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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10360号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/08/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年8月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成23年(行ケ)第10360号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年7月11日 判 決 原 告 株式会社MCX研究所 同訴訟代理人弁理士 安 形 雄 三 菅 野 好 章 加 藤 智 恵 被 告 特 許 庁 長 官 同指定代理人 竹 之 内 秀 明 松 下 聡 氏 原 康 宏 守 屋 友 宏 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が不服2010−26447号事件について平成23年9月27日にした 審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記 2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成 り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとお り)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 国立大学法人東京工業大学及び株式会社ルフトヴァッサープロジェクトは, 平成16年10月29日,発明の名称を「熱交換器」とする特許を出願した(特願 2004−316490。請求項の数12。甲1)。 (2) ルフトヴァッサープロジェクトは,平成22年6月17日,本件出願に係る 特許を受ける権利の持分全部を放棄した(甲8の2〜4)。 (3) 東京工業大学は,平成22年9月3日付けで拒絶査定を受けた(甲7)。 同大学は,同年11月18日,本件出願に係る特許を受ける権利を原告に対し譲 渡した旨を,特許庁長官に届け出た(甲9の1〜3)。 原告は,同月24日,上記拒絶査定に対する不服の審判を請求した(甲10の1 ・2)。 (4) 特許庁は,これを不服2010−26447号事件として審理し,平成23 年9月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その審 決謄本は,同年10月11日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載 本件審決が判断の対象とした特許請求の範囲の請求項2の記載(平成22年6月 1日付け手続補正書による補正後のもの)は,以下のとおりである。なお,「/」 は,原文における改行箇所を示す(以下,特許請求の範囲の請求項2に記載された 発明を「本願発明」といい,本願発明に係る明細書(甲1,6の2)を,図面を含 めて「本件明細書」という。)。 エッチング技術などを用いて金属薄板状プレートに伝熱フィンを設け,前記金属 薄板状プレートを交互に積み重ねることによって,対向する2つの前記金属薄板状 プレート間に熱交換流体の流路を形成するようにした熱交換器において,/前記伝 熱フィンは,流体の流れ方向に沿って平行に複数列設けられ,かつ,その断面形状 が連続した正弦曲線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状であることを特 徴とする熱交換器 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記引用例1及び2に記載され た発明(以下,引用例2に記載された発明を「引用発明2」という。)に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定によ り特許を受けることができない,というものである。 ア 引用例1:特開2003−90692号公報(甲4の1) イ 引用例2:特開2002−257488号公報(甲4の2) (2) なお,本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」 という。)並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりであ る。 ア 引用発明1:シート体と,該シート体の表面に,等間隔をおいて複数配置さ れた波形の突出部とによって一体形成された基材を積層することで各基材間に通流 経路を確保できるように構成されている熱交換器であって,上下に配置された各基 材は,その突出部の延在方向,すなわち,当該突出部によって決定される通流方向 が交差するように,90度回転して配置されており,シート体はアルミ箔等の金属 からなり,突出部は,樹脂前駆体が前記シート体に塗布され固化されることによっ て,前記シート体上に形成されている,熱交換器 イ 一致点:金属薄板状プレートに突出部を設け,前記金属薄板状プレートを交 互に積み重ねることによって,対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換 流体の流路を形成するようにした熱交換器において,前記突出部は,流体の流れ方 向に沿って平行に複数列設けられ,かつ,その断面形状が連続した波形である熱交 換器 ウ 相違点1:本願発明では,エッチング技術などを用いて金属薄板状プレート に伝熱フィンを設けているのに対して,引用発明1では,樹脂前駆体が前記シート 体に塗布され固化されることによって,突出部をシート体上に形成している点 エ 相違点2:本願発明では,伝熱フィンの断面形状が連続した正弦曲線ないし はその波形を変形した疑似正弦曲線形状であるのに対して,引用発明1では,突出 部は連続した波形ではあるものの,正弦曲線ないしはその波形を変形した疑似正弦 曲線形状であるか否かは明確でない点 4 取消事由 本願発明の容易想到性に係る判断の誤り (1) 引用発明1の認定の誤り (2) 一致点及び相違点の認定の誤り (3) 相違点1に係る判断の誤り (4) 相違点2に係る判断の誤り 第3 当事者の主張 〔原告の主張〕 (1) 引用発明1の認定の誤りについて ア 発明の構成は,当該発明が解決しようとする技術的課題を特定の制約条件に おいて解決するために,それぞれの構成要素が協働することにより成立するから, このような技術的課題等を十分に認識することなく恣意的に構成要素を分断して抽 出した場合,当該抽出された新たな構成は,協働関係が失われ,発明が本来意図し た技術的課題等に対応する記載からは隔絶したものとなりかねない。 本件審決は,本願発明と引用例1に記載された発明との部分的な共通点のみを取 り上げ,本願発明を知った上で,その内容を引用例1の記載にあえて求めようとし て引用例1に記載された発明を認定したものであって,誤りである。 イ 本願発明は,熱交換器のうち,通常のガス・タービン発電にも適用可能では あるが,超臨界CO2ガス・タービン発電における再生熱交換器等に用いられるマイ クロチャンネル熱交換器に関する発明であって,熱交換器の流路としてマイクロチ ャンネルを採用し,製作方法として流路加工にエッチング技術を用い,接合に拡散 接合を用いるものである。確かに,本件明細書には,「マイクロチャンネル熱交換 器」という明示的な記載は存在しないが,本件明細書の記載,背景技術及び技術常 識を参酌すれば,本願発明が,このような熱交換器に関する発明であることは明ら かであるから,特に明示的な記載は不要である。 他方,引用例1に記載された発明は,一般的に常温常圧の室内や外気の温度と圧 力程度の空気の熱交換に使用される熱交換器に関する発明である。 