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事件 |
平成
23年
(ワ)
6980号
特許権侵害差止等請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2012/11/01 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年11月1日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官 平成23年(ワ)第6980号 特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日 平成24年8月23日 判 決 原 告 日新産業株式会社 同訴訟代理人弁護士 内 田 清 隆 同 久保田 康 宏 同訴訟代理人弁理士 大 谷 嘉 一 同補佐人弁理士 西 孝 雄 被 告 大昭和精機株式会社 同訴訟代理人弁護士 岡 田 春 夫 同 小 池 眞 一 同訴訟代理人弁理士 北 村 修一郎 同 山 ア 徹 也 主 文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 ( 1)被告は,別紙物件目録1記載の各スタイラス及び同目録2記載の各 位置検出器を製造し,譲渡し,又は,譲渡若しくは貸渡しのために展 示してはならない。 (2)被告は,その本店,営業所及び工場に存する前項の物件並びにその 半製品を廃棄せよ。 (3)被告は,原告に対し,900万円及びこれに対する平成23年6月 11日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合によ る金員を支払え。 ( 4)訴訟費用は被告の負担とする。 ( 5)仮執行宣言 2 被告 主 文同旨 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1)当事者 原告及び被告は,それぞれ工作機械周辺機器の開発,製造及び販売など を業とする株式会社である。 (2)原告の特許権 ア 本件特許権 原 告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1 に係る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許に係る明細書 及び図面をあわせて「本件明細書」という。)に係る特許権(以下 「本件特許権」という。)を有している。 特許番号 特許第4072282号 発明の名称 位置検出器及びその接触針 出願日 平成11年4月7日 登録日 平成20年1月25日 特許請求の範囲 【請求項1】 電 気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可能 な接触体(5)と,当該接触体に接続された接触検出回路(3,4)とを備 え,当該接触検出回路で接触体(5)と被加工物又は工具ないし工具取付 軸との接触を電気的に検出する位置検出器において,接触体(5)の接触 部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる 非磁性材で形成されていることを特徴とする,位置検出器。 イ 本件特許発明は,次の構成要件に分説することができる。 A1 電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可 能な接触体(5)と, A2 当該接触体に接続された接触検出回路(3,4)とを備え, A3 当該接触検出回路で接触体(5)と被加工物又は工具ないし工具取 付軸との接触を電気的に検出する位置検出器において, B 接触体(5)の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材 として混入してなる非磁性材で形成されていることを特徴とする, C 位置検出器。 (3)位置検出器の種類 材料加工の分野において,被加工物の位置を測定する位置検出器は,通 電方式と内部接点方式とに大別されるが,本件特許発明が対象とするのは 通電方式の位置検出器である。通電方式では,位置検出器に備え付けられ た接触体の接触部が,位置測定の対象である被加工物等に接触したときの み閉ループが形成されて電流が流れ,その電流を直接あるいは電磁誘導を 介して検出することをもって位置測定という目的を達する(したがって, 通電しない被加工物の位置の測定には使用できない。)。一方,内部接点 方式の位置検出器では,接触体の接触部が被加工物等に接触したときにも 接触体及び被加工物等に通電させることはない(したがって,通電しない 被加工物の位置の測定にも使用できる。)。 通電方式の位置検出器は,さらにリングセンサ(励起コイルと検出コイ ルで構成される。)を使用しないものと,使用するものとがある。前者で は,位置検出器本体内の電池の作用によって,接触体と被加工物等との接 触時に電流が流れるが,後者では位置検出器本体内に電池は備えておらず, 励起コイルの交流電流の電磁誘導によって,接触体と被加工物等との接触 時に電流が流れる。 別紙物件目録2記載の位置検出器のうち,ポイントマスターPMG及び ポイントマスターPMC(以下,併せて「イ号検出器」という。)は,リ ングセンサを使用しない通電方式の,同目録2の位置検出器のうち,タッ チプローブ(芯出し,計測用)(以下「ロ号検出器」という。)は,リン グセンサを使用する通電方式の位置検出器である。 (4)被告の行為及び位置検出器(イ号,ロ号)の構成 ア 被告は,業として,別紙物件目録1記載@ないしBのスタイラス (接触針。位置検出器の接触体として用いられる。)及び同目録2記 載の位置検出器を製造,販売している。 イ 別紙物件目録1記載@〜Bのスタイラスのうち,ST28−1P及 びST28−2Pを除いたもの(以下「ハ号スタイラス」という。) を装着したイ号検出器の構成は,以下のとおりであり(イ号検出器の 構成を図示すると,別紙イ号図面記載のとおりである。),本件特許 発明の構成要件をすべて充足する。 イa1 中心部より周方向3分割の角度で延出された3本の円柱状の支 持体がそれぞれ2個一組の鋼球上の間にバネにより付勢された状態で 載置されており,内蔵する電池の正極からの接触検出回路及びバネを 介したラインと,当該電池の負極からの本体,鋼球及び支持体を介し たラインとの間で,3本の支持体が絶縁部を介して基部に固定される ことにより,電気的に絶縁された状態で,所定の安定位置を保持する, 微小移動可能な基部に装着された接触体と, イa2 前記接触体に電気的に接続されたLEDを備えた接触検出回路と を備え, イa3 前記接触検出回路で前記接触体と被加工物であるワークとの接触 を,前記接触体,前記ワーク,工作機械本体の抵抗,及び前記接触検出 回路からなるラインが閉成されることにより,電気的に検出する位置検 出器において, イb 前記接触体の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材 として混入してなる弱磁性として非磁性材であるHAN6で形成されて いることを特徴とする, イc 位置検出器 ウ ハ 号スタイラスを装着したロ号検出器の構成は,以下のとおりであ り(ロ号検出器の構成を図示すると,別紙ロ号図面記載のとおりであ る。),本件特許発明の構成要件B,Cを充足する(構成要件A1な いし3を充足するか否かについては争いがある。)。 ロa1 位置検出器外部に設けられたコントロールアンプに接続された検 出コイル及び励起コイルの各内周内側に導電体たる本体を設置すると ともに,中心部より周方向3分割の角度で延出された3本の円柱状の 支持体のそれぞれ2個一組の鋼球上の間にバネにより付勢された状態 で載置されており,所定の安定位置を保持する,微小移動可能な基部 に装着された接触体と, ロa2 前記励起コイル及び前記検出コイルよりなる電磁誘電機能を利用 した接触検出回路が前記コントロールアンプに接続され, ロa3 前記励起コイルをもって励起されている本体及び接触体と被加工 物であるワークとの接触を,前記接触体,前記ワーク,及び機械主軸 により閉ループ回路が形成されることにより,前記検出コイルに誘電 電流が流れ,電気的に検出する位置検出器において, ロb 前記接触体の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材 として混入してなる弱磁性として非磁性材であるHAN6で形成され ていることを特徴とする, ロc 位置検出器 2 原告の請求 原告は,被告に対し,本件特許権に基づき,別紙物件目録1記載@ないし Dのスタイラス及び同目録2記載の位置検出器の製造・譲渡等の差止め,そ れら製品及び半製品の廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づ き,900万円の損害賠償及びこれに対する平成23年6月11日(訴状送 達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金 の支払を求めている。 3 争点 (1) 技術的範囲の属否 (争点1) ア ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は本件特許発明の技術的範囲 に属するか (争点1−1) イ その他の被告の各製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか (争点1−2) (2) スタイラスの製造販売による本件特許権間接侵害の要件充足性 (争点2) (3) 本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきものか (争点3) ア 本件特許は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判に より無効とされるべきものか(乙12文献) (争点3−1) イ 本件特許は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判に より無効とされるべきものか(乙15文献) (争点3−2) (4) 原告の損害 (争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1−1(ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は本件特許発明の技術 的範囲に属するか)について 【原告の主張】 (1)構成要件A1 ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は構成ロa1を有し,構成要件A 1を充足する。 ア 「電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動 可能な接触体」における「電気的に絶縁された状態」とは,「接触 体と被加工物が接触し,位置検出器本体→接触体→被加工物→位置 検出器と電流が流れる閉ループ回路ができない状況において,接触 体に電流が流れることがない状況を保っている状態」という意味と 解釈される。つまり,被加工物と接触するまで,接触体には電流が 流れない状態にあるという意味である。 そ の理由として,まず請求項の記載からも,「電気的に絶縁され た状態で」と「所定の安定位置を保持する微小移動可能な接触体」 との間に読点はなく,「電気的絶縁」は「所定の安定位置を保持す る」状態のときに生じていることが分かる。 