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事件 |
平成
23年
(ワ)
5742号
損害賠償等請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2012/11/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年11月8日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官 平成23年 ワ 第5742号 損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日 平成24年8月24日 判 決 原 告 株式会社リフレプロジャパン 同訴訟代理人弁護士 小 原 望 同 古 川 智 祥 同 妹 尾 悟 同 飯 塚 一 雄 同 岡 井 加 女 代 同 山 本 晃 三 被 告 バン産商株式会社 同訴訟代理人弁護士 田 澤 孝 行 主 文 1 被告が,不正競争防止法2条1項1号又は同条同項2号該当を理由に,同 法3条1項に基づいて,原告に対し,別紙被告製品図記載の製品と同じ形態 の巻き爪矯正具を製造,販売することを差し止める権利を有しないことを確 認する。 2 被告は,その製造,販売に係る巻き爪矯正具につき,「国際的な特許で保 護」,「特許を取得している専用のワイヤー」の表示を,ウェブサイトを含 む広告宣伝に使用してはならない。 3 被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成23年5月25日か ら支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用はこれを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担 とする。 6 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 (1)主文第1項と同旨 (2)被告は,その製造,販売に係る巻き爪矯正具につき,「国際的な特許で 保護」,「特許を取得している専用のワイヤー」,「VHO式矯正技術」, 「VHO」の表示を,ウェブサイトを含む広告宣伝に使用してはならない。 (3)被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成23年5月25 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合による金員を支 払え。 (4)訴訟費用は被告の負担とする。 (5)(3)につき仮執行宣言 2 被告 (1)原告の請求をいずれも棄却する。 (2)訴訟費用は原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1)当事者 原告は,リラクゼイションサロンの経営,整髪剤,洗髪剤,洗顔クリー ム等美容用品,理容用品の販売等を目的とする株式会社である。 被告は,くつ,医療用繊維製品類,理容,美容用機械器具,医療用健康 機器,医療用くつ,附属消耗品の製造,国内及び国外販売等を目的とする 株式会社である。 (2)被告製品及び被告ウェブサイト上の記載 被告は,別紙被告製品図記載の巻き爪矯正具を製造,販売している(以 下,被告が販売する巻き爪矯正具を「被告製品」という。)。被告製品は, 爪の側縁端が内側に巻き込むように爪と指頭間の肉部に食い込む爪の変形, いわゆる巻き爪等を矯正するものである。 被告は,被告製品を用いた巻き爪矯正施術をVHOと呼び,自社のウェ ブサイトでも,その旨の記載をしている(甲8,9,12〜14,乙5 7)。また,同ウェブサイトでは,平成22年12月29日の時点におい て,自社の巻き爪矯正具を「VHOワイヤー,ループ」と呼称し,国際的 な特許で保護されているとの記載や特許を取得している専用のワイヤーで あると記載していた(甲8,12〜14)。 (3)原告製品及び原告の特許 原告は,かねてから,「巻き爪矯正ワイヤー・インベント」との名称で, 被告製品と同じ形態の巻き爪矯正具(以下「原告製品」という。)を製造, 販売している。 また,原告は,発明の名称を「爪の変形を直す矯正具」とする特許(特 許第3530901号,出願日平成12年3月30日,登録日平成16年 3月12日。以下「原告特許」という。)に係る特許権を有している。 (4)被告からの差止請求等 原告は,原告製品の販売に当たり,(3)の特許表示を付していたが,被 告は,原告に対し,平成21年10月2日付の内容証明郵便にて,原告特 許が冒認出願を理由として無効とされるべきものであるとし,原告製品に つき,そのような特許表示を一切中止するよう求めた(甲1)。以後,原 告製品の形態やその表示を巡り,原告と被告との間で交渉が重ねられたが, 合意には至らなかった。 