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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 22年 (ワ) 40006号 損害賠償請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2012/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平 成24年11月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成22年(ワ)第40006号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成24年7月13日

判 決

愛媛県四国中央市<以下略>

原 告 大王製紙株式会社

愛媛県四国中央市<以下略>

原 告 ダイオーペーパーコンバーティング

株式会社

上記両名訴訟代理人弁護士 村 林 隆 一

井 上 裕 史

田 上 洋 平

上記両名訴訟代理人弁理士 永 井 義 久

上記両名補佐人弁理士 和 泉 久 志

愛媛県四国中央市<以下略>

被 告 ユニ・チャーム株式会社

同訴訟代理人弁護士 近 藤 惠 嗣

山 口 健 司

薄 葉 健 司

同訴訟代理人弁理士 古 賀 哲 次

同補佐人弁理士 蛯 谷 厚 志

森 本 有 一

小 野 田 浩 之

主 文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

1
事実及び理由

第1 請求

被告は,原告らに対し,それぞれ1億円及びこれに対する平成22年10月

1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,使い捨て紙おむつに関する特許権を有する原告らが,被告の製造,

販売する紙おむつについて,原告らの特許権に係る特許発明技術的範囲に属

するとして,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,それぞれ

の損害7億7000万円のうちの1億円及びこれに対する不法行為の後の日で

ある平成22年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅

延損害金の支払を求める事案である。

1 前提となる事実(争いのない事実)

