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事件 平成 23年 (行ケ) 10304号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年7月19日 判決言渡
平成23年(行ケ)第10304号 審決取消請求事件

平成24年5月29日 口頭弁論終結

判 決

原 告 ジオックス エス.ピイ.エイ.

訴訟代理人弁理士 野 河 信 太 郎

同 甲 斐 伸 二
同 金 子 裕 輔

同 稲 本 潔

同 冨 田 雅 己

被 告 特 許 庁 長 官

指定代理人 豊 永 茂 弘

同 亀 丸 広 司
同 瀬 良 聡 機

同 芦 葉 松 美

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2008−28115号事件について平成23年5月11日にした

審決を取り消す。

第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯


1
原告は,平成13年10月26日,発明の名称を「靴用の通気性・防水性底革」
とする発明について,特許出願(特願2001−329263。パリ条約による優

先権主張2000年10月31日 イタリア国。以下「本願」という。)をしたが,

平成20年7月25日付けで拒絶査定がされたため,同年11月4日付けで拒絶査

定に対する不服審判請求(不服2008−28115号事件)をするとともに,同

年12月3日付けで手続補正書を提出したところ,平成22年9月10日付けで手

続補正を却下する決定がされるとともに,拒絶理由通知がされたので,平成23年
3月11日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

特許庁は,同年5月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を

し,その謄本は,同月24日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲

平成23年3月11日付け手続補正書による補正後の本願の特許請求の範囲の請

求項1の記載は次のとおりである(甲7,甲12の2。以下,この発明を「本願発
明」という。また,本願の特許請求の範囲発明の詳細な説明及び図面を総称して

「本願明細書」ということがある。別紙図面1の【図1】,【図2】は,本願発明

に係る底革で設けられた靴の断面図である。)。

【請求項1】

接地部を構成する防水性下部構成要素(11),少なくとも上面および端面に開

口(14)のある相互連結されたいくつかの小室(13)を有している支持構造体
からなる上部構成要素(12),不透水性かつ蒸気透過性であるとともに,前記上

部構成要素(12)の少なくとも外向区域を外面で取り囲む隔膜(19)を備えて

なり,前記下部構成要素(11),前記上部構成要素(12)および前記隔膜(1

9)が,少なくとも,水の染み込むおそれのある区域において,封止部を形成する

ように接合されており,前記隔膜(19)が,防水性接続部を得るために前記上部

構成要素(12)に周縁で封止されているとともに,前記隔膜(19)が,前記上
部構成要素(12)の縁部(16)の周りに少なくともその外向区域で巻き付けら


2
れており,また,前記隔膜(19)が,その上方区域および下方区域で折り曲げら
れ,その上方区域および下方区域において,前記小室(13)に接着剤がないよう

にかつ前記小室(13)を接着剤で塞がないようにして,前記上部構成要素(1

2)の周縁部分へ接着剤により接合されているとともに,通気性あるいは穴明きの

保護要素(20)が,前記隔膜(19)へ重ねられており,この通気性あるいは穴

明きの保護要素(20)が,前記隔膜(19)の少なくとも外側に面した区域を覆

っている靴用の通気性・防水性底革。
3 審決の理由

(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特表平11−50

4560号公報(甲1。以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用発明」

という。なお,別紙図面2の【図1】ないし【図3】は,引用発明の実施例の履物

の底構造を適用した運動靴を示す断面図である。)及び本願優先権主張日前の周知

の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法
29条2項の規定により特許を受けることができないので,本願は拒絶すべきであ

るというものである。

(2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明

の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明の内容

履き物の最底部(底本体)である外底14,内部からの水蒸気を外部に消散させ
る多孔性の材料でできた「足に対して安定な支持を与える」中底15,内部からの

水蒸気を外部に消散させると共に外部からの湿気を吸収しないようにする,中底1

5の外部周辺部分を外面で取り囲む薄ストラップ16を備えてなり,外底14,中

底15および薄ストラップ16が,少なくとも,水の染み込むおそれのある区域に

おいて,甲革12と薄ストラップ16上縁の内折れエッジと中底15とが接合され,

中底15と薄ストラップ16下縁の内折れエッジと外底14とが接合されており,
薄ストラップ16が,接合部を得るために中底15に周縁で接合されているととも


3
に,薄ストラップ16が,中底15の外部周辺部分の周りに巻き付けられており,
また,薄ストラップ16が,その上縁の内折れエッジおよび下縁の内折れエッジで

折り曲げられ,その上縁の内折れエッジにおいて,仕上げシーム17と接合シーム

18によって中底15の周縁部分へ縫い付けられ,その下縁の内折れエッジにおい

て,にかわ付けで中底15の周縁部分へ接合されている,「外界からの防水および

断熱を保証しながらも,歩行中の履き物内の足の蒸散によって発生した水蒸気を容

易に外部に発散させるようにした履き物の外底14および中底15」。
イ 一致点

接地部を構成する防水性下部構成要素,支持構造体からなる上部構成要素,不透

水性かつ蒸気透過性であるとともに,前記上部構成要素の少なくとも外向区域を外

面で取り囲む隔膜を備えてなり,前記下部構成要素,前記上部構成要素および前記

隔膜が,少なくとも,水の染み込むおそれのある区域において,接合部を形成する

ように接合されており,前記隔膜が,接続部を得るために前記上部構成要素に周縁
で接合されているとともに,前記隔膜が,前記上部構成要素の縁部の周りに少なく

ともその外向区域で巻き付けられており,また,前記隔膜が,その上方区域および

下方区域で折り曲げられ,その上方区域および下方区域において,前記上部構成要

素の周縁部分へ接合されている,靴用の通気性・防水性底革。

ウ 相違点

(ア) 相違点1
本願発明では,「少なくとも上面および端面に開口のある相互連結されたいくつ

かの小室を有している」上部構成要素であるのに対して,引用発明では,「内部か

らの水蒸気を容易に吸収して外部に消散させる」「多孔性の材料でできた」中底1

5(上部構成要素)である点。

(イ) 相違点2

本願発明では,「隔膜が,」「防水性」「接続部を得るために上部構成要素に周
縁で接合されているとともに,」「封止部を形成するように接合されており,」


4
「その上方区域および下方区域において,小室に接着剤がないようにかつ小室を接
着剤で塞がないようにして,上部構成要素の周縁部分へ接着剤により接合されてい

る」のに対して,引用発明では,「薄ストラップ16が,」「接合部を得るために

中底15に周縁で接合されているとともに,」「接合部を形成するように接合され

ており,」「その上縁の内折れエッジにおいて,仕上げシーム17と接合シーム1

8によって中底15の周縁部分へ縫い付けられ,その下縁の内折れエッジにおいて,

にかわ付けで中底15の周縁部分へ接合されている」,言い換えると,「隔膜
が,」「接続部を得るために上部構成要素に周縁で接合されているとともに,」

「接合部を形成するように接合されており,」「その上方区域において,仕上げシ

ーム17と接合シーム18によって上部構成要素の周縁部分へ縫い付けられ,その

下方区域において,接着剤により上部構成要素の周縁部分へ接合されている」点。

(ウ) 相違点3

本願発明では,「通気性あるいは穴明きの保護要素が,隔膜へ重ねられており,
この通気性あるいは穴明きの保護要素が,隔膜の少なくとも外側に面した区域を覆

っている」のに対して,引用発明では,「通気性あるいは・・・区域を覆ってい

る」ことを発明特定事項にしていない点。

第3 当事者の主張

1 審決の取消事由に係る原告の主張

審決は,以下のとおり,(1) 引用発明の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由
1),(2) 相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3) 相違点2に

