関連審決 | 訂正2002-39229 異議2001-72056 |
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関連ワード | 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の判断 / 発明の詳細な説明 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
211号
審決取消請求事件
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原告 株式会社荏原製作所 訴訟代理人弁護士 杉本進介 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 西川惠雄,鈴木充,一色由美子,林栄二,大橋信彦,井出 英一郎 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/09/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2002-39229号事件について平成15年4月16日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が特許権者である本件特許第3130751号「オゾン水製造方法及び装置」の請求項1〜9(本件訂正審判請求前の請求項)に係る発明については,平成7年1月30日に特許出願され,平成12年11月17日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされ,その後特許異議の申立てがあり(異議2001-72056号),この手続において平成13年12月17日に訂正請求がされたが,平成14年1月4日,「訂正を認める。本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。」との決定があった。 原告は,その取消訴訟(東京高裁平成14年(行ケ)第86号)の係属中の平成14年11月1日,本件訂正審判請求をしたが(訂正2002-39229号),平成15年4月16日,本件審判請求は成り立たないとの審決があり,その謄本は同月26日原告に送達された。 2 本件発明の要旨(本件訂正後の発明) (下線部分が実質的な訂正箇所。訂正前の請求項5,9を削除し,それに伴い,請求項番号が繰り上がっている。) 【請求項1】 精密洗浄あるいは 電子工業用 に使用 する オゾン 水製造方法 であって,放電型 オゾン 発生機 で発生 させた 加圧状態のオゾンガスを中空糸膜を介して被処理水に溶解するオゾン水製造方法において,前記中空糸膜の上流 に被処理水 の水圧及 び流量 を制御 する ポンプ を設け,中空糸膜内側の水圧をガス圧より高く維持し,よって オゾン 水中 の微細気泡 の量を低減 し,装置出口流量 を一定 に収めるように制御 し,かつ 処理水中 のオゾン 濃度 をオゾンガス 濃度 に基づき 制御 することを特徴とするオゾン水製造方法。 【請求項2】 精密洗浄あるいは 電子工業用 に使用 する オゾン 水製造方法 であって,放電型オゾン発生機で発生させた加圧状態のオゾンガスをポリ四弗化エチレン系の中空糸膜を介して被処理水に溶解するオゾン水製造方法において,前記中空糸膜の上流 に被処理水 の水圧及 び流量 を制御 する ポンプ を設け,中空糸膜内側の水圧をガス圧より高く維持し,装置出口流量を一定 に収めるように 制御 し,かつ 処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき放電電圧を変化させて制御することを特徴とするオゾン水製造方法。 【請求項3】前記水圧は,オゾンガス圧より0.1kg・f/cm2以上高くすることを特徴とする請求項1又は2記載のオゾン水製造方法。 【請求項4】 前請求項1,2又は3記載のオゾン水製造方法において,オゾン水を非製造時には,オゾン発生機入口から中空糸膜出口に至るガス配管内をドライガスでパージしておくことを特徴とするオゾン水製造方法。 【請求項5】 精密洗浄あるいは 電子工業用 に使用 する オゾン 水製造装置 であって,放電型オゾン発生機で発生させた加圧状態のオゾンガスをポリ四弗化エチレン系の多孔質中空糸膜を介して被処理水に溶解するオゾン水製造装置において,該中空糸膜の上流に中空糸膜内側の水圧を該オゾンガス圧より高く維持し,その水圧及び流量を制御するポンプを設けるとともに,装置出口流量を一定 に収めるように 制御し,かつ 処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度により放電電圧を変化させて制御する制御機構を設けたことを特徴とするオゾン水製造装置。 【請求項6】 前記ポンプは,無段階可変速制御方式のポンプであり,中空糸膜上流に流量計及び圧力計を設け,これらからの出力信号値を演算回路で処理して制御する制御機構を設けたことを特徴とする請求項5記載のオゾン水製造装置。 【請求項7】 前記オゾン濃度制御機構は,中空糸膜下流に設けたオゾン水濃度計と,該濃度計での測定値を処理する演算回路と,処理した値に基づいて放電型オゾン発生機の放電電圧を変化させる電圧可変装置とからなることを特徴とする請求項6記載のオゾン水製造装置。 以下において,「訂正発明1」などとあるのは,訂正後の請求項の番号に対応する。 3 審決の理由の要点(訂正後発明の独立特許要件に関する審決の理由) (1) 刊行物記載の発明(事項) (1)-1 刊行物1(特開平3-188988号公報,本訴甲4)には, (イ)「第2図において,純度の低下した超純水13をポンプ14,バルブ15,圧力計16,流量計17を介して,オゾン・・・溶解装置27に導入する。該オゾン23・・・を溶解した水」(4頁右上欄8行〜12行), (ロ)「第6図に示すように,ガス透過膜33により膜を介してオゾン23・・・を溶解させるならば,該オゾン・・・中の微粒子等の不純物を除去できる・・・。 ここで,前記ガス透過膜は酸素,窒素,水素,蒸気等のガスを透過し水を透過しない膜であり,一方に水を通水し,他方をガスで加圧するが,膜の素材としては・・・ポリ四弗化エチレン系・・・等の多孔質の疎水性膜を挙げることができる。・・・前記ガス透過膜は使用するガスの種類によりその素材を選択すればよく,オゾン23を含有するガスを用いる場合では,ポリ四弗化エチレン系の膜が好ましい。」(4頁左下欄13行〜同頁右下欄10行), (ハ)「限外ろ過装置の下流に圧力計16及びバルブ15を設ける。通常,半導体製造装置の入口圧は2kg/cm2であり,15及び16にて最適圧力に調整する。」(5頁右上欄14行〜17行), (ニ)「第9図中のガス透過膜33は,ポリ四弗化エチレン系の中空系であり,膜面積0.85m2,膜本数6500本のモジュールを用いた。このガス透過膜33の一方に被処理水を通水し,他方にオゾン濃度を500ppmのオゾン化空気を0.2kg/cm2,50N-ml/minで通気した。」(6頁左上欄10行〜15行) と記載され,また,第6図には, (ホ)「ガス透過膜33の内側にオゾン23を,ガス透過膜33の外側に純度の低下した超純水13を流すこと」が示されている。 これらの摘記事項,及び,第2図,第6図,第9図の記載からみて,刊行物1には, 「加圧状態のオゾンガス23を,ポリ四弗化エチレン系の多孔質中空系のガス透過膜33の内側に供給し,該ガス透過膜33を介して,ガス透過膜外側の純度の低下した超純水13に溶解してオゾン水を製造するに際して,該中空系のガス透過膜33の上流に流量計17,圧力計16,バルブ15,及びポンプ14を設けること」が記載されているものと認められる。 (1)-2 刊行物2(実公昭59-33461号公報,本訴甲5)には, (ヘ)「本考案は・・・疎水性多孔質中空糸を用いた気液接触炭酸ガス溶解装置と,該飲料水を該中空糸の内部又は外部へ炭酸ガスの圧力以上で供給する手段と,炭酸ガスを該中空糸の外部又は内部へ加圧供給する手段を有する飲料水への炭酸ガス溶解装置である。本考案に使用する中空繊維は,・・・ポリテトラフルオルエチレンなどの結晶性ポリマー・・・が好ましい。これらの高分子からなる中空繊維は,疎水性,耐薬品性,耐熱性に優れ極めて微細な互に連続した空孔を中空繊維壁に多数有する中空繊維状多孔質膜であって」(第2欄8行〜23行), (ト)「中空糸の両端は中空部が開口しており,入口1より入つた飲料水は中空糸の内部を通り弁6,7を取つて外部へ流れる。一方加圧炭酸ガスは入口2より中空糸の外壁部と容器5で形成される空間へ供給される。・・・炭酸ガスは中空糸の多孔膜を通して中空糸内部を流れる飲料水へ供給される。」(第3欄6行〜15行), (チ)「本考案においては,疎水性多孔質膜を界して水相側の圧力をガス相と同等又はそれ以上に保たなければならない。万一ガス相の圧が水相より高くなると膜を通して水相側にガスが気泡として浸入し」(第3欄21行〜24行)と記載されている。 