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事件 平成 23年 (行ケ) 10389号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/07/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年7月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年(行ケ)第10389号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年7月11日

判 決

原 告 株式会社アート・ラボ

同 訴訟代理人弁理士 小 林 良 平

中 村 泰 弘

開 本 亮

市 岡 牧 子

谷 口 聡

被 告 不二貿易株式会社

同 訴訟代理人弁理士 安 倍 逸 郎

主 文

1 特許庁が無効2011−400005号事件につい

て平成23年10月17日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文1項と同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の下記2の本件考案に係

る実用新案登録に対する被告の無効審判請求について,特許庁が当該実用新案登録

を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとお

り)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1 本件訴訟に至る手続の経緯

原 告は,考案の名称を「室内芳香器」とする登録第3134691号実用
(1)




新案(平成19年6月7日出願,同年8月1日設定登録。平成22年10月26日

に提出された訂正後の請求項の数は,全5項である。)に係る実用新案権を有する

者である(以下「本件実用新案登録」といい,上記訂正後の明細書(甲20,2

1)を「本件明細書」という。)。

被 告は,平成23年4月15日,本件実用新案登録の請求項1ないし5に
(2)

係る考案について,実用新案登録無効審判を請求し,無効2011−400005

号事件として係属した。

特 許庁は,平成23年10月17日,「実用新案登録第3134691号
(3)

の請求項1ないし5に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」旨の本件

審決をし,同月27日,その謄本が原告に送達された。

2 実用新案登録請求の範囲の記載

本 件実用新案登録の請求項1ないし5に係る考案(以下「本件考案1」ないし

「本件考案5」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載(平成22年10月2

6日付けの訂正書によって訂正されたもの)は,以下のとおりである。文中の

「/」は,原文の改行箇所を示す。

【請求項1】a)液体芳香剤を収容する,上部に開口を有する容器と,/b)前記

開口の上に配置された,ソラの木の皮で作製した造花と,/c)下端が前記液体芳

香剤中に配置され,上部において前記造花と接続されている浸透性の紐と,/

を備えることを特徴とする室内芳香器

【請求項2】前記液体芳香剤が有色であり,前記造花が淡色であることを特徴とす

る請求項1に記載の室内芳香器

【請求項3】前記紐が綿糸を編んだ綿コードであることを特徴とする請求項1又は

2に記載の室内芳香器

【請求項4】前記綿コードの中にワイヤが挿入されていることを特徴とする請求項

3に記載の室内芳香器

【請求項5】前記容器が透明であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記




載の室内芳香器

3 本件審決の理由の要旨

本 件審決の理由は,要するに,本件考案1ないし5は,下記引用例に記載
(1)

された考案(以下「引用考案」という。)及び周知例1ないし6に記載された周知

の事項等に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり,

実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであっ

て,本件実用新案登録は,実用新案法37条1項2号の規定により無効にすべきも

のである,というものである。

ア 引用例:実願平1−77085号(実開平3−16942号)のマイクロフ

ィルム(甲23)

イ 周知例1:特開平11−36121号公報(甲22)

ウ 周知例2:「mederu日記 人にやさしい雑貨店」(インターネット

URL: http://mederu.jp/step_blog/date-20061124 >)に投稿された投稿記事(投稿

日:平成18年11月24日)(甲6)

エ 周知例3:「スーパーデリバリーボタニカルプラネット」(インターネット

<URL: http://www.superdelivery.com/p/r/pd_p/796974/ >)に投稿された投稿記事

(投稿日:平成19年4月26日)(甲9)

オ 周 知例4 : 「 生 活 ス ケ ッ チ 」 ( イ ン タ ー ネ ッ ト < U R L :

http://hazukiaa.exblog.jp/3490715/ >)に投稿された投稿記事(投稿日:平成18年

10月6日)(甲10)

カ 周 知例5:「シャンプーstation」(インターネット<URL:

http://shampoo.hair-beauty.jp/d2006-04_2.html >)に投稿された投稿記事(投稿日:

平成18年4月4日)(甲24)

キ 周知例6:「cherry deco」(インターネット<URL:

http://cherrydeco.blog68.fc2.com/blog-date-200609.html>)に投稿された投稿記事(投

稿日:平成18年9月10日)(甲25)




な お,本件審決が認定した引用考案並びに本件考案1ないし5と引用考案
(2)

