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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10135号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/12/03 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年12月3日判決言渡 平成24年(行ケ)第10135号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年11月19日 判 決 原 告 株式会社ゴールドウイ ンテクニカルセンター 原 告 トラタニ株式会社 両名訴訟代理人弁理士 鈴 江 正 二 木 村 俊 之 吉 村 哲 郎 渡 辺 容 子 被 告 特 許 庁 長 官 指定代理人 高 辻 将 人 仁 木 浩 石 川 好 文 田 村 正 明 主 文 原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 原告らの求めた判決 特許庁が訂正2011−390136号事件について平成24年3月6日にした 審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,特許の訂正審判請求を拒絶する審決の取消訴訟である。争点は,訂正要 件の充足性である。 1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「下肢用衣料」とする本件特許第4213194号(平 成17年8月22日国際出願,平成20年11月7日設定登録)の特許権者である が(甲7),平成23年12月26日,本件訂正審判請求をした(甲6の1〜5)。 特許庁は,平成24年1月20日付けで訂正拒絶理由通知をし(甲8),原告らか ら同年2月10日付け意見書が提出されたが(甲9),同年3月6日「本件審判の 請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月15日原告らに送達され た。 2 本件発明の要旨(特許第4213194号公報(甲7)の特許請求の範囲の 請求項1に記載されたものであり,請求項の記載は本件訂正の対象ではない。) 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃 と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続す る足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接 続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記前身頃の足刳り形成部の湾曲 した頂点が腸骨棘点付近に位置し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下 端付近に位置し,前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深 さよりも低い形状とし,前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く 形成し,取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出 する形状となることを特徴とする下肢用衣料。 3 訂正事項 審決が認定した本件訂正の内容は,以下のとおりである(訂正審判請求書の記載 は,甲6の1〜5のとおり)。 訂正事項a;段落【0030】の記載につき,「また,図7に示すように,上記 臀部ダーツを無くし,前身頃12と後見頃14の間の腰部前側縁22,30による 一対のダーツにより,・・・。」とあるのを,「また,図7に示すように,上記臀 部ダーツを無くし,前身頃12に一体に接続された臀部の脇側から臀部の下側を覆 う後身頃14’とこの臀部の脇側から臀部の下側よりも臀部の内側を覆う後身頃1 4の間の腰部前側縁22,30による一対のダーツにより,・・・。」と訂正する と共に, 【図7】につき,図面符号「14’」とそれに伴う引き出し線を,2組,加え, 図面符号「24」を「25」とし,更に,図面符号「32」とそれに伴う引き出し 線を,2組,削除する。 (下線部分が,訂正箇所。なお,訂正前に「後見頃」とあったのが「後身頃」の 誤記であったことは,当事者間に争いがない。) 訂正前の【図7】 訂正後の【図7】 4 審決の理由の要点 (1) 審決は,「本件訂正は,特許法126条1項又は4項に規定する要件に合 致しない」と判断した。 (2) 審決の判断の概要は,以下のとおりである。 ア 訂正事項aについて 訂正事項aの要点は,以下の訂正要点a及びbにあるということができる。 訂正要点a;【図7】の図面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲内 にある本件帯状部分(左右において下方に垂下する2つの帯状部分)を,「後身頃」 の構成部分とする。 訂正要点b;【図7】の図面符号「32」とそれに伴う引き出し線を,2組,削 除する。 イ 目的について 訂正要点aは,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,或いは,明瞭でな い記載の釈明のいずれかを目的にしている,とする根拠は見当たらない。 訂正要点bについては,【図7】における図面符号「32」に関する記載は,誤 記と解するのが自然であることから,誤記の訂正を目的にしているといえるが,こ のことが,訂正要点aについての判断を左右するものではない。 ウ 実質変更・拡張について 本件発明は,本件訂正の前後においても,「前身頃」及び「後身頃」を,発明特 定事項としているものである。 本件訂正前の本件発明について検討すると,本件明細書の記載全体からして,本 件発明の「前身頃」は,実施形態【図3】,実施形態【図7】及び実施形態【図8】 でいえば,図面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲のもので,「後身 頃」も同様に,「14」で指示された範囲のものと解することができるものである。 