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関連審決 不服2001-9169
関連ワード 同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  優先権 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 216号 審決取消請求事件
原告 アグファ・ゲヴェルト・ナームロゼ・ベンノートチャップ
訴訟代理人弁理士 風早信昭
同 浅野典子
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 江頭信彦
同 小川謙
同 小曳満昭
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2001-9169号事件について平成15年1月28日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「放射線写真像記録システムにおける処理方法」とする発明について,平成4年7月14日,特許出願(平成4年特許願第210872号,優先権主張1991年7月15日,オランダ国。平成11年6月23日付け手続補正書による補正後の明細書及び図面を,以下「本願明細書」という。請求項の数は14である。)し,平成13年3月6日,拒絶査定を受けたため,同年6月1日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2001-9169号として審理し,その結果,平成15年1月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日が付加された。),同年2月7日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(請求項1) 「【請求項1】 放射線写真像記録システムにおいて放射線写真像の像データを処理する方法であって,放射線写真像を担持している電気信号がコンソールのスクリーン上のソフトコピー又は光学的表示ユニット上の写真記録材料に記録されたハードコピーのいずれかとして前記放射線写真像を可視化するための濃度値に変換され, 前記方法が以下の段階: - 診断的に関係のある像域を選択し; - 前記診断的に関係のある像域内に含まれていない放射線写真像内のすべての像点を包含するように放射線写真像内に診断的に関係のない像域を形成する; を含む場合において,前記方法が以下の段階を特徴とする方法: - 前記診断的に関係のない像域内に含まれている像点の電気信号を,前記像点をマスクオフするため,0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換する。」(以下「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平3-98174号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特開昭59-105439号公報(以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本願発明と引用発明1との相違点は,次のとおりである。
(1) 本願発明が「診断的に関係のある像域」を選択するようにしているのに対して,引用発明1においては照射野領域を認識選択するようにしている点。(以下「相違点1」という。) (2) 本願発明が診断的に関係のない領域内に含まれている像点の電気信号を前記像点をマスクオフするため0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換するようにしているのに対して,引用発明1においては,前記画像再生用画像データの前記放射線照射野外の領域に対応する画像再生用画像データに前記低輝度もしくは高濃度に対応するデータ値を割り当てるとするだけで,濃度値について数値を示していない点。(以下「相違点2」という。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,相違点1に関する判断を誤り(取消事由1),また,本願発明の効果の顕著性について判断を誤った(取消事由2)ものであり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
1 取消事由1(相違点1に関する判断の誤り) (1) 審決は,「刊行物2は,関心領域外の画像を関心領域内の画像より相対的に暗くすることによって画像診断するときの画像診断に関係のない部分からの光による悪影響を防止することも示唆しているということができる。」(審決書5頁20行〜23行)と認定している。
