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事件 平成 24年 (行ケ) 10044号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年9月26日判決言渡

平成24年(行ケ)第10044号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年9月12日

判 決




原 告 メディヴァンス インコーポレイテッド



訴訟代理人弁理士 恩 田 誠

本 田 淳

恩 田 博 宣

中 嶋 恭 久

小 林 徳 夫



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 高 木 彰

関 谷 一 夫

田 合 弘 幸

石 川 好 文

田 村 正 明



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日

と定める。




事実及び理由

第1 原告の求めた判決

特許庁が不服2010−8423号事件について平成23年9月27日にした審

決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,特許出願に対する拒絶審決の取消訴訟である。争点は,容易推考性の存

否である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成11年(1999年)1月4日(米国)及び平成12年(2000

年)1月3日(米国)の優先権を主張して,平成12年1月3日,名称を「改良型

冷却/加温パッドおよびシステム」とする発明について国際特許出願(PCT/U

S00/00026,日本国における出願番号は特願2000−591944号)

をし,平成13年7月4日に特許庁に翻訳文を提出したが(国内公表公報は特表2

002−534160号),平成21年12月18日付けで拒絶査定を受けた。そ

こで,原告は,平成22年4月21日,拒絶査定に対する不服審判請求(不服20

10−8423号)をするとともに,同日付けの補正(甲7)をしたが,特許庁は,

平成23年9月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,そ

の謄本は平成23年10月11日,原告に送達された。

2 本願発明の要旨

平成22年4月21日付けの補正(甲7)による特許請求の範囲の請求項1に係

る本願発明は,次のとおりである。

【請求項1】

患者と接触させて,患者と熱エネルギーを交換するための医療用パッドであって,

熱エネルギーの吸収または熱エネルギーの放出の少なくとも一方を行い得る熱交




換流体を収容するための該熱交換流体を収容すべく密封された流体収容層と,

流体入口および流体出口と,前記熱交換流体が,前記密封された流体収容層内を

前記流体入口から前記流体出口まで循環し得ることと,

前記流体収容層の皮膚と接触する面側に配置された粘着性表面とを有し,

それによって,前記粘着性表面を患者の皮膚に直接接触させることにより前記パ

ッドを患者に密着させることができると共に,前記パッドを患者に密着させたとき

に前記粘着性表面を横切って患者と前記密封された流体収容層により収容された前

記循環可能な熱交換流体との間で熱エネルギーを交換し得るパッド。

3 審決の理由の要点

(1) 特開平6−315497号公報(引用例1,甲1)には次のとおりの引用

発明が記載されていると認められる。

【引用発明】

患者と位置決めしつつ接触させて,患者と熱エネルギーを交換するためのパッド

であって,

熱エネルギーの吸収又は熱エネルギーの放出の少なくとも一方を行い得る流体を

収容するための該流体を収容すべく密封された流路と,

入口ポート及び出口ポートと,前記流体が,前記密封された流路内を前記入口ポ

ートから前記出口ポートまで循環し得ることと,

前記密封された流路の皮膚と接触する箇所に柔軟な面を有し,

