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関連審決 無効2011-800014
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事件 平成 24年 (行ケ) 10006号 審決取消請求事件

原告 株式会社荒井鉄工所
訴訟代理人弁護士 日野和昌
同 中田利通
訴訟代理人弁理士 丹羽宏之
同 西尾美良
同 中村英子
被告 信和エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 鈴木和夫
同 鈴木きほ
訴訟代理人弁理士 齊藤誠一
同 小田治親
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/11/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
特許庁が無効2011-800014号事件について平成23年12月1日にした審決を取り消す。
事案の概要
特許庁は,原告の有する後記本件特許について,被告から無効審判請求を受け,本件特許を無効とする旨の審決をした。本件は,原告がその取消しを求めた訴訟であり,争点は,進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「スクレーパ濾過システム」とする特許第2551480号(平成元年4月28日出願,平成8年8月22日設定登録,請求項数2,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成23年1月31日,本件特許について無効審判を請求し(無効2011-800014号事件),同年4月18日付けの訂正請求書(甲11)により,願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)について,訂正請求書に添付した全文訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正すること(以下「本件訂正」という。)を求めた。
特許庁は,平成23年12月1日,「訂正を認める。特許第2551480号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。その謄本は同年12月9日に原告に送達された。
2 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2の記載(下線部は,本件訂正によって付加した箇所) 【請求項1】 「濾カスに圧力を加えて前方に押し出しながら濾過を行う豆乳原液などの被濾過液体より液体分と固形分に分離するスクレーパ濾過システムであって,筒状ないし円錐状の所望の濾過孔を有するフィルタエレメントの排出口には固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設し,前記フィルタエレメント周面に沿って回転するスクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構を設けて前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カス固形分を引掻除去できるようにしてなることを特 徴とするスクレーパ濾過システム。」 【請求項2】 「スクレーパ機構は,フィルタエレメントの周面に対して弾性作用を以って摺接できるようにしてなることを特 徴 とする請求項1記載のスクレーパ濾過システム。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。
(1) 結論 ア 本件訂正について 訂正事項1,2(請求項1に係る訂正)は,いずれも特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当し,明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上,特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではない。
訂正事項3ないし5(発明の詳細な説明に係る訂正)は,いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上,特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではない。
したがって,本件訂正は適法である。
進歩性について 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2に係る発明(以下,順に「本件発明1」,「本件発明2」といい,併せて「本件発明」という。)は,いずれも本件特許の出願前に頒布 された刊 行物である 米国 特許第4,041,854号公報 (甲1)及び特開昭60-247498号公報(甲2)に記載された発明(以下,順に「甲1発明」,「甲2発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,特許法123条1項2号に該当する。
(2) 引用例等 審決は,本件発明の進歩性の有無について,甲1発明を主引例とした場合と甲2発明を主引例とした場合とに分けて検討している。この検討に当たって審決が認定した甲1発明,甲2発明の内容等は,次のとおりである。
ア 甲1発明を主引例とした場合について (ア) 甲1発明の内容 「汚泥圧搾・脱水済みの固形物結合体に圧力を加えて終端方向に押し出しながら濾過を行う汚泥より液体分と固形分に分離するスクレーパ濾過システムであって,円筒状部分および円錐台状部分を有し,環状空間58により形成される液体あるいは濾過水を通すことができるものの固形物の逃がし可能にするほどは広くない逃がし通路を有する濾過式脱水用媒体48の内側表面74に沿って回転する渦巻状-らせん状のブレードあるいはフライト76の外側端部全域に沿って,前記濾過式脱水用媒体48と摺接し,ブレードあるいはフライト76の前後に隙間を開けずに設けたコイルばね式の拭き取り用あるいは清掃用ブレード87を設けて前記濾過式脱水用媒体48の内側表面74に保持される固形物を拭き取ることができるようにしてなる濾過システム。」 (イ) 本件発明1と甲1発明との一致点「濾カスに圧力を加えて前方に押し出しながら濾過を行う被濾過処理物より液体分と固形分に分離するスクレーパ濾過システムであって,筒状ないし円錐状の所望の濾過孔を有するフィルタエレメント周面に沿って回転するスクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を空けずに設けたスクレーパ機構を設けて前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カス固形分を引掻除去できるようにしてなるスクレーパ濾過システム。」(ウ) 本件発明1と甲1発明との相違点 a 相違点1 被濾過処理物が,本件発明1では,「豆乳原液などの被濾過液体」であるのに対 して,甲1発明では,「汚泥」である点。
b 相違点2 本件発明1では,「フィルタエレメントの排出口には固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設」するのに対して,甲1発明では,そのような押圧弁を有しない点。
(エ) 相違点に係る判断の概要 a 相違点1について 本件発明1の「被濾過液体」を「豆乳原液」や「食品用」に限定して解することはできない。本件発明1の「被濾過液体」は,粘度の高い流体を被濾過処理物として包含するものである。甲1発明における被濾過処理物の「汚泥」は,その性状からして,粘度の高い流体であることは明らかである。したがって,甲1発明の「汚泥」は,被濾過処理物として,本件発明1の「被濾過液体」に包含される流体に相当するから,相違点1は,実質的な相違点ではない。
b 相違点2について 甲第2号証における「半ば固形化される被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とする押圧盤27」は,本件発明1の「固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁」に相当する。甲1発明において,汚泥の液体分と固形分を分離して排出するに際して,さらに液体分を排除するために,甲第2号証に記載された「被処理物の含水率すなわち脱水率を調整するための押圧盤」を適用し,相違点2に係る「搾汁効果を可変調節できる押圧弁」の構成とすることは,当業者が容易に採用し得た手段である。