本願発明の熱交換器と引用例1に記載された発明の熱交換器とを対比すると,少 なくとも熱交換器内の圧力条件が異なるのみならず,熱交換器内の流体の流れの状 況(乱流と層流)や温度条件も異なり,流路の大きさも異なるものであって,これ らの点を考慮せずに両発明の認定を行った本件審決は,その前提自体が誤りである。 (2) 一致点及び相違点の認定の誤りについて ア 本願発明では,熱交換器内を通流する流体は高温高圧であり,熱交換器を構 成する金属薄板状プレートにも相応の耐熱性及び耐圧性が求められるほか,エッチ ング及び拡散接合技術を用いて製作するため,これらの加工に耐え得る強度と厚さ が必要である。引用例1に記載された発明は,常温常圧の空気の熱交換を行うもの であり,本願発明とは要求される機能,構造及び使用条件が異なるから,引用例1 に記載された発明の「アルミ箔等の金属からなるシート体」が,本願発明の「金属 薄板状プレート」に相当するものということはできない。 イ 本願発明は,熱交換器内を通流する流体が高温高圧であり,流路構造にも耐 圧及び耐熱性を考慮するとともに,伝熱特性を維持ないし向上させるべき要請が高 い。そのため,伝熱フィンは,エッチングなどの方法により金属薄板状プレートに 流路を彫り込み,残った部分として一体に形成されており,当該プレートと同一の 材料を用いた上で構造的一体性を確保することによって接触部の熱抵抗をなくし, 伝熱特性の向上を図っている。引用例1に記載された発明は,常温常圧の空気を対 象とし,本願発明とは伝熱特性に対する要求が異なっており,突出部の形成も製造 コストを抑えることを目的としているから,同発明の「突出部」が本願発明の「伝 熱フィン」に「突出部」の点で共通するとの本件審決の認定は誤りである。 ウ 引用例1に記載された発明は,熱交換する流体の流れが90度方向で交差す る直交流であるのに対し,本願発明は,180度逆方向に向かい合う流れの対向流 である。本件審決は,熱交換特性の有意な差の存在を看過するものである。 また,本願発明は,高耐熱性,高耐圧性及び高耐食性を接合部でも維持するため, 接触面で薄板を構成する金属原子が相互に拡散して強固に結合される拡散接合を行 うことを想定するものである。 さらに,本願発明は,伝熱フィンを本件明細書図3の矢印方向に所定量ずらすこ とによって熱交換部材の強度を高めることができるが,引用例1には,積層方法に 係る記載はない。 したがって,引用例1に記載された発明において,「上下に配置された各基材は, その突出部の延在方向…に,90度回転して配置するように基材を積層することで 各基材間に通流経路を確保できるように構成」したことは,本願発明の「前記金属 薄板状プレートを交互に積み重ねることによって,…流路を形成するようにした」 ことに相当するとした本件審決の認定は,両発明の各基材ないし金属プレートの積 み重ね方向及び方法が異なっていることからすると,誤りである。 エ 本件審決は,引用例1に記載された発明と本願発明とは,「突出部は,その 断面形状が連続した波形である」点で共通するとするが,本願発明の伝熱フィンは, その断面形状が連続した正弦曲線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状で あることを特徴としている点で,単に波形である突出部を有する引用例1に記載さ れた発明とは異なるから,上記認定は誤りである。 オ 発明を構成する構成要素として例示されている各要素の解釈は,明細書及び 図面の記載内容から総合判断すべきであり,発明の技術的課題をどのような制約条 件において解決しようとしているのかを考慮して行うべきである。これらの制約条 件を無視して当該発明の内容を拡張的に解釈すると,発明者が認識している発明の 範囲を不当に拡張させ,本来,特許されるべき他の発明を不当に排除することにな りかねない。 引用例1に記載された発明は,常温常圧の空気の熱交換を行うものであるから, シート体の構成要素としてプラスチックフィルムや紙,繊維などが用いられている が,本願発明は,エッチングと拡散接合技術などを用いて製作するから,これらの 加工に耐えるだけの強度と厚さが必要であり,引用例1に記載された発明とは要求 される機能及び構造が異なる。 さらに,本願発明は,エッチング技術などを用いて金属薄板状プレートに伝熱フ ィンを設けるものであるから,金属薄板状プレートと伝熱フィンは,同一の材料に よって一体的に形成されるものであり,引用例1に記載された発明のシート体とは 基本的構成が異なる。 したがって,引用例1に記載された発明の実体を考慮すれば,その形態には自ず と制限があることは明らかであり,これを拡張して解釈し,引用例1に記載された 発明の構成とすることは誤りである。 カ 以上からすると,本件審決の一致点の認定は誤りである。そして,一致点の 認定が誤りである以上,本件審決における相違点の認定もまた,同様に誤りである。 (3) 相違点1に係る判断の誤りについて ア 本件審決は,引用例1に記載された発明及び引用発明2について,「ともに 金属薄板状プレートに突出部を設け,前記金属薄板状プレートを積み重ねることに よって,対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体の流路を形成する ようにした熱交換器の分野」に属するとするが,「熱交換器」という名称が共通し ても,その実体は異なるものであって,用途及び機能とそこから派生する構造の違 い,交換される熱量や流路内の温度や圧力の違い,単位時間内に流路を通過する流 量等の熱交換の実際について,実質的に対比する必要がある。 引用例1に記載された発明は,熱交換換気装置として,常温常圧の空気間の熱交 換を行うものを前提としており,流路の大きさも大きい(【0021】)。これに 対し,引用例2は,プレート型熱交換器に係る文献であり,引用発明2は,冷凍空 調システムに使用される熱交換器として,主に水と冷媒などの熱交換を行うために 流路幅が微小に形成されることが想定され,流路内の圧力が増大することから,高 い耐圧強度が得られるように構成されており(【0006】【0017】【001 8】),引用例1に記載された発明とは実質的に異なるものである。 さらに,引用例1に記載された発明の「アルミ箔等の金属」は,金属プレートで はない。 イ 引用例1に記載された発明は,通流経路を確保するための波板と通流経路を 隔成するための平板との2つの部材が必要であった従来技術と比較して,部材の調 達コストを抑えるための手法として,アルミ箔や紙などのシート上に樹脂前駆体を 固化して突出部を形成したものである。同発明は,製造コストの抑制を目的とし, アルミ箔や紙などのシート上に樹脂前駆体を固化して突出部を形成することは,当 該目的を達成するための技術思想の主要な部分であって,他の手段を選択する必要 性はなく,それを示唆する記載もない。一般的に,金属は樹脂よりも熱伝導率が高 いからといって,当該技術思想を排除し,引用発明2に基づき,エッチング技術な どを用いて金属製の突出部を形成するような必然性も動機付けも存在しない。引用 例1に記載された発明は,常温常圧の空気の熱交換を行う熱交換換気装置に用いら れるものであり,エッチングで形成されるような微細な流路を通流するものではな いし,圧力損失の観点から微細流路の形成は有害でさえある。 ウ 本件審決は,引用例1に記載された発明の技術思想を看過し,何ら理由付け を示すことなく,相違点1の構成は当業者が容易になし得たものであるとするもの であって,本件審決の相違点1に係る判断は,誤りである。 (4) 相違点2に係る判断の誤りについて ア 引用例1には,突出部が波状に形成されたシート体が開示されているが(図 6),引用例1に記載された発明の当該突出部と本願発明の伝熱フィンとでは,伝 熱流動の観点からすると,目的及び機能が本質的に異なる。本願発明は,伝熱フィ ンが入口から出口の間で見通せない配列とし,流体を振幅の大きな波形で流れるよ うにガイドするから,流路長が増加して伝熱性能が増大するのに対して,引用例1 (図6)の流路では,90%程度以上の流路幅で流路入口から出口までが見通され, 層流の流れは大部分が直進し,通流時間を長くすることはできない。 