それによって,前記柔軟な面を患者の皮膚に直接接触させることにより前記パッ

ドを患者の身体の輪郭に少なくとも幾らか適合させることができると共に,前記パ

ッドを患者の身体の輪郭に少なくとも幾らか適合させたときに前記柔軟な面を横切

って患者と前記密封された流路により収容された前記循環可能な流体との間で熱エ

ネルギーを交換し得るパッド。

(2) 本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点,相違点がある。

【一致点】




患者と接触させて,患者と熱エネルギーを交換するための医療用パッドであって,

熱エネルギーの吸収又は熱エネルギーの放出の少なくとも一方を行い得る熱交換

流体を収容するための該熱交換流体を収容すべく密封された流体収容層と,

流体入口及び流体出口と,前記熱交換流体が,前記密封された流体収容層内を前

記流体入口から前記流体出口まで循環し得ることと,

前記流体収容層の皮膚と接触する箇所に熱交換を行う面を有し,

それによって,前記熱交換を行う面を患者の皮膚に直接接触させることにより前

記パッドを患者に少なくとも幾らか適合し得ると共に,前記パッドを患者に少なく

とも幾らか適合させたときに前記熱交換を行う面を横切って患者と前記密封された

流体収容層により収容された前記循環可能な熱交換流体との間で熱エネルギーを交

換し得るパッド。

【相違点】

交換を行う面について,本願発明は,前記流体収容層の皮膚と接触する面側に

配置された粘着性表面を有しており,前記粘着性表面を患者の皮膚に直接接触させ

ることにより前記パッドを患者に密着させることができ,前記パッドを患者に密着

させたときに前記粘着性表面を横切って患者と前記密封された流体収容層により収

容された前記循環可能な熱交換流体との間で熱エネルギーを交換し得るとしている

のに対し,引用発明は,前記流体収容層の皮膚と接触する箇所に柔軟な面を有して

おり,前記柔軟な面を患者の皮膚に直接接触させることにより前記パッドを患者の

身体の輪郭に少なくとも幾らか適合させることができ,前記パッドを患者の身体の

輪郭に少なくとも幾らか適合させたときに前記柔軟な面を横切って患者と密封され

た前記流体収容層により収容された前記循環可能な流体との間で熱エネルギーを交

換し得るとしている点。

(3) 相違点等に関する審決の判断

引用発明のパッドは,患者と位置決めしつつ接触させて,治療のために患者の被

冷却箇所を冷却するパッドである。




特開昭61−128967号公報(引用例2,甲2)には,引用発明と同様に熱

交換を行う医療用の装置において,熱交換を行う面に被施術位置に対する位置がず

れないようにするために貼着層を設けるという技術的事項が開示されている。

そして,患者等の人体に部材を貼着するに際し,その貼着面を粘着性表面とする

ことは常套手段である。

したがって,引用発明のパッドを患者に位置決めしつつ接触させることについて

引用例2に開示された技術的事項を適用し,引用発明の柔軟な面を粘着性表面とす

ることは当業者が容易になし得る程度の事項にすぎない。

また,引用発明のパッドは患者の皮膚と接触することによりパッドと患者の皮膚

との間で熱エネルギーの交換をするものであるから,引用発明において,その熱エ

ネルギーの交換をよりよくするためにその粘着性表面によりパッドを患者の身体の

輪郭により適合させる,すなわち密着させることは当業者が必要に応じてなし得る

事項にすぎない。

本願発明の効果は,引用発明及び引用例2に開示された技術的事項から当業者が

予測し得た以上の格別のものとは認められない。

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2に開示された技術的事項に基

づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。



第3 原告主張の審決取消事由(相違点に関する判断の誤り)

