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関連審決 異議2001-72945
関連ワード インターネット /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  参酌 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 /  国際公開 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 194号 特許取消決定取消請求事件
原告 松下電器産業株式会社
訴訟代理人弁理士 鷲田公一
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 千葉輝久,内田正和,吉村宅衛,井出英一郎,高橋泰史,涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2001-72945号事件について,平成15年3月27日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「ファクシミリ型電子メール装置」とする特許(特許番号第3160177号。平成7年3月6日出願,平成13年2月16日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 本件特許のうち請求項1ないし3,8,14,15及び17について特許異議の申立てがされた(異議2001-72945号事件として係属)ところ,原告は,平成14年6月11日,訂正請求をした。特許庁は,平成15年3月27日,「訂正を認める。特許3160177号の請求項1ないし3,8,14,15,17に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,平成15年4月14日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲(訂正後の請求項1ないし3,8,14,15及び17に記載された発明。以下,各発明を請求項記載の番号に従い「本件発明1」のようにいう。) 【請求項1】原稿を読み取ってイメージデータに変換する手段と,前記読み取ったイメージデータを圧縮し,複数ページを一つのファイルとして保持する手段と,前記圧縮されたイメージデータを7ビットの文字コードに変換してテキストコード化イメージデータを生成する手段と,このテキストコード化イメージデータに,宛先,発信元,データの形式,文字コードへの変換方式の入ったへッダを付加して電子メールのフォーマットに変換する手段と,電子メールのアドレスを入力する手段と,前記入力された宛先メールアドレスに対して前記フォーマット変換されたイメージデータをLANに送信するLAN制御手段と,電話回線を使ってファクシミリの手順でイメージデータを送信するモデム制御手段と,を備えたファクシミリ型電子メール装置であって,イメージデータを前記電話回線を使ってファクシミリ手順で送信するか,前記LANを使って電子メールの手順で送信するかを操作者がパネル部から電子メールかファクシミリかを選択するボタンを押すことにより選択する手段をさらに備えたファクシミリ型電子メール装置。
【請求項2】電子メールにより送信されてきたイメージデータを受信する手段と,電子メールに付加されているへッダからイメージデータであることを確認して,前記イメージデータを電子メールのフォーマットからファクシミリのフォーマットに変換する手段と,前記フォーマット変換されたイメージデータを伸長する手段と,前記伸長されたイメージデータを印刷する手段とを備えた請求項1記載のファクシミリ型電子メール装置。
【請求項3】文字コードデータを電子メールにより送受信する手段とを備えた請求項1または2に記載のファクシミリ型電子メール装置。
【請求項8】受信した文字コードデータの所定の位置にある文字列を解析する手段と,前記解析結果に応じた処理を行う手段とを備えた請求項3記載のファクシミリ型電子メール装置。
【請求項14】自装置宛の電子メールアドレスを複数登録する手段と,電子メールにより送信されてきたイメージデータを前記電子メールアドレスごとに蓄積,管理する手段と,各電子メールアドレス毎にパスワードを設定する手段と,前記パスワードを入力したときに前記蓄積されたイメージデータを出力する手段とを備えた請求項2から13のいずれかに記載のファクシミリ型電子メール装置。
【請求項15】電子メールを受信したときに,送信者の電子メールアドレスに前記電子メールが届いた旨の確認電子メールを送信する手段を備えた請求項2から14のいずれかに記載のファクシミリ型電子メール装置。
【請求項17】操作者のパネル部からの選択は,パネル部から電子メールかファクシミリかを選択するボタンを押すことにより行われることを特徴とする請求項1記載のファクシミリ型電子メール装置。
3 決定の理由の要点 決定の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件各発明が,以下の刊行物1ないし7に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,同法113条2号に該当するというものである。
(1) 決定が引用した刊行物 刊行物1:特開平6-276337号公報(本訴甲4) 刊行物2:特開平3-289756号公報(本訴甲5) 刊行物3:特開平5-347682号公報(本訴甲6) 刊行物4:特開平6-217069号公報(本訴甲7) 刊行物5:特開平4-142841号公報(本訴甲8) 刊行物6:特開平6-350642号公報(本訴甲9) 刊行物7:国際公開WO94/06230号パンフレット(本訴甲10) (2) 引用刊行物記載の発明 (2-1) 刊行物1には,その実施例及び図面第1図〜第10図を参酌すると,以下のような技術的事項が記載されている。
ア 「【0001】【産業上の利用分野】 本発明は,スキャナで読み込んだ原稿の画像情報を出力する機能として,プリンタによる複写印刷機能,ファクシミリ通信による送信機能,LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)等のネットワーク通信による送信機能,光ディスク装置等の記憶媒体に対する情報記録機能等のうちの少なくとも2機能を備えてなるマルチファンクション型複写装置,いわゆる複合型画像処理装置に関する。
【0002】【従来の技術】 一般にマルチファンクション型複写装置と称される複合型画像処理装置は,スキャナで読み込んだ原稿の画像情報をプリンタに出力して複写印刷する機能,同原稿の画像情報をファクシミリ通信またはネットワーク通信により送信出力する機能,同原稿の画像情報を光ディスク装置等の記憶媒体に出力して記録蓄積する機能等を備えており,設定により同一原稿の画像情報を所望の複数機能で出力できるようになっていた。
【0003】例えば,従来の複合型画像処理装置を用いて同一原稿の複写,ファクシミリ通信及びネットワーク通信をこの順で行わせる場合,始めにスキャナの原稿台に原稿を置き,操作パネルを操作して,先ず複写モードを選択し,複写部数を設定したならばスタートキーを操作する。
【0004】こうすることにより,原稿台の原稿が読み取られ,画像情報記憶部に記憶されるとともに画像情報の複写印刷が実行されるので,複写完了後,今度はファクシミリ通信モードを選択し,送信宛先情報(電話番号または予め特定の電話番号に対応して設定された短縮番号等)を設定したならばスタートキーを操作する。
【0005】こうすることにより,画像情報記憶部に記憶された画像情報が所定のファクシミリ通信手順に準拠してファクシミリ転送されるので,ファクシミリ通信完了後,今度はネットワーク通信モードを選択し,送信宛先情報(送信相手のネットワークアドレスまたは予め特定のネットワークアドレスに対応して設定されたIDコード等)を設定したならばスタートキーを操作する。