(1) 本件特許権

原告らは,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。

特 許 番 号 第4198313号

出 願 日 平成12年12月8日

登 録 日 平成20年10月10日

発明の名称 使い捨て紙おむつ

(2) 本件各発明

ア 本件特許権に係る特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細

書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである

(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明1」という。)。

「使用状態においてウエスト開口部及び左右のレッグ開口部が形成され,

前記ウエスト開口縁を含むウエスト部と,該ウエスト部の下端からレッグ

開口始端に至る腰下部とからなる胴周り部において,周方向に沿い,かつ

縦方向に間隔をもって配置された多数の伸縮部材を有し,かつ縦方向に沿

2
っ て前記腰下部まで延在する半剛性の吸収コアを有する使い捨て紙おむつ

であって,

前記伸縮部材は,前記胴回り部の60%以上の長さ範囲にわたって前記

間隔を7.0o以下とされた状態で配置され,

前記腰下部の前記伸縮部材は,前記腰下部の中央部を除く左右脇部に配

置され,

前記腰下部に配置された前記伸縮部材の伸張応力及び断面外径は,前記

ウエスト部に配置された前記伸縮部材の伸張応力及び断面外径よりも小さ

く,かつ太さが620dtex以下で,伸長率が150〜350%である,

ことを特徴とする使い捨て紙おむつ。」

イ 本件明細書の特許請求の範囲の請求項3の記載は,次のとおりである

(以下,この請求項3に係る発明を「本件発明2」という。本件発明1と

併せて,以下「本件各発明」という。)。

「製品の外面を構成し,前記腰下部の前記伸縮部材が配置された外形シ

ートと,前記外形シートの内面側に固定され,前記吸収コア,透液性トッ

プシート及び不透液性バックシートを有する吸収主体と,を備えており,

前記腰下部の前記伸縮部材は,その端部が前記吸収コアの側縁部と重な

って前記腰下部の中央部を除く左右脇部に配置され,

前記レッグ開口部を形成する長さ範囲である股部のうち,前身頃側の前

記レッグ開口始端と前記股部の縦方向中心との間における前記レッグ開口

始端から始まる該始端寄りの部分領域に複数の股部伸縮部材が,縦方向の

間隔を7.0o以下とされた状態で前記外形シートに配置され,前記股部

伸縮部材は,その端部が前記吸収コアの側縁部と重なって前記股部の中央

部を除く左右脇部に周方向に配置され,

前記股部伸縮部材の伸張応力及び断面外径は,前記ウエスト部の前記伸

縮部材の伸張応力及び断面外径よりも小さく,かつ太さが620dtex

3
以 下である,請求項1または2記載の使い捨て紙おむつ。」

(3) 構成要件の分説

ア 本件発明1は,次の構成要件からなる(以下,分説した構成要件をそれ

ぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。

A 使用状態においてウエスト開口部及び左右のレッグ開口部が形成さ

れ,前記ウエスト開口縁を含むウエスト部と,該ウエスト部の下端か

らレッグ開口始端に至る腰下部とからなる胴周り部において,周方向

に沿い,かつ縦方向に間隔をもって配置された多数の伸縮部材を有し,

かつ縦方向に沿って前記腰下部まで延在する半剛性の吸収コアを有す

る使い捨て紙おむつであって,

B 前記伸縮部材は,前記胴回り部の60%以上の長さ範囲にわたって

前記間隔を7.0o以下とされた状態で配置され,

C 前記腰下部の前記伸縮部材は,前記腰下部の中央部を除く左右脇部

に配置され,

D 前記腰下部に配置された前記伸縮部材の伸張応力及び断面外径は,

前記ウエスト部に配置された前記伸縮部材の伸張応力及び断面外径よ

りも小さく,かつ太さが620dtex以下で,伸長率が150〜3

50%である,

E ことを特徴とする使い捨て紙おむつ。

イ 本件発明2は,次の構成要件からなる(以下,分説した構成要件をそれ

ぞれの符号に従い「構成要件F」のようにいう。)。

F 製品の外面を構成し,前記腰下部の前記伸縮部材が配置された外形

シートと,前記外形シートの内面側に固定され,前記吸収コア,透液

性トップシート及び不透液性バックシートを有する吸収主体と,を備

えており,

G 前記腰下部の前記伸縮部材は,その端部が前記吸収コアの側縁部と

4
重 なって前記腰下部の中央部を除く左右脇部に配置され,

H1 前記レッグ開口部を形成する長さ範囲である股部のうち,前身頃側

の前記レッグ開口始端と前記股部の縦方向中心との間における前記レ

ッグ開口始端から始まる該始端寄りの部分領域に複数の股部伸縮部材

が,縦方向の間隔を7.0o以下とされた状態で前記外形シートに配

置され,

H2 前記股部伸縮部材は,その端部が前記吸収コアの側縁部と重なって

前記股部の中央部を除く左右脇部に周方向に配置され,

J 前記股部伸縮部材の伸張応力及び断面外径は,前記ウエスト部の前

記伸縮部材の伸張応力及び断面外径よりも小さく,かつ太さが620

dtex以下である,

K 請求項1または2記載の使い捨て紙おむつ。

(4) 被告の行為

被告は,業として,別紙物件目録記載1及び2のパンツ型紙おむつ製品

(以下「被告製品1」,「被告製品2」といい,併せて「各被告製品」とい

う。)を製造し,販売している(なお,原告らは,被告が,各被告製品のほ

かに,被告製品1と同一の構成を有する使い捨てパンツ型紙おむつ及び被告

製品2と同一の構成を有する使い捨てパンツ型紙おむつを製造し,販売して

いると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)。

(5) 本件各発明と各被告製品との対比

各被告製品は,本件発明1の構成要件A,B及びEを充足し,また,本件

発明2の構成要件F,H1及びH2を充足する。

2 争点

(1) 各被告製品の構成(争点1)

(2) 各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か(争点2)

(3) 本件各発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認

5
め られるか否か(争点3)

(4) 原告らの損害(争点4)

3 争点についての当事者の主張

(1) 争点1(各被告製品の構成)について

(原告らの主張)

被告製品1の構成は,別紙「被告製品1の構成」の「原告ら主張」欄に記

載のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品1の図面(原告ら)」のと

おりである。

また,被告製品2の構成は,別紙「被告製品2の構成」の「原告ら主張」

欄に記載のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品2の図面(原告

ら)」のとおりである。

(被告の主張)

被告製品1の構成は,別紙「被告製品1の構成」の「被告主張」欄に記載

のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品1の図面(被告)」のとおり

である。

また,被告製品2の構成は,別紙「被告製品2の構成」の「被告主張」欄

に記載のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品2の図面(被告)」の

とおりである。

(2) 争点2(各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)について

(原告らの主張)

ア 本件発明1について

(ア) 構成要件Cについて

本件明細書の発明の詳細な説明には,吸収コアが腰下部まで延在する

ことが明記され,吸収主体が腰下部の判断の基準にはなっていないので

あって,本件発明1の「ウエスト部」は,胴周り部のうちウエスト開口

縁側の領域であり,かつ,吸収コア13の長手方向端部と重ならない部

6
分 であると解すべきである。

各被告製品に,吸収コアを横断して配置されているフィットギャザー

(221)は存在せず,腰下部に配置された伸縮部材であるフィットギャザ

ー(221-2)は,いずれも腰下部の中央部を除いて配置されているから,

各被告製品は,構成要件Cを充足する。

(イ) 構成要件Dについて

a 「断面外径」について

構成要件Dにおいて,腰下部に断面外径の小さな伸縮部材を用いる

のは,「消費者はその太い糸ゴムGによって装着者の肌を強く締め付

けるのではないかとのおそれを抱き,消費意欲を減退させる」との不

都合を回避するためであるから,構成要件Dの「断面外径」は,消費

者が目にする方向,すなわち,製品の平面方向(不織布の幅方向)に

おける伸縮部材の径であると解すべきである。

各被告製品の腰下部に配置されたフィットギャザー(221-2)の径は,

ウエスト部に配置された伸縮部材であるウエストギャザー(220)の径

より小さいし,仮に「断面外径」を平面方向における伸縮部材の高さ

方向の寸法と解するとしても,各被告製品のフィットギャザー(221)

の高さ方向の寸法は,ウエストギャザー(220)の高さ方向の寸法より

も小さい。

もっとも,各被告製品のウエスト部に配置された伸縮部材には,腰

下部に配置された伸縮部材であるフィットギャザー(221-2)と伸張応

力及び断面外径が等しい伸縮部材であるフィットギャザー(221-1)が

ある。しかしながら,本件発明1は,ウエスト部,腰下部の各領域に

おける全体的な作用効果が対象となっているから,当該領域に配置さ

れている伸縮部材を全体的に見て評価をすべきであり,各被告製品は,

ウエスト部に配置された伸縮部材の多数が,腰下部に配置された伸縮

7
部 材よりも大きな伸張応力と断面外径を有するので,ウエスト部に配

置された伸縮部材の一部が腰下部に配置された伸縮部材と同一である

としても,全体的に見れば,腰下部に配置された伸縮部材の伸張応力

及び断面外径は,ウエスト部に配置された伸縮部材の伸張応力及び断

面外径よりも小さい。

したがって,各被告製品は,構成要件Dの「腰下部に配置された前

記伸縮部材の…断面外径は,…ウエスト部に配置された前記伸縮部材

の…断面外径よりも小さく」を充足する。

b 「伸長率」について

(a) 「伸長率」の解釈について

本件発明1が属する「使い捨て紙おむつ」の分野において,どの

ような張設具合をもって伸縮部材を対象部材に適用するかが問題と

なる場面では,伸長の程度を表す「伸長率」は,自然長を100%

とする解釈を採用することが自然である。

本件発明1における伸長率とは,伸縮部材のその適用対象部材に

対する張設具合を示す指標であって,伸びとは異なる概念であり,

被告が指摘するJIS規格である「JIS K 6327」,「J

IS K 6251」は,いずれも伸びを対象にしたもので,伸長

率を規定するものではないし,「JIS L 1096」は,伸縮

織物の規格であって,本件発明1の伸縮部材とは無関係である。

本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明1は,

伸縮部材に大きな収縮力を付与しないことが前提となっていて,伸

長率を従来の製品と同等か又は小さくすることが要求されていると

理解されるところ,公知文献では,伸縮部材の伸長率が自然長の1.

