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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24行ケ10057審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 23年 (行ケ) 10402号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/09/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年9月10日判決言渡

平成23年(行ケ)第10402号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年8月27日

判 決



原 告 大日本印刷株式会社



訴訟代理人弁護士 櫻 井 彰 人

弁理士 金 山 聡



被 告 凸版印刷株式会社




被 告 四国化工機株式会社



被告ら訴訟代理人弁護士 竹 田 稔

服 部 謙 太 朗

木 村 耕 太 郎

弁理士 廣 田 雅 紀

高 津 一 也

堀 内 真



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。





事実及び理由

第1 原告の求めた判決

特許庁が無効2010−800116号事件について平成23年10月25日に

した審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,被告らの請求に基づき原告の特許を無効とした審決の取消訴訟である。

争点は,進歩性の有無である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成12年7月10日,名称を「ゲーベルトップ型紙容器の充填シール

装置」とする発明につき特許出願をし(特願2000−209017号),平成21

年7月3日,特許登録を受けた(特許第4334115号,特許公報は甲52)。

これに対し,被告らは,平成22年7月9日,本件特許の請求項1につき無効審

判を請求した(無効2010−800116号)。

特許庁は,平成23年1月25日,
「特許第4332115号の請求項1に係る発

明についての特許を無効とする。」旨の第一次審決をした。

原告は,平成23年3月4日,第一次審決の取消訴訟を提起し(平成23年〔行

ケ〕第10078号),平成23年6月1日付けで訂正審判を請求した(その後みな

し取下げ)知的財産高等裁判所が平成23年6月27日に第一次審決を取り消す決


定をしたのに基づき,特許庁は,上記無効審判請求についてさらに審理し,その中

で原告が平成23年7月8日付けで訂正請求をしたが(甲68) 平成23年10月


25日,
「訂正を認める。特許第4334115号の請求項1に係る発明についての

特許を無効とする。 旨の第二次審決をし,
」 その謄本は平成23年11月4日原告に

送達された。

本件は第二次審決の取消訴訟であり,以下に「審決」というときは第二次審決を

指す。




2 本件発明の要旨

【平成23年7月8日付け訂正後の請求項1】

「A 上端を開口した多数の紙容器を垂直状態に且つ一定の搬送ピッチで保持し,

該紙容器を前記搬送ピッチずつ間欠搬送する搬送装置と,

B その搬送装置による紙容器の走行経路に配置され,停止中の紙容器に対して,

液体充填,頂部くせ折り,頂部シール等の処理を施す処理装置を備え,

C 胴部サイズが少なくとも85mm角〜95mm角の範囲内の1サイズの紙容

器に対して処理可能なゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置において,

D 前記搬送装置の搬送ピッチを115〜105mmとし,

E 液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき,

F 且つ生産能力を3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを

除く。)としたこと

G を特徴とするゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置。」

(A〜Gの項分けは,主張整理の便宜上付したもの)



3 審決の理由の要点

(1) 「月刊デーエフサロン」No.235号(1997年9月25日発行)1

2頁〜15頁(甲3)記載の被告四国化工機の口栓付大型ゲーブル紙容器無菌充填

機である「U−H25A型機」は,実質的に以下の事項を備えているものと認めら

れる(公用発明1)。

「胴部サイズが85mm角のゲーブル紙容器に対して,搬送装置の搬送ピッチを

111.2mmとし,且つ生産能力2520本/hとした口栓付大型ゲーブル紙容

器無菌充填機。」

「月刊デーエフサロン」No.251号(1999年3月25日発行)84頁〜

85頁 (甲1)に記載の容器メーカーを被告凸版印刷とする「EPU3000−M




型機」は,実質的に以下の事項を備えているものと認められる(公用発明2)。

「胴部サイズが85mm角のゲーベルトップ液体紙容器に対して,搬送装置の搬

送ピッチを127mmとし,且つ生産能力を3000本/hとした充填シール機。」

(2) 本件発明と公用発明1の一致点と相違点は次のとおりである。

【一致点】

「上端を開口した多数の紙容器を垂直状態に且つ一定の搬送ピッチで保持し,該

紙容器を前記搬送ピッチずつ間欠搬送する搬送装置と,その搬送装置による紙容器

の走行経路に配置され,停止中の紙容器に対して,液体充填,頂部くせ折り,頂部

シール等の処理を施す処理装置を備え,胴部サイズが少なくとも85mm角〜95

mm角の範囲内の1サイズの紙容器に対して処理可能なゲーベルトップ型紙容器の

充填シール装置において,前記搬送装置の搬送ピッチを115〜105mmとした

ゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置。」

【相違点1−1】

本件発明では,
「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」るとしているのに

対し,公用発明1では,そのような限定がない点。

【相違点1−2】

本件発明では,生産能力を,3000本/h+300本/h(ただし,3000本

/hを除く。)としたのに対し,公用発明1では,2520本/hとしている点。

(3) 以下の理由により,本件発明は,公用発明1に基づいて,当業者が容易に

発明をすることができたものである。

ゲーブル紙容器無菌充填機において,液揺れによりシール不良が起きると製造さ

れる製品が不良品となることより,そのようなシール不良を防止することは当然の

事項であり,また,公用発明1は,製品として実際に販売されていることを考慮す

れば,公用発明1においても,実用的に問題のない程度に「液揺れを小さく抑えて

シール不良を防止でき」ているものと認められる。

充填機において,生産能力を向上させることは,通常求められる技術課題である




こと,また,生産能力を3000本/hとすることは,搬送装置の搬送ピッチが1

27mmの公用発明2でも達成されているように,当時の技術水準において格別高

生産能力とはいえない。ここで,公用発明2は,3000本/hの生産能力にお

いても,公用発明1と同様に,実用的に問題のない程度に「液揺れを小さく抑えて

シール不良を防止でき」ているものと認められる。

そして,本件発明では,3000本/hは除かれているものの,3000本/h

生産能力としての臨界的な意義もなく,また,3000本/hを超えるようにな

すことに技術的な困難性も認められない。さらに,無菌充填などの制約を除くこと

によっても生産能力を向上させることができるものとも認められることより,公用

発明1において,
「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止」しつつ,生産能力を向

上させ,上記相違点1−1及び相違点1−2の本件発明のようになすことは,当業

者が容易になし得たものである。

(4) 本件発明と公用発明2の一致点と相違点は次のとおりである。

【一致点】

「上端を開口した多数の紙容器を垂直状態に且つ一定の搬送ピッチで保持し,該

紙容器を前記搬送ピッチずつ間欠搬送する搬送装置と,その搬送装置による紙容器

の走行経路に配置され,停止中の紙容器に対して,液体充填,頂部くせ折り,頂部

シール等の処理を施す処理装置を備え,胴部サイズが少なくとも85mm角〜95

mm角の範囲内の1サイズの紙容器に対して処理可能なゲーベルトップ型紙容器の

充填シール装置。」

【相違点2−1】

本件発明では,
「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」るとしているのに

対し,公用発明2では,そのような限定がない点。

【相違点2−2】

本件発明では,搬送装置の搬送ピッチを,115〜105mmとしたのに対し,

公用発明2では,127mmである点。




【相違点2−3】

本件発明では,生産能力を,3000本/h+300本/h(ただし,3000本

/hを除く。)としたのに対し,公用発明2では,3000本/hとしている点。

(5) 以下の理由により,本件発明は,公用発明2に基づいて,当業者が容易に

発明をすることができたものである。

@ 相違点2−1及び相違点2−2について

各種装置のコンパクト化は,一般的な技術課題であり,特に充填シール機のよう

な大きな設置面積の必要な装置においては特に求められる技術課題であると認めら

れ,充填シール機において搬送ピッチを小さくすることにより該充填シール機をコ

ンパクト化できることは,当業者が容易に想到しうる事項である。さらに,公用発

明1においては,112mmの搬送ピッチを採用されていることから,公用発明2

においても搬送ピッチを115〜105mmの範囲に変更することに格別な困難性

は認められない。また,搬送ピッチを短くすれば,紙容器の間欠搬送において,加

速度,減速度が小さくなり,液揺れが小さくなることが想定されることより,公用

発明2において,
「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止」しつつ,充填シール機

をコンパクト化するために,上記相違点2−1及び相違点2−2の本件発明のよう

になすことは,当業者が容易になし得たものである。

A 相違点2−3について

本件発明では,3000本/hは除かれているものの,3000本/hに生産能

力としての臨界的な意義はなく,本件発明での3000本/hに限りなく近い生産

能力の下限値と公用発明2での生産能力の3000本/hとは,技術的にみて実質

的に差はなく,上記相違点2−3は,実質的な相違とは認められない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(U−H25A型機が公然実施された発明であるとの認定の誤り)

