関連審決 |
無効2002-35484 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成14行ケ258審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10116審決取消(特許)請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12行ケ238審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ133審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10069審決取消請求事件 平成17行ケ10087共同訴訟参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 製造方法 / 新規性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 公知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / クレーム / 特許出願日 / 参酌 / 均等 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 構成要件 / 同意 / 設定登録 / 請求の範囲 / 同一事実(同一の事実) / 国際出願 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
16年
(行ケ)
112号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告X 訴訟代理人弁護士 滝井朋子,弁理士 青山葆,河宮治,伊藤晃 被告 越後製菓株式会社 訴訟代理人弁護士 赤尾直人 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/09/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-35484号事件について平成16年2月12日にした審決を取り消す。」との判決。 |
|
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件発明についての特許を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許 特許権者:X(原告) 発明の名称:「高圧処理穀類及びその製造方法」 特許出願日:平成3年12月27日国際出願(優先権主張平成2年12月28日,日本) 設定登録日:平成6年11月22日 特許番号:第1885894号 (2) 本件手続 審判請求日:平成14年11月8日(無効2002-35484号) 審決日:平成16年2月12日 審決の結論:「特許第1885894号の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年2月24日(原告に対し) 2 本件発明の要旨(以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。)【請求項1】穀類を加圧室内の液中に入れ,該加圧室に1000気圧以上,9000気圧以下の圧力を内部変質に要する時間加え,該加圧後の穀類を乾燥させることを特徴とする高圧処理穀類の製造方法。 【請求項2】前記加圧後の乾燥により,穀類の含水率が10%以上30%以下とされることを特徴とする請求項1に記載の高圧処理穀類の製造方法。 【請求項3】前記加圧が,10分以上30分以下の間行われることを特徴とする請求項1に記載の高圧処理穀類の製造方法。 【請求項4】加圧の際の前記加圧室内の液温が0℃以上50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の高圧処理穀類の製造方法。 【請求項5】加圧の際の前記加圧室内の液温が50℃以上90℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の高圧処理穀類の製造方法。 【請求項6】前記加圧に先立ち,洗浄した穀類をショ糖脂肪酸エステル,次亜塩素酸ソーダ及び炭酸水素ナトリウムの少なくとも1つを含有する水溶液に浸漬してこれを浸透させることを特徴とする請求項1に記載の高圧処理穀類の製造方法。 【請求項7】前記水溶液の温度が,0℃以上5℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の高圧処理穀類の製造方法。 【請求項8】加圧の際の前記加圧室内の液温が0℃以上5℃以下であることを特徴とする請求項7に記載の高圧処理穀類の製造方法。 【請求項9】加圧室内の液中において1000気圧以上,9000気圧以下の圧力を内部変質に要する時間加えられ,該加圧後に乾燥させられたことを特徴とする高圧処理穀類。 【請求項10】含水率が10%以上30%以下とされていることを特徴とする請求項9に記載の高圧処理穀類。 3 審決の理由の要点 (1) 審決は,「林力丸編『食品への高圧利用』(さんえい出版第1版第1刷平成元年7月15日発行)口絵15,4頁〜23頁」(以下「引用例」という。)に記載の発明(以下「引用発明」という。)について,次のとおり認定した。なお,審決のいう(ア)とは,引用例18頁〜19頁,(イ)とは同23頁に記載された箇所を指している。 「(ア)の箇所には,袋内に水切りした精米のみを封入するのか,あるいは精米と共に水を封入するのか直接的に明示されていないが,『ごはんを炊くように精米に水を加えて浸漬した後,これをプラスチックの袋に入れて真空パックし』という文言は,精米を水と共にプラスチックの袋に入れると解するのが自然であるし,静水圧を付加した後の状態について『その後取り出してみると,水はほとんど全部米に吸われており』との記載からも,精米がプラスチック袋に挿入された時点では,袋内には,ある程度の量の水が存在していたものと推認できる。また,『粒子は膨潤している。これを食べると芯があり,麹のような感じである。…,これを沸騰水に5分浸すと炊きあがったごはんになり,ふかふかして美味しい。』と記載されていることからすると,加圧後の精米は,圧力によって破砕されておらず,米粒の形をとどめているものと認められる(このことは,引用例の口絵15の写真Bによっても確認できる。)から,精米にパスカルの原理に基づく均等の圧力が加わる程度の水が袋内に入っていたものと推認できる。 この点について,被請求人(判決注:原告。以下同じ。)は,平成15年12月15日付け意見書において,『無効理由通知書は,…袋内への注水があったものと認定している。しかし,これは明らかに誤りである。何となれば,1時間の浸漬で膨潤している水濡れ状態の浸漬米の表面に付着した水が,米粒内に吸収されて米粒表面がカサカサした『麹のような感じ』になるのは,正に『水はほとんど全部米に吸われ』たことに外ならず,また,浸漬米の袋中に注水せずに45℃,5000気圧,30分の加圧をしても,乙第23号証に示すとおり,米粒は引用例の口絵と同様な状態となるのであって破砕されることはない。すなわち,無効理由通知書が,注水の根拠として挙示する事実は,注水なしで生ずるのであって,注水の根拠とは全くなり得ない事柄である。』と主張する。 上記主張について検討すると,引用例の上記(ア)に記載の方法に従って高圧処理した処理米の状態が引用例の口絵15の写真Bとして示されているが,口絵15の写真A(浸漬米)の状態から写真B(高圧処理米)の状態にまで膨潤するには,相当量の水の吸収が不可欠であり,米粒表面に付着した水(せいぜい2%程度である)だけでは,写真Bに図示するような膨潤状態を実現できないことは明らかである。 また,パスカルの原理の観点からみても,引用例においては,精米に5000気圧の高圧を加えるとき,精米の周囲に均一に圧力を加えること,すなわち,パスカルの原理が作用するように意図していることは,その目的(澱粉の立体構造の崩壊)からみて当然のことと考えられるから,引用例における精米に対する5000気圧,45℃,半時間の加圧においては,パスカルの原理に基づいて,精米の周囲に均一に圧力を加えるのに必要な量の水(米粒表面に付着できない余剰水)が存在していたと解すべきであり,上記乙第23号証を参酌するも,被請求人の上記主張は採用しない。 してみると,引用例の上記(ア)の箇所には,精米と水とをプラスチックの袋に入れて真空パックし,これを加圧温度45℃で5000気圧の静水圧を半時間かけて加圧処理米を調製すること,及び該加圧処理米を沸騰水に5分浸すことにより美味しいご飯に炊きあがることが記載されていると認めるのが相当である。」 (2) 審決は,本件発明1と引用発明との一致点として,次のとおり認定した。 「両者は,穀類を加圧室内の液中に入れ,該加圧室に5000気圧の圧力を加えることを特徴とする高圧処理穀類の製造方法の点で一致」 (3) 審決は,本件発明1と引用発明との相違点として,次のとおり認定した。 「(a)前者は,高圧を加える時間を『精米の内部変質に要する時間』と規定しているのに対して,後者には,『内部変質』という用語を用いた記載はなく,ただ5000気圧の高圧を精米に半時間加えるとしている点,(b)前者は,精米を加圧室内の液中に直接接触するように入れるのに対して,後者では,精米と水とをプラスチックの袋に入れて真空パックし,これを加圧室内の液中に入れる点,及び(c)前者は,加圧後の穀類を乾燥させるのに対して,後者には,この点について記載されていない点,で両者は相違する。」 (4) 審決は,上記相違点(a)ないし(c)について,次のとおり判断した。 (a)「相違点(a)について まず,本件発明1において特定する『精米の内部変質』の意味するところについて検討する。 本件特許明細書には,上記『精米の内部変質』を直接的に定義する記載はない。 