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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10083号
審決取消請求事件
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/10/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年10月10日判決言渡 平成24年(行ケ)第10083号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年9月26日 判 決 原 告 東日本メディコム株式会社 訴訟代理人弁理士 橋 本 克 彦 土 田 新 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 矢 島 伸 一 田 中 庸 介 田 部 元 史 田 村 正 明 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた判決 特許庁が不服2010−11228号事件について平成24年1月24日にした 審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,特許出願に対する拒絶審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無で ある。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成13年1月30日,名称を「携帯端末を利用した商品情報システム」 とする発明について特許出願(特願2001−21647号,請求項の数7)をし, 平成20年10月31日付けの補正(甲15,請求項の数5)及び平成21年7月 21日付けの補正(甲19,請求項の数2)をしたが,特許庁は,平成22年2月 1日付けで,平成21年7月21日付けの補正を却下するとともに,拒絶査定をし た。そこで,原告は,平成22年5月10日,拒絶査定に対する不服審判請求(不 服2010−11228号)をするとともに,同日付けの本件補正(甲24,請求 項の数2)をしたが,特許庁は,平成24年1月24日,「本件審判の請求は,成 り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成24年2月3日,原告に送達され た。 2 本願発明の要旨 本件補正は,特許請求の範囲の請求項1の記載を補正することなどを内容とする ものであるが,本件補正前後の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件 補正前の請求項1に記載された発明を「補正前発明」といい,本件補正後の請求項 1に記載された発明を「補正発明」という。)。 (1) 本件補正前の(平成20年10月31日付けの補正による)請求項1 商品に関する情報をコード化した商品情報表示部を有する商品と,前記商品情報 の読取部,前記読取部で読み取った情報を文字や画像情報に変換する変換回路,前 記文字情報を表示する液晶画面,双方向通信回線を有する携帯端末とからなり,前 記商品情報表示部に表示されたコード化された情報に通信情報が含まれており,前 記携帯端末が有する双方向通信回線を介して商品管理者へ送信することにより前記 商品管理者から返信される商品情報が前記液晶画面に表示されることを特徴とする 携帯端末を利用した商品情報システム。 (2) 本件補正による請求項1(下線部分が補正箇所) 商品に関する情報を2次元バーコード化した商品情報表示部を有する商品と,前 記商品情報表示部の読取部,前記読取部で読み取った情報を文字や画像情報に変換 する変換回路,前記文字や画像情報を表示する液晶画面,双方向通信回線を有する 携帯端末とからなり,前記商品情報表示部に表示された2次元バーコード化された 情報にインターネット情報が含まれており,前記携帯端末が有するインターネット 回線を介して商品管理者へ送信することにより前記商品管理者から送信される商品 情報が前記液晶画面に表示されることを特徴とする携帯端末を利用した商品情報シ ステム。 3 審決の理由の要点 (1) 概要 補正発明は,引用例1(特開平10−49613号公報,甲10)に記載された 引用発明1,引用例2(特開2000−224328号,甲11)に記載された引 用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ って,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることが できず,したがって,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法 17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に違反するから,平 成14年法律第24号による改正前の特許法159条1項において準用する同改正 前の特許法53条1項の規定により却下すべきものである。 