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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
平成21ワ45432特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成21ワ31535損害賠償請求事件 判例 特許
平成22ワ30777特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成21行ケ10353審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 22年 (ワ) 26341号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2012/05/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年5月23日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成22年(ワ)第26341号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年1月30日

判 決

横浜市<以下略>

原 告 株式会社ファンケル

同訴訟代理人弁護士 小 南 明 也

東京都港区<以下略>

被 告 株式会社ディーエイチシー

同訴訟代理人弁護士 山 崎 順 一

同 山 田 昭

同 新 井 由 紀

同 今 村 憲

同 補 佐 人 弁 理 士 杉 村 純 子

主 文

1 被告は,原告に対し1億 6 5 6 9 万 8 7 4 0 円 及 び こ れ に 対 す

るうち1000万円につき平成22年4月15日から,1億5

569万8740円につき平成23年10月5日から各支払済

みまで年5分の割合による 金員を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用はこれを6分し,その5を原告の,その余を被告の負担

とする。

4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,別紙物件目録1記載の製品を製造し,販売し,若しくは販売の申出

1
をしてはならない。

2 被告は,別紙物件目録2記載の製品を製造し,販売し,若しくは販売の申出

をしてはならない。

3 被告は,その保持する別紙物件目録1及び2記載の各製品を廃棄せよ。

4 被告は,原告に対し,7億1000万円及びうち1000万円に対する平成

22年4月15日から,うち5億円に対する平成23年10月5日から,うち

2億円に対する平成23年12月20日から各支払済みまで年5分の割合によ

る金員を支払え。

5 訴訟費用は被告の負担とする。

6 仮執行宣言

第2 事案の概要

本件は,油性液状クレンジング用組成物についての特許権を有する原告が,

別紙物件目録1記載のクレンジングオイル(以下「被告製品1」という。)及

び別紙物件目録2記載の化粧品セット(以下「被告化粧品セット」という。)

中に含まれるクレンジングオイル(以下「被告50mL製品」といい,被告製

品1と併せて「被告各製品」という。)は,上記特許権に係る発明の技術的範

囲に属するものであるから,被告による被告製品1及び被告化粧品セットの製

造,販売及び販売の申し出は上記特許権を侵害するものであると主張し,被告

に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品1及び被告化粧品セ

ットの製造,販売及び販売の申出の差止め並びにこれらの廃棄を求めるととも

に,特許権侵害不法行為(民法709条及び特許法102条2項・3項)に

基づき,平成21年8月14日以降の損害賠償として7億1000万円(附帯

請求としてうち1000万円に対する平成22年4月15日〔警告書送付日の

翌日〕から,うち5億円に対する平成23年10月5日〔訴え変更申立書送達

日の翌日〕から,うち2億円に対する平成23年12月20日〔訴え変更申立

書(2)送達日の翌日〕から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延

2
損害金)の支払を求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)

(1) 当事者等

ア 原告は,化粧品,健康食品,発芽玄米,青汁,肌着,雑貨等の製造

販売等を行う株式会社である。

イ 被告は,化粧品,健康食品等の製造販売等を行う株式会社であ る 。

(2) 原告の特許権

ア 原告は,次の特許(以下「本件特許」という。)につき特許権(以下

「本件特許権」という。)を有している。

(ア) 特許番号 第4358286号

(イ) 発明の名称 油性液状クレンジング用組成物

(ウ) 出願日 平成20年9月29日

(エ) 登録日 平成21年8月14日

(オ) 登録公報発行日 平成21年11月4日(甲2)

イ 本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」といい,本判決末尾に添付

する。)の「特許請求の範囲」の記載は下記のとおりである(以下,請求

項1記載の発明を「本件発明1」,請求項1を引用する請求項3記載の発

明を「本件発明2」,請求項1を引用する請求項4記載の発明を「本件発

明3」,請求項1引用に係る請求項3を引用する請求項4記載の発明を

「本件発明4」といい,これらを併せて「本件各発明」という。)。

(ア) 「【請求項1】油剤(A)とデキストリン脂肪酸エステルと(B)

と炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエステル(C)と陰イオ

ン界面活性剤(D)を含有する油性液状クレンジング用組成物であって,

デキストリン脂肪酸エステル(B)が,パルミチン酸デキストリン,

(パルミチン酸/2−エチルヘキサン酸)デキストリン,ミリスチン酸

デキストリンのいずれか又は複数であり,陰イオン界面活性剤(D)が,

3
ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩,ポリオキシエチレンアルキルエ

ーテル硫酸塩,N−脂肪酸アシルメチルタウリン塩,脂肪酸塩,N−脂

肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂肪酸アシルメチルアラニン塩,N−

脂肪酸アシルアラニン塩,N−脂肪酸アシルサルコシン塩,N−脂肪酸

アシルイセチオン酸塩,アルキルスルホコハク酸塩,アルキルリン酸塩

のいずれか又は複数であること

を特徴とする油性液状クレンジング用組成物。」

(イ) 「【請求項3】粘度が,25℃において,B型粘度計(ローター1,

12rpm,30秒)で測定したときに300〜1,000mPa・s

であることを特徴とする請求項1又は2記載の油性液状クレンジング用

組成物。」

(ウ) 「【請求項4】陰イオン界面活性剤(D)が,ジ脂肪酸アシルグル

タミン酸リシン塩,脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−

脂肪酸アシルメチルアラニン塩のいずれか又は複数であって,これらの

水溶液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油性

液状クレンジング用組成物。」

ウ 本件各発明を構成要件に分説すれば,以下のとおりである(以下,各

構成要件をそれぞれ「構成要件1−A」などという。)。

(ア) 本件発明1

1−A 油剤(A)

1−B デキストリン脂肪酸エステル(B)

パルミチン酸デキストリン,(パルミチン酸/2−エチルヘ

キサン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキストリンのいずれ

か又は複数である

1−C 炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエステル(C)

1−D 陰イオン界面活性剤(D)

4
ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩,ポリオキシエチレンア

ルキルエーテル硫酸塩,N−脂肪酸アシルメチルタウリン塩,脂

肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂肪酸アシルメ

チルアラニン塩,N−脂肪酸アシルアラニン塩,N−脂肪酸アシ

ルサルコシン塩,N−脂肪酸アシルイセチオン酸塩,アルキルス

ルホコハク酸塩,アルキルリン酸塩のいずれか又は複数である

1−E (A〜Dを含有する)油性液状クレンジング用組成物

(イ) 本件発明2

2−A〜E 構成要件1−A〜Eと同一

2−F 粘度が,25℃において,B型粘度計(ローター1,12rp

m,30秒)で測定したときに300〜1,000mPa・sで

あることを特徴とする

(ウ) 本件発明3

3−A〜E 構成要件1−A〜Eと同一

3−D’陰イオン界面活性剤(D)が,ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リ

シン塩,脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂肪

酸アシルメチルアラニン塩のいずれか又は複数であって,これら

の水溶液を用いることを特徴とする

(エ ) 本件発明4

4−A〜E 構成要件1−A〜Eと同一

4−F 構成要件2−Fと同一

4−D ’ 3 −D ’ と同一

(3) 被告の行為

ア 被告は,平成21年1月以降,被告製品1として,容量150mL

の製品(以下「被告150mL製品」という。)及び容量100mL

の製品(以下「被告100mL製品」という。)の製造,販売及び販

5
売の申出を行い,かつ,平成22年6月ころ以降,被告化粧品セット

の製造,販売及び販売 の申出を行った。

イ 被告各製品の特徴等

(ア ) 被告各製品は,いずれも,肌に塗布した化粧品を落とすために

用いられる油性液状洗浄料(いわゆるクレンジングオイル)であり,

手や顔が濡れた状態でも使用することができるものである。

(イ ) 被告各製品は,エチルヘキサン酸セチル,パルミチン酸エチル

ヘキシル,ジオレイン酸ポリグリセリル−10,水,イソノナン酸

イソノニル,セスキカプリル酸ポリグリセリル−2,ジラウロイル

グルタミン酸リシンNa,ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステ

リル/オクチルドデシル),没食子酸エピガロカテキン,ワサビノ

キ種子油,ラベンダー油,(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリ

ル,(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン,トリ(カ

プリル酸/カプリン酸)グリセリル,トコフェロール,塩化デカリ

ニウム,フェノキシエタノールの各成分を含有する。

(ウ ) 被告各製品を,25℃においてB型粘度計(ローター1,12

rpm,30秒)で測定したときの粘度は,578.5ないし58

9.0mPa・s(3回の平均値は582.2mPa・s)である

(甲9)。

構成要件充足性

(ア ) 被告各製品の成分中,エチルヘキサン酸セチル,パルミチン酸

エチルヘキシル,イソノナン酸イソノニル,ラウロイルグルタミン

酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル),ワサビノキ種子油,

トリ(カプリル酸/カプリン)グリセリルは,本件明細書の【00

08】欄及び【0009】欄に(A)成分の例示として記載されて

いる「2−エチルヘキサン酸セチル」,「パルミチン酸オクチル」,

6
「イソノナン酸イソノニル」,「エステル油」,「動植物油」,

「エステル油」に各相当するものであるから,被告各製品は構成要

件1−Aを充足する。

(イ ) 被告各製品の成分中,(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デ

キストリンは,構成要件1−Bの「(パルミチン酸/2−エチルヘ

キサン酸)デキストリン」に相当するものであるから,被告各製品

構成要件1−Bを充足する。

(ウ ) 被告各製品の成分中,セスキカプリル酸ポリグリセリル−2は,

炭素数8のカプリル酸(脂肪酸に相当する。)とポリグリセリンの

エステルであり,これは,(C)成分である「炭素数8〜10の脂

肪酸とポリグリセリンのエステル」に含まれるものであるから,被

告各製品は構成要件1−Cを充足する。

(エ ) 被告各製品の成分中,ジラウロイルグルタミン酸リシンNaは,

構成要件1−Dの「ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩」に相当

する。

被告製品は,旭化成ケミカルズ株式会社がジラウロイルグルタミ

ン酸リシンNaの29%水溶液として販売する「ペリセア」(甲1

0の1)を用いて製造されている。

(オ ) 被 告 各 製 品 の 粘 度 は 上 記 イ (ウ )の と お り で あ り , 被 告 各 製 品 は

構成要件2−Fを充足する。

(4) 原告は,被告に対し,平成22年4月13日付けで,被告製品1が

本件発明1及び3の技術的範囲に属する旨を記載した書面(甲11の

1 )を送付し,同書面は同月14日,被告に到達した(甲11の2) 。

(5) 原告は,平成16年ころから,「マイルドクレンジングオイル」

(甲17。以下「原告製品」という。)を製造販売しているが,同製品

は 本件特許の実施品ではなく,原告は,本件各発明を実施していない 。

7
( 6) 被告は,平成24年1月1日,被告製品1の仕様変更を行い,「ニ

ューマイルドタッチクレンジングオイル」との名称の製品(以下「被告

新製品」という。)の製造販売を開始した(甲62,63,乙54)。



2 争点

(1) 被告各製品が本件発明1の技術的範囲に属するか。

構成要件1−Dの充足性

構成要件1−Eの充足性

侵害論の補足主張・作用効果不奏功の抗弁等

(2) 被告各製品が本件発明2の技術的範囲に属するか。

(3) 被告各製品が本件発明3の技術的範囲に属するか。

(4) 被告各製品が本件発明4の技術的範囲に属するか。

(5) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか。

ア 本件発明1は特開2006−225403号公報(以下「乙2の1文

献」という。)に係る発明(以下「乙2の1発明」という。)と同一の発

明であって特許法29条1項3号に違反するものか。

イ 本件発明1は乙2の1発明から容易に想到することができたものとして

特許法29条2項に違反するものか。

ウ 本件発明1は特開2004−115467号公報(以下「乙2の2文

献」という。)に係る発明(以下「乙2の2発明」という。)から容易に

想到することができたものとして特許法29条2項に違反するものか。

エ 本件発明2は乙2の1発明から容易に想到することができたものとして

特許法29条2項に違反するものか。

オ 本件発明2は乙2の2発明から容易に想到することができたものとして

特許法29条2項に違反するものか。

カ 本件発明3は乙2の1発明から容易に想到することができたものとして

8
特許法29条2項に違反するものか。

キ 本件発明3は乙2の2発明から容易に想到することができたものとして

特許法29条2項に違反するものか。

ク 本件発明4は乙2の1又は乙2の2発明から容易に想到することができ

たものとして特許法29条2項に違反するものか。

ケ 本件各発明は特許法36条4項1号に違反するものか。

コ 本件各発明は特許法36条6項1号に違反するものか。

サ 本件各発明は特開2002−348211号公報に係る発明から容易に

想到することができたものとして特許法29条2項に違反するものか。

(6) 販売行為等の差止め及び廃棄の可否

(7) 損害額

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点(1)ア(構成要件1−Dの充足性)

( 原 告の主張)

(1) 構成要件1−Dの解釈について

ア (ア ) 本件明細書には,構成要件1−Dに関し,(D)成分として陰

イオン界面活性剤を用いることが記載され,また,ジ脂肪酸アシル

グルタミン酸リシン塩等,陰イオン界面活性剤として用いることの

できる物質が具体的 に例示列挙されている(【0014】)。

この点,「陰イオン界面活性剤」とは,界面活性剤(分子内に親

水基と疎水基をもち,水に対して強い表面活性を示し,溶液内にお

いてミセルのような会合体を形成する物質であり,界面張力を著し

く低下させる作用を示すもの)のうち,親水基(その例として,カ

ルボキシル基,スルホ基,硫酸水素基等が挙げられる。)が水中で

解離して陰イオンとなるものであり(「岩波理化学辞典 第5版」

甲24の1,「新版 界面活性剤ハンドブック」甲24の2),洗

9
剤,乳化剤,分散剤,起泡剤,消泡剤,帯電防止剤など多方面にわ

たる用途を有し,溶液に対して様々な作用をなし得るものを指す技

術用語として,一般的に用いられているものであるということがで

きるから,当業者であれば,その技術的意義を一義的に理解できる

ものである。

そうすると,構成要件1−Dの「陰イオン界面活性剤」は,一般

的技術用語としての「陰イオン界面活性剤」と同義のものとして,

語義どおりに解釈すべきことが明らかであり,それ以外に解釈しよ

うがない。

(イ ) なお,本件明細書の【0015】欄,【0016】欄及び【0

031】欄には,「陰イオン界面活性剤は水溶液として処方中に配

合することが好ましい。陰イオン界面活性剤を直接配合すると均一

に分散することが困難となる。陰イオン界面活性剤の配合量は0.

1〜1質量%が好ましい。0.1質量%未満では,デキストリン脂

肪酸エステルを透明に分散させる効果が得られ難く,1質量%以上

では,陰イオン界面活性剤が析出する恐れがある。」(【001

5】),「…油性液状クレンジング用組成物に極性の高い(C)成

分を効果的に分散させることができる。」(【0016】。なお,

【0016】欄の「(C)」の記載は,いずれも「(D)」の誤記

である。),「[考察](1)(D)成分である陰イオン界面活性

剤を含有する実施例1〜7の油性液状クレンジング用組成物はいず

れも,透明で,750nmの光の透過率が75%以上であり,安定

であり,300mPa・s以上の粘度を有し,水を混合したときの

メイク落ちに優れ,目標部位への塗布が容易であった。(2)

(D)成分である陰イオン界面活性剤を含有しない比較例1〜3は,

濁りが生じ,40℃2週間で沈降が生じ,粘度は300mPa・s

10
に達せず,顔面への塗布が容易ではなかった。…(5)陰イオン界

面活性剤(D)の替わりに陽イオン界面活性剤(F)を配合した比

較例6は,濁りが生じ,粘度が300mPa・sに達せず,顔面へ

の塗布が容易ではなかった。」(【0031】)と記載されており,

陰イオン界面活性剤の性質,作用として,直接配合すると均一に分

散することが困難であり,水溶液として配合することで効果的に分

散させることができること,0.1質量%未満ではデキストリン脂

肪酸エステルを透明に分散させる効果が得られ難いこと,1質量%

以上では析出する恐れがあること,極性が高いこと,油性液状クレ

ンジング用組成物の安定性を高めること,粘度を高め目標部位への

塗布を容易にすることなどが記載されているが,これらの性質又は

作用のうち特定のものに着目して,「陰イオン界面活性剤」とは当

該性質又は作用を有するものでなければならないと限定して定義付

けする記載はみられ ない。

したがって,本件明細書において,「陰イオン界面活性剤」との

用 語 は , 上 記 ア (ア )で み た 一 般 的 技 術 用 語 と し て の 「 陰 イ オ ン 界 面

活性剤」と同義であることを前提として統一的かつ明確に用いられ

ていることが明らかであり,特許法70条2項を適用しても,構成

要 件 1 − D の 意 義 は , 上 記 ア (ア )で み た 語 義 の と お り に 解 釈 さ れ る

べきものである。

イ 被告の主張について

(ア ) 被告は,構成要件1−Dを「デキストリン脂肪酸エステルを透

明に分散させる作用を有する陰イオン界面活性剤」と限定解釈すべ

きである旨主張するが,争う。

(イ ) 被告の上記主張は,陰イオン界面活性剤の特定の作用のみに着

目して,「陰イオン界面活性剤」の意義を限定解釈しようとするも

11
のであるが,このように解すると,本件明細書の【0006】欄に

「デキストリン脂肪酸エステル(B)と陰イオン界面活性剤(D)

を組み合わせて用いることにより,透明性と適度な粘性を保有した

油性液状クレンジングを実現できた。」と記載されているにもかか

わらず,陰イオン界面活性剤はデキストリン脂肪酸エステルを透明

に分散させる作用しか有しないことになり,本件明細書の上記記載

と矛盾することになる。

また,本件明細書の【0006】及び【0007】欄には,

(A)ないし(D)の4成分の組合せにより,透明性を確保し,適

度な粘性を有したクレンジングオイルを得ることができることが開

示されており,透明性に影響を与えるのは陰イオン界面活性剤のみ

ではないことが理解できる。さらに,【0031】欄には,陰イオ

ン界面活性剤を含有しない比較例において,安定性に欠け,透過率

が75%未満であり,粘度が低く,顔面への塗布が容易ではなかっ

たこと,陰イオン界面活性剤及びC成分を含有しない比較例におい

て,透過率が75%以上であったが安定性に欠け,粘度が低く,顔

面への塗布が容易ではなかったことが記載されており,陰イオン界

面活性剤が透過率のみならず安定性(分散状態の維持)や粘性の向

上にも影響を与えていること及び陰イオン界面活性剤が存在しなく

とも透過率の高い場合があることが明らかである。

にもかかわらず,「陰イオン界面活性剤」を被告の主張のとおり

限定解釈すると,本件明細書の上記記載にも反することになる 。

(ウ ) なお,本件明細書の「陰イオン界面活性剤の配合量は…0.1

質量%未満では,デキストリン脂肪酸エステルを透明に分散させる

効果が得られ難く…」(【0015】)との記載は,請求項4及び

5の技術的意義について言及したものにすぎないから,当該記載に

12
基づき,請求項1に係る「陰イオン界面活性剤」の意義を限定解釈

すべきではない。

(エ ) 被告は,無効主張において,「陰イオン界面活性剤」を,その

一般的意味と同義に解釈する主張をしているが,同じ侵害訴訟にお

いて,ある用語を,非充足の主張のために限定解釈する一方,無効

主張のために広く解釈することは,特許法70条に基づかない場当

たり的な解釈というべきであり,許されるものではない。

(オ ) したがって,被告の主張は失当であり,採用されるべきもので

はない。

構成要件1−Dの解釈に関する予備的主張

仮に,被告の主張するとおり,構成要件1−Dを「デキストリン脂

肪酸エステルを透明に分散させる作用を有する陰イオン界面活性剤」

と限定解釈する場合があるとしても,その「透明」とは,構成要件

−Eに関する原告の主張で詳述するとおり,一般的意味における「透

明」と同義のものとして,「物体が光を通すこと」を意味するものと

解釈すべきである。

(2) 被告各製品の充足性について

ア 前記前提事実(3)イ(イ)のとおり,被告各製品にはジ ラ ウ ロ イ ル グ ル

タ ミ ン 酸 リ シ ン N a が 含 ま れ て お り , 同 成 分 は , 前 記 前 提 事 実 (3)ウ

(エ )の と お り , 「 陰 イ オ ン 界 面 活 性 剤 」 で あ る 「 ジ 脂 肪 酸 ア シ ル グ ル

タミン酸リシン塩」に相当するものであるから,被告各製品は構成要

件1−Dを充足する。

イ 予備的主張

(ア ) 仮に,構成要件1−Dの「陰イオン界面活性剤」を,「デキス

トリン脂肪酸エステルを透明に分散させる作用を有する陰イオン界

面活性剤」と限定解釈したとしても,被告各製品は,構成要件1−

13
Eに関する被告各製品の充足性の主張で詳述するとおり,一般的意

味において透明と評価できるものであるから,この点のみからみて

も,被告各製品のジラウロイルグルタミン酸リシンNaが,デキス

トリン脂肪酸エステルを透明に分散させる作用を有するものである

ことは明らかである。

(イ ) また,本件明細書によれば,陰イオン界面活性剤は,他の成分

と相まって,デキストリン脂肪酸エステルを透明に分散させる効果

のみならず,粘度を向上させる効果ももたらすものであるところ,

被告各製品は,一般的意味において透明と評価できることに加えて,

粘度に関し,約582mPa・sというクレンジングオイルとして

理想的な数値を示しているのであるから,被告各製品において,デ

キストリン脂肪酸エステルを透明に分散させ,かつ,適度な粘度を

もたらす陰イオン界面活性剤が存在することは争い得ないものであ

る。

(ウ ) 加えて,原告の総合研究所が行った実験結果(甲25)によれ

ば,被告各製品において,ペリセア(ジラウロイルグルタミン酸リ

シ ン N a の 水 溶 液 で あ る こ と は 前 記 前 提 事 実 ウ (エ )の と お り 。 ) が

デキストリン脂肪酸エステルを透明に分散させる効果を有すること

が確認されている。

(エ ) なお,被告各製品は,光の透過率が75%未満のものであるが,

これは,陰イオン界面活性剤の含有量が他の成分との関係で相対的

に少ないか,あるいは,他の成分によって透過率が抑制されている

かのいずれかによるものであることが推測され,被告各製品におけ

るジラウロイルグルタミン酸リシンNaがデキストリン脂肪酸エス

テルを透明に分散させる作用を有しないことを意味しない。

(オ ) したがって,構成要件1−Dを「デキストリン脂肪酸エステル

14
を透明に分散させる作用を有する陰イオン界面活性剤」と解釈して

も,被告各製品は,構成要件1−Dを充足する。

( 被 告 の主張)

(1) 原告の主張は争う。

(2) 構成要件1−Dの解釈

ア 本件明細書の【0006】欄,【0015】欄,【0031】欄の

各記載内容によれば,構成要件1−Dの「陰イオン界面活性剤」は,

専らデキストリン脂肪酸エステル(B)を透明に分散させる作用を有

する成分として記載され,それ以外の作用を有するとも,他の成分が

透明性をもたらすとも記載されていないから,「陰イオン界面活性

剤」(1−D)は,デキストリン脂肪酸エステルを透明に分散させる

作用を有する成分であることが明らかである。このことは,本件明細

書の発明の詳細な説明に,陰イオン界面活性剤を含有しない場合には

濁りが生じる旨の記載があることからも裏付けられるところである 。

したがって,構成要件1−Dの「陰イオン界面活性剤」とは,「デ

キストリン脂肪酸エステルを透明に分散させる作用を有する陰イオン

界面活性剤」を意味すると解すべきである。

なお,ここでいう「透明」とは,構成要件1−Eに関する被告の主

張で詳述するとおり,透過率75%以上のものを意味し,また,そう

でないとしても,明細書記載の評価基準(直径4cmの円筒ガラス瓶

に充填した際に,瓶を通して背景像〔紙に印刷した罫線〕を認識でき

るか否か)に基づき「透明」と評価されるものを意味すると解するべ

きである。

イ 原告は,「陰イオン界面活性剤」を,その作用により限定解釈する

理由はないと主張するが,上記主張は,特許法70条2項の規定を無

視した主張であり,誤りである。仮に本件発明1が同法29条2項

15
容易想到性要件を満たすとすれば,それは,手や顔が濡れた環境下

で使用することができる透明な油性液状クレンジング用組成物である

ことによるのであるから,構成要件1−Dの意義は,特許法70条

項に基づき,その作用に基づき解釈されるべきである。

(3) 被告各製品の充足性について

被告各製品は,構成要件1−Eに関する被告の主張で詳述するとおり,

原告自身が行った実験の「特許4358296号の透明性評価基準によ

る評価」により「濁る」と評価されており(甲15),かつ,750n

m可視光の透過率は7.2ないし9.9%であって(甲16),これは,

本件明細書の【0030】【表2】において「濁る」とされている比較

例1,2,3,6,7の透過率の範囲の最低値(10%)より更に低い

ものであるから,被告各製品における陰イオン界面活性剤が,デキスト

リン脂肪酸エステルを「透明」に分散させる作用を有しないものである

ことは明らかである。

2 争点(1)イ(構成要件1−Eの充足性)

(原告の主張)

(1) 構成要件1−Eの解釈について

構成要件Eの「油性液状クレンジング用組成物」とは,油性であり,か

つ,液状のクレンジング料を意味し,一般に「クレンジングオイル」と

呼ばれているものと同義であることが一義的に明白である。

したがって,構成要件1−Eの「油性液状クレンジング用組成物」は,

語義どおり「クレンジングオイル」を意味するものと解釈すべきである。

イ 被告の主張について

被告は,構成要件1−Eの「油性液状クレンジング用組成物」は,「手

や顔が濡れた環境下で使用することができる透明な油性液状クレンジン

グ用組成物」を意味し,「透明」とは,透過率75%以上のものをいう

16
と主張するが,争う。

本件明細書において,「油性液状クレンジング用組成物」との用語は,

次のように用いられている。

(ア) 「【請求項2】波長750nmの光の透過率が75%以上であるこ

とを特徴とする請求項1に記載の油性液状クレンジング用組成物。」

(イ) 「しかし近年,10%程度の水が混入しても乳化したり,増粘した

りしない油性液状クレンジング用組成物が開発され,浴室や洗面台な

ど手や顔が濡れた環境下で使用することができる製品として上市され

ている。上記機能を持つ液状の油性クレンジング用組成物は,あらか

じめ水を配合したものであるか,水を多量に可溶化できるように設計

されており,製剤としての制約上すべてが低粘度のものであった。低

粘度の油性液状クレンジング用組成物は手への取りにくさや手指から

の垂れ落ちが問題であり,使用時に目的部分へ塗布することが難しい

…。また低粘度の油性液状クレンジング用組成物は,クレンジング中

に塗布部に残りにくいため,直接肌をこする行為となり,それが肌へ

の刺激や使用中の不快感につながっていた。油性液状クレンジング用

組成物を増粘する技術としては,(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリ

セリルを用いて増粘し,使用中に手指から垂れ落ちることを防ぐ技術

が開示されている…。…手や顔が濡れた環境下で使用することができ

る油性液状クレンジング用組成物をデキストリン脂肪酸エステルで透

明に増粘する技術は知られていない。」(【0002】)

(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】手や顔が濡れた環境下で使用す

ることができる透明な油性液状クレンジング用組成物を提供すること

である。」(【0004】)

(エ) 「比較例1〜8の油性液状クレンジング用組成物を以下の製法によ

り調製した。」(【0020】)

17
(オ) 「手が濡れた状態を再現するため,実施例,比較例記載の油性液状

クレンジング用組成物と水を重量比10:3で混合した。」(【00

27】)

上記イ(ア)ないし(オ)の各記載によれば,本件明細書において,「油性

液状クレンジング用組成物」との用語は統一的かつ明確に用いられてお

り,これを特定の意味で限定しようとする場合には,上記イ(イ)のよう

に,修飾語(「乳化したり,増粘したりしない」,「低粘度の」等)を

付して用いられていることが明らかである。もし,「油性液状クレンジ

ング用組成物」の技術的意義が「手や顔が濡れた環境下で使用すること

ができる透明な油性液状クレンジング用組成物」であるとすれば,本件

明細書の上記各記載は,いずれも支離滅裂な内容となり,請求項2も重

複した記載となる。

本件明細書における「油性液状クレンジング用組成物」の技術的意義

は,当業者にとって一義的に明確であるから,本件明細書の記載内容を

参酌しても,当該用語を限定解釈するべき理由はないというべきである。

ウ 予備的主張

(ア) 仮に,構成要件1−Eを「手や顔が濡れた環境下で使用することが

できる透明な油性液状クレンジング用組成物」と限定解釈する場合があ

るとしても,その「透明」とは一 般 的 意 味 に お け る 「 透 明 」 と 同 義 で

あり,「物体が光を通すこと」を意味するものと解釈すべきである。

(イ) すなわち,本件明細書をみると,【0002】欄には,背景技術と

して,従前,手や顔が濡れた環境下で使用することができる油性液状

クレンジング用組成物には低粘度であるという問題点があったこと,

上記問題点(低粘度)を克服するための増粘技術として,「(ベヘン

酸/エイコサン二酸)グリセリル」を用いる技術があったが,製品の

透明性が低いという問題点があったことが記載されており,これらの

18
問題点を克服するため,手や顔が濡れた環境下で使用することができ

る油性液状クレンジング用組成物をデキストリン脂肪酸エステルで透

明に増粘する技術を提供することが本件発明の課題であることが記載

されている。

また,本件明細書の【発明の効果】欄には,(A)〜(D)の4成分

を含むことで,透明性が確保でき,塗布性など使用感に優れた粘性を

有する油性液状クレンジング用組成物を提供することができた旨,と

りわけ,デキストリン脂肪酸エステル(B)と陰イオン界面活性剤

(D)を組み合わせて用いることにより,透明性と適度な粘性を保有

した油性液状クレンジングを実現できた旨が記載され(【000

6】),「また,」と,上記記載に明示的に追加する形式で,「波長

750nmの光の透過率が75%以上の透明度を実現すること」もで

きる旨が記載されている。

そして,【発明を実施するための最良の形態】として,各成分を【実

施例】のように配合するか,あるいは,(A)ないし(D)成分を適

宜配合することによって,透明性が確保できるだけでなく,透明度が

高いものを得ることも可能であることが記載されているのであり

(【0007】),上記「透明度が高い」ことの具体例として,「本

発明の油性液状クレンジング用組成物は透明性が高く,直径4cmの

円筒ガラス瓶に充填した際に,瓶を通して背景像(紙に印刷した罫

線)を認識できる。本発明の油性液状クレンジング用組成物について,

吸光光度計を用いて測定した場合,光路長1cmで,波長750nm

の可視光の透過率は精製水に対して75%以上である。」【001

9】ことが記載されている。

(ウ) 上記(イ)でみた本件明細書の記載によれば,本件発明は,手や顔が

濡れた環境下で使用することができる油性液状クレンジング用組成物を,

19
従来技術(本件明細書の【0002】において,特許文献5として引用

されている,特開2003−113024号公報。甲21)に示されて

いる透明度と同程度以上に透明に増粘する技術を開示しようとするもの

であると解されるところ,本件明細書(【0002】)には,従来技術

の問題点としての「透明性が低い」との記載に関し,その客観的程度は

示されていない上,上記引用文献には,「透明」の客観的程度について,

透過率による特定などはなされていないから,ここにいう「透明」とは,

透過率等により特定された「透明」を意味するものではなく,一般的意

味における「透明」を意味するものとして使用されていることが明らか

である。そうすると,本件発明の作用効果としての「透明」とは,一般

的意味における透明と同義であると解するのが相当であるということに

なる。なお,「透明」の一般的意味は,「くもりなく明らかなこと。物

体が光などの電磁波をとおすこと。」(甲22の1,「広辞苑第五

版」),すなわち物体が光を通すことにあると解される。

(エ) 前記(イ)でみたとおり,本件明細書の【0006】欄には,(A)