係る容易想到性判断の誤り(取消事由3),(4) 相違点3に係る容易想到性判断の

誤り(取消事由4)があり,この誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,審決

は取り消されるべきである。

(1) 引用発明の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1)

ア 審決は,引用発明について,「薄ストラップ16上縁の内折れエッジと中底
15とが接合され,中底15と薄ストラップ16下縁の内折れエッジと・・・が接


5
合されており,薄ストラップ16が,・・・中底15に周縁で接合されているとと
もに,・・・中底15の外部周辺部分の周りに巻き付けられており」と認定した。

しかし,審決の認定は誤りである。

「接合」とは,2つの構成要素を互いに接した状態で継ぎ合わせることであり,

「縫いつけ」とは,糸を通した針で2つの構成要素を縫って,互いにくっつけるこ

とであるから,「接合」と「縫いつけ」は異なる概念である。薄ストラップ16は,

中底15と一体化するために,にかわを使用することなく,「仕上げシーム17に
よって中底15に縫い付けられている」のであり,中底15に「接合」されている

とはいえない。

また,「巻き付ける」とは,ある物を別のある物の周囲に巻き重ねるか,巻いて

くっつけることであり,「取り囲む」とは,ある物が別のある物を中にしてその周

りを取り囲むことであって,ある物と別のある物とは密に接触している状態にない

のが通常であるから,「巻き付ける」と「取り囲む」とは異なる概念である。薄ス
トラップ16は,中底15を取り囲んでいるにすぎず,「中底15の外部周辺部分

に巻き付けられて」いるのではない。

したがって,審決の引用発明の認定には誤りがある。

イ 審決は,引用発明の上記認定を前提として,「前記下部構成要素,前記上部

構成要素および前記隔膜が,・・・接合部を形成するように接合されて」いること

を一致点と認定した。
しかし,審決は,一致点の認定を誤り,相違点を看過したものである。

すなわち,本願発明の「封止部を形成するように接合されており」との事項は,

単なる「接合部」を形成するという目的を有するのではなく,防水用封止機能を備

えた「封止部」を設けることを目的としたものである。

これに対し,引用発明は,上記アのとおり,薄ストラップ16と中底15を一体

化するために,にかわは使用されておらず,薄ストラップ16が中底15の周縁部
分に「接合されている」とはいえない。


6
したがって,審決は,一致点の認定を誤り,相違点を看過したものである。
(2) 相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2)

審決は,相違点1に関し,引用発明の「内部からの水蒸気を容易に吸収して外部

に消散させる」,「多孔性の材料でできた」上部構成要素に,甲2記載の事項であ

る「少なくとも上面および端面に開口のある相互連結されたいくつかの小室を有し

ている」上部構成要素を適用して,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,

当業者であれば容易に想到し得る旨判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。

ア 甲2には,底部材2のうち少なくとも爪先側底部材2の上面に,中敷き部2

bから中間層部2cにかけて断面U字状の横溝6と縦溝7とが縦横網目状に形成さ

れ,横溝6の両端部が底部材2の外周左右両側面部にそれぞれ開口するように形成

された運動靴1が開示されている(段落【0001】,【0008】,【001

9】,【図7】ないし【図9】)が,横溝6は横方向に仕切られておらず,縦溝7
は縦方向に仕切られていない。「いくつかの小室」があるというためには,端面を

形成する仕切り壁により互いに独立して仕切られている複数の小さい部屋があるこ

とが必要であるが,甲2には,互いに独立して仕切られている部屋は記載されない

から,「いくつかの小室」は開示されていない。

したがって,甲2には「少なくとも上面および端面に開口のある相互連結された

いくつかの小室を有している」上部構成要素が記載されているとはいえない。
イ 甲2の運動靴1は,「小室」のような互いに独立して仕切られている部屋が

なく,歩行時における中敷き部2b及び中間層部2cの構造的強度が低い。特に,

運動靴1の使用によって底部材2が複数の横溝6に沿って繰り返し折り曲げられた

場合,横溝6における構造的強度が次第に低下するから,底部材2に所望の構造的

強度を付与するとすれば,横溝6の深さや幅を十分に形成することができなくなり,

底部材2の内部からの水蒸気の排出を一定量以上,確保することができない。その
結果,運動靴1では,歩行時における底部材2内部の空気の循環が十分ではなく,


7
底部材2内部から運動靴1の外部へ排出される水蒸気の総量が少ない。
また,引用発明の履き物10の中底15は,「足裏表面から蒸散する水蒸気を吸

収して,それを側面から外部に消散することが可能な材料」,具体的には,「開放

かつ連通する気泡を持つ材料」,例えば,「微孔を持つポリウレタンの多孔性の」

気泡がある材料でできているため(甲1の請求項1,4頁24行,26行),中底

15が吸収した水蒸気を外部に消散するための孔の総容積は小さく,歩行時のポン

プ効果も小さい。加えて,中底15には,吸収した水蒸気を排出する「微孔」はあ
るが,目に見える程度の水蒸気排出用開口は設けられていないから,履き物10の

内部から外部へ排出される水蒸気の総量を十分大きくすることはできない。

これに対し,本願発明の底革(10)における「少なくとも上面および端面に開

口(14)のある相互連結された小室(13)」では,複数の小室をそれぞれの端

面で互いに仕切る複数の仕切り壁により歩行時における上部構成要素(12)の構

造的強度が確保され,かつ,端面/仕切り壁に設けられた複数の開口(14)によ
り,歩行時に「足によって上部構成要素12が押し付けられると,汗によって湿っ

た空気が中底17の孔から上部構成要素12へ入り,汗が靴の外へ押し出される」

(甲7の段落【0051】)というポンプ効果で,複数の小室の間における空気の

循環や底革(10)内部における水蒸気の外部への排出が促進される。

したがって,本願発明に特有の上記顕著な効果は,甲2記載の事項を引用発明に

適用しても得られないものである。
ウ 以上のとおり,引用発明に甲2記載の事項を適用しても,相違点1に係る本

願発明の構成が容易に想到できるとはいえない。

(3) 相違点2に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3)