また,補正前発明は,補正発明から本件補正に係る限定及び誤記の訂正を除いた ものであるから,補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明をすることがで きたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (2) 審決がした引用発明1の認定,引用発明1と補正発明との一致点及び相違 点の認定 【引用発明1】 商品に関する情報であるバーコード情報を記載又は貼付した商品と,前記記載又 は貼付されたバーコード情報を読み取るバーコード情報読取手段,前記バーコード 情報読取手段で読み取った情報を商品情報に変換する手段,前記商品情報を表示す る液晶表示部,PHS通信方式による双方向通信回線を有する携帯型のバーコード 端末装置とからなり,前記記載又は貼付されたバーコード情報を前記携帯型のバー コード端末装置が有するPHS通信方式による双方向通信回線を介して商品管理者 側のホスト装置へ送信し,前記商品管理者側のホスト装置から送信される情報が前 記液晶表示部に表示される携帯型のバーコード端末装置を用いた商品管理システ ム。 【一致点】 商品に関する情報をバーコード化した商品情報表示部を有する商品と,前記商品 情報表示部の読取部,前記読取部で読み取った情報を商品に関する情報に変換する 変換回路,前記商品に関する情報を表示する液晶画面,双方向通信回線を有する携 帯端末とからなり,前記携帯端末が有する双方向通信回線を介して商品管理者へ送 信し,前記商品管理者から送信される情報が前記液晶画面に表示される携帯端末を 利用した商品情報システム。 【相違点a】 補正発明は「2次元バーコード化」するのに対し,引用発明1は「2次元バーコ ード化」に係る構成を有していない点。 【相違点b】 補正発明は「商品情報表示部に表示された2次元バーコード化された情報にイン ターネット情報が含まれて」いるのに対し,引用発明1では当該構成を有するか否 か不明である点。 【相違点c】 「双方向通信回線」に関し,補正発明は「インターネット回線」であるのに対し, 引用発明は「PHS通信方式による双方向通信回線」である点。 【相違点d】 「商品に関する情報を表示する液晶画面」,「商品に関する情報に変換する変換 回路」に関し,補正発明は「文字や画像情報を表示する液晶画面」,「文字や画像 情報に変換する変換回路」であるのに対し,引用発明1は当該構成を有するか否か 不明である点。 【相違点e】 補正発明は「商品管理者へ」(読み取った情報を)「送信することにより」(そ の結果として,)「前記商品管理者から送信される商品情報が前記液晶画面に表示 される」のに対し,引用発明1は当該構成を有するのか否か不明である点。 (3) 相違点等に関する審決の判断 ア 相違点aについて 2次元コードは周知のものであって(例えば,特開2000−222520号公 報(甲22),特開2000−332943号公報(甲28)),引用発明1につ いて,「バーコード」情報に代えて「2次元バーコード」を採用することは,当業 者であれば適宜なし得ることである。 イ 相違点dについて 引用発明1の「液晶表示部(表示画面)」が文字や数字を表示することは明らか であるから,引用発明1において,「商品情報(商品に関する情報)」が文字や数 字で「液晶表示部(表示画面)」に表示されることも明らかである。そして,「商 品情報(商品に関する情報)」として文字や数字に加えて,マークや図柄等の画像 も表示するようにすることは,必要に応じて採用することのできる設計的事項にす ぎず,相違点aで言及した周知の2次元コードを採用すれば,当該コード化された 情報から画像データを表示することができることも知られていることから(甲22 公報),引用発明1について,「文字や画像情報を表示する液晶画面」及びその表 示のために「文字や画像情報に変換する変換回路」を設けることは,当業者であれ ば適宜なし得ることである。 ウ 相違点b,c,eについて 引用例2には,「商品に表示されているバーコード情報にネットワークのアクセ ス情報が含まれており,バーコード情報から得られるデータを携帯電話網を介して サーバーに送信すると,サーバーから送信される商品情報が液晶パネルに表示され る装置」(引用発明2)が記載されていると認められるところ,この「サーバー」 は,食品メニューの「食品アイテムに含まれている栄養素別エネルギー量のデータ (商品情報)」を保管し,当該データを提供する側のものであるから,補正発明の 「商品管理者」に相当し,相違点eに係る補正発明の構成は,引用発明1に引用発 明2を適用することにより容易に想到し得るものである。