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事件 平成 23年 (ワ) 8218号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2012/11/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年11月15日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成23年 ワ)第8218号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年8月24日

判 決

原 告 エレコム株式会社

同訴訟代理人弁護士 畑 郁 夫

同 国 谷 史 朗

同 重 冨 貴 光

同 多 田 慎

同訴訟代理人弁理士 河 野 登 夫

同 河 野 英 仁

同 野 口 富 弘

被告兼株式会社バッファローコクヨサプライ訴訟承継

株式会社バッファロー

同訴訟代理人弁護士 野 口 明 男

同 岡 田 淳

同 飯 塚 卓 也

同補佐人弁理士 下 出 隆 史

同 井 上 雄 介


主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
1 原告

(1)被告は,別紙被告BF製品目録及び被告BKS製品目録記載の各製品を製

造し,販売し,輸入し又は販売の申出をしてはならない。

(2)被告は,別紙被告BF製品目録記載の各製品並びに別紙被告BKS製品目

録番号18〜21及び23〜25記載の各製品をいずれも廃棄せよ。

(3)被告は,

ア 別紙被告BKS製品目録番号1〜14記載の各製品のうちマウス本体を

除く部分,

イ 同15記載の各製品のうちキーボード本体を除く部分,

ウ 同16及び17記載の各製品のうちキーボード本体及びマウス本体を除

く部分,

エ 同22記載の各製品のうちヘッドセット本体を除く部分

をいずれも廃棄せよ。

(4)被告は,原告に対し,9940万円及びこれに対する平成23年7月8日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(5)訴訟費用は被告の負担とする。

(6)仮執行宣言

2 被告

主文同旨

第2 事案の概要

1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)

(1)当事者

原告は,コンピュータ及びコンピュータ周辺機器の開発,製造,販売及び

輸出入等を業とする会社である。

被告は,コンピュータ及び周辺機器の開発,製造,販売及び輸出入業等を

目的とする会社である。
(2)本件特許権

宜鼎國際股▲ふん▼有限公司(以下「本件特許権者」という。)は,以下の

特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件特許発明」と

いう。また,本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。)に係る特

許権を有する。

特許番号 4472550号

発明の名称 ユニバーサルシリアルバス応用装置

出願年月日 平成17年2月15日

優先権主張日 平成16年11月1日(以下「本件優先日」という。)