これらの摘記事項からみて,刊行物2には, 「加圧状態の炭酸ガスを,ポリテトラフルオルエチレンからなる中空繊維状多孔質膜を介して飲料水に溶解するに際して,中空繊維状多孔質膜に飲料水を通し,中空繊維状多孔質膜内側の水圧をガス圧と同等又はそれ以上に維持して,気泡の浸入を防止すること」が記載されているものと認められる。 (1)-3 刊行物3(特開平5-23553号公報,本訴甲6)には, (リ)「膜式気液接触装置を用いて,気体・・・を液体に溶解させる場合往々にして,・・・液体に接する膜表面において気泡が発生することがあった。気体の発生は,特に隔膜に疎水性多孔質膜を使用し,かつ気体を加圧する条件で使用する場合に著しく・・・。・・・液体中に気泡が発生すると,気体抜きの弁を設ける必要が生じたり,膜が気泡で覆われて気液接触の有効膜面積が減じ,気体の溶解あるいは除去効率が低下する。・・・このため膜式気液接触装置の運転状態は,気泡を発生させないようにする」(第3欄10行〜30行), (ヌ)「膜式気体溶解法によって液体に気体を溶解させる場合,・・・液体の溶解気体濃度を高くするためには,気体圧力を高くすることが有利である。しかしながら,例えば,液体圧力を常圧に保ち,気体圧力を次第に上げてゆくと,最初は液体中に気泡が発生しない状態で気体が溶解するが,気体圧力を更に上げると少量の気泡が膜表面より発生し出し,さらに圧力を上昇させると,ついには多量の気泡が発生するいわゆる散気状態となる。」(第4欄19行〜28行), (ル)「本発明の膜は,気体側より水側の圧力を・・・やや高く・・・保った」(第5欄9行〜10行)と記載されている。 (1)-4 刊行物4(特開平6-31286号公報,本訴甲7)には, (ヲ)「本発明は,食品,医療等の各分野において殺菌,洗浄等に使用されるオゾン水を製造するオゾン水製造装置のオゾン水濃度制御装置に関するものである。」(2頁左欄12行〜15行), (ワ)「オゾナイザで発生させたオゾンガスと水とを混合させて,オゾン水処理槽に供給するオゾン水を製造する装置において,上記処理槽に,オゾン水のオゾン濃度を計測する濃度センサを設けるとともに,このセンサからの計測値に基づいて上記オゾナイザへの電力を位相制御して処理槽内のオゾン水濃度を所定の値に維持する制御器を設けたものである。」(2頁左欄47行〜同頁右欄3行), (カ)「図1〜図3において,1はオゾン水製造装置を示し,このオゾン水製造装置1は,圧縮機2からの空気から酸素を取り出す酸素発生装置3が接続されたオゾナイザ4と,そのオゾナイザ4からのオゾンガスと水とを混合させてオゾン水を生成するオゾンガス溶解装置5とから主に構成されている。・・・オゾナイザ4は,放電により酸素をオゾンガスにするもので,その放電電圧を変えると発生するオゾンガス量が増減するようになっている。・・・その発生したオゾンガスがポンプ6により加圧されてからオゾンガス溶解装置5の気液接触機構7に供給される。オゾンガス溶解装置5は,ポンプ8により加圧された水とオゾンガスを気液接触させる・・・気液接触機構7と・・・。」(2頁右欄20行〜39行), (ヨ)「処理槽10には,・・・オゾン水の濃度センサ13が接続されている。濃度センサ13は,・・・槽10内のオゾン水のオゾン濃度を計測し,この計測値を・・・電流信号に変換し,これを制御器14の支持調節計15(「指示調節計15」の誤記と認められる。)に出力するように構成されている。・・・制御器14は,センサ13からの信号と設定値の信号とを比較演算する指示調節計15と,上記オゾナイザ4への電力を指示調節計15からの制御出力(信号)に基づいて位相制御する電力調整器16とからなる。・・・電力調整器16は,オゾナイザ4に接続されその商用電源電圧を調整する」(2頁右欄49行〜3頁左欄18行) と記載されている。 これらの摘記事項及び【図1】〜【図2】の記載からみて,刊行物4には, 「食品,医療等の各分野において殺菌,洗浄等に使用するオゾン水製造方法であって,オゾナイザ4で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置で水に溶解するオゾン水製造方法において,前記オゾンガス溶解装置の上流にポンプ8を設け,かつオゾン水処理槽10中のオゾン水中のオゾン濃度をオゾンガス量に基づきオゾナイザ4の商用電源電圧を調整して制御するオゾン水製造方法。」以下,「刊行物4記載の発明A」という。), 「食品,医療等の各分野において殺菌,洗浄等に使用するオゾン水製造装置であって,オゾナイザ4で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置5で水に溶解するオゾン水製造装置において,前記オゾンガス溶解装置5の上流にポンプ8を設け,かつオゾン水処理槽10中のオゾン水中のオゾン濃度をオゾンガス量によりオゾナイザ4の商用電源電圧を調整して制御する制御器14を設けたオゾン水製造装置」の発明(以下,「刊行物4記載の発明B」という。),及び, 「食品,医療等の各分野において殺菌,洗浄等に使用するオゾン水製造装置であって,オゾナイザ4で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置5で水に溶解するオゾン水製造装置において,前記オゾンガス溶解装置5の上流にポンプ8を設け,かつオゾン水処理槽10中のオゾン水中のオゾン濃度をオゾンガス量によりオゾナイザ4の商用電源電圧を調整して制御する制御器14を設け,制御器14は,オゾンガス溶解装置5の下流に設けた処理槽10に接続したオゾン水の濃度センサ13と,該濃度センサ13での計測値を処理する指示調節計15と,処理した値に基づいてオゾナイザ4の商用電源電圧を調整させる電力調整器16とからなる,オゾン水製造装置」の発明(以下,「刊行物4記載の発明C」という。)が記載されているものと認められる。 (1)-5 刊行物5(社団法人化学工学協会編,新版化学工学辞典,丸善株式会社,昭和49年5月30日発行,347頁,本訴甲8)の「パージ purge」の項には, (タ)「装置又は流路に新しく流体を送入する場合,・・・他の不活性流体によってそれまで流れていた流体を追出す操作をいう。この操作は二流体の混合による反応あるいは爆発などの悪影響を防止するために行なわれる。したがって,反応装置の使用開始時並びに終了時,あるいは間欠操作の切換え時になどに行なわれる。」と記載されている。 (1)-6 刊行物6(実公昭63-18478号公報,本訴甲9)には, (レ)「可変速給水装置では,ポンプ速度制御信号出力部よりの出力の回転速度指令信号たとえば0〜10Vをうけて,ポンプの回転速度を変化させ,吐出側に圧力センサを設けるなどして給水圧力を一定に保つなどの制御を行うことが一般的である。」(第2欄2行〜7行)と記載されている。 (2) 訂正発明1についての対比・判断 訂正発明1と刊行物4記載の発明Aとを対比すると,刊行物4記載の発明Aの「オゾナイザ4」は,その技術的意義からみて,訂正発明1の「放電型オゾン発生機」に相当し,同様にして,刊行物4記載の発明Aの「水」は訂正発明1の「被処理水」に,刊行物4記載の発明Aの「ポンプ8」は訂正発明1の「ポンプ」に,刊行物4記載の発明Aの「オゾナイザ4の商用電源電圧を調整して制御する」は訂正発明1の「制御する」に,それぞれ相当する。そして,訂正発明1の「中空糸膜を介して」と刊行物4記載の発明Aの「オゾンガス溶解装置5で」とは,「オゾンガス溶解装置で」の限りで一致する。 してみれば,両者は, 「オゾン水製造方法であって,放電型オゾン発生機で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置で被処理水に溶解するオゾン水製造方法において,前記オゾンガス溶解装置の上流にポンプを設け,かつオゾン濃度を制御する,オゾン水製造方法」で一致し,以下の点で相違する。 【相違点1】訂正発明1は,オゾン水が精密洗浄あるいは電子工業用に使用するものであるのに対して,刊行物4記載の発明Aは,食品,医療等の各分野において殺菌,洗浄等に使用するものである点。 【相違点2】訂正発明1は,オゾンガス溶解装置が中空糸膜であって,オゾンガスが加圧状態のものであり,中空糸膜の上流に被処理水の水圧及び流量を制御するポンプを設け,中空糸膜内側の水圧をガス圧より高く維持し,よってオゾン水中の微細気泡の量を低減し,装置出口流量を一定に収めるように制御するのに対して,刊行物4記載の発明Aは,そのように特定されていない点。 【相違点3】訂正発明1は,処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき制御するのに対して,刊行物4記載の発明Aは,オゾン水処理槽10中のオゾン水中のオゾン濃度をオゾンガス量に基づき制御する点。 上記相違点1〜3等について,以下検討する。 【相違点1について】 オゾン水を精密洗浄あるいは電子工業用に使用することは,本件特許の出願前にオゾン水製造技術分野において周知の事項である(特開平6-292822号公報の第2欄13行〜27行,実願平5-18469号(実開平6-72695号)のCD-ROMの明細書3頁4行〜8行,特開平3-72993号公報の1頁右下欄17行〜19行,特開昭62-270408号公報の2頁右上欄15行〜17行を参照。)