そして,携帯端末とサー バーあるいは情報管理者が「インターネット回線」を介して商品に関する情報を送 受することは周知であるから(例えば,特開2000−358105号公報(甲2 6),特開2000−268090号公報(甲29),特開平9−247216号 公報(甲30)),引用発明1について,「PHS通信方式による双方向通信回線」 に代えて「インターネット回線」を採用することは,当業者が適宜なし得ることで ある。 また,引用発明2の「バーコード情報」は「ネットワークのアクセス情報」を含 むものであるから,引用発明1において「インターネット回線」を採用するのであ れば,上記の「ネットワークのアクセス情報」を「インターネット情報」とするこ とは当然のことである。 そして,補正発明の作用効果も,引用発明1及び2並びに周知技術から当業者が 予測できる範囲のものである。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(相違点に関する判断の誤り) 審決は,相違点dに関し,引用発明1について,文字や数字に加えて,マークや 図柄等の画像も表示するようにすることは,必要に応じて採用することのできる設 計的事項にすぎず,周知の2次元コードを採用すれば,当該コード化された情報か ら画像データを表示することができることも知られていることから(甲22公報(特 開2000−222520号)),「文字や画像情報を表示する液晶画面」及びそ の表示のために「文字や画像情報に変換する変換回路」を設けることは,当業者で あれば適宜なし得ることであると判断した。 しかしながら,引用発明1の液晶表示部は,商品名や送信箇所などを表示するも のであるのに対し,補正発明では,画像を含めた商品情報が表示されるのであって, 両者の間には著しい差異がある。 また,審決が引用する甲22公報には,2次元コードで読み取った画像を液晶表 示部に表示する発明が記載されているものの,この公報には補正発明のようなイン ターネットを介して取得した画像を表示する点は記載されていない。 つまり,補正発明は,1つの液晶表示部においてバーコードからの商品情報(商 品名や通信先でない)の何れも表示可能として,インターネット通信を可能とした 携帯端末の優れた作用効果を発揮させるものであり,単に,それぞれの機能を有す る携帯端末を寄せ集めたとしても,優れた商品情報提供システムを構築することは できない。 特に,補正発明は,いわゆるコンピュータ関連発明であり,単に構成要素を結合 したものでなく,それぞれの構成要素が有機的に結合して1つの優れたシステムが 形成されるものであり,相違点b,c,eを含めて,個別の技術を引用発明1に適 用したとしても,元々,引用発明1に補正発明のような商品情報を提供するという 技術的思想がないのであり,相違点dの判断は誤っている。 2 取消事由2(商業的成功に係る進歩性判断の誤り) 補正発明は,商品に2次元バーコード(QRコード)を付して商品情報を得るこ とを目的とするものであって,用途が広く,原告は実施していないが,例えば,市 販の薬,自動販売機の飲料水,コンビニや店舗で販売されている菓子や衣料など, ありとあらゆる商品や役務に実施されている。また,補正発明である「インターネ ットとQRコードを用いた情報提供システム」を具現化したシステムは,その使用 度合いに関して,例えば「QRコード 携帯電話」の語によりインターネット(ヤ フー)で検索すると,平成22年5月現在で7070万件がヒットするものである。 このように,補正発明は,従来にない優れた作用・効果を有するものであって,商 業的成功の点から進歩性を有している。 3 取消事由3(商業的成功に関する判断遺脱) 原告は,審判手続において,補正発明である「インターネットとQRコードを用 いた情報提供システム」を具現化したシステムの使用度合いに関して,平成22年 5月現在で,例えば「QRコード 携帯電話」の語によりインターネット(ヤフー) で検索したところ,7070万件がヒットしたという事実を挙げて,商業的成功が あることから,補正発明は進歩性を有する旨主張した。 しかしながら,審決は,上記商業的成功を理由とする進歩性の有無について判断 しておらず,判断遺脱の違法があるから,取り消されるべきである。 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し (1) 原告は,補正発明について,インターネットを介して取得した画像を表示 するものであり,審決の挙げた甲22公報(特開2000−222520号)には, そのような記載がないなどと主張する。 しかしながら,補正発明の構成からすると,補正発明において,液晶画面に表示 される「画像情報」は,2次元バーコード化した商品情報を,読取部で読み取り, 変換回路で変換して得られる「画像情報」であり,インターネット回線を介して送 信され,「液晶画面に表示」されるものは「商品情報」として特定されている。ま た,本願明細書をみても,インターネット回線を介して送信され,「液晶画面に表 示」される「商品情報」の内容を限定する記載はない。 したがって,補正発明は「インターネットを介して取得した画像を表示する点」 に特徴を有するものであるという原告の主張は,請求項に基づかない事項を加えた 発明を補正発明とするものであって,誤っている。 (2) 原告は,補正発明について,1つの液晶表示部においてバーコードからの 商品情報(商品名や通信先でない)の何れも表示可能として,インターネット通信 を可能とした携帯端末の優れた作用・効果を発揮させるものであり,引用発明1に は,補正発明のような技術的思想がないと主張する。 しかしながら,原告の主張は,上記(1)の点を含めて,請求項により特定される補 正発明に基づかないものであり,理由がない。なお,本願明細書の記載によれば, 補正発明の「商品情報」には,引用例1に記載された商品管理システム上の商品情 報が含まれることは明らかであり,引用発明1からも商品情報を提供するという技 術的思想を汲み取ることはできる。 2 取消事由2に対し 補正発明についての実施が広く行われているとしても,それが直ちに進歩性を有 することを意味するものではない。 原告は,「2次元バーコード(QRコード)」を付した商品システムの商業的成 功を主張するが,この「2次元バーコード(QRコード)」自体は,補正発明によ って発明されたものでないことが明らかであり,高速読取りを可能とするなどの各 種の技術開発や,技術ライセンスの開放など多くの原因を背景にして現在の商業的 成功を達成しているものといえる。 仮に,補正発明の「2次元バーコード」に「QRコード」を用いたものが広く実 施されているとしても,上記商業的成功に補正発明の特徴点がどのような貢献をな しているかは不明なものといわざるを得ず,進歩性の判断において考慮することは できない。 審決は,従来の技術と補正発明との比較において,相違点を認定し,進歩性を判 断するとともに,補正発明の作用・効果についても技術的観点から検討を行ってお り,当然,補正発明が実施される商品システムの作用・効果についても含意した判 断を行っているのであって,その判断に誤りはない。 3 取消事由3に対し 原告が審判段階でした「QRコード」に基づく商業的成功の主張は,補正発明の 特許請求の範囲及び本願明細書の記載に基づくものではないから,そのような主張 にいちいち見解を示さないからといって判断の遺脱になるものではない。また,上 記2で主張したとおり,審決は,補正発明が実施される商品システムの作用・効果 についても含意した進歩性の判断を行っているのであって,原告が主張するような 判断の遺脱はない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(相違点に関する判断の当否)について (1) 補正発明について 本願明細書(甲12,15,24)によれば,補正発明について次のとおり認め られる。 補正発明は,携帯電話等の携帯端末を利用して,特に商品の情報を知るためのシ ステムに関するものである(段落【0001】)。従来技術における,バーコード リーダなどの読取部を設け,バーコード化されたデータを読み取ることが可能な携 帯端末は,読み取った電話番号を内蔵メモリに登録し,あるいは,通信回路を利用 して読み取ったコード情報を離れたコンピュータに送信するなどの機能を備えてい るが,特に送信機能を利用して送信するものであり,十分に携帯端末を利用してい るとはいえないという欠点があった(段落【0003】〜【0005】)。そこで, 補正発明は,@商品情報を読取部で読み取り,液晶画面に表示させることで,商品 の情報を商品自体から得ることができる(段落【0007】,【0009】),A 商品管理者に読み取った情報を送信することで,商品管理者から詳細な情報の返信 を受けることができる(段落【0010】,【0018】),B2次元バーコード により多くの情報を表示することができる(段落【0011】)などの効果を奏す るものである。 (2) 引用発明1について 引用例1(特開平10−49613号公報,甲10)によれば,引用発明1は, バーコード端末装置を用いた商品管理システムに関するものであって(段落【00 01】),商品等に記載又は貼付されているバーコードをレーザースキャナーによ り読み取り(段落【0024】),読み取った情報を制御部が解析して,商品情報 を液晶表示部に表示するとともに,PHS通信制御部を介して,PHS通信方式に よりホスト装置に送信し(段落【0015】,【0025】),PHS通信制御部 を介してホスト装置から情報の受信があると,受信した情報を液晶表示部に表示す る(段落【0027】)ものである。 (3) 相違点に関する判断 ア 相違点aについて バーコード情報として2次元バーコードを用いることは,審決のように甲22公 報(特開2000−222520号)や甲28公報(特開2000−332943 号)を挙げるまでもなく,周知技術であり,引用発明1にこの周知技術を組み合わ せ,バーコード情報として2次元バーコードを用いるものとすることは,当業者で あれば容易に想到し得る。 