との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。

ア 引用考案:芳香剤を収容する,上部に開口を有する透明度のある容器と,前

記開口の上に配置された,花芯付属品(おしべ等),花弁,額とからなる花形の形

態と,下端が前記芳香剤中に配置され,上部において前記花形の形態と接続されて

いる,多数のポリエステル長繊維を棒状に束ね,周面を熱融着によって被覆した浸

透性の気散管と,を備える室内芳香剤発散容器

イ 本件考案1ないし4と引用考案との一致点:a)液体芳香剤を収容する,上

部に開口を有する容器と,b)前記開口の上に配置された,造花と,c)下端が前

記液体芳香剤中に配置され,上部において前記造花と接続されている浸透材と,を

備える室内芳香器

ウ 本件考案5と引用考案との一致点:a)液体芳香剤を収容する,上部に開口

を有する透明である容器と,b)前記開口の上に配置された,造花と,c)下端が

前記液体芳香剤中に配置され,上部において前記造花と接続されている浸透性の浸

透材と,を備える室内芳香器

エ 本件考案1ないし5と引用考案との相違点1:造花に関して,本件考案1な

いし5では,「ソラの木の皮で作製した」ものであるのに対して,引用考案は,花

芯付属品(おしべ等),花弁,額とからなる花形の形態からなる点

オ 本件考案1ないし5と引用考案との相違点2:浸透材に関して,本件考案1

ないし5では,「浸透性の紐」であるのに対して,引用考案は,多数のポリエステ

ル長繊維を棒状に束ね,周面を熱融着によって被覆した浸透性の気散管である点

カ 本件考案2ないし5と引用考案との相違点3:本件考案2ないし5は,「液

体芳香剤が有色であり,造花が淡色である」のに対し,引用考案は,芳香剤の色や

花形の形態の色については不明な点

キ 本件考案3ないし5と引用考案との相違点4:浸透材に関して,本件考案3

ないし5は,「紐が綿糸を編んだ綿コードである」と特定しているのに対して,引




用考案は,多数のポリエステル長繊維を棒状に束ね,周面を熱融着によって被覆し

た浸透性の気散管である点

ク 本件考案4及び5と引用考案との相違点5:綿コードに関して,本件考案4

及び5は,「綿コードの中にワイヤが挿入されている」のに対して,引用考案では,

気散管の周面を熱融着によって被覆したものである点

4 取消事由

本件考案1の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由1)
(1)

本件考案2の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)
(2)

本件考案4の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由3)
(3)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(本件考案1の容易想到性に係る判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 相違点1に係る判断の誤り

ア 本件審決は,周知例2ないし6に基づき,「造花をソラの木の皮で作製する

ことは従来周知の事項である」と認定したが,周知例2ないし6は,いずれも個人

的な体験や特定のトピックに関するニュース等を掲載する,いわゆる「ブログ」に

投稿された記事であるところ,そもそもインターネット上の情報については,掲載

日時にその内容のとおりに掲載されたことに疑義がある場合が少なくないから(甲

35),証拠として採用すべきでなく,かかる証拠に基づき上記認定をした本件審

決には誤りがある。

イ 本件審決は,従来周知の造花であるソラフラワーを引用考案の造花に適用で

きないとする阻害要因はないと判断したが,ソラフラワーは従来周知の造花でない

し,ソラフラワーのような天然素材の調達に要するコスト等を考えれば,ソラフラ

ワーのような天然素材からなる造花は,引用考案において,その目的を超えた過剰

な構成であり,回避されるべきものであって,ソラフラワーを引用考案の造花に適

用できないとする阻害要因が存在する。




ウ ソラフラワーは従来周知の造花でなく,これを引用考案の造花に適用できな

いとする阻害要因が存在し,本件考案1の時間に関する観念は,引用考案に存在し

ない。そして,本件考案1は,その時間に関する観念に最も適した素材としてソラ

の木の皮を採用したのであり(【0010】),かかる観念の存在しない引用考案

において,花形の形態に代え,ソラフラワーを用いる動機はない。

エ 甲1(【0006】【0007】【0022】)には,時間に関する観念の

存在を窺わせる記載が見受けられるが,その時間に関する観念は,視覚の面に限定

されたものである。これに対し,本件考案1は,時間に関する観念を,視覚の面だ

けでなく嗅覚の面でも考慮している(【0010】【0017】)。甲1の揮散器

に本件考案1の時間に関する観念が存在すると認定し,時間的概念を有する揮散装

置が従来知られていると認定した点で,本件審決には誤りがある。

本件考案1の作用ないし効果についての判断の誤りについて
(2)

