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事件 平成 23年 (行ケ) 10374号 審決取消請求事件 
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/08/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年8月9日判決言渡

平成23年(行ケ)第10374号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年6月26日

判 決

原 告 X

訴訟代理人弁理士 加 藤 朝 道

同 内 田 潔 人
同 青 木 充

被 告 特 許 庁 長 官

指定代理人 藤 井 昇

同 大 河 原 裕

同 神 山 茂 樹

同 樋 口 信 宏
同 田 村 正 明

主 文

1 特許庁が不服2009−18154号事件について平成23年7月

4日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由
第1 請求

主文同旨

第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成14年4月22日に行った国際出願パリ条約による優先権主張

平成13年4月24日ドイツ連邦共和国,平成13年7月28日ドイツ連邦共和
国)の分割出願として,平成18年12月27日,発明の名称を「風力発電施設運


1
転方法」とする発明について出願し(以下「本願」という。)(甲5),平成21

年5月19日,拒絶査定を受け,同年9月28日,不服審判(不服2009−18
154号事件)を請求し,同日,特許請求の範囲及び明細書を変更する旨の手続補

正を行った(以下,同補正後の明細書を,図面も併せて「本願明細書」という。)

(甲6)。

特許庁は,平成23年7月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審

決をし,その謄本は,同月19日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲

前記補正後の本願における特許請求の範囲の請求項1は以下のとおりである(以

下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)(甲6)。

「風力タービンを運転することにより電気ネットワークおよび前記電気ネットワ

ークに接続される負荷へ電力を供給する方法であって,

前記風力タービンは,ロータ(4)により駆動され交流電力を発生する発電機と,
前記交流電力を整流して整流直流電力を出力する整流器(16)と,

前記整流直流電力が供給され,前記整流直流電力を交流電力へ変換し,該変換さ

れた交流電力を前記電気ネットワークに供給するインバータ(18)と,

前記インバータ(18)を制御するマイクロコントローラ(20)と,を有し,

前記電気ネットワークにおける少なくとも一点において,電圧を測定し,電圧測

値を求めるステップと,
前記マイクロコントローラ(20)が前記電圧測値および所定のパラメータの値

に基づいて,前記電気ネットワークへ供給される電力の電流と電圧との角度を表わ

す位相角φとして設定されるべき値(以下「目標位相角」という)を導出し,前記

インバータ(18)を制御して位相角φを該目標位相角に設定するステップと,

前記マイクロコントローラ(20)が前記インバータ(18)を制御するステッ

プと,を有し,
前記インバータ(18)を制御するステップは,さらに,


2
前記電圧測値が下方参照電圧Uminと上方参照電圧Umaxとの間に含まれる

場合は,前記位相角φの大きさが一定に保たれるよう前記インバータ(18)を制
御するサブステップと,

前記電圧測値が前記上方参照電圧Umaxを上回る場合には,前記電圧測値のさ

らなる増大に応じて前記位相角φが大きくなるように,又は,前記電圧測値が前記

下方参照電圧Uminを下回る場合には,前記電圧測値の減少に応じて前記位相角

φが小さくなるように,前記電圧測値が所定の参照電圧を示すようになるまで前記
電気ネットワークへ誘導性または容量性の無効電力が供給されるよう,前記インバ

ータ(18)を制御するサブステップと,を含むこと

を特徴とする方法。」

3 審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は以下のとおり

である。
(1) 国 際 公開 第99 / 33165号 公報 (甲1の1。以下「 引 用 例 」とい

う。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)の内容,本願発明と引用発

明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明の内容

「風力エネルギー施設2を稼働することによりネットワーク6および前記ネット

ワーク6に接続される電気消費手段8へ電力を供給する方法であって,
前記風力エネルギー施設2は,ロータ4により駆動可能な交流電圧を生成すると

ともに電力を提供する発電機12を有し,

前記風力エネルギー施設2の発電機12に連結された電気的制御および調整シス

テム10は,

前記交流電圧を整流して整流された直流電圧を出力する整流器16と,

前記整流された直流電圧が供給され,前記整流された直流電圧を交流電圧に変換
し,これを三相の交流電圧として前記ネットワーク6へ供給する周波数コンバータ


3
18と,

前記周波数コンバータ18を制御するマイクロコンピュータ20と,を有し,
前記ネットワーク6における一箇所において電圧センサを用いて供給電圧を取得

し,

前記マイクロコンピュータ20が前記供給電圧およびその他の電圧を調整するた

めの入力値に基づいて前記周波数コンバータ18を制御して前記ネットワーク6へ

供給する前記三相の交流電圧を調整し,前記風力エネルギー施設2によって提供さ
れた電力をネットワーク6に供給するための電圧を調整する,前記供給電圧の変動

を回避又は大幅に減少することが可能な,方法。」

イ 一致点

「風力タービンを運転することにより電気ネットワークおよび前記電気ネットワ

ークに接続される負荷へ電力を供給する方法であって,

前記風力タービンは,ロータにより駆動され交流電力を発生する発電機と,
交流電気量を整流して整流直流電気量を出力する整流器と,

前記整流直流電気量が供給され,前記整流直流電気量を交流電気量に変換し,該

変換された交流電気量を前記電気ネットワークに供給するインバータと,

前記インバータを制御するマイクロコントローラと,を有し,

前記電気ネットワークにおける少なくとも一点において,電圧を測定し,電圧測

値を求めるステップと,
マイクロコントローラが前記電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,

インバータを制御するステップと,を有し,

前記電圧測値の変動を制御するよう,インバータを制御する,方法」である点。

ウ 相違点

(ア) 相違点1

「交流電気量を整流して整流直流電気量を出力する整流器と,前記整流直流電気
量が供給され,前記整流直流電気量を交流電気量に変換し,該変換された交流電気


4
量を電気ネットワークに供給するインバータにおいて,交流電気量,整流直流電気

量,変換された交流電気量がそれぞれ,本願発明では,「交流電力」,「整流直流
電力」,「交流電力」であるのに対して,引用発明では,「交流電圧」,「整流直

流電圧」,「交流電圧」である点。」

(イ) 相違点2

「マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,イ

ンバータを制御するステップと,を有し,前記電圧測値の変動を制御するよう,イ
ンバータを制御する,方法において,本願発明では,マイクロコントローラが電圧

測値および所定のパラメータの値に基づいて,「電気ネットワークへ供給される電

力の電流と電圧との角度を表わす位相角φとして設定されるべき値(以下「目標位

相角」という)を導出し,インバータを制御して位相角φを該目標位相角に設定す

るステップ」と,前記マイクロコントローラが前記インバータを制御するステップ

と,を有し,
前記インバータを制御するステップは,さらに,「前記電圧測値が下方参照電圧

Uminと上方参照電圧Umaxとの間に含まれる場合は,前記位相角φの大きさ

が一定に保たれるよう前記インバータを制御するサブステップと,前記電圧測値が

前記上方参照電圧Umaxを上回る場合には,前記電圧測値のさらなる増大に応じ

て前記位相角φが大きくなるように,又は,前記電圧測値が前記下方参照電圧Um

inを下回る場合には,前記電圧測値の減少に応じて前記位相角φが小さくなるよ
うに,前記電圧測値が所定の参照電圧を示すようになるまで前記電気ネットワーク

へ誘導性または容量性の無効電力が供給されるよう,前記インバータ(18)を制

御するサブステップと,を含む」のに対して,引用発明では,そのような特定がさ

れていない点。」

(2) 相違点についての判断

ア 相違点1について
相違点1は,実質的に相違するものではない。


5
イ 相違点2について

特 開 2000−78896号 公報 (甲2。以下「甲2文 献 」という。)には,
「風力発電により発電された電力が供給される電力系統1の電圧変動値及び電力供

給系統15の発電電力値を検出し,インバータ9を制御することにより無効電力を

制御して電力系統1の電圧変動を小さく抑える技術」(以下「周知技術」という場

合がある。)が開示されている。

@風力発電により発電された電力をインバータを制御することにより電気ネット
ワークに供給する技術分野において,供給される電力の交流電流と交流電圧との角

度を表す位相角φとして設定されるべき値を導出し,位相角φを設定されるべき値

に設定することで所望の無効電力を得ること(以下「常套手段1」という。),A

電力系統の電圧制御や無効電力の制御を行う技術分野において不感帯を設けること

(以下「常套手段2」という。)は,いずれも常套手段である。

本願発明の相違点2に係る構成は,引用発明と周知技術並びに常套手段1及び2
から当業者が容易に発明し得るものである。

取消事由に関する当事者の主張
第3

1 原告の主張

審決には,引用発明,周知技術,常套手段1及び2の認定における誤り(取消事

由1),容易想到性の判断の誤り(取消事由2)がある。

(1) 引 用発明, 周知技術 , 常套 手 段 1及び2の 認 定における 誤 り(取消事由
1)

引用発明の認定の誤り

審決における引用発明の認定は,以下のとおり,引用例に記載された発明の目的

ないし技術的課題を考慮することなく,引用例の記載の一部に基づいて解釈・認定

している点において,誤りがある。

(ア) 風速の大きな変化及び/又 は消費電力の大きな変化により配電 網の電圧が
所定値(上限)を超えて上昇した場合,風力装置が配電網から切断され,かつ,そ


6
の運転が停止され,これにより,風力装置から配電網への電力の供給が遮断される。

引 用発明は,この電力の供給の 遮断 により 引 き 起こされる, @ 風力装置 の運転者
(ないし所有者)に対する,電力供給遮断による売電量の減少,運転停止・再起動

