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関連審決 不服2001-13270
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  慣用技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 443号 審決取消請求事件
原告 株式会社丸十
訴訟代理人弁理士 宇佐見 忠男
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 平塚義三,三浦悟,大野克人,大橋信彦,立川功,井出英 一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2001-13270号事件について平成15年8月14日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告が,後記本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明 出願人:株式会社丸十(原告) 発明の名称:「焼成用ラックおよび焼成方法」 出願番号:特願平10-271899号 出願日:平成10年9月25日 (2) 本件手続 手続補正:平成11年8月31日(乙4) 拒絶査定日:平成13年6月15日 審判請求日:平成13年7月27日(不服2001-13270号) 手続補正:平成13年7月27日(甲2。以下「本件補正」という。) 審決日:平成15年8月14日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」(本件補正は却下された。) 審決謄本送達日:平成15年9月8日(原告に対し) 2 本願発明に関する特許請求の範囲の記載 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載(乙4記載のもの。請求項1のみ記載し,その余の請求項は省略。請求項1に係る発明を「本願発明1」という。) 【請求項1】複数本の棒状のスペーサーと,該複数本のスペーサー間に複数本の棒を差渡し支持固定することによって形成されている通風棚とからなる焼成治具であって,該スペーサーには該焼成治具が多段に積上げられた時,相互ずれを阻止する手段が設けられていることを特徴とする焼成用ラック (2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載(甲2記載のもの。請求項1のみ記載し,その余の請求項は省略。請求項1に係る発明を「本願補正発明1」という。) 【請求項1】複数本の棒状のスペーサーと,該スペーサー間に所定間隔をおいて複数本の棒が差渡され支持された通風棚とを具備する焼成用ラックであって,該通風棚には被焼成物を並べたセッター(判決注:「セッター」は原文のまま。以下,本文の場合を含めて,「セッター」というときは本願補正発明1にいうセッターである。)が載置され,該スペーサーには該ラックが多段に積上げられた時,相互ずれを阻止する手段が設けられていることを特徴とする焼成用ラック 3 審決の理由の要点 (1) 審決は,まず,本件補正の適否について検討した。
(a) 審決は,実願平1-41643号(実開平2-134499号)のマイクロフィルム(本訴甲3。以下「引用例1」といい,これに記載された発明を「引用発明1」という。)について,「ほぼ角柱状の両側壁部材を複数の間隔をおかれた連結部材によって連結し,棚を形成し,連結部材上に薄い断熱板を介して処理される製品を載置するようにした,トンネル炉のセッタ」(判決注:「セッタ」は原文のまま。以下,本文又は引用箇所で用いるとを問わず,「セッタ」というときは引用発明1にいうセッタである。)の発明が記載されていると認定し,さらに,特開昭58-115292号公報(本訴甲4。以下「引用例2」といい,これに記載された発明を「引用発明2」という。)及び実公平6-25834号公報(本訴甲5。
以下「引用例3」といい,これに記載された発明を「引用発明3」という。)の記載内容を引用した。
(b) 審決は,本願補正発明1と引用発明1とを対比し,一致点として,次のとおり認定した。