ア 本件考案1の時間に関する観念は,視覚の面だけでなく嗅覚の面でも考慮し

ているのに対し,引用考案は,気散管の上端から芳香剤を気散させるものであるが,

芳香の揮散が長時間安定的に持続するか否かについては関心がなく,時間に関する

観念を有するものでない。

イ また,本件考案1の時間に関する観念は,引用考案に存在せず,さらに,周

知例のいずれにも開示されていない以上,本件考案1の作用ないし効果は,引用考

案及び周知例1記載の事項等から当業者が十分予測できる範囲内のものでなく,顕

著なものである。

〔被告の主張〕

(1) 相違点1に係る判断の誤りについて

ア 周知例2ないし6について

周知例2ないし6には,掲載日時の表示が示されている上,周知例2,3及び6

に示された情報の問合せ先は明らかである(乙40〜42)。また,周知例2及び

5は,本件実用新案登録出願前に公知となっていた(乙43〜47)。




また,周知例3は,ボタニカルプラネットの販売ページであり,一個人が運営す

るブログとは性質の異なるものであり,販売ページに掲載した情報やその登録・更

新日を書き換えることは,通常あり得ない。周知例4の投稿記事に対し,投稿日か

らその翌々日まで多くのコメントがされており,その日付や内容を書き換えること

は,トラブル防止の観点から通常あり得ないことである。よって,いずれも,表示

されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたことについての疑義を解

消する可能性が少ないホームページ等に該当しない。

造花をソラの木の皮で作製することが周知であることを示す文献は,他にも存在

する(乙48,49)。

よって,周知例2ないし6及び乙48,49に基づいて,造花をソラの木の皮で

作製することは周知の事項である。

イ ソラフラワーと芳香剤とを別体として販売し,ユーザがソラフラワーに芳香

剤を染み込ませて使うものであることが周知であることについて

ユーザがソラフラワーに芳香剤を染み込ませて使用すること及び造花(ポプリ)