イ 本願発明の熱交換器では,流体流路の形状は,伝熱特性及び流体抵抗による 圧力損失の両者のバランスを衡量して決定されるべきものであるが,本件審決は, 伝熱特性と圧力損失とのバランスを全く考慮していない。 ウ 引用例1に記載された発明では,製作コスト低減という課題は一応解決して おり,本願発明の正弦曲線のような周期と振幅の近似した突起部とを樹脂前駆体で 形成するような契機はなく,引用例1に記載された発明からは,伝熱効率を低下さ せることなく同時に流体抵抗を減少させるという本願発明の解決課題を生じること がないから,本願発明の課題を解決する手段である伝熱フィンの断面形状を連続し た正弦曲線等とする動機付けもない。 しかも,温度効率は,引用例1に記載された発明では55ないし75%,本願発 明では89ないし96%と異なるもの(甲26の1)であって,同じ熱交換器であ っても,温度及び圧力のみならず,必要とされる性能も全く異なる。 従来のマイクロチャンネル熱交換器では,流れの中に配置されたフィンが流れを 乱すことにより伝熱を促進したが,当該機構では,流れを乱すことに費やされるエ ネルギー損失が大きな圧力損失となり,伝熱性能は高いものの,圧力損失も高いと いう欠点を有していた。本願発明は,従来とは発想の異なる伝熱促進機構により, 流れを乱さないようにして流れの滞留領域をなくし,有効伝熱面積を増やすもので あり,流れを乱すことによる従来の伝熱促進効果は失われるが,有効伝熱面積が増 えることによって相殺され,従来と同等の伝熱性能を得ることが可能となる。本願 発明は,新規な伝熱促進機構を実現する流路構造に関する発明であり,伝熱性能を 維持したままで圧力損失を従来の約6分の1と画期的に低減するものであって,高 い温度効率を目指す上で,制約となる圧力損失の障壁が下がり,設計の自由度が広 がるから,その技術的意義は大きい。 被告は,製造コストを抑え,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるとい う課題は自明であると主張するが,前者は全ての技術分野に共通する課題にすぎず, 後者は熱交換器が共通して有する最上位概念の課題であるから,個々の具体的な熱 交換器の実体,すなわち具体的な解決課題,発明の構成や解決手段を無視して,こ のような課題が同一であるから同一の熱交換器であるとするのは妥当ではない。 エ したがって,相違点2に係る本件審決の判断は誤りである。 (5) 小括 以上のとおり,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づいて,当業 者が容易に発明をすることができるものということはできない。 〔被告の主張〕 (1) 引用発明1の認定の誤りについて ア 引用発明の認定は,本願発明との対比に必要な限度でその構成を認定すれば 足りる。本件審決も,引用例1の記載から,本願発明との対比に必要な範囲の構成 について,整理,抽出して引用発明1を認定したものである。 イ 原告は,本願発明は,超臨界CO2ガス・タービン発電における再生熱交換器 等に関するマイクロチャンネル熱交換器に係る発明であることを前提として,引用 発明1が対象とする常温常圧の空気ではなく,温度条件及び圧力条件がさらに厳し い高温高圧の流体を対象とするものであるなどと主張するが,これらはいずれも本 件明細書に記載されていない後付けの主張であり,失当である。 (2) 一致点及び相違点の認定の誤りについて ア 本願発明が,高温高圧の流体を通流するマイクロチャンネル熱交換器に係る 発明であるとする原告の主張は,その前提自体が誤りであることは,先に述べたと おりである。 本件審決は,引用発明1のシート体を構成する金属の1つとして,「アルミ箔」 を例示したものにすぎない。引用例1(【請求項3】【0027】【0031】 【0069】)によれば,「シート体」は,金属からなり,その形状は板状であっ てもよいものとされ,一般に,「シート」とは,薄板を意味することからすると, 引用発明1の「シート体」とは,金属からなる薄板状のものといえるから,その材 料,構造及び機能が共通する本願発明の「金属薄板状プレート」に相当するもので ある。 イ 本願発明において,「伝熱フィン」は,金属薄板状プレートから突出して流 路を形成して流体を通流するものである。 引用発明1においても,「突出部」は,シート体から突出して通流経路を形成し て流体を通流するものであるから,引用発明1の「突出部」と本願発明の「伝熱フ ィン」とは,流路を形成する点及び金属薄板状プレートから突出した構造である点, すなわち,「突出部」である点において共通する。 また,本件審決は,本願発明が,突出部をエッチング技術などを用いて設ける点 については,相違点1として認定し,判断しているものである。 ウ 本願発明は,流路について,熱交換をする流体が,金属薄板状プレートを交 互に積み重ねることによって,対向する2つの金属薄板状プレート間に形成された 流路を通流することについて特定するにすぎず,熱交換をする流体の流れ方向(対 向流型であるか,直交流型であるか)については,何ら特定するものではない。 原告は,本願発明は,対向する2つの面が,接触面で薄板を構成する金属原子が 相互に拡散して強固に結合されるものである,伝熱フィンを所定量だけずらすこと によって,熱交換部材の強度を高めることができるなどと主張するが,本願発明の 発明特定事項に基づかない主張である。 エ 本願発明において,伝熱フィンは,「その断面形状が連続した正弦曲線ない しはその波形を変形した疑似正弦曲線形状である」と特定されているから,その断 面形状は,「波形」に包含される。 引用発明1において,突出部(本願発明の「伝熱フィン」に相当)の形状は「波 形の突出部」であると特定されているところ,引用例1の図6から明らかなとおり, その断面形状は,「連続した波形」であるから,引用発明1の「突出部」の断面形 状と本願発明の「伝熱フィン」との断面形状とは,その形状及び構造からみて, 「連続した波形である」点で共通する。 そして,本件審決は,本願発明において,伝熱フィンの断面形状が連続した正弦 曲線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状である点は,相違点2として認 定し,判断しているものである。 オ 以上のとおり,本件審決の一致点の認定に誤りはない。本件審決における一 致点の認定に誤りがない以上,相違点の認定もまた,同様に誤りはない。 (3) 相違点1に係る判断の誤りについて ア 引用例1には,住宅用の換気装置に設けられた熱交換器が1つの実施例とし て記載されてはいるが,「常温常圧の空気を対象とする熱交換排気装置」に限定す ることや,他の熱交換器を除外する旨の記載や示唆はない。また,引用発明1の 「シート体」は,金属からなる薄板状のものということができることは,先に述べ たとおりである。 引用例2には,「冷凍空調システムに使用される熱交換器」が1つの実施例とし て記載されてはいるが,他の熱交換器を除外する旨の記載や示唆はないから,引用 発明2は,「冷凍空調システムに使用される熱交換器」に限定されるものではない。 引用発明1と引用発明2とは,金属薄板状プレートに突出部を設け,金属薄板状プ レートを積み重ねることによって,対向する2つの金属薄板状プレート間に熱交換 流体の流路を形成するようにした熱交換器である点で共通するから,両者は当該熱 交換器の分野に属している。 イ 引用発明1は,あらかじめ基材としてシート体に突出部を形成したものを用 意することにより,製造コストを抑えるという目的を達成するものであるから,シ ート体が金属からなるものであっても,製造コストを抑えるという目的を達成でき るものである。 