関連審決 | 不服2011-21031 |
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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10047号
審決取消請求事件
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原告株 式会社CHIRACOL 訴訟代理人弁理士 山本健男 被告特許庁長官 指定代理人 加藤友也 同 藤原敬士 同 瀬良聡機 同 芦葉松美 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/11/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2011-21031号事件について平成24年1月25日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「半導体用電解銅メッキ浴及び電解銅メッキ方法」とする発明について,平成22年12月14日に特許出願(特願2010-277822,パ リ条約による優先権主張日2010年11月18日,(TW)台湾。以下「本願」という。甲1)をしたが,平成23年5月11日付けで拒絶理由通知を受け(甲2),同月31日に意見書(甲3)及び手続補正書(甲4)を提出したが,同年6月10日付けで再度拒絶理由通知を受け(甲5),同月28日に再度意見書(甲6)及び手続補正書(甲7)を提出したが,同年8月16日付けで拒絶査定を受けた(甲8)。 原告は,平成23年9月29日,不服審判(不服2011-21031号事件)の請求(甲9)をするとともに,手続補正書(甲10)を提出し,特許請求の範囲及び明細書について補正をした(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,平成24年1月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年2月6日に原告に送達された。 2 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載(甲10)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(下線部は,本件補正により付加された部分)。 「【請求項1】下記一般式(2)で表される化合物を含有してなることを特徴とする半導体のシリコン貫通電極用電解銅メッキ浴。 【化1】 (式(2)中,R1及びR2は,メチル基を示す。Mは,カリウムを示す。)」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。 (1) 本件補正の適否について 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)は,特開2007-332447号公報(以下「引用例1」といい,引用例1に記載された発明を「引用発明1」という。),特開2007-16265号公報(以下「引用例2」といい,引用例2に記載された発明を「引用発明2」という。)及び国際公開第2009/018581号公報(以下「引用例3」といい,引用例3に記載された発明を「引用発明3」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって,本件補正は不適法である。 (2) 本願発明の進歩性について 本願補正は不適法であり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成23年6月28日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもの(以下「本願発明」という。)であるところ,本願補正発明は,本願発明の発明特定事項を限定的に減縮するものであり,本願発明の発明特定事項を全て含み,更に限定を付加したものに相当する。 そうすると,本願補正発明が,引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明についても,同様の理由により,引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3) 本願補正発明の進歩性に関する審決の認定・判断の概要 審決は,本願補正発明の進歩性の有無について,引用例1を主引例とした場合,引用例2を主引例とした場合及び引用例3を主引例とした場合の3つに分けて検討している。審決の認定・判断の概要は次のとおりである。 ア 引用例1を主引例とした場合について(ア) 引用発明1の内容「下記一般式(2)で表わされる化合物を含有してなる電解銅メッキ浴。 (式(2)中,R1及びR2は,メチル基を示す。Mは,カリウムを示す。)」(イ) 本願補正発明と引用発明1との一致点「下記一般式(2)で表わされる化合物を含有してなる電解銅メッキ浴。 (式(2)中,R1及びR2は,メチル基を示す。Mは,カリウムを示す。)」