審決は,相違点2に関し,靴の部材同士の「接合部」を得ることについて,接着

剤による接着(封止)を行って優れた「防水性」接合部(接続部)を得ることは,

周知の事項であり,引用発明の「隔膜が,」「その上方区域において,仕上げシー
ム17と接合シーム18によって上部構成要素の周縁部分へ縫い付けられ」ること


8
について,上記周知の事項を適用することで,「隔膜が,」「防水性」「接続部を
得るために上部構成要素に周縁で接合されているとともに,」「封止部を形成する

ように接合されており,」「その上方区域および下方区域において,上部構成要素

の周縁部分へ接着剤により接合されている」ようにすることは,当業者であれば容

易に想到し得る旨判断した。

しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。

ア 本願発明の底革における上部構成要素(12)は,隔膜(19)の「折り曲
げられ」た上方区域及び「折り曲げられ」た下方区域を,それぞれ上部構成要素

(12)へ接着剤で接合させるための糊代を周縁上面及び周縁下面に備えている。

一方,甲2には,「底部材2の上面に,中敷き部2bから中間層部2cにかけて

断面U字状の横溝6が形成され」ている(段落【0019】)との構成が示される

から,甲2記載の運動靴1は,底部材2の上面に横溝6が開口しているため,底部

材2の上面に,接合させるための糊代を形成することはできない。
そうすると,引用発明に,甲2記載の事項を適用しても,本願発明の「前記隔膜

(19)が,その上方区域および下方区域で折り曲げられ,その上方区域および下

方区域において,・・・前記上部構成要素(12)の周縁部分へ接着剤により接合

され」る構成に至ることは不可能である。

イ 引用発明の履き物は,「足の上部分および側面部分からの蒸散によって引き

起こされた水蒸気が迅速にそして効果的に消散されるとともに,外部からの湿気お
よび冷気が履き物内に侵入することを防止する」ことを目的とし(甲1・3頁21

ないし23行),薄ストラップ16が,「内側に折れたエッジで,仕上げシーム1

7によって中底15に縫いつけられている」ところ,「防水性接続部を得る」ため

の構成や「封止部を形成する」ための構成とすることは,上記目的に反する。

そうすると,接着剤による接着を行って靴の部材同士の防水性接合部を得ること

は周知の事項であるが,引用発明に周知の事項を適用して,「薄ストラップ16
(隔膜)が,防水性接続部を得るために中底15(上部構成要素)に周縁で接合さ


9
れているとともに,封止部を形成するように接合されており,その上方区域および
下方区域において,中底15(上部構成要素)の周縁部分へ接着剤により接合され

ている」ように構成することは,引用発明の目的に反するから,当業者であっても,

容易に想到することはできないというべきである。

ウ 以上のとおり,引用発明に周知の事項等を適用しても,相違点2に係る本願

発明の構成が容易に想到できるとはいえない。

(4) 相違点3に係る容易想到性判断の誤り(取消事由4)
審決は,相違点3に関し,引用発明の「内部からの水蒸気を外部に消散させると

共に外部からの湿気を吸収しないようにする隔膜」に,甲6記載の「透湿性(通気

性あるいは穴明き)の保護要素が,隔膜へ重ねられており,この透湿性の保護要素

が,隔膜の少なくとも外側に面した区域を覆っている」ようにするとの周知の事項

を適用して,相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に

想到し得る旨判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。

本願発明の隔膜(19)は,「上面および端面に開口(14)のある相互連結さ

れたいくつかの小室(13)を有している支持構造体からなる上部構成要素(1

2)の少なくとも外向区域を外面で取り囲む」ものであり,隔膜(19)は,「少

なくとも,水の染み込むおそれのある区域において,接地部を構成する防水性下部

構成要素(11)および上部構成要素(12)とともに封止部を形成するように接
合されて」おり,「防水性接続部を得るために上部構成要素(12)に周縁で封止

されているとともに,上部構成要素(12)の縁部(16)の周りに少なくともそ

の外向区域で巻き付けられて」いる。

一方,甲6記載の履物における甲の一部を貫く窓は,液体水不透過性であるが水

蒸気透過性である部材で覆われている。そして,この部材は,いずれも透湿性を備

えた部材4,外側保護層5及び内側保護層6からなっている。
そして,甲6の履物の部材4は,甲の窓において,外側保護層5及び内側保護層


10
6の間に両保護層5・6と一定間隔を隔てて設けられたものであり,本願発明の隔
膜(19)のように,小室(13)を有している上部構成要素(12)の少なくと

も外向区域を外面で取り囲むものではなく,上部構成要素(12)の縁部(16)

の周りに少なくともその外向区域で巻き付けられているものでもない。

また,甲6の履物の部材4は,液体水不透過性であるが水蒸気透過性であること

が必須であって,本願発明の隔膜(19)のように,封止部を形成するように接合

されているものではない。
したがって,引用発明に甲6記載の事項を組み合わせて,相違点3に係る本願発

明の構成が容易に想到できるとはいえない。

2 被告の反論

(1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)に対し

原告は,@引用発明について,「薄ストラップ16上縁の内折れエッジと中底1

5とが接合され,中底15と薄ストラップ16下縁の内折れエッジと・・・が接合
されており,薄ストラップ16が,・・・中底15に周縁で接合されているととも

に,・・・中底15の外部周辺部分の周りに巻き付けられており」とした審決の認

定は誤りである,Aこれを前提として,「前記下部構成要素,前記上部構成要素お

よび前記隔膜が,・・・接合部を形成するように接合されて」いることを一致点と

した審決は,一致点の認定を誤り,相違点を看過したものである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。
ア 上記@の主張に対し