ないし(D)の4成分を含むことで,透明性を確保でき,適度な粘性

を有した油性液状クレンジング用組成物を提供することができた旨が

記載された上で,「また」と明示的に追加して,「波長750nmの

光の透過率が75%以上の透明度を実現すること」もできる旨が記載

されているところ,「確保」との語が,一般的に,何かを保有しよう

とする場合に最低限押さえておくべき事項を保有することを意味する

ものであることも考慮すれば,透過率75%以上という数値限定が,

追加的作用効果として記載されていることが明らかである。

(オ) したがって,本件明細書における「透明性」とは,透過率による特

定などのない,一般的意味での透明性を意味するものと解するべきで

あ り , 透 明 性 が 高 い こ と ( 前 記 (イ )で み た 【 0 0 1 9 】 欄 記 載 の 状

20
態)は,本件発明の従たる作用効果であって,本件発明1において必

ず奏する作用効果ではないということができる。

このことは,本件明細書において,実施例に関する考察として,比較

例1〜3について,「濁りが生じ,40℃2週間で沈降が生じ,粘度

は300mPa・sに達せず,顔面への塗布が容易ではなかった。」,

比較例4について,「透明性が高かったが,粘度が300mPa・s

に達せず,顔面への塗布が容易ではなかった。また,水を混合したと

きのメイク落ちに劣るものであった。」,比較例5について,「粘度

が300mPa・sに達せず,顔面への塗布が容易ではなかった。」,

比較例6について,「濁りが生じ,粘度が300mPa・sに達せず,

顔面への塗布が容易ではなかった。」と記載されており(【003

1】),透過率の高低を問わず,粘度の低いものについては,顔面へ

の塗布が容易ではないことから,全て比較例とされていることからも

明らかである。

(カ) 原告は,以上の認識に基づき,本件特許発明を,光の透過率及び粘

度を具体的に数値限定しない請求項1,光の透過率について数値限定

た請求項2,粘度について数値限定した請求項3という請求項形式で特

許出願しているのであり,本件発明1における「透明」が通常の意味で

あって,透明性が高いこと(光の透過率が75%以上であること)は従

たる作用効果であると主張することは,原告の出願当時の認識に反する

ものではなく,むしろ,出願当時から一貫しているものである。

(2) 被告各製品の充足性

ア 前 記 前 提 事 実 (3)イ (ア )の と お り , 被 告 各 製 品 は ク レ ン ジ ン グ オ イ ル

であって,油性液状クレンジング用組成物に当たるものであるから,

被告各製品は構成要件1−Eを充足する。

イ 予備的主張

21
(ア ) 仮 に , 構 成 要 件 1 − E を , 「 手や顔が濡れた環境下で使用するこ

とができる透明な油性液状クレンジング用組成物」と限定解釈すると

しても,被告各製品は一般的意味において透明と評価されるものであ

るから,被告各製品は構成要件1−Eを充足する。

(イ) すなわち,被告各製品を目視した場合,被告各製品を通して背景を

見ることは十分可能であり(甲15の写真1,2,4),実用上は

「透明」である。

また,原告が,複数の透明度(透過率)の油液を調製したもの及び

被告各製品を,その光路長が5mm,10mm,15mm,20mm,

30mm,40mmになるようにガラス瓶に入れ,上から観察したと

ころ(当該実験の実験報告書が甲23である。),被告各製品につき

光路長20mmとした場合(写真46)と,透過率68.5%の油液

につき光路長40mmとした場合(写真16)とでは,背景像の認識

程度はほとんど変わらず,これらの場合(写真46,写真16)と被

告各製品につき光路長15mmとした場合(写真45)とを比較する

と,被告各製品の方が背景像を明確に認識できた。さらに,透過率9

4.9%の油液につき光路長40mmとした場合(写真8)と被告製

品につき光路長10mmとした場合(写真44)とでは,背景像の認

識度はほとんど変わらず,透明性の印象はほぼ同じであった。

以上のとおり,見た目の透明性というのは相対的なものであり,透

過率だけではなく,光路長としてどの程度の長さを採るかによっても

異なるものであるところ,被告各製品の透過率は24.9%(なお,

被告各製品の透過率は,平成21年11月20日付け実験報告書〔甲

16〕では平均8.8%であったが,別のロット番号のものを測定し

直したところ,被告製品1において24.9%,被告製品2において

11.8%であった。)であるが,実際に使用する状況では透明であ

22
る(甲15の写真4)から,一般的意味において透明と評価されるべ

きものである。

(ウ) この点に関し,被告は,被告各製品の一部の透過率が,本件明細書

で「濁る」と評価された比較例1,2,3,6,7の透過率(10ない

し55%)よりも低いことを指摘し,被告各製品は「透明な」クレンジ

ングオイルに当たらないと主張しているが,これらが比較例とされてい

るのは透過率が75%未満だからではなく,粘度などの点で不合格だか

らである。また,被告は,少なくとも透過率75%を大幅に下回るもの

は本件発明にいう「透明」に該当しないと主張するが,本件発明におい

て請求項1とは別に,透過率を限定した請求項2を設けている趣旨を無

視するものである上,「大幅」の示すところが恣意的かつ不明確であっ

て,およそ合理的ではない。

(エ) したがって,被告各製品は,構成要件1−Eの解釈に関する予備的

主張の下においても構成要件1−Eを充足する。

(被告の主張)

(1) 原告の主張は争う。

(2) 構成要件1−Eの解釈

ア 本件発明1は油性液状クレンジング用組成物にかかわる発明であ り ,

「油性液状クレンジング用組成物」とは,一般に「クレンジングオイ

ル」と呼ばれているものと実質的に同義であるところ,クレンジング

オイルとは,メイク落としのために用いられる化粧品であり,一般に

油剤と界面活性剤とを主成分とし,増粘剤,皮膚柔軟剤(エモリエン

ト剤),香料などを加えて作られる混合組成物である。

平成13年3月31日までは,「化粧品原料基準」(昭和42年8

月厚生省告示第322号)により,化粧品原料として使用が認められ

る成分がポジティブリスト方式により限定列挙されていたところ,同

23
日に同基準が廃止された後も,実際に用いられる化粧品原料の種類に

大きな変化はみられなかった。上記「化粧品原料基準」には,本件発

明1の特許請求の範囲に記載された(A)ないし(D)成分に相当す

る成分がすべて記載されており,これらの成分は,いずれも化粧品製

造業界において一般的に使用されているものに当たる。

そうすると,本件発明1は,公知公用の化粧品原料を組み合わせて

生成されたものであるから,これにより,予想されなかった新たな有

用な特性を有するものでなければ,進歩性を欠くものとして特許要件

を欠くことになる。

イ しかして,本件明細書には,本件発明が,従来のクレンジングオイルは

透明性が低かったという問題を解決課題とし,(A)ないし(D)の4成

分を含むことにより,透明性と適度な粘性を保有した油性液状クレンジン

グ用組成物を実現したものであることが記載されているのであるから

(【0005】,【0006】),本件発明1の特性は上記透明性の保有

の点にあり,構成要件1−Eの「油性液状クレンジング用組成物」とは,

「(A)ないし(D)の4成分を含む油性液状クレンジング用組成物」で

あり,「手や顔が濡れた環境下で使用することができる透明な油性液状ク

レンジング用組成物」と同義に解するべきである。構成要件1−Eをこの

ように解さなければ,本件発明の課題を解決できない範囲のものまでが本

件発明の技術的範囲に含まれることとなり,明らかに不合理である。

ウ また,「透明」に関しては,本 件 明 細 書 に 「 本 発 明 の 油 性 液 状 ク レ

ンジング用組成物は透明性が高く,直径4cmの円筒ガラス瓶に充填

した際に,瓶を通して背景像(紙に印刷した罫線)を認識できる。本

発明の油性液状クレンジング用組成物について,吸光光度計を用いて

測定した場合,光路長1cmで,波長750nmの可視光の透過率は

精製水に対して75%以上である。」(【0019】)との記載があ

24
り,また,透過率77〜93%の実施例につき「透明」との評価が記

載されており(【0029】),さらに,実施例の考察として,

「(D)成分である陰イオン界面活性剤を含有する実施例1〜7の油

性液状クレンジング用組成物はいずれも,透明で,750nmの光の

透過率が75%以上であり,…」(【0031】)との記載があるか

ら,「透明」とは,「直径4cm以上の円筒ガラス瓶に充填した際に,

瓶を通して背景像(紙に印刷した罫線)を認識できる」ことをいい,

定量的には「透過率75%以上」であることを要するものと解するの

が相当である。

上記解釈が合理的であることについては,本件明細書の実施例及び

比較例において「透明」と評価されたものの透過率が全て75%を超

えていること(【0029】【表1】,【0030】【表2】),当

業者が「透明性」に係る作用効果を検証するに際して,本件明細書に,

定量的には透過率75%以上という以外の数値は一切示されていない

ことからも裏付けられるというべきであり,原告自身が,その実験報

告書(甲15)において,透明性の評価基準として本件明細書と同一

の基準(直径4cmの円筒ガラス瓶に充填し,瓶を通して紙に印刷し

た罫線を認識できるかどうか)を用いていることも考慮すれば,原告

が,これとは別の「透明」の解釈を持ち出し,自己が設定した評価基

準を否定することは許されることではない。

エ 仮に,「透明」と「透過率75%以上」が同義ではないとしても,

本件明細書には,比較例において,透過率10〜55%のものにつき,

「透明」と対立する評価として,「濁る」との外観評価がされている

から,本件発明1の「透明」とは,少なくとも透過率55%以上のも

のであることを要し,透過率55%以下のものは,上記比較例と同じ

く「濁る」に属することになり,「透明でないクレンジングオイル」

25
に該当することは否定する余地がない。

また,本件明細書に透明性に関し透過率75%という数値以外の数

値が一切示されていないことを考慮すると,少なくとも,透過率7

5%を大幅に下回るものは,本件発明1の「透明」に含まれないと解

するのが相当である。

この点,原告は,実験報告書(甲23)において,黒色十字の上に

置かれた直径4cmのガラス瓶に溶液の深さを順次増やして入れ,黒

色十字がどの程度鮮明に観察できるかによって透明性を評価するとい

う方法を採用しているが,恣意的な方法であって到底受け入れられる

ものではない。もし,このような方法によって「透明」の評価を行う

とすれば,本件明細書において「濁る」と評価された比較例1,2,

3,6,7(【0030】【表2】)も全て「透明」であるというこ

とになり,本件明細書における実施例,比較例の「透明」と「濁る」

の区別の判定は完全に無意味になり,実施例において「透明性を確

保」できたとする本件発明の効果の記載(【0006】)も無意味な

ものとなってしまうのであり,不相当であることが明らかである 。

(3) 被告各製品の充足性について

ア 被告各製品は,原告自身が行った実験の「特許第4358286号

の透明性評価基準による評価」において,背景像の罫線を全く認識す

ることができず(甲15の写真3),「濁る」と評価されたものであ

る上,被告製品の750mm可視光の透過率は7.2〜9.9%であ

って(甲16),これは,本件明細書の【0030】【表2】におい

て「濁る」とされている比較例1,2,3,6,7の透過率の範囲1

0〜55%の最低値よりも更に低い透過率である。可視光の透過率が

低いことは,透明でないこと,濁っていることを意味することはいう

までもないことであるから,被告各製品は「濁った」クレンジングオ

26
イ ル で あ り , 手や顔が濡れた環境下で使用することができる透明な油性

液状クレンジング用組成物に当たらず,構成要件1−Eを充足しない。

イ 原告の行った透明性評価方法(黒色十字の上に置かれた直径4cmのガ

ラス瓶に溶液の深さを順次増やして入れ,黒色十字がどの程度鮮明に観察

できるかによって透明性を評価するという方法。甲23)が恣意的であり

不相当であることは前記(2)エのとおりであるが,このような実験におい

てすら,被告各製品は,深さ10mmの段階で既に黒色十字の輪郭が不明

瞭となり(写真44),深さ30mmの段階で「溶液を通して背後の黒色

十字を観察できなかったが,ぼんやりした背後の黒色を観察することがで

きた」(写真47)程度であり,深さ40mmの段階では,黒色十字を全

く観察することができない結果となっているのである。

上記結果によれば,被告製品は,深さ10mmの段階で,すでに「透

明」の一般的意味(「すきとおること。くもりなく明らかなこと」)にお

いて「透明」に該当するものとは言い難く,30mm,40mmの深さで

は,一般的意味においても到底「透明」といえないものであることは明ら

かである。

ウ また,もし,「透明」と「透過率75%以上であること」が同義ではな

いとしても,被告各製品の透過率は,甲15によれば9.9%以下,甲2

3によれば24.9%及び11.8%であったというのであり,透過率7

5%を大幅に下回るものであるから,被告各製品が透明なものでないこと

が定量的にも裏付けられているというべきである。

エ したがって,被告各製品は,構成要件1−Eを充足しない。

3 争点(1)ウ(侵害論の補足主張・作用効果不奏功の抗弁等)

(被告の主張)

(1) 透明性に関する補足主張(被告準備書面(6)の1〜7頁,40頁〜45

頁)

27
ア 原告は,本件特許出願前の化粧料に関する特許出願(特開2009−1

07932,乙22)において,波長750nmの光の透過率が50%

以上を半透明,80%以上を透明と定義している。また,他の多くの特

許公報,文献,技術資料等(乙23の1ないし6,24の1ないし5,

37の1,44の3)において,「透明」とは,ボトル容器の背景像が

判読,認識できる場合など,透明性の相当高いものを指すときに用いら

れており,「透明」と「半透明」,「白濁」とは明確に区別して用いら

れている。

にもかかわらず,被告各製品が透明であるなどと原告が主張することは,

原告自身の従前の出願内容に反し,かつ,「透明」に関する当業者の通

常の理解にも反するものである。

イ また,本件明細書には,先行技術として特許第3729836号公報

(乙39の1。以下「原告先行発明1」という。)及び特許第4189

886号公報(乙39の2。以下「原告先行発明2」という。)が記載

されているところ,原告は,原告先行発明1の出願後,同発明の実施

であるクレンジングオイル(乙40の1。以下「原告旧製品」とい

う。)を発売し,さらに,原告先行発明2の出願後,同発明の実施品で

あるクレンジングオイル(乙40の2。「原告製品」)を発売した。

本件明細書には,原告各先行発明に係る製剤は「透明性が低いという問

題点を有していた。」(【0002】)と記載されており,本件発明が,

上記問題点を解決するものであることが記載されているのであるから,

本件発明における「透明性」は,原告各先行発明に係る製剤である原告

旧製品及び原告製品よりも有意な程度に透明性が高いものでなければな

らないはずである。

そこで原告旧製品及び原告製品の透明性についてみると,これらの製品

は,直径4cmの円筒ガラス瓶に充填した際に,いずれも瓶を通して背

28
景像を視認することができず,可視光透過率は原告旧製品につき8.8

990%,原告製品につき4.9255%であった(乙18)。これに

対して被告各製品の可視光透過率は2.9170%であり,原告旧製品

及び原告製品よりも透明性が低いものであるから,被告各製品が,本件

発明における「透明」に当たらないことは明らかである。

ウ 透明性に関する上記補足主張は,原告申立てに係る本件特許権に基づく

差止仮処分申立事件(当庁平成23年(ヨ)第22087号事件)にお

いて,原告がした主張(一般的意味における「透明」には半透明も含ま

れること等)に応じてしたものであり,既に上記仮処分申立事件におい

て審理されているものであるから,同主張を審理したとしても,訴訟の

遅延がもたらされることはない。また,「透明」に関し,当業者の技術

常識に反する判決をすることは著しく正義に反するものであり,当然に

補足主張が許されるべきである。

したがって,同主張は時機に後れたものとして却下されるべきものに当

たらない。

(2) 作用効果不奏功による非侵害の主張(被告準備書面(6)46頁〜60頁)

ア 大阪高判平成14年11月22日及び東京地判平成16年2月25日は,

構成要件の全てを含む侵害被疑製品であっても,発明において意図され

た作用効果に反する要素が存在することにより,当該作用効果が妨げら

れる場合には,侵害被疑製品が発明の技術的範囲に属することを否定す

る考え方を示しているところ,被告各製品は,下記イのとおり「(ベヘ

ン酸/エイコサン二酸)グリセリル」(以下「本件ベヘン酸」とい

う。)及び3重量%以上の水分を含有しており,これにより,透明性が

著しく低下し白濁しているものであり,本件各発明において意図された

作用効果が妨げられている。

イ(ア) 被告各製品は,増粘剤として,日清オイリオグループ株式会社製

29
「ノムコートHK−G」(乙44の1)を使用しており,同製品は本

件ベヘン酸を含有する。本件ベヘン酸が白色ないし淡黄色のろう状固

体であること,ベヘン酸を配合したクレンジングオイルが白濁するこ

と(乙50,51)は当業者にとって自明の事項であり,乙44の3

の写真からも明らかなとおり,本件ベヘン酸を配合したクレンジング

オイルは半透明というべき状態となる。

本件明細書では,本件ベヘン酸に関し,【背景技術】として,「増粘

する技術としては,(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルを用い

て増粘…する技術が開示されている。しかしながら,製剤の透明性が

低いという問題点を有していた。」との記載があり,【実施例】にお

いても,本件ベヘン酸を用いたものは見当たらない。

(イ) 被告が平成21年3月31日に特許出願した特願2009−852

31公報(乙46)に係る「液状クレンジング用組成物」に関する発

明(以下「被告発明」という。)は,ジオレイン酸ポリグリセリル,

セスキカプリル酸ポリグリセリル及びジラウロイルグルタミン酸リシ

ンナトリウム(陰イオン界面活性剤)を配合することなどにより,含

有する水分量を増加させることを特徴とするものであるところ,被告

各製品は被告発明の実施品であり,3重量%以上の水分を含有してい

る。多量の水分を含有すると,これにより陰イオン界面活性剤が乳化

するため,透明性が低くなり,白濁することは当業者にとって自明の

事項である(乙47の1〜3参照)。

本件明細書には,「クレンジング効果を発揮させるためには,水の添

加量は極力少ないことが好ましい。水の配合量は3質量%未満が好ま

しい。」と記載されている。

(ウ) 被告各製品が,本件ベヘン酸及び水分を含有することにより白濁し

ていることは,被告が行った実験結果(乙48)からも明らかであり,

30
とりわけ,本件ベヘン酸が透明性を低下させていることが判明した。

ウ 被告各製品は,上記イ(イ)のとおりジオレイン酸ポリグリセリル,セス

キカプリル酸ポリグリセリル及びジラウロイルグルタミン酸リシンナトリ

ウムの組合せにより,多量の水分を含有することができ,これにより,ク

レンジング剤を手に取ったときの使用感の向上,残油感の解消,さっぱり

したみずみずしい感触の付与等,従来開示されていない作用効果を奏する

一方,透明性という本件各発明に係る作用効果を奏さない。

前記アでみた大阪高判平成14年11月22日は,「特許発明の構成要

件の全部又は一部に包含される構成を有しながら,当該特許発明の作用効

果を奏せず,従前開示されていない別途の作用効果を奏するもの」につい

ては「当該特許発明技術的範囲に属しない新規なもの」として「対象製

品が特許発明構成要件を備えていても,作用効果に関するその旨の主張

により,特許発明技術的範囲に属することを否定し得る。」と判示して

おり,被告各製品は,まさにその場合に該当するから,被告各製品は,本

件発明の技術的範囲に属しないものである。

エ また,本件発明は,増粘剤として本件ベヘン酸を使用すると透明性が低

くなるので,これを使用せず,増粘剤としてデキストリン脂肪酸エステル

を使用することにより,「透明」との作用効果を実現したものであるから,

本件ベヘン酸の使用を意識的に排除しているものと解釈することがきる。

そうすると,被告各製品は,本件ベヘン酸を含有するものである以上,本

件発明の技術的範囲に属しない。

オ この点に関し,原告は,被告が本件発明を実施しながら,別成分として

本件ベヘン酸を添加して,最終製品の透過率を下げているだけのことであ

ると主張するが,被告各製品の販売が本件特許発明の公開に先立って開始

されており,構成要件の形式的一致が偶然によるものであることを考慮し

ない主張であり,失当である。

31
(原告の主張)

(1) 時機に後れた攻撃防御方法

被告は,平成23年5月31日の第5回弁論準備手続期日までで侵害論に

関する主張立証が終了したにもかかわらず,訴訟終了段階にある同年12

月19日の第11回弁論準備手続期日において,同年12月14日付け準

備書面(6)で,侵害論の補足として主張を追加した。これは,故意又は重大

な過失により時機に後れて提出された主張であり,これによって本件訴訟

の完結が遅延することとなることは明白であるから(民訴法157条

項),上記主張は却下されるべきである。

(2) 仮に被告の主張が時機に後れた攻撃防御方法に該当しないとしても,当

該主張は以下のとおり理由がない。

ア 被告は,大阪高判平成14年11月22日,東京地判平成16年2月2

5日を引用し,被告各製品は本件ベヘン酸及び多量の水分を含有するこ

とから,透明性の確保という本件各発明の作用効果が阻害されているか

ら,被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属しないと主張するが,被

告の主張は,上記裁判例における前提事実関係及び判示内容の理解を誤

っているものであり,失当である。

イ また,本件ベヘン酸の濃度が高まるにつれて透明度が低下したとしても,

「透明」でなくなるというわけではなく,被告各製品において本件各発

明の作用効果が妨げられているわけではない(甲23における実験結果

参照)。被告は,本件各発明を実施しながら,別成分として本件ベヘン

酸を添加して,最終製品の光の透過率を下げているだけのことであるか

ら,これが,被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属しない理由とな

るわけがない。

被告は,本件各発明が本件ベヘン酸の使用を除外している旨も主張する

が,本件明細書に本件ベヘン酸の含有を除外する記載又はそれを示唆す

32
る記載はなく,失当である。

4 争点(2)(被告各製品が本件発明2の技術的範囲に属するか。)

(原告の主張)

被告各製品が構成要件2−AないしEを充足することは前記前提事実(3)ウ

及び争点(1)アないしウに関する原告の主張のとおりであるところ,前記前提

事実(3)ウ(オ)のとおり,被告各製品は構成要件2−Fを充足するから,被告

各製品は本件発明2の技術的範囲に属する。

(被告の主張)

(1) 原告の主張は争う。

(2) 被告各製品が構成要件2−Fを充足することは認めるが,被告各製品が

構成要件2−D及びEを充足しないことは争点(1)に関する被告の主張のと

おりであるから,被告各製品は本件発明2の技術的範囲に属しない。

5 争点(3)(被告各製品が本件発明3の技術的範囲に属するか。)

(原告の主張)

(1) 被告各製品が構成要件3−AないしC及びEを充足することは前記前提

事実(3)ウ及び争点(1)アないしウに関する原告の主張のとおりであるとこ

ろ,前記前提事実(3)ウ(エ)のとおり,被告各製品は,旭化成ケミカルズ株

式会社製「ペリセア」を用いて製造されているものであり,これは,ジラ

ウロイルグルタミン酸リシンNaの29%水溶液として販売されているも

のであるから,被告各製品は,陰イオン界面活性剤(D)であるジラウロ

イルグルタミン酸リシンNaの水溶液を用いることを特徴とするものに当

たり,構成要件3−D’を充足する。

(2) なお,構成要件3−D’は語義どおり解釈されるべきものであるが,も

し,「陰イオン界面活性剤」の技術的意義を「デキストリン脂肪酸エステ

ルを透明に分散させる作用を有する陰イオン界面活性剤」と限定解釈する

場合があるとしても,争点(1)アに関する原告の主張で述べたとおり,上記

33
「透明」は一 般 的 意 味 に お け る 「 透 明 」 と 同 義 の も の と し て 解 釈 さ れ る

べ き も の で あ り , 被告各製品における陰イオン界面活性剤が上記作用を有

するものであることは明らかであるから,被告各製品は構成要件3−D’

を充足する。

(3) したがって,被告各製品は本件発明3の技術的範囲に属する。

(被告の主張)

(1) 原告の主張は争う。

(2) 被告各製品が「ペリセア」を用いて製造されていること,「ペリセア」

がジラウロイルグルタミン酸リシンNaの29%水溶液であること及びジ

ラウロイルグルタミン酸リシンNaが陰イオン界面活性剤(D)に相当す

ることは認めるが,構成要件3−D’の「陰イオン界面活性剤」の技術的

意義を「デキストリン脂肪酸エステルを透明に分散させる作用を有する陰

イオン界面活性剤」と解釈するべきであること及び上記「透明」を本件明

細書記載のとおりに解するべきことについては争点(1)ア及びイに関する被

告の主張のとおりであり,被告各製品における陰イオン界面活性剤は上記

作用を有しないから,被告各製品は構成要件3−D’を充足しない。また,

被告各製品が構成要件3−Eを充足しないことは,争点(1)イに関する被告

の主張のとおりである。

(3) したがって,被告各製品は本件発明3の技術的範囲に属しない。

6 争点(4)(被告各製品が本件発明4の技術的範囲に属するか。)

(原告の主張)

被告各製品が構成要件4―AないしE,D’を充足することは前記前提事実

(3)ウ及び争点(1)アないしウ,争点(3)に関する原告の主張のとおりであると

ころ,前記前提事実(3)ウ(オ)のとおり,被告各製品は構成要件4−Fを充足

するから,被告各製品は本件発明4の技術的範囲に属する。

(被告の主張)

34
原告の主張は争う。争点(1)アないしウ,争点(3)に関する被告の主張のとお

り,被告各製品は本件発明4の技術的範囲に属しない。

7 争点(5)ア(本件発明1は乙2の1発明と同一の発明であって特許法29条

項3号に違反するものか。)

(被告の主張)