(1) 「公然実施」の意義につき




特許法29条1項2号の「公然実施された発明」とは,その内容が公然知られ

状況又は公然知られるおそれのある状況で実施された発明を意味し,知られ」
「 とは,

発明が「技術的に理解され」の意味である。したがって,生産能力で特定した充填

シール装置の発明が「公然実施された発明」であるためには,その生産能力を有す

る充填シール装置の発明が技術的に理解される状況又は技術的に理解されるおそれ

のある状況,すなわち,その発明に係る生産能力をどのようにして実現するか技術

的に理解される状況又は技術的に理解されるおそれのある状況で実施された必要が

ある。そして,ある生産能力(以下「生産能力a」とする。)で特定した充填シール

装置の発明が公然実施された発明であるためには,生産能力aを有すると思われる

充填シール装置(以下「装置D」とする)が販売され,装置Dに関して守秘義務

ないだけでは不十分であり,少なくともその装置Dが生産能力aを実際に発揮して,

製品を生産している事実が必要である。装置Dが生産能力aを有することは,装置

Dで実際の生産を行ってはじめて確認できるものであり,装置Dがどのようにして

生産能力aを実現しているかは,実際に装置Dの生産状況を見ないと技術的に理解

できないからである。

審決は,
公然実施された発明における「生産能力」を特定するには,その「生産

能力」が実施されていることを認識できれば足りるものであり,そのための実現手

段について認識する必要があるとする理由はない。(24頁下2行〜25頁2行)


とした。しかし,当該「生産能力」が実施されていることを認識するためには,仕

様書上の生産能力を表す数値だけでは不十分で,当該「生産能力」が実際に発揮さ

れているという事実が必要であり,また,その事実が認識できれば当該「生産能力

の実現手段も認識できるものである。審決の認定・判断は,当該「生産能力」の実

施されていることの意味を取り違えた誤ったものである。

(2) 「U−H25A型機」が公然実施された発明であるとの認定につき

甲3及び4には,充填能力が2,500本/時の紙容器充填機「U−1H25A

型機」が平成9年(1997年)に開催された「JAPAN PACK’97」に




出品されたことが記載されている。しかし,この展示会において,同機が生産能力

2520本/hを実際に発揮して製品の生産を行った事実はなく(通常,展示会に

おいて実際の製品の生産が行われることはない。,来場者は同機の生産能力がどの


ように実現されているのかを技術的に理解することはできない。

また,甲6,14,15等には,中外貿易からエロパック社に「U−H25A型

機」と同一の「U−1H25A型機」が輸出販売されたことが断片的に示され,甲

7,10,12には,
「U−1H25A型機」の仕様,図面が示されている。しかし,

これらの証拠には,充填能力「2520カートン/時」をどのようにして実現する

かは一切記載も示唆もされておらず,同機の充填能力がどのように実現されている

のかを技術的に理解できない。

さらに,甲33では,購入会社であるエロパック社と販売会社である被告四国化

工機との間には,
「U−H25A型機」の搬送ピッチについての秘密保持義務がない

ことが示されているだけで,
「U−H25A型機」が2520本/hの生産能力を発

揮したことは何ら示されておらず,同機の生産能力がどのように実現されているの

かを技術的に理解することはできない。

したがって,
「U−H25A型機」が展示され,あるいはエロパック社に販売され

たことに関する甲3〜15,33から,同機が公然と展示あるいは譲渡されたもの

であるとしても,生産能力が2520本/hの充填機の発明が公然実施されたもの

ということはできない。よって,審決が,
「U−H25A型機」が生産能力2520

本/hを発揮したという事実があるかを何ら考慮せず,同機が公然と譲渡のための

展示及び譲渡されたことをもって,生産能力2520本/hの充填機の発明が公然

実施されたと認定したことは誤りである。

なお,審決は,「JAPAN
「 PACK’97」での「U−H25A型機」の展

示は,その展示状況より不特定多数の来場者に対して同機の仕様を知りうる状態で

行われた」(24頁14行〜16行)旨認定しているが,「不特定多数の来場者に対

して同機の仕様を知りうる状態で行われた」ことの立証は何らなされておらず,こ




の点においても審決には誤りがある。



2 取消事由2 「EPU3000−M型機」
( が公然実施された発明であるとの認

定の誤り)

甲20の発注書には,
「EPU3000−M型充填ライン」を清洲櫻醸造株式會社

から被告凸版印刷に発注したこと等が示され,甲17〜19には,
「EPU3000

−M型充填シール機」
(「EPU3000−M型機」の取扱説明書等が示されている。


しかし,これらの証拠には,取扱説明書である甲17に記載された機械仕様として

の能力「3000パック/時」をどのようにして実現するかは一切記載も示唆もさ

れておらず,同機の充填能力がどのように実現されているのかを技術的に理解する

ことはできない。

次に,清洲櫻醸造株式會社の担当課長から被告凸版印刷の知的財産部長にあてた

回答書である甲34には,「弊社は,・・・同機を用いて,85mm角のゲーベルトッ

プ型紙容器の製品を3000本/hで実際に生産いたしました。と記載されている


が,この記載が事実であることを裏付ける資料は一切提出されておらず,また,記

載内容自体も,どのような製品(実際の製品名)をどれだけ生産したかというよう

な具体性がない。甲34は,EPU3000−M型機が3000本/hの生産能力

を発揮して実際に製品を生産した事実を立証するものではないし,審決も,甲34

からEPU3000−M型機が3000本/hの生産能力を発揮した事実を認定し

ていない。よって,同機の生産能力がどのように実現されているのかを技術的に理

解することはできない

したがって,
「EPU3000−M型機」が清洲櫻醸造株式會社に販売されたこと

に関する甲17,20,34から,同機が公然と譲渡されたものであるとしても,

生産能力が3000本/hの充填機の発明が公然実施されたものであるとはいえな

い。よって,審決が,
「EPU3000−M型機」が生産能力3000本/hを発揮

したという事実があるかを何ら考慮せず,同機が公然と譲渡されたことをもって,




生産能力3000本/hの充填機の発明が公然実施されたと認定したことは誤りで

ある。



3 取消事由3(公用発明1に基づく進歩性の判断の誤り)