一般に,『変質』とは『性質又は物質が変化すること』(「広辞苑」第5版2416頁)をいうから,『精米の内部変質』とは,一般的には,精米の内部的な性質が変化することを意味するものと認められる。 『精米の内部変質』に関連する事項として,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,『本発明の目的の1つは,穀類を食するまでの手間と時間とを軽減することができ,しかも味と栄養素の面で優れた穀類及びその製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は,アレルギーを低減し得る穀類及びその製造方法を提供することにある。』(公報第4欄11ないし15行),『本発明においては,1000気圧以上,9000気圧以下という高圧を所定時間作用させるので,穀類は,高圧作用特有の変質を受ける(高圧下の変質については,1989年7月15日さんえい出版発行の『食品への高圧利用』に詳述されている)。』(公報第4欄27ないし31行),『調理の面に関しては,この変質により,生の澱粉の立体的な分子構造が壊れ,分解し易い状態となる。高圧処理の作用は,穀類の内部まで瞬時に到達するので,内部までほぼ均一な前記変質が得られる。その結果短時間の加熱で,食することができる状態となる。』(公報第4欄33ないし37行),『前記加圧は,1000気圧以上,9000気圧以下とされる。1000気圧未満では前記変質が十分ではなく,短時間の加熱によっては食するに適した状態が得られない。』(公報第4欄46行〜49行),及び『例えば,家庭用の電子レンジを用いて140gの高圧処理米を炊飯する場合は,炊飯時間5〜7分程度,蒸らし時間5〜10分程度とするのが適当である。』(公報第8欄26〜29行)」と記載されている。 これらの記載からみて,本件発明1において,『精米の内部変質』とは,精米の生の澱粉の立体的な分子構造が壊れ,分解し易い状態になることを意味するということができる。 そして,このような内部変質は,精米を加圧室内の液中へ浸漬し,この液体に1000気圧以上,9000気圧以下の高圧を所定時間加えることにより生ずるものと認められる。 この点について,被請求人は,『精米の内部変質』の意味するところについて,平成15年6月30日付け上申書において,『『内部変質』を『澱粉の立体的な構造が崩壊し分解し易くなることや糊化することである。』と限定的に定義するのは失当である。本件発明を規定する請求項中の文言である『内部変質』の技術的意味は,発明の目的又は課題から理解しなければならない。本件発明は,『穀類を食するまでの手間と時間とを軽減することができ,しかもうま味と栄養素とを損なわないように処理された穀類及びその製造方法を提供する。』という第1の目的,並びに,『アレルギーを低減し得る穀類及びその製造方法を提供する。』という第2の目的を有しているが,『内部変質』の技術的意味は,これらの目的を達成できるようなあらゆる穀類の内部変化を意味していることになる。…本件被請求人は,澱粉の立体的構造の崩壊や糊化が,ある程度以上の高圧下でこれらの目的効果を達成する一つの要因になる場合があることを否定するものではないが,1000気圧以上の高圧処理下で,上記目的を実現又は保証するために穀類の内部に生じる最低限の『内部変質』は,『水が穀類内部にその芯に略達するまで浸透している状態』,換言すれば,『水が穀類内部にその芯に略達するまで通水路が形成されている状態』であるということができる。』(4頁9行〜5頁2行)と主張し,また,『内部変質』とは,水が精米の内部に芯に達するまで浸透していることにあることは,乙第17号証の1及び2の試験報告書によって裏付けられる旨主張する。 しかしながら,本件特許明細書に『本発明においては,1000気圧以上,9000気圧以下という高圧を所定時間作用させるので,穀類は,高圧作用特有の変質を受ける』(公報4欄27行〜29行)と記載して,高圧を加えることと,内部における変質,すなわち『内部変質』の因果関係を明らかにした上で,『この変質により,生の澱粉の立体的な分子構造が壊れ,分解し易い状態となる』(公報4欄33行〜35行)と記載し,『内部変質』に伴って澱粉の立体構造が崩壊し,分解し易い状態となることを客観的に説明していること,及び『精米の内部変質』とは,水が穀類内部にその芯に略達するまで浸透している状態をいうとの記載は本件特許明細書の何処にもないことを併せ考えると,本件発明1における『精米の内部変質』が,少なくとも精米の生の澱粉の立体的な分子構造が崩壊し,分解しやすい状態になることを意味していることは明らかである。 被請求人が提出した乙第17号証の1及び2の試験報告書は,精米を1000気圧以上の高圧で処理すれば,米粒内部の芯にまで水が浸透することを裏付けるものであるが,高圧処理した試料精米C1ないしC5の内部の澱粉の立体構造がどの程度壊れているのかについて全く分析していない。 してみると,乙第17号証の1及び2の試験報告書を根拠にして,炊飯時間の短縮化の原因が精米の澱粉構造の崩壊にあるのではなく,水が米粒内部の芯にまで浸透したことにあるという事実を導き出すことはできず,被請求人の上記主張は採用しない。 また,平成15年12月15日付けで提出された乙第24号証の1及び2の試験報告書を検討したが,該報告書においても試料精米の内部の澱粉の立体構造がどの程度壊れているのかについて全く分析しておらず,該報告書に基づく被請求人の主張は採用しない。 上記認定を前提にして,精米と水とをプラスチックの袋に入れて真空パックし,これを加圧温度45℃で5000気圧の静水圧を半時間かけることにより調製された引用例に記載の加圧処理米が,本件発明1でいう『内部変質』を受けているものであるか否について検討する。 先に記載したとおり,本件特許明細書の記載からみて,本件発明1でいう『内部変質』は,精米を加圧室内の液中へ浸漬し,この液体に1000気圧以上,9000気圧以下の高圧を所定時間加えることにより生ずるものと認められるが,引用例においても,精米に5000気圧の高圧を半時間かけており,しかも,得られた加圧処理米について,引用例に『水はほとんど全部米に吸われており,粒子は膨潤している。これを食べると芯があり,麹のような感じである。このままでは,ごはんとはいえない。ところが,これを沸騰水に5分浸すと炊きあがったごはんになり,ふかふかして美味しい。家庭にこのような圧力処理したお米が配達されれば,通常は20分かかるところが非常に短時間でごはんが炊けることになる(口絵15参照)。電子レンジも上手に使うことができよう。』と記載されていることからみて,引用例の加圧処理米も本件発明1でいう『内部変質』を受けている,すなわち,生の澱粉の立体的な分子構造が崩壊し,分解しやすい状態になっていると認めるのが相当である。 そうすると,引用例に記載の『静水圧を…半時間かける』は,本件発明1にいう『圧力を内部変質に要する時間加える』という要件を満たすものと認められ,上記相違点(a)は両者の実質的な相違点とはいえない。」 (b)「相違点(b)について 食品を圧力容器内の液中に入れて高圧処理するとき,予め食品を袋に封じることなく圧力容器内の液中に直接食品を入れてもよいことが引用例に記載されていることから,精米を加圧室内の液中で高圧処理する際に,引用例において精米の高圧処理の具体的手段として記載されている『精米と水とをプラスチックの袋に入れて真空パックし,これを加圧室内の液中に浸漬する』手段に代えて,精米を加圧室内の液中に直接接触するように入れる手段を採用することは,当業者ならば容易に想到し得ることである。」 (c)「相違点(c)について 本件明細書に『高圧処理後,穀類は乾燥される。長期保存のためには,乾燥状態を維持することが重要である。…乾燥により,穀類の含水率は10%以上30%以下とされるのが望ましい。含水率が30%を越えると,菌の繁殖が増加し,長期保存に不適となる。』(公報3頁5欄49ないし6欄4行)と記載されていることからみて,本件発明1は,菌の増殖による変質,腐敗を防止して,長期保存が可能な高圧処理穀類を得る目的で,水分を大量に含む高圧処理穀類に対して乾燥を行うものである。 しかしながら,一般に,細菌,酵母,カビなどの生育,繁殖を防止して長期保存を可能とするために水分を大量に含む食品を乾燥することは,本件特許の出願時当業者の慣用手段であり,しかも,食品を調理するプロセスの途中の段階の食品(半調理食品)の本来の特性を損なわないで単に水分だけを除去し,長期の保存,貯蔵に耐え得るものとし,食用に際して簡易に迅速に復元できるようにするという技術思想は,本件特許の出願時当業者において周知であった(必要なら,例えば藤巻正生 他4名編「食料工業」 恒星社厚生閣 1985年9月25日初版第1刷発行 961頁の『§1.食品の乾燥の目的』の項参照。)ことからすれば,引用例に記載の高圧処理後の水を吸収している処理米を乾燥して,長期の保存,貯蔵に耐え得るようにすることは,当業者ならば容易に想到し得ることである。 この点について,被請求人は,平成15年12月15日付け意見書において,『引用例の浸漬工程の大きな目的が水の吸収にあるのであるから,この目的に逆行する乾燥工程を引用例の高圧処理後の精米に適用することには,適用阻害要因があることは明白である。したがって,引用例において,このような一般的な乾燥技術を,<浸漬+加圧>で炊飯するに十分な水を吸収させた精米に適用するための動機づけは存在しないということができる。』(意見書4頁)と主張する。 しかし,引用例に記載の精米に対する高圧処理は,調理における加熱処理と置換し得る工程として位置付けられるものであって,その目的とするところは精米に対する加熱糊化と同様に澱粉の立体構造の崩壊にあること,及び得られた高圧処理米は半調理品というべきものであることは,引用例の上記(ア)の…及び上記(イ)の記載に接した当業者なら容易に理解できることである。 