の繰り返しによる風力装置の機械的負担等の1次的ないし直接的欠点と,A配電網

の運転者(ないし所有者(電力会社等))に対する,電力供給遮断により,それま

で供給されていた電力の分だけ電力不足になり,これにより,配電網電圧が過度に

減少する(過度に変動する)という2次的ないし間接的欠点を,解決すべき従来技
術の欠点として把握しているのであって,風速の大きな変化及び/又は消費電力の

大きな変化による配電網電圧の大きな変化を,解決すべき従来技術の欠点として把

握するものではない。すなわち,引用発明は,配電網から風力装置を切断し,運転

停止とせざるを得ないような極めて大きな電圧変動が生じる重大な状況を想定し,

このような場合において,風力装置の配電網からの切断及び運転停止(上記@の1

次的ないし直接的欠点)を回避するとともに,配電網への電力遮断に伴う配電網電
圧の過度の減少(過度の変動)(上記Aの2次的ないし間接的欠点)を回避するこ

とを,目的ないし技術的課題としている。

そして,上記課題を解決するために,引用発明は,マイクロコンピュータが,配

電網で検出された電圧(配電網電圧)及び所定のパラメータの値に基づいて所望電

圧値U(基準)を算出し,該所望電圧値U(基準)に発電機電圧U(実際)を調整

することによって,風力装置から配電網に出力される有効電力を配電網電圧に応じ
て減少する,又は,配電網電圧に応じて減少された有効電力を配電網に出力する。

このようにして,風力装置の運転が停止されず,減少されるとはいえ配電網に電力

を供給し続けることにより,電力の供給を遮断した場合に比べて,多くの電力を供

給でき,電圧の低下(変動)を小さくすることができる。

(イ) 引用発明においては,風力 装置ないしその発電機から配電網に供給ないし

出力される有効電力の調整は,上記のとおり発電機電圧を調整することによって行
われているから,周波数変換器ないしインバータによって行われるとする審決の認


7
定は誤りである。周波数変換器ないしインバータは,風力装置ないしその発電機で

生成された交流電力の周波数を,配電網の周波数に変換するのであって,発電機の
電圧の調整は行っていない。

したがって,審決における引用発明の認定,すなわち,「前記マイクロコンピュ

ータ20が前記供給電圧およびその他の電圧を調整するための入力値に基づいて前

記周波数コンバータ18を制御して前記ネットワーク6へ供給する前記三相の交流

電圧を調整し,前記風力エネルギー施設2によって提供された電力をネットワーク
6に供給するための電圧を調整する,前記供給電圧の変動を回避又は大幅に減少す

ることが可能(である)」とした認定部分は,誤りである。そして,同認定部分は,

引用発明の本質的特徴ないし課題解決手段に対応するものであり,同認定の誤りは,

容易想到性の判断に影響を及ぼす。

周知技術の認定の誤り

審決における周知技術の認定は,以下のとおり,甲2文献に記載された発明の目
的ないし技術的課題及び課題解決手段を全く考慮することなく,甲2文献の記載の

一部のみを抜き出して認定したものであり,誤りがある。

(ア) 審決における「インバータ9を制御することにより無効電力を制御して電

力系統1の電圧変動を小さく抑える」との認定には論理の飛躍がある。

甲2文献記載の発明は,風速の変動により発電電力(有効電力)が変動し,この

発電電力(有効電力)の変動により,電力系統の電圧が変動するという問題点を解
決するために,無効電力を制御することにより発電電力(有効電力)の変動を小さ

く抑制し,その結果として,電力系統に供給される有効電力の変動を抑制し,電力

系統の電圧の変動を抑制するものである。審決が認定したように,無効電力を制御

することによって,直接的に,電力系統の電圧変動を小さく抑えるのではない。

(イ) 審決における「風力発電により発電された電力が供給される電力系統1の

電圧変動値及び電力供給系統15の発電電力値を検出し,インバータ9を制御する
ことにより」の認定は,誤りである。


8
甲2文献記載の発明では,無効電力は,連絡線の抵抗値,連絡線のリアクタンス,

発電電力及び最寄りの配電変電所での許容電圧変動値から計算されているのであっ
て,無効電力を制御するためのパラメータとして,電力系統1の電圧又は電圧変動

値は検出されていない。さらに,これに基づくインバータの制御も行っていない。

ウ 常套手段1の認定の誤り

審決における常套手段1の認定は,特表平6−505618号公報(甲3。以下

「甲3文献」という。)に記載された発明の目的ないし技術的課題を考慮すること
なくされたものであり,誤りである。

甲3文 献 に記 載 された発明の目 的 ないし 技術的課題 は, 可 変 速 風車 の発電 装置

(動力変換器を含む。)の構成を簡素化することである。そして,甲3文献には,

発生した交流周波数を一旦直流に変換し,再び交流周波数に変換する手段として,

整流器とインバータを用いる例が記載されているが,このインバータから出力され

る交流の周波数については,商用電力配電網(電気ネットワーク)の一定周波数に
制御することしか記載されていない。甲3文献では,商用電力配電網(電気ネット

ワーク)において周波数が変動すること,すなわち,有効電力に過不足が生じるこ

とは全く想定されていない。甲3文献記載の発明では,インバータはその出力周波

数が一定になるよう制御されるのであって,無効電力によって商用電力配電網(電

気ネットワーク)における電圧の変動を抑制するよう制御されるのではない。そし

て,甲3文献記載の発明における「所望の無効電力」とは,「力率調整及びTHD
(総合高調波歪み)低下に適する無効電力」であって,「商用電力配電網(電気ネ

ットワーク)の電圧変動の抑制に適する無効電力」ではない。

エ 常套手段2の認定における誤り

審決における常套手段2の認定は,誤りである。

特開平5−244719号公報(甲4。以下「甲4文献」という。)に記載され

た発明は,負荷時タップ切換変圧器の系統母線電圧V及び負荷時タップ切換変圧器
の無効電力Qが両方とも「不感帯域」に収まるように,V及びQが「不感帯域」内


9
にあるときはそのまま放置し,V及びQの何れか一方でも「不感帯域」外にあると

きは両者が「不感帯域」内に入るように,負荷時タップ切換変圧器等を制御するも
のである。したがって,電圧測値が所定の上下限内にあっても,位相角φは,所定

の上下限内になければ,該所定の上下限内に収められるよう制御されることが必要

となるのであって,常に一定に保たれているわけではない。審決は,常套手段2と

して「電圧測値の所定範囲では位相角φを一定に保つ」と認定しているが,同認定

は,甲4文献記載の発明の制御ではない。
また,被告は,本件訴訟において,新たに2つの刊行物(乙2,3)を提出し,

これらに基づいて常套手段2が認定できると主張するが,上記刊行物に記載されて

いる無効電力の制御方法と,甲4文献に記載された無効電力の制御方法は異なって

いる。

(2) 容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について

ア 引用発明,周知技術並びに常套手段1及び2における誤った認定に基づいて
した容易想到性判断の誤り

審決は,引用発明,周知技術並びに常套手段1及び2における誤った認定に基づ

いて,本願発明の容易想到性の判断をしているから,その判断も誤りである。

イ 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤り

以下のとおり,本願発明の相違点2に係る構成は,引用発明及び甲2ないし4記

載の発明に基づいて,容易に想到することはできず,この点における審決の判断に
は誤りがある。

(ア) 本願発明は,電気ネットワークにおける既存の電圧制御手段によって制御

可能な範囲内における電圧変動を想定しており,引用発明のような,電気ネットワ

ーク(配電網)から風力タービン(風力装置)を切断し,運転停止せざるを得ない

ような,極めて大きな電圧変動が生じる重大な状況を想定していない。

そして,本願発明の目的ないし技術的課題は,「風速の変化及び/又は電気ネッ
トワークにおける負荷の変動により生じる有効電力の変動によって引き起こされる,


10
電気ネットワークにおける電圧変動を,高速かつ効率的に減少,又は,少なくとも

微増にとどめること」である。これに対して,引用発明の目的ないし技術的課題は,
「風 速の大きな変 化 及び/又 は消費電力の大きな変 化 による 配 電 網電圧の所定値