「引用発明1の『トンネル炉のセッタ』は,トンネル炉内の製品の加熱,言い換えると,製品の焼成に用いられるものであり,また,製品を載置してトンネル炉内を移送するために使用するに適した台板であるから,引用発明1の『トンネル炉のセッタ』は本願補正発明1の『焼成用ラック』に相当し,また,引用発明1の『ほぼ角柱状の両側壁部材』,『連結部材』,『棚』及び『製品』は,それぞれ,本願補正発明1の『棒状のスペーサー』,『棒』,『通風棚』及び『被焼成物』に相当し,また,引用発明1の『断熱板』は連結部材と製品の間に介在させるものであるから,引用発明1の『断熱板』は,本願補正発明1の『セッター』に相当する。
そうすれば,両者は,複数本の棒状のスペーサーと,該スペーサー間に所定間隔をおいて複数本の棒が差渡され支持された通風棚とを具備する焼成用ラックであって,該通風棚には被焼成物を並べたセッターが載置されている焼成用ラックである点で一致する。」 (c) 審決は,本願補正発明1と引用発明1との相違点として,次のとおり認定した。
「本願補正発明1は,スペーサーにはラックが多段に積上げられた時,相互ずれを阻止する手段が設けられているのに対し,引用発明1はそのような手段が設けられていない点で相違する。」 (d) 審決は,上記相違点について,次のとおり判断した。
「引用例2,3には,焼成用治具を多段積重する場合,それらが互いに位置ずれを起こさないように位置ずれ阻止手段を設けることが記載されているから,引用発明1に引用発明2,3を適用し,焼成ラックにおいて,スペーサーにラックが多段に積上げられた時相互ずれを阻止する手段を設けるようなことは,当業者が容易に想到し得ることである。
そして,本願補正発明1が奏する作用効果も引用発明1ないし3から予想し得る作用効果であり格別顕著な作用効果であるとすることができない。
したがって,本願補正発明1は,引用発明1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」 (e) 以上をふまえて,審決は,本件補正は却下されるべきものであると結論付けた。
(2) 審決は,本願発明1について,次のとおり説示した。
「本願発明1は,本願補正発明1から,『通風棚』の限定事項である『所定間隔をおいて』棒が支持されるとの構成を省き,さらに,『焼成ラック』の限定事項である『該通風棚には被焼成物を並べたセッターが載置され』との構成を省いたものである。
そうすると,本願発明1の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が,前記のとおり,引用発明1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も,同様な理由により,引用発明1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
本件補正を却下されるべきものとした審決は誤っている。
1 取消事由1(本願補正発明1と引用発明1との相違点の看過) 審決は,本願補正発明1の「被焼成物」と引用発明1の「製品」との相違点を看過している。
引用発明1にあっては,第2図を参照すると,一つのセッタに対して「一つの大型の製品」が載置されるのであり,本願補正発明1のように「複数個の小型被焼成物」をセッターに並べておいてからラックに載置することは記載されていない(本願補正後の請求項1には「被焼成物を並べた」と記載され,「複数個の」とは記載されていないが,「複数個の」は「並べた」の文言中に読むことができ,また小型であることは甲2の段落【0002】の記載から明らかである。)。
すなわち,小物の被焼成物を順調に大量焼成するのが本願補正発明1の目的であり,そのために小物の被焼成物をラックにセットする場合,セッターに並べておいてラックの横から出し入れすることができるようにする(甲2の段落【0015】)。
そして,ラックを積み重ねて焼成炉内に導入する際,ラック相互がずれて崩れないよう,相互ずれを阻止する手段を設け,さらに,複数個の被焼成物が均一にかつ円滑に焼成されるようにラックには通風棚を具備して焼成時の通風を図るのである。
引用発明1にあっては,被焼成物として本願補正発明1のような小物を対象としておらず,したがって被焼成物をセッターに並べること及び積み重ねたラック相互ずれの阻止手段は考慮されていない。
2 取消事由2(本願補正発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り) 引用例1の第2図の下段のセッタに製品を載置する場合,断熱板4が使用されるが,「断熱板4」は,小物の被焼成物の出し入れを容易に行うためのものではなく,炉の火熱が直接製品5に当たることを防止するのが目的である。