こうすることにより,画像情報記憶部に記憶された画像情報が所定のプロトコルに準拠してネットワーク転送される。」(2頁右欄9〜48行) イ 「【0021】また,この装置は,上記スキャナ2により読取った原稿の画像情報を出力する画像情報出力手段としてプリンタ4,ファクシミリ制御装置5,ネットワーク制御装置6及び光ディスクドライブ装置7を内蔵している。
【0022】プリンタ4は,感光体にレーザビームを照射して上記画像情報の静電潜像を形成し,この静電潜像をトナーで現像した後,記録紙に転写して印刷するレーザプリンタであり,このプリンタによって印刷された記録紙は装置本体1の側部から用紙排出トレー4aへ排出される。
【0023】ファクシミリ制御装置5は,ファクシミリの通信手順に従って公衆回線との接続インタフェースをなすモデムと送受信バッファ及びこれらの制御を行うプロセッサからなり,モジュラケーブル5aを介して公衆回線に接続されて,上記画像情報の送受信を行なう。
【0024】ネットワーク制御装置6は,物理層をイーサネットとするLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)に接続する接続インタフェースと,このLANの通信プロトコルを制御するプロセッサとからなり,ケーブル6aを介してLANに接続されて,上記画像情報の送受信を行なう。」(4頁左欄23〜44行) ウ 「図4はこの実施例装置の内部構成を示すブロック図である。この装置の全体の動作を統括制御する主制御部11は,CPUとこのCPUの制御プログラムを搭載したROM等で構成され,前記操作パネル8,メモリ部12,ハードディスクドライブ装置13及び前記光ティスクドライブ装置7の各部を制御する。」(4頁右欄25〜30頁) エ 「また,原稿の画像をファクシミリ送信する場合には,操作パネル8におけるタッチパネル表示器81のFAX送信モードエリアA4をタッチ操作してタッチパネル表示器81にファクシミリ入力画面を表示させたならば,送信先情報(電話番号,短縮ダイヤル番号等)を設定する。しかる後,原稿をスキャナ2にセットしてスタートキーK2を入力する。」(5頁右欄42〜48行) オ 「また,原稿の画像をネットワーク送信する場合には,操作パネル8におけるタッチパネル表示器81のLAN送信モードエリアA5をタッチ操作してタッチパネル表示器81にネットワーク入力画面を表示させたならば,送信先情報(ネットワークアドレス,ユーザID等)を設定する。しかる後,原稿をスキャナ2にセットしてスタートキーK2を入力する。」(6頁左欄11〜17行) (2-2) 刊行物2は,ファクシミリサーバに関するもので,その実施例及び図面を参酌すると,以下のような技術的事項が記載されている。
ア 「個人識別情報-電子メール用アドレス変換テーブルから電子メール用アドレスを求め,該受信画像データを電子メール用フォーマットに変換してLANに送出する電子メール発信装置を具備したことを特徴とするファクシミリサーバ。」(1頁左下欄13〜18行) イ 「この発明はファクシミリサーバに関し,特にファクシミリをローカルエリアネットワーク(LAN)に接続するためのファクシミリサーバに関する。」(2頁左上欄3〜6行) ウ 「15はプリンタ制御装置,16はプリンタであり,受信画情報をハードコピーで出力したり,原稿画像をコピーするとき等の場合に使用される。」(3頁左下欄6〜9行) (2-3) 刊行物3は,画像送信装置に関するもので,その実施例及び図面第1,2図を参酌すると,以下のような技術的事項が記載されている。
ア 「【請求項1】原稿に記載された画像を読み取り画像データに変換する光電変換部と,前記画像データを記憶する画像記憶部と,LANインタフェース部と,前記LANインタフェースの制御部と,前記画像記憶部に記憶した画像データを前記LANインターフェイス部に接続したファイル・サーバ装置に記憶可能な形式に変換するファイル変換部と,公衆回線との通信部と,前記の公衆回線との通信部を通して通信先に回線を接続するためのオートダイアル部と,前記画像記憶部に記憶された画像データを公衆回線において効率的通信を行なえる形式のデータに圧縮するための圧縮データ変換部と,送信の相手が公衆回線上かLAN上かを判定する送信先判定部と,通信先を示す文字を入力原稿上から認識することができる文字認識部と,ユーザが原稿の読み取りの開始とその画像の記憶及び通信先を指定するための操作パネル部と,設定内容と装置の状態をユーザに知らせる表示部と,上記のシステム全体を統括するための制御部を有することを特徴とする画像送信装置。」(1頁左欄2〜19行) イ 「(2)第二の実施例 第二の実施例の構成は,文字認識部13が除かれること以外,図1に示す第一の実施例と同様である。従って,送信先の入力は操作パネル1から行われる。他の動作については,実施例1と完全に等しい。」(3頁左欄13〜17行) (2-4) 刊行物4は,電子メール装置用ファクシミリメッセージ変換装置に関するもので,その実施例及び図面第1図〜第6図を参酌すると,以下のような技術的事項が記載されている。
ア 「【請求項1】電子メールをヘッダー情報とメッセージ本体とに分離する分離部と, 分離されたヘッダー情報を記憶するヘッダー情報記憶部と, 分離されたメッセージ本体を記憶するメッセージ本体記憶部と, 受信先のユーザ毎に所定の情報を格納しておくユーザ情報格納部と, 前期ヘッダー情報記憶部からヘッダー情報を受け取った上で,その中から宛先情報を抽出するヘッダー処理部と, 前期ヘッダー処理部から宛先情報を受け取った上で,この内容を前期ユーザ情報格納部が格納する該当するユーザの所定の情報を取り出して,電子メール送信を行うかファクシミリ送信を行うかを判断する送信方法判断部と, 前期送信方法判断部で,ファクシミリ送信であると判断された場合にその旨の信号により起動され,前期メッセージ本体記憶部に記憶されているメッセージ本体をファクシミリファイルに変換するメッセージ処理部と, 前記メッセージ処理部から変換されたファクシミリファイルを受け取った上で,これを前記ヘッダー処理部から受け取った宛先情報をもとにファクシミリ送信するファクシミリ送信部とを備えたことを特徴とする電子メール装置用ファクシミリメッセージ変換装置。」(1頁左欄2〜26行) イ 「【産業上の利用分野】本発明は,ネットワークを利用したメッセージ装置に関し,特に異種通信端末たる電子メール装置からファクシミリへの通信を行うメッセージ変換装置に関する。」(2頁右欄6〜9行) ウ 「【0015】次に,本発明の実現の前提であす(注:原文のまま)るため,メッセージ処理部112における電子メールのファクシミリファイルへの変換について説明する。電子メールにおいては,ワードプロセッサーにおける文書の表示と同じく,CRTに表示すべき文書が上下(Y)方向と左右(X)方向の輝点の座標の集合として表示されている。一方,ファクシミリ装置においては,画像が主走査(X)方向と副走査(Y)方向の黒点の座標の集合として表示されることとなる。この場合,基本的,原理的には上下方向と左右方向の輝点の座標の集合を,必要な修正を施した上で副走査方向と主走査方向の黒点の座標の集合に変換すれば,電子メールの文書を主とする情報からファクシミリの画像への変換がなされることとなる。」(5頁右欄17〜29行) (2-5) 刊行物5は,電子メールシステムに関するもので,その実施例及び図面第1図〜第12図を参酌すると,以下のような技術的事項が記載されている。
ア 「パスワードをあらかじめ受取人名ごとに登録し,パスワードを入力して対応する文書を記憶媒体から読み出して印刷する。」(3頁左上欄8〜10行) イ 「第1図は本発明による電子メールシステムの一実施例を示すブロック図であり,1はホストコンピュータ,2は文書蓄積のためのディスク装置(DISK),3はネットワークであり,符号4以降は端末の構成要素である。4は網制御装置(NCU),5は操作パネル,・・(中略)・・。