2 原告の請求 原告は,@ 被告が,不正競争防止法2条1項1号又は同条同項2号への 該当を理由に,同法3条1項に基づいて,原告に対し,別紙被告製品図記載 の製品と同じ形態の巻き爪矯正具を製造,販売することを差し止める権利を 有しないことの確認を求めるとともに,A 被告に対し,被告のウェブサイ トにおいて,その製造,販売する巻き爪矯正具につき,「国際的な特許で保 護」,「特許を取得している専用のワイヤー」,「VHO式矯正技術」, 「VHO」といった表示をすることが,不正競争防止法2条1項13号(品 質等誤認惹起行為)に該当するとして,同法3条1項に基づき,広告宣伝に おけるそれら表示の使用差止めを求め,さらに,B 同法4条,又は,被告 が原告に対して原告特許の表示の中止,配布先の顧客情報開示,原告製品の 形態変更等の不当な要求をしたとの不法行為に基づき,1000万円の損害 賠償のうち500万円及びこれに対する平成23年5月25日(訴状送達の 日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支 払を求めている。 なお,原告は,被告製品に係る上記表示が不当景品類及び不当表示防止法 4条1項1号に違反することも同表示差止め及び損害賠償請求の根拠として いるが,同法同条項自体はそのような請求の根拠になるものではない。 3 争点 (1)原告製品の製造,販売が不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹 起行為)に該当するか (争点1) (2)原告製品の製造,販売が不正競争防止法2条1項2号(著名表示冒用行 為)に該当するか (争点2) (3)被告によるウェブサイト上の記載が不正競争防止法2条1項13号(品 質等誤認惹起行為)に該当するか (争点3) (4)被告の原告に対する要求が不法行為に当たるか (争点4) (5)原告の損害及び被告の故意又は過失 (争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告製品の製造,販売が不正競争防止法2条1項1号[周知表示 混同惹起行為]に該当するか)について 【被告の主張】 (1)商品等表示性と周知性 被告は,被告製品の製造元であるドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」と いう。)の (以下「VHO社」という。) から,日本国内における被告製品の独占販売権を取得し,平成9年2月こ ろにその販売を開始した。被告製品は,販売当初から,短時間で施術可能 で,かつ,爪や皮膚に損傷を与えることなく巻き爪を改善できる画期的な 矯正方法とも相まって,他に類をみない新規かつ極めて特徴的な外観を有 する巻き爪矯正具として大きな注目を集めた。 そして,被告製品については,パンフレット等の印刷物,業界紙や雑誌 での広告,展示会等への出展,ウェブサイト,セミナーといった広告宣伝 活動が重ねられたこと,被告製品は平成9年2月の発売開始から平成23 年12月までの間に少なくとも約22万セット販売されており,巻き爪治 療経験者のうち,年間約10%〜15%が,被告製品を利用しているもの と考えられること,被告製品は,被告開催のセミナー受講修了者のみに被 告製品を販売しているが,そのセミナーでは,被告製品の使用方法,取扱 方法,品質,形態の有する意味合い等を含めた詳細な指導がなされている ことからすると,被告製品の形態は,被告との関係において,商品の出所 又は営業の主体を表示する商品等表示として周知となったことは明らかで ある。 (2)混同 原告製品は,被告製品と比較すると,形態そのものからサイズに至るま で同一であり,いわゆるデッドコピーというべきものであるが,その結果 として,被告の商品又は営業との混同を生じさせている。 したがって,原告による原告製品の製造,販売は,不正競争防止法2条 1項1号(周知表示混同惹起行為)所定の不正競争行為に該当する。 【原告の主張】 (1)商品等表示性と周知性 商品の形態が「商品等表示」に当たるには,@ 特定の商品の形態が同 種の商品と識別しうる独自の特徴を有し,かつ,A それが長期間にわた り継続的かつ独占的に使用され,又は短期間であっても強力に宣伝される などして使用された結果,それが商品自体の機能や美観等の観点から選択 されたという意味を超えて,自他識別機能又は出所表示機能を有するに至 り,需要者の間で広く認識された場合でなければならないが,被告製品形 態が,自他識別機能又は出所表示機能を有するに至り,需要者の間で広く 認識されたといった事情は全く見当たらない。被告が提出する証拠におい てさえ,被告製品の形態を認識できるものはごく一部に限られている。 また,被告製品の形態がそのような技術的機能的形態であるとすれば, 同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために必然的, 不可避的に採用せざるを得ない商品形態として,やはり商品等表示性は認 められない。 