(上限)を超えて上昇する(又は所定値(下限)を超えて低下する)場合において

も,風力装置の配電網から切断及び運転停止を回避すると共に,配電網への電力遮

断に伴う配電網電圧の過度の減少(過度の変動)を回避すること」であるから,両

発明は,解決課題において異なる。
本願発明は,上記課題の解決手段として,電気ネットワークにおいて測定された

少なくとも1つの電圧(電圧測値)に応じて,電気ネットワークへ供給される電力

の電流と電圧との角度を表わす位相角φを変更し,「無効電力」を変更するのに対

し,引用発明は,課題解決手段として,発電機によって配電網に出力される「有効

電力」を配電網電圧に応じて減少することを選択しており,本願発明と引用発明は,

課題解決手段が相違する。
したがって,引用発明に接した当業者は,本願発明の課題解決手段に容易に想到

することはできない。また,引用発明における課題解決手段に代えて,本願発明の

課題解決手段を採用することには,阻害要因がある。

(イ) 審決は,引用発明と周知技術が,電気ネットワークへ供給される電圧の変

動を抑えるという共通課題を有しているということを前提に,引用発明に周知技術

を採用することにより,本願発明は容易想到であると判断する。しかし,引用発明
及び甲2文献に記載された発明のいずれにも,「電気ネットワークへ供給される電

圧の変動を抑制する」との課題はない。

甲2文献記載の発明は,無効電力を制御することにより,電力系統に供給される

「有 効電力の変動を 抑 制」するものであり, 引 用発明における「有効 電力の 減少

(変動の一態様)」とは制御の方向が正反対であり,互いに排斥しあう関係にある。

引用発明では,発電機の出力が周波数変換器(インバータ)に供給され,この周
波数変換器(インバータ)の出力が配電網に供給される構成において,発電機の電


11
圧を調整することにより配電網に供給する有効電力を減少させる。したがって,こ

の周波数変換器(インバータ)の出力である無効電力をどのように制御すれば,発
電機の電圧を制御できるのかは明らかでない。この点を明らかにすることなく,引

用発明に周知技術を採用することは容易であると即断することできない。

また,甲2文献記載の発明では,引用発明と異なり,インバータを制御するため

の制御パラメータとして,電力系統の電圧を検出しておらず,引用発明のように,

重大な状況は想定していない。
したがって,引用発明に甲2文献に記載された発明を組み合わせることはできな

い。

(ウ) 引用発明における,発電機が出力する有効電力を減少させるという構 成に,

発電機が出力する有効電力の変動を抑制するという甲3文献記載の発明を適用する

ことは,引用発明の目的が達成できなくなり,阻害要因があるといえる。

甲3文献記載の発明では,引用発明のように,極めて大きな電圧変動が生じる重
大な状況ばかりでなく,商用電力配電網における電圧変動すら想定されていない。

したがって,甲3文献記載の発明を引用発明に適用することはできない。

(エ) 甲4文献に開示された「不感帯域」を利用した制御においては,電圧及び無

効電力それぞれに対して上下限を設定し,電圧と無効電力のいずれもが上下限の範

囲内に収まるように制御する。これに対し,本願発明では,電圧測値には上下限が

設定されるものの,位相角φについての上下限は設定されず,むしろ,理論的には,
物理的な限度(+90°,−90°)の近くまで増減可能である。したがって,甲

4文献に開示された制御方法は,本願発明における制御方法とは異なる。

また,審決では,常套手段2の適用に当たり,相違点2におけるインバータを制

御するステップのうち2番目のサブステップについて,容易想到性の判断を行って

いない。

引用発明は,有効電力を制御する技術であり,無効電力を制御する技術ではない
から,同発明に,無効電力の制御に係る甲4文献記載の技術を適用することはでき


12
ない。

さらに,甲4文献記載の発明では,引用発明のように,極めて大きな電圧変動が
生じる重大な状況は想定していない。

以上のとおり,引用発明に甲4文献に記載された技術を適用することはできず,

また,引用発明に甲4文献に開示された技術を適用しても,本願発明の構成には到

らない。

2 被告の反論
(1) 引 用発明, 周知技術 , 常套 手 段 1及び2の 認 定における 誤 り(取消事由

1)に対して

引用発明の認定の誤りに対して

(ア) 引用例には,原告主張の重大な 状況 において供給電力を低減することに関

する発明のみならず,重大でない状況において,供給電力を増減させて電圧変動を

回避又は大幅に減少する発明(審決の認定に係る引用発明)も記載されている。審
決において,引用発明の一部を「前記ネットワーク6における一箇所において電圧

センサを用いて供給電圧を取得し」,「風力エネルギー施設2によって提供された

電力をネットワーク6に供給するための電圧を調整する,前記供給電圧の変動を回

避又は大幅に減少することが可能な,方法。」と認定した点に誤りはなく,引用発

明は,「風力変化または消費手段側の電圧における変動(風速変化または電気ネッ

トワークにおける負荷の変動)によるネットワーク(電気ネットワーク)における
電圧変動を回避あるいは大幅に減少する(減少又は微増にとどめる)こと」も目的

としている。

原告は,引用発明は,電力の供給の遮断により引き起こされる,@風力装置の運

転者(ないし所有者)に対する1次的ないし直接的欠点と,A配電網の運転者(な

いし所有者(電力会社等))に対する2次的ないし間接的欠点とを,従来技術の欠

点としていると主張する。しかし,原告の主張は,引用例の記載に基づかない主張
であり,失当である。


13
(イ) 原告は,引用発明においては,風力装置ないしその発電機から配電網に供

給ないし出力される電力(有効電力)の調整は,マイクロコンピュータによって行
われているから,周波数変換器ないしインバータによって行われるとする審決の認

定は,誤りであると主張する。

しかし,原告の主張は理由がない。

引 用 例 における 説 明及び図4によれば ,マイクロコンピュ ータ20が,(実際

の)供給電圧 U 及びその他 の電圧を 調 整するための 入 力値(ネットワーク 周波数
f,発電機の電気出力P,無効電力係数cosψ及び出力勾配dP/dt)に基づ

いて周波数コンバータ18を制御して,ネットワーク6へ供給する三相の交流電圧

を調整することが認められる。したがって,審決において引用発明の一部を,「マ

イクロコンピュータ20が供給電圧およびその他の電圧を調整するための入力値に

基づいて周波数コンバータ18を制御してネットワーク6へ供給する三相の交流電

圧を調整し」と認定した点に誤りはない。
周知技術の認定の誤りに対して

甲2文献の記載によれば,「DC→ACインバータ9(インバータ9)を制御す

ることにより無効電力を制御して電力系統1の電圧変動を小さく抑えていること」

が認められる。また,甲2文献記載の発明では,電力系統1の電圧変動値を検出し

ており,この電圧変動値は制御装置7に入力されているから,無効電力を制御する

ための制御パラメータとしての「最寄りの配電変電所での許容電圧変動値」に関連
して,何らかの制御パラメータとして使用されることは技術常識である。

したがって,甲2文献には,「風力発電で発電された電力が供給される電力系統

1の電圧変動値及び電力供給系統15の発電電力値を検出し,インバータ9を制御

することにより無効電力を制御して電力系統1の電圧変動を小さく抑える技術」が

開示されている。

ウ 常套手段1の認定の誤りに対して
甲3文献には,審決で認定した常套手段1が記載されている。


14
「供給される電力の交流電流と交流電圧との角度を表す位相角φとして設定され

るべき値を導出し,位相角φを設定されるべき値に設定することで所望の無効電力
を得ること」は,所望の無効電力を得るために普遍的に行われる技術常識であり,

甲3文献は,上記技術常識が,風力発電により発電された電力をインバータを制御

することにより電気ネットワークに供給する技術分野においても行われることを示

したものである。

エ 常套手段2の認定の誤りに対して
審決において常套手段2として認定したのは,あくまでも「電力系統の電圧制御

や無効電力の制御を行う技術分野において不感帯を設けること」であり,甲4文献

の記載から常套手段2を認定したことに誤りはない。

「ある値(X)が下方参照値と上方参照値との間に含まれる場合は対応する信号

( Y )の大きさが一定に 保 たれるように制御する サブ ステップと,前記ある値

(X)が前記上方参照値を上回る場合には,前記ある値(X)のさらなる増大に応
じて前記対応する信号(Y)が大きくなるように,又は前記ある値(X)が前記下

方 参照値を下 回 る 場合 には,前記ある値(X)の減 少に 応じ て前記対応 する信号

(Y)が小さくなるように制御するサブステップを有する」不感帯は,無効電力の

制御の技術分野において,常套手段ないし技術常識である。

(2) 容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対して

ア 引用発明,周知技術並びに常套手段1及び2における誤った認定に基づいて
した容易想到性の判断の誤りに対して

審決における引用発明,周知技術並びに常套手段1及び2の認定に誤りはないか

ら,本願発明と誤って認定した引用発明に基づく容易想到性判断には誤りがあると

の原告の主張は理由がない。

イ 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤りに対して

(ア) 本願発明の目的ないし技術的課題は「風速の変化及び/又は電気ネットワ
ークにおける負荷の変動により生じる有効電力の変動によって引き起こされる,電


15
気ネットワークにおける電圧変動を高速かつ効率的に減少,または,少なくとも微

増にとどめること」である。これに対して,引用発明の目的ないし技術的課題は,
重大な状況を想定したものに限られるのではなく,「風力変化または消費手段側の

電圧における変動(風速変化または電気ネットワークにおける負荷の変動)による

ネットワーク(電気ネットワーク)における電圧変動を回避あるいは大幅に減少す

る(減少又は微増にとどめる)こと」を含む。したがって,両者の解決課題は共通

する。
原告は,本願発明は無効電力を変更するものであると主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本願発明に係る特