また,引用例1には,熱交換率の高い熱交換器を提供する目的も開示しているの みならず,一般に,熱交換器において,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上さ せて熱交換率を高くするという課題を有するものであるから,引用発明1において, 製造コストを抑え,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課題は, 自明であるといえる。 引用例2にも,コンパクトで伝熱性能が良く,かつ,圧力損失の少ない熱交換器 及び冷凍空調システムを提供することが目的として記載されており,また,製造コ ストの抑制は一般的な課題であるから,引用発明2において,製造コストを抑え, 圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課題は,自明である。 したがって,引用発明1と引用発明2とは,その課題及び技術分野が共通するか ら,これらを組み合わせることは,当業者が容易になし得たものというべきである。 本願発明と引用発明1が対象とする熱交換器の分野が異なることを強調する原告の 主張は,その前提自体が誤りである。 ウ 以上のとおり,本件審決の相違点1に係る判断に誤りはない。 (4) 相違点2に係る判断の誤りについて ア 本願発明は,伝熱フィンの断面形状について,「連続した正弦曲線ないしは その波形を変形した疑似正弦曲線形状である」とのみ特定し,周期,振幅及び断熱 フィンにより形成される流路の流路幅については,何ら特定していない。 また,本願発明において,「疑似正弦曲線形状」とは,本件明細書の記載からす ると,種々の曲線の一部を構成する曲線又はそれらを組み合わせた曲線である。伝 熱フィンの断面形状を連続した正弦曲線(サインカーブ)とすることは技術常識で あるから,本願発明において,伝熱フィンの断面形状について,「連続した正弦曲 線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状である」とした点に,格別の技術 的意義はない。 さらに,本件明細書(【0018】)によれば,本願発明において,伝熱フィン について上記形状を採用した目的及び機能は,伝熱フィン間を流れる流体の流路面 積を略一定とすることにより,熱交換器の伝熱性能を損なうことなく,熱交換流体 の圧力損失を小さく抑えることができるというものである。 一般に,熱交換器において,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるとい う課題(目的)が存すること,引用例1(【0059】【0063】図6)の記載 によれば,突出部間を流れる流体の流路面積を略一定とすると,急激な流路面積の 変化がなくなって,流路を流れる熱交換流体の縮流や拡流による圧力損失を小さく することができることからすると,引用発明1において,突出部を波形とした目的 及び機能は,突出部間を流れる流体の流路面積を略一定とすることにより,熱交換 器の伝熱性能を損なうことなく,熱交換流体の圧力損失を小さく抑えることにある ということができる。 したがって,本願発明の連続した正弦曲線若しくは擬似正弦曲線形状とした伝熱 フィンと引用発明1の波形の突出部とは,その目的及び機能を共通するものである。 イ 熱交換器において,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課 題は一般的であり,伝熱性能と圧力損失とは相反する関係にあることは,技術常識 である。そうすると,当業者において,上記技術常識は,課題を解決するための当 然の前提となる技術事項であるから,伝熱特性と圧力損失とのバランスを考慮する ことは,当業者が,設計の際,当然考慮に入れる通常期待される創作活動の範囲の ことである。 ウ 本願発明において,「疑似正弦曲線形状」とは,種々の曲線の一部を構成す る曲線又はそれらを組み合わせた曲線であると定義されており,引用発明1の「波 形」も,種々の曲線の一部を組み合わせた曲線といえるから,相違点2に係る構成 は,引用発明1に実質的に開示されているか,若しくは当業者が容易になし得たも のであるというほかない。 エ したがって,本件審決の相違点2に係る判断に誤りはない。 (5) 小括 以上によれば,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容 易に発明をすることができるものというべきである。 第4 当裁判所の判断 1 本願発明について 本願発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件 明細書(甲1,6の2)には,おおむね次の記載がある。 (1) 本願発明は,高温側と低温側とで温度の異なる2つの流体間で熱を移動させ るためのプレートフィン型熱交換器に関する発明である(【0001】)。 一般に,熱交換器は,熱エネルギーの利用や除熱を要する機器などに幅広く利用 されているところ,代表的な高性能熱交換器であるプレートフィン型は,プレス加 工などで形成された金属薄板状プレートを積み重ね,プレート間に熱交換流体の対 向する,あるいは並行する流路を形成するものである(【0002】)。 また,熱交換器においては,温度の異なる2つの熱交換流体間で伝熱効率を高め るために,熱交換流体が通る流路に複数の伝熱フィンを設け,伝熱面積を増やした り,流路の流れを乱す工夫がされてきた(【0003】)。 しかし,伝熱特性を高めるために金属薄板状プレートを多く積み重ねると,熱交 換器の体積が大きくなってコンパクト化の要請に反し,また,流路に多数の伝熱フ ィンを取り付けても,伝熱特性は向上するが,圧力損失や伝熱フィンを取り付ける ための加工費が増大するという欠点があった(【0004】)。 そこで,熱交換器の伝熱特性を損なうことなくコンパクト化を図るため,エッチ ング技術を用いて金属薄板状プレートの表面にジグザグ状の流路を刻み,高温側と 低温側の金属薄板状プレートを積み重ね,対向する2つの金属薄板状プレート間を 接触部で金属薄板状プレートを構成する金属原子の拡散によって接合させるように した熱交換器が存在したが,流路がジグザグ状に蛇行しているため,流路の折れ曲 がり部の下流で渦や旋回流が形成されることによるエネルギー損失が生じ,流路の 圧力損失が大きくなってしまい,ポンプ動力の増大を招き,設備コストや運転コス トのアップに繋がるという欠点があった(【0005】【0007】)。 (2) 本願発明は,エッチング技術などを用いてステンレス鋼板などの金属薄板状 プレートの表面に流路を形成するとともに,流路の形状を改良することによって, 熱交換器のコンパクト化と低コスト化を図りつつ,熱交換器の伝熱性能を損なうこ となく,熱交換流体の圧力損失を小さく抑えることを目的として,伝熱フィンを, 流体の流れに沿って平行に複数列設けられ,かつ,その断面形状を連続した正弦曲 線ないしは,その波形を変形した,円,楕円,放物線若しくは双曲線の一部を構成 する曲線又はそれらを組み合せた曲線で構成する擬似正弦曲線としたものである (【0008】【0010】【0011】)。 本願発明によると,伝熱フィンを,先端から後端に至る断面形状を曲線,例えば 略S字状,すなわち擬似正弦曲線状などの断面形状に形成し,複数の伝熱フィン間 を流れる流体の流路面積を略一定にしたことにより,急激な流路面積の変化がなく なって,流路を流れる熱交換流体の縮流や拡流による圧力損失を小さくすることが でき,熱交換器のコンパクト化と低コスト化を維持しつつ,熱交換器の伝熱性能を 損なうことなく,熱交換流体の圧力損失を小さく抑えることができる。すなわち, 本願発明は,熱交換器の伝熱性能を損なうことなく同一の伝熱特性で圧力損失を約 6分の1程度に著しく低減して,ポンプ動力を小さくすることができる(【001 8】)。 (3) 本願発明の実施形態としては,箱状の熱交換器本体の両側部に,それぞれ, ヘッダを介して2つの熱交換流体の流入管と流出管とが接続されている。本体の内 部には,熱交換部材が配置され,熱交換流体は,ポンプによって各流入管から熱交 換器に流入し,熱交換部材で循環しながら熱交換を行って,各流出管から流出する (【0020】)。 