登録年月日 平成22年3月12日

特許請求の範囲

【請求項1】

USBプラグにUSB電子応用モジュールが接続され,該USBプラグが

ケース層で載置板を被覆してなり,該載置板の上表面とケース層の間に接続

挟持層が形成され,並びに載置板の上表面にUSB電子応用モジュールと電

気的に接続可能な複数の第1接続端子が固定され,該接続挟持層が対応する

USBソケットとの接続に供され,且つUSBソケットが接続挟持層に挿入

される時,該第1接続端子がUSBソケット内に固定された複数の第2接続

端子と電気的接続を形成し,またUSBプラグ内部の載置板の底表面とケー

ス層の間に板底挟持層が形成され,該載置板の底表面に少なくとも一つの電

子装置が固定されたことを特徴とする,ユニバーサルシリアルバス応用装置。

(3)本件特許発明構成要件の分説

本件特許発明は,以下のとおり分説することができる。

A USBプラグにUSB電子応用モジュールが接続され,

B 該USBプラグがケース層で載置板を被覆してなり,

C 該載置板の上表面とケース層の間に接続挟持層が形成され,
D 並びに載置板の上表面にUSB電子応用モジュールと電気的に接続可能

な複数の第1接続端子が固定され,

E 該接続挟持層が対応するUSBソケットとの接続に供され,

F 且つUSBソケットが接続挟持層に挿入される時,該第1接続端子がU

SBソケット内に固定された複数の第2接続端子と電気的接続を形成し,

また

G USBプラグ内部の載置板の底表面とケース層の間に板底挟持層が形成

され,

H 該載置板の底表面に少なくとも一つの電子装置が固定されたことを特徴

とする,

I ユニバーサルシリアルバス応用装置。

(4)原告の有する専用実施権

原告は,本件特許権者から,平成23年2月1日,以下の範囲で本件特許

に係る専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)の設定を受け,同年4

月4日受付で登録を受けた(甲1,2)。

期間 平成23年2月1日から平成26年1月31日

内容 製造,使用,販売及び輸入

(5)本件特許に係る訂正請求

本件特許権者は,被告が請求した特許無効審判(無効2011−8002

28)において,本件特許に係る「特許請求の範囲
【請求項1】について以

下のとおり訂正する訂正請求(以下「本件訂正」といい,訂正後の発明を「本

件訂正発明」という。)をした(下線部分が訂正箇所である。。


「USBプラグにUSB電子応用モジュールが接続され,前記USBプラグ

がケース層で載置板を被覆してなり,該載置板の上表面と前記ケース層の間

に接続挟持層が形成され,並びに前記載置板の上表面に前記USB電子応用

モジュールと電気的に接続可能な複数の第1接続端子が固定され,前記接続
挟持層が対応するUSBソケットとの接続に供され,且つUSBソケットが

前記接続挟持層に挿入される時,前記第1接続端子がUSBソケット内に固

定された複数の第2接続端子と電気的接続を形成し,またUSBプラグ内部

の前記載置板の平坦な底表面と前記ケース層との間に前記底表面とケース層

とで画定される板底挟持層が形成され,該板底挟持層内の一部に,前記載置

板の底表面に該底表面から突出した少なくとも一つの電子装置が固定され,

前記板底挟持層内の一部に該板底挟持層の変形を防止するための支持装置を

設け,該板底挟持層の外界との接続面のみに前端保護層を設けたことを特徴

とする,ユニバーサルシリアルバス応用装置。」

(6)本件訂正発明の構成要件の分説

本件訂正発明は,以下のとおり分説することができる。

訂正A USBプラグにUSB電子応用モジュールが接続され,

訂正B 前記USBプラグがケース層で載置板を被覆してなり,

訂正C 該載置板の上表面と前記ケース層の間に接続挟持層が形成され,

訂正D 並びに前記載置板の上表面に前記USB電子応用モジュールと電気

的に接続可能な複数の第1接続端子が固定され,

訂正E 前記接続挟持層が対応するUSBソケットとの接続に供され,

訂正F USBソケットが前記接続挟持層に挿入される時,前記第1接続端

子がUSBソケット内に固定された複数の第2接続端子と電気的接続を形

成し,また

訂正G USBプラグ内部の前記載置板の平坦な底表面と前記ケース層との

間に前記底表面とケース層とで画定される板底挟持層が形成され,

訂正H 該板底挟持層内の一部に,前記載置板の底表面に該底表面から突出

した少なくとも一つの電子装置が固定され,

訂正I 前記板底挟持層内の一部に該板底挟持層の変形を防止するための支

持装置を設け,
訂正J 該板底挟持層の外界との接続面のみに前端保護層を設けたことを特

徴とする,

訂正K ユニバーサルシリアルバス応用装置。

(7)被告及び株式会社バッファローコクヨサプライの行為

ア 別紙被告BF製品目録記載の各製品(以下「被告BF製品」といい,同

製品を型番ごとに表記する場合は,同別紙に記載された型番ごとに振られ

た番号,枝番を付記し,「被告BF製品1−1」などという。)に係る被告

の行為

被告は,平成23年2月1日以降,業として,被告BF製品1−1,1−

9を除いた被告BF製品を販売し,輸入し,販売の申出を行っている。

なお,被告が,@ 被告BF製品を国内で製造したこと,A 被告BF製

品1−1,1−9を販売等していたことについては争いがある。

イ 別紙被告BKS製品目録記載の各製品(以下「被告BKS製品」といい,

被告BF製品と併せて「被告各製品」という。また,被告BKS製品を型

番ごとに表記する場合は,同別紙に記載された型番ごとに振られた番号,

枝番を付記し,
「被告BKS製品1−1」などという。 に係る株式会社バッ


ファローコクヨサプライ(以下「バッファローコクヨサプライ」という。)

の行為

バッファローコクヨサプライは,平成23年2月1日以降,業として

被告BKS製品2−1から2−25を除いた被告BKS製品を製造し,販

売し,輸入し,販売の申出を行っていた。

な お,バッファローコクヨサプライが,@ 被 告BKS製品2−7から

2−25を国内で製造したこと, 被告BKS製品2−1から2−6を販
A

売等していたことについては争いがある。

ウ 被告各製品の本件特許発明技術的範囲への属否

原告は,被告各製品が本件特許発明技術的範囲に属する旨主張してい
るところ(なお,被告BKS製品23〜25については,本件特許権の間

侵害の前提として,マイクロSDカードを接続した状態において,本件

特許発明技術的範囲に属することを主張する。,被告は,答弁書におい


て,本件特許の無効を主張し,原告の上記主張に対する認否反論は「次回

以降,必要に応じて適宜行う予定である。」と述べ,その後は,原告の上記

主張に関する具体的な認否,反論をしていない(被告各製品の構成につい

ても同様である。。


(8)被告によるバッファローコクヨサプライの吸収合併等

原告は,平成23年6月27日,被告及びバッファローコクヨサプライに

対する本件訴えを起こしたところ,被告は,本件訴訟係属中の平成24年4

月1日,相被告であるバッファローコクヨサプライを吸収合併し,その訴訟

上の地位を承継した。

2 原告の請求

原告は,本件専用実施権に基づき,被告各製品等の製造等の差止め及び廃棄

を,不法行為に基づき,9940万円の損害賠償及びこれに対する本件訴状送

達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支

払を求めている。

3 主要な争点

本件の主要な争点は,以下のとおり本件特許が特許無効審判により無効とさ

れるべきものであるかという点である。

(1)本件特許発明は,本件優先日前に頒布された米国特許出願公開第200

4/0147143号明細書(以下「乙1文献」という。)に記載された発明

(以下「乙1発明」という。)と同一であるか (争点1)

(2)本件特許発明は,本件優先日前に頒布された米国特許出願公開第200

4/0153595号明細書(以下「乙2文献」という。)に記載された発明

(以下「乙2発明」という。)と同一であるか (争点2)
(3)本件特許発明は,本件優先日前に頒布された中国実用新案公告第2572

611号明細書(以下「乙3文献」という。)に記載された発明(以下「乙3

発明」という。)と同一であるか (争点3)

(4)本件特許発明は,本件優先日前に出願された特開2006−4082号公

報(以下「乙4公報」という。)に記載された発明(以下「乙4発明」という。)

と同一であるか(特許法29条の2) (争点4)

(5)本件特許発明は,本件優先日前に出願された特開2005−183925

公報(以下「乙5公報」という。)に記載された発明(以下「乙5発明」とい

う。)と同一であるか(特許法29条の2) (争点5)

(6)訂正の再抗弁1(上記(1)の抗弁に対し) (争点6)

(7)訂正の再抗弁2(上記(2)の抗弁に対し) (争点7)

(8)訂正の再抗弁3(上記(3)の抗弁に対し) (争点8)

(9)訂正の再抗弁4(上記(4)の抗弁に対し) (争点9)

(10)訂正の再抗弁5(上記(5)の抗弁に対し) (争点 10)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件特許発明は,乙1発明と同一であるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,乙1発明と同一である。

(1)乙1発明の内容

乙1文献には,以下の発明(乙1発明)が記載されている。

1A USBを利用した記憶装置である。

1B 基板が金属ケースの内部に収容されている。

1C 基板の上表面と金属ケースの間に開口がある。

1D 基板の上に接触子が複数固定されている。

1E 基板上に固定される接触子は,USB規格に従うものであり,外部電

子機器と電気的に接続するために設けられる。
1F(なし)