(1) 相違点1−1の判断の誤り

審決は,公用発明1においては,実用的に問題のない程度に「液揺れを小さく抑

えてシール不良を防止でき」ており,公用発明2においても同様であるから,相違

点1−1は公用発明1から当業者が容易になし得たものであると判断した。しかし,

この審決の判断は,公用発明1と公用発明2で「液揺れを小さく抑えてシール不良

を防止でき」ていれば,なぜ,当業者が公用発明1から相違点1−1を容易になし

得るのか説明されておらず,容易想到性の論理付けがなされていない。そもそも,

相違点1−1は,
「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」るという本件発明

の作用的な構成E(「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」ること)に相当

するものであり,独立して判断できるものではない。この相違点1−1は,あくま

で本件発明の構成D「前記搬送装置の搬送ピッチを115〜105oとし」
( たこと),

F(「且つ生産能力を3000本/h+300本/h((ただし,3000本/hを

除く。)としたこと」
) )との関係において,すなわち,ゲーベルトップ型紙容器の充

填シール装置において,「前記搬送装置の搬送ピッチを115〜105mmとし」,

生産能力を3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。 と」


生産能力を3000本/hを超えると)しても,
「液揺れを小さく抑えてシール不

良を防止でき」ることを当業者が容易に想到できたかで判断すべきものである。

この点,公用発明1は,実際に使用されている装置そのものの発明であって(甲

5) その生産能力2520本/hは最大生産能力であり,
, これを遥かに超えること

となる3000本/hを超える生産能力(構成F)まで引き上げて生産すると,当

然に液揺れが大きくなりシール不良を生じることが予想され,液揺れを小さく抑え


てシール不良を防止でき」ることは到底想定できない。




また,公用発明2は,実際に使用されている装置そのものの発明であり(甲17),

公用発明1とは装置構成や全長等が大きく異なり(例えば,公用発明1の全長は約

8.1mであるのに対して,公用発明2の全長は約4.9mとほぼ半分である。,


公用発明2の液揺れ状態は,公用発明1において,生産能力を3000本/hを超

えるまで引き上げた場合にどのような液揺れ状態が生じるかの参考とはならない。

しかも,公用発明2の生産能力は3000本/hであるが,これも最大生産能力

あり,公用発明2において,この最大生産能力を超えて生産すると,液揺れが大き

くなってシール不良が生じることが予想され(3000本/hを超えると液揺れに

よるシール不良が生じるために,最大生産能力が3000本/hとなっているので

ある。,公用発明2から,相違点1−1の「液揺れを小さく抑えてシール不良を防


止でき」ることは予想できない。

したがって,公用発明1から相違点1−1は当業者が容易になし得たものである

との審決の判断は,論理付けがなされていない審理不尽に等しい不当なものであり,

相違点1−1は,公用発明1や公用発明2から予想できないことから,当業者が容

易になし得たものではなく,審決の相違点1−1の判断は誤りである。

(2) 相違点1−2の判断の誤り

審決は,相違点1−2の容易想到性について,ア)充填機において生産能力を向

上させることは通常の技術的課題であること,イ)公用発明2から,生産能力30

00本/hは,当時の技術水準において格別高い生産能力ではないこと,ウ)生産

能力3000本/hに臨界的な意義がないから3000本/hを超えることに技術

的な困難性はないこと,エ)無菌充填などの制約を除くことによっても生産能力

向上させることができることから,公用発明1において,相違点2は,当業者が容

易になし得たものであるとした。

ア ア)につき

公用発明1は,
「U−H25A型機」という実際の装置として具現化された発明で

あり,生産の能力の向上というきわめて上位概念化された一般的課題が,漠然と個




別具体的な公用発明1の技術課題となるものではない。生産能力の向上を公用発明

1の課題とするためには,公用発明1の「U−H25A型機」において生産能力

2520本/h以上にする具体的な理由(例えば,他の同種類の装置に比べて生産

能力が低い)が必要であるが,公用発明1を特定する甲3〜15,33には,その

ような具体的な理由は何ら記載も示唆もされていない。審決には,公用発明1の課

題の認定に誤りがある。

イ イ)につき

審決は,本件出願当時,あたかも生産能力3000本/h自体が技術常識である

かのような認定をした。しかし,公用発明2の一例をもって,これが技術常識であ

るとするのは,
技術常識とは,当業者に一般的に知られている技術(周知技術,慣

用技術を含む)又は経験則から明らかな事項をいう。 という技術常識の定義から大


きく逸脱し,誤っていることは明らかである。そもそも充填機の生産能力3000

本/hが技術常識であれば,本件発明の特徴的部分が技術常識となり,本件発明の

進歩性を問題とする意味がなくなる。審決は,本件発明の特徴的部分を何の根拠も

なく技術常識とし,この技術常識をもって本件発明の進歩性を否定するという大き

な論理矛盾を犯している。

ウ ウ)につき

審決は,本件発明を数値限定発明ととらえて,生産能力3000本/hの数値限

定に臨界的な意義がないと判断した。

しかし,本件発明の構成Fにおける「生産能力」は,訂正明細書の段落【001

6】の発明の効果の欄に「生産能力3000本/hというような能力アップを図る

ことができるという効果を有している。 と記載されているとおり,
」 ゲーベルトップ

型紙容器の充填シール装置の効果そのものである。本件発明において数値限定され

た「生産能力」は,公知発明が達成できなかった構成要件そのものであり,公知発

明を実施するに際して,設計上当然に適当な数値を与えなければならないような構

成要件ではない。




したがって,本件発明の進歩性は,生産能力数値限定に臨界的意義があるか否

かで判断することはできず,
生産能力3000本/h」に臨界的な意義を求め,こ

れがないことを根拠に3000本/hを超えることに技術的な困難性はないと判断

した審決が誤っていることは明らかである。

エ エ)につき

公用発明1は無菌充填を行う装置であり(甲5),公用発明1において,無菌充填

などの制約を除くことによって生産能力を向上させることができることが甲46に

記載されており,審決においても同証拠の記載が引用されている。

しかし,甲46は,被告四国化工機の従業員と推測される者が,本件出願の10

年以上後に自己の知見を陳述したものにすぎず,特許法29条1項各号のいずれに

も該当せず,発明の進歩性の客観的判断資料となるものではない。また,甲46に

示すような技術的知見が本件出願当時存在していたとしても,U−H25A型機の

生産能力2520本/hを容易にアップできるのは2900本/hまでであって,

3000本/hを超えるまでアップすることはできない。

したがって,エ)の判断において,仮に,本件特許出願当時無菌充填などの制約

を除くことによっても生産能力を向上させることができるという技術的知見が存在

するとしても,公知発明1の生産能力を3000本/hを超えるまで向上させるこ

とは困難であり,この技術的知見を根拠の一つとして相違点2の容易想到性を判断

した審決は誤りである。



4 取消事由4(公用発明2に基づく進歩性の判断の誤り)

(1) 各相違点を別個独立に判断したことの誤り

審決は,相違点2−1及び相違点2−2と相違点2−3に分けて,その容易想到

性等を判断しているが,実質的には,各相違点について別個独立に判断した。すな

わち,審決は,相違点2−1については,公用発明2において,実用的に問題のな

い程度に「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」ているから当業者が容易




になし得たと判断し,相違点2−2については,充填シール機において搬送ピッチ

を小さくするとコンパクト化できるから公用発明2の搬送ピッチを相違点2−1の

範囲にすることは当業者が容易になし得たと判断し,相違点2−3については,本

件発明と公用発明2の生産能力は,技術的にみて実質的に差はないから,実質的な

相違でなないと判断した。

しかし,相違点2−1は,
「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」るとい

う本件発明の作用的な構成Eに対応し,相違点2−2は,
「前記搬送装置の搬送ピッ

チを115〜105mmと」するいう構成Dに対応し,相違点2−3は,
生産能力

を3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)と」するとい

う構成Fに対応し,これらの構成D〜Fは密接に関係することから,対応する各相

違点も密接に関係し,別個独立に判断できるものではない。各相違点の容易想到性

については,公用発明2において,搬送ピッチを相違点2−1の範囲(115〜1

05mm)に変更して生産能力を相違点2−3(3000本/hを超える)とし,

相違点2−1(液揺れを小さく抑えてシール不良を防止できること)が,当業者が

容易に想到できるかを判断すべきである。

したがって,各相違点を別個独立に判断した審決は,判断手法自体に誤りがであ

る。

(2) 相違点2−1の判断の誤り

本審決は,相違点2−1について,公用発明2で実用的に問題のない程度に「液

揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」ていると認定した上,公用発明2から

当業者が容易になし得たものであると判断した。

しかし,公用発明2の生産能力は3000本/hであり,相違点2−1の前提と

なる本件発明の生産能力(3000本/hを超える)とは異なる。前記のとおり,

公用発明2は,実際に使用されている装置(EPU3000−M型機)であり,そ

生産能力3000本/hは,実用的に問題なく生産できる能力の最大限度となる

最大生産能力であるから,公用発明2(EPU3000−M型機)において,最大




生産能力3000本/hを超えて生産すると,液揺れが大きくなりシール不良が生

じるという実用的な問題が生じることが予想される。

したがって,公用発明2から相違点2−1(液揺れを小さく抑えてシール不良を

防止できること)を想定するのは困難であり,相違点2−1は公用発明2から当業

者が容易になし得たものであるとの審決の判断は誤りである。

(3) 相違点2−2の判断の誤り

ア 審決は,
「各種装置のコンパクト化は,一般的な技術課題であり,特に充

填シール機のような大きな設置面積の必要な装置においては特に求められる技術課

題である」(28頁10行〜12行)と認定した。

しかし,公用発明2は,
「EPU3000−M型機」という実際の装置として具現

化された発明であり,装置のコンパクト化というきわめて上位概念化された一般的

課題が,漠然と個別具体的な公用発明2の技術課題となるわけではない。そして,

装置のコンパクト化を公用発明2の課題とするためには,公用発明2の「EPU3

000−M型機」において,装置をコンパクトにしなければならないという具体的

な理由が必要であるが,公用発明2を特定する甲17,20及び34には,そのよ

うな具体的な理由は何ら記載も示唆もされていない。したがって,審決には,公用

発明2の課題の認定に誤りがある。

イ 審決は,充填シール機において搬送ピッチを小さくすることにより該充


填シール機をコンパクト化できることは,当業者が容易に想到しうる事項である。」

(28頁12行〜14行)と判断した。

しかし,本件発明のようなゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置においては,

搬送チェーンの搬送ピッチを小さくすることによって,搬送チェーンを短くして装

置をコンパクトにできるものではない。すなわち,搬送チェーンの長さは,(搬送)