熱交換部材は,複数の金属薄板状プレートを積み重ねて構成されており,各プレ ートは,数ミリ程度のステンレス製鋼板など,金属製の薄板状プレートに形成され ている。金属薄板状プレートの積み重ね工程では,対向する2つのプレートを溶融 点に近い温度で圧着することなどによって,接触面で薄板を構成する金属原子が相 互に拡散して強固に接合される。その際,対向する金属薄板状プレートは,伝熱フ ィンを本件明細書図3の矢印方向に所定量だけずらすことによって,熱交換部材の 強度を高めることができる(【0021】)。 金属薄板状プレートの表面は,エッチング技術を用いて片面側のみに溝が形成さ れ,金属薄板状プレートを積み重ねると,対向するプレートとの間で溝による流路 が形成される。この溝により,金属薄板状プレートの表面に断面略S字状の伝熱フ ィンが,熱交換流体の主流方向に沿って一定の間隔を隔てて多数配置される。この 伝熱フィンは,中断フィンであって,先端と後端とを渦や旋回流などの乱れが生じ ないような流線型に成形し,流体抵抗を最小にするように構成される。また,伝熱 フィンは,その先端から後端に至る形状を,正弦曲線ないしはその波形を変形した 曲線(擬似正弦曲線)で約4分の1周期ごとに分断された形状とし,略S字状の断 面形状になるように構成される結果,伝熱フィンの流体抵抗を最小に抑えることが できる。なお,伝熱フィンの断面形状は,これに限定されず,円,楕円,放物線, 双曲線などの一部を構成する曲線,又はこれらを組み合せた曲線でもよい(【00 22】)。 2 引用例1に記載された発明について (1) 引用例1の記載 引用例1には,おおむね次の記載がある(甲4の1)。 ア 引用例1に記載された発明は,流入する流体と流出する流体との温度差を緩 和する熱交換器に関する発明である(【0001】)。 室内の汚れた空気を排出して室外の新鮮な空気を取り込む際に用いる換気装置に は,取り込まれる空気と室内の空気との温度差を小さくする熱交換器が使用されて いる(【0002】)。 従来の熱交換器は,波板を通過する流体の通流経路を隔成するため,各波板間に 平板を設けなければならず,平板と波板との2つの部材が必要であった。また,波 板間に平板が介在するため,上下の波板の稜線が交差するように組み付ける際,確 認作業が必要となり,作業効率の低下を招いていた(【0007】【0008】)。 引用例1に記載された発明は,上記各課題を解決するために,製造コストを抑え ることができる熱交換器を提供することを目的とするものである(【0009】)。 イ 引用例1に記載された発明は,積層された流入経路と流出経路間とで熱交換 を行うとともに,流入経路を通流する流体の通流方向と流出経路を通流する流体の 通流方向とが交差方向に設定された熱交換器において,複数の突出部が一体的に突 設されたシート状の基材を複数積層して各基材間に流入経路又は流出経路を形成す るとともに,各経路での通流方向外への流体の流れを阻止する隔壁を突出部で構成 したものである。この基材は,金属により形成してもよい(【0010】【001 5】)。 ウ 引用例1に記載された発明の実施例の1つとして,例えば住宅に設置された 換気装置に設けられている熱交換器について説明する。 この換気装置は,室内の汚れた空気を排出して室外の新鮮な空気を取り込む装置 であり,通流経路に設けられた熱交換室には,屋外から取り込まれる空気と室内か ら排出される空気との温度差を小さくする熱交換器が設けられている。熱交換室は, 立方体形状を有し,各壁面には,内部に連通する第1ないし第4接続口が設けられ ている。この熱交換室は,室内側と屋外側とに区画されており,対向する壁面の接 続口は,対を成すように構成されている。室内の空気は,第1接続口から熱交換室 内へ流入し,熱交換器を通過して,第2接続口から屋外に排出される。屋外の空気 は,第3接続口から熱交換室内へ流入し,熱交換器を通過して,第4接続口から室 内へ供給され,この間において,屋外へ排出される空気と,室内に供給される空気 とで,熱交換が行われる(【0020】〜【0023】)。 熱交換器は,積層された複数の基材によって構成されている。基材は,正方形シ ート状のシート体と,その表面に,等間隔をおいて複数直線上に配置された突出部 とによって一体形成されており,この基材を積層することで,各基材間に通流経路 を確保できるように構成されている。基材の両側縁に延設された突出部は,当該基 材上に形成される通流経路を通流する流体の通流方向外へ流れを阻止する隔壁を構 成しており,上下に配置された各基材は,その突出部の延在方向,すなわち,当該 突出部によって決定される通流方向が交差するように,90度回転して配置されて いる。これにより,突出部が第1接続口から第2接続口側へ向けて延在する基材上 には,室内の空気を屋外に流出する流出経路が,突出部が第3接続口から第4接続 口側へ向けて延在する基材上には,屋外の空気を室内に流入する流入経路が形成さ れており,積層された流入経路を通流する空気同士の間で,熱交換が行われる (【0024】〜【0026】)。 基材を構成するシート体は,アルミ箔等の金属からなり,比較的熱伝導率の高い 素材で形成されている。なお,このシート体は,金属に限らず,プラスチックフィ ルムや紙や繊維など,使用環境と要求機能とによって使い分けることが好ましい。 また,突出部は,厚盛りのできる特殊な樹脂前駆体によって構成されている。つま り,固化後に前記突出部となり得る樹脂前駆体がシート体に塗布され固化されるこ とによって,シート体上に形成されている。この突出部は,屈曲に対する弾性と復 元力,形状の保持力などを有している。シート体は,薄肉シート状に形成されてお り,その外径寸法は,フレームとほぼ同じ大きさに設定されている。フレームは, 樹脂前駆体の固着を拒止する難固着性の材質(ポリプロピレン(PP),PET 等)で,シート体は,樹脂前駆体の固着を許容する材質(塩化ビニル,易接着処理 PET,紙,PC(ポリカーボネイト),アルミ箔等)で形成されている。シート 体は,薄肉に限らず,板状であってもよい(【0027】【0028】【003 1】)。 なお,シート体に直線上の突出部が突設された基材を用いて熱交換器を形成した 構成に限定されるものではない(【0057】)。 エ 引用例1に記載された発明は,シート体に波形の突出部が突設された基材を 積層して熱交換器を構成しても,同様の効果を得ることができる。この場合,流体 が基材上を通過するまでの通流時間を長くすることができるため,熱交換効率を向 上することができる。 引用例1に記載された発明は,複数積層される突出部を有したシート状の基材の みによって,流入経路及び流出経路を備えた熱交換器を構成することができ,2つ の部材(波板と平板)が必要であった従来技術と比較して,部材の調達コストを抑 えることができるとともに,在庫管理が容易となる。流入経路と流出経路とを区画 するとともに熱交換部分を担う基材を熱伝導率の高い金属によって形成すると,流 入経路を通過する流体と,流出経路を通過する流体との間での熱交換効率を高める ことができ,熱交換率の高い熱交換器を提供することができる(【0059】【0 060】【0063】【0064】【0069】)。 3 本願発明の容易想到性について (1) 引用例1に記載された発明について ア 前記2(1)アないしエの記載によると,引用例1には,2つの部材(波板と平 板)を用いることなく流入経路及び流出経路を備えた熱交換器を構成するために, シート体と,シート体の表面に,等間隔をおいて複数配置された波形の突出部とに よって一体形成された基材を積層することで各基材間に通流経路を確保できるよう に構成されている熱交換器において,上下に配置された各基材について,その突出 部の延在方向,すなわち,当該突出部によって決定される通流方向が交差するよう に,90度回転して配置する構成を採用したものである。 そして,流入経路を通過する流体と,流出経路を通過する流体との間での熱交換 効率を高めるために,シート体の材料としてアルミ箔等の金属を用いた上で,突出 部は,樹脂前駆体がシート体に塗布され固化されることによってシート体上に形成 される構成を採用したものである。 