(ウ) 本願補正発明と引用発明1との相違点(以下「相違点1」という。)本願補正発明は,「半導体のシリコン貫通電極用」であるのに対し,引用発明1は,「半導体のシリコン貫通電極用」であるのか否か明らかでない点。 (エ) 相違点1の容易想到性引用発明1の電解銅メッキ浴は,より微細な構造の溝や穴に対して銅を良好に埋め込むことのできるものであり,引用例1には,適用される用途として,「高集積化電子回路の製造におけるダマシン法など」や「溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む用途」が示唆されている。そして,引用例1に記載された試験がプリント基板のビアに対するものであったとしても,そのメッキ条件は,径30μmでアスペクト比1.0のビアという微細な溝あるいは穴に対するものであり,その試験の評価として「埋込率が大きく表面状態も良好である」と記載されているのであるから,得られた電解銅メッキ浴の用途として,プリント基板に限られることなく,高集積化電子回路で使用される半導体基板にも適用可能であることは明らかである。 そうすると,引用発明1の電解銅メッキ浴を,引用例3に示された半導体のシリコン貫通電極用のメッキ浴として使用することは,当業者が容易に想到し得るものである。 イ 引用例2を主引例とした場合について(ア) 引用発明2の内容「下記一般式(1)で表わされる化合物からなる電解銅メッキ用添加剤を含有する電解銅メッキ浴。 (式中,R1〜R4は,メチル基を示す。Mは,カリウムを示す。)」 (イ) 本願補正発明と引用発明2との一致点 「下記一般式(2)で表される化合物を含有してなる電解銅メッキ浴。 (式(2)中,R1及びR2は,メチル基を示す。Mは,カリウムを示す。)」(ウ) 本願補正発明と引用発明2との相違点(以下「相違点2」という。)本願補正発明は,「半導体のシリコン貫通電極用」であるのに対し,引用発明2は,「半導体のシリコン貫通電極用」であるのか否か明らかでない点。 (エ) 相違点2の容易想到性引用発明2の電解銅メッキ浴は,より微細な構造の溝や穴に対して銅を良好に埋め込むことのできるものであり,引用例2には,適用される用途として,「高集積化電子回路の製造におけるダマシン法など」や「溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む用途」が示唆されている。そして,引用例2に記載された試験がプリント基板のビアに対するものであったとしても,そのメッキ条件は,径30μmでアスペクト比1.0のビアという微細な溝あるいは穴に対するものであり,その試験の評価として「良好に銅を埋め込むことができる」と記載されているのであるから,得られた電解銅メッキ浴の用途として,プリント基板に限られることなく,高集積化電子回路で使用される半導体基板にも適用可能であることは明らかである。そうすると,引用発明2の電解銅メッキ浴を,引用例3に示された半導体のシリコン貫通電極用のメッキ浴として使用することは,当業者が容易に想到し得るものである。 ウ 引用例3を主引例とした場合について(ア) 引用発明3の内容「銅メッキ促進剤を含有する半導体のシリコン貫通電極用電解銅メッキ浴。」(イ) 本願補正発明と引用発明3との一致点 「銅メッキ促進剤の化合物を含有してなる半導体のシリコン貫通電極用電解銅メッキ浴。」 (ウ) 本願補正発明と引用発明3との相違点(以下「相違点3」という。) 銅メッキ促進剤の化合物について,本願補正発明は,「一般式(2)で表わされる化合物」であるのに対し,引用発明3は,化合物の種類が特定されていない点。 (エ) 相違点3の容易想到性 高集積化電子回路の微細な溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む処理において使用する電解銅メッキ浴として,引用例1には,「一般式(2)で表わされる化合物を含有してなる電解銅メッキ浴」(引用発明1)が記載され,引用例2には,「一般式(1)で表される化合物からなる電解銅メッキ用添加剤を含有する電解銅メッキ浴」(引用発明2)が記載されており,いずれも,径30μmでアスペクト比1.0のビアを作成したプリント基板に対して試験を行い,銅を良好に埋めることができる旨記載されている。さらに,適用できる用途として,引用例1,2には,「高集積化電子回路の製造におけるダマシン法など」や「溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む用途」が示されており,このような用途として半導体基板に形成された電子回路が含まれることは明らかである。そうすると,引用発明3において,銅を良好に埋め込むことのできる引用発明1又は引用発明2の電解銅メッキ浴の配合成分を適用し,相違点3に係る化合物を採用することは,当業者が容易になし得たものである。 |