一方,本願補正発明1の「セッター」は,通風棚から小型の被焼成物がこぼれ落ちないようにするものである。すなわち,本願補正発明1では,上下方向の通風を確保するためにラック(1) のスペーサー(2,2A)間に所定間隔をおいて複数本の棒を差渡して通風棚(3) とするのであり,このような構成を採用したからこそ,小型の被焼成物Wが通風棚(3) の間からこぼれ落ちないように,セッター(8) 上に被焼成物Wを並べ,セッター(8) を通風棚(3) 上に載置するものである。
したがって,引用発明1の「断熱板」は,本願補正発明1の「セッター」に相当するとした審決の認定は誤りである。
3 取消事由3(本願補正発明1と引用発明1との相違点についての判断の誤り) 審決は,「引用発明1に引用発明2,3を適用し,焼成ラックにおいて,スペーサーにラックが多段に積上げられた時相互ずれを阻止する手段を設けるようなことは,当業者が容易に想到し得ることである。そして,本願補正発明1が奏する作用効果も引用発明1ないし3から予想し得る作用効果であり格別顕著な作用効果であるとすることができない。したがって,本願補正発明1は,引用発明1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断したが,誤りである。
引用発明2には,有隙支持台7に相互ずれ防止手段が設けられている構成が開示される。しかし,複数個の小物をセッターに並べておいてラックにセットすることは,引用発明2には全く記載がなく,しかも,第1図,第7図によれば,引用発明2の有隙支持台7の棒状体2は,はり3の棒状体固着部9にその両端を載置されているにすぎず,もし,このような構成の支持台7を複数段積んで焼成炉内に導入すれば,その震動で棒状体2がずれてしまうおそれがある。
本願補正発明1では,甲2の図1,図2等にみるように,通気棚(3) の複数本の棒の両端はスペーサー(2,2A)に固着されている。
引用発明3にも,相互ずれ防止手段が設けられている匣鉢11が開示されているが,載置板部12は棚状でなく板状であり,通風を考慮されておらず,また,小物の被焼成物をセッターに並べて匣鉢11にセットするという技術的思想もない。
本願補正発明1の課題は,小型の被焼成物を大量焼成することを円滑に行うことにあり,そのために,焼成用ラックに通風棚を設けて焼成時の通風を図って複数個の被焼成物を均一かつ円滑に行い,ラックに相互ずれ阻止手段を設けて,複数段積んで炉内に導入した時に相互ずれを阻止し,複数個の被焼成物をラックにセットし易くするためにセッターに並べてラックの横から出し入れできるようにするのであり,上記3要件のすべてがそろってはじめて上記課題が解決できるのである。
本願補正発明1において,ラックの相互ずれ阻止手段は,被焼成物が小型な電子部品等であるという特殊性がある。本願補正発明1には,小型の精密性が要求される被焼成物を大量に連続焼成することを容易ならしめるという,このような被焼成物を対象としていない。また,セッターを使用していない引用発明2(対象はタイルや陶磁器)及び引用発明3(対象はタイル)からは予期することができない作用効果が奏される。よって,引用発明2,3に記載されている一般的な凹凸の嵌合によるずれ阻止手段を引用発明1に適用することは何ら差支えないとしても,それらから,本願補正発明1が容易に想到できたとはいえない。
したがって,本願補正発明1は,引用例1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明することができたとした審決の判断には誤りがある。
4 追加主張 以上の主張が認められないときは,これまでの主張を維持した上で,次のとおり追加して主張する。
セッターとは,「その上に被焼成物を載せる道具」をいうのであるから,引用発明1にいう「セッタ」は,本願補正発明1にいう「ラック」ではなく,「セッター」に相当する。引用発明1の「断熱板」は,断熱板であり,本願補正発明1の「セッター」ではない。なお,引用発明2の「窯道具」及び引用発明3の「匣鉢」が本願補正発明1の「セッター」に相当する。そして,セッターを載せる道具が「ラック」であるが,引用例1ないし3には「ラック」は記載されていない。
被告の主張の要点
本件補正却下の決定の結論に誤りはない。したがって,本件審判の請求は成り立たないとした審決の結論にも誤りはない。