そして,本件特許発明は,接触体を移動,すなわち「安定位置を 保持する」状態を変更させ,被加工物と接触して,被加工物の位置 を検出する装置についてのものである。そうすると,@「安定位置 を保持する」状態では「電気的に絶縁」されており,A 移動して被 加 工物と接触した状態では,電流が流れることになる,という意味 であるということは,文言からの素直な解釈である。 この点,本件明細書の図2では,絶縁体7で絶縁することにより, 接触針(同図における接触体)と位置検出器本体が絶縁されている と表示されているようにも思えるが,本件特許発明は,位置検出器 本体→接触体→被加工物と電流を流すことが大前提となっているこ とは明らかで,接触体と位置検出器本体が電気的に絶縁されている はずがなく,そのような趣旨に解釈するのは不可能である。 イ こ のような解釈を踏まえれば,ロ号検出器は,所定の安定位置を 保持している状態において,接触体が電気的に絶縁されている,つ まり,電流が流れていないのであるから,本件構成要件A1を充足 していることは明らかである。 被 告は,ロ号検出器の通電量がわずかであるため,そもそも本件 特許発明が課題として掲げる磁性化のおそれがない旨主張するが, 当該製品においても,接触体と被加工物との間に通電状態と非通電 状態を繰り返すことに違いはなく,充足性を否定する根拠にはなら ない。 (2)構成要件A2 ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は構成ロa2を有し,構成要件A 2を充足する。 この点,「接続」の意味が問題となるが,「接続」とは,二つ以上のも のを連絡させることを意味する「接触」とは異なる概念である。無線ラン で二つのパソコン間で情報を交信できるようにする場合でも,二つのパソ コンを「接続」するというのであり,物理的に有線で接触していない場合 でなくても,相互に,情報を交信できるように状態することも「接続」に 含まれる。 被告は,ロ号検出器の,接触検出回路は,電磁誘電機能により接触体と ワーク(被加工物)との接触を感知するものであり,接触体とも本体とも 接続されていないと主張するが,その趣旨は単に有線で物理的に接触して いないというにとどまり,被告も,接触体とワークが接触したという情報 を交信できる状態にしていること自体は認めているのであるから,接触検 出回路が接触体に「接続」されていることは明らかである。 (3)構成要件A3 ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は構成ロa3を有し,構成要件A 3を充足する。 この点,「電気的に検出する」の意味が問題となるが,「電気」(電気 が導体の中を流れる現象。電流など。)「的に」(のような性質を利用し て)検出することを広く指すものと解される。 被告は,ロ号検出器につき,接触検出回路が接触体と被加工物との接触 を検知するのは,電磁誘電機能を利用した閉ループ回路の形成である,接 触体を通じて閉ループ回路を介し流れる電流は極めて僅かな量であると主 張するが,これらの主張は,接触体と被加工物との接触によって生じる電 流の流れ,すなわち電気の性質を利用して検出していること,つまり, 「電気的に検出する」ものであることを認めるものといえる。 (4)小括 そして,構成要件B及びCの充足性は争いがないところ,ハ号スタイラ スを装着したロ号検出器は,本件特許発明の技術的範囲に属する。 【被告の主張】 (1)構成要件A1 ア 特許請求の範囲の記載において,「電気的に絶縁された状態で」の文 言は,「所定の安定位置を」とともに「保持する」に掛かり,「微少移 動可能な」とともに,「接触体」を特定しているが,接触体を所定の安 定位置を保持しつつ,微小移動可能としているのは,位置検出器におい て接触体をそのように保持すべき保持機構を有しているからであり,当 該保持機構を特定する発明特定事項であると理解される。そのため, 「電気的に絶縁された状態で」「保持」との発明特定事項も,同じ保持 機構に関する発明特定事項である以上,位置検出器から電気的に絶縁さ れた状態で接触体を保持することを特定していると理解される。 一方,本件明細書においては,「電気的に絶縁された状態で」の発明 特定事項につき,一貫して,位置検出器の本体との間で,電気的に絶縁 された状態で保持される保持機構に関する技術的事項を説明する用語と して使用されている。 このような特許請求の範囲及び明細書の記載からすると,「電気的に 絶縁された状態で」とは,位置検出器本体との間で接触体が電気的に絶 縁された状態であることを意味すると解される。 イ このような解釈は,位置検出器の技術常識にも合致する。 まず,内部接点方式と区別される通電方式の位置検出器においては, 励起コイルと検出コイルで構成されるリングセンサを使用する位置検出 器,つまり,ロ号検出器のように接触体が本体と導電性を保つ必要があ る位置検出器と,イ号検出器のように接触体が本体と絶縁されていなけ ればならない位置検出器が,本件特許出願時に既に周知慣用技術として 存在していた。そのため,接触体が位置検出器との間で絶縁された状態 で保持された位置検出器という発明特定事項が当業者に示されれば,ロ 号検出器のような位置検出器が排除されていると当業者が区別できてい たことが明らかである。 また,ロ号検出器では,交流電流に伴って発生する交流磁界が反転を 繰り返すことを特徴としているが,これは消磁器等が着磁した磁性体を 非磁性化させる原理そのものであり,磁性体の接触体であっても着磁自 体が考えらず,本件特許発明の作用効果として記載される接触体の磁性 化を防止する作用効果自体が生じない。そのため,仮に特許請求の範囲 の記載には位置検出器のタイプに関連する特定事項がないため,形式的 には構成充足を充たすように見える場合であっても,リングセンサを使 用する位置検出器については,発明の作用効果を奏すべき技術的前提が 異なっている以上,技術的範囲に属さないと判断することが技術的思想 たる発明の本来のあるべき解釈論である。 ウ そして,ハ号スタイラスを装着したロ号製品は,構成ロa1における 「中心部より周方向3分割の角度で延出された3本の円柱状の支持体のそ れぞれ2個一組の鋼球上の間にバネにより付勢された状態で載置されてお り」との構造が,接触体の基部中心部より伸出された3本の円柱状の支持 体がそれぞれ2個一組の鋼球上に載置される構成であり,接触体と位置検 出器との間では電気的な接続を維持している構造となっており,「位置検 出器」との間では,「接触体」が「電気的に絶縁された状態で」「保持」 されていないから,構成要件A1を充足しない。 エ 原告は,構成要件A1の解釈において読点の有無を問題にしているが, 原告の解釈を裏付けるには,むしろ,「電気的に絶縁された状態で所定 の安定位置を保持『し,』微少移動可能な接触体」と記載する必要があ る。 ま た,本件明細書は,「電気的に絶縁された状態で移動可能」「か つ」「所定の安定位置に付勢して装着」することを課題解決手段として 説明しており,移動の前後を通じて一貫して「電気的に絶縁された状態 で」あることを明記しており,絶縁状態から「移動」によって通電状態 になるとの状態遷移を示すという原告の解釈論と矛盾する。 (2)構成要件A2 ア 構 成要件A2は,これに続く構成要件A3と一体となって,「接触 検 出回路」が接触体と被加工物との間の接触情報を受け取る構成を明 らかにしているが,構成要件A3において,当該接触情報を得るにあ たって「電気的に検出する」と特定している以上,その前提となるべ き「検出回路」と「接触体」との「接続」の構成も,電気的な接続で ある必要がある。 一 方,「接続」につき,原告の主張するような広い解釈をとると, リングセンサを使用する位置検出器,つまり,接触体の磁性化を防止 するという発明の課題の解決と関連性のない構成までも含んだ領域ま で含まれることになってしまうし,また,その場合に発明の構成が接 触体の磁性化を防ぐ機作すらも不明なままである。請求項に係る発明 は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならな いのであるから,原告の主張は,サポート要件違反の解釈論というべ きである。 し たがって,構成要件A2における「接続」は,検出回路が,少な くとも,接触体と電気的に接続されている必要がある。 イ そ して,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器においては,接触検 出回路と電気的に接続されているのは検出コイルまでである。励起コ イルと検出コイルとよりなるリングセンサと位置検出器本体との間の 電磁誘導機能を利用し,接触体と被加工物との接触情報を接触検出回 路に送り出すような構成ロa2における情報の「連絡」は,接触体が 接触検出回路に電気的に接続されたものとはいえない。 し たがって,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は,構成要件A 2を充足しない。 (3)構成要件A3 ア 「 的」については,一般に名詞およびそれに準ずる語に付いて,形 容動詞の語幹をつくるが,@ 主に物や人を表す名詞に付いて,それそ のものではないが,それに似た性質をもっていることを表す,A 主に 抽象的な事柄を表す漢語に付いて,その状態にあることを表す,B 物 事の分野・方面などを表す漢語に付いて,その観点や側面から見て, という意を表すと定義されている。「接触を電気的に検出する」とい う構成要件A3の特定事項からみれば,上記Bの意味として,「電 気」の観点や側面から見て,「接触を‥‥検出する」と特定されてい ると理解するのが自然である。 そ うすると,接触を検出する方法論は多々あるとしても,「電気の 側面から検出」するとあれば,接触体と被加工物との間に流れる電気 を直接に検出する構成に限定されていると理解するのが通常というべ きである。少なくとも,電気の何らかの性質を利用してといった曖昧 な意味を主張して,電流が流れることで生じうる事象の検出を電気の 性質を利用した検出手法と位置づけ,「接触を電気的に検出する」と 理解することは,文言的にも不可能である。 イ し たがって,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器のように,励起 コイル,閉ループ,検出コイルという電磁誘導を利用して接触を検出 する構成は,「接触を電気的に検出する」ものとはいえず,構成要件 A3を充足しない。 2 争点1−2(その他の被告の各製品は本件特許発明の技術的範囲に属する か)について 【原告の主張】 (1)ST28−1P及びST28−2Pのスタイラスを装着した位置検出 器 ST28−1P及びST28−2Pのスタイラスは,タングステンカー バイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁性材である。そのため, これらスタイラスを装着した別紙物件目録2記載の各位置検出器は,本件 特許発明の技術的範囲に属する。 この点,原告が,被告からST28−1P,ST28−2Pとして提出 を受けたスタイラスを分析したところ,ニッケルを含有しておらず,非磁 性材でもなかったことは確かであるが,質量比4.73パーセントから8. 