1G 金属ケース内部に基板が中央に配され,その底表面と金属ケースとの

間に層が存在する。

1H 金属ケース内部に基板が中央に配され,その底表面に電子素子が固定

されている。

(2)本件特許発明と乙1発明の対比

ア 乙1文献には,USBプラグにUSB電子応用モジュールが接続された

「USBを利用した記憶装置」が記載されているところ,同記憶装置は,

本件特許発明の「ユニバーサルシリアルバス応用装置」に相当する。

したがって,乙1発明の構成1Aは,本件特許発明構成要件A及びI

と同一である。

イ 乙1発明の「基板」は本件特許発明の「載置板」に,乙1発明の「金属

ケース」は本件特許発明の「ケース層」にそれぞれ相当する。

乙1発明の構成1Bは,
「基板」を「金属ケース」で被覆するものである

から,本件特許発明構成要件Bと同一である。

ウ 乙1発明の「開口」部分は,本件特許発明の「接続挟持層」に相当する。

したがって,乙1発明の構成1Cは,本件特許発明構成要件Cと同一

である。

エ 乙1発明の「接触子」は,外部電子機器に接続される接続端子であり,

基板上に固定されているから,本件特許発明の「第1接続端子」に相当す

る。

したがって,乙1発明の構成1Dは,本件特許発明構成要件Dと同一

である。

オ 乙1発明の「接触子」は,USB規格に従うものであり,外部電子機器

に設けられたUSBソケット内の接続端子(本件特許発明の「第2接続端

子」に相当)との接続に供されるものである。
したがって,乙1発明の構成1Eは,本件特許発明構成要件E及びF

と同一である。

カ 乙1発明の「基板」
(本件特許発明の「載置板」に相当)の底表面と「金

属ケース」(本件特許発明の「ケース層」に相当)との間に存在する層は,

本件特許発明の「板底挟持層」に相当する。

したがって,乙1発明の構成1Gは,本件特許発明構成要件Gと同一

である。

キ 乙1発明の「基板」
(本件特許発明の「載置板」に相当)の底表面に固定

された「電子素子」は,本件特許発明の「電子装置」に相当する。

したがって,乙1発明の構成1Hは,本件特許発明構成要件Hと同一

である。

【原告の主張】

乙1文献には,
「USB」という文言が一切ない。また,乙1文献に記載され

たマイクロ記憶装置は,直方体状の金属ケースが基板全体を収容した構成であ

り,USBの仕様でないことが明らかである。

したがって,本件特許発明は,構成要件A,B,E及びIにおいて,乙1発

明と相違する。

2 争点2(本件特許発明は,乙2発明と同一であるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,乙2発明と同一である。

(1)乙2発明の内容

乙2文献には,以下の発明(乙2発明)が記載されている。

2A USBプラグと,ビア(メッキ穴)を通じ接続されているメモリ記憶

半導体装置である。

2B USBプラグの中に配置される回路基板と,その周りを被覆するUS

Bコネクタシールドケースである。
2C USBプラグ先端部に開口があり,この開口方向から装置の奥に向

かって中空空間がある。

2D 回路基板の上面に複数の接触端子が固定されている。

2E 接触端子とUSBインターフェイスが嵌合する。

2F(なし)

2G 回路基板の底面側とUSBコネクタシールドケースとの間に層がある。

2H 回路基板の底面にメモリ記憶半導体装置が固定されている。

(2)本件特許発明と乙2発明の対比

ア 乙2発明の構成2Aは,本件特許発明構成要件A及びIと同一である。

イ 乙2発明の「回路基板」は本件特許発明の「載置板」に,乙2発明の「U

SBコネクタシールドケース」は本件特許発明の「ケース層」にそれぞれ

相当する。

したがって,乙2発明の構成2Bは,本件特許発明構成要件Bと同一

である。

ウ 乙2発明の「中空空間」は本件特許発明の「接続挟持層」に相当するか

ら,乙2発明の構成2Cは,本件特許発明構成要件Cと同一である。

エ 乙2発明の回路基板の上面に固定された複数の「接触端子」は本件特許

発明の「第1接続端子」に相当するから,乙2発明の構成2Dは,本件特

許発明の構成要件Dと同一である。

オ 乙2発明は,接触端子とUSBインターフェイスが嵌合するので,US

Bソケット内部の突起部分が上記「中空空間」
(本件特許発明の「接続挟持

層」に相当)に挿入され,回路基板上の接触端子(本件特許発明の「第1

接続端子」に相当)とUSBソケット内部の接触端子(本件特許発明の「第

2接続端子」に相当)が電気的に接続されるものであることが理解できる。

したがって,乙2発明の構成2Eは,本件特許発明構成要件E及びF

と同一である。
カ 乙2発明の回路基板(本件特許発明の「載置板」に相当)の底面側とU

SBコネクタシールドケース(本件特許発明の「ケース層」に相当)との

間にある層は,本件特許発明の「板底挟持層」に相当する。

したがって,乙2発明の構成2Gは,本件特許発明構成要件Gと同一

である。

キ 乙2発明の回路基板(本件特許発明の「載置板」に相当)の底面に固定

される「メモリ記憶半導体装置」は本件特許発明の「電子装置」に相当す

るから,乙2発明の構成2Hは,本件特許発明構成要件Hと同一である。

【原告の主張】

争う。

3 争点3(本件特許発明は,乙3発明と同一であるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,乙3発明と同一である。

(1)乙3発明の内容

乙3文献には,以下の発明(乙3発明)が記載されている。

3A プリント回路板を内蔵するUSBインタフェースのプラグである。

3B プリント回路板の上方,下方及び両側面に鉄ケースが配置されている。

3C プリント回路板の上表面と鉄ケースとの間に空間が存在する。

3D プリント回路板の上表面にUSBコネクタの接続端子となる狭長金

めっき銅板が固定されている。

3E プリント回路板の上表面には平行に配列されUSB規格に準拠した4

本の狭長金めっき銅板が直接下表面プリント回路の引出し電極として印

刷され,USBソケットに接続して電気情報伝達を実現する。

3F (なし)