引用例(甲1)の記載(5頁15行ないし18行,【図2】,【図3】)によれ

ば,「接合シーム18」は,「仕上げシーム17」と同じく縫い糸であり,「接合

シーム18」を用いて中底15を甲革11の継ぎ目皮に「接合する」ことは,縫い

糸を用いた「縫いつけ」であるから,引用例において,「縫いつけ」と「接合」と

は同じ意味で用いられているといえる。また,広辞苑第3版(乙1)によれば,
「縫い付ける」とは「縫ってくっつける」,「接合」とは「つぎあわす」の意味で


11
あるから,接合は,接着剤などの粘着性材料の手段に限定されず,「縫ってくっつ
ける」ことで「つぎあわされた」状態になるとみることができるから,接合は,縫

ってくっつけることを包含し,「縫いつけ」と「接合」とは同じ意味で用いられ得

るものである。

そして,引用例の記載(5頁8行ないし11行,14行ないし16行)によれば,

アッセンブリ(甲革11,中底15,薄ストラップ16,仕上げシーム17,接合

シーム18からなるもの)を成形するにあたり,薄ストラップ16の内折れエッジ
と中底15の周縁部分とは,仕上げシーム17,接合シーム18による縫いつけに

より接合され,アッセンブリに外底14をにかわ付けするにあたり,薄ストラップ

16の下縁の内折れエッジと中底15の周縁部分とは,当該部分ににかわが存在し

ていることから,縫いつけによる接合に加えて,にかわによっても接合されている

のである。なお,仮に,引用例において,上記部分がにかわで接合されていないと

しても,縫いつけにより接合されていることは明らかである。
また,引用例の【図2】,【図3】には,薄ストラップ16と中底15の外向区

域とが接触していないことを示す記載があるが,この図は概略図であって,この図

面から,両者が接触していないとはいえない。履き物の外周部に設けられる部材は,

耐用性等の観点からして,履き物の外周部に密に接触した(重ねられた)状態で設

けられるのが通常の形態であるから,引用例の薄ストラップ16についても,中底

15の外向区域を密に接触した状態で取り囲んでいるとみるべきである。
したがって,引用発明について,「薄ストラップ16上縁の内折れエッジと中底

15とが接合され,中底15と薄ストラップ16下縁の内折れエッジと・・・が接

合されており,薄ストラップ16が,・・・中底15に周縁で接合されているとと

もに,・・・中底15の外部周辺部分の周りに巻き付けられており」とした審決の

認定に誤りはない。

イ 上記Aの主張に対し
上記アのとおり,「接合」とは「つぎあわす」の意味であり,本願発明の「封止


12
部」は,下部構成要素,上部構成要素及び隔膜が「接合され」た箇所,すなわち
「つぎあわされた」箇所であるから,「接合部」であることに変わりはなく,本願

発明の「封止部」と引用発明の「接合部」とは,「接合部」という点で一致する。

本願発明の隔膜が接合されている箇所は,封止機能の有無を問わない単なる接合部

ではなく防水封止機能を備えた封止部である旨の原告主張は,失当である。

また,上記アのとおり,引用発明において,薄ストラップ16の下縁の内折れエ

ッジと中底15の周縁部分とは,縫いつけによる接合に加えて,にかわによっても
接合されているということができる。

したがって,「前記下部構成要素,前記上部構成要素および前記隔膜が,・・・

接合部を形成するように接合されて」いることを一致点と認定した審決に誤りはな

く,相違点の看過もない。

(2) 取消事由2(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対し

原告は,@甲2には「少なくとも上面および端面に開口のある相互連結されたい
くつかの小室を有している」上部構成要素が記載されているとはいえない,A本願

発明に特有の顕著な効果は,甲2記載の事項を引用発明に適用しても得られないと

して,引用発明に甲2記載の事項を適用して,相違点1に係る本願発明の構成に容

易に想到し得るとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

ア 上記@の主張に対し
本願発明は,小室について,「少なくとも上面および端面に開口(14)のある

相互連結されたいくつかの小室(13)」とされるが,隔壁により互いに独立して

仕切られている構成は特定されていない。

一方,甲2において,底部材2の上面に設けられた横溝6及び縦溝7が交差する

部分(領域が特定される一定空間)は小室とみることができ,当該部分は,上面及

び端面に開口を有し,両溝によって相互連結されているから,甲2には,「少なく
とも上面および端面に開口のある相互連結されたいくつかの小室を有している」底


13
部材2(上部構成要素)が記載されているということができる。
イ 上記Aの主張に対し

本願明細書(甲7,甲12の2)には,本願発明が相違点1に係る構成を有する

ことの意義(解決課題・効果)について格別の記載はなく,「靴の外側との間で熱

および水蒸気の最適な交換をすることができる」(段落【0059】)との記載が

あるにすぎない。

一方,甲2の段落【0008】,【0019】には,本願発明が奏する上記の効
果と同様の効果が記載されていると解される。原告は,甲2の運動靴1では,歩行

時における底部材2の内部における空気の循環が十分でなく,底部材2の内部から

運動靴1の外部へ排出される水蒸気の総量が少ない旨主張するが,当該主張は,客

観的な根拠に基づくものではない。

ウ したがって,審決の相違点1についての判断に誤りはない。

(3) 取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)に対し
原告は,@引用発明に甲2記載の事項を適用しても,本願発明の「前記隔膜(1

9)が,その上方区域および下方区域で折り曲げられ,その上方区域および下方区

域において,・・・前記上部構成要素(12)の周縁部分へ接着剤により接合さ

れ」る構成に至ることは不可能である,A引用発明に周知の事項を適用して,「薄

ストラップ16(隔膜)が,防水性接続部を得るために中底15(上部構成要素)

に周縁で接合されているとともに,封止部を形成するように接合されており,その
上方区域および下方区域において,中底15(上部構成要素)の周縁部分へ接着剤

により接合されている」ように構成することは,引用発明の目的に反するとして,

引用発明に周知の事項等を適用して,相違点2に係る本願発明の構成に容易に想到

し得るとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

ア 上記@の主張に対し
甲2において,底部材2の上面に溝(開口)が設けられていたとしても,上面に


14
は溝でない箇所があり,この箇所を接合のための糊代にし得るから,接合のために
小室を接着剤で塞いだり,埋めたりする必要はない。

イ 上記Aの主張に対し

引用例の「前記薄いストラップが中底に縫われており,それによって,それを形

成している材料が外部からの湿気を吸収することを防止し,同時に水蒸気を外部に

消散させるその機能を阻害することなしに,足に対して軟質で安定した支持を与え

る,ことを特徴とする。」(4頁3行ないし6行)との記載は,薄いストラップ
(薄ストラップ16)が「外部からの湿気を吸収することを防止し,同時に水蒸気

を外部に消散させる機能」を有することを示すものと解される。そうすると,薄ス

トラップ16の接合の手段を,縫いつけから接着剤に代えたとしても,薄ストラッ

プ16の全てが接着剤により接合されるわけではないから,上記機能がなくなると

はいえず,引用発明の目的に反しない。

ウ したがって,審決の相違点2についての判断に誤りはない。
(4) 取消事由4(相違点3に係る容易想到性判断の誤り)に対し

原告は,引用発明と甲6記載の事項を組み合わせて,相違点3に係る本願発明の

構成に想到することは容易ではないとして,引用発明に,甲6記載の周知の事項を

適用して,相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到し得るとした判断は誤りで

ある旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。
甲6の段落【0007】ないし【0010】の記載から,履物の部材4は,履物