(1) 乙2の1発明の内容等

ア 乙2の1文献は平成18年8月31日に公開されたものであり,本件特

許出願前に日本国内で頒布された刊行物に当たるところ,乙2の1発明は

「油性ゲル状クレンジング」に関する発明であり,乙2の1文献の【00

55】〜【0058】欄には,当該油性ゲル状クレンジングには,液状油,

固体脂等,化粧料等の成分として慣用されている油性成分が含まれること

が記載されており,例示として種々の油脂,炭化水素,ロウ,高級脂肪酸,

ステロール類,エステル油等が挙げられている。また,乙2の1文献中の

実施例(【0093】欄の【表1】)では,上記油性成分として,スクワ

ラン,トリ−2エチルヘキサングリセリル,ジメチルポリシロキサンが使

用されている。

乙2の1文献に記載されているこれらの「油性成分」は,本件発明1の

構成要件1−Aの「油剤」に相当する。

イ 乙2の1文献の【0068】欄には,「本発明の油性ゲル状クレンジン

グにおいては,本発明の目的が損なわれない限り,用途,目的に応じ各種

の基材と併用することができる。」と記載され,【0062】欄及び【0

075】欄には,上記のとおり油性ゲル状クレンジングに含有させること

ができる成分として,デキストリン脂肪酸エステルが記載されており,具

体的に,ミリスチン酸デキストリン,パルミチン酸デキストリン等が例示

されている。また,乙2の1文献中の実施例(【0093】欄の【表

1】)では,デキストリン脂肪酸エステルとしてミリスチン酸デキストリ

35
ンが使用されており,当該油性クレンジングによる口紅洗浄の評価が記載

されている(【0083】〜【0085】欄)。

乙2の1文献に記載されているこれらのデキストリン脂肪酸エステルは,

構成要件1−Bの「デキストリン脂肪酸エステル」に相当する。

ウ 乙2の1文献の【0040】欄には,ポリグリセリン脂肪酸エステルは

ノニオン性界面活性剤に含まれるものであること及び油性ゲル状クレンジ

ングにポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことができることが記載され

ている。また,【0045】欄には,ポリグリセリン脂肪酸エステルを用

いた場合,ジェルの水溶性の調整に有効であること及びノニオン性界面活

性剤の脂肪酸の部分として炭素数が10以下の中鎖脂肪酸を用いることが

記載され,中鎖脂肪酸の疎水基としてカプリル酸が挙げられている。さら

に,乙2の1文献中の実施例(【0092】欄の[実施例12])では,

炭素数8の脂肪酸とポリグリセリンのエステルであるセスキカプリル酸ポ

リグリセリルが記載されている。

乙2の1文献に記載されている炭素数10以下の脂肪酸とポリグリセリ

ンのエステルは,本件発明1−Cの「炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリ

セリンのエステル」に相当する。

エ 乙2の1文献の【0006】〜【0011】,【0013】,【002

0】欄には,油性ゲル状クレンジングに多鎖多親水基型化合物が含まれる

ことが記載されており,【0013】,【0021】及び【0022】欄

には,上記多鎖多親水基型化合物の親水基としてカルボキシル基等やそれ

らの塩が例示されている。この化合物は,疎水基と親水基を有することか

ら界面活性剤であることは明らかである。

また,【0022】〜【0026】,【0036】欄には,上記多鎖多

親水基型化合物は分子内にアミノ酸残基を有する界面活性剤であること,

アシル化合物であること,長鎖アシル基としては飽和又は不飽和の脂肪酸

36
から誘導されるものが用いられること,酸性アミノ酸がN−アシル化され

たものが一般式(2)に示されていること,酸性アミノ酸にはモノアミノ

ジカルボン酸(例えばグルタミン酸)が含まれ,更に一般式(1)中のX

はm価の化合物の残基であり,m価の化合物としてリジンが挙げられるこ

とが記載されている。さらに,【0047】〜【0049】欄には,油性

ゲル状クレンジングに,上記多鎖多親水基型化合物以外のアニオン界面活

性剤(陰イオン界面活性剤)を含むことができることが記載され,分子内

に長鎖疎水基および/または親水基が1個である構造のアニオン界面活性

剤(N−長鎖アシルアミノ酸型界面活性剤等)がその例として挙げられる

こと,上記N−長鎖アシルアミノ酸中のアミノ酸残基としてグルタミン,

アラニン等が例示でき,アシル基は脂肪酸から誘導されるものであること

が記載されている。また,【0069】欄には,高級脂肪酸塩,N−アシ

ルアミノ酸型アニオン界面活性剤が種々例示され,N−アシルアミノ酸型

アニオン界面活性剤のアシル基としては,前記と同様のものが使用できる

ことが記載され,アミノ酸の例としてはグルタミン酸等,アニオン界面活

性剤の例としてはN−アシル−N−メチルタウリン塩,アルキルリン酸塩

等の種々のものが例示されている。

加えて,乙2の1文献の実施例(【0087】〜【0088】欄,【0

093】欄の表1)には,N−ラウロイル−L−グルタミン酸無水物,L

リジン塩酸塩,水,水酸化ナトリウム等を用いて構造式(4)の多鎖多親

水基型化合物が得られることが記載されているところ,これらの記載から

みると,構造式(4)はジラウロイルグルタミン酸リジンナトリウムを記

載したものであることは明らかである(なお,ジラウロイルグルタミン酸

リジンナトリウムは,本件発明1の陰イオン界面活性剤(D)中の「N−

脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩」に相当するものである。)。

以上の記載によれば,乙2の1文献には,油性ゲル状クレンジングに含

37
まれる界面活性剤として,ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩,脂肪酸

塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂肪酸アシルメチルアラニン

塩等の陰イオン界面活性剤が記載されていることが明らかであり,上記陰

イオン界面活性剤は,構成要件1−Dの「陰イオン界面活性剤」に相当す

る。

オ 乙2の1発明は油性ゲル状クレンジングに関するものであるところ,乙

2の1文献の【0064】,【0065】欄には,当該油性ゲル状クレン

ジング組成物は,目的に応じて種々の形態で用いることができるものであ

り,液状の洗顔料としても使用できることが記載されている。なお,平成

15年12月5日発行の日本化粧品技術者会編「化粧品事典」(乙2の4。

以下「乙2の4文献」という。)及び平成17年3月3日発行の竹村功著

「化粧品と美容の用語事典」(乙2の5。以下「乙2の5文献」とい

う。)に記載されているとおり,化粧品業界において,ジェル(ゲル)が

透明な液体を含む概念であることは技術常識である。

したがって,乙2の1文献には,乙2の1発明の油性クレンジング用組

成物は液体状で使用できることが記載されているものであり,乙2の1発

明の「油性ゲル状クレンジング」には,構成要件1−Eの「油性液状クレ

ンジング用組成物」が含まれる。

カ 乙2の1発明の作用効果は,皮膚等に塗布したときに残油感がなく,か

さつきのない,使用感に優れた,透明〜半透明の油性クレンジングが得ら

れることであり(乙2の1文献の【0004】,【0005】,【009

4】等),本件発明1の作用効果と共通する。

(2)ア 以上のとおり,乙2の1文献には,「(A)油性成分,(B)ミリス

チン酸デキストリンやパルミチン酸デキストリン等のデキストリン脂肪酸

エステル,(C)炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエステル,

(D)ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩,脂肪酸塩,N−脂肪酸アシ

38
ルグルタミン酸塩,N−脂肪酸アシルメチルアラニン等の陰イオン界面活

性剤を含む油性液状クレンジング用組成物」が開示されているのであり,

構成要件及び作用効果の点において,両発明は一致する。

イ この点に関し,原告は,本件発明1を単に構成要件に分説し,その個別

の要件の1つが1つの公知文献に開示されていることを示すだけで新規性

がないとする主張は許されないとする。

しかし,1つの公知文献に後願発明の構成要件の全てが開示されている

ならば,当該後願発明が新規性を欠くことは当然である。そもそも,新規

性の判断において,出願前公知文献に基づいて認定される引用発明は,当

該公報の請求項記載の発明に限定されるものではなく,構成要件として記

載されていない開示事項を含めて認定されるものであり,そのようにして

認定される引用発明が一つの公知文献である乙2の1文献に記載されてお

り,それが本件発明と同一である以上,本件発明1が新規性を有しないこ

とは明らかである。

ウ また,原告は,本件発明1は,乙2の1発明における油性ゲル状クレン

ジング用組成物の構成要素である「分子内に水酸基を2個以上有するポリ

ヒドロキシル化合物の1種以上」を含有しない点で,乙2の1発明と相違

すると主張する。

しかし,本件発明1は,(A)〜(D)成分を含有する油性液状クレン

ジング用組成物と規定されており,「含有する」とは,(A)〜(D)成

分以外の成分を含むことを排除するものではない。これは,本件明細書に,

(A)〜(D)成分以外に(E)〜(G)成分を配合することが「好まし

い」又は「配合できる」などと記載されていること(【0016】,【0

017】)からも明らかである。

なお,乙2の1文献の請求項1に従って乙2の1発明の内容を把握する

と,上記請求項1は,「@長鎖疎水基と親水基を分子内に2個以上ずつ有

39
する多鎖多親水基型化合物の1種以上,A分子内に水酸基を2個以上有す

るポリヒドロキシル化合物の1種以上,B油性成分の1種以上,CHBL

が2〜14であるノニオン界面活性剤を含有することを特徴とする油性ゲ

ル状クレンジング」というものであり,成分@は本件発明1の(D)成分

である「ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩」及び「N−脂肪酸塩類」

に,成分Bは本件発明1の(A)成分である「油剤」に,成分Cは本件発

明1の(C)成分である「炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエ

ステル」に各相当するものであるから,両発明は上記3成分において一致

し,かつ,いずれも油性クレンジング剤である点においてほとんど差異が

ないものである。

したがって,原告の主張する点は,本件発明1と乙2の1発明との実質

的な相違点とはなり得ない。

エ また,原告は,乙2の1文献にはデキストリン脂肪酸エステルを積極的

に用いて油性ゲル状クレンジング用組成物を透明に増粘させる技術思想は

開示されていないとも主張するが,上記(1)イのとおり,乙2の1文献に

は,油性ゲル状クレンジング用組成物がデキストリン脂肪酸エステルを含

有することができる旨記載されている上,実施例において,デキストリン

脂肪酸エステルを含有する油性クレンジング組成物をメイク落ち評価に際

し使用しており(【0083】〜【0086】,【0093】),デキス

トリン脂肪酸エステルを含有する油性ゲル状クレンジングが皮膚の汚れや

メイクアップを落とす目的で使用できることが開示されており,原告の主

張は乙2の1文献のこれらの記載に反するものである。

加えて,デキストリン脂肪酸エステルを増粘剤として使用できることは

化粧品業界の常識であり,デキストリン脂肪酸エステルが使用されていれ

ば,それが所望の粘度調整のためのものであることは自明である。

(3) したがって,本件発明1は乙2の1発明と同一の発明であって,特許法

40
29条1項3号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきものに当た

る。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 被告は,乙2の1文献に記載されている発明を特定することなく,単に

本件発明1の各構成要件が乙2の1文献に開示されていることを指摘するの

みであり,主張自体失当である。

被告の主張は,本件発明1を単に構成要件に分説し,その個々の要件が1

つの公知文献に開示されていることを指摘しているにすぎない。

(3) 乙2の1発明の内容及び本件発明1との対比

ア 乙2の1文献には,@長鎖疎水基と親水基とを分子内に2個以上ずつ有

する多鎖多親水基型化合物の1種以上,A分子内に水酸基を2個以上有す

るポリヒドロキシル化合物の1種以上,B油性成分の1種以上,CHLB

が2〜14であるノニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする油性

ゲル状クレンジングに関する発明(乙2の1文献の請求項1)が開示され

ている。

すなわち,乙2の1発明は,第1成分である上記@の構成及び第2成分

である上記Aの構成(なお,第2成分の代表例としては「グリセリン」が

挙げられている。〔【0050】〜【0054】欄〕)を必須構成要素と

する発明であるところ,本件発明1は,上記@及びAの構成を含有せず,

この点において乙2の1発明と本件発明1は相違する。

イ また,本件発明1は,デキストリン脂肪酸エステルを用いて油性液状ク

レンジング用組成物を透明に増粘させる技術に関するものであるところ,

乙2の1文献には,デキストリン脂肪酸エステルを積極的に用いて油性液

状クレンジング用組成物を透明に増粘させる技術思想については全く開示

又は示唆されていない。

41
なお,乙2の1文献の【0062】欄には「デキストリン脂肪酸エステ

ル」に関する記載があるが,「本発明の毛髪化粧料を製造する方法」に関

して記載されているにとどまるから,上記記載は油性ゲル状クレンジング

の構成とは関係がない。

また,乙2の1文献の【0075】欄には「油ゲル化剤」として「(パ

ルミチン酸/オクタン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキストリン,パ

ルミチン酸デキストリン,ステアリン酸イヌリン等のデキストリン脂肪酸

エステル」が列挙されている。しかし,【0068】欄には,「本発明の

油性ゲル状クレンジングにおいては,本発明の目的が損なわれない限り,

用途,目的に応じ各種の基材と併用することができる。」と記載されてお

り,その上で,【0068】〜【0081】欄において,多数の物質が列

挙されているのであり,同欄は,添加し得るあらゆる物質を列挙したもの

としか考えられず,【0075】欄は上記列挙の一部分にすぎないから,

このような記載では,技術思想として実質的に記載されているものという

ことができない。

さらに,乙2の1の文献【0064】欄には,「本発明の油性ゲル状ク

レンジングは,その形態が液体状,固体状,ゲル状,ペースト,スラリー,

ミスト状,液晶,粉体,エアゾール等の種々の形態で用いることができる。

但し,この形態に限定されることはない。」と記載され,液体など様々な

剤型に用いることができることを前提としているが,液状に限定している

本件発明とはその用途は一致しない。

(4) したがって,本件発明は乙2の1発明と同一の発明ではなく,特許法2

9条1項3号により無効とされるべきものに当たらない。

8 争点(5)イ(本件発明1は乙2の1発明から容易に想到することができたも

のとして特許法29条2項に違反するものか。)

(被告の主張)

42
(1) 乙2の1文献に本件発明の構成要件1−AないしDに各相当する物質を

含有する油性ゲル状クレンジング用組成物が開示されていることは争点(5)

アに関する被告の主張のとおりであるところ,乙2の1発明に係る油性クレ

ンジング用組成物が「ゲル状」である点で本件発明1と相違するとしても,

当該相違点は当業者にとって自明の事項である。

すなわち,乙2の4文献には,「ジェル」の意味として「透明もしくは半

透明で粘度の高い液体をさしてジェルという。化学用語としては,ジェルよ

りもゲルと呼ぶほうが一般的である。」と記載され,乙2の5文献には,

「クレンジングジェルには,粘稠液状」のものが含まれることが記載されて

いるのであるから,化粧品業界においては,「ジェル」(ゲル)とは液体も

含む概念であると認識されていることが明らかである。

そうすると,乙2の1文献に記載されている「油性ゲル状クレンジング用

組成物」には液体状のものも含まれると理解されるものである。

なお,本件発明1に係る透明性や使用性等の効果は,乙2の1発明に記載

された効果(「得られた油性クレンジングは乾燥した手,濡れた手のいずれ

でも快適に使用することが出来た,…かさつきの官能評価の何れもが○であ

った。」等。【0092】欄等)と比較して格別なものではない。

(2) したがって,本件発明1は,乙2の4文献,乙2の5文献に記載された

技術常識にかんがみ,乙2の1発明から,又は乙2の1発明に乙2の4・乙

2の5文献に記載されている事項を組み合わせることにより,当業者が容易

に想到することができたものであり,特許法29条2項に違反するものとし

て,特許無効審判により無効とされるべきものに当たる。

(3) 補足主張1(平成23年12月14日準備書面(6)18頁〜40頁)

ア 乙2の1発明の内容

乙2の1文献には,必須成分として@陰イオン界面活性剤,Aグリセリ

ン,B油性成分及びC炭素数10以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを,

43
任意成分としてD油ゲル化剤(デキストリン脂肪酸エステル)を含む,使

用感に優れた,耐水性の透明な油性ゲル状クレンジングが開示されている。

なお,乙2の1文献の実施例12(【0092】欄)では,製造例1の界

面活性剤,セスキカプリル酸ポリグリセリル−2,オクタン酸セチルを配

合した,濡れた手でも快適に使用することができる,外観が透明な,使用

感に優れた油性ゲル状クレンジングが開示されている。

イ 乙2の1発明の上記@は本件発明1の陰イオン界面活性剤(D)と,上

記Bは本件発明1の油剤(A)と各一致し,上記Cは,本件発明1の

(C)と,脂肪酸とポリグリセリンのエステルである点及び炭素数の上限

が10である点において一致する。また,乙2の1文献の実施例12の

「製造例1の界面活性剤」,「セスキカプリル酸ポリグリセリル−2」,

「オクタン酸セチル」は本件発明1の(D),(C),(A)成分に各相

当する。

ウ 乙2の1発明と本件発明1は,上記イでみた点で一致し,以下の点で形

式的には相違する。

(ア) 相違点1

本件発明1は,デキストリン脂肪酸エステルを必須成分とし,かつ,

その種類がパルミチン酸デキストリン,(パルミチン酸/2−エチルヘ

キサン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキストリンのいずれか又は複

数と限定されているのに対し,乙2の1発明ではこのような限定がない

点。

(イ) 相違点2

本件発明1は,脂肪酸とポリグリセリンのエステルの炭素数を8〜1

0に限定しているのに対し,乙2の1発明では炭素数10以下とするの

みで,炭素数の下限について記載がない点。

(ウ) 相違点3

44
本件発明1はグリセリンを必須成分としないのに対し,乙2の1発明

は,グリセリンを必須成分としている点。

エ(ア) 相違点1について

乙2の1文献にはデキストリン脂肪酸エステルを添加することが示唆

されており,その例示として,本件発明1で限定された3物質も記載さ

れている。また,クレンジングオイルにデキストリン脂肪酸エステルを

添加することで,粘度を調整し,使用性・保存安定性を向上させること

は当業者にとって公知である。

この点が容易想到であることは,乙2の2発明にパルミチン酸デキス

トリン等の増粘剤の記載があること(乙2の2文献の【0021】)の

ほか,クレンジングオイルがデキストリン脂肪酸エステルで増粘できる

ことが公知技術であること(特開2002−255727号公報〔乙3

6の3〕,特開2003−252726号公報〔乙36の4〕,特開平

9−124435号公報〔乙36の5〕,特開2003−104839

号公報〔乙36の6〕,特開2003−113024号公報〔乙36の

7〕,特開2001−288036号公報〔乙36の8〕,特開200

7−161627号公報〔乙36の9〕)からも明らかである。

さらに,本件発明1がデキストリン脂肪酸エステルを3物質に限定し

ている点については,デキストリン脂肪酸エステルとして一般的に用い

られている,千葉製粉株式会社の「レオパール」シリーズ(乙37の

2)が,上記3物質を使用するものであるからにすぎないと考えられ,

当該限定が当業者にとって容易であることは明白である。

(イ) 相違点2について

乙2の1文献には,炭素数10未満のものとして炭素数8のカプリル

酸ポリグリセリルが開示されているのみであるから,当業者であれば,

乙2の1文献の上記記載から,炭素数8〜10の成分を当然に想起する。

45
また,そもそも脂肪酸は多くが天然由来のもので,量産できるものは炭

素数8以上のものである上,炭素数7以下では肌への刺激やにおいなど

の問題があるから,炭素数の下限が8であることについては乙2の1文

献に実質的に開示されているに等しい。原告自身,拒絶査定に対する意

見書(甲3の5)において,炭素数の下限につき臨界的意義を主張して

いない。

したがって,この点は実質的な相違点ではない。

また,この点が実質的相違点に当たるとしても,特開2005−16

2691号公報(乙36の1)には,ポリグリセリン中鎖脂肪酸エステ

ル含有組成物に関し,上記中鎖脂肪酸の炭素数は好ましくは8〜10で

あることが開示されているから,乙2の1発明の炭素数を8〜10に限

定することは当業者にとって容易である。

(ウ) 相違点3について

本件発明1は,その作用効果を阻害するものでない限り,他の物質を

含有することを排除するものではないところ,グリセリンは,前記エ

(ア)でみた各公報にも保湿剤として言及があるとおり,通常の添加剤で

あり,かつ,本件発明1の作用効果を阻害するものではないことが明ら

かである。したがって,この点は実質的な相違点ではない。

また,この点が実質的相違点であるとしても,グリセリンが上記のと

おりクレンジング化粧料に通常用いられる添加剤であることからすれば,

これを必須成分から除外することは当業者にとって容易である。

(エ) 以上のとおり,クレンジングオイルをデキストリン脂肪酸エステル

で増粘することが公知技術であること,濡れた手で用いることができる

よう炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエステルを用いる技術

も当業者によく知られていることなど,クレンジングオイルに関する当

業者の知識を前提とした場合,乙2の1文献,とりわけ実施例12を参

46
考にし,ごく一般的な課題である増粘や透明性に係る課題を解決するべ

く,本件発明1に至ることは容易想到である。

(4) 補足主張2(平成24年1月23日付け被告準備書面(7)1頁〜2頁)

ア 被告は,本件特許の請求項1,3及び4に係る発明に関し無効とする旨

の審決を求める審判を請求していたところ,平成24年1月5日,特許庁

は,上記各発明につき無効とするとの審決をした(乙53)。

イ 上記審決の要旨は,乙2の1文献の実施例12から,乙2の1発明は

「ジラウロイルグルタミン酸リシン塩とセスキカプリル酸ポリグリセリル

−2とオクタン酸セチルを含有する油性ゲル状クレンジング」と認定でき,

当該発明は,デキストリン脂肪酸エステルを含有しない点及び「ゲル状」

である点で本件発明1と一応相違するが,デキストリン脂肪酸エステルに

関する相違点については当業者が容易になし得る事項であり,「ゲル状」

である点については実質的な相違点ではないと認定し,さらに,本件発明

1は格別顕著な作用効果を奏するものではないとして,本件各発明を無効

としたものである。被告は,上記審決の記載を全て援用し,従前の無効主

張を補足する。

ウ 損害論に入った段階でも,明白な無効原因があるときに,これに関する

追加主張をすることが時機に後れた攻撃防御方法とならないことは前述の

とおりであるところ,特許庁において本件各発明が無効との判断がされた

以上,当該無効審判の内容に基づく主張は,時機に後れた攻撃防御方法と

して却下されるべきものではない。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 被告の主張が,乙2の1文献に記載されている発明を特定するものでな

く,失当であることは争点(5)アに関する原告の主張で述べたとおりである。

(3) 争点(5)アに関する原告の主張でみたとおり,乙2の1発明は,@「長鎖

47
疎水基と親水基とを分子内に2個以上ずつ有する多鎖多親水基型化合物」及

びA「分子内に水酸基を2個以上有するポリヒドロキシル化合物」を必須構

成要素として含有することを特徴とする「油性ゲル状クレンジング」に関す

るものであるから,デキストリン脂肪酸エステルを積極的に用いて油性液状

クレンジング用組成物を透明に増粘させる技術思想である本件発明1とはこ

の点で全く異なり,当該相違点に関する示唆もない。

また,乙2の1文献の【0063】欄には,乙2の1発明の作用効果につ

き,「かくして得られる,本発明の油性ゲル状クレンジングの特徴は,…

3)ゲル形成力が高く,経時的にも非常に安定なゲルを保つ,という特徴が

あり,…」と記載されており,【0064】欄には,乙2の1発明の油性ゲ

ル状クレンジングを,液状に限らず様々な剤型に用いることができる旨記載

されているのであって,予定する剤型において,液状に限定している本件発

明1とは大きく異なるものである。

そうすると,乙2の1発明は,上記@及びAの構成を必須構成要素として

初めて「ゲル状」を維持できるとの作用効果を発揮できるのであって,上記

必須要素を除外し,他の要素に置き換えて,異なる剤型である「液状クレン

ジング用組成物」を得ようとする技術思想について全く示唆するものではな

い。

加えて,乙2の1文献の【表1】において,比較例2は,実施例4と同一

の成分を用いているにもかかわらず,安定性,外観,その他の評価において

実施例に比較して劣っている。したがって,請求項1に記載の成分を採用し

たからといって当然に乙2の1発明の作用効果を奏するものではなく,処方

作成において一定の試行錯誤を要することが当然の前提とされていることが

明らかである。

なお,乙2の1文献の実施例11(【0093】の【表1】)には,ミリ

スチン酸デキストリンを用いる例が記載されているが,上記実施例は,製造

48
例1の界面活性剤,ラウロイルグルタミン酸Na,ミリスチン酸デキストリ

ン,POEラウリルエーテル(HLB11),グリセリン,ジメチルポリシ

ロキサンの6種の成分から組成される油性ゲル状クレンジングを開示したも

のであるから,上記組成から,デキストリン脂肪酸エステルを本件発明1の

(A),(C)及び(D)成分と組み合わせることに想到することは不可能

である。

したがって,乙2の1発明の必須構成要素@及びAを除外し,他の成分と

置き換えて本件発明1に至ることは到底想起し得ず,本件発明1は乙2の1

発明から容易に想到することができたものに当たらない。

(4) 被告の補足主張1(被告の主張(3))に対する反論

原告及び被告は,乙2の1発明に基づく無効理由について,平成23年5

月31日の第5回弁論準備手続期日までに主張を尽くしており,侵害論の主

張立証は同期日までで終了している。被告は,平成23年12月14日付け

準備書面(6)における主張は従前の無効主張の補足であると主張するが,新

たな引用例を追加していることなどからみて,新規主張を行うものであるこ

とが明らかである。被告は,乙2の1文献に本件発明1に係る各成分が記載

されていることを理由として本件各発明につき無効主張をしてきたにもかか

わらず,従前の主張が容れられないとみて,審理終結段階において新規主張

を追加してきたものであり,これが,被告の故意又は重大な過失により時機

に後れて提出されたものであり,かつ,審理を不当に遅延させることを目的

として提出されたものであることは明白であるから,当該主張は却下される

べきである(民訴法157条1項,特許法104条の3第2項)。

(5) 被告の補足主張2(被告の主張(4))に対する反論

被告の補足主張2は,平成24年1月30日の第2回口頭弁論期日にお

いて主張されたものであるが,上記主張は,被告準備書面準備書面(6)で被

告が乙2の1発明に基づく無効主張の補足として主張した内容とほぼ同一

49
であるところ,上記主張が既に尽くされているものであり,却下されるべ

きものであることは前記(4)のとおりであり,補足主張2も,同様に却下さ

れるべきものである。

(6) したがって,本件発明1は特許法29条2項に違反するものではなく,

特許無効審判により無効とされるべきものに当たらない。

9 争点(5)ウ(本件発明1は乙2の2発明から容易に想到することができたも

のとして特許法29条2項に違反するものか。)

(被告の主張)

(1) 乙2の2発明の内容等

ア 乙2の2文献は平成16年4月15日に公開されたものであり,本件特

許出願前に日本国内で頒布された刊行物に当たるところ,乙2の2発明は

「クレンジング方法」に関する発明であり,乙2の2文献の【0007】

及び【0008】欄には,乙2の2発明に係る透明液状組成物に「液状

油」が含まれることが記載されており,【0016】欄には,上記「液状

油」の例として,炭化水素油やエーテル油等の種々の液状油が記載されて

いる。

上記「液状油」は本件発明1の構成要件1−A「油剤」に相当する。

イ 乙2の2文献の【0021】欄には,乙2の2発明に係る透明液状組成

物の粘度を調整するため,パルミチン酸デキストリンを含有することがで

きることが記載されている。

上記パルミチン酸デキストリンは,本件発明1の構成要件1−B「デキ

ストリン脂肪酸エステル」に包含されるものである。

ウ 乙2の2文献の【0008】欄には,HLBが8〜12の範囲の非イオ

ン界面活性剤が乙2の2発明に係る透明液状組成物に含まれることが記載

され,【0011】欄には,HLB8〜12の非イオン界面活性剤として

「ポリグリセリン脂肪酸エステル」が記載されているところ,上記ポリグ

50
リセリン脂肪酸エステルは構成要件1−Cの「脂肪酸とポリグリセリンの

エステル」に相当する。

平成18年10月30日発行の「新化粧品ハンドブック」(乙2の3。

以下「乙2の3文献」という。)には,「(12)ポリグリセリン脂肪酸

エステル」の項目の説明中に,脂肪酸の炭素数8〜12のエステルは洗浄

剤として使用できる旨記載されており,また,乙2の1文献の【004

5】欄には,耐水性の油性ゲル状クレンジングに用いることができるもの

として炭素数10以下の脂肪酸とポリグリセリンのエステルが記載されて

いるから,乙2の2発明のポリグリセリン脂肪酸エステルとして,乙2の

3文献に記載がある炭素数8〜12のものや,乙2の1文献記載の炭素数

10以下のものを使用することは,当業者であれば容易になし得るもので

ある。

エ 乙2の2文献の【0021】欄には,乙2の2発明に係る透明液状組成

物には,粘度を調整するためのアニオン界面活性剤を含有することができ

ることが記載されているところ,アニオン界面活性剤は構成要件1−Dの

「陰イオン界面活性剤」に相当する。

乙2の3文献の174頁〜186頁には,陰イオン界面活性剤としてN

−脂肪酸アシルサルコシン塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂

肪酸メチルアラニン塩,N−アシルメチルタウリン塩等が具体的に列挙さ

れ,これらを洗顔料として使用できることが記載されている。また,乙2

の1文献の【0006】〜【0011】,【0013】,【0020】〜

【0026】,【0036】,【0047】〜【0049】,【006

9】,【0087】〜【0088】,【0093】欄の記載を総合すれば,

乙2の1文献には,油性クレンジングに含まれる界面活性剤として,ジ脂

肪酸アシルグルタミン酸リシン塩,脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミ

ン酸塩,N−脂肪酸アシルメチルアラニン塩等の陰イオン界面活性剤が記

51
載されていることが明らかである。加えて,特開2008−214321

号公報(乙2の6。以下「乙2の6文献」という。)の【0014】,

【0015】及び【0027】欄並びに特開2006−169143号公

報(乙2の7。以下「乙2の7文献」という。)の【0015】,【00

16】欄にも同様の陰イオン界面活性剤が記載されている。

したがって,洗浄剤,洗顔料に使用する陰イオン界面活性剤として,乙

2の3,2の1,2の6及び2の7の各文献記載の陰イオン界面活性剤を

用いることは技術常識であり,当業者であれば,乙2の2発明の透明液状

組成物に使用する陰イオン界面活性剤としてこれらの陰イオン界面活性剤

を選択することは容易になし得るものである。

オ 乙2の2文献の【0007】及び【0008】欄には,液状油を含有す

る透明液状組成物をオイルクレンジング剤として用いることが記載され,

【0036】欄の表1には,上記透明液状組成物の性状が「液状」である

ことが記載されている。

したがって,乙2の2文献に記載されている「透明液状組成物」は,構

成要件1−Eの「油性液状クレンジング用組成物」に相当する。

カ なお,乙2の2文献には,乙2の2発明の作用効果として,「水の介在

する使用環境下でも好適なクレンジングを行うことができ,メイク落ちが

良好で,使用中のマッサージ性に優れ,しかもマッサージ中の肌にべたつ

き感を感じにくいクレンジング方法を提供することにある。」(【000

6】欄)等と記載されているところ,本件発明1に係る透明性や使用性等

の効果は,上記効果と比較して格別なものではない。

(2) この点に関し,原告は,乙2の2発明に係る「透明液状組成物」の粘度

が低いことを挙げ,炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエステル及

び陰イオン界面活性剤を含有する油性クレンジングをデキストリン脂肪酸エ

ステルを用いて透明に増粘させる技術思想は開示されていないと主張するが,

52
乙2の2文献には,「粘度を調整するための…パルミチン酸デキストリン…

等の油剤の増粘剤…も含有できる。」(【0021】欄)と記載されている

上,油性クレンジング剤において,パルミチン酸デキストリン等の増粘剤を

用いて粘度を調整することができるというのは化粧品業界における技術常識

であるから,原告の主張する点は,乙2の2発明から本件発明1が容易想到

であることを否定する理由となるものではなく,失当である。

(3) したがって,本件発明1は,乙2の2発明に乙2の3文献及び/又は乙

2の1文献を組み合わせることで,当業者が容易に想到することができたも

のであり,特許法29条2項に違反するものとして,特許無効審判により無

効とされるべきものに当たる。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 被告の主張は,乙2の2文献に記載されている発明を特定することなく,

単に本件発明1の各構成要件が乙2の2文献に記載されていることを指摘す

るのみのものであって,主張自体失当である。

(3) 乙2の2発明の内容等

ア 乙2の2文献には,【請求項1】として,「(A)HLBが8〜12の

範囲の非イオン界面活性剤,及び(B)液状油を含有する透明液状油性組

成物であって,該組成物100重量部に対して30重量部の水を加えたと

きに,25〜35℃の範囲内に白濁しない温度領域を有する組成物をクレ

ンジング剤として使用するときに,水を加えてメイク落としを行うクレン

ジング方法」が記載されている。

したがって,乙2の2発明は,@HLBが8〜12の範囲の非イオン界

面活性剤及びA水を必須構成要素とするB透明液状油性組成物であるが,

デキストリン脂肪酸エステル及び陰イオン界面活性剤を含まない点で本件

発明1とは相違する。

53
イ そもそも乙2の2文献の【0024】欄には,「25℃において該組成

物の粘度は300mPa・s以下,特に70mPa・s以下であるのが好

ましい。」と記載されており,その実施例における粘度はすべて50mP

a・s以下である。

この点,被告は,乙2の2文献の【0021】欄に「パルミチン酸デキ

ストリン」及び「アニオン界面活性剤」が記載されており,構成要件1−

B及び1−Dに相当する構成が開示されている旨主張するが,同欄には,

「粘度を調整するための,超微粒子シリカ,パルミチン酸デキストリン,

有機性ベントナイト等の油剤の増粘剤;無機塩類,アニオン界面活性剤,

カチオン界面活性剤,両性界面活性剤,高分子ポリマー,殺菌剤,紫外線

吸収剤,酸化防止剤,キレート剤,香料,色素,エキス類,薬効剤等も含

有できる。」として,乙2の2文献記載のクレンジング剤組成物に他の成

分を含有できることが記載されているのみである。

ウ そうすると,乙2の2発明のクレンジング剤組成物は,低粘度であるこ

とが好ましいとされており,デキストリン脂肪酸エステルを透明に増粘

(特に,その粘度は300〜100mPa・sが好ましいとされる。)さ

せる技術思想のため,(C)成分(炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセ

リンのエステル)と(D)成分(陰イオン界面活性剤)を含有させること

は記載されておらず,そのような示唆も全くない。

(4) 以上によれば,本件発明1は,乙2の2発明から容易に想到することが

できたものではないから,特許法29条2項に違反するものではなく,特許

無効審判により無効とされるべきものに当たらない。

10 争点(5)エ(本件発明2は乙2の1発明から容易に想到することができたも

のとして特許法29条2項に違反するものか。

(被告の主張)