3G プリント回路板と鉄ケースとの間に層が存在する。

3H プリント回路板の下表面には電子素子が設置されている。
(2)本件特許発明と乙3発明の対比

ア 乙3発明の構成3Aのプリント回路板には電子素子が設置されており

(構成3H),本件特許発明の「USB電子応用モジュール」に相当する。

したがって,乙3発明の構成3Aは,本件特許発明構成要件A及びI

と同一である。

イ 乙3発明の「プリント回路板」は本件特許発明の「載置板」に,乙3発

明の「鉄ケース」は本件特許発明の「ケース層」にそれぞれ相当する。

乙3発明の構成3Bは,プリント回路板の周りを鉄ケースが被覆してU

SBプラグを形成しているから,本件特許発明構成要件Bと同一である。

ウ 乙3発明の「プリント回路板」
(本件特許発明の「載置板」に相当)の上

表面と「鉄ケース」
(本件特許発明の「ケース層」に相当)との間に存在す

る空間は,本件特許発明の「接続挟持層」に相当する。

したがって,乙3発明の構成3Cは,本件特許発明構成要件Cと同一

である。

エ 乙3発明の「狭長金めっき銅板」は本件特許発明の「第1接続端子」に

相当するものであるから,乙3発明の構成3Dは,本件特許発明の構成要

件Dと同一である。

オ 乙3発明の構成3Eは,接続挟持層がUSBソケットとの接続に供され,

「狭長金めっき銅板」
(本件特許発明の「第1接続端子」に相当)とUSB

ソケット内の「第2接続端子」とが電気的に接続されるというものである。

したがって,乙3発明の構成3Eは,本件特許発明構成要件E及びF

と同一である。

カ 乙3発明の「プリント回路板」
(本件特許発明の「載置板」に相当) 「鉄


ケース」
(本件特許発明の「ケース層」に相当)との間に存在する層は,本

特許発明の「板底挟持層」に相当する。

したがって,乙3発明の構成3Gは,本件特許発明構成要件Gと同一
である。

キ 乙3発明の「プリント回路板」
(本件特許発明の「載置板」に相当)の下

表面に固定された「電子素子」は,本件特許発明の「電子装置」に相当す

るから,乙3発明の構成3Hは,本件特許発明構成要件Hと同一である。

【原告の主張】

争う。

4 争点4(本件特許発明は,乙4発明と同一であるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,乙4発明と同一である。

(1)乙4発明の内容

乙4公報には,以下の発明(乙4発明)が記載されている。

4A USBフラッシュメモリ装置であり,USBプラグとUSB電子応用

モジュールが接続されている。

4B USBフラッシュメモリ装置内部のプリント回路基板をプラグシェル

が被覆している。

4C USBスロット内のインシュレータは,USBフラッシュメモリ装置

のプリント回路基板とプラグシェルとの間の空間に挿入される。

4D プリント回路基板の上表面にコンタクトプレートが固定されており,

コンタクトプレートとプリント回路基板との間で電気的接続が可能であ

る。また,プリント回路基板上に配置されたコントロールIC及びフラッ

シュメモリとの間でも電気的接続が可能である。

4E 上記4Cの「USBフラッシュメモリ装置のプリント回路基板とプラ

グシェルとの間の空間」は,USBソケットとの接続に供される。

4F(なし)

4G プリント回路基板とプラグシェルとの間に層が存在する。

4H プリント回路基板の下面にフラッシュメモリが固定されている。
(2)本件特許発明と乙4発明の対比

ア 乙4発明の構成4Aは,本件特許発明構成要件A及びIと同一である。

イ 乙4発明の「プリント回路基板」は本件特許発明の「載置板」に,乙4

発明の「プラグシェル」は本件特許発明の「ケース層」に相当するから,

乙4発明の構成4Bは,本件特許発明構成要件Bと同一である。

ウ 乙4発明の「プリント回路基板とプラグシェルとの間の空間」は,本件

特許発明の「接続挟持層」に相当するから,乙4発明の構成4Cは,本件

特許発明構成要件Cと同一である。

エ 乙4発明の「プリント回路基板」は本件特許発明の「載置板」に,乙4

発明の「コンタクトプレート」は本件特許発明の「第1接続端子」に,乙

4発明の「フラッシュメモリ」は本件特許発明の「USB電子応用モジュー

ル」にそれぞれ相当する。

したがって,乙4発明の構成4Dは,本件特許発明構成要件Dと同一

である。

オ 乙4発明は,プリント回路基板(本件特許発明の「載置板」に相当)の

上表面に固定された「コンタクトプレート」
(本件特許発明の「第1接続端

子」に相当)とUSBソケット内の「第2接続端子」とが電気的に接続さ

れるものである。

したがって,乙4発明の構成4Eは,本件特許発明構成要件E及びF

と同一である。

カ 乙4発明の「プリント回路基板」
(本件特許発明の「載置板」に相当)と

「プラグシェル」
(本件特許発明の「ケース層」に相当)との間に存在する

層は,本件特許発明の「板底挟持層」に相当する。

したがって,乙4発明の構成4Gは,本件特許発明構成要件Gと同一

である。

キ 乙4発明の「プリント回路基板」
(本件特許発明の「載置板」に相当)の
下面に固定された「フラッシュメモリ」は,本件特許発明の「電子装置」

に相当する。

したがって,乙4発明の構成4Hは,本件特許発明構成要件Hと同一

である。

【原告の主張】

争う。

5 争点5(本件特許発明は,乙5発明と同一であるか)について

【被告の主張】

本件特許発明は,乙5発明と同一である。

(1)乙5発明の内容

乙5公報には,以下の発明(乙5発明)が記載されている。

5A USBプラグと半導体素子及び受動部品が接続される。

5B 封止樹脂の直上にプリント配線板が配置され,プリント配線板をハウ

ジングが取り囲んでいる。

5C プリント配線板とハウジングとの間に空間が存在する。

5D プリント配線板の一方の面に出力端子が固定されている。出力端子は,

半導体素子及び受動部品を含む回路素子と電気的に接続されている。

5E 出力端子はUSBコネクタ内の接続端子と電気的に接続される。

5F(なし)

5G プリント配線板の底面側とハウジングとの間には,封止樹脂で充たさ

れた層が存在する。

5H プリント配線板の底面側に半導体素子が固定されている。

(2)本件特許発明と乙5発明の対比

ア 乙5発明の「半導体素子及び受動部品」は,本件特許発明の「USB電

子応用モジュール」に相当するから,乙5発明の構成5Aは,本件特許発

明の構成要件A及びIと同一である。
イ 乙5発明の「プリント配線板」は本件特許発明の「載置板」に,乙5発

明のハウジングは本件特許発明の「ケース層」に相当するから,乙5発明

の構成5Bは,本件特許発明構成要件Bと同一である。

ウ 乙5発明の「プリント配線板」
(本件特許発明の「載置板」に相当) 「ハ


ウジング」
(本件特許発明の「ケース層」に相当)との間に存在する空間は,

本件特許発明の「接続挟持層」に相当する。

したがって,乙5発明の構成5Cは,本件特許発明構成要件Cと同一

である。

エ 乙5発明の「プリント配線板」は本件特許発明の「載置板」に,乙5発

明の「出力端子」は本件特許発明の「第1接続端子」に相当し,
「半導体素

子及び受動部品」(本件特許発明の「USB電子応用モジュール」に相当)