そして,食品を調理するプロセスの途中の段階の食品(半調理食品)の本来の特性を損なわないで単に水分だけを除去し,長期の保存,貯蔵に耐え得るものとし,食用に際して簡易に迅速に復元できるようにするという技術思想が,本件特許の出願時当業者において周知であったことは,先に記載したとおりである。 そうすると,引用例に記載の半調理品ともいうべき高圧処理米を乾燥して,即席食品として製品化を試みることは,当業者において容易に想到し得ることである。 したがって,被請求人の上記主張は採用しない。」 (d)「そして,本件発明1の効果について検討しても,引用例の加圧処理米を用いることにより炊飯時間の短縮化を実現できることが引用例に記載されていることから,本件発明1の『炊飯時間の短縮化』という効果は,格別なものとはいえないし,また,本件発明1の『穀類中のグロブリン含有量が顕著に減少する』という効果についても,両者の加圧条件が同一である以上,高圧処理の前後におけるグロブリン含有量の挙動について両者間に格別の差異はないというべきであり,かかる効果は格別のものとはいえない。 また,本件発明1の『長期保存が可能である』という効果についても,乾燥処理に基づく自明の効果であり,格別なものとはいえない。 さらに,被請求人は,平成15年12月15日付け意見書において,本件発明1における高圧処理後の乾燥米は,浸漬時に驚くべき量の水を急速に吸収するが,かかる効果は出願時の技術水準からは全く予測し得ないものである旨(同意見書5頁)主張するが,澱粉の立体構造が崩壊している高圧処理後の乾燥米が,浸漬時に大量の水を急速に吸収することは,当業者なら当然に予想できることであり,上記効果は格別なものとはいえない。 してみると,本件発明1は,引用発明に比較して格別の効果を奏するものとはいえない。」 (e)「以上のとおりであるから,本件発明1は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (5) 審決は,本件発明2について,次のとおり認定判断した。 「水でもって洗浄し,水分を吸収した精白米を,乾燥(除水)して水分含量を14%ないし16%程度に調整したものを,洗い米として流通させるようにすることは,本件特許の出願時当業者において周知であった(必要なら,例えば,特開平2-242647号公報,特開昭57-141257号公報,実開昭61-121946号のマイクロフイルム等参照。)こと,及び精白米の含水率を高くすればするほど菌の繁殖が増加して,長期保存に適さなくなり,逆に含水率を低くすればするほど精白米にひび割れが生ずる危険性が増すことは当業者なら容易に予測できることを併せ考えると,引用例に記載の高圧処理米を乾燥する際に,その含水率を本件発明2で特定する『10%以上30%以下』の範囲に調整することは,当業者が容易に想到し得ることである。したがって,本件発明2は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (6) 審決は,本件発明3について,次のとおり認定判断した。 「引用例には,5000気圧の静水圧をかける時間を半時間(30分間)にすることが記載されていることから,本件発明3において,加圧を30分行う場合には,この点は両者間の相違点とはなり得ない。また,本件発明3において,加圧時間を『10分以上30分未満』にすることも,半時間(30分間)高圧処理することが引用例に記載されている以上,かかる記載に基づいて当業者が適宜なし得ることである。したがって,本件発明3は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (7) 審決は,本件発明4について,次のとおり認定判断した。 「加圧温度45℃で5000気圧の静水圧を加えることが引用例に記載されていることから,加圧の際の液温を45℃にするときには,この点は両者間の相違点とはなり得ない。また,加圧の際の液温を『0℃以上50℃以下』(ただし,45℃を除く。)にすることも,引用例の『加圧温度45℃』との記載に基づいて当業者が適宜なし得ることである。したがって,本件発明4は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (8) 審決は,本件発明5について,次のとおり認定判断した。 「引用例には,『いずれのデンプンも温度を25℃から60℃まで変化させて加圧すると,温度が高いときほど低い圧力処理でアミラーゼ消化性が向上した。…〔中略〕…このような結果は,高い静水圧により,デンプンのなまの立体構造が壊れ,デンプンに種々の変化が起こり,アミラーゼ消化性が高まることを示している。』と記載され,かかる記載は,穀類を液中で高圧処理する際に,液温を高く設定するほど精米のデンプンの立体的な分子構造の崩壊が促進されることを教示するものであるから,穀類を液中で高圧処理する際に,引用例に記載の『45℃』よりも高い『50℃以上90℃以下』の範囲の温度を選択することは,当業者が容易に想到し得ることである。したがって,本件発明5は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (9) 審決は,本件発明6について,次のとおり認定判断した。 「ショ糖脂肪酸エステル及び次亜塩素酸ソーダには抗菌作用,防腐作用があり,これらを食品に対する殺菌剤あるいは防腐・防ばい剤として使用することは,本件特許の出願時当業者において周知であった(必要なら,例えば藤巻正生他4名編「食料工業」恒星社厚生閣1985年9月25日初版第1刷発行,1108頁の‘次亜塩素酸ナトリウム’の欄,1117〜1118頁の‘塩素系殺菌剤’の項,1121頁の‘脂肪酸エステル’の項参照。)ことから,穀類を高圧処理するに先立ち,穀類をショ糖脂肪酸エステルあるいは次亜塩素酸ソーダを含有する水溶液に浸漬して,その水溶液による殺菌作用により高圧処理穀類の長期保存を可能とすることは,当業者において容易に想到し得ることである。したがって,本件発明6は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (10) 審決は,本件発明7について,次のとおり認定判断した。 「本件発明7において,水溶液の温度を0℃以上5℃以下にする目的は,水溶液中のショ糖脂肪酸エステルあるいは次亜塩素酸ソーダによる殺菌作用に加えて,水溶液の温度を上記のとおり限定することで菌の繁殖を抑制することにあるところ,水溶液の温度を菌の生育に適した温度よりもより低く設定することで,菌の繁殖がより抑制されることは当業者の技術常識であるから,水溶液の温度を0℃以上5℃以下にすることは当業者が容易になし得ることである。したがって,本件発明7は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (11) 審決は,本件発明8について,次のとおり認定判断した。 「本件発明8において,加圧の際の加圧室内の液温を0℃以上5℃以下にすることは,本件発明7と同様の理由により,当業者が容易になし得ることである。したがって,本件発明8は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (12) 審決は,本件発明9について,次のとおり認定判断した。 「本件発明9は,本件発明1に係る製造方法により製造された高圧処理穀類の発明であるから,本件発明9は,本件発明1と同様の理由により,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (13) 審決は,本件発明10について,次のとおり認定判断した。 「本件発明10において,含水率を『10%以上30%以下』の範囲に調整することは,本件発明2と同様の理由により,当業者において容易に想到し得ることである。したがって,本件発明10は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (14) 審決は,次のとおり結論付けた。 「以上のとおりであるから,本件の請求項1ないし10に係る発明は,本件特許の出願前に頒布された引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,当該発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条12号に該当し,無効とすべきものである。」 |
|
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) 引用発明に関する前記第2,3(1)の審決の認定は,誤りである。 (1) 引用発明においては,袋中への注水は行われない。 (a) 引用例には,「ごはんを炊くように精米に水を加えて浸漬した後,これをプラスチックの袋に入れて真空パックし」との記載があるが,この記載中の「これ」とは,「浸漬後の精米」を指す。すなわち,上記記載は,「(浸漬後の)精米をプラスチック袋に入れる」と読むべきである。審決のように「精米と浸漬用の水の双方」を指すと解し,上記記載を「精米を水と共にプラスチック袋に入れる」と解するのは誤りである。 (b) 審決は,上記認定に関する説示において,引用例の記載からはプラスチック袋中への注水の有無は明らかではないが,引用例の記載中に,加圧後の精米につき,@水が米に吸収されていた,A粒子が膨潤していた,B精米は破砕されていなかったことが示されている点から,袋内への注水があったものと推認している。 しかし,@は,理由にならない。なぜなら,水濡れ状態の浸漬米が加圧後にカサカサした麹のような感じになることは,正に浸漬米表面の水が米に吸収されたことを示しているのであって,水濡浸漬米とは別に袋中に注水がなされたという事実を示す根拠とはなり得ない。 Aの精米粒子が膨潤した事実は,引用例記載の技術の加圧が5000気圧と高圧であったことに起因しているのであって(十分に浸漬して含水物となった精米は,超高圧である5000気圧を45℃30分間加えられることによって,精米内部に浸漬された水と共に作用し,精米内デンプンの立体構造の十分な崩壊をはじめとする諸々の変化が生じ,膨潤したものと考えられる。),袋内への注水の有無に関する根拠とはなり得ない。 