そもそも,被告が被告製品の販売を開始したのは平成15年のことであ るが,同一形態の矯正具は1988年(平成10年)にドイツで開発され, 既に公知の形態となっていた。被告製品の形態は,そのような公知形態を 模倣したに過ぎないのであるから,不正競争防止法で保護されることはあ り得ない。 (2)混同 原告製品は,被告製品と異なり「インベント」という商品名を用いて, 原告自身が販売しており,被告と営業主体の混同(狭義の混同)が生じる ことはない。 また,原告製品は,被告製品のようにVHOの表示もなく,被告と営業 上の関係や同一のグループに属する関係があるといった混同(広義の混 同)が生じることもない。 2 争点2(原告製品の製造,販売が不正競争防止法2条1項2号[著名表示 冒用行為]に該当するか)について 【被告の主張】 争点1の被告の主張欄(1)に記載の理由により,被告製品の形態は,被告 との関係において,商品の出所又は営業の主体を表示する商品等表示として 著名となったことが明らかである。 原告は,このような被告製品と形態そのものからサイズに至るまで同一の デットコピーというべき原告製品を製造,販売しているのであるから,不正 競争防止法2条1項2号(著名表示冒用行為)所定の不正競争行為に該当す るというべきである。 【原告の主張】 争点1の原告の主張欄(1)に記載のとおり,被告製品の形態には,商品等 表示性がないし,そもそも公知形態として不正競争防止法の保護対象ではな い。また,著名性が認められるためには,特定の分野に属する取引者,需要 者に留まらず,特定者を表示するものとして世間一般に知られていなければ ならないが,そのような事情もおよそ認められない。 3 争点3(被告によるウェブサイト上の記載が不正競争防止法2条1項13 号[品質等誤認惹起行為]に該当するか)について 【原告の主張】 (1)「VHO」の表示 巻き爪 矯正 法であ るVHO は, 197 9年(昭 和5 4年) にP1 により開発された。年々改良が重ねられ,1988年(昭和63年)に 被告製品と同じ形態となった(以下「従来型」という。)が,2000年 (平成12年)から2002年(平成14年)にかけて大幅な改良が行わ れて新たな形態となった(以下「改良型」という。)。 そして,2001年(平成13年)8月18日,P1 と,従来 型を販売していたVHO社らとの間で合意書が締結され,VHO社は20 02年(平成14年)1月1日以降,「VHO」や「VHO−オストホル ド−シュパンゲ」という名前を使用してはならないことが合意された。つ まり,2002年(平成14年)以降,従来型はVHO社が社名変更をし た (以下「3TO社」という。)が,改良型は「VHO」と して,P1 と新たに契約した ( 以下 「メコトレード社」という。)が製造・販売することとなったが,従来型 を製造,販売する3TO社は,VHOの名称を使用することはできなく なったものである。 このような経過がありながら,被告は,従来型と同じ形態である被告製 品につき,改良型とは品質も形態も異なるにもかかわらず,「VHO」と 表示して広告宣伝し,改良型である「VHO」と誤認させて販売している ところ,これが不正競争防止法2条1項13号(品質等誤認惹起行為)に 該当することは明らかである。 (2)特許の表示 被告は,自社ウェブサイトにおいて,被告製品について「国際的な特許 で保護」,「特許を取得している専用のワイヤー」といった表示をしてい たが,一般消費者は,このような表示から,被告が特許権又はライセンス を取得していると読み取るのが通常である。 しかし,従来型である被告製品にかかる特許は,過去にドイツ及びアメ リカ合衆国(以下「米国」という。)において付与されたことがあったも のの,それぞれ2004年(平成16年)1月15日及び2006年(平 成18年)8月1日に失効している。 したがって,被告製品に関する上記表示は虚偽であり,消費者に誤認を 与えるものであるから,不正競争防止法2条1項13号(品質等誤認惹起 行為)に該当する。 【被告の主張】 (1)「VHO」の表示 3TO社製の被告製品に「VHO」の表示をすれば,メコトレード社製 の製品であるかのような誤認を惹起するというのであれば,少なくともメ コトレード社の「VHO」製品が日本国内で販売されている等の実績があ り,かつ,日本国内で「VHO」と言えば「メコトレード社製」と言える ほどの事情が必要であるが,メコトレード社が「VHO」製品を日本国内 で販売している事実は過去・現在においても一切存在しない。2002年 (平成14年)から10年以上経過した現在においてもメコトレード社が 日本で「VHO」の商標を出願していないことからすれば,そもそも同社 は日本市場に対する興味すら持っていない。 このような状況において,被告が「VHO」なる表示を用いたとしても, 日本国内においてその存在すら全く知られていないメコトレード社の「V HO」製品との関係において誤認混同を惹起するおそれは皆無である。 