と電気的に接続されている。

したがって,乙5発明の構成5Dは,本件特許発明構成要件Dと同一

である。

オ 乙5発明の「出力端子」(本件特許発明の「第1接続端子」に相当)は,

USBコネクタ内の接続端子と電気的に接続されるものである。

したがって,乙5発明の構成5Eは,本件特許発明構成要件E及びF

と同一である。

カ 乙5発明の「プリント配線板」
(本件特許発明の「載置板」に相当) 「ハ


ウジング」
(本件特許発明の「ケース層」に相当)との間の封止樹脂で充た

された層は,本件特許発明の「板底挟持層」に相当する。

したがって,乙5発明の構成5Gは,本件特許発明構成要件Gと同一

である。

キ 乙5発明の「プリント配線板」
(本件特許発明の「載置板」に相当)の底

面側に固定された「半導体素子」は本件特許発明の「電子装置」に相当す

るから,乙5発明の構成5Hは,本件特許発明構成要件Hと同一である。
【原告の主張】

争う。

6 争点6(訂正の再抗弁1)について

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正により前記1の無効理由は解消されるから,本件特

許権の行使は,何ら制約されるものではない。

(1)本件訂正が特許請求の範囲拡張等するものではないこと

本件訂正は,特許請求の範囲減縮するものであり,訂正された内容は,

いずれも本件明細書【0020】【0021】【0023】から【0025】
, ,

まで及び図3から5までに記載された事項である。

したがって,本件訂正は,特許請求の範囲拡張し又は変更するものでは

ないから,平成23年法律第63号による改正前の特許法134条の2第1

項ただし書1号並びに同5項が準用する同法126条3項及び4項に適合す

るものである。

(2)専用実施権者の承諾があること

本件特許権者は,本件訂正請求をするに当たり,専用実施権者である原告

から承諾を得た(特許法127条)。

(3)本件訂正により無効理由が解消されること

ア 本件訂正発明の構成要件訂正I

乙1文献の図2bには,金属ケース内部に基板が中央に記載され,その

底表面と金属ケースとの間に層が存在するように記載されている。しかし

ながら,板底挟持層内の一部に板底挟持層の変形を防止するための支持装

置を設けることについては何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Iは,乙1文献に記載されて

いない。

イ 本件訂正発明の構成要件訂正J
乙1文献には,板底挟持層内部の電子素子を保護する旨の記載も示唆も

なく,前端保護層については何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Jは,乙1文献に記載されて

いない。

(4)被告各製品のうち一部は,本件訂正発明の技術的範囲に属するものである

こと

被告BF製品4及び被告BKS製品1から22までは,本件訂正発明の技

術的範囲に属する。その余の被告各製品について,本件訂正の再抗弁は主張

しない。

【被告の主張】

以下のとおり,本件訂正により前記1の無効理由は解消されない。

(1)新規性欠如

以下のとおり,本件訂正発明も乙1発明と同一である。

ア 本件訂正発明の構成要件訂正I

乙1文献には,板底挟持層内の一部に支持装置が記載されており,当該

支持装置は,板底挟持層の変形の防止やサイズの安定といった機能を果た

すものである。

したがって,乙1文献には,本件訂正発明の構成要件訂正Iの「板底挟

持層内の一部に該板底挟持層の変形を防止するための支持装置」が記載さ

れている。

イ 本件訂正発明の構成要件訂正J

乙1文献には,板底挟持層の外界との接続面のみに設けられた前端保護

層が記載されている。

したがって,乙1文献には,本件訂正発明の構成要件訂正Jの「板底挟

持層の外界との接続面のみに前端保護層を設けたこと」が記載されている。

(2)進歩性欠如
本件訂正発明と乙1発明とは,サイズを小型化するという課題が共通であ

る。

また,乙1文献に記載されたプラグとUSB規格に従ったプラグの形状は

全く同じ特徴を有するものであり,乙1発明にUSB規格を組み合わせるこ

とは,当業者であれば容易にすることができたものである。

したがって,仮に乙1発明がUSB規格によったものでないとしても,本

件訂正発明は,当業者が乙1発明に基づいて容易に発明することができたも

のである。

7 争点7(訂正の再抗弁2)について

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正により,前記2の無効理由は解消されるから,本件

特許権の行使は,何ら制約されるものではない。

(1)前記6【原告の主張】(1),(2)及び(4)と同じ。

(2)本件訂正により無効理由が解消されること

ア 本件訂正発明の構成要件訂正G

乙2発明のUSBメモリ記憶装置は,回路基板の底側に凹部を形成し,

当該凹部にモジュールを埋設しており,回路基板の底表面は平坦ではなく,

「載置板の平坦な底表面」という構成を有しない。

また,乙2文献には,回路基板とUSBコネクタシールドケースで囲ま

れ部材で占められていない中空空間(本件特許発明の「接続挟持層」に相

当する。)が記載されてはいるものの,本件特許発明の「板底挟持層」に

相当する構成は記載されていない。むしろ,回路基板の底側の凹部にモ

ジュールを埋設した構成からすれば,「板底挟持層」は存在しないもので

ある。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Gは,乙2文献に記載されて

いない。
イ 本件訂正発明の構成要件訂正H

乙2発明のUSBメモリ記憶装置は,回路基板の底側に凹部を形成し,

当該凹部にモジュールを埋設したものであり,回路基板の底面とモジュー

ルの表面とは同一面にある。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正H「該板底挟持層内の一部に,

前記載置板の底表面に該底表面から突出した少なくとも一つの電子装置

が固定され」とは,構成が異なるものである。

ウ 本件訂正発明の構成要件訂正I

乙2発明には,前記アのとおり,本件訂正発明の「板底挟持層」が存在

せず,板底挟持層内の一部に板底挟持層の変形を防止するための「支持装

置」を設けることについても,乙2文献には何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Iは,乙2文献に記載されて