。そして,刊行物4記載の発明において,例えば,オゾン濃度の精度を敢えて低くしないと目的が達成されないというような,精密洗浄あるいは電子工業用に適用することを妨げる特段の事情も見当たらない。 してみると,刊行物4記載の発明のオゾン水製造方法を,精密洗浄用あるいは電子工業用に使用することは,当業者が容易に想到し得ることである。 請求人(原告)は,相違点1につき,(i)刊行物4記載の発明は,要求されるオゾン濃度の精度が,精密洗浄用あるいは電子工業用には全く使用できるようなものではなく,しかも,(ii)オゾン水溶解装置により生成されるオゾン水のオゾン濃度自体を一定にするものではないから,精密洗浄用あるいは電子工業用に使用することには阻害要因がある旨主張する。 そこで,上記請求人の主張について検討するに,(i)刊行物4に記載されるオゾン水の使用分野としての「食品,医療等の各分野」において要求されるオゾン濃度の精度が,請求人の主張するように,一般に精密洗浄用あるいは電子工業用で要求される精度に比べて低いもので足りるものであるとしても,それは,技術上の問題でなく,むしろ経済上の問題であって,双方とも,程度の差があっても要求される精度で制御すべきものであることは明らかである。なお,(ii)そもそも「処理水」は,「洗浄等の処理に用いられるオゾン水」であって,オゾン水製造段階であって処理前のオゾン水とともに,刊行物4記載の発明のように,処理に使用中のオゾン水をも意味するというべきである。そして,仮に,訂正発明1でいう「処理水」が「処理に使用中のオゾン水」を意味しないとしても,オゾン水製造段階であって,処理に使用する前のオゾン水のオゾン濃度を制御することが従来周知であって(特開昭56-140002号公報の3頁左上欄9行〜11行を参照),刊行物4記載の発明においてもそのようにすることを阻害する事情は見いだせない。 したがって,上記請求人の主張は採用できない。 【相違点2について】 刊行物1には,「加圧状態のオゾンガス23を,ポリ四弗化エチレン系の多孔質中空系のガス透過膜33に供給し,該ガス透過膜33を介して,・・・被処理水13に溶解してオゾン水を製造するに際して,該中空系のガス透過膜33の上流に流量計17,水圧を制御する,圧力計16及びバルブ15,並びにポンプ14を設けること」が記載されており,上記刊行物1記載の「ポリ四弗化エチレン系の多孔質中空系のガス透過膜33」は,膜面積0.85m2,膜本数6500本のモジュールからなるものであって(上記の摘記事項(ニ)参照),訂正発明1の「中空糸膜」というべきものであるから,刊行物1には,「オゾンガスを中空糸膜を介して被処理水に溶解してオゾン水を製造するに際して,オゾンガスを加圧状態とし,中空糸膜の上流に被処理水の水圧及び流量を制御するポンプを設ける」との技術的事項が示されているものといえる。 また,ガスを被処理水に溶解させるに際して,ガスを加圧状態とするとともに被処理水を中空糸膜内側に通すこと,また,中空糸膜内側の水圧をガス圧と同等又はそれ以上に維持して気泡が混入しないように設けることは,刊行物2,3に記載若しくは示唆されている。そして,半導体ウエハ等の精密洗浄時に,気泡が存在すると処理ムラが発生すること,また,半導体洗浄等に用いるオゾン水にオゾンガスの気泡が残存することが好ましくないことは,従来周知である(前者については,特開平6-252120号の【0006】,特開平6-151404号公報の【0011】を,後者については,実願平5-18469号(実開平6-72695号)のCD-ROMの明細書の【0010】,特開平3-72993号公報5頁左上欄20行〜同頁右上欄3行,同頁右下欄1行〜2行を参照)。 さらに,半導体,電子部品等の精密洗浄で使用する洗浄液の供給流量を一定に保持することも従来周知である(特開平6-252117号公報の【0016】,特開平3-142831号公報の3頁左上欄18行〜19行,特開平4-198717号公報の3頁左下欄3行〜14行,特開平5-15860号公報の【0001】,【0008】を参照)。 以上のことを考慮すれば,刊行物4記載の発明Aに,該発明と同じく,「ガスを被処理水に溶解させる」技術に属する刊行物1〜3記載の事項を組み合わせ,さらに,上記周知の技術を勘案して,被処理水をガス溶解装置である中空糸膜の内側に通し,オゾンガスを加圧状態のものとし,中空糸膜の上流に設けたポンプによって,被処理水の水圧及び流量,並びにオゾン水の流量を制御するとともに,中空糸膜内側の水圧をガス圧より高く維持し,よってオゾン水中の微細気泡の量を低減し,装置出口流量を一定に収めるようにすることは,当業者が容易になし得ることと認められる。 なお,請求人は,相違点2に関して,以下(i)〜(iii)の旨主張している。 (i) 刊行物1記載の発明は,超純水を製造するものであって,オゾン水を製造するものではないから,刊行物1に「オゾン水を製造するに際して,中空糸膜の上流に被処理水の水圧及び流量を制御するポンプを設ける」との技術事項が示されているとの点は誤りである。 (ii) 刊行物3には,ガス圧が高いほど気泡が混入しやすく,ガス圧が低いほど気泡が混入しにくいとの開示はあるが,単なる一般的な傾向を述べているだけで,水圧とガス圧との大小関係については全く開示されていない。また,刊行物2記載の発明と訂正発明1とは,ガスの種類が,前者では炭酸ガスであるのに対して訂正発明1ではオゾンガスである点,技術分野が,前者では飲料水であるのに対して訂正発明1では精密洗浄あるいは電子工業用である点,解決しようとする課題が,前者では逆流の恐れであるのに対して訂正発明1では処理表面上のムラの発生である点の3点で相違する。したがって,刊行物2,3記載の技術は刊行物4記載の発明から遠い技術であって,それらを組み合わせることは容易ではない。 (iii) 精密洗浄あるいは電子工業において,オゾン水供給量を一定に保持することには技術的意義があるのに,引用例を示すことなく,「オゾン水供給量を一定に保持することが必要な場合があることも従来周知である」としている。 そこで,以下検討するに,(i)刊行物1の摘記事項(イ)〜(ホ),第2図,第6図,第9図の記載から,オゾン水を製造する技術が認識,把握できること,(ii)刊行物3には,水圧とガス圧との大小関係についても記載されており(摘記事項(ル)を参照),また,上述したように,半導体洗浄等の用いるオゾン水に気泡が混入しないように設けることは従来周知の課題であり,しかも,刊行物4記載の発明と刊行物2,3記載の事項とは,「ガスを水に溶解する方法」という共通する技術分野に属し,しかも,それらを組み合わせることを妨げる事情がないことから,刊行物4記載の発明に刊行物2,3記載の事項を組み合わせることは当業者が容易になし得ることといわざるを得ないこと,(iii)上述のとおり,半導体,電子部品等の精密洗浄で使用する洗浄液の供給流量を一定に保持することが従来周知であることを示す周知例を例示していることから,上記請求人の主張は採用できない。 【相違点3について】 オゾナイザは原料ガス(酸素あるいは空気など)中のすべての酸素をオゾンに変化させるものではないことはよく知られており(特開平1-275402号公報の4頁左上欄16行〜同頁右上欄1行,特開昭53-138993号公報の1頁右下欄7行〜13行,化学大辞典,共立出版株式会社,昭和53年9月10日縮刷版第22刷発行,「オゾン発生器」の項を参照),通常オゾナイザでの電力位相制御に伴い原料酸素ガスがオゾンに変化する量が増減するのであるから,結局オゾナイザから供給されるオゾン含有ガス(オゾン及び原料ガス混合物)中のオゾンの濃度(オゾン供給量)が増減することになる。そうであるから,刊行物4に記載の制御とは,被処理水へ供給するガス中のオゾン濃度を制御することによってオゾン水濃度を制御することであり,訂正発明1の制御(処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき制御)と何ら異なるものではない。 【作用効果について】 そして,訂正発明1の作用効果は,刊行物4記載の発明A,刊行物1〜3記載の事項,及び,周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別のものではない。 (3) 訂正発明1についてのむすび したがって,訂正発明1は,刊行物4記載の発明A,刊行物1〜3記載の事項,及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に違反するものであるから,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 (4) 審決のむすび 以上のとおりであるから,本件審判の請求は,特許法134条5項において準用する,平成6年法律第116号附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる旧法126条3項の規定に違反するものである。 よって,結論のとおり審決する。 (5) なお,訂正発明2〜7の独立特許要件についても検討するに,その結果を以下に付言する。 