第2図は,受信時に作成される親展文書テーブル11を示すテーブル図であり,受信通番,配信CDにある受取人名,発信元名により構成される。受信通番は文書に対する通番でもあり,1対1に対応している。
第3図は,予め登録されている受取人名とパスワードの対応テーブル12を示すテーブル図である。」(3頁右上欄末3行〜同頁左下欄16行) ウ 「第5図は親展文書印刷時の動作を表す流れ図である。パスワードを入力し(ステップS11),個人宛先の場合には更に受取人名を入力する(ステップS12,S13)。入力が終わると,親展文書テーブル11をサーチし,一致するものがあるか否かを調べる(ステップS14)。ない場合,或いはパスワード指定誤り等の場合はエラーメッセージを表示する(ステップS15,S16)。一致していた場合には,該当する文書をディスク7より読みだし,プリンタ8によって印刷出力する(ステップS17)。」(3頁右下欄8〜18行) (2-6) 刊行物6は,電子メールシステムに関するもので,その従来技術を参酌すると,以下のような技術的事項が記載されている。
ア 「【従来の技術】一般に,送信者から所望の受信者へ所望のメールを送信して情報を伝達する電子メールシステムが知られている。
従来,上記電子メールシステムにおいては,受信者が不在の場合に受信者によって不在登録がなされることにより,その受信者に送信されたメールを所定の場所,すなわちメールホストシステムに保持しておき,戻った後に,その保持されているメールを受信する不在登録方法が提案されていた。
しかしながら,上記不在登録方法では,ユーザが不在登録を行い,外出先から戻った時に,在席しているにもかかわらず,メールホストから受信者に対して何のメッセージも表示されないため,解除の操作を忘れることがありえる。このために,受信者宛のメールがメールホストシステムに滞留してしまい,受信者がメールを読むことが遅れる欠点があった。
また,従来の電子メールシステムにおいては,受信者がメールを読んだか否かを送信者へ伝える技術(特開平4-90236号)が提案されているが,上述の様にメールホストシステムにメールが滞留していると,受信者のメール読みの確認が遅れ,読んでいないと間違って判断する可能性もあった。」(2頁左欄第30〜49行) イ 「一方,メール送信者が受信者側から送られてくるメール読みの情報(メールを読んだ確認情報)の問題について次に説明する。
すなわち,従来技術では,受信者が画面でメールをオープンすると,上記メール読み情報が発信者に伝えられるため,受信者がどの程度メールを読んだのかがわからない欠点があった。
つまり,極端な場合には,メールをオープンして数行を読んだ後,直ちにメールをクローズしたかもしれず,発信者にとっては,受信者にじっくり読んで欲しいメールを読んでもらえなかった場合に,両者の間でトラブルが発生することもあり得た。」(2頁右欄第18〜28行) (2-7) 刊行物7は,同じ情報をファクシミリや電子メールのように異なる送信メディアを用いて異なるデータフォーマットで送信可能なマルチメディアメッセージトランスミッタに関するもので,その実施例及び図面を参酌すると,概要,以下のような技術的事項が記載されている。
ア 1以上の受信者に種々のデータフォーマットの情報を選択的に送信できること,その一例はFAX(122)でのファクシミリ手段,ワークステーション(146)でのEメール手段であること(7頁27〜末行) イ 送信されるべきデータを発生する装置として画像スキャニング装置が示され(39頁20〜25行),(この画像スキャニング装置で)原稿を読取って得た画像データをEメールのフォーマットに変換すること(34頁6〜12行) (3) 対比・判断 (3-1) 本件発明1について 本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると,刊行物1における「公衆回線に接続するFAX送信モード」は本件発明1における「電話回線を使ってファクシミリ手順で送信する」ものに相当する。また,刊行物1における「LANに接続するLAN送信モード」は本件発明1における「LANを使って電子メールの手順で送信する」に対応させることができ,いずれも「LAN送信」の点で共通するものと認められるから,両者は,以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
(一致点) 「原稿を読み取ってイメージデータに変換する手段と,前記読み取ったイメージデータを圧縮し,LAN送信するイメージデータのフォーマットに変換する手段と,LAN送信のアドレスを入力する手段と,前記入力されたアドレスに対して前記フオーマット変換されたイメージデータをLANに送信するLAN制御手段と,電話回線を使ってファクシミリの手順でイメージデータを送信するモデム制御手段と,を備えたファクシミリ型送信装置であって, イメージデータを前記電話回線を使ってファクシミリ手順で送信するか,前記LANを使ってLAN送信の手順で送信するかを操作者がパネル部からLAN送信かファクシミリかを選択する手段をさらに備えたファクシミリ型送信装置。」(相違点) ア イメージデータに関して,本件発明1にあっては,「イメージデータを圧縮し,複数ページを一つのファイルとして保持する手段」及び「イメージデータを7ビットの文字コードに変換してテキストコード化イメージデータを生成する手段」により構成されるものであるのに対し,刊行物1にあっては,この構成が記載されていない点。
イ LAN送信するイメージデータのフォーマットが,本件発明1にあっては,「電子メール」のフォーマットであって「宛先,発信元,データの形式,文字コードへの変換方式の入ったへッダを付加して電子メールのフォーマットに変換する手段と,電子メールのアドレスを入力する手段と」を有するファクシミリ型電子メール装置であるのに対し,刊行物1にあっては,単に「LAN送信」するイメージデータのフォーマットであって電子メール装置に係わる記載がない点。
ウ 選択する手段が,本件発明1にあっては,パネル部の「ボタン」を押すことにより構成するものであるのに対し,刊行物1にあっては,操作パネル(8)におけるタッチパネル表示器(81)のエリアをタッチ操作することにより構成するものである点。
(検討) 相違点アについて,まず,「イメージデータを圧縮し,複数ページを一つのファイルとして保持する」手段について,イメージデータや文書などの情報を取り扱う際に,一連の情報は,ファイル構成として取り扱うことは通常であって当業者に自明の技術的事項であり,読み取ったイメージデータが複数ページとなるものは,これを一つのファイルとして保持し,管理することは当業者が適宜になし得るものと認められ,このファイルによる取り扱いをファクシミリないしはファクシミリ型電子メール装置に採用することは当業者が容易になし得ることと認められる。また,イメージデータを変換してテキストコード化する際に,「7ビットの文字コードに変換」することも,例えば本件発明の実施例としても例示するように,「MIME」として定義される周知の技術的事項(他に必要であれば,共立出版株式会社(1994-07-01)発行「bit」Vol.26,No.7,4〜14頁(注;本訴乙1),同(1994-08-01)発行「bit」Vol.26,No.8,4〜16頁(注;本訴乙2),株式会社アスキー(1992年12月1日)発行「UNIX MAGAZINE」第7巻第12号46〜52頁(注;本訴乙3))であり,さらに刊行物2には「個人識別情報-電子メールアドレス変換テーブルから電子メール用アドレスを求め,該受信画像データを電子メール用フォーマットに変換してLANに送出する電子メール発信装置」,刊行物3には「画像記憶部に記憶した画像データを前記LANインターフェイス部に接続したファイル・サーバ装置に記憶可能な形式に変換するファイル変換部」,刊行物7には「画像スキャニング装置で原稿を読取って得た画像データをEメールのフォーマットに変換する」との技術的事項が開示されているように,画像データのフォーマット等の変換は従来より周知の技術的事項であって,これを前記同様にイメージデータを扱うファクシミリないしはファクシミリ型電子メール装置に採用することも当業者が適宜になし得ることと認められる。そして,本件発明のように,刊行物1において,前記構成,すなわち「イメージデータを圧縮し,複数ページを一つのファイルとして保持する手段」と「イメージデータを7ビットの文字コードに変換してテキストコード化イメージデータを生成する手段」とを併せ構成することに技術的困難性,ないしは阻害する要因があるものとは認められず,また本件発明のように構成することにより奏する作用効果も,当業者が予測し得るものであって格別のものとは認められない。