したがって,引用例1には,シート体と,当該シート体の表面に,等間隔をおい て複数配置された波形の突出部とによって一体形成された基材を積層することで各 基材間に通流経路を確保できるように構成されている熱交換器であって,上下に配 置された各基材は,その突出部の延在方向,すなわち,当該突出部によって決定さ れる通流方向が交差するように,90度回転して配置されており,シート体はアル ミ箔等の金属からなり,突出部は,樹脂前駆体が前記シート体に塗布され固化され ることによって,前記シート体上に形成されている,熱交換器,すなわち,本件審 決が認定した引用発明1が記載されているということができ,本件審決の引用発明 1の認定に,誤りはない。 イ 原告は,本件審決は,本願発明と引用発明1との部分的な共通点のみを取り 上げ,本願発明を知った上でその内容を引用例1の記載上にあえて求めようとして 引用発明1を認定したものであって,誤りであるなどと主張する。 しかしながら,引用発明の認定は,引用例の記載に基づいて,本願発明との対比 において必要な限度で行えば足りるものである。そして,引用例1には,前記2(1) アないしエの記載があるところ,本件審決は,引用例1に記載された前記技術事項 における,本願発明と共通又は対応する部分を中心に,引用例1の具体的記載 (【0024】【0025】【0027】【0028】【0063】等)に基づい てされたものであって,具体的に開示された熱交換器の作用や機能を無視して不当 に構成(部材や手段)を削除するなどして,引用例1の記載より把握できる技術思 想から離れて認定をしたわけではない。 原告は,本願発明と引用例1に記載された発明の熱交換器に係る用途の相違等を 強調し,これらを考慮することなく,両発明の認定を行った本件審決は誤りである とも主張する。 しかしながら,本願発明は,前記のとおり,高温側と低温側とで温度の異なる2 つの流体間で熱を移動させるためのプレートフィン型熱交換器に関する発明であり, 熱交換器のコンパクト化と低コスト化とを図りつつ,熱交換器の伝熱性能を損なう ことなく,熱交換流体の圧力損失を小さく抑えることを目的として,エッチング技 術などを用いてステンレス鋼板などの金属薄板状プレートの表面に流路を形成する とともに,流路の形状を改良するものであり,その解決課題はマイクロチャンネル 熱交換器特有のものではなく,熱交換器一般に係るものである。しかも,本願発明 は,マイクロチャンネル熱交換器に係る発明特定事項を有するものではないことは, その特許請求の範囲の記載から明らかである。原告の主張は,その前提自体が誤り である。 なお,本件審決の引用発明1の認定は,仮に用途の相違が認められたとしても, いずれの用途の熱交換器にも採用することが可能な構成であるというべきであるし, 引用例1に記載された技術内容を不当に抽象化,一般化,上位概念化してされたも のということもできない。原告の主張は採用できない。 (2) 一致点及び相違点の認定について ア 一致点について (ア) 引用発明1の「シート体」は,「アルミ箔等の金属からな」るものである から,本願発明の「金属薄板状プレート」に相当するものである。 (イ) 引用発明1の「突出部」は,本願発明の「伝熱フィン」とは,「突出部」 の点において共通するものである。 (ウ) 引用発明1の「上下に配置された各基材は,その突出部の延在方向,すな わち,当該突出部によって決定される通流方向が交差するように,90度回転して 配置」するように「基材を積層することで各基材間に通流経路を確保できるように 構成」したことは,本願発明の「前記金属薄板状プレートを交互に積み重ねること によって,対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体の流路を形成す るようにした」ことに相当するものである。 (エ) 引用発明1の「突出部」が「等間隔をおいて複数配置された」ことは, 「突出部によって決定される通流方向」が「突出部の延在方向」であるから,本願 発明の「伝熱フィンは,流体の流れ方向に沿って平行に複数列設けられ」たことと は,「突出部は,流体の流れ方向に沿って平行に複数列設けられ」た点において共 通するものである。 (オ) 引用発明1の「突出部」が「波形」であることは,その波形が「延在方 向」に延在しているから,本願発明の「伝熱フィンは,」「その断面形状が連続し た正弦曲線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状であること」とは,「突 出部は,その断面形状が連続した波形である」点において共通するものである。 (カ) 以上によれば,本願発明と引用発明1との一致点については,前記第2の 3(2)イのとおり認定することができるから,本件審決の一致点の認定は,誤りはな いものというべきである。 イ 原告の主張について (ア) 原告は,高温高圧の流体を対象とする本願発明と引用発明1とは要求され る機能,構造及び使用条件が異なるから,引用発明1の「アルミ箔等の金属からな るシート体」が,本願発明の「金属薄板状プレート」に相当するものということは できないし,同様に,本願発明の「伝熱フィン」と引用発明1の「突出部」とは要 求される伝熱特性及び突出部の形成方法が異なるから,引用発明1の「突出部」が 本願発明の「伝熱フィン」に「突出部」の点で共通するとの認定は誤りであると主 張する。 しかしながら,本願発明は,マイクロチャンネル熱交換器に係る発明特定事項を 有するものではなく,また,本件明細書にも,本願発明が高温高圧の流体を対象と する熱交換器を前提とする旨の記載はないから,原告の主張は,特許請求の範囲に 基づかない主張である。そして,引用発明1の「シート体」は,「アルミ箔等の金 属」からなるものであるから,本願発明の「金属薄板状プレート」に相当すること は明らかである。 また,本願発明は,「エッチング技術などを用いて金属薄板状プレートに伝熱フ ィンを設け,前記金属薄板状プレートを交互に積み重ねることによって,対向する 2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体の流路を形成する」ものであり, 「伝熱フィン」は,金属薄板状プレートから突出して流路を形成して流体を通流す るものである。 引用発明1も,シート体の表面に,等間隔をおいて複数配置された波形の突出部 によって一体形成された基材を積層することにより,各基材間に通流経路を確保で きるように構成されているものであり,「突出部」は,シート体(本願発明の「金 属薄板状プレート」に相当)から突出して通流経路(本願発明の「流路」に相当) を形成して流体を通流するものである。 したがって,引用発明1の「突出部」と本願発明の「伝熱フィン」とは,流路を 形成するという点及び金属薄板状プレートから突出した構造である点で共通するか ら,両者は,その機能,構造からみて,「突出部」の点において共通するというこ とができる。 本件審決は,その上で,突出部の加工方法の相違,すなわち,本願発明が突出部 をエッチング技術などを用いて設ける点については,相違点1として認定した上で, 判断しているものである。 (イ) 原告は,引用発明1は,熱交換する流体の流れが90度方向で交差する直 交流であるのに対し,本願発明は,180度逆方向に向かい合う流れの対向流であ るから,本件審決は,熱交換特性の有意な差の存在を看過するものである,引用発 明1には,本願発明のような金属薄板状プレートの結合手段及び電熱フィンの積層 方法が開示されていないなどとも主張する。 しかしながら,本願発明は,流路に関して,「前記金属薄板状プレートを交互に 積み重ねることによって,対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体 の流路を形成する」と特定するにすぎないところ,この特定は,熱交換をする流体 が,金属薄板状プレートを交互に積み重ねることによって,対向する2つの金属薄 板状プレート間に形成された流路を通流することを意味するものである。 