〈訂正発明2について〉 訂正発明2と刊行物4記載の発明Aとを対比すると,刊行物4記載の発明Aの「オゾナイザ4の商用電源電圧を調整して制御する」は訂正発明2の「放電電圧を変化させて制御する」に相当するから,両者は,「オゾン水製造方法であって,放電型オゾン発生機で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置で被処理水に溶解するオゾン水製造方法において,前記オゾンガス溶解装置の上流にポンプを設け,かつオゾン濃度を制御する,オゾン水製造方法」で一致し,以下の点で相違する。 【相違点1】訂正発明2は,オゾン水製造方法が精密洗浄あるいは電子工業用に使用するものであるのに対して,刊行物4記載の発明Aは,食品,医療等の各分野において殺菌,洗浄等に使用するものである点。 【相違点2′】訂正発明2は,オゾンガス溶解装置がポリ四弗化エチレン系の(注:上記相違点2に追加された事項)中空糸膜であって,オゾンガスが加圧状態のものであり,中空糸膜の上流に被処理水の水圧及び流量を制御するポンプを設け,中空糸膜内側の水圧をガス圧より高く維持し,装置出口流量を一定に収めるように制御するのに対して,刊行物4記載の発明Aは,そのように特定されていない点。 【相違点3】訂正発明2は,処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき制御するのに対して,刊行物4記載の発明Aは,オゾン水処理槽10中のオゾン水中のオゾン濃度をオゾンガス量に基づき制御する点。 相違点1,3については,既に検討したとおりである。 そこで,相違点2′につき検討するに,オゾンガス溶解装置としてポリ四弗化エチレン系の中空糸膜を用いる点は,刊行物1〜3に記載されており,残余の点は,相違点2についての検討で述べたとおりである。 そして,訂正発明2の作用効果は,刊行物4記載の発明A,刊行物1〜3記載の事項,及び,周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって,格別のものではない。 したがって,訂正発明2は,刊行物4記載の発明A,刊行物1〜3記載の事項,及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に違反するものであるから,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 〈訂正発明3について〉 訂正発明3は,訂正発明1又は訂正発明2の構成に欠くことができない事項に加えて,「水圧をオゾンガス圧より0.1kg・f/cm2以上高くすること」を,その発明の構成に欠くことができない事項とするものであるが,刊行物4記載の発明Aは,上記「水圧をオゾンガス圧より0.1kg・f/cm2以上高くする」との事項を備えるように特定されていない。 しかしながら,中空糸膜内側の水圧をガス圧以上に維持して,気泡が混入しないように設けることは,上述したとおり,刊行物2,3に記載若しくは示唆されており,してみれば,刊行物4記載の発明Aに刊行物2,3に記載若しくは示唆される事項を組み合わせるに際して,気泡の混入防止効果を勘案しながら水圧とオゾンガス圧との最適関係を求め,訂正発明3のようにすることは,当業者が容易になし得ることである。 そして,訂正発明3の作用効果は,訂正発明1と同様に,刊行物4記載の発明A,及び,刊行物1〜3記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものである。 したがって,訂正発明3は,刊行物4記載の発明A,刊行物1〜3記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に違反するものであるから,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 〈訂正発明4について〉 訂正発明4は,訂正発明1,2又は3の構成に欠くことができない事項に加えて, 「オゾン水を非製造時には,オゾン発生機入口から中空糸膜出口に至るガス配管内をドライガスでパージしておくこと」を,その発明の構成に欠くことができない事項とするものであるが,刊行物4記載の発明Aは,上記パージについての事項を備えるように特定されていない。 ところで,流体を送入する装置,管路の技術分野において,流体送入の終了時等に不活性流体でパージすることは,刊行物5に記載されていると認められるから(上記の摘記事項(カ)を参照),刊行物5記載の事項と同じく,流体を送入する装置,管路の技術分野に属し,オゾン水の非製造時に配管内を清浄に保つ必要があることが明らかな,刊行物4記載の発明Aに,上記刊行物5記載の事項を組み合わせ,訂正発明4のように構成することは,当業者が容易になし得ることである。 そして,訂正発明4の「オゾン発生器放電部の劣化,系内への不純物混入を防止しガス側での不純物増加を制御する。」(訂正明細書の【0012】参照)との作用効果は,刊行物5記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものである。 したがって,訂正発明4は,刊行物4記載の発明A,刊行物1〜3,5記載の事項,及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に違反するものであるから,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 〈訂正発明5について〉 訂正発明5と刊行物4記載の発明Bとを対比すると,刊行物4記載の発明Bの「オゾン濃度をオゾナイザ4の商用電源電圧を調整して制御する制御器14」は訂正発明5の「オゾン濃度を放電電圧を変化させて制御する制御機構」に相当するから,両者は,「オゾン水製造装置であって,放電型オゾン発生機で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置で被処理水に溶解するオゾン水製造装置において,オゾンガス溶解装置の上流にポンプを設け,オゾン濃度を放電電圧を変化させて制御する制御機構を設けた,オゾン水製造装置」で一致し,上記相違点1,2′,3と実質的に同じ相違点で相違する。 ところで,相違点1,2′,3については,既に検討したとおりである。 そして,訂正発明5の作用効果は,刊行物4記載の発明B,及び,刊行物1〜3記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものである。 したがって,訂正発明5は,刊行物4記載の発明B,刊行物1〜3,5記載の事項,及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に違反するものであるから,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 〈訂正発明6について〉 訂正発明6は,訂正発明5の構成に欠くことができない事項に加えて,「ポンプは,無段階可変速制御方式のポンプであり,中空糸膜上流に流量計及び圧力計を設け,これらからの出力信号値を演算回路で処理して制御する制御機構を設けたこと」を,その発明の構成に欠くことができない事項とするものである。 ところで,刊行物1には,中空糸膜33の上流の被処理水の供給路にポンプ14,バルブ15に加えて流量計17,圧力計16を設けることが記載されている。 そして,ガスを中空糸膜を介して被処理水に溶解するに際して,水圧をガス圧より高く維持するために被処理水の水圧,流量を制御することは,刊行物2,3に記載されている(刊行物2の第3欄38行〜41行,刊行物3の【0033】等を参照)。そして,刊行物6には,水圧を一定に保持するための無段階可変速制御方式のポンプが記載されている。 してみれば,刊行物4記載の発明Bに刊行物1記載の事項を組み合わせるに際して,刊行物4記載の発明Bと技術分野を共通にする刊行物2,3記載の事項,刊行物6記載の事項を併せて適用して,訂正発明6のようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであり,しかも,それによる作用効果は,刊行物1,6記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものである。 したがって,訂正発明6は,刊行物4記載の発明B,刊行物1〜3,6記載の事項,及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に違反するものであるから,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 〈訂正発明7について〉 訂正発明7は,訂正発明5の構成に欠くことができない事項に加えて,「オゾン濃度制御機構は,中空糸膜下流に設けたオゾン水濃度計と,該濃度計での測定値を処理する演算回路と,処理した値に基づいて放電型オゾン発生機の放電電圧を変化させる電圧可変装置とからなること」を,その発明の構成に欠くことができない事項とするものである。 そこで,訂正発明7と刊行物4記載の発明Cとを対比すると,刊行物4記載の発明Cの「処理槽10に接続したオゾン水の濃度センサ13」は訂正発明7の「オゾン水濃度計」に,刊行物4記載の発明Cの「濃度センサ13での計測値を処理する指示調節計15」は訂正発明7の「濃度計での測定値を処理する演算回路」に,刊行物4記載の発明Cの「オゾナイザ4の商用電源電圧を調製させる電力調整器16」は訂正発明7の「放電型オゾン発生機の放電電圧を変化させる電圧可変装置」に,それぞれ相当するものであるから,刊行物4記載の発明Cは,訂正発明7で追加された事項をすべて具備している。 |