ピッチP〕×〔ピッチ数n〕で表され,
(搬送)ピッチPを小さくしても,ピッチ数

nが増えれば,搬送チェーンは長くなり,装置をコンパクトにすることはできない。

実際に,U−H25A型機(公用発明1)とEPU−3000M型機(公用発明2)




の搬送ピッチと搬送チェーンの長さ(全長)の関係を見てみると,ピッチが127

mmと大きいEPU−3000M型機の方が,ピッチが112mmと小さいU−H

25A型機よりも搬送チェーンが短く,コンパクトになっている。具体的には,E

PU−3000M型機においては,カートン供給部,充填部及びカートン頂部くせ

折り・シール部に沿って搬送チェーンが設けられ,ピッチ数は24であり,搬送チ

ェーンの全長は,127×24=3084mmとなっている。これに対して,U−

H25A型機においては,EPU−3000M型機の処理部(カートン供給部,充

填部及びカートン頂部くせ折り・シール部)に対応する部分のピッチ数は30であ

り,搬送チェーンの全長は,111.2×30=3336mmとなっている。そし

て,EPU−3000M型機においては,各処理部(カートン供給部,充填部及び

カートン頂部くせ折り・シール部)を1列に配置し,1ピッチずつ間欠搬送しつつ,

停止中の紙容器に対して各処理を行うことから,搬送チェーンのピッチとピッチ数

は各処理部分の長さや機構等に制約され,ピッチのみを単独で自由に変えられるも

のではなく,ピッチを短くすれば,その分ピッチ数を多くしなければならず,ピッ

チを短くしても,装置をコンパクトにすることはできない。

また,EPU3000−M型機と同系列の充填シール装置であるEPU6000

−M型機(甲16)においては,駆動系や口栓パーツフィーダー自体をコンパクト

化することで機械の小型化を実現しており,装置をコンパクト化するために搬送チ

ェーンのピッチを短くすることは行っていない。これは,同列機であるEPU30

00−M型機も同様であると考えられる。したがって,EPU−3000M型機(公

用発明2)においては,装置のコンパクト化は搬送ピッチを小さくすることの動機

付けとはならず,公用発明2に対して,
「搬送ピッチを小さくすることにより該充填

シール機をコンパクト化できることは,当業者が容易に想到しうる事項である。 と


の審決の判断は誤りである。

ウ 審決は,
「公用発明1においては,112mmの搬送ピッチを採用されて

いることから,公用発明2においても搬送ピッチを115〜105mmの範囲に変




更することに格別な困難性は認められない。 28頁14行〜16行)

( と判断した。

しかし,前記のとおり,公用発明1,2のようなゲーベルトップ型紙容器の充填

シール装置において,搬送ピッチは,ピッチ数と共に各処理部分(カートン供給部,

充填部及びカートン頂部くせ折り・シール部)の長さや機構等に制約され,ピッチ

のみを単独で自由に変えられるものではなく,搬送ピッチの変更は,阻害要因とな

るものである。

したがって,公用発明2においても搬送ピッチを115〜105mmの範囲に変


更することに格別な困難性は認められない。 との審決の判断は,
」 阻害要因を無視し

た誤ったものである。

(4) 相違点2−3の判断の誤り

審決は,a)本件発明の3000本/hに臨界的意義はないこと,b)本件発明

生産能力の下限値と公用発明2の生産能力の3000/hとは,技術的にみて実

質的な差異はないことから,相違点2−3は,実質的な相違とは認められないと判

断した(28頁24行〜28行)。しかし,この判断は,本件発明における生産能力

及び「ただし,3000本/hを除く」の意義を誤ったものである。

ア a)につき

前記のとおり,本件発明の数値限定された「生産能力」は,公知発明が達成でき

なかった構成要件そのものであり,公知発明を実施するに際して,設計上当然に適

当な数値を与えなければならないような構成要件ではない。したがって,本件発明

進歩性は,生産能力数値限定に臨界的意義があるか否かで判断することはでき

ず,a)の判断において,数値限定生産能力3000本/h」に臨界的な意義を

求め,これがないとした審決が誤っていることは明らかである。

イ b)につき

審決は,本件発明における生産能力の下限値を「3000本/hに限りなく近い」

値として(28頁25行〜26行) この下限値と公用発明2の生産能力3000本


/hを対比し,両者は技術的にみて実質的に差はないと判断した。この「3000




本/hに限りなく近い」値が具体的にどのような値か審決には明記されていないが,

これは,「3000.1本/h」(10時間当たり30001本の生産能力)や「3

000.01本/h」
(100時間当たり300001本の生産能力)を意味すると

理解できる(無効審判事件弁駁書〔甲72〕15頁4行〜8行参照)。

しかし,本件発明の生産能力における「ただし,3000本/hを除く。」は,E

PU−3000M型機(公用発明2)の生産能力「3000本/h」を除くための,

いわゆる除くクレームに相当する。よって,本件発明の「ただし,3000本/h

を除く。」は,EPU−3000M型機の生産能力「3000本/h」が除外するも

のであり,公用発明2の生産能力「3000本/h」と実質的に同一である「30

00本/hに限りなく近い」値は,当然に除外される。したがって,本件発明にお

ける生産能力は,公用発明2の生産能力「3000本/h」と実質的に相違し,審

決は,b)について,「ただし,3000本/hを除く。」の意義を無視して形式的

な判断をしたもので,明らかに誤りである。



第4 被告らの反論

1 取消事由1に対し

(1) 生産能力で特定された発明の公然実施につき

ア 特許請求の範囲において生産能力を数値で規定した物の発明の場合の公

実施とは,@公然実施品が存在した事実に加えて,A当該公然実施品が当該「生

産能力」を有していたこと(その生産能力をどのようにして実現するかではない)