Bの加圧米が破砕していなかった事実も,根拠とはなり得ない。浸漬を経て吸水した精米は,これのみを袋に真空包装して5000気圧で加圧する場合には,殊更に袋中への注水がなくても精米の破砕は生じないからである(甲8)。 (c) 引用例の5頁には,「圧力を加える対象」の項で,「水を含んだ食品をプラスチック製の袋に真空包装し,これを水に入れて全体を加圧する」との記載がある。この「水を含んだ食品を袋に真空包装する」とは,食品には水が含まれているが,これを包装した袋は直ちに抜気封止されることを意味し,袋中へは水その他の物の添加は全く行われていないことを表現していることは明らかである。したがって,これに続く引用例の記載は,精米を「水を含んだ食品」とするために,乾燥粒状食品である精米を「ごはんを炊くよう」な水量と時間とをもってあらかじめ浸漬すべきことを示している。 (d) 引用例の上記記載の筆者が用いていた加圧用の機械は,実験室用の高圧ポンプであって(甲10-1・2),高圧室使用許容容量は,加圧用の液体(水)分も含めてわずか8tであり,プラスチックの袋の外の加圧用の水,プラスチックの袋,その袋中に収納されるべき食品等の全部が納められなければならなかったのであって,この条件下にあっては,袋中には少量の浸漬米が入れば,これをもってほぼ満杯となり,その袋中に注水を附加するような余地は無いに等しい。原告が甲2記載の実験に立ち会い現認した際にも,袋内には,ざるあげ後の浸漬米の若干量が入れられたにすぎず,これでポンプ高圧室内は満杯であり,これが脱気封止されて加圧された。 (e) 加圧を受ける対象食品が一定水量以上の含水をしている浸漬米である場合には,これとは別に殊更に袋中に注水をなさなくとも,その浸漬米中に含まれている水がその米の構造に高圧加圧の作用をもたらし得る。したがって,引用例の技術において浸漬米に高圧加圧の作用が生じているという事実は,プラスチック袋中には浸漬米の他に注(加)水はされてはいないという事実と何ら矛盾しない。 (2) 引用例の記載は,完成した技術の真実の開示ではない。 引用例記載の実験は,前記の実験用高圧ポンプを用いて行われたものであって,袋中には極めてわずかな量の浸漬精米が入っていたにすぎない。わずかな量にすぎない実験加圧米につき,「沸騰水に5分浸すと炊きあがったごはんになり,ふかふかして美味しい。」という結論に至るのは,いささか牽強附会の感を否めない。現に,甲11の第二実験の結果によれば,引用例記載の加圧米は,5分間の沸騰では芯まで糊化することはできず,10分30秒の炊飯によってようやく芯がなくなったものである(甲11の第二実験B)。 2 取消事由2(本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤り) 審決は,本件発明1と引用発明とが「穀類を加圧室内の液中に入れ,該加圧室に5000気圧の圧力を加えることを特徴とする高圧処理穀類の製造方法」という点において一致すると認定するが,誤りである。 本件発明1における「穀類を加圧室内の液中に入れ」という構成要件は,穀類を加圧室にある加圧用液にそのまま直接入れることのみならず,穀類を袋などの封入容器に入れ,それに液(水溶液)を入れた上,その穀類及び液の入った封入容器を加圧室に入れることも含むものであって,要するに,「穀類が液に直接接する状態」で加圧室に入れられることを意味するものである(第1回弁論準備手続調書)。 前記のとおり,引用発明においては,袋中への注水は行われないのであるから,「穀類が液に直接接する状態」にはないのであって,本件発明1の技術の記載は存在しない。 3 取消事由3(本件発明1と引用発明との相違点の看過) 審決は,加圧に先立って被加圧精米などの穀類をあらかじめ浸漬することを要するか(引用発明),又は要しないか(本件発明1)という最重要の相違点を看過した。 引用発明の技術は,浸漬工程を必須工程としている。引用例においては,浸漬前の精米すなわち水分の少ない粒状の食品である精米を除外する旨の記載があるほか,精米加圧の際には,これに先立つ1時間の浸漬は,「乾燥粒状食品」である精米を「水を含んだ食品」に変えるために,必須不可欠の工程とされている(甲5ないし7の記載からも明らかである。)。すなわち,引用発明は,「乾燥粒状食品」である精米を「水を含んだ食品」に変え,もって,加圧に先立って精米内部に水を存在させる工程として浸漬工程を必須不可欠の工程として成立している精米加圧技術である。 このような浸漬を不可欠とする当業界の技術常識に反して,本件発明1は,浸漬を必須とするのではなく,「加水+加圧」を必須とする技術思想として成立している。したがって,本件発明1の技術は,引用発明の技術とは全く別系統に属する技術であって,浸漬工程を不可欠とする引用発明の「浸漬+加圧」技術から想到することなどは不可能である。 なお,本件発明1の構成においては,浸漬を必須とするものではないが,浸漬することを排斥,除外するものでもない(第1回弁論準備手続調書)。 4 取消事由4(本件発明1と引用発明との相違点(a)についての判断の誤り) 審決は,相違点(a)について,本件発明1における「精米の内部変質」とは,精米の生の澱粉の立体的な分子構造が壊れ,分解し易い状態になることを意味すると判断したが,誤りである。 水中精米などの高圧加圧による内部変質は,外側から略芯に達するほぼ均一かつ瞬時に実現される超自然的吸水に始まり,この吸水に伴って,さらなる加圧によって生ずる一層の多量の吸水,生の澱粉の立体構造の崩壊,グロブリンの含有量の減少などである。したがって,本件発明1の構成要件である「内部変質」とは,この変質の第一段階として生ずる米粒等の「外側から内部略芯に至ってほぼ均一かつ瞬時に実現される超自然的吸水」を指すものである。 審決は,この超自然的吸水という内部変質現象を全く無視又は誤解して,この変質を飛び越え,その後に至っていわば二次的に生ずる内部的変質である澱粉の生の立体構造の崩壊をもって,本件発明1の構成要件である加水高圧加圧精米に初めて生ずる内部的変質であると認定しているのであって,誤りである。 本件明細書(甲1)には,「この変質により」「澱粉の立体的な分子構造が壊れ,分解し易い状態となる」と明示されて,「内部変質」が先行しこれを原因として澱粉の立体的な分子構造が壊れることが述べられている。しかし,両者が同一事実であるかのように理解するのは誤りである。 精米は浸漬により30%の自然吸水を実現し得るが,1時間という時間を要し,吸水は略芯にまでには達し得ない。これに対し,本件発明1の加圧による吸水は,均一かつほぼ瞬時に,粒内の略芯に達し,吸水の速度と量は,自然浸漬の場合とは比較にならない高程度で実現される。本件発明1の加圧による吸水と自然浸漬に伴う吸水とは,全く異なる現象である。自然浸漬吸水の後の穀類に対しても,本件発明1を実施すれば,自然浸漬の結果である吸水とは本質的に異なる「内部変質」たる吸水が実現される。したがって,本件明細書(甲1)には,本件発明1の実施に先立って自然浸漬をしてもよい旨の記載があり,事前浸漬をしなくてもよいが浸漬しても差し支えない技術であるが,「内部変質」を原告主張のように解することと何ら矛盾しない。 5 取消事由5(本件発明1と引用発明との相違点(b)についての判断の誤り) 取消事由1で述べたように,引用例の「精米に水を加えて浸漬した後,これをプラスチックの袋に入れて真空パックし」との記載を,「精米と水とをプラスチックの袋に入れて真空パックし」と認定するのは誤っており,審決の相違点(b)についての判断は,この誤った認定を不可欠の根拠としている。 また,審決は,引用例の「あらかじめ食品を袋に封じることなく圧力容器内の液中に直接食品を入れてもよい」との記載を根拠に挙げているが,この記載における「食品」とは,そこに明示されているとおり,「生野菜や肉など」の含水物質であって,精米などの穀物においてはあらかじめ浸漬して含水させることが必須なのであり,この工程を経ない精米などの乾燥粒状物質ではない。審決は,これを根拠としている点でも誤っている。 6 取消事由6(本件発明1と引用発明との相違点(c)についての判断の誤り) 審決は,食品の長期保存の目的で食品を乾燥することは慣用手段であり,また乾燥食品の復元のために加水することは周知の手段であるとするが,誤りである。 乾燥保存と使用前加水復元という手段を適用し得る食品は,完成品・半調理品を問わず,これに適する特殊な特性を付与されている特別な物品に限られている。したがって,特定の食品につき,こうした手段を適用し得る特性があることを捜し出すか又はそれを付与してこうした手段を適用することこそが正に技術であり,発明の新規性や進歩性は,正にその点に存する。審決のように,適用されるべき食品の特性を全く無視して,上記手段のみを取り上げ,これが慣用周知であるとするのみでは当該技術を評価することにはならず,的はずれである。 加水下の高圧加圧によって超自然的吸水を実現させた米(穀)粒という食品について,逆に乾燥させて保存をした後に,再び加水することによって,乾燥前の超吸水状態の加圧処理米に復元しうる特性を有しているか否かは,当業者が決して容易に知見し得る事柄ではない。このような本件発明1における相違点(c)は,引用例によっては容易に想到し得ることでない。 @食物の保存性向上のために乾燥すること,Aその乾燥食品に再度加水することによって,その食品を当初の食味風味を伴って乾燥前の状態に復元することの二点において,@は公知技術であろうが,その乾燥後にAを実施し得る性質を付与することは,決して容易ではない。審決は,@のみを論じていて,Aについては判断を遺脱している。 7 取消事由7(本件発明1の効果についての判断の誤り) (1) 審決は,本件発明1におけるグロブリン含有量の著減のという効果につき,加圧条件が同一であるから同一の効果を生ずるのは当然で格別なものとはいえないとするが,不当である。