イ 甲2発明を主引例とした場合について (ア) 甲2発明の内容 「公害処理施設における汚泥,醸造施設におけるビール,粕,モロミその他,食品製造施設における果実等の加工食品等の被処理物の固形分をスクリュ状羽根により前部に送りながら脱水を行い,被処理物より水分と固形分とに分離する脱水処理 装置であって,筒状の多数の水切孔23を有するケーシング20の排出口には半ば固形化される被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とする押圧盤27を配設し,ケーシング20内に前後方向で回転可能にして支承され,多数の脱水孔32が形成される中空の筒状シャフト30,及びケーシング内周面に沿って密接状に回転する送り羽根31が設けられ,ケーシングの上方に配された洗浄管より洗浄水をケーシング20外部に噴射させ,水切孔23の目詰りを防止するようにしてなる脱水処理装置。」 (イ) 本件発明1と甲2発明との一致点「濾カスに圧力を加えて前方に押し出しながら濾過を行う豆乳原液などの被濾過液体より液体分と固形分に分離する濾過システムであって,筒状の所望の濾過孔を有するフィルタエレメントの排出口には固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設し,前記フィルタエレメント周面に沿って回転するスクリュ状羽根,及びフィルタエレメントの濾過孔の目詰りを防止する手段を有する濾過システム。」(ウ) 本件発明1と甲2発明との相違点 a 相違点3 本件発明1では,フィルタエレメントの濾過孔の目詰りを防止する手段が,「スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構を設けて前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カス固形分を引掻除去できるようにしてなる」スクレーパ濾過システムであるのに対して,甲2発明では,フィルタエレメントの濾過孔の目詰りを防止する手段が,「ケーシング20の上方に配された洗浄管より洗浄水をケーシング20外部に噴射させ,水切孔の目詰りを防止するようにしてなる」濾過システムである点。
b 相違点4 本件発明1では,フィルタエレメントに濾過孔を有するのに対して,甲2発明では,フィルタエレメントに濾過孔である水切孔を有する他に,シャフトにも脱水孔 が設けられている点。
(エ) 相違点に係る判断の概要 a 相違点3について 甲2発明における水切孔の目詰まり防止手段として,洗浄水の噴射による手段に代えて,甲第1号証記載の清掃用ブレードによる引掻手段を適用し,「スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構」を有するスクレーパ濾過システムとすることは,当業者が容易になし得た設計事項である。
b 相違点4について 甲2発明における排水手段を,シャフトに脱水孔を設けることなく,フィルタエレメントの水切孔を有する構成とすることは,被処理物より分離される液体分の除去効率に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項である。
取消事由に係る原告の主張
審決には,次の誤りがあり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。
(1) 相違点1は実質的な相違点ではないとした判断の誤り(取消事由1)(2) 甲1発明を主引例として本件発明の進歩性を否定した判断の誤り(甲1発明と本件発明の技術分野の相違を無視して甲1発明を主引例として本件発明の進歩性を判断した誤り。取消事由2) (3) 甲2発明の押圧盤は本件発明1の押圧弁に相当するとした認定の誤り(取消事由3) (4) 甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を否定した判断の誤り(甲2発明と本件発明の技術分野の相違を無視して甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を判断した誤り,相違点3に係る容易想到性判断の誤り。取消事由4) 1 相違点1は実質的な相違点ではないとした判断の誤り(取消事由1) (1) 審決は,相違点1(被濾過処理物が,本件発明1では,「豆乳原液などの被 濾過液体」であるのに対し,甲1発明では,「汚泥」である点。)について,「本件発明1の『被濾過液体』を『豆乳原液』や『食品用』に限定して解することはできない。本件発明1の『被濾過液体』は,粘度の高い流体を被濾過処理物として包含するものである。甲1発明における被濾過処理物の『汚泥』は,その性状からして,粘度の高い流体であることは明らかである。したがって,甲1発明の『汚泥』は,被濾過処理物として,本件発明1の『被濾過液体』に包含される流体に相当するから,相違点1は,実質的な相違点ではない。」と判断しているが,この判断は誤りである。その理由は次のとおりである。
ア まず,審決の上記判断は,本件訂正により本件発明の被処理物を「豆乳原液などの被濾過液体」に限定することを認めた審決の趣旨に反する。
すなわち,審決は,本件訂正により本件発明の被処理物を豆乳原液などに限定することを認めながら,本件発明1と甲1発明との対比に当たっては,「汚泥」は粘度の高い流体であるから,本件発明1の「被濾過液体」に包含されるとした。しかし,このような判断は,請求項を「豆乳など」と減縮した本件訂正に係る判断と矛盾するものであり,本件訂正の趣旨に反するものである。本件訂正は,「被濾過液体」を「粘度の高 い流 体」と訂正した ものではないし,常識的に 見て,「豆乳など」から汚泥を連想することなどあり得ないからである。
イ また,本件訂正により本件発明の被処理物を豆乳などの食用品と限定したのは,粘性の点から限定したものではない。本件発明の被処理物を豆乳などの食用品と限定したのは,本件発明が,食品原料を液体分と固体分に分離し,そのうちの液体分を採集して,これを食品用製品として提供することを主たる目的とするものであり,固形物もまた副産物として利用することのできる濾過システムであることを明確にするためであって,食用とはならない土砂などの無機物を排除するためである。
このことは,本件発明の請求項に「固形分の搾汁効果を」と記載されていることからも明らかである。すなわち,豆乳などの食品有機物においては,タンパク質な どの栄養分を含む液体は,細胞壁などの繊維質の固形分内に存在し,液体を抽出するためには,その固形分を破砕し,これに圧力を加えて絞り出す必要がある。この作業が搾汁であり,本件発明は,この搾汁に関するものである。これに対し,甲1発明や甲2発明は,土砂などの固体無機物の外部に介在する水分を取り出す脱水装置である。土砂などの固体中には水分は包含されていないので,土石そのものから水分を抽出する必要はなく,単なる脱水で足り,搾汁という作業は必要でない。このことからも,本件発明の被処理物は,豆乳などの食品に限られ,汚泥を含まないことが明らかである。
ウ さらに,甲1発明では,粘性の強い液体は,濾過処理前に調整タンクにおいて化学的処理などによって除去される(甲1の図1に示す全体の構成のうち,CONDITIONING TANK44の構成,作用について説明した第5欄61行ないし同欄末行参照)のに対し,本件発明では,被濾過液体が食用品であるため,このような処理は禁忌である。このことからも,両者の被濾過液体が本質的に相違するものであることは明らかである。
(2) 被告は,本件訂正明細書(甲11)の〔産業上の利用分野〕の「粘度の高い流体の濾過」との記載を引用して,本件発明の技術的範囲は粘度の高い流体全ての濾過に及ぶと主張する。しかし,明細書の記載の解釈に当たっては,文言の一部だけを取り出して論ずるのではなく,請求項や【発明の詳細な説明】など,明細書全体の趣旨や目的を考慮すべきである。してみると,〔従来の技術〕の冒頭で「粘度の高い豆乳原液などの濾過」と表現され,〔発明が解決しようとする課題〕以下では,豆乳原液だけが挙げられていることから,本件発明の目的,効果が豆乳原液から豆乳を得るところにあることは明らかであり,その限界は食品用であると明記されており,本件発明の技術的分野が最大限食品用に限定されていることは明らかである。
すなわち,本件発明は,もともと豆腐製造の機械化を目的としたものであり,汚泥の脱水を目的としたものではない。このことは,特許公報のどこにも汚泥の記載 がないこと,豆乳原液の濾過が説明の中心となっていることから明らかである。本件発明の請求項や【発明の詳細な説明】で,被濾過流体として挙げられているのは,豆乳原液のみであり,〔実施例〕では,冒頭に「この実施例は,豆乳原液より豆乳を得るのに好適な機械を示している」と記載され,実施例に示される被濾過液体が「豆乳原液」であることを明示している。したがって,実施例の説明中の「被濾過液体」や「固液混合体」が豆乳原液を指すものであることは,説明を要しない。また,「この種の豆乳原液は,粘着性,附着性の高い固形分を含有している」(4頁下から4行)との記載から明らかなように,「粘度の高い流体」との記載は,豆乳原液の物理的性質を説明したものであり,本件発明の技術的範囲が「粘度の高い流体」全てに及ぶことを示すものではない。被告は,「所望の被濾過液体,例えば豆乳原液などの固液混合液体」(4頁下から9〜10行)との記載を取り上げ,本件発明の技術的範囲を広く解しようとするが,この記載は,言葉のニュアンスの問題であり,この記載によって本件発明の技術的範囲が被濾過液体全てに拡張されることはあり得ない。かえって,〔発明の効果〕の結論として,「豆乳原液より豆乳とオカラとの分離を能率よく行うことができるなど,各種食品用として固液分離など広く利用できる」と記載されており,本件発明の技術的範囲が最大限食品用であることを示されている。
(3) したがって,相違点1(被濾過処理物が,本件発明1では,「豆乳原液などの被濾過液体」であるのに対し,甲1発明では,「汚泥」である点。)は実質的な相違点ではないとした審決の認定は誤りである。