相違点イについて,LAN送信するイメージデータのフォーマットが,本件発明1では電子メールのフォーマットとするものであるが,送受信装置での電子メールのフォーマット自体は当業者に自明の技術的事項(例えば,刊行物2,4参照)であり,また電子メールには当然に「宛先,発信元,データの形式等の入ったへッダ」を付加するものであって,当該データが変換等されている際には,予め規約上規定されているものでない限りそのデータの変換方式も明示する必要があることは技術常識であるから,これを本件発明1のように「宛先,発信元,データの形式,文字コードへの変換方式の入ったへッダを付加して電子メールのフォーマットに変換する」こと,また電子メールを送信するために「電子メール」のアドレスを入力する手段を備えることは,当業者が適宜になし得る設計上の事項と認められる。
相違点ウについて,メニュー等を選択する手段として,「ボタン」を押すことにより構成すること,及び「タッチパネル(表示器)のエリア」をタッチ操作することにより構成することはいずれも周知の技術的事項であり,具体的構成としてこれらのいずれを採用するかは当業者が適宜に定めうる設計上の事項にすぎないものと認められるから,本件発明1のように選択する手段を「ボタン」を押すことにより構成することは当業者が容易になし得ることと認められる。
以上のとおりであって,本件発明1のように構成することは,刊行物1ないし4及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと認められる。
(特許権者の主張について) 特許権者は,異議意見書において,要点,以下のとおり主張している。
(i)「刊行物1記載の発明は,社内LAN内において,原稿の回覧を行うためのものであり,LAN内に限った使用を前提としており,この点で本件特許発明とは相違するものと考えます。刊行物1には,たとえば,その図5には出力先アドレスとしてIPアドレスを指定することが記載されており,また,その図6には社内に配布するための宛先リストが記載されております。つまり,LAN外にあるインターネットを用いて送信することについての記載はないものとなっております。」(異議意見書4頁20〜26行) (ii)「さらに,本件特許発明は,複数のページを一つのファイルとして保持し,これをテキストコード化イメージデータにして電子メールで送信することを特徴の一つとするものであります。刊行物1記載の発明には,全ページを圧縮することについての記載はあるものの,これを一つのファイルとして保持して,電子メールで送信することの記載はありません。したがって,送信側における送信処理を効率化し,受信側においても同様に送信処理を効率化する,といった効果を得ることができないものとなっております。」(異議意見書5頁20〜24行) (iii)「さらに,本件特許発明は,電子メールで送信するための特別の処理をしております。すなわち,イメージデータを7ビットの文字コードに変換してテキストコード化イメージデータを生成する構成,このテキストコード化イメージデータに,宛先,発信元,データの形式,文字コードへの変換方式の入ったへツダを付加して電子メールのフォーマットに変換する構成をとっております。この点において,いかなるデータで電子メールによるフオーマット化されているかが,受信側でわかり,前述した特徴点(一つのファイルにする点)とあいまって,受信側での受信処理を効率的に行うことができる,といった効果を奏するものであります。そして,このように,電子メールで送信することにより,世界中にある相手端末に対してデータ送信をすることができ,刊行物1記載の発明からは得ることのできない,特有の効果を奏するものであります。」(異議意見書5頁24行〜6頁6行) しかしながら,これら(i)〜(iii)の主張について,刊行物1においても「FAXC(5)」「LANC(6)」が明示され,また図3には「FAX送信(A4)」「LAN送信(A5)」が記載されており,それぞれ所定の「通信モード」(すなわち「ファクシミリ通信モード」「ネットワーク通信モード」)によるプロトコルで通信されるものであり(段落番号【0003】〜【0005】),本件発明においてもそのLANの具体的な態様を特許請求の範囲に規定するものではない(本件特許明細書の従来技術としての段落番号【0003】に「世界規模のネットワークであるインターネットが現在急速に増殖中」と記載されているものの,本件発明について該ネットワークをLAN内外とインターネットを必須のものとする「電子メール」に限定しているものではない)から,本件発明1において前記刊行物1のLANによるものと差異があるものではない。なお,仮に,ネットワークを特許権者が主張するようなLAN内外,インターネットをも含む広範なネットワークであったとしても,該ネットワークは周知のものであってこれに係わるLAN(送信)での構成に格別の技術的困難性を要するものとも認められない。
また,本件発明1のファイルは「複数ページ」に基づく「一つのファイル」と規定しており,この点における技術的意義は本件特許明細書を参酌しても明確な記載が認められないものの,要するにイメージデータを一括,一連のデータとして,すなわち「一つのファイル」として取り扱うことが行えればよい点にあるものと推認されるが,個々のデータの取り扱いは個々のファイルとして管理等することが通常であることは前記したとおりであり,刊行物1において取り扱うデータを本件発明1のような「複数ページを一つのファイル」として管理し,取り扱うことに格別の困難性はないものと認められる。
さらに,イメージデータを7ビットの文字コードに変換することも,相違点アで検討したところであり,この点にも格別の技術的意義ないし作用効果を有するものとは認めることができない。
したがって,特許権者の当該主張はいずれも採用することができない。
(3-2) 本件発明2について 本件発明2は,請求項1を引用し,さらにその構成として「電子メールにより送信されてきたイメージデータを受信する手段と,電子メールに付加されているへッダからイメージデータであることを確認して,前記イメージデータを電子メールのフオーマットからファクシミリのフォーマットに変換する手段と,前記フォーマット変換されたイメージデータを伸長する手段と,前記伸長されたイメージデータを印刷する手段とを備えた」構成を付加するするものであって,本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,本件発明1におけると同様の相違点を有すると共に,本件発明2は前記付加された構成を有するものと認められる。
しかしながら,本件発明1におけると同様の相違点は前記と同様の理由により,当業者が容易になし得るものと認められる。
