審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成22行ケ10019審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10258審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10184審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10134審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10130審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10316号
審決取消
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/06/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年6月26日判決言渡 平成23年(行ケ)第10316号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年4月24日 判 決 原 告 東レ・ダウコーニング株式会社 訴訟代理人弁理士 志 賀 正 武 同 渡 辺 隆 同 実 広 信 哉 同 渡 部 崇 同 渡 部 純 子 被 告 特 許 庁 長 官 指定代理人 川 向 和 実 同 杉 浦 貴 之 同 唐 木 以 知 良 同 田 村 正 明 主 文 1 特許庁が不服2009−26046号事件について平成23年7月29 日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 主文同旨 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「半導体装置の製造方法および半導体装置」とする発明に ついて,平成15年12月22日に特許出願し(以下「本願」といい,同出願にお 1 ける明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。)(甲5),平成21年9月 11日,拒絶査定を受け(甲8),同年12月28日,拒絶査定不服審判(不服2 009−26046号事件)を請求した(甲9)。特許庁は,平成23年7月29 日,請求不成立の審決をし,その謄本は同年9月5日に原告に送達された。 2 特許請求の範囲 本願に係る特許請求の範囲の請求項1(以下,請求項1に係る発明を「本願発 明」という。)は,以下のとおりである。 「半導体装置を金型中に載置して,該金型と該半導体装置との間に供給した硬化 性シリコーン組成物を圧縮成形することによりシリコーン硬化物で封止した半導体 装置を製造する方法であって,前記硬化性シリコーン組成物が,(A)一分子中に 少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン,(B)一分子中 に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン, (C)白金系触媒,および(D)充填剤から少なくともなり,前記(A)成分が, 式:RSiO3/2(式中,Rは一価炭化水素基である。)で示されるシロキサン単 位および/または式:SiO 4 / 2 で示されるシロキサン単位を有するか,前記 (B)成分が,式:R'SiO3/2(式中,R'は脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有 さない一価炭化水素基または水素原子である。)で示されるシロキサン単位および /または式:SiO4/2で示されるシロキサン単位を有するか,または前記(A) と前記(B)成分のいずれもが前記シロキサン単位を有することを特徴とする,半 導体装置の製造方法。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりである。 (1) 審決は,本願発明は,本願前に頒布 された刊行物である特 開2000−2 77551号 公報 (甲1。以下「 引 用 例1」という。)に記載された発明(以下 「引用発明」という。)並びに特開2000−86896号公報(甲2。以下「引 用例2」という。),特開平7−335790号公報(甲3。以下「引用例3」と 2 い う。)及び特 開 平11−243100号 公報 (甲4。以下「甲4文 献 」とい う。)に示されている周知技術から,当業者が容易に発明をすることができたもの であると判断した。 (2) 審決が,上 記結論に至る 過程で認定した引用発明の内容 ,本願発明と 引用 発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明の内容 「被成形品16の基板12を下型23にセットし,型締め時に所定の樹脂圧が得 られるように所定の強さの付勢力を有するものを選択する,被成形品16の基板1 2上に樹脂封止用の樹脂50を供給する樹脂封止方法」 イ 一致点 「半導体装置を金型中に載置して,該金型と該半導体装置との間に供給した組成 物を圧縮成形することにより封止した半導体装置を製造する方法」である点 ウ 相違点 本願発明では,「シリコーン硬化物」で封止し,封止用の「組成物」が,「硬化 性シリコーン組成物」で, 「(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキ サン,(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガ ノポリシロキサン,(C)白金系触媒,および(D)充填剤から少なくともなり, 前記(A)成分が,式:RSiO3/2(式中,Rは一価炭化水素基である。)