本件発明1は,加水(注水)下加圧という,化学物質等の添加を一切必要としない手段によって,グロブリンを減少させ,アレルギー体質を有する人が安心して食することのできる有用な精米を作出し得ることを初めて開示した技術であり,新規性,進歩性を肯定されるべきである。 (2) 審決は,加圧によって生の澱粉の立体構造の崩壊が生ずる以上は,吸水が生ずるのは当然であるかのようにいうが,加圧吸水が必須の前提として存在して初めて生の澱粉の立体構造の崩壊が生ずるのであり,審決の認定は完全に逆であって,誤りである。 本件発明1の技術は,単に保存性向上のみならず,炊飯時の吸水性を向上させ,炊飯時間の短縮化に顕著な効果をもたらすものである。 8 取消事由8(本件発明2ないし10についての認定判断の誤り) 本件発明2ないし10については,既に主張した点のほかに,審決の認定判断には,下記の誤りが存在する。 (1) 本件発明2について 引用例の記載には,約1時間浸漬後の精米を加圧した加圧処理米が記載開示されているにすぎず,これを乾燥して保存し,その後に使用前加水によって,乾燥前の加圧処理米を復元入手し得るとする旨の知見は,一切開示されていない。ある食品にこうした手段を適用し得る特性が具備しているか否かを見定めることこそ技術的に極めて困難であることは,前記のとおりであるが,引用例には,そこで技術開示されている加圧処理米を乾燥保存し得る旨の知見は全く示されていない。よって,引用例から乾燥時の含水量を調整した本件発明2の技術に想到することは不可能である。 (2) 本件発明3ないし5について 本件発明3は,加圧時間を限定し,同4及び5は,液温を限定したものであるが,審決は,引用例の加圧時間又は加圧温度の記載に基づき,容易に想到し得るものと判断した。しかし,引用例の技術は,そもそも「浸漬+加圧」米の技術であって,本件発明3ないし5が「加水+加圧」米(穀類)の技術であることと本質的に異なっている。両技術の間の本質的技術的相違を無視して両者がこの点において同一であることを当然の前提としている審決のこの部分の判断は,誤りである。 また,本件発明5について,審決は,引用例の(イ)の記載を引用しているが,デンプンの変化は米(穀類)粒内におけるものと,上記(イ)中に示される懸濁液中のものとでは全く異なるのであるから(甲3,4),審決のような判断に至ることは許されない。 (3) 本件発明6ないし10について 本件発明6ないし8は,本件発明1につき,当該被加圧米(穀類)を加圧前に殺菌作用ある液中に予浸漬して,主として米(穀類)表面に棲息している雑菌を殺菌する技術である(本件発明6。これが同7及び8に直接又は間接に引用されている。)。その際に,殺菌液が主として雑菌の棲息する米(穀類)表面にのみ作用し,その内部に浸透することを可及的に防止するという技術的課題を解決する技術として,殺菌液を最低温度とし(本件発明7),また,さらに加圧液温も最低温度として一層その殺菌液内部浸透防止の効果を高める技術(本件発明8)が開示されている。しかし,審決は,上記各発明の技術的課題,解決と作用効果について一切思い及んでおらず,言及さえしていない。その結果,審決は,これらの技術思想を全く開示していない引用例記載の技術から想到容易であると漫然かつ機械的に判断しており,不当である。 本件発明9は,本件発明1の物のクレームであり,本件発明10は,本件発明2の物のクレームである。これらについての審決の誤りは,本件発明1,2について主張したところと同一である。 |
|
被告の主張の要点
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対して (1) 原告は,引用発明においては袋中への注水が行われないと主張し,パスカルの原理の成立を否定しようとしているが,失当である。 (a) 原告が指摘する引用例の記載中の「これ」について,浸漬が行われた精米のみを指すように限定解釈しなければならない根拠は存在しない。 引用例1においては,5000気圧による「静水圧」とは単位面積当たり(1cu当たり)1気圧の5000倍の力が平等に加わっていることを意味しており,必然的にパスカルの原理を前提としている。 (b) 取消事由1における@に関する原告の主張は,勝手に「カサカサした麹」などという想定を行った上で,浸漬米表面の水が吸収されているにすぎないという仮想を述べているにすぎない。引用例において「これを食べると芯があり,麹のような感じである。」という「麹のような感じ」とは,生の精米に比し,多少軟らかくなっているが,芯がある状態のことを指しており,表面の「カサカサした」状態を表しているわけではない。 同Aに関する原告の主張もナンセンスというほかない。引用例に記載された「膨潤」とは,5000気圧×30分の高圧処理によって炊飯米と同程度又は準ずる程度の吸水状態であることを裏付けているが,その状態に至るためには,吸収の対象となる水がプラスチック袋内に存在することが不可欠であり,単に5000気圧の加圧のみによっては,上記の「膨潤」は実現され得ない。 同Bに関する原告の主張については,甲8の写真は,破砕の有無を確認するには,極めて微少な写真であって,立証として全く不十分である。たとえ,甲8において破砕の程度が小さいとしても,そのことは,一方では米の種類の結果であるとともに,他方では塊の状態が薄かったことの所産であって,何ら審決の立論に対する正当な反論とはなり得ない。 (c) 原告の主張は,精米が乾燥した粒状の食品に該当することを前提としたうえで,浸漬水がプラスチックの袋に使用されていないため,パスカルの原理が成立していないことをいわんとしている。しかしながら,精米は,そのままの状態では食用となり得ない以上,「食品」には該当しない。しかも,浸漬前の精米は,約15%の含水量の状態にある以上,「乾燥」しているわけではない。原告の主張は,前提自体が誤っている。 (d) 引用例には,そもそも高圧室の容量など記載されていない。8ccの容量に関する原告の主張は失当である。 (2) 甲11の実験は,注水を行わない状態,すなわちパスカルの原理が成立しない状態の実験であって,引用例の記載を再現していない以上,このような実験に基づいて色々と述べても無意味である。 2 取消事由2(本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤り)に対して 前述したところによれば,審決に原告主張の誤りはない。 3 取消事由3(本件発明1と引用発明との相違点の看過)に対して 原告は,引用例においては精米に対する事前の浸漬工程を不可欠としているなどと主張する。しかし,本件発明においては,事前の浸漬の要否について格別規定しているわけではない。そして,本件明細書においても,精米に対し事前の浸漬があり得ることが客観的に記載されている。引用例における事前の浸漬工程の要否を色々と述べたところで,本件発明との相違点を裏付けたことにはなり得ない。 4 取消事由4(本件発明1と引用発明との相違点(a)についての判断の誤り)に対して 本件明細書,引用例及び一般技術文献の記載にそくするならば,本件発明1の「内部変質」とは,「生の澱粉の立体的な分子構造の壊れるという加圧糊化現象に基づき,分解し易くなること」の趣旨であり,その程度は,「表面から内部へ到達する」ことが実現できるように,精米の全領域又はほとんどの領域に及んでいることを不可欠としており,その程度は,偏向十字の消失によって判明する。 引用例においては,沸騰水に5分間浸漬することによって,炊飯が完了しており,通常の炊飯及び蒸らしに必要な50分に比し,極めて短時間の内に炊飯を実現している。したがって,引用例の炊飯工程においては,加圧効果によって,デンプンの立体構造の崩壊を伴う「内部変質」が生じている。引用例は,「1000気圧以上,9000気圧以下の圧力を内部変質に要する時間を加える」という本件発明1を客観的に開示している。 原告は,「内部変質」について,「外側から内部略芯に向かってほぼ均一かつ瞬時に実現される超自然的吸水」の趣旨であると主張するが,本件明細書の裏付けを欠如している。 「超自然的吸水」状態は,構成要件として時間的要因を包摂していないので,その趣旨は,調理に必要な吸水状態を指すことにならざるを得ない。炊飯を行うために約30%の含水率に相当するような事前の浸漬をすることは,高圧処理を伴わずとも実現可能であって,「内部変質」が高圧処理によって実現される固有の状態であることと明らかに相反している。本件明細書においても,精米に対し事前の浸漬があり得ることが客観的に記載されており,本件発明1において,例えば精米に対し炊飯に必要なほぼ30%の吸水が行われることは充分あり得る。このような場合,事前の浸漬工程によって「超自然的吸水」状態が目標としている炊飯に必要な浸漬状態を既に完了しているから,1000気圧以上の高圧処理を行ったところで,「超自然的吸水」状態による「内部変質」を実現することができない。そうすると,本件発明1は,「内部変質」を実現できない状態,すなわち,発明として未完成の場合も包摂していることにならざるを得ない。 5 取消事由5(本件発明1と引用発明との相違点(b)についての判断の誤り)に対して 本件発明1は,「穀類を加圧室内の液中に入れ」ることを要件としており,穀類を容器に収納せずに直接,加圧室内の液中に挿入するかのようである。しかし,実施例においては,容器に加圧米を収納した上で,当該容器を加圧室内に挿入する工程が記載されている。 引用例には,高圧装置に対する挿入又はセットの方法として,「食品用に作られた圧力容器内に直接試料を入れてもよい」と記載されている。したがって,穀類の加圧室内に入れる方法は,容器による収容を介すると否とを問わず,引用例に開示されている。 6 取消事由6(本件発明1と引用発明との相違点(c)についての判断の誤り)に対して 本件発明1における乾燥は,要するに長期保存を目的としており,高圧処理による内部変質とは全く異なる技術的事項に立脚している。