1 審決は,患者等人体に部材を貼着するに際し,その貼着面を粘着性表面とす

ることは常套手段であるため,引用発明のパッドを患者と位置決めしつつ接触させ

ることについて引用例2に開示された技術的事項を適用し,引用発明の柔軟な面を

粘着性表面とすることは当業者が容易になし得ると判断している。

しかしながら,引用発明は,循環可能な流体が提供されない装置に欠点があると

いう認識の下,流体が循環する構成を採用したのに対し,引用例2に記載された装

置は,引用例1で欠点が挙げられている冷却又は加熱のための物質が循環しない装




置であるから,引用例2に開示された技術的事項を引用発明に組み合わせることに

は阻害要因がある。

2 審決は,上記のとおり,患者等人体に部材を貼着するに際し,その貼着面を

粘着性表面とすることは常套手段であると認定している。しかしながら,それを裏

付ける証拠は提出されていない。

3 引用例1の段落【0021】の記載によれば,パッド12は,継ぎ目15を

設けることで患者の身体の輪郭に「限られた箇所」で適合する構成となっており,

パッド12と患者の身体は本願発明におけるようにエネルギー交換のために粘着性

表面で密着する構成ではない。これに加えて,引用例1の「パッド12は治療処置

が所望される患者の身体の皮膚上に置かれる。柔らかい布のごとき追加のパッド材

料が患者を快適にするためにパッドの柔軟な面と皮膚との間に置かれてもよい。」

(段落【0032】)との記載からすると,パッドは患者の皮膚に対して限られた

箇所で適合して容易に移動可能な関係にあり,エネルギー交換のためにパッドを患

者の皮膚に密着させることまでは引用発明の技術的思想として想定されていない。

これに対し,引用例2に記載された皮膚貼着剤層8の作用は,非循環の熱源4を定

位置に固定することのみである。熱源4と皮膚貼着剤層8の間に,患者の皮膚表面

への熱伝導を緩和する熱伝導緩和層7が設けられていることからすると,この皮膚

貼着剤層8は,本願発明におけるように患者の皮膚表面への熱伝導を促進するため

に設けられているわけではない。

したがって,この点からも,熱エネルギーの交換を粘着性表面以外の手段で実現

する引用発明と,引用例2に記載された熱源4を定位置に固定するための皮膚貼着

剤層8とを組み合わせることは困難であるか,阻害要因がある。

4 審決は,「引用発明において,その熱エネルギーの交換をよりよくするため

にその粘着性表面によりパッドを患者の身体の輪郭により適合させる,すなわち密

着させることは当業者が必要に応じてなし得る事項にすぎない。」と判断している

が,上記1〜3で主張したとおり,誤りである。




第4 被告の反論

1 引用例1(特に段落【0001】)及び引用例2(特に2頁右上欄12行〜

17行)の記載によれば,引用発明のパッドと引用例2に記載された装置とは,患

部の皮膚面と熱交換を行い,患部を処置する医療用の装置である点で共通している。

引用例1の段落【0021】には,パッドを患部に対して位置決めすることが記

載されているところ,患部の皮膚面と熱交換を行い,患部を処置する医療用の装置

においては,その本来の目的に照らして,処置位置が患部からずれないようにする

必要があることは自明である。したがって,引用発明のパッドは,パッドを患部に

対して位置決めするとともにその位置からずれないようそこに保持させなければな

らないという課題を当然内在しているものである。一方で,引用例2にも,医療用