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審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,引用例1を主引例とした 場 合の容易 想到性 判 断 の 誤 り(取消事由1),引用例2を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り(取消事由2),引用例3を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り(取消事由3)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法として取り消されるべきである(なお,原告は,当初,取消事由1ないし6を主張していたが,審理の途中で取消事由1,3及び5を撤回し,その後,当事者双方は,取消事由2,4及び6について主張立証を行った。上記「取消事由1」,「取消事由2」及び「取消事由3」は,それぞれ,当事者双方が主張立証の対象とした取消事由2,4及び6に対応するものである。)。 1 引用例1を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り(取消事由1) (1) 引用発明1は,ポリイミド樹脂を使用したプリント基板での高集積化電子回路を対象としているにすぎず,半導体のシリコン貫通電極用を対象としているものではない。また,引用例3は,電解銅メッキ液の添加剤について,一般的なものを例示したにすぎず,本願補正発明の添加剤については何ら言及していない。 これに対し,本願補正発明は,引用発明1に示される構造式(2)のR1,R2をメチル基に,Mをカリウムに限定し,シリコン貫通ビア(Through-Sil Via,以下「TSV」ともいう。)において特段の作用効果を見いだiconしたものである。TSVは,高精細回路基板に使用されるポリイミド樹脂とは基質が異なり,シリコンウエハを対象とするものである。TSVのシード層はスパッタで形成され,アスペクト比も高集積化電子回路の1:3程度と比較し,深いものは1:10程度となり,ビア径も細いものは5ミクロン程度であり,全く異なるものである。本願補正発明は,このように全く異なる概念に基づくTSVという新たな用途について研究し,既存の添加剤と比較して著しい効果を見出したものである。 したがって,引用発明1に引用発明3を組み合わせることは,当業者にとっても容易なことではない。 (2) 引用例1は,ダマシンに関する技術であり,ダマシンは,内層配線あるいは基板表面配線といった,基板の片面側を用いた平面的な配線技術であって,細長い溝を埋める平面的な技術である。これに対し,引用例3のTSVは,小さな深い穴を埋める必要がある立体的な技術であって,特有の作用効果を求められるものである。 被告は,本願明細書(甲1)には,TSV法がダマシン法と並べて記載されているだけで,その用途を半導体のシリコン貫通電極用であるとすることによる特有の作用効果については記載がないと主張するが,ダマシンは,絶縁体あるいは層間絶縁膜上に銅メッキが施されている点で,シリコンウエハ上に直接メッキするTSVとはメッキの形態が異なるのであり,特に明示されていないからといって,作用効果について記載がないとはいえない。 2 引用例2を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り(取消事由2) 引用発明2は,ポリイミド樹脂を使用したプリント基板での高集積化電子回路を対象としているにすぎず,半導体のシリコン貫通電極用を対象としているものではない。また,引用例3は,電解銅メッキ液の添加剤について,一般的なものを例示したにすぎず,本願補正発明の添加剤については何ら言及していない。 これに対し,本願補正発明は,引用発明2に示される構造式(1)のR1,R2をメチル基に,Mをカリウムに限定し,前記1(1)のとおり,TSV において特段の作用効果を見いだしたものである。 したがって,引用発明2に引用発明3を組み合わせることは,当業者にとっても容易なことではない。 3 引用例3を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り(取消事由3) 引用例3は,電解銅メッキ液の添加剤について,一般的なものを例示したにすぎず,本願補正発明の添加剤については何ら言及していない。また,引用発明1及び2は,いずれもポリイミド樹脂を使用したプリント基板での高集積化電子回路を対象としているにすぎず,半導体のシリコン貫通電極用を対象としているものではない。 これに対し,本願補正発明は,引用発明1の構造式(2)又は引用発明2の構造式(1)のR1,R2をメチル基に,Mをカリウムに限 定し,前 記1(1)のとおり,TSVにおいて特段の作用効果を見いだしたものである。 したがって,引用発明3に引用発明1又は2を組み合わせることは,当業者にとっても容易なことではない。 |
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被告の反論