そして,一定の調理を行った食品について,長期の保存,即ち貯蔵の為に乾燥処理を行うことは,周知の技術的事項であって,乾燥処理という周知又は公知の技術的事項に立脚した場合には,本件発明1は,引用例との関係において進歩性を欠如している。 原告は,本件発明1における乾燥工程は,@食物の保存性向上,A当該食品を当初の食味風味を伴って乾燥前の状態に復元することに特徴点が存在するなどと主張するが,本件明細書には,@に関する事項は記載されているが,Aの事項については,特に記載されているわけではない。加圧処理が行われた後,再度,加水を伴う調理を行うことによって,当初の風味食味が復元されたとしても,その原因は,貯蔵期間中に細菌の繁殖による変質などが生じなかったこと,すなわち,@の保存性向上の結果にほかならない。Aは基本的に@と同趣旨にすぎない以上,審決がAについて言及しなかったとしても,乾燥工程に関する審決の認定判断に誤りはない。 7 取消事由7(本件発明1の効果についての判断の誤り)に対して (1) 本件明細書の実験例の記載からも明らかなように,グロブリン等のタンパク質の含有量に関する実験は,単に加圧精米においてのみ行われているにすぎない。 精米において得られた実験結果が他の穀類において成立するか否かは,個別の実験を待たなければ判明し得ない。グロブリン等の低減化は,あくまで「穀類」を対象としている本件発明1ないし10における固有の効果と評価することは,客観的に不可能である。また,本件明細書記載の実験は,不合理である。 (2) 立体構造の崩壊は,水の浸漬を伴わずとも生じ得るとともに,立体構造が崩壊した結果として,穀類の内側に水が侵入し得るのであって,原告の主張は,前後関係が逆転している。 8 取消事由8(本件発明2ないし10についての認定判断の誤り)に対して (1) 本件発明2について 審決が本件発明2の進歩性を否定した認定判断は,正当である。 (2) 本件発明3ないし5について 引用例においては,加圧時間を30分としており,本件発明3の時間範囲内(10分以上30分以下)の場合を開示している。引用例においては,5000気圧×30分の高圧処理における液温を45℃としており,本件発明4の温度範囲(0℃以上50℃以下)の場合を開示している。本件発明5は,加圧室内の液温を50℃以上90℃以下に設定することを特徴としているところ,引用例においては,加圧に際し,「温度を25℃から60℃まで変化させ」ることを開示しており,加圧温度が高いほど低い圧力処理にてアミラーゼ消化性が向上することを明らかにしており,加圧温度を50℃ないし60℃に選択することは,当業者が容易になし得る選択事項にすぎない。 本件発明3ないし5の進歩性を否定した審決の認定判断に誤りはない。 (3) 本件発明6ないし10について ショ糖脂肪酸エステル及び次亜塩素酸ソーダが抗菌作用,防腐作用を有し,これらを食品に対する殺菌料又は防腐・防ばい剤として使用することは周知である(乙6)。また,炭酸水素ナトリウム水溶液の水溶液が弱アルカリ性を呈することは,周知の事項である(乙10)。これらの化合物を高圧処理前に浸漬させることは,当業者が容易に採用し得る事項である。また,高圧処理において菌の繁殖を防止するために,水溶液の温度を0℃以上5℃以下とすることは,乙6,7を参照することによって当業者が容易に想到し得る事項である。本件発明6ないし8の進歩性をいずれも否定した審決の認定判断に誤りはない。 本件発明9は,本件発明1と同様の根拠により,本件発明10は,本件発明2と同様の根拠により,いずれも進歩性がなく,審決の認定判断に誤りはない。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 引用発明においては,袋中への注水が行われないのか否か,すなわち,引用例においては,袋内に精米とともに水も入れられているか否かについて検討する。 (a) 引用例(甲2)は,「食品への高圧利用」について記載した文献であるが,以下の記載がある。 [A]「ごはんを炊くように精米に水を加えて浸漬した後,これをプラスチックの袋に入れて真空パックし,これに5,000気圧の静水圧を半時間かける。このとき温度を45℃にして加圧する。その後取り出してみると,水はほとんど全部米に吸われており,粒子は膨潤している。これを食べると芯があり,麹のような感じである。このままでは,ごはんとはいえない。ところが,これを沸騰水に5分浸すと炊きあがったごはんになり,ふかふかして美味しい。家庭にこのような圧力処理したお米が配達されれば,通常は20分かかるところが非常に短時間でごはんが炊けることになる(口絵15参照)。電子レンジも上手に使うことができよう。」(19頁) 上記[A]の記載中の「これをプラスチックの袋に入れて真空パックし」における「これ」とは,その直前に記載された「ごはんを炊くように精米に水を加えて浸漬した」ものを指すと解するのが自然である。そして,「その後取り出してみると,水はほとんど全部米に吸われており」とは,文脈に照らし,加圧した後には水がほとんど全部米に吸われていたことを意味することが明らかであるから,加圧前の袋内には,米に吸収されていない水が存在していたことが推認される。 原告は,「水はほとんど全部米に吸われており」の記載について,水濡れ状態の浸漬米が加圧後にカサカサした麹のような感じになることは,正に浸漬米表面の水が米に吸収されたことを示しているのであって,袋中に注水がなされたことの根拠にならないと主張する。しかし,引用例は,食感が麹のようであったことを記載しているのであって,水濡れ状態の浸漬米がカサカサした麹のようになるといった外見上の状態を記載するものではない。原告の主張は採用し得ない。 (b) また,引用例(甲2)には,上記[A]の記載に先立って,次の記載がある。 [B]「1.3.2圧力を加える対象…食品の場合,ガス状態や固いものはないから,気体圧縮や固体圧縮は考えない。ここでは食品の主成分である水の液体圧縮の効果が課題になる。食品には粉状や粒状の食品,あるいは水分の少ない乾燥食品が重要であるが,これらの加圧はパスカルの原理が適用されないのでここでは触れず,今後の課題とする。…水を含んだ食品をプラスチック製の袋に真空包装し,これを水に入れて全体を加圧すると,パスカルの原理により袋の内外に同じ圧力が加わる。先の殻付き卵の実験では,殻の内外は同じ圧力となり,白身も黄身も高い静水圧の環境に置かれたことになる。このような状態は液状あるいはペースト状食品だけでなく,水を含んだ生の食品(動植物の組織)についてもあてはまる。しかし,乾燥した粉末状の食品にどれだけの水を含ませれば液体圧縮として扱えるかは,食品の種類によるから,個々に試す必要がある。」(5頁) [C]「1.5.2液圧発生装置の特徴と安全性 ここで使う装置はあくまで液体を圧縮するものであるから,…」(15頁) 以上の記載によれば,引用例は,パスカルの原理が適用される食品の加圧について記載しているものと認められる。そうすると,[A]の記載における米の加圧も,パスカルの原理により袋の内外に同じ圧力がかかることを前提とするものであると解される。そして,一定量以上の含水をしている浸漬米においては,浸漬米中の水が米の構造に高圧加圧の作用をもたらし得る場合があるとしても,上記[B]の「乾燥した粉末状の食品にどれだけの水を含ませれば液体圧縮として扱えるかは,食品の種類によるから,個々に試す必要がある。」との記載に照らせば,通常の浸漬によって水を吸収した米だけを袋に入れた場合に,パスカルの原理(水を介した均一な加圧)が働くことが明らかであるとはいえないから,引用例の[A]に記載された処理においては,袋内の米の周囲に浸漬した水が存在し,これがパスカルの原理に基づく均等な圧力を与えるものであると解するのが相当である。 (c) このようにプラスチックの袋内に水が存在すると解釈することは,引用例(甲2)の編者(Y)が,被告代表者あてに書いた書簡(乙4-1)において,「水の量は洗米に手を開いて押しつけ,くるぶしにメニスカスが来るように水を加えた…ということで,日本古来のごはん炊きに従っております。加圧後は水が米粒に吸われておりますが,プラスチック袋から取り出すと遊離の水が見られます。少なくなってはいますが。それは写真でも分かります。従って,粉体や粒体のプレスではなく,むしろ粘稠液の加圧処理で,パスカルの原理は働いていると思います。 米粒が割れたりつぶれていることはありませんでした(写真のように)」と記載し,同人作成の証明書(乙4-2)において,「操作手順は,19頁本文1行目に記載したように,『ごはんを炊くように精米に水を加えて浸漬し』これをこのまま,『プラスチックの袋に入れて真空パックして』圧力処理をおこなったものです。したがって,精米の周囲には外部の圧力を伝えるのに十分な水があり,パスカルの原理に従った全方位からの静水圧を受けたものです。」と記載していることからも裏付けられる。 (d) 原告は,引用例(甲2)の5頁の記載を引用し,「水を含んだ食品を袋に真空包装する」とは,包装した袋が直ちに抜気封止され,袋中へは水その他の物の添加が行われていないことを意味するから,[A]の記載においても,浸漬米を直ちに袋に真空包装するものであると主張する。しかし,引用例の5頁には,「直ちに抜気封止」とは記載されていないばかりか,前判示のとおり,引用例の5頁の記載は,[A]の記載における米の加圧はパスカルの原理により袋の内外に同じ圧力がかかることを示唆するものと解すべきであるから,原告の主張は,採用することができない。 (e) 原告は,引用例の筆者が用いていたのは,実験室用の高圧ポンプ(甲10-1・2)であり,その高圧室使用許容容量に照らせば,浸漬米を入れた袋中に注水を附加するような余地は無いに等しいなどとも主張する。