(1) 争点(5)アに関する被告の主張のとおり,乙2の1発明は,構成要件1―

54
A〜Eにおいて本件発明1と一致するものであるところ,本件発明2の構成

要件2―A〜Eは,本件発明1の構成要件1―A〜Eと同一であるから,乙

2の1発明は構成要件2―A〜Eにおいて本件発明2と一致する。

しかも,乙2の1発明は「液状」の油性クレンジング組成物に関するもの

であり,【0004】及び【0045】欄に記載があるとおり,手が濡れて

いる場合等においても使用することができる透明な油性ゲル状クレンジング

を提供することを解決課題とする点で,「手や顔が濡れた環境下で使用する

ことができる透明な油性液状クレンジング用組成物を提供する」ことを課題

とする本件発明2と解決課題を共通にするものである。

(2) ところで,本件発明2は,構成要件2―Fを有するが,同構成要件は,

「粘度が,25℃において,B型粘度計(ローター1,12rpm,30

秒)で測定したとき300〜1,000Pa・sであることを特徴とする」

というものであり,これは粘度に関する要件にすぎない。

したがって,粘度に関する数値範囲の内外で有利な効果について量的に顕

著な差があって,数値限定の臨界的意義や技術的困難性が認められなければ,

本件発明2の進歩性は認められないものというべきである。

(3) そこで本件明細書をみると,粘度の数値限定(300mPa・s〜10

00mPa・s)の臨界的意義に関し,「300mPa・s未満では,粘性

が低すぎて,目標部位への塗布が容易ではない。」(【0018】)と記載

されているが,1000mPa・sを超える場合に関しては何ら記載がない。

加えて,クレンジング用組成物は,顔面等の皮膚に塗布するものであるか

ら,塗布性に優れる程度に粘性を調整することは,当業者であれば当然にな

し得る事項であることも考慮すれば,上記数値限定に格別の臨界的意義や技

術的困難性は全く認められず,上記数値範囲は,当業者が必要に応じて適宜

なし得る設計事項にすぎないものというべきである。

(4) したがって,本件発明2と乙2の1発明の相違点である粘度に係る数値

55
範囲の設定の点は,当業者が所望の使用性に応じて適宜設定し得る設計事項

にすぎないものであり,本件発明2は,乙2の1発明から当業者が容易に想

到することができたものに当たる。

また,仮に,乙2の1発明のみでは,構成要件2―Eの「液状」の点につ

いて当業者が容易に想到できないものとしても,乙2の1発明に乙2の4文

献,乙2の5文献に記載された事項を適用することにより,当業者が容易に

想到できる。

(5) よって,本件発明2は,特許法29条2項に違反し,特許無効審判によ

り無効とされるべきものに該当する。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 争点(5)ア及びイに関する原告の主張において指摘した点に加え,乙2の

1発明には,油性クレンジング組成物の粘度を300〜1000mPa・s

の範囲に数値限定することについて記載がなく,その示唆もないから,本件

発明2は,乙2の1発明から容易に想到することができたものに当たらない。

(3) したがって,本件発明2は,特許法29条2項に違反せず,特許無効審

判により無効とされるべきものに該当しない。

11 争点(5)オ(本件発明2は乙2の2発明から容易に想到することができたも

のとして特許法29条2項に違反するものか。)

(被告の主張)

(1) 争点(5)ウに関する被告の主張のとおり,本件発明1に係る構成要件1―

A〜Eは,乙2の2発明と一致し又は乙2の2発明から容易に想到すること

ができるものに当たるところ,この点は,本件発明2の構成要件2―A〜E

についても同様である(構成要件2―Cの「炭素数8〜10」については,

乙2の3文献及び/又は乙2の1文献から容易に想到できる。)。

(2) 次に,本件発明2の構成要件2―Fについてみると,乙2の2発明にお

56
ける解決課題は争点(5)ウに関する被告の主張(1)カでみたとおりであり,本

件発明2における解決課題と共通する。

そうすると,争点(5)エに関する被告の主張(2)で主張したところと同様に,

本件発明2は,粘度に関する数値範囲の内外で効果について量的に顕著な差

があって,数値限定の臨界的意義や技術的困難性が認められなければ,進歩

性は認められないものというべきであるところ,本件発明2の粘度の数値範

囲に格別の臨界的意義や技術的困難性がないことは,争点(5)エに関する被

告の主張(3)で述べたとおりである。

(3) 加えて,乙2の2文献の【0024】欄には,乙2の2発明に係るクレ

ンジング剤組成物が液状であり,「液状」とは,B型粘度計を用いて測定し

た結果が1000mPa・s以下の状態をいい,25℃以下で該組成物の粘

度は300mPa・s以下,特に70mPa・s以下であることが望ましい

旨記載されており,【0036】欄の表1には,種々の粘度のものが列挙さ

れているのであるから,当業者は,乙2の2発明に係るクレンジング剤組成

物の粘度範囲に本件発明2に係る粘度範囲が含まれることを容易に理解でき

るものということができる。

(4) したがって,本件発明2は,乙2の2発明と乙2の3文献及び/又は乙

2の1文献に記載された事項から当業者が容易に想到することができたもの

として,特許法29条2項に違反し,特許無効審判により無効とされるべき

ものに該当する。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 争点(5)ウに関する原告の主張のとおり,被告は,乙2の2文献に記載さ

れた発明を特定することなく無効主張をしているものであり,主張自体失当

である上,乙2の2発明と本件発明1とは全く異なる発明であり,相違点に

つき本件発明1と同一の構成とすることにつき乙2の2文献中に示唆は全く

57
ない。

そうすると,本件発明2についても,乙2の2発明から容易に想到するこ

とができたものとは到底認められず,本件発明2は特許無効審判により無効

とされるべきものに当たらない。

12 争点(5)カ(本件発明3は乙2の1発明から容易に想到することができたも

のとして特許法29条2項に違反するものか。)

(被告の主張)

(1) 争点(5)ア及びイに関する被告の主張のとおり,本件発明1は乙2の1発

明と同一又は乙2の1発明から容易に想到することができるものに当たると

ころ,本件発明3は,本件発明1の構成に加え,構成要件3―D’において,

構成要件1−Dに規定する陰イオン界面活性剤をジ脂肪酸アシルグルタミン

酸リシン塩等に限定し,かつ,これらの水溶液を用いることを特徴としたも

のである。

争点(5)アに関する被告の主張エのとおり,乙2の1文献には,油性クレ

ンジングに含まれる界面活性剤として,ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン

塩,脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂肪酸アシルメチル

アラニン塩等,構成要件3−D’記載の陰イオン界面活性剤が全て記載され

ているところ,これらの物質は,乙2の1文献の記載及びその構造から明ら

かなとおり,すべて親水基を有する水溶性の化合物である。

また,乙2の3文献の181〜184頁には,N−脂肪酸アシルメチルア

ラニン塩やN−脂肪酸アシルグルタミン酸塩を水溶液として使用することが

記載されており,かつ,同文献の170頁右欄〜171頁右欄には,アニオ

ン界面活性剤水溶液についての記載があり,陰イオン界面活性剤が一般的に

水溶液として使用できることが記載されている。

各文献のこれらの記載によれば,陰イオン界面活性剤を水溶液として用い

ることは当業者にとって技術常識であるということができる。

58
(2) 以上によれば,本件発明3は乙2の1文献記載の油性クレンジング組成

物と実質的に同一であり新規性がない。そうでないとしても,本件発明3は,

乙2の1発明それ自体から,又は乙2の1発明に乙2の3文献に記載されて

いる事項を適用することにより,若しくは乙2の1発明に乙2の3文献の記

載事項と乙2の4文献及び/又は乙2の5文献の記載事項とを適用すること

により,当業者が容易に想到することができたものであって,特許無効審判

により無効とされるべきものに該当する。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 争点(5)ア及びイに関する原告の主張で述べたとおり,被告の主張は,乙

2の1発明の内容を特定することなく無効主張をするものであって失当であ

り,かつ,本件発明3は乙2の1発明と同一又は当業者が容易に想到するこ

とができたものに当たらない。

(3) したがって,本件発明3は特許無効審判により無効とされるべきもので

はない。

13 争点(5)キ(本件発明3は乙2の2発明から容易に想到することができたも

のとして特許法29条2項に違反するものか。)

(被告の主張)

(1) 争点(5)ウに関する被告の主張のとおり,本件発明1は乙2の2発明から

容易に想到することができたものに当たるところ,本件発明3は,本件発明

1の構成に加え,構成要件1−Dに規定する陰イオン界面活性剤をジ脂肪酸

アシルグルタミン酸リシン塩等に限定し,かつ,これらの水溶液を用いるこ

とを特徴としたものであるが,乙2の3文献の内容にかんがみ,陰イオン界

面活性剤を水溶液として使用可能であることが技術常識であることは争点

(5)カに関する被告の主張(1)のとおりである。また,乙2の2文献の【00

22】欄には,乙2の2発明の油性クレンジング剤組成物に含まれる原料が

59
常温で固体の場合には溶解して用いることが記載されているところ,乙2の

6文献の【0014】,【0015】欄記載のとおり,アニオン界面活性剤

である脂肪酸塩やN−脂肪酸アシルグルタミン酸リジン等が常温で固体のも

のであることは当業者にとって技術常識である。そうすると,当業者であれ

ば,これらの陰イオン界面活性剤を水溶液として用いることは容易になし得

るものである。

(2) したがって,本件発明3は,乙2の2発明に乙2の3文献及び/又は乙

2の1文献に記載されている事項を適用することにより,当業者が容易に想

到することができたものであって,特許無効審判により無効とされるべきも

のに該当する。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 争点(5)ウに関する原告の主張で述べたとおり,被告の主張は,乙2の2

発明の内容を特定することなく無効主張をするものであって失当であり,か

つ,本件発明3は,乙2の2発明から当業者が容易に想到することができた

ものに当たらない。

(3) したがって,本件発明3は特許無効審判により無効とされるべきものに

当たらない。

14 争点(5)ク(本件発明4は乙2の1又は乙2の2発明から容易に想到するこ

とができたものとして特許法29条2項に違反するものか)

(被告の主張)

本件発明4の構成要件は,本件発明1の構成要件1−AないしE,本件発明

2の構成要件2−F,本件発明3の構成要件3−D’からなるところ,本件発

明1ないし本件発明3が乙2の1発明又は乙2の2発明から容易想到なもので

ある以上,本件発明4も上記各発明から容易想到である。

(原告の主張)

60
被告の主張は争う。

15 争点(5)ケ(本件各発明は特許法36条4項1号に違反するものか。)

(被告の主張)

(1) 本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載が,特許法36条4項1号

定の実施可能要件を満たしているというためには,本件明細書に,発明が解

決しようとする課題及びその解決手段その他の発明の技術上の意義を理解す

るために必要な事項並びに本件発明の実施をするための明確かつ十分な情報

が記載されている必要があるところ,本件明細書の記載によれば,本件各発

明の課題は,手や顔が濡れた環境下で使用することができる透明な油性液状

クレンジング用組成物を提供することであり,上記課題解決手段として,請

求項1に係る(A)〜(D)の4成分を含有する構成が開示されている。ま

た,本件明細書の【0007】欄には,請求項1記載の(A)〜(D)成分

のほか,水,(B)成分以外の非イオン界面活性剤(E),陽イオン界面活

性剤(F),両性界面活性剤(G)を任意成分として含むことができ,これ

らの任意成分の配合の有無にかかわらず,本件各発明の課題を解決可能であ

ることが記載されている。

以上の記載によれば,本件明細書には,(A)〜(D)の4成分を含んで

さえいれば,必ず,「手や顔が濡れた環境下で使用することができる透明な

油性液状クレンジング用組成物を提供する」という効果を奏することができ

る旨が記載されていると解するほかなく,かつ,上記4成分以外の成分の配

合の有無にかかわらず上記効果を奏することができなければならないと解さ

れるものである。

そして,本件各発明の効果である「透明」については,争点(1)ア及びイ

に関する被告の主張で詳述したとおり,直径4cmの円筒ガラス瓶に充填し

た際に,瓶を通して背景像(紙に印刷した罫線)を認識することができるか

否かによって評価するべきであり(本件明細書の【0019】,【002

61
3】),上記評価方法により「濁る」と評価される比較例の透過率は10〜

55%の範囲内にあるものと解されるところである。

(2)ア 被告は,本件明細書の【0021】欄に記載されている製法を用い,

【0029】欄の表1の実施例に記載された配合量等に従いクレンジング

用組成物を製造し,@透明性については本件明細書の【0023】欄,A

可視光透過率については本件明細書の【0024】欄の各評価方法に従い,

B安定性については本件明細書の【0025】欄記載の評価方法(40℃

で2週間)より緩やかな「25℃で1日間」という方法を採用して評価を

行った(上記実験に係る実験報告書は乙2の8である。)。それによれば,

各実験例において,(A)〜(D)の4成分を含むものであっても,「透

明性」の課題が解決できないものがみられる(実験例1〜2における「い

−3」,「い−5」,実験例3〜4における「は−2」など。実験例5〜

8においても同様である。)。また,(A)〜(D)の4成分を含むもの

であっても,安定性につき,「×」(分離)との評価がされているものが

みられた。なお,安定性に関する上記評価方法は,上記のとおり,本件明

細書記載の評価方法(【0025】)よりも緩やかなものでありから,被

告の実験において安定性を欠くものと評価された組成物は,本件明細書記

載の評価方法においても,同様に安定性を欠くものと評価されるものと考

えられる。

原告は,安定性を欠くものはクレンジングオイルとして使用することが

できないものであると主張するから,上記によれば,(A)ないし(D)

の4成分を含むものであっても,本件各発明の課題を解決することができ

ないものが生じ得るのみならず,クレンジングオイルとして使用できる組

成物が得られることすら定かではないということになる。

イ 本件各発明は,(A)〜(D)の4成分を配合することを特徴とするも

のであるが,本件発明1の内容をみると,(A)成分としては「エステル

62
油,動植物油,炭化水素油,シリコーン油,高級脂肪酸,高級アルコール

等」(【0008】)と記載されているほかに限定はなく,(B)成分に

ついては3種類のいずれか又は複数とされ,(C)成分については「例え

ば」として14種類の物質が例示されているほかに限定がなく(【001

2】),(D)成分については11種類のいずれか又は複数とされており,

配合成分の組合せは事実上無限に近く,しかもその配合比率は全く指定さ

れていない。

そうすると,当業者は,本件各発明を確実に実施するために,無限に近

試行錯誤を要するものということになり,本件明細書の「発明の詳細な

説明」に記載された技術的事項だけによる限り,当業者が本件発明の効果

を奏する油性液状クレンジング用組成物を確実に得ることは到底できない

ものというべきである。

(3)ア この点に関し,原告は,本件明細書には実施例1〜7として組成例

が十分に開示されているから,当業者であれば配合物質や配合比率を適

宜調整して所望のクレンジングオイルを得ることが可能であると主張す

る。しかし,被告の行った上記実験結果(乙2の8)によれば,本件明

細書の実施例に記載された配合量に従って各成分を配合した場合であっ

ても,透明性を欠き,または安定性が得られなかったものがあり,さら

に,本件明細書記載の実施例から,本件発明1の要件外であるE成分を

排除し,これをA成分に置き換えた場合には,結果はさらに不良であり,

全例につき透明性が得られず,かつ,2例を除いて安定性も得られなか

ったのである。上記のとおり,本件明細書の記載に従って配合物質及び

配合比率を調整しても,本件各発明の効果を奏するクレンジング用組成

物を得られない以上,当業者が,本件明細書の実施例の記載を参照にし

て本件発明1を実施することは不可能であり,原告の主張は失当である。

なお,原告は,被告の行った実験(乙2の8)と同一の成分を使用し

63
た場合であっても,当業者が,通常有する知識に従い配合量を適宜調整

することで,安定かつ透明な組成物を得ることができると主張し,その

実験結果として甲29号証を提出する。しかし,当該実験結果をみると,

(E)成分を含むものについては,(C)成分が1.00%,(D)成

分が0.40%であるのに対し,(E)成分が11.2%と,本件発明

1において任意成分であるE成分が界面活性剤成分のほとんどを占める

構成となっており,本件発明1の実施例として極めて不適切である。ま

た,(E)成分を含まないものについては,油剤が95.858%,増

粘剤である(B)成分が4.002%を占めており,油剤に少量の増粘

剤を加えたものというべき組成物であって,本件明細書の【0010】,

【0013】欄の記載に照らし,洗い流しが困難であり,かつ,洗浄性,

水洗性に欠けるものであると解される。

そうすると,甲29号証によっても,本件各発明の作用効果を奏する

組成物を生成可能であることは裏付けられないこととなる。

イ また,原告は,被告の実験結果報告書(乙2の8)には,(A)〜

(D)成分に(E)成分を配合した実験例において透過率75%以上のも

のや,透過率57%,67%のものがみられ,また,(A)〜(D)成分

のみを配合した実験例において透過率64%,18%のものが記載されて

いるから,本件各発明の実施が可能であることが示されていると主張する。

しかし,原告の主張は,本件明細書記載の方法によらずに透明性の評価を

行うものである点で不適切である上,被告は,本件各発明が全く実施不可

能であると主張するものではなく,本件明細書において,当業者が確実に

本件各発明の作用効果を奏するクレンジング用組成物を得られるように記

載されておらず,実際にも,本件明細書の記載に従ってクレンジング用組

成物を生成しても,本件明細書記載の作用効果(「透明」)を得られない

場合があると主張するものであるから,原告の主張は当を得ないものであ

64
る。

(4) したがって,本件各発明は,その詳細な説明の記載において記載された

技術的事項が不確かであり,当業者がその実施をすることができる程度に明

確かつ十分に記載されたものではないから,実施可能要件を満たさず,特許

36条4項1号に違反して特許されたものとして,特許無効審判により無

効にされるべきものに当たる。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2)ア 本件明細書には,実施例1〜7として,(A)ないし(D)成分を含

む組成例が詳細に開示されており,当業者であれば,本件明細書の上記実

施例の記載等に基づき,各配合成分に応じて適宜配合割合を決定し,安定

性のある油性液状クレンジング用組成物に到達できる。このことは,本件

明細書の実施例の記載,被告の実験報告書(乙2の8)に係る実験結果

(安定性を確認した10例),原告の実験報告書(甲29)に係る実験結

果(被告の実験報告書中,安定でないとされた18例の配合割合を変更

た結果,安定性を確認した17例),被告各製品に含まれる配合成分を使

用した実験例(甲25),その他実験例(甲27,30)などからも明ら

かである。

被告は,本件明細書の比較例において,透過率10〜55%の範囲内の

ものが透明性を有しないものとして示されていると主張するが,比較例は,

安定性その他の点においてクレンジングオイルとして用いることができな

いことから比較例(=本件発明の技術的範囲外)としたものであり,透過

率が低いことを根拠として比較例とされているものではない。

被告の実験報告書(乙2の8)において,(A)〜(D)成分に(E)

成分(非イオン界面活性剤成分「ジイソステアリン酸デカグリセリン」)

を配合した実験例(「い−1」「い−2」「い−4」「は−1」「は−

65
3」「ほ−3」)では全て「透過率75%以上」であり,同様にE成分を

配合した実験例(「は−2」「ほ−1」)でも,それぞれ「透過率5

7%」「透過率67%」を示しているから,本件発明の作用効果を十分に

奏しており,本件発明の実施が可能であることを示している。

イ 被告は,実験報告書(乙2の8)に基づき,(A)〜(D)の4成分を

含むものであっても透明かつ安定なものが得られない場合があるところ,

上記4成分は広範囲の化合物を含むものであるから,具体的にどのような

4成分を含めば本件発明に係る技術的意義が確実に達成できるのかにつき,

発明の詳細な説明の記載からは理解できず,無限の試行錯誤を要するから

実施不可能であると主張する。

しかし,被告の行った実験(乙2の8)において,安定な油性液状クレ

ンジング用組成物を得ることができなかったのは,被告が,(C)成分及

び(D)成分に本件明細書の実施例とは異なるものを用いており,(C),

(D)成分を変更して配合する場合,油剤との相性を考慮して配合量を調

整することは当業者において周知の技術事項であるにもかかわらず,配合

比率を本件明細書の実施例におけるものと同一にしたためであり,このよ

うな当業者として当然の調整を行わずになされた実験に基づく被告の主張

は意味がない。

また,被告の主張する本件各発明の効果である「透明」の意義が誤りで

あることは,争点(1)ア及びイに関する原告の主張で詳述したとおりであ

るところ,本件各発明の効果に係る「透明」の意義を,光が透過する程度

の透明性と解すれば,本件発明の実施が可能であることは,被告の行った

実験結果(乙2の8。代表的には実験例「に−1」が透過率64%を示す

こと)からも明らかである。

被告は,本件各発明を,闇雲に選択した4成分だけを,いい加減な配合

量で混ぜ合わせたとしても,おのずから本件各発明に係る課題を解決する

66
作用効果を奏する油性液状クレンジング用組成物が出来上がるなどという

手品のような発明であると誤解しているが,本件のような化学物質に関す

る発明においては,当業者は,自らが所望する製品性能に応じて,配合物

質や配合比率を,明細書の記載に基づき適宜設定することにより,所望の

クレンジングオイルを得ることができるのであり,本件明細書の記載は,

上記のとおり適宜の設定を行うために必要かつ十分なものであるというべ

きであるから,当業者は,通常の試行錯誤によって本件発明の実施が可能

であるということができ,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本

件発明を容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることは明

らかである。

ウ また,被告は,(E)成分を入れず,(A)〜(D)成分のみで追試を

行ったところ,本件発明1に係る課題(透明性)が解決できなかったから,

本件各発明を実施することはできないとも主張する。

しかし,本件明細書においては,(E)成分を任意成分として配合する

ことが記載されており(【0017】),表1の実施例及び表2の比較例

の全例に(E)成分が含まれているから(【0029】),本件各発明が

(E)成分によって特徴付けられているものではないことは明らかである。

また,原告が,念のため,(E)成分を欠く組成で実験を行ったところ,

透明であり,かつ,適度な粘性を有する油性液状クレンジング用組成物が

得られることが確認された(甲27)。また,被告の実験結果(乙2の

8)においても,E成分を欠く組成であっても,「に−1」「に−2」は

それぞれ「透過率64%」「透過率18%」を示しており,本件発明1の

実施が可能であることを示している。

したがって,この点に関する被告の主張も失当である。

エ 以上によれば,本件各発明は特許法36条4項1号に違反するものでは

なく,特許無効審判により無効とされるべきものに当たらない。

67
16 争点(5)コ(本件各発明は特許法36条6項1号に違反するものか。)

(被告の主張)

(1) 特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号所定のいわゆる明細書

のサポート要件を満たしているか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳

細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳

細な説明の記載により,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる

範囲のものであるか,または,その記載や示唆がなくとも当業者が出願当時

技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの

である必要がある。

(2) 本件発明の課題及びその解決手段は争点(5)ケに関する被告の主張(1)の

とおりであり,本件明細書の【0007】欄には,(A)〜(D)の4成分

のほかに,水,(E)〜(G)成分を任意成分として含むことができ,これ

らの任意成分の配合の有無にかかわらず本件発明の課題を解決可能であるこ

とが記載されている。

そうすると,本件発明がサポート要件を満たすというためには,本件発明

に規定される範囲に含まれる全てのクレンジング用組成物が,(A)〜

(D)の4成分を含むことで,本件発明に係る効果を確保できるものである

ことが発明の詳細な説明の記載から明らかに理解できる必要があるというべ

きである。

そうすると,本件発明の特許請求の範囲の記載に従って生成したクレンジ

ング用組成物の中に,本件発明に係る課題を解決することができないものが

含まれている以上(乙2の8),本件発明の特許請求の範囲の記載は発明の

詳細な説明の記載内容を超えた技術的範囲を記載しているものであり,サポ

ート要件を満たさない。

(3) したがって,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件に違反

して特許されたものとして,特許無効審判により無効とされるべきものに当

68
たる。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 本件明細書には,請求項1 に記載された構成要素に対応する(A)〜

(D)の各成分及びそれらを含む実施例が開示されており,かつ,請求項3

及び4に各記載された限定要件についても,【0018】,【0026】,

【0014】〜【0016】欄及び実施例に開示されているので,本件各発

明がサポート要件を満たすものであることは明らかである。

(3) なお,特許法36条6項1号において特許請求の範囲の記載につき限定

が加えられている趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請

求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権

利が発生することになり,特許制度の趣旨に反することになるからであるが,

これは,発明として特定された技術事項につき,その全範囲を実施例等とし

て示すことを求めるものではなく,特に,本件のような化学物質に関する発

明に関して,その想定し得る無数の組合せにおいて粘度及び透明性の作用効

果を奏する実施例を示すことは不可能であり,同条はそのようなことを要請

するものではない。当業者は,本件明細書の記載に従い,所望の性能に応じ

て各成分を選択し,その配合比率を設定して,所望の組成物を作成し,その

効果を検証すれば足りるのであり,そのようなことは当業者にとって自明の

事項である。

(4) この点,被告は,本件発明に係る作用効果を奏する油性液状クレンジン

グ用組成物を得るためには(E)成分が必須であるのに,(E)成分で限定

されない本件各発明はサポート要件を欠くと主張するようであるが,@本件

明細書において(E)成分が任意成分として記載されていること,A実施

及び比較例の全例に(E)成分が含まれており,本件各発明が(E)成分に

よって特徴付けられたものではないことが明らかであること,B(E)成分

69
を欠く組成であっても本件各発明に係る作用効果を奏する油性液状クレンジ

ング用組成物を得ることが可能であること(甲27,乙2の8)から,被告

の主張が失当であることは明らかである。

(5) したがって,本件各発明の特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明

記載したものであり,特許法36条6項1号に違反するものではないから,

本件各発明は特許無効審判により無効とされるべきものに当たらない。

17 争点(5)サ(本件各発明は特開2002−348211号公報に係る発明か

容易に想到することができたものとして特許法29条2項に違反するもの

か。)

(被告の主張)

(1) 損害論に入った段階においても,明白な無効理由があるときに,これに

関する追加主張をすることは時機に後れた攻撃防御方法に当たらないと解さ

れるところ,本件各発明に関しては,以下のとおり明白な無効理由が存在す

る。

なお,被告は,平成23年12月19日の第11回弁論準備手続期日にお

いて上記主張を行ったものであるところ,被告は,同日時点において,同月

末で被告各製品の販売を停止することを決定していたから,被告に本件訴訟

不当に遅延させる目的などなく,実体的真実発見の観点から純粋に主張立

証を追加するものにすぎない。

(2) 特開2002−348211号公報(乙36の2)に係る発明に基づく

本件発明1の進歩性欠如の主張について

ア 上記公報に係る発明は,ポリグリセリン脂肪酸エステルと陰イオン界面

活性剤を必須成分とする透明化粧料組成物に関するものであり,その実施

例7(【0019】)には油剤を含有するクレンジングオイルが記載され

ているから,上記発明は,油剤,ポリグリセリン脂肪酸エステル及び陰イ

オン界面活性剤を含有する透明化粧料に関する発明であると認定できる。

70
イ 本件発明1と特開2002−348211号公報に係る発明は,油剤

(A),ポリグリセリン脂肪酸エステル(C)及び陰イオン界面活性剤

(D)を含有する化粧料である点で一致し,@本件発明1においてポリグ

リセリン脂肪酸エステルの炭素数が8〜10に限定されているのに対し,

当該発明ではこのような限定がない点及びA本件発明1ではデキストリン

脂肪酸エステル(B)が必須成分とされているのに対し,当該発明では同

成分について記載がない点で相違する。

ウ 上記相違点@について

特開2005−162691号公報(乙36の1)には,多量の水を可

溶化し得る油中水型のマイクロエマルションを形成することができ,かつ

水中での分散性及び自己乳化性にも優れたポリグリセリン中鎖脂肪酸エス

テル含有組成物及び該組成物を含有した化粧料を提供することを課題とし,

炭素数6〜10の中鎖脂肪酸とポリグリセリルのエステル及び非イオン系

界面活性剤を必須成分とする化粧料が開示されている。その【0013】

欄には,中鎖脂肪酸の炭素数は好ましくは8〜10であると記載されてい

る。上記公報に係る発明は原告自身の出願に係るものである上,原告の先

行発明である特開2006−22004号公報(乙39の1),特開20

09−242253号公報(乙39の2)にも,炭素数8〜10のポリグ

リセリン脂肪酸エステルが利用されていることにかんがみると,特開20

02−348211号公報(乙36の2)に係る発明にこれらの公報に係

る発明に発明を組み合わせ,ポリグリセリン脂肪酸エステルの炭素数を8

〜10のものに限定することは容易想到である。

エ 相違点Aについて

クレンジングオイルにおける塗布容易性の実現は一般的課題ともいえる

ものであるところ,デキストリン脂肪酸エステルを増粘剤として用いるこ

とは公知技術である上,特開2002−348211号公報(乙36の

71
2)には,油ゲル化剤としてデンプン脂肪酸エステルを含有させ,化粧料

を透明〜半透明の液状から粘稠なペースト状にまで適宜調整することがで

きると記載されているから,上記公報に係る発明にデキストリン脂肪酸エ

ステルを組み合わせることは容易想到である。

オ したがって,本件発明1は進歩性を欠き,無効とされるべきものである。

(3) 本件発明1は上記のとおり進歩性を欠き無効とされるべきものに当たる

ところ,本件発明2は,本件発明1の構成に加え,その粘度を限定したもの

であるが,上記粘度の限定は当業者にとって適宜なし得る設計事項である。

また,本件発明3は,本件発明1の構成に加え,陰イオン界面活性剤の成分

を限定し,かつ,上記限定に係る成分の水溶液を使用するものとしたもので

あるが,上記陰イオン界面活性剤の限定は特開2002−348211号公

報(乙36の2)に係る発明におけるものと一致している上,上記陰イオン

界面活性剤を水溶液で用いるべきことは当業者にとって公知である。したが

って,本件各発明は,いずれも進歩性を欠き無効とされるべきものである。

(原告の主張)

被告は,平成23年5月31日の第5回弁論準備手続期日までで侵害論に関

する主張立証が終了したにもかかわらず,訴訟終了段階にある同年12月19

日の第11回弁論準備手続期日において,同年12月14日付け準備書面(6)

(16頁〜18頁)で,特開2002−348211号公報を主引例とする無

効主張を追加した。

上記公報は,原告が訴状とともに書証(甲4の1)提出したものであり,か

つ,訴状において,これを引用文献1とした拒絶理由通知(甲3の3)に対し,

手続補正(甲3の4)及び意見書提出(甲3の5)を行い特許査定に至ったこ

とにつき説明済みのものであり,被告は,平成23年5月31日までの時点で,

上記公報につき十分に検討済みであったことが明らかである。

したがって,被告のこれらの主張が,故意又は重大な過失により時機に後れ

72
て提出された主張であり(民訴法157条1項),また,審理を不当に遅延

せることを目的として提出されたものである(特許法104条の3第2項)こ

とは明白であり,却下されるべきである。

18 争点(6)(販売行為等の差止め及び廃棄の可否)

(原告の主張)

(1) 被告は,原告から,前記前提事実(4)のとおり,被告製品1が本件各発明

技術的範囲に属する旨の警告書の送付を受け,これを受領したにもかかわ

らず,被告製品1の製造販売を継続し,さらに,平成22年6月ころからは,

被告化粧品セットの製造販売を開始したものである。

(2)ア 被告は,当庁平成23年(ヨ)第22078号仮処分命令申立事件の

平成23年12月2日付け審尋期日において,原告に対し,平成24年1

月1日以降,被告製品1及び被告化粧品セットを製造し,販売し又は販売

の申出をしないことを確認する旨陳述し,かつ,本訴において,被告化粧

品セットについては平成23年3月に既に製造販売等を終了している旨主

張し,また,被告製品1については,同年12月末日をもって製造販売等

を終了した旨主張している。

イ しかし,被告化粧品セットについては,被告自身が,平成23年10月

3日付け訴え変更申立書に対する答弁(被告準備書面(5)の第2の3)に

おいて,「現在被告が…被告化粧品セットの製造販売を停止していない事

実は認め」と述べているから,被告化粧品セットの製造販売を平成23年

3月に終了した旨の被告の主張を信用することはできない。

また,被告製品1については,インターネット通販市場において,平成

24年1月以降も被告製品1が販売されている事実が確認されている(甲

64,65)。加えて,被告は,同月以降,被告製品1のリニューアルと

称して,「DHC ニューマイルドタッチクレンジングオイル」(被告新

製品)の製造販売を開始しているが,その製品名は「ニュー」部分を除き

73
被告製品1と同一である上,そのボトル,化粧箱の形状は「ニュー」等の

文字が追加された点を除き被告製品1とほぼ同一であり,被告が,被告製

品1と被告新製品との実質的同一性を維持しようとしたことが推認される。

すなわち,被告は,被告新製品において一時しのぎに成分を改めたもの

にすぎず,今後,被告製品1を復活させる蓋然性が極めて高いと評価され

るべきであって,今後も被告製品1及び被告化粧品セットの製造販売が行

われるおそれがあるものと考えられる。

(3) したがって,本件特許の侵害のおそれはいまだあるものというべきであ

り,上記侵害行為の差止め並びに侵害予防に必要な行為としての被告製品

1及び被告化粧品セットの廃棄請求はいずれも認められるべきである。

(被告の主張)