イ 相違点dについて 液晶画面に表示させる情報を文字や画像情報とすることは,文献を挙げるまでも ない技術常識であるから,引用発明1にこのような技術常識を組み合わせ,その液 晶表示部に表示させる商品情報を文字や画像情報とし,これに伴い,読み取った情 報を解析する回路の解析対象についても文字や画像情報とすることは,当業者であ れば容易に想到し得る。 ウ 相違点b,c,eについて 引用例2(特開2000−224328号,甲11)によれば,引用発明2は, 携帯電話機と一体をなす読取装置により,食品メニュー等に表示されたバーコード を読み取り(段落【0006】,【0007】,【0010】),バーコードに含 まれるサーバーやデータベースのアドレスを送信すると(段落【0013】,【0 015】),サーバーから携帯電話機に対して食品に含まれるエネルギー量などの データが返信され,液晶パネルに表示される(段落【0022】)装置であると認 められる。また,引用発明2のサーバーは,商品たる食品の情報を管理し,これを 携帯電話機に返信するためのものであるから,補正発明の「商品管理者」に相当す るものと認められる。 そして,引用発明1及び2は,いずれもバーコード読取装置と双方向の通信機能 を備えた携帯端末を使用し,この携帯端末により物品等に表示されたバーコードに 含まれる情報を読み取り,双方向通信機能を利用して,他の装置との間でデータの 送受信を行うシステムである点で共通しており,そのような基本的なシステムを前 提として,読取り・送受信の対象たるデータの内容等の個々の構成要素について, これらの発明の組合せにより変更することは,当業者が必要に応じて定める設計上 の変更にすぎないというべきである。 したがって,引用発明1に引用発明2を組み合わせ,商品管理者のアドレス等の 情報を読み取って,情報の送信先とし,商品管理者から送信(返信)される情報を 液晶画面に表示するという構成とし,相違点eに係る補正発明の構成とすることは, 当業者であれば容易になし得るといえる。さらに,双方向通信回線としてインター ネット回線を使用することについても,文献を挙げるまでもない技術常識であるか ら,これを上記の構成に適用して,PHS通信方式によるデータの送受信をインタ ーネット回線を介した送受信に変更し,これに伴い,情報の送信先である商品管理 者のアドレスをインターネット情報とすること,すなわち,相違点b,cに係る補 正発明の構成とすることも,当業者が容易になし得たことである。 エ 効果 そして,引用発明1に上記の技術を組み合わせたことによる効果も,当業者が予 測できる範囲のものである。 オ 小括 以上のとおり,引用発明1に引用発明2,周知技術及び技術常識を組み合わせて, 相違点に係る補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることで あって,相違点に関する審決の判断に誤りはない。 (4) 原告の主張について 原告は,審決が相違点dの判断に際して挙げた甲22公報(特開2000−22 2520号)について,インターネットを介して取得した画像を表示する点の開示 がないと主張し,また,補正発明の構成要素を一体として判断すべきである旨主張 する。 しかしながら,相違点dの構成が容易想到であることは,上記(3)イのとおりであ る。また,各相違点に係る補正発明の構成は,周知文献を挙げるまでもない程度の 周知技術,技術常識であるか,設計上の変更にすぎないものであるから,審決が, 相違点dと,相違点b,c,eの容易想到性をそれぞれに判断したことに誤りはな い。 したがって,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(商業的成功に基づく進歩性の有無)について 原告は,補正発明について,商業的成功の点から進歩性を有していると主張する。 しかしながら,補正発明は,上記1で説示したとおり,当業者が,引用発明1に 引用発明2や周知技術を組み合わせることにより,容易に想到することができたも のであるし,原告が主張する補正発明の構成が広く実施されているとの事実そのこ と自体で補正発明の商業的成功を認めることはできないから,取消事由2も理由が ない。 3 取消事由3(商業的成功に関する判断遺脱の違法の有無)について 審決は,補正発明について,引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて容易に 発明をすることができたものであり,作用効果についても予測できる範囲のもので あるとして,その進歩性を否定したものであるところ,その判断に誤りがないこと は上記1で判示したとおりであり,原告が主張する補正発明の構成が広く実施され ているとの事実そのこと自体で補正発明の商業的成功を認めることはできないこと は,上記2で判示したとおりである。商業的成功の事実は進歩性判断の間接事実で あるから,審決が,そのような商業的成功に関する原告の主張について別途判断し なかったとしても,判断遺脱の違法があるとはいえない。 第6 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩 月 秀 平 裁判官 池 下 朗 裁判官 古 谷 健 二 郎 |