1 取消事由1(本願補正発明1と引用発明1との相違点の看過)に対して 本件補正後の請求項1には,被焼成物が「小型」であるとは何ら記載されておらず,「小型」と限定的に解する理由はない。引用発明1の「製品」が本願補正発明1の「被焼成物」に相当すると判断した点に何ら誤りはない。
引用例1には,「製品を載置する」と単に記載されているだけでその製品の個数を特定する記載はなく,第2図も一つの製品だけを図示したものと断定できるようなものではない。引用例1に記載の「セッタ」の場合でも,被焼成物である製品の個数を1個に限定する理由はなく複数個の場合も当然に包含すると解するのが相当である。
なお,仮に,原告が主張するように相違点の看過があったとしても,セッターに複数個の被焼成物を並べて載置することは技術常識であるから,審決の結論に影響を及ぼすものでない。
2 取消事由2(本願補正発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)に対して 引用発明1の「断熱板」については,火熱が直接製品5に当たることを防止することができると記載されているが,「連結部材上に薄い断熱板を介して製品を載置することもできる。」とも記載されているから,製品を載置する機能を兼備するものであることが明らかである。引用例1の第2図では,「断熱板」が製品を載置している。引用発明1の「断熱板」も本願補正発明1の「セッター」と何ら相違するものではない。
3 取消事由3(本願補正発明1と引用発明1との相違点についての判断の誤り)に対して 引用例2,3には,凹凸の嵌合によるずれ阻止手段が記載されている。また,本願補正発明1の凹凸の嵌合による具体的な相互ずれ阻止手段は,焼成用ラックにとって特有な構造というものではなく,一般に窯道具に限らず物を多段に積載する際に常套手段として採用されている程度のものであるから,仮に,引用例2及3が複数個の小物をセッターに並べておいてラックにセットする焼成用ラックに関するものではなくとも,引用例2及び3に記載されている一般的な凹凸の嵌合によるずれ阻止手段を引用発明1に適用することは何ら差し支えないといえる。原告の主張は,失当である。
4 原告の主張4の追加主張は争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願補正発明1と引用発明1との相違点の看過)について (1) 原告は,審決が,本願補正発明1の「被焼成物」と引用発明1の「製品」との相違点を看過していると主張するので,検討する。
(2) 引用発明1に関する実用新案登録請求の範囲の記載は,「耐熱性材料製のほぼ角柱状の両側壁部材を複数の間隔をおかれた耐熱性材料製の連結部材によって連結し,該連結部材上に処理される製品を載置するようにした,トンネル炉のセッタ。」(甲3)というものである。なお,甲2,3によれば,引用発明1の上記トンネル炉の「セッタ」は,本願補正発明1の焼成用「ラック」に相当するものと認められる(審決の同様の認定に対し,原告は,これを認めるとの認否をした上,両者が相当関係にあることを積極的に主張したが,弁論準備手続終了後に至って,これを否定する趣旨の追加主張をした(前記第3,4)。しかし,追加主張に至った理由につき特段の説明もない上,甲2,3に照らしても,原告の追加主張は,採用し得ない。)。また,甲2,3によれば,引用発明1の上記「製品」は,本願補正発明1の「被焼成物」に相当するものと認められる。
上記記載によれば,引用発明1においては,製品(被焼成物)の大きさ,数については限定されていないというべきである。
念のため,引用発明1に関する明細書の考案の詳細な説明欄の記載をみても,製品(被焼成物)の大きさ,数についての記載はない。ただ,第2図(セッタを2段重ねとしてトンネル炉内に配置した状態を示す端面図)において,端面からみて,各段に製品が載置されている状況が示されているところ,端面図として見えている製品は,各段に1つであるが,1段つまり1つのセッタに何個載置されているかは,同図からは確定し得ない。
(3) 一方,本願補正発明1に関する特許請求の範囲請求項1の記載は,前掲第2,2(2)のとおりであって,これを検討すると,「被焼成物を並べたセッター」との記載から,セッター上に複数個の被焼成物が載置されるのであろうことは推察されないではないものの,被焼成物,セッター,通風棚,ラックについて,それぞれの大きさは,限定されていない。