いない。

エ 本件訂正発明の構成要件訂正J

乙2発明には,前記アのとおり,本件訂正発明の「板底挟持層」が存在

せず,板底挟持層の外界との接続面のみに設けられた「前端保護層」につ

いても,乙2文献には何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Jは,乙2文献に記載されて

いない。

【被告の主張】

争う。

8 争点8(訂正の再抗弁3)について

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正により前記3の無効理由は解消されるから,本件特

許権の行使は,何ら制約されるものではない。

(1)前記6【原告の主張】(1),(2)及び(4)と同じ。
(2)本件訂正により無効理由が解消されること

ア 本件訂正発明の構成要件訂正G

乙3発明のプラグは,従来,鉄ケースで緊密に被覆されていたプラス

チックコアの下板に階段凹槽を形成し,そこにプリント回路板と電子素子

を載置したものである。鉄ケースの内部は,プラスチックコアで完全に占

められており,何ら空間が存在しないから,乙3発明において,本件訂正

発明の「板底挟持層」の構成を観念することはできない。

また,乙3発明のプリント回路板と電子素子とが占める領域は,プラス

チックコア下板に形成された階段凹槽であって,本件訂正発明の「板底挟

持層」に該当するものではない。
「プリント回路板」
(載置板に相当)と「鉄

ケース」(ケース層に相当)とで画定されたものでもない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Gは,乙3文献に記載されて

いない。

イ 本件訂正発明の構成要件訂正H

前記アのとおり,乙3発明は,本件訂正発明の「板底挟持層」を有しな

いし,プリント回路板の下表面に設置された電子素子は,「板底挟持層内」

の一部に設けられたものでもない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Hは,乙3文献に記載されて

いない。

ウ 本件訂正発明の構成要件訂正I

前記アのとおり,乙3発明は,本件訂正発明の「板底挟持層」を有しな

いし,板底挟持層内の一部に板底挟持層の変形を防止するために設けられ

た「支持装置」についても,乙3文献には何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Iは,乙3文献に記載されて

いない。

エ 本件訂正発明の構成要件訂正J
前記アのとおり,乙3発明には,本件訂正発明の「板底挟持層」を有し

ないし,「板底挟持層」の外界との接続面のみに設けられた「前端保護層」

についても,乙3文献には何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Jは,乙3文献に記載されて

いない。

【被告の主張】

以下のとおり,本件訂正により,前記3の無効理由は解消されない。

(1)新規性欠如

以下のとおり,本件訂正発明も乙3発明と同一である。

ア 本件訂正発明の構成要件訂正G

本件訂正発明の構成要件訂正Gには,板底挟持層が「空間」である旨の

記載はなく,本件明細書にも板底挟持層が空間に限定される旨の記載はな

い。

したがって,本件訂正発明の「板底挟持層」とは,載置板の底表面とケー

ス層との間の部分をいうものの,その部分が「空間」である必要はない。

そして,乙3発明には,本件訂正発明の「載置板」に相当する「プリン

ト回路板」の平坦な底表面と本件訂正発明の「ケース層」に相当する「鉄

ケース」との間に,これらによって画定される「板底挟持層」が存在する。

したがって,乙3文献には,本件訂正発明の構成要件訂正Gの構成が記

載されている。

イ 本件訂正発明の構成要件訂正H

前記アのとおり,乙3発明は,本件訂正発明の「板底挟持層」に相当す

る構成を有しており,「プリント回路板」の下表面に設置された電子素子

は,「板底挟持層」内の一部に設けられているといえる。

したがって,乙3文献には,本件訂正発明の構成要件訂正Hの構成が記

載されている。
ウ 本件訂正発明の構成要件訂正I

前記アのとおり,乙3発明は,本件訂正発明の「板底挟持層」に相当す

る構成を有しており,「プリント回路板」の下表面と「鉄ケース」とで画

定される板底挟持層内の一部には,「プラスチックコア下板」が設けられ

ている。

「プラスチックコア下板」は,板底挟持層の変形を防止し,板底挟持層

のサイズを安定させるものであるから,本件訂正発明の「支持装置」に相

当する。

したがって,乙3文献には,本件訂正発明の構成要件訂正Iが記載され

ている。

エ 本件訂正発明の構成要件訂正J

前記アのとおり,乙3発明は,本件訂正発明の「板底挟持層」に相当す

る構成を有するものである。

また,「プラスチックコア下板」のうち「前端部」は,板底挟持層の外

界との接続面のみに設けられているから,本件訂正発明の「前端保護層」

に相当するものである。

したがって,乙3文献には,本件訂正発明の構成要件訂正Jが記載され

ている。

(2)進歩性欠如

本件訂正発明と乙3発明とは,USBに関する装置という点で技術分野が

共通であり,USB関連製品をコンパクト化するという課題も共通である。

また,本件訂正発明の「支持装置」による板底挟持層の変形防止という作

用効果や,
「前端保護層」による板底挟持層内部の電子装置の保護という作用

効果は,乙3発明の「プラスチックコア下板」の構成による作用効果と比べ

て,何ら顕著なものではない。

したがって,仮に本件訂正発明の「板底挟持層」が「空間」に限られると
しても,当該構成は当業者が適宜選択可能な設計事項にすぎないから,本件

訂正発明は,当業者が乙3発明に基づいて容易に発明することができたもの

である。

9 争点9(訂正の再抗弁4)について

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正により前記4の無効理由は解消されるから,本件特

許権の行使は,何ら制約されるものではない。

(1)前記6【原告の主張】(1),(2)及び(4)と同じ。

(2)本件訂正により無効理由が解消されること

ア 本件訂正発明の構成要件訂正I

乙4発明には,プラグ部を構成するプリント回路基板の下方に空間が形

成されているものの,乙4公報には,板底挟持層内の一部に板底挟持層の

変形を防止するために設けられた「支持装置」が記載されていない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Iは,乙4公報に記載されて

いない。

イ 本件訂正発明の構成要件訂正J

乙4公報には,板底挟持層の外界との接続面のみに設けられた「前端保

護層」について何ら記載がないから,本件訂正発明の構成要件訂正Jは,

乙4公報に記載されていない。

【被告の主張】

以下のとおり,本件訂正発明も,乙4発明と同一であるから,本件訂正によっ

て前記4の無効理由は解消されない。

(1)本件訂正発明の構成要件訂正I

乙4発明の「プリント回路基板」全体はケースに覆われており,少なくと

もケースの前端部により板底挟持層の変形が防止され,板底挟持層のサイズ

が安定されている。
したがって,乙4発明のケースの前端部は,本件訂正発明の「支持装置」

に相当するものであり,本件訂正発明の構成要件訂正Iは,乙4公報に記載

されている。

(2)本件訂正発明の構成要件訂正J

乙4発明のケースの前端部は,板底挟持層の外界との接続面のみに面状に

設けられているから,本件訂正発明の「前端保護層」に相当するものである。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Jは,乙4公報に記載されてい