これに対し,本件訂正の,特に訂正要点aにより,【図7】の図面符号「12」 で指示された実線で区劃された範囲内にある本件帯状部分が,「後身頃」の構成部 分となり,本件訂正後の本件発明の「前身頃」は,【図7】を参照した実施形態で いえば,図面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲から上記本件帯状部 分を除いた範囲のものということになり,本件発明の発明特定事項である「前身頃」 の技術的内容が変更されており,併せて,「後身頃」の技術的内容も実質的に変更 されている。 また,実施形態【図7】は,本件発明の発明特定事項を満たしておらず,本件発 明の技術的範囲外のものであったが,本件訂正後では,【図7】を参照した実施形 態は,本件発明の技術的範囲内のものとなっており,特許請求の範囲は,拡張,又 は変更されている。 エ まとめ 訂正要点aは,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,或いは,明瞭でな い記載の釈明のいずれかを目的にしている,とする根拠は見当たらず,また,実質 上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,訂正要点aを有する本 件訂正は,特許法126条1項又は4項に規定する要件に合致しない。 第3 原告ら主張の審決取消事由 1 取消事由1(訂正要点aの認定手法の誤り) (1) 審決は,訂正要点aの認定を行うにあたり,原告らが訂正を求めた訂正事 項aの実施形態【図7】に対して,下記実施形態【図3】のパーツの実線の区劃を, 実施形態【図7】のパーツの実線の区劃に当てはめて,実施形態【図7】の前身頃 及び後身頃を解釈し,この解釈に基づいて訂正要点aの認定を行っている(10頁 23〜27行)。 【図3】 しかし,実施形態【図7】と実施形態【図3】とは,パーツの形態が大きく相違 するから,実施形態同士の表面的な対比で解釈するのは問題があるのみならず,実 施形態【図3】の前身頃及び後身頃の各パーツの実線を,形態が大きく相違する実 施形態【図7】のパーツの実線に引き込んで,実施形態【図7】の前身頃及び後身 頃の各位置を解釈するのは,実施形態【図3】の前身頃及び後身頃の各パーツの実 線を強引に実施形態【図7】のパーツの実線に引きずり込んで,実施形態【図7】 の前身頃及び後身頃の各位置を解釈しているにほかならず,何ら実施形態【図7】 のパーツの本来の前身頃及び後身頃の各位置を正しく解釈していることにはならな い。 よって,このような審決の訂正要点aの認定手法は,誤りである。 (2) 実施形態【図7】のパーツの前身頃及び後身頃の各位置を正しく判断する には,実施形態【図7】の各パーツを縫製して下肢用衣料とした場合に,実施形態 【図7】のパーツはどこが前身頃及び後身頃に位置するか正しく判断することが必 要である。 2 取消事由2(訂正要点aの【図7】に対する前身頃及び後身頃の認定の誤り) (1) 審決は,訂正要点aを,【図7】の図面符号「12」で指示された実線の 区劃が前身頃であり,この前身頃の実線で区劃された範囲内にある本件帯状部分を, 後身頃に変更する,と認定した。 しかし,訂正要点aの【図7】に対する前身頃の認定は,誤りである。 実施形態【図7】のパーツの前身頃及び後身頃の各位置を正しく判断するには, 実施形態【図7】に記載された各パーツを縫製し,この縫製した下肢用衣料(ショ ーツ)(甲6の2)から,実施形態【図7】のパーツは,どこが前身頃及び後身頃 に位置するかを判断すべきである。 (2) 前身頃及び後身頃の語句を下肢用衣料(ショーツ)に当てはめると,前身 頃とは,下肢用衣料(ショーツ)の身頃のうち,下半身の前の部分を覆うものであ り,後身頃とは,下肢用衣料(ショーツ)の身頃で下半身の後ろの部分を覆うもの である。 (3) 実施形態【図7】の図面符号「12」で指示された前身頃は,確かに下半 身の前の部分を覆う前身頃である。 しかし,両側の本件帯状部分(符号「14’」で示す部分)は,上記赤色のテー プを越えて,臀部の脇側から臀部の下側を覆う(つまり,下半身の後ろの部分を覆 う)後身頃である。また,本件帯状部分に形成された腰部前側縁22は,本件帯状 部分が後身頃であるから,後身頃に形成された腰部前側縁22である。さらに,本 件帯状部分に形成された足刳り形成部(符号「25」で示す部分)も,本件帯状部 分が後身頃であるから,後身頃に形成された足刳り形成部である。 すなわち,実施形態【図7】の図面符号「12」で指示された前身頃には,これ の両側に本件帯状部分の後身頃が一体に接続され,この後身頃に腰部前側縁22(実 線で示す部分)と足刳り形成部(符号「25」で示す部分)が形成されているので ある。 (4) 実施形態【図7】の図面符号「12」で指示されたパーツの両側には,大 腿部が挿通される逆U状の足刳り形成部が形成され,この足刳り形成部の外側に本 件帯状部分が形成されている。そして,本件帯状部分は,下側に延びている。この ため,当業者は,このパーツが縫製されて下肢用衣料(ショーツ)に形成された場 合を想定すると,本件帯状部分側に形成された足刳り形成部のラインは大腿部の後 側にまわり込むことを理解し,また,本件帯状部分は臀部の下側にまわり込む後身 頃であることを理解し,さらに,図面符号「12」で指示されたパーツには,前身 頃12の両側に,本件帯状部分の後身頃が一体に接続しているものであることを理 解する。 これに対し,当業者は,本件帯状部分が臀部の下側にまわり込むものであるにも かかわらず,これを前身頃,すなわち,下半身の前の部分を覆うものとは理解しな い。 (5) よって,審決の訂正要点aは,実施形態【図7】のパーツに対する前身頃 及び後身頃の認定が誤っている。 正しくは,実施形態【図7】の図面符号「12」で指示された前身頃の両側に, 本件帯状部分の後身頃14’が一体に接続され,この後身頃14’に腰部前側縁2 2と足刳り形成部25が形成されているものである。 (6) 被告は,「前身頃」と「後身頃」は,図面符号「12」と「14」で指示 された実線で区劃された範囲のもの(パーツ)と解するのが自然であり,このよう に解することに,格別,不都合な点は見当たらないと主張する。 しかし,「前身頃」及び「後身頃」の意味は,最初に記載した実施形態の一例そ のものに限定して解釈したり,この一例そのものから推測して解釈したりすべきで はない。本件明細書の【0014】には,「前身頃」の意味する概念として,下胴 部の前側から両脇までを覆うものであると説明し,「後身頃」の意味する概念とし て,下胴部の後側を覆うものであると説明している。そして,この「前身頃」と「後 身頃」で注意すべき点は,「股部パーツ」や「大腿部パーツ」と異なって末尾に「パ ーツ」という用語を一切付加しておらず,また,「パーツ(裁断の領域)」と一致 する意味に限定する記載もしていない。このような説明や,末尾に「パーツ」の記 載を排除する趣旨から明らかなとおり,「前身頃」と「後身頃」の意味の概念は, なるべく周知用語(甲1,甲10)や技術用語(甲11,甲12)の「前身頃」と 「後身頃」の意味に一致させようとする趣旨であり,最初に記載した実施形態【図 3】の一例そのものに,つまり,「前身頃」と「後身頃」が実線の区劃と一致する ため,この一致により「前身頃」と「後身頃」を実線の区劃で決めてしまう趣旨で はないのである。 被告が主張するように,「前身頃」と「後身頃」の意味を,実施形態【図3】の ような実線の区劃と一致する「前身頃」と「後身頃」に限定解釈すると,本件明細 書では,下記の@Aの点において大きな矛盾が生じる。 @ 本件明細書の【0012】においては,実施形態【図7】について,「【図 7】この発明のさらに他の実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。」と 記載しているところ,被告が主張するように,実施形態【図3】のような実線の区 劃と一致する「前身頃」と「後身頃」に限定解釈すると,実施形態【図7】には, 前身頃のみに足刳り形成部が備えられることになり,後身頃には足刳り形成部が備 えられないことになって,上記【0012】【図7】の記載と,【図7】が全く整 合しないことになる。 A 実施形態【図7】は,本件帯状部分が,甲6の2別紙1〜4の符号「14’」 に示すように,後側に大きく回り込んで後側を覆うものである。このように大きく 後側を覆うものを後身頃と解釈するならば,審決でいう善良な当業者においても理 解することができ,本件明細書の【0014】の後身頃の説明や周知用語・技術用 語の意味とも全て一致することになる。しかし,これを前身頃と解釈するならば, このように大きく後側を覆うものまでが前身頃になり,善良な当業者は全く理解す ることができず,本件明細書の【0014】の前身頃の説明や周知用語・技術用語 の意味とも全く一致しないことになる。 よって,被告が主張する解釈は誤っており,このような誤った解釈に基づく被告 の主張は,採用されるべきではない。 (7) 被告は,下半身の前の部分に加えて後ろの部分の一部をも覆うパーツを「前 身頃」とした下肢用衣料は,例えば乙1及び乙2に示されるように周知であり,本 件帯状部分を「前身頃」に属するものとすることに支障がないと主張する。 乙1及び乙2の場合は,パーツを基準として後ろの部分の一部を少々覆うものま で「前身頃」として記載しても,特許請求の範囲,明細書,図面の全体を通じて矛 盾せず,発明の理解上不明確になっていない。しかし,本件の場合は,「パーツ(裁 断の領域)」を基準として「前身頃」と「後身頃」を解釈すると,前記@Aのとお り,矛盾してしまい,このように解釈したり適用したりできず,支障がないとする 被告の主張は失当である。 被告は,1つのパーツを敢えて前身頃の範囲と後身頃の範囲とに分割して解釈す ることは,前身頃及び後身頃という用語の解釈として不自然であると主張する。 しかし,1つのパーツにおいて,前の部分を覆うものを前身頃とし,この前の部 分を覆う境界の箇所から後側に直ちに回り込む箇所を後身頃とすることは,例えば 甲13〜甲18に示されるように,当業者において周知であり,技術常識のレベル でもあり,何ら不自然ではなく,これを不自然とする被告の主張は失当である。 3 取消事由3(審決の訂正目的に対する判断の誤り) 審決は,訂正目的について,誤った訂正要点aの認定のもとに,「前身頃」が図 面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲のものを指していること,そし て,「後身頃」が,同様に,図面符号「14」で指示されたものを指していること は,何ら不都合無く理解できるもので,不明瞭な記載や誤記の存在は見当たらず, 逆に,本件帯状部分が「後身頃」の構成部分であるとは,到底,窺い知ることはで きないというべきである,と判断している(11頁8〜13行)。 しかし,正しい訂正要点aは,上述のとおり,図面符号「12」で指示された前 身頃の両側に,本件帯状部分の後身頃14’が一体に接続され,この後身頃14’ に腰部前側縁22と足刳り形成部25が形成されているものであるから,実施形態 【図7】に記載された本件帯状部分が「後身頃14’」であることを記載しなかっ たことは明瞭でない記載の釈明の目的に当たり,また,本件帯状部分に形成された 足刳り形成部の符号が,後身頃の足刳り形成部の符号「25」であるにもかかわら ず,前身頃の足刳り形成部の符号「24」に記載したことは誤記の訂正の目的に当 たるものである。 よって,本件訂正の目的は,特許法126条1項に規定する要件に適合するもの であるから,これに適合しないとした審決の判断は,誤りというべきである。 4 取消事由4(審決の実質変更・拡張に対する判断の誤り) (1) 審決は,誤った訂正要点aの認定のもとに,本件訂正を,実質変更・拡張 と判断している(13頁15〜21行)。 しかし,正しい訂正要点aは,上述のとおり,図面符号「12」で指示された前 身頃の両側の本件帯状部分は「後身頃」であり,これを明確にしただけのことであ るから,本件発明の発明特定事項である「前身頃」の技術的内容を変更しているも のでもないし,「後身頃」の技術的内容を変更しているものでもない。 