に染み込ませる芳香剤が造花と別体で販売されていることは,周知である。

ウ 阻害要因について

たとえ天然素材であったとしても,市場に多く流通すれば価格は低下し,阻害要

因が解決する一方で,市場に流通する流通量が少なければ価格が上昇し,阻害要因

が発生することとなる。このように阻害要因の有無がその時々によって変わるよう

な不確定な要因は,従来周知の造花であるソラフラワーを引用考案の造花に適用す

る阻害要因と認めることはできない。なお,出願時の水準において,天然素材が高

価であっても,需要さえあれば,金銭をもって解決することが可能である。

さらに,本件考案に係る阻害要因とは,実用新案登録出願の出願時における技術

水準においては,従来周知の造花であるソラフラワーを引用考案の造花に適用する

ことができない絶対的要因をいうべきであり,経済的には適用することができない

場合であっても,技術的には適用することが可能である場合は阻害要因に該当しな




い。

組合せ・適用に際し,@普通に考えると逆効果と思われる構成を採用する場合,

A引用考案本来の目的を放棄することとなる置換に該当する場合,B刊行物の記載

そのものが本件考案の構成を排除している場合,C作用が大きく異なる場合が組合

せ・適用の阻害要因に該当するが,原告の主張する阻害要因は,上記のいずれにも

該当しない。

(2) 本件考案1の作用ないし効果についての判断の誤りについて

ア 甲1には,使用者の時間経過に伴う揮散体の色や模様の変化について記載さ

れているところ(【0006】【0007】【0022】),この色や模様の変化

は,芳香液が揮散体に移動することによって起こる現象である。そして,香気は,

芳香液に含まれる芳香剤が揮散することにより生じる。香気の強さは,揮散体に含

まれる芳香液中の芳香液の体積及び芳香剤の濃度に影響される。芳香液の移動によ

り色や模様の変化が生じる旨の記載から,時間経過により揮散体に含まれる芳香液

の体積が変化していることも示唆されていることとなる。また,芳香剤は,その性

質上容易に蒸発することから,甲1における揮散体中に含まれる芳香剤の濃度も時

間経過により変化する。

よって,甲1における揮散体中に含まれる芳香液の体積も,芳香剤の濃度も時間

経過により変化することが示されている。

したがって,芳香の強さも変化することは甲1から当然に導き出される事項であ

る。

イ また,考案の作用ないし効果は,考案特定事項に基づいて得られる事項に限

定されるべきである。色や模様の変化は,造花が淡色でかつ芳香剤(芳香液)が有

色である場合に得られる効果である。本件考案1には,造花及び芳香剤の着色につ

いての特定がされていない以上,時間的経過による視覚面での変化について導き出

すことはできない。さらに,「芳香の揮散が長時間安定的に持続する」点や「安定

した香気を長時間楽しむことができる」点については,単位時間当たりの芳香剤の




揮散量に起因する事項であることから,造花がソラの木の皮で作製されるためでは

不十分であり,他に芳香剤の成分及び濃度,造花(揮散体)の厚さや表面積等を限

定することで初めて差異が導き出されるものであるが,本件考案には,これらの限

定がなされていない。したがって,仮に,「芳香の揮散が長時間安定的に持続す

る」点や「安定した香気を長時間楽しむことができる」点が本件考案の作用ないし

効果と認められたとしても,従来に対し顕著な作用ないし効果であると認めること

はできないし,本件明細書等においても,従来と対比したときのデータが示されて

いない。

したがって,原告の主張する作用ないし効果は,甲1から容易に導き出されるも

のにすぎず,また,本件考案1には,従来技術に対し顕著な作用ないし効果を与え

るものであるとはいえない。しかも,原告の主張する顕著な作用ないし効果は,本

件実用新案登録出願の出願当初の明細書等に示された証拠に基づいておらず,単に

憶測を述べているにすぎないため,採用することはできない。

2 取消事由2(本件考案2の容易想到性に係る判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 相違点3に係る判断の誤り