しかしながら,刊行物2の記載から明らかなように,引用発明2の目的は,画像情報を損なうことなく(つまり,ディスプレイ上に実線を描くことなく)関心領域を識別容易に表示することであって,画像診断するときの画像診断に関係のない部分からの光による悪影響を防止することではない。
すなわち,引用発明2の目的は,引用発明1の「放射線照射野以外の領域からの強い光が目に入射して観察の妨げとなることもない可視画像を得ることができる放射線画像処理方法および装置を提供すること」という目的,すなわち眩惑を防止するという目的とは異なるものである。
また,審決は,「的確な画像診断を図る」という両発明に共通する最終目的を指摘し,引用発明1の直接目的があたかも引用発明2でも示唆されているかのように見せかけて判断をしているけれども,そのような論法は誤りである。
したがって,引用発明2と引用発明1とを組み合わせようという動機付けはない。
(2) 刊行物2に,「輝度制御部6は,・・・・関心領域内の輝度を関心領域外の輝度よりも高くなるような信号を出力する。」(甲第3号証2頁右下欄18行〜3頁左上欄1行)と記載されているように,引用発明2は,関心領域内の輝度を関心領域外の輝度に対して相対的に高くするという操作をする構成になっているものである。
審決は,そのような操作の具体例として,@関心領域外の輝度はそのままとして関心領域内の輝度を上げること,A関心領域内の輝度を多少上げ関心領域外の輝度を多少下げること,B関心領域外の輝度だけを下げること,の3通りの操作が考えられるとし,刊行物2は,関心領域外の画像を関心領域内の画像より相対的に暗くすることによって,画像診断する場合の画像診断に関係のない部分からの光による悪影響を防止することも示唆している旨認定している。
しかしながら,刊行物2には,審決が考えられるとしている操作のうち,@のみが記載されているだけで,A及びBは全く記載されていないし,画像診断に関係のない部分からの光による悪影響を防止することの示唆もないのであって,引用発明1と2を組み合わせることができないことはもとより,引用発明2は,関心領域内の輝度を関心領域外の輝度に対して相対的に高くするというものであるのに対し,本願発明においては,「診断的に関係のない像域内に含まれている像点の電気信号を,前記像点をマスクオフするため,0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換する」とあるように,関心領域外(診断に関係のない像域)の濃度の修正は,関心領域内(診断に関係のある像域)の濃度とは無関係に独立して行われるのであるから,引用発明2をもってしても,相違点1に係る本願発明の構成は得られないものである。
(3) 以上のとおり,引用発明1と引用発明2を組み合わせる動機付けはないし,たとえ引用発明1と引用発明2を無理に組み合わせたとしても,相違点1に対応する本願発明の構成を得ることはできない。したがって,相違点1に関する審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本願発明の効果の顕著性に関する判断の誤り) (1) 審決は,相違点2に関し,本願発明において「診断的に関係のない像域内を0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換する点に関し,1以下でも眩惑防止効果はあるとしても,0.5や2.5の値に臨界的な意味があるとも認められず,しかもこの数値範囲が診断上特段の意義があるような診断的に関係のある像域の濃度値との関係を示した上で限定されたものでもないから,0.5と2.5の間という数値限定は当業者が適宜なし得る設計事項の域を出ないという拒絶の理由で示した判断は妥当なものである。」(審決書6頁20行〜26行)と判断した。
しかしながら,放射線専門医でもない審判官がこのように安易に決めつけることは明らかに誤りである。0.5と2.5の間という数値は,原告の多大な研究により定められたものである。
(2) 本願発明においては,@濃度を変化させない領域,A濃度を上げた領域,B放射線写真像の外側に位置するものの領域という3つの領域に塗り分けることにより,濃度を変化させない領域(診断的に関係のある像部分)の妥当性を確かめることができ,放射線写真像の外側に位置するものの領域が,濃度を上げた領域(診断的に関係のない像域)よりも高い濃度(暗い)であることによって,放射線専門医は原画像の大きさがどのようなものであったのかを理解することができるのである。もし,診断的に関係のない部分の濃度を,外側に位置する領域と同じ濃度(暗さ)にしてしまうと,原画像の大きさが解らなくなってしまうのである。