したがって,本願発明は,原告が主張する熱交換をする流体の流れ方向(対向流 型であるか,直交流型であるか),対向する2つの金属薄板状プレートの結合手段 及び電熱フィンの積層方法(所定量だけずらして設置すること)について,何ら特 定するものではない。 (ウ) 原告は,本願発明の伝熱フィンは,その断面形状が連続した正弦曲線ない しはその波形を変形した疑似正弦曲線形状であることを特徴としている点で,単に 波形である突出部を有する引用発明1とは異なるとも主張する。 しかしながら,本願発明において,伝熱フィンは,「その断面形状が連続した正 弦曲線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状であること」と特定されてい るのであるから,その断面形状は「波形」に包含されるものである。引用発明1は, 突出部(本願発明の「伝熱フィン」に相当)の形状を「波形の突出部」と特定する ところ,引用例1の図6からすると,その断面形状は「連続した波形」である。 したがって,引用発明1の「突出部」の断面形状と本願発明の「伝熱フィン」の 断面形状とは,その形状及び構造からすると,「突出部は,その断面形状が連続し た波形である」点において共通するものということができる。 本件審決は,その上で,伝熱フィンの断面形状が連続した正弦曲線ないしはその 波形を変形した疑似正弦曲線形状である点については,相違点2として認定した上 で,判断しているものである。 (エ) 以上のとおり,原告の主張はいずれも採用できない。 ウ 相違点について 本件審決の一致点の認定に誤りがない以上,相違点の認定についても,原告の主 張するような誤りはない。 (3) 相違点1に係る判断について ア 引用発明2について 引用例2(甲4の2)には,おおむね次の記載がある。 (ア) 引用例2は,熱交換器及び冷凍空調システム,特にプレート式熱交換器を 用いたチラーユニットに好適な発明に関するものである(【0001】)。 この発明の目的は,コンパクトで伝熱性能が良く,かつ,圧力損失の少ない熱交 換器及び冷凍空調システムを提供することにある(【0006】)。 (イ) この発明のプレートは,薄い金属板をプレス加工することで作成が可能で あり,プレートは4箇所の開口部を有しているが,このうちの2つがそれぞれ熱交 換流体の流入口及び流出口となり,シール部の内部に通じられている。そして,上 下それぞれ2箇所の開口部はシール部により仕切られる(【0016】)。 伝熱面要素は,プレートの厚さ方向に山又は谷状に突き出され,正方型形状であ り,網状に配置,あるいは千鳥状に多数配列され,その間には,網掛け状に流路が 形成される(【0017】)。 さらに,プレートを交互に上下反転して積層した状態では,伝熱面要素の上下面 を冷媒又は水が流れるが,いずれの場合も流体は微細フィンの上面又は下面に衝突 するため,この部分で非常に高い熱伝達率が得られ,熱交換が非常に効率的に行わ れる(【0027】)。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,引用例2には,プレート式熱交換器において, 薄い金属板をプレス加工することにより作成したプレートの厚さ方向に,山状に突 き出された複数の伝熱面要素により,プレートが交互に反転して積層されることに より熱交換流体の流路が形成された熱交換器,すなわち引用発明2が開示されてい るものということができる。 そして,引用発明2の「プレート」は,その機能又は構造等からみて,本願発明 の「金属薄板状プレート」に相当するものである。 また,本願発明の伝熱フィンは,「エッチング技術など」により作成されるもの であるから,引用発明2のように,プレス加工による作成方法も含まれるものとい うべきである。 さらに,引用発明2の「熱交換流体の流路は前記プレートが交互に反転して積層 されることにより形成された熱交換器」は,2つのプレート間に熱交換流体の流路 が形成されているものであるから,本願発明の「前記金属薄板状プレートを交互に 積み重ねることによって,対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体 の流路を形成するようにした熱交換器」に相当するものである。 したがって,引用発明2は,「エッチング技術などを用いて金属薄板状プレート に伝熱フィンを設け,前記金属薄板状プレートを交互に積み重ねることによって, 対向する2つの前記金属薄板状プレート間に熱交換流体の流路を形成するようにし た熱交換器」ということができる。 イ 相違点1に係る構成の容易想到性について 引用発明1及び引用発明2は,いずれも金属薄板状プレートに突出部を設けた上 で,金属薄板状プレートを積み重ねることによって,対向する2つのプレート間に 熱交換流体の流路を形成するようにした熱交換器の分野に属するものである。 また,引用発明1及び引用発明2は,いずれも金属薄板状プレートに突出部を設 けることによって,熱交換効率を向上するという作用を有する。 さらに,一般的に金属は樹脂よりも熱伝導率が高く,熱交換流体に接触する部材 の熱伝導率を高めるほど,熱交換器の熱交換効率は向上するものということができ るところ,引用例1には,熱交換部分を担う熱伝導率の高い金属により形成すると, 熱交換率が向上する旨が明記されているものである。 したがって,引用発明1において,熱交換流体に接触する突出部の熱交換効率を 向上させるために,引用発明2に基づいて,エッチング技術などを用いて金属薄板 状プレートに伝熱フィンを設けるようにすることにより,突出部を金属製とするこ とは,当業者が容易に想到し得たものであるということができる。 ウ 原告の主張について (ア) 原告は,引用発明1及び引用発明2は,同じ熱交換器という名称を有する ものの,その実体が異なるから,これらがいずれも同一の熱交換器の分野に属する との認定は誤りであると主張する。 しかしながら,引用例1には,実施例として,住宅に設置された換気装置に設け られた熱交換器が記載されているが,そのほか,「常温常圧の空気を対象とする熱 交換排気装置」に限定することや他の熱交換器を除外する旨の記載や示唆はない。 また,引用例2には,実施例として,「冷凍空調システムに使用される熱交換 器」が記載されているが,そのほか,「冷凍空調システムに使用される熱交換器」 に限定することや他の熱交換器を除外する旨の記載や示唆はない。 そして,引用例1及び2は,いずれも熱交換器の分野において,具体的な用途を 前提とした実施例の記載を有するものの,本件審決の引用発明1及び2の認定は, いずれも引用例1及び2に記載された技術思想を無視して上位概念化,一般化して 認定したものということはできない。 しかも,相違点1は,流路を形成する部材をどのような加工方法を用いて作成す るかに係る相違点であって,熱交換器に関する技術相互間で,その組合せを試みる ことは,当業者が容易に着想し得ることということができる。 (イ) 原告は,引用発明1において,アルミ箔や紙などのシート上に樹脂前駆体 を固化して突出部を形成することは,製造コストを抑えるという目的を達成するた めの技術思想の主要な部分であるから,当該技術思想を排除して,エッチング技術 などを用いて金属製の突出部を形成するような必然性も動機付けも存在しないとも 主張する。 しかしながら,引用例1には,あらかじめ基材としてシート体に突出部を形成し たものを用意できるため,製造コストを抑えるという目的を達成することができる 旨が記載されているから,金属製のシート体であっても,あらかじめ突出部を形成 することにより,製造コストを抑えるという目的を達成することができるものであ って,原告の主張は,その前提自体が誤りである。 引用例1には,「製造コストを抑えることができる熱交換器を提供することを目 的とする」「熱交換部分を担う基材は,熱伝導率の高い金属によって形成されてい る」「流入経路と流出経路とを区画するとともに,熱交換部分を担う基材は,熱伝 導率の高い金属によって形成されている。