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原告主張の審決取消事由
1 訂正発明1の取消事由1(一致点についての認定の誤り) 審決は,訂正発明1と刊行物4記載の発明Aとの一致点として,両者は,「オゾン水製造方法であって,放電型オゾン発生機で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置で被処理水に溶解するオゾン水製造方法において,前記オゾンガス溶解装置の上流にポンプを設け,かつオゾン濃度を制御する,オゾン水製造装置」で一致するとしている。 しかし,審決は,「オゾン濃度を制御する」の意味につき,訂正発明1にいう処理水中のオゾン濃度を一定にするために「処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき制御する」という意味と,刊行物4記載の発明Aにいう「処理槽内のオゾン水濃度を所定の値に維持するためにオゾン水溶解装置により生成されたオゾン水の濃度を変化させて制御する」という意味の両方を含み,この両者を実質的に同じものと捉えており,その点において誤りである。 つまり,刊行物4記載の発明Aは,オゾンガス溶解装置により「水」にオゾンガスを溶解してできた「処理水」を一定の濃度とするものではなく,あくまで処理槽内のオゾン水濃度を所定の値に維持するもので,したがって,「処理水」のオゾン濃度は当然に変化するものであり,しかも,その精度は,野菜などが処理される「処理槽内」の濃度維持という,それほど高度のものが要求されるものではない。 それに対し,訂正発明1にいう「処理水中のオゾン濃度を制御する」とは,「被処理水」にオゾンガスを溶解してできた「処理水」の濃度を一定のものとするものであり,しかも,その精度は,精密洗浄あるいは電子工業用に使用するもので,非常に高度の精度が要求されるものである点で,技術的に異なるものである。 2 訂正発明1の取消事由2(相違点1についての判断の誤り) 審決は,訂正発明1と刊行物4記載の発明Aについての相違点1に関し,刊行物4記載の発明のオゾン水製造方法を,精密洗浄用あるいは電子工業用に使用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとしたが,誤りである。 確かに,オゾン水を精密洗浄あるいは電子工業用に使用すること自体は,本件特許出願前において周知の事項であったとしても,訂正発明1は,そのような精密洗浄あるいは電子工業用に使用するオゾン水の,従来にない製造方法及び装置の発明なので,それだけで刊行物4記載の発明を半導体の精密洗浄や電子工業用に適用するとの結論が導かれるわけではない。特に,刊行物4記載の発明は,上記一致点の項で明らかにしたように,訂正発明1を含め,半導体の精密洗浄や電子工業用に使用されるオゾン水自体のオゾン濃度を一定に制御するオゾン水製造技術とは異なり,その意味からも刊行物4記載の発明を半導体の精密洗浄や電子工業用に適用することができない。 審決は,刊行物4記載の発明は,要求されるオゾン濃度の精度が,精密洗浄用あるいは電子工業用には使用できるようなものではないとの原告主張に対して,刊行物4に記載されるオゾン水の使用分野としての「食品,医療等の各分野」において要求されるオゾン濃度が,一般に精密洗浄用あるいは電子工業用で要求される精度に比べて低いもので足りるものであるとしても,それは,技術上の問題ではなく,むしろ経済上の問題であって,双方とも,程度の差があっても,要求される精度で制御すべきものであるとしている。 しかしながら,刊行物4の実施例には,処理槽10内のオゾン濃度はオゾン水濃度センサ13により測定されるが,この測定濃度は,刊行物処理槽10の構成及び明細書の記載からも明らかなように,処理槽10は野菜などが存在し,しかもオゾン水,オゾンガスが同時に存在する液体・気体・固体(野菜等)が混合した容器におけるオゾン濃度である。このような容器の系においては,一口にオゾン水濃度といっても,容器系の圧力,容器系の温度によって,オゾンガスの飽和蒸気圧が異なるために,オゾン水濃度は例えば野菜を一つ入れただけでも大きな変動を起こすことは明らかである。つまり刊行物4記載の発明からは,訂正発明1の精密洗浄あるいは電子工業用に使用するオゾン水のオゾン濃度を制御するような技術は想定不可能である。すなわち,両者においては,技術的意味で明らかな相違があり,技術上の問題が存在していることは明らかであるのに,それを単に経済的な問題として片づけてしまうことは許されない。 また,訂正発明1にいう「処理水」とは,あくまで半導体の精密洗浄用あるいは電子工業用に使用する「処理水」を意味し,刊行物4記載の発明のように,オゾン水の満ちた処理槽の中に半導体等を浸けるようなものなど予想したものではないことは当然である。したがって,訂正発明1にいう「処理水」が,処理槽の中に満ちたオゾン水すなわち「処理に使用中のオゾン水」などを含まないことは明らかである。 なお,審決は,仮に訂正発明1でいう「処理水」が「処理に使用中のオゾン水」を意味しないとしても,オゾン水製造段階であって,処理に使用する前のオゾン水のオゾン濃度を制御することが従来周知であるから,刊行物4記載の発明においてもそのようにすることを阻害する事情は見いだせないとしているが,刊行物4記載の発明は,処理槽内の負荷が変化しても処理槽内のオゾン濃度を所定の値に維持しようとするものであり,処理槽内に供給するオゾン水自体のオゾン濃度を一定に維持することでは制御できないものであるから,洗浄等に使用するオゾン水自体のオゾン濃度を一定に維持する技術とは異なるものである。したがって,処理に使用する前のオゾン水のオゾン濃度を一定に維持するように制御する技術を,刊行物4記載の発明に結びつけることは,技術的に意味がない。 いずれにせよ,刊行物4記載の発明は,処理槽内のオゾン水濃度を所定の値に維持するために,オゾン水溶解装置により生成されたオゾン水の濃度を変化させ,それにより処理槽内のオゾン水濃度を所定の値に維持しようとするものであるのに対し,精密洗浄用あるいは電子工業用に使用するオゾン水は,オゾン水溶解装置により生成されるオゾン水のオゾン濃度自体が常に一定でなければならないのである。 また,刊行物4記載の発明は,処理槽内に入れた野菜などの食品等の殺菌処理のため,処理槽内のオゾン水の濃度を所定の値に維持するものであるから,そこでいうオゾン水の濃度を所定の値に維持するとは,殺菌等を行うためにオゾン水の濃度をある範囲に維持できればよく,半導体製造などの精密洗浄用あるいは電子工業用におけるような,オゾン水のオゾン濃度をほぼ一定に保つというシビアな条件が要求されるものとは異なることは明らかである。このように明らかな技術上の相違があるものを,単に経済上の問題で程度の差にすぎないなどと結論づけられないのは当然である。 刊行物4記載の発明のオゾン水製造方法を,半導体製造などの精密洗浄用あるいは電子工業用に使用することなどできないことは明らかであり,阻害要因がある。 3 訂正発明1の取消事由3(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,訂正発明1と刊行物4記載の発明Aとの相違点2について,刊行物4記載の発明Aに,刊行物1〜3記載の事項を組み合わせ,さらに周知の技術を勘案すれば,相違点2については当業者が容易になし得ることと認められるとしたが,誤りである。 (2) 刊行物1記載の発明は,電子工業,医薬品工業等に用いられる超純水の製造に係り,特に,純水又は超純水を再度処理して極めて高純度の超純水を製造する精製方法及び装置に関するものであって,「オゾン水」の製造についてのものではなく,訂正発明1と相違する。 刊行物1記載の発明は,被処理水中のオゾン濃度の制御について不明であって,訂正発明1のように精密洗浄あるいは電子工業用に使用するオゾン水製造における均一処理要請のための流量,圧力を所定範囲内に収めるように制御することは記載も示唆もされておらず,訂正発明1と相違する。 (3) 審決は,刊行物1の記載摘示の箇所では,「加圧状態のオゾンガス23を,ポリ四弗化エチレン系の多孔質中空系のガス透過膜33の内側に供給し」としていたものを,訂正発明1についての対比・判断においては,「加圧状態のオゾンガス23をポリ四弗化エチレン系の多孔質中空系のガス透過膜33に供給し,..」として,「の内側に」という文言を殊更省略している。