請求の範囲には,位相角φを制御して,「電気ネットワークへ誘導性または容量

性の無効電力が供給される」ことは記載されているが,「無効電力を変更する」こ

とは記載されていない。また,位相角φは有効電力と無効電力の割合を規定するも

のであり,無効電力を一定に保ちつつ有効電力を変更することによって位相角を変
更することも可能であり,「位相角φを変更する」ことが,直ちに「無効電力を変

更する」ことを意味するものではない。本願発明も引用発明も,電気ネットワーク

(配電網)へ供給される少なくとも有効電力を調整することにより,電気ネットワ

ーク(配電網)の電圧変動を抑制ないし低減させるものであるから,両者の本質的

特徴ないし課題解決手段が異なる旨の原告の主張は,失当である。

(イ) 甲2文献には,「有効電力の制御態様」即ち「有効電力の変動の抑 制」が
開示されているのではく,「風力発電で発電された電力が供給される電力系統1の

電圧変動値及び電力供給系統15の発電電力値を検出し,インバータ9を制御する

ことにより無効電力を制御して電力系統1の電圧変動を小さく抑える技術」が開示

されている。そして,甲2文献記載の発明は,風力発電設備において,発電電力の

変動に応じて「電力系統1(電気ネットワーク)の電圧の変動を抑える」という点

において,引用発明の解決課題と共通する。
原告は,引用発明では発電機の電圧を調整することにより配電網に供給する有効


16
電力を減少させることを前提として,周波数変換器(インバータ)の出力である無

効電力をどのように制御すれば,発電機の電圧を制御できるのかを明らかにするこ
となく,引用発明に周知技術を採用することは容易であるとした審決の判断は,失

当であると主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり,理由がない。すなわち,引用例には,配

電網に供給する電力が「有効電力」である旨の記載はない。

引用例には,電圧の調整において発電機の無効電力係数cosψ(力率)も考慮
する旨の記載があることからも,配電網(ネットワーク)に供給される電力が有効

電力のみ であるとはい えない。そして,このような 場合 に, 配 電 網(ネットワー

ク)に無効電力を供給して電圧変動を抑えることは,通常採用される方法である。

したがって,引用発明に周知技術を適用して,容易想到性の判断を行った審決に

誤りはない。

(ウ) 甲3文献記載の発明は,風力発電により発電された電力をインバータを制
御することにより電気ネットワークに供給する技術分野におけるものであり,本願

発明,引用発明及び甲2文献記載の発明と技術分野を同じくし,引用発明に適用す

ることは容易である。

(エ) 甲4文献記載の発明は,「電力系統の電圧制御」の技術分野である点で,

本願発明,引用発明及び甲2文献記載の発明と共通し,「無効電力の制御」の技術

分野である点で,甲2文献記載の発明と共通する。したがって,甲4文献記載の発
明を引用発明に適用することは容易である。

当裁判所の判断
第4

当裁判所は,本願発明の相違点2に係る構成は,引用発明に,甲2文献記載の発

明,常套手段1及び2を適用することによって,容易に想到すると認めることはで

きないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1 引用発明,周知技術,常套手段1及び2の認定における誤り(取消事由1)
について