これにより,流入経路を通過する流体と, 流出経路を通過する流体との間での熱交換効率を高めることができ,熱交換率の高 い熱交換器を提供することができる」などの記載があり,また,一般に,熱交換器 において,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課題が存在するか ら,引用発明1において,製造コストを抑え,圧力損失を増加させずに伝熱特性を 向上させるという課題は,引用例1に記載されているか,あるいは内在する自明の 課題ということができる。 しかも,引用例2には,コンパクトで伝熱性能が良く,かつ,圧力損失の少ない 熱交換器及び冷凍空調システムを提供することが目的である旨明記され,また,先 に述べたとおり,製造コストの抑制は一般的な課題であるから,引用発明2におい て,製造コストを抑え,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課題 は,引用例2に記載されているか,あるいは内在する自明の課題ということができ る。 したがって,引用発明1と引用発明2とは,その技術分野が共通する上,引用例 1に上記課題が記載されているのであるから,引用発明1に引用発明2を適用する ことは,当業者にとって容易であるものというほかない。 (ウ) 原告は,引用発明1は,常温常圧の空気の熱交換を行う熱交換換気装置に 用いられるものであり,エッチングで形成されるような微細な流路は,圧力損失の 観点から有害であるとも主張する。 しかしながら,先に述べたとおり,引用発明1の用途を限定的に解する原告の主 張は,その前提自体が誤りである。 また,原告がその主張の根拠とする文献(甲21)には,「一般に熱伝達率の大 きい伝熱面は圧力損失も大きくなるので,伝熱面の比較を行うには伝熱性能と圧力 損失を考慮して総合的に評価する必要がある。」と記載されているが,これは,伝 熱性能と圧力損失とは相反する関係にあると示すものにすぎない。 なお,原告は,本願発明は,高温高圧の流体を対象とするマイクロチャンネル熱 交換器に係る発明であることを前提として,エッチング技術を用いることに技術的 意義が存することを強調する。しかし,仮に,原告の主張を前提としたとしても, エッチング技術を用いて金属薄板状プレートに伝熱フィンを設ける熱交換器は,本 件出願前において周知の技術事項であるから(甲12の1・2),引用発明1にお いて,エッチング技術を用いて金属薄板状プレートに伝熱フィンを設けるようにす ることは,当業者が容易に想到し得たものであるということができる。 エ 小括 以上のとおり,本件審決の相違点1に係る判断に誤りはない。 (4) 相違点2に係る判断について ア 「正弦曲線」は,滑らかな波形であることはその形状から明らかであるとこ ろ,引用発明1の「波形の突出部」が通流経路を確保するものであり,一般に,流 体抵抗を低下させる観点からすると,流れを滑らかにするためには,流路が滑らか であることが望ましいことは技術常識であるから,引用発明1において,波形とし て滑らかな波形である正弦曲線を採用することに格別の困難性は認められない。 したがって,引用発明1において,伝熱フィンの断面形状を連続した正弦曲線と することは,当業者が容易に想到し得たものというべきである。 イ 原告は,引用発明1の突起部と本願発明の伝熱フィンとは,目的及び機能が 本質的に異なると主張する。 しかしながら,本願発明は,伝熱フィンの断面形状について,「連続した正弦曲 線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状である」とのみ特定され,周期, 振幅及び断熱フィンによって形成される流路の流路幅については,何ら特定されて いない。 また,本願発明において,「疑似正弦曲線形状」とは,本件明細書において,種 々の曲線の一部を構成する曲線又はそれらを組み合わせた曲線であるとされている ものであるのみならず,波形として,正弦曲線は一般的なものであるから,本願発 明において,伝熱フィンの断面形状が,「連続した正弦曲線ないしはその波形を変 形した疑似正弦曲線形状である」とした点に,格別の技術的意義はないというべき である。 そして,本件明細書の記載によると,本願発明において,伝熱フィンを連続した 正弦曲線若しくは擬似正弦曲線形状としたことの目的及び機能は,伝熱フィン間を 流れる流体の流路面積を略一定として,これにより,熱交換器の伝熱性能を損なう ことなく,熱交換流体の圧力損失を小さく抑えることができるというものである。 引用例1の記載によると,引用発明1において,突出部(本願発明の「伝熱フィ ン」に相当)を波形としたことの目的及び機能は,突出部間を流れる流体の流路面 積を略一定として,これにより,熱交換器の伝熱性能を損なうことなく,熱交換流 体の圧力損失を小さく抑えることができるということができる。 したがって,本願発明の連続した正弦曲線若しくは擬似正弦曲線形状とした伝熱 フィンと引用発明1の波形の突出部とは,その目的及び機能を共通するものである。 ウ 原告は,本願発明の伝熱フィンは,流路入口から出口の間で見通せない配列 とし,直進しようとする流体が振幅の大きな波形で流れるようにガイドするなどと 主張する。 しかしながら,本願発明は,伝熱フィンの断面形状について,「連続した正弦曲 線ないしはその波形を変形した疑似正弦曲線形状である」と特定するのみであり, 周期,振幅及び断熱フィンにより形成される流路の流路幅については,何ら特定さ れていないから,原告の上記主張は特許請求の範囲に基づかないものである。 しかも,伝熱フィンの波形を流路入口から出口の間で見通せない配列とすること 自体も,当業者が適宜になし得る程度の事項にすぎないものというほかない。 エ 原告は,本件審決は,伝熱特性と圧力損失のバランスを全く考慮していない とも主張する。 しかしながら,一般に,熱交換器において,圧力損失を増加させずに伝熱特性を 向上させるという課題を有するものであるし,熱伝達率の大きい伝熱面は圧力損失 も大きくなるので,伝熱面の比較を行うには伝熱性能と圧力損失を考慮して総合的 に評価する必要があり,伝熱性能と圧力損失とは相反する関係にあることは,技術 常識である(甲21)。 したがって,当業者において,上記技術常識は,このような課題を解決するため の当然の前提となるべき技術事項であるから,伝熱特性と圧力損失とのバランスを 考慮することは,当業者が,設計の際,当然考慮に入れる通常期待される創作活動 の範囲のことといえる。 オ 原告は,引用発明1では,製作コストの低減という課題は一応解決されてい るから,本願発明の課題を解決する手段である伝熱フィンの断面形状を連続した正 弦曲線等とする動機付けがないとも主張する。 しかしながら,引用発明1においても,製造コストを抑え,圧力損失を増加させ ずに伝熱特性を向上させるという課題は,引用例1に記載されているか,あるいは 内在する自明の課題であることは,前記のとおりである。 また,本願発明において,「疑似正弦曲線形状」とは,種々の曲線の一部を構成 する曲線又はそれらを組み合わせた曲線であるところ,引用発明1の「波形」も, 引用例1の図6によると,種々の曲線の一部を組み合わせた曲線ということができ るから,相違点2に係る構成は,引用発明1に実質的に開示されているか,あるい は当業者が容易に想到し得たものということができる。 カ したがって,本件審決の相違点2に係る判断に誤りはない。 (5) 小括 以上によれば,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容 易に発明をすることができたものである。 4 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ れるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 部 眞 規 子 裁判官 井 上 泰 人 裁判官 荒 井 章 光 |