しかし,原告主張の事実は,引用例に記載がないだけでなく,一つの業者が納品した旨述べている(甲10-2)からといって,直ちに,引用例において甲10-1の高圧ポンプが使用されたことを確定し得るものではないのであって,前記(a)ないし(c)に判示した点にも照らせば,加圧前の袋内に水が存在していたとの推認を妨げるものではない。 (2) 引用例の記載が完成した技術の開示であるか否かについて検討する。 甲11(知的財産権に関する事実実験公正証書)によれば,これに記載された第二実験Bは,浸漬米をザルで水切りした後,プラスチック袋に詰め,そのままの状態で密封し,加圧後,袋を開封しザルに移して水切りをし,280gの温水とともに鍋で炊飯して,5分後の状態を観察したところ,見た目が生米のような状態で,ゴアゴアした食感であったこと,また芯がなくなるまでの炊飯時間を計測した結果,10分30秒であったことを示すものである。 他方,前記のとおり,引用例では,浸漬米を水とともにプラスチック袋に詰め,真空パックして加圧したものを,沸騰水に浸して調理するものである。 そうすると,甲11の第二実験Bは,引用例に記載されたものとは異なる方法で炊飯されたものであることが明らかであるから,引用例の追試とはいえず,このような実験結果に基づいて,引用例が完成した技術の開示をしていないと主張することは失当である。引用例の記載が完成した技術の開示ではないとする原告の主張は,採用することができない。 (3) 以上のとおり,引用発明の認定に関し,審決には原告主張の誤りはない。 2 取消事由2(本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤り)について 原告は,本件発明1における「穀類を加圧室内の液中に入れ」という構成要件は,穀類を加圧室にある加圧用液にそのまま直接入れることのみならず,穀類を袋などの封入容器に入れ,それに液(水溶液)を入れた上,その穀類及び液の入った封入容器を加圧室に入れることも含むものであって,要するに,「穀類が液に直接接する状態」で加圧室に入れられることを意味するものであると主張し,引用発明においては,袋中への注水は行われないのであるから,「穀類が液に直接接する状態」にはないとする。 検討するに,「加圧室内の液」という用語の意義としては,「加圧室」自体の「内側」に存在する「液」と解するのが自然であって,原告主張のように,「加圧室」の内に入れられた「袋(封入容器)」があり,「その袋の中」に入れられた「液」をも含むものと理解することは,自然な解釈とはいえない。そして,本件明細書(甲1)において,「加圧室は,蒸留水,酸化防止剤入りの液体,その他適宜の加圧用液体で満たされる。」(6欄36〜38行)との記載があることからすると,本件発明1における「加圧室内の液」の「液」とは,加圧用液体のことを意味すると解するのが相当であり,この解釈は,上記の用語の自然な解釈とも合致する。本件発明1の請求項の記載及び本件明細書の記載を精査しても,上記原告の主張のように解すべき理由は見出し得ない。 次に,「穀類」を「加圧室内の液中に入れ」るのであるが,入れ方については,本件発明1の請求項には何ら限定はない。したがって,穀類を加圧室にある加圧用液にそのまま直接入れることのみならず,穀類を袋などの封入容器に入れた上で封入容器を加圧室にある加圧用液に入れることなども含むものと解される。現に,本件明細書においては,本件発明の実施例として,後者の構成が示されている。 ところで,引用例(甲2)をみると,「1.5高圧装置 1.5.1高圧の発生と圧力容器 …いずれも市販のものは圧力媒体として水を使うと錆びるおそれがあるので,食品の場合はヘキサンを用いるとよい。」(15頁)と記載されていることから,引用発明においても,穀類を入れる加圧室に加圧用液体が存在していると認められる。そして,引用発明は,穀類を加圧室の液中に入れているという点において,本件発明1と異なるところはない。 なお,上記説示に照らせば,本件発明1における上記構成要件が,「加圧室にある加圧用液」であると,「封入容器に入れられた液(水溶液)」であるとを問わないが,いずれにしても,「穀類が液に直接接する状態」でなければならないという意味であると解することはできない。したがって,そもそも,引用発明において,穀類を入れたプラスチック袋中に水が存在しているか否かは,上記の一致点の認定を妨げるものではない(もっとも,引用発明においても,袋中に水が存在しているものと認められることは,前記1に判示したとおりであって,いずれにしても,審決の上記一致点の認定に誤りはない。)。原告の主張は,採用することができない。 3 取消事由3(本件発明1と引用発明との相違点の看過)について 原告は,審決が,加圧に先立って穀類をあらかじめ浸漬することを要するか(引用発明)か,要しないか(本件発明1)という相違点を看過していると主張する。 しかし,本件発明1の請求項には,浸漬工程の有無について規定されていないから,本件発明1は,浸漬工程を行う場合と行わない場合の両方の場合を包含するものと解するのが相当である。しかも,本件明細書(甲1)においては,「高圧処理前に,穀類を水溶液又は水に所定時間浸漬すると,これら浸漬及び高圧処理の双方により,水分は穀類の内部によく浸透し,調理の際の炊き上がりが極めて均一かつ美味なものとなる。」(5欄10〜13行)と,浸漬を行うことが明記されている。原告も,本件発明1につき,浸漬を必須とするものではないが,浸漬することを排斥,除外するものでもないことを確認している(第1回弁論準備手続調書)。 そうすると,本件発明1のうち,加圧に先立って穀類をあらかじめ浸漬する場合については,浸漬工程を行うという点において,引用発明と異なるところはない。 よって,原告の主張する点は,本件発明1と引用発明との相違点にはなり得ないのであって,審決に相違点の看過があるとはいえない。 4 取消事由4(本件発明1と引用発明との相違点(a)についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明1における「内部変質」とは,変質の第一段階として生ずる米粒等の「外側から内部略芯に至ってほぼ均一かつ瞬時に実現される超自然的吸水」であると定義付けた上,「内部変質」について上記とは異なる認定をし,相違点(a)を実質的相違点とはいえないとした審決の判断は誤りであると主張する。 しかしながら,本件特許請求の範囲の記載はもとより,本件明細書における発明の詳細な説明及び図面においても,「内部変質」の定義に関して,原告の主張を裏付けるような記載は一切存在しない。結局,原告の主張は,明細書の記載に基づかないものであって,採用することができない。 むしろ,本件明細書の記載について,後記(2)で検討するところ,及び本件明細書中で高圧下の変質について詳述されているとして引用している文献(引用例=甲2)の記載(「1.7.6デンプンに対する高圧効果…高い静水圧により,デンプンのなまの立体構造が壊れ,デンプンに種々の変化が起こり,アミラーゼ消化性が高まる…」(23頁))によれば,審決が認定したとおり,本件発明1における「精米の内部変質」とは,「生の澱粉の立体的な分子構造が壊れ,分解し易い状態」のことをいうと解するのが相当である。原告の主張は,「内部変質」についての誤った解釈を前提とするものであるから,採用し得ない。 (2) ところで,審決は,本件発明1における「精米の内部変質」の意義を認定したものの,その認定と相違点(a)を実質的相違点とはいえないとした審決の判断との関連が明確でない(その意味で,前者の認定の誤りを争っても結論に影響があるとは解し難い。)。そこで,念のため,相違点(a)を実質的相違点とはいえないとした審決の判断が是認し得るものか否かを検討しておく。 本件明細書(甲1)には,発明の詳細な説明欄において,「精米の内部変質」に関連して以下の記載がある。 [a]「本発明においては,1000気圧以上,9000気圧以下という高圧を所定時間作用させるので,穀類は,高圧作用特有の変質を受ける(高圧下の変質については,1989年7月15日さんえい出版発行の「食品への高圧利用」に詳述されている)。 この変質をした穀類は,外観が通常の穀類とさほど変わらない。調理の面に関しては,この変質により,生の澱粉の立体的な分子構造が壊れ,分解し易い状態となる。高圧処理の作用は,穀類の内部まで瞬時に到達するので,内部までほぼ均一な前記変質が得られる。その結果短時間の加熱で食することができる状態となる。特に米や麦の調理の場合は内部まで芯のない炊き上りが要求されるので,表面から内部へ到達するのに時間を要する加熱処理に比し,この高圧処理は有利である。」(4欄27〜40行) [b]「前記加圧は,1000気圧以上,9000気圧以下とされる。1000気圧未満では前記変質が十分ではなく,短時間の加熱によっては食するに適した状態が得られない。」(4欄46〜49行) [c]「加圧時間は,加圧力の程度によって異なり,内部変質が十分に行われるように選択される。通常は10分以上が望ましい。また通常は30分未満で十分である。」(5欄7〜9行) [d]「e.…加圧時間は,米の硬軟等の性質により異なるが通常10分から30分である。」(6欄39〜40行) 上記[b]ないし[d]の記載によれば,本件発明1において「精米の内部変質」は,具体的には,1000気圧以上9000気圧以下の高圧を10〜30分間かけることにより引き起こされるものと認められ,また,[a]の記載によれば,このような高圧処理によって内部まで均一な変質が得られること,内部まで芯のない炊きあがりが得られるためにはこのような高圧処理が有利であることが認められる。さらに,[a],[b]の記載によれば,このような加圧によって,内部までほぼ均一な変質が得られる結果,短時間の加熱で食するに適した状態が得られることも認められる。 他方,引用例(甲2)には,ごはんを炊くように精米に水を加えて浸漬したものをプラスチックの袋に入れて真空パックし,5000気圧の静水圧を半時間かけた後,沸騰水に5分浸すことによって,ふかふかして美味しいごはんが炊きあがることが記載されている(前掲1(1)(a)における[A]の記載)。 