審決は,刊行物1記載の発明のオゾン溶解装置が,「多孔質中空系のガス透過膜を使用したものについては,純水の中に多孔質中空系のガス透過膜を入れ,その膜の内側にオゾンガスを通すもの」であるのに対し,訂正発明1のものは,「中空糸膜内側には被処理水を通し,オゾンガスは中空糸膜の外側を通すもの」である点で,技術的な意味では,刊行物1のものとは逆となっている点を無視している。 訂正発明1では,求めるものがオゾン水であるため,オゾンによる悪影響があって,中空糸膜の下流に限外ろ過膜を設けることができず,しかも,中空糸膜を製造する上で,紡糸ノズルから紡糸された中空糸膜は,外側は大気に触れ不純物が含まれやすいのに対し,内側はあまり大気に曝されることがなく不純物が少なく,更に中空糸膜を束ねてモジュールを製造する段階では,中空糸膜の外側は種々の不純物による汚染を受けるのであって,不純物のないオゾン水を得るためには,中空糸膜の内側に水を通すことが重要な意味を有するのであり,審決はこの相違点を無視している。 (4) 刊行物1について,審決は,「(i)刊行物1の摘記事項(イ)〜(ホ),第2図,第6図,第9図の記載から,オゾン水を製造する技術が認識,把握できる」としている。確かに刊行物1記載の発明には,プロセスの途中で一時的にオゾン水となる工程が含まれており,これらの指摘はこの部分を指しているものと解されるが,それはあくまで超純水の製造のための一過程にすぎず,オゾン水を製造するためのものではなく,したがって,オゾン水単体を取り出すためのものではない。仮に取り出せたとしても,それは,微細気泡や不純物を含まず,なおかつ,濃度及び流量,圧力を一定に制御できるようなものではない。したがって,刊行物1の内容として「被処理水13に溶解してオゾン水を製造するに際して,」と記載するのは誤りである。 (5) 審決は,刊行物1の内容の記載として,「流量計17,水圧を制御する,圧力計16及びバルブ15,並びにポンプ14を設けること」ということを挙げている。しかしながら,刊行物1記載の発明では,純水をオゾン溶解装置に送り込むポンプは,訂正発明1のように,中空糸膜内側の水圧をガス圧より高く維持するような,水圧や流量を制御するようなものでなく,単に溶解装置に送り込むだけのものにすぎない。 (6) 審決は,刊行物1の内容を,上記のように不正確にまとめた後,刊行物1記載の「ポリ四弗化エチレン系のガス透過膜33」は,膜面積0.85m2,膜本数6500本のモジュールからなるものであって,訂正発明1の「中空糸膜」というべきものであるから,刊行物1には,「オゾンガスを中空糸膜を介して被処理水に溶解してオゾン水を製造するに際して,オゾンガスを加圧状態とし,中空糸膜の上流に被処理水の水圧及び流量を制御するポンプを設ける」との技術的事項が示されているものといえるとしている。 しかし,このまとめも刊行物1についての不正確な内容を前提としたものであり,被処理水を中空糸膜の内側に通すのか否か不明確であり,しかもオゾン水を製造するものであることを前提としていること,及び単に純水を送り込むポンプを,あたかも訂正発明1同様水圧を制御するためのものであるかのように記載している点において誤りあるいは不正確である。 (7) 審決は,「被処理水をガス溶解装置である中空糸膜」は刊行物1に基づき,「の内側に通し」については刊行物2に基づき,「オゾンガスを加圧状態のものとし」については刊行物3に基づき,「中空糸膜の上流に設けたポンプ」については刊行物1及び4に基づき,「中空糸膜内側の水圧をガス圧より高く維持し」については刊行物2に基づき,「よってオゾン水中の微細気泡の量を低減し,」については刊行物2に基づきそれぞれ認め,そもそも訂正発明1のような精密洗浄や電子工業用に使用するオゾン水製造のためには,技術的に使用することができない刊行物4の発明を基に,この刊行物4記載の発明と「ガスを被処理水に溶解させる」技術として同じであるとして,適当に組み合わせて,訂正発明1との相違点2については当業者が容易になし得ると結論づけるのは,関連性の薄い技術の断片をモザイク的につなぎ合わせてすべての構成が示されればよいというに等しく,容易性の判断を誤っている。 (8) 特に,刊行物2に関しては,そこに記載された発明と訂正発明1とでは,少なくとも以下の3点で異なっていることは明らかである。 i.訂正発明1では,対象がオゾンとオゾンが溶解したオゾン水であるのに対して,刊行物2記載の発明では対象が炭酸ガスと炭酸ガスが溶解した水である。 ii.訂正発明1では,その利用分野あるいは技術分野が「精密洗浄あるいは電子工業用」であるのに対して,刊行物2記載の発明では分野が飲料水である。 iii.訂正発明1では,解決しようとする課題が「(被処理水中に微細気泡が残存し,電子工業,精密機械加工分野などでオゾン水を利用した場合,)処理表面上にムラを生じる原因と成り,好ましくない。」ことであるのに対し,刊行物2記載の発明では課題が「(万一ガス相の圧が水相より高くなると膜を通して水相側にガスが気泡として侵入し)水相を逆流される恐れがある。」ことである。すなわち課題が異なる。 このように,訂正発明1に対して刊行物2記載の発明は,十分に遠い技術である。 4 訂正発明1の取消事由4(相違点3についての判断の誤り) (1) 刊行物4の制御は,「被処理水へ供給するオゾンガス量を放電電圧によって増減しポンプによって加圧し,被処理水とオゾンガスを気液接触させてオゾンガスを被処理水に溶解し,冷却及び気液分離を行う冷却機構9の液層オゾン濃度,及び処理槽10内のオゾン水のオゾン濃度を制御するもの」である。これに対し,訂正発明1の制御をこれに合わせてみると,「被処理水へ供給する加圧状態のオゾンガス濃度を放電電圧によって増減して,被処理水とオゾンガスを気液接触させてオゾンガスを被処理水に溶解し,処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき制御するもの」である。 すなわち,刊行物4の図2によれば,気液接触機構7において水に溶解しなかったオゾンガス,オゾンガスが水に溶解した処理水,は気液接触機構7からのオゾン水を冷却してオゾンガスに溶解させるとともに気液分離を行う冷却機構9に導入される。 オゾンガス溶解装置5を出たオゾン水とオゾンガスは分離した状態でオゾン水処理槽10に導入される。刊行物4でオゾン水濃度センサが存在するのはこのオゾン水処理槽10である。刊行物4記載のものでは,オゾン水処理槽10に野菜などを投入した際には,オゾンガスが存在する体積が減少し,オゾンガス分圧が高くなり,その結果,野菜に吸収・分解されるオゾン成分の複雑な系を無視すると該処理槽10中のオゾン水濃度は高くなるといえるが,実際には野菜によるオゾン成分の吸収・分解が存在するので,オゾナイザ4への電力供給で該処理槽10のオゾン水濃度を制御するとしても大変粗っぽい制御精度しか得られない。 (2) これに対して訂正発明1では,制御対象である「処理水中のオゾン濃度」は気液接触部である中空糸6での「オゾンガス濃度」によってのみコントロールされている。オゾンガスが水に溶解するのは中空糸膜の一箇所であり,そこでのオゾンガス濃度の制御によって処理水中のオゾン濃度を精密に制御できるのである。 つまり,訂正発明1では刊行物4記載の発明と同様にヘンリーの法則に支配されるものの,処理水中のオゾン濃度は負荷に依存しないでオゾンガス濃度のみにより制御されるから,刊行物4の制御と訂正発明の制御とでは,本質的に異なる。 制御の目的も,刊行物4の制御では,殺菌槽の濃度を一定以上保てばよく,供給濃度は変動してもかまわない程度の制御であるのに対し,訂正発明1では対象物にオゾン水が接触するときの濃度を一定に保つ必要があり,そのためにオゾン水の供給濃度を一定にすることが必要となる制御である。したがって,制御の目的も大きく異なる。 いずれにしても,刊行物4記載のものは,被処理水へ供給するオゾンガス量を放電電圧によって増減し,ポンプによって加圧し,被処理水とオゾンガスを気液接触させてオゾンガスを被処理水に溶解し,冷却及び気液分離を行う冷却機構9の液層オゾン濃度,及び処理層10内のオゾン水のオゾン濃度を制御するもので,被処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき制御する訂正発明1のものとは異なる。 5 訂正発明1の取消事由5(作用効果についての判断の誤り) 審決の作用効果に関する認定は,引用例の記載を具体的に指摘せず,どの引用例のどのような記載から予測可能な範囲内のものであるといえるのか不明である。訂正発明1のように,高純度の水質を要求する電子工業等に用いるオゾン水で,処理水中に微細気泡並びに不純物を含まず,なおかつ一定の濃度のオゾン水を一定圧力,一定水量で供給することができるとの効果については,いずれの引用例にも具体的な記載はなく,これらの引用例から当業者が予測可能な範囲内のものであるとした審決の認定は,誤りである。 6 訂正発明2〜7についての取消事由 訂正発明2以下についての審決の一致点,相違点の判断は,訂正発明1についての誤った一致点の認定,相違点1〜3の判断を前提とするものであり,誤りである。 |
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当裁判所の判断