の少なくとも外側に面した区域を外面で取り囲む(縁部の周りに巻き付けられる)

ものであるかどうか,封止部を形成するように接合されるものであるかどうかにか

かわらず,透湿性で液体不透過性の材料の層であって,本願発明の「内部からの水

蒸気を外部に消散させると共に外部からの湿気を吸収しないようにする隔膜」に相

当することは明らかである。また,外側保護層5が,本願発明の「通気性あるいは
穴明きの保護要素」に相当し,「隔膜の少なくとも外側に面した区域を覆って」い


15
る構成を有することも明らかである。そして,部材4を外側保護層5で覆うとき,
部材4から離して覆うか,重ねて覆うかのどちらかになるのであるから,両者の選

択は,適用対象の形状等により適宜選択し得るものである。

したがって,審決の相違点3についての判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,以下のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に

取り消すべき違法はないものと判断する。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)について

原告は,@引用発明について,「薄ストラップ16上縁の内折れエッジと中底1

5とが接合され,中底15と薄ストラップ16下縁の内折れエッジと・・・が接合

されており,薄ストラップ16が,・・・中底15に周縁で接合されているととも

に,・・・中底15の外部周辺部分の周りに巻き付けられており」とした審決の認

定は誤りである,Aこれを前提として,「前記下部構成要素,前記上部構成要素お
よび前記隔膜が,・・・接合部を形成するように接合されて」いることを一致点と

した審決は,一致点の認定を誤り,相違点を看過したものである旨主張するので,

以下,検討する。

(1) 認定事実

引用例(甲1)には,次の記載がある。

ア 【特許請求の範囲
1.甲革(11),内底(12)および外底(14)を持つ履き物において,前記履き物が,

足裏表面から蒸散する水蒸気を吸収して,それを側面から外部に消散することが可

能な材料からできている中底(15)と,該甲革(11)と同一な材料でできており,該中

底(15)の周辺部分を取り囲み,前記中底(15)の内部に向けられて内側に折れたエッ

ジを備えている薄いストラップ(16)とを有し,前記薄ストラップ(16)が該中底(15)