で示 されるシロキサン単位および/または式:SiO4/2で示されるシロキサン単位を 有するか,前記(B)成分が,式:R'SiO3/2(式中,R'は脂肪族不飽和炭素 −炭素結合を有さない一価炭化水素基または水素原子である。)で示されるシロキ サン単位および/または式:SiO4/2で示されるシロキサン単位を有するか,ま たは前記(A)と前記(B)成分のいずれもが前記シロキサン単位を有する」組成 を 持 つもの(以下, 上 記の式:RSiO 3/2 で示されるシロキサン単位と 上 記の 式:R'SiO3/2で示されるシロキサン単位を併せて「T単位シロキサン」とい 3 い,上記の式:SiO4/2で示されるシロキサン単位を「Q単位シロキサン」とい う。)であるのに対し,引用発明には,「シリコーン硬化物」で封止する点と,封 止用の樹脂50の組成に関する記載がない点 当事者の主張 第3 1 取消事由に関する原告の主張 審決は,第2の3 (1)のとおり,本願発明は,引用発明(甲1) 並びに引用例 2 (甲2),引用例3(甲3)及び甲4文献(甲4)に示された周知技術から,当業 者が容易に発明をすることができたものであると判断した。 しかし,以下のとおり,@引用例2,引用例3及び甲4文献記載の硬化性シリコ ーン組成物は,本願発明のように金型内での圧縮成形による半導体装置の封止に使 用される樹脂ではなく,また,A引用例2,引用例3及び甲4文献記載の硬化性シ リコーン組成物は本願発明における硬化性シリコーン組成物とは使用目的が異なり, 目的達成のために採用される手段及び得られる効果が異なる。したがって,引用例 2,引用例3及び甲4文献に記載の「硬化性シリコーン組成物」を引用発明の樹脂 50として使用することにより本願発明に想到することは,当業者が容易になし得 るとはいえず,この点における審決の判断は誤りである。 (1) 本願発明の内容について 本願発明は,半導体装置を封止する際,ボイドの混入がなく,シリコーン硬 ア 化物の厚さを精度良くコントロール可能な金型内での樹脂封止を前提としつつ,ト ランスファー成形にみられるようなボンディングワイヤーの断線,接触等がなく, さらに半導体チップ,回路基板の反りを低減できる半導体装置の製造方法を提供す ること(段落【0007】)を目的とする発明である。本願発明は,圧縮成形による 金型内での封止用樹脂として特定の組成を有する硬化性シリコーンを採用すること によって,上記課題を解決したのである。 イ なお,被告は,本願明細書から,本願発明には「半導体装置を封止する際, ボイドの混入がなく,シリコーン硬化物の厚さを精度良くコントロールすることが 4 でき,ボンディングワイヤーの断線や接触がなく,半導体チップや回路基板の反り が小さい半導体装置を効率よく製造することができる」という効果は確認できない と反論する。 しかし,被告の上記反論は,以下のとおり失当である。同効果は,本願明細書, 特に本願明細書の実施例及び比較例の記載から,十分確認することができる。本願 明細書における実施例1ないし3並びに比較例1及び2は,T単位シロキサン又は Q単位シロキサンの有無以外の実験条件,特に硬化性シリコーン組成物をすべて十 分に硬化させるという条件は一致しており,実験条件には問題はない。 (2) 引用例2,引用例3及び甲4文献に記載の発明について ア 引用例2記載の発明について 引用例2記載の発明は,LED間に充填された硬化性シリコーン組成物の硬化物 の光沢を抑制することによりLED表示装置の視認性を高めるという目的のため, 艶消し性に優れた所定の硬化性シリコーン組成物を使用する発明である。引用例2 記載の硬化性シリコーン組成物は,表示装置中の複数のLEDの間を充填又は接着 するためのものであり,LEDを硬化性シリコーン組成物で完全に包み込むとの目 的はない。 これに対し,本願発明における「封止」は,半導体装置等の電気電子部品を樹脂 等で完全に包み込んで,当該電気電子部品を保護することを目的とするものである。 したがって,引用例2の硬化性シリコーン組成物は,金型内での半導体装置の「封 止」とは全く関係がない。 イ 引用例3記載の発明について 引 用例 3記載の硬化性シリコーン組成物は,半導体素子 保護 用組成物( J CR (ジャンクション・コーティング・レジン)と称される。)であり,半導体素子の 表面に薄く塗布されて使用されるにすぎず,硬化性シリコーン組成物を使用して半 導体装置を包み込むような操作は行われておらず,半導体素子の封止用組成物では ない。引用例3では,硬化性シリコーン組成物によって半導体素子1の表面が被覆 5 され,その硬化後に,半導体封止用の硬化エポキシ樹脂7により樹脂封止が別途行 われている。 また,引用例3記載の発明は,エポキシ樹脂等の封止樹脂と硬化性シリコーン組 成物(JCR)との熱膨張率が異なるため,耐湿性及び耐熱性試験の際に当該封止 樹脂と当該硬化性シリコーン組成物の硬化物との界面に隙間が生じ,また,当該封 止樹脂と当該硬化物との間に生じた内部応力によって,半導体素子とリードフレー ムとを電気的に接続したボンディングワイヤーが変形又は破断することがあったの で,耐湿性及び耐熱性に優れる半導体装置を提供する目的を達成するため,当該硬 化性シリコーン組成物に特定のフッ素樹脂微粉末等を配合したものである。 これに対し,本願発明では特定の組成を有する硬化性シリコーン組成物を,半導 体装置の封止用組成物として使用するものであり,JCRとして使用するものでは ない。 ウ 甲4文献記載の発明について 甲4文献記載の付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物は,半導体素子及びそ の他の電子部品等を搭載した基板をケース内に設置する際,防湿等の目的で該基板 ごと当該ケース内を充填するために使用される,いわゆるポッティング剤と呼ばれ るものであり,金型内での半導体素子の封止用組成物ではない。 甲4文献記載の発明では,パッケージにおける高熱下での歪み応力発生を抑制す るために硬化後のヤング率が1〜12kgf/cm2である付加硬化型オルガノポ リシロキサン組成物を使用している。 (3) 容易想到性の判断の誤り ア @引用例2,引用例3及び甲4文献記載の硬化性シリコーン組成物は,本願 発明が前提とする「金型内での半導体装置の封止」に使用される樹脂ではなく,ま た,A引用例2,引用例3及び甲4文献には,金型内での圧縮成形による半導体チ ップ,回路基板の封止において,封止用樹脂のタイプを工夫することによって当該 半導体チップ,回路基板の反りを低減し得ることの認識も示されていない。以上の 6 とおり,引用例2,引用例3及び甲4文献記載の発明と本願発明とは,硬化性シリ コーン組成物の使用目的,目的達成のために採用された手段,及び得られる効果に おいて異なるから,引用例2,引用例3及び甲4文献に記載の硬化性シリコーン組 成物を引用発明の樹脂50として使用したはずであるとの示唆は何ら存在しない。 イ 本願発明では,特定の組成を有する硬化性シリコーン組成物を使用して圧縮 成形により半導体装置の封止を行うことにより,引用発明で問題となる半導体チッ プ,回路基板の反りを低減できるという顕著な効果を発揮することができるが,引 用例2,引用例3及び甲4文献は,この点について何らの示唆も与えていない。 2 被告の反論 (1) 本願発明の内容についての原告の主張に対し 原告は,本願発明が「半導体装置を封止する際,ボイドの混入がなく,シリコー ン硬化物の厚さを精度良くコントロールすることができ,ボンディングワイヤーの 断線や接触がなく,半導体チップや回路基板の反りが小さい半導体装置を効率よく 製造することができ(る)」との効果を奏すると主張する。 しかし,以下のとおり,本願明細書から本願発明の効果を確認することはできな い。 本願明細書には比較実験の結果が記載されているが,本願発明の特徴は硬化性シ リコーン組成物がT単位シロキサン又はQ単位シロキサンを有する点にあり,これ により本願発明が格別顕著な効果を有することを確認するのであれば,T単位シロ キサン又はQ単位シロキサンを含有する場合とこれらを含有しない場合の上記シロ キサン成分以外の条件を,実施例と比較例とで一致させることが必要不可欠である にもかかわらず,本願明細書に記載の比較実験では,そのような条件が満たされて いない。すなわち,上記比較実験においては,実施例1ないし3では,「T単位シ ロキサン又はQ単位シロキサンを含有する(A)成分:(B)成分」の量比が2. 1:1〜4.7:1であるのに対し,比較例1及び2では,「T単位シロキサン及 びQ単位シロキサンを含有しない(A)成分:(B)成分」の量比が109:1〜 7 137:1となっており,比較例1及び2では,(B)成分の量が圧倒的に少ない。 また,比較例3は,実施例1と圧縮成形温度,圧縮成形時間,及びオーブンでの 加熱処理温度が異なり,しかも,エポキシ樹脂を硬化性組成物として用いており, T単位シロキサン又はQ単位シロキサンがオルガノポリシロキサンの中で優れた効 果を奏することの技術的裏付けとはならない。 (2) 引用例2, 引用例3及び甲4文献に記載の発明についての原告の主張 に対 し ア 引用例2記載の発明について LEDは半導体であること,引用例2には,シリコーン組成物を「LED表示装 置等の防水処理のための充填剤」として使用することが示唆されていることから, 引用例2に記載されたシリコーン組成物は,半導体であるLEDを防水処理のため に封止するものといえる。したがって,半導体装置を封止して保護する組成物であ る点において,引用発明と引用例2に記載された技術手段とは密接に関連する。 イ 引用例3記載の発明について 引用例3記載の硬化性シリコーン組成物は,半導体素子保護用組成物である点, 硬化物を形成する点,及び耐湿性に優れた半導体装置を作成できる点を考慮すると, 半導体装置を耐湿性のために封止するものといえる。したがって,半導体装置を封 止して保護する組成物である点において,引用発明と引用例3に記載された技術手 段とは密接に関連する。 ウ 甲4文献記載の発明について シリコーンを含む材料によるポッティング法は半導体素子の代表的な樹脂封止方 法であり,審決が周知技術として甲4文献をあげた点に誤りはない。 (3) 容易想到性の判断の誤りについての原告の主張に対し ア 引用発明と引用例2,引用例3及び甲4文献記載の技術手段とは,半導体装 置を封止して保護する組成物である点において,密接に関連し,シリコン系樹脂に より半導体装置を封止して保護することは周知慣用の技術手段であるから,半導体 8 を封止するために用いられる引用例2,引用例3及び甲4文献に記載された樹脂で あるシリコーン組成物を,半導体を封止するために用いられる引用発明記載の樹脂 として使用することは,当業者が容易になし得る。 また,前記のとおり,本願明細書からは,本願発明が原告主張の本願発明の イ 目的及び効果を達成できるとは認められず,これが達成できることを前提とした原 告の主張は誤りである。 当裁判所の判断 第4 当裁判所は,原告主張の取消事由には理由があり,審決は取り消されるべきであ ると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 事実認定 (1) 本願発明について ア 本願発明に係る特許請求の範囲は,第2の2に記載のとおりである。 本願明細書には,以下の記載がある。なお,本願明細書における図1は,別紙図 1のとおりである。(甲5) 「【0003】薄型パッケージを樹脂封止する場合,トランスファーモールドに よれば,封止樹脂の厚さを精度良くコントロールすることができるものの,封止用 樹脂の流動中に半導体チップが上下に移動したり,半導体チップに接続しているボ ンディングワイヤーが封止用樹脂の流動圧力により変形して,断線や接触等を起こ すという問題があった。 