また,被告製品はP1 が開発した巻き爪矯正技術を具現化した ものであるが,その形態を考案し,商品化したのは,P1 から巻 き爪矯正技術のライセンスを取得したVHO社(3TO社)である。被告 はそのVHO社(3TO社)から,被告製品の日本国内における独占販売 権を取得し,VHO表示の使用許諾を得たのであるから,被告製品につき, 「VHO」の表示をすることは,品質等について何らかの誤認を惹起させ る行為とはいえない。 (2)特許の表示 原告の指摘する「国際的な特許で保護」等の記載について,被告自身が 特許権又はライセンスを取得していると読み取られるのが通常であること を前提に,品質等誤認惹起行為に当たる旨主張するが,被告ウェブサイト の文章全体を通読すれば,そのような意味を読み取ることはできず,原告 の主張は前提を誤っている。 すなわち,上記記載は,被告製品に関する技術について,ドイツ及び米 国において特許権が付与された事実を,事実のままに表示するものであり, そこに誤りはない。また,上記記載には特許番号が付されておらず,「Q 自分で針金を作ってできるのではないですか。」との問いへの答えとして 位置づけられていることからすると,被告の権利主張を目的とするもので はなく,被告製品が「国際的な特許で保護」されている程の,簡単には模 倣できない高度な技術によることを示し,模倣品を用いて引き起こされる 事故の防止を企図したものと読み取るのが通常であり,原告の主張は失当 である。 なお,原告は,ドイツ及び米国での特許が既に失効している旨主張する が,上記記載の趣旨からして,これら特許が失効しているか否かは無関係 であり,虚偽表示には当たらない。 4 争点4(被告の原告に対する要求が不法行為に当たるか)について 【原告の主張】 被告は,原告に対し,平成21年10月2日から平成22年12月6日に かけて,原告製品の製造,販売につき,@ 広告宣伝物への特許表示中止と 配布先の顧客情報開示,A 原告製品の形態変更,B 特許の訂正審判請求と 特許権の無償移転による共有化,C 被告製品と同一又は類似の製品形態の 実施禁止,承諾を得ることなく実施した場合の違約金支払,といった要求を してきたが,いずれも不正競争防止法などの法的根拠を欠く不当なもので あった。また,被告は,原告が非正規品を販売しているかのような風評も流 した。これらによって,原告の営業活動は萎縮するとともに,原告の信用は 失墜したものである。 被告のこのような行為は,原告に対する不法行為を構成する。 【被告の主張】 原告は,被告による不当要求として,上記@からCを挙げるが,そのよう な不当要求自体存在しない上,A及びBについては,原告自身が提示した解 決案であり,不実な主張であることは明らかである。 また,原告は@からCの要求に何1つ応じていないし,風評被害が生じた ということもない。 したがって,不法行為が成立しないことは明らかである。 5 争点5(原告の損害及び被告の故意又は過失)について 【原告の主張】 争点3の原告の主張欄に記載の故意若しくは過失による不正競争行為(品 質等誤認惹起行為)又は争点4の原告の主張欄に記載の不法行為によって, 原告の被った損害は,以下の合計503万5152円に併せ,弁護士費用 (報酬金)及び被告の不当要求による原告製品の販売減少額を加えると10 00万円を下らない。 (1)弁理士費用 39万6521円 被告の警告書等に対する回答書作成のため生じた。 (2)VHO調査費用 96万3631円 原告は,被告製品が従来型と同一の形態であることやVHOの名称を使 用する権利がないことに関する証拠を収集するため,交渉及び文書翻訳費 用として75万9771円,航空運賃として20万3860円の合計96 万3631円を要した。 (3)弁護士費用(着手金) 367万5000円 本件に係る弁護士費用(着手金)は,訴訟前交渉時が52万5000円, 訴訟提起時が315万円で,合計367万5000円である。 【被告の主張】 争う。 第4 当裁判所の判断 1 前提事実,証拠(甲1〜10,12〜14,39〜42,44,45〜4 8,53,乙1〜21,23,43,44,57,61〜64[枝番省 略])及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)VHO施術と矯正具の開発 P1 (以下「P1 」とい う。)は,1979年(昭和54年),ドイツにおいて,いわゆる巻き爪 などの爪の変形を矯正する施術を開発した。この施術は, ! の頭文字をとってVHOと名付けられたが, ! "# は ドイツ語で「名人,大家,巨匠」といった意味, ! は ! 「人間の,人間的な」といった意味, は ,ギリシア語の "# (まっすぐ)と "#(爪)を組み合わせた造語であり, ! 全体としては,「熟練の技による人間的な巻き爪矯 ! "# 正法」といった意味になると被告のウェブサイトでは説明されている(乙 43)。 