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事件 平成 24年 (行ケ) 10084号 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/06/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年6月14日 判決言渡

平成24年(行ケ)第10084号 審決取消請求事件

平成24年5月29日 口頭弁論終結

判 決

原 告 X

被 告 特 許 庁 長 官

指定代理人 芦 葉 松 美

同 田 村 正 明

同 唐 木 以 知 良

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2011−16336号事件について平成23年12月12日にし

た審決を取り消す。

第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成19年7月4日,発明の名称を「多糖類由来化合物の生成方法並び

に生成装置」とする発明について,特許出願(特願2007−175805号)を

し,その特許出願に基づく優先権主張を伴って,平成20年6月27日,特許出願

(特願2008−169216号。平成21年2月12日出願公開,特開2009

−29796。以下「本願」という。)をしたが,平成23年3月31日付けで拒

絶査定を受け,同年4月28日,その査定の謄本の送達を受けた。原告は,同年7

月29日,これに対する不服の審判(不服2011−16336号事件)を請求し

た。特許庁は,平成23年12月12日,「本件審判の請求を却下する。」との審

1
決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成24年2月2日,原告に送達

された。

2 本件審決の理由の要旨

拒絶査定に対する審判の請求は,特許法121条の規定により査定の謄本の送達

があった日から3月以内である平成23年7月28日までにされなければならない

ところ,本件審判の請求は同月29日になされているので,上記法定期間経過後の

不適法な請求であり,補正をすることができない。

したがって,本件審判の請求は,特許法135条の規定により却下すべきもので

ある。

第3 当事者の主張

1 審決の取消事由に係る原告の主張

別紙訴状の「4 原告の主張」及び別紙準備書面の「第2 原告の主張(被告の

主張に対する反論)」記載のとおりである。その概要は,原告には,以下の事情が

あって,特許法121条2項にいう「責めに帰することができない理由」がある,

又は,同法4条5条により期間が延長されるべき場合であるから,本件審判の請

求は適法であり,審決は,違法として取り消されるべきであるというものである。

(1) 拒絶査定の謄本は,平成23年4月28日に送達されたが,同日に受け取っ

たのは代理人であり,原告が査定の謄本を受け取ったのは同月29日であった。原

告は,心理的に余裕のない状態であり,特許法3条と審判請求期間である「3月以

内」とを結び付けて理解することができず,錯誤により,同年7月29日までに不

服審判を請求すべきものと考えた。

原告は,同年7月29日より1日早く不服審判を請求しようと考えたが,特許庁

が配信する電子申請ソフトのバグ修正に手間取り,結局,同年7月29日零時2分

57秒の請求となった。

(2) 原告は,平成23年東北地方太平洋沖地震により二次的被害を受けたもので

あり,特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法

2
律(平成8年法律第85号。以下「特別措置法」という。)3条3項に基づく審判

請求期間の延長を受けられるはずであるが,同法の確認が遅れたため,審判請求期

間には延長の申し出をすることができなかった。

しかし,原告は,平成23年9月7日に住所変更,同年11月4日に上申書(乙

9の1・2)を提出し,同年12月7日に請求項に対する納付金を納入しており,

審判請求期間の延長の申し出に関する手続は補正されたといえるから,特許法12

1条2項の適用が認められるべきである。

(3) 原告には,次の事情があった。すなわち,@原告の居住地及び勤務地であっ

た北海道釧路市は,東北地方太平洋沖地震の特定地域から外れているが,同市も,

大型の余震を含め地震が続いていた,A原告の勤務先(釧路工場)では,被災にあ

った他の3事業所(宮城県石巻工場と岩沼工場,福島県勿来工場)に支援物資の提

供や応援者の派遣などの支援活動を行っていたため,原告の日常生活にも影響があ

った,B震災の影響により,原告の勤務先は,臨時に1,300人の早期退職者を

募集していたので,原告もその早期退職制度を利用して,本件の審判請求と同時期

ころに退職した,C平成23年4月末に拒絶査定を同時に2件(うち1件が本件の

もの)受けており,それらの不服審判を請求する対応に追われたが,原告の居住地

域は,離島ではないものの遠隔地であり,弁理士の過疎地域であって,地震の影響

で遠隔地の弁理士との応対もままならなかった,D原告は,本件審判の請求期間中

に,警察への公的有益情報の提供による時間が4時間以上あった等の事情である。

上記の諸事情により,原告には,東北地方太平洋沖地震に起因して,拒絶査定

対する不服審判請求の対応以外にも,生活環境に負荷がかかっていた。

2 被告の反論