【0004】一方,液状の封止用樹脂によるポッティングあるいはスクリーン印 刷では,ボンディングワイヤーの断線や接触は生じにくくなるものの,封止樹脂の 厚さを精度良くコントロールすることが困難であったり,封止樹脂にボイドが混入 しやすいという問題があった。 【0005】これらの問題を解決するため,金型中に半導体装置を載置し,金型 と半導体装置との間に封止用樹脂を供給して圧縮成形することにより,樹脂封止し た半導体装置を製造する方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。 9 【0006】しかし,これらの方法では,半導体素子の微細化にともなう半導体 チップの薄型化,回路基板の薄型化などにより,半導体チップや回路基板の反りが 大きくなり,内部応力により半導体装置の破壊や動作不良等を生じやすいという問 題があった。」 「【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】本発明の目的は,半導体装置を封止する際,ボイドの混入がなく, シリコーン硬化物の厚さを精度良くコントロールすることができ,ボンディングワ イヤーの断線や接触がなく,半導体チップや回路基板の反りが小さい半導体装置を 効率よく製造する方法,特には,半導体チップや回路基板の反りをより小さくする ために,比較的低温で硬化性シリコーン組成物を圧縮成形することのできる半導体 装置の製造方法,およびこのような特長を有する半導体装置を 提 供することにあ る。」 「【発明の効果】 【0009】本発明の半導体装置の製造方法によれば,半導体装置を封止する際, ボイドの混入がなく,シリコーン硬化物の厚さを精度良くコントロールすることが でき,ボンディングワイヤーの断線や接触がなく,半導体チップや回路基板の反り が小さい半導体装置を効率よく製造することができ,特には,半導体チップや回路 基板の反りをより小さくするために,比較的低温で硬化性シリコーン組成物を圧縮 成形することができ,また,本発明の半導体装置はこのような特長を有する。」 イ 上記の認定によれば,本願発明の内容は,以下のとおりであると認められる。 すなわち,半導体装置を樹脂封止するに当たり,封止樹脂の厚さを精度良くコント ロールし,ボンディングワイヤーの断線や接触等の発生を防止し,封止樹脂にボイ ドが混入することを防止することを可能とする方法として,従来,金型中に半導体 装置を載置し,金型と半導体装置との間に封止用樹脂を供給して圧縮成形すること により,樹脂封止した半導体装置を製造する方法があった。しかし,同方法による 10 と,半導体チップの薄型化,回路基板の薄型化などにより,半導体チップや回路基 板の反りが大きくなるとの課題が生じた。本願発明は,上記課題を解決するための もので,上記のとおり金型中に半導体装置を載置して半導体装置を樹脂封止する際, 硬化性シリコーン組成物を特許請求の範囲に記載の特定の組成物に限定することに より,比較的低温で硬化性シリコーン組成物を圧縮成形することを可能とした,シ リコーン組成物で封止した半導体装置の製造方法に関する発明である。そして,本 願発明においては,上記硬化性シリコーン組成物が,特許請求の範囲に記載のとお り,(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキ サン,(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガ ノポリシロキサン,(C)白金系触媒,及び(D)充填剤から少なくともなり,前 記(A)成分が,T単位シロキサン及び/又はQ単位シロキサンを有するか,前記 (B)成分が,T単位シロキサン及び/又はQ単位シロキサンを有するか,又は前 記(A)と前記(B)成分のいずれもが前記シロキサンを有する組成を持つことを 特徴とするものである。 (2) 引用発明について ア 引用発明の内容は,第2の3(2)ア記載のとおりである。 引用例1は,発明の名称を「樹脂封止装置及び樹脂封止方法」とする発明に係る 公開特許公報である。なお,本願明細書には,半導体装置を金型中に載置し,金型 と半導体装置との間に封止用樹脂を供給して圧縮成形する圧縮成形機に関し記載さ れた刊行物の一つとして,引用例1が挙げられている。引用例1の図1は別紙図1 のとおりであり,本願明細書の図1と同じである。引用例1には,以下の記載があ る。(甲1,5) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】下型に被成形品をセットし,上型と被成形品との間に封止用の樹脂 を供給し,上型と下型とで封止用の樹脂とともに被成形品をクランプして樹脂封止 する樹脂封止装置において, 11 前記上型の樹脂封止領域の側面を囲む枠状に形成され,前記側面に沿って型開閉 方向に昇降自在に支持されるとともに,型開き時に上型の樹脂成形面よりも下端面 を突出させ下型に向け付勢して設けられたクランパと, 金型及び封止樹脂との剥離性を有するリリースフィルムを,前記上型の樹脂封止 領域を被覆する位置に供給するリリースフィルムの供給機構とを備えたことを特徴 とする樹脂封止装置。」 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記の半導体装置の製造方法で は,樹脂をポッティングして封止しているため樹脂が硬化するまでに時間がかかる こと,また,樹脂封止金型を用いて樹脂封止する場合は,基板12の厚さにばらつ きがあるため樹脂ばり等が生じたり,ワイヤ流れが生じたりして的確な樹脂モール ドができず,ボイドを小さくすることもできないという問題がある。 【0004】本発明は,これらの問題点を解消すべくなされたものであり,その 目的とするところは,樹脂封止金型を用いて基板上に多数個の半導体チップを配列 した被成形品あるいは半導体ウエハを的確に樹脂封止することができ,これによっ て,効率的に半導体装置を得ることができる樹脂封止装置及び樹脂封止方法を提供 しようとするものである。」 