に縫いつけられていて,これによって,水蒸気を外部に消散するその能力を損なう
ことなく,それを形成している材料が外部からの水分を吸収しないようにし,同時


16
に軟質かつ安定した支持を足に与える,ことを特徴とする履き物。
イ 【発明の詳細な説明】3頁3行ないし5行

本発明は一般的には履き物産業に関し,より特定的には,外界からの防水および

断熱を保証しながらも,歩行中の履き物内の足の蒸散によって発生した水蒸気を容

易に外部に発散させるようにした改良型の履き物に関する。

ウ 【発明の詳細な説明】4頁18行ないし5頁11行

図2を参照にして説明される本発明による履き物は,チューブ状甲革11を持つ。
このチューブ状甲革11の下部部分−この場合,内部底12として働く−は穴が空いて

おり,これによって足裏から蒸散する水蒸気が,履き物の底本体である外部底14と

チューブ状甲革11間に挿入されている中底15を通ってその中に入れるようになって

いる。中底15は,履き物10の内部からの水蒸気を容易に吸収し,それを側面から外

部に,歩行中に足による圧力で強制的に消散させることが可能なように,開放かつ

連通する気泡を持つ材料でできており,同時に足に対して軟質で安定な支持を与え
るものである。

中底15の製造材料は,微孔を持つポリウレタンの多孔性の泡,例えば,PORONRと

いう商標名で市販されており,1平方メートル当たり最高で3500万個の開いていて

相互接続された既知の材料であることが望ましいが,必須ではない。

チューブ状甲革11と同一の材料でできており,その内側に折れ曲がったエッジが

中底15の内部部分に向けられている薄いストラップ16は,その外部周辺部分を取り
囲んでいる。仕上げシーム17は,薄ストラップ16の内折れエッジを中底15に接続し

ている。

審美的目的の他に,薄ストラップ16の目的は,にかわを使用していないことによ

る,水蒸気を外部に消散させるその機能を損なうことなく,中底15を形成する材料

が外部からの湿気を吸収しないようにすることにある。

履き物10のアッセンブリは,チューブ状甲革11を中底15に,自身も薄ストラップ
16の内折れエッジ中を通過する接合シーム18を用いて取り付け,さらに,革,ゴム,


17
熱可塑材量またはその類似物から製造可能な外底14をこのアッセンブリににかわ付
けして完成される。

エ 【発明の詳細な説明】5頁17,18行

中底15は,薄ストラップ16および中底12の中を通過する接合シーム18によって甲

革11の継ぎ目皮に接合される。

オ 図2,図3の記載は,別紙図面2の【図2】,【図3】のとおりである。

(2) 判断
ア 上記@の主張について

(ア) 上記(1) 認定の事実によれば,引用例において,薄ストラップ16は,内側

に折れ曲がったエッジが中底15の内部部分に向けられており,その外部周辺部分

を取り囲んでおり,中底15に縫いつけられていること,仕上げシーム17は,薄

ストラップ16の内折れエッジを中底15に接続していること,履き物10のアッ

センブリは,チューブ状甲革11を中底15に,薄ストラップ16の内折れエッジ
中を通過する接合シーム18を用いて取り付け,外底14をこのアッセンブリにに

かわ付けして完成されることが記載されていると認められる(上記(1)ア,ウ )。

すなわち,引用例には,薄ストラップ16の上縁及び下縁において内側に折れ曲

がったエッジが中底15に縫いつけられており,仕上げシーム17が薄ストラップ

16の内折れエッジを中底15に接続していること,接合シーム18が薄ストラッ

プ16の内折れエッジ中を通過して,甲革11を中底15に取り付けていることが
記載されているといえる。そして,引用例において,接合シーム18による取り付

けについても「接合」という文言が用いられていること(上記(1)エ ),「接合」

の一般的な語義は「つぎあわすこと」であり(乙1),にかわ付けのみならず,縫

いつけることをも含むと解されることから,薄ストラップ16の上縁及び下縁の内

折れエッジと中底15の周縁部分は,仕上げシーム17や接合シーム18により

「接合されている」と認めるべきである。
また,上記のとおり,引用例には,薄ストラップ16が中底15の外部周辺部分


18
を取り囲んでいることが記載されているところ,薄ストラップ16は,審美的目的
の他に,中底15の水蒸気を外部に消散させる機能を損なうことなく,中底15を

形成する材料が外部からの湿気を吸収しないようにする目的で(上記(1)ウ ),上

縁と下縁のエッジを内側に折り曲げ,仕上げシーム17や接合シーム18により中

底15に接合されるのであるから,中底15の外向区域を密に接触した状態で取り

囲んでいるものと理解するのが相当である。この点,引用例の【図2】,【図3】

には,薄ストラップ16と中底15の外向区域が接触していないことを示す記載が
あるが,これらの図面は概略図であり,その記載から薄ストラップ16と中底15

の外向区域が接触していないと認めることはできず,また,他に,薄ストラップ1

6と中底15の外向区域が接触していないことを示す記載もない。

(イ) なお,上記(1) 認定の事実によれば,引用例において,薄ストラップ16と

中底15がにかわ付けされていることは記載されておらず,中底15と仕上げシー

ム17及び接合シーム18によって縫いつけられて(ないし取り付けられて)接合
された薄ストラップ16の下縁の内折れエッジが,外底14とにかわ付けされてい

ると認められる。したがって,引用発明について「薄ストラップ16が,・・・そ

の下縁の内折れエッジにおいて,にかわ付けで中底15の周縁部分へ接合されてい

る」と認定し,隔膜が,その下方区域において,「接着剤により」上部構成要素の

周縁部分へ接合されている点を,相違点としなかった審決には誤りがある。

しかし,上記の誤りは,結論に影響を及ぼさない。すなわち,薄ストラップ16
の下縁の内折れエッジと中底15は,にかわ付けされていないとしても,仕上げシ

ーム17及び接合シーム18によって接合されていると認められるところ(上記

(ア) ),後記3のとおり,接合の方法を縫いつけ(ないし取り付け)から接着剤に

変更することは,当業者にとって容易に想到し得るものと解されるから,仮に,審

決が,隔膜が,その下方区域において,「接着剤により」上部構成要素の周縁部分

へ接合されているとの相違点を認定したとしても,容易想到性に関する結論は左右
されない。


19
(ウ) したがって,原告の主張は理由がなく,引用発明について,「薄ストラップ
16上縁の内折れエッジと中底15とが接合され,中底15と薄ストラップ16下

縁の内折れエッジと・・・が接合されており,薄ストラップ16が,・・・中底1

5に周縁で接合されているとともに,・・・中底15の外部周辺部分の周りに巻き

付けられており」と認定した審決に誤りはないというべきである。

イ 上記Aの主張について

本願明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載は,前記第2の2のとおりで
あり,本願発明において,「前記下部構成要素,前記上部構成要素および前記隔膜

が」,「接合されて」いることは明らかであり,下部構成要素,上部構成要素及び

隔膜の接合箇所は「接合部を形成する」ということができる。

この点,原告は,本願発明の「封止部を形成するように接合されており」との事

項は,防水用封止機能を備えた「封止部」を設けることを目的としており,単なる

「接合部」を形成するものではない旨を主張する。
しかし,上記接合箇所が「接合部を形成する」ことは明らかである上,前記第2

の3の(2)ウ(イ)のとおり,本願発明において,「隔膜が,」「防水性」「・・・を

得るために上部構成要素に周縁で接合されているとともに,」「封止部を形成する

ように接合されて」いることは,引用発明との相違点として審決も認定するところ

である。

一方,引用発明については,上記アのとおり,「隔膜」に相当する薄ストラップ
16の内折れエッジと,「上部構成要素」に相当する中底15の周縁部分が,仕上

げシーム17や接合シーム18により「接合」され,これと,「下部構成要素」に

相当する外底14がにかわ付けされるのであるから,結局,下部構成要素,上部構

成要素及び隔膜が接合されており,その接合箇所は「接合部を形成する」というこ

とができる。

したがって,「前記下部構成要素,前記上部構成要素および前記隔膜が,・・・
接合部を形成するように接合されており」との点を,本願発明と引用発明の一致点


20
として認定した審決に誤りはなく,相違点の看過もない。
ウ 以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がない。