の装置を患部に対して位置決めするとともにその位置からずれないようそこに保持

させなければならないという課題が記載されており(1頁右下欄2行〜3行),引

用発明のパッドと引用例2に記載された装置とは,医療用の装置を患部の皮膚面に

対して位置決めするとともにその位置からずれないようそこに保持させなければな

らないという共通の課題を有する。

したがって,引用発明において,上記共通の課題を解決するために,共通の技術

分野に属する引用例2に記載された「熱交換を行う面に被施術位置に対する位置が

ずれないようにするために貼着層を設ける」といった技術的事項の適用を試みるこ

とは,当業者が容易になし得ることである。

また,貼着層を設けることと流体が循環するかしないかとは別個の技術的事項で

あり,そのような冷却又は加熱のための物質の循環の有無という違いが,引用例2

に記載された上記技術的事項を適用することについての阻害要因となることはな

い。

2 患者等人体に部材を貼着するに際し,その貼着面を粘着性表面とすることは,

証拠を提示するまでもなく常套手段である。証拠を提示するとすれば,特表平7−




503978号公報(乙1),実願昭63−158986号(実開平2−8270

2号)のマイクロフィルム(乙2),特開昭63−3837号公報(乙3)などが

挙げられる。なお,引用例2には,皮膚貼着剤層8に代えてバップ剤や貼付薬剤層

を形成することが記載されており,これらが粘着性表面を備えることは技術常識

あるから,貼着剤が粘着性表面を備えることは,引用例2に記載されているに等し

い事項である。

3 原告は,引用発明のパッドと患者の身体は密着する構成ではないと主張する。

しかしながら,引用発明のパッドは患者の皮膚と接触することによりパッドと患者

の皮膚との間で熱エネルギーの交換をするものである。一方,冷熱療法や温熱療法,

すなわち冷却体や発熱体を患者の皮膚に接触させて両者の間で熱エネルギーの交換

を行う処置方法において,良好な冷熱効果や温熱効果を得るために,冷却体や発熱

体と患者の皮膚との高度な密着性が求められることは,周知の技術的課題である。

したがって,引用発明について,引用例2に記載された上記技術的事項を適用し,

患者の皮膚に直接接触する箇所となる柔軟な面を粘着性表面とした場合に,当該粘

着性表面によりパッドを患者の身体の輪郭により適合させる,すなわち密着させる

ことは当業者が必要に応じてなし得る事項にすぎない。

なお,原告は,引用発明のパッド12や,引用例2に記載された皮膚貼着剤層8

の作用から,これらを組み合わせることは困難である旨主張する。

しかしながら,引用例1の段落【0032】の記載によれば,パッドは,患者の

皮膚の上に直接置くことが基本的な使用態様であり,追加のパッド材料を挟み,パ

ッドと患者の皮膚とを直接接触させないように構成することは任意付加的事項とし

て記載されているにすぎない。引用例2についても,特に2頁右上欄12行〜17

行には,少なくとも貼着層を横切って患者と熱源との間で熱エネルギーを交換し得

るという構成とその作用は記載されているし,熱伝導緩和層は,請求項4の構成で

あることからも明らかなように,任意付加的なものにすぎず,貼着層と患者の皮膚

表面との熱伝導作用には関係がない。




4 原告は,審決の「密着」に係る判断についても誤りであると主張するが,上

記3で主張したとおり,審決の判断に誤りはない。



第5 当裁判所の判断(相違点に関する判断の当否)