「【0018】リリースフィルム40aを上型側の金型面にエア吸着する一方, 下型23にセットした被成形品16の基板12上に樹脂封止用の樹脂50を供給す る。樹脂50は樹脂封止領域の内容積に合わせて必要量だけ供給するもので,本実 施形態では液状あるいはペースト状等の所定の流動性を有する樹脂50をポッティ ングするようにして供給する。樹脂50として流動性を有する樹脂を使用するのは, 上型34と下型23とで被成形品16をクランプした際に,樹脂封止領域(キャビ ティ)内で容易に樹脂が流動して充填されるようにするためである。樹脂50とし て固形状の樹脂を使用することも可能であるが,その場合は,上型34と下型23 とで樹脂50とともに被成形品16をクランプした際に,樹脂50が容易に融解し 12 て被成形品16に悪影響を及ぼさないようにする必要がある。なお,樹脂材には熱 硬化性樹脂が多く使われるが,熱可塑性樹脂を使用することも可能である。」 イ 以上の記載によれば,従来技術では,樹脂が硬化するまでに時間がかかる, 的確な樹脂モールドができない,ボイドを小さくすることができないという問題が あったが,引用発明は,樹脂封止金型を用いて被成形品又は半導体ウエハを的確に 樹脂封止することにより,効率的に半導体装置を製造することを可能とした,樹脂 封止方法に関する発明である。 (3) 引用例2及び引用例3記載の発明について ア 引用例2記載の発明について (ア) 引用例2は,発明の名称を「硬化性シリコーン組成物」とする発明の公開 特許公報であり,引用例2には,以下の記載がある(甲2)。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は硬化性シリコーン組成物に関し,詳しくは, ヒドロシリル化反応と縮合反応により硬化して,艶消し性が優れる硬化物を形成す ることができる硬化性シリコーン組成物に関する。」 「【0003】しかし,このような硬化性シリコーン組成物は,硬化して得られ る硬化物が表面に光沢を有するために,これをLED表示装置等の防水処理のため の充填剤,あるいは接着剤として用いた場合には,その硬化物がLEDや外部から の光を反射してしまい視認性が悪いという問題があった。 【0004】このため,硬化性シリコーン組成物に無機系充填剤を配合して,得 られる硬化物を艶消ししようとする試みがなされているが,十分な艶消し性を付与 することができず,また,艶消し性を付与するために多量の充填剤を配合しなけれ ばならないが,そうすると得られる硬化性シリコーン組成物の流動性が低下して, その取扱作業性が悪くなるという問題があった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明者らは,上記の課題について鋭意検討し 13 た結果,本発明に到達した。すなわち,本発明の目的は,ヒドロシリル化反応と縮 合反応により硬化して,艶消し性が優れる硬化物を形成することができる硬化性シ リコーン組成物を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は,空気酸化硬化性の不飽和化合物を含有 することを特徴とする,ヒドロシリル化反応と縮合反応により硬化する硬化性シリ コーン組成物に関する。」 「【0009】このようなヒドロシリル化反応と縮合反応により硬化する硬化性 シリコーン組成物は,(A)(a)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合ア ルコキシ基を含有し,ケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロ キサンと(b)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を含有し, ケイ素原子結合アルコキシ基を含有しないオルガノポリシロキサンとの混合物,ま たは(c)一分子中に各々少なくとも2個のケイ素原子結合アルコキシ基とケイ素 原子結合アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン,(B)一分子中に少な くとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノポリシロキサン,(C) 縮合反応用触媒,(D)白金系触媒,および(E)空気酸化硬化性の不飽和化合物 から少なくともなる組成物が好ましい。」 「【0013】このような(b)成分のオルガノポリシロキサンとしては,例え ば,・・・式:(CH2=CH)(CH3)2SiO1/2で示されるシロキサン単位 と式:SiO 4/2 で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン, 式:(CH3)3SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:(CH2=CH)(C H3)2SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサ ン単位からなるオルガノポリシロキサン,式:(CH3)3SiO1/2で示されるシ ロキサン単位と式:(CH2=CH)(CH3)2SiO1/2で示されるシロキサン 単位と式:(CH3)2SiO2/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示 されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン,これらのオルガノポリシ 14 ロキサンの2種以上の混合物が挙げられる。」 