2倍ないし4.0倍の範囲内であるとされているから,本件発明1

に係る特許出願当時,紙おむつに伸縮部材を配置する際に,自然長

8
の 4.5倍の伸長率を採用することは当業者の技術常識としてあり

得ないことであり,そうであれば,「伸長率が150〜350%」

は,自然長の1.5倍ないし3.5倍と解すべきである。

(b) 張設具合の伸長率について

構成要件Dは,「配置された」伸縮部材の伸長率を対象としてい

るところ,紙おむつ本体が展開された状態で,伸長された伸縮部材

が配置されることは,当業者にとって常識であり,本件明細書の発

明の詳細な説明にも,伸縮部材が製品の展開状態において伸長下に

配置固定される旨の記載がある。そうであるから,構成要件Dの

「伸長率」は,自然状態(紙おむつに貼り付ける前の状態)の伸縮

部材の長さ(このときの伸長率は100%)に対する,紙おむつの

展開状態における伸縮部材の長さの割合,すなわち,「張設具合の

伸長率」を意味すると解すべきである。

このことは,紙おむつの製造工程において,張設具合の伸長率が

常用されていることからも明らかであるし,公知文献においても,

伸縮部材の伸長率として張設具合の伸長率が利用されるのが一般的

である。

(c) 各被告製品のフィットギャザー(221-2)の張設具合の平均伸長

率は,被告製品1が,前身頃で自然長の2.71倍,後身頃で自然

長の2.57倍であり,被告製品2が,前身頃で自然長の2.88

倍,後身頃で自然長の2.55倍であって,いずれも「伸長率が1

50〜350%」(自然長の1.5倍ないし3.5倍)の範囲内で

あるから,各被告製品は,構成要件Dの「伸長率が150〜35

0%」を充足する。

c したがって,各被告製品は,構成要件Dを充足する。

イ 本件発明2について

9
( ア) 構成要件Gについて

被告製品1は,前身頃が79.5%,後身頃が79.7%,被告製品

2は,前身頃が98.4%,後身頃が100%の割合で,フィットギャ

ザー(221-2)の端部が吸収コア(213)の側縁部と重なっているところ,こ

のような製造工程上のばらつきは本件発明2の作用効果に影響を与える

程度のものではなく,各被告製品は,実質的に「腰下部の前記伸縮部材

は,その端部が前記吸収コアの側縁部と重なって」いるものと評価する

ことができるから,各被告製品は,構成要件Gを充足する。

(イ) 構成要件Jについて

構成要件Jは,構成要件Dに包含されるものであり,各被告製品が構

成要件Dを充足することは前記ア(イ)のとおりであるから,各被告製品

は,構成要件Jを充足する。

(ウ) 構成要件Kについて

各被告製品が本件発明1の構成要件を全て充足することは前記アのと

おりであるから,各被告製品は,構成要件Kを充足する。

(被告の主張)

ア 本件発明1について

(ア) 構成要件Cについて

当業者の技術常識に基づいて概念的に「ウエスト部」と「腰下部」を

区別すると,各被告製品は,ウエスト開口縁付近の太めの伸縮部材であ

るウエストギャザー(220)が配置されている箇所が「ウエスト部」であ

り,それより下部で細めの伸縮部材であるフィットギャザー(221)が配

置されている箇所が「腰下部」であると解される。

そうすると,各被告製品のフィットギャザー(221)は全て構成要件

の「腰下部の前記伸縮部材」に該当し,少なくともその一部であるフィ

ットギャザー(221-1)は,中央部を含めて周方向に連続して配置され,

10
「 腰下部の中央部を除く左右脇部に配置され」とはならないから,各被

告製品は,構成要件Cを充足しない。

(イ) 構成要件Dについて

a 「断面外径」について

(a) 構成要件Dの「断面外径」は,「太さ」である「620dte

x以下」とは別に規定されているから,「太さ」とは異なる概念を

指すと解される。

各被告製品のウエストギャザー(220)は,断面が略長方形である

ところ,「断面外径」とは当該長方形の「高さ」方向の長さか

「幅」方向の長さのいずれかを指すものと解される。そして,本件

明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,伸縮部材の「断面外

径」を小さくすることの目的ないし効果は,山皺の山又は谷を小さ

くすることにあり,断面が略長方形の糸の場合に山皺の山又は谷の

大きさに影響するのは,糸の断面の高さ方向の長さであるから,

「断面外径」は略長方形の断面の高さ方向の長さを指すと解すべき

である。これに対し,各被告製品のフィットギャザー(221)の断面

は略楕円形で,切断する箇所によって不定形であり,その断面の略

楕円形の長径が高さ方向に配置される箇所があるところ,その「断

面外径」は当該略楕円形の長径を指すと解すべきである。

(b) 各被告製品の断面が略楕円形であるフィットギャザー(221)の

「断面外径」(当該略楕円形の長径)は,被告製品1が約363.