(1) 原告の主張は争う。

(2) 被告は,平成23年3月に被告化粧品セットの製造,販売及び販売の申

出をすべて終了しており,かつ,平成23年12月末日をもって,被告製品

1の製造,販売,販売申出をすべて終了した。

(3) したがって,被告製品1及び被告化粧品セットの販売等の差止めを求め

る原告の請求には理由がないこととなる。

また,廃棄請求は侵害停止に附随してのみ認められる請求であるから,こ

の点についても差止請求と同様に理由がなく,当該請求は認められるべきで

はない。

19 争点(7)(損害額

(原告の主張)

(1) 被告は,平成21年1月から被告150mL製品の製造販売を行い,平

成22年6月ころからは被告50mL製品を含む被告化粧品セットの製造販

売を開始し,さらに,遅くとも平成22年7月ころから,被告100mL製

品の製造販売を開始した。

74
したがって,本件特許権の設定登録日である平成21年8月14日以降,

被告が被告各製品を製造,販売した行為は,本件特許権侵害を構成する。

(2) 原告は,平成16年8月以降,原告製品を製造販売している。

原告は,被告各製品の製造販売により,原告製品についての取引機会を喪

失するという損害を被った。また,原告は,被告各製品による本件特許権侵

害を停止させるため,警告書の2回にわたる送付(甲11,13),本件訴

訟の提起等を余儀なくされ,弁護士費用相当額の損害を被った。

したがって,原告は,被告に対し,民法709条に基づき,平成21年8

月14日から平成23年9月30日までの逸失利益相当額及び弁護士費用に

係る損害賠償請求権(附帯請求として,その遅延損害金)を有する。

(3) 主位的請求(特許法102条2項による推定額の請求)

ア 被告各製品の売上高

(ア) 「化粧品マーケティング要覧」(甲43,44)によれば,被告製

品1の販売開始時である平成21年1月以降の被告の「クレンジングオ

イル」売上高は下記のとおりである。

a 平成21年1月〜12月 60.5億円

b 平成22年1月〜12月 59.5億円

c 平成23年1月〜12月 59.0億円(見込み)

(イ) 被告の製造販売する「クレンジング」は,@薬用ディープクレンジ

ングオイル,Aサンカットクレンジングジェル,Bマイルドタッチクレ

ンジングオイル(被告各製品),Cホイップクレンジングオイル,Dク

レンジングミルク,Eメークオフシート,Fウォーターパワークレンジ

ング,Gポイントメークアップリムーバーの合計8点であり,このうち,

「クレンジングオイル」に該当するものは,@薬用ディープクレンジン

グオイル,B被告各製品及びCホイップクレンジングオイルであるが,

Cは平成22年にその販売を終了している。また,@薬用ディープクレ

75
ンジングオイルとB被告各製品との関係についてみると,被告は,以前

は薬用ディープクレンジングオイルを主力製品としていたが,被告各製

品の販売開始後は,主力が被告各製品に移行しつつあることが被告自身

の広報内容(甲8の2,40の1,3〜9),市場動向調査結果(甲4

3,44)等から明らかである。

そうすると,上記(ア)のクレンジングオイル売上高中に被告各製品が

占める割合は,以下のとおり推定される。

a 平成21年 約40%

b 平成22年 約50%

c 平成23年 約50%

(ウ) そうすると,本件特許登録日である平成21年8月14日から平成

23年9月30日までの被告各製品の売上高は,下記計算式のとおり6

1億0964万円と推定される。

a 平成21年分(8月14日〜12月31日)

60.5億円×140/365×40%=9億2821万円(1万

円未満切り捨て)

b 平成22年分(1月1日〜12月31日)

59.5億円×50%=29億7500万円

c 平成23年分(1月1日〜9月30日)

59億円×273/365×50%=22億0643万円(1万円

未満切り捨て)

d a+b+c=61億0964万円

イ 被告各製品の利益率

被告150mL製品の粗利益率が低く見積もっても60%以上と推定さ

れること,原告を含む国内の代表的化粧品製造メーカーの売上高総利益が

概ね65〜80%であること,その化粧品事業に関する営業利益率が概ね

76
10〜20%であること,被告が,被告各製品を「大人気」商品として広

報していること(甲40の4等)を考慮すれば,売上高に被告各製品が占

める利益額の割合(利益率)は少なく見積もっても40%を下回らないも

のと推定される。

ウ したがって,被告各製品の製造販売により被告が得た利益額は,下記計

算式のとおり,24億4385万円を下らない(特許法102条2項)。

61億0964万円×40%=24億4385万円(1万円未満切り捨

て)

エ 弁護士費用

本件事案の内容,性質,被告による訴訟追行の状況等にかんがみれば,

本件訴訟提起等に要する弁護士費用のうち,本件特許権侵害行為と相当因

果関係にある損害額は2億4000万円を下らない。

オ 一部請求

(ア) 原告は,特許法102条2項の適用に係る損害額24億4385万

円のうち7億円及び弁護士費用に係る損害額2億4000万円のうち1

000万円の合計7億1000万円の支払を請求する。

(イ) なお,特許法102条2項の適用に係る損害額につき7億円までの

請求が認められないとした場合には,7億1000万円から102条

項の適用に係る損害の認容額を控除した残額のうち,弁護士費用に係る

損害額2億4000万円内の認定額に満つるまでの金額を弁護士費用と

して請求する。

カ 同項の適用について

(ア) 被告は,原告が本件各発明を実施していない以上,特許法102条

2項は適用されない旨主張するが,本件において特許法102条2項

適用されるべきは当然である。

(イ) 特許法102条2項の推定を受けるための前提として,特許権者側

77
は損害(逸失利益)の発生につき主張立証責任を負担するところ,侵害

行為による逸失利益が生じるのは,権利者が当該特許を実施している場

合に限定されるとする理由はなく,諸般の事情により,侵害行為がなか

ったならばその分得られたであろう利益が権利者に認められるのであれ

ば,同項が適用されると解すべきである(東京地判平成21年8月27

日参照)。

(ウ) 原告製品と被告各製品は,同じ「マイルド」タイプのクレンジング

オイルとして,市場において競合している。

原告は,平成16年,業界に先駆けて,濡れた手で用いることができ

る製品として原告製品の販売を開始し,大ヒット商品となった。被告各

製品が,原告製品を意識した「マイルド」を標榜していること,「濡れ

た手や顔で使える」ことをセールスポイントとしていること,被告各製

品の宣伝広告手法が原告のものと極めて類似していることからすれば,

被告が,先発商品である原告製品の競合品として被告各製品の製造販売

を開始したものと評価されるべきは当然である。

クレンジングオイル分野は成熟市場である上,原告と被告は,同市場

におけるシェアの上位二社を占め,その売り上げは拮抗している(甲4

3,44)。また,原告と被告は,その主力事業,主力販売手段も共通

しており,互いに市場を奪い合う関係にある。

(エ) 以上の事情によれば,原告が,被告各製品の製造販売により,原告

製品の取引機会を喪失したことは明らかであり,被告各製品の製造販売

がなければ,原告に同額の利益が計上されたはずであるから,本件に特

許法102条2項が適用されるべきである。

(オ) なお,原告は,原告製品以外の別製品として,本件特許の実施を検

討中である。

(4) 予備的請求(特許法102条3項による推定額の請求)

78
ア 仮に,本件において特許法102条2項が適用されないとした場合には,

特許法102条3項に基づき下記のとおり推定される損害額を予備的に請

求する。

イ(ア) 平成10年5月6日法律第51号による特許法102条3項(同改

正前の特許法102条2項)改正の趣旨にかんがみ,同項に基づき発明

実施に対して受けるべき額を定めるに当たっては,特許発明の価値,

当事者の業務上の関係,侵害者の得た利益等の諸般の事情を考慮して,

適用料率を決めるべきである。

(イ) 本件特許は化粧品に係るものであるところ,化粧品の原価率が極め

て低いことを考慮すれば,原告が仮に本件特許を実施許諾するとした場

合,相当高額の実施料率を提案するはずである。本件特許の経済的価値

が高いことは,被告が過去に販売していた,濡れた手で用いることがで

きるクレンジングオイルは,販売中止に追い込まれるほど売れない商品

であったところ,本件特許の侵害品である被告各製品は,被告の従前の

人気商品であった薬用ディープクレンジングオイルから需要がシフトす

るほどの高い評価を受けるものとなったことから明らかである。なお,

被告は,本件特許の侵害品である被告各製品が売れた理由は被告各製品

が低価格であるからと主張するが,低価格実施を可能にしたのは本件各

発明の構成に起因するものであるから,被告の主張は,本件特許の価値

が高いことを自認するものにほかならない。

(ウ) これに加えて,本件においては,適用すべき料率を通常のライセン

ス契約における実施料率と比較して格段に高いものとすべき以下の事情

がある。

a 被告は,原告の警告書(甲11,13)を無視し,本件訴訟提起後

も被告各製品の製造販売を中止しようとせず,これは,裁判所の心証

開示後も同様であった。

79
b 原告は,第三者に対して本件特許につき実施許諾をしておらず,今

後も実施許諾するつもりはない。仮に,被告が原告に対し本件特許の

実施許諾を求めたとしても,競業者であり,かつ,原告の主力商品で

ある原告製品と競合する製品である被告各製品の製造販売者である被

告に対し実施許諾することはあり得ない(甲57)。

(エ) したがって,特許法102条3項に基づき原告の受けるべき金銭の

額を定めるに当たって適用すべき料率は20%とするのが相当であり,

原告が受けるべき金銭の額は下記計算式のとおり12億2192万円と

なる。

61億0964万円×20%=12億2192万円(一万円未満切り捨

て)

(オ) 特許法102条3項により,同額が原告の受けた損害額と推定され

る。

ウ 弁護士費用

前記(3)エと同様である。

エ 一部請求

(ア) 原告は,特許法102条3項の適用に係る損害額12億2192万

円のうち7億円及び弁護士費用に係る損害額2億4000万円のうち1

000万円の合計7億1000万円の支払を請求する。

(イ) なお,特許法102条3項の適用に係る損害額につき7億円までの

請求が認められないとした場合には,7億1000万円から102条

項の適用に係る損害の認容額を控除した残額のうち,弁護士費用に係る

損害額2億4000万円内の認定額に満つるまでの金額を弁護士費用と

して請求する。

(5) 被告の主張について

ア 売上額について

80
(ア) 被告は,平成21年1月1日〜平成23年9月30日までの間にお

ける被告製品1及び被告化粧品セットの売上高が合計●省略●であると

主張し,その根拠として乙21の1ないし6号証を提出するが,上記書

証は,「純注文金額」及び「純売上額」欄の下4桁並びに合計数値欄の

合計金額を除いた数値の全てが黒塗りされているものである上,被告は,

会社の売上高,その内訳,財務諸表その他の書類に基づいて上記数値が

正しいことを説明しないから,上記書証に信憑性はなく,被告の主張す

る売上高は実質的に根拠のないものである。

(イ) 売上高を乙21の1ないし6号証に基づき算出するとしても,被告

の計算は下記のとおり誤りを含むものである。

a 被告の主張する売上高は,乙21の1ないし6号証記載の各金額の

うち,消費税込みで表示されているもの(乙21の1,2,4,5号

証記載の金額)から,消費税相当額を控除して算出したものと推定さ

れるが,売上高は消費税相当額を含めて算出するべきである。

b 被告は,被告化粧品セットの売上高(乙21の4及び5記載の金

額)につき,1個当たりの売上額1800円のうち400円が被告5

0mL製品に係る売上分であるとして計算しているが,被告化粧品セ

ットは,被告50mL製品を必須構成要素として含むものであり,全

体として本件特許を侵害するものであるから,売上高にはその全額を

含めるべきである。

したがって,乙21の1,2,4,5号証記載の各金額について消費

税相当額を含む額とし,被告化粧品セットに係る売上分の全額を売上高

に含めて計算すると,売上高は合計●省略●となる。

(ウ) 原告は,上記期間における被告の売上高が少なくとも●省略●であ

るとの点は認める。

イ 利益率について

81
被告は,営業利益率に基づき被告各製品の利益率を主張するが,上記営

業利益率は,被告の会社全体に係る利益率であり,特定の製品の製造販売

とは関係のない経費が多数含まれるものであって,特許法102条2項

おける「利益」算定に際して直接用いることのできるものではない。

化粧品事業における営業利益率(平均)は,原告14.6%,資生堂9.

1%,コーセー10.4%,ノエビア14.5%,ドクターシーラボ21.

6%と高水準であるところ,被告の主張する営業利益率もこれらとほぼ同

レベルにある。

被告は,利益率の悪い健康食品事業も扱っているため,化粧品に係る利

益率はこれより高いものと推定されるから,原告の主張する被告各製品に

係る利益率(40%)は合理性を有するものである。

(被告の主張)

(1) 原告の主張のうち,売上高に関する点については否認し,その他法的主

張に関する点は争う。原告の主張する期間における被告製品の売上合計額は,

●省略●である。

(2) 特許法102条2項が適用されないこと

ア 特許法102条2項は,損害額の推定規定であり,損害の発生まで推定

した規定ではないから,発明の実施によって得べかりし利益相当の損害が

特許侵害により発生したことの立証がない場合には,同条項を適用するこ

とはできないところ,権利者が,当該特許を実施した製品の製造販売を行

っていない場合には,特許法の趣旨にかんがみ,上記逸失利益の損害は発

生しないというべきであり,同条項を適用する余地はない(東京高判平成

3年8月29日参照)。また,従前の上級審裁判例は,権利者が侵害品と

競合する製品を製造販売している場合にも,同条項の適用を否定している

(東京高判平成11年6月15日判時1697号96頁)。

イ 理論的にも,特許権者が当該特許発明実施していない場合には,同項

82
の適用を否定するのが相当である。

すなわち,特許権者が特許法102条2項適用の前提として主張立証す

べき損害は,侵害者が侵害行為により得た利益と同内容のもの(権利者が

現にしている特許発明実施又はこれからしようとしている特許発明の実

施を妨げられたこと)でなければならないところ,特許権者が当該特許発

明を実施していない場合は,権利者に上記のような損害が生じることはな

い。また,侵害者は特許権者が製造販売している類似品と同じものを製造

販売し,その製造販売によってもほぼ同数の製造販売を行い得たはずであ

るから,侵害者の製造販売量をそのまま当該特許権の使用によるものとみ

ることはできず,かつ,類似品の製造販売をしている特許権者は,侵害

と同じ特許実施品を製造販売することは容易であるのにそれをしなかった

のであり,侵害行為がなければ侵害品に関する取引の機会を得たはずであ

るという実態もない。

加えて,特許法102条2項は,特許権侵害の場合の逸失利益損害額

立証について権利者の負担を軽減するために設けられた推定規定であり,

規範的な価値判断に基づく特許権保護規定であるということができるとこ

ろ,権利者が非実施品である競合品のみを製造販売している場合にも,権

利者が当該特許を実施している場合と何ら違いなく同項が適用されるとす

れば,結果的に,損害賠償請求に関し,非実施品についても実施品と同じ

特許権保護の効果が及ぶことになり,不合理であるといわざるを得ない。

特許法1条の趣旨にかんがみ,特許法の目的が発明の非実施を積極的に保

護するところにないことは明白であり,特許権者が発明を実施しないこと

を選択した場合に,発明を実施している場合の保護と同等の保護が与えら

れず,結果的に損害賠償金額が少額となったとしても,それは,特許権者

において選択の結果として甘受すべきところである。

ウ 特許法102条2項の推定の覆滅又は同項を適用すべき事情の不存在

83
(ア) 原告は,特許権者が当該特許発明実施していない場合でも,諸般

の事情により,侵害行為がなかったならばその分得られたであろう利益

が特許権者に認められるのであれば,特許法102条2項が適用される

と解すべきであると主張するが,本件において,被告各製品の販売がな

ければ原告が原告製品を販売することができたと認められるべき事情は

ないから,原告の主張する前提に立ったとしても,特許法102条2項

が適用されることはない。また,同項を適用したとしても,以下の事情

にかんがみれば,同項による推定の覆滅が認められるべきである。

(イ) すなわち,クレンジング商品には多数の種類が存在し(甲44),

オイルクレンジングについても多数の種類が市場に出回っており(乙8

の1・2),濡れた手で使用できるクレンジングオイルも多数存在する

上(乙14の1ないし16),近年は,オイルクレンジング以外の製品

のニーズが高まっている(甲44,乙7)。その中で,各ランキングサ

イトにおいて原告製品と被告各製品が上位で競合しているという事実は

なく(乙8ないし13),原告製品のシェアは27%にとどまっており,

原告がシェアを独占しているような事情は全くない。

また,原告製品は,120mlで1785円(1ml当たり14円)

であるのに対し,被告製品は150mlで1200円(1ml当たり8

円)であり,原告製品の方が明らかに高額である。クレンジングについ

て低価格志向が続いている(乙43)中で,原告製品が被告各製品より

高額であることは,被告各製品がなければ原告製品を購入することに直

ちに結びつかないことを強く推認させる事実である。

さらに,被告が会員制,ポイント制などを採用することで,自社製品

の購入を継続してもらう戦略を採用していること,通販事業における会

員は,同じ会社の製品を購入し続けることが多いことからすれば,被告

各製品がなかった場合にも,消費者は,原告製品ではなく,被告の他製

84
品を選択した可能性が高いというべきである。そもそも,被告各製品の

購入者のうちの相当数は,従前,被告の他製品の購入者であった可能性

が高いのであり,平成20年から平成23年までのオイルタイプクレン

ジング市場のシェアにおいて,被告各製品の登場により,原告製品のシ

ェアが縮小したというような事情はないことも考慮すると,被告各製品

の登場により,原告製品の購入者が奪われたというような状況にないこ

とが明らかである。

加えて,商品の性質上,原告製品が肌に合わない消費者も当然存在す

ること(乙20)も考慮すれば,被告各製品がなければ,消費者が原告

製品を購入していたと認めるに足りない。

もし,原告製品の売上げが低迷しているとしても,それは,原告製品

のリニューアルなどの他の要因によるものであって,被告各製品の影響

によるものとは考えられない。

(ウ) したがって,本件において,特許法102条2項に基づき損害額

推定されることはない。

(3) 特許法102条2項を適用した場合における損害額について

ア 仮に本件において特許法102条2項が適用されるとしても,被告各製

品に対して乗ずるべき利益率は,被告の営業利益率である●省略●(乙5

2)とするのが相当である。

すなわち,特許法102条2項にいう利益額とは,売上額から,販売に

直接要する費用である変動費及び固定費の中で対象製品に直接関連する経

費(直接固定費)を控除した利益(貢献利益)を指すものと解すべきとこ

ろ,本件において,原告は本件特許発明実施していないのであるから,

原告が被告各製品の利益額をもって損害額であるという場合,本件特許発

明の実施は原告にとって新規事情となり,原告から,固定費の増額なくし

て上記新規事業が実施できたとの主張立証がない限り,特許法102条

85
項にいう利益額は,全ての販売管理費を控除した額(営業利益)を基準と

するべきである。

イ また,特許法102条2項の適用に当たっては,当該製品の売上額への

当該発明の寄与度を考慮するのが実態に合った損害額算定方法であると

いうべきところ,被告各製品は白濁しており,本件各発明による透明性と

いう作用効果を享受するものではない上,店頭において不透明なピンク色

のボトル容器に入って販売されており,本件各発明の作用効果がその売上

に何ら寄与していないことは明白である。

よって,本件各発明の売上げへの寄与度は0%であるといわざるを得な

い。

ウ したがって,特許法102条2項を適用したとしても,原告の損害額

ゼロとなり,弁護士費用についても認められない。

(4) 特許法102条3項を適用した場合における損害額について

ア 最判平成9年3月11日民集51巻3号1055頁は,「登録商標に類

似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場

合であっても,当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず,登録商標に

類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していな

いことが明らかなときは,得べかりし利益としての実施料相当額の損害も

生じていないというべきである。」と判示し,損害不発生の抗弁を認めて

いる。

イ 上記最高裁判例は商標に関するものであるが,その射程は特許にも及ぶ

ものと解されるのであって,ある製品が特許権を侵害する場合であっても,

当該特許権がその製品の売り上げに全く寄与していないことが明らかなと

きは,損害不発生の抗弁が認められるべきである。

ウ 本件各発明は透明性をその作用効果とするが,被告各製品は白濁してい

る上,不透明な容器に入って販売されており,透明性という本件各発明の

86
作用効果は被告各製品の売上げになんら寄与していない。また,被告各製

品は塗布容易性を実現しているが,増粘技術としてデキストリン脂肪酸エ

ステルや(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルを使用すること自体は

技術常識であり,塗布容易性に関し,本件各発明が寄与しているわけでは

ない。被告各製品の売上げは,被告のブランド力やその価格,製品品質

(「ペリセア」を使用したことによる諸効果,とりわけ,水を多く取り込

むという特徴など),被告の販売努力等に起因するものであり,本件各発

明とは無関係である。

エ 以上のとおり,本件各発明の作用効果は被告にとって無用のものであり,

実施料を支払ってまで許諾を受ける必要の全くないものであるから,被告

各製品に関し,特許法102条3項にいう「特許の実施に対し受けるべき

金銭の額」はゼロである。

オ したがって,特許法102条3項を適用した場合においても,損害額

ゼロとなり,弁護士費用についても認められない。

(5) 権利濫用の主張

被告が本件特許公報発行に先立って被告製品1の販売を開始したものであ

り,被告各製品は本件各発明を模倣したものではなく,構成要件の形式的一

致はまさに偶然によるものであること,被告各製品の販売停止により,被告

各製品を愛用する多くの消費者に影響が出ること,本件各発明の作用効果が

被告各製品の売上げに全く寄与していないことなどの事情にもかかわらず,

本件各発明を実施しておらず,かつ,実施する意思もないという原告が,被

告に対し,7億円を超える莫大な損害賠償を請求することは,特許権の行使

に仮託して特許権の潜在的価値とはかけ離れた利益をむさぼろうとしている

ものと評価すべきであるから,権利の濫用に当たり,民法1条3項に違反し

許されない。

第4 当裁判所の判断

87
1 争点(1)(被告各製品が本件発明1の技術的範囲に属するか。)

(1) 争点(1)ア(構成要件1−Dの充足性)

ア 構 成 要 件 1 − D ( 陰 イ オ ン 界 面 活 性 剤 ( D ) が , ジ脂肪酸アシルグ

ルタミン酸リシン塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩,N

−脂肪酸アシルメチルタウリン塩,脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタ

ミン酸塩,N−脂肪酸アシルメチルアラニン塩,N−脂肪酸アシルアラ

ニン塩,N−脂肪酸アシルサルコシン塩,N−脂肪酸アシルイセチオン

酸塩,アルキルスルホコハク酸塩,アルキルリン酸塩のいずれか又は複

数である)の意義

(ア) 本件明細書には,構成要件1−Dに関し,以下の記載がある 。

a 【発明の効果】【0006】本発明の油性液状クレンジング組

成物は,油剤(A),デキストリン脂肪酸エステル(B),炭素

数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエステル(C)及び陰イ

オン界面活性剤(D)の4成分を含むことにより,透明性が確保

でき,塗布性など使用感に優れた粘性を有する油性液状クレンジ

ングを提供することができた。

特に,デキストリン脂肪酸エステル(B)と陰イオン界面活性

剤(D)を組み合わせて用いることにより,透明性と適度な粘性

を保有した油性液状クレンジングを実現できた。

本発明の油性液状クレンジング組成物は,手や顔に水が付着し

た状態で使用してもクレンジング力を十分に発揮することができ

る。

b 【0014】[D成分]本発明の油性液状クレンジング組成物

を構成する(D)成分として,陰イオン界面活性剤を使用する。

例 え ば , ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩,ポリオキシエチレ

ンアルキルエーテル硫酸塩,N−脂肪酸アシルメチルタウリン塩,

88
脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂肪酸アシルメ

チルアラニン塩,N−脂肪酸アシルアラニン塩,N−脂肪酸アシル

サルコシン塩,N−脂肪酸アシルイセチオン酸塩,アルキルスルホ

コハク酸塩,アルキルリン酸塩等が挙げられる。

c 【0015】陰イオン界面活性剤は水溶液として処方中に配合す

ることが好ましい。陰イオン界面活性剤を直接配合すると均一に分

散することが困難となる。陰イオン界面活性剤の配合量は0.1〜

1質量%が好ましい。0.1質量%未満では,デキストリン脂肪酸

エステルを透明に分散させる効果が得られ難く,1質量%以上では,

陰イオン界面活性剤が析出する恐れがある。

d 【0016】[その他の成分]本発明の油性液状クレンジング用

に,(C)成分を水溶液として配合することが好ましい。そうする

ことにより,油性液状クレンジング用組成物に極性の高い(C)成

分を効果的に分散させることができる。…

e 【0031】[考察](1)(D)成分である陰イオン界面活性

剤を含有する実施例1〜7の油性液状クレンジング用組成物はいず

れも,透明で,750nmの光の透過率が75%以上であり,安定

であり,300mPa・s以上の粘度を有し,水を混合したときの

メイク落ちに優れ,目標部位への塗布が容易であった。

(2)(D)成分である陰イオン界面活性剤を含有しない比較例1〜

3は,濁りが生じ,40℃2週間で沈降が生じ,粘度は300mP

a・sに達せず,顔面への塗布が容易ではなかった。…

(5)陰イオン界面活性剤(D)の替わりに陽イオン界面活性剤

(F)を配合した比較例6は,濁りが生じ,粘度が300mPa・s

に達せず,顔面への塗布が容易ではなかった。

なお,上記dの「(C)成分」との記載は,いずれも「(D)成

89
分」の誤記である(争いがない。)。

(イ ) 一般に,界面活性剤とは,水に対して強い表面活性を示す物質

であり,分子内に親水性の部分と疎水性(親油性)の部分とをあわ

せもち,その親水親油バランスによって,水−油の2相界面に強く

吸着されて,界面の自由エネルギー(界面張力)を著しく低下させ

る作用を示すものをいう。界面活性剤のうち,親水基が水中で解離

して陰イオンとなるものを陰イオン界面活性剤という。親水基の具

体例として,カルボキシ基,スルホ基,硫酸水素基が挙げられる

(以上につき甲24の1,2)。

構成要件1−Dにおいて,陰イオン界面活性剤として挙げられて

い る 各 物 質 ( ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩,ポリオキシエチ

レンアルキルエーテル硫酸塩,N−脂肪酸アシルメチルタウリン塩,

脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミン酸塩,N−脂肪酸アシルメチ

ルアラニン塩,N−脂肪酸アシルアラニン塩,N−脂肪酸アシルサル

コシン塩,N−脂肪酸アシルイセチオン酸塩,アルキルスルホコハク

酸塩,アルキルリン酸塩)は,いずれも,陰イオン界面活性剤の上記

一般的意義に沿う性質を有する物質であり(乙2の3),上記(ア)の

本件明細書の記載をみても,陰イオン界面活性剤の技術的意義に関し,

上記と別異に解するべき記載は見受けられない。

(ウ) この点に関し,被告は,本件明細書に「陰イオン界面活性剤の配合

量は…0.1質量%未満では,デキストリン脂肪酸エステルを透明に分

散させる効果が得られ難く…」(上記(ア)c)との記載がある点や,本

件明細書の実施例の記載において,陰イオン界面活性剤を含有しない組

成物が「濁る」との外観を呈し,いずれも比較例とされていること

(【0030】【表2】の比較例1ないし3,6,7,上記(ア)e)な

どを挙げて,「陰イオン界面活性剤」(構成要件1−D)を,「デキス

90
トリン脂肪酸エステルを透明に分散させる作用を有する陰イオン界面活

性剤」と限定解釈するべきであると主張する。

しかし,本件明細書の【0015】の記載(上記(ア)c)は,陰イオ

ン界面活性剤の配合量の好適な下限値を,同剤を配合した場合の効果と

関連付けて記載したものにすぎない。また,【0030】【表2】の比

較例に関する点(上記(ア)e)は,本件発明1の(A)ないし(D)成

分からなる構成を欠く組成物について,安定性,メイク落ち,目標部位

への塗布容易性等において問題があったことを記載するものにすぎない

ものであって,陰イオン界面活性剤の作用について言及したものという

ことはできるものの,「陰イオン界面活性剤」(構成要件1−D)の意

義を限定する根拠となるべきものとは解されない。

(エ) また,被告は,本件明細書の【0006】欄,【0015】欄,

【0031】欄の記載内容によれば,構成要件1−Dの「陰イオン界面

活性剤」は,専らデキストリン脂肪酸エステル(B)を透明に分散させ

る作用を有する成分として記載され,それ以外の作用を有するとも,他

の成分が透明性をもたらすとも記載されていないから,「陰イオン界面

活性剤」(1−D)は,デキストリン脂肪酸エステルを透明に分散させ

る成分であることが明らかであると主張する。

そこで,本件明細書の記載をみるに,【発明が解決しようとする課

題】【0004】には,本件発明の課題が,「手や顔が濡れた環境下で

使用することができる透明な油性液状クレンジング組成物を提供するこ

とである。」とされ,【課題を解決するための手段】【0005】には,

透明性を含む課題の解決手段として,(A)ないし(D)の4つの成分

を含むことのみが記載されている。そして【発明の効果】【0006】

には,前記のとおり,「4成分を含むことにより,透明性が確保でき,

塗布性など使用感に優れた粘性を有する油性液状クレンジングを提供す

91
ることができた。」と記載され,それに続いて「特に,デキストリン脂

肪酸エステル(B)と陰イオン界面活性剤(D)を組み合わせて用いる

ことにより,透明性と適度な粘性を保有した油性液状クレンジングを実

現できた。」と記載されている。さらに,【発明を実施するための最良

の形態】【0007】には,「本発明の油性液状クレンジング組成物は,

油剤(A),デキストリン脂肪酸エステル(B),炭素数8〜10の脂

肪酸とポリグリセリンのエステル(C)及び陰イオン界面活性剤(D)