本願補正発明1に関する明細書の発明の詳細な説明欄をみると,「本発明は例えば積層コンデンサーのような小型のセラミック成形物を焼成する場合に用いられる焼成用ラックおよび該ラックを使用する焼成方法に関するものである。」との記載があり(甲2の段落【0001】),「小型」のセラミックの焼成方法であることに言及されている。また,図1には,1つのセッター上に12個の被焼成物が並べられているものが示されている。
(4) 以上によれば,引用発明1においては,被焼成物の大きさ及びラック又はセッタに並べる被焼成物の数について,限定されていないというべきであり,本願補正発明1においては,セッター上に複数個の被焼成物が載置されるのであろうことは推察されるものの,被焼成物,セッター,通風棚,ラックについて,それぞれの大きさは,限定されていないというべきである。
そうすると,引用発明1が一つのセッタに対して「一つの大型の製品」が載置されるものであること,本願補正発明1が「複数個の小型被焼成物」をセッターに並べておいてからラックに載置するものであることを前提とする原告の主張は,採用し得ない。むしろ,上記認定に照らせば,引用発明1と本願補正発明1との間に,原告主張の相違点が存在するものとは認められない。
仮に,本願補正発明1が,「小型」で「複数個」の被焼成物がセッターに並べられるものであるとしても,引用発明1に関する上記認定に照らせば,その点が本願補正発明1と引用発明1との相違点となるものではない。
また,原告は,前掲のとおり,種々主張するが,本願補正発明1において,被焼成物の大きさは限定されていないのであり,仮に「小型」であるとしても,その大きさが具体的に示されているわけでもなく,また,被焼成物とラックやセッターとの大きさの関係が限定されているわけでもないし,引用発明1との間で,実質的な大きさ,数を比較できるようなものではないのであって,原告の主張は,採用の限りでない。
2 取消事由2(本願補正発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,引用発明1の「断熱板」が本願補正発明1の「セッター」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張するので,検討する。
(2) 引用例1(甲3)には「断熱板」に関し,次のとおり記載されている。
「複数の連結部材によって両側壁部材を確実に結合して成るから充分な剛性を持つものとすることができ,連結部材相互に間隔を設けることによって必要の場合には製品に直接熱が伝達されるようにすることもできる。連結部材上に薄い断熱板を介して製品を載置することもでき,温度管理の自由度が著しく高くなる。」(3頁7〜13行) 「第2図では本考案によるセッタを2段に重ねてトンネル炉内を推進している状態を示す端面図であり,…下段のセッタには連結部材の上にセラミックまたはステンレス鋼などの薄い断熱板4が製品5との間に介在して,炉の火熱が直接製品5に当ることを防止している。」(4頁10〜17行) そして,引用例1の第2図では,2段のうち,下段のセッタに断熱板の上に製品が載置されている図が示されている(前判示のとおり,引用発明1のトンネル炉の「セッタ」は,本願補正発明1における焼成用「ラック」に相当する。)。
(3) 本願補正発明1の「セッター」は,ラックの材料と同じような耐火物が材料として使用されるものである(甲2の段落【0007】)。一方,引用発明1の「断熱板」は,引用例1中には,特にその材質について詳細な説明はないが,他の部材が耐熱性材料であり,それと同様に高温の炉内で使用されるものであるから,断熱板も耐火性をもつものであると考えられる。そして,本願補正発明1の「セッター」及び引用発明1の「断熱板」は,いずれも薄い板状のものであることが認められる(甲2,3)。よって,本願補正発明1の「セッター」と引用発明1の「断熱板」は,その形状,材質において,相違する点はない。
次に,その使用態様についてみると,本願補正発明1の「セッター」及び引用発明1の「断熱板」は,いずれも,焼成用ラック(引用発明1のセッタに相当)と被焼成物(引用発明1の製品に相当)との間に置かれるものであり(甲2,3),引用発明1の「断熱板」が下段にのみ使用されるものと限定されていないことから,両者の使用態様においても相違する点はない。
このように,本願補正発明1の「セッター」及び引用発明1の「断熱板」は,形状,材質,使用態様において,同じものであると認められる。