そして,前記付加された構成を有する点については,刊行物1においても,「本発明は,スキャナで読み込んだ原稿の画像情報を出力する機能として,プリンタによる複写印刷機能,ファクシミリ通信による送信機能,LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)等のネットワーク通信による送信機能,光ディスク装置等の記憶媒体に対する情報記録機能等のうちの少なくとも2機能を備えてなるマルチファンクション型複写装置,いわゆる複合型画像処理装置に関する。」(段落番号【0001】),「ファクシミリ制御装置5は,ファクシミリの通信手順に従って公衆回線との接続インタフェースをなすモデムと送受信バッファ及びこれらの制御を行うプロセッサからなり,モジュラケーブル5aを介して公衆回線に接続されて,上記画像情報の送受信を行なう。ネットワーク制御装置6は,物理層をイーサネットとするLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)に接続する接続インタフェースと,このLANの通信プロトコルを制御するプロセッサとからなり,ケーブル6aを介してLANに接続されて,上記画像情報の送受信を行なう。」(段落番号【0023】【0024】)旨,記載されており,また「2値化ページメモリ及び圧縮伸張回路(18)」(段落番号【0047】〜【0050】)を具備するものであり,さらに刊行物4においても電子メールで受信した画像をファクシミリ用に変換する技術が開示されており,これらの受信画像情報は通常,印刷するものであるから,この請求項2に記載のように付加された構成とすることは,刊行物1及び刊行物4を参酌することにより,当業者が適宜になし得るものである。
したがって,本件発明2についても,刊行物1ないし4及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと認められる。
(3-3) 本件発明3について 本件発明3は,請求項1又は2を引用し,さらにその構成として「文字コードデータを電子メールにより送受信する手段とを備えた」構成を付加するものであって,本件発明3と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,本件発明1又は本件発明2におけると同様の相違点を有すると共に,本件発明3は前記付加された構成を有するものと認められる。
しかしながら,本件発明1又は本件発明2におけると同様の相違点は前記と同様の理由により,当業者が容易になし得るものと認められる。
そして,前記付加された構成を有する点については,刊行物1にもデータを電子メールにより送受信する手段が開示されており,また電子メールの送受信においては,通常,文字コードデータを送受信する手段を具備することは当業者に自明の技術的事項であるから,このように構成することも当業者が適宜になし得ることと認められる。
したがって,本件発明3についても,刊行物1ないし4及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと認められる。
(3-4) 本件発明8について 本件発明8は,請求項3を引用し,さらにその構成として「受信した文字コードデータの所定の位置にある文字列を解析する手段と,前記解析結果に応じた処理を行う手段とを備えた」構成を付加するするものであって,本件発明8と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,本件発明3におけると同様の相違点を有すると共に,前記付加された構成を有する点でさらに相違し,その余は一致するものと認められる。
しかしながら,本件発明3におけると同様の相違点は前記と同様の理由により,当業者が容易になし得るものと認められる。
そして,前記付加された構成を有する点について,本件発明8における「文字コードデータ」は「受信した」ものであればよく,解析されるデータを特定の「文字コードデータ」である旨規定するものではないから,刊行物1においても主制御部(11)により装置の各部を制御する旨記載されており(段落番号【0030】),また,刊行物4には,「電子メールをヘッダー情報とメッセージ本体とに分離する」こと,及び「ヘッダー処理部から宛先情報を受け取った上で,この内容を前期ユーザ情報格納部が格納する該当するユーザの所定の情報を取り出して,電子メール送信を行うかファクシミリ送信を行うかを判断する」ことが開示されており,電子メールを送受信する装置にあって,「受信した文字コードデータの所定の位置にある文字列を解析する手段」及び「解析結果に応じた処理を行う手段」を具備するように構成することは当業者に容易になし得ることと認められる。
したがって,本件発明8についても,刊行物1ないし4及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと認められる。
(3-5) 本件発明14について 本件発明14は,請求項2から13のいずれかを引用し,さらにその構成として「自装置宛の電子メールアドレスを複数登録する手段と,電子メールにより送信されてきたイメージデータを前記電子メールアドレスごとに蓄積,管理する手段と,各電子メールアドレス毎にバスワードを設定する手段と,前記パスワードを入力したときに前記蓄積されたイメージデータを出力する手段とを備えた」構成を付加するするものであって,本件発明14と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,本件発明2,3又は8におけると同様の相違点を有すると共に,前記付加された構成を有する点でさらに相違し,その余は一致するものと認められる。
しかしながら,本件発明2,3又は8におけると同様の相違点は前記と同様の理由により,当業者が容易になし得るものと認められる。
そして,前記付加された構成を有する点について,刊行物1においても「送信先情報(ネットワークアドレス,ユーザID等)を設定する」(段落番号【0048】)旨記載されているように,通常,送受信先のアドレスあるいはID(パスワード)などを取り扱うものであり,また,刊行物5には,電子メールシステムで「パスワードをあらかじめ受取人名ごとに登録し,パスワードを入力して対応する文書を記憶媒体から読み出して印刷する」こと,及び「予め登録されている受取人名とパスワードの対応テーブル12」が記載されており,本件発明14についても,刊行物1ないし5及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと認められる。
(3-6) 本件発明15について 本件本件発明15は,請求項2から14のいずれかを引用し,さらにその構成として「電子メールを受信したときに,送信者の電子メールアドレスに前記電子メールが届いた旨の確認電子メールを送信する手段を備えた」構成を付加するするものであって,当該本件発明15と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,本件発明2,3,8又は14におけると同様の相違点を有すると共に,前記付加された構成を有する点でさらに相違し,その余は一致するものと認められる。
しかしながら,本件発明2,3,8又は14におけると同様の相違点は前記と同様の理由により,当業者が容易になし得るものと認められる。
そして,前記付加された構成を有する点について,電子メールシステムで電子メール受信時に「確認電子メールを送信する手段」を設けることは,例えば刊行物6に見られるように,従来より周知の技術的事項であるから,本件発明15についても,刊行物1ないし7に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと認められる。
(3-7) 本件発明17について 本件発明17は,請求項1を引用し,さらにその構成として「操作者のパネル部からの選択は,パネル部から電子メールかファクシミリかを選択するボタンを押すことにより行われる」構成を付加するするものであって,本件発明17と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,本件発明1におけると同様の相違点を有するものと認められる。すなわち,「操作者のパネル部からの選択は,パネル部から電子メールかファクシミリかを選択するボタンを押すことにより行われる」構成は,請求項1に規定されており,本件発明17は,実質的に本件発明1と差異を有するものとは認められない。