る。

10 争点 10(訂正の再抗弁5)について

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正により前記5の無効理由は解消されるから,本件特

許権の行使は,何ら制約されるものではない。

(1)前記6【原告の主張】(1),(2)及び(4)と同じ。

(2)本件訂正により無効理由が解消されること

ア 本件訂正発明の構成要件訂正G

乙5発明の封止樹脂は,プリント配線板の他方の面を覆い,半導体素子

を封止するものであるから,プリント配線板とハウジングとの間が封止樹

脂で完全に占められており,空間が存在しない。

したがって,乙5発明において,本件訂正発明の「板底挟持層」を観念

することはできないから,本件訂正発明の構成要件訂正Gは,乙5公報に

記載されていない。

イ 本件訂正発明の構成要件訂正I

前記アのとおり,乙5発明には,本件訂正発明の「板底挟持層」の構成

がなく,乙5公報には,板底挟持層内の一部に板底挟持層の変形を防止す

るために設けられた「支持装置」を設けることについて何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Iは,乙5公報に記載されて
いない。

ウ 本件訂正発明の構成要件訂正J

前記アのとおり,乙5発明には,本件訂正発明の「板底挟持層」に相当

する構成がなく,乙5公報には,板底挟持層の外界との接続面のみに設け

られた「前端保護層」を設けることについて何ら記載がない。

したがって,本件訂正発明の構成要件訂正Jは,乙5公報に記載されて

いない。

【被告の主張】

以下のとおり,本件訂正発明も乙5発明と同一であり,本件訂正によって前

記5の無効理由は解消されない。

(1)本件訂正発明の構成要件訂正G

前記8【被告の主張】(1)アのとおり,本件訂正発明の「板底挟持層」が

「空間」である必要はない。

乙5発明には,本件訂正発明の「載置板」に相当する「プリント配線板の

平坦な底表面」と本件訂正発明の「ケース層」に相当する「ハウジング」と

の間に,これらによって画定される板底挟持層が存在する。

したがって,乙5公報には,本件訂正発明の構成要件訂正Gが記載されて

いる。

(2)本件訂正発明の構成要件訂正I

前記(1)のとおり,乙5発明は,本件訂正発明の「板底挟持層」に相当す

る構成を有するものである。

また,乙5発明の「封止樹脂」は,板底挟持層の変形を防止し,板底挟持

層のサイズを安定化するものであるから,本件訂正発明の「支持装置」に相

当する。

したがって,乙5公報には,本件訂正発明の構成要件訂正Iが記載されて

いる。
(3)本件訂正発明の構成要件訂正J

前記(1)のとおり,乙5発明は,本件訂正発明の「板底挟持層」に相当す

る構成を有するものである。

また,乙5発明の封止樹脂の前端部は,板底挟持層の外界との接続面のみ

に設けられており,前端を保護する機能を有するから,本件訂正発明の「前

端保護層」に相当する。

したがって,乙5公報には,本件訂正発明の構成要件訂正Jが記載されて

いる。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(本件特許発明は,乙1発明と同一であるか)について

以下の理由から,本件特許発明は,乙1発明と同一であると認めることがで

きる。

(1)乙1文献の記載

乙1文献には,以下の記載がある。

「[0001]

1.発明の分野

[0002]

本発明はマイクロ記憶装置に関し,より詳細には個人装身具と結合するこ

とができるマイクロ記憶装置に関する。」

発明の概要

[0006]

本発明の目的は,使用者が便利に携帯できるように,個人装身具と結合す

る,非常に小型で薄型かつ軽量な記憶用メモリを提供する,個人装身具と結

合することができるマイクロ記憶装置を提供することである。

[0007]

この目的を達成するために,個人装身具と結合することができる本発明の
マイクロ記憶装置は,回路基板と,前記回路基板から延出するコネクタを有

し,前記コネクタには外部電子機器に電気的に接続するための複数の接触子

が配置されている,基板と,アドバンスパッケージ技法を用いて回路基板の

表面に実装された少なくとも1つの電子素子と,前記基板と前記電子素子を

収容するものであり,前記外部電子機器へ結合するための開口を前記コネク

タ側に有する金属ケースとを含む。」

「好適な実施形態の詳細な説明

[0013]

図1を参照すると,基板1と金属ケース3を有するマイクロ記憶装置が示

されている。基板1は回路基板12と,回路基板12から延出するコネクタ

11を有する。複数の接触子111がコネクタ11上に配置されている,す

なわち,接触子は,外部電子機器(図示せず)と電気的に接続するレイアウ

トで基板1上に直接形成されている。回路基板12にはアドバンスパッケー

ジ技法により少なくとも1つの電子素子21が実装されている。

[0014]

アドバンスパッケージ技法は例えばチップオンボード(COB)または表

面実装技術(SMT)である。COBは,UV接着剤を用いてチップを付着

させ,電子素子21を回路基板12にワイヤボンディングでパッケージング

し,電子素子21が回路基板12上に密着して実装され回路基板12とほぼ

同じ高さとなるようにする。そのため,結合し合った回路基板12と電子素

子21は,比較的薄い厚みをもたらすことに貢献する。さらに,上述の接触

子111は,基板1に直接レイアウトされているために高さを付加すること

がなく,記憶装置全体が,小型,薄型,軽量等の特徴を持つことができる。

[0015]

加えて,接触子と基板1上の電子素子21の間に必要な回路系がレイアウ

トで形成され,外部電子機器が基板1上の電子素子21にアクセスしたりそ
の電子素子を操作することができるようにする。電子素子21は,データを

記憶するフラッシュメモリ(NANDタイプフラッシュメモリ)などの不揮

発性メモリである。金属ケース3は接触子111と電子素子21を含む基板

1全体を収容してそれらに保護を提供する。金属ケース3は複数の穴31,

32,33および開口34を有する(図2a 参照)。穴31および32はコネ

クタ11の上部に配置されるのに対し,穴33は,個人装身具を固定するた

めのフック穴またはロックとして用いるために回路板12の上部に配置され

ている。開口34は,外部電子機器に接続するためにコネクタ11に配置さ

れている。穴31および32は,金属ケース3を外部電子機器にロックする

ことができる。

[0016]