よって,本件訂正は,「前身頃」及び「後身頃」について変更も拡張もするもの ではなく,単に後身頃の本件帯状部分を「後身頃」であると明確にしたにすぎない のであるから,特許法126条4項に規定する要件に適合するものであり,これに 適合しないとした審決の判断は,誤りである。 (2) また,審決は,本件帯状部分が「後身頃」であるのに,「前身頃」である という誤った解釈のもとに,特許請求の範囲の拡張又は変更の判断をしている(1 3頁22〜27行)。 しかし,実施形態【図7】に記載された本件帯状部分は「後身頃」であり,本件 発明の技術的範囲内のものである。 すなわち,実施形態【図7】について,本件発明の記載に整合させて記載すると, 「この前身頃(12)に接続され(実施形態【図7】では,後身頃14’が「一体 に接続」である。)臀部を覆うとともに前記前身頃(12)の足刳り形成部(24) に連続する足刳り形成部(25)を有した後身頃(14’+14)」ということに なり,本件発明の技術的範囲内のものである。 よって,本件訂正は,特許請求の範囲を,拡張又は変更するものではなく,特許 法126条4項に規定する要件に適合するものであるから,これに適合しないとし た審決の判断は誤りである。 第4 被告の反論 1 取消事由1(訂正要点aの認定手法の誤り)及び取消事由2(訂正要点aの 【図7】に対する前身頃及び後身頃の認定の誤り)に対して (1)「前身頃」及び「後身頃」の各パーツの認定について 実施形態【図3】については,本件明細書の【0014】に「スパッツ10は, 下胴部の前側から両脇までを覆う前身頃12と,下胴部の後側を覆う後身頃14と, 前身頃12の下端部の中心と後身頃14の下端部の中心を連結する股部パーツ16 から成る。さらに,前身頃12と後身頃14,股部パーツ16で形成され大腿部が 挿通する開口部に,大腿部を覆うように筒形に形成された一対の大腿部パーツ18 が設けられている。」との記載があり,また,「前身頃12」については【001 5】〜【0016】,「後身頃14」については【0017】〜【0019】,「大 腿部パーツ18」については【0020】,「股部パーツ16」については【00 21】〜【0022】にそれぞれ分けて説明されているので,下肢用衣料がこれら のパーツから構成されていることは明らかであり,また,各パーツの図面符号「1 2」,「14」,「16」,「18」は,図面上のそれぞれ実線で区劃された範囲 のものを指していることが見て取れるから,「前身頃」や「後身頃」は,「股部パ ーツ」や「大腿部パーツ」と同じく下肢用衣料を構成するパーツであって,「前身 頃」は図面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲のもので,「後身頃」 も同様に,図面符号「14」で指示された実線で区劃された範囲のものと解するこ とができる。 そして,実施形態【図3】と実施形態【図7】とは,下肢用衣料が「前身頃12」, 「後身頃14」,「股部パーツ16」及び「大腿部パーツ18」で構成されている ことには変わりがないので,実施形態【図7】においても実施形態【図3】と同様 に,前身頃と後身頃は,図面符号「12」と「14」で指示された実線で区劃され た範囲のもの(パーツ)と解することが自然であり,このように解することに,格 別,不都合な点は見当たらない。 よって,審決における「前身頃」及び「後身頃」の認定に誤りはない。 (2) 「本件帯状部分」の認定について 本件明細書には,「本件帯状部分」が「後身頃」の構成部分である旨の記載や示 唆は存在せず,「本件帯状部分」が「後身頃」の構成部分であるとは,窺えない。 また,下半身の前の部分に加えて後ろの部分の一部をも覆うパーツを「前身頃」 とした下肢用衣料は,例えば乙1及び乙2に示されるように周知であり,「本件帯 状部分」を「前身頃」に属するものとすることに支障はない。そして,原告らの主 張するように,1つのパーツを敢えて前身頃の範囲と後身頃の範囲とに分割して解 釈することは,前身頃及び後身頃という用語の解釈として不自然である。 よって,本件帯状部分は「前身頃」に属するものであり,「図面符号「12」で 指示される「前身頃」の帯状部分,すなわち,【図7】左右において下方に垂下す る2つの帯状部分」を「本件帯状部分」とした審決の認定に誤りはない。 したがって,当業者であれば,実施形態【図7】においても実施形態【図3】と 同様に,前身頃と後身頃は,図面符号「12」と「14」で指示された実線で区劃 された範囲のものと解するので,原告らの上記主張は失当であり,審決における「前 身頃」及び「後身頃」の認定,並びに,訂正要点aの認定に誤りはない。 2 取消事由3(審決の訂正目的に対する判断の誤り)に対して 前身頃が図面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲のものを指してい ること,及び,後身頃が図面符号「14」で指示された実線で区劃された範囲のも のを指していることは,何ら不都合なく理解できるもので,少なくとも「前身頃1 2」と「後身頃14」の範囲については,不明瞭な記載や誤記の存在は見当たらな い。 また,訂正後の【0030】の記載では,「後身頃14’」と「前身頃12」と の境界が明確でなく,訂正は,かえって前身頃と後身頃の各パーツの構成を不明瞭 にするものである。 したがって,審決の,「訂正要点aは,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の 訂正,或いは,明瞭でない記載の釈明のいずれかを目的にしている,とする根拠は 見当たらず」との判断に誤りはない。 3 取消事由4(審決の実質変更・拡張に対する判断の誤り)に対して (1) 「前身頃」及び「後身頃」の技術的内容の変更について 「前身頃」は,訂正前には,図面符号「12」で指示された実線で区劃された範 囲であったものが,訂正後には,図面符号「12」で指示された実線で区劃された 範囲から「本件帯状部分」を除いたものということになるので,「前身頃」の技術 的内容が変更されており,併せて,「後身頃」の技術的内容も変更されている。 (2) 訂正前に本件発明の実施態様でなかった実施形態【図7】が,訂正後に実 施態様になったことについて 訂正前の実施形態【図7】には,「後身頃14」で支持された実線で区劃された 範囲のものには,「足刳り形成部」に相当する部位が見当たらず,実施形態【図7】 の「後身頃14」は足刳り形成部を有していない実施態様であり,本件発明におけ る「前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃」との発明特定 事項を満たしていない。 しかるに,訂正後の実施形態【図7】では,【図7】に図面符号「14’」を加 え,図面符号「24」を「25」としたものであって,後身頃14,14’が足刳 り形成部25を有するものとする構成に新たに変更し,実施形態【図7】を本件発 明の実施態様に含めるように意図したものとして訂正されている。 特許法においては,発明の詳細な説明に記載した発明の全部を,特許を受けよう とする発明として,特許請求の範囲に記載することが要求されているわけではない ので,発明の詳細な説明において実施例とされたものに対応する請求項が特許請求 の範囲に存在しないことに,不都合はない。 してみると,審決の,「実施形態【図7】,すなわち,【図7】を参照した実施 形態が,本件発明の発明特定事項を満たしていないのは,先に…述べたとおりであ って,本件発明の技術的範囲外のものであったが,本件訂正後では,【図7】を参 照した実施形態は,本件発明の技術的範囲内のものとなっており,特許請求の範囲 は,拡張,又は変更されている。」との判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(訂正要点aの認定手法の誤り)及び取消事由2(訂正要点aの 【図7】に対する前身頃及び後身頃の認定の誤り)について (1) 本件明細書の記載 本件明細書(甲7)には,以下の記載がある。 【図面の簡単な説明】 【0012】 ・・・・・・ 【図3】この実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 ・・・・・・ 【図6】この発明の他の実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 【図7】この発明のさらに他の実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 【図8】この発明のさらに他の実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 【符号の説明】 【0013】 10 スパッツ 12 前身頃 14 後身頃 16 股部パーツ 18 大腿部パーツ 20,28 ウエスト部 24,25,32,46 足刳り形成部 36 裾部 40 足付根部 40a 山 【発明を実施するための最良の形態】 【0014】 以下,この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1,図2はこの発 明の一実施形態を示すもので,この実施形態の下肢用衣料は,ウエストから大腿部の 中間付近に達する半ズボン形のスパッツ10である。スパッツ10は,伸縮性を有す る編地等の生地で作られている。スパッツ10は,下胴部の前側から両脇までを覆う 前身頃12と,下胴部の後側を覆う後身頃14と,前身頃12の下端部の中心と後身 頃14の下端部の中心を連結する股部パーツ16から成る。さらに,前身頃12と後 身頃14,股部パーツ16で形成され大腿部が挿通する開口部に,大腿部を覆うよう に筒形に形成された一対の大腿部パーツ18が設けられている。 【0015】 次に各パーツの形状について説明する。図3はスパッツ10を展開した状態を示し たものであり,前身頃12は,ウエスト部20と,ウエスト部20の両側の大腿部付 け根の腸骨棘点a付近で,ウエスト部20に対してほぼ直角に裁断された腰部前側縁 22が設けられている。腰部前側縁22の身体前中央側には,腰部前側縁22の下端 部から連続して切り欠かれた一対の足刳り部を形成する足刳り形成部24が各々設 けられている。 【0016】 足刳り部は,スパッツ10を縫製したときに大腿部が挿通する開口部となるもの で,後述するように,後身頃14にも,その側縁から下端縁に繋がって足刳り形成部 25が形成されている。一対の足刳り形成部24は,前身頃12の下端部の中心寄り 位置から,ウエスト部20に近づくにつれて互いに離れるように傾斜して形成されて いる。一対の足刳り形成部24の間の縁部は,股部パーツ16が連結される前股部2 6となっており,僅かに上方に湾曲する曲線で形成されている。 【0017】 後身頃14は,大きく開いた略V字形に形成された縁部のウエスト部28が設けら れ,ウエスト部28の中央にV字状に切除されたウエストダーツ29が設けられ,ウ エスト部28の両端から,ウエスト部28に対してほぼ直角に離れる方向に延出する ほぼ直線の腰部前側縁30が設けられている。腰部前側縁30は,前身頃の腰部前側 縁22と等しい長さで,ウエスト部28から離れるに従い,僅かに互いに離れるほう へ広がっている。 【0018】 腰部前側縁30の下端には,後身頃14の下端へ向かう足刳り形成部25が形成さ れ,足刳り形成部25の身体中央側端には,V字状に切除された臀部ダーツ31が設 けられている。臀部ダーツ31の身体中央側端には,足刳り形成部32が一対設けら れている。足刳り形成部32は,スパッツ10を縫製したときに前身頃12の足刳り 形成部24に連続して大腿部が挿通する開口部を形成するものである。 【0019】 一対の足刳り形成部32の間は,股部パーツ16が連結される後股部34であり, 僅かに上方に湾曲する曲線で形成されている。そして,後身頃14のウエスト部28 から後股部34までの長さは,前身頃12のウエスト部20から前股部26までの長 さよりも長く形成されている。足刳り形成部24,25により形成される足繰りの形 状は,ウエスト部20に一番近いところを頂点とする略三角形状であり,ウエスト部 20に近い頂点は丸く湾曲して設けられている。 