83μm,被告製品2が約337.08μmであるのに対し,ウエ

ストギャザー(220)の「断面外径」(当該略長方形の「高さ」方向

の長さ)は,被告製品1が約224μm,被告製品2が約248μ

mであって,各被告製品の「腰下部に配置された前記伸縮部材」に

相当するフィットギャザー(221-2)の「断面外径」は,「ウエスト

11
部 に配置された前記伸縮部材」に相当するウエストギャザー(220)

の「断面外径」よりも大きいことになるから,各被告製品は,構成

要件Dの「前記腰下部に配置された前記伸縮部材の…断面外径は,

前記ウエスト部に配置された前記伸縮部材の…断面外径よりも小さ

く」を充足しない。

b 「伸長率」について

(a) 技術用語の普通の意味は,業界で一般に通用している基準,例

えばJIS規格があればそれによるべきであるところ,糸ゴムのJ

IS規格である「JIS K 6327」(乙11の1)をみると,

「5.2 引張試験」の項で「JIS K 6251に規定する方

法に準じ」とあり,「JIS K 6251」(乙11の2)をみ

ると,「6.2 切断時伸び」の項に「E B =(L 1 −L 0 )/L 0

×1 0 0 」 と の 式 ( E B : 切 断 時 伸 び ( % ) , L 0 : 標 線 間 距 離

(o),L 1 :切断時の標線間距離(o))があり,この式による

と試験片が自然長(L 1 =L 0 )のときは伸びの割合が0%である

から,このJIS規格は,伸長率0%が自然長,100%は2倍伸

長時であるとの解釈を前提としていることが分かる。また,一般織

物試験方法のJIS規格である「JIS L 1096」(乙1

8)をみると,「伸長率(%)」を求める式を「(L 1 −L 0 )/

L 0 ×100」とし,伸びた状態における全体の長さ(L 1 )から

元の長さ(L 0 )を引いた伸びの長さから伸長率を求めているから,

この式によると,自然長(L 1 =L 0 )のときは伸長率が0%であ

る。

そして,JIS規格を離れると,「伸長率が150〜350%」

とは,@ 自然長の1.5倍ないし3.5倍(自然長は100%)

とする解釈と,A 自然長の2.5倍ないし4.5倍(自然長は

12
0 %)とする解釈(前記のJIS規格と一致する解釈)の二つの解

釈があり得るところ,被告の調査によると,明細書において@又は

Aに従った定義を採用するものと,結果としてAを採用するものの

双方があった。本件明細書の発明の詳細な説明には伸長率について

の定義がなく,@を採用しなければならないことを根拠付ける記載

はないし,Aを採用することを妨げるような記載もないから,伸長

率は,通常の意味,すなわち,JIS規格に従って使用されている

と解釈すべきである。

そうであるから,伸長率とは,伸びた長さを元の長さで割った値

を意味し,自然長のときは伸長率0%であって,「伸長率が150

〜350%」は,自然長の2.5倍ないし4.5倍を意味すると解

すべきである。なお,「伸長時」,「伸長率」,「伸び」,「伸

度」は,いずれも「%」がその単位であり,全く同じ概念である。

(b) 本件発明1に係る特許請求の範囲の記載によれば,構成要件

の「伸長率」が前提とする伸びた状態の長さは,腰下部に配置され

た伸縮部材の使用状態(紙おむつを装着した状態)における長さで

あり,また,元の長さ(自然長)は,腰下部に配置された伸縮部材

の使用前の長さ,すなわち,製品状態における長さであるから,構

成要件Dの「伸長率」は,製品状態における伸縮部材の長さと使用

状態における伸縮部材の長さとから求められる割合(以下,この割

合を「使用状態の伸長率」という。)を意味すると解すべきである。

(c) 各被告製品のフィットギャザー(221-2)の使用状態の伸長率は,

自然長を0%とすると,被告製品1が約88%,被告製品2が約1

05%であって,いずれも「伸長率が150〜350%」の範囲か

ら外れるから,各被告製品は,構成要件Dの「伸長率が150〜3

50%」を充足しない。なお,構成要件Dの「伸長率」を使用状態

13
の 伸長率と解釈することができないとすれば,「伸長率」は,伸縮

部材についての物性を示す伸長率である,破断伸長率(「JIS

K 6251」(乙11の2)の「切断時伸び」,すなわち,これ

以上伸ばしたら切れてしまう時点における伸長率)であると解釈す

るほかないが,各被告製品のフィットギャザー(221-2)の破断伸長

率は,自然長を0%とすると,460%ないし660%であって,

「伸長率が150〜350%」の範囲から外れるから,各被告製品

は,構成要件Dの「伸長率が150〜350%」を充足しないこと

になる。

また,仮に自然長が0%であると一義的に導くことができないと

しても,おむつの業界では前記@,Aのいずれも通用していて,定

義がない限りどちらであるかを一義的に導くことはできないから,

前記@,Aのいずれか一方を前提とした場合に「伸長率が150〜

350%」の数値の範囲から外れるときは,構成要件Dを充足しな

いと解すべきであり,前記Aを前提とした場合に,各被告製品が

「伸長率が150〜350%」の数値の範囲から外れることは前記

のとおりである。

c 以上のとおりであって,各被告製品は,構成要件Dを充足しない。

イ 本件発明2について

(ア) 構成要件Gについて

各被告製品のフィットギャザー(221-1)は,構成要件Gの「腰下部の

前記伸縮部材」に該当するが,吸収主体(210)を横断して連続して配置

されているから,各被告製品は,構成要件Gの「腰下部の中央部を除く

左右脇部に配置され」との要件を充足しない。また,前身頃に配置され

たフィットギャザー(221-2)のうち少なくとも1本,後身頃に配置され

た フ ィッ ト ギ ャ ザ ー (221-2)の お お む ね 全 て は, そ の 端 部 が 吸 収 コ ア

14
(213)の側縁部と重ならずに胴周り部の中央部を除く左右脇部に配置さ

れているから,各被告製品は,構成要件Gの「その端部が前記吸収コア

の側縁部と重なって」との要件を充足しない。

したがって,各被告製品は,構成要件Gを充足しない。

(イ) 構成要件Jについて

各被告製品は,構成要件Dについて前記ア(イ)で述べたと同様の理由

により,構成要件Jの「伸張応力」及び「断面外径」に関する要件を充

足しないから,各被告製品は,構成要件Jを充足しない。

(ウ) 構成要件Kについて

各被告製品は,前記アのとおり,本件発明1の構成要件C及びDを充

足しないし,本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項2は請求項1の

従属項であって,構成要件Kの「請求項1または2記載の使い捨て紙お

むつ」の要件に該当しないから,各被告製品は,構成要件Kを充足しな

い。

(3) 争点3(本件各発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべき

ものと認められるか否か)について

(被告の主張)