ア 本件審決は,引用考案において,淡色系の色とすることは,当業者がきわめ

容易に想到し得た程度の事項であると判断した。

イ 本件考案2におけるソラの木の皮は,非常に細かい繊維組織を有するため,

液体芳香剤をゆっくりと花弁の根本から先端の方へ浸透させていくことができる。

そして,本件考案2の相違点3に係る構成は,造花の素材としてソラの木の皮を

用いてこそ,その技術的意義を発揮することができるものであり,そうである以上,

ソラの木の皮を用いていない引用考案において,本件考案2の相違点3に係る構成

を採用する動機はない。

ウ したがって,引用考案において,変色する前のもとの色を,溶液の色素の色

と異なる色とすること,すなわち,淡色系の色とすることは,当業者がきわめて容




易に想到し得た程度の事項でない。

(2) 本件考案2の作用ないし効果についての判断の誤り

本件考案2によれば,液体芳香剤が花弁を浸透してゆく間に,花弁の色の変化を

楽しむことができる。このとき,花弁の素材であるソラの木の皮は,非常に細かい

繊維組織を有するため,色は,花弁の中心から周辺へと徐々に広がって行く。その

様はまるで,花が少しずつ開花していくように見えるため,利用者は,液体芳香剤

の香気に加えて,視覚からの美感によりいやされる(【0011】【0016】)。

このように,本件考案2は,造花の素材としてソラの木の皮を用いることを前提

に,有色の液体芳香剤と淡色の造花という組合せを採用することで,より自然環境

に近い,繊細かつ微妙な花の開花の様子を再現するようにしたものである。そして,

これが利用者に与える視覚による美感は,引用考案のようなソラの木の皮を用いて

いない芳香器によっては得られないものであり,また,単なる花弁の色の変化が利

用者に与える美感からは隔絶された,際立って優れたものである。

したがって,本件考案2の作用ないし効果は,引用考案及び周知例1ないし6記

載の事項等から当業者が十分予測できる範囲内のものでなく,顕著なものである。

〔被告の主張〕

(1) 相違点3に係る判断の誤りについて

ア 本件明細書(【0011】)によれば,淡色とは,白色を含む薄い色である

と理解することができる。そして,周知例1(【0005】)には,造花が淡色で

あることが記載されている。

また,周知例1(【0021】)には,花器に張られた水は,茎の内部を通水す

ることにより,香料,色素,溶剤が混合され,造花部分には,香料,色素,溶剤を

含む混合水が供給されることが示されており,造花部分に供給される混合水は色素

が含まれていることが示されている。

したがって,周知例1には,造花を淡色とし,色素の入った芳香剤を造花に吸収

させる点についての記載がされている。




(2) 本件考案2の作用ないし効果についての判断の誤りについて

ア ソラの木の皮で作製された造花が周知であり,植物は繊維組織を有するから,

ソラの木の皮で作製された造花は,繊維組織を有することは当業者であれば自明の

事項である。

そして,繊維組織を有するソラの木の皮で作製された造花によって,芳香液の浸

透が徐々に進むことは,当業者にとって自明の事項である。なお,原告の主張は,

芳香剤の移動速度等に起因するものであり,造花をソラの木の皮で作製したことに

よる効果とはいえない。

イ 原告の主張する作用ないし効果は,顕著な効果ということはできない。この

ため,本件考案2は,引用考案,周知例1の記載事項及び周知の事項に基づいて当

業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。本件考案3も,同様に,

引用考案及び周知例1の記載事項及び周知の事項に基づいて当業者がきわめて容易

に考案することができた事項である。

3 取消事由3(本件考案4の容易想到性に係る判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 相違点5に係る判断の誤り

引用考案の気散管は,比較的強度の高い合成繊維を素材にしており,ワイヤを用

いることは,通常,必要でなく,引用考案において,吸液部材の中にワイヤを挿入

する動機はない。

したがって,引用考案において,吸液部材の中にワイヤを挿入することは,当業

者がきわめて容易に想到し得たものでない。

(2) 本件考案4の作用ないし効果についての判断の誤り

引用考案において,吸液部材の中にワイヤを挿入することは,当業者がきわめて

容易に想到し得たものでない。

したがって,本件考案4の作用ないし効果(【0012】)は,引用考案及び周

知例1に記載の事項等から当業者が十分予測できる範囲内のものでなく,顕著なも




のである。

〔被告の主張〕

(1) 相違点5に係る判断の誤りについて

引用考案では,気散管の周面を熱融着によって被覆する目的は,ポリエステル長

繊維のほぐれ防止のためにされるものであり,その熱融着は強度を高めるために行

われるものではない。

(2) 本件考案4の作用ないし効果についての判断の誤りについて

ポリエステル長繊維について,図面では繊維が粗いが,実際はもっと細かいもの

であり,当該気散管は繊維の密度を大として,上昇浸透させやすくすることが記載

されている。引用考案の気散管はポリエステル長繊維を棒状に束ね,内部に存在す

る繊維が熱融着されない程度に周面が熱融着により被覆されたものであることが示

されているから,引用考案の気散管は補強が必要でない程度に強度を有していると

はいえない。

このため,引用考案においても,補強のために浸透材である気散管の中にワイヤ

を挿入することは,当業者であればきわめて容易に想到し得るものである。

したがって,本件考案4は,引用考案,周知例1及び周知の事項に基づいて当業

者であればきわめて容易に考案できたものである。本件考案5も,引用考案,周知

例1及び周知の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたもの

である。

第4 当裁判所の判断

1 本件考案

本 件考案1ないし5の実用新案登録請求の範囲の記載は,前記第2の2の
(1)