を不特定多数の者が知り得る状況で販売又は販売のために展示等されていたことが

認定できれば必要にして十分である。審決が「その『生産能力』が実施されている

ことを認識できれば足りる」
(24頁末行〜25頁1行)としているのは,上記の趣

旨を言うものであって何ら誤りはなく,原告の主張するように「その発明に係る生

産能力をどのようにして実現するか技術的に理解される状況又は技術的に理解され

るおそれのある状況で実施された必要」はない。




また,原告は,
「当該『生産能力』が実施されていることを認識するためには,仕

様書上の生産能力を表す数値だけでは不十分で,当該『生産能力』が実際に発揮さ

れているという事実が必要」と主張するが,公然実施品が特許請求の範囲に規定さ

れる「生産能力」を有していたことを不特定多数の者が知り得る状況になっていた

ことが認定できれば必要にして十分であり,当該公然実施品が不特定多数の来場者

が訪れる展示会に出展されたような場合は,これに該当するのであって,展示会に

おいて実際に当該「生産能力」の最大値において生産した事実が必要なわけではな

い。

生産能力で特定された発明の公然実施について,原告は,
生産能力aで

特定した充填シール装置の発明が公然実施された発明であるためには,生産能力

を有すると思われる充填シール装置(装置D)が販売され,装置Dに関して守秘義

務がないだけでは不十分であり,少なくともその装置Dが生産能力aを実際に発揮

して,製品を生産している事実が必要である。」と主張する。

しかし,上記の事例では,装置Dが生産能力aを有することが不特定多数の者に

知り得る状況で実施されたことを認定できれば必要にして十分であり,装置Dが生


産能力aを実際に発揮して,製品を生産している事実」は必要でない。この点,装

置Dの生産能力を記載した業界紙や装置Dの仕様書等の記載から「生産能力a」が

十分認識でき,また,かかる装置Dが守秘義務なく,公然と譲渡のために展示ある

いは譲渡されれば,その装置Dの生産能力aが実施されていることも認識できるの

であり,かかる展示あるいは譲渡がなされれば,生産能力aで特定された装置Dに

係る発明は,公然実施された発明(その内容が公然知られる状況又は公然知られ

おそれのある状況で実施された発明)であるといえる。

(2) 「U−H25A型機」が公然実施された発明であるとの認定につき

ア 原告が取消事由1(2)で主張する点は,「生産能力」の実施されているこ

との意味を取り違えた原告独自の解釈を前提とするものであり,いずれも誤りであ

る。




「JAPAN PACK」
(日本国際包装機械展)は,包装機械を中心としたアジ

ア最大規模の国際展示会である。
「U−H25A型機」は,本件出願前に「JAPA

N PACK’97」(以下,単に「ジャパンパック」とも表示する。)に出品・展

示され,不特定多数の来場者がそのコンベア部分をはじめ装置の細部にわたり視認

することができた上に,少なくとも必要に応じて同機の仕様の詳細(容器搬送速度

や搬送ピッチや生産能力)の説明を受け得る状況にあった(公然と譲渡のために展

示) また,
。 同機は本件出願前に搬送ピッチについて守秘義務なくエロパック社へ輸

出販売(公然と譲渡)されたものでもある。生産用機器の最大生産能力は,その機

器の購入を検討する者や,購入した者にとって,最重要事項の1つであり,
「U−H

25A型機」の最大生産能力が2520本/hであることは,ジャパンパックにお

ける不特定多数の来場者や,エロパック社の社員などによって認識されていた上,

業界紙(甲3)などにも明示されていた。
「U−H25A型機」に係る発明は,搬送

ピッチが111.2mmであることはもちろん,生産能力が2520本/hである

ことも含めて,その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で

実施された発明,すなわち「公然実施された発明」に該当することは明らかである。

イ なお,JAPAN
「 PACK」
は商談を目的とする国際展示会であって,

その展示会としての性質上,
「JAPAN PACK’97」での「U−H25A型

機」の展示は,不特定多数の来場者に対して同機の仕様を知りうる状態で行われた

ことは当然である。したがって,
「上記「JAPAN PACK’97」での展示は,

その展示状況より不特定多数の来場者に対して同機の仕様を知りうる状態で行われ

たもの」(24頁14行〜16行)と認定した審決に誤りはない。



2 取消事由2に対し

原告の主張は,
生産能力」の実施されていることの意味を取り違えた原告独自の

解釈を前提とするものであり,いずれも誤りである。

甲34は,清洲櫻醸造株式會社が3000本/hの生産能力で製品を実際に製造




した旨が同社製品部課長の氏名・捺印の下,明確に記載されているところ,ある製

品の生産用機器を購入した会社が,その機器の最大生産能力でその製品を実際に製

造することは製造効率の点からして当然のことであり,少なくとも購入する機器の

(最大)生産能力を実際に確認していないというようなことは考えられない。

さらに,
「EPU3000−M型機」は,本件出願前に清洲櫻醸造株式會社に守秘

義務なく販売(公然と譲渡)されたものであり,
「EPU3000−M型機」に係る

発明は,生産能力が3000本/hであることを含めて,公然実施された発明に該

当することは明らかである。



3 取消事由3に対し

(1) 相違点1−1の判断の誤りにつき

審決は,
「公用発明1は,製品として実際に販売されていることを考慮すれば,公

用発明1においても,実用的に問題のない程度に『液揺れを小さく抑えてシール不

良を防止でき』ているものと認められる。(26頁19行〜22行)と認定し,相


違点1−1は実質的には相違点ではないと認定しているのであるから,相違点1−

1についての「容易想到性の論理付け」はそもそも不要である。したがって,
「容易

想到性の論理付け」を必要とする原告の主張は的外れである。

また,審決は,構成Eについては,
「上端を開口した多数の紙容器を垂直状態に且

つ一定の搬送ピッチで保持し,該紙容器を前記搬送ピッチずつ間欠搬送する搬送装

置と,その搬送装置による紙容器の走行経路に配置され,停止中の紙容器に対して,

液体充填,頂部くせ折り,頂部シール等の処理を施す処理装置を備え,胴部サイズ

が少なくとも85mm角〜95mm角の範囲内の1サイズの紙容器に対して処理可

能なゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置において,」
(構成A〜C)
「液揺れを

小さく抑えてシール不良を防止でき,ること
」 (構成E)
が特定されていると解され,

これとの対比において,
「公用発明1は,製品として実際に販売されていることを考

慮すれば,公用発明1においても,実用的に問題のない程度に『液揺れを小さく抑




えてシール不良を防止でき』ているものと認められる。」として,差異がないことを

実質的に認定判断したものであり,かかる認定判断に誤りはない。

なお,審決は,相違点1−2において,
生産能力を3000本/h+300本/

h(ただし,3000本/hを除く。)とした」との構成Fについての容易想到性

判断する際に,搬送ピッチや「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」とい

う条件を考慮して認定判断しており,実質的には,原告の要求する構成D〜Fを一

体とした認定判断も行われている。すなわち,審決が,相違点1−2に関し,
「ここ

で,公用発明2は,公用発明1より搬送ピッチが大きく,生産能力が高いので,紙

容器の間欠搬送において,公用発明1より,加速度,減速度が大きく,液揺れが大

きくなることが想定されるが,公用発明2は,3000本/hの生産能力においも,

公用発明1と同様に,実用的に問題のない程度に『液揺れを小さく抑えてシール不

良を防止でき』ているものと認められる。」としたことは,公用発明2の搬送ピッチ

(127mm)は,公用発明1の搬送ピッチ(111.2mm)より大きく,生産

能力が高いので,紙容器の間欠搬送において,公用発明1より,加速度,減速度が

大きく,液揺れが大きくなることが想定されるが,公用発明2は,3000本/h

生産能力においても,実用的に問題のない程度に「液揺れを小さく抑えてシール

不良を防止でき」ているので,搬送ピッチの小さい公用発明1において生産能力

3000本/hを超えるようにしても,液揺れを小さく抑えてシール不良を防止で


き」ると認められる,という趣旨であると理解できる。

また,原告は,公用発明1は,
「 実際に使用されている装置そのものの発明であり,

その生産能力2520本/hは最大生産能力であり,これを遥かに超えることとな

る3000本/hを超える生産能力(構成F)まで引き上げて生産すると,当然に

液揺れが大きくなりシール不良を生じることが予想され,液揺れを小さく抑えてシ


ール不良を防止でき』ることは到底想定できない。」などと主張しているが,前記の

とおり,充填シール装置の生産能力は,紙容器底部のシール時間(底部成形に要す

る時間),内容物の充填時間,紙容器上部のシール時間(頂部成形に要する時間),




および紙容器の搬送時間の全体によって決まるものであるから,2520本/hの

生産能力を3000本/h程度に引き上げたからといって,当然に,
「液揺れを小さ

く抑えてシール不良を防止でき」なくなることが想定されるものではない。

さらに,原告は,相違点1−1に関し,公用発明2は,実際に使用されている装

置そのものの発明であって,公用発明1とは装置構成や全長等が大きく異なるから,

公用発明2の液揺れ状態は,公用発明1において,生産能力を3000本/hを超

えるまで引き上げた場合にどのような液揺れ状態が生じるかの参考とはならないと

主張するが,本件発明においても全長等が特定されているわけではなく,あらゆる

全長を含む構成を対象としているのであるから,いかなる全長等においても液揺れ

状態は同様であると考えることができる。

加えて,原告は,また,相違点1−1に関し,公用発明2の生産能力は3000

本/hであるが,これも最大生産能力であり,公用発明2においてこの最大生産能

力を超えて生産すると,液揺れが大きくなってシール不良が生じることが予想され,

公用発明2から,相違点1−1の『液揺れを小さく抑えてシール不良を防止できる

ことは予想できないと主張するが,この主張は相違点1−1に対する審決の認定と

どのように関係があるのか不明であり,無意味な主張である。

(2) 相違点1−2の判断の誤りについて

ア ア)につき

甲3〜15,33は特許文献ではなく,取扱説明書等の書面であるから,もとも

と,技術的課題を記載する性質のものではない。公用発明1に係る充填機などを含

む生産用機械の分野では,生産能力はきわめて重要な要素であり,生産能力の向上

は生産用機械において通常求められる技術課題である。したがって,生産能力の向

上が公用発明1に接した当業者にとっての課題となることは明白であって,このこ

とは,公用発明1を特定する証拠(甲3〜15,33)にそのような課題が明示さ

れていようといまいと何ら変わるものではない。

イ イ)につき




審決は,
生産能力を3000本/h(と)することは,搬送装置の搬送ピッチが

127mmの公用発明2でも達成されているように,当時の技術水準において格別

高い生産能力とはいえない。 26頁下から8行〜下から6行)