17
(1) 引用発明の認定の誤りについて

ア 引用例の記載
引用例の対応公表公報である特表2001−527378号公報(甲1の2)に

は,以下の記載がある。また,同公報の図1及び図4は,別紙引用文献図面に記載

のとおりである(甲1の2)。
「【0003】風力から電気エネルギーを発生する公知の風力装置では,発電機が,電気使

用者,しばしば配電網と並列に運転される。風力装置の運転では,発電機によって供給される

電力は,現在の風速,従って,風力に従って変動する。この結果,発電機電圧は風力に応じて

変動し得る。これは以下の問題を生じる。

【0004】発生した電力を配電網,例えば,公共配電網に供給する場合,発電機電力が配

電網に供給される接続点又は配電網接続点において配電網電圧が上昇する。特に,発電機電圧

の変動が大きい場合,配電網電圧の望ましくない大きな変化が生じる。

【0005】特殊な状況下では,配電網の配電網電圧が望ましくない程高い値まで上昇する

ことが起こり得る。これは,特に,使用者の側が消費する電力が非常に少ない一方,大電力が

配電網に入力されている場合である。このような状況は,例えば,家庭での電力消費が極めて

少ない一方,強風により風力変換器が対応する大電力を配電網に提供する夜に起こり得る。も

し配電網又は風力装置の配電網接続点での電圧が所定値を超えて上昇すると,風力装置とその

発電機を配電網から切断しなければならないと共に,電力を最早消費できないので,風力装置

を配電網から完全に遮断しなければならない。このような遮断は,風力装置の運転者と配電網

の運転者の立場からも同様に望ましくない電力の供給の遮断を生む。」

「【0007】本発明の目的は,従来技術の欠点を防止すると共に,使用者,特に,配電網

における電圧の過度の変動と風力装置の望ましくない運転停止を防止する,風力装置を運転す

る方法と風力装置を提供することである。

【0008】冒頭に記載した種類の方法において,本発明の目的は,風力発電機によって配

電網に出力される電力が,配電網の印加配電網電圧に応じて調整されることにより達成される。

【0009】冒頭に記載した型式の装置において,本発明の目的は,使用者に印加される電



18
圧,例えば,配電網電圧を検出する検電器を有する調整装置を設けて,発電機によって使用者

に出力される電力が,検電器で検出された電圧に応じて調整されることにより達成される。

【0010】上記したように,エネルギー発生において,発生し得るエネルギーの変動が有

り得て,風力に依存する風力装置の場合は避けられない。しかしながら,これらの変動が本発

明の出発点ではない。むしろ,本発明は,電力消費の変動は使用者の側でも生じて,結果とし

て配電網電圧が変動するという問題に取組む。電気機器,特に,コンピュータの危険な電圧変

動に対する保護が,しばしば不十分であるので,このような配電網電圧が危険であることが知

られている。従って,本発明では,エネルギーの供給において,発電機側のエネルギー発生の

変動のみならず使用者側の変動も考慮に入れて,供給電圧が供給点において所望の基準値に調

整される。

【0011】本発明は,発電機の出力電力を使用者又は配電網の電圧に応じて調整すること

により,使用者に印加される電圧,特に,配電網の電圧の望ましくない変動を防止する。これ

により,風力の変化で生じ得る望ましくない電圧変動も防止される。

【0012】本発明の別の利点は,風力が極めて大きく変化する場合でも,配電網での変動

を防止するために,風力装置を運転停止する必要が無いことである。本発明によれば,風力が

大きく変化しても,配電網電圧の変化を生じること無く風力装置の運転が続けられる。そのた

めに,本発明にかかる調整装置は,使用者又は配電網における電圧を検出する検電器を備える。

【0013】更に,本発明では,風力が一定の場合,配電網に接続された使用者の何人かが

配電網から一時的に大電力を消費することにより電圧が変動し得るので,配電網電圧の変動を

給電用の配電網において規則的に補償することができる。このような電圧低下の場合,本発明

にかかる風力装置は,より大きな電力を配電網に供給して,電圧変動を補償できる。このため

に,例えば,本発明で検出される配電網電圧値に基づいて,供給電圧が風力装置と配電網の間

のインタフェースにおいて高められる。」

「【0021】配電網電圧が,配電網6(図1)内のある個所において検電器(不図示)に

より検出される。最適発電機電圧U基準(図2参照)が,検出された配電網電圧に基づいて,

場合によっては図4に示すマイクロプロセッサにより算出される。次に,発電機電圧U実際が,



19
調整装置によって所望電圧値U基準に調整される。発電機電圧のこの調整により,発電機12

から使用者,図示の実施形態では配電網6に出力される電力が調整される。風力装置から出力

される電力のこの調整された供給により,配電網6の配電網電圧の変動が防止又は著しく低減

される。」

「【0023】図4は,図1の制御調整装置10の主要部品を示す。制御調整装置10は,

発電機で発生した交流電圧が整流される整流器16を有する。整流器16に接続された周波数

変換器18は,最初に整流された直流電圧を交流電圧に変換し,この交流電圧は,3相交流電

圧として電線L1,L2とL3を介して配電網6に供給される。周波数変換器18は,調整装

置全体の一部であるマイクロコンピュータ20によって制御される。この目的のために,マイ

クロコンピュータ20は周波数変換器18に連結されている。風力装置2によって任意に設定

された電力を配電網6に供給するための電圧調整用の入力パラメータは,現在の配電網電圧U,

配電網周波数f,発電機の電力P,力率cosφと電力勾配dP/dtである。供給電圧の本

発明にかかる調整はマイクロコンピュータ20によって実行される。」

引用発明の認定の誤りに関する判断

(ア) 上記記載によると,引用発明では, @風力装置においては,発電機によっ

て供給される電力は風力に従って変動し,発動機電圧も風力に応じて変動するため,

発生した電力を配電網に供給した場合,発電機電圧の変動が大きいと,配電網電圧

に大きな変化が生じること,また,電力消費の変動によっても配電網電圧の変動が

生じること,さらに,A配電網電圧が所定値を超えて上昇するような特殊な状況下
では,風力装置と発電機を配電網から切断し,電力の供給を遮断しなければならな

いこと,以上の2点を,従来技術の問題点と捉えていると解される。

また,引用発明の解決課題は,風力の変化や電力消費の変動によって生じる配電

網電圧の変動を防止するとともに,配電網電圧の過度の変動と風力装置の運転停止