2 甲1発明を主引例として本件発明の進歩性を否定した判断の誤り(甲1発明と本件発明の技術分野の相違を無視して甲1発明を主引例として本件発明の進歩性を判断した誤り。取消事由2)(1) 審決は,甲1発明を主引例として本件発明の進歩性を否定しているが,甲1発明と本件発明の技術分野は相違しているから,甲1発明を主引例として進歩性を判断することはできない。したがって,甲1発明を主引例として本件発明1の進歩 性を否定した審決の判断は誤りである。
すなわち,本件発明は,豆乳原液などの食品原料について,その固形分から液体分を抽出搾汁することを目的とする濾過装置である。これに対し,甲1発明は,汚泥から水分を分離し脱水することを目的とする脱水装置であり,本件発明とは技術分野が全く異なる。この点については,東京地方裁判所平成24年2月22日判決(平成22年(ワ)第31756号 損害賠償 請求事件。以下「東京地裁判決」という。)が正当に判示するとおりである。
(2) 被告は,「脱水濾過」という概念を持ち出して,本件発明と甲1発明とは同一の技術分野に属すると主張するが,技術分野の同一性は,そのような広い概念によって判断すべきではなく,その発明の目的やその発明が期待する作用効果などから判断すべきである。脱水濾過といっても,対象物が異なり,目的が異なれば,技術分野が同一であるとはいえない。
本件発明の目的は,豆乳原液などの食品原料から効率的にその液体分を収集することであるのに対し,甲1発明は,乾燥した(脱水した)固形分としてこれを廃棄することを目的とした装置であるから,本件発明と甲1発明との間には,その目的や期待される作用効果に大きな相違があることは明らかであり,技術分野が同一であるとはいえない。
(3) したがって,甲1発明を主引例として本件発明の進歩性を判断することはできないから,甲1発明を主引例として本件発明1の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
3 甲2発明の押圧盤は本件発明1の押圧弁に相当するとした認定の誤り(取消事由3) 審決は,甲2発明の押圧盤は,本件発明1の押圧弁に相当すると認定しているが,この認定は誤りである。その理由は次のとおりである。
(1) 構成上の相違 甲2発明の構成では,被処理物の圧力以外の外力によって押圧スプリングの押圧 力を可変調節することはできないので,被処理物の種類や状態により押圧盤の押圧力を可変調節することはできず,脱水率を変化させることはできない。
すなわち,甲第2号証の公報571頁(3)左上欄下から7行ないし同頁右上欄3行までの記載及び図面からすると,押圧スプリングの押圧力を変化させることにより,押圧盤の押圧力の調整がなされることとなる。押圧スプリングは,ドーナツ状固定部とドーナツ円錐状押圧盤との間に取り付けられている。ドーナツ状固定部はシャフトに外嵌固定されているので前後に動かすことはできないから,ドーナツ状固定部の操作によって押圧スプリングの押圧力を変化させることはできない。ドーナツ円錐状押圧盤は前後に動くが,その移動はケーシング内の被処理物の圧力によるだけであり,その他の外力によって移動できるようにはなっていない。したがって,甲2発明の構成では,被処理物の圧力以外の外力によって押圧スプリングの押圧力を可変調節することはできないのである。
これに対し,本件発明では,「排泄口8に対し,コイルバネ16で圧接される押圧弁17を当接させると共に,前記コイルバネ16に対しては,そのバネ圧を可変調節できる螺杆18を附設して取り出される固形分の搾汁効果を可変調節できる」となっている。すなわち,被濾過流体の種類や固形分中の含有液体分の量に応じて,作業前・作業中において,コイルバネのバネ圧を螺杆により変化させることができるのである。このコイルバネのバネ圧変化により,押圧弁の押圧力が変化する,つまり搾汁効果を可変調節できるのである。
このように,甲2発明と本件発明では,押圧力を可変調節する構成が異なる。
(2) 作用上の相違 甲2発明の押圧盤は回転する。なぜなら,押圧スプリングの一端がドーナツ固定部に固着しているため,シャフトに固定されたドーナツ固定部がシャフトと共に回転すると,それに応じて押圧スプリングも押圧盤も回転するからである。そのため,押圧盤をケーシングに密着させることはできず,排出口を常に開けておかなければならない。甲第2号証に「略閉塞」と記載されているのはそのためである。したが って,甲2発明では,液体分の漏出を防ぐことはできない。
これに対し,本件発明では,押圧弁により完全に排出口を塞ぐことができ,液体分の漏出を防ぐことができる。このことは,搾汁率にも影響を及ぼし,搾汁効率上大きな差異が生ずる。
このように,甲2発明と本件発明では,作用上も相違する。
(3) 甲2発明には重大な欠陥が存在すること 甲2発明のシャフトは,前部から後部に至るに伴い次第に大径となっている。ドーナツ状押圧盤はシャフトの外側に嵌められている。その結果,押圧盤はその内径がシャフトの外径と同一となる位置以上には前部には移動できない。その上,押圧盤の内径とシャフトの外径との差は,それほど大きくすることはできない。その間隙に被処理物が侵入しないようにする必要があることによる。その結果,押圧盤の移動の範囲は極めて狭く,被処理物による押圧盤の押圧力の変化には限界がある。
また,押圧盤はシャフトの回転に応じて回転する。豆乳などの粘性の高い流体が押圧盤に付着すると,押圧盤の回転を妨げる。ドーナツ状固定部の回転と押圧盤の回転には,回転速度の差が発生し,押圧スプリングが断裂する可能性が高い。
4 甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を否定した判断の誤り(甲2発明と本件発明の技術分野の相違を無視して甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を判断した誤り,相違点3に係る容易想到性判断の誤り。取消事由4) (1) 甲2発明と本件発明の技術分野の相違を無視して甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を判断した誤り 審決は,甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を否定しているが,甲2発明と本件発明の技術分野は相違しているから,甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を判断することはできない。したがって,甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
すなわち,本件発明は,豆乳原液などの食品原料について,その固形分から液体分を抽出搾汁することを目的とする濾過装置である。これに対し,甲2発明は,甲 1発明と同様に,脱水のみを目的とする脱水処理装置であり,本件発明とは技術分野が全く異なる。
甲第2号証には,甲2発明の被処理物として「醸造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品」が挙げられ,また〔実施例〕にも,「醸造施設においてのビール,粕,モロミその他,食品製造施設においての食肉,水産物,果実等の加工食品,」との記載があるため,甲2発明の被処理物として食品原料が含まれるように見える。
しかし,その実施例の結論部分には「その結果,被処理物中の水分は除去され,半ば固形化された被処理物は機枠10前部の貯留室16に貯留され,適宜に廃棄処理される」と記載されており,また,「浸出された水分は所定の場所に吸引除去処理され」「被処理物中の水分は除去される」のであって,甲2発明の被処理物は廃棄処理され,被処理物中の水分は除去されるのであり,甲2発明の被処理物が食品として利用されることはない。このことは,目詰まり防止のため,食品の品質維持に禁忌の清浄水を噴射することによっても裏付けられる。
また,〔発明の技術的背景とその問題点〕の冒頭をみると,「汚泥,モロミ,加工食品,ボード類等の含水繊維物その他の産業廃棄物を脱水処理させる」と記載され,モロミ,加工食品そのものではなく,「モロミ,加工食品…等の含水繊維その他の産業廃棄物」の脱水処理技術に関するものであることが明記されていることからすると,上記の「醸造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品」との記載,「醸造施設においてのビール,粕,モロミその他,食品製造施設においての食肉,水産物,果実等の加工食品,」との記載は,いずれも食品原料を意味するのではなく,醸造施設や食品製造施設から排出された「産業廃棄物」を意味するものと解される。そうだからこそ,発明の名称も「汚泥その他の脱水処理装置」とされ,特許請求の範囲にも「汚泥その他の脱水処理装置」とされているのである。
そうすると,甲2発明の被処理物として食品原料は含まれず,甲2発明は,甲1 発明と同様に,本件発明とは技術分野を異にするものであるから,甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を判断することはできない。
したがって,甲2発明を主引例として本件発明1の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