P1 は,VHO施術に使用される巻き爪矯正具につき,199 2年(平成4年)3月12日ドイツにおいて,同年7月23日米国におい て,それぞれ特許出願したところ,後日それぞれ特許査定を受け,その旨 登録された(ドイツ:DE4207797,米国:US5318508。 以下,それぞれ「本件ドイツ特許」「本件米国特許」という。)。 ドイツを本店所在地とする (VHO社) は,1993年(平成5年)7月,P1 から,巻き爪矯正具に係 る上記発明につきライセンスを取得した上で,その技術的範囲に属する巻 き爪矯正具の製造,販売を開始した(乙63の1・2。以下,この巻き爪 矯正具を「矯正具A」という。)。 被告は,平成9年2月,VHO社との間で,矯正具Aにつき,日本での 独占販売権を有する旨の契約(以下「本件独占販売契約」という。)を締 結した(乙61の1・2)。被告は,この契約に基づいて,日本国内にお ける被告製品の製造,販売を開始し,現在までこれを継続しているもので あるが,被告製品の形態は,矯正具Aと同一である。また,VHO社は, 平成13年6月15日,日本において,指定商品を医療用機械器具として, 「 - - 」の文字を横書きしてなる商標につき,登録査定 を受け,その旨登録された(乙17)。 P1 とVHO社は,平成13年8月18日に合意書を交わし, 両者間のライセンス契約が解約されている旨確認するとともに,VHO社 において,引き続き矯正具Aの取引をすることができる一方,平成14年 1月1日以降,「VHO」の名称を使用してはならないことを合意した (甲42の1・2)。 VHO社は,同合意を踏まえ,社名を「 」に変更し(乙5 5。以後,同社を「3TO社」という。),日本でも,平成17年9月1 6日,指定商品を医療用機械器具として,「 - 」の文字を横書 きしてなる商標につき,新たに登録査定を受け,その旨登録された。また, 3TO社と被告との間で平成18年11月18日に交わされた覚書(乙2 3の1・2)においては,矯正具Aは「 」と表現され た。 一方,P1 は,VHO社との上記合意から間もない2001年 (平成13年)8月28日には新たな形態の巻き爪矯正具を開発し,以後 メコトレード社が,ドイツ国内にて,「VHO」名称下でその販売をする ようになった。ただ,P1 やメコトレード社は,日本において, 「VHO」あるいはこの文字列を含んだ商標の登録を受けていない。 本件ドイツ特許は2004年(平成16年)1月15日に,本件米国特 許は2006年(平成18年)6月7日,それぞれ特許料不払を理由とし て消滅した(甲40,41の各1・2)。 (2)被告による被告製品の販売等 被告は,平成9年2月の本件独占販売契約締結以降,日本国内において, 被告製品を用いた巻き爪矯正施術を「VHO」と呼び,医師や医療機関な どを対象に,当該施術のセミナー及び被告製品の販売を行ってきた(乙2 5〜43,47〜54)。 被告は,自社ウェブサイトにおいても,「VHO」との名称で被告製品 を用いた巻き爪矯正施術を紹介してきた。また,同ウェブサイトでは,平 成22年12月29日の時点において,被告製品を「VHOワイヤー,ル ープ」と呼称し,国際的な特許で保護されているとの記載や特許を取得し ている専用のワイヤーであるとの記載をしていた(甲12〜14)。 (3)原告による原告製品の販売等 原告は,平成12年7月24日,発明の名称を「爪の変形を直す矯正 具」とする特許を出願し,平成16年3月12日,特許権の設定登録を受 けた(甲3。原告特許)。この特許発明の実施例として明細書に図示され ている巻き爪矯正具の形態は,被告製品の形態と同一であり,また,特許 公報の発明者欄に記載されている人物は,平成11年に,被告の開催する 巻き爪矯正施術のセミナーを受講したことがあった(乙44,45,乙6 4の1〜5)。 原告は,医師や医療機関などを対象に,被告製品と同一形態の原告製品 を製造,販売してきたが,平成21年4月及び6月に医療機関向けに送っ た書面は,原告特許の表示を付して原告製品を宣伝する内容であった。 なお,原告は,P1 やメコトレード社との間で,巻き爪矯正具 の製造,販売に関し,何らかの契約を締結しているわけではなく,「VH O」の表示を使用したこともない。 (4)原告及び被告間の交渉経過 被告の代理人弁理士は,原告に対し,平成21年10月2日付の内容証 明郵便にて,原告特許が冒認出願を理由として無効とされるべきものであ るとし,原告製品につき,原告特許の表示を一切中止することなどを求め た(甲1)。 その後,原告の代理人弁理士と被告の代理人弁理士との間で,主に書面 やEメールを通した交渉が重ねられたが,原告は当初から,原告製品の販 売に当たって原告特許の表示を中止すること,原告製品の形態を変更する ことを受け入れていた。また,原告は,平成22年2月には,原告特許に つき,請求項1ないし3項を削除して請求項4項のみを残す訂正審判を請 求した上,訂正後の特許権を被告との共有とすること,被告製品と同一又 は類似形態の製品を製造販売し,これに違反した場合には違約金を支払う ことも受け入れていた。