を防止することであって,配電網電圧が過度に変動して,風力装置が運転停止に至

る場合に限らず,そのような状態にまで至らない程度の配電網電圧の変動に対する
問題点の解決をも含むと解される。


20
そして,引用発明においては,検電器で検出された配電網電圧に応じて,風力発

電機によって配電網に出力される電力を所望の基準値に調整することにより,配電
網電圧の変動を防止するとともに,風力が極めて大きく変化したり,電力消費量が

大きく変動したりする場合でも,配電網電圧の変動が防止されるため,風力装置を

運転停止する必要がなくなる。

以上のとおり,引用発明は,極めて大きな配電網電圧の変動が生じる重大な状況

を想定し,風力装置と発電機の配電網からの切断及び風力装置の運転停止の防止の
みを解決課題とするものではなく,風力の変化や消費電力の変動によって生じる配

電網電圧の変動そのものの防止も,その解決課題としている。

(イ) 引用例の上記記載及び図4には,配 電網電圧の変動を制御する具体 的方法

として,以下の方法が開示されている。すなわち,制御調整装置には,交流電圧を

直流電圧に整流する整流器,整流器に接続されている周波数変換器,周波数変換器

に連結されているマイクロコンピュータがある。周波数変換器は,整流器で整流さ
れた直流電圧を再度交流電圧に変換し,3相交流電圧として配電網に供給する。マ

イクロコンピュータは,検電器により検出された配電網電圧に基づいて,最適発電

機電圧U(基準)を算出し,発電機電圧U(実際)が所望電圧値U(基準)に調整

されるよう,周波数変換器を制御する。その際,マイクロコンピュータに入力され

る電圧調整用のパラメータは,現在の配電網電圧,力率などである。このように発

電機電圧が調整されることにより,配電網に出力される電力が調整される。
以上のとおり,引用発明では,マイクロコンピュータが検電器により検出された

配電網電圧に基づいて周波数変換器を制御することにより,発電機から配電網に出

力される3相交流電圧が調整されているといえる。

ウ 小括

以上のとおりであり,引用発明の内容についての審決の認定に誤りはない。

(2) 周知技術の認定の誤りについて
ア 甲2文献の記載


21
甲2文献には,以下の記載があり,同文献中の図1は別紙甲2文献図面に記載の

とおりである(なお,同文献の【図面の簡単な説明】に照らすと,図1の「4 電
電圧変換器」の明らかな誤記である。)(甲2)。
力変換器」は「4
「【0009】本発明は,風力発電機と無効電力制御が可能なインバータあるいは無効電力

補償装置とを組合わせ,連結線の抵抗値,連結線のリアクタンス,発電電力ならびに最寄りの

配電変電所での許容電圧変動値から無効電力を計算し,発生または消費無効電力を制御する制

御装置を設けた風力発電設備を提供する。」

「【0014】図1は,第1の実施例に係るブロック図である。図において,電力系統1に

は,同期発電機形風力発電機10が整流器3,DC/AC変換器(DC→ACインバータ)9

を介して接続され,発電された電力が電力供給系統15を介して電力系統1に供給される。

【0015】電力系統1には,更に電圧変換器4,電力変換器5および無効電力変換器6が

並列に設けられる。

【0016】連絡線である電力供給系統15には変流器3が設けられ,検出された発電電力

は無効電力変換器6に入力される。電圧変換器4,電力変換器5および無効電力変換器6で計

測された電圧変動値,発電電力値,無効電力値は制御装置7に入力される。

【0017】また,電力供給系統15のリアクタンスおよび抵抗値が入力される。

【0018】発電電力ならびに最寄りの配電変電所での許容電圧変動値から次式で示す計算

で最適無効電力を計算し発生または消費無効電力を制御する。

【0019】

【数3】




【0020】

Q:発生無効電力(Mvar) Δe:許容電圧変動(p.u)

V:連絡線電圧(kV) P:発電電力(MW)

R:連絡線抵抗(Ω) X:連絡線リアクタンス(Ω)



22
このようにすることによって,発電電力の変動に応じて無効電力を制御することができ,電

力系統1の電圧変動を小さく抑えることができる。」

周知技術の認定の誤りに関する判断

上記のとおり,甲2文献には,実施例として,風力発電機10で発電された電力

が電力供給系統15を介して電力系統1に供給され,電力系統1に電圧変換器4,

電力変換器5及び無効電力変換器6が並列に設けられている風力発電設備において,

電力供給系統15に設けられた変流器3で検出された発電電力が無効電力変換器6
に入力され,電圧変換器4,電力変換器5及び無効電力変換器6で計測された電圧

変動値,発電電力値及び無効電力値が制御装置7に入力され,制御装置7において

一定の計算式から最適無効電力を計算し,DC/AC変換器(DC→ACインバー

タ)9を制御する方法により,発生又は消費無効電力を制御し,電力系統1の電圧

変動を小さく抑えることが開示されている。

このように,甲2文献に記載された実施例では,電力供給系統15に設けられた
変流器3で検出された発電電力が無効電力変換器6に入力され,無効電力変換器6

からは無効電力値が制御装置7に入力され,また,電気系統1に設けられた電圧変

換器4で計測された電圧変動値が制御装置7に入力されており,これらの値は,無

効電力を制御するためにパラメータとして検出され,利用されているといえる。ま

た,同実施例では,電力系統1の電圧変動値と電力供給系統15の発電電力値が制

御装置7に入力され,制御装置7がインバータ9を制御することにより,無効電力
を制御して発電電力の変動を小さくし,その結果,電力系統1の電圧変動を小さく

抑えており,それが直接的ではないにしても,インバータ9の制御により,無効電

力を制御して発電電力の変動を小さく抑えている点に誤りはない。

したがって,甲2文献には,審決が周知技術として認定したように,「風力発電

により発電された電力が供給される電力系統1の電圧変動値及び電力供給系統15

の発電電力値を検出し,インバータ9を制御することにより無効電力を制御して電
力系統1の電圧変動を小さく抑える技術」が開示されていると認定できる。


23
(3) 常套手段1の認定の誤りについて

ア 甲3文献の記載
甲3文献には,以下の記載がある(甲3)。
「発明の分野

本発明は,変化する風状態の下において可変速度で動作する風車に全体として関するもので

あり,更に詳しく言えば,風のエネルギーを力率が制御されるAC電力へ変換し,風車により

発生されるトルクを制御するための動力変換機に関するものである。」(5頁左上欄7ないし

11行)