(2) 相違点3に係る容易想到性判断の誤り 審決は,相違点3(本件発明1では,フィルタエレメントの濾過孔の目詰りを防止する手段が,「スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構を設けて前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カス固形分を引掻除去できるようにしてなる」スクレーパ濾過システムであるのに対して,甲2発明では,フィルタエレメントの濾過孔の目詰りを防止する手段が,「ケーシング20の上方に配された洗浄管より洗浄水をケーシング20外部に噴射させ,水切孔の目詰りを防止するようにしてなる」濾過システムである点。)について,「甲2発明における水切孔の目詰まり防止手段として,洗浄水の噴射による手段に代えて,甲第1号証記載の清掃用ブレードによる引掻手段を適用し,『スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構』を有するスクレーパ濾過システムとすることは,当業者が容易になし得た設計事項である。」と判断しているが,この判断は誤りである。
すなわち,甲2発明で目詰まり防止として[発明の詳細な説明]で示されているのは,ケーシングの外側の一部に配置された洗浄管で適宜の圧力を付与した清浄水をケーシングの外部に噴射させることで水切孔の目詰まりを防止するというものである。すなわち,ケーシングの外部の装置から,水切孔に圧力を加える方法である。
これに対し,甲1発明のコイルばね式清掃用ブレードは,濾過式脱水用媒体48の内側表面の保持された固形物を切り剥がして擦り取り内側表面から固形物の拭き取り清掃が行われるものである(甲1の5頁)。すなわち,甲2発明のようにケーシングの外側から水切孔に圧力を加え固形物をケーシング内部に落下させるという ものではなく,コイル式清掃用ブレードは,内側表面に付着した固形物を切り剥がしこすり取ることにより,濾過式脱水用媒体の内側表面から固形物を拭き取り清掃をするというものである(甲1の5頁)。
そうすると,甲2発明の外部から圧力を加える手段から,甲1発明の内部からこすり取るという解決手段を想到することは,当業者といえども容易であるとはいえない。
また,甲2発明には,シャフト30に水切孔が設けられているが,シャフト側には甲1発明のコイルばね式清掃用ブレードを適用することはできず,シャフトの水切孔の目詰まりは防止できない。
したがって,相違点3に係る審決の容易想到性判断は誤りである。
被告の主張
1 取消事由1(相違点1は実質的な相違点ではないとした判断の誤り)に対し (1) 本件発明1の「被濾過液体」は「食品用」に限定されているとの原告の主張について ア 本件訂正を認めた審決の趣旨をいう原告の主張について 原告は,審決が,「本件発明1の『被濾過液体』を『豆乳原液』や『食品用』に限定して解することはできない。本件発明1の『被濾過液体』は,粘度の高い流体を被濾過処理物として包含するものである。」と判断したことは,本件訂正により被処理物を「豆乳原液などの被濾過液体」に限定することを認めた審決の趣旨に反すると主張する。
しかし,このような主張は,訂正可否の判断と公知技術との対比における判断を混同するものであり失当である。訂正可否の判断は,訂正が特許法134条の2に規定する各要件を満たすか否かを判断するものであり,被処理物を「豆乳原液などの被濾過液体」に限定する訂正が認められたからといって,そのことが直ちに公知技術と異なることを意味するものではない。審決の上記判断は,被濾過流体の範囲を拡張するものではないし,本件訂正を認めた判断と何ら矛盾するものではない。
イ 本件発明1の「被濾過液体」が「食品」に限定されたとする原告の主張について 原告は,本件訂正により被処理物を「豆乳原液などの被濾過液体」と限定したことによって,「被濾過液体」は「食品」に限定されたと主張する。しかし,本件発明1において,「被濾過液体」は「豆乳原液など」という例示的表現によって特定されているだけであり,「被濾過液体」が「食品」であるとの限定は付されていない。本件訂正明細書では,「被濾過液体,例えば豆乳原液などの固液混合液体」と記載されているのみであり,「被濾過液体」が「食品」であることに起因するような記載,例えば,衛生的に処理する必要がある等の記載は一切なされていない。
本件訂正明細書の記載を客観的に見れば,本件発明1は,被処理物である「被濾過液体」の粘度が高いとフィルタエレメントの目詰りという不都合が生ずることからこれを解決すべくなされたものであるということが容易に理解され,「豆乳原液などの被濾過液体」は,「粘度の高い流体」を意味するものと解するのが相当である。
(2) 本件発明の被処理物に汚泥は含まれないとの原告の主張について ア 原告は,「甲1発明や甲2発明は,土砂などの固体無機物の外部に介在する水分を取り出す脱水装置である。土砂などの固体中には水分を包含されていないので,土石そのものから水分を抽出する必要はなく,単なる脱水で足り,搾汁という作業は必要でない。このことからも,本件発明は,豆乳などの食品に限られ,汚泥を含まないことが明らかである。」と主張する。
しかし,「豆乳原液などの被濾過液体」は「食品 」を 意味 せず ,「 高粘度の流体」を意味するものと解することが合理的であることは,前記のとおりである。
イ 原告の上記主張は,「汚泥」が単に「土砂又は土石と水の混合物」であり,土砂などの固体中に水分が包含されていないことを前提とするものである。
しかし,「汚泥」は「スラッジ」とも呼ばれ,下水処理や工場廃水処理の過程で発生する水分99〜95%程度を含む浮遊性の汚濁物質をいい,廃水中の浮遊物質 が沈降分離されたものを沈殿汚泥,生物処理から発生する微生物が沈降分離されたものを余剰汚泥などと呼ばれる(乙1)。このように,「汚泥」は,「きたない泥(広辞苑第5版)」を意味するほか,廃水処理工程で沈殿した汚濁物質を意味し,無機物のみならず有機物を含んだ,例えば「ヘドロ」のようなものを含む概念である。「汚泥」すなわち「ヘドロ」は,粘性も高く,また高含有率で水分を包含するものであることは,説明するまでもなく周知である。よって,「豆乳原液などの被濾過液体」と甲第1号証及び甲第2号証に示す「汚泥」とは,いずれも「高粘度の流体」である点で共通する。
また,「泥」は,「水がまじって軟らかくなった土」(広辞苑第5版)を意味するところ,「土」すなわち「土壌」は,「砂」,「シルト」,「粘土」などの無機物と有機物,水,空気からなり,これらはそれぞれ「固相」,「液相」,「気相」といわれ,そして,土壌は「団粒構造」を有しており,団粒の外側にある水は容易に流れるが,団粒 の隙間に 入り込 んだ 水は 容易に排水 されないようになっている(乙2)。そして,団粒の隙間にどれだけの水を貯えられるかが「水持ちの良さ」となるのである。したがって,土砂などの固体中に水分が包含されていないことを前提とする原告の上記主張は誤りである。
ウ 原告は,甲第1号証のCONDITIONING TANK44の構成及び作用に係る記載を引用し,甲1発明では,粘性の強い液体は濾過処理前に調整タンクにおいて化学的処理などによって除去されるが,本件発明では,被濾過流体が食用品であるため,このような処理は禁忌であることから,両者の被濾過流体は本質的に相違すると主張する。
しかし,甲第1号証 のCONDITIONING T ANK44については,「汚泥を処理するために圧搾機が使用されるときには〜」と記載されており,使用しない場合があることが明確に示唆されている。また,処理対象物が食品,例えば,豆乳原液から豆乳とおからとを分離するような場合に,栄養分を除去したり,変質させるような化学薬剤を用いることなど常識的にみて考えられない。
なお,東京地裁判決では,「被濾過液体」は「食品原料」に限定されるとの判断がなされているが,その判断は極めて不十分な認定に基づくものであって妥当ではない。
(3) 小括 以上のとおり,本件発明1の「豆乳原液などの被濾過液体」は「食品」を意味せず,「高粘度の流体」を意味するものであって,この「被濾過液体」には「汚泥」も包含されるとの審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(甲1発明を主引例として進歩性を否定した判断の誤り)に対し (1) 東京地裁判決について 原告は,東京地裁判決を引用し,本件発明は豆乳原液などを対象とした濾過装置であり,甲1発明の汚泥処理を目的とする脱水装置とでは技術分野が異なり,甲1発明に基づいて本件発明を想到することは容易ではないから,甲1発明を主引例として本件発明を無効とすることはできないと主張する。
東京地裁判決は,「豆乳原液などの被濾過液体」について,「訂正により,本件明細書の『各種食品用として,またその他の機械的切削油の固液分離など広く利用できる。』との記載から『,またその他の機械的切削油の』が削除されたことにより,本件明細書には,本件発明の用途に関して『各種食品用として固液分離など広く利用できる。』と記載されているのみとなったことを考慮すれば,本件発明における『被濾過液体』は食品原料を指すものと解され,豆乳原料は,上記のとおり食品原料に限定される被濾過液体の例示としてあげられたものと解するのが相当である。」として「被濾過液体」は「食品原料」に限定されると判断している(84頁2行から10行)。また,東京地裁判決は,「被濾過液体」は「高粘度の流体」を意味するものであるとの被告の主張について,「本件明細書中には,〔産業上の利用分野〕について『特に粘度の高い流体の濾過に好適なスクレーパ濾過システムに関する。』と記載されているのみであって,訂正によっても本件発明がその濾過対象を高粘度の流体に限定したものとは解されないから,被告の主張を採用すること はできない。」とした。