」 と認定しているが,

原告が主張するように,生産能力3000本/h自体が特に技術常識であると認定

しているわけではない。

また,原告は3000本/hという生産能力が,公用発明2(「EPU3000−

M型機」 の一例のみであるかのように主張しているが,
) このほかにも本件出願前に

生産能力3000本/hを実現できている充填装置として,DLA−30M型機が

存在していた(甲1) 本件出願当時に3000本/hという生産能力は複数のメー


カーにより実現されていたことからも,当時の技術水準からすると,3000本/

h程度の生産能力とすることが容易に実現できたことであることは明らかである。

この点,原告は,充填機の生産能力3000本/hが技術常識であれば,本件発明

の特徴的部分が技術常識となり,本件発明の進歩性を問題とする意味がなくなると

主張するが,生産能力3000本/hは当時の当業者が容易に実現し得たものであ

り,また,搬送ピッチを短くすることも公用発明1にて公然実施されていたことか

らすると,本件発明には特徴部分といえるものはなく,進歩性の有無を問題とする

意味がないほど明らかに本件発明は進歩性を欠如している。

ウ ウ)につき

本件発明は,まさに原告の主張する「公知発明の構成要件数値限定をした発明」

である。すなわち,
「公知発明が達成できなかった構成要件そのもの」を規定した発

明は,原告の主張する「公知発明の構成要件数値限定をした発明」に該当する。

なお,3000本/hを超える生産能力には,例えば「3000.1本/h」
(1

0時間当たり30001本の生産能力)などの3000本/hに限りなく近い様々

生産能力も含まれるが,これらの生産能力は,3000本/hの生産能力と技術

的に実質的な差異がないものであり,例えば公用発明2において,3000本/h

を超えたとしても,少なくともそれに限りなく近い生産能力であれば,液揺れによ




るシール不良が生じないことは明白である。したがって,
生産能力を3000本/

h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。」としたからといって,30


00本/hの生産能力を有する装置と実質的に差異はない。

エ エ)につき

甲46は主たる引用文献として主張されたものではないから,特許法29条1項

各号のいずれにも該当しないことは無関係である。そもそも審決は,甲46を引用

文献として直接引用して何らかの判断を示しているわけではないから,この点は審

決の取消事由となりえない。

また,原告は,甲46に示されるような技術的知見が本件特許出願当時存在して

いたとしても,U−H25A型機の生産能力2520本/hを容易にアップできる

のは2900本/hまでであって,3000本/hを超えるまでアップすることは

できないこととなる旨主張する。

しかし,甲46における2900本/hに能力アップすることが容易であった旨

の陳述は,訂正前の特許請求の範囲で特定された生産能力が「3000本/h±3

00本/h」であったことから,2700〜3300本/h(2700本/h以上)

生産能力の容易性を立証すべく,必要な限度において行われたものであり,30

00本/hを超えるまでアップするのが容易でない旨の趣旨でない。そして,甲4

6における試算は,あくまで「移動/停止の割合とカム曲線の種類を維持したまま」

という前提条件の下での試算であり,U−H25A型機で用いられている変形正弦

曲線(最大加速度係数Am:5.53)に代えて,例えば原告が甲64における試

算で用いている変形台形曲線(最大加速度係数Am:4.89)を使用し,かつ,

移動/停止の分割割合を必要に応じて150°/210°から変化させれば,U−

H25A型機の生産能力を3000本/hあるいは3050本/hを超えるまでア

ップすることも容易であった。



4 取消事由4に対し




(1) 各相違点を別個独立に判断したことは誤りであるとの主張につき

引用発明と特許発明の間に複数の相違点が存在する場合に,すべての相違点につ

いて同時に判断することができないのは当然のことであるし,構成D〜Fは別個に

判断できないほど密接に関係しているわけでもない。また,相違点2−1から相違

点2−3へと,相違点毎に順次判断していく審決の判断(28頁5行〜下から4行)

は,公用発明2において,搬送ピッチを相違点2−1の範囲(115〜105mm)

変更して生産能力を相違点2−3(3000本/hを超える)とし,相違点2−

1(液揺れを小さく抑えてシール不良を防止できること)が,当業者が容易に想到

できるかを判断していることになる。

(2) 相違点2−1の判断につき

審決は,公用発明2が製品として実際に販売されていることから,
「公用発明2に

おいても,実用的に問題のない程度に『液揺れを小さく抑えてシール不良を防止で

き』ているものと認められる。(28頁7行〜9行)と認定しているのであり,相


違点2−1は実質的には相違点ではないと認定しているのであるから,相違点2−

1についての原告の主張は当を得ない。原告は「公用発明2の生産能力は3000

本/hであり,相違点2−1の前提となる本件発明の生産能力(3000本/hを

超える)とは異なる。」と主張するが,「3000本/h+300本/h(ただし,

3000本/hを除く。」の生産能力であっても,3000本/hに臨界的意義が


ない以上,公用発明2の「3000本/h」の生産能力と実質的な差異がないこと

に変わりはなく,したがって「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止できる」こ

とにおいても公用発明2と実質的な相違点とは認められない。

(3) 相違点2−2につき

ア 原告は,装置のコンパクト化を公用発明2の課題とするためには,公用

発明2の「EPU3000−M型機」において,装置をコンパクトにしなければな

らないという具体的な理由が必要であるが,公用発明2を特定する甲17,20及

び34にはそのような具体的な理由は何ら記載も示唆もされていないと主張する。




しかし,甲17,20及び34は特許文献ではなく,取扱説明書等の書面である

から,もともと,技術的課題を記載する性質のものではない。

また,原告は,公用発明2は,
「EPU3000−M型機」という実際の装置とし

て具現化された発明であり,装置のコンパクト化というきわめて上位概念化された

一般的課題が漠然と個別具体的な公用発明2の技術課題となるわけではないと主張

するが,装置のコンパクト化,液揺れの低減,生産能力の向上は,ゲーブルトップ

型紙容器の充填シール装置の一般的な技術的課題であることは論をまたない。

さらに,容器の搬送を伴う充填シール装置等において,搬送時における液揺れに

よりシール不良が生じるという問題点や,かかる充填シール装置等において,その

処理量(生産能力)が搬送される充填済み容器中の液体の擾乱(定常状態の乱れ)