1 訂正発明1の取消事由1(一致点についての認定の誤り)について 訂正発明1の特許請求の範囲1には,「..処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき放電電圧を変化させて制御する」と記載されており,「制御」の内容については具体的に限定されておらず,「処理水」の(オゾン)濃度を一定のものとする点についても,記載はない。 一方,刊行物4(甲7)には,以下の記載がある。 @ 「図1〜図3に示すように,オゾナイザ4からのオゾンガスと水とがオゾンガス溶解装置5で混合されてオゾン水が生成され,このオゾン水がオゾン水処理槽10に供給される。」(【0017】) A 「その処理槽10内のオゾン水のオゾン濃度がオゾン水濃度センサ13により計測され,この計測値が電流信号に変換されて制御器14に出力される。制御器14は,計測値と設定値とを指示調節計15のPIDコントローラ17にて比較演算して制御信号を発生させる。..演算制御をPID制御としたので,制御信号が急激に変化することが防止され,なめらかな制御を行うことができる。」(【0018】) B 「例えば,処理槽10の負荷が小さくなって,そのオゾン濃度が設定値より高くなると,オゾナイザ4への電力がその濃度に応じて少なくなるように電力調整器16が作動される。これにより,オゾナイザ4で発生するオゾンガス量が減ってオゾン濃度が低いオゾン水が製造され,その結果,処理槽10内のオゾン水濃度が設定値に維持される。また,処理槽10の負荷が大きくなる場合には,オゾナイザ4への電力が適宜多くなり,処理槽10内へオゾン濃度の濃いオゾン水が供給されて,処理槽10内のオゾン水濃度が設定値に維持される。」(【0019】) C 「したがって,処理槽10内のオゾン水のオゾン濃度を計測し,この計測値に基づいて制御器14がオゾナイザへの電力を制御することにより,処理槽10内のオゾン水濃度が設定値に維持されるため,手動操作をしなくても自動的に処理槽10の負荷に応じたオゾン水が製造されることになる。」(【0020】) これらの記載事項によれば,刊行物4記載の発明においては,処理槽10内の負荷に応じて,オゾナイザ4への電力供給を制御し,処理槽10へ供給するオゾン水のオゾン濃度を変化させて,結果的に処理槽内におけるオゾン水のオゾン濃度が一定値を維持するように制御している。ここで,処理槽10内の水は,野菜などの食品等を殺菌処理するのに使用されるのであるから,「処理水」といってもよいことは明らかである。してみれば,刊行物4記載の発明は,「処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき放電電圧を変化させて制御する」点で,訂正発明1と一致しており,審決が両者の一致点として,「オゾン水製造方法であって,放電型オゾン発生機で発生させたオゾンガスをオゾンガス溶解装置で被処理水に溶解するオゾン水製造方法において,前記オゾンガス溶解装置の上流にポンプを設け,かつオゾン濃度を制御する,オゾン水製造装置」と認定した点に誤りはない。 原告は,訂正発明1における処理水は洗浄に供する前の処理水であるのに対し,刊行物4記載の発明Aにおける処理槽10内の処理水は,洗浄に使用中の処理水である点の相違を主張するが,訂正発明1で行っているように,上流に設けたポンプにより,定量供給される水に,オゾンガス溶解装置によって放電型オゾン発生機で発生させたオゾンガスを供給して所定濃度のオゾン水を定量供給することが,刊行物4記載の発明Aで行っている,野菜などの食品を殺菌処理する処理槽内のオゾン水におけるオゾン濃度を一定範囲内に維持することに比較して困難であるとも認めることはできない。 すなわち,刊行物4記載の発明Aにおいては,原告も準備書面において指摘するように,野菜など被処理品の処理槽内への投入により,オゾン消費量が変化することが予想される。これは,系全体を制御するに当たっての外乱にほかならない。このような外乱にもかかわらず,処理槽内のオゾン濃度を一定範囲内に維持しようとするためには,処理槽内の処理水におけるオゾン濃度を測定してその値をフィードバックし,オゾン溶解装置に供給すべきオゾンガス量を所望の量とするべく,放電型オゾン発生機におけるオゾンガス発生量を所望の値とすることが必要不可欠である。 これに対し,訂正発明1においては,オゾン溶解装置の上流にポンプを設けて,オゾン水の原水ともいうべき純水をオゾンガス溶解装置に定量供給している。これをオゾンガス溶解装置からみれば,上流から定量供給される原水に,オゾンガスを所定量溶解して,下流側に精密洗浄用等のオゾン水として,定量(時間当たり定量)排出することになり,ポンプの脈動等,無視し得る変動を除けば,そこには制御精度を脅かすような外乱は,通常は存在しないことになる。つまり,訂正発明1では,定量供給される原水に定量のオゾンガスを溶解して,定量(通常は供給された量)だけ下流側に,精密洗浄等に使用するオゾン水を供給するものであるから,そこで行う制御とは,要求されるオゾン水の供給量あるいはオゾン水濃度に応じて,オゾン発生機で発生されるオゾン量を定量制御するか,あるいは,これに準じた制御をすれば足りるものと推測され,制御自体は高度なものとはいえない。 訂正発明1の構成にある「精密洗浄」における「精密」については必ずしも厳密に明らかにされていないが,被処理水にオゾンガスを溶解してできた「処理水」のオゾン濃度が,正確に一定に制御されるものであるとしても,それ自体は,原水の供給量と,該原水に溶解すべきオゾンガス量を正確に供給すれば達成できるであろうことは,当業者でなくとも容易に想到し得るところである。しかも,訂正発明1には,定量供給可能なポンプと圧力計,流量計等と,電圧制御可能な放電型オゾン発生機を組み合わせるという至極当然な各部装置の組合せが規定されているのみであって,高度な制御のための具体的な構成はない。 以上のとおり,審決には原告主張の一致点についての認定に誤りはない。 2 訂正発明1の取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について 上記1において説示のとおり,野菜などの投入によるオゾン消費という外乱により,処理槽内のオゾン水濃度の変化を検出器により計測し,これを放電型オゾン発生機によるオゾン発生量にフィードバックして,処理槽内のオゾン水濃度を一定範囲内に制御しようとする刊行物4記載の発明に比較して,訂正発明1における上流側から定量供給された原水に,所定量のオゾンガスを溶解させて,下流側に一定濃度のオゾン水を一定量排出する制御技術が,高度のものであるとする根拠は見いだせない。 かえって,訂正発明1は,刊行物4記載の発明において前記1認定のように予想される外乱を考慮することなく,単に,単位量当たりの原水に所定量のオゾンガスを溶解することのみで,所定濃度のオゾン水とするものにすぎないと解されるのであり,「オゾン水のオゾン濃度をほぼ一定に保つ」との原告主張の条件は,制御精度の程度の差にすぎないということができる。したがって,取消事由2は理由がない。 3 訂正発明1の取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1記載の発明が,「純水又は超純水」の製造に係るものである上,加圧状態のオゾンガスを,訂正発明1とは逆に,ポリ四弗化エチレン系の多孔質中空系のガス透過膜の内側に供給するものであるのに,審決における訂正発明1との対比では,「オゾン水を製造するに際して」と認定し,「の内側」を省略して,「ガス透過膜にオゾンガスを供給し」と認定したのは誤りであると主張する。 原告主張のとおり,刊行物1記載の発明の名称は,「純水又は超純水の製造方法及び装置」であるが,その過程において,原水にオゾンを溶解したいわゆるオゾン水が生成されることは,刊行物1(甲4)の次の記載事項から明らかである。 「第2図において,純度の低下した超純水13をポンプ14,バルブ15,圧力計16,流量計17を介して,オゾンあるいは過酸化水素溶解装置27に導入する。該オゾン23あるいは過酸化水素35を溶解した水を紫外線照射装置19Aに導入し,次で水素ガス溶解装置28により水素ガス24を溶解し,紫外線照射装置19Bに導入する。」(4頁右上欄8-15行) すなわち,第2図において,オゾン溶解装置27とその後の紫外線照射装置19Aとは別個の装置とされており,オゾン溶解装置27までをオゾン水の製造装置として把握することに何らの阻害要因は見いだせない。 (2) 原告の主張中には,刊行物1記載の発明においては,純水又は超純水にオゾンを溶解した後,直ちに紫外線照射が行われることが不可欠であるとする部分もあるが(準備書面(2)),そのように限定的に解釈すべき根拠は見いだせない。 また,刊行物1(甲4)の4頁左下欄12〜20行及び6頁10〜15行には, 「更には,第6図に示すように,ガス透過膜33により膜を介してオゾン23又はH2ガス24を溶解させるならば,該オゾン又はH 2ガス中の微粒子等の不純物を除去できるため超純水への用途に有効である。 ここで,前記ガス透過膜は,酸素..