図2bは本発明の側面図である。図2bにおいて,電子素子23は回路基

板12の背面に実装され,電子素子24は,金属ケース3と基板1間のスペー

スを有効利用するためにコネクタ11の特に対向側にある。」

「特許請求の範囲

1.個人装身具と結合することができるマイクロ記憶装置であって,

回路基板と,前記回路基板から延出するコネクタを有し,前記コネクタ

には外部電子機器に電気的に接続するための複数の接触子が配されてい

る,基板と,

アドバンスパッケージ技法を用いて回路基板の表面に実装された少なく

とも1つの電子素子と,

前記基板と前記電子素子を収容するものであり,前記外部電子機器へ結

合するための開口を前記コネクタ側に有する金属ケースと,

を備えたマイクロ記憶装置。

8.スペースを有効利用するために,前記基板の前記コネクタに対向して実

装された電子素子をさらに備えた請求項1記載のマイクロ記憶装置。」
図1




図2a




図2b
(2)乙1発明の内容

前記(1)の記載によれば,乙1文献には,以下の発明の構成が記載されて

いるものと認めることができる。

a プラグ部分に電子素子が接続されている。

b 基板が金属ケースの内部に収容されている。

c 基板の上表面と金属ケースの間に開口がある。

d 基板の上に接触子が複数固定されている。

e 基板上に固定される接触子は,外部電子機器と電気的に接続するために

設けられる。

f 金属ケース内部に基板が中央に配され,その底表面と金属ケースとの間

に層が存在する。

g 金属ケース内部に基板が中央に配され,その底表面に電子素子が固定さ

れている。

(3)本件特許発明と乙1発明の対比

乙1発明を本件特許発明と対比すると,@ 乙1発明の「基板」は本件特許

発明の「載置板」に,A 乙1発明の「金属ケース」は本件特許発明の「ケー

ス層」に, 乙1発明の「開口」部分は,本件特許発明の「接続挟持層」に,
B

C 乙1発明の「基板」の底表面と「金属ケース」との間に存在する層は本件

特許発明の「板底挟持層」に, 乙1発明の
D 「接触子」は本件特許発明の「第

1接続端子」に, 乙1発明の外部電子機器に設けられた接続端子は本件特
E

許発明の「第2接続端子」に,F 乙1発明の基板の底表面に固定された「電
子素子」は本件特許発明の「電子装置」に,それぞれ相当することが認めら

れる。

したがって,乙1発明は,USB規格に基づくものであるか否かが明らか

ではないものの,その他の点では本件特許発明と同一の構成であると認める

ことができる(原告も明らかに争っていない。。


乙1文献には,プラグの規格に関する記載が見当たらないものの,USB

規格を除くなど,限定的に解釈する理由は見当たらない。かえって,乙6に

よれば,本件優先日(平成16年11月1日)当時,USB規格は広く知ら

れていたことが認められる。前記(1)図1,図2aのプラグの形状からして

も,乙1文献に接した当業者は,乙1発明におけるプラグの規格として,U

SB規格も想起したことが明らかである。乙1文献のプラグの規格にUSB

規格を採用することについて,何らかの阻害要因が存したことを窺わせる事

情もない。

そうすると,上記相違点に係る本件特許発明の構成(プラグがUSB規格

によったものであること)は,実質的に乙1文献に記載されているものと同

視することができる。

したがって,本件特許発明は,乙1発明と同一であると認められる。

2 争点6(訂正の再抗弁1)について

原告は,乙1発明に本件訂正発明の構成要件訂正I及び訂正Jが記載されて

いないから,本件訂正によって前記1の無効理由が解消される旨主張する。

しかしながら,以下のとおり,乙1発明に本件訂正発明の構成要件訂正I及

び訂正Jが記載されていないとは認めることができない。

結局,前記1で述べたところを総合すると,本件訂正発明も,乙1発明と同

一であると認めることができる。

(1)本件訂正発明の構成要件訂正I

本件訂正発明の構成要件訂正Iは「前記板底挟持層内の一部に該板底挟持
層の変形を防止するための支持装置を設け,」というものである。

前記1(1)の乙1文献に記載された各図には,基板1のコネクタ11側の

端部を支持する金属ケース3の開口部に設けた部材(図2bの左端下側の斜

線で描かれた階段状部分)が図示されている。当該部材は,基板1の厚みを

有する段を備え,基板1のコネクタ11側の端を幅全体にわたって支持する

ものである。

そうすると,当該部材の上記構成自体からして,基板1を支持することで

乙1発明の基板1の底表面と金属ケース3とで画定される層(本件訂正発明

の「板底挟持層」に相当)の変形を防止するものであることは明らかである。

したがって,上記部材は,本件訂正発明の構成要件訂正Iの「支持装置」

に相当するものであると認めることができるから,乙1文献には,本件訂正

発明の構成要件訂正Iが記載されているものというべきである。

(2)本件訂正発明の構成要件訂正J

本件訂正発明の構成要件訂正Jは,該板底挟持層の外界との接続面のみに


前端保護層を設けたことを特徴とする,」というものである。

前記1(1)の乙1文献に記載された各図には,基板1のコネクタ11側の

端部を支持する金属ケース3の開口部に設けた部材(図2bの左端下側の斜

線で描かれた階段状部分)が図示されている。

そして,当該部材の上記構成自体から,乙1発明の基板1の底表面と金属

ケース3とで画定される層(本件訂正発明の「板底挟持層」に相当)の外界

との接続面のみに設けられた部材であることは明らかである。

そうすると,上記部材は,本件訂正発明の構成要件訂正Jの「前端保護層」

に相当する構成であると認めることができるから,乙1文献には,本件訂正

発明の構成要件訂正Jが記載されているものというべきである。

3 結論

以上によれば,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであ
り,本件訂正によっても当該無効理由は解消されないから,その余の点につい

て判断するまでもなく,本件各請求にはいずれも理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部



裁判長裁判官 山 田 陽 三




裁判官 松 川 充 康




裁判官 西 田 昌 吾