とおりであり,本件明細書には,以下の記載がある(甲20)。

ア 技術分野

本件考案は,液体芳香剤を吸い上げて揮発させることにより設置空間を適度な芳

香で満たすことができる,扱いやすくインテリア性にも優れた室内芳香器に関する




(【0001】)。

イ 背景技術

近年,生活空間をより快適にする方法として,また心身の疲れを癒すリラクゼー

ションの方法として,香りの効能が注目を浴びている(【0002】)。

芳香発散装置としてばかりではなく,室内装置品としての観点から,見た目も自

然な感じを与えるために造花を用いた室内芳香器も多数提案されている(【000

4】)。

ウ 考案が解決しようとする課題

従来の造花を用いた室内芳香器は,造花は単に見た目を華やかにするための観賞

対象としてのみ用いられており,芳香発散装置としては用いられていなかった

(【0006】)。

本件考案が解決しようとする課題は,造花を観賞対象として用いるほか,芳香発

散装置としても用いる,実用性及びインテリア性にともに優れた性能を持つ室内芳

香器を提供することである(【0007】)。

エ 考案の効果

本件考案に係る室内芳香器は,造花をソラの木の皮で作製する。ソラ( Sola)は,

タイ原産のマメ科ツノクサネム属の低木である。その幹(茎)を一皮むくと,光沢

のある茎実が現れる。この光沢のある茎実の皮を薄くむき,乾燥させたものがポプ

リとして販売されているが,本件考案ではそれを花びらの形にして造花を作製する

(【0009】)。

乾燥させたソラの皮は繊維が非常に細かく,浸透性の紐が吸い上げた液体芳香剤

を十分に吸収し,それをゆっくりと揮発させる。そのため,本件考案に係る室内芳

香器では,芳香の揮散が長時間安定的に持続する(【0010】)。

なお,前記液体芳香剤に有色の(色の強い)ものを使用し,造花には淡色の(色

の薄い)ものを用いることが望ましい。ソラの皮は,そのままでは白色であるため,

模擬しようとする花の種類に応じて各種の着色をすることができる。しかし,造花




はあまり強い色で着色せずに白色のまま,あるいは着色をしても薄い色としておき,

液体芳香剤に強い色のものを用いると,液体芳香剤が造花の中(花弁)を浸透して

ゆく間に,花の色の変化を楽しむことができる。なお,このとき,造花の形は,そ

の色に合うものとしておくことが好ましい。例えば,赤の液体芳香剤の場合はバラ

やチューリップ,カーネーション等,青い液体芳香剤の場合はアジサイやアサガオ

等とすることができる(【0011】)。

前記浸透性の紐としては,綿糸を編んだ綿コードが適している。綿コードも,そ

の造花の茎に似た形状・色としておくと,造花全体がより自然に近くなる。また,

その中にワイヤを通しておくと,造花が容器の開口よりも上で自立できるようにな

り,造花の配置の自由度が高まる(【0012】)。

前記容器には,不透明な陶磁器を用いてもよいし,透明なものを用いてもよい。

透明である場合には,液体芳香剤の減り具合が分かるという実用的な効果の他,造

花を茎部を含めた全体で観賞することができるという美観上の効果も得られる

(【0013】)。

オ 考案を実施するための最良の形態

実施形態の室内芳香器では,造花の茎部の綿コードが液体芳香剤を吸い上げ,

花弁に供給する。ソラの木の皮から成る花弁部では,その細かい組織により,液体

芳香剤が緩やかな速度で根本から先端の方へ浸透してゆくが,その間,液体芳香剤

が着色されていることにより,それが花弁を浸透してゆくのを目で見ることができ

る。このとき,茎部が花弁部の中心に接続されているため,色は花の中心から付き

始め,徐々に周辺に広がって行くようになる。その様はまるで花が少しずつ開花し

てゆくように見え,利用者は,液体芳香剤の香気に加えて,その花の色の変化とい

う視覚からの美感によりいやされることとなる(【0016】)。

本件考案に係る室内芳香器では,造花の花弁部からの液体芳香剤の揮散の速度が

遅いため,周囲に強い芳香ではなく,微弱な香気を漂わせ,上品な香気空間を形成

する。また,そのような安定した香気を長時間楽しむことができる(【001




7】)。

本 件明細書の上記記載によれば,本件考案は,浸透性の紐を介して液体芳
(2)

香剤が供給される造花として,ソラの木の皮で作製されたものを用いることにより,

造花に吸収された液体芳香剤をゆっくり揮散させることができ,芳香の揮散を長時

間安定的に持続できるという作用ないし効果を奏するものと認められる。

2 引用考案

引用例には,以下の事項が記載されている(甲23)。
(1)