「このインバータ制御ユニットは,力率が調整可能で,THDが低い電力を配電網へ供給す

るためにインバータ・スイッチ・マトリックスを制御する。インバータおよびそれの制御ユニ

ットは無効電力を,出力電圧と出力電流の間の位相差を調整することにより,必要に応じて供

給または吸収できる。歪み率を定期的に最小にすることにより,発電機制御ユニットの電流制

御器におけるのと同じやり方で低い調波歪みが達成される。また,インバータ制御ユニットは

DC電圧リンクの電圧も制御してそれを希望の値に維持する。」(10頁左下欄12ないし1

8行)

「 図2を再び参照して,力率制御器54が力率角,φ,または無効電力の大きさを制御し

てVARs(ボルトーアンペア−無効)を配電網へ供給できる。力率制御の種類は,力率制御

器へ入力される動作モードにより指定される。力率角を制御するものとすると,力率制御器5

4は,力率入力信号により定められるφの一定値をインバータ制御ユニット88へ出力する。

無効電力が制御されるものとすると,力率制御器は無効電力帰還信号,Qfo,をモニタし,

それを,無効電力入力信号により定められた希望の無効電力レベルと比較し,力率角,φ,を

調整して希望の無効電力を得る。」(11頁右上欄2ないし9行)

イ 常套手段1の認定の誤りに関する判断

甲3文献には,可変速度で動作する風車によるエネルギーを力率(有効電力と無

効電力の比率)が制御されるAC電力(交流電力)へ変換する動力変換機に関して,
インバータ及びインバータ制御ユニットが,出力電圧と出力電流の間の位相差を調


24
整することにより,希望の無効電力を得ることができる旨記載されている。

したがって,甲3文献には,審決が常套手段1として認定した,「風力発電によ
り発電された電力をインバータを制御することにより電気ネットワークに供給する

技術分野において,供給される電力の交流電流と交流電圧との角度を表す位相角φ

として設定されるべき値を導出し,位相角φを設定されるべき値に設定することで

所望の無効電力を得ること」が記載されていると認められる。

(4) 常套手段2の認定の誤りについて
ア 甲4文献の記載

甲4文献には,以下の記載があり,同文献の図4は,別紙甲4文献図面に記載の

とおりである(甲4)。
「【0001】

【産業上の利用分野】本発明は電圧・無効電力制御装置,特に電力系統の電圧あるいは無効

電力の変動を検出し速やかに予め決められた設定範囲内に治めて,電力系統の電圧及び無効電

力を適正に維持する電圧・無効電力制御装置に関する。」

「【0007】なお,図4に示す電圧・無効電力制御装置の調整操作と電力系統の電圧・無

効電力の制御特性図において,縦軸は負荷時タップ切換変圧器の系統母線電圧,横軸は負荷時

タップ切換変圧器の無効電力を示し,両軸が直交する平面の原点が負荷時タップ切換変圧器の

系統母線電圧と無効電力の目標値V0 ・Q0 であり,この原点の周囲に予め決められた不感帯

域が設定されている。」

「【0009】そして,操作機器判定部15はその象限に対応して負荷時タップ切換変圧器

LR,電力用コンデンサCs,あるいは分路リアクトルSRの制御を行うことにより,系統母

線電圧と負荷時タップ切換変圧器の無効電力を図4に示す不感帯域に収める。」

イ 常套手段2の認定の誤りに関する判断

上記のとおり,甲4文献には,従来の技術として,電力系統の電圧及び無効電力

を適正に維持する電圧・無効電力制御装置において,不感帯域を設定することが記
載されている。


25
したがって,甲4文献には,審決が常套手段2として認定したように,「電力系

統の電圧制御や無効電力の制御を行う技術分野において不感帯を設けること」が記
載されていると認められる。

なお,原告は,甲4文献に記載された発明では,電圧測値が所定の上下限内にあ

っても,位相角φは必ずしも一定に保たれるわけではないとして,常套手段2の認

定に誤りがあると主張する。しかし,審決は,常套手段2として,「不感帯を設け

ること」と認定しているだけであり,その具体的な内容として「電圧測値の所定範
囲では位相角φを一定に保つ」とまでは認定しておらず,原告の主張は失当である。

(5) 小括

以上のとおりであるから,引用発明,周知技術並びに常套手段1及び2に関する

審決の認定に誤りはない。

容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について

(1) 引用発明, 周知技術並びに常套手段1及び2における誤 った認定に基づい
てした容易想到性の判断の誤りについて

上記のとおり,引用発明,周知技術並びに常套手段1及び2に関する審決の認定

には誤りはないから,同認定に誤りがあることを前提とした主張,すなわち,「本

願発明と引用発明との相違点を看過して容易想到性の判断をした誤り」,「周知技

術並びに常套手段1及び2における誤った認定に基づいて容易想到性の判断をした

誤り」に係る原告の主張は,いずれも主張自体失当である。
(2) 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤りについて

次に,本願発明の相違点2に係る構成が,引用発明,周知技術並びに常套手段1

及び2から当業者が容易に発明し得るとした審決の判断の当否について,以下検討

する(相違点1に係る構成が,実質的な相違 点でないことについては,争点とされ

ていない。)。

ア 本願発明
(ア) 本願明細書の記載


26
本願発明に係る特許請求の範囲の記載は第2の2記載のとおりであり,本願明細

書には,以下の記載がある(甲5,6)。また,本願明細書の図3は,別紙本願明
細書図面に記載のとおりである(甲5)。
「【発明の詳細な説明

【技術分野】

【 0 0 0 1 】 本 発 明 は , ロ ー タ に よ り 駆 動 可 能 で あ っ て , 電 気 ネ ッ ト ワ ー ク (ein

elektrisches Netz),特に接続されている負荷に電力を供給するための発電機を備えた風力タ

ービンの運転方法に関する。

【0002】本発明はさらに,風力タービン,特に,前記方法を実施するための,ロータ,

ならびに,電気ネットワークに電力を供給するためにロータと接続された,または,少なくと

も2基の風力タービンを有するウィンドファームに接続された,発電機を有する風力タービン

に関する。

【背景技術】

【0003】周知の,風力エネルギから電気エネルギを発生させる風力タービンにおいては,

電気負荷,時には電気ネットワーク,と接続された発電機は並列的回路様式で運転される。風

力タービンの運転中,発電機により生成される有効電力はその時の風速に拠って変化してもよ

い。その結果,ネットワークの電圧もまた,例えば送込み点(Einspeisepunkt)において,その

時点の風速に従って変化可能である。

【0004】しかしながら,発電された電力が電気ネットワーク,例えば,公衆電力ネット

ワークに供給されるとき,結果としてネットワークの電圧に変動が生じる。だが,接続されて

いる負荷が信頼性を損なわずに動作するためには,そのような変動は非常に狭い限度内でのみ

許される。」

「【発明の開示】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】本発明の目的は,有効電力出力が変動する場合であっても,風力タービンのな