そして,熱源の位置については,本願補正発明1においても引用発明1においても,限定されていないところ(甲2,3),熱源がラックの下部にある場合には,いずれの発明においても,「セッター」又は「断熱板」は,被焼成物(製品)に直接熱が当たることを避ける役割を果たすものである。一方で,既に判示したところでもあるが,被焼成物(製品)の大きさと通風棚(棚)の間隔の大きさとの関係についても,両発明ともに限定されているものではないところ(甲2,3),通風棚(棚)の間隔の大きさよりも被焼成物(製品)の大きさが小さい場合には,いずれの発明においても,「セッター」又は「断熱板」は,被焼成物(製品)が焼成用ラック(セッタ)の通風棚(棚)の間から落ちないようにする役割を果たしているものと認められる。
このように,引用発明1の「断熱板」が本願補正発明1の「セッター」に相当するとした審決の認定に誤りがあるとはいえない。
(4) なお,原告は,追加主張として,「セッターとは,その上に被焼成物を載せる道具をいうのであるから,引用発明1にいう『セッタ』は,本願補正発明1にいう『ラック』ではなく,『セッター』に相当するものであり,引用発明1の『断熱板』は,断熱板であり,本願補正発明1の『セッター』ではない。」などと主張する(前記第3,4)。
原告の上記追加主張は,引用発明1の断熱板が本願補正発明1のセッターに相当するとした審決の認定の誤りを理由づける事実として主張されたものと理解される。しかしながら,上記判示のとおり,甲2,3によれば,審決の上記認定は是認することができること,甲2,3及び弁論の全趣旨によれば,原告は,引用発明1のトンネル炉の「セッタ」が本願補正発明1の焼成用「ラック」に相当するとの審決の認定に対し,これを認めるとの認否をし,両者が相当関係にあることを積極的に主張していたのに,弁論準備手続を終了した後になって,特段の理由の説明もなく,上記主張をするに至ったものであることを考えると,原告の上記追加主張は,採用することができない。
(5) 仮に,原告が主張するような相違点があるとしても,原告の主張するような,小型の製品をあらかじめセッターに並べておいて,それをラックの上に置くための道具としてのセッターは,当業者が適宜実施し得る程度の工夫であるにすぎず,引用例を示すまでもなく,極めて容易に採用し得る構成であると認められるのであって,審決のなした容易想到性の判断の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
(6) 以上により,原告主張の取消事由2も理由がない。
3 取消事由3(本願補正発明1と引用発明1との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,相違点についての審決の判断の誤りをいうところ,具体的には,引用発明2,3の位置ずれ防止手段を引用発明1に適用するには阻害要因があると主張する趣旨であると解されるので,この点から検討する。
(2) 審決認定の相違点とは,前掲第2,3(1)(c)のとおりであり,要するに,ラックが多段に積み上げられた時,スペーサーに,相互ずれを阻止する手段が設けられているか否かという点(この認定は原告も争わない)であるにすぎない。
ところで,複数段重ねるときに各段が相互にずれないように防止装置又は防止構造を備えること自体は,本願補正発明1の属するセラミックスの製造分野だけでなく広い技術分野で用いられる周知慣用技術であると認められ,そのような手段を採用することは,当業者が容易に想到するものである。引用発明2,3は,そのような技術が周知慣用技術であることを示すものにほかならず,仮に,引用発明2,3におけるずれを防止する装置又は構造以外の部分が原告主張のような構成であったとしても,引用発明1において引用発明2,3に示された上記周知慣用技術を適用することの阻害要因となるものとは認められない。
なお,原告は,本願補正発明1には,引用発明2,3から予期することができない作用効果が奏されるとも主張する。しかし,上記のとおり,引用発明1において引用発明2,3に示された上記周知慣用技術を適用することが妨げられない以上,上記相違点に係る本願補正発明1の構成が容易に想到し得ることは明らかであって,仮に,本願補正発明1が原告主張のような作用効果を奏するとしても,それが予期し得ないようなものであるとはいえない。したがって,本願補正発明1が奏する作用効果も引用発明1ないし3から予想し得る作用効果であり格別顕著な作用効果であるとすることができないとした審決の判断にも,誤りがあるとはいえない。
よって,原告主張の取消事由3も理由がない。
4 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文