したがって,本件発明1におけると同様の理由により,当業者が容易になし得るものと認められる。
なお,この付加された構成を有する点についてさらに付言すると,刊行物1にも「原稿の画像をファクシミリ送信する場合には,操作パネル8におけるタッチパネル表示器81のFAX送信モードエリアA4をタッチ操作してタッチパネル表示器81にファクシミリ入力画面を表示させたならば,送信先情報(電話番号,短縮ダイヤル番号等)を設定する。」(段落番号【0046】)旨記載されており,操作時に選択するための「タッチパネル(表示器)のエリア」と本件発明17における「ボタン」とは,操作する手段としての機能に差異を有するものではないから,具体的構成を「ボタン」とすることは,前記したように当業者が容易になし得るものと認められる。
原告主張の決定取消理由
決定は,本件発明1についての判断を誤り(取消理由1),本件発明2についての判断を誤り(取消理由2),本件発明14についての判断を誤り(取消理由3),その結果,本件発明3,8,15及び17についての判断を誤った(取消理由4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消理由1(本件発明1についての相違点の判断の誤り) (1) 決定は,本件発明1と刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」という。)との相違点アについて,引用発明において,「イメージデータを圧縮し,複数ページを一つのファイルとして保持する手段」と「イメージデータを7ビットの文字コードに変換してテキストコード化イメージデータを生成する手段」とを併せ構成することに,技術的困難も阻害要因もなく,格別の作用効果もないと判断したが,誤りである。
本件発明1は,ファクシミリ通信による長距離通信を超える超長距離通信,ファクシミリ通信ではカバーできない範囲にまで通信範囲を拡大すべく,インターネット通信を利用するものであり,そのために,電子メールプロトコル(SMTP)を採用して,ファイアウォールの外側に位置する全世界の不特定多数の端末との長距離通信をあたかもファクシミリ通信と同様の操作でできるようにした。
これに対して,引用発明は,ファクシミリ通信と所定エリア内でのLAN通信とを利用するものであり,LANでは,標準通信技術としてイーサネットを採用している。
ところで,イーサネットは,当初は短距離通信技術として利用されてきたのであり,LANが短距離通信として標準使用されていた本件特許の出願時の時代的背景からすると,ファクシミリ通信機能とインターネット通信機能という技術的特性の異なる2つの長距離通信手段を,ファクシミリ装置の優れた操作性を生かすという意味での統一を図りつつも,両者を融合するという発想は,当業者に容易であったとは考えられない。そうすると,短距離通信をLANにより,長距離通信をファクシミリによりそれぞれ行う引用発明の存在は,本件発明1の動機付けとならないばかりか,かえってそれを阻害するものである。
(2) また,決定は,本件発明1と引用発明との相違点イについて,電子メールフォーマットが自明であること,電子メールにはヘッダが付加されること,電子メールには文字コードへの変換方式の明示を要することを理由に,当業者が適宜なし得る設計上の事項であると判断したが,誤りである。
本件発明1の「前記圧縮されたイメージデータを7ビットの文字コードに変換してテキストコード化イメージデータを生成する手段と,このテキストコード化イメージデータに,宛先,発信元,データの形式,文字コードへの変換方式の入ったヘッダを付加して電子メールのフォーマットに変換する手段」との構成は,本件発明1がインターネットを利用した電子メール通信が可能であることを直接意味する。
そして,この構成により,データ送信を行う場合に宛先アドレスを指定して送信ボタンを押すことにより,スキャナによるデータの読み取り,読み取ったデータの圧縮,7ビット文字コード変換処理,というすべての処理が順次実行されてテキストコード化イメージデータが生成され,生成されたテキストコード化イメージデータにヘッダが付加されてそのまま送信されるのであって,イメージデータを電子メールデータとして,しかもファクシミリと同様の操作手順で送信することにより,装置の操作性が格段と向上し,かつ,処理効率が格段と向上することになる。
これに対して,刊行物1には,LAN送信については記載されているものの,その詳細についての開示は一切ない。
一般的なパソコンを用いた電子メールの処理方法によるとすれば,データを生成取得する処理とこれを電子メールフォーマットに変換する処理とが全く別の段階で行われるものであるから,そうであれば,本件発明1は,装置の操作性と送信装置としての処理効率との2面において,引用発明と根本的に相違する。
2 取消理由2(本件発明2についての判断の誤り) 決定は,本件発明2について,請求項2の記載事項により本件発明1に付加された構成は,刊行物1ないし4,7を参酌することにより,当業者が適宜になし得ると判断したが,誤りである。
本件発明2は,「電子メールに付加されているヘッダからイメージデータであることを確認して」,イメージデータに対して適切な処理を行うことを特徴の一つとするものであり,この特徴的構成により,例えば,受信データがイメージデータであれば印刷処理を実行し,イメージデータでなければフォント部を用いて展開処理を実行することができる等,受信データに応じて効率のよい処理を実現することができるという効果を奏するものである。
これに対して,刊行物1には,ファクシミリで受信したことが記載されているにすぎず,また,刊行物4には,受信した電子メールをファクシミリに変換することが記載されているにすぎず,刊行物1及び4には,本件発明2の上記特徴的構成については一切の開示,示唆がない。
したがって,本件発明2は,刊行物1ないし4及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。
3 取消理由3(本件発明14についての判断の誤り) 決定は,本件発明14が,刊行物1ないし5及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと判断したが,誤りである。
刊行物5には,装置に複数の電子メールアドレスを有するとの記載はなく,またその示唆もない。刊行物5における受取人名は,送信側でコントロールドキュメントを用いて指定されるものであり,電子メールアドレスとは別のものであることは明らかである。しかも,請求項14は,請求項2の従属項であるから,本件発明14に対する判断は,2で述べたと同様の誤りがある。
したがって,本件発明14は,刊行物1ないし5及び7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものでない。
4 取消理由4(本件発明3,8,15及び17についての判断の誤り) 決定は,本件発明3,8,15及び17は,刊行物1ないし7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものと判断したが,誤りである。
請求項3,8,15及び17は,いずれも請求項1又は2の従属項であるから,本件発明3,8,15及び17に対する判断は,1及び2で述べたと同様の誤りがある。
したがって,本件発明3,8,15及び17は,刊行物1ないし7に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものでない。
当裁判所の判断