ア 産業上の利用分野

本考案は花形の芳香剤発散容器にかかわり,更に詳しくは,室内,事務所,会場,

工場等において芳香を発散し,容器を花形とした気散管に特徴のある芳香剤発散容

器に関する。

イ 従来の技術

周知のとおり,現在芳香を発散させる芳香剤は様々な分野で利用されている。ま

た,その形状も,ビン状の容器の上部にプラスチックのカバーが取り付けられその

カバーに形成された穴から芳香させるもの,カバーを開閉する事によりスリット状

に形成された穴から芳香させるもの,ステンドグラス状のカバーで囲んだもの等,

様々なものがある。しかし,いずれも芳香剤を上昇浸透し発散させる機能をもった

気散管については,繊維で形成された棒状の素材がそのまま使用されているのが現

状であった。

ウ 考案が解決しようとする課題

上記従来技術によれば,芳香剤発散容器は室内,事務所,会場,工場等において

芳香を発散させ,生活に潤いをもたらすものである。

しかし,容器について見れば種々のものがあるが,気散管について見れば素材の

ままで使用されており,その外観から外的美観を損ない設置空間において不調和で

ある場合があった。

エ 目的




本考案の目的とするところは,室内,事務所,会場,工場等において芳香を発散

させるものはもちろん,容器を花形とし,気散管を花の一部として装飾することに

よって外的美観をもたらし,嗅覚面と視覚面から日常の生活に潤いをもたらす芳香

剤発散容器を提供するにある。

オ 課題を解決するための手段

上記目的を達成するために本考案は次の技術的手段を有する。すなわち実施例に

対応する添付図面中の符号を用いてこれを説明すると本考案は,気散管と芳香剤と

それらを収容する容器よりなり,上記気散管の下部を芳香剤に浸すことにより芳香

剤を上昇浸透させ,上記気散管の上部より発散させる芳香剤発散容器において,上

記気散管が繊維で形成され,その気散管の上端部をすそ広がり状に形成し,その上

端部を着色する事によって人造花芯とし,かつその気散管のその他の部分を着色す

ることによって人造茎とし,上記容器が内部の気散管を見れる程度の透明度を有す

るように形成され,その容器に付けられたキャップに対して取り付けられた花芯付

属品,花弁,額等によって花状とした花形の芳香剤発散容器である。

カ 作用

上記構成に基づくと,気散管を,上端部をすそ広がり状に形成し,着色すること

によって人造花芯とし,その他の部分を着色することによって人造茎とすることに

より,気散管の本来の芳香剤を上昇浸透させる機能を備えるとともに,花の一部と

して装飾し,キャップに花芯付属品,花弁,額等を取り付けることにより容器全体

を花形とでき,芳香を発散させるとともに外的美観をもたらすことができる。

さらに気散管の上端部がすそ広がり状に形成されているので,人造茎部は繊維の

密度が大となり,芳香剤を上昇浸透させやすいとともに,人造花芯部は繊維の密度

が小となり,繊維の間の空間が大きく,芳香剤の発散発揮量を多くしやすい。

また,キャップに花芯付属品,花弁,額等が取り付けられているので,気散管の

みを容器から挿抜でき,交換が可能となるものである。

実施




以上の構成により,芳香剤は気散管の下部より浸透し,上昇浸透する。この時上

記気散管の茎部の繊維の密度を大として,上昇浸透させやすいものである。そして

気散管の上端部の花芯部より発散する。この時,気散管の上端部がすそ広がりとな

っているので花芯部の繊維の密度が小であり,発散し易いものである。

そして,気散管を花の一部,つまり人造花芯と人造茎として装飾し,花芯付属品,

花弁,額を取付けることにより容器を花形とし,また,容器,芳香剤を外的に気散

管が見える程度の透明度とすることにより,芳香を発散させるとともに,外的美観

をもたらすことができるものである。より具体的にいえば,気散管について,上面

から見ると人造花芯として見え,側面から見ると人工茎として見ることができるも

のである。

また,ノズルは花芯付属品,花弁,額へ芳香剤が接しないようになっていて,そ

の内部が中空になっているので,気散管をノズル下部から挿抜でき,そのため挿抜

の際に気散管に付着した芳香剤が花弁,額等に付く事が防止されるとともに取り替

え時における挿抜がスムースになされるものである。

ク 効果

請求項第1項の考案によれば,気散管において,その上端部をすそ広がり状にし,

着色することによって人造花芯とし,その他の部分を着色することによって人造茎

とすることにより,本来の芳香剤を上昇浸透させる機能を備えるのはもちろん,上

記気散管を花の一部として装飾するとともにキャップに花弁,額等を取り付けるこ

とにより容器を花形とし,更に容器の透明度を高める事により気散管の茎部が見え

るようにして,外的美観をもたらすという利点を有する芳香剤発散容器を提供する

ことができる。

以 上の記載事項によれば,従来,芳香剤発散容器の気散管は,芳香剤を上
(2)

昇浸透し発散させる機能を有する繊維素材が棒状のまま使用されていたため,その

外観から外的美観を損なうという問題があったところ,引用考案は,気散管の上端

部をすそ広がり状に形成し,その上端部を着色することによって人造花芯,すなわ




ち,花の一部として装飾するとともに,キャップに花弁等を取り付けることによっ

て,外的美観をもたらすものである。そして,引用考案は,気散管の上端部をほぐ

すことによって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核

とするものということができる。

な お,引用考案並びに本件考案と引用考案との一致点及び相違点が,前記
(3)