07パーセントの範囲内のコバルトを含むことが確認されており,コバル トをほとんど含まない旨の被告による説明と齟齬が生じている。 (2)A号検出器 内部接点方式の位置検出器が本件特許権を侵害しないことを争うもので はないが,別紙物件目録2記載3の「ニューゼロセンサ」「ニューゼロセ ンサOPT3000」「ニューゼロセンサ5000」及び「OPT200 0」の位置検出器(以下「A号検出器」という。)もイ号検出器及びハ号 検出器と同様の通電方式を採用している。そのため,別紙物件目録1記載 の各スタイラスを装着したA号検出器は,本件特許発明の技術的範囲に属 する。 この点,被告は,A号検出器は内部接点方式である旨主張する。しかし, A号検出器でも付属品として超硬合金のスタイラスを用意しているが,内 部接点方式であれば,その必要はなく,ルビースタイラスを付属品とすれ ば十分であること,被告のパンフレットにおいて,A号検出器が内部接点 方式であるとは記載されていないこと,内部接点方式と通電方式とは,互 いへの変更が容易であることからすると,A号検出器のすべてが内部接点 方式であるとは考えられない。 【被告の主張】 (1)ST28−1P及びST28−2Pのスタイラスを装着した位置検出 器 これら先端の球形1mm 及び2mm のスタイラスは,ニッケルを含有して おらず,少なくとも,結合材としての混入量がないことが成分分析でも確 認されており,本件特許発明の構成要件Bを充足しないことが明らかであ る。 (2)A号検出器 A号検出器は,被加工物との通電を行わず,スタイラスにも電流が流れ ないいわゆる内部接点方式の位置検出器であるため,本件特許発明の構成 要件A1ないしA3を充足しないことは明らかである。 3 争点2(スタイラスの製造販売による本件特許権間接侵害の要件充足性) について 【原告の主張】 (1)特許法101条1号 別紙物件目録1記載の各スタイラスは,本件特許発明の技術的範囲に属 する物の生産にのみ用いる物であるため,その生産,譲渡等の行為は,間 接侵害(特許法101条1号)の要件を満たすものである。 この点,被告は,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器が本件特許発明 の技術的範囲に属しないと主張した上で,ロ号検出器にも使用できるスタ イラスにつき,間接侵害の要件を満たさない旨主張するが,ロ号検出器も 本件特許発明の技術的範囲に属することは前記のとおりであり,被告の主 張は前提を誤っている。 また,被告は,内部接点方式の位置検出器にも使用できるスタイラスに ついても,特許法101条1号の要件を満たさず,間接侵害は成立しない 旨主張するが,「その物の生産にのみ用いる物」とは,特許発明の実施以 外に社会通念上経済的,商業的ないしは実用的であると認められる用途が あるか否かを問うものである。 この点,本件特許発明は,スタイラスが磁性を帯び,あるいは,傷が付 くことでミクロンオーダーの計測ズレが生じるのを防止したものであり, もとよりスタイラスに電流が流れない内部接点方式の位置検出器を対象と していないし,本件特許発明の作用効果は得られない。つまり,別紙物件 目録1記載のスタイラスを内部接点方式の位置検出器に使用しても,その 特徴を活かすことはできないため,価格も高いそれらスタイラスを使用す る必要性は全くない。そのため,内部接点方式の位置検出器にも使用でき るとの理由で特許法101条1号の「その物の生産にのみ用いる物」の該 当性が否定されるものではない。 (2)特許法101条2号 ア 別紙物件目録1記載のスタイラスは,本件特許発明の技術的範囲に 属する物の生産に用いる物であって,その発明による課題の解決に不 可欠なものであり,かつ,被告は,本件特許発明が特許発明であるこ と及び上記スタイラスが装着された位置検出器(別紙物件目録2)が その発明の実施に用いられていることを知りながら,上記スタイラス の生産,譲渡などを行ったのであるから,間接侵害(特許法101条 2号)の要件を満たすといえる。 イ この点,被告は,被告のスタイラスにつき,「日本国内において広 く一般に流通しているもの」(同条同号)であるため,間接侵害は成 立しない旨主張するが,この要件は,典型的にはねじ,釘,電球,ト ランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的 な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ, 市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味する ものである。被告のスタイラスのように数十年で数千台しか流通して いない物は含まれないし,また,内部の回路が異なるだけの類似の位 置検出器においても利用されているだけで,他の用途に用いることが できるなどということはできない。 し たがって,被告のスタイラスが「市場において一般に入手可能な 状態にある規格品,普及品」でないことは明白である。 ウ 被 告は,原告から催告書(乙1)が送られてくる前は,本件特許の 存在を知らなかったと主張するが,本件のような位置検出器を生産し ているメーカーは世界でも数社しかなく,いずれも競合他社の特許を 日々分析している状況の中で,本技術分野で多数の特許出願をしてい る被告が本件特許を知らなかったなどということは,およそ考えられ ない。また,被告は,平成22年12月14日付の回答書(乙2)に おいて自社のスタイラスは非磁性材でないと記載しているが,それら スタイラスは非磁性材であることを特徴としており,そのことはパン フレットでも明示されているのであるから,上記記載は虚偽である。 し たがって,被告は,催告書(乙1)を受け取った平成22年12 月4日以降はもちろん,本件特許が登録された平成20年1月25日 から,悪意であったというべきである。 【被告の主張】 (1) 特許法101条1号 ハ号スタイラスは,イ号検出器以外の被告の位置検出器とも適合する製 品であるか,ロ号検出器とのみ適合性のある製品群である。 まず,ハ号スタイラスの内,「ST28−3P」及び「ST28−4 P」については,内部接点方式の型式「PMP」の位置検出器との適合性 がある。次に柄杆がカーボン製であり,型式が「ST28C−4N」, 「ST38C−4N」,「ST48C−4N」,「ST68C−4N」, 「ST98C−4N」,及び「ST98C−5N」のハ号スタイラス(別 紙物件目録1記載Aのスタイラス)については,内部接点方式の型式「P MP」,及び「ZS」シリーズとの適合性が明記されている。そして,型 式「ST−40」,「ST−50」,「ST−70」,及び「ST−10 0」のハ号スタイラス(別紙物件目録1記載Bのスタイラス)について は,ロ号検出器との適合性のみがカタログに謳われているものであり,か つ,「ST28−1P」や「ST28−2P」という,広く被告の位置検 出器との適合性が他のカタログに謳われているスタイラスが同所の併記さ れているように,内部接点方式の位置検出器とも商業的・経済的に適合性 を有するスタイラスである。 したがって,ハ号スタイラスは,本件特許発明の技術的範囲に属しない 物の生産にも用いられるものであるから,特許法101条1号の「その物 の生産にのみ用いる物」に当たらない。 (2) 特許法101条2号 上記(1)のように,本件特許発明と関連しない位置検出器との適合性が 認められ,かつ,別売品として販売され,どの位置検出器に装着されるも のであるかを把握し難いハ号スタイラスについては,「日本国内において 広く一般に流通しているものを除く」(特許法101条2号)との除外要 件を充足することが明らかである。 また,被告は,原告から催告書を受け取った平成22年12月6日より も前の時点では悪意ではなかったのであるから,その期間において,特許 法101条2号の間接侵害が成立しないことはより明らかである。本技術 分野における特許出願件数をもって悪意性立証となるはずもない。 4 争点3−1(本件特許は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効 審判により無効とされるべきものか〔乙12文献〕)について 【被告の主張】 (1)乙12発明 特開昭63−2650号公報(乙12。以下「乙12文献」という。) には,以下の発明(以下「乙12発明」という。)が開示されている。 A1 検出器33本体と電気的に絶縁された状態で所定の垂直状態を保持 する揺動可能なスタイラス51と, A2 当該スタイラス51と接続されて接触子49とワークピースWとの 通電時の信号を発信する回路とを備え, A3 当該接回路でスタイラス51先端の接触子49とワークピースWと の接触時の微弱電流の通電を検知して,検出器33の検出値65に読み 込み,ワークピースWの上面位置を表示させるワーク検出装置41にお いて, B’スタイラス51先端の接触子49が,通電性が良好で非磁性の部材か らなることを特徴とする, C ワーク検出装置41。 (2)本件特許発明と乙12発明との対比 本件特許発明と乙12発明とを比較すると,乙12発明における「スタ イラス」及び「接触子」は,本件特許発明における「接触体」に相当し, 「接触子」は「接触体の接触部」に相当する。さらに,乙12発明におけ る「微弱電流の通電を検知する回路」は,本件特許発明における「接触検 出回路」に,「ワークピース」は,「被加工物」に相当する。 したがって,両者は, A1 電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可能 な接触体と, A2 当該接触体に接続された接触検出回路とを備え, A3 当該接触検出回路で接触体と被加工物との接触を電気的に検出する C 位置検出器 である点で一致する一方,本件特許発明が「接触体の接触部がタングステ ンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁性材で形成され ている」のに対して,乙12発明が「接触体の接触部が,通電性が良好な 非磁性の部材よりなる」点ではその物性が共通するものの,その具体的材 質についての記載がない点で相違する。 (3)相違点に対応する技術的事項を記載する刊行物等 「改訂5版金属便覧」(乙14。以下「乙14文献」という。)は,一 般技術文献として技術常識を裏付けるものであるが,乙14文献は,硬質 材料または超硬質材料と呼ばれるものが焼結体であり,「超硬合金」がそ の一種類であること,超硬合金が,「元素周期表W ,X ,Y 族の金属 の炭化物粉末を, , , の鉄属金属で焼結結合した合金」を総称す るものを意味するとし,その現用合金は,タングステンカーバイトのタン グステン単独の炭化物粉末を,コバルトを結合材とし焼結体としたものと, タングステンカーバイトと共にチタンカーバイト等の金属の炭化物粉末を, コバルトを結合材とし焼結体としたものが,一般的な超硬合金であったこ とを示した上で,超硬合金の耐食性を向上させるため,または非磁性の物 性を得るためには,ニッケルを結合材として焼結体とすることの技術的事 項を開示している。 加えて,特公昭45−13212号公報(乙24。以下「乙24文献」 という。)は,本件特許出願の40年近く前に頒布された刊行物であり, 超硬合金一般の技術常識を明らかにしているが,タングステンカーバイト を主原料とする超硬金属にあっては,その硬くまた強靭な材料として種々 な用途に使われていたもので,コバルトを結合材として利用するものが一 般的であった中,これと略同等の物性値を得るにあたって,ニッケルを結 合材として利用することが知られていたことを示すとともに,ニッケルを 一定以上(重量比で1〜30%)にして結合材として混入すると,超硬の 物性を保って非磁性になるとの技術的事項を開示している。 (4)容易想到性 本件特許発明と乙12発明との間の唯一の相違点である接触体の接触部 における具体的な材質の選択については,前記(3)のとおり,「タングス テンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる」非磁性の超硬合 金が技術的事項として広く知られていたものである。しかも,乙12発明 自体,乙12文献の記載において,「検出子49及びスタイラス51は, 通電性が良好な非磁性の部材よりなる」として,「接触体の接触部」にお ける好適な材質の物性を明記しており,刊行物中の示唆及び機能の共通性 より,各刊行物に裏付けられた技術常識に属すべき当該超硬合金の採用は, 強く動機付けられている。 一方,乙12文献には,スタイラスの先端の接触子に非磁性を求めるこ との具体的理由は明記されていないが,特開平9−7520号公報(乙1 3。以下「乙13文献」という。)の記載や,乙12発明が強磁性の環境 下のものであることからすると,スタイラスの磁化による測定誤差を防ぐ という本件特許発明と同様の課題に基づくものとして,非磁性部材を採用 したと理解される。 そして,本件特許発明及び乙12発明と同じ移動式の接触体の技術の分 野に属する特開平9−329406(乙15。以下「乙15文献」とい う。)において,「スタイラスの先端の接触子」の材質に関する技術とし て,「測定子先端の測定子チップ部」を「導電性の超硬合金」で構成する ことが記載されていること,被告の過去の公然実施例を見ても,スタイラ スの先端の接触子としての超硬合金が出願前に広く用いられていたこと (乙19〜23)からすると,接触体の摩耗や変形による測定誤差を防ぐ という課題も周知のものであったといえる。 乙12発明は本件特許発明との課題の共通性も認められるもので,当該 課題の解決として相違点に関する最適材料への置換の動機付けは一層強く 認められるし,また,そもそも乙12発明の「接触体の接触部が,通電性 が良好な非磁性の部材よりなる」との構成に関して,よりよい非磁性の部 材を選択するにあたって非磁性の超硬合金を選択することが設計事項に属 することも同時に裏付けられている。 加えて,内部接点方式の位置検出器において,その電気−機械的接点を タングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる超硬合金 を使用していたという技術常識(乙17,18。以下,それぞれ「乙17 文献」「乙18文献」という。)に鑑みれば,乙12発明のような通電方 式の位置検出器であれば,同じく被加工物と電気−機械的接点を行う接触 体の接触部においては,当該超硬合金を最適材料として選択することが, 当業者にとって,通常の創意の範囲内にある設計事項に属することが一層 明らかである。 したがって,いずれの観点においても,乙12発明における「スタイラ スの先端の接触子」の材質の選定を行う当業者が,位置検出機に装着する スタイラスの先端の接触子の材質として広く用いられている超硬合金の範 囲において,乙12文献中の示唆に基づき非磁性材料を維持したまま,乙 14文献及び乙24文献に記載の技術的事項に基づき,タングステンカー バイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁性材で形成することは 当業者が容易に想到しうるものである。 【原告の主張】 (1)乙12文献 乙12文献に,スタイラスの接触部が「通電性が良好で非磁性の部材よ りなるもの」と記載されていることは認めるが,乙12文献にはその具体 的理由の記載がなく,ましてや,どのような非磁性材を用いるかにつき, 記載も示唆も一切ない。つまり,本件特許発明は,接触部の磁化による誤 差防止と接触体の摩耗や変形による誤差防止という2つの特徴を有するも のとして,スタイラスの接触部をタングステンカーバイトにニッケルを結 合材として混入してなる超硬合金としたものであるが,乙12文献には, 上記2つの特徴がいずれも開示されておらず,本件特許発明へ至る動機付 けに欠ける。 (2)非磁性部材にかかる課題の非容易想到性 この点,被告は,位置検出器において,「接触体が次第に磁気を帯びて くる」ことにより「磁力で接触針が引かれてわずかに傾き,これによる誤 差を生じる」という課題は,本件特許出願当時よく知られていたものであ る旨主張する。しかし,その根拠とする乙13文献で掲げられている課題 は,弾性のある被検査物が磁力により接触体に引かれるという思いつきや すい課題であるのに対し,本件特許発明の課題は,接触体が磁力により被 検査物に引かれるというものであり,課題として全く異なる上,思いつき にくく,求められる精度も大きく異なるのであるから,本件特許発明の課 題が容易想到であったことの根拠になるものではない。 同様に,乙14文献及び乙24文献も,タングステンカーバイトに対す るコバルトやニッケルの結合材に対する挙動を単に開示するだけのもので あり,乙12発明に組み合わせる動機付けが存在しない。 また,被告は,乙17文献及び乙18文献記載の内部接点方式の位置検 出器において,電気−機械的接点にタングステンカーバイトにニッケルを 結合材として混入してなる超硬合金を使用していたことが記載されている から,本件特許発明において,このような非磁性の超硬合金を選択するこ とは設計事項に属すると主張する。しかし,本件特許発明と乙17文献及 び乙18文献とでは,非磁性超硬合金の用途が相違しているのみならず, 解決しようとする課題が全く相違している。すなわち,乙17文献,乙1 8文献はいずれも内部の電気−機械的接点部における接点不具合の改善を 目的として上記合金を使用しており,本件特許発明が解決しようとする課 題と相違しているため,乙12発明に適用する動機付けが存在しない。む しろ,乙17文献には,タングステンカーバイトにニッケルを結合材とし て用いることは,乙17文献が防止しようとする「復位失敗」の原因であ るとも記載されており,かかる合金を避ける動機が当時存在したことを示 すものとさえいえる。 (3)無数の非磁性金属の中から選択することの非容易性 また,本件特許発明の技術分野において,タングステンカーバイトに ニッケルを結合材として混入してなる超硬合金の存在自体が知られていた としても,無数の非磁性金属が流通している中で,同合金を選択する動機 付けはない。現に,乙13文献は,非磁性材としてタングステンに銀を混 ぜた合金を使用しており,被告の提出した証拠に記載されているいずれの 発明においても,タングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入 してなる超硬合金を非磁性材として用いている発明はないのである。 5 争点3−2(本件特許は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効 審判により無効とされるべきものか〔乙15文献〕)について 【被告の主張】 (1)乙15発明 乙15文献には,以下の発明(以下「乙15発明」という。)が開示さ れている。 A1 本体部2と電気的に絶縁された状態で所定の垂下せしめた状態を保 持する逃がし機構をベース部2bに格納した測定子2aと, A2 当該測定子2aと接続された電子回路部C とを備え, A3 当該電子回路部C で 測定子2aの先端の測定子チップ21と被測 定物7との接触を電気的に検出するタッチプローブ1において, B 測 定子2aの先端の測定子チップ21が通電性の超硬合金からなる ことを特徴とする, C タッチプローブ1。 (2)本件特許発明と乙15発明との対比 本件特許発明と乙15発明とを比較すると,乙15発明の「測定子」は 本件特許発明の「接触体」に,「測定子チップ」は「接触体の接触部」に, それぞれ相当する。また,乙15発明の測定対象は「被測定物7」である が,これが本件特許発明の「被加工物」に相当することも明らかである。 そして,超硬合金に関する技術常識に鑑みて,乙15文献中の「超硬合 金」は,「タングステンカーバイトを主原料としてなる焼結体」を意味し, その具体的な結合材の種類が明らかでないに過ぎないことは,刊行物に記 載されるに等しい事項である。 したがって,本件特許発明と乙15発明とは, A1 電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可能 な接触体と, A2 当該接触体に接続された接触検出回路とを備え, A3 当該接触検出回路で接触体と被加工物との接触を電気的に検出する 位置検出器において B 接 触体の接触部がタングステンカーバイトを主原料してなる材料で 形成されていることを特徴とする C 位置検出器 である点で一致する一方,本件特許発明が「接触体の接触部」の材料につ き,「タングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる非 磁性材で形成されている」と特定しているのに対し,乙15発明は,「測 定子先端の測定チップ部」につき「導電性の超硬合金である」としか開示 がない点で相違する。 (3)相違点に対応する技術的事項を記載する刊行物等 乙14文献には,超硬合金について,耐食性を向上させるためニッケル を結合材として焼結体とすることの技術が開示されている。 (4)容易想到性 本件特許発明と乙15発明との間の唯一の相違点である接触体の接触部 における具体的な材質の選択について考えると,まず乙14文献において, 耐食性を高めるための「タングステンカーバイトにニッケルを結合材とし て混入してなる」超硬合金が技術的事項として広く知られていたものであ る。 そもそも乙15文献は,測定子先端の測定チップ部は導電性の超硬合金 につき,酸化腐食防止を課題とするものであるが,当該課題を明記する記 載に触れた当業者からすれば,さらに触針の酸化腐食の防止を向上させる ために,乙15発明の「測定子チップ」の「超硬合金」を乙14文献の記 載に従い,「タングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入し た」超硬合金を適用することは,単なる最適材料の選択に止まらず,乙1 5文献中の課題の示唆に基づく動機付けがあることが明らかであり,容易 想到といえる。 そして,別課題からの動機付けに基づき,同一構成に想到することが論 理づけられた場合,「タングステンカーバイトにニッケルを結合材として 混入した」超硬合金は同時に「非磁性材」でもあることは明らかである。 そもそも,「物性が適度なバランスをとって満たされる」ように,超硬 合金の中で最適材料を選択することは当業者にとり自明な創意の範囲内の 活動であり(乙16),かつ,内部接点方式の位置検出器においては,そ の電気−機械的接点において,既に「タングステンカーバイトにニッケル を結合材として混入した」超硬合金を適用することが知られていた以上, 当然の設計事項ともいえる。 したがって,本件特許発明は,その出願前に当業者が,乙15発明と乙 14文献記載の技術的事項とに基づき,容易に発明をすることができたも のである。 【原告の主張】 乙15文献には,三次元測定システムのタッチプローブにおいて,「測 定子チップ部21は導電性の超硬合金でなる球状部材で,実際に被測定物 7と接触する部分である。」