原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。 1 取消事由(引用例1を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り)に対し (1) 引用発明1は,引用例1の記載(段落【0032】及び【0039】等)にあるように,用途を実施例のプリント基板に限定しておらず,さらに,引用例1の段落【0003】,【0004】及び【0007】で従来技術として提示された特開2002-302789号公報(乙第1号証)の記載(段落【0016】,【0018】及び【0045】),並びに特表2004-522000号公報(乙第2号証)の記載(段落【0002】)からみて,プリント基板に限らず,半導体ウエハ等を含む半導体の製造技術全般における電解銅メッキ浴に関するものであって,高いアスペクト比を有するビア孔に銅を埋め込む電解銅メッキ浴に関するものであるといえる。 そして,引用例1(段落【0032】)に記載されたビアの数値(径30μm,アスペクト比1.0)は,引用例3の記載(翻訳文の段落【0008】の「TSVのビアの開口は約200nmから200μm,典型的には25μmと75μmの間の桁の直径のような入口寸法を有する。シリコン貫通ビアの典型的なアスペクト比は0.3:1から20:1より大きい。」)を参照すると,半導体ウエハのシリコン貫通ビアにも適用可能な範囲にある。 他方,本願補正発明は,半導体のシリコン貫通電極用電解銅メッキ浴であるが,本願明細書(甲第1号証)の段落【0002】には,TSV法がCuダマシン法と並べて記載されているだけで,その用途を半導体のシリコン貫通電極用であるとすることによる特有の作用効果については記載がなく,電解銅メッキ浴の成分が発明の本質であり,本願補正発明の半導体の電解銅メッキ浴は,単に半導体のシリコン貫通電極用に適用できるとしたものである。 したがって,引用発明1と引用発明3を組み合わせることが当業者にとって容易でないとする理由はなく,引用発明1の用途を,半導体のシリコン貫通電極用と特定することは,当業者であれば容易に想到し得たものである。 (2) 原告は,本願補正発明が,メッキ対象,アスペクト比,ビア径の異なる,全く異なる概念について研究し,著しい効果を見いだした旨の主張をしているが,引用例3の記載からみて,引用発明1のもののビア径やアスペクト比は,シリコン貫通ビア(TSV)のビア径やアスペクト比に含まれるものであり,本願補正発明であると原告の主張するアスペクト比(「高集積化電子回路の1:3程度と比較し,深いものでは,1:10程度となる」)やビア径(「細いものは5ミクロン程度であり」)は,引用例3の記載の範囲内である。 したがって,TSVは,引用発明1の用途として,全く異なる概念に基づく新たなものとはいえないし,効果も格別なものではない。 また,本願の請求項及び発明の詳細な説明には,原告の主張する「TSVのシード層はスパッタで形成され,アスペクト比も高集積化電子回路の1:3程度と比較し,深いものは1:10程度となり,ビア径も細いものは5ミクロン程度」であることは記載されておらず,アスペクト比の深いもの,ビア径の細いものに限定されることも記載されていない。したがって,原告の主張は,本願の請求項及び発明の詳細な説明の記載に基づかないものでもある。 (3) 原告は,引用例1はダマシンに関する技術であり,ダマシンは細長い溝を埋める平面的な技術であるのに対し,TSVは小さな穴を埋める必要がある立体的な技術であって,特有の作用効果を求められるものであることを前提として,ダマシンとTSVとではメッキの形態が異なり,特に明示されていないからといって,作用効果についての記載がないとはいえないと主張するが,以下のとおり,原告の主張は理由がない。 ア まず,「ダマシンは細長い溝を埋める平面的な技術である」と限定的に解釈するのは適切な解釈ではない。 そもそも,半導体製造技術のメッキ工程におけるダマシン技術は,シリコンウエハ,樹脂基板等の基板の一面に溝ないし孔を形成し,当該溝ないし孔にメッキを充填し表面の余分なメッキを化学機械研磨(CMP)技術等を用いて除去する技術手法であって,メッキを用いた配線/電極の構造そのものを指す技術ではない。このことは,乙第3号証の段落【0003】,同第4号証の段落【0003】,同第5号証の段落【0003】及び同第6号証の段落【0006】の記載からみて明らかである。 確かに,ダマシン技術は,内層配線或いは基板表面配線といった,基板の片面側を用いた 配 線に適用 可能 な技術 (ある意 味での平 面的 な 技術 と言 え るかもしれない。)であるが,このような場合であっても,細長い溝のみならず,層間接続の為の小さな深い穴へのメッキ充填も同時に行うものである(乙第3ないし同第5号証の各段落【0003】)。 また,TSV技術においても,底のある孔にメッキを充填後,基板の裏面側を除去して,孔を貫通孔とする際に,ダマシン技術を適用することは,周知技術であり(乙第3号証の段落【0017】,同第4号証の段落【0021】,同第6号証の段落【0006】),この場合,ダマシン技術適用後に,メッキ充填側とは反対側の面を削除し,貫通電極とすることで,基板の表面と裏面とを用いた両面配線技術(ある意味での立体的な技術)としての,3次元配線を行うものである。 