このような交渉経過の中,原告は,平成21年1 2月には,実際にも原告製品について原告特許の表示を中止した上,被告 に対し,平成22年4月には,原告製品の新しい形態をサンプル及び図面 で提案し,同年6月には訂正審判請求書の案も提示していた(乙2〜1 6)。 しかし,原告代表者は,平成23年1月,被告から最終的な解決の枠組 みとして提示された特許権譲渡契約書案(甲2,乙11)が受け入れがた い内容であると考え,被告に対し,同月21日到達の書面にて,「できう ることならば円満解決をしたいとの希望からいろいろな譲歩提案も行って 参りました。」との前置きをしつつ,上記特許権譲渡契約書案は一方的, 不合理な内容で受け入れられないこと,これまで自身の弁理士を通じて 行ってきた譲渡提案を全て撤回することを通知した(甲4)。以後,原告 代表者と被告の代理人弁理士との間で交渉が継続された。 一方,原告は,平成23年2月10日付の書面において,被告に対し, 被告のウェブサイト上で記載されている被告製品に係る「特許」につき, 「どの国の特許で,権利者,特許番号,発明の名称,有効期間及び貴社と 権利者の関係を開示」するよう求めたが(甲6),被告から具体的な情報 の開示はなかった。もっとも,同年4月28日までに,被告のウェブサイ トにおいて,被告製品に係る特許の記載は削除された。 原告及び被告間の交渉は平行線を辿った上で決裂し,同年5月6日の本 訴に至った。 2 争点1(原告製品の製造,販売が不正競争防止法2条1項1号[周知表示 混同惹起行為]に該当するか)について (1)被告製品の形態の商品等表示性 被告は,被告製品の形態が「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1 号)に当たると主張するところ,一般に商品の形態は,商品の機能を実現 し,あるいは,美感を高めるといった目的のために選択されるものであり, 商品の出所表示を目的とするものではないが,形態の独自性や取引の実情 などによっては,商品の形態が識別力を取得することもあり,その場合に は,当該形態をもって「商品等表示」に該当するということができる。 そこで被告製品の形態について検討するに,被告が平成9年2月に3T O社との間で本件独占販売契約を締結して以来,被告製品を日本国内で製 造,販売し続けてきたことは確かであるし,証拠(甲8,9,12〜16, 39,50,51,乙25〜43,47〜54,57〜60[枝番省 略])によれば,被告が,自社ウェブサイトや医学分野の学会誌などで被 告製品を用いた巻き爪矯正施術及びその技術習得のためのセミナーを宣伝 してきたことも認められる。 しかし,本件ドイツ特許及び本件米国特許の各公報(乙20,21の各 1・2)及び前記1で認定の事実経過によれば,被告製品の形態は,簡便 かつ効果的に巻き爪などを矯正するという技術的な機能実現のために得ら れたものであることが認められ,かかる機能的な意味合いを有しない特徴 的部分は見当たらない。そのため,被告製品の形態は,機能実現のために 他に選択の余地がないものとまでいえるかはともかく,需要者との関係で, 巻き爪矯正具としての機能という意味を超えて識別力を持ち得る余地の小 さい形態であるといえる。 また,被告製品は,店頭販売などされておらず,需要者が直接その形態 を見て商品選択することは想定できない上,証拠として提出されている上 記多数の宣伝媒体を精査しても,巻き爪矯正施術の過程や被告製品を爪に 装着した状態,あるいは,被告製品の一部を写真や図面で表示したものは あるものの,別紙被告製品図のような被告製品全体の形態が分かるように 表示されているものは見当たらない(「 」と題する医学雑誌の2 004年5月号[乙32]本文には,被告製品の形態全体が写った写真が掲 載されているが,あくまで爪矯正処置法の医学的解説の一環としての掲載 であり,商品等表示性の根拠とすることは困難である。)。一方で,前記 認定のとおり,被告製品については,もっぱら「VHO」の文字標章が 「商品等表示」として使用されてきた。これらの事情からすれば,被告製 品の形態が,被告製品の出所表示として使用されてきたとはいえないし, そのような機能を果たしている実態があるともいえない。 以上を総合して考えれば,被告製品の形態が,巻き爪矯正具の機能の観 点から選択されたという意味を超え,「商品等表示」たり得るだけの識別 力を有するに至ったとはいえないものである。 (2)小括 したがって,原告製品の形態は被告製品の形態と同一ではあるものの, そもそも被告製品の形態は,「商品等表示」に該当しないため,不正競争 防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)に基づく被告の主張は採用 できない。 