「 【 0018 】 このような(B)成分のオルガノポリシロキサとしては, 例え ば,・・・式:(CH3)2HSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4 で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン,式:(C H3)3 /2 SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:(CH3)2HSiO1/2で示されるシ ロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシ ロキサン,式:(CH3)3SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:(CH3) HSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:(C H3)2SiO2/2で示される 2 シロキサン単位,あるいは式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオル ガノポリシロキサン,これらのオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物が挙げ られる。」 「【0030】さらに,上記の組成物には,その他任意の成分として,例えば, ヒュームドシリカ,湿式シリカ微粉末,石英微粉末,炭酸カルシウム微粉末,炭酸 マグネシウム微粉末,酸化鉄,二酸化チタン微粉末,ケイ藻土微粉末,酸化アルミ ニウム微粉末,水酸化アルミニウム微粉末,酸化亜鉛微粉末,炭酸亜鉛微粉末等の 無機質充填剤・・・を配合することができる。」 「【0032】本発明の硬化性シリコーン組成物は,ヒドロシリル化反応と縮合 反応により硬化して,艶消し性が優れる硬化物を形成することができるので,LE D等の表示装置の充填剤,あるいは接着剤として好適に使用することができる。」 (イ) 以上の記載によれば,引用例2には,以下のとおりの開示があると 認めら れる。 すなわち,ヒドロシリル化反応と縮合反応により硬化する硬化性シリコーン組成 物として,本願発明における硬化性シリコーン組成物と同じ組成による硬化性シリ コーン組成物の一部が開示されている。そして,引用例2に開示された硬化性シリ コーン組成物は,硬化物が表面に光沢を有するため,LED表示装置等の防水処理 のための充填剤,あるいは接着剤として用いた場合,その硬化物がLEDや外部か 15 らの光を反射してしまい視認性が悪いとの従前の解決課題に対し,ヒドロシリル化 反応と縮合反応により硬化して,艶消し性に優れ,LED表示装置等の防水処理の ための充填剤,あるいは接着剤としての使用に適するとの効果が開示されている。 イ 引用例3記載の発明について (ア) 引用例3は,発明の名称を「半導体素子保護用組成物および半導体装置」 とする発明の公開特許公報であり,引用例3には,以下の記載がある(甲3)。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は半導体素子保護用組成物および半導体装置に関し, 詳しくは,耐湿性および耐熱性が優れる半導体装置を形成できる半導体素子保護用 組成物,およびその半導体装置に関する。 【0002】 【従来の技術】一般に,半導体装置は,半導体素子を外部応力およびα線等から 保護するために,該半導体素子の表面を硬化性シリコーン組成物(特開昭63−3 5654号公報,特開平3−166262号公報参照)の硬化物により被覆し,さ らにこれをエポキシ樹脂等のモールディングコンパウンドにより樹脂封止してなる。 【0003】しかし,このような半導体装置は,エポキシ樹脂等の封止樹脂と硬 化性シリコーン組成物の硬化物との熱膨張率が異なるため,得られる半導体装置を 耐湿性および耐熱性試験すると,該封止樹脂と該硬化性シリコーン組成物の硬化物 との界面に隙間を生じたり,該封止樹脂と該硬化性シリコーン組成物の硬化物との 間に生成された内部応力により,半導体素子とリードフレームとを電気的に接続し たボンディグワイヤが変形または破断したりする問題があった。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明者らは,上記問題を解決するため鋭意検 討した結果,半導体素子保護用組成物に,該組成物の硬化物とは密着性が低いフッ 素樹脂微粉末またはフッ素樹脂により表面被覆された有機もしくは無機微粉末を配 合することにより,上記の問題点が解決できることを確認し,本発明に到達した。 16 【0005】すなわち,本発明の目的は,耐湿性および耐熱性が優れる半導体装 置を形成できる半導体素子保護用組成物を提供することにあり,ひいては耐湿性お よび耐熱性が優れる半導体装置を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段およびその作用】本発明の半導体素子保護用組成物 100重量部および(II)平均粒子径が1 は,(I)硬化性シリコーン組成物 〜200μmであるフッ素樹脂微粉末またはフッ素樹脂により表面被覆された有機 もしくは無機微粉末 1〜400重量部からなり,また本発明の半導体装置は,半 導体素子が上記半導体素子保護用組成物の硬化物により被覆されてなることを特徴 とする。」 「【0017】また,付加反応硬化型の硬化性シリコーン組成物は,アルケニル 基含有オルガノポリシロキサンとケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシ ロキサンとを白金もしくは白金化合物の存在下で付加反応して硬化する組成物であ り,好ましくは,(C)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガ ノポリシロキサン100重量部,(D)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結 合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(D)成分の配合量は,(C)成分 中のアルケニル基1個に対して(D)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5〜 10個となる量である。