しかし,東京地裁判決は,被告が 指摘した本件訂正明細書の記載,すな わち,「一般に粘度の高い豆乳原液などの濾過は,濾過孔が大きいものから小さいものに変わって行く多段階による濾過とか,メッシュを使った原始的な濾過によって処理しているものが多い。」(1頁20行〜22行),「最近に至り,本発明者は筒状ないし円錐状のフィルタエレメントを用い,スクリュ状羽根を用いてフィルタエレメントの周面に附着する濾カス固形分を除去しながら濾過処理できる装置,方法を開発したが,固形分に粘性があり,その粘度が高い目詰りという不都合が生ずることが判明した。」(1頁24行〜27行),「そこで,さらにスクリュ状の羽根に支柱を設け,この支柱よりスクレーパを突出させてフィルタエレメントの周面と摺接させ,直接フィルタエレメント周面上の附着固形物を引掻いて除去する方法,装置を開発したが,折角,除去された固形分がスクレーパの支柱部分で溜り,そこで附着状態が成長してしまうという不都合がわかった。この発明は,かかる不都合を無くし,フィルタエレメントの目詰まりがなく,かつ,絞り効果が大きく濾過効率の高いスクレーパ濾過システムを提供することを目的とする。」との記載(1頁28行〜同2頁6行)(以上,下線はすべて被告)について何らの検討も行うことなく,単にその他の機械的切削油が削除されたことのみをもって,「豆乳原液などの被濾過液体」が「食品」を意味すると結論づけたものである。
また,「被濾過液体」について,本件訂正明細書には,「被濾過液体,例えば豆乳原液などの固液混合液体」と記載されているのみであり,「被濾過液体」が「食品」であることに起因するような記載,例えば,被濾過液体は衛生的に処理する必要がある等の記載は一切なされていない。
以上によれば,「豆乳原液などの被濾過液体」が「高粘度の流体」を意味することは明らかであり,そして,前記のとおり,「汚泥」には高粘度のものも含まれることから,「汚泥」を対象とした甲1発明と本件発明1とは技術分野が共通する。
したがって,甲1発明を主引用例として甲2発明を適用することによる無効の主張 については何の阻害理由も存在しない。
(2) 本件発明と甲1発明との技術分野の共通性について ア 仮に,「豆乳原液などの被濾過液体」が「食品」を意味するとしても,本件発明1と甲1発明とは,いずれも「脱水濾過」という共通の技術分野に属する。
すなわち,本件発明は,当初,被処理物として「豆乳原液などの被濾過液体」のほか,「その他の機械的切削油」も含んだ「脱水濾過」という技術分野で出願されたものであるところ,本件訂正によって「その他の機械的切削油」が削除されたものである。本件発明1は,「脱水濾過」の「用途」を単に「食品用」に限定したものにすぎず,また,「食品用」であるための固有の構成や作用・効果を有しているわけではない。本件訂正は,「脱水濾過」という 技術 分野において,用途を 単に「食品用」に限定したものにすぎず,訂正によって当初の技術分野が全く異なる技術分野に変更されるものではない。また,甲第2号証の「発明の技術分野」には,「本発明は汚泥その他の脱水処理装置に係り,公害処理施設においてのし尿処理場その他での汚泥,醸造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品,製紙製造施設においてのボード類等の含水繊維その他の産業廃棄物の連続圧搾 脱水を 図れるようにした汚泥その他の 脱水処理装置に 関するものである。」(1頁右欄6行〜11行)と記載されており,甲2発明は,「脱水濾過」の技術分野において処理対象物を食品とそれ以外とで区別していない。
イ また,進歩性判断の審査基準「2.4進歩性判断の基本的な考え方(2)@技術分野の関連性」によれば,「発明の課題解決のために,関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは,当業者の通常の創作能力の発揮である。例えば,関連する技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは,当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。」とされている。
よって,「脱水濾過装置」に関し,仮に「食品」と「汚泥」とで技術分野が相違するとした場合であっても,「脱水濾過装置」における処理対象物である「食品」と「汚泥」の相違の程度は,少なくとも審査基準でいう「関連する技術分野」に相 当すると考えられる。
ウ 原告は,技術分野の同一性は,その発明の目的やその発明が期待する作用効果などから判断すべきであると主張する。しかし,本件発明が食品原料から効率的に液体分を収集することを可能とするものであるならば,食品原料から効率的に固形分を収集することもできるのであり,本件発明が液体分を収集するための特別な構成を備えているわけでもない。したがって,本件発明と甲1発明,甲2発明とでは,目的や期待される作用効果に大きな相違はない。
(3) 小括 以上のとおり,甲1発明を本件発明1に適用することは当業者の通常の創作能力の発揮であり,進歩性判断に当たって甲1発明を主引用例として採用することに困難性はない。
3 取消事由3(甲2発明の押圧盤は本件発明1の押圧弁に相当するとした認定の誤り)に対し (1) 構成上の相違をいう原告の主張について 原告は,甲2発明の構成では,被処理物の圧力以外の外力によって押圧スプリングの押圧力を可変調節することはできないので,被処理物の種類や状態により押圧盤の押圧力を可変調節することはできず,脱水率を変化させることはできないのに対し,本件発明1では,押圧弁が「排泄口(「排出口」の誤記と思われる)8に対し,コイルバネ16で圧接される押圧弁17を当接させると共に,前記コイルバネ16に対しては,そのバネ圧を可変調節できる螺杆18を附設して取り出される固形分の搾汁効果を可変調節できる」から,両者の間には差異が存在すると主張する。
しかし,本件発明1の「押圧弁」に関する発明特定事項は,「フィルタエレメントの排出口には固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設し,」と,機能的な事項しか記載されておらず,「押圧弁」の具体的な構成については何ら記載されていない。
したがって,原告の上記主張は,「押圧弁」の一実施例の具体的構成を説明した ものにすぎず,本件発明1に記載された発明特定事項に基づくものではない。
(2) 作用上の相違等をいう原告の主張について 原告は,甲2発明と本件発明では作用上相違するとか,甲2発明には重大な欠陥があると主張するが,甲2発明の作用効果については,甲第2号証の3頁右上欄1行〜3行に,「被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とする。」と明確に記載されており,これは,本件発明1の「押圧弁」の作用効果と同一である。ここで,「弁」とは,「気体または液体の出入をつかさどる器具の総称」(乙3)を意味する。したがって,本件発明1の「押圧弁」は「搾汁効果の可変調節ができる」器具の総称を意味するのであるから,甲2発明の「押圧盤27」は,少なくとも本件発明1における「押圧弁」に含まれる。
(3) 小括 したがって,甲2発明の押圧盤は本件発明1の押圧弁に相当するとした審決の認定に誤りはない。
4 取消事由4(甲2発明を主引例として進歩性を否定した判断の誤り)に対し (1) 甲2発明と本件発明の技術分野の共通性について 原告は,本件発明が,豆乳原液などの食品原料について,その固形分から液体分を抽出搾汁することを目的とする濾過装置であるのに対し,甲2発明は,甲1発明と同様に,脱水のみを目的とする脱水処理装置であり,被処理物の1つとして挙げられている「加工食品」は「産業廃棄物」であって,被処理物中の水分は除去され,食品として利用されることはないから,本件発明とは技術分野が全く異なると主張する。
しかし,甲2発明,甲1発明と本件発明1とは,「脱水濾過」という共通の技術分野に属するものである。すなわち,「脱水」とは,「物質より水を除くこと」であり,物質から水分子を取り除くことも含まれる広い概念である(乙1)のに対し,「濾過」は,「多孔質の膜や層を用いて固体を含む溶液の液体だけを通過させ固体と液体を分離すること」をいう(乙1)。したがって,「濾過」は「脱水」に含ま れる概念である。また,水分と固形分を物理的に分離する場合,固形分に着目すれば「脱水」となり,水分に着目すれば「濾過」となる相対的なものである。したがって,水分と固形分の物理的な分離を行う甲2発明,甲1発明と本件発明1とは技術分野が共通するといえる。
原告は,甲2発明の被処理物は廃棄処理され,被処理物中の水分は除去されるのであり,甲2発明の被処理物が食品として利用されることはないと主張するが,必ずしも そうとは言い切 れない。すなわち,甲第2号証 の実施例として記載された「醸造施設においてのビール,粕,モロミその他」について,ビールの場合は発酵前の液体は麦汁として,発酵後の液体であればビールとして使用され,ビールを搾ったあとの脱水粕についても飼料やサプリメント等として利用される。また,モロミの場合であれば液体分は酒となり,固形分は酒粕となる。さらに,果実等の加工食品の場合であれば液体分は果汁となり,搾り粕はパルプとなって食品製造に利用される。甲第2号証の3頁左下欄5行目には「適宜に廃棄処理され」と記載されており(下線は被告),例えば,被処理物が「汚泥」の場合であれば液体分も固形分もいずれも廃棄されるのであろうが,上記ビール,モロミ,果実等の加工品の場合にも液体分及び搾り粕のいずれをも廃棄するようなことは通常では考えられない。