【0020】 大腿部パーツ18は,僅かに内側に湾曲する曲線で形成された裾部36が設けら れ,裾部36の両端部から裾部36に対してほぼ直角に離れる方向に延出するほぼ直 線の大腿部後側縁38が形成されている。各大腿部後側縁38間の,裾部36とは反 対側の縁部には,外側になだらかに膨出する山40aが形成された足付根部40が設 けられている。足付根部40は,スパッツ10を縫製したときに前身頃12の足刳り 形成部24,後身頃14の足刳り形成部25,32,股部パーツ16も足刳り形成部 46が連続して形成する開口部に縫い合わされるものである。足付根部40の山40 aの縁部は,前身頃12の足刳り形成部24と等しい長さに形成され,足刳り形成部 24に縫い合わされる部分である。ここで,足付根部40の,足刳り形成部24,2 5に取り付ける山40aの高さをh1とし,足刳り形成部24,25の湾曲深さをh 2とすると,h1はh2よりも低い形状である。また,足付根部40の山の幅をw1 とし,足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると,互いに縫い付けられる 同じ位置間で,w1はw2よりも広い形状となっている。 【0021】 股部パーツ16は,一方向に長い略鼓状に形成され,長手方向の一端部は前身頃1 2に連結される前身頃連結部42であり,長手方向の他端部は後身頃14に連結され る後身頃連結部44である。いずれも外側に湾曲する曲線で設けられている。股部パ ーツ16の長手方向に沿う両側縁部は,足刳りの一部を形成し大腿部パーツ18に連 結される足刳り形成部46であり,内側に湾曲する曲線で設けられている。股部パー ツ16は,前身頃連結部42よりも後身頃連結部44が長くなるように,後身頃連結 部44に近づくほど足刳り形成部46が徐々に離れて幅広に形成されている。 【0022】 そして,後見頃14の足刳り形成部25,32及び股部パーツ16の足刳り形成部 46の股底点までの型紙での長さが,人体上の長さで転子点bからヒップ裾ラインを 通り股底点脇に至るまでの長さよりも短いものである。 【0023】 この実施形態のスパッツ10の製造方法は,まず,左右の臀部ダーツ31及びウエ ストダーツ29を縫い合わせる。次に,前身頃12の前股部26に股部パーツ16の 前身頃連結部42を取り付ける。前身頃12と後身頃14の,左右の腰部前側縁22 と腰部前側縁30を縫い合わせる。そして,一連に連結された各足刳り形成部24, 25,32,46に大腿部パーツ18の足付根部40を縫い合わせる。このとき,大 腿部パーツ18の片方の大腿部後側縁38と足付根部40の成す角の部分が,前身頃 12に既に取り付けられている股部パーツ16の後身頃連結部44と足刳り形成部 46が成す角部分に位置する。また,大腿部パーツ18のもう片方の大腿部後側縁3 8と足付根部40の成す角部分が,後身頃の後股部34と各足刳り形成部32の成す 角部分に位置する。 【0024】 次に,片方の大腿部パーツ18の大腿部後側縁38同士を縫い合わせ,そのまま連 続して後身頃14の後股部34と股部パーツ16の後身頃連結部44を縫い合わせ, 更に連続してもう片方の大腿部パーツ18の大腿部後側縁38同士を縫い合わせる。 最後にウエスト部20,28,裾部36の仕上げ処理及び縫い端の処理をする。なお, 縫い合わせる順番はこれに限定されず,適宜変更可能である。 【0025】 縫い合わされたスパッツ10は,後身頃14の足刳り形成部32が丸く下方に回り 込み,筒状に形成された大腿部パーツ18が前方の斜め下方に突出する立体形状とな る。即ち,基本の立体形状が,着用者が前屈みに軽く屈曲した姿勢に沿う形状になっ ており,足の運動性に適した形状に形成される。 【0026】 縫製されたスパッツ10を着用したとき,前身頃12の足刳り形成部24は,図1 に示すように,股底点脇から上方に延出して足の付け根の腸骨棘点a付近を通過し, 大腿部外側上方の転子点b付近の上方を通過して湾曲し,後側下向きに延出して,後 身頃14の足刳り形成部32に連続する。後身頃14の足刳り形成部32は,臀部の 下端部に沿って股底点付近に達している。足刳り形成部24の一番高いところは腸骨 棘点a付近である。また,臀部ダーツ31の縫合線は,臀部の一番高いところよりも 僅かに側方に位置して上下に通過している。 【0027】 この実施形態のスパッツ10によれば,伸縮性のある素材を使用し,臀部の生地分 量を確保し,足刳りのパターンの形状の工夫により,身体の腸骨棘点a付近から前方 の生地の立体的方向性が確保されるため,着用時に股関節の前方への屈伸抵抗が少な く運動しやすく,疲れにくいものである。即ち,臀部に関しては,股関節の屈曲時に 臀部に過度の生地張力が掛からないように生地分量を十分に多く取り,且つヒップ裾 ラインがずれないようヒップ裾ライン長を短くしている。特に,このスパッツ10は, 着用者が軽く前屈みになった姿勢に沿う立体形状に作られ,この姿勢では生地にあま り張力が発生しないため身体が圧迫されず,またさらに深く屈む動作をするときの負 荷も少なく抑えられるものである。また,大腿部パーツ18が前方に盛り上げられた 立体形状になるため,図4,図5に示すように足を上げたりしゃがんだりする動作の とき,大腿部にかかる生地の抵抗が小さく,容易に運動することができる。さらに, 生地が身体の動きに追従するため,衣服ズレも軽減することができる。また,後身頃 14が前身頃12よりも上下に長く形成されているため,図4,図5に示すように足 を上げたりしゃがんだりする動作のとき,後身頃14に大きな張力がかからず,この ことからも円滑に運動することができ,後見頃14が摺り上がることもない。 ・・・・・・ 【0029】 なお,この発明は上記実施形態に限定されるものではなく,図6に示すような各パ ーツ形状でも良い。この実施形態の下肢用衣料もスパッツについてのもので,互いに 対称に2分された形状の後見頃48,49を有し,ウエスト部にウエストパーツ50 を設けたものである。そして,上記実施形態の臀部ダーツを無くし,後見頃48,4 9の上端縁中央付近とウエストパーツ50の中央下部との間の一対のダーツにより, 臀部の形状を立体的に形成している。