等のガスを透過し水を透過しない膜であり,一方に水を通水し,他方をガスで加圧する」,「第9図中のガス透過膜33は,ポリ四弗化エチレン系の中空系であり,膜面積0.85m2,膜本数6500本のモジュールを用いた。このガス透過膜33の一方に被処理水を通水し,他方にオゾン濃度を500ppmのオゾン化空気を0.2kg/cm2,50N-ml/minで通気した。」と記載されており,ガス透過膜を境界として一方に水を,他方にガスを供することが教示されている。なお,刊行物1の第6図は,1実施例に係る具体例にすぎず,同図に示された実施例がたまたま中空系膜の内部にガスを供給しているからといって,刊行物1記載の発明を,そのように限定的に解すべきであるとする合理的根拠はない。 そして,審決においては,オゾンが溶解される被処理水を中空糸膜内側に通すことについては,刊行物1ではなく,刊行物2,3に記載若しくは示唆されているとしており,刊行物1において,中空糸膜からなるガス透過膜の内外の何れか一方の側にオゾンガスが供給されていることは事実であるから,そのとおり認定した審決が誤りであるということはできない。 (3) 原告は,審決が訂正発明1との対比の部分において,刊行物1記載の発明につき「流量計17,水圧を制御する,圧力計16及びバルブ15,並びにポンプ14を設けること」としているが,刊行物1記載の発明は水圧や流量を制御するようなものではないと主張する。 しかしながら,刊行物1(甲4)の4頁右上欄6行〜5頁右上欄17行には,以下の記載がある。 「第2図を用いて,本発明の精製装置を更に詳しく説明する。 第2図において,純度の低下した超純水13をポンプ14,バルブ15,圧力計16,流量計17を介して,オゾンあるいは過酸化水素溶解装置27に導入する。... ...膜の素材としてはシリコンゴム系,ポリ四弗化エチレン系..等の多孔質の疎水性膜を挙げることができる。...オゾン23を含有するガスを用いる場合では,ポリ四弗化エチレン系の膜が好ましい。.. 限外ろ過装置の下流に圧力計16及びバルブ15を設ける。通常,半導体製造装置の入口圧は2kg/cm2であり,15及び16にて最適圧力に調整する。」 すなわち,オゾン溶解装置27の上流側に設けられたポンプ14,バルブ15,圧力計16及び流量計17については直接,水圧を制御する旨の記載はないものの,第2図において限外ろ過装置の下流側であって,かつ,半導体製造装置の上流側の位置に設けられた圧力計16及びバルブ15について,刊行物1の明細書の発明の詳細な説明及び図面では,前記オゾン溶解装置上流側に設置された圧力計及びバルブと同一引用符号を付し,かつ該圧力計16及びバルブ15により,半導体製造装置の通常の入口圧である2kg/cm2になるように,「最適圧力に調整する」旨が明記されているのであるから,これに更に流量計17が付加されているオゾン溶解装置上流側に関する「ポンプ14,バルブ15,圧力計16,流量計17を介して,オゾンあるいは過酸化水素溶解装置27に導入する。」なる記載について,少なくとも水圧を制御できるものと解することに問題はない。 (4) 原告は,審決が,刊行物1〜3記載の事項を適当に組み合わせたと主張するが,既に,前記2で説示したように,刊行物4記載の発明におけるオゾン水のオゾン濃度制御と比較して,訂正発明1に係る制御が高度のものであるとはいえず,精密洗浄や電子工業用に供する濃度制御は,単に精度の相違にすぎないものであるし,刊行物1記載の純水又は超純水の精製方法及び装置に関する発明において,その中にオゾン水の製造方法に関する発明を把握できることについても前説示のとおりである。 さらに,刊行物3(甲6)には,「気液接触用隔膜,気液接触装置及び気体溶解液体の製造方法」と題する発明に関し,産業上の利用分野として,「本発明は膜を介して液体と気体を接触せしめ,液体中への気体の溶解,若しくは液体中に含有される気体や揮発性物質の放出,若しくはこれらの溶解と放出を同時に行わしめることを目的とした気液接触用隔膜,これを用いた装置,及びこれを用いた気体溶解液体の製造方法に関するものであり,中でも液体中へ効率よく気体を溶解させる隔膜及び装置に関する」(【0001】)と記載されており,純水にオゾンガスを溶解する技術に適用する点に困難性を認めることはできない。 (5) 刊行物2記載の発明に関して,原告は,特に分野が飲料水であって,課題も異なる旨を強調しているが,刊行物3には,上記記載に引き続いて,「本発明は,例えば医薬品や食品産業分野での微生物の培養における培養液への酸素供給と炭酸ガス放出,好気性菌による排水処理における排水への酸素供給と炭酸ガス放出,懸濁液の加圧浮上分離や浮遊選鉱における懸濁液への空気溶解,化学工業や医薬品工業における空気酸化や酸素酸化,養魚や魚類の運搬における水や海水への酸素供給,炭酸水の製造,廃ガス中のCO2,NO X,SO X,H 2Sなどの除去,発酵メタンガスからのCO2の除去などの分野に利用できる。」(【0002】)との記載があり,「炭酸水の製造」とその他の,例えば「化学工業や医薬品工業における空気酸化や酸素酸化」等の異分野の技術が併記されていることからみると,刊行物2の発明の分野が飲料水であることをもって,他の技術分野への適用が困難であるということはできない。 4 訂正発明1の取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について 刊行物4記載の発明も,訂正発明1も,被処理水中に溶解されたオゾン濃度を検出して,オゾンガスを被処理水中に溶解する気液接触部に送られる気体中のオゾン濃度を放電電圧の制御により増減することで所望のオゾンガス濃度の被処理水を生成するものである点で一致している。 原告は,訂正発明1がオゾン濃度を精密に制御できると主張するが,どのような制御方式(例えば比例制御,積分制御,微分制御のいずれの方式をとるのか,あるいはこれらの幾つかを併用するのか)を採用するのか,検出値のフィードバックをどのくらいの間隔で実施するのか,検出値及び電圧はどのような精度でどの程度の遅れ時間で行われるのか,などの事項について訂正発明1には限定がなく,刊行物4にあって,訂正発明1にないと主張する,被処理物の投入による外乱がないとの点のみをもって,訂正発明1の方がオゾン濃度を精密に制御できると認めることはできない。 5 訂正発明1の取消事由5(作用効果についての判断の誤り)について 微細加工が処理の中心である半導体製造工程において,その一部であるウエハの洗浄に当たっても,各部が均一に洗浄されるべきであろうことは大前提となる事項にすぎず,そのために,オゾン水からなる液相に対して異相である微細気泡を含むことや,不均一なオゾン濃度部分を含むオゾン水が,洗浄用として好ましくないことは,当業者であれば当然に想到し得る事項にすぎないから,これを周知事項であるとした審決の判断に誤りはない。 さらに,「一定の濃度のオゾン水を一定圧力,一定水量で供給する」ために訂正発明1が採用する構成は,その請求項の記載によれば,「中空糸膜の上流に被処理水の水圧及び流量を制御するポンプを設け」て,「装置出口流量を一定に収めるように制御」し,「処理水中のオゾン濃度をオゾンガス濃度に基づき放電電圧を変化させて制御」することと把握されるが,刊行物1(甲4)の第2図には,「中空系のガス透過膜33の上流に圧力計16,流量計17,バルブ15及びポンプ14を設ける」ことが示されており,ポンプの出力(回転数)及びバルブの開度を一定とすれば,ガス透過膜に向かって一定水量が供給されることは当業者にとって明らかである。そして,この一定水量に対して,ガス透過膜部分において,一定の放電電圧で発生させた一定濃度のオゾンガスを含む気相を一定量接触させれば,定常状態である限りにおいて,一定濃度のオゾンガス濃度の被処理水が得られることもまた,明らかである。 すなわち,既に取消事由1及び取消事由2について判断したように,訂正発明1では,定量供給される原水に定量のオゾンガスを溶解して,定量(通常は供給された量)だけ下流側に,精密洗浄等に使用するオゾン水を供給するものであるから,そこで行う制御とは,要求されるオゾン水の供給量あるいはオゾン水濃度に応じて,オゾン発生機で発生されるオゾン量を定量制御するか,あるいは,これに準じた制御をするにすぎないものであり,制御の精度は,結局,気液接触装置へ供給される被処理水量及びオゾンガスの濃度と供給量,さらには気液接触部分の温度や圧力などの接触条件が厳密に制御されれば,それに応じて制御の精度が上がる定値制御にすぎないものと認めることができる。 したがって,訂正発明1の作用効果をもって,当業者が予測し得る範囲内のものであるとした審決の判断に誤りはない。 6 訂正発明2〜7の取消事由について 上記説示のとおり,審決には,訂正発明1についての一致点の認定,相違点1〜3の判断の誤りはないから,訂正発明2〜7についての一致点の認定及び相違点についてした審決の判断にも,原告主張の誤りはない。 |
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結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 野輝久 |