3 争点2(原告製品の製造,販売が不正競争防止法2条1項2号[著名表示 冒用行為]に該当するか)について 前記2で論じたとおり,被告製品の形態は「商品等表示」に該当しないた め,その余の要件を検討するまでもなく,不正競争防止法2条1項2号(著 名表示冒用行為)に基づく被告の主張は採用できない。 4 争点3(被告によるウェブサイト上の記載が不正競争防止法2条1項13 号[品質等誤認惹起行為]に該当するか)について (1)特許の表示 ア 前記1のとおり,被告は,少なくとも平成23年4月28日以前の 一定期間,自社のウェブサイトにおいて,被告製品につき,「国際的 な特許で保護されている」「特許を取得している専用のワイヤーであ る」との記載を付していた。この点,被告製品は,巻き爪矯正具につ き,ドイツのP1 の発明の実施品であり,その発明は,かつ てドイツ及び米国で特許を受けていたものであるが,本件米国特許は 2004年(平成16年)1月15日に,本件ドイツ特許は2006 年(平成18年)6月7日にそれぞれ失効した。 一般に商品に付された特許の表示は,需要者との関係において,当 該商品が特許発明の実施品であると受け取られるため,当該商品が独 占的に製造,販売されているものであることや,商品の技術水準に関 する情報を提供するものとして,「品質」(不正競争防止法2条1項 1 3号)の表示といえる。しかし,上記のとおり,被告は,被告製品 につき,実際には特許発明の実施品ではなくなったにもかかわらず, 国際的な特許で保護されている,特許を取得している専用のワイヤー であるといった表示を付し,少なくともいずれかの国・地域の特許発 明の独占的実施品であるかのような情報を需要者に提供したものであ るところ,かかる行為は,「品質」を誤認させるような表示をした不 正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に該当するというべき である。 イ この点,被告は,「国際的な特許で保護」などの記載につき,被告 製品が簡単には模倣できない高度な技術によることを示し,模倣品を 用いて引き起こされる事故の防止を企図したものと読み取るのが通常 である旨主張するが,上記表示をそのような限定した意味で受け取る 理由はない。需要者にとって「品質」としての意味を持つ特許の表示 に誤りがあった以上,不正競争防止法2条1項13号(品質等誤認惹 起行為)の該当性は否定できず,その主張は採用できないというべき である。 (2)「VHO」の表示 ア 一方,原告は,被告において,被告製品に「VHO」の表示を付し て製造,販売していたことも不正競争防止法2条1項13号(品質等 誤認惹起行為)に該当する旨主張する。 しかし,「VHO」は,それ自体アルファベット大文字の「V」と 「H」と「O」を組み合わせたものでしかなく,前記1で認定した事 実経過に照らすと,日本国内の需要者との関係において,被告製品あ るいはそれを利用した施術の名称として受け取られることこそあれ, それを超えて何かの意味を有する単語ではない上,特段の信用が化体 している表示と認めるに足りる証拠もないのであるから,被告製品の 品 質や内容に関する情報を提供するものとはいえない。また,「VH O」は,「 "# 」の頭文字からなる文字列で ! ! あり,その日本語訳は「熟練の技による人間的な巻き爪矯正法」であ ると被告のウェブサイト上では説明されているが,それでも巻き爪矯 正施術の名称の域を出ておらず,それを超えて被告製品の品質や内容 に関する格別の情報を提供するものではないし,そもそも,「VH O」のアルファベット三文字のみから,「 ! ! "# 」 といった外国語表記や「熟練の技による人間的な巻き爪矯正 法」といった日本語訳を,日本国内の需要者が想起するものでもない。 したがって,被告製品に付された「VHO」は,そもそも商品の 「品質」や「内容」など(不正競争防止法2条1項13号)の表示で はなく,被告が,メコトレード社との関係において,「VHO」との 表示を使用する権限があるか否かを論じるまでもなく,「VHO」表 示が不正競争防止法2条1項13号(品質等誤認惹起行為)に該当す る余地はないというべきである。 イ この点,原告は,被告が本件独占販売契約を締結した相手方である 3TO社が,P1 との間で,被告製品と同一形態である矯正 具Aにつき,「VHO」名称を使用しない旨合意したことを指摘する。 確かに,前記認定のとおり,かかる合意がなされたことは認められ るが,原告も被告も,合意を交わした当事者ではなく,両者間の法律 関係に直接影響を与えるものではない。そして,前記のとおり,「V HO」なる表示は,被告製品の品質や内容に関する情報を提供するも のではないのであるから,上記合意の解釈如何にかかわらず,不正競 争防止法2条1項13号(品質等誤認惹起行為)上の問題とする前提 を欠くというべきである。 したがって,原告の主張は採用できない。 (3)小括 したがって,不正競争防止法3条1項に基づく原告の差止請求は,被告 の製造,販売にかかる巻き爪矯正具につき,「国際的な特許で保護」, 「特許を取得している専用のワイヤー」の表示を,ウェブサイトを含む広 告宣伝に使用することの差止めを求める限りにおいて理由がある(被告は 既にかかる使用を停止しているが,本訴における主張内容等に照らせば, かかる表示をするおそれはなお否定できない。)。 5 争点4(被告の原告に対する要求が不法行為に当たるか)について 原告は,平成21年10月2日から平成22年12月6日にかけての被告 からの要求が不当なものであり,不法行為を構成する旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,上記期間における原告及び被告間の交渉は, 双方とも弁理士を代理人とし,主に書面やEメールを交わす形で行われてお り,また,原告代表者自身も,円満解決の観点から様々な譲歩提案をしてき た(甲4)というのであるから,被告の交渉の態様に格別不当,違法な点が あったとはいえないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 被告の要求内容について考えても,被告が,原告製品につき,@ 原告特 許の表示の中止,A 原告製品の形態変更,B 特許の訂正審判請求と特許権 の無償移転による共有化,C 被告製品と同一又は類似の製品の製造,販売 禁止などを求めていたことは確かであるが,原告製品の形態や原告特許の内 容など前記認定の事実経過に照らして考えれば,被告の要求の全てが法的な 根拠を有していたといえるかはともかく,原告に求めること自体が不法行為 を構成するような要求内容であったとはいえない。 また,原告は,被告において,原告が非正規品を販売しているかのような 風評も流した旨主張するが,被告が違法な態様でそのような行為に及んだこ とを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張は採用できず,不法行為に基づく損害賠償請 求は,損害の点について検討するまでもなく理由がない。 6 争点5(原告の損害及び被告の故意又は過失)について (1)損害 前記5のとおり,被告による不法行為の成立は認められないものの,前 記4で認めた限りにおいて,被告の不正競争行為が認められるので,かか る行為によって原告が被った損害を検討する。 ア 原告は,被告の警告書等に対する回答書作成のため生じた費用39万 6521円をもって損害と主張するが,被告の上記不正競争行為によっ て生じた損害とは認められない。 イ 原告は,被告製品が矯正具Aと同一の形態であることやVHOの名称 を使用する権利がないことに関する証拠を収集するための費用96万3 631円が損害である旨主張するが,被告の上記不正競争行為によって 生じた損害とは認められない。 ウ 原告は,被告の不当要求による原告製品の販売減少額も損害である旨 主張するが,かかる販売減少を認めるに足りる証拠がない上,前記5の 不法行為が成立することを前提とした損害の主張であり,被告の上記不 正競争行為による損害と認める余地はない。 エ 最後に原告は,本訴に要した弁護士費用をもって原告の損害と主張す るが,本訴のうち,上記不正競争行為に関する諸般の事情に鑑みると, 30万円の限りで,上記不正競争行為と因果関係のある損害と認めるの が相当である。 オ 上記不正競争行為によって,他に原告が損害を被ったと認めるに足り る証拠はない。 (2)過失 そして,上記不正競争行為が,特許の有無という公開情報に関するもの であったことに加え,被告が,ドイツで矯正具Aを使用した事業を行う3 TO社と本件独占販売契約を締結する関係にあったことに照らせば,上記 不正競争行為につき,被告の過失も肯定されるというべきである。 (3)小括 したがって,原告の損害賠償請求は,不正競争防止法4条に基づき,3 0万円の支払を求める限度で理由がある。 第5 結論 以上の次第で,原告の請求は,@ 被告が,不正競争防止法2条1項1号 又は同条同項2号該当を理由に,同法3条1項に基づいて,原告に対し,別 紙被告製品図記載の製品と同じ形態の巻き爪矯正具を製造,販売することを 差し止める権利を有しないことの確認,A 不正競争防止法3条1項に基づ き,被告の製造,販売にかかる巻き爪矯正具につき,「国際的な特許で保 護」,「特許を取得している専用のワイヤー」の表示を,ウェブサイトを含 む広告宣伝に使用することの差止め,B 不正競争防止法4条に基づき,3 0万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年5 月25日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払 を求める限度で理由があるから,これらを認容し,その余の請求はいずれも 理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山 田 陽 三 裁判官 松 川 充 康 裁判官 西 田 昌 吾 (別紙) 被告製品図 |