第2の3(2)のとおりであることは,当事者間に争いがない。

3 取消事由1(本件考案1の容易想到性に係る判断の誤り)について

相違点1について
(1)

本件考案1と引用考案との相違点1は,造花に関して,本件考案1では,「ソラ

の木の皮で作製した」ものであるのに対して,引用考案は,花芯付属品(おしべ

等),花弁,額とからなる花形の形態からなる点である。

(2) 容易想到性

ア 前記2によれば,引用考案の気散管は,@芳香剤を上昇浸透させて上端部に

導き,Aすそ広がり状に形成された上端部から芳香を発散させ,B当該上端部を着

色し人造花芯(人工花芯)とし,花の一部として装飾する,という機能を有する。

気散管は,中空のノズル内に収容され,キャップに取り付けられた花弁等と接する

ことはない。芳香の発散は,専ら気散管の上端部のみによって行われ,花弁の材質

にかかわりなく,花弁からは芳香が発散されない。このように,引用考案は,芳香

剤は気散管から気散するものであって,花形の形態から気散するものではない。

これに対し,ソラの木の皮で形成されたソラフラワーは,花全体に芳香剤が浸透

して,花全体から芳香が発散されるものと解され,ソラの木の皮から成る花弁部の

細かい組織により,液体芳香剤が緩やかな速度で根本から先端の方へ浸透していく

のであるから,芳香を発散しない引用考案の花弁とは機能的に相違する。

イ また,引用考案において,花の一部となる人造花芯は,気散管を形成する繊

維をほぐして線状化することによって形成されるものであるところ,このような手

法では,繊維をほぐしても線状にしかならず面状にはできないから,花弁のような




面状のものを形成することはできない。このように,引用考案は,気散管の上端部

の繊維をほぐして花の一部とすることを前提とし,気散管の上端部をほぐすことに

よって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核とするも

のである。

したがって,引用考案においては,芳香の発散も,花の一部から行われるにとど

まり,花弁や花全体から芳香を発散させるという技術的思想は存在しない。

ウ しかも,引用考案における気散管が,花弁等と接しないように構成されてい

るのは,気散管を挿抜する際,気散管中の芳香剤が花弁等に付着しないようにする

という積極的な理由に基づくものであり,そのために,気散管を敢えて中空のノズ

ル内に収容しているものと認められる。花弁への芳香剤の付着を防止することは,

花弁を含む花全体からの芳香の発散を否定することを意味するのであるから,この

点において,花弁を含む花全体から芳香を発散させるソラフラワーを適用すること

の阻害要因が存在する。

エ 以上のように,機能及び技術的思想が異なることに照らせば,仮にソラフラ

ワーが周知であったとしても,これを引用考案に適用することの動機付けがないば

かりか,むしろ阻害要因があるというべきである。

したがって,本件考案1は,引用考案に基づいてきわめて容易に想到できたもの

ということができず,これをきわめて容易に想到できるとした本件審決は誤りであ

る。

被告の主張について
(3)

被告は,甲1における揮散体中に含まれる芳香液の体積も,芳香剤の濃度も時間

経過により変化することが示されており,芳香の強さも変化することは甲1から当

然に導き出される事項であるとか,原告の主張する作用ないし効果は,甲1から容

易に導き出されるものにすぎず,本件考案1には,従来技術に対し顕著な作用ない

し効果を与えるものであるとはいえないなどと主張する。

しかしながら,被告は,無効審判請求において,引用例及び周知例1等に基づい




て本件考案1をきわめて容易に考案することができた旨主張し,本件審決も,その

旨判断したものである。引用例及び周知例1等に基づいて本件考案1をきわめて容

易に考案することができたか否かの判断の場面で,甲1に基づく作用ないし効果と

の関係を論ずることは,適切とはいえない。

小括
(4)

よって,取消事由1は,その趣旨をいうものとして理由がある。

4 本件考案2ないし5の容易想到性

前記3と同様に,本件考案2ないし5の構成も,引用考案に基づいてきわめて容

易に想到できるものとはいえない。

5 結論

以上の次第であるから,原告の請求は理由があり,本件審決は取り消されるべき

ものである。

知的財産高等裁判所第4部



裁 判長裁判官 部 眞 規 子




裁判官 井 上 泰 人




裁判官 齋 藤 巌