これにより,上記実施形態と同様の効果を得る ことができ,さらに,ウエストパーツ50に張力の強い生地を用いることにより,腰 部のホールド感を向上させることができる。 【0030】 また,図7に示すように,上記臀部ダーツを無くし,前身頃12と後見頃14の間 の腰部前側縁22,30による一対のダーツにより,臀部の形状を立体的に形成して も良い。さらに,前身頃12の側縁部に張力の強い素材を使うことで,ヒップホール ドとヒップアップ効果を持たせることが出来る。 【0031】 さらに,図8に示すような展開図形状のものでも良い。この実施形態では,上記臀 部ダーツとウエストダーツを繋いで,前身頃12と後見頃14の1本の切り替えライ ンにすることで,上記実施形態と同様の効果を得ることができるとともに,より多く の臀部部分のゆとりを自然な形状で持たせることができる。 (2) 「前身頃」及び「後身頃」の認定について ア 本件明細書における図面の簡単な説明は段落【0012】に,符号の説 明は【0013】に,【図1】〜【図5】を参照した実施形態(実施形態【図3】) については,段落【0014】〜【0022】に記載されている。これらの記載に よれば,下肢用衣料を,それを構成する各パーツから説明していることは明らかで, 「前身頃」は,図面符号「12」で指示されており,同じく,「後身頃」,「股部 パーツ」及び「大腿部パーツ」は,それぞれ,「14」,「16」及び「18」で 指示され,これら図面符号は,それぞれ,実線で区劃された範囲のものを指してい ることが見て取れるから,「前身頃」や「後身頃」は,「股部パーツ」や「大腿部 パーツ」と同じく,下肢用衣料を構成するパーツであって,「前身頃」は,図面符 号「12」で指示された実線で区劃された範囲のもので,「後身頃」も,同様に, 「14」で指示された実線で区劃された範囲のものと解することができる。 すなわち,本件明細書の段落【0014】の「図1,図2はこの発明の一実施形 態を示すもので,この実施形態の下肢用衣料は,ウエストから大腿部の中間付近に 達する半ズボン形のスパッツ10である。スパッツ10は,伸縮性を有する編地等 の生地で作られている。スパッツ10は,下胴部の前側から両脇までを覆う前身頃 12と,下胴部の後側を覆う後身頃14と,前身頃12の下端部の中心と後身頃1 4の下端部の中心を連結する股部パーツ16から成る。さらに,前身頃12と後身 頃14,股部パーツ16で形成され大腿部が挿通する開口部に,大腿部を覆うよう に筒形に形成された一対の大腿部パーツ18が設けられている。」との記載,段落 【0015】の「次に各パーツの形状について説明する。図3はスパッツ10を展 開した状態を示したものであり,前身頃12は,・・・ウエスト部20に対してほ ぼ直角に裁断された腰部前側縁22が設けられている。腰部前側縁22の身体前中 央側には,腰部前側縁22の下端部から連続して切り欠かれた一対の足刳り部を形 成する足刳り形成部24が各々設けられている。」との記載,段落【0017】の 「後身頃14は,大きく開いた略V字形に形成された縁部のウエスト部28が設け られ,ウエスト部28の中央にV字状に切除されたウエストダーツ29が設けられ, ウエスト部28の両端から,ウエスト部28に対してほぼ直角に離れる方向に延出 するほぼ直線の腰部前側縁30が設けられている。」との記載,段落【0023】 の「この実施形態のスパッツ10の製造方法は,まず,左右の臀部ダーツ31及び ウエストダーツ29を縫い合わせる。次に,前身頃12の前股部26に股部パーツ 16の前身頃連結部42を取り付ける。前身頃12と後身頃14の,左右の腰部前 側縁22と腰部前側縁30を縫い合わせる。そして,一連に連結された各足刳り形 成部24,25,32,46に大腿部パーツ18の足付根部40を縫い合わせる。」 との記載のとおり,段落【0014】〜【0022】には,各パーツについての説 明が記載されており,また段落【0023】には,前身頃12と後身頃14とを縫 い合わせることが記載されているから,「前身頃」や「後身頃」は,下肢用衣料を 構成するパーツであると認められる。 イ また,本件明細書における【図6】を参照した実施形態(実施形態【図 6】),同【図7】を参照した実施形態(実施形態【図7】),同【図8】を参照 した実施形態(実施形態【図8】)については,段落【0029】〜【0031】 に,実施形態【図3】に比して簡潔に記載され,特に,実施形態【図7】について は,段落【0030】に,「前身頃12と後見頃(判決注:「後身頃」の誤記)1 4の間の腰部前側縁22,30による一対のダーツにより,臀部の形状を立体的に 形成しても良い」,「前身頃12の側縁部に張力の強い素材を使うことで,ヒップ ホールドとヒップアップ効果を持たせることが出来る」と記載されているだけで, 詳細については【図7】を参照していることが窺える。記載が簡潔で,詳細は図を 参照していることは,実施形態【図6】や実施形態【図8】についても同様である。 ウ そこで,段落【0029】〜【0031】の記載を参照しつつ,【図1】 〜【図5】の特に【図3】と,【図6】〜【図8】を見ると,実施形態【図6】に おける「後身頃」を図面符号「48」と「49」で指示している点を除けば,実施 形態【図6】,実施形態【図7】及び実施形態【図8】における「前身頃」と「後 身頃」は,実施形態【図3】と同様に,図面符号「12」と「14」で指示された 実線で区劃された範囲のものと解することができ,このように解することに,格別, 不都合な点は見当たらない。 (3) 原告らの主張について ア 原告らは,実施形態【図7】と実施形態【図3】とは,パーツの形態が 大きく相違するにもかかわらず,実施形態【図3】の前身頃及び後身頃の各パーツ の実線を強引に実施形態【図7】のパーツの実線に引きずり込んで,実施形態【図 7】の前身頃及び後身頃の各位置を解釈しているにほかならず,実施形態【図7】 のパーツの本来の前身頃及び後身頃の各位置を正しく解釈していることにはならな いから,審決の訂正要点aの認定手法は誤りであると主張する。 