したがって,ダマシン技術とTSVとを形状の観点から直接比較することはできない。また,仮に,引用発明1又は2が,内層配線あるいは基板表面配線といった,基板の片面側を用いた平面的な配線技術に限定されるとしても,基板の片面側のみを用いる表面配線あるいは内部配線技術と,表面配線と裏面配線をつなぐ貫通電極としてのTSVとは,配線の形態は異なるものの,共にダマシン技術によって,深い穴部にメッキを充填するという技術を用いているという点では差異がない。 イ また,ダマシンとTSVとでメッキの形態が異なるものではないし,その作用効果が異なるものでもない。 すな わち ,引用例3(甲第14号 証 )の 段落 【0004】,【0005】及び【0009】,乙第5号証の段落【0003】,【0014】及び【0015】,引用例1(甲第11号証)の段落【0009】及び【0010】の記載,並びに,乙第3号証,同第4号証及び同第6号証の前記アの記載からみて,ダマシン技術自体は,それを適用する,基板の材質,配線構造,デバイスの種類,小型化の要求等に応じて適宜採用されるものであり,溝ないし穴の絶対的な大きさ及びアスペクト比に応じて,成長速度を速くさせたいあるいは側壁からの成長を抑えたいとの課題を解決するために,メッキ液に導入する光沢剤(促進剤),抑制剤(抑止剤)等の各種添加剤を選択するものであって,ダマシンとTSVという観点でメッキの形態が異なるものではないし,その作用効果が異なるものでもない。 事実,本願明細書(甲第1号証)においては,「配線のコンタクト部の微細孔と配線を同時に行うCuダマシン法」と「シリコン半導体チップの内部を垂直に電極を貫通させるTSV法」とが並列的に扱われており,そのメッキの形態を変えることについて何らの記載も示唆もされていない。 2 取消事由2(引用例2を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り)に対し (1) 引用発明2は,引用例2の記載(段落【0028】及び【0036】等)にあるように,用途をプリント基板に限定しておらず,また,引用例2の段落【0003】及び【0005】で従来技術として提示された特開2002-302789号公報(乙第1号証)の記載(上記1(1) 参照)からみて,プリント 基板に限らず,半導体ウエハ等を含む半導体の製造技術全般における電解銅メッキ浴に関するものであって,高いアスペクト比を有するビア孔に銅を埋め込む電解銅メッキ浴に関するものであるといえる。 そして,引用例2(段落【0031】)に記載されたビアの数値(径30μm,アスペクト比1.0)は,引用例3の記載を参照すると,半導体ウエハのシリコン貫通ビアにも適用可能な範囲にある。 他方,本願補正発明は,上記1のとおり,電解銅メッキ浴の成分が発明の本質であり,本願補正発明の半導体の電解銅メッキ浴は,単に半導体のシリコン貫通電極用に適用できるとしたものである。 したがって,引用発明2と引用発明3を組み合わせることが当業者にとって容易でないとする理由はなく,引用発明2の用途を,半導体のシリコン貫通電極用と特定することは,当業者であれば容易に想到し得たものである。 (2) 原告は,本願補正発明が,メッキ対象,アスペクト比,ビア径の異なる,全く異なる概念について研究し,著しい効果を見いだした旨の主張をしているが,引用例3の記載(上記1(1)参照)からみて,引用発明2のものの ビア径やアスペクト比は,TSVのビア径やアスペクト比に含まれるものであり,本願補正発明であると原告の主張するアスペクト比やビア径は,引用例3の記載の範囲内である。 したがって,TSVは,引用発明2の用途として,全く異なる概念に基づく新たなものとはいえないし,効果も格別なものではない。 また,当該主張は,本願の請求項及び発明の詳細な説明の記載に基づかないものである。 3 取消事由3(引用例3を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り)に対し 上記1及び2のとおり,引用発明1及び2は,プリント基板に限らず,半導体ウエハ等を含む半導体の製造技術全般における電解銅メッキ浴に関するものであって,高いアスペクト比を有するビア孔に銅を埋め込む電解銅メッキ浴に関するものである。また,引用例1及び2に記載されたビアの数値は,シリコン貫通ビアにも適用可能な範囲にある。 したがって,引用発明1又は引用発明2は,ポリイミド樹脂を使用したプリント基板を対象としたものであり,その溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む用途を対象としたものであるとして,引用発明1又は引用発明2の対象をプリント基板に限定する旨の原告の主張には理由がない。 他方,引用発明3は,銅メッキ促進剤の化合物を含有してなる半導体のシリコン貫通電極用電解銅メッキ浴に関するものであり,引用例3(段落【0003】ないし【0005】)には,小さい直径のビアに十分な銅金属被覆をすること,半導体が半導体ウエハであることが記載されている。 