ア 無効理由1(進歩性の欠如)

(ア) 花王株式会社は,本件各発明に係る特許出願日前の平成12年10

月に,日本国内において,「メリーズパンツ モレないスマート」の販

売を開始したが,これに関する発明(以下「花王発明」という。)の構

成と本件各発明の構成とを対比すると,次のとおりである。

a 花王発明は,本件発明1の構成要件A,C,D及びEに相当する構

成を有し,本件発明2の構成要件F,G,H2,J及びKに相当する

構成を有する。

b 本件発明1の構成と花王発明の構成との相違点

15
本 件発明1の構成要件Bは,伸縮部材が「胴回り部の60%以上の

長さ範囲にわたって前記間隔を7.0o以下とされた状態で配置」さ

れたものであるのに対し,花王発明は,伸縮部材の間隔が前身頃で7.

0oないし11.0o,後身頃で6.6oないし12.2oの間隔で

配置され,7.0o以下で配置されている割合は,前身頃で胴周り部

の3.0%,後身頃で胴周り部の14.7%であって,両者は伸縮部

材が7.0o以下で配置されている割合において相違する(以下「相

違点1」という。)。

c 本件発明2の構成と花王発明の構成との相違点

本件発明2の構成要件H1は,「前記レッグ開口始端から始まる該

始端寄りの部分領域に複数の股部伸縮部材が,縦方向の間隔を7.0

o以下とされた状態で前記外形シートに配置され」たものであるのに

対し,花王発明の前身頃の4本の股部伸縮部材は,縦方向の間隔が,

7.2oないし7.9oの間隔で配置されていて,いずれも7.0o

を超過した間隔で配置されている点において相違する(以下「相違点

2」という。)。

(イ) 本件発明1に係る相違点(相違点1)の容易想到性

国際公開第99/13813号パンフレット(乙44。以下「乙4

4パンフレット」という。)には,おむつの胴周り部の全長さ範囲に

わたって,縦方向の間隔を約0.25インチ(約6.35o)とした

状態で多数の伸縮部材を配置する技術的事項が開示され,実開平4−

32718号公報(乙45。以下「乙45公報」という。)には,お

むつの胴周り部の全長さ範囲にわたって,縦方向の間隔を4oとした

状態で多数の伸縮部材を配置する技術的事項が開示されるなど,紙お

むつの胴周り部において,その全長さ範囲にわたって,縦方向の間隔

を7.0o以下とした状態で多数の伸縮部材を配置することは,当業

16
者 にとって周知又は公知の技術であった。

b 本件発明1の課題は,「皺が目立たないで,すっきり感を与える,

すなわち製品の外面が「モコモコ」せず,見えるとしても木目細かい

皺であり,全体的には平坦面状の外面を呈し,見栄えに優れた使い捨

て紙おむつを提供すること」や「面として肌に対して押圧されるよう

にすることにより,局部的な過度の肌への圧迫がないことによりゴム

跡の生成がなく,製品の内面と肌との摩擦が全体に及び,ぴったり接

触することによりフィット性が良好であり,製品のずれ落ちを防止で

きるようにすること」であるのに対し,花王発明の課題は,「製品の

見た目をすっきりさせること」や「やわらかい極細繊維を使用するこ

とで,やわらかい履き心地を実現すること」であって,両発明の課題

は共通する。そして,両発明の構成上の相違点は伸縮部材の配置間隔

の微差のみであり,上記各課題を解決する手段として,10o以上あ

った従来の配置間隔よりも狭い配置間隔で,かつ,従来よりも細い伸

縮部材を多数配置するという構成を採用した点で,両発明は共通する。

c 本件発明1と花王発明の課題及びその解決手段は実質的に共通する

から,花王発明との対比における本件発明の進歩性の判断は,相違点

1の数値限定(伸縮部材の配置間隔を「7.0o以下」とした点)に

臨界的意義が認められるか否かを検討することで決せられるものであ

る。

胴周り部に配置される伸縮部材の間隔を6.5oとしたサンプルと

7.5oとしたサンプルを比較しても,皺の連続性や皺ピッチという

観点において,有意な差は認められないし,本件明細書の発明の詳細

な説明に記載された実施例,比較例のデータをみても,伸縮部材の配

置間隔の上限である7.0oに臨界的意義は認められない。そして,

伸縮部材の配置間隔と皺の連続性及び皺ピッチとの間に相関があるこ

17
と が認められるとしても,皺発生のメカニズムに照らして,皺の連続

性及び皺ピッチの状況に急激な変化が生じる変曲点(臨界点)が存在

するとは考えられず,7.0oの配置間隔が常にこれに該当するとは

認められない。そうであるから,本件発明1が胴周り部の伸縮部材の

配置間隔を7.0o以下と限定した点に臨界的意義はなく,紙おむつ

の胴周り部の伸縮部材の縦方向の配置間隔を狭くすればするほど皺の

連続性及び皺ピッチが小さくなることは当業者にとって自明であるか

ら,伸縮部材の配置間隔は,当業者が任意に選択する設計的事項にす

ぎないのであって,花王発明の伸縮部材の配置間隔を「胴回り部の6

0%以上の長さ範囲にわたって」「7.0o以下」に変更して,相違

点1に係る本件発明1の構成に想到することは,当業者の通常の創作

能力の発揮にすぎない単なる数値範囲の最適化又は好適化,ないしは

当業者が任意に設定し得る設計的事項の範囲内であり,当業者が容易

にすることができたものである。このことは,花王発明の構成におい

て,伸縮部材が「前身頃で胴周り部の3.0%,後身頃で胴周り部の

14.7%」の割合において,「7.0o以下」の間隔で配置され,

その大部分は6oないし8o前後の間隔で配置されていて,本件発明