の4成分を含有する。この5成分(ママ)を含むことにより,透明性が

確保でき,塗布性など使用感に優れた粘性をもった油性液状クレンジン

グを開発した。」との記載がある。

これらの記載を総合してみれば,本件発明の効果である透明性は,

(A)ないし(D)の4成分によって達成されているとみるのが相当で

ある。上記の記載中「特に,デキストリン脂肪酸エステル(B)と陰イ

オン界面活性剤(D)を組み合わせて用いることにより,透明性と適度

な粘性を保有した油性液状クレンジングを実現できた。」との記載は,

他の構成要素である油剤(A)と炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセ

リンのエステル(C)が使用されることを前提とした上で,増粘剤であ

るデキストリン脂肪酸エステル(B)との関係では,陰イオン界面活性

剤(D)を組み合せることが透明性と適度な粘性の双方を実現する1つ

の要素となることを指摘しているのにとどまり,それを超えて,これら

の2成分の組合せのみが透明性に寄与するものとしているとは解されな

い。

(オ) したがって,被告の主張を採用することはできず,本件明細書の記

載に照らして検討しても,構成要件1−Dの意義は,上記(イ)でみた一

般的意義と同義に解釈するべきものと解される。

イ 被告各製品の構成要件1−D充足性

92
(ア) 前記前提事実(3)イ(イ)のとおり,被告各製品は,ジラウロイルグ

ルタミン酸リシンNaを含有するものであるところ,前記前提事実(3)

ウ(エ)のとおり,ジラウロイルグルタミン酸リシンNaは,構成要件

−Dの「ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩」に相当し,したがって,

「陰イオン界面活性剤」に該当する。

(イ) したがって,被告各製品は,構成要件1−Dを充足する。

(2) 争点(1)イ(構成要件1−Eの充足性)

構成要件1−E(油性液状クレンジング用組成物)の意義

(ア) 「油性液状クレンジング用組成物」とは,油性かつ液状の,クレン

ジングに用いられる組成物を意味するものと解されるところ,本件明細

書に,「皮膚の汚れやメイクアップ化粧料を落とす目的で,油性クレン

ジング料が上市されている。」(【0002】),「手や顔が濡れた環

境下で使用することができる透明な油性液状クレンジング用組成物」

(【0004】)などの記載があることにかんがみれば,「クレンジン

グ用」とは,顔に塗布した化粧料や皮膚汚れを落とす用途に用いること

を意味するものと解される。また,本件発明1は,(A)ないし(D)

成分を含有することを特徴とするものである。そうすると,「油性液状

クレンジング用組成物」とは,顔に塗布した化粧料や皮膚汚れを落とす

用途に用いられる,油性かつ液状の,(A)ないし(D)成分を含有す

る組成物を指すものと解するのが相当である。

(イ) この点に関し,被告は,本 件 発明 1 の 作 用 効 果 を , 透 明 性 の 確 保

の点にあると解した上で,上記「透明」を,「光の透過率75%以

上」,「直径4cmの円筒ガラス瓶に充填した際に,瓶を通して背

景像(紙に印刷した罫線)を認識できる」,または「透過率55%

以上であり,少なくとも透過率75%を大幅に下回るものは含まれ

ない。」と解釈し,「油性液状クレンジング用組成物」(構成要件

93
1−E)について,上記のとおり限定解釈された「透明」との作用

効果を奏する油性液状クレンジング用組成物に限定して解釈すべき

旨主張する。

(ウ ) そこで,被告の上記主張の当否について検討するに,本件明細

書の【特許請求の範囲】及び【発明の詳細な説明】には以下の記載

がある。

a 特許請求の範囲

【請求項1】,【請求項3】,【請求項4】の記載は前記前提

事 実 (2) イ ( ア ) な い し ( ウ ) の と お り で あ り , こ れ ら に 加 え て ,

【請求項2】として,「波長750nmの光の透過率が75%以

上であることを特徴とする請求項1に記載の油性液状クレンジン

グ用組成物」,【請求項5】として,「40〜95質量%の油剤

(A)と0.5〜5質量%のデキストリン脂肪酸エステル(B)

と1〜40質量%の炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンの

エステル(C)と0.1〜1質量%の陰イオン界面活性剤(D)

と0.1〜3質量%の水と1〜40質量%の(C)以外の非イオ

ン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれ

かに記載の油性液状クレンジング用組成物」との記載がある(以

下,【請求項1】ないし【請求項5】に係る各発明を併せて「本

特許発明」という。)。

発明の詳細な説明

@ 【背景技術】【0002】皮膚の汚れやメイクアップ化粧料

を落とす目的で,油性クレンジング料が上市されている。これ

はクレンジング効果を発揮させることを主眼として開発され,

液状の物が数多く開発されている。従来の油性クレンジング料

は,水で濡れた皮膚に使用すると,乳化物や懸濁物となって白

94
濁するため,クレンジング力が著しく低下するという短所を有

していた。しかし近年,10%程度の水が混入しても乳化した

り,増粘したりしない油性液状クレンジング用組成物が開発さ

れ,浴室や洗面台など手や顔が濡れた環境下で使用することが

できる製品として上市されている。

上記機能を持つ液状の油性クレンジング用組成物は,あらか

じめ水を配合したものであるか,水を多量に可溶化できるよう

に設計されており,製剤としての制約上すべてが低粘度のもの

であった。低粘度の油性液状クレンジング用組成物は手への取

りにくさや手指からの垂れ落ちが問題であり,使用時に目的部

分へ塗布することが難しい…。また低粘度の油性液状クレンジ

ング用組成物は,クレンジング中に塗布部に残りにくいため,

直接肌をこする行為となり,それが肌への刺激や使用中の不快

感につながっていた。

油性液状クレンジング用組成物を増粘する技術としては,

(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルを用いて増粘し,使

用中に手指から垂れ落ちることを防ぐ技術が開示されている…。

しかしながら,製剤の透明性が低いという問題点を有していた。

本出願人は,また,使用時に水分の混入量が増加してもクレン

ジング力を発揮するクレンジング用組成物…を提案した。

さらにまた,油性化粧料をデキストリン脂肪酸エステルで増

粘する技術が知られており…,透明に増粘する技術…も知られ

ているが,手や顔が濡れた環境下で使用することができる油性

液状クレンジング用組成物をデキストリン脂肪酸エステルで透

明に増粘する技術は知られていない。

A 【発明が解決しようとする課題】【0004】手や顔が濡れ

95
た環境下で使用することができる透明な油性液状クレンジング

用組成物を提供することである。

B 【発明の効果】【0006】本発明の油性液状クレンジング

用組成物は,油剤(A),デキストリン脂肪酸エステル(B),

炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンのエステル(C)及

び陰イオン界面活性剤(D)の4成分を含むことにより,透明

性が確保でき,塗布性など使用感に優れた粘性を有する油性液

状クレンジングを提供することができた。

特に,デキストリン脂肪酸エステル(B)と陰イオン界面活

性剤(D)を組み合わせて用いることにより,透明性と適度な

粘性を保有した油性液状クレンジングを実現できた。

また,25℃における粘度300〜1,000mPa・s,

波長750nmの光の透過率が75%以上の透明度を実現する

ことができた。

本発明の油性液状クレンジング組成物は,手や顔に水が付着

した状態で使用してもクレンジング力を十分に発揮することが

できる。

C 【発明を実施するための最良の形態】【0007】本発明の

油性液状クレンジング組成物は,油剤(A),デキストリン脂

肪酸エステル(B),炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリ

ンのエステル(C)及び陰イオン界面活性剤(D)の4成分を

含有する。この5成分(ママ)を含むことにより,透明性が確

保でき,塗布性など使用感に優れた粘性をもった油性液状クレ

ンジングを開発した。粘度は,25℃において,300〜1,

000mPa・sである。透明度は,波長750nmの光の透

過率が75%以上である。この4成分の他,水,B成分以外の

96
非イオン界面活性剤(E),陽イオン界面活性剤(F),両性

界面活性剤(G)を配合することができる。そして,手や顔に

付着した程度の水分が混入しても十分にクレンジング力を発揮

する。洗顔中でも乾かすことなくそのまま使用することができ

るクレンジング剤である。

D 【0018】[粘度]本発明の油性液状クレンジング用組成

物の粘度は25℃において,B型粘度計(ローター1,12r

pm,30秒)で測定したときに300〜1,000mPa・

sである。300mPa・s未満では,粘性が低すぎて,目標

部位への塗布が容易ではない。

E 【0019】[透明性]本発明の油性液状クレンジング用組

成物は透明性が高く,直径4cmの円筒ガラス瓶に充填した際

に,瓶を通して背景像(紙に印刷した罫線)を認識できる。本

発明の油性液状クレンジング用組成物について,吸光光度計を

用いて測定した場合,光路長1cmで,波長750nmの可視

光の透過率は精製水に対して75%以上である。

F 【実施例】【0022】(評価方法)実施例1〜7,比較例

1〜8の外観,安定性,粘度,水を混合したときのメイク落ち,

目標部位への塗布容易性を以下の基準により評価した。結果を

表1,2に示す。

G 【0023】(1)外観 油性液状クレンジング用組成物の

透明性を以下の基準により目視評価した。透明:直径4cmの

円筒ガラス瓶に充填した際に,瓶を通して背景像(紙に印刷し

た罫線)を認識できる。濁る:直径4cmの円筒ガラス瓶に充

填した際に,瓶を通して背景像(紙に印刷した罫線)を認識で

きない。

97
H 【0024】(2)可視光透過率 油性液状クレンジング用

組成物を光路長1cmの石英セルに入れて,精製水を対照資料

として,分光光度計(HITACHI U−2000A)で波

長750nmの透過率を測定した。

I 【0026】(4)粘度 25℃において,B型粘度計(ロ

ーター1,12rpm,30秒)で粘度を測定した。

J 【0029】【表1】(本件明細書7頁の【表1】のとお

り。)

K 【0030】【表2】(本件明細書8頁の【表2】のとお

り。)

(エ ) 本件明細書の上記記載内容に照らして検討すると,本件特許発

明は,従来技術において,手や顔が濡れた環境下で使用できる油性

クレンジング料はすべて低粘度であったことや,(ベヘン酸/エイ

コサン二酸)グリセリルを用いて油性クレンジング料を増粘した場

合には,得られた製剤の透明性が低くなること,デキストリン脂肪

酸エステルを用いて増粘した場合,透明に増粘することは可能であ

るが,手や顔が濡れた環境下で使用できる油性クレンジング料を増

粘することはできなかったことなどの問題点があったことから(上

記 (ウ )b @ ) , こ れ ら の 点 を 解 決 す る た め に な さ れ た も の で あ り ,

手や顔が濡れた環境下で使用できる,透明であり,かつ,使用感に

優れた粘性を有した油性液状クレンジング用組成物を提供すること

を そ の 作 用 効 果 と す る も の ( 上 記 (ウ )b @ 〜 B ) と い う こ と が で き

る。

上記の従来技術における課題及び本件特許発明の作用効果は,本

件特許の各請求項に係る各発明を特定することなく記載されている

ものであるから,上記作用効果は,本件特許発明に共通のものとし

98
て記載されているも のとみるのが相当である。

ま た , 上 記 (ウ )a の 本 件 特 許 請 求 の 範 囲 の 記 載 に 照 ら す と , 本 件

特許発明は,請求項1及び4において,(A)ないし(D)の4成

分からなる組成(請求項4については,そのうち(D)の成分をさ

らに限定し,かつ,水溶液を用いるものとしたもの)を記載したも

のであり,請求項2及び3において,請求項1の組成に,光の透過

率(請求項2)又は粘度(請求項3)という作用効果を加えた構成

を記載し,さらに,請求項5において,請求項1の組成に質量面か

ら限定を加え,かつ,含有すべき成分を追加した構成を開示するも

の で あ る か ら ( 上 記 (ウ )a ) , 請 求 項 2 な い し 5 は , い ず れ も 請 求

項1に開示された組成を基本構成とし,これに作用効果又は組成の

点から限定を加えたものということができ,請求項2及び3は,請

求項1の組成により奏することができる作用効果に比してより高い

作用効果を実現することができることを,具体的に数値によって特

定したものと解することができる。

これは,本件明細書に,「【発明を実施するための最良の形

態】」として,光の透過率に関し,請求項2に記載された数値と同

一の数値(波長750nmの光の透過率が75%以上),粘度に関

し,請求項3に記載された数値と同一の数値(25℃において,3

0 0 〜 1 0 0 0 m P a ・ s ) が 各 記 載 さ れ て い る こ と ( 上 記 (ウ )b

C)や,【0010】ないし【0017】において,「(A成分に

関し)40〜95質量%が好ましい。」(【0010】),「(B

成分に関し)0.5〜5質量%が好ましい。」(【0011】),

「(C成分に関し)1〜40%…で配合するのが好ましい。」

(【0013】),「(D成分に関し)水溶液として処方中に配合

するのが好ましい。配合量は0.1〜1質量%が好ましい。」

99
(【0015】),「水の配合量は3質量%未満が好ましい。」

(【0016】),「炭素数8〜10の脂肪酸とポリグリセリンの

エステル以外の非イオン界面活性剤…の配合量は1〜40質量%が

好ましい。」(【0017】)として,請求項4ないし5記載の数

値と同一の数値が記載された上で,【0018】及び【0019】

において,粘度及び透明性として,請求項2及び3と同一の数値が

記 載 さ れ て い る こ と ( 上 記 (ウ )b D 及 び E ) , こ れ ら の 粘 度 及 び 透

明性が,各成分の配合量等を,「好ましい」ものに限定した場合に

おいて達成されるものとして記載されたものと解されることとも整

合するというべきである。

そうすると,請求項1の発明(本件発明1)は,手や顔が濡れた

環境下で使用できる,透明であり,かつ,使用感に優れた粘性を有

した油性液状クレンジング用組成物を提供することという,請求項

1ないし5に共通の上記一般的作用効果を奏するものとして記載さ

れているものであって,上記作用効果は,請求項2及び3により,

具体的に数値によって特定される,より高い作用効果と同一のもの

ではなく,これらに比して低い水準のもので足りるものと解される。

(オ ) こ の 点 に 関 し , 被 告 は , 上 記 (イ )の と お り , 本 件 発 明 1 に 係 る

作用効果のうち,透明性については,「直径4cmの円筒ガラス瓶

に充填した際に,瓶を通して背景像(紙に印刷した罫線)を認識で

きる」ことをいい,定量的には,「透過率75%以上」であること

を要し,少なくとも75%を大幅に下回るものは含まれないと主張

する。

しかし,「直径4cmの円筒ガラス瓶に充填した際に,瓶を通し

て背景像(紙に印刷した罫線)を認識できる」との点は,本件明細

書 の 上 記 (ウ )b E ( 【 0 0 1 9 】 ) で 記 載 さ れ て い る も の で あ る と

100
こ ろ , 上 記 (ウ )b E の 記 載 内 容 を み る と , 上 記 の 点 は , 透 過 率 が 7

5%以上である場合に製剤が呈するべき外観として記載されたもの

であり,透過率が75%以上であることを定性的に言い換えたもの

であることと解することができる。そうすると,「透過率75%以

上」であることと,「直径4cmの…認識できる」こととは,同義

であると解されるところ,本件発明1に係る作用効果が,請求項2

において具体的に数値によって特定される作用効果(透過率75%

以上)よりも相対的に低いもので足りると解されることは前記のと

おりである。

また,被告は,本件明細書の実施例及び比較例の「外観」欄にお

け る 「 透 明 」 「 濁 る 」 の 記 載 ( 上 記 (ウ )b J 及 び K ) を 挙 げ て ,

「濁る」とされた比較例の透過率が10ないし55%であることか

ら,透過率55%を下回るものは,「透明」ではなく,本件発明1

の作用効果を奏さないものと評価されるべきであるとも主張する。

し か し , 上 記 実 施 例 及 び 比 較 例 の 「 外 観 」 欄 の 評 価 は , 前 記 (ウ )b

G(【0023】)のとおり,「直径4cmの円筒ガラス瓶に充填

した際に,瓶を通して背景像(紙に印刷した罫線)を認識できる」

か否かによって判定されたものであるところ,上記判定基準が,透

過率75%以上であることと同義のものであることは前述のとおり

である。そうすると,本件明細書の実施例及び比較例における上記

「透明」及び「濁る」の記載は,請求項2の発明に係る作用効果の

有無について判定したものと解されるのであり,当該記載に基づき,

本件発明1の作用効果を限定することは相当ではないというべきで

ある。

(カ ) 以上によれば,本件発明1の作用効果は,請求項1ないし5の

発明に共通の一般的作用効果として記載された,手や顔が濡れた環

101
境下で使用することができる,透明であり,かつ,使用感に優れた

粘性を有する油性液状クレンジング用組成物を提供することにある

ということができ,上記作用効果に係る「透明」とは,透過率又は

円筒ガラス瓶充填時の背景認識の可否の点から,定量的又は定性的

に限定されるものではないということになる。

そ う す る と , 前 記 (エ )の と お り , 本 件 発 明 1 は , ( A ) な い し

(D)の4成分を含む油性液状クレンジング用組成物が,上記一般

的作用効果を奏することを開示したものであるから,構成要件1−

Eは,(A)ないし(D)成分を含有する組成物を意味し,当該組

成物は,すなわち上記一般的作用効果を奏するものに当たることが

開示されていると解するべきであり,これに加えて,構成要件1−

Eを,上記のとおり限定を加えた「透明性」を実現するものに限定

して解釈することは相当ではなく,被告の主張は採用できない 。

なお,本件明細書には,本件発明1の作用効果に係る「透明」に

関し具体的に言及する記載は見受けられないから,上記「透明」と

は,油性液状クレンジング用組成物の実用上,「透明」であれば足

りるというべきである。

イ 被告各製品の充足性

(ア ) 前 記 前 提 事 実 (3)イ (ア )の と お り , 被 告 各 製 品 は , 肌 に 塗 布 し

た化粧品を落とすために用いられる油性液状洗浄料であり,前記前

提 事 実 (3)イ (イ )の と お り , ( A ) な い し ( D ) 成 分 を 含 有 す る も

のであるから,構成要件1−Eの「油性液状クレンジング用組成

物」に相当する。

(イ ) 原告は,被告各製品は,50mLビーカーに直径20mmの高

さまで入れ,そのビーカーを罫線の上に置いた場合に,上から試料

を通して罫線を視認でき,かつ,手のひらにとり,観察した場合に,

102
実用上透明と判断されるから,本件発明1の作用効果を奏するもの

であると主張し,その裏付けとして,平成22年7月5日付け実験

報告書(甲15)を提出する。

前記アでみたとおり,本件発明1に係る作用効果としての「透明

性」は,定性的又は定量的に具体的に限定されるものではなく,油

性液状クレンジング用組成物の実用上,透明と評価されるものであ

れば,本件発明1に係る作用効果を奏するものと評価されるもので

あるところ,クレンジング料の一般的使用態様にかんがみ,原告の

上記実験報告書における透明性の評価基準は不相当なものではない

ものと解され,被告各製品は,本件発明1の作用効果としての「透

明」との効果を奏するものと認めることができる。

なお,証拠(甲16,23)によれば,被告各製品の可視光透過

率は,検体毎に7.2%,9.9%,9.3%(以上につき甲1

6),24.9%,11.8%(以上につき甲23)であり,その

透明度が一様ではないことがうかがわれるが,原告は,前記実験報

告書(甲15)に加え,別のロット番号のものにつき,直径4cm

のガラス瓶に深さを変えてながら入れ,背景像の観察状況を比較す

るという実験を行い,当該実験に係る実験報告書(甲23)も提出

しており,上記実験結果をみても,被告各製品は,本件発明1の作

用効果としての「透明」との効果を奏するものと認めることができ

る。そうすると,異なるロット番号の製品につき,複数回行われた

実験において,被告各製品が「透明」との効果を奏するものと認め

られる以上,被告各製品は,そのロット番号等にかかわらず,本件

発明1の作用効果を奏するものとみるのが相当である。

(ウ ) したがって,被告各製品は,構成要件1−Eを充足する。

(3) 争点(1)ウ(侵害論の補足主張・作用効果不奏功の抗弁等)

103
ア 被 告 は , 平 成 2 3 年 1 2 月 1 4 日 付 け 被 告 準 備 書 面 (6)の 1 頁 冒 頭

ないし7頁18行目,40頁15行目ないし60頁7行目において,

本件発明1の作用効果(「透明性」)に関し主張を補足した上で,被

告各製品が本件発明1の技術的範囲に属しないことに関し,新たな主

張を追加し,その補強として,乙22ないし24及び37ないし51

号証(枝番を含む。)の提出の申し出をした。なお,被告の上記主張

のうち,上記準備書面1頁冒頭ないし7頁18行目に係る主張は,損

害論に関する原告の主張に対する反論として記載されているものであ

るが,その内容にかんがみ,上記のとおり,本件発明1の作用効果

(透明性)に関し,主張を補足し,技術的範囲の属否に関し新規主張

をするものであると認められる。

これに対し,原告は,上記主張及び書証の提出申し出は,時機に後

れた攻撃防御方法に当たる(民訴法157条1項)と主張し,却下の

申立てをした。

イ そこで検討すると,本件訴訟に至る経緯及び本件訴訟経過は以下の

とおりである。

(ア ) 原 告 は , 前 記 前 提 事 実 (4)の と お り , 本 件 訴 訟 提 起 に 先 立 ち ,

平成22年4月13日付けで被告製品1が本件発明1及び3の技術

的範囲に属する旨を記載した書面を送付し,被告は,これに対し,

被告製品1は透明性を有しないから本件発明1の技術的範囲に属し

ない旨を回答した( 甲12,14)。

(イ ) 原告は,上記回答を踏まえ,本訴における訴状において,被告

各製品が本件発明1の作用効果(透明性)を有し,本件各発明の技

術的範囲に属する旨を主張した。これに対し被告は,平成22年9

月8日付け答弁書において,本件発明1の作用効果としての「透明

性」を限定解釈した上で,被告各製品が本件発明1の技術的範囲

104
属しない旨の主張をし,その後,同年12月17日付け被告準備書

面(2)で,原告の反論に再反論する形式で,上記主張を補充した 。

(ウ ) 裁判所は,平成23年5月31日の第5回弁論準備手続期日に

おいて,原告及び被告から,本件の侵害論に関する主張立証は終了

した旨を聴取した上で,侵害論に関する審理を終結し,本件に関す

る裁判所の見解を示して和解を勧告するとともに,損害論に関する

審理に入った(第5回弁論準備手続調書,当裁判所に顕著な事実)。

(エ ) 被 告 の 上 記 準 備 書 面 (6)の 提 出 並 び に 乙 2 2 な い し 2 4 及 び 3

7ないし51号証の提出の申し出は,裁判所が,被告に対し,被告

各製品の利益率に関する具体的主張を行うよう指示したことを受け,

提出されたものである。

ウ 以上の経緯にかんがみ検討すると,被告は,本件訴訟提起前から,

本件発明1の作用効果(透明性)の限定解釈に基づき,被告各製品が

本件各発明の技術的範囲に属しない旨を主張していたものであり,上

記時点において,上記主張について既に検討を行っていたものという

ことができる。加えて,本件訴訟において,上記主張に係る点は,訴

状段階から争点とされていたものであるということができるから,被

告は,侵害論に関する審理を終結した平成23年5月31日までに,

侵害論に関する前記補足主張をし,前記書証を提出することが可能で

あったというべきである。それにもかかわらず,被告は,裁判所が侵

害論の審理を終結し,裁判所の見解を示して和解の勧告を行った後で

あり,かつ,損害論の審理中であった平成23年12月14日の段階

に至って上記補足主張及びその裏付けとなるべき書証の提出申し出を

したものであるから,これは,重大な過失により時機に後れてなされ

た防御方法の提出に当たるというべきである。また,これにより本件

訴訟の完結を遅延させることになることも明らかである。

105
エ したがって,民訴法157条1項に基づき,被告の上記主張並びに

乙22ないし24及び37ないし51号証の提出申し出は,いずれも

却下する。

(4) 小括

したがって,被告各製品は本件発明1の技術的範囲に属する。

2 争点(2)(被告各製品が本件発明2の技術的範囲に属するか。)

(1) 被 告 各 製 品 が , 構 成 要 件 1 − A 〜 E を 充 足 す る こ と は , 争 点 (1)に 関

する当裁判所の判断のとおりであるところ,被告各製品を25℃におい

てB型粘度計(ローター1,12rpm,30秒)で測定したときの粘

度が,578.5〜589.0mPa・sであり,構成要件2−Fを充

足 す る も の で あ る こ と は , 前 記 前 提 事 実 (3)イ (ウ )及 び 同 ウ (オ )の と お

り である。

(2) したがって,被告各製品は,本件発明2の技術的範囲に属する。

3 争点(3)(被告各製品が本件発明3の技術的範囲に属するか。)

(1) 被告各製品が,構成要件1−A〜Eを充足すること及び被告各製品

が含有するジラウロイルグルタミン酸リシンNaが,ジ脂肪酸アシルグ

ル タ ミ ン 酸 リ シ ン 塩 に 相 当 す る こ と は , 争 点 (1)に 関 す る 当 裁 判 所 の 判

断のとおりであるところ,被告各製品が,上記ジラウロイルグルタミン

酸リシンNaの29%水溶液として販売されている「ペリセア」を用い

て製造されていることは,前記前提事実 (3)ウ (エ )のとおりである。

そうすると,被告各製品は,「陰イオン界面活性剤が,ジ脂肪酸アシ

ルグルタミン酸リシン塩…であって,これらの水溶液を用いることを特

徴とする」ものに相当し,構成要件3−D ’ を充足する。

(2) したがって,被告各 製品は,本件発明3の技術的範囲に属する 。

4 争点(4)(被告各製品が 本件発明4の技術的範囲に属するか)

本件発明4の構成要件は,本件発明1の構成要件1−A〜E,本件発明

106
2の構成要件2−F及び本件発明3の構成要件3−D’からなるものであ

るから,被告各製品が本件発明1ないし3の技術的範囲に属する以上,本

件 発明4の技術的範囲にも属するものであることは明らかである。

5 争 点 (5)( 本 件 特 許 が 特 許 無 効 審 判 に よ り 無 効 に さ れ る べ き も の で あ る

か 。)

(1) 争点(5)ア(本件発明1は乙2の1発明と同一の発明であって特許法29

条1項3号に違反するものか。)

ア 乙2の1文献の記載

証拠(乙2の1)によれば,乙2の1文献は平成18年8月31日に公

開された公開特許公報であり,本件特許出願日(平成20年9月29日)

以前に日本国内で頒布された刊行物に当たるところ,乙2の1文献には,

以下の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

a 【請求項1】1)長鎖疎水基と親水基とを分子内に2個以上ずつ有

する多鎖多親水基型化合物の1種以上,2)分子内に水酸基を2個以

上有するポリヒドロキシル化合物の1種以上,3)油性成分の1種以

上,及び4)HLBが2〜14であるノニオン性界面活性剤を含有す

ることを特徴とする油性ゲル状クレンジング。

b 【請求項4】該油性ゲル状クレンジング中の1)多鎖多親水基

型化合物の少なくとも1種が下記一般式(1)に示す化合物であ

ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油性ゲル状

クレンジング。

【化1】




(上記一般式(1)において,Xはヒドロキシル基,アミノ基,

107
チオール基から選ばれる1種または2種以上からなるm個の官能

基を有する分子量100万以下の直鎖または分枝鎖または環状鎖

または芳香族炭化水素鎖であるスペーサーであり,…QはZを介

してXに付くn個の下記一般式(2)で表される置換基であり,

…Yはカルボキシル基,スルホン基,硫酸エステル基,リン酸エ

ステル基および/またはそれらの塩…を示す)

【化2】




(イ ) 発明の詳細な説明

a 【技術分野】【0001】本発明は,多量の油性成分を安定に

配合した,皮膚等に塗布して水洗した時に残油感がなく,かさつ

きのない,使用感に優れたクレンジング化粧料に関し,特に香粧

品として有用な油性ゲル状クレンジングに関する。

b 【0004】本発明は,該油性ゲル状クレンジングを皮膚等に

塗布,水洗した時に多量の油性成分を含有しながら残油感がなく,

皮膚のかさつきのない,使用感に優れた透明〜半透明の油性ゲル

状クレンジングを提供することを目的とするものである。

c 【発明の効果】【0012】本発明の油性ゲル状クレンジング

は,長鎖疎水基と親水基とを分子内に2個以上ずつ有する多鎖多

親水基型化合物を1種または2種以上,分子内に水酸基を2個以

上有するポリヒドロキシル化合物の1種または2種以上,及び油

性成分の1種または2種以上,HLBが2−14であるノニオン

性界面活性剤の1種または2種以上を含有することを特徴とする

油性ゲル状クレンジングであって,この範囲外の油性ゲル状クレ

108
ンジングに比し,皮膚等に塗布し,水洗した時に残油感がなく,

かさつきがない,使用感に優れて,安定性の高いものであること

が明らかである。

d 【0020】本発明の油性ゲル状クレンジングにおいて,1)

多鎖多親水基型化合物の例を挙げると,構造的には,分子内に長

鎖疎水基と親水基をそれぞれ少なくとも1個以上有する界面活性

剤を適当なスペーサーで連結した構造のものであり,この構造で

あればよく,これまで公知になっている化合物でよい。…

e 【0022】本発明の油性ゲル状クレンジングにおいて,1)

多鎖多親水基型化合物の少なくとも1種が,分子内にアミノ酸残

基を有する界面活性剤であることが,生分解性の点,皮膚のよう

な外用剤などへ用いたときの低刺激性の点から好ましい。…

f 【0036】上記一般式(2)中,Yで示されるカルボキシル

基,スルホン酸基,硫酸エステル基,リン酸エステル基およびX

中に含まれうるカルボキシル基,スルホン酸基,硫酸エステル基,

リン酸エステル基等は,種々の塩基性物質との間に塩を形成し得

る。

g 【0039】…本発明の油性ゲル状クレンジングにおいて,こ

の中に含まれる4)ノニオン性界面活性剤のHLBは2〜14で

あって,好ましくは,HLBが5〜12である。さらに好ましく

は,HLBが7〜11である。ここで,HLBがこの範囲外であ

ってもゲル状の剤型になることはあるが,油性成分が分離して安

定性に乏しかったり,残油感があったりし,使用感が好ましくな

くなることがある。

h 【0040】〜【0045】ノニオン性界面活性剤としては,

例えば,ソルビタン脂肪酸エステル類;…,グリセリンまたはポ

109
リグリセリン脂肪酸エステル類;…,プロピレングリコール脂肪

酸エステル類;…,POE−グリセリン脂肪酸エステル類;…,

POE・POP−アルキルエーテル類;…,POE−ヒマシ油ま

たは硬化ヒマシ油誘導体類;…,アルカノールアミド類;…等が

挙げられる。中でも,ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場

合にジェルの水溶性を調整することが可能であり有効である。特

に,該ノニオン性界面活性剤の脂肪酸部分は,炭素数が10以下

の中鎖脂肪酸を疎水基とする場合には,手が濡れている場合や浴

室内のような多湿な環境においてもゲル状が直ちに破れることな

く使用できる耐水性の油性ゲル状クレンジングを得ることができ

るので好ましく,…。

i 【0062】…本発明の毛髪化粧料を製造する方法の一つとし

ては,油性成分をゲル化することのできる公知のゲル化剤を用い

ることができる。例えば,具体的には,デキストリン脂肪酸エス

テル,グリセリン脂肪酸エステル,ヒドロキシステアリン酸,ラ

ウロイルグルタミン酸ジブチルアミド等の長鎖アシルアミノ酸の

アミドまたはエステル誘導体,等を挙げることができる。前記デ

キストリン脂肪酸エステルとしては,例えば(パルミチン酸/オ

クタン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキストリン,パルミチ

ン酸デキストリン,ステアリン酸イヌリン等が挙げられる。

また,グリセリン脂肪酸エステルとしては,例えば(ベヘン酸

/エイコサン二酸)グリセリル等が挙げられる。

j 【0063】かくして得られる,本発明の油性ゲル状クレンジ

ングの特徴は,1)皮膚等に塗布し水洗したときの残油感がなく,

また塗布後水を添加すると極めて容易にエマルジョン状態に微分

散する,2)使用した後のかさつきがほとんどなく使用感がよい,

110
3)ゲル形成力が高く,経時的にも非常に安定なゲルを保つ,と

いう特徴があり,これまでの課題を解決するものである。

k 【0068】〜【0081】(具体的な引用部分は【006

8】【0075】【0081】)また本発明の油性ゲル状クレン

ジングにおいては,本発明の目的が損なわれない限り,用途,目

的に応じ各種の基材と併用することができる。具体的には,…

(パルミチン酸/オクタン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキ

ストリン,パルミチン酸デキストリン,ステアリン酸イヌリン等

のデキストリン脂肪酸エステル,グリセリン脂肪酸エステル,ヒ

ドロキシステアリン酸,ラウロイルグルタミン酸ジブチルアミド

等の長鎖アシルアミノ酸のアミドまたはエステル誘導体,(ベヘ

ン酸エイコサン二酸)グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル

等の油ゲル化剤;…等を含むことができる。

l 【0087】[多鎖多親水基型化合物の製造例1]…下記式

(4)…の多鎖多親水基型化合物を得た。

【0088】【化4】(別紙乙2の1文献の23頁記載の【化

4】のとおり。

m 【実施例】【0092】[実施例12]下記に示す組成の油性

ゲル状クレンジングを製造した。

配合成分 配合量(質量%)