ことは記載されている。しかし,本件特許発 明は,接触部の磁化による誤差防止と接触体の摩耗や変形による誤差防止 という2つの特徴を有するものとして,スタイラスの接触部をWC+Ni 合金としたものであるが,乙15文献には,上記2つの特徴がいずれも開 示されておらず,本件特許発明へ至る動機付けに欠ける。 被告は,乙15文献につき,乙14文献に従い,WC+Ni合金を適用 することは容易であると主張するが,乙15文献はもともと接触部の酸化 腐食の防止を目的としているものであり,非磁性についての認識に欠ける ものであるから非磁性材を用いようとする動機付けが存在しない。 よって,乙15に基づいて本件特許発明を容易に想到できたとはいえな い。 6 争点4(原告の損害)について 【原告の主張】 (1)原告は,本件特許発明を実施した製品を本件特許登録後から現在に至 るまで販売している。 (2)被告は,少なくとも,本件特許登録日である平成20年1月25日か ら平成23年5月30日まで40か月以上にわたり,原告の本件特許権を 侵害している。 別紙物件目録1,2各記載の位置検出器及びスタイラスは,いずれもそ の単価が15万円を下ることはなく,被告は,上記期間内に少なくとも合 わせて約150個販売した。また,上記位置検出器及びスタイラスの1台 当たりの利益率は40%を下ることもない。 よって,原告の被った損害額は,上記製品の販売数量に,上記製品の単 位数量当たりの利益の額を乗じた900万円と推定される(特許法102 条2項)。 【被告の主張】 争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1−1(ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は本件特許発明の技術 的範囲に属するか)について 次のとおり,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は,本件特許発明の構 成要件を全て充足し,本件特許発明の技術的範囲に属する。 なお,前提事実(4)イのとおり,ハ号スタイラスを装着したイ号検出器が, 本件特許発明の技術的範囲に属することは当事者間に争いがない。 (1)本件明細書の記載 本件明細書には,以下の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は,接触により工作機械の工具ないし工具取付軸と被加工物との 相対位置を検出する位置検出器及びその接触針に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 工作機械に取付けられた被加工物の位置を接触により検出する位置検出器 は,移動可能かつ所定の安定位置に付勢して保持された接触体を備えてお り,本体が工作機械の工具ホルダに装着されるものと,本体が磁石等によ り被加工物に装着されるものとがある。 【0003】 前者の例は図2に示されており,本体1に収納されたプラスチックケース 2に電池3が収納され,LED4のアノードが電池3の陽極に,カソード が本体1に接続されており,接触針5は,その円板状の基部6を絶縁体7 を介して電気的に絶縁した状態でバネ8により支持杆9に押接して,本体 1に装着されている。支持杆9は本体1に螺合されており,これを螺進退 させることにより接触針5の位置を微調整する。接触針の基部6は電池3 の陰極にリード線11で接続されている。このように構成された位置検出 器は,本体1を工作機械の工具ホルダ12に装着して接触針5を被加工物 13に接触させると,工作機械を通る電気回路が閉成されてLED4が点 灯し,被加工物13の位置が検出される。」 「【0005】 以上のように,この種の位置検出器の接触体は,電気導体であること,安 価であること,必要な硬さと耐摩耗性を備えていること等が要求されるの で,焼き入れ性が良好で焼き入れ焼きもどしにより優れた機械的性質を発 揮するベアリング鋼が多く用いられている。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 前記のような位置検出器で被加工物の位置を検出する場合,回路が開閉さ れて接触体が通電状態と非通電状態とを繰り返すことになり,接触体が次 第に磁気を帯びてくる。このため切削加工等で生じた切粉が接触体に付着 し,位置検出時に接触体と被加工物や工具との間に介在して測定誤差を生 ずる。また接触体が細長い接触針であるときは,接触針を被加工物の側方 から接近させたとき磁力で接触針が引かれて僅かに傾き,これによる誤差 を生ずる。 【0007】 接触体をオーステナイト系ステンレス鋼やジュラルミンなどの非磁性金属 材で製造してやれば,上記問題を解決できるが,非磁性金属材は硬度が低 く,被加工物や工具との繰り返し当接離隔により摩耗や変形による測定誤 差を生じる。 【0008】 本発明は,耐久性があり測定誤差を生じない非磁性の接触体を得ることに より,正確な位置検出を可能にすることを課題としている。 【0009】 【課題を解決するための手段】 この出願の発明に係る位置検出器は,その接触体5の接触部がタングステ ンカーバイトに結合材としてニッケル約6〜16%を混入した非磁性材で 形成されていることを特徴とする。上記接触体5は,電気的に絶縁された 状態で移動可能かつ所定の安定位置に付勢して装着されている。接触体5 は接触検出回路3,4に接続されており,接触体5が工作機械の工具15 ないし工具取付軸12及び被加工物13を介して電気的に導通されたとき に接触検出回路3,4が開閉されて,被加工物と工具ないし工具取付軸と の相対位置が検出される。」 「【0013】 【作用】 接 触体5を非磁性材で形成することにより,接触検出回路の開閉動作に よって接触体が磁化するのを防止できる。そして接触体の接触部をタング ステンカーバイト粉末に結合材としてニッケルを混入して焼結してなる非 磁性材を用いることにより,接触部に高い硬度を付与することができ,接 触部の摩耗や変形による位置検出精度の低下を防止できる。」 「【0015】 【発明の実施の形態】 図1及び図2は本発明の第1実施例を示した図である。図2に示す位置検 出器の全体構造については前述した。図1に示す接触針5は球体16と柄 杆17とで形成されている。柄杆17は,ベリリューム銅を所定寸法に切 削加工したあと約350度の温度で時効硬化処理をして製作されている。 球体16は,タングステンカーバイトの微粉末に6%のニッケルを加えて 高温下でニッケルを溶融してタングステンカーバイトと混合し,型内で球 形に焼結したものの周面を研磨して真円とし,その周面の1ヶ所にSUS 304の雄ネジ18を電気抵抗溶接して製作されている。」 (2)構成要件A1の充足性 「電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可能な 接触体」(構成要件A1)のうち,「電気的に絶縁された状態」の部分に つき,原告は,位置検出の対象物である被加工物等と接触するまで,「接 触体」には電流が流れない状態を意味すると主張するのに対し,被告は, 接触体と位置検出器本体との間が絶縁されていることを意味すると主張し ているので,この点の解釈を検討する。 ア 特許請求の範囲の記載 構 成要件A1の文言からすると,「接触体」が「電気的に絶縁」と いう「状態」にあることを求めていることは読み取れるが,絶縁の方 法やその部位などについては必ずしも限定する表現になっていない。 文言上は,原告が主張するとおり,位置検出の対象物である被加工物 等と接触するまで,「接触体」には電流が流れない状態を意味するも のと解釈するのが自然であり,これに対し,接触体と位置検出器本体 との間が絶縁されていることまでを意味しているとはいえない。 イ 本件明細書の記載 本 件明細書上にも,接触体の「電気的に絶縁された状態」を達する 方法や部位などを格別限定する記載はない。この点,「接触針5は, その円板状の基部6を絶縁体7を介して電気的に絶縁した状態でバネ 8により支持杆9に押接して,本体1に装着されている。」(【00 03】)との記載はあるが,この記載は,当該実施例において,接触 体の基部と位置検出器本体との間に絶縁体を介在させていることを示 すものではあるものの,この実施例のみから,構成要件A1の「電気 的に絶縁された状態」の意味を,上記部位に絶縁体を備える構成に限 定するものと直ちに解することは困難である。 む しろ,本件明細書の記載によれば,本件特許発明が想定するのは, 通電方式の位置検出器であることが認められるが,かかる位置検出器 は,接触体の接触部が被加工物等に接触したときのみ,接触体,被加 工物等及び位置検出器本体を含めた閉ループが形成されて電流が流れ, その電流を検出することをもって位置測定という目的を達するもので あり,接触体の接触部が被加工物等に接触していないときには,その ような閉ループが形成されず,接触体にも位置検出器本体にも電流が 流れない構成とすることが必須といえる。このような通電方式の位置 検出器の基本的な原理に照らして考えると,「電気的に絶縁された状 態」とは,「接触体」が被加工物等に接触していないときには,「接 触体」に電流が流れない状態にあることを示しているものと解するこ とができるし,また,そう解することは,上記アの解釈とも整合的で ある。 ウ 被告の主張について こ の点,被告は,構成要件A1は,接触体と位置検出器本体との間 が絶縁されていることを求めている,通電方式の位置検出器のうち, 接触体が位置検出器本体と絶縁されているのはリングセンサを使用し ないタイプだけであり,上記要件は当該位置検出器のみを対象とする 趣旨である旨主張する。 し かし,本件特許発明の特許請求の範囲において,「絶縁」が接触 体と位置検出器本体との間でなされていることを求める明示的な記載 はなく,文言上の根拠を欠いた解釈といわざるを得ない。 ま た,リングセンサを使用しない通電方式の位置検出器においては, 位置検出器本体内に電池が備えられているため,接触体と被加工物等 が接触していないときに閉ループが形成されるのを回避するため,接 触体と位置検出器本体との間に絶縁体を備え付けることが必要とされ る が,リングセンサを使用する通電方式の位置検出器においては,位 置検出器本体内に電池が備え付けられていないため,そのような絶縁 体を置くまでもなく,閉ループが形成されないというに過ぎない(弁 論の全趣旨)。つまり,前記のとおり,通電方式の位置検出器におい て必須なのは,接触体が被加工物等に接触していないときに,接触体 に電流が流れない状態とすることであるが,リングセンサの使用の有 無にかかわらず,その状態を達していれば足りるのであり,接触体と 位置検出器本体との間に絶縁体を備え付けるという構成の採否によっ て,技術的範囲の属否を左右させる合理的理由は見出しがたい。 そ もそも,リングセンサを使用しない位置検出器においても,接触 体は位置検出器と近接する部分との間に絶縁体が置かれてはいるもの の,位置検出器内の電池とは導体で接続され,この電池を介して位置 検出器本体とも絶縁体を介さずつながれているのであるから,位置検 出器本体を全体として見れば,接触体と絶縁されているわけではない。 この点でも,被告の解釈論は採りがたいといえる。 