2 取消事由2(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について

原告は,@甲2には「少なくとも上面および端面に開口のある相互連結されたい

くつかの小室を有している」上部構成要素が記載されているとはいえない,A本願

発明に特有の顕著な効果は,甲2記載の事項を引用発明に適用しても得られないと

して,引用発明に甲2記載の事項を適用して,相違点1に係る本願発明の構成に容
易に想到し得るとした審決の判断は誤りである旨主張するので,以下,検討する。

(1) 認定事実

ア 本願明細書(甲7,甲12の2)には,次の記載がある。

(ア) 【0021】【課題を解決するための手段】・・・接地部を構成する防水性

下部構成要素(11),少なくとも上面および端面に開口(14)のある相互連結

されたいくつかの小室(13)を有している支持構造体からなる上部構成要素(1
2),不透水性かつ蒸気透過性であるとともに,前記上部構成要素(12)の少な

くとも外向区域を外面で取り囲む隔膜(19)を備えてなり,・・・

(イ) 【0027】・・・上部構成要素12は,プラスチックから成形により作ら

れて,複数の小室13がある格子状構造体を有してなる。これらの小室13は,複

数の隔壁15に設けられた複数の開口14によって相互に連結されている。

(ウ) 【0028】図1に示すように,複数の小室13は,側方縁部16および上
部支持面に対向しており,この上部支持面の上には,いくつかの貫通孔18のある

中底17が設けられている。

(エ) 【0051】作用の観点からは,足によって上部構成要素12が押し付けら

れると,汗によって湿った空気が中底17の孔から上部構成要素12へ入り,汗が

靴の外へ押し出される。

(オ) 【0059】・・・この通気性あるいは穴明きの保護要素が,前記隔膜の少
なくとも外側に面した区域を覆っているので,靴の外側との間で熱および水蒸気の


21
最適な交換をすることができる。
イ 甲2には,次の記載がある。

(ア) 【0001】【産業上の利用分野】本発明は,靴やスリッパ等の履物におけ

る底構造であって,特に足蒸れ防止技術に関する。

(イ) 【0003】【発明が解決しようとする課題】・・・デザイン的な制約から,

靴の爪先側上面に大きな通気穴を形成することができないような履物にあっては,

極めて通気性が悪く,このため,発汗作用による湿気と体温で足蒸れ状態が生じ易
く,菌類が繁殖し易い環境となるもので,その結果,悪臭を発生させたり,水虫の

発生原因になる等の問題点があった。

(ウ) 【0005】・・・本発明では,履物であってもその使用場所や使用条件の

相違に着目し,主に車内や室内で使用される履物についてはもちろん,室外におい

て使用される履物であっても,・・・極めて条件の悪い路面を歩行する場合を除け

ば,デザインの自由性を犠牲にすることなく,足蒸れによる悪臭や水虫の発生を有
効に防止することができる履物の底構造を提供することを目的とするものである。

(エ) 【0008】【作用】本発明の履物の底構造では,上述のように,その底部

材のうち,履物の底部材のうち少なくとも爪先側底部材の上面に,足裏当接面を構

成する所定数の凸部と,足裏との間に所定の隙間を形成する所定数の凹部とが形成

され,該凹部が底部材の外周側面部に開設された所定数の通気穴に連通されている

ため,歩行すると,履物の屈折や足の動きに基づく履物内部の気圧の変動によって,
凹部と通気穴を介して履物の内部と外部との間で空気が頻繁に流通するもので,こ

れにより,履物内部が常に換気された状態となる。

(オ) 【0019】次に,図7〜図9は,本発明第3実施例の履物の底構造を適用

した運動靴を示すもので,図7は斜視図,図8は縦断側面図,図9は縦断平面図で

ある。この実施例の運動靴1は,底部材2の上面に,中敷き部2bから中間層部2

cにかけて断面U字状の横溝6と縦溝7が縦横編み目状に形成され,横溝6の両端
部が底部材2の外周左右側面部にそれぞれ開口するように形成されているものであ


22
る。
(カ) 図7ないし図9の記載は,別紙図面3の【図7】ないし【図9】のとおりで

ある。

(2) 判断

ア 上記@の主張について

原告は,本願発明の構成である「いくつかの小室」があるというためには,端面

を形成する仕切り壁により互いに独立して仕切られている複数の小さい部屋がある
ことが必要との前提で,甲2には,互いに独立して仕切られている部屋は記載され

ないから,「いくつかの小室」は開示されていない旨主張する。

しかし,本願明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載は,上記第2の2の

とおりであって,小室については,「少なくとも上面および端面に開口(14)の

ある相互連結されたいくつかの小室(13)」と記載されるにすぎない。また,上

記(1)ア 認定の明細書の記載を参照しても,複数の小室13が設けられた上部構成
要素12は格子状構造体を有すること,これらの小室13は,複数の隔壁15に設

けられた複数の開口14によって相互に連結され,また,側方縁部16及び上部支

持面に対向しており,この上部支持面の上には,いくつかの貫通孔18のある中底

17が設けられていることが示されるが,小室が,端面を形成する仕切り壁により

互いに独立して仕切られていることを示す記載はない。したがって,原告の上記主

張は前提を欠くものである。
一方,上記(1)イ 認定の事実によれば,甲2には,履物の底部材の上面及び端面

に開口のある縦溝及び横溝からなる凹部を形成することにより,履物内部の空気を

外部に放出すること,縦溝及び横溝からなる凹部と,上面及び端面にある開口は,

相互連結されていることが記載されているといえる。また,甲2には,歩行すると,

履物の屈折や足の動きに基づく履物内部の気圧の変動によって,凹部と通気穴を介

して履物の内部と外部との間で空気が頻繁に流通し,履物内部が常に換気された状
態となるとの作用が記載されるほか,履物内部の空気は足から発生した水蒸気を含


23
んでおり,縦溝及び横溝からなる凹部は,履物内部の水蒸気を含む空気を外部に放
出すると考えられるから,本願発明の作用(上記(1)ア(エ))と同様の作用を有して

いるといえる。

そうすると,甲2には,「内部からの水蒸気を容易に吸収して外部に消散させ

る」「少なくとも上面および端面に開口のある相互連結されたいくつかの小室を有

している」靴用の上部構成要素との事項が開示されていると認められる。

イ 上記Aの主張について
(ア) 上記アのとおり,甲2には,「内部からの水蒸気を容易に吸収して外部に消

散させる」「少なくとも上面および端面に開口のある相互連結されたいくつかの小

室を有している」靴用の上部構成要素との事項が記載されている。

また,引用発明の目的は,「従来の履き物では,足の上部部分および側面部分か

らの水蒸気の蒸散だけが消散される一方で,足裏からの多量に蒸散する水蒸気は消

散することができない。・・・本発明の目的は,足の上部分および側面部分からの
蒸散によって引き起こされた水蒸気が迅速にそして効果的に消散されるとともに,

外部からの湿気および冷気が履き物内に侵入することを防止する履き物を提供する

ことによって,この欠点を克服することにある。」(甲1・3頁12行ないし24

行)とされ,通気を良くし,足蒸れによる悪臭や水虫の発生を有効に防止すること

ができる履物の底構造を提供するとの甲2記載の課題(上記(1)イ(イ),(ウ))とは,

内部からの水蒸気を外部に消散させるとともに外部からの湿気を吸収しないように
するとの点で共通する。

したがって,当業者は,引用発明に甲2記載の上記事項を適用して,相違点1に

係る本願発明の構成に容易に想到することができるというべきである。

(イ) 原告は,本願発明に特有の顕著な効果として,複数の小室をそれぞれの端面

で互いに仕切る複数の仕切り壁により,上部構成要素の構造的強度が確保され,か

つ,端面/仕切り壁に設けられた複数の開口により,歩行時のポンプ効果で,空気
の循環や水蒸気の外部への排出が促進されることを主張する。


24
しかし,原告主張の効果は,本願明細書において客観的な数値等が示されたもの
ではなく,相対的である。甲2の運動靴1においても,縦溝及び横溝からなる凹部

の大きさや個数を調整するによって,底部材2の内部から運動靴1の外部へ排出さ

れる水蒸気の総量が増加し得るものと推認されるから,本願発明の効果は,引用発

明に甲2記載の事項を適用しても得られないとの原告の主張は理由がない。

ウ 以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がなく,相違点1に関する審決の

容易想到性の判断に誤りは認められない。
3 取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)について