原告の主張する取消事由は,理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。

すなわち,原告の主張する諸事情によっては,特許法121条2項にいう「責めに

帰することができない理由」があるとはいえない。また,特許庁長官は,同法4条

に基づき,請求により又は職権で,同法121条1項に規定する期間を延長するこ

3
とができるが,本件の拒絶査定について,期間は延長されておらず,査定の謄本に

おいても「この査定に不服があるときは,この査定の謄本の送達があった日から3

月以内(在外者にあっては,4月以内)に,特許庁長官に対して,審判を請求する

ことができます」と教示している。さらに,同法5条による期間延長は,指定期間

の延長に関するものであって,審判請求期間の延長には適用する余地がない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由は理由がなく,審決に取り消すべき違法はない

ものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 特許法121条2項は,「拒絶査定不服審判を請求する者がその責めに帰す

ることができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができな

いときは・・・その理由がなくなった日から14日・・・以内でその期間の経過後

6月以内にその請求をすることができる。」と規定しており,「責めに帰すること

ができない理由」とは,天災地変のような客観的な理由に基づいて手続をすること

ができないことのほか,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽く

してもなお避けることができないと認められる事由をいうものと解される。

原告は,平成23年4月28日に拒絶査定の謄本の送達を受け,本件審判の請求

を同年7月29日にしたことが認められる(当事者間に争いがない。)が,以下の

とおり,この点について,原告の「責めに帰することができない理由」によるもの

とは認められない。すなわち,

(1) 原告は,「拒絶査定の謄本は,平成23年4月28日に原告の代理人に送達

されたが,原告が査定の謄本を受け取ったのは同月29日であり,原告は,錯誤に

より,同年7月29日までに不服審判を請求すべきものと考え,同日より1日早く

不服審判を請求しようとしたが,電子申請ソフトのバグ修正に手間取り,同年7月

29日零時2分57秒の請求となった。」旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。原告の上記主張に係る事情は,結局,原告の

注意が不足したため,錯誤に陥り,手違いが発生したというものであるから,原告

4
の「責めに帰することができない理由」とはいえない。

(2) 原告は,「平成23年東北地方太平洋沖地震により二次的被害を受け,特別

措置法3条3項に基づく審判請求期間の延長を受けられるはずであり,平成23年

9月7日に住所変更,同年11月4日に上申書を提出し,同年12月7日に請求項

に対する納付金を納入しているから,審判請求期間の延長の申し出に関する手続は

補正されているから,特許法121条2項の適用が認められるべきある。」旨主張

する。

しかし,原告の主張は失当である。原告は,地震による二次的被害として,上記

第3の1(3) のような事情を主張するが,原告の主張を最大限考慮しても,それら

の諸事情と,本件審判の請求が1日遅れたこととの間に因果関係は認められず,原

告の「責めに帰することができない理由」により審判請求期間内に請求をすること

ができなかったとはいえない。

(3) 原告は,「原告には,東北地方太平洋沖地震に起因して,拒絶査定に対する

不服審判請求の対応以外にも,生活環境に負荷がかかっていた」旨の諸事情を縷々

主張する。

しかし,原告の主張は失当である。原告の主張する諸事情と,本件審判の請求が

1日遅れたこととの間に因果関係は認められず,原告の「責めに帰することができ

ない理由」により審判請求期間内に請求をすることができなかったとはいえない。

(4) 以上のとおり,本件審判の請求について,特許法121条2項の適用は認め

られない。

また,原告は,本件審判の請求について,同法4条5条により期間が延長され

るべき場合である旨も主張するが,本件の拒絶査定について,同法4条に基づく同

121条1項期間の延長はなされておらず,延長しなかったことを違法と判断

すべき事情も認められない。さらに,同法5条による期間延長は,指定期間の延長

に関するものであるから,法定期間である審判請求期間の延長には適用する余地が

ない。

5
2 小括

以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,審決に取り消すべき違法は認

められない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。

第5 結論

よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決す

る。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官

芝 田 俊 文




裁判官

岡 本 岳




裁判官

武 宮 英 子




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