製造例1の界面活性剤 4.3

セスキカプリル酸ポリグリセリル−2 25

ジオレイン酸ポリグリセリル−10 5

グリセリン 2.8

オクタン酸セチル 57

精製水 5.9

111
得られた油性ゲル状クレンジングは乾燥した手,濡れた手のい

ずれでも快適に使用することが出来た,外観は透明〜半透明で,

安定性,水の接触角評価,残油感の官能評価,かさつきの官能評

価の何れもが○ であった。

n 【0093】【表1】(別紙乙2の1文献25頁の【表1】の

とおり。)

イ 乙2の1発明の内容

(ア ) 上 記 ア (ア )a で み た と お り , 乙 2 の 1 文 献 の 特 許 請 求 の 範 囲 に

記 載 さ れ た 油 性 ゲ ル 状 ク レ ン ジ ン グ は , 1)長鎖疎水基と親水基と

を分子内に2個以上ずつ有する多鎖多親水基型化合物の1種以上,

2)分子内に水酸基を2個以上有するポリヒドロキシル化合物の1種

以上,3)油性成分の1種以上,及び4)HLBが2〜14であるノ

ニオン性界面活性剤を含有することを特徴とするものである(上記請

求項1)。

(イ) 上記(ア)の1)〜4)成分のうち,1)成分についてみると,前記

ア(ア)bのとおり,乙2の1文献の特許請求の範囲の記載には,請求項

4として,上記1)成分である多鎖多親水基型化合物の少なくとも1個

が,前記ア(ア)bの【化1】及び【化2】に示される化合物であること

を特徴とするものであること及び上記【化2】中の「Y」はカルボキシ

ル基,スルホン酸基,硫酸エステル基,リン酸エステル基および/また

はそれらの塩を示すことが開示されている。また,前記ア(イ)dには,

上記1)成分の具体例として,分子内に長鎖疎水基と親水基をそれぞれ

少なくとも1個以上有する界面活性剤を適当なスペーサーで連結した化

合物であればよいことが示されている。

界面活性剤のうち,分子構造中にアニオン性の親水基をもつものはア

ニオン界面活性剤(「anionic surfactant」。陰イオン界面活性剤と同

112
義である。甲24の1)に当たり,上記アニオン性親水基としてはカル

ボン酸塩,スルホン酸塩,硫酸エステル塩,リン酸エステル塩などが挙

げられるとされている(乙2の3の167頁)ところ,乙2の1文献の

上記記載内容にかんがみれば,上記1)成分は界面活性剤であり,かつ,

カルボキシル基,スルホン酸基,硫酸エステル基,リン酸エステル基お

よび/またはそれらの塩を有するものであるから,陰イオン界面活性剤

であると認められる。

また,前記ア(イ)l及びmのとおり,乙2の1文献の実施例1ないし

4,12において,1)成分として,【化4】の化学構造を有する界面

活性剤を使用することが開示されているところ,上記化学構造は,「ペ

リセア」の化学構造と同一であり,「ペリセア」はジラウロイルグルタ

ミン酸リシンNaの水溶液であるから(甲10の1・2),上記実施

1ないし4,12で用いられている1)成分は,ジラウロイルグルタミ

ン酸リシンNaであると認められる。

したがって,乙2の1文献には,乙2の1発明の油性ゲル状クレンジ

ングに,1)成分として,陰イオン界面活性剤を含有すること及び上記

陰イオン界面活性剤として,ジラウロイルグルタミン酸リシンNaを使

用することができることが開示されているものと認められる。

(ウ) 次に,上記(ア)の1)〜4)成分のうち,4)成分についてみると,

乙2の1文献には,前記ア(イ)g及びhのとおり,上記4)成分として

種々の物質を用いることができるが,ポリグリセリン脂肪酸エステルを

用いた場合にジェルの水溶性を調整することができること,HLBは7

〜11が好適であり,HLBがこの範囲外であると油性成分が分離して

安定性に乏しかったり,残油感があったりすること,炭素数が10以下

の中鎖脂肪酸を疎水基とする場合には,多湿な環境下でも使用できる耐

水性の油性ゲル状クレンジングを得ることができることが記載されてい

113
る。

したがって,乙2の1文献には,多湿環境下で使用でき,ジェルの水

溶性が調節可能で,かつ,安定で残油感のない油性ゲル状クレンジング

を得るために,油性ゲル状クレンジングに,4)成分としてHLB7〜

11であり,かつ,炭素数10以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを

含有させることが開示されているものと認められる。

(エ) また,前記ア(イ)kのとおり,乙2の1文献には,油性ゲル状クレ

ンジングは,皮膚等に塗布,水洗した時に多量の油性成分を含有しなが

ら残油感がなく,皮膚のかさつきのない,使用感に優れた透明〜半透明

の油性ゲル状クレンジングを提供するという前記ア(イ)bの目的を損な

わない限り,用途,目的に応じ,各種の基材と併用することができるこ

とが開示されている。そして,併用することができる成分として,油ゲ

ル化剤が開示され,さらに,上記油ゲル化剤として,( パ ル ミ チ ン 酸

/オクタン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキストリン,パルミ

チン酸デキストリン,ステアリン酸イヌリン等のデキストリン脂肪

酸エステル,グリセリン脂肪酸エステル,ヒドロキシステアリン酸,

ラウロイルグルタミン酸ジブチルアミド等の長鎖アシルアミノ酸の

アミドまたはエステル誘導体,(ベヘン酸エイコサン二酸)グリセ

リル等のグリセリン 脂肪酸エステル等が挙げられている。

(オ ) 以上によれば,乙2の1文献には,「油性成分と,炭素数10

以下のポリグリセリン脂肪酸エステルと,陰イオン界面活性剤(例

として,ジラウロイルグルタミン酸リシンNa)と,分子内に水酸

基を2個以上有するポリヒドロキシル化合物を含有し,油ゲル化剤

(例として,デキストリン脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エス

テル等)を含有することができる,耐水性の油性ゲル状クレンジン

グ」が開示されているということができる。

114
ウ 本件発明1と乙2の1発明との対比

(ア ) 本件発明1と乙2の1発明とを対比すると,乙2の1発明の

「油性成分」,「ポリグリセリン脂肪酸エステル」,「陰イオン界

面活性剤」「ジラウロイルグルタミン酸リシン塩」,「デキストリ

ン脂肪酸エステル」は,それぞれ,本件発明1の「油剤」(構成要

件1−A),「脂肪酸とポリグリセリンのエステル」(構成要件

−C),「陰イオン界面活性剤」「ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リ

シン塩」(構成要件1−D),「デキストリン脂肪酸エステル」

構成要件1−B)に各相当するから,本件発明1と乙2の1発明

は,「油剤と,炭素数10以下の脂肪酸とポリグリセリンのエステ

ルと,陰イオン界面活性剤とを含有する,耐水性の油性クレンジン

グ」である点で一致し,以下の点で相違する。

(イ) 〔相違点1〕

本件発明1は,デキストリン脂肪酸エステルを必須成分として含

有し,かつ,その成分がパルミチン酸デキストリン,(パルミチン

酸/2−エチルヘキサン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキスト

リンのいずれか又は複数に限定するものであるのに対し,乙2の1

発明はデキストリン脂肪酸エステルが任意成分であり,かつ,その

種類も限定されていない点。

〔相違点2〕

本件発明1は,脂肪酸とポリグリセリンのエステルの炭素数を8

〜10とするものであるのに対し,乙2の1発明は,脂肪酸とポリ

グリセリンのエステルの炭素数を10以下とするものである点 。

〔相違点3〕

本 件 発 明 1 は , 陰 イ オ ン 界 面 活 性 剤 を ジ脂肪酸アシルグルタミン

酸リシン塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩,N−脂肪

115
酸アシルメチルタウリン塩,脂肪酸塩,N−脂肪酸アシルグルタミン

酸塩,N−脂肪酸アシルメチルアラニン塩,N−脂肪酸アシルアラニ

ン塩,N−脂肪酸アシルサルコシン塩,N−脂肪酸アシルイセチオン

酸塩,アルキルスルホコハク酸塩,アルキルリン酸塩のいずれか又は

複数に限定するものであるのに対し,乙2の1発明は,陰イオン界面

活性剤の具体例としてジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩を挙げる

ものの,陰イオン界面活性剤の種類を限定していない点。

〔相違点4〕

本件発明1は,分子内に水酸基を2個以上有するポリヒドロキシル化

合物の1種以上を含有することに関し記載がないのに対し,乙2の1発

明は,同成分を必須成分として含有するものである点。

(ウ) 原告は,これに加えて,本件発明1が「油性液状クレンジング用組

成物」に関するものであり,その形態を液状に限定しているのに対し,

乙2の1発明は,前記ア(イ)jのとおり,ゲル形成力が高く,経時的に

も非常に安定なゲルを保つと記載されている一方,液体状,固体状,ゲ

ル状,ペースト,スラリー,ミスト状,液晶,粉体等,種々の形態で使

用できることが記載されており,その形態が限定されていない点も両発

明の相違点に当たると主張する。しかし,一般に「ゲル」とはコロイド

次元の微粒子が凝集してゼリー状(粘度の高い状態)となったものをい

うが(乙2の4),乙2の1文献には,乙2の1発明に係る油性ゲル状

クレンジングの有するべき粘度を限定する記載は見受けられない。また,

本件明細書には,本件発明1の油性液状クレンジング用組成物の粘性に

関し,使用感に優れた粘性を有するものである旨記載されている(【0

006】)のみで,その粘性の上限に限定は付されていない。そうする

と,本件発明1の「油性液状クレンジング用組成物」と,乙2の1発明

の「油性ゲル状クレンジング」の形態は実質的に異ならないものであり,

116
この点は実質的相違点ではないというべきである。

なお,原告は,その主張の根拠として乙2の1文献の【0064】欄

の記載を挙げるが,同欄は,「本発明の油性ゲル状クレンジングは,そ

の形態が液体状,固体状,ゲル状,ペースト状,スラリー,ミスト状,

液晶,粉体,エアゾール等の目的に応じて種々の形態で用いることがで

きる。」として,乙2の1発明に係る油性ゲル状クレンジングを製品と

して使用する際に,種々の形態で用いることができる旨を記載したもの

にすぎず,乙2の1発明に係る油性ゲル状クレンジングの形態を特定し

たものではないと解されるから,同欄に基づく原告の主張は採用できな

い。

エ 以上のとおり,本件発明1と乙2の1発明は,〔相違点1〕〜〔相違点

4〕において相違するものであるから,両発明は同一のものではなく,本

件発明1は,特許法29条1項3項に違反するものに当たらない。

オ この点に関し,被告は,乙2の1文献の実施例には,本件発明1の

(A)ないし(D)成分に相当する成分が開示されており,とりわけ,

【0092】及び【0093】記載の実施例には,ジラウロイルグルタミ

ン酸リジンナトリウム(ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩と同一であ

り,陰イオン界面活性剤に当たる),ミリスチン酸デキストリン(デキス

トリン脂肪酸エステルに当たる),セスキカプリル酸ポリグリセリル(炭

素数8の脂肪酸とポリグリセリンのエステルに当たる)が開示されている

から,本件発明1と乙2の1発明は同一である旨も主張する。

しかし,本件発明1は,(B)成分及び(D)成分につき,その種類を

限定し,かつ,(C)成分につき,その炭素数を限定した上で,これらの

(A)ないし(D)成分を必須成分として組み合わせることにより,争点

(1)イに関する当裁判所の判断でみた本件発明1の作用効果(手 や 顔 が 濡

れた環境下で使用できる,透明であり,かつ,使用感に優れた粘性を

117
有した油性液状クレンジング用組成物を提供すること)を奏すること

ができることを開示したものであるから,本件発明1と乙2の1発明

が同一のものであるというためには,乙2の1文献に,本件発明1に

係る上記作用効果を奏する油性液状クレンジング用組成物を得るため,

(A)ないし(D)成分を必須の構成として組み合わせること及び

(B)ないし(D)成分の種類等を上記のとおり限定したものとする

ことにつき開示があることを要するものであり,単に,実施例におい

て,油性ゲル状クレンジングが含有する成分として,(A)ないし

(D)成分に相当する物質が個別に開示されているのみでは足りない

というべきである。したがって,被告の主張を採用することはできな

い。

(2) 争 点 (5)イ ( 本 件 発 明 1 は 乙 2 の 1 発 明 か ら 容 易 に 想 到 す る こ と が で

きたものとして特許法29条2項に違反するものか。)

ア 争 点 (5)ア に 関 す る 当 裁 判 所 の 判 断 の と お り , 本 件 発 明 1 と 乙 2 の

1 発 明 は , 前 記 (1)ウ (イ )の 〔 相 違 点 1 〕 〜 〔 相 違 点 4 〕 の 点 で 相 違

する。

イ 乙2の1発明に基づく進歩性欠如の無効理由に関する被告の主張は,

本件発明1は乙2の1発明から容易に想到できるものであり,仮に本

件発明1の油性液状クレンジング用組成物と乙2の1発明の油性ゲル

状クレンジングが,前者が液状,後者がゲル状である点で相違すると

しても,乙2の1発明に乙2の4文献及び乙2の5文献に示された技

術常識を組み合わせることで,本件発明1の構成(液状)に容易に想

到することができるというものであり,両発明の相違点に関し,当裁

判所の上記アの判断と異なる前提に立つものであるから,採用するこ

とができない。

ウ な お , 前 記 5 (1)オ で み た と お り , 被 告 は , 乙2の1文献の実施例に,

118
本件発明1の(A)ないし(D)成分に相当する成分が開示されており,

とりわけ,乙2の1文献の【0092】,【0093】欄には,ジラウ

ロイルグルタミン酸リジンナトリウム,ミリスチン酸デキストリン,セ

スキカプリル酸ポリグリセリルが開示されているから,本件発明1と乙

2の1発明は同一であると主張しているところ,上記主張は,上記実施

例における開示から,本件発明1の構成に想到することは当業者にとっ

て容易であると主張する趣旨であるとも解される。しかし,【009

2】及び【0093】欄記載の各実施例中に,被告の指摘する各物質

(ジラウロイルグルタミン酸リジンナトリウム,ミリスチン酸デキスト

リン及びセスキカプリル酸ポリグリセリル)を全て含む例はみられず,

実施例1ないし12は,本件発明1の(A)ないし(D)成分のうち,

(B)ないし(D)成分のいずれかを欠く構成である。そして,上記各

実施例は,安定性につき「○」,外観につき「透明」又は「半透明」,

水の接触角評価につき「○」,残油感の官能評価につき「○」,かさつ

きの官能評価につき「○」(実施例12については,これに加え,乾燥

した手,濡れた手のいずれでも快適に使用することができた)との効果

を有する油性ゲル状クレンジングである(前記5(1)ア(イ)m及びn)。

したがって,このように各評価要素について適切であると評価されてい

る乙2の1発明について,これに加えて,本件発明1に係る作用効果

(手 や 顔 が 濡 れ た 環 境 下 で 使 用 で き る , 透 明 で あ り , か つ , 使 用 感 に

優れた粘性を有した油性液状クレンジング用組成物であること)を得

るため,(B)ないし(D)成分のうち,各実施例において欠いてい

るものを必須成分として加える動機付けはないものというべきである。

ま た , 被 告 の 指 摘 す る 各 物 質 は , 前 記 5 (1)オ の と お り , 本 件 発 明 1

の(B)ないし(D)成分に相当する物質を個別に開示したにすぎな

い も の で あ り , 上 記 各 物 質 か ら , ( B ) 及 び ( D ) 成 分 に つ き , その

119
種類を限定し,かつ,(C)成分につき,その炭素数を限定して本件発

明1に至る示唆又は動機付けも認められない。

エ なお,原告は,〔相違点1〕及び〔相違点4〕に関し,乙2の1発

明に係る1)ないし4)成分から,2)成分(分子内に水酸基を2個

以上有するポリヒドロキシル化合物)を除外し,デキストリン脂肪酸

エステルを必須成分として組み合わせる構成に想到することは容易で

はない旨の主張をしているので,この点についても念のため検討する。

ま ず , 〔 相 違 点 4 〕 に つ い て み る と , 乙 2 の 1 発 明 は , 前 記 5 (1)ア

(イ )c の と お り , 1 ) な い し 4 ) 成 分 を 必 須 成 分 と し て 組 み 合 わ せ て

含有することにより,残油感のなく,皮膚のかさつきのない,使用感

に優れた透明〜半透明の油性ゲル状クレンジングを実現したものであ

る。したがって,1)ないし4)成分のうち,いずれかを欠く場合に,

上記効果を奏する油性ゲル状クレンジングを得ることができるか否か

自体,乙2の1文献からは不明であるというべきである。また,手や

顔が濡れた環境下で使用することができる,透明であり,かつ,使用

感に優れた粘性を有する油性液状クレンジング用組成物を得るために,

乙2の1発明に係る油性クレンジングから,2)成分を除外して任意

成分とすることにつき,示唆又は動機付けはないものというべきであ

る。さらに,〔相違点1〕についてみると,本件発明1において,デ

キストリン脂肪酸エステルは,(A),(C)成分のほか,(D)成

分と組み合わせて用いることにより,透明性と適度な粘性を実現でき

るとされているものであるが(本件明細書の【0006】),乙2の

1発明の作用効果は,上記のとおり,「透明〜半透明の油性ゲル状ク

レンジング」であり,乙2の1発明の油性ゲル状クレンジングは,デ

キストリン脂肪酸エステルを必須成分としなくとも,既に透明〜半透

明であり,かつ,ゲル状のものであることが開示されているのである。

120
したがって,このような油性ゲル状クレンジングを,透明かつ適度な

粘 性 の も の と す る た め , 他 の 手 段 を 検 討 す る 動機付けはないというべ

きである。加えて,乙2の1文献には,前記5(1)ア(イ)i及びkのとお

り,油ゲル化剤として,本件発明1の(B)成分に該当する成分のほか

に,種々の成分が列挙されているから,増粘に関する作用効果の点のみ

からみても,これらの種々の成分の中から,本件発明1の(B)成分に

該当する成分のみを取り上げて必須成分とすることにつき,示唆又は動

機付けはないものというべきである。

オ したがって,本件発明1は,乙2の1発明から又は乙2の1発明に

乙2の4,乙2の5の事項を考慮することにより容易に想到すること

ができたものに当たらない。

カ 被告の補足主張について

(ア ) 被告は,上記主張に加えて,平成23年12月14日付け被告

準 備 書 面 (6)の 18頁15行目ないし40頁14行目に お い て , 乙 2

の1文献から認定されるべき発明の内容につき,従前と異なる主張

を追加した上で,乙2の1発明に基づく進歩性欠如の無効理由に関

し,新たな主張を行い,併せて,乙32ないし37号証の提出の申

し出をした。また,被告は,平成24年1月23日付け被告準備書

面 (7)の 1 頁 冒 頭 な い し 5 行 目 に お い て , 平 成 2 4 年 1 月 5 日 付 け

特許庁審決の内容を援用し,乙2の1発明に基づく進歩性欠如の無

効理由の主張を補足する旨の主張をし,乙53号証の提出の申し出

をした。

なお,平成24年1月5日付け特許庁審決は,被告が,平成23

年6月30日付けで特許庁審判長宛てに提出した上申書(乙5)の

内容を踏まえたものであり,上記上申書における請求人(被告)の

主張は,本件訴訟との関係では新規主張に当たるものであるから,

121
上記審決の内容を援用する旨の被告の主張は,乙2の1発明に基づ

進歩性欠如の無効理由に関し,新たな主張を追加するものに当た

る。

これに対し,原告は,上記主張及び書証の提出申し出は,時機に

後れた攻撃防御方法に当たり(民訴法157条1項),かつ,審理

不当に遅延させることを目的として提出されたものに当たる(特

許法104条の3第2項)と主張し,却下の申立てをした。

(イ ) そ こ で 検 討 す る と , 前 記 第 4 の 1 (3)イ (ウ )で み た と お り , 裁

判所は,平成23年5月31日の第5回弁論準備手続期日において,

原告及び被告から,本件の侵害論に関する主張立証は終了した旨を

聴取した上で,侵害論に関する審理を終結し,本件に関する裁判所

の見解を示して和解を勧告するとともに,損害論に関する審理に入

っ た も の で あ り , 被 告 の 上 記 準 備 書 面 (6)及 び (7)は , 損 害 論 の 審 理

が相当程度進行した時点で提出されたものである。

加 え て , 被 告 が , 平 成 2 2 年 1 1 月 5 日 付 け 被 告 準 備 書 面 (1)に

おいて,乙2の1文献に基づく無効理由を主張し,同日付けで,上

記準備書面におけるものと同様の無効理由に基づき無効審判を請求

している(乙3)ことも考慮すると,被告は,平成23年5月31

日の上記弁論準備手続期日までの間に,上記補足主張をすることが

可 能 で あ っ た と い う べ き で あ る か ら , 被 告 が 上 記 (ア )の と お り 行 っ

た補充主張及び書証(乙32ないし37号証,53号証)の提出の

申し出は,重大な過失により時機に後れてなされたものであり,ま

た,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることが明らかで

ある。

なお,被告は,損害論に入った後であっても,明白な無効原因が

あるときには,同無効原因を追加主張することは時機に後れた攻撃

122
防御方法に当たらないところ,特許庁において無効審決がなされた

場合には,明白な無効原因があるものとみるべきである旨主張する。

しかし,乙2の1発明に基づく無効理由に関する当裁判所の判断,

と り わ け 前 記 5 (2)ウ 及 び エ で み た と こ ろ を 考 慮 す れ ば , 被 告 の 補

足主張によっても,本件各発明に明白な無効理由があるとは考えら

れず,これは,特許庁において無効審決がなされていることを考慮

しても同様であるから,被告の当該主張を採用することはできない。

したがって,民訴法157条1項に基づき,上記補足主張並びに

乙32ないし37号証及び乙53号証の提出の申し出はこれを却下

する。

キ 以上のとおり,本件発明1は乙2の1発明から容易に想到すること

ができたものに当たらず,本件発明1は特許法29条2項に違反する

ものではない。

(3) 争 点 (5)ウ ( 本 件 発 明 1 は 乙 2 の 2 発 明 か ら 容 易 に 想 到 す る こ と が で

き たものとして特許法2 9条2項に違反するものか。)

ア 乙2の2文献の記載

証拠(乙2の2)によれば,乙2の2文献は平成16年4月15日

に公開された公開特許公報であり,本件特許出願日(平成20年9月

29日)以前に日本国内で頒布された刊行物に当たるところ,乙2の

2文献には以下の記載がある。

(ア ) 特許請求の範囲

【請求項1】(A)HLBが8〜12の範囲の非イオン界面活性

剤,及び(B)液状油を含有する透明液状油性組成物であって,該

組成物100重量部に対して30重量部の水を加えたときに,25

〜35℃の範囲内に白濁しない温度領域を有する組成物をクレンジ

ング剤として使用するときに,水を加えてメイク落としを行うクレ

123
ンジング方法。

(イ ) 発明の詳細な説明

a 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,オイルクレ

ンジング剤を用いたクレンジング方法であって,浴室や洗面台等,

水の介在する使用環境下でも好適なクレンジングを行うことがで

き,メイク落ちが良好で,使用中のマッサージ性に優れ,しかも

マッサージ中の肌に油性感を感じにくいクレンジング方法に関す

る。

b 【0002】【従来の技術】従来,メイクアップ落としに用い

られるオイルクレンジング剤は,オイル成分がメイクアップ汚れ

を浮き出させた後のすすぎ性をよくするために,非イオン界面活

性剤でオイル成分中に水を乳化又は可溶化して製造されてい る 。

c 【0003】例えば,液体油と非イオン界面活性剤を主成分と

する,非水の,もしくは少量の水を含有するクレンジング組成物

…が知られているが,これらは一般に粘度が低く,マッサージ中

に眼に入りやすいという問題や,メイクを落としているという実

感が得られないという問題があった。また,水で濡れた皮膚に使

用すると,乳化物や懸濁物となってマッサージ感が過度に軽くな

ってしまうとともに,油性汚れに対するクレンジング力が著しく

低下してしまう。更に,油剤を主成分として少量の水しか含有し

ていないため,マッサージ中や洗い流した後の肌にべたつき感を

感じやすいという問題もあった。

d 【0004】一方,油剤を主成分とし,非イオン界面活性剤と

比較的多量の水を含有する液晶組成物も提案されている…。これ

らは,マッサージ中や洗い流した後の肌に比較的油性感を感じに

くくなっているものの,液晶構造を形成させるため,非イオン界

124
面活性剤を使って多量の水を油剤中に保持させていることから,

非イオン界面活性剤の曇点の影響を受けやすく,温度変化により

分離が起きやすいという欠点があった。また,比較的温度安定性

のよいものでは,液の粘度が高くゲル状を呈しているなど,満足

のできるメイク落ち性能を有するものではなかった。

e 【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,

オイルクレンジング剤を用いたクレンジング方法であって,浴室

や洗面台等,水の介在する使用環境下でも好適なクレンジングを

行うことができ,メイク落ちが良好で,使用中のマッサージ性に

優れ,しかもマッサージ中の肌にべたつき感を感じにくいクレン

ジング方法を提供することにある。

f 【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは,液

状油と特定の非イオン界面活性剤を含有し,自重100重量部に

対して30重量部の水が混入した場合,手の平や顔面上の温度に

相当する25〜35℃の温度範囲内に,白濁しない温度領域を有

する透明液状組成物をオイルクレンジング剤として用い,使用時

に水を加えてメイク落としを行うことにより,上記課題が解決さ

れることを見出した。

g 【0009】【発明の実施の形態】本発明で用いる成分(A)