}および(E)触媒量の白金または白金化合物からなる硬 化性シリコーン組成物である。」 「【0019】(C)成分のオルガノポリシロキサンとして具体的には,・・・ 式:R53SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R52R6SiO1/2で示され るシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポ リシロキサン共重合体,R52R6SiO1/2で示されるシロキサン単位とSiO4/ で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体,式:R5 2 R6SiO2/2で示されるシロキサン単位と式:R5SiO3/2で示されるシロキサ ン単位またはR6SiO3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロ 17 キサン共重合体,およびこれらのオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物が例 示される。式中,R5はアルケニル基以外の一価炭化水素基であり,・・・。また, 上式中,R6はアルケニル基であり,具体的には,ビニル基,アリル基,ブテニル 基,ペンテニル基,ヘキセニル基,ヘプテニル基が例示される。」 「【0022】(D)成分のオルガノポリシロキサンとして具体的には,・・・ 式:R53SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R52HSiO1/2で示される シロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリ シロキサン共重合体,R52HSiO1/2で示されるシロキサン単位とSiO4/2で 示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体,式:R5HS iO2/2で示されるシロキサン単位と式:R 5SiO3/2で示されるシロキサン単 位またはHSiO3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン 共重合体,およびこれらのオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物が例示され る。式中,R5はアルケニル基以外の一価炭化水素基であり,・・・。」 「【0031】・・・また,得られる硬化物の機械的強度を向上するために,ヒ ュームドシリカ,沈降性シリカ,二酸化チタン,カーボンブラック,アルミナ,石 英粉末,およびこれらの無機質充填剤をオルガノアルコキシシラン,オルガノクロ ロシラン,オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物により表面処理してなる無機質 充填剤を配合することができる。」 「【0034】・・・本発明の半導体装置を図1により説明する。本発明の半導 体装置は,シリコン,ガリウム−ヒ素等の半導体素子1がタブ2上に設けられ,該 半導体素子1の上端部に設けられたボンディングパッド3と鉄合金または銅製のリ ードフレーム4とを,銅,アルミニウム,または金製のボンディングワイヤ5によ り電気的に接続してなる半導体装置において,該半導体素子1の表面を半導体素子 保護用組成物の硬化物6により被覆してなり,さらに該半導体素子を半導体素子封 止用の硬化エポキシ樹脂7により樹脂封止してなる構造を有する。」 「【0035】本発明の半導体装置を製造する方法は特に限定されず,例えば, 18 半導体素子1をタブ2上に接着剤により固定し,該半導体素子1の上端部に設けら れたボンディングパッド3とリードフレーム4をボンディングワイヤ5によりワイ ヤボンディングした後,該半導体素子1の表面にディスペンサーにより半導体素子 保護用組成物を塗布し,次いで,該組成物を硬化させて,該半導体素子1を硬化物 6により被覆することにより作成することができる。・・・さらに,本発明の半導 体装置は,該半導体素子1を該硬化物6により被覆した後,これをエポキシ樹脂, ポリイミド樹脂,ポリエーテル樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂,液晶ポリ マー等の半導体素子封止用硬化性樹脂により樹脂封止して作成される。」 (イ) 以上の記載によれば,引用例3には,半導体装置の樹脂封止の前段階で, 半導体素子を硬化性シリコーン組成物により被覆するが,封止樹脂と硬化性シリコ ーン組成物の硬化物との熱膨張率が異なるため,耐湿性及び耐熱性試験をすると, 封止樹脂と該硬化性シリコーン組成物の硬化物との界面に隙間を生じるなどの問題 が生じるため,耐湿性及び耐熱性に優れた半導体装置を形成可能とする半導体素子 保護用組成物である硬化性シリコーン組成物に関する開示がされている。なお,引 用例3に示されている硬化性シリコーン組成物には,本願発明における硬化性シリ コーン組成物と同じ組成のものが含まれている。 2 判断 (1) 本願発明と引用発明の解決課題における相違について 上記のとおり,本願発明は,封止樹脂の厚さを精度良くコントロールし,ボンデ ィングワイヤーの断線や接触等の発生を防止し,封止樹脂にボイドが混入すること を防止するため,金型中に半導体装置を載置し,金型と半導体装置との間に封止用 樹脂を供給して圧縮成形する方法に関するもので,半導体装置を樹脂封止するに当 たり,半導体チップや回路基板の反りが大きくなるのを防止するとの課題を解決す るために,封止樹脂である硬化性シリコーン組成物として特定の組成物を選択する ことにより,比較的低温で硬化性シリコーン組成物を圧縮成形することを可能にし た発明である。