1の構成要件Bと実質的に大差がないことに照らすと,一層明らかで

ある。

d したがって,本件発明1は,花王発明に基づいて当業者が容易に発

明をすることができたものである。

(ウ) 本件発明2に係る相違点(相違点2)の容易想到性

花王発明の股部伸縮部材の配置間隔を「7.2oないし7.9o」か

ら「7.0o以下」に変更して,相違点2に係る本件発明2の構成に想

到することは,相違点1について前記(イ)で述べたと同様の理由により,

当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない単なる数値範囲の最適化又は

18
好 適化,ないしは当業者が任意に設定し得る設計的事項の範囲内であり,

当業者が容易にすることができたものである。

したがって,本件発明2は,花王発明に基づいて,当業者が容易に発

明をすることができたものである。

(エ) 以上のとおりであって,本件各発明は,進歩性欠如の無効理由があ

るから,本件各発明に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべ

きものと認められる。

イ 無効理由2(明確性要件違反)

(ア) 前記のとおり,本件発明1の構成要件Dの「伸長率が150〜35

0%」については「自然長の1.5倍ないし3.5倍」,「自然長の2.

5倍ないし4.5倍」の二通りの解釈があり,また,「伸長率」につい

ては,原告らの主張する解釈も含めると,「使用状態の伸長率」,「破

断伸長率」,「張設具合の伸長率」の三通りの解釈があって,これらを

組み合わせると六通りもの解釈が可能であるが,本件明細書の発明の詳

細な説明には「伸長率」についての具体的な説明がないから,いずれか

一つに特定して解釈することは困難である。

したがって,本件発明1は,構成要件Dの「伸長率が150〜35

0%」の要件について発明の内容が明確ではないから,明確性の要件

(特許法36条6項2号)を欠き,本件発明1に係る特許は,特許無効

審判により無効にされるべきものと認められる。

(イ) また,本件明細書の発明の詳細な説明には構成要件Dの「断面外

径」について何らの定義もなく,その測定方法についても記載がないか

ら,本件発明1の構成要件Dの「断面外径」の要件について発明の内容

が明確でなく,本件発明1に係る特許は,明確性の要件(特許法36条

6項2号)を欠き,特許無効審判により無効にされるべきものと認めら

れる。

19
( 原告らの主張)

ア 無効理由1(進歩性の欠如)について

(ア) 本件発明1の課題は,シャーリングの「皺が目立たないで,すっき

り感を与える」製品の実現にあるとともに,シャーリング自体の「モコ

モコ」感を改善することであり,そのために伸縮部材の太さ,伸長率や

配置間隔を規定しているのに対し,花王発明の課題は,お腹及び背中を

対象部位とするシャーリングによる「モコモコ」感であり,そのために

シャーリングをサイド部分にだけ採用し,極薄でフラットな吸収シート

を採用することによってその課題を解決しているのであって,花王発明

には本件発明1のシャーリング自体の「モコモコ」感を改善するという

技術的課題がない。

(イ) 本件発明1に係る相違点(相違点1)の容易想到性について

a 乙44パンフレットに弾性部材を7.0o以下で配置する技術的事

項が記載されていることは認めるが,前記(ア)のとおり,そもそも花

王発明には本件発明1の課題がないため,当業者が花王発明に乙44

パンフレットに記載された発明(以下「乙44発明」という。)を適

用する動機付けがない。また,乙44発明の弾性部材は,どのような

太さ及び伸長率で配置されているのかが明らかでなく,当業者が花王

発明の他の構成をそのままにした上で,配置間隔のみを乙44発明の

構成に置換することは,容易に想到することができない。

b 乙45公報に記載された発明(以下「乙45発明」という。)は,

ウエスト部と胴周り部の区別を無くし,胴周り部全体に弾性糸を配置

した構成であり,胴周り部の吸収体に重なる部分にも弾性糸が配置さ

れている点で,基本的な構成が花王発明と相違するから,当業者が花

王発明の他の構成をそのままにした上で,配置間隔のみを乙45発明

の構成に置換することは,容易にすることができない。

20
( ウ) 本件発明2に係る相違点(相違点2)の容易想到性について

花王発明には,そもそも本件発明1の課題が存在しないため,当業者

が乙44パンフレットや乙45公報に記載された技術的事項を適用でき

る動機付けがない。また,乙44発明には,本件発明2の股部伸縮部材

に相当する弾性部材がないし,乙45発明は,花王発明とは構成が根本

的に異なるから,乙45発明の弾性糸の配置間隔をそのまま花王発明に

適用することはできない。

(エ) まとめ

以上のとおりであって,花王発明には,その他の公知文献に記載され

た技術的事項を適用して本件各発明に至る動機付けがなく,また,花王

発明と本件各発明との相違点は,当業者が適宜選択することが可能な設

計的事項であるとはいえない。

イ 無効理由2(明確性要件違反)について

本件明細書の記載に接した当業者は,本件発明1の構成要件Dの「伸長

率が150〜350%」が「自然長の1.5倍ないし3.5倍」であるこ

とを当然に理解し,また,構成要件Dの「伸長率」が「張設具合の伸長

率」であることを当然に理解するものである。

(4) 争点4(原告らの損害)について

(原告らの主張)