しかし,実施形態【図3】については,各パーツの図面符号「12」,「14」, 「16」,「18」は,図面上のそれぞれ実線で区劃された範囲のものを指してい ることが見て取れるから,「前身頃」や「後身頃」は,「股部パーツ」や「大腿部 パーツ」と同じく下肢用衣料を構成するパーツであって,「前身頃」は図面符号「1 2」で指示された実線で区劃された範囲のもので,「後身頃」も同様に,図面符号 「14」で指示された実線で区劃された範囲のものと解することができる。 そして,実施形態【図3】と実施形態【図7】とは,下肢用衣料が「前身頃12」, 「後身頃14」,「股部パーツ16」及び「大腿部パーツ18」で構成されている ことには変わりがないので,実施形態【図7】においても実施形態【図3】と同様 に,前身頃と後身頃は,図面符号「12」と「14」で指示された実線で区劃され た範囲のもの(パーツ)と解するのが自然であり,このように解することに,格別, 不都合な点は見当たらない。 よって,審決における「前身頃」及び「後身頃」の認定及びその手法に誤りはな い。 イ 原告らは,実施形態【図7】のパーツの前身頃及び後身頃の各位置を正 しく判断するには,実施形態【図7】の各パーツを縫製して下肢用衣料とした場合 に,実施形態【図7】のパーツはどこが前身頃及び後身頃に位置するか正しく判断 することが必要であり,また,前身頃と後身頃の意味はそれぞれ「衣類の身頃のう ち,胴体の前の部分をおおうもの」と「衣類の身頃で胴体の後ろの部分をおおうも の」であって(甲1),その意味を下肢用衣料(ショーツ)に当てはめると,前身 頃とは,下肢用衣料(ショーツ)の身頃のうち,下半身の前の部分を覆うものとな り,後身頃とは,下肢用衣料(ショーツ)の身頃で下半身の後ろの部分を覆うもの となり,さらに,1つのパーツにおいて,前の部分を覆うものを前身頃とし,この 前の部分を覆う境界の箇所から後側に直ちに回り込む箇所(本件帯状部分)を後身 頃とすることは,例えば甲13〜甲18に示されるように,当業者において周知で あるから,審決における「前身頃」及び「後身頃」の認定には誤りがあると主張す る。 しかし,本件明細書において,【図7】の左右において下方に垂下する2つの本 件帯状部分が「後身頃」の構成部分である旨の記載や示唆は存在せず,本件帯状部 分が「後身頃」の構成部分であるとは,窺えない。 また,「前身頃」の意味が「衣類の身頃のうち,胴体の前の部分をおおうもの」 であり,「後身頃」の意味が「衣類の身頃で胴体の後ろの部分をおおうもの」であ って(甲1),1つのパーツにおいて,前の部分を覆うものを「前身頃」といい, この前の部分を覆う境界の箇所から後側に直ちに回り込む箇所を「後身頃」という ことがあるとしても(甲13〜甲18),乙1及び乙2によれば,下肢用衣料にお いて,下半身の前の部分の延長となる後ろの部分の一部をも覆うパーツも加えて「前 身頃」ということもあるのであり,この場合には訂正前の実施形態【図7】と同様 のものとなる。したがって,前身頃及び後身頃という用語の解釈として,原告らが 主張するような解釈において当該技術分野の常識となっているということはできな い。 よって,「前身頃」及び「後身頃」という用語の意味は,明細書及び図面の記載 全体から把握する必要があり,そのようにして理解される意味は上記のとおりであ って,審決の「前身頃」及び「後身頃」の認定及びその手法に誤りはない。 (4) まとめ よって,原告らが主張する取消事由1及び2には,理由がない。 2 取消事由3(審決の訂正目的に対する判断の誤り)について 上記1で判示したとおり,本件明細書の段落【0030】及び【図7】には,実 施形態【図7】が記載され,この実施形態における「前身頃」が図面符号「12」 で指示された実線で区劃された範囲のものを指していること,そして,「後身頃」 が,図面符号「14」で指示されたものを指していることは,自然に理解できるも ので,不明瞭な記載や誤記の存在は見当たらず,逆に,【図7】において図面符号 「12」で指示される前身頃の本件帯状部分が後身頃の構成部分であることは,窺 えない。そうである以上,訂正要点aが,誤記の訂正,或いは,明瞭でない記載の 釈明を目的にしているということはできない。 よって,原告らが主張する取消事由3には,理由がない。 3 取消事由4(審決の実質変更・拡張に対する判断の誤り)について 本件明細書の請求項1は,本件訂正によって訂正されていないから,本件発明は, 本件訂正の前後において,「後身頃」を,「足刳り形成部を有した」と限定された ものとして発明特定事項としている。 次に,上記1で認定したところを踏まえ,本件訂正前の本件発明についてみると, 本件明細書の記載全体からして,先に(上記1で)説示したように,本件発明の「前 身頃」は,実施形態【図3】,実施形態【図7】及び実施形態【図8】の,いずれ も図面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲のもの,「後身頃」も同様 に「14」で指示された範囲のものと解することができる。 これに対し,本件訂正の,特に訂正要点aにより,【図7】の図面符号「12」 で指示された実線で区劃された範囲内にある本件帯状部分が,「後身頃」の構成部 分となり,本件訂正後の本件発明の「前身頃」は,【図7】を参照した実施形態で いえば,図面符号「12」で指示された実線で区劃された範囲から上記本件帯状部 分を除いた範囲のものということになり,本件発明の発明特定事項である「前身頃」 の技術的内容が変更されており,併せて,「後身頃」の技術的内容も実質的に変更 されている。 また,実施形態【図7】が,図面符号「14」で指示された実線で区劃された範 囲のものである「後身頃」に足刳り形成部を有していないため,本件発明の発明特 定事項を満たしておらず,本件発明の構成に含まれないものであったが,本件訂正 後では,実施形態【図7】は,本件発明の構成に取り込まれており,特許請求の範 囲は,拡張又は変更されている。 以上のとおりの判断を示した審決に誤りはない。 よって,原告らが主張する取消事由4には,理由がない。 第6 結論 以上によれば,原告ら主張の取消事由は理由がない。よって,原告らの請求を棄 却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩 月 秀 平 裁判官 池 下 朗 裁判官 古 谷 健 二 郎 |