なお,「封止」とは,半導体などの電気電子部品を包み埋め込んで, 19 湿気,活性気体,振動,衝撃などの外部環境からこれを保護し,電気絶縁性や熱放 散性を保持するために行われるものである(甲12,13)。そして,封止が行わ れる前に,半導体素子等に,電気特性の安定化,耐湿性改良,応力緩和,ソフトエ ラー防止を目的として,表面保護コーティングが行われる(甲12)。 これに対し,引用発明は,本願発明と同様に,半導体装置を金型中に載置し,金 型と半導体装置との間に封止用樹脂を供給して圧縮成形するという樹脂封止方法に 関する発明であって,引用例1には,半導体チップや回路基板の反りが大きくなる のを防止するという課題に関し,何らの記載も示唆もなく,また,樹脂材に関して は熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でも使用可能であるとの記載があるものの(段落 【0018】),封止用樹脂の組成については何らの限定もない。 (2) 本願発明の相違点に係る構成の容易想到性の有無について 引用例2及び引用例3には,硬化性シリコーン組成物として,本願発明にお ア ける硬化性シリコーン組成物と同じ組成を有する組成物が開示されている。しかし, 前記のとおり,引用例2における硬化性シリコーン組成物は,LED表示装置等の 防水処理のための充填剤や接着剤として使用するものであること,LEDや外部か らの光を反射しないよう,艶消し性に優れているという特性を有することが示され ている。半導体装置の封止用樹脂とLED表示装置等の充填剤や接着剤とは,使用 目的・使用態様を異にするものであり,引用例2には,上記のような硬化性シリコ ーン組成物を,半導体装置の樹脂封止に使用するという記載も示唆もない。したが って,引用発明に接した当業者が,引用発明に引用例2に記載された技術的事項を 組み合わせ,引用発明における封止用樹脂として引用例2に開示された硬化性シリ コーン組成物を使用することを,容易になし得るとはいえない。 また,引用例3における硬化性シリコーン組成物は,半導体素子の表面を被覆す るための半導体素子保護用組成物として使用するものであり,前記のとおり,半導 体素子の表面被覆は封止の前に行われる工程であって,半導体などを包み埋め込む 「封止」とは,その目的等において相違する。引用例3には,硬化性シリコーン組 20 成物の硬化物による被覆の後,同工程とは別個独立に樹脂封止が行われることを前 提とした上で,硬化物と封止樹脂との熱膨張率が異なることによって生じる問題点 を解決する組成物として,耐湿性及び耐熱性が優れた半導体装置を形成できる半導 体素子保護 用組成物である硬化性シリコーン組成物が示されている。「被 覆 」と 「封止」とは,その目的等において相違する工程であることに照らすならば,引用 発明に接した当業者が,引用発明に引用例3に開示された硬化性シリコーン組成物 を組み合わせることを,容易になし得るとはいえない。 以上のとおり,当業者が,引用発明に引用例2及び引用例3に記載された発明を 組み合わせて,本願発明における相違点に係る構成に至るのが容易であるとは認め られない。 被告の主張に対して イ この点に関して,被告は,引用例2,引用例3及び甲4文献記載の組成物は,半 導体装置を保護する組成物であり,シリコン系樹脂により半導体装置を封止して保 護することは,周知慣用の技術手段であり,半導体装置を封止するために,シリコ ン系樹脂として周知である本願発明における硬化性シリコーン組成物を用いること は,当業者が容易になし得ることであると主張する。 しかし,以下のとおり,被告の主張は,理由がない。 樹脂封止は,半導体装置の封止手段として一般的に行われている方法であり,樹 脂封止のうち,ポッティング法,キャスティング法,コーティング法,トランスフ ァ成型法において,封止用樹脂としてシリコン系樹脂を使うことは,当業者に周知 な技術であると認められる(甲4,12,乙1,2)。しかし,引用発明のように, 半導体装置を金型中に載置し,金型と半導体装置との間に封止用樹脂を供給して圧 縮成形する樹脂封止方法において,封止用樹脂としてシリコン系樹脂を使うことが 当業者に周知な技術であると認めるに足りる証拠はない。被告が本訴において提出 する乙1及び2には,ICチップを樹脂封止する際,シリコン系樹脂で封止するこ とが 通常 行 わ れている旨の記載があるが( 乙 1の段落【 0004 】, 乙 2の 段落 21 【0007】),これらの記載から,半導体装置を金型中に載置し,金型と半導体 装置との間に封止用樹脂を供給して圧縮成形するという樹脂封止方法においても, シリコン系樹脂を用いることが当業者に周知な技術であると認めることはできない。 したがって,引用例2,引用例3及び甲4文献から,本願発明における硬化性シ リコーン組成物が当業者に周知な組成物であると認められるとしても,引用発明の 樹脂にこの硬化性シリコーン組成物を使用することが容易になし得ると認めること はできない。 なお,被告は,本願明細書の記載から,原告の主張に係る「半導体装置を封止す る際,ボイドの混入がなく,シリコーン硬化物の厚さを精度良くコントロールする ことができ,ボンディングワイヤーの断線や接触がなく,半導体チップや回路基板 の反りが小さい半導体装置を効率よく製造することができ(る)」という本願発明の 効果を確認することができないとの主張もしている。しかし,被告の上記主張は, 容易想到性に関する審決の判断の当否に影響を与える主張ではないから,その主張 自体失当である。 3 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があり,審決は違法であるから,これ を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 飯 村 敏 明 22 裁判官 八 木 貴 美 子 裁判官 小 田 真 治 23 別紙 図 1 24 |