したがって,引用発明3と引用発明1及び2は,半導体ウエハも対象にしているという点で技術分野も重複している上に,高いアスペクト比を有するビア孔に銅を埋め込むための電解銅メッキ浴である点でも共通することから,銅メッキ促進剤の化合物を含有し,小さい直径のビアに十分な銅金属被覆をすることが求められる引用発明3において,電解銅メッキ浴として,半導体ウエハ等を含む半導体の製造技術全般における電解銅メッキ浴に関するものであって,高いアスペクト比を有するビア孔に銅を埋め込む電解銅メッキ浴に関するものであり,ビアの数値も,シリコン貫通ビアに適用可能な範囲にある発明である引用発明1及び2の電解銅メッキ浴の成分を適用し,一般式(2)で表わされる化合物(式(2)中,R1,R2は,メチル基を示す。Mは,カリウムを示す。)を採用することは,当業者であれば容易に想到し得たものであり,本願補正発明の「ボイドを生じさせることなく銅を良好に埋め込むことができる」(甲第1号証の段落【0017】)という効果も,引用発明1及び2の効果(引用例1の段落【0002】,【0039】,及び引用例2の段落【0011】,【0036】)からみて格別なものとはいえない。 よって,シリコン貫通ビア(TSV)という新たな用途について研究した結果,ボイドの発生もなく,既存の光沢剤と比較し著しい効果を見出したものである旨の原告の主張も理由がない。 したがって,審決は,上記検討と同趣旨の相違点3の判断及び作用効果の検討をしたものであり,誤りはないので,本願補正発明と引用発明3との対比における相違点の判断に誤りはなく,原告の主張には理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 当裁判所は,取消事由1(引用発明1を主引例とした場合の容易想到性判断の誤り)に係る原告の主張は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。 (1) 原告は,要旨,「引用発明1は,ポリイミド樹脂を使用したプリント基板での高集積化電子回路を対象としているものにすぎず,半導体のシリコン貫通電極用を対象とするものではなく,また,引用例3は,電解銅メッキ液の添加剤について本願補正発明の添加剤については何ら言及していないのに対し,本願補正発明は,引用発明1に示される構造式(2)のR1,R2をメチル基に,Mをカリウムに限定し,TSVにおいて特段の作用効果を見いだしたものであるから,引用発明1に引用発明3を組み合わせることは,当業者にとって容易なことではない。」旨主張する。 なるほど,引用例1(甲11)の実施例(【0032】から【0038】まで)には,プリント基板のビア部に対して電解銅メッキを行ったものが開示されている。 しかし,引用例1の【0032】には,「以下,実施例によって本発明を更に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではないことを理解されたい。」と記載されており,同じく【0039】には,「本発明によれば,より繊細な構造であっても溝や穴に,銅を良好に埋め込むことができる電解銅メッキ浴を提供できるので,高集積化電子回路の製造におけるダマシン法など,溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む用途に好適に使用することができる。」と記載されている。これらの記載によれば,引用発明1は,その用途がプリント基板のビア部に用いることに限定されているものではなく,高集積化電子回路の製造におけるダマシン法など,溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込むためにも用いられるものであることが認められる。 したがって,引用発明1が,ポリイミド樹脂を使用したプリント基板での高集積化電子回路を対象とするものであるとの原告の主張は理由がない。 ここで,高集積化電子回路における溝や穴に銅を埋め込む処理を必要とする用途としてシリコン貫通電極ビアは周知である(例えば,引用例3(甲14)の【0005】,【0006】には,銅被覆処理を行う用途として,ダマシン法と並んでシリコン貫通ビア(TSV)を充填するための電解銅メッキ浴が記載されている。)。 そして,引用例3(甲14)の【0008】には,「TSVのビアの開口は約200nmから200μm,典型的には25μmと75μmの間の桁の直径のような入口寸法を有する。シリコン貫通ビアの典型的なアスペクト比は0.3:1から20:1より大きい。」(訳文・特表2010-535289号公報の【0008】)との記載があり,これを参照すると,引用例1(甲11)の【0032】に記載されているビアの「径30μm,アスペクト1.0」という値は,シリコン貫通ビアにも適用可能な範囲にあることが明らかである。そうすると,引用例1(甲11)と引用例3(甲14)とは,高いアスペクト比を有する溝に銅を埋め込むものであるという点において技術的に共通しているということができる。 