加 えて,被告は,リングセンサを使用する位置検出器では,接触体 に流れるのが微弱な交流電流であるため,そもそも本件特許発明が掲 げる接触体の磁化による測定誤差という課題が発生しないと主張し, これも構成要件A1に関する上記解釈の根拠としている。しかし,被 告の主張する上記技術的事項には,理論的に理解できる部分はあるも のの,その提出する実験結果(乙34,44)によっても,十分に実 証されているとはいえず,リングセンサを使用する位置検出器が,構 成要件A1を充足しないとする根拠として不十分である。 し たがって,いずれの観点からも,被告の主張は採用できないとい うべきである。 エ 小括 以 上によると,構成要件A1の「電気的に絶縁された状態」とは, 「接触体」が被加工物等に接触していないときには,「接触体」に電 流が流れない状態にあることを意味しており,それを超えて,接触体 と位置検出器本体との間に接触体が備わっていることを求めるもので はないと解するのが相当である。 ハ 号スタイラスを装着したロ号検出器は,通電方式の位置検出器と して,接触体が被加工物等に接触していないとき,接触体は電流が流 れない状態にあることが明らかであり,「電気的に絶縁された状態」 にあるといえる。 したがって,上記検出器は,構成要件A1を充足する。 (3)構成要件A3の充足性 次に,構成要件A2の充足性に先立ち,構成要件A3の充足性を検討す る。原告は,「電気的に検出する」の意味につき,接触体と被加工物等と の接触を検出する方法につき,電気あるいは電気のような性質を利用する 場合を広く含むと主張するのに対し,被告は,接触体と被加工物等とを流 れる電流を直接検出する構成に限定されると主張するので,この点の解釈 を示し,充足性を判断する。 ア 特許請求の範囲の記載 構成要件A3は,「当該接触検出回路で接触体(5)と被加工物又は工 具ないし工具取付軸との接触を電気的に検出する位置検出器におい て」というものであるが,「接触検出回路」が「接触体」と「被加工 物又は工具ないし工具取付具」との「接触」を「検出」する方法につ き,「電気」や「電流」によって検出するとはせず,「電気的に」検 出するとしている。 一般に「的に」との用語を名詞の語尾に付けた場合,それそのもの ではないが,それと似た性質を持つものを含めた語感を持つことにな るところ,「電気的に検出する」との表現は,「接触検出回路」が接 触体,被加工物等及び位置検出器本体を流れた電流を直接検出する場 合のみを指すのではなく,電気と似た性質を持つ媒体を介在させて検 出した場合も含んだものと解するのが文言上自然である。 イ 本件明細書の記載及び技術常識 本 件明細書においても,「接触体」と「被加工物又は工具ないし工 具取付具」との「接触」を「検出」する方法につき,接触体,被加工 物等及び位置検出器本体を流れた電流を直接検出するものに限定する 記載はない。 むしろ,本件特許発明は,接触体に通電,非通電を繰り返すことで 接触体が磁化することに伴う誤差発生防止を課題として掲げるもので あることに照らせば,位置検出の過程で接触体への通電を利用する構 成であれば足り,「接触検出回路」がその電流を直接検出しているか 否かで技術的範囲の属否を左右させる合理的理由は見出しがたいとい うべきである。 ウ 被告の主張について 被 告は,「電気的に検出する」の意味につき,接触体と被加工物と の間に流れる電気を直接に検出する構成に限定されると主張するが, あえて「的に」という幅を持たせる文言が使用されていることと整合 しない解釈といわざるを得ず,採用できない。 エ 小括 以 上によると,構成要件A3の「電気的に検出する」とは,「接触 検出回路」が接触体,被加工物等及び位置検出器本体を流れた電流を 直接検出する場合のみを指すのではなく,電気と似た性質を持つ媒体 を介在させて検出した場合も含んでおり,電磁気学の技術常識に照ら し,少なくとも磁気を介在させて検出した場合を含むと解するのが相 当である。 そして,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器の構成ロa3は, 「前記励起コイルをもって励起されている本体及び接触体と被加工物で あるワークとの接触を,前記接触体,前記ワーク,及び機械主軸により 閉ループ回路が形成されることにより,前記検出コイルに誘電電流が流 れ,電気的に検出する位置検出器」であるが,接触体,被加工物等及び 位置検出器本体を流れた電流の電磁誘導によって検出コイルに誘導電 流を流し,接触検出回路がこれを検出するというものである。そうす ると,被加工物等との接触によって接触体などを流れた電流と接触検 出回路が直接検出する電流との間には,磁気が介在することになるが, 上記のとおり解釈したところの「電気的に検出する」構成といえる。 したがって,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は,「接触検出 回路」が,接触体と被加工物等との接触を「電気的に検出する」もの であり,構成要件A3を充足する。 (4)構成要件A2の充足性 原告は,構成要件A2の「接続」につき,物理的に有線で接触している 場合だけでなく,相互に情報を交信できるような状態をも含むと主張する のに対し,被告は,接触検出回路が接触体と直接電気的に接続されている ことが必要とされている旨主張するので,この点を検討し,充足性を判断 する。 ア 特許請求の範囲の記載 構成要件A2は,「当該接触体に接続された接触検出回路(3,4)とを 備え,」というものであるが,「接続」の意味を明示的に表現する記 載はない。しかし,特許請求の範囲の記載全体に照らして考えれば, 「接触体」と「接触検出回路」の「接続」は,「接触検出回路」が 「接触体」と「被加工物又は工具ないし工具取付軸」との「接触」を 「電気的に検出する」ことを可能とするために必要とされる構成であ ることが読み取れる。 そ うすると,「接触体」と「接触検出回路」との「接続」は,上記 「接触」を「電気的に検出する」ことが可能な構成であることを求め ているとはいえるものの,接触検出回路が接触体と直接電気的に接続 されている,つまり,接触体に流れた電流が接触検出回路に直接流れ るような構成であることまでは求めていないと解される。 イ 本件明細書の記載 本 件明細書において,「接続」の意味や射程を説明する記載は特に ない。 し かし,本件特許発明は,接触体に通電,非通電を繰り返すことで 接触体が磁化することに伴う誤差発生防止を課題として掲げるもので あることに照らせば,「位置検出回路」が「接触体」と「被加工物」 等との「接触」という情報を,「接触体」への通電を利用して「検 出」できるものであることが必須であるところ,「接触体」と「接触 検出回路」との「接続」も,かかる情報伝達が可能な構成を求める趣 旨であると解して矛盾はない一方,接触体に流れた電流が接触検出回 路に直接流れるような構成に限定する合理的理由は見出しがたい。 ウ 被告の主張について 被 告は,「接続」につき,接触検出回路が接触体と直接,電気的に 接続されていることが必要とされている旨主張するが,その主な根拠 としては,この「接続」が,構成要件A3の「電気的に検出する」の 前提となる構成であることを挙げる。 こ の点,「接続」が「電気的に検出する」の前提として必要とされ る構成であることは被告の指摘のとおりである。しかし,「電気的に 検出する」の解釈につき,被告の主張が採用できないことは,前記 3 において論じたとおりであり,「電気的に検出する」を前記 3 のとお り解釈する以上,その前提となる「接続」についても,前記ア,イの とおり理解するのが一貫性のある解釈といえる。 したがって,被告の主張は採用できない。 エ 小括 以 上によると,「当該接触体に接続された接触検出回路」の「接 続」は,「接触検出回路」が「接触体」と「被加工物」等との「接 触」という情報を,前記(3)で示した意味で「電気的に検出する」こ とを可能とする情報伝達の構成をとっていることを求めているものの, 接触体に流れた電流が接触検出回路に直接流れるなど,物理的なつな がりは求めていないと解するのが相当である。 ハ号スタイラスを装着したロ号検出器の構成ロa2は,「前記励起コ イル及び前記検出コイルよりなる電磁誘電機能を利用した接触検出回路 が前記コントロールアンプに接続され」ているというもので,「接触検 出回路」と「接触体」とに物理的なつながりがなく,「接触体」に流れ た電流が直接「接触検出回路」に流れるわけではないが,「接触体」と 「被加工物」との「接触」という情報が,接触体,被加工物等及び接触 体本体への電流から電磁誘導を経て,接触検出回路への電流という形で 伝達される構成をとっており,前記のとおり,「接触」を「電気的に検 出」しているといえる。 したがって,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は,「接触検出回 路」と「接触体」が,上記のとおりに解した意味で「接続」されている といえるから,構成要件A2を充足する。 (5)小括 以上のとおり,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は,本件特許発明 の構成要件A1ないしA3を充足し,また,構成要件B及びCの充足性に ついては争いがないところ,すべての構成要件を充足する。 したがって,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は,本件特許発明の 技術的範囲に属する。 2 争点1−2(その他の被告の各製品は本件特許発明の技術的範囲に属する か)について (1)ST28−1P及びST28−2Pのスタイラスを装着した位置検出 器 証拠(甲8,乙3,4)及び弁論の全趣旨によれば,先端球体の球形が 1mm あるいは2mm であるST28−1P及びST28−2Pのスタイラ ス(接触針)は,ニッケルを結合材として混入するものではないことが認 められ,この認定を妨げるに足りる証拠はない。 したがって,ST28−1P及びST28−2Pのスタイラスを装着し た位置検出器は,位置検出器の種類及び構成を問わず,本件特許発明の構 成要件Bを充足せず,その技術的範囲に属しない。 (2)A号検出器 証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,A号検出器は,接触体に 通電することを想定しておらず,通電方式ではなく,内部接点方式の位置 検出器であることが認められる。 このような内部接点方式の位置検出器が本件特許発明の技術的範囲に属 しないことは当事者間で争いがない。 したがって,A号検出器は,装着するスタイラスの構成にかかわらず, 本件特許発明の技術的範囲に属しない。 (3)別紙物件目録1記載C,Dのスタイラスを装着した位置検出器 被告は,別紙物件目録1記載Cのスタイラスの製造,販売を争っている ところ,被告が,同スタイラスの製造,販売をしたと認めるに足りる証拠 はない。 また,同目録記載@ないしC以外に,同構成を有するスタイラス(同目 録記載D)が存在することを認めるに足りる証拠もない。 3 争点2(スタイラスの製造販売による本件特許権間接侵害の要件充足性) について ハ号スタイラスを装着したイ号検出器及びロ号検出器がいずれも本件特許 発明の技術的範囲に属することを前提に,ハ号スタイラスを製造,販売等す ることが,間接侵害の要件を満たしているかを検討する(前記2(1),(3) によると,別紙物件目録1記載のスタイラスのうち,ハ号スタイラス以外の スタイラスについて検討する必要はないといえる。)。 (1)特許法101条1号 証拠(甲2〜4)によれば,ハ号スタイラスは,これを備え付けても 本件特許発明の技術的範囲に属することにはならない内部接点方式の位 置検出器とも適合性を有することが認められるから,本件特許発明の技術 的範囲に属する製品の生産に「のみ」用いる物(特許法101条1号)で あるとはいえない。 この点,原告は,ハ号スタイラスを内部接点方式の位置検出器に用いる ことは,社会通念上経済的,商業的ないしは実用的であると認められる用 途に当たらないため,「その物の生産にのみ用いる」との要件を否定する 理由にはならない旨主張する。確かに,内部接点方式の位置検出器では接 触体は通電されないため,その接触部の磁化による測定誤差発生という課 題はなく,接触部を非磁性体とした接触体を使う必要性に欠ける。しかし, ハ号スタイラスは,超硬合金であることに由来し,被加工物等との接触を 繰り返すことで摩耗や変形による測定誤差が生じることを防止するという 作用効果も有するのであるから,内部接点方式の位置検出器であっても, ハ号スタイラスを装着させる実用性は肯定されるというべきである。 したがって,原告の主張は採用できない。 (2)特許法101条2号 ア ハ号スタイラスは,本件特許発明の技術的範囲に属するハ号スタイ ラスを装着したイ号検出器及びハ号スタイラスを装着したロ号検出器 の生産に用いるものである。 加えて,本件特許発明は,その課題として,通電,非通電を繰り返 すことで接触体が磁性化して誤差が発生することを防止するとともに, 接触体が被加工物等との当接離隔を繰り返すことで摩耗や変形による 測定誤差が発生することを防止することを掲げ,その解決方法として, 「接触体(5)の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材と して混入してなる非磁性材で形成されている」(構成要件B)との構 成を採るものである。そうすると,「接触部がタングステンカーバイト にニッケルを結合材として混入してなる弱磁性として非磁性材であるH AN6で形成されている」(構成イb,ロb)ハ号スタイラスは,まさ に本件特許発明の掲げる課題を解決する構成を成しているといえる。 し たがって,ハ号スタイラスは,「物の発明」である本件特許につ き,「その物の生産に用いる物」であり,かつ「その発明による課題 の解決に不可欠なもの」(特許法101条2号)といえる。 イ そして,原告は,被告に対し,平成22年12月3日付の「催告 書」と題する書面を送付し,被告はこれを遅くとも同月6日には受領 したが,同書面には,本件特許の特許番号,登録日,本件特許発明の 構成要件に加え,イ号検出器が本件特許権を侵害することなどが記載 されていた(乙1,弁論の全趣旨)ところ,被告は同日以降,本件特 許発明が「特許発明であること」及びハ号スタイラスが「その発明の 実施に用いられること」を知っていた(特許法101条2号)といえ る。 ただし,同日より前の時点で,被告がそれら事実関係を知っていた と認めるに足りる証拠はない。 ウ 一方,被告は,ハ号スタイラスにつき,間接侵害(特許法101条 2号)の除外要件である「日本国内において広く一般に流通している もの」に当たる旨主張する。 確かに,ハ号スタイラスの用途は,これを備え付けた場合に本件特 許発明の技術的範囲に属することになるイ号検出器及びロ号検出器 に限定されているわけではなく,本件特許発明の技術的範囲に属さ ない内 部接点方式の位置検 出器とも適合性を有 するものではある (甲2〜4)。しかし,結局のところその用途は,位置検出器にそ の接触体として装着することに限定されており,この点,ねじや釘 などの幅広い用途を持つ製品とは大きく異なる。また,そのような 用途の限定があるため,実際にハ号スタイラスを購入するのは,位 置検出器を使用している者に限られると考えられる。 こ のような事情を踏まえると,ハ号スタイラスは,市場で一般に 入手可能な製品であるという意味では,「一般に流通している」物 とはいえようが,「広く」流通しているとは言い難い。また,そも そもこのような除外要件が設けられている趣旨は,「広く一般に流 通しているもの」の生産,譲渡等を間接侵害に当たるとすることが 一般における取引の安全を害するためと解されるが,上記のように 用途及び需要者が限定されるハ号スタイラスにつき,取引の安全を 理由に間接侵害の対象から除外する必要性にも欠けるといえる。 し たがって,ハ号スタイラスは「日本国内において広く一般に流通 しているもの」に当たらず,この点に関する被告の主張は採用できな い。 (3)小括 以上によると,被告によるハ号スタイラスの製造,販売は,本件特許発 明との関係において,平成22年12月6日以降,特許法101条2号の 規定する間接侵害の要件を満たすものといえる。 4 争点3−1(本件特許は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効 審判により無効とされるべきものか〔乙12文献〕)について (1)乙12発明の内容 ア 本件特許の出願(平成11年4月7日)前の昭和63年1月7日に 頒布されたと認められる特開昭63−2650号公報(乙12文献) には,以下の記載がある。 「1.発明の名称 工作機械 2.特許請求の範囲 (1) ベース上に移動自在に設けられたテーブル上のワークピースを加 工するための加工ヘッドを上記テーブルより上方に配置して設け,上 記ベースあるいはテーブルの少なくとも一方に,テーブルの移動寸法 を測定するための第1の測定装置を設け,ワークピースを検出する検 出子を下端部に備えてなるワーク検出装置を,前記テーブルの上方位 置に上下動自在に配置して設けると共に,ワーク検出装置の上下動寸 法を検出する第2の測定装置を設けてなることを特徴とする工作機械。 (2) ワーク検出装置は加工ヘッドに支承されていることを特徴とする 特許請求の範囲第1項に記載の工作機械。 (3) 検出子はワーク検出装置に対して揺動可能に設けられていること を特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の工作機械。 (4) 検出子は第1の測定装置および第2の測定装置の検出子を兼ねる ことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の工作機械。 3.発明の詳細な説明 [発明の技術分野] 本 発明は,例えば研削盤,フライス盤,マシニングセンタ等のごと き工作機械に係り,さらに詳細には,ワークピースの寸法を測定する 測定装置を備えてなる工作機械に関する。」 「 [発明の実施例] ‥‥上記スピンドル35の下部には,ワークピースWを検出するワー ク検出装置41が装着してある。より詳細には,スピンドル35の下 部には,下部を開口した適宜円筒形状の検出子ハウジング43が取付 けてあり,この検出子ハウジング43内には,リング状の支持ベース 45が内装されている。上記支持ベース45は,検出子ハウジング4 3に下部側から螺入した適宜管状のキャップ部材47によって検出子 ハウジング43内に固定されている。 上 記支持ベース45には,ワ一クピースWの検出を行なうために, 下端部に検出子49を備えたスタイラス51が揺動自在に支承されて いる。より詳細には,検出子49およびスタイラス51は,通電性が 良好で非磁性の部材よりなるものであって,検出子49は,ワーク ピースWに接触自在なものであり,本実施例においては高精度の球状 に形成してある。上記スタイラス51の上部は支持ベース45を貫通 しており,このスタイラス51の上端部に設けたフランジ部53と支 持ベース45との間には,圧縮スプリングのごとき弾機55が弾装し てある。また,上記支持ベース45の下部側において,スタイラス5 1には適宜形状の支点部材57が螺着等により適宜に取付けてある。 この支点部材57の上面の複数箇所には,半柱状あるいは半球状の接 触部59が形成してあり,各接触部59は,前記支持ベース45の下 面に形成された適数のV溝61に係合してある。 上 記スタイラス51は,支点部材57における各接触部59が支持 ベース45のV溝61に係合した状態にあるときには垂直状態に保持 さ れており,水平方向の外力が作動したときには,適宜の接触部を支 点として適宜に揺動し得るものである。 な お,上記構成のごときワーク検出装置41は,前記検出子49が ワークピースWに接触したときに,ワ一クピースWと検出子49との 間に微弱電流が通電することによって,ワークピースWを検出するも のである。換言すれば,ワークピースWと検出子49との間には,接 触時に通電するように電圧が印加してあるものである。 再 び第1図,第2図を参照するに,前記コラム9には,取付具63 を介してカウンター65が取付けてある。このカウンター65は,前 記第1の測定装置27,第2の測定装置29の測定結果等を表示する もので,前記ワーク検出装置41における検出子49がワ一クピース Wに接触したときに,第1の測定装置27,第2の測定装置29の測 定値を読み込むものである。」 イ 上 記アの記載によれば,本件特許出願前に頒布された刊行物(乙1 2文献)に,次の発明(乙12発明)が記載されているものと認めら れる。 A1 電気的に絶縁された状態で所定の垂直状態を保持する揺動可能な スタイラス51と, A2 当該スタイラス51と接続されて接触子49とワークピースWと の通電時の信号を発信する回路とを備え, A3 当該接回路でスタイラス51先端の接触子49とワークピースW との接触時の微弱電流の通電を検知して,検出器33の検出値65に 読み込み,ワークピースWの上面位置を表示させるワーク検出装置4 1において, B’スタイラス51先端の接触子49が,通電性が良好で非磁性の部材 からなることを特徴とする, C ワーク検出装置41。 (2)本件特許発明と乙12発明との対比 本件特許発明と乙12発明とを比較すると,乙12発明における「スタ イラス」及び「接触子」は本件特許発明における「接触体」に,「接触 子」は本件特許発明における「接触体の接触部」に,「微弱電流の通電を 検知する回路」は本件特許発明における「接触検出回路」に,「ワーク ピース」は本件特許発明における「被加工物」にそれぞれ相当する。 したがって,両者は,「電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保 持する微小移動可能な接触体と,当該接触体に接続された接触検出回路と を備え,当該接触検出回路で接触体と被加工物との接触を電気的に検出す る位置検出器」である点で一致する一方,本件特許発明が「接触体の接触 部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁 性材で形成されている」(構成要件B)のに対して,乙12発明は「接触 体の接触部が,通電性が良好な非磁性の部材よりなる」(構成B’)とし ており,接触体の接触部を「非磁性部材」とする点までは一致するものの, 乙12発明ではその具体的材質についての記載がない点で相違する。 (3)相違点に対応する技術的事項を記載した文献など ア 乙14文献 (ア)本件特許の出願(平成11年4月7日)前の平成2年3月31日に 頒布された文献である「改訂5版金属便覧」(乙14文献)には, 以下の記載がある。 「 ・ ・ 硬質材料 硬 質材料または超硬質材料と呼ばれるものとしては,超硬合金, サーメット,セラミックス,ダイヤモンド,c 焼結体などがある。 