い場合と比較して,ネットワークの所定点における望まざる電圧の変動を減少,または,少な



27
くとも微増にとどめることが可能な,風力タービンの運転方法を規定すること,ならびに,風

力タービン,および/もしくは,ウィンドファームを提供することである。

【課題を解決するための手段】

【0007】本目的は,本発明により,風力タービンにより供給される電力出力の位相角φ

を,ネットワークにおいて測定された少なくとも1つの電圧に従って変更させる,冒頭にて明

記した類の方法で,達成される。」

「【0010】本発明は,負荷,または,ネットワークの電圧により供給される電力の位相

角を変化させることにより,負荷に供給される電圧,特にネットワークにおける電圧の望まれ

ざる変動を回避している。これによって,風力タービンによって供給される実効電力,および

/または,負荷によってネットワークから引き出される電力の変化により生じる,電圧のあら

ゆる望まれざる変動を補償する。

【0011】ネットワークにおける,所定の少なくとも1点において,電圧が実質的に一定

であるように,位相角を変化させることが,特に望ましい。必要なパラメータ値を決定するた

め,ネットワーク内の少なくとも1点において電圧を測定しなければならない。」

「【0022】図3は,ネットワーク電圧と位相角との関係を示す図である。電圧が,Um

からUmaxの間にある参照値Usollから逸脱した場合,逸脱の極性によって,ネットワー
in


クに誘導性,または,容量性実行電力が供給されるように,図中の電力曲線に従って位相角φ

が変化され,電圧測定点(図1の22)における電圧を安定化する。」

(イ) 本願発明の解決課題及び解決手段について
上記記載によれば,本願発明は,風力タービンでは,風速によって発電機により

生成される有効電力が変化するが,電力が電気ネットワークに供給されるときは,

供給される有効電力の変化により電気ネットワークの電圧に変動が生じるところ,

電気ネットワークに接続されている負荷が信頼性を損なわずに動作することができ

るように,ネットワークの所定点における電圧の変動を減少させるか,又は,少な

くとも微増にとどめるようにすることを,その解決課題とするものである。本願発
明では,その解決手段として,風力タービンにより供給される電力出力の位相角φ


28
を,ネットワークにおいて測定された少なくとも1つの電圧に従って変更させると

の構成を採用している。本願発明は,同構成を採用することによって,風力タービ
ンによって供給される電力,及び/又は,負荷によってネットワークから引き出さ

れる電力の変化により生じる,電圧のあらゆる変動を抑制するものである。

イ 相違点2に係る構成についての容易想到性の有無に関する判断

(ア) 引用発明は,第4,1,(1),イで判断したとおりであり,また甲2文献記

載の発明(「周知技術」)は,第4,1,(2),イで判断とおりであり,甲4文献記
載の発明(「常套手段 2」)は,第4,1, (4),イで判断したとおりである(い

ずれも審決の認定に誤りはない。)。

(イ) 引用発明と甲2文献記載の発明の技術分野,技術内容を対比,検討すると,

両発明は,いずれも,風力発電で発生した電力が配電網(電力系統1)に供給され

る場合に,マイクロコンピュータ(制御装置7)が,周波数変換器(インバータ)

を制御することにより,配電網(電力系統1)の電圧の変動を制御しようとするも
のである。また,電圧調整用のパラメータとして,引用発明ではマイクロコンピュ

ータに力率が入力され,甲2文献記載の発明では制御装置7に無効電力値が入力さ

れており,無効電力が制御の対象とされている。したがって,引用発明と甲2文献

記載の発明とは,解決課題において共通する。

(ウ) 他方,審決が認定した常套 手段2は,「電力系統の電圧制御や無効電力の

制御を行う技術分野において不感帯を設ける」というものであり,その具体的な制
御方法等は,何ら開示がない。また,甲4文献に記載されている不感帯域は,系統

母線電圧と無効電力について,目標値V0 ・Q0 の周囲に予め決められた不感帯域

を設定し,負荷時タップ切換変圧器LR,電力用コンデンサCs,あるいは分路リ

アクトルSRの制御を行うことにより,系統母線電圧と無効電力を上記不感帯域に

収めるものである(段落【0007】【0009】)。したがって,甲4文献記載

の事項がいかに技術常識であったとしても,当業者が,甲4文献記載の事項を適用
することにより,本願発明における 引 用発明との相 違 点2に係る 構成,すなわち


29
「(マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,イ

ンバータを制御するステップと,を有し,前記電圧測値の変動を制御するよう,イ
ンバータを制御する,方法において,本願発明では,マイクロコントローラが電圧

測値および所定のパラメータの値に基づいて,「目標位相角を導出し,インバータ

を制御して位相角φを該目標位相角に設定するステップ」と,前記マイクロコント

ローラが前記インバータを制御するステップと,を有し,前記インバータを制御す

るステップは,)前記電圧測値が下方参照電圧Uminと上方参照電圧Umaxと
の間に含まれる場合は,前記位相角φの大きさが一定に保たれるよう前記インバー

タを制御するサブステップと,前記電圧測値が前記上方参照電圧Umaxを上回る

場合には,前記電圧測値のさらなる増大に応じて前記位相角φが大きくなるように,

又は,前記電圧測値が前記下方参照電圧Uminを下回る場合には,前記電圧測値

の減少に応じて前記位相角φが小さくなるように,前記電圧測値が所定の参照電圧

を示すようになるまで前記電気ネットワークへ誘導性または容量性の無効電力が供
給されるよう,前記インバータ(18)を制御するサブステップと,を含む」との

構成に,容易に想到すると解することはできない。

この点につき,被告は,本訴において新 たに,特 開 平3−122705号 公報

(乙2)及び特開平10−191570号公報(乙3)を提出する。そして,乙2

には,電圧調整器を線路上に設けた系統に設置する静止形無効電力補償装置におい

て,制御目標電圧と交流系統電圧の偏差信号に不感帯を設けることが,乙3には,
発電設備と系統電源とを連系し,電圧変動基準により無効電力の制御を行う系統連

系システムにおいて,検出した電圧変動量から電圧変動基準を演算して出力する関

数回路において,電圧変動が一定値以内では感知しない不感帯を設けることが,そ

れぞれ記載されており,乙2及び乙3には,「ある値(X)が下方参照値と上方参

照値との間に含まれる場合は対応する信号(Y)の大きさが一定に保たれるように

制御するサブステップと,前記ある値(X)が前記上方参照値を上回る場合には,
前記ある値(X)のさらなる増大に応じて前記対応する信号(Y)が大きくなるよ


30
う に, 又 は前記ある値(X)が前記下方 参照 値を下 回 る 場合 には,前記ある値

(X)の減少に応じて前記対応する信号(Y)が小さくなるように制御するサブス
テップを有する」不感帯を設ける制御が記載されている。

しかし,上記の不感帯における制御に関する審理,判断が一切されていない,審

判手続の審理経緯に照らすならば,本訴訟に至って,上記証拠(乙2,乙3)を考

慮に入れた上で,相違点2に係る構成の容易想到性の有無の判断をすることは,相

当とはいえない。
3 結論

以上のとおり,原告主張の取消事由には理由があり,審決には,結論に影響を及

ぼす誤りがある。

よって,その余の点を判断するまでもなく,審決は,違法であるとして取り消す

べきであるから,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第1部




裁判長裁判官

飯 村 敏 明




裁判官
八 木 貴 美 子


31
裁判官

小 田 真 治




32
別紙 本願 明 細 書図 面

図3




33
別紙 引用 献
文 図面

図1




図4




34
別紙 献
甲2 文 図面




35
別紙 献
甲4 文 図面

図4




36