他方,本願明細書(甲1,甲7)の【0002】には,「Cuダマシン法やTSV法では,溝や穴に電解銅メッキによって銅を埋め込む処理が行われている」と記載され,同じく【0010】には,「Cuダマシン法やTSV法について関心を抱いてきた本発明者は,…」と記載されており,このように,TSV法は,Cuダマシン法と並列的に記載されている一方,本願明細書には,本願補正発明の用途を半導体のシリコン貫通電極用であるとすることによる特有の作用効果については何ら記載されていない。また,本願明細書には,一般式(2)におけるR1,R2をメチル基,Mをカリウムにしたことによる顕著な効果についても何ら記載されていない。 そうすると,引用発明1の電解銅メッキ浴を,引用例3(甲14)に示された半導体のシリコン貫通電極用のメッキ浴として使用することは,当業者が容易に想到し得るものであるといえる。 なお,原告は,「TSVのシード層はスパッタで形成され,アスペクト比も高集積化電子回路の1:3程度と比較し,深いものは1:10程度となり,ビア径も細いものは5ミクロン程度であり,全く異なるものである。」とも主張するが,この主張は,本願明細書(甲1,甲7),引用例1(甲11)及び引用例3(甲14)の記載に基づくものではないから,これを採用することはできない。 (2) 原告は,要旨,「引用例1のダマシンは,細長い溝を埋める平面的な技術であるのに対し,引用例3のTSVは,小さな深い穴を埋める必要がある立体的な技術であって,特有の作用効果を求められるものであり,両者はメッキの形態が異なる。」旨主張する。 しかし,ダマシン法については,特開2009-135336号公報(乙3)の【0003】には,「銅配線の製造方法としては,シリコンウエハ等からなる基板上に形成された絶縁膜に溝や孔を形成しておき,…電気めっきによって前記溝や孔内に銅を埋め込みつつ表面に銅層を形成し,その後,化学機械研磨(CMP;Ch Mechanical Polishing)等によって余分な銅emical層を除去して銅配線を製造する,いわゆるダマシン法が採用されている」と記載され,特開2009-57582号公報(乙4)の【0003】には,「近年,基板上に微細な配線及び層間接続孔(ビア)を形成する方法として,電気めっき法が用いられる。…その1つにダマシン法がある。ダマシン法では,基板上に,適当な方法によって,溝及び凹部を形成する。溝は,配線パターンに対応する形状に形成し,凹部は,ビアを配置すべき位置に形成する。次に,電気めっきによって,基板の表面に金属を析出させる。この析出金属によって溝及び凹部が埋められる。こうして,溝 及び 凹 部に 埋め込ま れた 析 出 金属 によ っ て, 配 線及び 層間接 続 孔 が 形 成される。」と記載され,特開2001-217208号公報(乙5)の【0003】には,「また,このように複雑な配線パターンは,…あらかじめ層間絶縁膜中に配線溝あるいはコンタクトホールを先に形成しておき,これをCu層で埋めた後,層間絶縁膜上に残留しているCu層を化学機械研磨(CMP)法により研磨・除去する,いわゆるダマシン法,あるいはデュアルダマシン法が使われている。」と記載されており,これら記載によれば,ダマシン法は,細長い溝のみならず,層間接続のための小さな深い穴へのメッキ充填も同時に行うものであることが認められる。したがって,ダマシンが細長い平面的な技術であるとは認められない。 また,乙3の【0017】には,「例えば…などの貫通電極用の孔或いは溝に対して十分に埋め込み可能である。」と記載され,乙4の【0021】には,「本発明は,LSI内の銅配線やSi貫通電極の形成への適用が可能である。」と記載され,特開2010-12578号公報(乙6)の【0006】には,「なお,シリコン基板に貫通電極用の穴を形成した後は,…このシード層を陰極として内側壁に銅,アルミ等の金属皮膜を設け貫通電極とするのが一般的である。また穴内部をダマシン法により金属で充填し,裏面からエッチングによりシリコンを除去して金属部分の頭だしを行い貫通電極とすることも行われている。」と記載されており,これら記載によれば,シリコン貫通電極をダマシン法により形成することは慣用技術にすぎないことが認められる。したがって,ダマシンとTSVは,メッキの形態が異なるものとは認められない。 2 以上のとおり,取消事由1に係る原告の主張は理由がなく,本願補正発明は,引用発明1に引用発明3を適用することによって容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に誤りはない。 したがって,本願補正発明は,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,取消事由2,3について検討するまでもなく,審決に取り消すべき違法は認められない。 |
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結論
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 文 |
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