の程度によって制限され得るという問題点が存在すること,間欠搬送のピッチを大

きくすると液揺れが増大し,ピッチを小さくすると液揺れが低減することは,甲2

3〜25の記載などからも,本件発明の出願日より前に既に当業者に広く知られて

いたことであり,甲23の段落【0003】の記載によれば,装置の小型化の観点

から搬送ピッチを短くしようとする動機付けが存在した。

イ U−H25A型機(公用発明1)における処理部のピッチ数が30であ

り,EPU−3000M型機(公用発明2)の24より6ピッチ多くなっているの

は,EPU−3000M型機では充填ノズルを1つ用いる1回充填を採用している

のに対し,U−H25A型機は無菌充填仕様であり,また,果肉入り充填物に対応

する仕様であるため,充填ノズルを4つ用いる4回充填方式を採用していることに

よるものである。U−H25A型機において4つの充填ノズルが間に1ピッチずつ

空くように配置されていることからも分かるように,充填ノズル1つにつき,その

充填ノズルで充填する位置について1ピッチ分,次の充填ノズルなどとの間隔を確

保するための1ピッチ分の計2ピッチ分が必要になるのであり,U−H25A型機

では充填ノズルが1つではなく4つ,つまり3つ多く配置されていることにより,

3×2ピッチで計6ピッチが余分に確保されているのである。U−H25A型機に




おける処理部のピッチ数が30と,EPU−3000M型機の24より6ピッチ多

くなっているのは,このような理由によるものである。したがって,U−H25A

型機の仕様を無菌充填でない仕様に変更して充填ノズルを1つとした場合を考えれ

ば,処理部のピッチ数はEPU−3000M型機と同じく24ピッチとなり,搬送

ピッチが短い分だけ,U−H25A型機の方が搬送チェーンは短くて済み,その分

だけ装置をコンパクト化できることは自明である。

また,原告は,EPU−3000M型機において,搬送チェーンのピッチとピッ

チ数は,各処理部分の長さや機構等に制約され,ピッチのみを単独で自由に変えら

れるものではない旨主張しているが,キャリアチェーンを備えた搬送装置以外の装

置について訂正明細書の段落【0009】における「これらの各装置は従来公知の

ものであるので,詳細な説明は省略する。」との記載から明らかなように,当時の技

術水準からすれば,EPU−3000M型機を構成する各装置の配置をそれに適合

するように調整して搬送ピッチを短縮することは容易になし得た。

さらに,原告は,EPU3000−M型機と同系列の充填シール装置であるEP

U6000−M型機(甲16)について縷々述べているが,EPU3000−M型

機には直接関係がない。

ウ 原告は,公用発明1,2のようなゲーベルトップ型紙容器の充填シール

装置においては,搬送ピッチは,ピッチ数とともに各処理部分(カートン供給部,

充填部及びカートン頂部くせ折り・シール部)の長さや機構等に制約され,ピッチ

のみを単独で自由に変えられるものではなく,搬送ピッチの変更は,阻害要因とな

るものであると主張する。

しかし,前記のとおり,キャリアチェーンを備えた搬送装置以外の装置について

訂正明細書の段落【0009】における「これらの各装置は従来公知のものであ

るので,詳細な説明は省略する。」との記載から明らかなように,当時の技術水準か

らすれば,EPU−3000M型機を構成する各装置の配置をそれに適合するよう

に調整して搬送ピッチを短縮することは容易になし得たのであり,搬送ピッチの変




更が阻害要因となるということはない。

(4) 相違点2−3の判断の誤りについて

ア a)につき

本件発明においては,
生産能力を3000本/h+300本/h(ただし,30

00本/hを除く。)とした」
(構成F)ことに関して,
「3000本/h」に臨界的

意義がない以上,進歩性の判断においては「3000本/h」の生産能力を規定し

た場合と同列に扱うほかない。したがって,本件発明の進歩性は,生産能力の数値

限定に臨界的意義があるか否かで判断することはできず,数値限定生産能力30

00本/h』に臨界的な意義を求め,これがないとした審決は誤っている旨の原告

の主張は誤りである。

イ b)につき

原告が当然除かれると主張する「公用発明2の生産能力『3000本/h』と実

質的に同一である『3000本/hに限りなく近い』値」が,具体的に何本/hま

で含むのか,例えば3001本/hは含むのか,3002本/hは含むのか,
・・・

3005本/hは含むのか,当業者が訂正明細書を見ても全く理解できず不明確で

ある(特許法36条6項2号違反となる)ことからして,このような解釈が許され

ないことは明らかである。また,いわゆる「除くクレーム」であるとして訂正が認

められるということは,進歩性の判断において除かれた部分を常に実質的な相違点

として取り扱わなければならないことを意味するものではなく,
「除くクレーム」に

関する原告の主張は失当である。仮に「3000本/hに限りなく近い」値を除い

たところで,進歩性が認められるほどの実質的な生産能力の差異は,本件発明と公

用発明2の間に認められない。さらに,充填シール装置などの生産用機械の分野で

は,実際の最大生産能力を公称の最大生産能力に対して若干余裕を持たせているの

が通常であって,EPU−3000M型機(公用発明2)の公称の最大生産能力

3000本/hであるが,実際の最大生産能力は3010〜3050本/h程度で

あったことからすると,本件発明の3000本/hに限りなく近い生産能力が,公




用発明2のそれと実質的な相違がなかったことは明らかである。なお,本件発明の

3000本/hに限りなく近い生産能力が,公用発明2のそれと実質的な相違がな

いものであり,3000本/hに限りなく近い生産能力においては液揺れによるシ

ール不良が生じないことも容易に理解できる。



第5 当裁判所の判断

1 取 消事由1(U−H25A型機が公然実施された発明であるとの認定の誤

り)について

(1) 証拠(各項目の末尾に掲記)によれば,被告四国化工機が製造した口栓付

大型ゲーブル紙容器無菌充填機「U−H25A型機」は,平成9年(1997年)

