきである。

したがって,被告の主張は採用できない。

ウ 本件発明の効果について

(ア) 濾過性及び乾燥性について

化学物質の結晶,特に結晶多形の研究の重要性を指摘する文献(甲62。平成元

年8月発行)には,一般に,単離,精製,乾燥及びバッチプロセスにおいて,結晶

性製品は,取扱や製剤が最も容易であることが記載されている。

したがって,一般に,結晶は,無定形と比較して,優れた濾過性及び乾燥性を有

することは,本件優先日前から当業者に周知であったということができる。

前記1(3)イのとおり,本件明細書には,結晶性形態Tのスラリー50m? の濾過

は10秒以内に完了したが,無定形のアトルバスタチンの場合,1時間以上が必要

であった旨が記載されているところ,結晶スラリーの濾過性は,含まれる結晶の形

態のみならず,大きさ(粒度)やその分布にも依存することは明らかであって,本

件明細書の上記記載から,結晶性形態Iの濾過性及び乾燥性が,結晶として通常予

測し得る範囲を超えるほど顕著なものであるとまで認めることはできない。

この点について,被告は,結晶性形態Tは,粒径のそろった小さな結晶粒として

得られるという特徴から,当業者はバイオアベイラビリティに優れるであろうこと

を理解することが可能であるなどと主張する。

しかしながら,必要に応じて結晶の粒度をそろえることは当業者がごく普通に行

うことであるし,本件明細書において,アトルバスタチンを結晶性形態Iとして結

晶化させれば,通常予測し得る範囲を超えるほど粒度のそろった結晶が得られるこ

とが具体的に開示されているわけでもない。

したがって,被告の主張は採用できない。

(イ) 安定性について




前記のとおり,結晶が無定形よりも安定性を有することは,当業者の技術常識

あるということができる。本件明細書には,結晶性形態Iは,無定形の生成物より

も純粋で安定性を有する旨が記載されているが,当該記載の裏付けとして提出され

た各種データ(甲19,20)を考慮したとしても,なお結晶性形態Iの安定性が,

通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはでき

ない。

この点について,被告は,高い安定性を有する結晶形が他の医薬化合物として存

在していたとしても,そのことをもって,別の医薬化合物において新たな結晶形に

より高い安定性を得たことの価値を否定することはできないと主張する。

しかしながら,結晶性形態Iの安定性が,通常の結晶から予測し得る範囲を超え

る顕著なものであるとまでいえない以上,被告の主張はその前提自体が誤りであっ

て,採用することはできない。

エ 小括

以上によると,本件発明は,アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態

T)に係る発明であるところ,本件相違点に係る構成は,引用例により開示された

アトルバスタチンの結晶について,当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤によって

得ることができるものというべきであるし,当該結晶性形態の作用効果についても,

格別顕著なものとまでいうことはできない。

したがって,本件発明は,引用例に記載された発明及び技術常識に基づいて,当

業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

4 結論

以上の次第であるから,本件審決は取消しを免れないものである。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 土 肥 章 大





裁判官 井 上 泰 人




裁判官 荒 井 章 光





(別紙)

特許請求の範囲



【請求項1】CuKα放射線を使用して2分の粉砕後に測定した,2θ,d−面間

隔,および>20%の強度の相対強度によって表示された次のX−線粉末回折パタ

ーンを特徴とする結晶性形態Tのアトルバスタチン水和物



2θ d 相対強度(>20%)2分粉砕

9.150 9.6565 42.60

9.470 9.3311 41.94

10.266 8.6098 55.67

10.560 8.3705 29.33

11.853 7.4601 41.74

12.195 7.2518 24.62

17.075 5.1887 60.12

19.485 4.5520 73.59

21.626 4.1059 100.00

21.960 4.0442 49.44

22.748 3.9059 45.85

23.335 3.8088 44.72

23.734 3.7457 63.04

24.438 3.6394 21.10

28.915 3.0853 23.42

29.234 3.0524 23.36





【請求項2】化学シフトを100万部当たりの部数で表示した次の固体状態の13C

核磁気共鳴スペクトルを特徴とする結晶性形態Tのアトルバスタチン水和物






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