1 取消理由1(本件発明1についての相違点ア及びイの判断の誤り)について (1) 取消理由1の(1)(相違点アに関する判断部分)について ア 本件発明1は,その特許請求の範囲の記載によれば,送信すべきデータを電子メールのフォーマットに変換し,電子メールのアドレスを付加して,LANに送出する構成を備えた装置であると認められるから,LANがインターネットに接続されるということが特許請求の範囲に規定されていないとしても,本件発明1がインターネットを利用した電子メール通信を行うものであるという原告の主張に理由がないということはできない。
イ ところで,刊行物1(甲4)には,次の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】 本発明は,スキャナで読み込んだ原稿の画像情報を出力する機能として,プリンタによる複写印刷機能,ファクシミリ通信による送信機能,LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)等のネットワーク通信による送信機能,光ディスク装置等の記憶媒体に対する情報記録機能等のうちの少なくとも2機能を備えてなるマルチファンクション型複写装置,いわゆる複合型画像処理装置に関する。」(2頁右欄9〜17行) 「【0024】ネットワーク制御装置6は,物理層をイーサネットとするLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)に接続する接続インタフェースと,このLANの通信プロトコルを制御するプロセッサとからなり,ケーブル6aを介してLANに接続されて,上記画像情報の送受信を行なう。」(4頁左欄39〜44行) 「【0048】また,原稿の画像をネットワーク送信する場合には,操作パネル8におけるタッチパネル表示器81のLAN送信モードエリアA5をタッチ操作してタッチパネル表示器81にネットワーク入力画面を表示させたならば,送信先情報(ネットワークアドレス,ユーザID等)を設定する。しかる後,原稿をスキャナ2にセットしてスタートキーK2を入力する。」(6頁左欄11〜17行) これらの記載によれば,引用発明は,その実施例としてLAN通信を利用しているが,これは例示にすぎず,一般的なネットワーク通信による送信機能を有するものであると認められる。
また,乙1ないし3によれば,共立出版株式会社(1994-07-01)発行「bit」Vol.26,No.7(乙1)及び同(1994-08-01)発行「bit」Vol.26,No.8(乙2)には,MIMEとは,「一言でいって,7bitデータへのエンコーディング技法および大容量データの自動分割/統合技法の二つを基礎とし,必要に応じてマルチパーティング法を併用しながら,テキストデータや,画像/音声などのマルチメディアデータ,さらにはアプリケーションタイプを用いたプログラムの遠隔実行といった多目的メッセージ通信を実現するための枠組み」(乙1の10頁,乙2の4頁)であるとの記載があり,また,株式会社アスキー(1992年12月1日)発行「UNIX MAGAZINE」第7巻第12号(乙3)には,「たとえば,イメージデータやバイナリデータなどは8ビットデータを含むため,7ビットコードしか通らない通常のMTAは通過できません。そのため,なんらかの変換を加えなければなりません(要するにuuencodeのようなもの)。これにはさまざまな変換方法があり,MIMEではエンコーディングの指定としてQuoted-Printable, Base64, 7BIT, 8BIT, BINARYが用意されています」(50頁)との記載のあることが認められ,これらの記載によれば,本件発明1に係る特許の出願当時,イメージデータをインターネットを利用した電子メールで送信するためのフォーマットが既に公表されていたことが認められる。
ウ 以上の事情によれば,ネットワーク通信(これには,インターネットによる電子メール通信も含まれる。)による送信機能を開示する引用発明から本件発明1に到ることについて何ら阻害要因はなく,かえって,引用発明は本件発明1の動機付けになるものということができる(なお,引用発明は,上記のように,一般的なネットワーク通信による送信機能を有するものであって,LAN通信を利用するものに限られないから,LAN通信で標準通信技術として採用しているイーサネットが当初は短距離通信技術として利用されてきたものであるとしても,このことによって,上記の判断が変わるものではない。)。
(2) 取消理由1の(2)(相違点イに関する判断部分)について ア 本件発明1は,「前記圧縮されたイメージデータを7ビットの文字コードに変換してテキストコード化イメージデータを生成する手段と,このテキストコード化イメージデータに,宛先,発信元,データの形式,文字コードへの変換方式の入ったへッダを付加して電子メールのフォーマットに変換する手段と,電子メールのアドレスを入力する手段と,前記入力された宛先メールアドレスに対して前記フォーマット変換されたイメージデータをLANに送信するLAN制御手段」との構成を備えるものである。しかし,これらの手段の関係は,特許請求の範囲に何ら記載されていないから,原告の主張するように,データ送信を行う場合に宛先アドレスを指定して送信ボタンを押すことにより,スキャナによるデータの読み取り,読み取ったデータの圧縮,7ビット文字コード変換処理,というすべての処理が順次実行されて,イメージデータをファクシミリと同様の操作手順で送信するということには,当然にはならないものである。
イ また,刊行物1には,次の記載がある。
「【0046】また,原稿の画像をファクシミリ送信する場合には,操作パネル8におけるタッチパネル表示器81のFAX送信モードエリアA4をタッチ操作してタッチパネル表示器81にファクシミリ入力画面を表示させたならば,送信先情報(電話番号,短縮ダイヤル番号等)を設定する。しかる後,原稿をスキャナ2にセットしてスタートキーK2を入力する。
【0047】そうすると,主制御部11は先ず送信先情報をFAX送信待ち行列エリア12aにセットする。そして,特に送信待ち状態の画像情報がエリア12bに存在しないときには,スキャナ2に駆動命令を出力し,スキャナ2からの画像情報をスキャナインタフェース15を介して読取り,2値化ページメモリ及び圧縮伸張回路18により2値化,圧縮処理等を原稿の全ページに対して行った後,ファクシミリ制御装置5を制御してFAX送信待ち行列エリア12aの先頭の送信先情報,すなわち今設定した送信先情報の送信先へファクシミリ送信手順に従い回線接続して画像情報をファクシミリ送信する。
【0048】また,原稿の画像をネットワーク送信する場合には,操作パネル8におけるタッチパネル表示器81のLAN送信モードエリアA5をタッチ操作してタッチパネル表示器81にネットワーク入力画面を表示させたならば,送信先情報(ネットワークアドレス,ユーザID等)を設定する。しかる後,原稿をスキャナ2にセットしてスタートキーK2を入力する。
【0049】そうすると,主制御部11は先ず送信先情報をLAN送信待ち行列エリア12bにセットする。そして,特に送信待ち状態の画像情報がエリア12bに存在しないときには,スキャナ2に駆動命令を出力し,スキャナ2からの画像情報をスキャナインタフェース15を介して読取り,2値化ページメモリ及び圧縮伸張回路18により2値化,圧縮処理等を原稿の全ページに対して行った後,ネットワーク制御装置6を制御してLAN送信待ち行列エリア12bの先頭の送信先情報,すなわち今設定した送信先情報の送信先へネットワークに対応したプロトコルに従い回線接続して画像情報を送信する。」(5頁右欄42行ないし6頁左欄29行) ウ 以上の記載によれば,引用発明は,ネットワーク通信とファクシミリ通信とを同様の操作で行うものであると認められるから,引用発明のネットワーク通信に電子メール通信を導入したときに,ファクシミリと同様の操作により電子メール通信を行うようにすることは,当然に想定されるものである。そうすると,仮に本件発明1がイメージデータをファクシミリと同様の操作手順で送信することができるというものであるとしても,装置の操作性と送信装置としての処理効率との2面において,引用発明と根本的に相違するということはできない。