は,HLBが8〜12の範囲の非イオン界面活性剤である。HL

Bがこの範囲外のものでは,十分な耐水性を得ることができない。



h 【0014】成分(A)の非イオン界面活性剤は,特にHLB

又は混合HLBが8〜10であるのが,十分な耐水性が得られる

とともに,使用感が良好であるので好ましい。…

i 【0016】成分(B)の液状油は,25℃において液体のも

125
のである。かかる液状油としては,通常化粧料に使用されるもの

であれば特に制限されず,例えば流動パラフィン,流動イソパラ

フィン,ポリイソブテン,スクワラン等の炭化水素油…などを用

いることができる。

j 【0021】さらに,粘度を調整するための,超微粒子シリカ,

パルミチン酸デキストリン,有機性ベントナイト等の油剤の増粘

剤;無機塩類,アニオン界面活性剤,カチオン界面活性剤,両性

界面活性剤,高分子ポリマー,殺菌剤,紫外線吸収剤,酸化防止

剤,キレート剤,香料,色素,エキス類,薬効剤等も含有できる。

k 【0041】【発明の効果】本発明によりクレンジングを行え

ば,メイク落ちが良好で,使用中に適度なマッサージ感が得られ

るとともに,マッサージ中の肌に油性感(べたつき感)を感じに

くい。浴室や洗面台等,水の介在する使用環境下でも好適なクレ

ンジングを行うことができる。

イ 乙2の2発明の内容

(ア ) 乙2の2文献の特許請求の範囲に記載されたクレンジング方法

において用いられるクレンジング剤は,HLBが8〜12の範囲の

非イオン界面活性剤及び液状油を含有するものであり(前記ア

(ア )) , 上 記 ク レ ン ジ ン グ 剤 に 含 有 さ れ る 非 イ オ ン 界 面 活 性 剤 と し

ては,特にHLBが8〜10のものが耐水性及び使用感の点で好ま

し く ( 前 記 ア (イ )h ) , ま た , 上 記 ク レ ン ジ ン グ 剤 に は , 粘 度 を 調

整するために,パルミチン酸デキストリン,アニオン界面活性剤を

含有することができる(前記ア(イ)j)ものである。

また,上記クレンジング剤は,透明液状組成物をオイルクレンジ

ン グ 剤 と し て 用 い る も の ( 前 記 ア (イ )b ) で あ り , か つ , 水 の 介 在

する環境下でも好適なクレンジングを行うことができるものである

126
(前記ア(イ)a及びb)。

(イ ) そうすると,乙2の2発明には,「液状油及びHLB8〜10

の非イオン界面活性剤を含有し,パルミチン酸デキストリン,アニ

オン界面活性剤を含有することができる,透明かつ液状で,水の介

在する環境下でも使用可能なクレンジング剤」が開示されていると

いうことができる。

ウ 本件発明1と乙2の2発明との対比

(ア ) 乙2の2発明の「液状油」,「アニオン界面活性剤」は,本件

発明1の「油剤」(構成要件1−A),「陰イオン界面活性剤」

構成要件1−D)に各相当する。また,乙2の2発明のクレンジ

ング剤は,透明かつ液状で,水の介在する環境下でも使用可能なも

のであるから,本件発明1の「油性液状クレンジング用組成物」

構成要件1−E)に相当する。

本件発明1の脂肪酸とポリグリセリンのエステルは,非イオン界

面活性剤の一種である(本件明細書の【0012】)。

(イ ) したがって,乙2の2発明と本件発明1は,「油剤及び非イオ

ン界面活性剤を含有する油性液状クレンジング用組成物」である点

で一致し,以下の点で相違する。

〔相違点1〕

本件発明1は,デキストリン脂肪酸エステル及び陰イオン界面活

性剤を必須成分として含有するものであり,かつ,デキストリン脂

肪酸エステルの種類を,パルミチン酸デキストリン,(パルミチン

酸/2−エチルヘキサン酸)デキストリン,ミリスチン酸デキスト

リンのいずれか又は複数とし,かつ,陰イオン界面活性剤の種類を,

ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩等に限定するものであるのに

対し,乙2の2発明は,パルミチン酸デキストリン及び陰イオン界

127
面活性剤が粘度を調整するための任意成分であり,かつ,パルミチ

ン酸デキストリン以外のデキストリン脂肪酸エステルを含有するこ

とについて言及がなく,また,陰イオン界面活性剤の成分につき限

定がない点。

〔相違点2〕

本件発明1は,非イオン界面活性剤が脂肪酸とポリグリセリンの

エステルに限定されており,かつ,その炭素数が8〜10とされて

いるのに対し,乙2の2発明は,非イオン界面活性剤が脂肪酸とポ

リグリセリンのエステルに限定されておらず,かつ,炭素数につい

ても記載がない点。

エ 相違点の検討

(ア ) 相違点1につ いて

本件発明1は,デキストリン脂肪酸エステルと陰イオン界面活性

剤を必須成分として組み合わせて用いることにより,透明性と適度

な粘性を保有した油性液状クレンジングを実現できたとするもので

あり(本件明細書【0006】),その課題は,手や顔が濡れた環

境下で使用することができる透明な油性液状クレンジング用組成物

を提供することで ある(同【0004】)。

一 方 , 乙 2 の 2 発 明 は , 乙 2 の 2 文 献 の 前 記 ア (イ )c , d の 記 載

に照らせば,液体油と非イオン界面活性剤を主成分とするクレンジ

ング剤を使用するに際し,クレンジング剤の水の含有量が少ないと,

マッサージ中や洗い流した後の肌にべたつき感がある反面,クレン

ジング剤の水の含有量が多いと,安定性が悪く,メイク落ち性能も

低いという,クレンジング剤における水の含有についての問題点を

解決しようとするものである。

この課題を解決するために,乙2の2発明では,クレンジング剤

128
に予め水を含有させるのではなく,水を加えて使用するクレンジン

グ剤の使用方法を発明したものである。そのための,クレンジング

剤の組成は,基本的に液状油と非イオン界面活性剤から成るもので

ある(ただし,請求項3,4では予め水を成分とするクレンジング

剤も示されている 。)。

このように,乙2の2発明は,水と併せて使用したときに,メイ

ク落ちが良好で,適度なマッサージ感が得られ,油性感を感じにく

いクレンジング剤 を用いたマッサージ方法を開示するものであ る 。

もちろん,水と併用したとき効果的なクレンジング剤であるため

には,適度の粘性が必要であると解され,この点,乙2の2文献に

は,粘度を調整するため,アニオン界面活性剤等を含有し得ること

が 記 載 さ れ て い る ( 前 記 ア (イ )j ) 。 他 方 , 透 明 性 に 関 す る 点 に つ

いてみると,乙2の2文献には,水の介在する環境下でも好適なク

レンジングを行うことができ,メイク落ちが良好で,使用中のマッ

サージ性に優れ,しかもマッサージ中の肌にべたつき感を感じにく

いクレンジング方法を提供する手段として,白濁しない温度領域を

有 す る 透 明 液 状 組 成 物 を 用 い る こ と ( 前 記 ア (イ )e 及 び f ) が 記 載

されている。しかし,乙2の2文献において,クレンジング剤が透

明であるとされるのは,水の混入に起因する白濁(乳化,懸濁)に

よりマッサージ感が過度に軽くなってしまうとともにクレンジング

力 が 著 し く 低 下 す る こ と か ら ( 前 記 ア (イ )c ) , 良 好 な メ イ ク 落 ち

及び優れたマッサージ性という機能を実現するためには白濁を防止

する必要があるためであり,乙2の2文献における,透明性に関す

る 上 記 記 載 ( 前 記 ア (イ )e 及 び f ) は , 透 明 性 そ の も の を 追 求 す る

ものというよりも,白濁していない状態を示すものであり,本件発

明1の解決課題(外観上の透明性の実現そのもの)を示唆するもの

129
ではないというべきである。そのため,乙2の2文献において,ク

レンジング剤が透明であることは,発明の課題とも効果ともされて

いない。

以上によれば,乙2の2発明からは,クレンジング剤に必要な粘

性を得ることについての動機付けはあるものの,透明性の実現を志

向することについ ては動機付けがないというべきである。

そこで,乙2の2発明に乙2の1文献,乙2の3文献,乙2の6

文献又は乙2の7文献に開示された技術内容を組み合わせることで,

上記相違点に係る構成に容易に想到することができるか否かについ

て検討する。

前 記 5 (1)で み た と お り , 乙 2 の 1 文 献 に は , 陰 イ オ ン 界 面 活 性

剤を必須成分とする油性ゲル状クレンジングが開示されているが,

上記油性ゲル状クレンジングは,デキストリン脂肪酸エステルを必

須成分とするものではないから,デキストリン脂肪酸エステルと陰

イオン界面活性剤を組み合わせて必須成分とすることにつき,開示

がない。

また,乙2の3文献には,アニオン界面活性剤が優れた起泡性を

有し,一般に洗浄剤に使用されていること及びアニオン界面活性剤

には種々のものがあることが記載されているが,アニオン界面活性

剤が,デキストリン脂肪酸エステルと組み合わせることにより,適

度な粘性をもたらすことにつき開示がなく,また,アニオン界面活

性剤を,本件発明1に挙げられた各成分に限定することについての

示唆もない。

さらに,乙2の6文献には,油性皮膚洗浄料にアニオン性界面活

性剤を含有させることにより,優れた洗浄性を有しながら肌への刺

激を軽減し,洗浄後の油感も軽減することができることが開示され

130
ており(【請求項1】,【0013】),上記アニオン性界面活性

剤として使用可能な成分の具体例として,本件発明1に挙げられた

各成分の一部が挙げられている(【0014】)ことが認められる

が,適度な粘性のため,アニオン性界面活性剤をデキストリン脂肪

酸エステルと組み合わせることにつき開示がなく,かつ,アニオン

性界面活性剤を,本件発明1に挙げられた各成分のみに限定するこ

とについての示唆 もない。

また,乙2の7文献には,デキストリン脂肪酸エステルを配合し

た皮膚外用組成物に,種々のアニオン性界面活性剤を組み合わせて

使用することができることが開示されているが(請求項1,【00

15】,【0016】),上記皮膚外用組成物は,皮膚へのなじみ

時のべたつきを感じることなく,かつ安定性が向上したことをその

効果とするものであり(【0020】),アニオン性界面活性剤を

任意成分としてデキストリン脂肪酸エステルと組み合わせて使用す

ることによる作用効果につき特に言及がないものであって,油性ク

レンジング剤において,適度な粘性を実現するためにデキストリン

脂肪酸エステルとアニオン性界面活性剤を組み合わせることにつき

開示がなく,かつ,アニオン性界面活性剤を,本件発明1に挙げら

れた各成分のみに 限定することについての示唆もない。

以上の点は,仮に,乙2の2発明に外観上の透明性の実現という

動機付けがあると しても同様である。

(イ ) したがって,乙2の2発明に乙2の1文献,乙2の3文献,乙

2の6文献又は乙2の7文献に記載された技術内容を考慮しても,

乙2の2発明から本件発明1に係る構成に想到することは,当業者

にとって容易ではないものというべきである。

オ 以上のとおり,本件発明1は,乙2の2発明から容易に想到するこ

131
とができたものに当たらず,特許法29条2項に違反するものではな

い。

(4) 争点(5)エないしク(本件発明2ないし本件発明4の容易想到性

以上のとおり,本件発明1は,乙2の1発明と同一の発明ではなく,

かつ,乙2の1発明又は乙2の2発明から容易に想到することができた

ものにも当たらないものである。

被告は,本件発明1が新規性又は進歩性を欠くものであることを前提

として,本件発明2ないし4につき,乙2の1発明又は乙2の2発明か

容易に想到することができたものである旨主張するものであるから,

争 点 (5)エ な い し ク に つ い て 検 討 す る ま で も な く , 本 件 発 明 2 な い し 4

に 関する被告の進歩性欠 如による無効主張は理由がない。

また,被告は本件発明3が乙2の1発明と実質的に同一である旨の主

張もするが,本件発明1の新規性について判断したのと同様の理由によ

り,被告の主張を採用することはできない。

(5) 争 点 (5) ケ ( 本 件 各 発 明 は 特 許 法 3 6 条 4 項 1 号 に 違 反 す る も の

か。)

ア 被告は,本件各発明は,当業者がその実施をすることができる程度

に明確かつ十分に記載されたものではなく,特許法36条4項1号

違反するものであると主張する。

イ (ア ) そ こ で 検 討 す る と , 争 点 (1)イ に 関 す る 当 裁 判 所 の 判 断 で み た

とおり,本件各発明のうち,本件発明1は,手や顔が濡れた環境下

で使用することができる,透明であり,かつ,適度な粘性を有する

油性液状クレンジング用組成物を提供することをその作用効果とす

るものであり,当該作用効果は,本件特許発明の請求項1ないし5

に係る各発明に共通の作用効果として示されたものであって,請求

項2は,本件発明1に係る構成に加え,その作用効果のうち,透明

132
性に関する点を,光の透過率により限定し,より高い作用効果を得

られる場合があることを示したものである。

したがって,本件発明1は,請求項2に該当する場合を包含する

も の と い う こ と が で き る と こ ろ , 前 記 第 4 の 1 (2)ア (オ )で み た と

おり,本件明細書の実施例(【0029】)の記載における「外

観」及び「透過率」は,請求項2に係る作用効果を示すものである

から,本件明細書には,(A)ないし(D)成分からなる構成が示

され,かつ,その場合に請求項2に係る作用効果が得られたことが

記載されているものということができる。そうすると,本件明細書

には,本件発明1に係る構成のみの効果は記載されていないものの,

本件発明1に係る構成を含む請求項2に係る作用効果は示されてい

るものということができ,本件発明1がその作用効果を奏すること

を裏付ける記載がされているということができる。

(イ ) また,本件明細書において,(A)ないし(D)成分の具体例

((A)成分につき【0008】及び【0009】,(B)成分に

つき請求項1及び【0011】,(C)成分につき【0012】,

(D)成分につき請求項1及び【0014】)が示され,かつ,各

成分の好適な配合量が開示されており(【0010】,【001

1】,【0013】,【0015】),実施例1ないし7において

各成分の具体的組合せや配合量も示されているのであるから(【0

029】【表1】),本件明細書の記載に接した当業者は,その記

載内容を参考に,技術常識に従い,(A)ないし(D)成分として

使用する各成分の具体的組合せ及び配合量を適宜決定することによ

り,本件発明1に係る作用効果を奏する油性液状クレンジング用組

成物を得ることができるものと認められるのであり,これは,原告

及び被告の行った各実験結果(甲25,27,29,30,乙2の

133
8)において,本件発明1に係る作用効果を奏する油性液状クレン

ジング用組成物が得られていることからも明らかである。

ウ この点に関し,被告は,(A)ないし(D)成分を含有し,かつ,

本件明細書の実施例に従って配合割合を決定した組成物であっても,

透明ではなく,または安定性を欠くものがみられたから,本件各発明

実施可能性を欠くものであると主張する。

しかし,被告の上記主張のうち,透明性に関する点は,本件発明1

の作用効果としての「透明性」につき,光の透過率75%以上である

ことを要するとの前提に立つものであり,採用することができな い 。

また,安定性に関する点についてみると,被告の実験結果は,本件

明細書記載の実施例において(A)ないし(D)成分として使用され

ている物質のうち(C)成分を実施例とは異なる物質に,(D)成分

について一部を実施例とは異なる物質に変更する一方,各成分の配合

割合を本件明細書記載の実施例記載のものと同一としたもの(乙2の

8記載の実験1,3,5)または本件明細書記載の実施例において,

(E)成分として配合されているジイソステアリン酸デカグリセリン

を配合せず,油剤の配合割合をその分だけ増やしたもの(乙2の8の

実験2,4,6)である。被告実験では,安定性が認められないなど

の実験結果が示されているものの,他方,原告からは,各成分につい

て使用する物質を被告実験と変更することなく,その配合割合を変更

したところ,本件発明1に係る作用効果を奏する油性液状クレンジン

グ用組成物が得られた旨の実験結果(甲29)が示されている。そう

すると,当業者は,(A)ないし(D)成分として用いる物質の変更

や,(E)成分を配合しないものとしたことに従い,各物質の特性等

を考慮し,(A)ないし(D)の各成分の配合割合を適宜変更するこ

とにより,本件発明1を実施することができるものと認められ,かつ,

134
配合割合等の適宜の変更は,当業者の技術常識に従って可能なもので

あると認められる。

したがって,被告の実験結果(乙2の8)を考慮しても,本件発明

1が実施可能性を欠くものとは認めることができず,被告の主張を採

用することはできない。

エ 以上によれば,本件発明1は,当業者がその実施をすることができ

る程度に明確かつ十分に記載されたものということができ,本件各発

明は,特許法36条4項1号に違反するものではない。

(6) 争 点 (4) コ ( 本 件 各 発 明 は 特 許 法 3 6 条 6 項 1 号 に 違 反 す る も の

か 。)

ア 特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に定めるサポート要

件に適合するものであるか否かについては,特許請求の範囲の記載と

発明の詳細な説明の記載とを対比し,発明の詳細な説明に,当業者に

おいて,特許請求の範囲に記載された発明の課題が解決されるものと

認識し得る程度の記載ないし示唆があるか否か,または,その程度の

記載や示唆がなくても,特許出願時の技術常識に照らし,当業者にお

いて,当該課題が解決されるものと認識し得るか否かを検討して判断

すべきものと解するのが相当である。

イ 前 記 (5) イ ( イ ) で み た と お り , 本 件 明 細 書 に は , ( A ) な い し

(D)成分として使用することのできる物質の具体例,各成分の好適

な配合割合が記載されている。また,本件明細書の【0010】には,

「…油剤の配合量は油性液状クレンジング用組成物の全量に対して,

40〜95質量%が望ましい。40質量%未満では,メイク化粧料を

肌から浮き出させる効果が乏しくなり,95質量%を超えるとメイク

化粧料をなじませた後の洗い流しが困難となる。」,【0011】に

は,「…デキストリン脂肪酸エステルの配合量は0.5〜5質量%が

135
好ましい。0.5質量%未満では,十分な粘性が得られにくく,5質

量%を超えると,透明に溶解することが困難となり,製剤が固くなり

すぎる傾向にある。」,【0013】には,「炭素数8〜10の脂肪

酸とポリグリセリンのエステルは,本発明のクレンジング用組成物の

全組成に対し,1〜40%,特に5〜25%の範囲で配合するのが好

ましい。1%より少ない場合には組成物の洗浄性,水洗性が不充分に

なり,40%より多い場合は,『流動性が悪く油性液状を保てない』

『使用時の肌への刺激等の問題が生じる』などの可能性が考えられ

る。」,【0015】には,「…陰イオン界面活性剤の配合量は0.

1〜1質量%が好ましい。0.1質量%未満では,デキストリン脂肪

酸エステルを透明に分散させる効果が得られ難く,1質量%以上では,

陰イオン界面活性剤が析出する恐れがある。」と記載されているので

あり,これらの記載は,上記配合割合等が好適である理由につき,皮

膚が濡れている場合のクレンジング力,透明性,安定性,粘度との関

係において説明するものであるから,本件明細書に接した当業者は,

本件明細書の上記各記載から,本件各発明における課題(手や顔が濡

れた環境下で使用することができる,透明であり,かつ,適度な粘性

を有する油性液状クレンジング用組成物を提供すること)が解決され

るものと認識することが可能であるものと解される。

ウ したがって,本件各発明は,いわゆるサポート要件を欠くものでは

なく,特許法36条6項1号に違反するものではない。

(7) 争 点 (5)サ ( 本 件 各 発 明 は 特 開 2 0 0 2 − 3 4 8 2 1 1 号 公 報 に 係 る

発明から容易に想到することができたものとして特許法29条2項に違

反するものか。)

ア 被 告 は , 平 成 2 3 年 1 2 月 1 4 日 付 け 被 告 準 備 書 面 (6)の 1 6 頁 1

1行目から18頁14行目において,本件各発明につき,特開200

136
2−348211号公報を主引例とする進歩性欠如の無効主張を追加

した。

これに対し原告は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たり

(民訴法157条1項),かつ,審理を不当に遅延させることを目的

として提出されたものに当たる(特許法104条の3第2項)と主張

し,却下の申立てをした。

イ そ こ で 検 討 す る と , 前 記 5 (2)カ (イ )で み た 本 件 訴 訟 の 経 過 に 加 え ,

特開2002−348211号公報は,原告が甲4の1号証として訴

状とともに書証提出したものと同一であることも考慮すれば,被告は,

平成23年5月31日の上記弁論準備手続期日までの間に,上記主張

をすることが可能であったというべきであるから,被告が上記アのと

おり行った無効主張は,重大な過失により時機に後れてなされたもの

であり,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることが

明らかである。

ウ したがって,民訴法157条1項に基づき,上記主張を却下す る 。

(8) 小括

以上によれば,本件各発明は特許無効審判により無効とされるべきも

のに当たらない。

6 争点(6)(販売行為の差止め及び廃棄請求の可否)

(1) 被告製品1について

被告は,平成23年12月31日付けで被告製品1の製造販売を終了

した旨主張しているところ,被告から,同日付けで被告製品1の製造販

売を終了した旨の被告代表者作成の報告書(乙54)が提出されている

こ と に 加 え , 前 記 前 提 事 実 (6)の と お り , 被 告 が , 平 成 2 4 年 1 月 1 日

付けで,被告製品1を仕様変更したものとして被告新製品の製造販売を

開始していることを考慮すれば,被告が,今後,被告製品1を販売する

137
可能性は極めて低いものということができる。

この点に関し,原告は,被告新製品の製品名,容器,包装等が被告製

品1と実質的に同一であり,被告製品1を復活させることが極めて容易

であること,平成24年1月1日以降もインターネット上で被告製品1

の販売が継続していることなどを挙げて,なお,本件特許権侵害のおそ

れがあると主張する。

しかし,前記のとおり被告が被告製品1を仕様変更したものとして被

告新製品の販売を開始しており,被告製品1に比較してその性能が向上

した旨を宣伝していること(甲62)などを考慮すれば,被告が,被告

製品1の販売を再開する可能性は低いものといわざるを得ない。また,

原告が平成24年1月1日以降,被告製品1が販売されている事実とし

て指摘する点は,いずれも,被告が直接販売するものではなく,市中に

おける在庫品が販売されているにすぎないものとみられるものであるか

ら,当該事実をもって,被告が被告製品1の製造販売を終了していない

とみるのは相当ではない。したがって,この点に関する原告の主張は採

用できないものというべきである。

(2) 被告化粧品セットについて

被告は,被告化粧品セットは季節限定製品であり,平成23年3月に

販 売 を 終 了 し た 旨 主 張 し て い る と こ ろ , 被 告 か ら , 上 記 (1)で み た と お

り,その主張に沿う内容の被告代表者作成の報告書(乙54)が提出さ

れていること,被告化粧品セットが「数量限定」のキャンペーン商品で

ある旨表示して販売されていること(甲6の1,7の1,8の1・2)

その他弁論の全趣旨によれば,被告は,被告化粧品セットの販売を既に

終了したものと認められる。

(3) 以上によれば,現時点において,本件特許権侵害のおそれは認めら

れず,原告の請求のうち,被告製品1及び被告化粧品セットの販売等の

138
差止め及び廃棄を求める部分は理由がない。

7 争点(7)(損害額

(1) 以上のとおり,被告各製品は,本件各発明に係る本件特許権を侵害

するものであるから,被告は,本件特許登録日である平成21年8月1

4日以降の被告製品1及び被告50mL製品をセット内容に含む製品で

ある被告化粧品セットの販売行為に関し過失があったものと推定され

(特許法103条),同日以降の侵害行為につき,原告が被った損害を

賠償するべき義務を負う。

(2) 特許法102条2項 に基づく損害算定の可否

ア 特許法102条2項は,損害額の推定規定であり,損害の発生を推

定する規定ではないから,侵害行為による逸失利益が発生したことの

立証がない限り,適用されないものと解されるところ,前記前提事実

(5)の と お り , 原 告 が 本 件 各 発 明 に 係 る 本 件 特 許 権 を 実 施 し て い な い こ

とに争いがない以上,損害額推定の基礎を欠くものというべきであり,

本件において,同条に基づき損害額を算定することはできない。

イ この点につき,原告は,諸般の事情により,侵害行為がなかったな

らばその分得られたであろう利益が権利者に認められるのであれば,

特許法102条2項が適用されると解すべきであるところ,原告は,

被告各製品の競合品である原告製品を製造販売している上,原告と被

告の事業形態等が類似し,その売上げが拮抗していること等も考慮す

れば,原告が,被告各製品の製造販売により,原告製品の取引機会を

喪失したことは明らかであり,特許法102条2項が適用されるべき

であると主張する。

しかし,被告各製品は,いわゆるクレンジングオイルであり,肌に

塗布した化粧品を落とす目的で用いられるものであるところ,クレン

ジングオイルに分類される化粧料のみをみても,市場には,多数の製

139
品が存在することが認められる(乙8,9)。また,肌に塗布した化

粧品を落とす目的で用いられる化粧料としては,いわゆるクレンジン

グオイルのほかに,クリーム,ジェル,ウォーター,リキッド,ロー

ション等,種々の剤型のものが存在し,多数の製品が市場において販

売されていることが認められる(乙7)。加えて,クレンジング市場

におけるメーカー別販売実績に基づく原告のシェアは,平成21年に

おいて13.6%,平成22年において12.9%,平成23年にお

いて12.9%(見込み)であり,原告以外に,数%ないし十数%の

シェアを占めるメーカーが,被告を含め10社以上存在することが認

められる(甲44)。そうすると,被告各製品がなかった場合に,原

告が原告製品を販売することができ,その分の利益を得ることができ

たであろうと認めるに足りる事情はないものといわざるを得ず,原告

につき,本件特許権を実施しているのと同視することができる事情を

認めることはできない。

したがって,原告の上記主張を採用することはできず,本件におい

て,特許法102条2項に基づき損害額を算定することはできないも

のである。

(3) 特許法102条3項に基づく損害算定

ア 売上高

証拠(乙21の1ないし6)によれば,平成21年8月14日から

平成23年9月30日までの被告製品及び被告化粧品セットの売上高

は以下のとおりであると認められる(なお,原告が損害賠償請求額の

算定に当たり,平成23年9月30日までの売上高を基礎としている

〔平成23年10月3日付け訴え変更申立書〕ことにかんがみ,原告

は平成23年9月30日までの侵害行為に係る損害の賠償を請求する

ものであると解される。また,被告は,被告各製品の売上高を算定す

140
るに当たり,消費税を含めるべきではない旨主張するが,国内売上分

については,消費税を収受して販売するものである以上,消費税相当

額についても売上高に含めて算定するのが相当である。)

(ア) 被告150m L製品の通信販売における売上額(税込み)

●省略●

(イ ) 被告150m L製品の直営店における売上額(税込み)

●省略●

(ウ ) 被告製品1の 店頭における売上額(税込み)

●省略●

なお,証拠(乙21の3)によれば,被告製品1の店頭における

売上額(税抜き)は●省略●と認められるところ,上記のとおり,

消費税相当額についても売上高に含めて算定するのが相当であるか

ら,上記金額に消費税相当額を加えた●省略●が被告製品1の店頭

における売上額となる。

(エ ) 被告化粧品セットの通信販売における売上額(税込み)

●省略●

(オ ) 被告化粧品セットの直営店における売上額(税込み)

●省略●

(カ ) 被告製品1の海外輸出に係る売上額(税抜き)

●省略●

なお,原告は,被告の提出する上記証拠(乙21の1ないし6)の信

用性を争い,被告製品1及び被告化粧品セットの平成21年8月14日

から平成23年9月30日までの売上高は61億0964万円を下回ら

ないと主張する。しかし,上記書証は,「商品別日別/月別売上照会」

をデータ出力したものとして提出されたものであり,注文数量,注文金

額等を黒塗りしたものではあるが,その体裁,内容等をみても,その信

141
用性を疑わせるべき事情は直ちには見当たらない。また,証拠(甲43,

44)によれば,被告のクレンジングオイル売上高は,平成21年にお

いて60.5億円,平成22年において59.5億円であることが認め

られるが,被告が,被告各製品のほかにも「薬用ディープクレンジング

オイル」等のクレンジングオイル製品を販売していることにかんがみれ

ば,被告の開示する金額が信用できないものということはできない 。

したがって,この点に関する原告の主張は採用できず,被告製品1及

び 被 告 化 粧 品 セ ッ ト の 売 上 高 に つ い て は 上 記 (ア )な い し (カ )の と お り で

あると認められる。

なお,被告化粧品セットは,被告50mL製品,アイラッシュトニッ

ク(まつげ用美容液)6.5mL及びハローキティオリジナルポーチを

その内容とするものであり(甲7の1・2),被告150mL製品が1

200円(甲6の1・2),被告100mL製品が900円で販売され

ているのに対し,1800円で販売されているものである(甲8の1・

2)。そうすると,被告化粧品セット1個当たりの売上額のうち,60

0円が被告50mL製品に係る売上額であるとみるのが相当である 。

イ そこで,上記アでみた売上高を基礎として,「その特許発明実施

対し受けるべき金額に相当する額」(特許法102条3項)を算定する

べきこととなるところ,原告管理本部副本部長作成に係る報告書(甲4

5)によれば,被告150mL製品の利益率は,低く見積もっても4

0%を下回ることはあり得ないとされている上,被告の営業利益率は●

省略●%であるとされており(乙52),被告各製品の利益率は,相当

に高いものとみることができる。なお,上記報告書(甲45)は,被告

150mL製品に配合されている各成分の原価,材料費,加工賃等の推

定額に基づき,値引きの事実等も考慮して算出されたものであり,原告

が被告と同種の化粧品事業を営むものであること,被告が上記報告書に

142
具体的反論をしていないこと等も考慮すれば,上記報告書は信用性を有

するものである。

ま た , 争 点 (1)イ に 関 す る 当 裁 判 所 の 判 断 で み た と お り , 本 件 各 発 明

は,手や顔が濡れた環境下で使用することのできる,透明であり,かつ,

適度な粘性を有する油性液状クレンジング用組成物を提供することをそ

の作用効果とするものであるところ,被告各製品は,手や顔が濡れた環

境下で使用することができるクレンジングオイルとして販売されている

ものであり,水のようにサラサラとしたテクスチャーで液だれしやすい

などの従来品におけるデメリットを改善し,適度な厚みがある(すなわ

ち,適度な粘性を有する)旨が宣伝広告において強調されているもので

あり(甲6,40の1・2・5,41),さらに,被告各製品が,使用

時において内容液を手に出して使うことが予定されているものであるこ

とも考慮すれば,透明であることも,その商品の特性として重要な要素

を占めているものと解することができる。そうすると,本件各発明に係

る作用効果が被告各製品の特性の中核をなしているものということがで

きる。

これに加えて,被告各製品が,本件各発明をいずれも侵害するもので

あることを考慮すると,被告各製品に関し,本件各発明の実施に対し受

けるべき金銭の額に相当する額を算定するための相当実施料率は●省略

●%と認めるのが相当 である。

ウ この点に関し,被告は,本件各発明は被告各製品の売上げに全く寄与

していないことが明らかであり,被告にとって実施料を支払ってまで許

諾を受ける必要のないものであるから,原告に損害は発生しておらず,

また,「特許の実施に対し受けるべき金銭の額」(特許法102条

項)はゼロであると主張するが,被告各製品が,本件各発明に係る作用

効果を享受しており,かつ,同作用効果が被告各製品の売上げに寄与す

143
るものであることは明らかであるから,被告の主張を採用することはで

きない。

エ 以上によれば,特許法102条3項に基づく原告の損害は,被告各製

品の売上高に相当実施料率●省略●を乗じることにより算出されるもの

と認められ,下記計算式のとおり,1億5069万8740円とな る 。

(ア ) ●省略●

(イ ) ●省略●

(ウ ) ●省略●

(エ ) ●省略●

(オ ) ●省略●

(カ ) ●省略●

上記(ア )〜 (カ )合計額 1億5069万8740円

(4) 弁護士費用

本件訴訟の内容,認容額その他諸般の事情を考慮すれば,弁護士費用

としては1500万円 が相当であると認められる。

(5) なお,被告は,原告による損害賠償請求権の行使が権利濫用(民法

1条3項)に当たる旨を主張するが,本件においてあらわれた一切の事

情を考慮しても,原告の本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権の行使

権利の濫用に当たるものとは認められず,被告の主張は採用すること

が できない。

(6) 以上によれば,原告の平成21年8月14日から平成23年9月3

0日までの本件特許権侵害に基づく損害額は1億6569万8740円

と なる。

(7) 附帯請求について

原告は,損害賠償請求額のうち,1000万円については警告書送付

日の翌日である平成22年4月15日から,5億円については訴え変更

144
申立書送達日の翌日である平成23年10月5日から,うち2億円につ

い て は 訴 え 変 更 申 立 書 (2)の 送 達 日 の 翌 日 で あ る 平 成 2 3 年 1 2 月 2 0

日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払

を求めているので,こ の点について検討する。

前 記 7 (3)の と お り , 原 告 は , 平 成 2 1 年 8 月 1 4 日 か ら 平 成 2 3 年

9月30日までの本件特許権侵害行為に起因する損害につき賠償を請求

し て い る も の と 解 さ れ る の で あ っ て , 上 記 7 (6)で み た 損 害 は , 上 記 期

間において等しい割合で生じているものと推認されるから,原告の損害

額1億6569万8740円のうち,5203万4095円については,

平成21年8月14日から平成22年4月15日までの侵害行為に起因

し て生じたものである と認められる。

そうすると,平成22年4月15日及び平成23年10月5日は,原

告の請求額との関係において,不法行為の後の日に当たることが明らか

であるから,原告の損害賠償請求(及び附帯請求)は,1000万円に

つき平成22年4月15日から,1億5569万8740円につき平成

23年10月5日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅

延損害金の支払を求め る限度で理由がある。

8 小括

したがって,原告の請求のうち,被告製品1及び被告化粧品セットの販

売等の差止め及び廃棄を求める部分については,いずれも理由がないか

らこれらを棄却することとし,損害賠償請求については,1億6569

万8740円及びこれに対するうち1000万円につき平成22年4月

15日から,1億5569万8740円につき平成23年10月5日か

ら各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で

理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却する

こととし,主文1項については仮執行宣言を付すこととする。

145
第5 結論

よって,主文のとおり判決する。



東京地方裁判所民事第29部




裁判長裁判官 大 須 賀 滋




裁判官 森 川 さ つ き




裁判官菊池絵理は,転補のため,署名押印することができない。



裁判長裁判官 大 須 賀 滋




146
(別紙)

物件目録1



DHC マイルドタッチ クレンジングオイル

以上




147
(別紙)

物件目録2



製品名を「ヒットコスメ!ミニセット【ハローキティポーチ(ピンク)付】」とす

る化粧品セットであって,そのセット内に下記製品を含むもの。



「DHC マイルドタッチ クレンジングオイル 50mL」

以上




148

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