以上によれば,引用発明においても,本件明細書に記載されたのと一致する条件で加圧処理を行うことによって,短時間の加熱で本件明細書に記載されているのと同様の美味しいごはんが得られると認められるのであるから,引用発明においても,「1000気圧以上,9000気圧以下の圧力を内部変質に要する時間加え」ているものと解することができる。 そうすると,相違点(a)は実質的な相違点には当たらないといえるので,これと同旨の審決の判断は,是認し得るものである。 5 取消事由5(本件発明1と引用発明との相違点(b)についての判断の誤り)について 本件発明1における「加圧室内の液中」の「液」とは,加圧用液体のことを意味すること,請求項1には,精米を加圧室内の液中に「直接接触するように」入れることについては特に限定がなく,本件明細書の実施例にも,封入容器に入れた精米を加圧室内の液中に入れることが記載されているのであって,本件発明1における「穀類を加圧室内の液中に入れ」とは,「穀類を加圧室内の液中に直接接触するように入れる」ことのみを意味するのではなく,封入容器に入れた穀類を加圧室内の液中に入れる場合も包含すると解釈すべきであること,したがって,本件発明1における上記構成要件が,「加圧室にある加圧用液」であると,「封入容器に入れられた液(水溶液)」であるとを問わないが,いずれにしても,「穀類が液に直接接する状態」でなければならないという意味であると解することはできないこと,以上は,取消事由2について判示したとおりである。 一方,引用発明は,前記のとおり,プラスチック袋に封入した穀類を加圧室内の液中に入れるものであるから,本件発明1と引用発明とは,審決が相違点(b)として認定するような相違点は存在しないこととなる。 そうすると,審決は,相違点ではない事項を相違点(b)として認定し,これを想到容易であると判断したことは,誤りであったことになるが,そもそも相違点ではないのであるから,この誤りが審決の結論に影響しないことが明らかである。よって,相違点(b)の判断の点を理由に審決を取り消すべきことにはならない。 6 取消事由6(本件発明1と引用発明との相違点(c)についての判断の誤り)について 検討するに,乙6(藤巻正生他編「食料工業」,恒星社厚生閣,1985年9月25日)には,次の記載がある。 「水分含量の多い食品から水を除いて,微生物及び酵素による腐敗や変敗,変質及び食品の組成成分間の化学反応の進行にともなう変質を防止することによって,食品に貯蔵性と輸送性とを賦与することが食品の乾燥のまず第一の大きな目的である。この前提にたって乾燥された食品を品質の面からみると乾燥の目的はさらにつぎの2つに大別して考えることができる。1つはその食品本来の特性を損わないで単に水分だけを除去し,長期の保存,貯蔵に耐え得るものとし,そのものを食用に供する場合には,水又は湯に浸漬するとか,水又は湯,調味液をそそぐだけでただちに乾燥前の食品と同様の性質又は品質に復元するような乾燥食品にすることである。すなわち,強いて名づけるならば貯蔵のための乾燥ということができる。他の一つは…。上記の2つの目的のうち前者に属するものは乾燥飯,即席めん類,乾燥マッシュポテト,インスタントコーヒー,粉末味噌汁及び凍結乾燥した各種の調理済食品をあげることができ,…」(961頁左欄) この記載によれば,水分含量の多い食品について,食品本来の特性を損なわないで単に水分だけを除去し,長期の保存,貯蔵に耐え得るものとし,そのものを食用に供する場合には,水又は湯に浸漬するとか,水又は湯,調味液をそそぐだけで直ちに乾燥前の食品と同様の性質又は品質に復元するような乾燥食品にすること,及びその代表例として乾燥飯があることは,いずれも周知であると認められる。 そうすると,穀類が乾燥保存と使用前加水復元という手段を適用し得る食品であることは,周知であったと認められるから,この点に進歩性を認めることはできず,また,原告の主張する,乾燥食品に再度加水することによってその食品を当初の食味風味を伴って乾燥前の状態に復元できるという効果も,上記周知技術から,当業者が容易に予測できる効果にすぎないものと認められる。 原告の主張は,採用の限りではない。 7 取消事由7(本件発明1の効果についての判断の誤り)について (1) 引用例(甲2)には次の記載がある。 「タンパク質が溶けている溶液に圧力を加えると,溶存しているタンパク質は変性し,ついには沈殿したり凝固あるいはゲル化してしまう。」(8頁10〜11行) 「圧力処理の目的と利用の可能性を考え,まとめてみる。…A生タンパク質やデンプンの酵素による分解,修飾,限定分解→無蒸煮発酵,脱臭」(19頁下から3行〜末行) これらの記載によれば,タンパク質は圧力を加えると変性したり分解したりすることが知られているので,引用発明においても,加圧処理の結果タンパク質であるグロブリンが変性,分解され,その含有量が減少することは,当業者が容易に予測し得るものと認められる。しかも,本件明細書の表-1には,1000,2000,3000,6000気圧でそれぞれ加圧処理した米及び通常米の各グロブリン量の測定結果が示されており,6000気圧の加圧処理によればある程度のグロブリン量の低減効果は認められるものの,1000気圧の加圧処理では通常米のグロブリン量と大差がないと認められる。結局,本件発明1の構成要件である「1000気圧以上9000気圧以下の圧力」の全ての範囲において,グロブリンの顕著な低減効果が得られると認めることはできない。 したがって,グロブリン含有量の減少効果を格別の効果でないとした審決の判断に誤りはない。 (2) 本件明細書には,そもそも,高圧処理後の乾燥米が浸漬時に驚くべき量の水を急速に吸収するなどという効果は記載されていない。よって,原告の主張は,明細書の記載に基づかないものであって,採用し得ない。 8 取消事由8(本件発明2ないし10についての認定判断の誤り)について (1) 本件発明2について 原告が主張するように,引用例に,加圧処理米を乾燥して保存し,その後に使用前加水によって,乾燥前の加圧処理米を復元入手し得るという知見が開示されていないとしても,前記6で判示したとおりの周知技術を前提にすると,引用例において,乾燥の程度,すなわち乾燥時の含水量を最適化することは,当業者が当然に行うことであるといえるので,引用例に上記知見が開示されていないことから,直ちに本件発明2に進歩性があるということにはならない。原告の主張は採用し得ない。 (2) 本件発明3ないし5について 原告は,引用例の技術が「浸漬+加圧」米の技術であり,本件発明3ないし5が「加水+加圧」米(穀類)の技術であるとし,審決が両技術の間の本質的技術的相違を無視したものであると非難する。しかしながら,前記1で判示したとおり,引用例においても加水が行われており,また,前記3で判示したとおり,本件発明3ないし5も浸漬工程を行う場合を包含するものであるから,「浸漬+加圧」米の技術と「加水+加圧」米(穀類)の技術という点をもって両技術の間の本質的技術的相違であるとする原告の主張自体が採用し得ない。 また,原告は,甲3,4の記載を根拠に,デンプンの変化は米(穀類)粒内におけるものと懸濁液中のものとでは全く異なるとして,懸濁液中のデンプンの変化に関する引用例の記載から,本件発明5の進歩性を否定することはできないとも主張する。しかしながら,審決が本件発明5に関する説示中で指摘する引用例の記載からは,液温を高く設定するほどデンプンの立体構造の崩壊が促進されることが認められるところ,甲3(山ア彬他著「高圧処理による食品加工の研究と米飯開発」,J. Appl.Glycosci.,Vol.50 No.1,89頁以下)には,米粒のままで加圧処理を受けた場合は,米澱粉で加圧された場合に比較して偏光十字の消失に高い圧力を必要とすることが記載されているにすぎず(93頁右欄最下行〜94頁右欄2行),また,甲4(前掲乙6と同一文献。ただし,下記引用部分は乙6の引用部分とは別の頁である。)には,米でん粉が細胞の中で,硬い原形質タンパク(主としてグルテリン)に取り囲まれて,複粒の形で存在しており,複粒の中に角型の多数のでん粉粒がぎっしりと詰まって,蜂の巣のような外観を呈するが,でん粉製造中に崩壊して,2〜8μ(平均5μ)の角状のでん粉粒にばらばらになることが記載されているにすぎないものであって(149頁左欄3〜8行),米粒内のデンプンにおいては,液温を高く設定してもデンプンの立体的な分子構造の崩壊が促進されないということを示す具体的な証拠があるわけではない。甲3,4を根拠とする原告の上記主張は,採用の限りではない。 (3) 本件発明6ないし10について 原告は,審決が,本件発明6ないし8の技術的課題,解決と作用効果について一切思い及んでおらず,言及さえしておらず,その結果,進歩性の判断を誤ったと主張する。しかし,審決は,その説示に照らせば,ショ糖脂肪酸エステル及び次亜塩素酸ソーダを食品に対する殺菌剤あるいは防腐・防ばい剤として使用することが周知であったことを前提にして,本件発明6の進歩性を否定したものであることが明らかであり,原告の主張は理由がない。また,本件発明7,8が殺菌液の穀類内部への浸透を防止する技術であることについては,本件明細書に記載されておらず,原告の主張は,本件明細書に記載のない事項を前提とするものであって,採用することができない。 原告は,本件発明1,2について主張したところと同一の理由により,本件発明9,10についての審決の判断も誤りであると主張する。しかし,既に判示したとおり,本件発明1,2についての審決の判断に誤りはなく,本件発明9,10についての審決の判断にも原告主張の誤りはない。 9 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
---|---|
裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 高野輝久 |