エ なお,原告は,一般的なパソコンを用いた電子メールの処理方法によるとすれば,データを生成取得する処理とこれを電子メールフォーマットに変換する処理とが全く別の段階で行われると主張するところ,確かに,インターネットを利用した電子メール通信によりイメージデータを送信するときは,通常,イメージデータを電子メールに添付するのであって,データを生成取得する処理とこれを電子メールフォーマットに変換する処理とが全く別の段階で行われることになるから,一般的なパソコンを用いた電子メールの処理方法によっては,ファクシミリと同様の操作手順でイメージデータを送信することはできない。しかし,上記(1)で既に判示したように,本件発明1に係る特許の出願当時,インターネットを利用した電子メールでイメージデータを送信するためのフォーマットが,乙1ないし3により既に公表されていたのであって,一般的なネットワーク通信による送信機能を有する引用発明に電子メール通信を導入したときには,当業者であれば,当然に,ファクシミリと同様の操作により電子メール通信を行うようにすると考えられる。したがって,インターネットを利用した電子メール通信によりイメージデータを送信するときに,イメージデータを電子メールに添付するのが通常であるとしても,本件発明1は,引用発明及び乙1ないし3により認められる周知の技術に基づき当業者が容易に発明することができたといわなければならない。
(3) そうであってみれば,本件発明1が引用発明及び本件発明1の出願当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定に誤りはない。原告の主張は,理由がない。
2 取消理由2(本件発明2についての判断の誤り)について (1) 上記1で認定した刊行物1(甲4)の記載によれば,引用発明は,スキャナ,プリンタ,ファクシミリ制御手段,ネットワーク制御手段等を備えた複合型画像処理装置であり,スキャナで読み取った原稿をプリンタで印刷するか,ファクシミリで送信するか,LAN等のネットワーク通信で送信するかを選択するものであることが認められる。そうすると,上記装置がネットワークに接続された他の複合型画像処理装置からネットワーク通信で原稿を受信したときには,これを自装置のプリンタで印刷することは,当然に想定されるものといわなければならない。
(2) また,乙2,3によれば,共立出版株式会社(1994-08-01)発行「bit」Vol.26,No.8(乙2)には,「MIMEには ・テキスト ・マルチパート ・メッセージ ・アプリケーション ・画像 ・音声 ・ビデオ の7種類のデータタイプが用意されている。この7種類は,基本的に現在コンピュータ上で使われているすべての種類のデータを網羅することを念頭に置いて規定されたものであって,これ以上のさらに細かい分類,たとえば「○○という形式で表現された画像データ」などという指定は,これら7種類のデータタイプのサブタイプとして指定されることになる。一般に,データタイプTypeのサブタイプSubTypeを用いて記述されたメッセージは,ヘッダ中では Content-Type:Type/Subtype のように宣言される」(6頁)との記載があり,株式会社アスキー(1992年12月1日)発行「UNIX MAGAZINE」第7巻第12号(乙3)には,「Content-Type:ヘッダ メッセージの中身のタイプを表すためのヘッダです。サブタイプ(subtype)としてさらに細かく指定することもでき,同時にパラメータを付けることもできます。現在は,タイプとしてtext, multipart, application, message, image, audio, videoの7種が指定できます。」(49頁),「Content-Transfer-Encording:ヘッダ たとえば,イメージデータやバイナリデータなどは8ビットデータを含むため,7ビットコードしか通らない通常のMTAは通過できません。そのため,なんらかの変換を加えなければなりません(要するにuuencodeのようなもの)。これにはさまざまな変換方法があり,MIMEではエンコーディングの指定としてQuoted-Printable, Base64, 7BIT, 8BIT, BINARYが用意されています」(50頁)との記載があることが認められ,上記文献には,電子メールのヘッダに「データの型式」や「文字コードへの変換方法」を含めることが記載されているのである。そして,これらのヘッダが,受信時の処理のために用いられることは明らかであるから,受信した電子メールのヘッダにデータ型式などの記述があり,イメージデータであることが確認されれば,これをイメージデータに変換することは当然であり,さらに,変換したイメージデータに対し印刷その他適切な処理を行うことは,当業者が適宜になし得るものであるといわざるを得ない。
(3) そうであれば,引用発明のLAN通信に,周知の電子メールフォーマットを適用した場合,請求項2に記載された手段を備えることは,当業者が適宜になし得る事項であると認められる。原告の主張は,理由がない。
3 取消理由3(本件発明14についての判断の誤り)について (1) 刊行物5(甲8)に記載された発明の特許請求の範囲には,「ホストコンピュータと,複数の文書蓄積可能な記憶媒体を有する端末群と,前記ホストコンピュータと端末群との間を結ぶネットワークとから構成される電子メールシステムにおいて,前記ホストコンピュータは,親展配信を直ちに前記端末へ送り,前記端末は,親展配信のコントロールドキュメントの受取人名を文書に対応して登録する手段と,親展配信があったことを表示する手段と,パスワードをあらかじめ受取人ごとに登録する手段とを有し,パスワードを入力することにより対応する文書を前記記憶媒体から読み出して印刷することを特徴とする電子メールシステム」と記載されている。
これによれば,刊行物5に記載された発明は,受取人名を複数登録する手段と,電子メールにより送信されてきた文書を受取人名に対応付けて蓄積,管理する手段と,受取人名毎にパスワードを設定する手段と,パスワードを入力したときに蓄積された文書を出力する手段とを備えた電子メール端末であると認められる。
確かに,原告が主張するように,刊行物5に記載された発明にいう「受取人名」が,電子メールアドレスを示すものであるかどうかは明らかではない。しかし,上記「受取人名」は,電子メールにより送信される文書の受取人を指定するものであり,電子メールシステムでは,電子メールアドレスにより受取人が特定されるのであるから,刊行物5に記載された発明において,複数の電子メールアドレスをパスワードを設定して登録するようにして,本件発明14のように構成することは,当業者が適宜になし得る事項であると認められる。
(2) また,請求項14は,請求項2を引用して記載されているところ,上記2で既に判示したように,本件発明2についての判断に誤りがあるという原告の主張は理由がないから,本件発明14についての判断に誤りがあるとの原告の主張も理由がない。
4 取消理由4(本件発明3,8,15及び17についての判断の誤り)について 請求項3,8,15及び17は,いずれも請求項1及び2を引用して記載されているところ,上記1及び2で既に判示したように,本件発明1及び2についての判断に誤りがあるとの原告の主張は理由がないから,本件発明3,8,15及び17についての判断に誤りがあるとの原告の主張も理由がない。
5 結論 以上のとおりであって,原告主張の決定取消事由には理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
なお,原告は,口頭弁論の終結後に,参考資料を添付した上申書を提出したので,これを慎重に検討したところ,弁論再開の要はみなかったが,同書で指摘された点については,これに留意した上で,上記判断をした。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久