したがって,0.5と2.5の間という数値を設定することにより,3つの領域を塗り分けることができるのであり,そのような効果の顕著性を無視して前記のように判断した審決は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)に対して 刊行物1の「強い光が目に入射して観察の妨げとなることもない可視画像を得る」(甲第2号証4頁左上欄3〜4行)との記載及び刊行物2の「的確な画像診断を図る必要が生じている。」(甲第3号証1頁右下欄9行)との記載からすれば,引用発明1及び引用発明2が,いずれも「画像診断の的確を図る」ことを目的とする技術であることは明らかである。
そして,引用発明1及び引用発明2は,観察者にとって重要でない領域をマスクオフするものである点で共通の機能を有するものであるから,引用発明1に引用発明2を適用することについて十分な動機付けがある。
また,刊行物2には,本願発明の「前記像点をマスクオフするため」の点も記載ないし示唆されており,相違点1に対応する本願発明の構成が記載ないし示唆されていることは明らかである。
2 取消事由2(本願発明の効果の顕著性に関する判断の誤り)に対して 相違点2における数値の限定にはことさら技術的意義があるわけではなく,当業者であれば適宜採用できる数値である。
また,原告が主張する3つの領域に塗り分けるとの点は,本願発明の構成から得られる作用効果ではないから,本件においては意味のない主張である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)について (1) 刊行物1(甲第2号証)には次の記載がある。
ア 「本発明は,放射線画像が記録された記録シートから得られた画像デ ータにデータ処理を施す放射線画像処理方法および装置に関するものである。」(2頁左上欄3〜5行) イ 「記録シートに放射線画像を撮影記録するに際しては,被写体の観察に必要の無い部分に放射線を照射しないようにするため,あるいは観察に不要な部分に放射線を照射するとその部分から観察に必要な部分に散乱線が入り画質性能が低下するため,放射線が被写体の必要な部分および記録シートの一部にのみ照射されるように放射線の照射域を制限する照射野絞りを使用して撮影を行なうことも多い。」(3頁右上欄9〜17行) ウ 「上記のようにして得られた適切な読取条件,画像処理条件を採用して読取り,画像処理を行なうことにより得られた画像データに基づいてCRT等に可視画像を再生表示し,あるいは例えばレーザプリンタ等を用いてフイルムに可視画像を再生出力することにより,該可視画像が観察に供される。」(3頁左下欄9〜15行) エ 「しかし,・・・・CRTに表示された可視画像の放射線照射野外の領域の輝度が高く,またフイルムに再生出力された可視画像の放射線照射野外の領域の濃度が低く,可視画像の放射線照射野内の領域が如何に観察適性に優れたものであっても該放射線照射野外からの光が目に強く入射されるため非常に見にくいものとなってしまっていた。」(3頁左下欄16行〜右下欄6行) オ 「本発明は,・・・・放射線照射野以外の領域からの強い光が目に入射して観察の妨げとなることもない可視画像を得ることのできる放射線画像処理方法および装置を提供することを目的とするものである。」(4頁左上欄1〜6行) カ 「本発明の放射線画像処理方法および装置は,放射線照射野を認識して可視画像の該放射線照射野外の領域が低輝度もしくは高濃度となるように放射線照射野外の領域に対応する画像データに該低輝度もしくは高濃度に対応するデータ値を割り当てるようにしたため,可視画像を観察する際に・・・放射線照射野外の領域からの強い光が目に入射して可視画像を見にくいものとしてしまうことがなく,観察適性がさらに優れた可視画像を得ることができる。」(4頁左下欄14行〜右下欄3行) 以上のとおり,引用発明1は,放射線画像の表示装置において,放射線照射野以外の領域から強い光が目に入射して観察の妨げとなることがない可視画像を得ることにより,観察者による放射線画像の的確な観察を可能にすることを目的として,放射線照射野外の領域を低輝度又は高濃度にするという構成を採用した放射線画像処理方法である。
(2) 刊行物2(甲第3号証)には次の記載がある。