いずれも,粉末冶金または焼結法によって製造され,組織は一般に 1〜5μm程度の大きさの硬質相粒子が少量の金属またはセラミック スで結合された形となっている。各材料とも低温から高温において高 い硬さを示し,耐摩耗性に優れるとともに,一般にかなり高い靭性を 兼備し,あわせて耐熱性,耐食性,耐酸化性などにも優れる。そこで, これらは切削,耐摩耗,耐衝撃あるいは耐食用の工具・部品用材料な どとして広く用いられる。」 「a.超硬合金 本合金( または !)は,元素周期表W , X ,Y 族の金属の炭化物粉末を, , , の鉄属金属で焼結 結合した合金を総称していう。実用合金としては,1923年の 特 許に基づいて1926年から市販された # 合金 " (# )が最初のものである。現用合金は大別すると,# 系 と# 系の2種であり, 量,$ 量, $ $ $ 量,炭化物粒度などを調整することによって特性を大幅に変化させる ことが可能となり,各種用途に応じている。」 「‥‥ ? ?, の添加は耐食性を向上する。 を に置き代え ると非磁性としうる。」 (イ)前記 ア の記載によると,超硬合金とは,元素周期表W ,X ,Y 族の金属の炭化物粉末を,鉄,コバルト,ニッケルの鉄属金属で 焼結結合した合金の総称であり,高い硬度を持ち,耐摩耗性,耐熱 性,耐食性,耐酸化性などに優れていること,現用の超硬合金は, タングステンカーバイト(# )のタングステン単独の炭化物粉末を, コバルトを結合材とし焼結体としたものと,タングステンカーバイ トと共にチタンカーバイト等の金属の炭化物粉末を,コバルトを結 合材とし焼結体としたものとの二種に大別されること,ニッケルを 結合材とした場合には,耐食性が向上し,非磁性としうることと いった技術的事項が認められる。 イ 乙24文献 (ア)本件特許の出願(平成11年4月7日)前の昭和45年5月13日 に頒布された文献である特公昭和45−13212号公報(乙24 文献)には,以下の記載がある。 「発明の詳細な説明 本発明は,非磁性の超硬合金に関するものである。 超 硬合金は現在,硬く又強靭な材料として種々な用途に使われ, 一般には # を主成分とし,これを で焼結結合したものが広く 用いられている。そして # の結合材には他に , 等の鉄族金 属があり,これらによって を用いたときとほぼ同等の性質を与え る。」 「 従って合金炭素量の範囲を選定すれば,# 及び から強靱にし て非強磁性の合金を得ることができるものである。 なお,# − 合金において 含量が約1%以下では焼結性が著 しく悪く高密度の焼結体が得られない。又,30%以上では硬度が 高速度鋼のそれと殆ど差がなくなり,超硬合金としての意味を失っ てしまう。 従って,本発明においては 含量は1%〜30%とするものであ る。」 「特許請求の範囲 1 を を結合材として焼結した超硬合金において,合金中の # 炭素含有量を遊離炭素を現出する臨界炭素量よりも小ならしめ,常 温にて非強磁性とした非強磁性にして強靱なる超硬合金。」 (イ)前記 ア の記載によると,本件特許出願前,既に,超硬合金が,硬 く,強靭な材料として種々の用途に使われ,タングステンカーバイ ト(# )を主成分に主原料とし, を結合材としたものが広く用 いられていたこと,タングステンカーバイトを,ニッケルを結合材 として焼結した超硬合金は,合金中の炭素含有量を調整すると常温 で非磁性になることといった技術的事項が認められる。 ウ 前記(2)のとおり,本件特許発明と乙12発明とを対比すると,接 触体の接触部を非磁性部材とする点までは一致するものの,乙12発 明ではその具体的材質が「タングステンカーバイトにニッケルを結合 材として混入してなる非磁性材」であることまでの記載がない点で相 違しているが,この相違点にかかる物質は,上記ア及びイのとおり, 乙14文献及び乙24文献の開示する技術的事項に含まれている。 し たがって,乙12発明に,乙14文献及び乙24文献に記載の技 術的事項を組み合わせる,つまり,乙12発明における「非磁性部 材」の具体的材質の選択に当たり,乙14文献及び乙24文献の開示 する技術的事項を適用すれば,本件特許発明の構成を得ることができ る。 (4)容易想到性 そこで次に,乙12発明の接触体の接触部について,「非磁性部材」の 具体的材質の選択に当たり,乙14文献及び乙24文献の開示する技術的 事項を適用して本件特許発明を想到することが容易であったかを検討する。 まず本件特許発明の掲げる課題は,通電,非通電を繰り返すことで接触 体が磁化することに伴う測定誤差発生の防止と,接触体と被加工物等との 繰り返しの接触による接触体の摩耗や変形に伴う測定誤差発生の防止とで あるが,前者は接触体の接触部を非磁性部材とすることで解決される課題 であるから,乙12発明で未解決なのは後者の課題のみである。そして, 乙12文献内に明示こそされていないものの,通電方式の位置検出器の接 触体の接触部は,金属製の被加工物等と繰り返し接触することが当然に想 定されていること,被告において,平成元年の時点で既に接触部を超硬合 金とする接触体を製造,販売し,現在まで継続していること(甲2〜4, 乙19〜23)からすると,接触体の摩耗や変形に伴う測定誤差という課 題は,本件特許出願(平成11年4月7日)の時点で,当業者にとって周 知の課題であったといえるし,また,その解決手法として,接触体の接触 部を超硬合金とすることも周知技術であったといえる。 一方,タングステンカーバイトにニッケルを結合材として焼結すること で非磁性体の超硬合金が得られるとの技術的事項は,昭和45年には既に 文献公知となり(乙24),平成2年頒布の「改訂5版金属便覧」と題す る文献にも記載され(乙14),本件特許出願(平成11年4月7日)前 に技術常識であったと認められることに加え,本件特許発明と用途や課題 が異なるとはいえ,同一の技術分野において本件特許出願前に頒布された 文献(乙17,18)中でも,同部材が利用されていた。 そうすると,乙12発明の開示する「非磁性部材」の具体的材質を選択 するに際し,上記周知課題及び周知技術の下で,「タングステンカーバイ トにニッケルを結合材として焼結した非磁性の超硬合金」を選択すること は,単に公知材料からの最適材料の選択に過ぎず,当業者の通常の創作能 力の発揮であり,当業者が容易に想到することができたものといえる。 したがって,乙12発明に,乙14文献及び乙24文献の開示する技術 的事項を組み合わせて本件特許発明に想到することは容易であったといえ る。 (5)原告の主張について この点,原告は,通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁化すること に伴う測定誤差発生の防止という本件特許発明の掲げる課題が,乙12文献 ほか,本件特許出願前のどの文献にも開示されておらず,本件特許発明に至 る動機付けに欠ける旨主張する。 しかし,この課題は,乙12文献の開示する乙12発明の構成,つまり, 「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことで既に解決されているのであ るから,当該課題にかかる動機付けがなければ本件特許発明の構成に至る ことができないなどというものではない。言い換えれば,通電方式の位置 検出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成は,主引例 である乙12文献に開示されているのであるから,かかる構成へ至るため の課題の開示,動機付けの有無を問題とする必要はないといえる。 また,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成の具体的な材料選択 をする前提として,そのような上位概念で表現された構成を維持すること への動機付けが求められると解したとしても,あくまで既に公知となって いる構成を維持するだけの動機付けがあるか否かの問題であり,新規の構 成へ至る動機付けがあったかが問われるわけではない。通電方式の位置検 出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことでその磁性化 を防止できることは,乙12文献でその構成に触れた当業者にとって明ら かであるが,通電方式の位置検出器における測定対象は通電性のある物質 であること,乙12文献中の上記構成は強磁性の環境下における位置検出 器で採用されたものであることからして,接触体の接触部の磁性化を避け ることができれば,切削加工等で生じた切粉の付着など磁性化に伴う不都 合を回避する効果が得られることも,乙12文献に触れた当業者が予測し 得る範囲内にある。そのため,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構 成を採る技術的意義は,その構成自体が示唆するものといえ,これを維持 するだけの動機付けがあるといえる。 なお,同様の理由により,当業者の予測し得ない顕著な作用効果や用途 を見出したともいえず,かかる観点から本件特許発明の進歩性を肯定する ことも困難である。 したがって,課題の示唆がないことを理由として本件特許発明の容易想 到性を否定する原告の主張は採用できない。 (6)小括 以上によると,本件特許は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許 無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に 対し,本件特許権に基づく権利を行使することはできない(特許法104 条の3)。 第5 結論 以上の次第で,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく 理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山 田 陽 三 裁判官 松 川 充 康 裁判官 西 田 昌 吾 物件目録1 位置検出器の交換用スタイラスで,次の@ないしCの型式のもの及びDの特 徴を有するもの(下線付きのもの:ハ号スタイラス) @ ST28−1P ST28−2P ST28−3P ST28−4P A ST28C−4N ST38C−4N ST48C−4N ST68C−4N ST98C−4N ST98C−5N B ST40 ST50 ST70 ST100 C ST80−3P D 接触体の接触部の材質が,@ないしCと同じもの 物件目録2 1 イ号検出器(構成;イ号図面記載のとおり) シリーズ名: ポイントマスター/%&' $ ()"$*+ 商品名: ポイントマスター PMC 型 式: PMC−20 PMC−32 PMC−20S PMC−32S BBT40−PMC−130 BBT50−PMC−160 BBT40−PMC−130S BBT50−PMC−160S BT40−PMC−130 BT50−PMC−160 BT40−PMC−130S BT50−PMC−160S 商品名: ポイントマスター PMG 型 式: PMG−10 PMG−20 PMG−32 PMG−10S PMG−20S PMG−32S 2 ロ号検出器(構成:ロ号図面記載のとおり) シリーズ名: LCタッチセンサ 商品名: タッチプローブ(芯出し、計測用) 型式: BT40−LCP56 BT50−LCP56 3 A号検出器 商品名,型式: ニューゼロセンサ ニューゼロセンサOPT3000 ニューゼロセンサ5000 OPT2000 |