被告は,平成20年10月10日から平成22年9月末日までの間に,被

告製品1を少なくとも2億枚,被告製品2を4億枚それぞれ製造し,販売し

た。被告製品1及び2の1個当たりの利益は,それぞれ2.6円,2.2円

を下らないから,被告による本件特許権の侵害行為によって被った原告らの

損害の額は,被告製品1について5億2000万円,被告製品2について8

億8000万円の合計14億円になると推定される。

また,原告らは,本件訴訟の提起を弁護士に依頼して着手金及び報酬金を

21
支 払うことを約しているところ,被告による侵害行為と相当因果関係のある

弁護士費用相当損害金の額は,1億4000万円である。

(被告の主張)

否認する。

第3 争点に対する判断

1 争点2(各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)について

事案に鑑み,まず,争点2について判断する。

(1) 本件発明1について

ア 各被告製品が本件発明1の構成要件Cを充足するか否かについて,検討

する。

(ア) 本件発明1における「ウエスト部」と「腰下部」について

a 証拠(甲2,3)によれば,次の事実が認められる。

(a) 本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1には,「使用状態

においてウエスト開口部及び左右のレッグ開口部が形成され,前記

ウエスト開口縁を含むウエスト部と,該ウエスト部の下端からレッ

グ開口始端に至る腰下部とからなる胴周り部において,…縦方向に

沿って前記腰下部まで延在する半剛性の吸収コアを有する使い捨て

紙おむつ」との記載がある。

(b) 本件明細書の発明の詳細な説明には,発明の実施の形態の説明

として次の記載がある。

「図3の符号において,「縦方向」とは,腹側と背側を結ぶ方向

を意味し,「周方向」とは前記縦方向と直交する方向を意味する。

「ウエスト開口縁」とはウエスト開口部WOの縁を意味し,「レッ

グ開口縁」とはレッグ開口部LOの縁を意味する。「レッグ開口始

端」とはレッグ開口部LOのレッグ開口縁と接合部30とが交差す

る位置を意味し,レッグ開口縁の始まり個所の意味である。「胴周

22
り 部」Tとは,ウエスト開口縁からレッグ開口始端に至る長さ範囲

の全体領域を意味する。胴周り部Tは,概念的に「ウエスト部」W

と「腰下部」Uとに分けることができる。これらの縦方向の長さは,

製品のサイズによって異なるが,ウエスト部Wは15〜40o,腰

下部Uは65〜120oである。「股部」Lとは,レッグ開口部L

Oを形成する長さ範囲の全体領域を意味する。また,「中央部」と

は,製品の中央線を含む側部を除く中間領域を意味する。「脇部」

とは,胴周り部Tにおける両側部を意味する。」(段落【003

2】)

「そしてかかる構成のもと,本発明に従って前身頃F及び後身頃

Bのウエスト部Wから股部Lまでの間の領域たる腰下部Uにおける,

前身頃Fの下腹部及び後身頃Bの臀部に,周方向に沿って腰下部伸

縮部材21F,21Bが設けられている。そして,腰下部伸縮部材

21F,21Bはそれぞれ,前身頃F及び後身頃Bにおいて,一方

側の接合部30から他方側の接合部30までの部分のうち吸収コア

13のほぼ全体を除く製品の左右脇部に設けられている。」(段落

【0043】)

「(パンツ型使い捨ておむつの各形態についての補足説明及び他

実施の形態)上記の第1〜第3の実施の形態を概念的に纏めると,

それぞれ図12の(A)〜(C)に示すとおりとなる。これらを比

較して推測できるように,ウエスト伸縮部材20F,20B,なら

びに腰下部伸縮部材21F,21Bは,吸収主体10を横断して周

方向に連続して配置固定する形態と,吸収コア13が位置する中央

部には存在せず,製品の左右脇部のおいてのみ配置固定する形態と

を選択的に採ることができる。また,股部伸縮部材23の配設の有

無についても選択可能である。さらに,前身頃Fと後身頃Bとの間

23
で 伸縮部材の配設形態を相違させることもできる。したがって,図

12の(E)に他の実施の形態として示すように,ウエスト伸縮部

材20F,20B,ならびに腰下部伸縮部材21F,21Bを,吸

収コア13が位置する中央部には存在せず,製品の左右脇部におい

てのみ配置固定し,さらに股部伸縮部材23を設けない形態や,図

12の(F)に別の実施の形態として示すように,ウエスト伸縮部

材20F,20B,ならびに腰下部伸縮部材21F,21Bを,吸

収コア13が位置する中央部には存在せず,製品の左右脇部のおい

てのみ配置固定し,さらに股部伸縮部材23を設ける形態なども採

用できる。このように伸縮部材の配設形態は適宜であることを付言

する。腰下部伸縮部材21F,21B,または股部伸縮部材23を,

吸収コア13が位置する中央部には存在せず,製品の左右脇部のお

いてのみ配置固定する場合において,腰下部伸縮部材21F,21

B端部,または股部伸縮部材23の端部が吸収コア13の側縁部に

重なる場合と,吸収コア13の側縁に達しないで離間する場合との

両者を含む。」(段落【0050】)