なお,原告は,被処理物が廃棄処理される根拠として目詰まり防止のため,食品品質維持に禁忌の清浄水を噴射することによって裏付けられるとしているが,甲第2号証には,処理中に清浄水を噴射して目詰まり防止を図る旨の記載はなく,上記ビール,モロミ,果実等の加工食品を処理する場合には作業終了後或いは一旦作業を中断して装置を洗浄すると解するのが通常であって,処理の最中に目詰まり防止のために清浄水を噴射するようなことは常識的に考えらず,原告の主張は,甲2発明について誤った解釈に基づく主張である。
原告は,甲2発明の被処理物のうち「醸造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品」,「醸造施設においてビール,粕,モロミその他,食品製造施設においての食肉,水産物,果実等の加工食品」は,「産業廃棄 物」を意味するものであると主張するが,そのように解釈することはできない。すなわち,甲第2号証の「発明の技術分野」には「本発明は汚泥その他の脱水処理装置に係り,公害処理施設においてのし尿処理場その他での汚泥,醸造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品,製紙製造施設においてのボード類等の含水繊維物その他の産業廃棄物の連続圧搾脱水を図れるようにした汚泥その他の脱水処理装置に関するものである。」(下線はいずれも被告)と記載されている。すなわち,それぞれの被処理物ごとに「その他の」が使用されていることからみて,「汚泥,モロミ,加工食品,産業廃棄物」はそれぞれ並列の関係にあることが理解 される。したがって,「 汚泥その他 の脱水処理 装置 」における「その他の」は少なくとも「モロミ,加工食品,産業廃棄物」をそれぞれ「汚泥」と並列に指し示すものと解するべきであって,被処理物が「産業廃棄物」に限定されると解釈することはできない。
したがって,甲2発明,甲1発明が本件発明と技術分野を異にするとの原告の主張には理由がない。甲2発明,甲1発明と本件発明とは,「脱水濾過」という共通の技術分野に属するので,甲2発明を主引例として甲1発明を適用することによる無効の主張については何の阻害事由も存在しない。
(2) 相違点3に係る容易想到性判断について ア 原告は,甲2発明は,ケーシングの外側に配置した洗浄管で清浄水をケーシングの外部に噴射させることで水切孔の目詰まりを防止するのに対し,甲1発明のコイルばね式清掃ブレードは,濾過式脱水用媒体48の内側表面の保持された固形物を切り剥がして擦り取り内則表面から固形物の拭き取り清掃が行われるものであるから,甲2発明の外部から圧力を加える手段から,甲1発明の内部からこすり取るという解決手段を想到することは,当業者といえども容易であるとはいえないと主張する。
しかし,甲第2号証には,ケーシング20の水切孔の目詰まり防止という技術的課題が明記されているのであるから(甲2の3頁右上欄4行〜8行),かかる目詰 まり防止にスクレーパを用いることは,例えば,拒絶査定謄本(甲9の1)において「濾過装置の濾過エレメントの清掃部材として濾過エレメントに付着した固形物を引掻除去するスクレーパを用いることは慣用技術である。」と指摘されていることからも明らかなように,当業者にとって容易想到である。
イ 原告は,甲2発明には,シャフト側に設けられた水切孔には甲1発明のコイルばね式清掃用ブレードを適用することはできず,シャフトの水切孔の目詰まりは防止できないと主張するが,シャフトに水切孔がなければ目詰まり防止の手段を設ける必要もなく,少なくともフィルタエレメントの目詰まり防止については甲第1号証及び甲第2号証に開示されているのであるから,これを適用することに何の阻害要因もない。
(3) よって,甲2発明に甲1発明を適用し,進歩性がないとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所は,取消事由3,4に係る原告の主張は理由がなく,本件発明1は,甲2発明に甲1発明を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものであると判断する。その理由は以下のとおりである。
1 認定事項 (1) 本件発明1の内容(別紙「甲第10号証 第1図」参照) 本件訂正明細書(甲11・全文訂正明細書)によれば,本件発明1は,概要次のとおりの発明であることが認められる。
本件発明は,特に粘度の高い流体の濾過に好適なスクレーパ濾過システムに関するものである(1頁17行から18行)。
本件発明の発明者は,筒状ないし円錐状のフィルタエレメントを用い,スクリュ状羽根を用いてフィルタエレメントの周面に附着する濾カス固形分を除去しながら濾過処理する装置を開発したが,固形分の粘度が高いと目詰りが生ずるため,さらにスクリュ状の羽根に支柱を設け,この支柱からスクレーパを突出させてフィルタ エレメントの周面と摺接させ,直接フィルタエレメント周面上の附着固形物を引掻いて除去する装置を開発した。しかし,この装置では,除去された固形分がスクレーパの支柱部分で溜り,そこで附着状態が成長してしまうという不都合があった。
(1頁下から6行から2頁3行)。
本件発明は,かかる不都合をなくし,フィルタエレメントの目詰りがなく,かつ,絞り効果が大きく濾過効率の高いスクレーパ濾過システムを提供することを目的として(2頁4行から6行),請求項1に記載された構成を採用したものであり,これにより,スクリュ状羽根の働きによって,導入移送される所望の被処理液体は,フィルタエレメントにより濾過されていると共に,スクリュ状羽根の端面に設けたスクレーパ機構によって目詰まり減少を生ずることも全くなく,濾過固形分は邪魔物がないので粘性が強くてもスクリュの回転移送方向に送られ,必要に応じて除去することができ,また,スクレーパ機構がスクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けられ,その全域がフィルタエレメントに摺接していることにより,加圧力の洩れが生じることがなく,濾過固形分を前方に押しやるので,絞り濾過を効率よく行うことができるという効果を奏するものである(5頁下から9行から最下行)。
しかも,本件発明は,請求項2に記載の構成を採用することにより,スクレーパ機構に弾性作用が働いてフィルタ面をスクレーパ機構が働いているので,スクレーパの摩耗によって加圧力の洩れが生ずることなく,常に,絞り濾過を効率よく行うことができる(6頁1行から3行)。
(2) 甲2発明の概要(別紙「甲第2号証 第1図」参照)甲第2号証によれば,甲2発明は,公害処理施設における汚泥,醸造施設におけるビール,粕,モロミその他,食品製造施設における食肉,水産物,果実等の加工食品,製紙製造施設におけるボード類,パイプ排水等の被処理物の固形分を,ケーシング20内に前後方向で回転可能にして支承された中空の筒状シャフトの外周に突設された螺旋状の送り羽根により前部に送りながら脱水を行い,被処理物より水分と固形分とに分離する脱水処理装置であって,ケーシング20には多数の水切孔 23を,シャフト30には多数の脱水孔32を夫々設けることによって,圧縮された被処理物から絞り出される水分をシャフト30内及びケーシング20外へ浸出させ,ケーシング20の排出口に押圧盤27を配設することによって,半ば固形化される被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とし,送り羽根31をケーシング内周面に沿って密接状にすることによって,被処理物の前方への送り込みを確実にし,ケーシング20の上方に配された洗浄管より洗浄水をケーシング20外部に噴射させることで,水切孔23の目詰りを防止する脱水処理装置に関するものであることが認められる(1頁左下欄4行から16行,1頁右下欄5行から12行,2頁右上欄10行から3頁左上欄4行,3頁左上欄14行から同頁右上欄8行,3頁右下欄11行から16行,3頁右下欄19行から4頁左上欄7行)。
(3) 甲1発明の概要(別紙「甲第1号証 FIG.2」参照) 甲第1号証によれば,甲1発明は,汚泥の濾過式脱水圧搾機に関するものであり,濾過式脱水用構造体42(本件発明の「フィルタエレメント」に相当する。)のフープあるいはリング間の環状空間58(本件発明の「濾過孔」に相当する。)の目詰ま りを 解 消するために,ブ レー ド7 6(本件発明の「スクリ ュ 羽 根」に 相当 する。)の外側端部の全体に沿って,濾過式脱水用媒体42の内周面と隙間なく連続的に接触するコイルばね式清掃用ブレード87を設け,これにより上記内周面に付着する固形物を拭き取り清掃するものであることが認められる(5欄54行から60行,6欄7行から34行,7欄2行から13行,7欄35行から64行,8欄19行から35行)。