ア 「特許請求の範囲 画像メモリに記憶された被検体情報に基づいて再生される医用画像に対して,関心領域を指定して抽出表示する医用画像表示装置において,・・・・表示画像に対して関心領域を指定する領域指定手段と,・・・・関心領域指定情報記憶手段と,該関心領域指定情報記憶手段の出力に基づいて,関心領域内外の輝度をそれぞれ異に設定する信号を出力する輝度制御手段とを有することを特徴とする医用画像表示装置」(1頁左欄4〜14行) イ 「この発明は,診断のための医療機器の分野に属し,・・・・画像情報を損なうことなく,関心領域を識別容易に表示し得る医用画像表示装置に関するものである。」(1頁左欄17〜20行) ウ 「被検体の画像診断は,従来より種々の手段によって再構成される被検体の透視像あるいは断層像等を,ディスプレイ上に表示することによって行なわれている。この際,ディスプレイ上に表示された全体像のうち,疑偽のある部分等を関心領域として指定し,この関心領域を他の領域と区別して表示することにより,的確な画像診断を図る必要が生じている。」(1頁右欄2〜9行) エ 「従来より,関心領域を識別可能に表示する医用画像装置においては,ディスプレイ上に表示された画像に対し,ディスプレイ上に実線を描き出し,この実線で囲まれた領域を関心領域として処理を行なっていた。しかし,上記の手段によって関心領域を指定すると,画像データが実線の下に隠れる部分が生じ,画像自体の情報量が損なわれることによって正確な医用画像診断に不都合が生じていた。」(1頁右欄10〜18行) オ 「この発明は前記事情に鑑みて成されたものであり,画像情報を損なうことなく,関心領域を識別容易に表示し得る医用画像装置を提供することを目的とするものである。」(1頁右欄末行〜2頁左上欄3行) 以上のとおり,引用発明2は,医用画像表示装置において,疑偽のある部分等を関心領域として指定し,この関心領域を他の領域と区別して表示することにより,的確な画像診断を図る必要が生じているという技術的背景の下で,画像情報を損なうことなく,関心領域を識別容易に表示し得ることを目的として,関心領域部分と領域外部分との各画像の輝度を異にするという構成を採用した医用画像表示装置に関するものである。
(3) そうすると,引用発明1と2は,いずれも画像処理という方法を含む放射線写真像の表示方法に関する技術という点で同一の技術分野に属する発明であり,共に的確な画像診断を図るという目的に資するための技術であるとともに,観察の対象となる画像領域とそれ以外の領域とを輝度を異にするという方法によって区別するという点において共通の機能を有するものということができるから,的確な画像診断を図るという目的を持って引用発明1に接した当業者が,その観察対象となる画像の選択について,同一の技術分野に属し機能の点でも共通性を持つ引用発明2の技術を適用して,引用発明1における「放射線照射野」を認識することに代えて,引用発明2の「関心領域」を選択するものとすることは,容易に考えつくことであるといえる。
(4) 原告は,引用発明2は,引用発明1の「放射線照射野以外の領域からの強い光が目に入射して観察の妨げとなることもない可視画像を得ることができる放射線画像処理方法および装置を提供すること」という目的,すなわち眩惑を防止するという目的を持っていないから,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはない旨主張する。
確かに,引用発明2は,画像情報を損なうことなく(ディスプレイ上に実線を描き出すことなく)関心領域を識別容易に表示し得るという課題を解決することを目的としたものであって,引用発明1とその解決しようとする直接の課題を異にするものである。しかしながら,上記のとおり,刊行物2には,その課題解決方法として,関心領域を指定して,この関心領域とそれ以外の領域とを輝度を異にすることによって区別して表示するという技術が開示され,これにより的確な画像診断を図ることが示されているのであるから,放射線写真像の的確な画像診断を図るということを課題とする当業者にとって,引用発明2の技術を引用発明1に適用することには十分な動機付けがあるといえるのであって,引用発明2の直接の課題が引用発明1のそれと異なるからといって,両者の組み合わせが困難であるとか,引用発明2を引用発明1に適用することに格別の阻害事由があるということはできない。したがって,原告の上記主張は採用できない。
(5) 原告は,引用発明2は,関心領域内の輝度を関心領域外の輝度に対して相対的に高くするというものであるのに対し,本願発明においては,関心領域外(診断に関係のない像域)の濃度の修正は,関心領域内(診断に関係のある像域)の濃度とは無関係に独立して行われるのであるから,引用発明2をもってしても,相違点1に係る本願発明の構成は得られないと主張する。
前記のとおり,引用発明2は,表示された画像全体の中から,関心領域を任意に選択し,選択された関心領域の部分と領域外の部分とを,各画像の輝度を異にするという方法によって区別して表示する技術であり,刊行物2には,実施例として,関心領域内の輝度を高くする場合が説明されていることは,原告が主張するとおりである。しかしながら,前記のとおり,引用発明2は,「関心領域内外の輝度をそれぞれ異に設定する」というものであり,その輝度を異に設定する方法として,実施例のように関心領域内の輝度を高くすることだけに限定されていると解すべき理由はないのであるから,引用発明2には,関心領域内外の輝度を異に設定する方法の選択肢として,関心領域内の輝度を高くするということのほかに,関心領域外の輝度だけを低くすることによって領域内との輝度を異にさせ,関心領域内外を区別することも当然に含まれているといえる。そうすると,引用発明2は,本願発明の,診断的に関係のない像域内に含まれている像点の電気信号を,前記像点をマスクオフするため,所定の範囲に含まれる濃度値に変換するとの構成を示唆しているものということができ,引用発明1に引用発明2を適用して本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