(c) また,図面には,図4(第1の実施の形態の展開状態使用面側

からの平面図)及び図9(第3の実施の形態の展開状態使用面側か

らの平面図)が,吸収主体10の長手方向端部(透液性トップシー

ト11の端部)付近をもってウエスト部Wと腰下部Uとを区分し,

ウエスト部Wにウエスト伸縮部材20F,20Bを配置し,腰下部

Uに腰下部伸縮部材21F,21Bを配置していることを図示して

いる。

b 上記a認定の本件明細書及び図面の記載によれば,本件発明1にお

ける「ウエスト部」は,吸収主体10の長手方向端部(透液性トップ

シート11の端部)付近とウエスト開口縁との間の領域であり,「腰

24
下 部」は,吸収主体10の長手方向端部(透液性トップシート11の

端部)付近とレッグ開口始端との間の領域であると認められる。

(イ) 証拠(甲4,5,乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品

1のフィットギャザー(221)の本数は,前身頃が12本ないし14本,

後身頃が13本であり,そのうち周方向に連続して配置されているもの

の本数は,前身頃が1本ないし3本,後身頃が4本ないし5本であり,

被告製品2のフィットギャザー(221)の本数は,前身頃が12本ないし

14本,後身頃が11本であり,そのうち周方向に連続して配置されて

いるものの本数は,前身頃が3本ないし4本,後身頃が3本ないし5本

であること,各被告製品のフィットギャザー(221)のうち周方向に連続

し て 配 置 さ れ て い る も の ( 以 下 「 フ ィ ッ ト ギ ャ ザ ー (221-1) 」 と い

う。)は,吸収コア(213)の長手方向端部よりも上部(ウエスト開口縁

の側)の領域に配置され,その一部が吸収主体(210)を横断して配置さ

れ,フィットギャザー(221)からフィットギャザー(221-1)を除いたもの

(以下「フィットギャザー(221-2)」という。)は,吸収コア(213)の長

手方向端部よりも下部(股部の側)の領域において,吸収コア(213)を

横断することなく,中央部を除く左右脇部に配置されていることが認め

られる。

(ウ) 各被告製品の吸収主体(210)は,本件発明1の吸収主体10に該当

するから,各被告製品は,フィットギャザー(221-1)の一部が腰下部に

配置されていることになる。ところが,フィットギャザー(221-1)は,

周方向に連続して配置されていて,中央部を除く左右脇部に配置されて

いないから,各被告製品は,構成要件Cを充足しない。

イ なお,被告は,各被告製品が構成要件Dを充足しないことを前提とする

とした上で,本件発明1における「ウエスト部」について,「胴周り部の

うちウエスト開口縁側の領域であり,かつ,吸収コア13の長手方向端部

25
と 重ならない部分」であるとの原告らの主張を争わないと陳述する。これ

によれば,本件発明1における「腰下部」は,吸収コア13の長手方向端

部よりも下部(股部の側)の領域を意味し,各被告製品において,この領

域には,前記のとおり,フィットギャザー(221-2)が,吸収コア(213)を横

断することなく,中央部を除く左右脇部に配置されているから,各被告製

品は,構成要件Cを充足することとなる。

そこで,念のため,本件発明1における「ウエスト部」が「胴周り部の

うちウエスト開口縁側の領域であり,かつ,吸収コア13の長手方向端部

と重ならない部分」であることとして,各被告製品が本件発明1の構成要

件Dを充足するか否かについて,検討することとする。

(ア) 本件発明1における「ウエスト部」が「胴周り部のうちウエスト開

口縁側の領域であり,かつ,吸収コア13の長手方向端部と重ならない

部分」であるとすると,各被告製品の「ウエスト部」にはウエストギャ

ザー(220)及びフィットギャザー(221-1)が配置され,吸収コア(213)の

長手方向端部よりも下部(股部の側)の領域である「腰下部」にフィッ

トギャザー(221-2)が配置されることになる。

(イ) ところで,フィットギャザー(221-1)とフィットギャザー(221-2)は,

同一の部材(フィットギャザー(221))であるから,両者の伸張応力及

び断面外径に差異はない。

そうすると,各被告製品は,「前記腰下部に配置された前記伸縮部

材 」 であ る フ ィ ッ ト ギ ャ ザー (221-2)の 「 伸 張応 力 及 び 断 面 外 径 」 が

「前記ウエスト部に配置された前記伸縮部材」であるフィットギャザー

(221-1)の「伸張応力及び断面外径」よりも小さいことにはならないか

ら,各被告製品は,構成要件Dを充足しない。

(ウ) 原告らは,伸縮部材の伸張応力及び断面外径については,当該領域

に配置されている伸縮部材を全体的に見て評価すべきであると主張する。

26
し かしながら,構成要件Dは,「前記腰下部に配置された前記伸縮部

材の伸張応力及び断面外径は,前記ウエスト部に配置された前記伸縮部

材の伸張応力及び断面外径よりも小さく」と規定しているのであって,

腰下部とウエスト部のそれぞれの領域に配置されている伸縮部材につい

て,全体的にその伸張応力及び断面外径を評価するという規定をしてい

ないし,本件明細書の発明の詳細な説明の記載にも,これを根拠付ける

ような記載はない。なお,原告らは,本件明細書の発明の詳細な説明

「これら腰下部伸縮部材21F,21Bとして使用する糸ゴムは,前述

のウエスト伸縮部材20F,20Bとして使用する細い糸ゴムよりも伸

張応力および断面外径が小さいか,あるいは実質的に同一のものとする

ことができる」(段落【0045】)との記載が原告らの上記主張を裏

付けるとも主張するが,構成要件Dは,前記のとおり,「よりも小さ

く」と規定して,「実質的に同一のものとすること」を何ら規定してい

ないのであるから,前記記載が原告らの上記主張を裏付けるということ

はできない。

原告らの上記主張は,採用することができない。

ウ 以上のとおりであって,各被告製品は,構成要件Cを充足しないし,仮

構成要件Cを充足するものとしたとしても,構成要件Dを充足しないか

ら,結局,本件発明1の技術的範囲に属しない。

(2) 本件発明2について

本件発明2に係る特許請求の範囲の請求項3は,本件特許権に係る特許請

求の範囲の請求項1(本件発明1)又は請求項2に従属し,同請求項2は同

請求項1に従属するものであり,前記(1)のとおり,各被告製品は,本件発

明1の技術的範囲に属しないから,本件発明2の技術的範囲にも属しない。

2 上記1に検討したところによれば,各被告製品は,本件各発明の技術的範囲

に属しないから,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,

27
い ずれも理由がない。

第4 結論

よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決す

る。

東京地方裁判所民事第47部




裁判長裁判官 高 野 輝 久




裁判官 志 賀 勝




裁判官 小 川 卓 逸




28