2 取消事由3(甲2発明の押圧盤は本件発明1の押圧弁に相当するとした認定の誤り)について (1) 甲2発明の押圧盤と本件発明1の押圧弁との対比 ア 本件発明1の押圧弁について 本件発明1の押圧弁について,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1には,「筒状ないし円錐状の所望の濾過孔を有するフィルタエレメントの排出口には固形 分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設し」と記載されているのみであるから,本件発明1の「押圧弁」は,フィルタエレメントの排出口に配設され,固形分の搾汁効果を可変調節できるという作用を有するものとして特定されているのみであり,その具体的な構成は何ら特定されていない。
そうすると,本件発明1の「押圧弁」に相当するといえるためには,「フィルタエレメント」に相当する部材の排出口に配設され,固形分の搾汁効果を可変調節できるという作用を有するものであれば足り,その構成は任意のもので差し支えないと認められる。
イ 甲2発明の押圧盤について 前記1(2)のとおり,甲2発明は,「ケーシング20の排出口に押圧盤 27を配設することによって,半ば固形化される被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能と」するものである。
そして,甲2発明の「ケーシング」は,本件発明1の「フィルタエレメント」に相当するものであるから(この点については原告も争っていない。),甲2発明の押圧盤は,本件発明1の押圧弁と同様に,フィルタエレメントの排出口に配設されるものである。
また,甲2発明において,「半ば固形化される被処理物の脱水率の調整を可能とする」ということは,被処理物から搾られる水分(汁)の量を調整できることを意味するものであるから,本件発明1の「固形分の搾汁効果を可変調節できる」という作用と共通するものである。
そうすると,甲2発明の押圧盤と本件発明1の押圧弁は,その配設箇所及び作用において相違しないから,甲2発明の押圧盤は,本件発明1の押圧弁に相当するものと認められる。
(2) 原告の主張についてア 構成上の相違をいう点について原告は,要旨,「本件発明1では,被濾過流体の種類や固形分中の含有液体分の 量に応じて,コイルバネのバネ圧変化により,押圧弁の押圧力が変化し,搾汁効果を可変調節できる。これに対し,甲2発明の搾り機構24は,ドーナツ状固定部とドーナツ円錐状押圧盤との間に介在する押圧スプリングの押圧力を変化させることにより,押圧盤の押圧力の調整がなされるものであるところ,甲2発明では,被処理物の圧力以外の外力によって押圧スプリングの押圧力を可変調節することはできないから,被処理物の種類や状態により押圧盤の押圧力を可変調節することはできず,脱水率を変化させることはできない。したがって,甲2発明の押圧盤と本件発明1の押圧弁は相違する。」旨主張する。
原告の上記主張中,本件発明1に関する部分は,押圧弁の構成に係る主張である。
しかし,前記(1)アのとおり,本件発明1の「押圧弁」に相当するといえるためには,その配設箇所と作用が相違しないものであれば足りる。したがって,上記主張部分は,甲2発明の押圧盤が本件発明1の押圧弁に相当するか否かの判断において無意味な主張である。
また,原告の上記主張中,甲2発明に関する部分については,なるほど,甲第2号証には,「図中24は搾り機構であり,図示のように,シャフト30前端に外嵌固定したドーナツ状固定部25とケーシング20前端開口である前記排出口22を略閉塞するドーナツ円錐状押圧盤27との間に押圧スプリング26を介在して成り,押圧スプリング26の排出口22がわへの押圧力を変更することで圧縮されて半ば固形化される被処理物に対しての貯留室16がわへの排出を規制し,被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とする。」(3頁左上欄14行から同頁右上欄3行)との記載があり,これによれば,原告が主張するように,甲2発明の搾り機構24は,ドーナツ状固定部とドーナツ円錐状押圧盤との間に介在する押圧スプリングの押圧力を変化させることにより,押圧盤の押圧力の調整がなされるものと認められる。
しかし,甲2発明において,押圧スプリングの押圧力を変化させることは,例えば,弾性係数の異なる押圧スプリングに交換することによっても可能であるから, 被処理物の圧力以外の外力によって押圧スプリングの押圧力を可変調節することは可能である。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 作用上の相違をいう点について 原告は,要旨,「本件発明では,押圧弁により完全に排出口を塞ぐことができ,液体分の漏出を防ぐことができるのに対し,甲2発明の押圧盤は回転するため,押圧盤をケーシングに密着させることはできず,排出口を常に開けておかなければならないので(甲第2号証に「略閉塞」と記載されているのはそのためである。),液体分の漏出を防ぐことができない。したがって,両者の間には,搾汁効率上大きな差異が存在する。」旨主張する。
なるほど,甲第2号証には,「図中24は搾り機構であり,図示のように,シャフト30前端に外嵌固定したドーナツ状固定部25とケーシング20前端開口である前記排出口22を略閉塞するドーナツ円錐状押圧盤27との間に押圧スプリング26を介在して成り」(3頁左上欄14行から18行)と記載されており,これによれば,原告が主張するように,甲2発明の押圧盤は,シャフトの回転に同期して一緒に回転するものと認められる。また,甲第2号証には,「ケーシング20前端開口である前記排出口22を略閉塞するドーナツ円錐状押圧盤27」(3頁左上欄16行から17行)との記載もある。
しかし,甲2発明の押圧盤は,押圧スプリングによってケーシングの排出口に押圧されているから,回転しながらでもケーシングの排出口に接して(すなわち閉塞して)いることは明らかであり,排出口を常に開けておかなければならないとはいえないし,液体分の漏出を防ぐことができないともいえない。
「略閉塞」との記載については,甲2発明では,回転する送り羽根によって送られてきた被処理物の固形分によって押圧盤が押され,それによってケーシングの排出口と押圧盤の間に隙間ができ,この隙間から被処理物の固形分が排出されることから,このことをもって「略閉塞」と表現しているものと解するのが相当であり, 「略閉塞」との記載が,排出口が常に開いていることを意味するものとは認められない。
そして,本件発明1の押圧弁は,回転するものを排除していない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 甲2発明の欠陥をいう点について 原告は,要旨,「甲2発明の押圧盤の移動の範囲は極めて狭く,被処理物による押圧盤の押圧力の変化には限界がある。また,甲2発明の押圧盤に豆乳などの粘性の高い流体が付着すると,押圧盤の回転を妨げるので,ドーナツ状固定部と押圧盤の回転速度に差が発生し,押圧スプリングが断裂する可能性が高い。甲2発明の押圧盤にはこのような重大な欠陥があり,本件発明1の押圧弁とは相違する。」旨主張する。
なるほど,原告が主張するように,甲2発明の押圧盤の移動の範囲は極めて狭く,被処理物による押圧力の変化には限界があるといえる。
しかし,甲2発明の「押圧盤」と本件発明1の「押圧弁」は,その配設箇所及び作用において相違しないから,甲2発明の押圧盤の移動範囲が極めて狭いからといって,甲2発明の「押圧盤」が本件発明1の「押圧弁」に相当しないとはいえない。
また,原告が主張するように,甲2発明の押圧盤は,シャフトの回転に応じて回転するものではあるが,甲2発明の脱水処理装置は,公害処理施設における汚泥,醸造施設におけるビール,粕,モロミその他,食品製造施設における食肉,水産物,果実等の加工食品等,様々な粘度の被処理物に対応するものであるから,粘性の高い被処理物について動作不能を来すとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 小括よって,取消事由3に係る原告の主張は理由がない。
3 取消事由4(甲2発明を主引例として進歩性を否定した判断の誤り)について (1) 甲2発明と本件発明の技術分野について ア 原告は,要旨,「本件発明は,豆乳原液などの食品原料について,その固形分から液体分を抽出搾汁して利用することを目的とする濾過装置であるのに対し,甲2発明は,脱水のみを目的とする脱水処理装置であり,甲2発明の被処理物の1つとして挙げられている『加工食品』は『産業廃棄物』であって,被処理物中の水分は除去され,食品として利用されることはないから,本件発明とは技術分野が全く異なる」として,甲2発明を主引例として本件発明の進歩性を否定した審決の判断は誤りであると主張する。
この点について,被告は,甲2発明の被処理物がビール,モロミ,果実等の加工品の場合は,液体分及び絞り粕のいずれをも廃棄するようなことは通常では考えられないと主張する。しかし,甲第2号証には,[発明の実施例]中に,「ケーシング20外へ浸出された水分は,ケーシング20下方に配置された機枠10内のドレン14に落下し,排液口15へ案内されて外部に排出される。」(3頁左上欄1行から4行),「被処理物中の水分を脱水孔32及び水切孔23によってシャフト30内及びケーシングパイプ20外へ浸出させるのであり,浸出された水分は除去され,半ば固形化された被処理物は機枠10前部の貯留室16に貯留され,適宜に廃棄処理される。」(3頁右上欄下から2行から左下欄6行)との記載があり,これらの記載によれば,甲2発明の被処理物については,水分が除去された後の固形分はもとより,被処理物中の水分も廃棄処理され,食品として利用されることは予定されていないことが認められる。