原告は,@引用発明に甲2記載の事項を適用しても,本願発明の「前記隔膜(1

9)が,その上方区域および下方区域で折り曲げられ,その上方区域および下方区

域において,・・・前記上部構成要素(12)の周縁部分へ接着剤により接合さ

れ」る構成に至ることは不可能である,A引用発明の履き物は,「足の上部分およ

び側面部分からの蒸散によって引き起こされた水蒸気が迅速にそして効果的に消散
されるとともに,外部からの湿気および冷気が履き物内に侵入することを防止す

る」ことを目的とするから,「防水性接続部を得る」ための構成や「封止部を形成

する」ための構成とすることは,引用発明の目的に反するとして,引用発明に,接

着剤による接着を行って靴の部材同士の防水性接合部を得るとの周知の事項を適用

して,相違点2に係る本願発明の構成に容易に想到し得るとした審決の判断は誤り

である旨主張する。
(1) 上記@の主張について

原告は,甲2記載の運動靴1は,底部材2の上面に横溝6が開口しているため,

底部材2の上面に,接合させるための糊代を形成することはできないことを前提と

して,上記@の主張をする。

しかし,甲2記載の運動靴1において,底部材2の上面に溝が設けられていたと

しても,上面には溝でない箇所があり,当該箇所を接合のための糊代にすることは
容易である。


25
したがって,引用発明に甲2記載の事項を適用して,隔膜を,上部構成要素の周
縁部分へ接着剤により接合する構成に至ることが不可能であるとはいえず,原告の

主張は前提を欠くものである。

(2) 上記Aの主張について

上記1(1)ア 認定のとおり,引用例には「薄ストラップ(16)が該中底(15)に縫い

つけられていて,これによって,水蒸気を外部に消散するその能力を損なうことな

く,それを形成している材料が外部からの水分を吸収しないようにし,同時に軟質
かつ安定した支持を足に与える,ことを特徴とする履き物」との記載がある。ここ

で,「防水性接続部を得る」ためや「封止部を形成する」ために,薄ストラップ1

6の接合手段を,縫いつけから接着剤に代えたとしても,薄ストラップ16の全て

の部分が接着剤により接合されるものではないから,「足の上部分および側面部分

からの蒸散によって引き起こされた水蒸気が迅速にそして効果的に消散されるとと

もに,外部からの湿気および冷気が履き物内に侵入することを防止する」との引用
発明の目的に反するとはいえない。

したがって,引用発明に周知の事項を適用することが,引用発明の目的に反する

ことを前提とする原告の主張は理由がない。

(3) 以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がなく,相違点2に関する審決の

容易想到性の判断に誤りは認められない。

4 取消事由4(相違点3に係る容易想到性判断の誤り)について
原告は,引用発明と甲6記載の事項を組み合わせて,相違点3に係る本願発明の

構成に想到することは容易ではないとして,引用発明に,甲6記載の周知の事項を

適用して,相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到し得るとした判断は誤りで

ある旨主張するので,以下,検討する。

(1) 認定事実

甲6には,次の記載がある。
ア 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】・・・【0003】厚めの


26
甲は・・・有益であるが,履物の壁を通る水又は水蒸気の全ての通過を妨げること
によって水蒸気の透過性・・・が殆ど完全に阻止されるため不都合でもある。・・



イ 【0005】【課題を解決するための手段】この目的は,甲に挿入された液

体水不透過性であるが透湿性の部材を有する履物を提供し,履物の内側から外側へ

の水蒸気の透過を与えることによって達成される。好ましくは,この部材は,一方

又は両方の面を保護層によって保護される。
ウ 【0007】【発明の実施の形態及び発明の効果】本発明は,透湿性,即ち

水蒸気透過性をほぼ完全に妨げる厚い甲を有する履物に有用である。これは,液体

水不透過性であるが透湿性の材料の層・・・を甲に挿入することを含み,好ましく

は,この層は,内側の耐磨耗性保護層と,衝撃に対して適切な保護を与えることが

できる材料からなる外側層の間に包囲される。・・・また,保護層は透湿性材料か

らなり,その部材の周囲に固定されることができる。
エ 【0008】図面を参照して,参照数字1は1つの履物の甲を示し,2は履

物の本底であり,3はソケット7で甲の壁に取り付けられた液体水不透過性で透湿

性の部材である。部材3が甲の窓又はゾーンを覆うことが分かる。透湿性材料は,

好ましくは異なる材料の保護層で覆われる。これらの層は,足の発汗を確保し,甲

に挿入されるに適する部材を形成する仕方で結合される。

オ 【0009】3成分の材料において,図2に参照番号4で示された透湿性材
料は,外側保護層5と内側層6の間に包囲される。外側層5は,高い機械的特性と

耐磨耗性を有するべきである。これは高度に透湿性であり,且つ衝撃に対して及び

小石や木片などの異物の侵入に対して層4と6及び足を保護する必要がある。

カ 【0010】内側層6は,主として,履物の内部との摩擦などによって生じ

る磨耗に対して部材4を保護するように設計される。これもまた透湿性であるべき

である。これは,外的ショックを吸収することができながら,良好な断熱性と高い
機械的強度を有することができる。・・・


27
キ 図1,図2の記載は,別紙図面4の【図1】,【図2】のとおりである。
(2) 判断

上記(1) 認定の事実によれば,甲6には,部材4が液体水不透過性であるが透湿

性の材料の層であり,外側保護層5と内側層6の間に包囲されること,外側保護層

5が透湿性であり,衝撃や小石や木片等の異物の侵入に対して部材4,内側層6及

び足を保護するものであることが記載されていると認められる。

そうすると,甲6記載の部材4は本願発明の「隔膜」に,外側保護層5は本願発
明の「通気性あるいは穴明きの保護要素」に,それぞれ相当し,外側保護層5は,

部材4の外側に面した区域を覆っているということができる。そして,部材4を外

側保護層5で覆う場合に,部材4から離して覆うか,重ねて覆うかは,適用対象の

形状等により適宜選択しうる事項と解される。すなわち,甲6には,「通気性ある

いは穴明きの保護要素が,隔膜へ重ねられておりこの通気性あるいは穴明きの保護

要素が,隔膜の少なくとも外側に面した区域を覆っている」との事項が開示されて
いるといえる。

また,引用発明の目的は,上記2(2)イ 認定のとおりであり,甲に挿入された液

体水不透過性であるが透湿性の部材を有する履物を提供し,履物の内側から外側へ

の水蒸気の透過を与えるという甲6記載の課題(上記(1)ア,イ) とは,内部から

の水蒸気を外部に消散させるとともに外部からの湿気を吸収しないようにするとの

点で共通する。
したがって,当業者は,引用発明に甲6記載の上記事項を適用して,相違点3に

係る本願発明の構成に容易に想到することができるというべきである。

5 小括

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき

違法は認められない。原告は,他にも縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。

第5 結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。


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知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官

田 文
芝 俊




裁判官


岡 岳




裁判官


武 宮 英




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別紙図面
1 本願明細書(甲7)に添付された図面




2 引用例(甲1)に添付された図面

【図1】




【図2】




【図3】




30
3 甲2に添付された図面
【図7】

第3実施例の履物の底構造を適用した運動靴

を示す斜視図




【図8】

第3実施例の履物の底構造を適用した運

動靴を示す縦断側面図




【図9】
第3実施例の履物の底構造を適用した

運動靴を示す横断平面図




4 甲6に添付された図面
【図1】 【図2】




31