したがって,引用発明2をもってしても,相違点1に係る本願発明の構成は得られないとの原告の主張は,採用することができない。
また,原告は,審決が,刊行物2には「画像診断するときの画像診断に関係のない部分からの光による悪影響を防止すること」が示唆されているとして,引用発明1と2を組み合わせることができるとした点が誤りである旨主張する。
しかし,刊行物2にそのような示唆があるかどうかはともかく,引用発明1に引用発明2を適用して本願発明の構成とすることが当業者にとって容易であることは,前述したとおりであるから,原告の上記主張は,審決の結論に影響しない点をとらえて非難するものであって,理由がない。
(6) 以上によれば,相違点1について,引用発明1に引用発明2を適用して当業者が容易に想到できるとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願発明の効果の顕著性に関する判断の誤り)について 原告は,本願発明に関し,表示される画像を3つの領域に分けることができることを顕著な効果として主張し,その効果と結びつく構成として,相違点2の0.5〜2.5の間の濃度という数値に大きな意味がある旨主張している。
この点に関し,本願明細書には以下のような記載がある。
「【0062】デジタル放射線写真システムへの連結に適しているレーザー記録装置に使用される写真フィルムの最大濃度は,通常3と4の間に位置している。・・・・細部を見分ける人間の目の認知能力は,像の濃度の増加と共に減少するので,放射線写真像の診断的に関係のある像域は,その濃度範囲が写真フィルムのカブリ値と,1.5と3.0の間に位置する濃度値との間に位置するように記録すべきである。
【0063】写真フィルム上に表示される外側境界部および二つの放射線写真像間の狭い帯状部は,写真フィルムの最大濃度で通常記録される。
【0064】原則として,放射線写真像内の診断的に関係のない像域も,写真フィルムの最大濃度で記録されるであろう。
【0065】しかしながらこれは,放射線写真像がフィルムに記録されると,診断的に関係のある像域の回りの全ての部位は均一な黒色として現れ,また放射線専門医は,放射線写真像のどの像域が診断的に関係のないものとして意図的にマーク付けされているかを見ることができないという欠点を有する。したがって本発明の好ましい実施例では,全体の放射線写真像内の前記の診断的に関係のない像域は,0.5,好ましくは1と2.5との間の濃度で,好ましくは前記の値間の均一濃度で記録すべきである。」(甲第6号証の1,15〜16頁) 以上の記載によれば,本願発明は,基本的には診断的に関係のない部分についても最大濃度で表示されることを想定していること,原告が顕著な効果として主張する3つの領域に塗り分ける点は好ましい実施例の一つであることが明らかである。
しかし,本願発明の特許請求の範囲には,前記第2の2記載のとおり,放射線写真像内の診断的に関係のある像域と関係のない像域という2つの領域についての記載があるだけで,原告が主張するような3つの領域が存在することの記載はないのであるから,原告が主張する,表示される画像を3つの領域に分けることによる効果は,本願発明の構成から必然的に得られる効果とはいえないものであるといわざるを得ない。
また,前記本願明細書の記載のとおり,0.5〜2.5という数値それ自体は,0と最大濃度に近い3との間のほとんどの部分を占めているものであり,この数値がいかなる根拠によって算出された数値であるのか,その臨界的意義については,本願明細書にも記載されていない。そうすると,この数値に格別の技術的意義があるとはいえないから,「0.5や2.5の値に臨界的な意味があるとも認められず,・・・・0.5と2.5の間という数値限定は当業者が適宜なし得る設計事項の域を出ない」とした審決の判断に誤りはない。
したがって,相違点2に関し本願発明の効果の顕著性等をいう取消事由2も理由がない。
3 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき誤りはない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂驤
裁判官 若林辰繁