したがって,甲2発明は,汚泥等の脱水処理装置に関する発明であり,原告が主張するように,被処理物中の水分は除去され,食品として利用されることは予定されていないといえる。
もっとも,甲2発明の被処理物は,原告が主張するように「産業廃棄物」に限定されるものではない。すなわち,原告は,甲2発明の被処理物として挙げられている「醸造施設においてのビール,粕,モロミその他,食品製造施設においての食肉, 水産物,果実等の加工食品,」との記載は,食品原料を指すのではなく,醸造施設や食品製造施設から排出された「産業廃棄物」を指すものというべきであると主張する。しかし,甲第2号証の〔発明の技術分野〕には,「本発明は汚泥その他の脱水処理装置に係り,公害処理施設においてのし尿処理場その他での汚泥,醸造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品,製紙製造施設においてのボード類等の含水繊維物その他の産業廃棄物の連続圧搾脱水を図れるようにした汚泥その他の脱水処理装置に関するものである。」と記載されており,それぞれの被処理物ごとに「その他の」の語が使用されていることからみて,「汚泥,モロミ,加工食品,産業廃棄物」は,被処理物として並列の関係にあると解される。したがって,甲2発明の被処理物が「産業廃棄物」に限定されると解釈することはできない。
イ 上記のとおり,甲2発明は,汚泥等の脱水処理装置に関する発明であり,原告が主張するように,被処理物が食品として利用されることは予定されていない。
しかしながら,本件発明が,原告が主張するように,豆乳原液などの食品原料について,その固形分から液体分を抽出搾汁すること,すなわち,被処理物を食品として利用することを目的とするものであるとしても,甲2発明と本件発明との技術分野が全く異なるということはできない。
すなわち,化学大辞典・第2版(平成17年2月28日発行,乙1)によれば,「脱水」について,「(1)〔化学〕物質より 水分子を除くこと。 蒸発などによる乾燥のほか,脱水反応,縮合反応などの化学反応で,酸素と水素を水として取り除く場合も含める。(2)〔 資源〕選鉱・ 選炭工場 で選別された繊細な 精鉱・精炭および排水処理工程で回収された粘土質微細粒子などの付着水分を重力または機械力により除去すること。(3) 〔土木〕汚泥処理および処分を効率的に行うために,汚泥中の水分を除去して減量化すること。含水率96〜98%程度の濃縮汚泥または消化汚泥を含水率80%程度に脱水することで,体積は10〜20%に減少する。機械脱水の方式にはろ過式と遠心分離式があり,それぞれベルトプレスろ過機,遠心脱 水機が近年よく採用されている。」との記載があり,他方,「ろ過」については,「多孔質の膜や層を用いて,固体を含む溶液の液体だけを通過させ,固体と液体を分離すること。通常,ろ紙と漏斗を用いる。沈殿の種類によっては石綿,ガラス綿など,またグーチるつぼ,ガラスろ過器などが用いられる。集塵など,気体のろ過もある。」との記載があり,これらの記載によれば,「脱水」と「ろ過」とは,固体と液体とからなる被処理物を固体と液体とに分離するという点において技術的に共通するものであるということができる。
また,前記2のとおり,汚泥等の脱水処理装置に関する発明である甲2発明の押圧盤は,本件発明1の押圧弁に相当するものであり,本件発明1の押圧弁は,食品原料を被処理物とするための固有の構成や作用・効果を有するものとはいえず,その他,本件発明が,食品原料を被処理物とするための固有の構成や作用・効果を有するものであると認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件発明1のような ろ 過システムに係る 技術 分野の 当業 者であれば,被処理物が食品原料であるかどうか,被処理物から分離された液体を採集して利用することを目的としているかどうかにかかわらず,脱水処理装置の技術分野における技術の適用を試みるであろうことは容易に想像される。この意味において,本件発明1のようなろ過システムに係る技術分野と,甲2発明の脱水処理装置や甲1発明の濾過式脱水圧搾機に係る技術分野とは,それぞれの当業者が互いに他方の技術の適用を試みるであろう程度の技術分野の関連性が認められるということができる。
ウ そして,甲2発明の被処理物については,水分が除去された後の固形分はもとより,被処理物中の水分も廃棄処理され,食品として利用されることは予定されていないものの,醸造施設におけるビール,粕,モロミその他,食品製造施設における 食 肉 , 水産物 ,果実 等の加工 食品も 被処 理 物 の 対 象 としていることからすると,甲2発明において,食品原料を被処理物とし,この被処理物から分離された液体及び固体を採集して利用する程度のことは,当業者にとって格別困難なこととは いえない。
エ したがって,甲2発明が本件発明1と技術分野を異にするとの理由で,甲2発明を主引例として本件発明1の進歩性を否定した審決の判断は誤りであるとする原告の主張は理由がない。
(2) 相違点3に係る容易想到性について 上記(1)のとおり,甲2発明は,本件発明1と技術分野の関連性を有するものであるところ,甲第2号証には,「17はケーシング20上方で前後方向に配された洗浄管で適宜の圧力を付与した清浄水をケーシング20外部に噴射させることでケーシング20における水切孔23の目詰まりを防止するものであり,」(3頁右上欄4行〜8行)との記載があり,ケーシング20の水切孔の目詰まり防止が技術課題として示されているものと認められる。
また,甲1発明も,汚泥の濾過式脱水圧搾機に関するものであり,本件発明1及び甲2発明と技術分野の関連性を有するものであるところ,濾過式脱水用構造体42(本件発明1の「フィルタエレメント」に相当する。)のフープあるいはリング間の環状空間58(本件発明1の「濾過孔」に相当する。)の目詰まりを解消するために,ブレード76(本件発明1の「スクリュ羽根」に相当する。)の外側端部の全体に沿って,濾過式脱水用媒体42の内周面と隙間なく連続的に接触するコイルばね式清掃用ブレード87を設け,これにより上記内周面に付着する固形物を清掃するものであるから,甲1発明は,フィルタエレメントの水切孔の目詰まり防止という点で,甲2発明と共通の技術課題を有しているといえる。
そうすると,甲2発明の水切孔の目詰り防止手段として,洗浄水の噴射による手段に代えて,甲第1号証記載の清掃用ブレードによる拭き取り手段を適用し,「スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,相違点3に係る本件発明1の 構 成,すな わち ,「スクリ ュ 状羽 根 の 外周端面全 域 に 沿 って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構を設けて前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カスの固 形分を引掻除去できるようにしてなる」スクレーパ濾過システムとすることは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得るものである。
(3) 原告のその他の主張について ア 原告は,甲1発明のコイルばね式清掃用ブレードは,甲2発明のようにケーシングの外側から水切孔に圧力を加え固形物をケーシング内部に落下させるというものではなく,内側表面に付着した固形物を切り剥がしこすり取ることにより,濾過式脱水用媒体の内側表面から固形物を拭き取り清掃をするというものであるから,甲2発明の外部から圧力を加える手段から,甲1発明の内部からこすり取るという解決手段を想到することは,当業者といえども容易であるとはいえないと主張する。
しかし,甲2発明の外部から圧力を加える手段と,甲1発明の内部からこすり取るという手段とは,フィルタエレメントの水切孔の目詰まり防止という点で共通の機能を有するものであるから,甲2発明の外部から圧力を加える手段を,甲1発明の内部からこすり取るという解決手段を想到することは,当業者にとって容易であるといえる。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,甲2発明には,シャフト30に水切孔が設けられているが,シャフト側には甲1のコイルばね式清掃用ブレードを適用することはできず,シャフトの水切孔の目詰まりは防止できないと主張する。
しかし,甲2発明においては,シャフトの水切孔の目詰まりについては問題になっていないし,また,甲1のコイルばね式清掃用ブレードは,シャフトの水切孔の目詰まりを防止するものではないから,そもそも,シャフトに甲1のコイルばね式清掃用ブレードを適用する必要はない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(4) 小活よって,取消事由4に係る原告の主張は理由がない。
4 まとめ 以上のとおり,取消事由3,4に係る原告の主張は理由がないから,本件発明1は,甲2発明に甲1発明を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に誤りはなく,本件特許は無効である。
したがって,取消事由1,2について検討するまでもなく,審決に取り消すべき違法は認められない。
結論
以上のとおりであるから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田文