に開催された展示会「JAPAN PACK’97」へ,販売のために出品・展示さ

れ(甲3〜5),その後,名称を「U−IH25A型機」として,平成10年(19

98年)にエロパック社へ輸出販売された(甲6,7,14,15,33。
「U−I

H25A型機」は,
「U−H25A型機」と同一の物である〔甲8〕)こと,
「U−H

25A型機」は,「JAPAN PACK’97」及びエロパック社に対し胴部サイ

ズが85mm角のゲーブル紙容器に対して生産能力が2520本/hであり,搬送

装置の搬送ピッチが111.2mmの仕様を有するものとして納入されたこと(甲

5,7)が認められる。

そうすると,「U−H25A型機」は,本件出願前に公然と譲渡のための展示及

び譲渡されていたもの,すなわち公然実施されていたものであり,かつ,
「胴部サイ

ズが85mm角のゲーブル紙容器に対して,搬送装置の搬送ピッチを111.2m

mとし,かつ生産能力2520本/hとした口栓付大型ゲーブル紙容器無菌充填

機。」との事項を備えていたことを認めることができる。

(2) 原告は,生産能力で特定した充填シール装置の発明が「公然実施された発

明」であるためには,その発明に係る生産能力をどのようにして実現するか技術的

に理解される状況又は技術的に理解されるおそれのある状況で実施された必要があ




り,そのためには,特定の生産能力を有するとされる充填シール装置が実際にその

生産能力を発揮して生産していることが必要であると主張する。

しかし,エロパック社への納品仕様書(甲5,7)が証拠として提出され,そこ

に上記の生産能力が明記されていて,これを動かす証拠がない以上,原告の主張は,

上記認定を左右しない。

(3) したがって,取消事由1は理由がない。



2 取消事由2(「EPU3000−M型機」が公然実施された発明であるとの

認定の誤り)について

証拠(各項目の末尾に掲記)によれば,被告凸版印刷及び株式会社トッパンエン

ジニアリング製造にかかる「EPU3000−M型機」は,平成11年に清洲櫻醸

造株式會社へ販売されたこと(甲17,20,34),その際,「EPU3000−

M型機」は,同社に対し,
「胴部サイズが85mm角のゲーベルトップ液体紙容器に

対して,搬送装置の搬送ピッチを127mmとし,かつ生産能力を3000本/h

とした充填シール機。」との事項を備えるものとして納入されたこと(甲17),同

社は,納入を受けた「EPU3000−M型機」を用いて85mm角のゲーベルト

ップ型紙容器の製品を3000本/hで実際に生産したこと(甲34)が認められ

る。

そうすると,「EPU3000−M型機」は,本件出願前に公然と譲渡されてい

たもの,すなわち公然実施されていたものであり,かつ,
「胴部サイズが85mm角

のゲーベルトップ液体紙容器に対して,搬送装置の搬送ピッチを127mmとし,

かつ生産能力を3000本/hとした充填シール機。との事項を備えていたもので


あることを認めることができる。

したがって,取消事由2は理由がない。



3 取消事由3(公用発明1に基づく進歩性の判断の誤り)について




(1) 本件発明

訂正明細書(甲52,69)によれば,本件発明について以下のように認めるこ

とができる。

本件発明は,上端を開口した紙容器を所定経路に沿って間欠的に搬送し,その紙

容器に対して清酒,合成酒,焼酎,ジュース,牛乳等の液体を充填し,頂部をゲー

ベルトップ型に成形してシールするという一連の動作を行うゲーベルトップ型紙容

器の充填シール装置に関するものである。従来,85o角あるいは95o角用のゲ

ーベルトップ型紙容器充填シール装置においては127oピッチが一般的であり,

インデックスカムの1回転中におけるチェーンの移動/停止の分割割合は120°

/240°に設定され,生産能力は2000本/hが限度であったところ,ゲーベ

ルトップ型紙容器の充填シール装置においても生産能力の向上が求められているた

め,生産能力をアップすると,充填行程において液体を充填した紙容器が次の位置

へ移動,停止する際の液揺れが激しくなり,液が跳ねて紙容器頂部のシール面に接

触しシール不良を生じるといった現象が生じた。本件発明は,かかる問題点を解決

すべく,胴部サイズが85o角あるいは95o角等のゲーベルトップ型紙容器を対

象とする充填シール装置において,液揺れを抑えてシール不良を防止しながら,3

000本/h程度の生産を可能とすることを目的とするものであり,紙容器の移動

時の加速度,減速度が液揺れに多大な影響を与えており,その加速度,減速度があ

る限界に達すると共振現象を含んだ液揺れが生じることで振幅が急激に大きくなり,

その限界点が,1サイクル中の移動/停止の分割割合を150°/210°とし,

生産能力を3000本/hとしたときの加速度,減速度の最大値よりも少し低い位

置にあり,紙容器を間欠搬送する際の1サイクルでの移動距離(搬送ピッチ)を短

縮することで加速度,減速度の最大値を下げて液揺れを抑制することを見いだし,

キャリアチェーンによる紙容器の搬送ピッチを115o〜105oに設定し,かつ

生産能力を3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)とす

る構成としたものである。




(2) 相違点1−1及び1−2の容易想到性につき

ゲーブル紙容器無菌充填機において,液揺れによりシール不良が起きると製造さ

れる製品が不良品となることから,そのようなシール不良を防止することは当然の

ことと考えられるところ,公用発明1は,製品として実際に販売されているもので

あるから,実用的に問題のない程度に「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止で

き」ているものと認められる。

また,充填機において生産能力を向上させることは通常求められる課題であると

ころ,生産能力を3000本/hとすることは,公用発明2で達成されているよう

に本件特許の出願時において格別高い生産能力とはいえないことからすると,公用

発明1において生産能力を3000本/hとほとんど変わらない3001本/hを

含む3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)とすること

は,当業者が容易に想到することができた事項というべきである。

そして,公用発明2は,公用発明1より搬送ピッチが大きく生産能力が高いので,

紙容器の間欠搬送において,公用発明1よりも加速度,減速度が大きく液揺れが大

きくなることが想定されるが,公用発明2も製品として実際に販売されているので

あるから,実用的に問題のない程度に「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止で

き」ているものと認められ,そうすると公用発明2よりも搬送ピッチが小さく,加

速度及び減速度が小さくなる公用発明1において生産能力が2520本/hから3

000本/hとほとんど変わらない3001本/hを含む3000本/h+300

本/h(ただし,3000本/hを除く。)に増加したとしても,「液揺れを小さく

抑えてシール不良を防止でき」ると認められる。

よって,公用発明1において,「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止」しつ

つ,生産能力を3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)

に向上させることは当業者が容易に想到することができたものであり,相違点1−

1,1−2に関する審決の判断に誤りはない。

なお,原告は,公用発明2は,公用発明1とは装置構成や全長等が大きく異なり,




公用発明2の液揺れ状態は,公用発明1において,生産能力を3000本/hを超

えるまで引き上げた場合にどのような液揺れ状態が生じるかの参考とはならないと

主張する。しかし,公用発明1及び公用発明2は85mm〜95mm 角の範囲の紙容

器を搬送ピッチずつ間欠搬送するゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置である

点では一致しており,また液揺れの状態は,装置の全長よりも,間欠搬送するとき

の加速度及び減速度の影響の方が大きいと考えられることから(訂正明細書段落【0

007】参照),公用発明 1 において85mm〜95mm 角の範囲の紙容器を搬送ピ

ッチずつ間欠搬送するに際して,公用発明2を参考にすることは当然に考えられる。

原告の上記主張は採用することができない。

また,原告は,本件発明の構成F(生産能力を3000本/h+300本/h(・・・

中略・・・)としたこと)における「生産能力」は,ゲーベルトップ型紙容器の充填シ

ール装置の効果そのものであって,公知発明が達成できなかった構成そのものであ

り,公知発明を実施するに際して,設計上当然に適当な数値を与えなければならな

いような構成ではないと主張する。しかし,生産能力がゲーベルトップ型紙容器の

充填シール装置の効果であるとするならば,本件発明において,この構成Fは達成

すべき結果による物の発明の特定である。そして,このような結果を得るためには,

本件発明が特定する「胴部サイズが少なくとも85mm角〜95mm角の範囲内の

1サイズの紙容器に対して処理可能なゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置に

おいて,前記搬送装置の搬送ピッチを115〜105mm」とするのみならず,間

欠搬送の移動/停止の分割割合や,加減速度の特性等も関係するところ,これらに

ついて様々な態様があることは明らかである。一方,公用発明2は,搬送ピッチを

127mm としているが,それのみならず,間欠搬送の移動/停止の分割割合,加

減速度の特性等について特定の態様とすることで,3000本/hの生産能力を実

現したゲーベルトップ型紙容器であると考えられる。そうすると,本件特許の出願

時において,3000本/hの生産能力を得るために間欠搬送の移動/停止の分割

割合,加減速度の特性等について特定の態様とすることは当業者が通常行っていた




事項であるということができ,さらに3000本/hの生産能力を3000本/h

+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)の生産能力とすることにより,

物の発明として特定される事項に格別の相違があるとはいえないから,公用発明1

において3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)の生産

能力を得るために,加減速度等,必要な特定の事項を得ることは,当業者が容易に

なし得たことであるというべきである。
(なお,3000本/hの生産能力を得るた

めの態様が本件の訂正明細書(特に段落【0011】〜【0015】)に記載された

ものに限定されるのであれば,達成すべき結果による特定ではなく,当該結果を得

るための手段を特許請求の範囲で特定すべきであり,特許法36条6項2号(発明

明確性の要件)違反になる可能性がある。)

(3) 取消事由3も理由がない。



4 取消事由4(公用発明2に基づく進歩性の判断の誤り)について

前記のとおり,公用発明2も製品として実際に販売されているのであるから,実

用的に問題のない程度に「液揺れを小さく抑えてシール不良を防止でき」ているも

のと認められる。

また,ゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置において,時間あたりの生産能

力を高めることは,前記のとおり,本件出願前において一般的な課題であるところ,

充填装置において,同じ速度で搬送を行うのであれば,その搬送距離である搬送ピ

ッチが短いほど搬送に要する時間が短くなることは自明である。加えて,停止と移

動を繰り返す公用発明2,公用発明1及び本件発明1などの搬送機構は,同じ速度

パターンとなるには,加速度及び減速度特性が同じ特性となるところ,加速度及び

減速度特性が同じであれば,やはり搬送ピッチが短いほど搬送に要する時間が短く

なるといえる。一方,原告が主張するように,公用発明1,2のようなゲーベルト

ップ型紙容器の充填シール装置において,搬送ピッチは,ピッチ数と共に各処理部

分(カートン供給部,充填部及びカートン頂部くせ折り・シール部)の長さや機構




等に制約され,ピッチのみを単独で自由に変えられるものではないが,例えば,公

用発明1の搬送ピッチは115mm〜105mm であることからすれば,本件特許出

願時において,胴部サイズが85mm角のゲーブル紙容器の充填シール装置におい

て各処理部分が互いに干渉することなく配置しつつ搬送ピッチを112mm 程度と

することに格別困難な事情があったとは認められない。そうすると,公用発明2か

ら充填機のコンパクト化という課題の示唆や教示等が読み取れないとしても,一般

的な課題である時間あたりの生産能力を高めるために,公用発明2において,搬送

ピッチを困難無く短くできる112mm 程度とすることは,当業者が適宜なし得た

事項であるというべきである。

そして,搬送ピッチが短くなれば,紙容器の間欠搬送において加速度及び減速度

が小さくなり,液揺れも小さくなることが想定されることからすれば,公用発明2

において搬送ピッチを112mm とした場合であっても,実用的に問題のない程度

に液揺れを小さく抑えてシール不良を防止できるものと認めることができる。

相違点2−3については,本件発明では,生産能力が3000本/h+300本

/h(ただし,3000本/hを除く。)とされ,3000本/hは除かれているも

のの,本件発明における3000本/hに限りなく近い生産能力の下限値と公用発

明2における生産能力である3000本/hは実質的な相違とは認められない。そ

して,搬送ピッチ127oの公用発明2において3000本/hの生産能力を達成

していることから,搬送に要する時間を短くできる搬送ピッチ112oの公用発明

1において,その生産能力を3000本/hより大きくすることは容易であるとい

える。

よって,公用発明2において,相違点2−2を本件発明の構成とし,それによっ

て相違点2−1,2−3の構成とすることは当業者が容易になしえたことである。

なお,原告は,審決が各相違点を別個独立に判断したことが誤りと主張するが,

審決は,実質的には公用発明2において搬送ピッチを相違点2−2の範囲(115

mm〜105mm)に変更して生産能力を相違点2−3とし,相違点2−1(液揺れ




を小さく抑えてシール不良を防止できること)を全体として判断しているといえる

し,上記のとおり,その結論において誤りもない。原告の上記主張は採用すること

ができない。

取消事由4も理由がない。



第6 結論

以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。

よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官
真 辺 朋 子




裁判官

田 邉 実






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