1 引用例1(特開平6−315497号公報,甲1)によれば,引用発明は,

患者の患部面を冷やしたり暖めたりすることにより患部の傷及び疾患を処置するた

めの装置に関するものであり,身体の所望の患部表面に治療上の処置を施すため,

その位置に冷却又は加熱のための流体を保持するパッドを接触させて,患部と流体

との間で熱伝達を行う装置であって,熱伝達によって低温物質が暖かく,あるいは

高温物質が冷たくなる欠点を解消するなどの目的から,上記流体を連続的に循環さ

せる装置であると認められる(特許請求の範囲【請求項1】,発明の詳細な説明

落【0001】,【0002】,【0005】,【0015】,【0021】,【0

029】,【0032】,【0036】)。

引用例2(特開昭61−128967号公報,甲2)によれば,引用例2には,

患部を冷却し,又は暖めることによって,皮膚面から患部を治療する温熱又は冷熱

治療具について,施術位置を保持する等の目的から,発熱体又は吸熱体を収容する

容器の被施術皮膚面当接面に貼着層を形成する技術的事項が開示されていると認め

られる(1頁右下欄1行〜2頁左上欄15行)。ただし,引用例2には,発熱体又

は吸熱体を循環させることは記載されていない。

このように,引用発明と引用例2に記載された装置は,いずれも患者の患部を冷

却し,又は暖めるために,冷却又は加熱のための物質を収容した容器を患部に接触

させる装置であって,同一の技術分野に属するものと認められる。また,引用例1

には,治療が所望される位置に位置決め可能なパッドであること,身体の輪郭に幾

らか適合し得るように柔軟なポリウレタンからパッドを製造すること,適合を容易

にするためパッドに複数の継ぎ目を設けることが記載されており(段落【002

1】),パッドと患部との接触状態を向上させるという課題については,当業者で




あれば容易に理解するところであり,引用例1自体からもそのような理解が可能で

ある。他方で,引用例2に開示された技術的事項も,施術位置の保持,すなわち,

装置と患部との接触状態を向上させるという課題に関するものである。

したがって,引用発明から上記のような課題を容易に理解し得る当業者が,同一

の技術分野に属し,同様の課題に関する引用例2に開示された技術的事項を引用発

明に適用し,パッドの皮膚と接触する面に貼着層を設けることは,容易になし得る

ことといえる。

また,患者の皮膚に治療装置を「貼着」させるべく貼着層を設ける場合に,粘着

性の物質を用いることは当然に行われる手段であって,引用発明に設ける貼着層の

貼着面を粘着性表面とすることは,当業者が適宜なし得る事項というべきである。

そして,「密着」についても,本願発明が,「…粘着性表面とを有し,それによ

って,…前記パッドを患者に密着させることができる…」と構成しているように,

貼着層の貼着面を粘着性表面としさえすれば,それによってパッドと患者とが密着

することは当然の帰結といえる。

したがって,引用発明と引用例2に開示された技術的事項とを組み合わせて,相

違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることであ

って,相違点に関する審決の判断に誤りはない。

2(1) 原告は,冷却又は加熱のための物質が循環しない装置に関する引用例2に

開示された技術的事項を,それらの物質が循環する装置である引用発明と組み合わ

せることについては,阻害要因があると主張する。

しかしながら,冷却又は加熱のための物質を循環させるという技術的事項は,患

部との熱の伝達によって低温物質が暖かく,あるいは高温物質が冷たくなるという

欠点を解消するためのものであるのに対し(引用例1の段落【0002】,【00

03】),装置に貼着面を設け,粘着性表面とし,患者と密着させるという技術的

事項は,患部と装置との接触状態の向上や相対的位置関係の保持に関するものであ

って,互いに技術的な関連性はなく,次元を異にする事項であるから,冷却又は加




熱のための物質が循環しない点は,引用例2に開示された技術的事項と引用発明と

の組合せを阻害する要因であるとはいえない。

(2) 原告は,審決が,貼着面を粘着性表面とすることが常套手段であるとする

判断につき証拠を提示していないと主張する。

しかしながら,上記1で説示したとおり,治療装置に患者の皮膚に貼着させるた

めの貼着層を設ける場合に,その貼着面を粘着性表面とすることは,一般的にみら

れる手段であるから,審決が証拠を提示していないことそれ自体が違法であるとは

いえない。

(3) 原告は,引用発明について,継ぎ目15を設けることで患者の身体の輪郭

に「限られた箇所」で適合する構成となっていると主張する。しかしながら,引用

発明において,継ぎ目15は,患者の身体の輪郭との「…適合を容易にするため…」

(段落【0021】)に設けられるのであり,適合する部分を限定するためのもの

ではないのであって,原告の主張は引用例1の記載を正解しないものである。

また,原告は,引用例1に追加のパッド材料を置くことが記載されていることか

ら,引用発明のパッドは患者の皮膚に対して容易に移動可能な関係にある旨主張す

る。しかしながら,引用例1に記載された追加のパッド材料は,「…置かれてもよ

い。」(段落【0032】)という任意的な構成にすぎないし,追加のパッド材料

を置いたとしても,段落【0032】のその余の記載に照らすと,パッド自体は患

者の治療位置の皮膚上に置かれるものと認められるから,追加のパッド材料の有無

と,パッドと患部との接触状態を向上させるという課題や,そのために貼着層を設

けるかどうかという技術的事項とは関係がなく,別次元の事項であるから,原告の

主張は理由がない。

原告は,引用例2に記載された装置に関して,熱伝導緩和層7が存在することか

ら,皮膚貼着剤層8は,患者の皮膚表面への熱伝導を促進するためのものではない

などと主張する。しかしながら,引用例2において,貼着層の形成は請求項1に記

載されているのに対し,熱伝導緩和層は請求項4に記載され,請求項1の構成を限




定する構成にとどまるものであるから,熱伝導緩和層は引用例2に記載の事項とし

て任意的な構成にすぎない。また,熱伝導緩和層を設けるかどうかは,ある時点で

患者に伝達する熱量を制御する技術的事項であるのに対し,貼着層の形成は,装置

と患部との接触状態を向上させることで,患部に適切に熱伝導が行われるようにす

るものであるから,これらの技術的事項は別次元のものであり互いに関連するもの

ではない。したがって,熱伝導緩和層の存在は,引用例2に開示された技術的事項

を引用発明に組み合わせることの妨げとなるものではない。

(4) 原告は,審決の「密着」に関する判断についても誤りであると主張するが,

上記1で説示したとおり,審決の判断に誤りはない。



第6 結論

以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

池 下 朗





裁判官

古 谷 健 二 郎